JP5222747B2 - ケフィアを用いた抗酸化性物質 - Google Patents
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Description
ケフィア粒は1〜3cm前後のスポンジ状の固まりで約20種類の乳酸菌の他、酵母菌、酢酸菌を有し、日本においては一般にヨーグルトきのこと呼ばれている。ケフィア粒に牛乳を入れ、所定時間常温で密閉することによりケフィア粒混入のケフィア(ケフィアヨーグルトと呼ばれる)が得られ、これをざるで濾してケフィア粒を取り除くことにより簡単にケフィアを得ることができ、健康食品として一般家庭でも愛用されている。
また、日本においては近年、欧米型の食生活から、インスリン非依存性のII型糖尿病が増加の一途をたどり、多くの日本人を苦しめている。このII型糖尿病においては、健康維持の中核の生理作用である細胞のグルコース取り込みが行なえないことで、生態の恒常性維持が行えず、結果として様々な合併症を併発し深刻な症状を呈することが珍しくない。このII型糖尿病の要因である細胞のグルコース取り込み低下に活性酸素が大きく関与していると考えられ、活性酸素の低減により、細胞のグルコース取り込みが活性化され、II型糖尿病治療に役立つと考えられ、さらに活性酸素の低減作用を有する食品及び薬剤の開発が求められている。古くより長寿とされるロシアのコーカサス地方で愛飲され、近年日本でも健康食品として注目されている発酵乳ケフィアにもこの活性酸素の低減作用があるのではないかと推察され、発酵乳ケフィアより、活性酸素低減作用(抗酸化作用)を有する物質を単離・同定して抗酸化作用を有する物質を製造することは、人類の健康維持、かつ糖尿病治療、特にII型糖尿病治療に多大な貢献となると考えられる。
前記オンラインHPLC法はDPPH−HPLC法であり、前記第4工程で分取したケフィアの抗酸化性物質は、ゲルろ過して精製されている。
特に請求項1記載のケフィアを用いた抗酸化性物質は、酸性あるいは中性で安定で、かつ高圧蒸気滅菌にも安定であるので、利用しやすい。
また、請求項1記載のケフィアを用いた抗酸化性物質を有する糖尿病治療剤は、グルコース取込み増強作用を有しているので、糖尿病特にII型の抗糖尿病治療剤の開発及び抗糖尿病治療剤への利用が可能となった。
また、ケフィアの抗酸化性物質を有するDNA修復作用を有する組織修復剤は、ケフィアの抗酸化性物質のDNA複製のエラー修復作用、DNA修復促進作用により、皮膚細胞のUV損傷防止、あるいは皮膚の光老化防止、DNAの突然変異が原因で生じる癌や遺伝病の予防、治療などへの広範な利用が可能となった。
ケフィアの抗酸化性物質を有する健康食品は、生体の活性酸素を低減する機能性食品、又は健康食品の開発が可能となった。
また、以上のケフィアを用いた抗酸化性物質はケフィアより、活性酸素低減作用(抗酸化作用)を有する物質を単離して製造しているので、健康食品及びII型の抗糖尿病機能性食品、DNA修復作用を有する組織修復剤の開発に貢献できる事となった。
本実施例においてはまずケフィアの水溶性画分を透析膜によっていくつかの分子量範囲に分画し、主要な抗酸化活性を有する分画の同定を行った。さらにその分画中の構成成分を陰イオン交換カラムにより分離し、DPPHを用いたオンラインHPLC法を採用して抗酸化活性をもつ成分の同定を行った。更にこれを分取し精製を進めた。得られた精製物について高速原子衝撃質量分析法による分子量測定と赤外吸収スペクトルの測定を行った。また精製物の試験管内での抗酸化活性はDPPH還元能を指標として測定を行った。
まず、本実施例において使用する材料、及び装置について概略説明する。
(1)材料
出発材料であるケフィアは日本ケフィア株式会社から提供されたケフィア発酵液(乳固形分17%、内乳脂肪分2%、乳酸50%溶液、ペクチン0.6%、pH調整3.90)を冷蔵保存(4℃)したものを用いる。
(2)透析膜と浸透圧測定
活性成分の分子量を検討するために、スペクトラム(SPECTRUM)社の透析膜で分画分子量2,000(Spectra/Por Membrane MWCO:2,000)、分画分子量1,000(Spectra/Por Membrane MWCO:1,000)、分画分子量500(Spectra/Por Membrane MWCO:500)、分画分子量100(Spectra/Por Membrane MWCO:100)のものを用いた。また各分子量範囲の水溶性画分の浸透圧測定にはヴォーゲル(VOGEL)社の浸透圧測定器OM802-Dを用いた。
(3)DPPHを用いた試験管内抗酸化能試験
DPPHは和光純薬工業株式会社より入手した。DPPHは80%メタノールを溶媒とし、必ず実験当日に調製を行い遮光して冷蔵保存した。また抗酸化能試験においては、多サンプルの吸光度を同一条件で測定するためにテカン(TECAN)社のスペクトラリーダーを用い、96穴のウェルプレート(孔あきプレート)上で492nmにおける吸光度でDPPHの吸光度減少を同時測定した。
図1に示すように、オンラインHPLC−DPPHシステム10は、システムコントローラ12(Waters 600E System Controller)、オートサンプラー13(Waters 717 plus Autosampler)、フォトダイオードアレイ検出器14(Waters 996 Photodiode Array Detector)を用いてウォーターズ(Waters)社のクロマトグラフィマネージャー18(Chromatography Manager MILLENIUM32)によりシステムのコントロール及びデータ解析を行った。またDPPH溶液供給用ポンプとしてDPPHポンプ15(Waters 501 HPLC pump)を用いた。分離用カラムとして東ソー(TOSOH)社のTSKgel DEAE-5PW(φ7.5mm×75mm)を陰イオン交換カラム16として使用した。また目的物質分取の自動化に際しアドバンテック(ADVANTEC)社のフラクションコレクター17(SF-2120 SUPER FRACTION COLLECTOR)を用いた。
ゲルろ過精製のためにバイオラッド(BIO-RAD)社のバイオゲル/BIO-Gel P-2樹脂(分離分子量範囲100−1800)を用いたカラムを作製した(φ10mm×450mm)。カラムはFPLC-HPLC変換アダプターによりオンラインHPLC−DPPHシステムへと接続して使用した。
さらにゲルろ過溶出パターンによる精製物の分子量推測を行った。標準品としてはビタミンB12(M.W.1355.4)、ブロモフェノールブルー(M.W.669.97)、フェノールレッド(M.W.354.38)を和光純薬工業株式会社より入手し実験に用いた。
ゲルろ過後精製物の分析のため分割管(Waters 2695 Separation Module)をウォーターズ社のクロマトグラフィマネージャー18によりコントロールしてデータ解析を行った。分離用カラムとして東ソー社の逆相系カラムであるTSKgel ODS-80Ts(φ4.6mm×150mm)を用いた。
九州大学大学院薬学研究院創薬科学部門薬用資源制御学講座にゲルろ過後精製物1mgを供し、高速原子衝撃質量分析法(Fast Atom Bombarment Mass Spectrometry, FAB-MS)による分子量測定を依頼した。
(8)赤外線吸収スペクトル測定
(株)島津総合分析センターに赤外線吸収スペクトル測定を依頼した。ゲルろ過後精製物0.5mgを供し、島津フーリエ変換赤外分光光度計FTIR-8200PC、赤外顕微鏡AIM-8000による顕微赤外線吸収スペクトル測定を行った。
(1)ケフィア水溶性画分の調整と分子量分画
分子量1000以下のケフィア水溶性画分サンプル調製時における、各段階でのサンプル重量、体積及び浸透圧を図3に示す。
図3に示すように、ケフィア発酵液275g(乳固形分17%、内乳脂肪分2%、乳酸50%溶液、ペクチン0.6%、pH調整3.90)を遠心分離(11000g、30min)し、乳脂肪分を沈澱させケフィア上清(ケフィア水溶性画分サンプルA)115gを得た(第1工程)。
得られた上清を分画分子量1000の透析膜に移し、1000mlの超純水で24時間の透析を行い分子量1000以下の外液を得た(第2工程)。得られた外液をエバポレーターによって濃縮した。濃縮液は4N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和し、生じた主として蛋白質の沈澱物を遠心分離(550g、20min)する事で除いた(第3工程)。ここで得られた上清(分離液)は脱塩の目的で分画分子量100の透析膜に移し、1000mlの超純水で24時間の透析を行い分子量100以上の内液を得た(第4工程)。得られた内液をエバポレーターによって濃縮し、浸透圧を0.300osmol/kgに調整したものを分子量1000以下のサンプル(B)とした。
また得られた内液をエバポレーターによって濃縮し、浸透圧を0.300osmol/kgに調整したものを分子量2000以上のサンプル(D)とした。
DPPHは実験当日に80%メタノール溶媒に溶解させ、0.1mMの濃度でストックした。
調製したケフィア水溶性画分サンプル(A)と、分子量1000以下のサンプル(B)、1000〜2000のサンプル(C)、2000以上のサンプル(D)の3つに分子量分画したケフィア水溶性画分サンプル(B、C、D)との4サンプルについてDPPHを用いた定性的抗酸化能試験を行った。まずポジティブコントロールとして用いた0.1mMアスコルビン酸水溶液を含む全てのサンプルを50mlずつ1.5ml容のエッペンドルフチューブに分注した。そこに100%メタノールを50mlずつ分注し混合させ、タンパク成分を沈澱させた。これは、ケフィア水溶性画分中の残余のたんぱく質をメタノールにより析出させるためである。
全量100mlとなったエッペンドルフチューブを遠心分離器にかけてタンパク成分を完全に沈澱させた(4500g,10min)。次に全てのサンプルから上清を50μlずつとり、新しいエッペンドルフチューブに分注した。またネガティブコントロールとして50%メタノールを50μl分注したサンプルを作製した。こうして準備した計6個のサンプル全てに前述の0.1mMDPPH溶液100μlを素早く分注し、遮光して37℃で放置した。30分放置後、各サンプルを96穴ウェルプレートに50μlずつ分注し、492nmにおける吸光度を測定した。結果を表1に示す。ここで分子量1000以下のサンプルにおいて最も強い吸光度の減少が見られ、最も強い抗酸化能が確認された。
オンラインHPLC−DPPHシステム10の溶離液11としては0.1M酢酸アンモニウム水溶液を用いた。図1に示すように、単一組成の溶離液11を流速0.7ml/minでオンラインHPLC−DPPHシステム10に供給した。
DPPHは実験当日に80%メタノール溶媒に溶解させ、0.1mMの濃度でストックした。これを80%メタノール溶媒で10倍希釈し0.01mMとしたDPPH溶液19をDPPHポンプ15により流速0.7ml/minで陰イオン交換カラム16より分離後のオンラインHPLC−DPPHシステム10のラインに混合させた。
実験前日からオンラインHPLC−DPPHシステム10の陰イオン交換カラム16は流速0.7ml/minで平衡化させた。そして実験当日にDPPH溶液19を調製し、DPPHポンプ15を作動させた。ポンプ作動と同時に80%メタノール溶媒200mlを注入し、517nmにおけるDPPHの吸光度のベースラインが安定するまでシステムを作動させた。ベースラインの安定を確認後、このシステムが水溶性の抗酸化性物質の検出が可能であることを確認するために当日調製した0.1mMのアスコルビン酸水溶液200mlをオートサンプラー13より注入した。結果を図4に示す。280nmの波長でアスコルビン酸をモニターしたところ10分付近からピークが検出され、ピークに対応する形でDPPHの517nmにおける吸光度減少が確認された。
そこで分子量1000以下のケフィア水溶性画分サンプル200mlを注入して抗酸化性物質の探索を行った。結果を図5に示す。280nmの波長で成分をモニターしたところ複数のピークが認められた。その中でも38分付近から確認されるピーク(Q)のみが対応するDPPHの吸光度減少を示し、抗酸化活性を有することが判明した。また同時に多種の波長での吸光度を検出できる装置であるフォトダイオードアレイ検出器14によってピーク(Q)時における目的物質の紫外−可視スペクトルを取得した結果を図6に示す。目的の物質は236.0nm及び291.4nm(λmax)に極大吸収を持つ物質であることが判明した。また図7に示すように天然抗酸化物質中ではフラボノイド類において類似するスペクトルパターンを有する化合物が見いだされた。
本実施例ではオンラインHPLC法としてオンラインHPLC−DPPHシステムを使用したオンラインHPLC法を採用したが、DPPHの代わりにルミノールを使用する場合も本発明方法に含まれる。
分子量1000以下のケフィア水溶性画分サンプル(B)の注入量を1000mlへと増加させ、1サイクル60分のプログラムを用い、目的ピークの大量分取を行った。大量分取に際してはフラクションコレクター17を用い35分から50分までの範囲を3分ずつ5本のフラクションに分けて自動分取させた。1回につき20時間連続運転させたのち、80%メタノール溶媒200ml、0.2M水酸化ナトリウム水溶液200mlの順で注入して陰イオン交換カラム16の洗浄を行った。さらに1M塩化ナトリウム水溶液を用い陰イオン交換カラムの洗浄を行った。
最終のサンプル注入における溶出パターンから、目的物質の含まれるフラクションのみを選択してエバポーレーターにより濃縮した。またここでエバポレーターによる濃縮と超純水を再び加えることによる再濃縮操作を繰り返し、揮発性を有する酢酸アンモニウム塩を可能な限り除いた。最終的にサンプル(B)を5ml程度まで濃縮して凍結保存し、凍結乾燥を行った。
自作したゲルろ過カラムはオンラインHPLC−DPPHシステム10に接続し、実験前日より10%酢酸水溶液を流速0.5ml/minで供給することにより平衡化させた。
凍結乾燥したサンプル(B)を可能な限り少量の10%酢酸水溶液に溶解させオートサンプラーにより100mlを注入した。図6の紫外−可視スペクトルの結果から、ゲルろ過では290nmにおいて目的物質の溶出をモニターした。ゲルろ過による精製・脱塩の結果を図8に示す。
図8に示すように、110分付近から溶出する目的ピークを分取し、エバポレーターによる濃縮と超純水を再び加えることによる再濃縮を繰り返して揮発性の酸である酢酸を完全に除いた。最終的にサンプルを5ml程度まで濃縮して凍結保存し、凍結乾燥を行った。
同時に分子量既知の各種物質を同条件においてゲルろ過し、それらの溶出時間から目的物質の分子構造上のサイズを推測した。まずゲルろ過後の精製物を1mg/mlに調製し50mlを供給したところ121.3分をピークとして溶出した。また同様の濃度と供給量でビタミンB12(M.W.1355.4)、ブロモフェノールブルー(M.W.669.97)、フェノールレッド(M.W.354.38)について試験したところビタミンB12が32.2分、フェノールレッドが157.9分をピークとして溶出した。またブロモフェノールブルーはこの条件では検出できなかった。結果を表2に示す。一方、ビタミンB12とフェノールレッドのデータから推定したケフィア抗酸化性物質の分子量は650であった。ここでの結果と分画分子量500の透析膜を用いて得られる外液に目的物質が濃縮可能であることから、目的物質の分子量はおよそ500以下の範囲にあると推測された。しかし、この透析膜による濃縮は物質の形状や電荷によって変化しうるので、この500以下という数値は正確なものではない。同様に、ゲルろ過による分子量推定も分子の形によって変化するので分子量の位置標識として分子量マーカーを使って作成した検量線によっても正確な分子量の推定は困難である。
ゲルろ過後の精製のため一般的な逆相HPLCの溶出条件である0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水/メタノール系で流速1.0ml/minにおいて溶出を試みた。
ゲルろ過後のサンプル(B)を逆相HPLCに注入後、溶離液の組成が水100%の段階で3つのピークが確認された。またメタノール80%まで濃度勾配をかけても他のピークは認められなかった。2.4分付近に230nmの紫外線吸収でモニターされたピークは陰イオン交換カラムでの大量分取に用いた溶離液中の酢酸アンモニウム塩であることが確認された。また3.8分付近のピークはフォトダイオードアレイ検出器14から得られた紫外−可視スペクトルのパターンから、陰イオン交換カラム溶出時における目的ピークの前ピークの混入物であることが判明した。さらに目的物質は5分付近から検出され、非常に極性の高い物質であることがわかった。
ゲルろ過後のサンプルの回収量が非常に少ないため、逆相HPLCによる精製・分取を現段階では断念し、このゲルろ過後のサンプルを用いて各種機器分析を行った。
九州大学大学院薬学研究院創薬科学部門薬用資源制御学講座に高速原子衝撃質量分析法(FAB-MS)に依頼した分子量測定の結果を図9に示す。結果最大で分子量607.8m/zのピークが検出された。また、341.4m/zに強いピークが認められた。このことから、この物質の分子量は607.8であり、準安定な分解産物の分子量が341.4であろうと推定された。
(株)島津総合分析センターに依頼したケフィア中抗酸化性物質の赤外線(IR)吸収スペクトル(顕微IR)の結果を図10に示す。報告書を要約すると、赤外線(IR)吸収スペクトル(顕微IR)分析値を保存するサドラー社のライブラリー中には依頼したケフィア抗酸化性物質と類似したスペクトルはなく、最も構造の近い物質としてエチレン様の二次結合を有する化合物である可能性がある。そして部分構造解析からはオルト位に置換基を持つベンゼン環が存在するということが報告された。また1125、1029、991、783、744cm-1における吸収は隣接三置換基を有するベンゼン環の面外変角振動を示し、3300〜2800cm-1における吸収は水酸基の存在を示唆している。
精製したケフィア抗酸化性物質と水溶性抗酸化物質であるアスコルビン酸との比活性を検討した。DPPHは実験当日に80%メタノール溶媒に溶解させ、0.5mMの濃度で調製した。アスコルビン酸水溶液は実験当日に10mMの濃度で調製した。
まず10mMのアスコルビン酸水溶液を希釈して0、50、100、150、200、250、300、350、400、600、800、1000μMのサンプルを調製した。また1mg/mlのケフィア抗酸化性物質を希釈して0、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0mg/mlのサンプルを調製した。次に全てのサンプルを50mlずつ1.5ml容のエッペンドルフチューブに分注した。そこに100%メタノールを50μlずつ分注し混合させた。全量100μlとなった全てのサンプルに0.5mMDPPH溶液100μlを素早く分注し、遮光して37℃で30分間放置した。各サンプルを96穴ウェルプレートに50mlずつ3点分注し、492nmにおける吸光度を測定した。結果を表3、表4、図11に示す。
発酵乳ケフィアの抗酸化作用について活性物質を水溶性画分から探索したところ主に分子量1000以下の範囲に存在することがわかった。確認のため分子量1000、2000の範囲のサンプルについてもオンラインHPLC−DPPH法を用いて活性成分を探索したところ新たな成分は見いだせなかった。また、先に分別した分子量100以下についても抗酸化作用について同様の検索を行ったが抗酸化作用を有する新たな成分は見いだせなかった。オンラインHPLC法のDPPH−HPLC法により活性の確認された活性物質は陰イオン交換カラムで分離可能であることから負に帯電していると言える。また逆相HPLCでの分析結果からこのケフィア抗酸化性物質は非常に親水性の高い(極性の高い)物質であることが強く示唆された。さらに精製における出発材料である分子量1000以下に分画したケフィア水溶性サンプルを高圧蒸気滅菌処理してもこの活性は維持されることから、熱安定な物質であると考えられる。
また、上記実施例におけるオンライン−DPPH供給系をシステムから分離して活性を維持した状態の抗酸化性物質の分取を行うことにより、ケフィアの抗酸化性物質の製造が可能となった。さらにゲルろ過等の方法により、より精製した抗酸化性物質が製造できることとなった。
本実施例ではオンラインHPLC−DPPH法後の抗酸性物質の精製をゲルろ過で行ったが、他の精製方法を用いる場合も本発明方法に含まれる。
さらにこのケフィア抗酸化性物質の構造的特徴を知るために赤外線吸収スペクトルの測定を依頼した。結果サドラー社のライブラリー中には依頼したケフィア抗酸化性物質と類似したスペクトルは存在せず、新規性を有する化合物である可能性が高い。スペクトルに対応する帰属から、分子骨格としては複数の置換基を有するベンゼン環とエチレン様二重結合の存在が示唆された。また天然抗酸化物質に特徴的である水酸基の存在も示唆された。この結果はおもに水酸基からの水素受容によってDPPHが還元されるという事実とも一致している。
従って、現段階では、ケフィア水溶性画分に含まれる抗酸化性物質は分子量100〜700、水酸基、及び芳香族基を有し、酸性、中性に安定でかつ高温蒸気滅菌にも安定な物質であるといえる。
(10)動物培養細胞におけるケフィア抗酸化性物質の生理活性
一般に試験管内で抗酸化活性を示す化合物であっても、実際に細胞内で適当な作用量で抗酸化活性を有するとは限らない。そこで、次に本発明方法の前記実施例により製造された、即ちケフィア水溶性画分より精製した分子量100〜700m/zで水溶性のケフィア抗酸化性物質が、実際に細胞内で適正な作用量で抗酸化活性を有するかどうかを動物培養細胞における生理活性を調べることにより、以下に検討した。
ここでは蛍光色素DCFH−DA(2,7-dichlorofluorescein diacetate)を用いた細胞内酸化状態の測定を行った。
図12に示すように、膜透過性プローブであるDCFH−DAは細胞外から細胞内へと移行し、細胞質中のエステラーゼにより加水分解を受けDCFHとなる。このDCFHは膜透過性を失うために細胞内にとどまり、そこで過酸化水素などの細胞内活性酸素種と反応し、酸化されることによってDCFとなる。このDCFは蛍光を発する(λex=502nm、λem=526nm)ため、DCFH−DAを投与した細胞のDCF蛍光強度を測定することにより細胞内の酸化状態を測定することができる。
接着細胞の場合では細胞を接着させたままでDCFH−DAを処理し、共焦点レーザー顕微鏡によりDCF蛍光強度を測定するが、この際の観察位置の決定や実験結果の数値化が困難である。そこで本研究では非接着性細胞であるヒト白血病由来細胞株K562を用いFCM(蛍光染料で染色した細胞にレーザー光を照射し、細胞の大きさ、DNA含量や膜抗原の発現量の分布を測定する方法)で蛍光強度の分布を分析することで細胞内酸化状態の測定を行った。
細胞培養
RPMI1640培地(基本栄養培地)は日水製薬株式会社より入手した。
図13に示すように、10%の牛胎児血清(FBS)を含むRPMI1640培地でヒト白血病由来細胞K562を90mmディッシュで培養し、飽和密度になる毎に細胞数を10分の1に希釈し継代を行った。
試薬
蛍光色素DCFH−DA ハンクス液は日水製薬株式会社より入手した。
DCF蛍光強度はベックマン・コールター(BECKMAN COULTER)社のEPICS XL/XL-MLL System・(別名FACS)を用いて測定を行った。
(13)結果及び考察
FCM(フローサイトメトリー)によるDCF蛍光強度解析
図13にヒト白血病由来細胞株K562を用いた細胞内活性酸素消去試験の手順を示す。
図13に示すように、ヒト白血病由来細胞K562を10%の牛胎児血清(FBS)を含むRPMI1640培地で培養し、飽和になる毎に細胞数を10分の1に希釈し継代を行った。細胞数が1×106個になったものを試験管にとり、5μMのDCFH−DA蛍光色素で7分間処理したものに、本発明方法の前記実施例により製造された分子量100〜700で水溶性のケフィア抗酸化性物質を添加して10分間処理した。ケフィア抗酸化性物質処理をしないものをコントロールとした。10分間経過後、コントロール及びケフィア抗酸化性物質処理したヒト白血病由来細胞株K562についてFCMによる蛍光検出を行った。
その結果を図14に示す。図14から分かるように、細胞の蛍光強度はケフィア抗酸化性物質処理により、コントロールに比較して左に移動した。これは細胞当たりの蛍光強度が全体的に低下したことを示しており、ケフィア抗酸化性物質により細胞内の過酸化水素が消去されたことが推測された。
コントロールの蛍光強度を100%とした場合、1及び10μg/mlの濃度で50〜60%の細胞内活性酸素が消去されたことから、ケフィア抗酸化性物質は強い細胞内活性酸素消去能をもつと言える。
本結果より、酸化ストレスは動物細胞に様々な機能低下を生じさせ、多くの疾病の原因となっていることから、ケフィア抗酸化性物質が様々な疾病の予防及び治療に効果をもつことが期待された。
(14)ケフィア由来抗酸化性物質の脂肪細胞への糖取込促進活性
上記オンラインHPLC−DPPH法により精製したケフィア抗酸化性物質が脂肪細胞に対して糖取込を促進するかどうかを検定し、糖取込み不全に起因するいわれる糖尿病特にII型糖尿病に対する効果及びを確認するために以下に実験した。
3T3/L1前駆脂肪細胞は、10%FBS−DMEM培地で培養し、半飽和に達した後、0.5mMイソブチルメチルキサンチン(isobutyl metylxanthine)、0.25μMデキサメサゾン(dexamethasone)、及び10μg/mlインスリンを添加し72時間培養し、10μg/mlインスリンのみを含む培地で48時間培養した後10%FBS−DMEMのみの培地に戻すことにより分化誘導を行った。分化処理終了後72時間通常培地にて培養し分化した細胞をグルコース取り込み検定に使用した。
分化した細胞をケフィア由来抗酸化性物質を含む培地で4時間培養し、20分間インスリン刺激を行った後、300μlのグルコース無しのHBS溶液で2回リンスし、1wellあたり500μlの1μCi/ml 2-Deoxy-D-[1-3H]glucose含有HBSを加え、10分間処理を行った。10分後この放射性溶液を吸引除去し、300μlの氷冷0.9%NaCl溶液で素早く3回リンスした。500μlの0.5Nカセイソーダを加え、細胞を溶解した後、100μlの2N酢酸で中和した。各サンプル500μlずつを2mlのエッペンにとり800μlのアクアゾル液体シンチレーションカクテル(放射線測定用蛍光色素含有液)を加え、液体シンチレーションカウンター(放射線量測定装置)により測定を行った。測定は1サンプルにつき5分間行った。
図15はケフィア抗酸化物質の脂肪細胞への糖取込促進効果の測定図である。
図15に示すように、ケフィア抗酸化性物質は0.1μg/ml濃度で約2.0倍、10μg/mlで約2.5倍の促進効果が認められ、濃度依存的に糖取込を促進することが明らかとなった。これらの結果から、このケフィア由来の抗酸化性物質を主体とする添加した新たな抗糖尿病治療剤、機能性食品の開発が可能であると期待された。
また、ケフィア抗酸化性物質を用いた健康食品は、美味しくするため、栄養価を上げる、更なる効果を期待するために更に他の栄養素、物質を加える事も可能である。
(実施例4)
ミスマッチ修復酵素hMLH1の遺伝子発現に及ぼす効果
ミスマッチ修復遺伝子は、DNA複製の際に生じるエラーを修復することでゲノムの安定を保ち、エラー塩基の蓄積を抑制することで発癌を抑制している。さらに、ミスマッチ修復遺伝子が正常に機能していない固体は、除去修復機能にも機能不全が観察されることから、ミスマッチ修復遺伝子は除去修復機構とも関わりがあると考えられている。ただ、その詳細は明らかとなっていない。HPLC−DPPH法によりケフィア抗酸化性物質を高度に精製できたので、この物質のミスマッチ修復遺伝子hMLH1の遺伝子発現増強効果を調べた。また、100℃で10分間加熱することによる熱安定性も調べた。
抗酸化性物質をHMV−1細胞(メラトーマ細胞/皮膚のモデル細胞)に添加して15時間培養し、ミスマッチ修復遺伝子hMLH1の発現をRT−PCR法(細胞からメッセンジャーRNAを抽出し、逆転写酵素により相補正DNA(cDNA)を合成し、ついで特定の遺伝子のcDNA部分配列断片(プライマー)を用いて特定のcDNAを増幅することにより、遺伝子の発現の程度を調べる方法)を用いて解析した。
結果及び考察
結果を図16に示した。数値データは下記のとおりである。
コントロール 1.0
ケフィア抗酸化性物質(0.4μg/ml) 1.26
ケフィア抗酸化性物質(1μg/ml) 1.33
次にケフィア抗酸化性物質及び加熱処理ケフィア抗酸化性物質が不定期DNA合成に及ぼす進効果について調べた。
目的
DNAが損傷を受けた際に、DNA複製とは無関係のDNA修復のためのDNA合成が行われる。これを不定期DNA合成(UDS)と呼ぶ。不定期DNA合成が促進されると、細胞のDNA修復活性が促進されたと推測できる。
紫外線(UVA)を照射すると、DNAの塩基が損傷を受け、損傷塩基は塩基除去修復機構によって修復される。
方法
96穴プレートにまいたHMV−1細胞に、UVAを3400J/m2照射した後にケフィア抗酸化性物質を0.4μg/mlの濃度で添加して1時間培養した。不定期DNA合成(UDS)は、ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込みによって測定した。細胞分裂により生じるDNA複製を最小にするため、細胞分裂を引き起こす細胞周期を停止させる作用を有する50mMヒドロキシルウレア(Wako)で処理し、細胞周期を停止させた。
結果
図17に示したように、ケフィア抗酸化性物質を添加した細胞では、UDSが明らかに増大した。また、100℃、10分間加熱しても、ケフィア抗酸化性物質のUDS促進効果は低下しなかったため、このケフィア抗酸化性物質は熱安定性であると考えられた。
考察
上記の結果から、ケフィア抗酸化性物質によって細胞のミスマッチ修復機構等が賦活化されてDNA修復が促進されたと考えられた。ここで、用いたケフィア抗酸化性物質はHPLC精製において、溶媒を変化させても単一のピークを示したことから、高度に精製されたものと推定された。この物質が熱安定性であることは機能性食品への応用の面でも有利であると考えられる。
また、これらの結果から、細胞のDNA修復活性を促進し、DNA修復作用を有する新たな組織修復剤及び機能性食品の開発が可能となった。ケフィア抗酸化性物質は皮膚細胞のUV損傷防止方法、あるいは皮膚の光老化防止方法の開発及び、DNAの突然変異が原因で生じるガンや遺伝病の予防、治療などへ広範に利用できることとなった。
上記実施例では、ケフィアは日本ケフィア株式会社供与のケフィア(ケフィア発酵液)を使用したが、日本で製造、販売されたケフィア菌を使用したケフィアでも、ロシア以外のその他国由来のものでも、あるいはケフィア粒を求めて自分で培養したものを使用しても良い。
また、上記実施例で使用した装置及び薬剤はこれに限定するものでなく、結果に影響を与えない限り変更可能である。
Claims (1)
- ケフィア水溶性画分から得られた、分子量が607.8で、二重結合、水酸基及び芳香族基を有し、酸性あるいは中性で安定で、かつ高圧蒸気滅菌にも安定なケフィアを用いた抗酸化性物質。
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