JP5246287B2 - 走査デバイス、及びその走査デバイスの製造方法 - Google Patents

走査デバイス、及びその走査デバイスの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、光走査装置などに使用され、圧電素子により振動可能な金属基板にミラーを備えた走査デバイス、及びその走査デバイスの製造方法に関するものである。
従来、走査デバイスとして、ミラーを揺動させてレーザ光をミラーにより反射することで、走査する走査デバイスが知られている。この走査デバイスは、マイクロマシニング技術を応用して製造される例がある。走査デバイスは、ミラー、ミラーを揺動可能にする捩り梁、捩り梁を支持する振動可能な金属基板、及び駆動部を備える。ミラーを駆動させる駆動方式としては、電磁駆動式、静電駆動式、圧電駆動式などが知られている。圧電駆動式では、圧電素子が、ミラーを振動させる駆動部に用いられる。この走査デバイスは網膜走査型ディスプレイなどの光走査装置または画像表示装置に備えられる。この走査デバイスの一例が、特許文献1に記載されている。
駆動部として圧電素子が金属基板上に配置される。電圧が圧電素子に印加されると圧電素子が伸縮する。この伸縮が、金属基板に伝わり、ミラーが揺動する。このミラーは光源から照射されたレーザ光を反射する。
特開2006−293116号公報
走査デバイスの金属基板は、反りを有することがある。この原因の一例として、金属基板がロール状に巻かれた金属板から切り出されて作製されること、金属板の内部応力などが挙げられる。金属基板が反りを有すると、金属基板に形成されたミラーも反りを有する。この反りを有するミラーでは、入射されたレーザ光は反射後、光束が広がってしまうなどの影響がある。これにより、反射されたレーザ光が形成する像の解像度が低下する。この結果、ユーザは鮮明な像を視認することができない。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ミラーを備える金属基板の反りが低減された走査デバイス、及びその走査デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、請求項1に記載の本発明は、レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスの製造方法であって、前記金属基板の反り量を室温において、測定する測定工程と、前記金属基板を構成する材料の融点未満の第1温度に、前記金属基板を加熱する加熱工程と、前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜を、前記測定工程により測定された反り量に基づいた膜厚で、前記第1温度にて前記金属基板の凹面に形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程により薄膜が形成された金属基板を室温に降温する降温工程と、を備えることを特徴とするものである。
請求項2に記載の本発明は、レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスの製造方法であって、前記金属基板の反り量を室温において測定する測定工程と、前記金属基板を構成する材料の融点未満の第1温度に、前記金属基板を加熱する加熱工程と、前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料の薄膜を、前記測定工程により測定された反り量に基づいた膜厚で、前記第1温度にて前記金属基板の凸面に形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程により薄膜が形成された金属基板を室温に降温する降温工程と、を備えることを特徴とするものである。
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2に記載の走査デバイスの製造法であって、前記薄膜形成工程では、前記薄膜は絶縁性の材料から形成され、前記薄膜が形成される金属基板の面と反対側の面に導電性の接着剤を介して圧電素子を配置する圧電素子配置工程を備えることを特徴とするものである。
請求項4記載の本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の走査デバイスの製造方法であって、前記薄膜形成工程では、前記測定工程により測定された反り量から前記薄膜の膜厚を演算して、前記薄膜の膜厚を決定することを特徴とするものである。
請求項5記載の本発明は、請求項1に記載の走査デバイスの製造方法であって、前記薄膜形成工程では、前記薄膜の材料がSi系化合物であることを特徴とするものである。
請求項6記載の本発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の走査デバイスの製造方法であって、前記薄膜形成工程では、前記薄膜は絶縁性の材料から形成され、前記加熱工程前に、前記薄膜が形成される金属基板の面と反対側のミラー面を研磨する研磨工程を備えることを特徴とするものである。
請求項7記載の本発明は、レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスであって、
前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜が、前記金属基板の反り量に基づいた膜厚で前記金属基板の凹面に形成されていることを特徴とするものである。
請求項8記載の本発明は、レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスであって、
前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料の薄膜が、前記金属基板の反り量に基づいた膜厚で前記金属基板の凸面に形成されていることを特徴とするものである。
請求項1に記載の走査デバイスの製造方法によれば、金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜が、金属基板の凹面に第1温度において形成される。これにより、室温に降温された金属基板の反りが抑えられ、ミラーの反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
請求項2に記載の走査デバイスの製造方法によれば、金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料の薄膜が、金属基板の凸面に第1温度において形成される。これにより、室温に降温された金属基板は反りが抑えられ、ミラーの反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
請求項3に記載の走査デバイスの製造方法によれば、薄膜は絶縁性材料から形成される。この絶縁性材料の薄膜が形成される金属基板の面と反対側の面に導電性の接着剤を介して、圧電素子が配置される。これにより、薄膜を介さずに圧電素子と金属基板とが導通される。従って、薄膜を介して圧電素子と金属基板とを導通させる工程を省くことが出来る。
請求項4に記載の走査デバイスの製造方法によれば、測定工程により測定された反り量から薄膜の膜厚を演算して、前記薄膜の膜厚を決定する。これにより、室温に降温された金属基板は反りが抑えられ、ミラーの反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
請求項5に記載の走査デバイスの製造方法によれば、薄膜の材料がSi系化合物である。従って、薄膜の膜厚を小さくでき、薄膜の材料を調達するコストを低くすることが出来る。
請求項6に記載の走査デバイスの製造方法によれば、加熱工程前に、絶縁性材料の薄膜が形成される金属基板の面と反対側のミラー面を研磨する研磨工程が備えられる。これにより、ミラー面に絶縁性材料の薄膜が形成される構成に比べ、レーザ光がミラーにより反射されるときの反射率が低下することを抑えることが出来る。
請求項7に記載の走査デバイスによれば、金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜が、金属基板の凹面に形成される。これにより、金属基板は反りが抑えられ、ミラーの反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
請求項8に記載の走査デバイスによれば、金属基板の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料の薄膜が、金属基板の凸面に形成される。これにより、金属基板は反りが抑えられ、ミラーの反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
本発明の第1実施形態に係る走査デバイス1の平面図である。 走査デバイス1の製造工程を示すフローチャートである。 走査デバイス1の製造工程を示す模式図。 エッチング加工後の金属板11の一部分を拡大した平面図である。 金属板11に形成されたミラー3付近の概略断面図である。 高温製膜工程を示すフローチャートである。 高温製膜工程を示す模式図である。 薄膜13の材料としてSiO2を使用し、金属板11の材料としてSUS301を使用して実験を行ったデータである。 薄膜13の材料としてSi3N4を使用し、金属板11の材料としてSUS301を使用して実験を行ったデータである。 走査デバイス100の製造工程の一部を示す模式図である。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1〜図9を用いて説明する。図1は本発明の実施形態に係る走査デバイス1の模式的な平面図である。図1に示したように、走査デバイス1は、貫通孔2により中抜きされた構造となっており、ミラー3と、ミラー3を揺動可能にする1対の捩り梁4と、捩り梁4を支持する振動可能な金属基板10と、駆動部である圧電素子20と、を備える。ミラー3は貫通孔2の中央に位置する。各捩り梁4の一端はミラー3の端部と連結される。各捩り梁4の他端は貫通孔2の側部と連結され、金属基板10により支持される。圧電素子20は金属基板10上に載置される。電圧が圧電素子20に印加されると、圧電素子20が伸縮し、振動が金属基板10を介して捩り梁4に伝わり、ミラー3が揺動する。
ミラー3は、走査デバイス1の外部に配置された光源からのレーザ光を反射する。具体的には、ミラー3のミラー面3aがレーザ光を反射する。このときミラー3の反りが大きいと、ミラー面3aにより反射されたレーザ光は拡散、または収束し、光の焦点位置が変動する。従って、このミラー3からの反射光により形成される像の解像度が低下する。この理由により、ミラー3は、可能な限り反りが低減されたほうがよい。後述するが、ミラー3は金属基板10がエッチング加工されることで形成される。金属基板10はミラー3を備えるので、金属基板10の反りを低減することが望ましい。
図2、及び図3を参照して、金属基板10の反りが低減された走査デバイス1の製造方法を説明する。図2は走査デバイス1の製造工程を示すフローチャートである。図3(A)に示すように、ステップ(以下、Sと略記する)1において、ステンレス、チタンなどの金属材料の金属板11が準備される。この金属板11は、100mm×100mm程度の大きさを有し、数百μm程度の厚みを有する。この金属板11から数十個程度の金属基板10が得られる。従って、金属基板10の反りを低減するには、金属板11の反りを低減すればよい。以下、金属板11に対して実行される工程は、金属基板10に対して実行される工程を意味する。
図3(B)に示すように、S2において、金属板11の反り量が測定される。すなわち、金属基板10の反り量が測定される。金属板11が反りを有する理由の一例として、金属板11がロール状に巻かれたロール板から切り出されて作成されることが挙げられる。また、金属板11が圧延金属板などの場合、圧延加工中に金属板11を形成する金属材料中に内部応力が生じるため反りが発生する。この反り量の測定は、室温において、CNC画像測定システムにより行われる。このCNC画像測定システムとしては、Nikon社製のNEXIVが使用された。このシステムでは、金属板11は、平面度が保たれた作業台12の上に凹面11bが作業台12に対向して載置された状態において、反りを有する金属板11の凸面11aの作業台12からの高さが凸面11a上の数十箇所において測定される。この数十箇所の高さから、反り量が求められる。具体的には、作業台12から最も高い長さHtから金属板11の厚みを差し引いた値が金属板11の反り量として求められる。図3(B)は3箇所の凸面11a上の作業台12からの高さを測った模式図を示す。
S3において、S2にて測定された反り量から、反り量が小さい金属板11が選別される。これは、ミラー3を備える金属基板10が、反り量が大きい金属板11から形成されたとしても、ミラー3の反りが矯正されないからである。S2において求められた最も高い長さHtから金属板11の厚みを差し引いた値があらかじめ決められた値以内の金属板11が選別される。
図3(C)に示すように、S4において、S3にて選別された反り量が小さい金属板11の凸面11aが研磨される。金属板11の凸面11aの研磨は、研磨機または、人の手により研磨される。ミラー3に形成されるミラー面3aは、この研磨された金属板11の凸面11aから形成される。微小な凹凸が凸面11aにあると、ミラー面3aにおいて反射されたレーザ光は拡散、散乱、または収束し、光の焦点位置が変動する、または反射光が形成する像の明るさが落ちる。このため、このミラー3の反射光により形成される像の解像度が低下する。解像度の低下を抑えるために、凸面11aは、十分に研磨されるのが好ましい。S4における金属板11の凸面11aを研磨する工程が、本発明の研磨工程の一例である。
S5において、S4により研磨された金属板11がエッチング加工される。図4は、エッチング加工後の金属板11の一部分を拡大した平面図である。図4に示すように、このエッチング加工により、貫通孔2とミラー3と捩り梁4とが形成される。これにより、貫通孔2とミラー3と捩り梁4とを備える複数の金属基板10が金属板11に形成される。
S6において、S5によりエッチング加工された金属板11に備わるミラー3の反り量が金属板11に形成されたミラー3の数だけ測定される。このミラー3の反り量の測定は、室温において、Veeco社製 Wyko NT3300などの光干渉計を使用して実行される。このミラー3の反り量は、後述する高さRtにより求められる。このS6におけるミラー3の反り量の測定が、本発明の測定工程の一例である。
図5を参照して、反り量について、説明する。図5は、曲率半径Rとなる反りを有する金属板11に形成されたミラー3付近の概略断面図である。金属板11は、ロール板から切り出されるので、金属板11は任意の箇所において、略同じ曲率半径Rを有すると考えられる。従って、金属板11は任意の箇所において、略同じ曲率半径Rを有すると仮定して、ミラー3付近に限って反り量を説明する。図7に示すように、ミラー3の凹面11bの端部Pxから、曲率半径Rを有する円の中心点Poまでの距離と、ミラー3の凹面11bのもう一方の端部Pzから中心点Poまでの距離と、ミラー3の凹面11bの中央位置Pyから中心点Poまでの距離とは等しく、その距離は曲率半径Rと等しい。交点Pcは、中心点Poと中央位置Pyとを結ぶ線分と、端部Pxと端部Pzとを結ぶ線分との交点である。交点Pcは、端部Pxと端部Pzとを結ぶ線分の中点である。従って。交点Pcと端部Pxとを結ぶ線分の長さLxは、交点Pcと端部Pzとを結ぶ線分の長さと同じである。交点Pcと中央位置Pyとを結ぶ線分の長さRtは、三平方の定理を示す数式(4)より求められる。この長さRtは、反り量を示す指標であり、長さRtがゼロになれば、反りがないことを表す。
Figure 0005246287
S6において、光干渉計を使用して長さRtが直接測定されるが、周知の測定器で曲率半径Rが測定されても長さRtが求められる。
図3(D)に示すように、S7において、薄膜13が金属板11の凹面11bに形成される。薄膜13は室温よりも高温において製膜される。薄膜13の膜厚は、S6において測定された各ミラー3の反り量の平均値から求められる。この高温製膜工程における薄膜13の膜厚の導出過程、および薄膜13の形成の詳細は後述する。
S8において、薄膜13が形成された金属板11から金属基板10が切り出される。次に、図3(E)に示すように、圧電素子20が、切り出された金属基板10の凸面11aに導電性の接着剤14により接着される。すなわち、圧電素子20は、薄膜13が形成される金属基板10の面と反対方向の面である凸面11aに導電性の接着剤14により接着される。S8における圧電素子20を金属基板10の凸面11aに配置する工程が、本発明の圧電素子配置工程の一例である。
図3(F)に示すように、S9において、金属基板10に対して、配線が行われる。導線LW1が、導電性の接着剤14が塗られている面と反対側の圧電素子20の面と、外部の電力供給源15と、を電気的に接続する。導線LW2が、薄膜13が形成されていない金属基板10の面である凸面11aと電力供給源15とを電気的に接続する。
図6、および図7を参照して、S7における高温製膜工程を説明する。図7(A)に示すように、S71において、金属板11がスパッタリング装置の内部に配置される。次に、スパッタリング装置の内部が、第1温度に加熱される。言い換えると、金属板11の温度は第1温度に上げられる。この第1温度は、金属板11を構成する金属材料の融点未満である。加熱工程であるS71が本発明の加熱工程の一例である。
図7(B)に示すように、S72において、第1温度において、スパッタリングが行われ、薄膜13が金属板11の凹面11bに形成される。この薄膜13を構成する材料の熱膨張率は、金属板11を構成する材料の熱膨張率よりも小さい。具体的には、薄膜13を構成する材料はSiO2、Si3N4などのSi系化合物である。薄膜13の膜厚は、S6において測定された金属板11に備えられる全てのミラー3の反り量の平均値から決定される。S72が、本発明の薄膜形成工程の一例である。
S73において、薄膜13が形成された金属板11は、室温まで降温される。言い換えると、金属板11の温度は室温まで下げられる。この降温過程では、金属板11を構成する材料の熱膨張率は、薄膜13を構成する材料の熱膨張率よりも大きいので、金属板11は薄膜13よりも収縮する。この収縮時に薄膜13が金属板11の凹面11bに形成されていることから、図7(C)に示すように、長さRtが小さくなるように金属板11は収縮する。降温工程後の金属基板10は、降温工程前の金属基板10よりも反りが小さくなる。S73が、本発明の降温工程の一例である。
薄膜13が金属板11に形成されることにより、金属板11の反りが変化することを説明する。温度Tspにおいて薄膜13が製膜された金属板11が温度T0に降温されたとき、金属板11にかかる熱応力σthは、金属板11の熱膨張率αsubと薄膜13の熱膨張率σfilmとを用いた数式(1)で表される。
Figure 0005246287
室温よりも高温である第1温度において、金属板11を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜13が金属板11の凹面11bに形成されることで、反りが小さくなる方向に応力が金属板11にかかる。薄膜13の膜厚を厚くすると、この金属板11にかかる応力が大きくなるので、反りがより小さくなる。以下、金属板11に薄膜13を形成した実験結果を示す。
図8は、薄膜13の材料としてSiO2を使用し、金属板11の材料としてSUS301を使用して実験を行ったデータを示すグラフである。薄膜13の熱膨張率は8ppmである。この実験において、金属板11の厚みは150μmであり、第1温度は200℃である。スパッタリング法による金属板11への薄膜13の形成は、芝浦エレテック株式会社製の装置を使用して実行された。薄膜13が金属板11に形成される間、第1温度は30分持続させた。薄膜の膜厚D(μm)は、0.5μmに設定された。薄膜13の形成後に、室温において変化量dRtを13個のミラー3に対して測定した。変化量dRtは、室温における製膜後の長さRtから、金属板11に薄膜が形成されていない製膜前の室温における長さRtを差し引いた長さである。すなわち、この変化量dRtが負の値を有するとき、反りが低減することを示す。1回目の変化量dRtの測定後、膜厚Dが0.5μmの薄膜13の上に、さらに薄膜13が形成された。2回にわたる薄膜13の形成により、金属板11に形成された薄膜の膜厚Dは1.0μmである。この2回目の薄膜13の形成後に、室温において、2回目の変化量dRtを計測した。図8は、横軸に薄膜の膜厚D(μm)を示し、縦軸に変化量dRt(nm)を示す。また、薄膜の膜厚Dがゼロのときは、変化量dRtはゼロであり、これが座標原点である。また、図8では、膜厚Dが0.5μmの時の変化量dRtの13個のデータと、膜厚Dが1.0μmの時の変化量dRtの13個のデータとを示した。また、図8に近似曲線Fcを示した。この近似曲線Fcは、座標原点を通過し、膜厚Dが0.5μmの時の変化量dRtの13個の平均値と、膜厚Dが1.0μmの時の変化量dRtの13個の平均値とから線形近似された曲線である。この近似曲線Fcにより、変化量dRtは膜厚Dに比例定数αを乗じた式(dRt=α×D)で表される。
図8に示すように、膜厚Dが0.5μmを有する、SiO2の薄膜13が金属板11に形成されると、変化量dRtは、−10.0nm〜30.0nm程度となり、金属板11の反りが抑えられる。膜厚Dが1.0μmを有する、SiO2の薄膜13が金属板11に形成されると、変化量dRtは−20.0nm〜−45.0nm程度となり、金属板11の反りが、膜厚Dが0.5μmのときよりも抑えられる。この薄膜の膜厚Dを変えたときの変化量dRtの変化により、薄膜の膜厚Dが厚くなると変化量dRtが大きくなる。すなわち、薄膜の膜厚Dを厚くすると、金属板11の反りがより低減する。本発明においては、S6において測定された反り量を示す長さRtがゼロになる膜厚Dがこの近似曲線により演算され、膜厚Dが決定される。
図9は、薄膜13の材料として熱膨張率が3.5ppmであるSi3N4を使用し、金属板11として熱膨張率が17ppmであるSUS301を使用して実験を行ったデータを示すグラフである。この実験において、第1温度は200℃である。この時、薄膜13が金属板11に形成される間、第1温度は1時間持続させた。スパッタリング法による金属板11への薄膜13の形成は、芝浦エレテック株式会社製の装置を使用して実行された。薄膜13の膜厚Dは、1.0μmに設定された。図9では、製膜前の長さRt1(nm)を横軸に示し、製膜後の長さRt2(nm)を縦軸に示す。図9において、長さRtが正の値を示す場合は、ミラー面3aが凸面11aであるような反りが金属板11に有されることを示し、長さRtが負の値を示す場合は、ミラー面3aが凹面11bであるような反りが金属板11に有されることを示す。
図9に示すように、200℃において、Si3N4の薄膜が金属板11の凹面11bに膜厚Dが1.0μmで形成されることにより、ミラー面3aが凸面11aであるような反りを有する製膜前の金属板11は、製膜後にミラー面3aが凹面11bであるように反る。具体的には、製膜前に長さRtが0nm〜150nm程度で反っていた金属板11は、製膜により−150nm〜0nm程度反る。すなわち、金属板11には熱応力が与えられすぎたといえる。この実験結果から、製膜後の長さRtを短くするには、製膜時の第1温度を200℃よりも低温にすること、および薄膜13の膜厚Dを薄くすることが考えられる。本発明においては、近似曲線Fcを用いて、膜厚Dを決定するが、この近似曲線は、第1温度と室温との温度差を小さくすることにより、図8に示す近似曲線Fcの比例定数αが小さくなる。従って、第1温度と室温との温度差に応じて、比例定数αを変化させて、S6において測定された反り量示す長さRtがゼロになる膜厚Dを決定してもよい。
以上のS1〜S9の工程により、走査デバイス1が製造される。この走査デバイス1は例えば、特許文献1に記載されているような網膜走査型ディスプレイに使用される走査デバイスである。網膜走査型ディスプレイの詳細な構成、および動作は特開2007−271788号公報に画像表示装置として記載されているので、その説明を省略する。また、走査デバイス1は、網膜走査型ディスプレイに使用されることに限られない。すなわち、本発明の走査デバイス1は、レーザ光を、走査デバイス1に備えられるミラー3に照射する装置に備えられればよい。
(第2実施形態)
第2実施形態について、図10を参照して説明する。第1実施形態の走査デバイス1と同等の構成については、同じ番号または記号を付して説明する。第1実施形態では、薄膜13は、金属板11の凹面11bに形成されたが、第2実施形態では、薄膜13bは金属板11の凸面11aに形成される。
図10は、走査デバイス100の製造工程の一部を示す模式図である。図10では、S7における高温製膜工程、S8における圧電素子接着工程、S9における配線工程をそれぞれ図10(A)、図10(B)、図10(C)に示す。S1〜S6の工程は第1実施形態と同じである。図10(A)に示すように、S7において、薄膜13bは金属板11の凸面11aに第1温度において形成される。この薄膜13bを構成する材料の熱膨張率は、金属板11を構成する材料の熱膨張率よりも大きい。この薄膜13bの材料は亜鉛、アルミニウム、真鍮などの金属材料が挙げられる。この薄膜13bが金属板11に第1温度にて形成される工程が本発明の薄膜形成工程の一例である。
薄膜13bが形成された金属板11は、第1温度から室温まで降温される。この降温過程では、金属板11を構成する材料の熱膨張率は、薄膜13bを構成する材料の熱膨張率よりも小さいので、薄膜13bは金属板11よりも収縮する。この収縮時に薄膜13bが金属板11の凸面11aに形成されていることから、長さRtが小さくなるように金属板11は収縮する。降温工程後の金属板11の反りが小さくなる。この金属板11を第1温度から室温まで降温する工程が、本発明の降温工程の一例である。
薄膜13bが形成され、降温された金属板11から金属基板10が切り出される。図10(B)に示すように、S8において、圧電素子20は、導電性の接着剤14により金属基板10の凹面11bに接着される。この工程が本発明の圧電素子配置工程の一例である。
図10(C)に示すように、S9において、金属基板10に配線が行われる。導線LW1が、導電性の接着剤14が塗られている面と反対側の圧電素子20の面と外部の電力供給源15とを電気的に接続する。導線LW2が、薄膜13bが形成されていない金属基板10の面である凹面11bと電力供給源15とを電気的に接続する。
[効果]
第1実施形態に記載の走査デバイス1の製造方法によれば、S72において、金属基板10を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜13が、金属基板10の凹面11bに第1温度において形成される。この薄膜13の形成により、S73において室温に降温された金属基板10は反りが抑えられ、ミラー3の反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
第2実施形態に記載の走査デバイス100の製造方法によれば、S72において金属基板10を構成する材料の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料の薄膜13が、金属基板10の凸面11aに第1温度において形成される。この薄膜13の形成により、室温に降温された金属基板10の反りが抑えられ、ミラー3の反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
第1実施形態に記載の走査デバイス1の製造方法によれば、S72において、金属基板10に形成される薄膜13は絶縁性材料から形成される。S8において、この絶縁性材料の薄膜13が形成される金属基板10の面と反対側の面に導電性の接着剤14により、圧電素子20が接着される。薄膜13を介さずに圧電素子20と金属基板10とが電気的に接続される。従って、薄膜13を介して圧電素子20と金属基板10とを電気的に接続する工程を省くことが出来る。
第1実施形態、および第2実施形態に記載の走査デバイスの製造方法によれば、S6における測定工程により測定された反り量から、予め得られている近似曲線Fcから演算して、前記薄膜の膜厚Dを決定する。これにより、室温に降温された金属基板10の反りが抑えられ、ミラー3の反りも抑えられる。従って、ユーザは解像度の低下が抑えられた鮮明な像を視認することが出来る。
第1実施形態に記載の走査デバイスの製造方法によれば、薄膜13の材料がSi系化合物である。Si系化合物は、安価な材料であるので、薄膜13の材料を調達するコストを低くすることが出来る。また薄膜13の材料がSi3N4の場合、SiO2などの他のSi系化合物よりも薄い膜厚Dで金属基板10の反りが低減される。これにより、S72において、Si3N4を金属基板10の凹面11bに形成する時間が短くなる。従って、反りが低減される走査デバイスの製造時間を短くすることが出来る。
第1実施形態、および第2実施形態に記載の走査デバイスの製造方法によれば、S71における加熱工程前に、薄膜13が形成される金属基板10の面と反対側のミラー面3aを研磨する研磨工程が備えられる。これにより、薄膜13が形成された面と反対側の面を反射面に使用することが可能となる。すなわち、薄膜13が形成された面が反射面となる構成に比べ、レーザ光がミラー3により反射されるときの反射率が低下することを抑えることが出来る。反射率は、反射光の明るさを示す光束を入射光の明るさを示す光束で除した値であり、ミラー面3aの凹凸の度合い、およびレーザ光の反射面を形成する材料の材料反射率により変化する。
[変形例1]
第1実施形態、および第2実施形態によれば、S72に示す薄膜形成工程において金属板11に形成される薄膜の膜厚DはS6におけるミラー3の反り量に基づき決定されたがこれに限られず、以下の工程でもよい。S2における測定工程で測定した作業台12からの金属基板10の凸面11aの高さから反り量を求める。この反り量に基づき、S7において形成される薄膜の膜厚Dを決定する。この場合、S2における金属板11の反りの計測が本発明の測定工程の一例である。しかし、第1実施形態、および第2実施形態のように、金属板11の反り量に基づき薄膜の膜厚Dを決定するよりも、ミラー3の反り量に基づき薄膜の膜厚Dを決定したほうが、ミラー3の反りを直接測定しているので、より、ミラー3の反りを抑えることができる。
[変形例2]
第1実施形態、および第2実施形態によれば、薄膜13が形成された金属板11から、金属基板10が切り出されたが、金属基板10が切り出されてから、薄膜13が金属基板10に形成されてもよい。
[変形例3]
本発明の第1実施形態、および第2実施形態に記載のS6において、金属板11に備わるミラー3の反り量が、ミラー3の数だけ計測されたがこれに限られない。ミラー3の反り量は、金属板11に備わる複数のミラー3のうち、1つ、2つなど、金属板11に備わるミラー3の数よりも少ないミラー3の数だけ計測されてもよい。
[変形例4]
第1実施形態において、薄膜13を構成する材料は、SiO2、Si3N4などのSi化合物であったが、これに限られない。薄膜13を構成する材料は、金属板11を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料から形成されればよい。
[変形例5]
第2実施形態において、薄膜13bを構成する材料は、亜鉛、アルミニウム、真鍮などの金属材料であったが、これに限られない。薄膜13bを構成する材料は、金属板11を構成する材料の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料から形成されればよい。また、薄膜13bを構成する材料の材料反射率が金属板11を構成する材料の材料反射率よりも大きい場合は、レーザ光がミラー3により反射されるときの反射率が向上する。この場合、金属基板10の反りを低減すると共に、反射光による像の明るさを向上させることが出来る。
[変形例6]
第1実施形態、および第2実施形態に記載のS72において、薄膜13の膜厚は、S6において計測された金属板11に備えられる全てのミラー3の反り量の平均値に基づくとされたが、これに限られない。薄膜13の膜厚は、S6において計測された金属板11に備えられる少なくとも1つのミラー3の反り量に基づいていれば、全てのミラー3の反り量の平均値に基づかなくてよい。
[変形例7]
第1実施形態、および第2実施形態では、S72の薄膜形成工程において、高さRtがゼロとなるような薄膜の膜厚Dが近似曲線Fcにより決定されたが、これに限られない。予め実験などにより求められた薄膜の膜厚Dと高さRtとが対応付けられた表から、S6において測定された高さRtと対応する薄膜の膜厚Dを決定してもよい。
1、100 走査デバイス
2 貫通孔
3 ミラー
3a ミラー面
4 捩れ梁
10 金属基板
11 金属板
11a 凸面
11b 凹面
12 作業台
13 薄膜
14 導電性の接着剤
15 電力供給源
20 圧電素子
Fc 近似曲線
Pc 交点
Po 中心点
Px、Pz 端部
Py 中央位置

Claims (8)

  1. レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスの製造方法であって、
    前記金属基板の反り量を室温において、測定する測定工程と、
    前記金属基板を構成する材料の融点未満の第1温度に、前記金属基板を加熱する加熱工程と、
    前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜を、前記測定工程により測定された反り量に基づいた膜厚で、前記第1温度にて前記金属基板の凹面に形成する薄膜形成工程と、
    前記薄膜形成工程により薄膜が形成された金属基板を室温に降温する降温工程と、
    を備えることを特徴とする走査デバイスの製造方法。
  2. レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスの製造方法であって、
    前記金属基板の反り量を室温において測定する測定工程と、
    前記金属基板を構成する材料の融点未満の第1温度に、前記金属基板を加熱する加熱工程と、
    前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料の薄膜を、前記測定工程により測定された反り量に基づいた膜厚で、前記第1温度にて前記金属基板の凸面に形成する薄膜形成工程と、
    前記薄膜形成工程により薄膜が形成された金属基板を室温に降温する降温工程と、
    を備えることを特徴とする走査デバイスの製造方法。
  3. 前記薄膜形成工程では、前記薄膜は絶縁性の材料から形成され、
    前記薄膜が形成される金属基板の面と反対側の面に導電性の接着剤を介して圧電素子を配置する圧電素子配置工程
    を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の走査デバイスの製造方法。
  4. 前記薄膜形成工程では、前記測定工程により測定された反り量から前記薄膜の膜厚を演算して、前記薄膜の膜厚を決定すること
    を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の走査デバイスの製造方法。
  5. 前記薄膜形成工程では、前記薄膜の材料がSi系化合物であること
    を特徴とする請求項1に記載の走査デバイスの製造方法。
  6. 前記薄膜形成工程では、前記薄膜は絶縁性の材料から形成され、
    前記加熱工程前に、前記薄膜が形成される金属基板の面と反対側のミラー面を研磨する研磨工程を備えること
    を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の走査デバイスの製造方法。
  7. レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスであって、
    前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材料の薄膜が、前記金属基板の反り量に基づいた膜厚で前記金属基板の凹面に形成されていること
    を特徴とする走査デバイス。
  8. レーザ光を反射するミラーが形成された金属基板を備え、前記ミラーにより反射されたレーザ光により像が形成される走査デバイスであって、
    前記金属基板を構成する材料の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料の薄膜が、前記金属基板の反り量に基づいた膜厚で前記金属基板の凸面に形成されていること
    を特徴とする走査デバイス。
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