本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の窒化ガリウム系発光ダイオード、窒化ガリウム系半導体発光素子、これらの素子のためのエピタキシャルウエハ、並びにエピタキシャルウエハ、窒化ガリウム系半導体発光素子及び窒化ガリウム系発光ダイオードを作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。引き続く説明では、例えば<0001>軸に対して逆向きの結晶軸は、<000−1>で表される。
図1は、本実施の形態に係る窒化ガリウム系発光ダイオードの構造を示す図面である。図2は、本実施の形態に係る窒化ガリウム系半導体発光素子の構造を示す図面である。図1及び図2には、c面Scが描かれており、c軸、a軸およびm軸の示す結晶座標系CR並びにX1軸、X2軸およびX3軸の示す位置座表系SPが示されている。X3軸が半導体層の積層方向であり、この方向はc軸の方向と異なる。窒化ガリウム系発光ダイオードはX3軸の正方向又は負方向に光Lを放出する面発光素子である。窒化ガリウム系半導体発光素子としては、例えば窒化ガリウム系発光ダイオード(以下、単に「発光ダイオード」と記す)11a及び窒化ガリウム系レーザダイオード(以下、単に「レーザダイオード」と記す)11bが例示される。
発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bは、窒化ガリウム系半導体領域(以下、単に「半導体領域」と記す)13と、InGaN層15と、活性層17とを備える。半導体領域13は、半極性を示す主面13aを有する。半導体領域13は一又は複数の窒化ガリウム系半導体層からなり、各窒化ガリウム系半導体層はGaNまたはAlGaNからなる。InGaN層15は活性層17と半導体領域13との間に設けられている。半導体領域13の主面13aは、該主面13aにおける[0001]軸方向に延びる基準軸Cxに直交する平面(例えばSc)に対して角度αで傾斜している。InGaN層15の厚さDInGaNは150nm以上を有する。InGaN層15は半導体領域13の主面13aの直上に設けられて、主面13aに接している。活性層17は、InGaN層15の主面15a上に設けられ、この主面15aに接触している。また、活性層17は、InGaNからなる井戸層21を含む。半導体領域13の厚さD13がInGaN層17の厚さDInGaNより厚いので、半導体領域13からInGaN層17へ応力が加わる。
この発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bによれば、GaN又はAlGaNからなる半導体領域13上に、厚さDInGaNが150nm以上のInGaN層15を設けることによって、InGaN層15に異方的な格子緩和が生じて、InGaN層15は歪みを内包する。また、InGaNまたはInAlGaNからなる半導体領域13上に、厚さDInGaNが150nm以上のInGaN層15を設けることによって、InGaN層15に異方的な格子緩和が生じて、InGaN層15は歪みを内包する。この異方的格子緩和の方向は主面13aの傾斜方向に関連している。このため、InGaN層15の主面15a上の活性層17における歪みの異方性が大きくなる。したがって、発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bの偏光度を高めることが可能になる。また、厚さDInGaNが100nm以上であってもよい。このInGaN層の膜厚でも異方的な格子緩和が生じて、InGaN層は異方的な歪みを内包する。
発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bでは、InGaN層15のインジウム組成は井戸層21のインジウム組成より小さい。活性層17は、複数の障壁層23を含み、井戸層21は障壁層23の間に設けられている。
この発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bによれば、GaNまたはAlGaNからなる半導体領域13上に、厚さDInGaNが150nm以上のInGaN層15を設けることによって、InGaN層15に異方的な格子緩和が生じて、InGaN層15は歪みを内包する。この異方的格子緩和の方向は主面13aの傾斜方向に関連している。このため、InGaN層15の主面15a上の活性層17における歪みの異方性が大きくなる。したがって、発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bのLEDモードにおける偏光度を高めることが可能になる。
支持基体25は、六方晶系の窒化ガリウムからなる。支持基体25の主面25aは、該窒化ガリウムの[0001]軸方向の基準軸Cxに直交する平面Scに対して傾斜している。主面25aは、半極性を示す。支持基体25は、半導体領域13、InGaN層15及び活性層17を搭載している。主面25a上には、半導体領域13、InGaN層15及び活性層17が所定の軸Axに沿って配置されている。
図3及び図4を参照しながら、活性層の歪みについて説明する。図3(a)は、無歪みのGaNの単位格子LGaN及び無歪みのInGaNの単位格子LInGaNを示している。InGaNの単位格子LInGaNのa軸及びc軸は、GaNに対してインジウム原子が追加されて、GaNの単位格子LGaNのa軸及びc軸よりも大きい。
図3(b)及び図3(c)は、六方晶系GaNのc面上に成長された六方晶系InGaNの単位格子SL0InGaNを示している。c面GaN上のInGaN単位格子SL0InGaNでは、InGaNのa軸がGaNのa軸に合わせて歪み、この歪みに応じてInGaNがc軸方向に伸びる。c軸方向の結晶軸の変化がピエゾ電界EPZを引き起こす。この六方晶系InGaNは歪みを内包するけれども、六回対称性は保たれる。故に、歪みInGaNのa軸及びm軸は、GaNのa軸及びm軸に合わせて同様に歪む。したがって、歪みの異方性に大きな変化はない。図3(c)にはc軸方向を示すベクトルCが示されており、六方晶系GaN結晶SUB上のInGaNは、六方晶系GaN結晶SUBの主面に平行な方向に関するInGaN格子定数(a軸、m軸)が六方晶系GaN結晶SUBの主面に平行な方向のGaN格子定数(a軸、m軸)に合うように歪んでいる。
図4(a)及び図4(b)は、六方晶系GaNのa面上に成長された六方晶系InGaNの単位格子SLAInGaNを示している。a面GaN上のInGaN単位格子SLAInGaNでは、InGaNのc軸及びm軸が、それぞれ、GaNのc軸及びm軸に合わせて歪み、この歪みに応じてInGaNは、a軸方向に変化する。この六方晶系InGaNは、c軸、m軸に圧縮歪みを、及びa軸の方向に引張歪みを内包している。この歪みInGaNは、c軸に関して二回対称性を有する。m面上のInGaN単位格子も、a面と同様の二回対称性を有する。図4(b)にはc軸方向を示すベクトルCが示されており、六方晶系GaN結晶SUB上のInGaNは、六方晶系GaN結晶SUBの主面に平行な方向に関するInGaN格子定数(c軸)が六方晶系GaN結晶SUBの主面に平行な方向のGaN格子定数(c軸)に合うように歪んでいる。
図5(a)及び図5(c)は、a軸方向に傾斜した六方晶系GaN半極性面上に成長された六方晶系InGaNの単位格子SLSInGaNを示している。a軸傾斜のGaN半極性面上のInGaN単位格子SLSInGaNでは、InGaNの成長方向に垂直な方向の格子定数がGaNの成長方向に垂直な方向の格子定数に合うように歪む。この六方晶系InGaNはc軸、m軸及びa軸の方向に歪みを内包している。この歪みInGaNは、c軸に関して二回対称性を有する。InGaN単位格子SLSInGaNは、a軸方向に歪みSTAを有し、m軸方向に歪みSTMを有する。図5(c)を参照すると、無歪みの六方晶系InGaNの単位格子INHInGaNが描かれている。InGaNが六方晶系GaN結晶SUBの半極性面上に成長されるとき、単位格子INHInGaNは変形してInGaN単位格子SLSInGaNに歪む。
図5(b)及び図5(d)は、a軸方向に傾斜した六方晶系GaN半極性面上に成長された六方晶系InGaNの単位格子LSInGaNを示している。a軸傾斜のGaN半極性面上のInGaN単位格子LSInGaNでは、InGaNの成長方向に垂直な方向の格子定数がGaNの成長方向に垂直な方向の格子定数に合うように歪む。InGaN層15が格子緩和するので、この六方晶系InGaNはc軸及びm軸の方向に歪みを内包しているけれども、a軸方向に関する格子歪みの一部または全部が緩和されている。この歪みInGaNは、c軸に関して二回対称性を有する。図5(b)に示されたInGaN単位格子LSInGaNは、a軸方向に歪みRTAを有し、m軸方向に歪みRTMを有する。InGaN層15の格子緩和の働きにより、井戸層では歪み比(RTM/RTA)は歪み比(STM/STA)よりも十分に小さい。このため、井戸層における歪み比(RTM/RTA)が、格子緩和により大きくなる。また、格子緩和によりc軸方向の歪みは小さくなるので、ピエゾ電界が小さくなる。図5(d)を参照すると、無歪みの六方晶系InGaNの単位格子INHInGaN及びInGaN単位格子LSInGaN描かれている。InGaNが六方晶系GaN結晶SUBの半極性面上に成長されるとき、単位格子INHInGaNは変形すると共に、上記のように歪み緩和されてInGaN単位格子LSInGaNになる。
図5(b)に示されるInGaN層では、互いに直交する2方向のうち一方向に関する格子緩和が他方向に関する格子緩和よりも大きい。好適な実施例について格子定数に基づいて説明する。発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bでは、InGaN層15は、それぞれ直交する第1及び第2の方向(例えばa軸及びm軸)における第1及び第2のInGaN格子定数da1及びdm1を有する。第1及び第2のInGaN格子定数da1及びdm1は、基準軸Cxに直交する方向に規定される。支持基体25は、それぞれ直交する第1及び第2の方向(例えばa軸及びm軸)における第1及び第2のGaN格子定数da0及びdm0を有している。第2のInGaN格子定数dm1は第2のGaN格子定数dm0と等しく、第1のInGaN格子定数da1は第1のGaN格子定数da0と異なっている。好適な異方的な格子緩和では、互いに直交する2方向のうち一方向に関して実効的に格子緩和がなく、他方向に関して実効的に格子緩和が生じる。
発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bでは、半導体領域13の主面13aは例えばGaNまたはAlGaNからなるとき、傾斜の角度は10度以上80度以下であることができる。半導体領域13の主面13aは例えばInGaNまたはInAlGaNからなるとき、傾斜の角度は10度以上80度以下であることができ、このInGaNはInGaN層15の組成と異なる。また、支持基体25の主面25aの傾斜角は10度以上80度以下であることができる。発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bでは上記の角度の範囲でc面が主面13aから傾斜するので、c面がすべり面となってミスフィット転位が発生してInGaN層15に格子緩和が生じている。ミスフィット転位の密度は、例えば5×10+2cm−1以上であることができる。この値以下の密度では、格子緩和による歪みの変化は小さく、偏光度への影響はほとんど無いからである。ミスフィット転位の密度は、例えば1×10+6cm−1以下であることができる。この値以上の密度では、結晶品質の悪化の影響が大きく、発光強度の低下が生じるからである。GaNに代えてAlGaNが用いられるとき、AlGaN格子定数はGaNの格子定数より小さいので、InGaNはAlGaNから大きな応力を受ける。
半導体領域13の主面13の傾斜角は63度以上80度以下であることができる。また、支持基体25の主面25aの傾斜角は63度以上80度以下であることができる。この窒化ガリウム系半導体発光素子によれば、InGaN層のIn偏析を低減でき、In偏析による応力分布を低減できる。
支持基体25の貫通転位密度は、c面において1×107cm−2以下であることができる。この支持基体25によれば、低欠陥の半導体層が提供される。
再び図1を参照すると、半導体領域13は支持基体25の主面25a上に搭載されており、半導体領域13とInGaN層15との界面J1にミスフィット転位が発生して、InGaN層15に格子緩和が生じている。この発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bによれば、GaNからなる支持基体25上に半導体領域13及びInGaN層15が設けられるので、半導体領域13の結晶品質は良好である。故に、下地の結晶の欠陥等に起因して、InGaN層15における異方的な格子緩和が弱められることが防げる。
一実施例では、半導体領域13及びInGaN層15はn型窒化ガリウム系半導体領域27を構成する。活性層17は、n型窒化ガリウム系半導体領域27とp型窒化ガリウム系半導体領域29との間に設けられている。n型窒化ガリウム系半導体領域27及びp型窒化ガリウム系半導体領域29からそれぞれ電子及び正孔が、活性層17に注入される。この注入に応答して、活性層17は、偏光した光Lを生成する。p型窒化ガリウム系半導体領域29は、例えば電子ブロック層31及びコンタクト層33を含むことができる。電子ブロック層31は、p型AlGaNからなることができる、また、コンタクト層33は、例えばp型GaN、p型AlGaNからなることができる。n型窒化ガリウム系半導体領域27は例えばn型GaNからなる。n型窒化ガリウム系半導体領域27は、例えば支持基体25の表面を覆うn型AlGaN層を含むことができる。
図1を参照すると、発光ダイオード11aは、n型窒化ガリウム系半導体領域27、活性層17及びp型窒化ガリウム系半導体領域29に電流を流すための一対の電極35、37を有する。本実施例では、電極35は支持基体25の裏面25bに接触するように形成されており、例えばカソードである。電極37はコンタクト層33の表面に接触するように形成されており、例えばアノードである。
図2を参照すると、レーザダイオード11bでは、n型窒化ガリウム系半導体領域27は、n型バッファ層26a及びn型クラッド層26bを含むことができる。n型バッファ層26aは、例えばn型GaN、n型AlGaN等からなることができる。n型クラッド層26bは、例えばn型InAlGaN、n型AlGaN等からなることができる。光ガイド層16aは、InGaN層15及びGaN層14を含む。光ガイド層16bは、InGaN層28a及びGaN層28bを含むことができ、必要な場合には電子ブロック層31がInGaN層28aとGaN層28bとの間に位置する。活性層17は、n型窒化ガリウム系半導体領域27とp型窒化ガリウム系半導体領域29との間に設けられている。n型窒化ガリウム系半導体領域27及びp型窒化ガリウム系半導体領域29からそれぞれ電子及び正孔が、活性層17に注入される。レーザダイオード11bのLEDモードでは、この注入に応答して、活性層17は、偏光した光を生成する。p型窒化ガリウム系半導体領域29は、例えばp型クラッド層32及びコンタクト層33を含むことができ、必要な場合には電子ブロック層31を更に含むことができる。電子ブロック層31は、p型AlGaNからなることができる。p型クラッド層32は、p型InAlGaN、p型AlGaN等からなることができる。また、コンタクト層33は、例えばp型GaN、p型InGaN、p型AlGaNからなることができる。n型窒化ガリウム系半導体領域27は例えばn型GaNからなる。n型窒化ガリウム系半導体領域27は、例えば支持基体25の表面を覆うn型AlGaN層を含むことができる。
レーザダイオード11bは、n型窒化ガリウム系半導体領域27、活性層17及びp型窒化ガリウム系半導体領域29に電流を流すための電極35、37(アノード及びカソード)を有する。本実施例では、電極35は支持基体25の裏面25bに接触するように形成されており、例えばカソードである。電極37はコンタクト層33の表面に接触するように形成されており、例えばアノードである。
レーザダイオード11bにおける光導波路はc軸の傾斜方向に延在する。このレーザダイオード11bによれば、低しきい値のレーザ発振を可能にする共振器を提供できる。光導波路は電極37の延在方法又はリッジ構造の延在方向等によって規定される。光導波路の両端には、共振器ミラーが設けられている。このとき、共振器ミラー作製は以下のように行われる。c軸の傾斜方向にレーザストライプが延在するように、ブレードを用いて、共振ミラーを割断により作製できる。基板裏側に押圧によりブレイクすることによって、レーザバーを作製する。なお、共振ミラーは、割断又は劈開というような方法でなくても、ドライエッチングによって、活性層を露出させることによっても形成することが可能である。
レーザダイオード11bでは、半導体領域13とInGaN層15との界面にミスフィット転位が発生して、InGaN層15に格子緩和が生じている。InGaN層15の格子緩和により、活性層17の歪みが変更される。
レーザダイオード11bでは、該ミスフィット転位により、InGaN層15には異方的な格子緩和が生じており、基準軸Cxの傾斜する方向に関して格子緩和が生じ、この傾斜方向と基準軸Cxとに直交する向きに関して格子緩和がない。InGaN層15の異方的な格子緩和により、活性層17は異方的な歪みを内包する。
再び図1及び図2を参照すると、偏光度を規定するための直交座標系SPが示されている。直交座標系SPは、互いに直交するX1軸、X2軸及びX3軸からなる。この直交座標系SPにおいて、X2軸は該III族窒化物のc軸の傾斜方向を示している。X3軸の方向には、n型窒化ガリウム系半導体領域27、活性層17及びp型窒化ガリウム系半導体領域29が配列されており、またこの方向に障壁層23及び井戸層21が配列されている。
また、既に説明されたように、発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bでは、活性層17は異方的に緩和したInGaN層15上に設けられている。これ故に、InGaN層15は、井戸層21に加わる一方向の歪みとこの方向に直交する他方向の歪みの比を大きくするように働く。井戸層21は、この異方的な歪みを障壁層23を介して受ける。この異方的な歪みによって、光Lの偏光度を大きくできる。
この発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bによれば、図5(b)に示されるように、井戸層21への異方的な圧縮歪みは、偏光度Pを高めるために有効である。井戸層21への歪み異方性が大きい量子井戸構造によって、オフ角により規定される偏光度よりも大きな偏光を有する光を生成する。
発光ダイオード11aでは、基準軸Cxは、支持基体25の窒化ガリウムの<1−100>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜していることができる。これによれば、<1−100>方向に主要な格子緩和が生じる。或いは、基準軸Cxは、支持基体25の窒化ガリウムの<11−20>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜していることができる。これによれば、<11−20>方向に主要な格子緩和が生じる。上記のような傾斜では、例えば合成オフ角θが用いられ、合成オフ角θ=(θA 2+θM 2)1/2で与えられる。記号θAは、a軸方向の傾斜角を示し、記号θMはm軸方向の傾斜角を示す。
発光ダイオード11a及びレーザダイオード11bでは、InGaN層15のインジウム組成は0.02以上であることが好ましい。小さすぎるインジウム組成では、異方的な格子緩和が生じにくい。InGaN層のインジウム組成は0.10以下であることが好ましい。大きすぎるインジウム組成では、InGaN層の結晶品質が悪化する。
図6〜図8を参照しながら、窒化ガリウム系発光ダイオード及びレーザダイオードといった窒化物系半導体光素子を作製する方法及び窒化物系半導体光素子のためのエピタキシャルウエハを作製する方法の主要な工程と説明する。図6(a)に示されるように、工程S101では、窒化物系半導体光素子及びエピタキシャルウエハを製造するための基板51を準備する。基板51は、例えば六方晶系半導体GaNからなることができる。また、基板51はGaNからなるので、良好な結晶品質のエピタキシャル成長が可能である。基板51は主面51a及び裏面51bを有する。図6(a)を参照すると、基板51の六方晶系半導体のc軸方向を示すベクトルVC及び主面51aの法線ベクトルVNが記載されており、ベクトルVCは{0001}面の向きを示している。この基板51によれば、成長用の主面が傾斜角(オフ角)βを有する半極性を提供できる。基板51の主面51aの傾斜方向が窒化ガリウム系半導体のa軸及びm軸のいずれかの方向であることができる。基板51の主面51aの傾斜角は、該六方晶系半導体の{0001}面を基準にして、10度以上80度以下の範囲である。主面51aの傾斜角が10度以下であるとき、{0001}を滑り面とするミスフィット転位の導入が促進され易く、格子緩和が生じ易い。
基板51のエッジ上に2点間の距離の最大値Diaは45mm以上であることができる。最大値Diaは、例えば基板の直径である。このような基板51は例えばウエハと呼ばれている。基板51の裏面51bは、基板51と実質的に平行であることができる。
引き続く工程では、基板51の主面51a上に半導体結晶がエピタキシャルに成長される。基板51の主面51aのオフ角は、所定の膜厚を超えるInGaN層とGaN層またはAlGaN層との界面に異方性格子緩和を引き起こす程度のミスフィット転位を発生させるように選択される。上記の傾斜角の主面51aの基板51は、活性層内の井戸層に内包される歪みの異方性が大きくなるように、エピタキシャル半導体領域を形成することを可能にする。
基板51を成長炉10に配置する。成膜に先立って、成長炉10にガスを供給しながら基板51に熱処理を行う。この熱処理によって、改質された主面が形成される。この熱処理は、アンモニア及び水素を含むガスの雰囲気中で行われることができる。熱処理温度は、例えば摂氏1000度であることができる。熱処理時間は、例えば10分程度である。この工程によれば、主面51aの傾斜によって、半極性の主面にはc面主面とは異なる表面構造が形成される。成膜に先立つ熱処理を基板51の主面51aに施すことによって、c面主面では得られない半導体主面に改質が生じる。窒化ガリウム系半導体からなるエピタキシャル成長膜が、基板51の改質された主面上に堆積される。この成長のために有機金属気相成長法が用いられる。成長用の原料ガスとしては、ガリウム源、インジウム源、アルミニウム源及び窒素源が使用される。ガリウム源、インジウム源及び窒素源は、それぞれ、例えばTMG、TMI、TMA及びNH3である。
図6(b)に示されるように、熱処理の後に、工程S102では、成長炉10に原料ガスG1を供給して、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域53を基板51の表面上にエピタキシャルに成長する。第1導電型窒化ガリウム系半導体領域53は、一又は複数の窒化ガリウム系半導体層を含むことができる。各窒化ガリウム系半導体層はGaNまたはAlGaNからなる。本実施例では、この成長のために、原料ガスG1を成長炉10に供給する。基板51上にn型GaN層を摂氏950度で成長される。n型GaN層は例えばn型キャリアを供給するための層であり、n型GaN層の厚さは2000nmである。n型GaN層の主面は半極性を示す。
必要な場合には、熱処理の後に、基板51上にn型AlGaN層が成長される。n型AlGaN層の成長に替えて、GaNバッファ層を成長することができる。n型AlGaN層は例えば基板51の全表面を覆う中間層であり、例えば摂氏1100度で成長される。n型AlGaN層の例えば厚さは50nmである。このとき、窒化ガリウム系半導体領域53は、n型窒化ガリウム系半導体層として、n型AlGaN層及びn型GaN層を含むことができる。n型AlGaN層及びn型GaN層は、基板51の半極性主面上に順にエピタキシャルに成長される。窒化ガリウム系半導体領域53の主面53aは、基板51の主面51aのオフ角を反映したオフ角を有しており、また半極性を示す。窒化物系半導体光素子がレーザダイオードであるとき、バッファ層及び中間層の成長の後に、n型クラッド層を成長する。また、n型クラッド層としてAlGaN層又はInAlGaN層を用いることができる。
次いで、図6(c)に示されるように、成長炉10に原料ガスG2を供給して、工程S103では、n型GaN層53の半極性主面の直上にn型InGaN層55を摂氏840度で成長される。n型InGaN層55は、例えば異方性格子緩和を引き起こすためには格子緩和層であり、好ましくはこの格子緩和層の直上に活性層が成長される。このために、n型InGaN層55の厚さは150nm以上である。また、n型InGaN層55の厚さは、好ましくは100nm以上である。n型InGaN層55に成長中に十分な応力を与えるために、半導体領域53の厚さはInGaN層の厚さより大きい。InGaN層55のインジウム組成は0.02以上であることが好ましい。小さすぎるインジウム組成では、異方的な格子緩和が生じにくい。InGaN層のインジウム組成は0.10以下であることが好ましい。大きすぎるインジウム組成では、InGaN層55の結晶品質が悪化して活性層の成長に好ましくない。InGaN層55と窒化ガリウム系半導体領域53との界面J2に所定の密度以上でミスフィット転位を発生させるように、InGaN層55のインジウム組成及び厚さが選択される。InGaN層55のミスフィット転位は例えば5×10+2cm−1以上であることができ、この値以下の密度では、格子緩和による歪みの変化は小さく、偏光度への影響はほとんど無いからである。また、InGaN層55のミスフィット転位は例えば1×10+6cm−1以下であることができ、この値以上の密度では、結晶品質の悪化の影響が大きく、発光強度の低下が生じるからである。窒化ガリウム系半導体領域53の主面53aは、該主面における[0001]軸方向に延びる基準軸に直交する平面に対して傾斜しており、この傾斜は、ミスフィット転位のためのすべり面を生成可能にする。窒化物系半導体光素子がレーザダイオードであるとき、InGaN層55は光ガイド層として働く。また、光ガイド層としてInGaN層及びGaN層の組み合わせを用いることができる。この構造において、光ガイド層のGaN層はInGaN層55とクラッド層との間に位置しており、基板のGaN又はクラッド層からの応力は光ガイド層のGaN層を介してInGaN層55に加わる。
次の工程では、図7に示されるように、窒化物系半導体発光ダイオード又はレーザダイオードの活性層を形成する。活性層は、例えば440nm以上550nm以下の波長領域にピーク波長を有する発光スペクトルを生成するように設けられる。
この方法によれば、半導体領域53とInGaN層55との間に大きな格子定数差がある。この半導体領域53上に、150nm以上の厚さを有するInGaN層55を成長するとき、InGaN層55と半導体領域53との界面J2に、ミスフィット転位が生成される。該ミスフィット転位は、半導体領域53の主面53aの傾斜方向に応じた異方的な格子緩和をInGaN層55に生成される。InGaN層55上に活性層を成長するとき、活性層には異方性の大きな応力が加えられる。
また、InGaN層55の主面55aは、基準軸Cxの傾斜方向に交差する方向に延びる筋状のモフォロジを有することができる。この表面モフォロジはミスフィット転位の滑り面と関連している。
工程S104では、図7(a)に示されるように、工程S104では、成長炉10に原料ガスG3を供給して、窒化ガリウム系半導体からなる障壁層57を形成する。成長炉10に原料ガスG2を供給して、障壁層57はInGaN層53層上に成長温度TBで成長される。成長温度TBは、例えば摂氏700度以上摂氏900度以下である。この障壁層57はInYGa1−YN(インジウム組成Y:0≦Y≦0.02、Yは歪み組成)からなり、例えばGaN又はInGaNである。本実施例では、ガリウム源及び窒素源を含む原料ガスG3を成長炉10に供給してアンドープGaNを摂氏900度で成長する。GaN障壁層の厚さは例えば15nmである。障壁層57の厚さは、例えば4nm以上30nm以下の範囲である。障壁層57は、主面55a上に成長されるので、障壁層57の表面も半極性を示す。
障壁層57の成長終了後に、ガリウム原料の供給を停止して窒化ガリウム系半導体の堆積を停止させる。障壁層57を成長した後に、井戸層を成長する前に成長温度TBから成長温度TWに成長炉の温度を変更する。この変更期間中に、例えばアンモニアといった窒素源ガスを成長炉10に供給する。
工程S105では、図7(b)に示されるように、成長炉10の温度を井戸層成長温度TWに保ちながら、障壁層57上に量子井戸構造のための井戸層59を成長する。井戸57はInXGa1−XN(インジウム組成X:0<X<1、Xは歪み組成)といった、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなる。井戸層59は、障壁層57のバンドギャップエネルギより小さいバンドギャップエネルギを有する。成長温度TWは、例えば摂氏650度以上摂氏850度以下であり、井戸層59の成長温度TWは成長温度TBより低い。本実施例では、ガリウム源、インジウム源及び窒素源を含む原料ガスG4を成長炉10に供給してアンドープInGaNを成長する。井戸層59の膜厚は、1.5nm以上20nm以下であることができる。また、InXGa1−XN井戸層59のインジウム組成Xは、0.13より大きいことができる。井戸層59のInXGa1−XNは0.3より小さいことができる。この範囲のインジウム組成のInGaNの成長が可能となり、波長440nm以上550nm以下の発光素子を得ることができる。井戸層59の成長温度TWは、例えば摂氏700度である。InGaN井戸層の厚さは例えば3nmである。井戸層59の主面は、障壁層57の主面上にエピタキシャルに成長されるので、井戸層59の表面は、障壁層57の表面と同様に半極性を示す。
工程S106で同様に繰り返し成長を行って、図7(c)に示されるように量子井戸構造の活性層61を成長する。活性層61は例えば3つの井戸層59と4つの障壁層57を含む。この後に、必要な半導体層を成長して発光層を形成する。
次いで、活性層61上に第2導電型窒化ガリウム系半導体領域をエピタキシャルに成長する。図8(a)に示されるように、工程S107では、成長炉10に原料ガスG5を供給して、活性層61上に、電子ブロック層63を成長する。本実施例では、電子ブロック層63は例えばAlGaNからなることができる。このAlGaNの厚さは例えば20nmである。p型AlGaN層の主面は半極性を示す。電子ブロック層63の成長温度は、例えば摂氏1000度である。窒化物系半導体光素子がレーザダイオードであるとき、第2導電型窒化ガリウム系半導体領域に先立って、InGaN層55を含む光ガイド層を成長する。また、光ガイド層はInGaN層及びGaN層の組み合わせを含むことができる。この構造において、光ガイド層のGaN層はInGaN層と活性層61との間に位置している。光ガイド層の形成の後に、電子ブロック層を形成することができる。或いは、光ガイド層のInGaN層を成長した後に、光ガイド層のGaN層の成長に先立って、電子ブロック層を成長することができる。
図8(b)に示されるように、工程S108では、成長炉10に原料ガスG6を供給して、電子ブロック層63上に、p型コンタクト層65を成長する。本実施例では、p型コンタクト層65は例えばp型GaNからなることができる。このGaNの厚さは例えば50nmである。p型GaN層の主面は半極性を示す。p型コンタクト層65の成長温度は、例えば摂氏1000度である。窒化物系半導体光素子がレーザダイオードであるとき、p型コンタクト層65の成長先立ってp型クラッド層を成長する。p型クラッド層としては、例えばAlGaN層InAlGaN層を用いることができる。
p型窒化ガリウム系半導体領域67の形成の後に、図8(c)に示されるエピタキシャルウエハEが完成する。エピタキシャルウエハEにおいて、n型窒化ガリウム系半導体領域53、InGaN層55、活性層61、及びp型窒化ガリウム系半導体層67は、基板51の主面51cの法線軸の方向に配列されている。基板51の六方晶系半導体のc軸の方向は基板51の主面51cの法線軸の方向と異なる。エピタキシャル成長の成長方向はc軸方向である一方で、c軸方向は、基板51の主面51cの法線軸である半導体層53、55、61、67の積層方向と異なる。
次の工程では、エピタキシャウエハE上に電極を形成する。第1の電極(例えば、アノード電極)がコンタクト層65上に形成されると共に、第2の電極(例えば、カソード電極)が基板裏面51b上に形成される。
基板51の主面51aの傾斜の方向に関しては、主面51aが基板51の六方晶系半導体のa軸方向に傾斜するとき、基板51上に作製されたエピタキシャル基板は、a軸方向に格子緩和が生じ、m軸方向に偏光した光を増加させることが可能であり、端面をa軸およびm軸方向のダイシングで形成した四角形に切り出したLEDチップの端面のm軸方向と偏光方向を一致させることができる。また、基板51の主面51aが基板51の六方晶系半導体のm軸方向に傾斜するとき、m軸方向に格子緩和が生じ、a軸方向に偏光した光を増加させることが可能であり、端面をa軸およびm軸方向のダイシングで形成した四角形に切り出したLEDチップの端面のa軸方向と偏光方向を一致させることができる。このようなLED動作の測定からの知見は、レーザダイオードのLEDモードにおける動作に適用される
このエピタキシャルウエハEでは、半導体領域53がInGaN層55の格子定数より小さいGaNまたはAlGaNからなると共に、半導体領域53の厚さがInGaN層55の厚さより大きい。また、半導体領域53がInGaN層55の格子定数より小さいInGaNまたはInAlGaNからなると共に、半導体領域53の厚さがInGaN層55の厚さより大きい。InGaN層55の厚さが150nm以上であるとき、InGaN層55は歪みを内包すると共にこのInGaN層55に異方的な格子緩和が生じる。故に、InGaN層55の主面55a上の活性層61における歪みの異方性が大きくなる。したがって、異方的な歪みを内包する活性層61を有するエピタキシャルウエハEが提供される。
(実施例1)
GaN基板を準備した。このGaN基板の主面は、c面からa軸方向へのオフ角16.3度〜16.7度の範囲で傾斜している。
有機金属化学気相成長法により、以下の手順でLED構造を有するエピタキシャルウエハを作製した。原料には、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)、シラン(SiH4)、アンモニア(NH3)を用いた。反応炉内のサセプタ上にGaN基板を配置した後に、炉内圧力を101kPaにコントロールしながら成長炉内にNH3とH2を供給して、摂氏1050度の基板温度でGaN基板の熱処理を行った。この熱処理の時間は例えば10分間である。その後、TMG、TMA、SiH4を供給して、SiドープAl0.08Ga0.92Nバッファ層を成長した。n型Al0.08Ga0.92Nバッファ層の厚さは例えば50nmであった。TMAの供給を停止して、SiドープGaN層を成長した。このn型GaN層の厚さは2000nmであった。TMG、SiH4の供給を停止した後に、摂氏780度まで基板温度を下げた。TMGとTMIを成長炉に供給して、In0.03Ga0.97N層を100nm、300nm、1000nmの厚さで成長した。このInGaN層上に、GaN障壁層14nm及びInGaN井戸層4nmからなる3周期の多重量子井戸構造の活性層を成長した。その後、TMGとTMIの供給を停止し、摂氏1000度まで基板温度を上昇させた後に、TMG、TMA、NH3及びCp2Mgを成長炉に供給して、厚さ20nmのMgドープp型Al0.08Ga0.92N層を成長した。この後に、TMAの供給を停止して、厚さ50nmのp型GaN層を成長した。
成長完了の後に、エピタキシャルウエハの温度を室温まで降温して、エピタキシャルウエハを反応炉から取り出した。エピタキシャルウエハの表面をノマルスキー微分干渉顕微鏡で観察した。図9は、倍率1000倍にして比較的高倍率で観察したエピタキシャルウエハの表面の微分干渉顕微鏡像を示す。矢印AOFFはc軸の傾斜方向を示す。
図9(a)を参照すると、厚さ100nmのInGaN層では、InGaN層の表面は平坦であった。図9(b)を参照すると、厚さ300nmのInGaN層では、c軸からの傾斜方向に垂直な方向に直線状に伸びる筋状の形態が表面モフォロジに観察された。ミスフィット転位により成長モードが変化する。このモフォロジは、成長モードの変化がミスフィット転位に沿うように形成されていることを示している。図9(c)を参照すると、厚さ1000nmのInGaN層では、c軸からの傾斜方向に垂直な方向に直線状に伸びる筋状の形態が表面モフォロジに観察された。このモフォロジは、成長モードの変化がミスフィット転位に沿うように形成されていることを示している。
3種類の膜厚のエピタキシャルウエハをX線回折法による評価を行った。入射X線のスリットサイズは、横0.2mm×縦2mmとした。
X線回折の測定では、オフ方向に垂直な方向にX線を入射させた観測とオフ方向に平行な方向にX線を入射させた観測を行った。垂直入射及び平行入射の測定面は、それぞれ、(20−24)面及び(11−24)面である。図10〜図12は、X線回折の測定結果を示す図面である。
図10を参照すると、厚さ100nmのInGaN層のX線回折像では、(20−24)面および(11−24)面の測定の両方において、GaN基板のピークとInGaN層のピークとが線分L0上に縦に並んでおり、この並びは、GaN基板上にInGaN層がコヒーレントに成長していることを示している。
一方、図11を参照すると、厚さ300nm以上のInGaN層における(20−24)面では、GaN基板のピークとInGaN層のピークが縦に並んでおり、この並びは、GaN基板上にInGaN層がコヒーレントに成長していることを示している。しかしながら、厚さ300nm以上のInGaN層における(11−24)面では、GaN基板のピークとInGaNバッファ層のピークが縦に並んでおらず、GaNピークは線分L0上に位置し、InGaNピークは線分L1上に位置する。この並びは、InGaN層が格子緩和していることを示している。
更に、図12を参照すると、厚さ1000nmのInGaNバッファ層では、(11−24)面のInGaN層のピークがGaN基板のピークを通る2θ−ωスキャンのラインよりも左上に位置している。GaNピークは線分L0上に位置し、InGaNピークは線分L1上に位置する。これは、オフ方向に引っ張り歪みが加わっていることを示しており、また、このエピタキシャルウエハではc軸方向へ弾性的に伸張するよりもオフ方向への伸張がエネルギに安定であることを示している。
これらの実験、更に追加の実験から、InGaN層を150nm以上の厚さに成長することによって、格子緩和に異方性が生じることが理解される。異方性格子緩和は、下地の窒化ガリウム系半導体のc軸オフ方向にのみに促進される。
図13は、厚さ300nmのInGaN層を含む発光ダイオード構造におけるカソードルミネッセンス(CL)像を示す。CL評価によって、格子緩和が生じている層に関する情報を得ることができる。
このCL評価では、加速電圧に応じて電子線の侵入長が変化するので、活性層におけるCL発光とInGaN層におけるCL発光を分離して得ることができる。具体的には、特性線CL3、CL5、CL10は、それぞれ、3kV、5kV及び10kVの加速電圧におけるCL強度を示す。3kVの加速電圧では、電子線侵入長は約30nm〜60nmであり、5kVの加速電圧では、電子線侵入長は約50nm〜200nmであるので、この深さの活性層における発光を得ることができる。10kVの加速電圧では電子線侵入長は約300nm〜600nmであるので、InGaN層における発光を得ることができる。
図14は、3kV、5kV及び10kVの加速電圧におけるCL像を示す。図14(a)及び図14(b)を参照すると、3kV及び5kVの加速電圧では、直線状の暗領域は観察されなかった。図14(c)を参照すると、10kVの加速電圧では、オフ方向に垂直に伸びる暗線が観察された。図14に示されるように、InGaN層に横方向に伸びる転位が存在することが理解される。故に、エピタキシャルウエハのInGaN層とGaN層との界面でミスフィット転位が発生していると考えられる。加速電圧3kVのCL像に示されるように、直線状欠陥は活性層を貫いてはいない。これ故に、InGaN層のミスフィット転位は発光強度を悪化させる主要因になっていない。
上記エピタキシャルウウエハにデバイスプロセスを施した。デバイスプロセスの工程は以下の手順で行った。ドライエッチング(例えばRIE)による深さ500nmのメサ形成、p透明電極(Ni/Au)形成、pパッド電極(Au)形成、n電極(Ti/Al)形成、電極アニール(摂氏550度、1分)。各工程の間では、フォトリソグラフィおよび超音波洗浄等を行っている。
半導体チップに分離することなくオンウエハの素子に通電を行い、電気的および光学的特性を評価した。400μm×400μmのチップに対して120mA(電流密度75A/cm2)の電流を印加して、発光波長、光出力、動作電圧の特性を得た。100nm、300nm及び1000nmのLEDチップにおいて、発光波長、光出力、動作電圧の特性は、ほぼ同等であった。
下地InGaN
格子緩和層 :100nm、300nm、1000nm
発光波長(nm):500nm、502nm、503nm
光出力(mW) :1.1 、2.1 、2.0
動作電圧(V) :3.9 、3.8 、3.7
偏光度 :0.33 、0.40 、0.50。
偏光度に関する測定結果では、図15(a)に示されるように、150nm以上の厚さにおいて下地InGaN格子緩和層の厚さの増加と共に、偏光度は単調に増加する。つまり、厚さ160nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ150nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。厚さ170nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ160nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。厚さ180nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ170nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。厚さ190nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ180nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。厚さ200nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ190nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。厚さ250nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ200nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。厚さ350nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ300nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。厚さ450nmのInGaN格子緩和層の偏光度は厚さ400nmのInGaN格子緩和層の偏光度より大きい。
また、図15(b)は、発光強度に対する偏光子の回転角度の依存性である。回転角度に依存して発光強度の強弱が現れるので、光Lは偏光を有する。偏光度は式(1)で示される。
P=(IMAX−IMIN)/(IMAX+IMIN) (1)
IMAX:発光強度の最大値
IMIN:発光強度の最小値
によって規定される。
InGaN格子緩和層を150nm以上に厚くすることによって、偏光度が0.33から0.4に増加し、InGaN格子緩和層を300nm以上に厚くすることによって、偏光度が0.33から0.5に増加する。これは、格子緩和によってオフ方向の格子定数が無歪み時の値に近づき、光学異方性が高まったことによって偏光度が増加した。なお、本実施例では、LED構造について説明するけれども、LED構造の実験から得られるInGaN層に関する知見は、レーザ(LD)構造における活性層とInGaN光ガイド層との関係にも適用される。
(実施例2)
図16は、実施例2において作製したレーザダイオード構造70を示す図面である。以下の通り、図16に示されるレーザダイオードのためのエピタキシャル基板EPLDを有機金属気相成長法により成長した。原料にはトリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)を用いた。HVPE法で厚く成長した(0001)GaNインゴットからm軸方向に75度の角度でGaN基板のためのGaN片を切り出した。切り出されたGaN片の表面研磨をして、半極性{20−21}GaN基板71を作製した。
このGaN基板71を反応炉内のサセプタ上に配置した後に、以下の成長手順でエピタキシャル層を成長した。まず、厚さ1.1μmのn型GaN層72をGaN基板71上に成長した。次に、厚さ1.2μmのn型InAlGaNクラッド層73をn型GaN層72上に成長した。n型InAlGaNクラッド層73上に、厚さ0.2μmのn型GaNガイド層74を成長した。n型GaNガイド層74上に、アンドープInGaNガイド層75を成長した。異なる厚さのアンドープInGaNガイド層75を有するエピタキシャル基板を作製した。ガイド層74、75を成長した後に、InGaNガイド層75の直上に活性層76を成長した。この活性層76は、GaN厚さ10nm/InGaN厚さ3nmから構成される3周期MQWを含む。活性層75上に、厚さ0.065μmのp型InGaNガイド層76、厚さ0.020μmのp型AlGaNブロック層77及び厚さ0.2μmのp型GaNガイド層78を順に成長した。GaNガイド層78上に、厚さ0.4μmのp型InAlGaNクラッド層79を成長した。p型InAlGaNクラッド層79上に、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層80を成長した。これらの工程により、エピタキシャル基板EPLDが得られた。
シリコン酸化膜(例えばSiO2)の絶縁膜81をコンタクト層80上に成膜した後に、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングを用いて幅10μmのストライプ窓を形成した。レーザストライプの延在方向は、c軸の傾斜方向(オフ方向)に平行である。ストライプ窓を形成した後に、Ni/Auから成るp側電極82とTi/Alから成るパッド電極を蒸着した。次いで、GaN基板(GaNウエハ)の裏面をダイヤモンドスラリーを用いて研磨し、裏面がミラー状態の基板生産物を作製した。GaN基板(GaNウエハ)の裏面(研磨面)にはTi/Al/Ti/Auから成るn側電極83を蒸着により形成した。
共振器ミラーの作製を以下のように行った。波長355nmのYAGレーザを用いるレーザスクライバを用いた。スクライブ溝の形成条件として以下のものを用いた:レーザ光出力100mW;走査速度は5mm/s。形成されたスクライブ溝は、例えば、長さ30μm、幅10μm、深さ40μmの溝であった。800μmピッチで基板の絶縁膜開口箇所を通してエピ表面に直接レーザ光を照射することによって、スクライブ溝を形成した。共振器長は600μmとした。電極を形成した基板生産物上に、ブレードを用いて、共振ミラーを割断により作製した。
共振器ミラーの作製について説明する。レーザストライプはc軸の傾斜方向に延在するので、通常のa面、c面、m面等の劈開により共振ミラーのための端面を得ることができない。しかしながら、上記のようなスクライブ溝の形成をした後に、基板裏面に押圧によりブレイクすることによって一対の割断面を作製できた。ブレイクによって作製されたバー状の半導体片の割断面は、共振ミラーに適用可能な程度に、平坦性を有すると共にレーザストライプの向きに対して垂直性を有していた。この平坦性及び垂直性は、活性層の端面付近における少なくとも一部分で達成されていた。引き続く説明では、ブレイクによって作製されたバー状の半導体片をレーザバーと呼ぶ。なお、共振ミラーは、割断又は劈開というような方法でなくても、ドライエッチングによって、活性層を露出させることによっても形成することが可能である。
レーザバーの端面(割断面)に真空蒸着法によって誘電体多層膜をコーティングした。誘電体多層膜は、SiO2とTiO2を交互に積層して構成した。膜厚はそれぞれ、50〜100nmの範囲で調整して、反射率の中心波長が500〜530nmの範囲になるように形成した。一方の端面における反射膜として10周期分の多層膜を積層し、これによって本実施例における反射率は設計上約95%である。他方の反射膜として6周期分の多層膜を積層し、これによって本実施例における反射率は設計上約約80%であった。
このような工程により作製されたレーザダイオードに通電を行った。通電による評価は室温で行われた。通電のためにパルス電源を用いて、デューティ比0.1%及びパルス幅500nsのパルスをレーザダイオードに印加した。印加のために、レーザダイオード表面の電極に針を接触させた。光出力測定の際には、レーザバー端面からの発光をフォトダイオードによって検出して、電流−光出力特性(I−L特性)を調べた。発光波長を測定する際には、レーザバー端面からの発光を光ファイバに介して検出器(例えばスペクトルアナライザ)に導き、レーザダイオードからの発光のスペクトル測定を行った。偏光状態を調べる際には、レーザバーと検出器との間に偏光板を配置して、偏光板の回転により、レーザバーからの発光の偏光状態を調べた。LEDモード光を測定する際には、レーザバーの上面に対向して光ファイバの一端を配置することによって、レーザバーの端面でなくレーザバーの表面から放出される光を測定した。
全てのレーザバーで発振後の偏光状態を測定したところ、レーザバーからのレーザ光はa軸方向に偏光していることがわかった。発振波長は500〜530nmであった。
全てのレーザでLEDモード(自然放出光)の偏光状態を測定した。a軸の方向の偏光成分I1、及びm軸を主面に投影した方向の偏光成分I2とするとき、実施例2の偏光度ρは以下の式により規定される:
ρ=(I1−I2)/(I1+I2)。
求めた偏光度ρとしきい値電流密度の最小値の関係を調べた。図17は、InGaN層の厚さとしきい値及び偏光度との関係を示す図面である。
InGaN厚み、 偏光度P、閾値Jth
50、 0.2、 15;
80、 0.22、 12;
115、 0.25、 7;
150、 0.28、 6.5;
200、 0.32、 6.2;
300、 0.33、 6.5;
500、 0.34、 6.5;
700、 0.35、 8;
1000、 0.34、 10。
図17は、InGaN層の膜厚が100nm以上600nm以下の範囲において閾値電圧が低いことを示している。また、図17は、偏光度の変化に関して、InGaN層の厚さが100nm以上であるとき、偏光度が増加していることを示す。このことから、InGaN層を厚く成長して偏光度を増加させることで、閾値を低減させることができる。本実施例では、発光層からの発光における偏光度が0より大きく、このレーザダイオードによれば、非負値の偏光度を提供できる。
基板に対して歪み緩和がどうのように生じているかを評価するために、{20−24}面の逆格子マッピング測定をおこなった。図18は、InGaN膜の厚さ80nm及び200nmおける逆格子マッピングを示す図面である。図18(a)及び図18(b)の逆格子マッピングにおいて、矢印AVは、成長方向の格子定数の逆数の座標軸を示し、矢印AHは、面内(半導体層の延在する平面)方向の格子定数の逆数の座標軸を示す。異なる組成の半導体層の逆格子マッピング像においては、これら半導体層の各々からの信号にそれぞれ対応してマッピング像の複数のピーク信号が現れる。これらのピーク信号の位置が、縦軸に平行な直線L1上に配列されるとき、これら半導体層のエピタキシャル膜は、基板に対してコヒーレントである(歪み緩和が生じていない)。逆に、ピーク信号の位置が縦軸に平行な直線L2上に配列されないとき、これら半導体層のエピタキシャル膜は基板に対してコヒーレントではない(歪み緩和が生じている)。図18(a)及び図18(b)は、それぞれ、膜厚80nm及び200nmのInGaN層の逆格子マッピングを示している。これらを比較すると、膜厚80nmのInGaN層はコヒーレントであるけれども、膜厚200nmのInGaN層はコヒーレントでないことがわかった。InGaN層が厚い場合に、格子緩和が生じることがわかった。
次に、格子緩和が半導体積層のどの界面で生じているかを調べるために、厚み115nmのInGaN層を含む半導体積層を試料として、断面からの透過電子顕微鏡観察を行った。図19は、この試料をa面方向から観察した透過電子顕微鏡像を示す図面である。この断面TEM像は、100nm以上に厚いInGaN層においてはInGaNガイド層/n−GaNガイド層界面にミスフィット転位(三カ所の矢印)DMFが発生していることを示す。ミスフィット転位の延在方向は、<11−20>であり、その線密度は、3μm−1であった。InGaN層を100nm以上に厚くすると、そのInGaN層の接する界面にミスフィット転位が導入されて歪み緩和が生じる。その結果、InGaN層に格子変形が生じ、格子変形したInGaN層が偏光度を高くしている。
また、格子緩和で発生した転位を別の方法で観察するために、InGaN層が115nmの試料において、表面側からカソードルミネッセンス(CL)法による評価を行った。CL法は、電子線で励起したキャリアの発光像を観察することが可能であり、透過電子顕微鏡像で得られた欠陥の発光への影響を調べることができる。また、加速電圧を増加させると、電子線の侵入深さが深くなるため、試料表面からの深さ情報のデータも得ることができる。図20は、本実施例におけるエピタキシャル基板のカソードルミネッセンス(CL)スペクトルを示す図面である。図20を参照すると、加速電圧15キロボルトのCL15特性線及び加速電圧20キロボルトのCL20特性線が示されている。
図20に示された加速電圧15kVのCL測定と20kVのCL測定における電子線侵入深さは、それぞれ約0.8μm、約1.4μumと見積もられる。図21は、加速電圧15kVおけるCL像と20kVにおけるCL像を示す。図20を参照すると、加速電圧15kVの発光スペクトルのピーク波長が536nmであるので、MQW層のCL発光の測定値を示す。図21(a)は、加速電圧15kVのCL像を示す。MQW層の位置おけるCL像は、均一は発光を示す。一方、図20を参照すると、加速電圧20kVの発光スペクトルのピーク波長が370nmであるので、InGaN光ガイド層のCL発光の測定値を示す。図21(b)は、加速電圧20kVのCL像を示す。InGaN光ガイド層の位置おけるCL像には、<11−20>方向への暗線が観察された。このCL像は、InGaN光ガイド層内又は界面に欠陥が存在し、その欠陥が<11−20>方向に伝播する、すなわち、この<11−20>方向に直交する方向への格子緩和が生じたことを示している。このように、CL法によっても、格子緩和の有無を調べることが可能である。
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。