ところが、特許文献2の方法では、被膜層が接着剤の除去後に除去されるか、接着剤と同時に除去されるため、各光学部材の外表面における傷防止効果が弱い。つまり、接着剤の除去時には、光学部材の外表面と接着剤との間に被膜層が介在しているので、外表面の傷防止効果がある程度得られるものの、接合光学部材の実際の使用時には、外表面上の被膜層が既に除去されているため、外表面の傷防止効果は全くなく、その外表面を光学面として使用したときの光学性能が低下するおそれがある。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、各光学部材の外表面の傷防止効果を従来よりも高めることができ、特に、実使用時の光学面での光学性能の低下を回避することができる接合光学部材と、その接合光学部材を備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたHMDとを提供することにある。
本発明の接合光学部材は、複数の光学部材が接着剤で接合された接合光学部材であって、接合前に、各光学部材における接合後に外表面となる面に表面コート層を形成し、その後、接合面に接着剤を塗布して各光学部材を接合し、接合面から表面コート層上にはみ出た接着剤を流動性が無くなる状態まで硬化させた後に拭き取り除去することにより作製されており、2者間の密着力の関係が、(表面コート層/光学部材)>(表面コート層/接着剤)、かつ(光学部材/接着剤)>(表面コート層/接着剤)であることを特徴としている。
上記の構成によれば、各光学部材における接合後に外表面となる面(例えば外光の入射面および射出面)には、表面コート層が形成されている。したがって、接合面に接着剤を塗布して各光学部材を接合したとき、余分な接着剤は表面コート層上にはみ出す。表面コート層上にはみ出た接着剤は、流動性が無くなる状態まで硬化した後に、つまり、完全硬化状態や半硬化状態で拭き取り除去されるので、接合面間の接着剤が凹状に掘られ、過剰に接着剤が除去される事態を回避することができ、接合線部を通して外界像を観察する際の光学性能が悪くなるのを防ぐことができる。
また、2者間の密着力の関係が、(表面コート層/光学部材)>(表面コート層/接着剤)であるので、光学部材の外表面上に表面コート層を残したまま、表面コート層上の接着剤を容易に拭き取り除去することが可能となる(接着剤の除去時に表面コート層が光学部材表面から剥がれることがない)。したがって、接着剤の除去時に光学部材の外表面が傷つくのを防止することができる。このとき、2者間の密着力の関係が、(光学部材/接着剤)>(表面コート層/接着剤)でもあるので、表面コート層上の接着剤の除去時に、各光学部材の接合部(各光学部材が接着剤で接合されている部分)が剥がれることはない。
また、2者間の密着力の関係が、(表面コート層/光学部材)>(表面コート層/接着剤)であり、表面コート層と光学部材との密着力が高いので、表面コート層上の接着剤を除去した後も、引き続き、光学部材の外表面上に表面コート層を保持させることができる。これにより、接合光学部材の実使用時にその外表面を光学面(例えば光透過面、光反射面)として使用する場合でも、その光学面の傷つきを防止することができ、光学面における光学性能の低下を回避することができる。
つまり、上記構成によれば、接着剤の除去時のみならず、実使用時においても、各光学部材の外表面の傷つきを防止することができ、従来よりも傷防止効果を高めることができる。そして、特に、実使用時の光学面での光学性能の低下を回避することができる。
本発明の接合光学部材において、表面コート層の表面硬度は、各光学部材の表面硬度よりも高いことが望ましい。この場合、表面コート層によって各光学部材の外表面を確実に保護することができるので、接着剤の除去時および接合光学部材の実使用時において、各光学部材の外表面の傷つきを確実に防止することができる。
本発明の接合光学部材は、複数の光学部材が接着剤で接合された接合光学部材であって、接合前に、各光学部材における接合後に外表面となる面に表面コート層を形成し、その後、接合面に接着剤を塗布して各光学部材を接合し、接合面から表面コート層上にはみ出た接着剤を流動性が無くなる状態まで硬化させた後に拭き取り除去することにより作製されており、表面コート層の表面硬度は、各光学部材の表面硬度よりも高いことを特徴としている。
上記の構成によれば、各光学部材における接合後に外表面となる面(例えば外光の入射面および射出面)には、表面コート層が形成されている。したがって、接合面に接着剤を塗布して各光学部材を接合したとき、余分な接着剤は表面コート層上にはみ出す。表面コート層上にはみ出た接着剤は、流動性が無くなる状態まで硬化した後に、つまり、完全硬化状態や半硬化状態で拭き取り除去されるので、接合面間の接着剤が凹状に掘られ、過剰に接着剤が除去される事態を回避することができ、接合線部を通して外界像を観察する際の光学性能が悪くなるのを防ぐことができる。
また、各光学部材の外表面には、各光学部材よりも表面硬度の高い表面コート層が形成されているので、接着剤の除去時のみならず、接合光学部材の実使用時においても、各光学部材の外表面を表面コート層によって保護することができ、外表面の傷つきを防止することができる。したがって、従来よりも傷防止効果を高めることができ、特に、実使用時の光学面での光学性能の低下を回避することができる。
本発明の接合光学部材において、上記接着剤は、有機材料で構成されており、上記表面コート層は、無機材料で構成されていてもよい。
有機材料と無機材料とは、互いの密着力が弱い場合が多い。したがって、接着剤を有機材料で構成し、表面コート層を無機材料で構成することにより、接着剤と表面コート層との密着力を弱くして、接着剤を容易に除去することが可能となる。また、無機材料は表面硬度が高いので、各光学部材よりも表面硬度の高い表面コート層を形成して、接着剤の除去時および接合光学部材の実使用時における各光学部材の外表面の傷つきを確実に防止することができる。
本発明の接合光学部材において、上記無機材料は、金属酸化物を含んでいることが望ましい。
金属酸化物は、有機材料の中の特定の材料(例えばアクリル系またはシクロオレフィン系の有機材料)に対しては密着力が高く、また、有機材料の中の特定の材料(例えば紫外線または可視光の照射により硬化する光硬化性材料であって、硬化状態または半硬化状態のもの)に対しては密着力が低い特性を持つ。したがって、表面コート層と光学部材との密着力を高くして、接着剤の拭き取り時に表面コート層が光学部材から剥がれるのを防止したり、接着剤と表面コート層との密着性を低くして、接着剤を容易に拭き取り除去することが可能となる。また、表面コート層の表面硬度を容易に高めることもでき、表面コート層の機械的強度を容易に高めることができる。
本発明の接合光学部材において、上記金属酸化物は、SiOx(1≦x≦2)、TiO2、Al2O3、Ta2O5またはこれらの混合物であることが望ましい。
この場合、真空蒸着やスパッタ等により、表面コート層を光学部材表面に容易に形成することが可能となる。また、これらの手法により、金属酸化物を光学部材(例えば有機材料からなる)に強く密着させることができる。
本発明の接合光学部材において、上記各光学部材および上記接着剤はともに、アクリル系またはシクロオレフィン系の有機材料で構成されていることが望ましい。
この場合、各光学部材と接着剤とが同じ系列の材料で構成されるので、これらの間の密着力を容易に高めることができる。つまり、各光学部材間の接合強度を容易に高めることができる。また、アクリル系またはシクロオレフィン系の有機材料は、透明性が高く、複屈折性が低いので、光学性能の良好な接合光学部材を実現することができる。さらに、各光学部材および接着剤を同じ有機材料で構成しつつも、各光学部材と表面コート層との密着性を高くする一方、表面コート層と接着剤との密着性を低くするなど、各光学部材と表面コート層との密着性、および接着剤と表面コート層との密着性を容易にコントロールすることができる。
例えば、各光学部材と表面コート層とを、真空蒸着やスパッタ等の手法を用いて強く密着させることが可能である。この場合、特に成膜手法の違いによってもその密着力を大きく異ならせることが可能である。一方、表面コート層と、紫外線照射により硬化した接着剤(硬化状態または半硬化状態のもの)との密着力は低くなるが、これは特に接着剤が半硬化状態のときに顕著である。
本発明の接合光学部材において、上記表面コート層は、各光学部材よりも低屈折率の材料で構成されていてもよい。この場合、接合光学部材の表面反射率を低減することができる。
本発明の接合光学部材において、上記表面コート層は、屈折率の異なる層を複数積層した多層膜で構成されていてもよい。
多層膜としては、例えば低屈折率層と高屈折率層とを適切な層厚で複数積層したものを想定することができる。このような多層膜で表面コート層を構成しても、接合光学部材の表面反射率を低減することができる。また、特定の波長域の光についてのみ、表面反射率の低減効果を得ることも可能となる。
本発明の接合光学部材において、上記各光学部材の接合面間には、光学素子が埋設されていてもよい。
この場合、例えば、光学部材内に入射した光を光学素子にて曲げて、所定の方向に出射することが可能となり、任意の光学特性を実現することができる。また、光学素子が外気に触れることがないので、安定した光学性能を保つことが可能となる。
本発明の接合光学部材において、上記光学素子は、体積位相型の反射型ホログラム光学素子であることが望ましい。
体積位相型の反射型ホログラム光学素子(以下、HOEとも称する)においては、反射波長域が狭く、外界像の光の透過率が高いので、外界像をシースルーで観察可能な映像表示装置に、上記光学素子を有する接合光学部材を適用したときに、観察者は外界像を明瞭に観察することができる。
本発明の接合光学部材において、各光学部材の接合後に外表面に露出して現れる接合線部の少なくとも一部が、光学面の有効領域の少なくとも一部に含まれていてもよい。
本発明によれば、表面コート層上の接着剤を容易に拭き取り除去することができるので、各光学部材間の接合線部を外表面に沿って円滑に形成することができる。したがって、接合線部の少なくとも一部が、光学面の有効領域の少なくとも一部に含まれている構成であっても、その接合線部において良好な光学性能を得ることができ、接合線部に入射する光を有効に利用することができる。
本発明の映像表示装置は、発光ダイオードからなる光源と、光源からの光を変調して映像を表示する映像表示素子と、上述した本発明の接合光学部材とを備え、上記接合光学部材は、各光学部材の接合面間に埋設される光学素子として体積位相型の反射型ホログラム光学素子を含んでおり、映像表示素子からの映像光を、光学部材の入射面より入射させ、内部で複数回全反射して上記ホログラム光学素子に導き、上記ホログラム光学素子にて映像光を拡大反射して上記光学部材の射出面より外部に射出して観察者の眼に虚像として導くと同時に、上記ホログラム光学素子を透過した外界像の光を観察者の眼に導くことを特徴としている。
上記の構成によれば、光源から出射される光(LED光)は、映像表示素子によって変調され、映像光として出射される。この映像光は、光学部材の入射面から入射し、内部で複数回全反射した後、HOEにて反射されて射出面から射出される。これにより、観察者は、上記映像を拡大虚像として観察することができる。また、HOEを透過した外界像の光は観察者の眼に導かれるので、観察者は上記虚像と外界像とを同時に観察することが可能となる。
このように、HOEを用いて装置を構成することにより、HOEが接眼光学系を兼ねるので、装置を小型軽量にできる。また、光源であるLEDの発光波長とHOEの回折波長とを合わせれば、明るい映像を観察者に提供できる。さらに、光学部材内での全反射を用いた構成なので、接合光学部材を小型軽量にできるとともに、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を良好に観察することができる。また、映像表示素子を視野の周辺に配置することが可能となり、広い外界視野角を確保することができる。
特に、本発明の接合光学部材においては、表面コート層によって各光学部材の外表面の傷つきを防止できるので、例えば映像表示装置をHMDに適用したときの実使用時には、その傷つき防止効果を有効に得ることができる。さらに、例えば表面コート層に反射防止機能を持たせたときには、HOEにて反射される映像光を光学面(射出面)から効率よく外部に取り出すことができ、また、外界像の光についても効率よく光学部材の光学面(入射面、射出面)を透過させることができる。したがって、いずれの光についても効率よく利用することができ、観察者は、映像および外界像の両者を明瞭に観察することが可能となる。
本発明の映像表示装置において、上記ホログラム光学素子は、上記映像表示素子にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、上記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接眼光学系の少なくとも一部を構成していてもよい。
この場合、接眼光学系を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
本発明のヘッドマウントディスプレイは、上述した本発明の映像表示装置と、上記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持手段とを備えていることを特徴としている。
この構成では、映像表示装置が支持手段によって観察者の眼前で支持されるので、観察者はハンズフリーとなり、外界像および映像表示素子での表示映像(虚像)を観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。さらに、上記映像表示装置に適用される接合光学部材においては、表面コート層によって外表面の傷つきを防止できるので、HMDの実使用時には、その傷つき防止効果を有効に得ることができる。
本発明によれば、各光学部材における接合後に外表面となる面には、表面コート層が形成されており、各光学部材の接合時に表面コート層上にはみ出た接着剤は、流動性が無くなる状態まで硬化した後に(完全硬化状態や半硬化状態で)拭き取り除去されるので、接合面間の接着剤が凹状に掘られ、過剰に接着剤が除去される事態を回避することができる。これにより、接合線部を通して外界像を観察する際の光学性能が悪くなるのを防ぐことができる。
また、2者間の密着力の関係が(表面コート層/光学部材)>(表面コート層/接着剤)、かつ、(光学部材/接着剤)>(表面コート層/接着剤)であり、または、表面コート層の表面硬度が各光学部材の表面硬度よりも高いので、接着剤の除去時のみならず、実使用時においても、各光学部材の外表面の傷つきを防止することができ、従来よりも傷防止効果を高めることができる。そして、特に、実使用時の光学面での光学性能の低下を回避することができる。
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
(1.HMDについて)
図2(a)は、本実施形態に係るHMDの概略の構成を示す平面図であり、図2(b)は、HMDの側面図であり、図2(c)は、HMDの正面図である。HMDは、映像表示装置1と、それを支持する支持手段2とを有しており、全体として、一般の眼鏡から一方(例えば左目用)のレンズを取り除いたような外観となっている。
映像表示装置1は、観察者に外界像をシースルーで観察させるとともに、映像を表示して観察者にそれを虚像として提供するものである。図2(c)で示す映像表示装置1において、眼鏡の右目用レンズに相当する部分は、後述する接眼プリズム22および偏向プリズム23(ともに図3参照)の貼り合わせによって構成されている。なお、映像表示装置1の詳細な構成については後述する。
支持手段2は、映像表示装置1を観察者の眼前(例えば右目の前)で支持するものであり、ブリッジ3と、フレーム4と、テンプル5と、鼻当て6と、ケーブル7とを有している。なお、フレーム4、テンプル5および鼻当て6は、左右一対設けられているが、これらを左右で区別する場合は、右フレーム4R、左フレーム4L、右テンプル5R、左テンプル5L、右鼻当て6R、左鼻当て6Lのように表現するものとする。
映像表示装置1の一端は、ブリッジ3に支持されている。このブリッジ3は、映像表示装置1のほかにも左フレーム4Lおよび鼻当て6を支持している。左フレーム4Lは、左テンプル5Lを回動可能に支持している。一方、映像表示装置1の他端は、右フレーム4Rに支持されている。右フレーム4Rにおいて映像表示装置1の支持側とは反対側端部は、右テンプル5Rを回動可能に支持している。ケーブル7は、外部信号(例えば映像信号、制御信号)や電力を映像表示装置1に供給するための配線であり、右フレーム4Rおよび右テンプル5Rに沿って設けられている。
観察者がHMDを使用するときは、右テンプル5Rおよび左テンプル5Lを観察者の右側頭部および左側頭部に接触させるとともに、鼻当て6を観察者の鼻に当て、一般の眼鏡をかけるようにHMDを観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置1にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置1の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置1を介して外界像をシースルーで観察することができる。
上記構成のHMDにおいては、映像表示装置1が支持手段2によって観察者の眼前で支持されるので、観察者はハンズフリーとなり、外界像および映像表示装置1での表示映像(虚像)を観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
なお、図2(a)(b)(c)で示したHMDは、映像表示装置1を1個だけ備えた構成であるが、左右の両眼に対応して映像表示装置1を2個備えた構成であっても勿論構わない。
(2.映像表示装置について)
次に、上述した映像表示装置1の詳細について説明する。
図3は、映像表示装置1の概略の構成を示す断面図である。映像表示装置1は、映像表示部11と、接眼光学系21とで構成されている。映像表示部11は、光源12と、一方向拡散板13と、集光レンズ14と、LCD15とを有している。
光源12は、中心波長が例えば465nm、520nm、635nmとなる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されている。一方向拡散板13は、光源12からの照明光を拡散させるものであるが、その拡散度は方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板13は、HMDを観察者が装着したときの左右方向に対応する方向(図3の紙面に垂直な方向)には、入射光を約40゜拡散させ、HMDを観察者が装着したときの上下方向(図3の紙面に平行な方向)には、入射光を約0.2゜拡散させる。集光レンズ14は、一方向拡散板13にて拡散された光を集光するものである。集光レンズ14は、上記拡散光が効率よく光学瞳Eを形成するように配置されている。
LCD15は、映像信号に基づいて光源12からの光を変調することにより、映像を表示する映像表示素子である。なお、本実施形態では、LCD15は、透過型であるが、反射型で構成されていてもよい。この場合、光源12などの他の光学素子の配置位置を工夫する必要がある。また、LCD以外の光変調素子(例えばDMD(Digital Micromirror Device;米国テキサスインスツルメント社製))を映像表示素子として用いてもよい。
一方、接眼光学系21は、接眼プリズム22と偏向プリズム23とを、光学素子24を挟んで接合してなっている。また、接眼プリズム22と偏向プリズム23とは、その接合部で連続した面形状が形成されるように接合されている。なお、接眼プリズム22および偏向プリズム23の光学面、すなわち、映像光の反射面および射出面や外界像の光の透過面となる面には、表面コート層26・27が形成されているが、この点については後述する。
接眼プリズム22および偏向プリズム23は、例えばアクリル系樹脂(後述する)で構成されており、これらは接着剤で接合されている。接眼プリズム22は、平行平板の下端部を楔状にし、その上端部を厚くした形状で構成されており、面22a・22b・22cを有している。面22aは、映像表示部11からの映像光が入射する入射面であり、面22b・22cは互いに対向する面である。このうち、面22bは、全反射面兼射出面となっている。
偏向プリズム23は、平行平板の上端部を接眼プリズム22の下端部に沿った形状とすることによって、接眼プリズム22と一体となって略平行平板となるように構成されている。接眼プリズム22に偏向プリズム23を接合させない場合、外界像の光が接眼プリズム22の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、接眼プリズム22を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、接眼プリズム22に偏向プリズム23を接合させて一体的な略平行平板を形成することで、外界像の光が接眼プリズム22の楔状の下端部を透過するときの屈折を偏向プリズム23でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
光学素子24は、例えばハーフミラーで構成されてもよいが、ここでは、特定の入射角で入射する例えば465±10nm、520±10nm、635±10nmの3つの波長帯域の光を回折させる体積位相型の反射型ホログラム光学素子(HOE)で構成されている。光学素子24は、接眼プリズム22の下端部の傾斜面に貼り付けられており、この結果、接眼プリズム22と偏向プリズム23とで挟まれている。
このような映像表示装置1の構成により、映像表示部11の光源12から出射された光は、一方向拡散板13にて拡散され、集光レンズ14にて集光されてLCD15に入射する。LCD15に入射した光は、映像信号に基づいて変調され、映像光として出射される。このとき、LCD15には、その映像自体が表示される。
LCD15からの映像光は、接眼光学系21の接眼プリズム22の内部にその上端面(面22a)から入射し、対向する2つの面22b・22cで複数回全反射されて、光学素子24に入射する。光学素子24に入射した光はそこで反射され、面22bを介して射出され、光学瞳Eに達する。光学瞳Eの位置では、観察者は、LCD15に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさはLCD15に表示された映像の10倍以上である。
一方、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24は、外界からの光をほとんど全て透過させるので、観察者は外界像を観察することができる。したがって、LCD15に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。以上のことから、光学素子24は、映像表示部11から提供される映像(映像光)と外界像(外光)とを同時に観察者の目に導くコンバイナとして機能していると言える。
以上のように、映像表示装置1では、LCD15から出射される映像光を、接眼プリズム22内での全反射によって光学素子24に導く構成としている。これにより、通常の眼鏡レンズと同様に接眼プリズム22および偏向プリズム23の厚さを3mm程度にすることができ、接眼光学系21ひいては映像表示装置1を小型化、軽量化することができる。また、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を良好に観察することができる。さらに、映像表示部11を観察者の眼の直前から大きく離れた位置に配置することができ、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。また、光学素子24としてHOEを用いているので、LEDの発光波長とHOEの回折波長とを合わせれば、明るい映像を観察者に提供することができる。
また、光学素子24は、上述したように特定入射角の特定波長の光のみを回折させる体積位相型の反射型ホログラム光学素子で構成されているので、LCD15からの映像光が接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を透過する外界像の光に影響を与えることがない。つまり、体積位相型の反射型ホログラム光学素子は、波長選択性・角度選択性がともに高いことから、ある限られた波長域の光に対してのみ回折反射作用を及ぼすので、特定波長域の反射光とそれ以外の波長の透過光とを合成するコンバイナ素子としてHOEを機能させることができる。それゆえ、観察者は、光学素子24を介してLCD15の表示映像の虚像を観察しながら、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を介して外界像を通常通りかつ明瞭に観察することができる。
また、光学素子24は、映像光と外光とを同時に観察者の瞳に導くコンバイナであるので、観察者は、LCD15から提供される映像を接眼光学系21を介して観察することができるのと同時に、接眼光学系21を介してシースルーで外界像を観察することができる。
また、光学素子24を構成するホログラム光学素子は、LCD15にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、上記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接眼光学系21の少なくとも一部を構成しているので、接眼光学系21を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
(3.光学素子の作製方法について)
次に、上述した光学素子24の作製方法について簡単に説明する。
光学素子24を構成するHOEは、例えば、光学フィルムである多層フィルムを接眼プリズム22上に貼り付け、これをレーザ光で露光することによって作製される。上記の多層フィルムは、ベースフィルム、バリアフィルム、感光性フィルムおよびカバーフィルムがこの順で重なって構成されている。ベースフィルム、バリアフィルム、感光性フィルムおよびカバーフィルムの厚さは、それぞれ例えば50μm、5μm、20μm、50μmである。
また、感光性フィルムを構成する感光材料としては、フォトポリマー、銀塩材料、重クロム酸ゼラチンなどが挙げられるが、本実施形態では、光学素子24としてのHOEをドライプロセスで容易に製造可能なフォトポリマーを用いている。特に、感光性フィルムは、R(赤)、G(緑)、B(青)の3原色に対応した波長に感度を有する単層または3層のフォトポリマーで構成されている。
上記の多層フィルムを用いた光学素子24の作製プロセスは、以下の通りである。まず、フィルム原版から多層フィルムを切り出す。このとき、同時に、多層フィルムにおいて、接眼プリズム22への貼付が必要な領域と、その周囲に形成される領域であって貼付が不要な領域との境界にも切り目を入れる。そして、多層フィルムからカバーフィルムを剥離し、多層フィルムを接眼プリズム22に対して位置決めした後、ゴムローラによる押し付けにより、接眼プリズム22の接合面に多層フィルムを貼り付ける。このとき、多層フィルムの感光性フィルム側が接眼プリズム22側となるようにする。そして、接眼プリズム22の接合面に貼付必要領域のみが残るように、貼付不要領域を剥離するとともに、貼付必要領域のベースフィルムも剥離する。
最後に、可干渉性のレーザ光を感光性フィルムに2光束で照射し、その2光束の干渉によってHOEを作製する。このとき、レーザ光としてRGBの3色の光を射出するレーザ光源を用いることで、RGBの3色に対して機能するHOE、すなわち、RGBの光を回折反射させるHOEを作製することができる。
(4.接眼光学系の詳細について)
次に、上述した接眼光学系21の詳細な構成について説明する。
図4は、接眼光学系21の概略の構成を示す断面図である。接眼光学系21は、複数の光学部材としての接眼プリズム22と偏向プリズム23とが接着剤25で接合された接合光学部材21aで構成されている。上述した光学素子24は、接眼プリズム22の接合面(面22d)と偏向プリズム23の接合面(面23d)との間に埋設されている。
接眼プリズム22および偏向プリズム23における、これらの接合後に外表面となる面22e・23eには、表面コート層26・27がそれぞれ形成されており、この表面コート層26・27で面22e・23eが保護されている。表面コート層26・27は、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合前に、真空蒸着やスパッタ等によって接眼プリズム22および偏向プリズム23の面22e・23eに予め形成されている。なお、接眼プリズム22の面22eは、具体的には上述した面22b・22cで構成される。
接合光学部材21aは、面22d・23dの少なくとも一方に接着剤25を塗布して接眼プリズム22および偏向プリズム23を接合し、面22d・23dの間から表面コート層26・27上にはみ出た接着剤25をその硬化後に拭き取って除去することにより作製されている。なお、面22d・23dの間に位置する接着剤25と、表面コート層26・27上にはみ出て硬化後に除去される接着剤25とを特に区別するときは、前者を接着剤25a、後者を接着剤25bと称することとする。
本実施形態では、接合時に表面コート層26・27上にはみ出た、除去すべき余分な接着剤25bは、硬化状態で拭き取り除去されるので、面22d・23dの間の接着剤25aが凹状に掘られ、過剰に接着剤25aが除去される事態を回避することができ、接合線部28(接合された接眼プリズム22および偏向プリズム23の境界線部分)を通して外界像を観察する際の光学性能が悪くなるのを防ぐことができる。
なお、接着剤25bは、完全硬化状態で拭き取り除去されてもよいし、半硬化状態で拭き取り除去されてもよい。ここで、完全硬化状態とは、重合によって接着剤25bの流動性が完全に失われて完全に硬化した状態を指し、半硬化状態とは、重合によって接着剤25bの流動性が失われた結果、接着剤25bがゲル状またはグミ状(ゴム状)になった状態を指す。この半硬化状態では、接着剤25bを傾斜させてもそれが自重で流れ出すことはない。
半硬化状態で接着剤25bを拭き取り除去することにより、「拭き取り作業中に接合線部28が剥がれることがない」、「完全硬化状態よりも基材(光学部材)との密着力が弱く、はみ出した接着剤25bを拭き取りやすい」、「接合線部28の接着剤25aが過剰に除去されることがない」等の効果を得ることができ、作業性が最もよくなる。なお、接着剤25bを完全硬化状態で拭き取り除去する場合でも、後述する2者間の密着力の差によって接着剤25bを容易に拭き取り除去することが可能である。
以上のことから、本実施形態では、接合面から表面コート層26・27上にはみ出た接着剤25bは、完全硬化状態や半硬化状態等の流動性が無くなる状態(非流動状態)まで硬化した後に拭き取り除去されればよいと言える。
また、光学素子24は、接眼プリズム22および偏向プリズム23の面22d・23dの間に埋設されているので、接眼プリズム22内に入射して内部を導光された光を光学素子24で反射させて接眼プリズム22の外部に取り出す光学ユニット(接合光学部材21a)を形成することができる。また、光学素子24が外気に触れることがないので、安定した光学性能を保つことが可能となる。
また、本実施形態では、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合によって接合線部28が接合光学部材21aの外表面に露出して現れているが、その接合線部28の少なくとも一部が、光学面(面22e・23e)の有効領域の少なくとも一部に含まれている。なお、光学面の有効領域とは、実使用時に光学的な領域(透過領域、反射領域)として機能する領域のことである。したがって、実使用時における接合光学部材21aの保持の仕方(例えば光学面の一部を保持するのか、光学面以外の部分を保持するのか)によっては、光学面の一部(保持部以外の部分)を有効領域とすることもできるし、光学面の全体を有効領域とすることもできる。
本実施形態では、後述する理由から、接合時に表面コート層26・27上にはみ出た接着剤25bを容易に除去することが可能となるので、上記の接合線部28を面22e・23eに沿って円滑に形成することができる(面22e・23eを接合線部28を介して連続的な面として形成することができる)。したがって、接合線部28においても光学性能よく光を透過または反射させることが可能となり、接合線部28を介して得られる光を有効に利用することができる。そして、接合線部28の少なくとも一部を光学面の有効領域の少なくとも一部として使用しても、接合線部28を含む領域(光学面の有効領域)を通して外界像を光学性能よく観察することが可能となる。つまり、接合線部28を通して外界像を観察する構成では、接合線部28が凹状に掘れることなく、外表面に沿って接合線部28を円滑に形成できることが非常に有効となる。
(4−1.各構成部材の密着力の関係について)
次に、接合光学部材21aの特性となる各構成部材の密着力の関係について説明する。なお、このような密着力の関係を実現し得る各構成部材の具体的な材料については後述する。
本実施形態では、接合光学部材21aにおける2者間の密着力の関係が、(表面コート層/光学部材)>(表面コート層/接着剤)、かつ、(光学部材/接着剤)>(表面コート層/接着剤)となっている。より詳しくは、表面コート層26と接眼プリズム22との密着力をA1、表面コート層27と偏向プリズム23との密着力をA2、表面コート層26・27と接着剤25との密着力をA3、接眼プリズム22および偏向プリズム23と接着剤25との密着力をA4とすると、A1>A3、かつ、A4>A3であり、A2>A3、かつ、A4>A3である。
ここで、図1(a)は、表面コート層が外表面である面22e・23e上に形成されていない接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合部付近の断面図であり、図1(b)は、上記関係を満足する表面コート層26・27が外表面(面22e・23e)上に形成された接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合部付近の断面図である。
接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合部に接着剤25を塗布してこれらを貼り合わせた後、接着剤25を硬化させて接合光学部材21aを作製する際、図1(a)のように、外表面上に表面コート層が無い場合には、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合時にその接合部から外側にはみ出た、除去すべき接着剤25bは、接合後にこれらのプリズムの外表面上に直接存在する。接着剤25は、元々2つの光学部材を接合するための材料であるので、当然、接眼プリズム22および偏向プリズム23の両者に対して密着性が高い。このため、各光学部材の外表面上に表面コート層が無い場合には、除去すべき接着剤25bを拭き取り除去することは困難となる。たとえ、接着剤25の硬化度を低下させた半硬化状態で拭き取ったとしても、2つの光学部材を接合する密着力と、除去すべき接着剤25bと光学部材との密着力が同程度なので、接着剤25bの除去は困難であり、拭き取り時に接合部が剥がれたり、各光学部材の外表面に傷がつきやすくなる。
これに対して、図1(b)のように、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合前に、2者間の密着力の関係が、(表面コート層/光学部材)>(表面コート層/接着剤)となる表面コート層26・27を接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面上に形成することにより、表面コート層26・27と接着剤25との密着力が低いので、表面コート層26・27上の除去すべき接着剤25bを容易に拭き取り除去することが可能となる。その結果、接着剤25bの拭き取り時間を短縮することができ、作業性が容易になる。
しかも、表面コート層26・27と接眼プリズム22および偏向プリズム23との密着力が高いので、表面コート層26・27を残したまま、接着剤25bを拭き取り除去することが可能となる。つまり、接着剤25bの除去時に表面コート層26・27が接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面からそれぞれ剥がれることがない。したがって、接着剤25bの除去時に接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面が傷つくのを防止することができる。このとき、2者間の密着力の関係が、(光学部材/接着剤)>(表面コート層/接着剤)でもあり、接眼プリズム22および偏向プリズム23と接着剤25(特に接着剤25a)との密着力が高いので、表面コート層26・27上の接着剤25bの除去時に、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合部、つまり、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接着剤25aでの接合部分が剥がれることはない。
また、表面コート層26・27と接眼プリズム22および偏向プリズム23との密着力が高いので、表面コート層26・27上の接着剤25bを除去した後も、引き続き、接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面上に表面コート層26・27を保持させることができる。これにより、接合光学部材21aの実使用時にその外表面を光学面として使用する場合でも、その光学面の傷つきを防止することができ、光学面における光学性能の低下を回避することができる。
つまり、本実施形態の接合光学部材21aの構成によれば、少なくとも、接着剤25bの除去時のみならず、実使用時においても、接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面の傷つきを防止することができ、従来よりも傷防止効果を高めることができると言える。特に、実使用時の光学面での光学性能の低下を回避することができる。
なお、2者間の密着力の関係(密着力の差)は、以下の方法で簡単に評価することが可能である。図8(a)は、密着力の関係を評価する対象となる試料(サンプル)の概略の構成を示す断面図である。この試料は、光学部材81上に、コート層82、接着剤83、光学部材84を順次積層して構成されている。なお、光学部材81、コート層82、接着剤83、光学部材84は、それぞれ、接眼プリズム22、表面コート層26(27)、接着剤25、偏向プリズム23に相当するものと考えてよい。また、各層は、同一表面積(同一接合面積)で平行に積層されているものとする。
同図(a)の状態から、各光学部材81・84に対して、接合面に垂直方向であって互いに反対方向に引っ張り応力(負荷)を加えると、同図(b)に示すように、最も密着力の弱い層間で剥離が起こる。つまり、同図(b)では、コート層82と接着剤83との接合面で剥離が起こっており、これらの2者間の密着力が最も弱いことを示している。したがって、この試料における2者間の密着力の関係は、(コート層82/光学部材81)>(コート層82/接着剤83)、かつ、(光学部材84/接着剤83)>(コート層82/接着剤83)となり、2者間の密着力の相対的な大小関係が容易にわかる。なお、各光学部材81・84に対して引っ張り応力を加えたときの瞬間の力を測定すれば、各層の密着力の差の大きさを数値評価(絶対評価)することも可能となる。
(4−2.各構成部材の材料について)
次に、上記した関係を満足し得る、接合光学部材21aの各構成部材の具体的な材料について説明する。
光学部材である接眼プリズム22および偏向プリズム23は、例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、MMA(メタクリル酸メチル)等のアクリル系樹脂、あるいはZEONEX(登録商標)、アペル(登録商標)等のシクロオレフィン系樹脂で構成されている。これらの有機材料は、透明性が高く、低複屈折であるので、光学部材を構成したときに良好な光学性能(例えば透過特性)を得ることができる。
接着剤25は、例えば、接眼プリズム22および偏向プリズム23の材料と同じ系列であるアクリル系あるいはシクロオレフィン系の有機材料で構成されている。これは、同系列の材料同士は密着力が高いからである。また、これらの有機材料は、「透明性が高い」、「紫外線・可視光照射により非常に短時間で容易に硬化が可能である」、「同系列なので屈折率が光学部材と似通っており、接合後、接合線部が目立ちにくい」、などの多くの利点を兼ね備えており、光学部材の接合に用いる接着剤25として非常に望ましい。このような接着剤25としては、例えばLCR629B(東亞合成株式会社製)やNOA76(ノーランドプロダクツ社製)等を用いることができる。
また、接眼プリズム22および偏向プリズム23と接着剤25とを同じ系列の有機材料で構成することにより、接眼プリズム22および偏向プリズム23と後述する無機材料からなる表面コート層26・27との密着性を高めつつ、接着剤25と表面コート層26・27との密着性を低くするなど、2者間の密着性を容易にコントロールすることが可能となる。
表面コート層26・27は、例えば無機材料で構成されている。一般的に、有機材料と無機材料とは密着力が弱い場合が多いので、接着剤25を上述の有機材料で構成し、表面コート層26・27を無機材料で構成したときに、表面コート層26・27上の接着剤25を容易に除去することが可能となる。また、後述するように、無機材料からなる表面コート層26・27は表面硬度が高いので、表面コート層26・27によって接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面(面22e・23e)を傷つきから保護することも可能となる。
特に、表面コート層26・27は、無機材料の中でも、金属酸化物を主成分とする材料で構成されることが望ましい。つまり、上記無機材料は、金属酸化物を含んでいることが望ましい。これは以下の理由による。
有機材料と無機材料とは密着力が弱い場合が多いが、アクリル系やシクロオレフィン系の成形された樹脂材料と金属酸化物とは密着力が高く、紫外線・可視光照射によって硬化する接着剤と金属酸化物とは密着力が低いということが、種々の考察から新たに分かった。特に、光学部材である接眼プリズム22および偏向プリズム23と接着剤25とをそれぞれアクリル系樹脂で構成した場合、金属酸化物を主成分とする表面コート層26・27は、成形された接眼プリズム22および偏向プリズム23とは密着力が高いが、硬化あるいは半硬化状態の接着剤25とは密着力が低いことが分かった。特に、金属酸化物を主成分とする表面コート層26・27は、紫外線照射により硬化した接着剤25との密着力は低くなるが、この現象は接着剤25が特に半硬化状態のときに顕著である。なお、主成分の金属酸化物は、重量比で90%以下であるのが望ましい。なぜなら、金属酸化物を主成分とする表面コート層26・27は、上述のように接眼プリズム22および偏向プリズム23との密着力が非常に高いためである。
このような、金属酸化物を含む無機材料の特性により、除去すべき接着剤25bは表面コート層26・27上から容易に除去可能となる。また、接眼プリズム22および偏向プリズム23と表面コート層26・27との密着性は高いため、接着剤25bの拭き取り除去時に、表面コート層26・27が剥がれてしまうこともない。勿論、接眼プリズム22および偏向プリズム23と接着剤25aの密着力は高いので、接合部が剥がれることもない。
ここで、上記金属酸化物としては、例えば、SiOx(1≦x≦2)、TiO2、Al2O3、Ta2O5またはこれらの混合物を用いることができる。例えば、SiOx(1≦x≦2)は、SiOを酸素存在下で蒸着・スパッタ等の手法により光学部材上に堆積させることで形成され、表面コート層26・27の形成時の酸素存在量や、表面コート層26・27の形成後の放置環境により、膜内に酸素原子Oを取り込んで、SiOx(1≦x≦2)の組成となる。
このように、上記金属酸化物として、上述の材料を用いることにより、真空蒸着やスパッタ等により、接眼プリズム22および偏向プリズム23との密着力が強い表面コート層26・27を容易に形成することが可能となる。また、この場合、特に成膜手法の違いによっても、接眼プリズム22および偏向プリズム23と表面コート層26・27との密着力を大きく異ならせることが可能である。
また、接眼プリズム22および偏向プリズム23と接着剤25とが同系列の材料であるにもかかわらず、接眼プリズム22および偏向プリズム23と表面コート層26・27との密着力のほうが、表面コート層26・27と接着剤25との密着力よりも強いのは、表面コート層26・27は、接眼プリズム22および偏向プリズム23に対して真空蒸着やスパッタといった手法で強い密着力で形成(成膜)できるのに対し、接着剤25は表面コート層26・27上で硬化するだけで、表面コート層26・27に対して強い密着力は生じないからである。
つまり、単純に、形成された表面コート層26・27の組成のみを考えると、接眼プリズム22および偏向プリズム23と接着剤25とは同系列の材料なので、表面コート層26・27はどちらに対しても同程度の密着力を持つように思われる。しかし、実際には、真空蒸着やスパッタ等では、接眼プリズム22および偏向プリズム23上に順次堆積したコート材料が接眼プリズム22および偏向プリズム23上にて互いに結びつき、膜を形成する。このようにコート膜形成が接眼プリズム22および偏向プリズム23上で起こるため、表面コート層26・27は硬いコート膜を形成する過程で同時に接眼プリズム22および偏向プリズム23と強く密着する。これに対して、接着剤25は、すでに成膜された表面コート層26・27上で硬化するが、すでに形成されている表面コート層26・27は無機材料なので、有機材料である接着剤25と表面コート層26・27との密着力は弱くなる。
ところで、図5(a)(b)は、接眼プリズム22または偏向プリズム23の外表面上に形成される表面コート層26・27の層構成を模式的に示す断面図であり、図5(a)は、表面コート層26・27が単層で構成される場合を、図5(b)は、表面コート層26・27が複数層(多層膜)で構成される場合を示すものである。これらの図に示すように、表面コート層26・27は、単層で構成されてもよく、多層膜で構成されてもよい。
また、図5(a)のように、表面コート層26・27が単層で構成される場合、表面コート層26・27は、接眼プリズム22および偏向プリズム23よりも低屈折率材料で構成されてもよい。例えば、接眼プリズム22および偏向プリズム23がPMMAで構成される場合には、低屈折材料であるSiOx(1≦x≦2)、Al2O3や、SiO2とAl2O3との混合物などの金属酸化物を含む無機材料で表面コート層26・27が構成されてもよい。このように、表面コート層26・27を接眼プリズム22および偏向プリズム23よりも低屈折率の材料で構成することで、接合光学部材21aの表面反射率を低減可能であるという副次的効果を併せて得ることができる。
また、図5(b)に示すように、表面コート層26・27が多層膜で構成される場合には、多層膜として、屈折率の異なる層を複数積層したものを用いることができる。より具体的には、低屈折率層と高屈折率層とを適切な層厚で複数積層した多層膜を用いることができる。図5(b)の例では、表面コート層26・27は、低屈折率層31、高屈折率層32、高屈折率層33および低屈折率層34をこの順で、接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面上に積層した多層膜で構成されている。なお、低屈折率層31・34の構成材料としては、例えば、上述したSiOx(1≦x≦2)、Al2O3や、SiO2とAl2O3との混合物などを用いることができ、高屈折率層32・33の構成材料としては、例えば、TiO2、ZrO2、Ta2O5、CaO2などを用いることができる。
このような多層膜で表面コート層26・27を構成することにより、より大きな表面反射率低減効果(例えば、特定波長での表面反射率がより低い、あるいはより広い波長範囲で表面反射率が低い)を得ることが可能となる。
上記のように表面コート層26・27に反射防止機能を持たせた場合には、接合光学部材21aの実使用時に、接眼プリズム22および偏向プリズム23間に埋設された光学素子24にて反射して外部に取り出される光(映像光)をより効率よく取り出すことが可能となる。また、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を透過する光(外光)についても、より高い透過率で透過させることができる。したがって、映像光および外光のいずれの光についても、高い光利用効率で利用することが可能となり、観察者は映像および外界像の両者を明瞭に観察することが可能となる。
また、表面コート層26・27を、金属酸化物を主成分とする無機材料で構成することにより、表面コート層26・27の表面硬度を容易に高めることも可能となり、表面コート層26・27の機械的強度を容易に高めることが可能となる。例えば、SiOx(1≦x≦2)は、上述したようにアクリル系樹脂やシクロオレフィン系樹脂に対して密着力が高い特性だけでなく、これらの材料よりも表面硬度が高い特性を有する。より具体的には、PMMAの表面硬度は、鉛筆硬度でHに相当し、SiOx(1≦x≦2)の表面硬度は、同じく鉛筆硬度で4Hに相当する。なお、鉛筆硬度とは、6B(最も軟らかい)から9H(最も硬い)までの17段階で、どの段階の硬度の鉛筆で引っかいたときに傷がつくかを表すJIS規格であり、鉛筆の芯の硬さのレベルを示すものである。
したがって、表面コート層26・27を上記の材料で構成し、接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面(面22e・23e)上に、接眼プリズム22および偏向プリズム23よりも表面硬度の高い表面コート層26・27を形成することにより、接着剤25bの除去時および接合光学部材21aの実使用時の両者において、接眼プリズム22および偏向プリズム23の外表面の傷つきを防止することができる。したがって、このように表面硬度の高い表面コート層26・27を形成することによっても、上述した2者間の密着力の大小に関係なく、従来よりも傷防止効果を高めることができる。特に、上述した2者間の密着力の関係を満たしながら、接眼プリズム22および偏向プリズム23よりも表面硬度の高い表面コート層26・27を形成すれば、傷防止効果を高める効果を確実に得ることができる。また、表面コート層26・27の表面硬度が高いので、それ自体の傷つきも防止できる。
(5.映像表示装置の他の構成について)
図6(a)は、映像表示装置1の他の構成例を示す断面図である。この映像表示装置1は、接眼光学系21に接合光学部材21bを適用した以外は、図3の映像表示装置1と同様の構成である。なお、図6(a)では、LCD15よりも前段の構成の図示を省略している。
図1(a)(b)等に示した接合光学部材21aでは、接眼プリズム22の少なくとも面22d・22eや、偏向プリズム23の少なくとも面23d・23eを平面で構成しているが、接合光学部材21bでは、これらの面を曲面で構成している。図6(b)は、接合光学部材21bにおける接眼プリズム22と偏向プリズム23との接合部を拡大して示す断面図である。接合光学部材21bにおける面22d・22eや面23d・23eは、例えば非球面や自由曲面の形状で構成されている。
また、接合光学部材21bでは、接眼プリズム22と偏向プリズム23との間に埋設される光学素子24が、HOEではなく、ハーフミラーで構成されている。このハーフミラーの光学薄膜は、例えばクロムからなる金属反射膜や、無機材料の多層膜で構成されている。光学薄膜の膜厚や層構成を制御することにより、透過光量と反射光量との比が1対1(ハーフ)のみならず、任意の比となる光学素子24を形成することが可能である。
なお、接合光学部材21bにおいて、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合後に外表面となる面22e・23eに表面コート層26・27が予め形成され、かつ、2者間の密着力の関係や表面コート層26・27の表面硬度を適切に設定することによって、接着剤25による接合時にはみ出した接着剤25bが容易に除去されている点は、接合光学部材21aと同様である。
上記のように、接眼プリズム22の少なくとも面22d・22eや、偏向プリズム23の少なくとも面23d・23eを曲面形状とすることにより、接合光学部材21b(接眼プリズム22)に任意の光学的パワーを持たせることができる。したがって、このような構成によっても、LCD15の表示映像を良好に収差補正された虚像として観察者に拡大観察させることができるとともに、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を通して外界像を良好に観察することが可能である。また、接合光学部材21bを用いた接眼光学系21に矯正眼鏡レンズとしての機能を持たせることも可能となる。
(6.映像表示装置のさらに他の構成について)
図7は、映像表示装置1のさらに他の構成例を示す断面図である。この映像表示装置1は、図示しない光源および導光板と、LCD15と、接眼光学系21とを有している。接眼光学系21は、接眼レンズ21cと、接合光学部材21dとで構成されている。接眼レンズ21cは、LCD15から出射される映像光を平行光にして接合光学部材21dに導く光学系を構成している。
接合光学部材21dは、複数の光学部材であるプリズム41〜45が接着剤で接合されたものであり、板状の平行平板を構成している。プリズム41・42の間には、透過光量と反射光量とが所定の比率となるように入射光を分離する光学素子51が埋設されている。同様に、プリズム42・43の間、プリズム43・44の間、プリズム44・45の間には、透過光量と反射光量とが所定の比率となるように入射光を分離する光学素子52・53・54がそれぞれ埋設されている。ただし、光学素子51は、入射光を全反射させる反射ミラーとなっている。なお、光学素子54も、入射光を全反射させる反射ミラーであってもよいが、外界像を観察するシースルー型においてはハーフミラーのようなものが用いられる。また、各プリズム41〜45における接合後に外表面となる面には、表面コート層61〜65がそれぞれ接合前に形成されている。
各プリズム41〜45、これらを接合する接着剤、表面コート層61〜65は、上述した接眼プリズム22および偏向プリズム23、接着剤25、表面コート層26・27と同じ材料でそれぞれ構成されている。なお、接合光学部材21dにおいて、2者間の密着力の関係や表面コート層61〜65の表面硬度を適切に設定することによって、接合時にはみ出した接着剤が容易に除去されている点は、接合光学部材21a・21bと同様である。
図7の映像表示装置1の構成では、光源からの光が導光板に入射し、面光源としてLCD15を照明する。LCD15からの映像光は、接眼プリズム21cにて平行光となり、接合光学部材21dに入射する。接合光学部材21dに入射した光は、光学素子51にて反射され、プリズム42内を導光されて光学素子52に入射する。光学素子52に入射した光は、一部はそこを透過し、残りは反射されて外部(第1の光学瞳)に導かれる。光学素子52を透過した光は、プリズム43内を導光されて光学素子53に入射し、一部はそこを透過し、残りは反射されて外部(第2の光学瞳)に導かれる。光学素子53を透過した光は、プリズム44内を導光されて光学素子54に入射し、そこで一部または全部が反射されて外部(第3の光学瞳)に導かれる。これにより、観察者は、各光学素子52〜54に対応する光学瞳のいずれの位置でも、映像を観察することが可能となる。
上記のように接合光学部材21dを複数のプリズム41〜45を接合して構成した場合、観察者の眼前には接合光学部材21dの複数の接合線部71〜73が存在し、観察者はその接合線部71〜73を含む領域を通して外界像を観察することになる。しかし、本発明によれば、接合時に表面コート層61〜65上にはみ出た接着剤を容易に除去することができ、これによって接合線部71〜73を容易に円滑な面にすることができる。したがって、観察者が外界像を観察する際に、複数の接合線部71〜73を光学面の有効領域の一部として使用しても、光学性能の劣化が少なく、明瞭に映像を観察することが可能となる。
なお、各プリズム42〜44内で導光される光は、上述のように各プリズム42〜44の対向する2面で全反射されずに導光されてもよいし、図3のように対向する2面で全反射されて導光されてもよい。また、接合光学部材21dを構成するプリズムの数は、ここでは5つとしたが、3つ以上であれば接合光学部材21dを構成することが可能である。さらに、以上では、4つの光学素子のそれぞれを隣接するプリズム間に埋設するようにしたが、用いる光学素子の数は4つには限定されない。つまり、光学素子が2つ以上であれば、それぞれの光学素子を隣接するプリズム間に埋設して接合光学部材21dを構成することが可能である。
また、用いる光学素子の数が複数の場合、LCD15に光学的に近い位置にある光学素子ほど反射率が低くなるように設定すれば、それぞれの光学素子で反射される映像光の明るさを互いに近づけて、明るさムラの少ない良好な映像を観察者に観察させることが可能となる。また、複数の光学素子で映像光を反射する構成とすることにより、接合光学部材21dを薄型化できることに加えて、光学瞳の形成範囲を全体として広げることも可能となる。これにより、観察者の瞳の位置がずれた場合でも、対応する光学瞳の位置にて良好な映像を観察者に観察させることが可能となる。
なお、上述した各構成や手法を適宜組み合わせて接合光学部材や映像表示装置ひいてはHMDを構成することも勿論可能である。