JP5211177B2 - 心臓内の調律識別のための血行動態の監視方法 - Google Patents

Description

本開示は概して、埋め込み型医療デバイスの分野に関する。より具体的には、本開示は、患者内の調律識別のための血行動態の監視システムおよび方法に関する。

ペースメーカーおよび埋め込み型除細動器などの埋め込み型医療装置（ＩＭＤ）は、体内の様々な状態を監視して正常に保つことに利用される。たとえば、埋め込み型除細動器は、多くの場合、心拍数および心調律を監視するために心調律管理の用途において心臓ペーシングや心臓細動除去、心臓治療などの様々な治療を提供するために利用される。いくつかのシステムにおいて、埋め込み型細動除去器は、患者の心臓の動作における異常の発生を測定するために人体の心房や心室に現われる様々な生理学的パラメータを感知するように構成されうる。その際、これらの感知したパラメータに基づいて、適切な治療が患者に提供される可能性がある。

心臓内に現われる事象の検出に採用される現在の手法は、患者に提供される処置の種類に影響を与える可能性のある心臓の電気的活動の微妙な違いを識別するのに効果的でないことがある。たとえば、心室性頻拍（ＶＴ）などの事象の検出において、現在の多くの手法は、事象をＱＲＳ幅の広い上室性頻拍（ＳＶＴ）などの別の事象と正確に識別することができず、ＱＲＳ幅の広い上室性頻拍は心電図（ＥＣＧ）や電位図（ＥＧＭ）に心室性頻拍と同様に現れることが多い。心室性頻拍とは対照的に、上室性頻拍の発症は、問題にならないかもしれず、さほど極端な違いのない治療法で済む可能性がある。他方、心室性頻拍は、致命的な病気である可能性があり、多くの場合ショック療法の形の緊急の内科的治療を必要とする。

このような事象を識別するために、多くのＩＭＤでは、ＥＣＧまたはＥＧＭからの電気的信号の解析に頼る、区間に基づくアルゴリズムや形態に基づくアルゴリズムを利用する。場合によっては、ペーシングアーチファクト（たとえば、ペースメーカーによって発生される雑音）に起因する体内や他の発生源からの電気的雑音または電気的干渉の存在が、信号を正確に検出するためのセンサリード線の能力に影響を与える可能性がある。このような手法は、ある種類の事象を検出する際に有効であるが、心室性頻拍および上室性頻拍などの事象を識別する際には役に立たない場合がある。

本開示は、感知された血行動態信号に基づいて体内の調律識別を行うシステムおよび方法に関する。一部の実施形態において、方法は、心臓内または心臓近傍に位置する電極から電気的活動信号を受信するステップと、受信した電気的活動信号に基づいて心臓の事象を検出するステップと、体内に位置するセンサを用いて１つ以上の機械的測定値を感知するステップと、センサから受信した機械的活動信号を解析するステップと、機械的および電気的活動信号の解析に基づいて検出された事象を確認するステップとを含む。一部の実施形態において、センサは、主肺動脈などの体内の位置に埋め込まれた単一の圧力センサを備え、心臓の心房収縮と心室収縮の両方を感知するように構成される。このとき、機械的および電気的信号を解析することによって確認された事象の種類に基づいて、適切な種類の治療が患者に提供される可能性がある。

複数の実施形態が開示されるが、本発明の例示的な実施形態を示して説明する以下の詳細な説明から当業者には本発明のさらに他の実施形態が明らかになるであろう。したがって、図面および詳細な説明は、制限的ではなく事実上は例示的であると考えられるべきである。

本発明は様々な変更形態および代替形態を受け入れるが、具体的な実施形態は図面に実施例として示されており以下で詳しく説明される。しかし、目的は、本発明を記載される特定の実施形態に限定することではない。逆に、本発明は、添付した特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれるすべての変更形態、等価物、および代替形態を網羅するものである。

心調律管理を患者に提供する例示的なシステムの概略図である。 感知された血行動態信号を用いて体内の調律識別を行う例示的な方法を示すフローチャートである。 感知された血行動態信号を用いて心臓内の機械的な房室同期を監視する例示的な方法を示すフローチャートである。 感知された血行動態信号を用いて心臓内の機械的な房室同期を監視する別の例示的な方法を示すフローチャートである。 不整脈事象中に患者内で感知された複数の例示的な電気的および機械的読取り値を示すグラフィック読出しを含む。 不整脈事象中に患者内で感知された複数の例示的な電気的および機械的読取り値を示すグラフィック読出しを含む。 読出しの基準点に置かれた、開いている心房性の機械的ウィンドウ（ｏｐｅｎ ａｔｒｉａｌ ｍｅｃｈａｎｉｃａｌ ｗｉｎｄｏｗ）を示している、図５Ａのグラフィック読出しの別の図である。

図１は、患者に心調律管理を提供する例示的なシステム１０の概略図である。図１の実施形態において、システム１０は、図示されたように、患者の皮下位置において体内に埋め込まれたパルス発生器１６と、動脈または患者の心臓２２の心室の１つあるいは主肺動脈３４などの肺動脈の１つなどの患者の体内深くに埋め込まれたリモートセンサ２０とを含む。心臓２２は、右心房２４、右心室２６、左心房２８、および左心室３０を含む。右心室２６は主肺動脈３４につながる右室流出路３２を含む。

パルス発生器１６は、体内、典型的には患者の胸部または腹部などの位置で皮下に埋め込まれうるが、他の埋め込み位置も可能である。描かれた例示的なＣＲＭシステム１０において、パルス発生器１６は、患者の心臓２２の中に配置されたリード線３６に接続される。リード線３６の近位部３８は、パルス発生器１６に接続されうるが、パルス発生器１６と一体的にも形成されうる。リード線３６の遠位部４０は、さらに、図示されるように、右心室２６などの心臓２２内または心臓２２近傍の所望位置に埋め込まれうる。使用時、リード線３６の遠位部４０の露出電極４２が、心臓２２に対して電流の形で患者に治療を提供してもよい。

例示的なシステム１０では、患者の心臓２２に挿入された１本のリード線３６のみが描かれているが、システム１０は心臓２２の他の部位を電気的に刺激するために複数のリード線を含んでいてもよい。一部の実施形態において、たとえば、第２のリード線（図示せず）の遠位部は、心房２４に電気的刺激を与えるために右心房２４内に埋め込まれてもよい。さらにあるいは代わりに、別のリード線が心臓２２の左側を刺激するために心臓２２の左側にあるいは心臓２２の左側近傍に埋め込まれてもよい（たとえば、冠状静脈内）。また、心外膜リード線など、他の種類のリード線が、図１に描かれたリード線３６に加えて、あるいはリード線３６の代わりに利用されてもよい。

動作中に、リード線３６はパルス発生器１６と心臓２２の間に電気的信号を伝達するように構成されうる。パルス発生器１６がペースメーカーである場合の実施形態において、たとえば、リード線３６は、心臓２２をペーシングする電気的治療刺激を与えるために利用されうる。パルス発生器１６が埋め込み型細動除去器である場合の実施形態において、リード線３６は、心室性頻拍または心室性徐脈などの事象に対応して心臓２２に電気ショックを与えるために利用されうる。一部の実施形態において、パルス発生器１６は、ペーシング機能と除細動機能の両方を含む。

センサ２０は、体内の１つ以上の生理学的パラメータの感知を含む、１つ以上の指定された機能を果たすように構成されうる。センサ２０を用いて測定されうる生理学的パラメータの例には、血圧、血流、体温、および緊張（ｓｔｒａｉｎ）が含まれるが、これらに限定されない。また、様々な電気的特性や化学的特性、磁気的特性がセンサ２０によって体内で感知されてもよい。センサ２０の具体的な構成および機能は、典型的に、患者の具体的な治療の要求に応じて変化することになる。一実施形態において、たとえば、センサ２０は、主肺動脈３４内または主肺動脈３４の分岐（たとえば、右または左肺動脈における）などにおいて、体内の深い位置に埋め込まれた単一の圧力センサを備える。体内の機械的活動の感知に使用するのに適した例示的な圧力センサが、たとえば、「Ｉｍｐｌａｎｔａｂｌｅ Ｐｒｅｓｓｕｒｅ Ｓｅｎｓｏｒｓ ａｎｄ Ｍｅｔｏｄｓ ｆｏｒ Ｍａｋｉｎｇ ａｎｄ Ｕｓｉｎｇ ｔｈｅｍ」と題する米国特許第６，７６４，４４６号明細書に記載されており、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。しかし、他の実施形態において、センサ２０は、体内の他の位置に埋め込まれうるし、他のパラメータを測定するように構成されうる。他の埋め込み位置の例としては、右心房２４、右心室２６、左心房２８、左心室３０、または冠状動脈が含まれうるが、これらに限定されない。体内に固定されうるセンサの一例は、「Ａｎｃｈｏｒ ｆｏｒ Ａｎ Ｉｍｐｌａｎｔａｂｌｅ Ｓｅｎｓｏｒ」と題する米国特許出願第１１／８５５，７２５号明細書に記載されており、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。

図１の例示的な実施形態では、心臓２２の右心房２４および右心室２６の両方の中で生じる機械的活動を同時に感知するために、単一のセンサ２０が使用される。一部の実施形態において、センサ２０は、音響、誘導、またはＲＦテレメトリーリンクを介してパルス発生器１６と通信する無線センサである。描かれた例示的システム１０において、たとえば、パルス発生器１６は、センサ２０に接続された超音波トランスデューサ４６と音響通信する超音波トランスデューサ４４を含み、これによって、同時に、センサ２０とパルス発生器１６の間の双方向無線通信が可能になる。他の実施形態において、センサ２０は、リード線などの有線接続を介してパルス発生器１６に接続される。

センサ２０から受信した機械的活動信号は、心臓２２内または心臓２２近傍に埋め込まれた感知電極によって検出される電気的事象の存在を確認するため、及び、心臓２２内で発生する異常事象の種類を識別するために使用される。たとえば、一部の実施形態において、センサ２０によって感知された機械的活動は、心室性頻拍事象対上室性頻拍事象、血行動態的な灌流頻拍性不整脈事象（ｐｅｒｆｕｓｅｄ ｔａｃｈｙａｒｒｈｙｔｈｍｉａ ｅｖｅｎｔ）対非灌流頻拍性不整脈事象（ｎｏｎ−ｐｅｒｆｕｓｅｄ ｔａｃｈｙａｒｒｈｙｔｈｍｉａ ｅｖｅｎｔ）などの事象を識別するためにパルス発生器１６によって受信した電気的活動信号（たとえば、洞（ＳＡ）結節または房室（ＡＶ）結節内に埋め込まれた感知電極からの）と併用されうる。

ペーシングや除細動治療を最適化し、心不全患者の代償不全を予測し、あるいは他の監視機能や治療機能を提供するために、センサ２０はパルス発生器１６と併用されうる。いくつかの態様において、たとえば、センサ２０は、必要に応じて患者に心臓細動除去を提供するためにＩＣＤと併用される。また、肺音センサ、サテライトペーシング装置、または他のこのような感知装置や治療提供装置など、他の装置も、パルス発生器１６およびセンサ２０と併用されてもよい。

パルス発生器１６は、様々なリード線およびセンサから電気的信号を受信し、それに応じて適切な治療を患者に送達する制御ユニット４８を含む。一部の実施形態において、制御ユニット４８は、本明細書でさらに説明するように、電気的および機械的信号を解析して頻拍または心室性徐脈などの不整脈事象の存在を判断するためにあるいは心臓内の他の調律を識別するために使用されうる制御アルゴリズム５０を実行するように構成される。

図２は、図１のセンサ２０から感知された血行動態信号を用いて患者の体内の調律識別を行う例示的な方法５２を示すフローチャートである。図２の例示的な実施形態において、方法５２は、一般に、心臓内または心臓近傍に埋め込まれた感知電極から電気的信号を受信するステップと体内の事象の存在を検出するステップとを有するブロック５４および５６で始まる。一部の実施形態において、たとえば、心臓の洞房（ＳＡ）結節に、あるいはその近傍に挿入された電極から受信した電気的信号は、不整脈などの事象の存在を判断するために制御ユニット４８によって分析される。一部の実施形態において検出されうる事象の一例は、プリセット期間における心拍の大部分がプリセット閾値レベルよりも速くなる心拍数の急加速が患者に発生することである。事象は、右心室の心筋など、心臓内または心臓近傍の他の位置での電気的活動を解析することによって検出されてもよい。

ひとたび事象が検出されると（ブロック５６）、センサ２０は活性化されて（ブロック５８）、事象の存在を確認したり特定の事象に関するより多くの情報を解明するために心臓内の機械的活動を測定するタスクが課せられる。センサ２０は、たとえば、電極、または、心臓内の電気的活動を監視するタスクが課せられた電極から受信した電気的信号の解析に基づいて頻拍性不整脈などの事象が疑われるときに活性化される。一部の実施形態において、センサ２０の活性化は、センサ２０にウェイクアップ信号を送り、センサ２０を初期の低電力状態から能動的な感知状態に切り替えさせることによって行われうる。一実施形態において、たとえば、ウェイクアップ信号は、「Ａｃｏｕｓｔｉｃ Ｓｗｉｔｃｈ ａｎｄ Ａｐｐａｒａｔｕｓ ａｎｄ Ｍｅｔｈｏｄｓ Ｆｏｒ Ｕｓｉｎｇ Ａｃｏｕｓｔｉｃ Ｓｗｉｔｃｈｅｓ Ｗｉｔｈｉｎ Ａ Ｂｏｄｙ」と題する、Ｐｅｎｎｅｒらに付与された米国特許第６，６２８，９８９号明細書に記載されたようなウェイクアップ信号を備え、米国特許第６，６２８，９８９号明細書の内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。センサ２０は、活性化されると、連続的に、周期的に、あるいは所定間隔で測定するように構成されうる。

一部の実施形態において、心臓内の心房と心室の両方の機械的活動を同時に感知し（ブロック６２）、さらに、アルゴリズム５０によって後で解析される単一の機械的信号をパルス発生器１６に供給して（６４）心臓の血行動態を判断するために単一のセンサ２０が採用されて得る。他の実施形態において、センサ２０は、右心房または右心室の一方のみの機械的活動を感知するように構成される。このような機械的活動を感知できる圧力センサの例としては、「Ｐｉｅｚｏｅｌｅｃｔｒｉｃ Ｔｒａｎｓｄｕｃｅｒ」と題するＰｏｒｔａｌらに付与された米国特許第６，１４０，７４０号明細書に記載されており、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。また、心臓内の機械的活動を検出できる他の種類のセンサが利用されうる。体内の機械的活動の感知する際の使用に適した他の種類のセンサは、加速度計、運動センサ、流量センサ、および温度センサを含みうるが、これらに限定されない。

センサ２０から受信した機械的活動信号から、制御アルゴリズム５０は、心臓内で感知された機械的活動を解析して感知された電気的活動によって検出された事象の存在を確認する（ブロック６６）。一部の実施形態において、感知された機械的活動は種々の種類の事象を識別するためにさらに利用されうる。感知された電気信号から、制御ユニット４８が、たとえば、頻拍事象の存在を検出すると、センサ２０から感知された機械的活動信号は、頻拍が血行動態的に不安定であり電気ショックの形の処置を必要とするか、それとも血行動態的に安定であり他の代替的な形の治療または処置を必要とする可能性があるかを判断するために使用されうる。

心臓内で検出された事象がセンサ２０によって感知された機械的活動によって確認される場合、パルス発生器１６は治療が確認された事象に適応されているかどうかを判断してもよい。治療が望ましいと判断される場合、パルス発生器１６は適切な処置を患者に提供することができる（ブロック６８）。他方、事象が感知された機械的活動によって確認されない場合、あるいは制御アルゴリズム５０が治療は望ましくないと判断する場合、アルゴリズム５０は事象をメモリに保存して１つ以上の新たな電気的活動読取り値や機械的活動の読取り値を感知してもよい（ブロック７０）。一部の実施形態において、たとえば、事象が感知された電気的活動から誤って識別される場合、パルス発生器１６は、事象が別の問題を暗示しているかどうかを判断するために１つ以上の新たな読取り値をセンサ２０から得るように構成されうる。この情報を感知された機械的活動から実時間で判別する能力は、患者が受ける不適切なショックの数を減らし、患者の安らぎおよび健康状態を改善し、パルス発生器１６のバッテリ寿命を延ばす可能性がある。また、長期にわたる過度のショックおよび他の形の積極的治療から生じる可能性のある合併症は、感知された機械的活動から確認される偽陽性の削減に基づいて改善される。

本明細書に記載される方法は、心臓内または体内の他の位置で調律の識別が望まれる多数の用途に採用されてもよい。一部の実施形態において、また本明細書でさらに説明するように、方法は、不整脈発作中に機械的な房室同期を監視し、症候性頻拍と無症候性頻拍を識別し、心臓の血行動態安定性および灌流情報に加えて他の情報を提供するために採用されてもよい。調律の識別が役立つ可能性のある他の心臓関連用途は、ＣＲＴ最適化、徐脈用心拍応答ペーシング用途、虚血検出、および薬物滴定用途を含むが、これらに限定されない。また、体内の他の処置位置は、このような調律の識別が有効であるかもしれない。代替的な一実施形態において、たとえば、このような調律の識別は、冠状動脈内などの血管内の血塊の存在を検出するために使用されうる。

図３は、感知された血行動態信号を用いて心臓内の機械的な房室（Ａ／Ｖ）同期の例示的な監視方法７２を示すフローチャートである。図３の実施形態において、方法７２は、心臓内または心臓近傍に埋め込まれた感知電極から電気的信号を受信するステップと、心臓の不整脈事象の存在を検出するステップとを有するブロック７４で始まる。一部の実施形態において、電気的信号は、心臓の洞房（ＳＡ）結節に、あるいはその近傍に挿入された感知電極から受け取られうる。さらに、あるいは代わりに、電気的信号は、右心室または主肺動脈内などの心臓内または心臓近傍の他の位置から得られうる。

感知電極から受信した電気的活動信号は制御ユニット４８のアルゴリズム５０に供給されうるが、その後、アルゴリズム５０は不整脈の存在を検出するためにこれらの信号を解析する（ブロック７６）。たとえば、患者の心拍数が所定期間（たとえば、５秒間）、ある所定レベル（たとえば、１２０ｂｐｍ）を超えるとアルゴリズム５０が判断する場合、制御ユニット４８は事象が頻拍であると結論を下す。

疑われる事象が検出されると、センサ２０は活性化されて（ブロック７８）、事象の存在を確認したり特定の事象に関するより多くの情報を解明するために心臓内の機械的活動を測定するタスクが課せられてもよい（ブロック８０）。一部の実施形態において、たとえば、パルス発生器１６は、信号を肺動脈内に位置する圧力センサに送り、圧力センサが肺動脈内の圧力の読取りを開始するようにする。

センサから受信した機械的活動信号に基づいて、アルゴリズム５０は、事象の存在を確認するために心臓内の感知された機械的活動を解析する（ブロック８２）。一部の実施形態において、機械的活動信号の解析は、発症している不整脈事象の種類を確認するために、不整脈発作中に右心房と右心室の収縮速度を比較するステップ（ブロック８４）を含む。たとえば、所定期間にわたる一定サイクル数に対して心室が心房よりも高速で収縮する（たとえば、毎分１０サイクル以上）場合、あるいは、心室収縮間の間隔が正常である場合、アルゴリズム５０は事象が心室性頻拍であると結論を下してもよい（ブロック８６）。心室が所定の時間にわたって心房よりも高速で収縮しない場合、あるいは、心室収縮間の間隔が異常である場合、アルゴリズム５０は検出された事象が上室性頻拍であると結論を下してもよい（ブロック８８）。

検出された不整脈の種類に応じて、パルス発生器１６は、この後、適切な処置を患者に提供してもよい。たとえば、検出された事象が心室性頻拍である場合、パルス発生器１６は、電気ショックを電気的除細動（たとえば、同期型除細動）の形で患者に提供しうる。検出された事象が上室性頻拍である場合、パルス発生器１６は、心拍応答ペーシングまたは薬物滴定などの代替形態の治療を提供しうる。提供される治療または処置の種類は、検出された事象の種類、事象の頻度に加えて、他の要因に依存する場合が多い。

疑われる事象が感知された機械的活動によって確認されない場合、アルゴリズム５０は、事象をメモリに保存し、１つ以上の新たな電気的活動読取り値や機械的活動読取り値を感知してもよい（１１０）。たとえば、疑われる心室性頻拍事象が感知された電気的活動から誤って識別される場合、パルス発生器１６は、事象が別の問題を暗示しているかどうかを判断するためにセンサ２０から１つ以上の新たな読取り値を解明するように構成されうる。

図４は、感知された血行動態信号を用いて心臓内の機械的な房室同期の別の例示的な監視方法９０を示すフローチャートである。図４の方法９０は、図３に関して記載された方法と類似しており、心臓内または心臓近傍に埋め込まれた感知電極から電気的活動信号を受信するステップを有するブロック９２で始まる。埋め込まれた感知電極から受信した電気的活動信号は、制御ユニット４８のアルゴリズム５０に供給されうるが、その後、アルゴリズム５０は、たとえば、頻拍などの不整脈の存在を検出するために電気的活動信号を解析する（ブロック９４）。

疑われる事象が検出されると、センサ２０は、この後、活性化されて（ブロック９６）、事象の存在を確認したり特定の事象に関するより多くの情報を解明するために心臓内の機械的活動を測定するタスクを課せられてもよい（ブロック９８）。一部の実施形態において、たとえば、パルス発生器１６は、信号を肺動脈内に位置する圧力センサに送り、圧力センサが肺動脈内の圧力の読取りを行なうようにする。

センサから受信した機械的活動信号に基づいて、アルゴリズム５０は、事象の存在を確認するために心臓内の感知された機械的活動を解析する（ブロック１００）ように構成される。図４の例示的な実施形態において、センサ２０からの機械的活動信号の解析は、発症している不整脈の種類を確認するために不整脈発作中の機械的な房室（Ａ／Ｖ）遅延を比較するステップ（ブロック１０２）を含む。たとえば、心房事象の前に房室解離がありかつ心室の機械的信号が発生するように、房室連結が弱い場合（ブロック１０２）、アルゴリズム５０は検出された事象が心室性頻拍事象であると結論を下してもよい（ブロック１０４）。逆に、比較的持続性のあるＡＶ連結あるいは比較的一定のＡＶ連結が存在する間に高速の心房収縮が起きる場合（ブロック１０６）、アルゴリズム５０は検出された事象が上室性頻拍事象であると結論を下してもよい（ブロック１０８）。疑われる事象が感知された機械的活動によって確認されない場合、アルゴリズム５０は、事象をメモリに保存して、事象が別の問題を示唆しているかどうかを判断するために、１つ以上の新たな電気的活動読取り値や機械的活動読取り値を感知してもよい（ブロック１１０）。

図５Ａ〜５Ｂは、不整脈事象中に患者内で感知された例示的な電気的および機械的読取り値を示すグラフィック読出し１１２を含む。読出し１１２は、たとえば、心臓の右心房および右心室内に埋め込まれた電極から受信した多数のＥＣＧまたはＥＧＭ電気的活動出力信号と、心臓の左心室、右心室、および右心房に埋め込まれた圧力センサから受信した様々な機械的活動出力信号とを表していてもよい。

図５Ａの第１の電気的出力波形１１４に示されるように、図５Ａは、心臓の右心房内に埋め込まれた電極からの電圧信号出力（ｍＶ単位）を表し、心臓内の不整脈事象の開始は波形１１４に沿って点１１６に見られ、波形１１４は心室性頻拍または上室性頻拍などの不整脈発作の可能性を示唆する電圧の急増を示す。点１１６における電圧の急増は、心臓内で発生する電気的脱分極を表す。事象の発生は、図５Ａにおける第２の電気的出力波形１１８に関してさらに見られ、これの波形１１８は心臓の右心室内に埋め込まれた第２の電極からの電圧信号出力（ｍＶ単位）を表す。右心室センサによって生成される第２の出力波形１１８において、事象の開始は点１２０に見られ、これは洞（ＳＡ）結節から房室（ＡＶ）結節までの固有の信号遅延に起因して第１の出力波形１１４上の点１１６から遅延されている。

グラフィック読出し１１２は、心臓内の様々な位置で発生する機械的活動をさらに示す。たとえば、第１の機械的活動出力波形１２２は、左心室内に埋め込まれた圧力センサからの機械的圧力（ｍｍＨｇ）を表す。第２の機械的活動出力波形１２４は、右心室内に埋め込まれた圧力センサからの機械的圧力（ｍｍＨｇ）を表す。第３の機械的活動出力波形１２６は、さらに、肺動脈内に埋め込まれた圧力センサからの機械的圧力（ｍｍＨｇ）を表す。第４の機械的出力波形１２７は、心臓内の大動脈圧力（ｍｍＨｇ）を表す。

肺動脈出力波形１２６から分かるように、肺動脈圧力は、心臓の心房収縮と同期して低下する。肺動脈内の単一圧力センサから感知されたこの収縮は、波形１２６に沿って第１の点１２８において見られ、波形１１４の点１１６における電気的信号に対する心房収縮のタイミングの関連性を示す。点１２８において、肺動脈内の圧力は、心房収縮によってわずかに上昇し、その後、心室収縮の開始を示す第２の点１３０に達するまで低下する。

図５Ｂの機械的活動出力波形１２６の分解図にさらに示されるように、点１２８と点１３０の時間差ΔＴ_ＡＣは、心臓の心房収縮が生じる持続期間を表す。点１２８と点１３０の圧力差ΔＰ_ＡＣは、この期間にわたって生じる圧力の変化を表す。この情報から、心房収縮速度（ＡＣＲ）は、一般に次式によって決定されうる。

心房収縮速度（ＡＣＲ）＝ΔＰ_ＡＣ／ΔＴ_ＡＣ
また、心室収縮の速度は、心室圧力が増加する点において心室収縮が生じる速度を比較することによって同様に肺動脈圧力センサ信号から解明されうる。心室内のこの収縮期間は、出力波形１２６上の点１３０と点１３２の間に見られる。心房収縮速度の場合と同様に、心室収縮速度（ＶＣＲ）は、点１３０から点１３２までの圧力の変化ΔＰ_ＶＣを１３０と点１３２の間の時間ΔＴ_ＶＣの変化で割った商から決定されうる。これは次式から分かる。

心室収縮速度（ＶＣＲ）＝ΔＰ_ＶＣ／ΔＴ_ＶＣ
一部の実施形態において、不整脈発作中に右心房収縮速度と右心室収縮速度を比較する図３におけるステップ（ブロック８４）は、心房収縮速度（ＡＣＲ）および心室収縮速度（ＶＣＲ）を上式から計算し、その後にこれらの機械的収縮速度を比較して、電気的出力波形１１４から最初に検出された不整脈事象の種類を判断するステップを含む。たとえば、心室収縮速度（ＶＣＲ）が心房収縮速度（ＡＣＲ）よりも大きい場合、制御ユニット４８のアルゴリズム５０は事象が心室性頻拍であると結論を下してもよい（ブロック８６）。心室が心房よりも高速で収縮しない場合、アルゴリズム５０は検出された事象が上室性頻拍であると結論を下してもよい（ブロック８８）。

また、不整脈事象中に生じる機械的遅延の比較は、電気的出力波形１１４から検出された不整脈の種類を判断するために採用されうる。図４に関する前述の方法９０において、たとえば、不整脈発作中の機械的な房室（Ａ／Ｖ）遅延を比較するステップ１０２、１０６は、心室収縮が出力波形１２６上の点１３０で始まる時間を用いて心房収縮が点１２８で始まる遅延を計算するステップを含みうる。アルゴリズム５０は、発症している不整脈の種類を判断するために電気的出力波形１１４、１１８のどちらを用いて事象中の房室（Ａ／Ｖ）遅延を計算してもよい。たとえば、心房収縮が始まる時期と心室収縮が始まる時期の相対遅延が比較的短い場合、アルゴリズム５０は検出された事象が心室性頻拍事象であると結論を下してもよい（ブロック１０４）。逆に、比較的持続性のあるＡＶ連結あるいは比較的一定のＡＶ連結が存在する間に高速の心房収縮が起きる場合、アルゴリズム５０は検出された事象が上室性頻拍事象であると結論を下してもよい（ブロック１０８）。

一部の実施形態において、アルゴリズム５０は、患者の心臓内の事象の存在を判断するために、心房や心室の電気機械的活動を監視するように構成される。一実施形態において、たとえば、アルゴリズム５０は、電気的出力波形１１４上の点１１６に一般的に示されるように、不整脈が発症する時間を、肺動脈センサによって感知された心房収縮および心室収縮のタイミングと比較してもよい。このような電気機械的活動の監視は、たとえば、患者の体内で起きている他の事象や活動の存在を示すために利用されうる。一部の実施形態において、たとえば、このような電気機械的活動の監視は、患者内の電解質不平衡の検出または心臓の代償不全または心不全の発症の検出に利用されうる。

機械的感知の感度を高めるために、一部の実施形態において、アルゴリズム５０は、開いている心房性の機械的ウィンドウを用いて一連の事象を解析のために分離させてもよい。図６にさらに示されるように、たとえば、開いている心房性の機械的ウィンドウ１３４は、心収縮または心房ＥＧＭの最後などに読出し１１２の基準点１３６に設定されうる。ウィンドウ１３４は、所定の期間（たとえば、７５ｍｓ、１００ｍｓ、１２５ｍｓなど）が経過した後や上記の点において特定の事象が検出された点１３８で閉じるように、すなわち、終了するように設定されうる。一部の実施形態において、アルゴリズム５０は、過去の事象の検出に基づいて、あるいは疑われる事象に基づいて解析のためにウィンドウ１３４を選択してもよい。

説明した例示的な実施形態に対しては、本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正および追加がなされうる。たとえば、前述の実施形態では特定の特徴に言及しているが、本発明の範囲は、特徴の種々の組合せを有する実施形態と、記述された特徴のすべてを含まない実施形態とをさらに含む。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲に含まれるすべてのこのような代替、修正、および変更を、特許請求の範囲のすべての等価物とともに包含するものである。
次に、上記実施形態及びその変形例から把握できる技術的思想を記載する。
（付記１）
患者の体内の調律識別を行う方法であって、
心臓内または心臓近傍に位置する電極から電気的活動信号を受信し、
前記電気的活動信号に少なくとも部分的に基づいて前記心臓の事象を検出し、
前記心臓内または前記心臓近傍に位置するセンサであって、前記心臓内の心房収縮および心室収縮の両方を感知するように構成される前記センサから機械的活動信号を受信し、
前記センサから受信した機械的活動信号を解析し、
前記機械的活動信号に少なくとも部分的に基づいて事象を確認すること
を備える方法。
（付記２）
確認された事象の種類に少なくとも部分的に基づいて前記患者に治療を提供することをさらに備える付記１に記載の方法。
（付記３）
前記センサは圧力センサである付記１に記載の方法。
（付記４）
前記電気的活動信号から事象を検出すると、前記体内の前記センサを活性化させることをさらに備える付記１に記載の方法。
（付記５）
前記センサを活性化させることは、ウェイクアップ信号を前記センサに送って、前記センサに第１の状態と第２の状態を切り替えさせることを含む付記４に記載の方法。
（付記６）
前記センサから受信した前記機械的活動信号を解析することは、右心房収縮速度を右心室収縮速度と比較することを含む付記１に記載の方法。
（付記７）
前記センサから受信した前記機械的活動信号を解析することは、機械的な房室（Ａ／Ｖ）遅延を比較することを含む付記１に記載の方法。
（付記８）
前記事象を確認することは、前記事象が心室性頻拍事象であるか上室性頻拍事象であるかを判断することを含む、付記１に記載の方法。
（付記９）
前記機械的活動信号および前記電気的活動信号の両方を用いて前記心臓内の電気機械的活動を解析することをさらに備える付記１に記載の方法。
（付記１０）
前記感知された機械的活動信号および電気的活動信号に、開いている心房性の機械的ウィンドウを適用することをさらに備える付記１に記載の方法。
（付記１１）
前記機械的活動信号を解析することおよび前記事象を確認することは、埋め込み型医療装置によって実施される付記１に記載の方法。
（付記１２）
患者の体内の調律識別を行う方法であって、
前記心臓内で不整脈事象を検出するアルゴリズムを実行するように適合された制御ユニットを含む埋め込み型医療装置を提供し、
前記心臓内または前記心臓近傍に位置する電極から電気的活動信号を受信し、
前記電気的活動信号に少なくとも部分的に基づいて前記心臓の不整脈事象を検出し、
前記患者の肺動脈内に埋め込まれた圧力センサを用いて前記心臓の前記心房収縮および心室収縮に関連する１つ以上の圧力測定値を感知し、
前記センサから受信した、感知された圧力信号に少なくとも部分的に基づいて前記事象を確認し、
前記事象がはっきり確認される場合に治療を前記患者に提供すること
を備える方法。
（付記１３）
前記センサから受信した前記圧力信号を解析することは、右心房収縮速度を右心室収縮速度と比較することを含む付記１２に記載の方法。
（付記１４）
前記圧力センサから受信した前記圧力信号を解析することは、機械的な房室（Ａ／Ｖ）遅延を比較することを含む付記１２に記載の方法。
（付記１５）
前記事象を確認することは、前記事象が心室性頻拍事象であるか上室性頻拍事象であるかを判断することを含む付記１２に記載の方法。
（付記１６）
前記機械的活動信号および前記電気的活動信号の両方を用いて前記心臓内の電気機械的活動を解析することをさらに備える付記１２に記載の方法。
（付記１７）
前記感知された機械的活動信号および電気的活動信号に、開いている心房性の機械的ウィンドウを適用することをさらに備える付記１２に記載の方法。
（付記１８）
患者の体内の調律識別を行うシステムであって、
心臓の電気的活動を感知するように構成された電極と、
前記心臓内または前記心臓近傍に埋め込まれ、前記心臓の心房収縮および心室収縮の両方を感知するように構成される機械的センサと、
前記センサと通信する埋め込み型医療装置であって、前記センサから受信した感知された機械的活動信号および前記電極から受信した電気的活動信号に少なくとも部分的に基づいて治療を前記患者に提供するように構成される埋め込み型医療装置と、
を備えるシステム。
（付記１９）
前記機械的センサは圧力センサである付記１８に記載のシステム。
（付記２０）
前記埋め込み型医療装置はパルス発生器である付記１８に記載のシステム。

Claims (6)

1. 患者の体内の調律識別を行うシステムであって、
   心臓の電気的活動を感知するように構成された電極と、
   前記心臓内または前記心臓近傍に埋め込まれ、前記心臓内で心房の機械的活動および心室の機械的活動の両方を感知するように構成され、感知した心房および心室の機械的活動に関連する一又は複数の血圧測定値を含む機械的活動信号を出力する血圧センサと、
   前記血圧センサと通信する埋め込み型医療装置であって、前記血圧センサから受信した前記機械的活動信号および前記電極から受信した電気的活動信号に少なくとも部分的に基づいて、不整脈事象を検出するとともに前記患者に提供する治療を調節するように構成される制御ユニットを含む前記埋め込み型医療装置とを備え、
   前記埋め込み型医療装置は、前記電極から受信した電気的活動信号に基づいて不整脈事象が検出されると、その検出された不整脈事象の存在を前記血圧センサから受信した前記機械的活動信号を用いて確認し、その不整脈事象として頻拍が疑われると、前記機械的活動信号を用いて頻拍事象の種類を識別するパルス発生器であるシステム。
2. 前記血圧センサは感知した機械的活動信号を前記埋め込み型医療装置に無線送信するように構成される請求項１に記載のシステム。
3. 前記制御ユニットは右心房収縮速度を右心室収縮速度と比較することにより不整脈事象を判断するように構成されている請求項１に記載のシステム。
4. 前記制御ユニットは、前記心臓の感知した心房収縮の持続期間にわたって生じる血圧の変化を決定することにより、前記右心房収縮速度を決定するように構成されている請求項３に記載のシステム。
5. 前記制御ユニットは、前記心臓の感知した心室収縮の持続期間にわたって生じる血圧の変化を決定することにより、前記右心室収縮速度を決定するように構成されている請求項３に記載のシステム。
6. 前記制御ユニットは、機械的な房室（Ａ／Ｖ）遅延を解析することによって、不整脈事象を判断するように構成されている請求項１に記載のシステム。