JP5215931B2 - 重合性イミド組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、重合性イミド組成物及び重合性イミド組成物を重合して得られるポリイミド系材料に関する。より詳しくは、高い熱時安定性を必要とする実装分野に好適に用いられるポリイミド系材料及びポリイミド系材料を製造するために好適に用いられる重合性イミド組成物に関する。
ポリイミド系材料は、繰り返し単位にイミド結合を有する高分子を含む硬化物である。極性の高いイミド結合は強い分子間力をもつため、ポリイミド系材料は耐熱性に優れたプラスチック材料である。このため、ポリイミド系材料は耐熱性が要求される分野において使用されており、近年、耐熱性が要求される一部のエレクトロニクス分野においても注目されている材料である。
エレクトロニクス分野の実装においては、従来よりエポキシ系材料が一般的に用いられている。しかし、例えば200℃以上の高温下で長時間放置すると、重量低下が著しく、かつ、機械的強度の低下も認められる。エレクトロニクス分野の実装の中でも、最先端MPUや車載用などの用途は、その実装工程中又は使用時に高温雰囲気下に置かれる場合があるため、その他の用途よりも高い熱時安定性が必要とされる。更に、近年の半導体パッケージは短小軽薄化に加え、実装密度の飛躍的向上により作動時の発熱が非常に高くなってきている一方、ハイブリッドカーや電気自動車の台頭でカーエレクトロニクス化の動きが著しく起こってきている。特に自動車用途においては、乗客の安全性の観点から誤作動の発生を抑制することが、他の家電用途に比べ厳しく要求され、かつ、エンジンルームなどの高温発生雰囲気での正常な作動が求められる。
これらの理由から、最先端MPUや車載用などの用途において、エポキシ系材料に比して、高い温度領域においても各種物性の低下が小さいようなプラスチック材料が求められている。そこで、エポキシ樹脂にエンジニアリング・プラスチック材料を添加した材料や、各種ポリシロキサン・ポリシルセスキオキサンとエポキシ樹脂との有機無機ハイブリッド材料であるナノコンポジット材料等が開発されてきた。また、耐熱性に優れたポリイミドをエポキシ樹脂に添加した材料も試みられている。その一例としては、例えば、少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマーと、少なくとも1種のN−置換マレイミドモノマーと、少なくとも2個のエチレン系不飽和官能基を含む少なくとも1種の架橋剤と、少なくとも1種のラジカル開始剤と、少なくとも1種の連鎖移動剤の反応生成物と、を含む少なくとも1種の分岐コポリマーと、少なくとも1種の熱硬化性樹脂とを含む混成熱硬化性組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
特表2008−522004号公報(第1−2頁)
上述の混成熱硬化性組成物には、エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤、マレイミドとラジカル開始剤が含まれており、エポキシ樹脂、及び、マレイミドがそれぞれの硬化用触媒によってそれぞれに硬化されることとなる。このように、エポキシ樹脂とマレイミドとを混合することにより、高い温度領域においてエポキシ系材料よりも各種物性に優れたプラスチック材料を開発する試みが行われているが、これらの材料は耐熱性の向上が不充分であるだけでなく、エポキシ樹脂を合成するための触媒とマレイミド樹脂を合成するための触媒というように、それぞれの硬化用触媒が別個に必要である。このため、このようなイミド化合物とエポキシ樹脂との混成組成物に好適に使用できるイミド組成物や硬化触媒について検討する工夫の余地があった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高い熱時安定性が必要とされる実装分野に用いることができ、特に、エポキシ樹脂との複合材料を製造する際に好適に用いることができる重合性イミド組成物を提供することを目的とする。
本発明者等は、耐熱性が要求されるエレクトロニクス実装分野等において好適に用いることができるポリイミド材料の原料となる重合性イミド組成物について種々検討したところ、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物が重合性イミドの重合反応を触媒することができることを見出した。すなわち、触媒として特定の構造を有するリン化合物を重合性イミド組成物に含有させることにより、重合性イミドの重合反応を行うことができ、それによって、硬化物を得ることが可能であることを見出した。また、この特定の構造を有するリン化合物は、エポキシ樹脂の硬化反応も触媒することができることから、このリン化合物を有する重合性イミド組成物とエポキシ樹脂とを混合すると、別途エポキシ樹脂の硬化触媒を添加することなく、重合性イミドの重合反応を行うと同時に、エポキシ樹脂の硬化反応を行うことが可能となり、イミド化合物とエポキシ樹脂との複合材料を簡便に製造することができることを見出すとともに、このようにして得られた複合材料が、イミド化合物の重合とエポキシ樹脂の硬化のそれぞれのための触媒を添加して製造したものに比べて、耐熱性等の各種物性に優れたものとなることも見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、不飽和イミドと重合触媒とを含有する重合性イミド組成物であって、
上記重合性イミド組成物は、重合触媒がリン化合物を必須とし、上記リン化合物がリン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有することを特徴とする、重合性イミド組成物である。
以下に本発明を詳述する。
本発明の重合性イミド組成物は、不飽和イミドと重合触媒とを含有するものであるが、これらをそれぞれ1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。また、これらを含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。ただし、不飽和イミドについては、重合の効率や安定性の点から、2種以上含んでいることが好ましい。
ここで、本発明の重合性イミド組成物における好ましい形態の1つとして、後述するように、更に、エポキシ化合物とエポキシ化合物用硬化剤とを含有する形態(以降、イミド−エポキシ複合材料用組成物と呼ぶ。)が挙げられる。
なお、本発明において不飽和イミドとは、少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合を有するイミド化合物を意味する。
上記重合触媒は、リン化合物を必須とし、該リン化合物はリン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するものである。不飽和イミドの重合反応においては、該リン化合物中のリン原子の不対電子が触媒点であり、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極している影響を該不対電子が受けることによって、該リン化合物に不飽和イミドの重合反応に対する触媒活性が現れる。
該リン化合物は、リン元素を1つ有するものであってもよく、2つ以上有するものであってもよい。2つ以上有するものである場合、そのうちの少なくとも1つのリン元素について、該リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するものであればよい。
上記リン化合物は、置換基として少なくとも1つのフェニル基をもつホスフィン骨格を有し、該ホスフィン骨格の少なくとも1つのフェニル基におけるオルト位及び/又はパラ位の少なくとも1つに電子供与性基を有することが好ましい。該ホスフィン化合物の少なくとも1つのフェニル基におけるオルト位及び/又はパラ位の少なくとも1つに電子供与性基が置換されている場合、電子供与性基としてメトキシ基が置換されているフェニル基を一例とした下記共鳴構造式(1)から分かるように、電子供与性基に対して、オルト位又はパラ位の炭素元素が負に分極している。したがって、該ホスフィン化合物は、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有していることになる。
なお、フェニル基におけるオルト位及び/又はパラ位とは、リン元素と結合する炭素元素に対してオルト位及び/又はパラ位であることを意味している。
Figure 0005215931
上記電子供与性基としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基、メルカプト基、スルホンアミド基、アシルアミノ基、アルキル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基、活性メチン基、電子過剰な芳香族ヘテロ環基(例えば、インドリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、チアゾリル基、ベンズチアゾリル基、インダゾリル基など)、窒素原子で置換する非芳香族含窒素ヘテロ環基(ピロリジニル基、インドリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリノ基など)などが挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜10のアルコキシ基、アルキル基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜5のアルコキシ基、アルキル基である。置換基として少なくとも1つのフェニル基をもつホスフィン骨格を有し、該ホスフィン骨格の少なくとも1つのフェニル基におけるオルト位及び/又はパラ位の少なくとも1つに炭素数1〜5のアルコキシ基を有するリン化合物としては、例えば、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン(TDMPP)、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−エトキシフェニル)ホスフィンが挙げられ、中でも、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンが特に好適に用いられる。
上記リン化合物の添加量は、不飽和イミド(ただし、イミド−エポキシ複合材料用組成物の場合は、不飽和イミドとエポキシ化合物の合計量)100質量%に対して、0.1〜10質量%であることが好ましい。添加量が0.1〜10質量%の範囲である場合に、不飽和イミドの重合反応が充分に進行することとなる。より好ましくは、0.1〜5質量%であり、更に好ましくは、0.2〜3質量%である。
本発明の重合性イミド組成物に含まれる不飽和イミドは、少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合を有する限り、特に限定されず、低分子化合物の形態、重合体の側鎖に不飽和イミドを有する形態、シロキサン化合物の側鎖に不飽和イミドを有する形態などが挙げられるが、これらの中でも、環式イミド基を有することが好ましい。不飽和イミド基が環式イミドを有していると、高耐熱性の硬化物が得られる。環式イミド基は、環状構造を有するイミド基であればよいが、窒素原子1つと炭素原子4〜15個で形成される環状構造を有するものであることがより好ましい。更に好ましくは、窒素原子1つと炭素原子4個で形成される環状構造を有するもの、すなわち、マレイミド構造を有することである。更に好ましくは、1分子中に2つ以上のマレイミド構造を有することである。
また、マレイミド構造を有する不飽和イミドは、マレイミド構造が芳香環に結合した構造を有するものであることが好ましい。不飽和イミドがこのような構造を有するものであると、高耐熱性の硬化物が得られる。より好ましくは、芳香環に結合したマレイミド構造を2つ以上有するものであることである。
上記不飽和イミドとしては、シロキサン化合物の側鎖に不飽和イミドを有する形態であることが好ましい。不飽和イミドが、シロキサン化合物の側鎖に不飽和イミドを有する形態であった場合に、シロキサン化合物に由来する高耐熱性、難燃性を付与することができる。シロキサン化合物の側鎖に不飽和イミドを有する形態の中でも、シルセスキオキサンの側鎖に不飽和イミドを有する形態であることがより好ましい。
上記不飽和イミドの含有量は、本発明の重合性イミド組成物の固形分100質量%に対して、5〜95質量%であることが好ましい。含有量が5〜95質量%の範囲である場合に、不飽和イミドの重合反応が充分に進行することとなる。より好ましくは、10〜90質量%であり、更に好ましくは、20〜80質量%である。
本発明の重合性イミド組成物は、上述の構成要素以外に添加剤を含有していてもよく、例えば、安定剤、離型剤、カップリング剤、着色剤、可塑剤、溶剤や反応性希釈剤等の希釈剤、可とう化剤、各種ゴム状物、光感光剤、充填材、難燃剤、顔料等を挙げることができる。
これら添加剤の含有量としては、不飽和イミド100質量%に対して、0.1〜900質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.2〜800質量%である。
本発明の重合性イミド組成物の硬化物の5%重量減少温度は、200℃以上であることが好ましい。硬化物の5%重量減少温度が200℃以上である場合には、硬化物は、高い熱時安定性を要求されるような場面に好適に用いることができるだけの耐熱性を有しているということができる。より好ましくは、250℃以上であり、更に好ましくは、300℃以上である。
なお、5%重量減少温度は、例えば、熱重量分析装置(TGA)を用いて、下記の条件により求めることができる。
測定機器:TG−DTA2000SA(商品名、Bruker AXS社製)
測定条件:
温度領域 30〜500℃
昇温速度 10℃/min
流通ガス 乾燥空気100ml/min
秤量 10〜20mg
測定試料の形状 3mm×3mm×1mm直方体
本発明の重合性イミド組成物を硬化するための温度としては、70〜250℃が好ましい。より好ましくは、80〜200℃である。また、硬化時間としては、1〜15時間が好ましい。より好ましくは、3〜10時間である。
上述のように本発明の重合性イミド組成物を重合して得られるポリイミド系材料もまた、本発明の1つである。
本発明の重合性イミド組成物が、更に、エポキシ化合物とエポキシ化合物用硬化剤とを含有するイミド−エポキシ複合材料用組成物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。本発明の重合性イミド組成物が、イミド−エポキシ複合材料用組成物である場合には、該組成物を硬化させて得られる材料は、エポキシ樹脂に由来するじん性とイミド化合物に由来する耐熱性の両方に優れた材料となる。
本発明の重合性イミド組成物が、更に、エポキシ化合物とエポキシ化合物用硬化剤とを含有する場合、本発明の重合性イミド組成物に含まれる重合触媒は、不飽和イミドの重合反応と同時にエポキシ化合物のエポキシ化合物用硬化剤を介した硬化反応をも触媒することができるため、本発明の効果がより顕著に発揮される。すなわち、本発明の重合性イミド組成物に含まれる重合触媒により同時に2種類の硬化反応を触媒することは、硬化物における触媒残滓が少ないという点で優位性がある。そして更に、従来のイミド−エポキシ複合材料用組成物においては、イミド化合物の重合触媒としてラジカル開始触媒を用いた場合、エポキシ硬化剤としてフェノール樹脂類を含有させる際に、フェノールのラジカル捕捉作用による重合阻害の懸念があったが、本発明の重合性イミド組成物に含まれる重合触媒を用いることでフェノール樹脂硬化剤をも好適に用いることができる。
上記エポキシ化合物としては、従来公知のエポキシ化合物であれば、特に限定されない。例えば、ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール・クレゾール・キシレノール・ナフトール・レゾルシン・カテコール・ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のフェノール類とホルムアルデヒド・アセトアルテヒド・プロピオンアルデヒド・ベンズアルデヒド・ヒドロキシベンズアルデヒド・サリチルアルデヒド・ジシクロペンタジエン・テルペン・クマリン・パラキシリレングリコールジメチルエーテル・ジクロロパラキシリレン・ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;トリスフェノール型エポキシ樹脂;上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等の芳香族骨格を水素化した脂環式グリコール類やエチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・テトラエチレングリコール・PEG600・プロピレングリコール・ジプロピレングリコール・トリプロピレングリコール・テトラプロピレングリコール・ポリプロピレングリコール・PPG・グリセロール・ジグリセロール・テトラグリセロール・ポリグリセロール・トリメチロールプロパン及びその多量体・ペンタエリスリトール及びその多量体・グルコース・フルクトース・ラクトース・マルトース等の単/多糖類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(3,4−エポキシシクロヘキサン)メチル3′,4′−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等のエポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸・ヘキサヒドロフタル酸・安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸・メラミン・ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、上記脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂やエポキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂が光照射時の外観劣化抑制を目的とした場合はより好適に用いられる。
上記エポキシ化合物のイミド−エポキシ複合材料用組成物における含有量は、不飽和イミド100質量%に対して、5〜2000質量%であることが好ましい。含有量が5〜2000質量%の範囲である場合に、硬化物の硬化性、耐熱性等の物性が向上する。より好ましくは、10〜1000質量%であり、更に好ましくは、20〜500質量%である。
上記エポキシ化合物用硬化剤としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸等の酸無水物類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、種々のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザール等の種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂等の多価フェノール化合物;BF錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類等の1種又は2種以上を用いることができる。その中でも、多価フェノール化合物が好ましい。すなわち、本発明の重合性イミド組成物が、エポキシ化合物用硬化剤が多価フェノール化合物からなるイミド−エポキシ複合材料用組成物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記エポキシ化合物用硬化剤のイミド−エポキシ複合材料用組成物における含有量は、不飽和イミド100質量%に対して、5〜2000質量%であることが好ましい。含有量が5〜2000質量%の範囲である場合に、硬化物の硬化性、耐熱性等の物性が向上する。より好ましくは、10〜1000質量%であり、更に好ましくは、20〜500質量%である。
上記イミド−エポキシ複合材料用組成物は、更に硬化のための硬化促進剤を含むことができ、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルヘキサデシルホスフォニウムブロマイド、トリブチルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物等の1種又は2種以上が好適である。
硬化促進剤のイミド−エポキシ複合材料用組成物における含有量としては、不飽和イミド100質量%に対して、0.1〜5質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.2〜3質量%である。
上記イミド−エポキシ複合材料用組成物におけるエポキシ当量は、100〜5000g/molであることが好ましい。より好ましくは、120〜1500g/molであり、更に好ましくは、150〜1000g/molである。
上記イミド−エポキシ複合材料用組成物の硬化物のガラス転移温度は、0〜400℃であることが好ましい。より好ましくは、100〜300℃であり、更に好ましくは、180〜250℃である。
なお、ガラス転移温度は、例えば、熱機械分析装置(TMA)を用いて、下記の条件により求めることができる。
測定装置:TMA−4000SA(商品名、Bruker AXS社製)
測定条件:
温度領域 30〜400℃
昇温速度 5℃/min
流通ガス 窒素50ml/min
試験片 縦5mm×横5mm×高さ1mm
圧縮荷重 5g
上記イミド−エポキシ複合材料用組成物の硬化物の5%重量減少温度は、250℃以上であることが好ましい。硬化物の5%重量減少温度が250℃以上である場合には、硬化物は、高い熱時安定性を要求されるような場面に好適に用いることができるだけの耐熱性を有しているということができる。より好ましくは、300℃以上であり、更に好ましくは、400℃以上である。
なお、5%重量減少温度は、上述したものと同様の方法により測定することができる。
上記イミド−エポキシ複合材料用組成物を硬化するための温度としては、70〜250℃が好ましい。より好ましくは、80〜200℃である。また、硬化時間としては、1〜15時間が好ましい。より好ましくは、3〜10時間である。
上述のようにして得られる硬化物としては、異形品等の成形体、フィルム、シート、ペレット等を挙げることができ、このようなイミド−エポキシ複合材料用組成物を重合して得られるイミド−エポキシ複合材料もまた、本発明の1つである。なお、イミド−エポキシ複合材料中、イミドとエポキシ化合物は、別々に硬化していても良いが、本発明のイミド−エポキシ複合材料においては、互いに何らかの作用を及ぼし合って硬化しているものと推察される。すなわち、エポキシ樹脂のネットワークのすきまをイミド樹脂のネットワークが埋めるような形態をとり、お互いが絡まりあうような状態となるために、本発明のイミド−エポキシ複合材料は、優れた耐熱性を示すこととなる。
上述のように、本発明の重合性イミド組成物が含むリン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物は、イミド化合物の硬化だけでなく、エポキシ樹脂の硬化をも触媒するものであり、このような重合触媒を用いることにより、不飽和イミドを重合してポリイミド系材料を製造することが可能であると同時に、不飽和イミドとエポキシ化合物とを含む組成物を用いて重合反応を行うと、エポキシ樹脂の硬化用触媒を別途添加することなく、イミド化合物とエポキシ樹脂の両方を硬化させてイミド−エポキシ複合材料を製造することが可能となる。
このような、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物を必須とする不飽和イミド用重合触媒もまた、本発明の1つである。
また、本発明の重合性イミド組成物を重合させてポリイミド系材料を製造する工程を含むポリイミド系材料の製造方法も、本発明の1つである。
本発明の重合性イミド組成物は、上述の構成よりなり、優れた耐熱性を有するイミド材料の原料となるものであり、特に、エポキシ樹脂及びエポキシ化合物用硬化剤を添加すると、エポキシ樹脂の硬化用の触媒を別途添加することなく、重合性イミドの重合反応だけでなく、エポキシ樹脂の硬化反応をも触媒することができることから、不飽和イミドの硬化物を得ることができるだけでなく、イミド−エポキシ複合材料を製造することができ、エレクトロニクス実装分野等において好適に用いられる材料を提供することができる重合性イミド組成物である。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」意味するものとする。
下記実施例及び比較例では、下記のようにして、評価、測定を行った。
(1)組成物の硬化性
注型前のサンプルについて示差走査熱量測定(DSC)を以下の装置、条件により行い、反応熱のピーク温度から判定した。
測定機器:EXSTAR−6000(商品名、Seiko Instruments社製)
測定条件:
温度領域 30℃〜350℃
昇温速度 5℃/min
流通ガス 窒素30ml/min
秤量 10〜15mg
判定基準:
◎ 30〜250℃の間に発熱ピーク
○ 250〜300℃の間に発熱ピーク
△ 300℃以上に発熱ピーク
× 明確な発熱ピークが存在しない
(2)硬化物のガラス転移温度
熱機械分析(TMA)を以下の装置、条件により行い、硬化物のガラス転移温度(Tg)を測定した。
測定機器:TMA−4000SA(商品名、Bruker AXS社製)
測定条件:
温度領域 30〜400℃
昇温速度 5℃/min
流通ガス 窒素50ml/min
試験片 縦5mm×横5mm×高さ1mm
圧縮荷重 5g
(3)硬化物の耐熱性評価
各実施例及び比較例で得られた成形物を、3mm×3mm×1mm直方体の形状に切り出して測定用試料とし、熱重量分析(TGA)を以下の装置、条件により行うことで、硬化物の5%重量減少温度を測定した。
測定機器:TG−DTA2000SA(商品名、Bruker AXS社製)
測定条件:
温度領域 30〜500℃
昇温速度 10℃/min
流通ガス 乾燥空気100ml/min
秤量 10〜20mg
測定試料の形状 3mm×3mm×1mm直方体
合成例1
イミド成分A(ポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピル}シルセスキオキサン)の合成
イミド成分Aは、国際公開08/099904号公報明細書に準じて合成した。H−NMR、13C−NMRを測定し、下記化学式(2):
Figure 0005215931
で表されるポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピル}シルセスキオキサンを含むことを確認した。
合成例2
イミド成分B(ビス{4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル}スルホン)の合成
イミド成分Bは、次のとおりに合成した。
攪拌装置、温度センサー、Dean−Stark trapを備え付けた200mL4つ口フラスコに、トルエン67.95gと、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン21.26gと、無水マレイン酸10.60gを投入し、室温で攪拌しながら乾燥窒素流通下で15分間反応させた。p−トルエンスルホン酸−水和物を投入し、98℃まで昇温して縮合水を回収しながら3時間反応後、120℃まで昇温して5時間保持した後室温まで冷却した。得られた反応液をメタノールに投入し、沈殿物をろ過して固形分を濾出した。さらに得られた固形分をメタノールで洗浄後、再度濾過して黄褐色固体を収率90%で得た。H−NMR、13C−NMRを測定し、下記化学式(3):
Figure 0005215931
で表されるビス{4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル}スルホンを含むことを確認した。
実施例1〜3及び比較例1〜3
下記表1に示す組成を120℃で混合し、得られた樹脂組成物を平板ガラス(キャビティ間隔1mm)に注型した。180℃にて1時間硬化させて脱型した後、窒素雰囲気下で180℃、3時間硬化させ、100mm×100mm×1mmの成形品を得た。
注型前の樹脂組成物の硬化性を評価し、硬化させた後の硬化物のガラス転移温度及び5%重量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
なお、表1中の配合量は、樹脂組成物全体を100重量部としたときの各成分の重量部で示されている。
また、表1中の略語は以下のとおりである。
Tg(TMA)(℃):硬化物のガラス転移温度
TGA5%重量減少温度(℃):硬化物の5%重量減少温度
Figure 0005215931
表1にて用いた試薬等を以下に示す。
エポキシ樹脂 下記化学式(4):
Figure 0005215931
で表されるトリスフェノール型エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名「EPPN501H」)
フェノール硬化剤 下記化学式(5):
Figure 0005215931
で表されるノボラック型フェノール樹脂(DIC社製、商品名「TD−2131」)
イミド成分C 下記化学式(6):
Figure 0005215931
で表されるアニリン、ホルムアルデヒド及び無水マレイン酸の縮合物(大和化成工業社製、商品名「BMI−2300」)
イミド成分D 下記化学式(7):
Figure 0005215931
で表される4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド(大和化成工業社製、商品名「BMI−7000」)
有機ホスフィンA 下記化学式(8):
Figure 0005215931
で表されるトリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン(東京化成工業社製)
有機ホスフィンB 下記化学式(9):
Figure 0005215931
で表されるトリフェニルホスフィン(和光純薬工業社製、特級)
表1の結果から、重合性イミド組成物がリン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物を含有した場合、そうではないリン化合物を含有した場合と比較して、製造されるポリイミド系材料の硬化性が向上することがわかった(実施例1、2及び比較例1、2)。イミド−エポキシ複合材料とするために、エポキシ化合物とイミド成分とを含む組成物を用いて硬化物を製造した場合に、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有しないリン化合物を用いると、エポキシ化合物もイミド成分も硬化しないのに対して、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物を用いると、硬化性に優れ、耐熱性の高いイミド−エポキシ複合材料を製造することが可能であることがわかった(実施例2、3及び比較例2)。リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物を用いて製造したイミド−エポキシ複合材料は、エポキシ硬化物よりも耐熱性、又は、Tgにおいて優れていることがわかった(実施例2、3及び比較例3)。また、実施例2は実施例3と比べて、Tgは低いが5%重量減少温度は高くなっており、イミド成分として無機成分であるシルセスキオキサンの側鎖にマレイミド基を有する化合物を用いた場合に、耐熱性がより向上することがわかった(実施例2)。
なお、上記実施例においては、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物のうち、いくつかを用いてポリイミド系材料又はイミド−エポキシ複合材料を製造した例が示されているが、リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物が触媒として働く際の作用機構は、すべて同様であることから、上記実施例、比較例の結果から、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。

Claims (9)

  1. 不飽和イミドと重合触媒とを含有する重合性イミド組成物であって、
    該重合性イミド組成物は、重合触媒がリン化合物を必須とし、該リン化合物がリン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有し、
    該リン化合物は、置換基として3つのフェニル基をもつホスフィン骨格を有し、該ホスフィン骨格の少なくとも1つのフェニル基におけるオルト位及び/又はパラ位の少なくとも1つにアルコキシ基を有し、
    該重合性イミド組成物は、更に、エポキシ化合物とエポキシ化合物用硬化剤とを含有するイミド−エポキシ複合材料用組成物であることを特徴とする重合性イミド組成物。
  2. 前記不飽和イミドは、環式イミド基を有することを特徴とする請求項1に記載の重合性イミド組成物。
  3. 前記重合性イミド組成物は、エポキシ化合物用硬化剤が多価フェノール化合物からなるイミド−エポキシ複合材料用組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重合性イミド組成物。
  4. 前記重合性イミド組成物は、不飽和イミドを2種類以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合性イミド組成物。
  5. 前記不飽和イミドは、シロキサン化合物の側鎖に不飽和イミドを有する構造のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重合性イミド組成物。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の重合性イミド組成物を重合して得られるポリイミド系材料。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のイミド−エポキシ複合材料用組成物を重合して得られるイミド−エポキシ複合材料。
  8. リン元素に結合する少なくとも1つの元素が負に分極する構造を有するリン化合物を必須とし、
    該リン化合物は、置換基として3つのフェニル基をもつホスフィン骨格を有し、該ホスフィン骨格の少なくとも1つのフェニル基におけるオルト位及び/又はパラ位の少なくとも1つにアルコキシ基を有し、
    不飽和イミドとエポキシ化合物とエポキシ化合物用硬化剤とを含有するイミド−エポキシ複合材料用組成物に用いられることを特徴とする不飽和イミド用重合触媒。
  9. 請求項1〜5のいずれかに記載の重合性イミド組成物を重合させてポリイミド系材料を製造する工程を含むことを特徴とするポリイミド系材料の製造方法。
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