JP5247073B2 - 無機系多孔質微細繊維及びその製造方法 - Google Patents

無機系多孔質微細繊維及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、無機系多孔質微細繊維及びその製造方法に関する。
静電紡糸技術により細繊化を行う細繊維製造方法が公知である。例えば、特許文献1には、無機成分を主体とするゾル溶液を紡糸溶液として用い、静電紡糸技術により細繊化して得られる、平均繊維径が2μm以下の無機系極細長繊維を含む無機系構造体及びその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、溶媒に溶解したポリマー溶液を紡糸空間に供給し、この状態のポリマーが有する電荷とは反対極性のイオン、あるいは、反対極性の紡糸ポリマー溶液を作用させて細繊化を図る静電紡糸方法が開示されている。
特許文献1又は2に開示のこれらの技術は、単一成分の細繊化が主たる目的であるが、例えば、生物医学分野、特殊な保護衣、あるいは、圧電素子、燃料電池などに用いる電気材料としての応用が期待されている技術として、特許文献3及び4に、複合型繊維を示唆する技術が開示されている。具体的には、特許文献3には、静電紡糸された直径1μm以下の芯部と、鞘部を有する繊維、あるいは、この鞘部を溶媒によって除去した細繊維に関する技術が開示されており、芯/鞘の組合わせとして、ポリアクリロニトリル/ポリビニルアルコール、絹/ポリエチレンオキサイドの組合わせが開示されている。また、特許文献4には、単一若しくは複数の物質が同心円(層)状に配置された中空繊維並びにその製造方法が開示されている。特許文献4に開示の技術では、単一の物質からなる繊維を静電紡糸により調製し、例えば、コーティングや化学的気相成長法(CVD)によって他の物質を繊維表面に被着させ、この後、少なくとも1種類の物質を生分解、抽出除去などによって取り除き、繊維の中央若しくは直径方向の何れかの部分に空隙を持った中空繊維が得られるというものである。このような複数の物質の組合わせとしては、ガラス/金属、ポリマー/ガラス、金属/セラミクスなどが開示されている。
また、特許文献5に、内径が10nm〜50μmの中空繊維が開示されている。更に、特許文献6には、活性剤とメソ孔前駆物質とを組み合わせることによって繊維を組み合せ、メソ孔構造が得られることが開示されている。なお、本発明者が特許文献6の実施例に従って追試を行ったが、ゾル溶液に曳糸性がなく、追試することができなかった。
特開2003−73964号公報 特開2004−238749号公報 米国特許出願公開第2006/0213829号明細書 米国特許第6667099号明細書 米国特許出願公開第2004/0013819号明細書 米国特許出願公開第2003/0168756号明細書
細繊化という目的で利用されてきた静電紡糸技術であるが、その繊維の形状に種々の特色を持たせるようになってきている。特に、電気材料や濾過などは、中空繊維として形成された細孔を利用するものである。しかし、前記特許文献1及び2は、単一成分の微細化を目的とするものであり、多孔質微細繊維を開示するものではない。また、繊維の断面方向内に空隙を有する中空繊維の場合、繊維の長さ方向に渡って均一な空隙として細孔を得ることは難しく、特許文献3又は4のいずれの場合もこのような均一な空隙として細孔を得ることは難しい。特に前記特許文献4の場合、細孔を形成するための繊維を静電紡糸法の他にも組み合わせて適用しなければならないという問題があり、効率的な製造技術とは言えない。また、特許文献5に記載の中空繊維は、中空繊維であるため、比表面積の増大には限度がある。
本発明者は、種々の検討を行った結果、極めて細い繊維であって、その表面及び内部に多数の細孔を有する繊維を完成した。従って、本発明の課題は、種々の用途に優れた特性を期待することのできる多孔質微細繊維、並びに、前記繊維を効率的に生産することが可能な製造方法を提供することにある。
前記課題は、本発明による、
(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程(以下、ゾル溶液調製工程と称する)、
(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能なポリマーとを混合して、紡糸液を調製する工程(以下、紡糸液調製工程と称する)、
(3)前記紡糸液を紡糸空間へ供給し、この紡糸液に電界を作用させることにより細径化して、無機系ゲルとポリマーとの複合微細繊維を形成する工程(以下、紡糸工程と称する)、
(4)前記複合微細繊維からポリマーを除去して、無機系多孔質微細繊維を形成する工程(以下、除去工程と称する)
を含む、無機系多孔質微細繊維の製造方法により解決することができる。
本発明の製造方法の好ましい態様によれば、前記ポリマー除去を、か焼又は溶剤抽出により実施する。
また、本発明は、無機成分を主体とし、平均繊維径が5μm以下であり、平均細孔径が2〜20nmであり、比表面積が200m/g以上であることを特徴とする、無機系多孔質微細繊維に関する。
本発明の製造方法によれば、種々の用途に優れた特性を期待することのできる多孔質微細繊維を効率的に生産することが可能である。
また、本発明の無機系多孔質微細繊維は、極めて細い繊維であって、その表面及び内部に多数の細孔を有するため、電子材料、液体若しくは気体フィルター、触媒担体、又はガスセンサーなどの用途に適用することができる。
本発明の製造方法は、静電紡糸技術に基づくものであり、前記のゾル溶液調製工程(1)、紡糸液調製工程(2)、紡糸工程(3)、及び除去工程(4)をこの順に実施することを特徴とする。
ゾル溶液調製工程(1)では、後述の紡糸液の調製に用いる原液として、無機系曳糸性ゾル溶液、すなわち、無機成分を主体とし、曳糸性を示すゾル溶液を形成する。本明細書において「無機成分を主体とする」とは、無機成分が50質量%以上を占めていることを意味する。前記ゾル溶液の無機成分含有量は、60質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。
本明細書において「曳糸性」の判定は、以下に示す条件で実際に静電紡糸を行い、以下の判断基準により判定することができる。
(判定法)
アースしたアルミ板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から曳糸性を判断する溶液(固形分濃度:20〜50wt%)を押出する(押出量:0.5〜1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1〜3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上、連続して紡糸し、アルミ板上に極細繊維不織布を形成する。
この集積した極細繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、極細繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上の極細繊維不織布を製造できる条件が存在する場合には、その溶液は「曳糸性あり」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、固形分濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記極細繊維不織布を製造できる条件が存在しない場合には、その溶液は「曳糸性なし」と判断する。
このようなゾル溶液は、本発明の製造方法で最終的に得られる無機系多孔質微細繊維を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、約100℃以下の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えばアルコール)又は水である。
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
曳糸性ゾル溶液を調製可能な金属化合物としては、例えば、前記元素の金属有機化合物、あるいは、金属無機化合物を挙げることができる。
前記金属有機化合物としては、例えば、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、酢酸塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。金属アルコキシドの場合、金属元素として、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、亜鉛等を挙げることができ、これらのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等を使用することができる。金属元素に加え、有機成分(例えば、メチル基、プロピル基、フェニル基等)を有する2官能又は3官能のアルコキシドを使用することもできる。
例えば、金属元素がケイ素の場合、原料にアルコキシドを使用し、酸触媒を用いて加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
前記金属無機化合物としては、例えば、塩化物、硝酸塩等を挙げることができる。酸化スズの場合、塩化スズを原料に使用し、アルコール溶媒に溶解させて加熱により加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
金属元素がチタンやジルコニアの場合、原料にアルコキシドを用いると、水との反応性が高いため、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルエステル等の配位子を使用し、アルコール溶媒、酸触媒を適宜選択することにより、加水分解縮重合反応を進行させて、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
なお、これらの曳糸性ゾル溶液は、2種類以上の曳糸性ゾル溶液を混合して使用することができるし、2種類以上の金属化合物から曳糸性ゾル溶液を調製することもできる。
曳糸性ゾル溶液の粘度は、曳糸性に優れているように、100〜2000mPa・sであるのが好ましい。
紡糸液調製工程(2)では、ゾル溶液調製工程(1)で得られた無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能なポリマーとを混合して、紡糸液を調製する。これらの混合順序は、静電紡糸可能な紡糸液が得られる限り、特に限定されるものではなく、任意の順序で、あるいは、2又は3成分を同時に混合することもできるが、無機系曳糸性ゾル溶液を前記溶媒に溶解し、続いて、前記ポリマーを溶解することが好ましい。
前記溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)を挙げることができる。使用するポリマーとゾル溶液(特にポリマー)に応じて適宜決定することができ、曳糸性ゾル溶液とポリマーが溶液中で相分離やゲル化を起こすことなく、どちらも均一に溶解可能である溶媒を選択することができる。
前記溶媒に溶解可能なポリマーとしては、静電紡糸可能な樹脂である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、又はポリスルホンを挙げることができ、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスチレン、又はポリビニルピロリドンが好ましい。
ポリマーの分子量は、静電紡糸可能な範囲である限り、特に限定されるものではない。例えば、ポリアクリロニトリルの場合、重量平均分子量(Mw)は5万〜200万であることが好ましく、40万〜70万であることがより好ましい。また、ポリビニルアルコールの場合、重量平均分子量(Mw)は4万〜20万であることが好ましい。
ポリマーに対する曳糸性ゾル溶液の添加量は、曳糸性ゾル溶液の固形分濃度換算で、5〜50wt%であることが好ましく、10〜30wt%であることが好ましい。使用する曳糸性ゾル溶液の固形分濃度、溶媒の種類、ポリマーの種類・分子量等によって変わるが、曳糸性ゾル溶液の固形分濃度が5wt%未満の場合には、曳糸性ゾル溶液の添加量が増え、ポリマーが溶媒に溶けにくくなり、ゲル化を生じやすくなり、また、使用するポリマーが高濃度(例えば、20%以上の濃度)でなければ紡糸できない場合には、ゾルの添加量を増やすことになり、ゲル化が生じやすくなる。他方、曳糸性ゾル溶液の固形分濃度が50wt%を超える場合には、曳糸性ゾル溶液の比率が高くなりすぎ、ポリマーの溶解性が低下する。例えば、ポリマーが重量平均分子量50万のポリアクリロニトリルで、曳糸性ゾル溶液が曳糸性シリカゾル溶液又は曳糸性スズゾル溶液の場合、曳糸性ゾル溶液の添加量は10〜30wt%であることが好ましい。
紡糸液におけるポリマー濃度は、曳糸性に優れているように、1〜30wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましい。例えば、重量平均分子量が50万のポリアクリロニトリルの場合、最適濃度は10wt%である。
曳糸性ゾル溶液の固形分濃度は、20〜50wt%であることが好ましい。曳糸性シリカゾル溶液で、特別に配位子を付けていない場合、最適な固形分濃度は44wt%である。なお、曳糸性ゾル溶液の固形分濃度は、最終的に金属酸化物にまでした場合の量から求めることができる。
曳糸性ゾル溶液の粘度は、100〜2000mPa・sであることが好ましい。粘度が100mPa・s未満であると、繊維化が困難となり、液滴が非常に多くなることがある。一方、粘度が2000mPa・sを超えると、繊維径が細くなりにくく、また、ノズル先端で曳糸性ゾル溶液が固化しやすくなり、連続的な紡糸が困難となることがある。
紡糸液の粘度は、100〜5000mPa・sであることが好ましい。重量平均分子量が50万のポリアクリロニトリルの場合、500〜2000mPa・sであることが好ましい。
なお、紡糸液を調製するときに、ゾル溶液は曳糸性を有する必要はない。例えば、曳糸性有りと判定されたゾル溶液を希釈し、その状態では曳糸性のないゾル溶液であっても、使用することができる。
紡糸工程(3)は、紡糸液調製工程(2)で得られた紡糸液を用いること以外は、通常の静電紡糸法に基づいて実施することができる。静電紡糸法を実施することのできる公知の製造装置及びそれを用いる製造方法は、例えば、特開2003−73964号公報、特開2004−238749号公報、特開2005−194675号公報に開示されている。以下、特開2005−194675号公報に開示の製造装置を示す図1に沿って、本発明の製造方法における紡糸工程を説明する。
図1に示す製造装置は、紡糸液をノズル2へ供給できる紡糸液供給装置1、紡糸液供給装置1から供給された紡糸液を紡糸空間5へ吐出するノズル2、ノズル2から吐出され、電界によって延伸された繊維を捕集するアースされた捕集体3、ノズル2とアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、ノズル2に電圧を印加できる電圧印加装置4、ノズル2と捕集体3とを収納した紡糸容器6、紡糸容器6へ所定相対湿度の気体を供給できる気体供給装置7、及び紡糸容器6内の気体を排気できる排気装置8を備えている。
紡糸液調製工程で得られた紡糸液は、紡糸液供給装置1によって、ノズル2へ供給される。この供給された紡糸液はノズル2から紡糸空間5へ押し出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加されたノズル2との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する(いわゆる静電紡糸法)。そして、この飛翔した繊維は直接、捕集体3上に集積し、繊維集合体(不織布)を形成する。なお、紡糸液供給装置1は特に限定されるものではないが、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等を使用することができる。
図1における紡糸液のノズル2からの押し出し方向は、重力と直交する方向、かつ捕集体3の方向であるため、捕集体3に紡糸液の滴下が生じない構成となっている。しかしながら、紡糸液のノズル2からの押し出し方向は、図1とは異なる方向であっても良い。
この紡糸液を押し出すノズル2の直径は、得ようとする繊維の繊維径によって変化するため、特に限定するものではない。本発明においては、紡糸工程で得られる複合微細繊維の繊維径は、通常、10nm〜5μmであり、好ましくは50nm〜2μmであり、より好ましくは100nm〜1μmである。静電紡糸を安定して行うことができるように、ノズルの内径は0.2〜1mmであることが好ましい。
また、ノズル2は金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズル2が金属製であれば、電圧印加装置4から電圧を印加することにより、ノズル2を一方の電極として使用することができ、ノズル2が非金属製である場合には、ノズル2の内部に電極を設置し、この内部電極へ電圧印加装置4から電圧を印加することにより、押し出した紡糸液に電界を作用させることができる。
図1においては、電圧印加装置4によりノズル2に電圧を印加するとともに、捕集体3をアースすることにより電界を形成しているが、図1とは逆に、ノズル2をアースするとともに、捕集体3に電圧を印加して電界を形成しても良いし、ノズル2と捕集体3の両方に電圧を印加するものの、電位差を設けるように印加して電界を形成しても良い。なお、この電界は、繊維の繊維径、ノズル2と捕集体3との距離、紡糸液の主溶媒、紡糸液の粘度などによって変化するため、特に限定するものではないが、0.2〜5kV/cmであるのが好ましい。電界強度が5kV/cmを超えると、空気の絶縁破壊が生じやすい傾向があり、0.2kV/cm未満であると、紡糸液の延伸が不十分で繊維形状となりにくい傾向があるためである。
なお、電圧印加装置4は特に限定されるものではないが、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができる。また、印加電圧は前述のような電界強度とすることができれば良く、特に限定するものではないが、5〜50KV程度であるのが好ましい。
図1における捕集体3はドラムであるが、繊維を捕集できるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、金属製や炭素などからなる導電性材料又は有機高分子などからなる非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、平板、或いはベルトを、捕集体3として使用することができる。また、場合によっては水や有機溶媒などの液体を捕集体3として使用できる。
図1のように、捕集体3を他方の電極として使用する場合には、捕集体3は体積抵抗が10Ω以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。一方、ノズル2側から見て、捕集体3よりも後方に対向電極として導電性材料を配置する場合には、捕集体3は必ずしも導電性材料からなる必要はない。後者のように、捕集体3よりも後方に対向電極を配置する場合、捕集体3と対向電極とは接触していても良いし、離間していても良い。
除去工程(4)では、紡糸工程(3)で得られた複合微細繊維からポリマーを除去することによって、本発明の無機系多孔質微細繊維を形成する。ポリマー除去方法としては、例えば、か焼又は溶剤抽出を挙げることができる。
か焼によりポリマーを除去する場合には、そのか焼温度は、か焼後に残る無機材料の種類(特に、ガラス転移温度、結晶性の変化温度、融点)によるが、通常、400〜1300℃であり、好ましくは450〜800℃である。昇温速度は、通常、10〜500℃/時間であり、好ましくは50〜300℃/時間であり、より好ましくは100〜200℃/時間である。か焼時間は、通常、1〜24時間であり、好ましくは2〜12時間であり、より好ましくは4〜8時間である。
溶剤抽出によりポリマーを除去する場合には、これに限定されるものではないが、ゲル固化を促進させる処理、例えば、加熱、水蒸気処理、マイクロ波処理、UV処理等を実施することにより、ゲルの固化を促進させ、溶剤不溶化を行い、その後、ポリマーを溶剤で抽出する。前記溶剤としては、前記紡糸液調製工程(2)においてポリマーを溶解する溶媒として挙げた各種溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)を用いることができる。
本発明の無機系多孔質微細繊維は、ポリマーと曳糸性ゾル溶液とから得られた複合微細繊維からポリマー成分を除去することにより得られるものであり、その表面と内部に多数の細孔をもつ。曳糸性を示さないゾル溶液の場合、ポリマーとの複合化の際、か焼を行っても繊維形態を保持することが困難である。また、か焼後に繊維形状を保持できたとしても、繊維が脆く、比表面積の小さいものしか得られない。これに対して、曳糸性ゾル溶液を使用すると、紡糸液の曳糸性を低下させることなく、安定して連続紡糸が可能であり、か焼後の繊維の取り扱い性に優れ、細孔をもつ比表面積の大きい無機系多孔質微細繊維を得ることができる。本発明の無機系多孔質微細繊維は、細孔として、繊維の長さ方向に渡って空隙を有しており、前記細孔は、繊維軸方向に配向したシリンダー状又はスリット状の細孔であることができる。なお、前記細孔は、繊維軸と平行である必要はなく、例えば、繊維軸方向に対して0°〜45°に配向した細孔であることができる。
本発明の無機系多孔質微細繊維の平均繊維径は、通常、5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。また、通常、10nm以上であり、好ましくは20nm以上であり、より好ましくは50nm以上である。本明細書において「平均繊維径」は、無機系多孔質微細繊維50点における繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は、無機系多孔質微細繊維を1万倍に拡大した顕微鏡写真を撮り、この写真を基に算出した値をいう。
本発明の無機系多孔質微細繊維の平均細孔径は、通常、2〜50nmであり、好ましくは2〜20nmである。平均細孔径が2nm未満であると、吸着性能等が低下することがあり、50nmを超えると、繊維がもろくなることがある。本発明の無機系多孔質微細繊維の比表面積は、通常、200m/g以上であり、好ましくは250m/g以上であり、より好ましくは300m/g以上である。比表面積が広ければ広いほど、吸着性能等に優れているため、上限は特に限定されるものではない。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1》
(1)ゾル溶液の調製工程
金属化合物としてのテトラエトキシシラン、溶媒としてのエタノール、水、塩酸を、1:5:2:0.03のモル比で混合し、10時間還流を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した後、温度50℃に加温して、粘度200mPa・s、固形分濃度46wt%の曳糸性ゾル溶液を調製した。
(2)紡糸液の調製工程
得られた曳糸性ゾル溶液をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、続いて重量平均分子量50万のポリアクリロニトリル(PAN)を溶解し、濃度10wt%の紡糸液とした。PANと曳糸性ゾル溶液との比率(重量比)は、10:1とした。紡糸液の粘度は990mPa・sであった。
(3)紡糸工程
紡糸装置としては、図1に示す装置を使用した。得られた紡糸液を、内径が0.4mmのステンレス製ノズルに、ポンプにより1g/時間で供給し、ノズルから紡糸液を紡糸空間へ押出すとともに、ノズルに電圧(13kV)を印加し、支持体であるステンレス製無孔ロールをアースして、紡糸液に電界を作用させることによって細径化し、ゲルとPANとの複合微細繊維を形成して、回転するステンレス製無孔ロール上に集積させた。なお、ノズルとステンレス製無孔ロールとの距離は10cmとした。紡糸後の平均繊維径は360nmであった。
(4)か焼工程
得られた複合微細繊維を、電気炉を用いて、昇温速度100℃/時間で500℃まで昇温し、か焼温度500℃で8時間か焼した。複合微細繊維からPANを除去することにより、本発明の無機系多孔質微細繊維Aを得た。か焼後の平均繊維径は220nmであった。
得られた無機系多孔質微細繊維Aの走査電子顕微鏡写真(2万倍)を図2に示す。この写真と、後述の実施例4において自動比表面積/細孔分布測定装置で測定した吸脱着等温線の結果から、無機系多孔質微細繊維Aは、繊維軸方向に伸びるシリンダー形又はスリット形の細孔を有していると考えられた(近藤精一、石川達雄、安部郁夫共著,「吸着の化学」,第2版,丸善株式会社,2001年,56−57頁参照)。
《実施例2》
実施例1の紡糸液調製工程(2)におけるPANと曳糸性ゾル溶液との比率(10:1)を、10:3としたこと以外は、実施例1の操作を繰り返すことにより、本発明の無機系多孔質微細繊維Bを得た。
紡糸液調製工程(2)で得られた紡糸液の粘度は1020mPa・sであった。紡糸工程(3)で得られた複合微細繊維の平均繊維径は400nmであった。か焼工程(4)で得られた無機系多孔質微細繊維の平均繊維径は300nmであった。
《実施例3》
金属化合物としての塩化第1スズ、溶媒としてのメタノールを、1:50のモル比で混合し、40℃にて反応を進行させるとともに濃縮し、粘度200mPa・s、固形分濃度49wt%の曳糸性ゾル溶液を調製した。
以下、実施例1の工程(2)〜(4)を繰り返すことにより、本発明の無機系多孔質微細繊維Cを得た。
紡糸液調製工程(2)で得られた紡糸液の粘度は1000mPa・sであった。紡糸工程(3)で得られた複合微細繊維の平均繊維径は350nmであった。か焼工程(4)で得られた無機系多孔質微細繊維の平均繊維径は120nmであった。
《比較例1》
本比較例では、実施例1のゾル溶液調製工程(1)で得られた曳糸性ゾル溶液を直接、紡糸した。
すなわち、テトラエトキシシラン、エタノール、水、塩酸を、1:5:2:0.03のモル比で混合し、10時間還流を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した後、温度50℃に加温して、粘度200mPa・s、固形分濃度46wt%の曳糸性ゾル溶液を調製した。
得られた曳糸性ゾル溶液を、内径が0.4mmのステンレス製ノズルに、ポンプにより1g/時間で供給し、ノズルから紡糸液を押出すとともに、ノズルに電圧(13kV)を印加し、支持体であるステンレス製無孔ロールをアースして、紡糸液に電界を作用させることによって細径化し、回転するステンレス製無孔ロール上に集積させた。なお、ノズルとステンレス製無孔ロールとの距離は10cmとした。紡糸後の平均繊維径は650nmであった。
得られた複合微細繊維を、電気炉を用いて、昇温速度100℃/時間で500℃まで昇温し、か焼温度500℃で8時間か焼することにより、比較用の無機系微細繊維aを得た。か焼後の平均繊維径は620nmであった。
《比較例2》
実施例1の紡糸液調製工程(2)におけるPANと曳糸性ゾル溶液との比率(10:1)を、10:5としたこと以外は、実施例1の工程(1)及び(2)の操作を繰り返した。紡糸液調製工程(2)においてPANと曳糸性ゾル溶液を混合したところ、白濁、部分的なゲル化が生じ、紡糸を行うことができなかった。
《比較例3》
実施例1のゾル溶液調製工程(1)におけるテトラエトキシシランと水とのモル比(1:2)を、1:10としたこと以外は、実施例1の工程(1)の操作を繰り返した。すなわち、テトラエトキシシラン、エタノール、水、塩酸を、1:5:10:0.03のモル比で混合し、10時間還流を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した後、温度50℃に加温した。粘度420mPa・s、固形分濃度40wt%のゾル溶液が得られたが、曳糸性を示さなかった。
以下、実施例1の工程(2)〜(4)を繰り返すことにより、比較用の無機系多孔質微細繊維bを得た。
紡糸液調製工程(2)で得られた紡糸液の粘度は970mPa・sであった。紡糸工程(3)で得られた複合微細繊維の平均繊維径は360nmであった。か焼工程(4)で得られた無機系多孔質微細繊維の平均繊維径は200nmであった。
《比較例4》
実施例1のゾル溶液調製工程(1)で用いた塩酸の代わりに、アンモニア水を用いたこと以外は、実施例1の工程(1)の操作を繰り返した。すなわち、テトラエトキシシラン、エタノール、水、アンモニア水を、1:5:10:0.03のモル比で混合し、10時間還流を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した後、温度50℃に加温した。粘度100mPa・s、固形分濃度20wt%のゾル溶液が得られたが、ゾル溶液が白濁し、曳糸性を示さなかった。
以下、実施例1の工程(2)〜(4)を繰り返すことにより、比較用の無機系多孔質微細繊維cを得た。
紡糸液調製工程(2)で得られた紡糸液の粘度は1000mPa・sであった。紡糸工程(3)で得られた複合微細繊維の平均繊維径は320nmであった。か焼工程(4)で得られた無機系多孔質微細繊維の平均繊維径は110nmであった。
《実施例4:比表面積及び細孔径分布の測定》
得られた本発明の無機系多孔質微細繊維及び比較用無機系微細繊維又は比較用無機系多孔質微細繊維について、比表面積及び細孔径分布を測定した。
具体的には、自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP mini;日本ベル株式会社)を用い、吸着ガスとして、窒素ガスを使用した。比表面積はBET法で評価を行った。細孔径分布は、細孔サイズがメソ孔の場合、BJH法を用い、マイクロ孔の場合、MP法を用いて評価を行った。結果を表1に示す。
例として、実施例1で得られた本発明の無機系多孔質微細繊維Aの吸脱着等温線を、前記自動比表面積/細孔分布測定装置により測定した結果(チャート)を図3に示す。図3において、「ADS」は吸着等温線であり、「DES」は脱着等温線である。「ρ」は平衡圧であり、「ρ」は飽和蒸気圧であり、「ρ/ρ」は相対圧である。「V」は吸着量であり、「cm(STP)」は0℃及び1気圧でのガス体積であり、「V/cm(STP)g−1」は、1g当たりの吸着量を0℃及び101.325kPa(1気圧)における気体の体積に換算した値である。
《実施例5:メチレンブルーを用いた吸着試験》
本実施例では、各多孔質微細繊維を用いてシート成形体を調製し、そのシートを通過させた後のメチレンブルー水溶液の吸光度を測定することにより、各多孔質微細繊維の吸着能を比較した。
具体的には、各実施例又は比較例で形成した集積物(すなわち、不織布)を、各実施例又は比較例の条件でか焼し、目付12.5g/mの無機系多孔質微細繊維不織布を形成した。得られた無機系多孔質微細繊維不織布を直径25mmの円形に打ち抜き、サンプルシートとした。得られたサンプルシート(0.025g)をフィルタホルダー(KS−25;アドバンテック社)にセットした。吸光度を1に調整したメチレンブルー水溶液(10mL)を、シリンジから押し出すことによりサンプルシートを1度だけ通過させた後、メチレンブルー水溶液の吸光度を測定した。
結果を表1に示す。なお、記号(−)は、測定を実施していないことを示す。
《表1》
微細繊維 細孔径 比表面積 吸光度
(nm) (m /g)
[実施例]
A 6.0 265 0.31
B 6.4 240 0.31
C 9.2 240 (−)
[比較例]
a 0.6 260 0.88
b 5.4 147 0.60
c 6.2 91 0.68
本発明の無機系多孔質微細繊維は、例えば、電子材料、液体若しくは気体フィルター、触媒担体、又はガスセンサーなどの用途に適用することができる。具体的な用途としては、シリカの場合、シリカゲルと同様、吸着剤や触媒担体として利用が可能である。酸化スズを用いた場合、大きな表面積と細孔径をもつ構造に由来し、吸着による導電率の変化を利用した高感度のガスセンサー等に応用することができる。
本発明の製造方法を実施可能な紡糸装置の概要を示す説明図である。 実施例1で得られた本発明の無機系多孔質微細繊維Aの構造を示す、図面に代わる走査電子顕微鏡写真である。 実施例1で得られた本発明の無機系多孔質微細繊維Aの吸脱着等温線を、自動比表面積/細孔分布測定装置で測定した結果を示すグラフである。

Claims (3)

  1. (1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
    (2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能なポリマーとを混合して、紡糸液を調製する工程、
    (3)前記紡糸液を紡糸空間へ供給し、この紡糸液に電界を作用させることにより細径化して、無機系ゲルとポリマーとの複合微細繊維を形成する工程、
    (4)前記複合微細繊維からポリマーを除去して、無機系多孔質微細繊維を形成する工程
    を含む、無機系多孔質微細繊維の製造方法。
  2. 前記ポリマー除去を、か焼又は溶剤抽出により実施する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 酸化ケイ素又は酸化スズからなり、平均繊維径が5μm以下であり、平均細孔径が2〜20nmであり、比表面積が200m/g以上であることを特徴とする、無機系多孔質微細繊維。
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