以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る力覚発生構造が適用される鍵盤装置の構成を示す断面図である。この鍵盤装置100は、電子鍵盤楽器に適用される。鍵盤装置100は、多数の白鍵アセンブリと黒鍵アセンブリとが並列的に配列されて構成されるが、図1では、そのうちの1つの白鍵アセンブリに相当する部分が示されている。他の鍵に関する構成も同様である。以降、前後方向については、奏者側(図1の左側であって鍵1の先端側)を前側とし、左右方向については奏者を基準として呼称する。
鍵1は、その基端部1bが、鍵支持部材である鍵盤フレーム2の後端部に固設された円柱状の軸部材5に回動可能に嵌合されており、この軸部材5が鍵1の回動支点となっている。また、鍵盤フレーム2に設けられた円柱状の軸部材9に、クランク状に形成されたハンマ6の後端部6bが回動可能に嵌合されている。この軸部材9がハンマ6の回動支点となっている。このハンマ6の後端部6bと鍵1の基端部1bとの間に、板バネ7が係止されている。この板バネ7により、ハンマ6は軸部材9を回動支点として右旋方向に付勢されて復帰力が与えられている。
ハンマ6の基部には、アクチュエータ8が設けられ、両側部に鍵1の両側面下部に設けた凹部に係合する係合押圧部6cが設けられている。これにより、押鍵時に鍵1の下方への回動により鍵1によって係合押圧部6cが押し下げられ、ハンマ6は板バネ7の付勢力に抗して押鍵方向に回動されるようになる。すると、プリント基板3c上に配設された鍵スイッチ3が、アクチュエータ8によって駆動される。また、ハンマ6は、板バネ7の付勢力によって係合押圧部6cを介して鍵1を常に右旋方向に付勢し、それによって、鍵1に復帰力が与えられている。
また、ハンマ6の動作を光学的に検出する不図示の光センサが各ハンマ6に対応して設けられる。この光センサによって鍵1の動作が間接的に検出され、その検出信号が、不図示の楽音発生機構における楽音制御に用いられる。
鍵盤フレーム2の前部の上には、力覚発生機構部30が各ハンマ6に対応して配設される。力覚発生機構部30の上部にある力伝達部31が、ハンマ6の前端部6aの下面に固着されている。
ところで、図1に示す、鍵1の前半部下面1aに設けられる力伝達部31Kと、鍵1の後半部下面1bに設けられるアクチュエータ8Kについては、後述する変形例において設けられる構成要素であり、本実施の形態では無視する。
図2(a)は、1つの力覚発生機構部30の斜視図である。図2(b)、(c)は、図2(a)のA−A線に沿う断面図である。図2(b)、(c)は正面視に相当する。図2(a)、(b)は、それぞれ鍵1の初期位置に対応する非押鍵状態、鍵1の押鍵終了位置に対応する押鍵終了状態に対応している。
力覚発生機構部30は、鍵盤フレーム2の上に固定された保持体40と、保持体40に対して相対的に変位可能な変位体32とから構成される。変位体32は、力伝達部31と、力伝達部31の下端から左右に二股に分岐した平板状の2つの側板33、34とから一体に構成され、力伝達部31より下方の部分が正面視で下方に開口したコ字状となっている。変位体32は磁性体でなり、ヨークとして機能する。側板33の下端部33aと側板34の下端部34aの相対向する内側面にそれぞれ永久磁石35、36が固設されている。
保持体40において、支柱41が鍵盤フレーム2の上に突設され、支柱41の上端に収容ケース42が固定される。収容ケース42は、側板33、34間に配置される。収容ケース42の左側外壁面42a、右側外壁面42bは、平坦面であって且つ前後及び鉛直方向に平行である。永久磁石35、36の対向面35a、36aは、平坦面であって、左側外壁面42a、右側外壁面42bに対して平行に対向する。対向面35a、36aと左側外壁面42a、右側外壁面42bとの間隙はごく僅かである。変位体32は、ハンマ6に連動して上下動するが、永久磁石35、36が上限位置から下限位置まで平行に変位する全行程において、対向面35a、36aと左側外壁面42a、右側外壁面42bとは常に近接した非接触状態となる。
収容ケース42は磁性体でない錫やアルミニウム等の金属、あるいは樹脂やセラミック等の非金属で構成され、内部に粘性流体44が満たされて密閉状態とされている。粘性流体44は、粘性のある流体であり、液体に限られない。収容ケース42内にはまた、粘性流体44と共に可動体43が自由状態で収容されている。可動体43は、鉄等の磁性体で、球体に形成されてなる。可動体43の直径は、収容ケース42の左右方向の幅よりやや小さい。従って、収容ケース42の左右の内側面によって、可動体43の移動可能な方向は、実質的に前後及び上下に平行な方向に規制されている。
ところで、永久磁石35、36の極の配置については、互いに向き合う対向面35a、36aが反対の極を有するように配置される。例えば、対向面35aにN極、対向面36aにS極が現れるように配置される。
かかる構成において、非押鍵状態の安定状態においては、図2(b)に示すように、永久磁石35、36が収容ケース42の上部に位置し、可動体43は、永久磁石35、36の吸着力によって永久磁石35、36間に位置する。すなわち、永久磁石35から可動体43を通じて永久磁石36に至り、さらに変位体32を通じて永久磁石35に戻る経路において磁気回路が形成される磁気結合状態となっている。従って、可動体43は、粘性流体44の中で浮いた状態となっている。なお、非押鍵状態において可動体43が上方に位置しやすいようにする上では、可動体43の比重は、粘性流体44より小さい方が好ましい。しかし、本発明の構造において粘性流体44の粘性により力覚を発生させる観点に限れば、可動体43の比重は問わず、理論上、質量がゼロでもよい。
次に、非常に速い速度で押鍵する強押鍵と、強押鍵よりも遅い速度で押鍵する通常押鍵とに分けて説明する。押鍵操作によりハンマ6の前端部6aに連動して変位体32が下方に変位する。永久磁石35、36の各対向面35a、36aが、収容ケース42の左側外壁面42a、右側外壁面42bに沿って一定の間隙を保って非接触で変位する。
ここで通常押鍵であった場合は、可動体43は、永久磁石35、36の吸着力によって永久磁石35、36と一緒に下降しようとする。その際、粘性流体44の粘性が抵抗となり、可動体43には変位動作に抗する反力がかかることになる。そして、磁気結合状態を維持しようと作用するため、可動体43に加わる反力が永久磁石35、36、変位体32、ハンマ6及び鍵1を通じて、奏者の指に伝わる。指に伝わる反力は、押鍵操作に対する力覚として把握される。
粘性流体44の粘性係数をμ、可動体43の変位速度をv、押鍵における加速度をa、可動体43の質量(慣性質量)をmとする。粘性流体44による抵抗力fは、f=ma+μvという運動方程式で近似される。ここで、上記式には、ハンマ6による慣性力は含まれていない。また、実際には、粘性流体44の粘性により、可動体43が変位体32に完全に追従して同じ速度で変位するわけでないので、上記式の通りとはならない。ただし、基本的には可動体43が変位体32に追従しようとして下降するので、通常押鍵の範囲では、抵抗力は押鍵強さが強いほど大きくなる。
従って、通常押鍵では、ハンマ6の慣性に加えて、粘性流体44による抵抗力fが、押鍵態様に応じて鍵1にかかる。実際には、質量mが0でないので、上記式からもわかるように、質量mによる慣性力も抵抗力として加わることになるが、本発明では、粘性流体44の粘性による抵抗力に主眼を置いている。抵抗力fがかかる結果、力覚としては、アコースティックピアノにおける通常鍵時の力覚に近似したものとなる。
押鍵終了状態から離鍵して、変位体32が初期位置に戻る際、可動体43もそれに追従して上昇して初期位置に復帰する。なお、可動体43は、移動する際に回転し得るが、球体であるので、その回転動作が力覚に影響することはほとんどない。
一方、非押鍵状態において、押鍵速度がある速度を超えると、押鍵のごく初期には上記と同様に反力が発生するが、ごく初期を過ぎると、可動体43が変位体32に追従しきれず、磁気結合状態が破れて、可動体43は置いて行かれ、変位体32だけが下方に変位する状態となる。このような状況が、上記した強押鍵で生じるように、粘性係数μ、質量m等の各種のパラメータが設定されている。可動体43が変位体32に追従しないと、反力は急に軽いものとなる。これは、アコースティックピアノにおいて、押鍵の初期段階で鍵とハンマとの連動が解かれてハンマが自由に回動していく状況に似ている。従って、いわゆる動的レットオフ感を擬似的に作り出すことができ、力覚は強押鍵時の力覚に近似したものとなる。
すなわち、押鍵感触としては、押鍵速度が遅い場合は、可動体43が変位体32に追従するので、グランドピアノにおけるハンマを動かすような重いタッチとなる一方、押鍵速度が速い場合は、追従しないので軽いタッチとなる。特に鍵盤楽器の鍵に適用しているので、押鍵速度が速い場合は、鍵1の変位が妨げられにくく、ダイナミックレンジを大きくとることができる。強押鍵でも疲れにくい。従って、強押鍵における脱進感があるタッチが実現されると共に、軽いピアノ鍵にすることができる。
ところで、可動体43は球体であるので、上下に移動する際、収容ケース42の内壁面との接触面積が小さく、摩擦が少ない。そのため、力覚が安定すると共に、摩擦による劣化も少ない。ところで、力覚を発生させることに限れば、可動体43の形状は問わず、多面体でもよいし、収容ケース42の内部の前後幅とほぼ同じ厚みを有する円盤状としてもよい。しかし、仮に多面体とすると、可動体43の向きによって抵抗力が変化し、安定した力覚を維持するのが困難である。その点、可動体43を球体や円盤状とすれば、向きの制御が不要で構成が簡単となり、発生する力覚の安定化に繋がる。
本実施の形態によれば、磁気を利用した簡単な抵抗発生構造により、変位体である変位体32の変位に対して力覚を生じさせることができる。また、押鍵の態様に応じた反力が発生するので、自然な力覚を実現することができる。しかも、力覚発生機構部30においては、ピストンとシリンダのように、構成要素同士が強く摺接するような箇所がないので、機械的な劣化が少なく、安定した力覚を長期間維持することができる。また、ピストンとシリンダとの関係に比べれば、製造許容誤差が大きく、グリスを塗る必要もないので、構成が簡単である。また、小型でもある。さらには、粘性流体44は密閉して収容されるので、品質劣化がしにくく、一定の力覚が一層長期間維持される。
また、永久磁石35、36が、収容ケース42に対して非接触で変位するので、両者間の摩擦による劣化を回避して耐久性を高めることができる。また、接触による騒音・ノイズの発生がないので、電子楽器やミキサ等の音楽装置に好適である。
ところで、所望の力覚を実現する上で、力覚に影響するパラメータを適切なものに設定すればよい。これらのパラメータとしては、上記した粘性係数μ、質量mの他に、可動体43の直径、形状や収容ケース42の前後、左右の内側面の幅、永久磁石35、36と収容ケース42との間隙寸法等が挙げられる。なお、摩擦による劣化抑制の効果を望まない場合は、永久磁石35、36は、収容ケース42に摺接するように構成してもよい。
図3(a)、(b)は、本実施の形態における第1、第2変形例の力覚発生機構部の断面図である。図3(a)に示す第1変形例では、変位体32と可動体の構成が図2に示す構成と異なり、その他は同様である。すなわち、変位体32において、永久磁石35、36は設けられておらず、収容ケース42の左側外壁面42a、右側外壁面42bには、側板33の下端部33aの対向面33aaと側板34の下端部34aの対向面34aaがそれぞれ近接対向している。対向面33aa、34aaと外壁面42a、42bとの位置関係や間隙は、図2に示した永久磁石35、36の各対向面35a、36aと外壁面42a、42bとの関係と同様である。
また、可動体については、可動体43に代えて磁石でなる可動体43−2が採用される。可動体43−2においては、N極とS極とが球体中心を挟んで反端側に形成されている。
かかる構成において、変位体32は磁性体でなるので、非押鍵状態における安定状態においては、可動体43−2は、N極またはS極のいずれか一方を対向面33aaの側に向けると共に、他方を対向面34aaの側に向けた姿勢となる。どちらを向くかは問題でない。この構成でも、磁気結合状態が成立するので、押離鍵時の可動体43−2の動作や反力発生の態様は図2に示した例と同様のものとなる。
図3(b)に示す第2変形例については、変位体32を電磁石で構成した点が図2の例と異なり、その他の構成は同様である。すなわち、変位体32における吸着力の強さを調節する可変手段39が設けられる。側板33、34にはそれぞれ電磁コイル37が巻回されている。可変手段39において、可変抵抗38によって電流の強さを調節でき、各下端部33a、34a間の磁束密度を可変にできる。
この第2変形例では、磁力を一定にするならば、上記した図2や第1変形例(図3(a))と同様の作用効果を奏する。しかしそれだけでなく、磁力を可変にすることで、押鍵反力の強さを所望に設定でき、力覚を変えることができる。さらには、押離鍵行程において押鍵深さに応じた磁力の制御を行うようにすれば、変化に富む多様な力覚制御も可能となる。
なお、図1〜図3に示した、変形例を含む本実施の形態においては、変位体32または可動体43(43−2)の一方を磁石で構成したが、双方を磁石で構成してもよい。また、可動体43(43−2)には、磁性体でない部分が含まれていてもよい。
なお、本実施の形態では、変位体32をハンマ6に連結する構成を例示したが、ハンマ6に代えて鍵1に連結してもよく、ハンマを備えない鍵盤装置にも本発明を適用可能である。その場合、図1に仮想線で示したように、力覚発生機構部30において力伝達部31に代えて力伝達部31Kを設け、この力伝達部31Kを鍵1の前半部下面1aに垂設する。また、鍵1の後半部下面1bにアクチュエータ8Kを垂設し、アクチュエータ8Kでスイッチ3を駆動するようにする。板バネ7の前端は、軸部材9に相当する位置に設けられる係止部に係止され、鍵1が非押鍵方向に常に付勢される。
なお、本実施の形態において、可動体43(43−2)を、非押鍵状態に対応する初期位置に復帰させる復帰手段を設けてもよい。例えば、収容ケース42の天井面と底面とにスプリングを設け、両スプリングを可動体43(43−2)に連結する。これらのスプリングの強さは、押鍵反力にあまり反映されない程度に弱いものとするのが望ましい。
なお、本実施の形態において、粘性流体44には、粉体の集合や粒体の集合も含まれるものとする。粉体や粒体であっても、粉の種類や粒径を適切に設定すれば、上記実施の形態に類似する作用を生じさせることができる。
ところで、変位体32及び/又は可動体43(43−2)を磁性体で構成する場合は、それら自身は必然的に質量を有するものとなる。この場合、可動体43(43−2)の質量mによる慣性力を積極的に押鍵への力覚付与に利用するようにしてもよい。そのようにすれば、ハンマ6の質量を小さくすることができる。これにより、慣性による力覚発生を実現する鍵盤装置をコンパクトで軽いものにすることができる。
(第2の実施の形態)
図4(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る力覚発生構造が適用される鍵盤装置における力覚発生機構部の構成を示す断面図であり、側面視に相当する非押鍵状態を示している。図4(b)は、同力覚発生機構部の斜め下方からみた斜視図である。
本発明の第2の実施の形態では、第1の実施の形態に比し、力覚発生機構部の構成が異なり、力覚発生機構部30に代えて力覚発生機構部60を採用する。
図4(a)、(b)に示すように、力覚発生機構部60は、変位体62、ガイド体70及び可動体73で構成される。変位体62の上部の力伝達部61には、連結部61aが一体に突設形成され、連結部61aに、鍵1のアクチュエータ1cが連結されている。連結部61aとアクチュエータ1cとの連結態様は、両者の前後方向の相対的変位を許容すると共に、左右方向に沿った軸を中心とした相対的な回動を許容する構成とする。すなわち、回動支点(図1の軸部材5)を中心に揺動する鍵1のアクチュエータ1cと、鉛直方向にのみ変位する変位体62とが、常時係合するように構成される。この構成は、例えば、変位体62に溝を設けると共に、この溝に嵌合する突起部をアクチュエータ1cに設けて両者を係合させる嵌着機構として実現される。
本実施の形態では、力覚発生機構部60が鍵1によって駆動される構成を例示するが、第1の実施の形態と同様に、ハンマ付きの鍵盤装置に適用する場合は、ハンマに対して力覚発生機構部60を連結すればよい。
変位体62は永久磁石でなる。変位体62は、前後において下方に延設された側板63、64を有し、側面視で略コ字状となっている。側板63、64の各下端部63a、64aの互いに向き合う面が、対向面63aa、64aaとなっている。そして、対向面63aa、64aaにそれぞれN極、S極(この反対でもよい)の極性が現れるように、変位体62の全体が磁石で構成されている。
ガイド体70は、磁性体でない素材にて一体に形成され、鉛直な棒状部分70aの途中に鍔部71、72が形成されてなる。ガイド体70の棒状部分70aの下端部は、鍵盤フレーム2に圧入接着等で固定され、棒状部分70aが真っ直ぐ鉛直方向に立設状態となっている。変位体62の力伝達部61には、上下方向に沿った穴61bが形成されており、ガイド体70の棒状部分70aの上端部が穴61b内に挿入されている。これにより、棒状部分70aに対して変位体62が上下方向に摺動自在になっている。
ガイド体70の鍔部71、72間には、可動体73が介装される。可動体73の穴73cを、ガイド体70の棒状部分70aが上下方向に貫通し、可動体73が棒状部分70aに対して上下方向に摺動自在になっている。従って、ガイド体70の棒状部分70aは、変位体62と可動体73とを各々上下方向にのみ変位可能なように相対的な可動方向を規制するガイド機能を果たす。
ガイド体70の棒状部分70aは丸棒であるが、可動体73が棒状部分70aを中心に自由に回転するのを避けるために、棒状部分70aと穴73cとの関係において、溝と突条との嵌合関係が設けられている(図示せず)。あるいは、棒状部分70a及び可動体73の穴73cの断面形状を、矩形等の、回転を規制できるような形状としてもよい。
鍔部71と可動体73との間、可動体73と鍔部72との間には、それぞれコイルスプリング74、75が介装されている。仮に磁力を受けない自由状態であるとすると、コイルスプリング74、75の付勢力によって、可動体73は、重力に抗して図4(a)に示す初期位置で安定するようになっている。可動体73の穴73cには、グリスが塗布されている。鍔部72の周縁は上方に突出して鍔部72全体が皿状になっており、上記グリスのこぼれが抑制される。
可動体73は、鉄等の磁性体により直方体形状に形成される。可動体73の前後の面が、側板63、64の各対向面63aa、64aaに対向する外面73a、73bとなっている。対向面63aa、64aaと外面73a、73bとは、いずれも左右及び鉛直方向に平行で、それぞれ近接した非接触状態となっている。変位体62または可動体73が上下に変位しても、対向面63aa、64aaと外面73a、73bとの間隙は一定である。このような非接触構造により、摩擦による劣化を回避して耐久性を高めることができる。
なお、対向面63aa、64aaと外面73a、73bとは、磁力による吸着力を効率よく大きくするために平坦面としたが、これらの形状は平坦面に限るものではない。特に、可動体73における外面73a、73b以外の部分の外郭形状は任意であり、全体形状は直方体に限られない。
かかる構成において、非押鍵状態における安定状態においては、可動体73は、その外面73a、73bが変位体62の対向面63aa、64aaと正対する位置で静止していて、両者間に、主に水平方向における吸着力が発生している。すなわち、変位体62において側板63の対向面63aaから力伝達部61を通じて側板64に至り、さらに側板64の対向面64aaから可動体73を通じて、側板63の対向面63aa戻る経路において磁気回路が形成される磁気結合状態となっている。
本実施の形態では、第1の実施の形態における粘性流体44による抵抗力は発生せず、専ら、可動体73の質量mに応じた慣性によって抵抗力を得る。
押鍵操作により鍵1に連動して変位体62が下方に変位する。ここで通常押鍵であった場合は、可動体73は、対向面63aa、64aaからの吸着力によって変位体62と一緒に下降する。その際、可動体73の慣性が変位体62に作用し、操作に対する反力となって鍵1にかかる。奏者の指に伝わる反力は、押鍵操作に対する力覚として把握される。慣性力がかかる結果、力覚としては、アコースティックピアノにおける通常鍵時の力覚に近似したものとなる。
押鍵終了状態から離鍵すると、鍵1は、自動復帰する。変位体62が鍵1に連動して初期位置に戻る際、可動体73もそれに追従して上昇して初期位置に復帰する。
一方、非押鍵状態において、押鍵速度がある速度を超えると、押鍵のごく初期には上記と同様に反力が発生するが、ごく初期を過ぎると、可動体73が変位体62に追従しきれず、磁気結合状態が破れて、可動体73は置いて行かれ、変位体62だけが下方に変位する状態となる。このような状況が、上記した強押鍵で生じるように、質量m、変位体62の磁力の強さ等の各種のパラメータが設定されている。可動体73が変位体62に追従しないと、反力は急に軽いものとなる。従って、第1の実施の形態と同様に、力覚はアコースティックピアノにおける強押鍵時の力覚に近似したものとなる。
本実施の形態によれば、磁気を利用した簡単な抵抗発生構造により、変位体62の変位に対して力覚を生じさせると共に、安定した力覚を長期間維持することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
また、コイルスプリング74、75の付勢力によって、初期位置に位置している変位体62の対向面63aa、64aaに可動体73の外面73a、73bが対向するような初期対応位置に、可動体73が復帰するので、同一の鍵1の連続操作を円滑にすることができる。コイルスプリング74、75のいずれか一方を廃止してもよい。
なお、対向面63aa、64aaと外面73a、73bとの間には、適度な粘度を有する粘性剤を介在させるようにしてもよい。粘性剤の粘度によって、変位体62に対する可動体73の追従のしやすさを調節でき、変位体62に付与される抵抗の態様を適切なものにすることができる。特に、粘性剤の粘度によって、変位体62に可動体73が追従しなくなるときの(強押鍵の範疇に属する)押鍵力の閾値を調節しやすい。さらには、粘性剤の粘度及び/又はコイルスプリング74、75の強さを適切に設定することにより、押離鍵時おける可動体73の暴れ(オーバーシュ−ト振動)を抑制することができる。
ところで、本実施の形態においては、変位体62を永久磁石で構成したが、図3(b)で例示したのと同様に、可変手段39を採用し、変位体62を電磁石として構成してもよい。すなわち、変位体62を磁性体で構成すると共に、側板63、64に電磁コイル37を巻回し、可変抵抗38によって電流の強さを調節できるようにする。これにより、力覚の可変に関し、図3(b)に示す構成と同様の効果を奏することができる。
あるいは、変位体62を単なる磁性体でなるヨークとして構成すると共に、可動体73を永久磁石で構成してもよいし、両者を磁石で構成してもよい。変位体62を磁石とする場合は、対向面63aa、64aaに磁極が現れるようにすればよいので、図2(a)に示す構成と同様に、側板63、64の各下端部63a、64aに磁石を固設してもよい。
なお、本実施の形態において、変位体62と可動体73とは、両者の可動方向が同じ方向の成分を含むように規制されればよく、すなわち、略同一方向に可動となればよい。従って、可動方向の規制手段はガイド体70のような棒状のガイド機構に限られない。
なお、変位体62の対向面63aa、64aaと可動体73の外面73a、73bとの間には、両者の吸着力を妨げ過ぎない程度に、他の部材(板状の樹脂等)が介在してもよい。従って、例えば、可動体73を、第1の実施の形態における収容ケース42のようなケースですっぽりと囲み、前後左右の動きを規制して専ら上下方向に可動するようにする。そして、収容ケース42の側壁を挟んで可動体73が変位体62から吸着力を受けるように構成してもよい。
なお、本実施の形態において、可動体73を初期位置に復帰させるコイルスプリング74、75は必須ではない。非押鍵状態に対応する初期位置に位置する変位体62から受ける吸着力によって、可動体73が初期位置に復帰するように構成してもよい。
なお、変位体62や可動体73が、磁性体でない部分を含んでいてもよい。
なお、上記第1の実施の形態においては、可動体43の慣性よりも粘性流体44の粘性による抵抗力を主に利用したが、第2の実施の形態と同様の作用効果を狙う場合は、専ら可動体43の慣性を利用するように構成してもよい。その場合は、収容ケース42の内部には、粘性流体44を収容せず、空気のみ収容するか、あるいは真空にしてもよい。あるいは、綿のような、可動体43の移動をあまり妨げないようなものを収容してもよい。
なお、第1の実施の形態の図2の構成では、可動体43に対して吸着力を発する部分は左右2箇所である永久磁石35、36であったが、永久磁石をいずれか一方のみに設けた構成であっても、同様の作用効果は生じ得る。上記した各種の変形例や第2の実施の形態においても同様で、可動体43、73に対して吸着力を発する部分は片側だけとしてもよい。
なお、第1、第2の実施の形態では、力覚発生機構部を鍵盤装置に適用する構成を例示した。しかし、操作子が操作されることで変位する変位体を備える力覚発生機構部であればよいので、力覚発生機構部の適用可能な装置は無数に考えられる。従って、電子楽器に限らず、管楽器等のアコースティック楽器、スライド式の操作子を有する装置(ミキサ装置)等の音響装置、カメラ、医療用機器、車両、遠隔操作装置等、各種の電子装置に適用可能である。
また、いわゆる操作子を備えない装置にも適用可能である。例えば、押圧操作に対して力覚を発生させる装置(例えば、しこり検知装置等の診断練習装置、指圧練習用に人体模型に組み込まれる装置等)にも好適である。変位体は、鍵等の操作子を介して変位するものに限られず、直接操作されるものであってもよい。
また、鍵盤装置の鍵のように操作解除で初期位置に自動復帰するものとは異なり、フェーダ操作子のようにあらゆる位置で静止することがある操作子に力覚発生機構部を連結する場合は、可動体73を初期位置に復帰させるコイルスプリング74、75等の可動体付勢手段(図4参照)は不要となる。
また、第2の実施の形態において、対向面63aa、64aaと外面73a、73bとの間に粘性剤を介在させる場合において、トランペット等の管楽器のピストン弁に力覚発生機構部を連結することで、スナップタッチ(押下したときに後から質量体がついてくるような操作感触)を擬似的に実現できる。
また、変位体の可動方向は、第1、第2の実施の形態では基本的に直線的(1次元)であったが、2次元の動きをするものにも応用が可能である。例えば、第1の実施の形態においては、変位体32が収容ケース42に対して上下及び前後の方向に変位可能なように(左右方向の移動を規制するように)構成したとすれば、可動体43もそれに追従して2次元に可動する。
また、第2の実施の形態においては、鍵1を無視し、変位体62が図4(a)の上下及び奥行き方向に変位可能なように構成する。そして、可動体73を、収容ケース42のようなケースで囲み、図4(a)の上下及び奥行き方向にだけ変位可能なように規制する。さらに、このケースの上部の奥行き方向に離間した2箇所と底面の奥行き方向に離間した2箇所とに対して、可動体73をコイルスプリング等の可動体付勢手段で接続する。これにより、可動体73は、変位体62の上下及び奥行き方向に沿う2次元の変位に追従して2次元で移動すると共に、操作解除で初期位置に復帰する。
これら2次元の移動機構を応用し、その2次元方向に対して直交する軸を中心に変位体が回転するように構成すれば、操作により回転する変位体に対しても力覚を付与するように構成することが可能である。
あるいは、図5に変形例を示すように、第1の実施の形態の構成を、回転型用に改変してもよい。図5は、回転型の変位体に適用される1つの力覚発生機構部の水平断面図である。
この変形例では、収容ケース42は、不図示の固定部に配設固定される。収容ケース42は、断面がドーナツ状の外観円柱状に構成され、内部に粘性流体44と、磁性体でなる可動体43とが収容される。変位体45は、軸部47と軸部47の下部に固定された円盤部46とを有する。円盤部46が、収容ケース42の内側壁面42cの内側に介装されている。円盤部46は磁石で構成され、その外面46aにN極とS極が現れている。内側壁面42cと外面46aのN極部分46n、S極部分46sとの関係が、図2でいう収容ケース42の左側外壁面42a、右側外壁面42bと永久磁石35、36の対向面35a、36aとの関係に対応している。
非操作状態において、可動体43は、円盤部46のN極部分46n(またはS極部分46s)に対向する位置で安定している。変位体45は、直接の操作、または軸部47に連結された操作子の操作によって回転する。変位体45が回転すると、可動体43は、N極部分46n(またはS極部分46s)の変位に追従して粘性流体44内を移動する。この作用は、第1の実施の形態における上下方向の変位を回転方向に変更したものに相当する。
図5の変形例については、各種の応用例が考えられる。例えば、回転型操作子ヘの力覚制御やDJ操作の場面での効果付与操作子ヘの力覚付与に利用できる。効果付与操作子に利用する場合は、操作子の軸部47に連動したボリュームで、発生音の効果の制御を行う。その際、操作子の回転速さを楽音のQ値の高低制御に対応させたり、フィルタのカットオフ周波数の時間的変化に対応させたりする。
この場合、力覚制御がなされているので、回転速さの加減(度合い)に対応する力覚の癖(感覚)を把握する(指にカクカクカクとする感触を頭にとどめる)ことによって、楽音表現やラップの口調等の、ある決まった変化パターンを容易に再現できるようになる。
さらに別の使い方として、FM音源で、自動車や宇宙船等のエンジン音を擬似的に発生させる装置において、コックピットの座席を模した座席に、図5に示すような装置を設置する。そして、FM音源の基本周波数に対応させて軸部47を回転させる。この場合、収容ケース42の周囲は、全体または半径方向の対向する外側2箇所を、フェルト等を介して座席に配設する。
このようにすると、軸部47の回転時に、座席に振動が付与されて、アミューズメントのゲーム装置やシミュレータに、リアリティのある振動装置を提供することができる。すなわち、エンジンの回転数が上がれば、振動周波数も高くなるが、ある領域で、可動体43と軸部47の移動バランスが崩れて次のバランス状態に移行するときの変化音と振動を知覚できる。さらに次のバランス状態では、また異なった変化音と振動を知覚できる。最も感覚に合った振動パターンは、2輪バイクのアイドリング等、低振動数モードにはマッチするものとなる。
これをさらに解説すると、軸部47が回転したとき、可動体43が追従しきれなくなって軸部47と可動体43との乖離が発生したときと、周回遅れの可動体43に軸部47が追いついたときの軸部47の磁極との吸着タイミングと、これら以外の状態との間で振動が発生することになる。この振動パターンは、例えていえば、板面を振動アクチュエータで振動させたとき、節と腹のパターンが1個から数個でき、周波数を変化させることでそのパターンが変わる現象に似ている。