JP5219180B2 - コンクリートの補修工法および補修材料 - Google Patents

コンクリートの補修工法および補修材料 Download PDF

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Description

本発明は、母材コンクリートの劣化部に発生したひび割れ部を補修して、ひび割れ部が再劣化するのを抑制するコンクリートの補修工法、および、火力発電所から廃棄物として排出される石炭灰であるフライアッシュを混合したコンクリート表面被覆材、止水材などのコンクリート補修材料に関する。
塩化物を含んだ鉄筋コンクリートにおいて、内部鉄筋が腐食し、表面コンクリートが剥離した場合には、劣化箇所に補修材を充填して断面復旧しても、再度鉄筋が腐食し、補修部が再劣化することが知られている。これは、母材コンクリートと補修部の塩分濃度差により鉄筋に腐食電流が流れ、鉄筋が再度腐食することが原因と考えられている。塩害コンクリートの補修方法としては、従来から劣化部のコンクリートをはつり取り、露出した鉄筋に防錆材を塗布後、ポリマーモルタル等で補修する工法が広く用いられてきた。
例えば、特許文献1記載のものがその一例である。
また、外部からコンクリート内部への劣化因子(塩分・水分等)の浸透を防ぐことを目的として、特許文献2記載のように、コンクリート表面を被覆する技術も実施されてきた。
特許文献2記載のものは、図1(a)に示すように、炭酸ガスがコンクリート中に侵入することにより生じるコンクリートの中性化、また、塩化物イオンが侵入して内部鉄筋が腐食するという塩害、あるいはアルカリ骨材反応等により、母材コンクリート1にひび割れ部2が生じた場合には、ひび割れ部2の外表面全面に亘って、接着剤を塗布し、付着箇所3を作成する。その後、この付着箇所3に表面被覆材(塗膜)4を付着させて被覆し、炭酸ガス、塩分、酸素、水分等がひび割れ部2に侵入しないように環境遮断するものである。
また、特許文献3では、コンクリートの打継目の劣化部に、弾性型枠材を接着して設置した後、繊維シート等のシート状の被覆材を密着させて被覆し、劣化の進行を抑制する技術が開示されている。
コンクリートを補修する材料に関しては、硬化させたコンクリートに流体状のコンクリートを打ち継ぐ際に、その間に設ける止水材として、あるいは硬化させた複数のコンクリート製品の間に設ける止水材として、ウレタンゴムを主成分としたものが使用されている。
こうした従来の止水材には、増量材として、また流動性や分散性などの加工性の向上を図ることを目的として、炭酸カルシウムが混合されている。
一方、国内に存在する石炭火力発電所からは、毎日、大量の石炭灰が排出され、その一部はセメントに混合されたり、路盤材料あるいは土壌改良材として使用されているものの、多くは廃棄処分されている。
特開2003−120041号公報 特開2000−16886号公報 特開2004−346613号公報
上記特許文献1の補修工法を用いた場合、ポリマーモルタル等の断面修復材の乾燥収縮により、母材コンクリートと補修部の境界面に微細なひび割れが生ずる可能性が高く、ひび割れ部から塩分・酸素等の劣化因子が鉄筋へ供給され、再度鉄筋腐食が起きるといった問題がある。
上記特許文献2の補修工法にあっては、図1(b)に示されるように、表面被覆材4は母材コンクリート1へ付着箇所3を介して全面的に付着されているので、母材コンクリート1に矢印で示すような過大な応力が作用し、あるいは温度変化による収縮等によりひび割れ部2の幅が拡大した場合、表面被覆材4が破損する可能性が高い。このため、破損箇所からひび割れ部2内部に水分、酸素等が供給されることにより、母材コンクリートに埋設された鉄筋が腐食し、補修箇所が再劣化してしまうという問題がある。
また、上記特許文献3のものでは、劣化部に接着される弾性型枠材は、成形加工により製作されるため、コストが嵩張り、また、弾性型枠材を接着してから繊維シートの被覆材を密着させて被覆するため、修復作業に手間取ってしまう問題がある。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、塩分濃度差による腐食電流を抑制し、かつ、外部からの劣化因子浸透を防止し、再劣化が生じにくい補修工法を提供すると共に、火力発電所で大量に排出される石炭灰であるフライアッシュを有効利用して低価格で高い補修効果を有するコンクリート補修材料を提供することを目的とする。
本発明者らは、塩害コンクリートの補修において、母材コンクリートと補修部の塩分濃度差による腐食電流発生を抑制し、内部鉄筋の再腐食を防止する方法について鋭意研究を重ねてきた。
その結果、「断面修復材には、水分等を通しにくい緻密な材料を用いること」および「補修部と未補修部の境界部等で、ひび割れを生じさせないようにすること」により、腐食電流を抑制できることをつきとめた。すなわち、水セメント比を減らしたモルタルやポリマーモルタル等を、ひび割れが生じないように施工すれば、腐食電流を抑制できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
「ひび割れを生じさせない」という条件を満たすための、断面修復材の条件としては、「乾燥収縮しないこと」が挙げられる。しかし、完全に無収縮の材料は入手が困難であり、未補修部と補修部の境界面には、ひび割れが生じる可能性を否定できないという問題があった。
発明に係るコンクリートの補修工法は、劣化した部分のコンクリートをはつり取り、緻密な補修材料を用いて断面修復を実施した後、補修部周辺の外表面に非常に優れた伸縮性を有する弾性材料で表面被覆することにより、前記補修部の内部空間を外部から遮断することを特徴とする。
なお、前記表面被覆材あるいは止水材としては、ウレタンゴム100重量部に対して、石炭火力発電所で大量に排出される石炭灰であるフライアッシュを、1〜100重量部混合したことを特徴とする材料を用いるのが好ましい。
表面被覆材としてフライアッシュを混入した前記材料を使用しない場合には、前記ひび割れ部およびひび割れ部近傍の母材コンクリート側の外表面と表面被覆材との間に、敢えて付着させない箇所を設けることが好ましい。
本発明のコンクリート補修工法によれば、水セメント比を減らして塩分や水分等を通しにくくしたモルタル等、緻密な補修材を用いることにより、腐食電流を抑制することができる。また、母材コンクリートと補修部の境界面にひび割れが生じた場合でも、表面被覆を施しているため、塩分・水分等の劣化因子の浸入を防止することができる。
表面被覆材は非常に高い伸び率を有する材料で形成されているので、母材コンクリートのひび割れ、および温度変化に起因する伸縮に十分追従させることができる。表面被覆材の破断を回避でき、かつ、ひび割れ部の内部を外部と環境遮断できるので、ひび割れ部の再劣化を抑制できるようになる。
また、表面被覆材は、弾性ウレタンに、石炭灰(フライアッシュ)を混入して形成されたものを使用するのが好ましい。石炭火力発電所から排出される石炭灰には、電気集塵機で捕集した微粒タイプのフライアッシュと、ボイラーから排出される粒径がやや大きくて多孔質のクリンカアッシュとに大別されるが、表面被覆材の構成材料としては、粒径の微細なフライアッシュが適していることを確認した。ちなみに、粒径の大きいクリンカアッシュを混合すると、止水性が低下することを確認した。
これによれば、火力発電所で生成される産業廃棄物としての石炭灰の有効利用を図ることが可能となる。
またこのフライアッシュは、従来弾性ウレタンに混合されていた炭酸カルシウムと同様に、増量材として使用でき、また、その優れた流動性と分散性による加工性の向上を図るために使用することができる。従って、炭酸カルシウムの使用をなくし、または使用量を削減することにより、製造コストを大幅に削減することができる。
前記表面被覆材は、母材コンクリートとの接着性に優れており、高湿度環境下・雨水等に対しても高い剥離抵抗性を有する。また、紫外線に対しても、5mm程度の被覆厚で施工することにより、表面2mm程度が保護層として機能するため、全体として表面被覆材としての機能を十分維持できる。
前記表面被覆材は、非常に高いひび割れ追随性を有する弾性材料であるため、高い振動耐久性を要求される橋梁の補修材としても使用することができる。
また、前記表面被覆材は、900%以上の非常に高い伸び率を有するとともに、水分・塩分等を遮断することができるため、目地材等の表面被覆材以外の用途に使用可能であることは言うまでもない。
また、表面被覆材と母材コンクリートを敢えて付着させない非接着箇所を、ひび割れが生じると予測される部分に設けることにより、母材コンクリートのひび割れ部への応力集中による表面被覆材の破断を良好に回避できる。この表面被覆材と母材コンクリートを非接着とする工法は、前記フライアッシュ入り表面被覆材以外の表面被覆材についても破断耐久性を高める効果がある。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施の形態に基づいて詳述する。図2は、実施の形態におけるコンクリートの補修工法の工程を断面図で模式的に示した補修工程図である。まず、上記コンクリートの補修工法の工程を説明する。
(断面修復工程)
塩害等で劣化したコンクリートの修復すべき部分のコンクリートをはつり取る。その後、水セメント比の小さいモルタルやポリマーモルタル等、緻密な材料を用いて断面修復を行う。なお、母材コンクリートと断面修復材の接着性を高めるため、必要に応じて、はつり面に接着材を塗布しても良い。
(テープ貼り付け工程)
図2(a)に示されるように、図示されない鉄筋を埋設された母材コンクリート1の下面側には、断面補修材の乾燥収縮によるひび割れ部2の発生が予想される。ひび割れ部2近傍の下表面に粘着性のテープ5を貼り付けてテーピングする。
(接着剤塗布工程)
テープ5を貼り付けた後、母材コンクリート1およびテープ5の下表面に接着剤6を塗布する。接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂系、EVA系(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂系)、アクリル樹脂系等の樹脂系接着剤や、クロロプレンゴム系、スチレン・ブタジエンゴム系等のゴム系接着剤や、セメント系、石膏系等の水・気硬性接着剤を用いる。
(表面被覆材の被覆工程)
図2(b)において、表面被覆材8を接着剤6に貼り付け、母材コンクリート1を被覆する。表面被覆材8の厚さは、約5mmである。これにより、ひび割れ部2の内部は、被覆した表面被覆材8により外部から遮断され(環境遮断)、ひび割れ部内部への酸素・水分等の供給が阻止されることとなる。表面被覆材8としては、母材コンクリート1に対する付着性に優れるとともに、伸び縮みが可能なひび割れ追随性が高く、酸素・水分等の遮断性に富み、かつ、止水性にも優れた性能を有するものである。
図2(b)の状態から母材コンクリートのひび割れ幅が拡大すると、テープの粘着力は弱いため、図2(c)に示すように母材コンクリートから剥がれる。これにより、表面被覆材が応力集中により裂けることを回避できる。
この表面被覆材8は、例えば、ゴム系の弾性樹脂材にフライアッシュを必須成分として混入し形成したものである。弾性樹脂材としては、ウレタンゴム、シリコンゴム、ポリサルファイドゴム、未加流ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アスファルト等が用いられる。本発明では特にウレタンゴムにフライアッシュを混入し、フライアッシュを混入していないものと同等の性能を有していることを試験により確認した。伸び・強度からウレタンゴム100重量部あたりフライアッシュ1〜100重量部の範囲が好ましい。またフライアッシュは、混合性の点からコンクリート用フライアッシュJIS−A−6201に適合するものが好ましい。なお、その他必要に応じて、可塑剤、無機充填材、界面活性剤、老化防止材、カーボンブラック、着色剤、軟化材等の配合剤を含有するようにしてもよい。また、耐候性を高めるため、表面被覆材の上に、アクリルウレタン等のトップコートを使用してもよい。
(表面被覆材の一例)
表面被覆材8は、既存の弾性ウレタン製品にフライアッシュを配合して硬化させて得られるものが好ましい。フライアッシュを増量材として混合することによって、表面被覆材の分量を低コストで容易に増やすことができ、また、産業廃棄物として廃棄されるフライアッシュの有効利用を図ることができる。本発明者らは、既存の弾性ウレタン(硬化剤イソシアネート100部に対し主剤としてポリオール75部、酸化亜鉛1部、オクチル酸鉛5部、老化防止剤5部、炭酸カルシウム100部で組成)に、フライアッシュを混入し、引張強度、伸び等を試験により確認した。上記既存の弾性ウレタン100重量部に対してフライアッシュを0、50、100、150重量部を混合した試料を作成し、これらの試料のシート片をダンベル3号で打ち抜き、速度500mm/minで引張強度、伸びを求めて比較したデータを示すと、表1のようになる。
この実験から、フライアッシュを1〜100重量部混合することを特徴とする本発明の実施形態に係るコンクリート表面被覆材は、引張強度および伸びの両方において優れた機能を有することが分かる。それは特に試料4と比べて顕著である。
表1の材料を使用して水圧試験を行う。100mm×300mm×300mmのコンクリート平板を2枚用意し、外周上にコーキング用の溝を設ける。試料番号1〜4までのコーキング材を用意し、溝にコーキングガンを用いて充填する。コンクリート面にはプライマーU(アオイ化学製)を使用する。コンクリート板の中心に水を注入する鋼管を設置し、耐水圧用試験体を準備する。試験体の概略図を図3に示す。
次に、鋼管上部より漏水するまで加水し、漏水した水圧を記録する。結果を表2に示す。
この実験から、本発明の実施形態に係るコンクリート表面被覆材は、漏水圧が高く、止水性に優れることが分かる。
(非接着箇所の幅)
上記で述べてきた非接着工法における非接着箇所(非接着部分)の幅は、5cm程度が好ましい。
非接着部分は、ひび割れ部2が入ると予測される箇所(既設部と補修部の境界面など)に設ける場合には、境界面上から多少ずれた位置にひび割れが入る場合もあるので、余裕をもって5cmが好ましいと考えられる。その理由は、許容ひび割れ幅を伸ばす効果そのものは、非接着部分が1cmもあれば充分であるが、ひび割れが入りそうな箇所に非接触部分を設ける必要があるため、多少の余裕幅を考慮するのが好ましい。また、非接着部分の幅が狭過ぎる場合には、施工がそれだけ困難となり、非接着部分が広過ぎると、表面被覆材8と母材コンクリート1の接着力が弱くなる等が懸念されるためである。
(表面被覆材の破断特性試験)
弾性ウレタンは水分環境下であっても止水性に優れた材料として認知され、目地材として多用されてきた。このことは、コンクリートとの付着性に優れていることを意味しており、この性質に着目し、石炭灰の高度有効利用との両立を目指し、石炭灰(フライアッシュ)を混入した弾性ウレタンの「ひび割れ追随性」と、「鉄筋腐食抑制効果」について、市販のエポキシ樹脂の場合と比較して、実験的に検討した。
ひび割れ追随性については、被覆材(表面被覆材)2種類、被覆厚さ2種類、ひび割れ緩和層(非接着部分)の有無の3要因について検討した。鉄筋腐食抑制効果については、被膜厚さは1種類とし、被覆材の種類を検討要因として実験を行った。その結果、以下の結果が得られた。
(破断特性試験の結果)
被覆材のひび割れ追随性についての結果は、表3の通りである。
(注記)
*1:{各被覆材、被膜厚さ、塗布方法による破断開始時の底面ひび割れ幅}÷{弾性エポキシ(被膜厚さ:1mm、全面接着)破断開始時の底面ひび割れ幅}の算式により算出する。
*2:{各被覆材、被膜厚さ、塗布方法による破断開始時の底面ひび割れ幅}÷{弾性エポキシ(被膜厚さ:1mm、全面接着)底面全域破断時の底面ひび割れ幅}の算式で算出する。
また、表3において、「破断開始時」とは、表面被覆材に少しでも亀裂が入ったときのコンクリートに生じた亀裂幅を、「底面全域破断時」とは、表面被覆材が完全に切れたときのコンクリートに生じた亀裂幅をそれぞれ意味する。
表3から、弾性ウレタンのひび割れ追随性は、同一の厚さでは弾性エポキシの場合の10倍程度あり、大きな差のあることが認められた。
弾性ウレタンは、極めて優れたひび割れ追随性を有していることから、新たに生じるひび割れあるいは既に生じているひび割れ幅の経時的な増減に対し、母材コンクリート面との接着条件によらず,破断することなく表面被覆の機能を十分維持することができ、有害物質の浸入防止効果が期待できる。このことから、打継部の開口に起因する断面修復工事における鉄筋の早期腐食抑制にも効果があることが分かる。
また、母材コンクリート面との非接着部分を設けることにより、弾性エポキシおよび弾性ウレタンともに、表面被覆材のひび割れ追随性が更に向上することを確認できた。これにより、非接着部分を設けることにより、材質に関わらず表面被覆材の破断抵抗性を向上させる効果があることが確認できた。
(腐食抑制効果確認試験)
本試験は、表面被覆を施した供試体が表面被覆無しの供試体に比べ鉄筋腐食抑制効果のあることを確認するのが目的である。本試験で使用した供試体は、図4に示すように、供試体寸法は100×100×400mmの角柱供試体とし、2D6、SD245異形鉄筋をかぶり25mmの位置に配置した。脱枠後、供試体は室温20℃、湿度100%の環境で66日間養生した。本試験の目的の観点から、コンクリート供試体に予め曲げひび割れ(ひび割れ幅:約0.2mm)を導入し、表面被覆材の効果を確認することにした。
表面被覆材としては、弾性ウレタン(フライアッシュ混入)、弾性エポキシの2種類とし、コンクリート供試体の側面および下面に塗布した。表面被覆材の厚みは、標準厚さのみとし、弾性ウレタンは5mm、弾性エポキシは3mmとした。塗布方法は、すべて全面接着で行った。そして、10日間、気中養生を行った後、対象とする面を下面のみとするため、下面を除く5面にエポキシコーティング処理を施した。その後、供試体を図4に示す環境試験室へ搬入し、腐食促進環境下に暴露した。ここに、腐食促進環境下とは、室温40℃で、6日間乾燥(相対湿度60%)と1日間NaCl13%を含む降雨環境(相対湿度約95%)とし、この一週間を1サイクルとした。暴露後、2週間おきに、鉄筋が錆びたかどうかの指標として使用される自然電位測定を行い、鉄筋腐食抑制効果の確認を行った。
(表面被覆工法の効果検討)
弾性ウレタン(フライアッシュ混入)を使用した表面被覆材は,腐食促進させるための高湿度,降雨といった環境下であっても、表面被覆材に剥離・劣化等は見られなかった。腐食促進環境下における自然電位測定結果は、図6に示す通りである。なお、表面被覆供試体については、自然電位を測定できないため、被覆材塗布前および暴露終了時のみの自然電位を示す。自然電位とは金属類が持っている電位を指し、自然電位法によって測定できる。コンクリート中の鋼材(鉄筋等)の自然電位測定において、腐食しているかどうかを表す判定基準は、ASTMC876に示されたものが代表的であり、腐食が発生する確率で評価している。この腐食判定基準を示すと、表4の通りである。
(ひび割れ幅の経時変化)
環境試験室に供試体を暴露した後、定期的にひび割れ幅の測定を行ったが、大きな変化は起こらなかった。
(自然電位の経時変化)
図5に示す自然電位測定結果より、ひび割れ幅を約0.2mmに制御した無塗装供試体は、ほとんどの鉄筋が腐食していたが、同様のひび割れ幅を有する塗装供試体には、被覆材料の相違に関わらず、腐食発生は69日の範囲では認められなかった。この結果から、弾性ウレタンは、新たに生じるひび割れあるいは既に生じているひび割れ幅の経時的な増減に対し、有害物質の浸入防止効果が期待できる。このことから、打継部の開口に起因する断面修復工における鉄筋の早期腐食抑制にも効果があると考えられる。
以上、本実施の形態によれば、表面被覆材8を十分な伸び率を有したものとするため、母材コンクリート1のひび割れと、温度変化に追従させることができ、表面被覆材としての機能を維持させることができる。表面被覆材は、伸び縮み可能な弾性材料で形成したものとしているため、表面被覆材の破断を回避でき、かつ、ひび割れ部の内部を外部と環境遮断できるので、ひび割れ部鉄筋の再腐食を抑制できるようになる。この場合、弾性材料には、例えば、ゴム系塑性物を主体とした強度低下の少ない塑性物として形成されたものが使用される。
また、表面被覆材は、弾性ウレタンに、フライアッシュを混入して形成されたものを使用するのが好ましい。これによれば、主に火力発電所で生成される産業廃棄物としての石炭灰(フライアッシュ)を弾性ウレタンという有機物に混合することで、石炭灰の有効利用を図ることが可能となる。
弾性ウレタンによる表面被覆材を使用しない場合には,表面被覆材8と母材コンクリート1は、敢えて付着させない部分を設けることが好ましい。これによれば、ひび割れ部の存在する領域およびその近傍の母材コンクリートと表面被覆材が直接接着しないことにより、ひび割れ部分の表面被覆材の伸び縮みが許容され、応力集中による破断を回避でき,表面被覆材の耐久性を更に高めることができる。
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更して実施することができる。
例えば、図2に示した実施の形態では、母材コンクリート1に予めテープ5を貼り付け、接着剤塗布後にテープを剥がさずに表面被覆をする場合について説明したが、接着剤塗布後にテープ5を剥がすことにより非接着部分を作り、その後で表面被覆を実施しても良いし、テープ5を貼り付けるのを省き、非接着部分以外のコンクリートに接着剤を塗布しておき、そこに表面被覆材8を貼り付ける工法として良い。
また、本発明に係るコンクリートの補修工法は、外部からの水分・酸素等の供給を遮断することにより、再劣化を防ぐ工法でもあるので、塩害以外の原因で生じた劣化箇所の補修工法にも適用することができるのは勿論である。外部環境が厳しくひび割れが生じると予測される構造物では、あらかじめ予防措置として弾性ウレタンによる表面被覆を行っておいても良い。
また、上記コンクリートの補修工法では、表面被覆材8を、予めひび割れ部が生じると予想される箇所に設ける場合を例に挙げて説明したが、ひび割れ部2が生じた箇所に設ける場合にも適用できるのは言うまでもない。
従来の補修工法を示す図である。 本発明の実施の形態に係わるコンクリートの補修工法における手順を示す図である。 試験体の概略図である。 腐食抑制効果確認試験における供試体の概略図である。 環境試験室の概略を示す説明図である。 自然電位の経時変化を示すグラフである。
符号の説明
1 母材コンクリート
2 ひび割れ部
5 テープ
6 接着剤
7 非接着部分
8 表面被覆材

Claims (4)

  1. 母材コンクリート外表面伸び縮み可能な弾性材料による表面被覆材被覆することによりひび割れ部の内部空間を外部から遮断させることを特徴とするコンクリートの補修工法であって、
    前記表面被覆材は、弾性ウレタン100重量部に対して、フライアッシュを1〜50重量部の範囲で弾性ウレタンにフライアッシュを混入して形成されたことを特徴とするコンクリートの補修工法。
  2. 母材コンクリート外表面伸び縮み可能な弾性材料による表面被覆材被覆することによりひび割れ部の内部空間を外部から遮断させることを特徴とするコンクリートの補修工法であって、
    ひび割れ部およびひび割れ部近傍の母材コンクリート側の外表面と表面被覆材との間に、該外表面と該表面被覆材とが接着剤のみを介して付着していない箇所を設けることを特徴とするコンクリートの補修工法。
  3. 前記表面被覆材は弾性ウレタンにフライアッシュを混入して形成されたことを特徴とする請求項2に記載のコンクリ−トの補修工法。
  4. ウレタンゴムとフライアッシュとを混合したコンクリート補修材料であって、
    ウレタンゴム100重量部に対して、フライアッシュを1〜50重量部混合して構成されていることを特徴とするコンクリート補修材料。
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