JP5209192B2 - 生体適合性多孔質シートおよびそれを用いた人工皮膚 - Google Patents

生体適合性多孔質シートおよびそれを用いた人工皮膚 Download PDF

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Description

本発明は創傷被覆材に関する技術であり、外傷等で欠損した皮膚(傷口)を一時的に覆い保護する目的で使用され、皮膚欠損部に湿潤環境を与え、創部治癒を促進させる機能を有し、本発明の創傷被覆材そのものは、生体内で分解・吸収されるという材料並びにその成形体に関する。
外傷性の皮膚欠損部補填や手術による創部の保護等には種々の創傷被覆補填材が使用されている。特に外傷性の皮膚欠損部に対しては親水性のポリウレタン系フィルムないし発泡材を用いて保護することにより湿潤環境を与え保持することを目的として使用されている。一般に、創傷の程度(深度)により適用される材料が異なり、出血を伴わない創面、浅い褥瘡並びに褥瘡予防、水疱の保護等真皮に至る創傷の場合は、ポリウレタンフィルムにハイドロゲルやアルギン酸塩被覆材を組み合わせて使用される。また、皮下組織に至る創傷の場合は、発砲ウレタンシートに親水性のハイドロコロイドを用い、創部よりの浸出水を吸収して湿潤ゲルになり、湿潤環境を保持するとともに創傷面に被覆材が癒着するのを防止する。いずれの場合も被覆材そのものに親水性(吸湿性)とクッション性を持たせることにより創部の物理的保護を目的として、自己再生能により欠損部の治癒を促進させる部材である。
一方、創傷被覆材としての目的のみならず、創部の治癒を促進させる目的で水溶性コラーゲンを用いた材料がある。コラーゲンは動物中に含まれるタンパク質であり、種々の形状、すなわち粉体、スポンジ等への成形加工が容易であり、かつ細胞増殖のための足場(scaffold)としての機能を有するため創傷被覆材として広く用いられている。
上述の従来技術のうち、主にポリウレタン成形品とハイドロコロイド等を組み合わせた創傷被覆材は、創部の自己再生による治癒を積極的に支援するものではなく、原則、湿潤環境を保持することを主目的にしたものであるため、基本的には自己再生能に依存し、創部の治癒効果は期待できない。
一方、水溶性コラーゲンは細胞を増殖させるための足場となる材料として認知されており、止血剤として、また創傷補填・治癒材として幅広く使用されてきている。また生体内で分解し、吸収される材料としても知られており、非常に有用性の高い材料である。しかしながら、昨今のBSE問題(狂牛病:牛海綿脳症)に端を発する異常タンパクあるいは未知のウイルス等による感染の問題がクローズアップされ、医療用製品においても規制が強化されている。特に牛由来コラーゲンは原則使用禁止を余儀なくされ、他の動物性コラーゲンに関しても、製造工程内におけるウイルス(異常タンパク)不活化処理工程の義務化やその結果の妥当性を証明するウイルスバリデーションの実施など、全般的に生物由来材料の使用に相当な規制がかかるようになっている。
特に軟組織修復性を達成する条件としては、生体吸収性材料であること、含水性ハイドロゲルであること及び当該材料と接触した周辺組織に対する適合性(細胞親和性)があることである。従前のポリウレタン系材料では含水性には優れているが、あくまで湿潤環境を提供するだけの効果しかなく、創傷部治癒効果は期待できない。一方、水溶性コラーゲンについては原則的には上述の3つの条件を満たしているが、生物由来材料であり、その取り扱いが容易でないことや原則生体内での分解速度が急速で創傷部が治癒するまでに消失してしまうことなどの問題点があった。
さらにその一方で、関連技術として再生医療に対する期待が高まり、特に本発明に関連する従来技術のうちハイドロゲルやコラーゲンなど、細胞組織の増殖促進効果の高い材料の応用展開は必須である。
従来、コラーゲンスポンジを人工皮膚として熱傷等の患部に埋植すると、その多孔質の構造により線維芽細胞の増殖に適した無数の孔(空間)を提供し、線維芽細胞の増殖を助けることで患部の治癒を促進する作用を有することが知られている。更に、このようなコラーゲンスポンジにシリコーンフィルム等からなる水分透過調節層を積層したものは、患部からの水分の蒸散や微生物等の浸入等を抑制できることから、優れた人工皮膚として用いられている。
このような人工皮膚としては、例えば、特許文献1には、水分透過性高分子物質の薄膜からなる水分透過調節層に、生体吸収性高分子物質の繊維材料から形成される中間層を介して、多数の微細小孔を有するコラーゲンスポンジ層が積層されている人工皮膚が開示されている。また、このような人工皮膚の製造方法として、特許文献2には、親水性有機溶剤の水溶液にて湿潤した後凍結乾燥処理するコラーゲンスポンジの乾燥法が、特許文献3には、コラーゲン溶液に脂溶性有機溶媒を添加し、ホモジナイズして発泡させるコラーゲンスポンジの製造方法が開示されている。しかし、これら従来技術は、いずれも生体由来材料であるコラーゲンを用いたものであり、上記した生体に対する安全性の懸念がある。
特許第2987464号公報 特公平7−100号公報 特許第2997823号公報
本発明は、生体由来材料を含まない材料で、積極的な組織修復性を有し、かつ生体吸収性・組織適合性の高い完全合成系の材料で成形された創傷被覆・補填材、あるいは広義での人工皮膚用材料を供給することを課題とする。
本発明は、生分解性ポリマーブロックおよび水溶性ポリマーブロックから得られたマルチブロック共重合体を多孔質シート状に加工し、得られた多孔質シートにヒドロキシアパタイトを複合化させたことを特徴とする生体適合性多孔質シートである。
この場合において、該多孔質シート中の生分解性ポリマーブロック/水溶性ポリマーブロック=90/10〜30/70であることが好ましい。
また、生分解性ポリマーブロックがポリ乳酸および/またはオリゴ乳酸であることが好ましい。
また、水溶性ポリマーブロックがポリエチレングリコールであることが好ましい。
また、該マルチブロック共重合体を37℃のリン酸緩衝液中に浸漬した際、6週間後の重量減少率が60%未満であることが好ましい。
また、該多孔質シートにおいて水銀圧入法により測定された平均細孔径が2〜500μmであることが好ましい。
また、該多孔質シートの空隙率が70〜99%であることが好ましい。
また、該多孔質シートへのヒドロキシアパタイトの複合化が交互浸漬法により調製されたものであることが好ましい。
また、該多孔質シート1mgあたりのヒドロキシアパタイト含有量が0.01〜1.0mgであることが好ましい。
また、該多孔質シートの弾性率が10〜150MPaであることが好ましい。
また、該多孔質シートの吸水率が5〜1000%であることが好ましい。
また、該多孔質シートの片面に水分および酸素透過調節層が積層されていることが好ましい。
また、該水分および酸素透過調節層がシリコン膜であることが好ましい。
また、乾燥状態の該多孔質シートの厚みが0.5〜5mmであって、該水分および酸素透過調節層の厚みが10〜1000μmであることが好ましい。
本発明は全て合成系の材料を使用していること、これらいずれの材料も公的に医療用途として認可されたものであること、さらには本発明の実験例で示されるように組織適合のみならず、組織再生を促進させる機能を有していることが確認された。したがって本発明の効果としては、生物由来材料を使用しない、さらに安全性の高い、組織再生を促進させる、生体吸収性の材料として従来技術に置き換わるものと期待される。
以下、本発明を詳細に説明する。
創傷被覆・補填材あるいは癒着防止材など、皮膚のみならず生体膜を保護するための材料は種々存在する。しかしながら前者はポリウレタン系のハイドロゲルがベースとなり、後者はポリエステル系材料あるいはポリテトラフルオロエチレン系材料がベースとなっている。これらはいずれも生体吸収性材料ではなく、また長期使用による分解・劣化などの課題の多く残っている。また生体吸収性材料として実績のあるポリ乳酸や、ポリグリコール酸は縫合糸としては使用されているものの、本領域では使用されていない。さらに治癒や組織再生を促進する材料としてはコラーゲンが唯一の材料であるが、昨今のBSE問題に端を発する生物由来材料の規制強化のため使用制限を余儀なくされている。
このような状況下で、本発明は全て合成系の材料を使用していること、これらいずれの材料も公的に医療用途として認可されたものであること、さらには本発明の実験例で示したように組織適合のみならず、組織再生を促進させる機能を有していることが確認された。したがって本発明の効果としては、生物由来材料を使用しない、さらに安全性の高い、組織再生を促進させる、生体吸収性の材料として従来技術に置き換わるものと期待される。
本発明は、生分解性ポリマーブロックおよび水溶性ポリマーブロックから得られたマルチブロック共重合体を多孔質シート状に加工し、得られた多孔質シートにヒドロキシアパタイト(以下、HApと略すことがある)を複合化させたことを特徴とする生体適合性多孔質シートである。
生分解性ポリマーブロックとしては、生分解性のポリマーであれば特に限定されないが、具体例として酢酸セルロース、カプロラクトン−ブチレンサクシート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどのサクシネート系、ポリブチレンアジペート・テレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸系、脂肪族ポリエステル系、ポリグリコール酸、でん粉系などが挙げられるが、本発明においては吸水性や親水性、安全性、入手の容易さなどの点からポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸などのポリ−α−ヒドロキシ酸を用いるのが好ましい。
水溶性ポリマーブロックとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンイミン、ポリアスパラギン酸などが挙げられるが、本発明においては生体材料として実績があるポリエチレングリコールを用いるのが好ましい。ポリエチレングリコールの分子量としては、常温で固体であり生体内での分解性の面より分子量100〜20,000のものを用いるのが好ましい。分子量400〜15,000がより好ましく、分子量1,000〜10,000がさらに好ましく、分子量1,000〜5,000がよりさらに好ましい。
生分解性ポリマーブロックと水溶性ポリマーブロックからなる共重合体を得る方法としては、一例として、下記式に示すようなオリゴL−乳酸、ポリエチレングリコールおよび末端官能基数調整試薬を適当な溶剤に溶解し、重縮合触媒を用いて、減圧下30時間程度灌流する直接脱水重縮合法によりマルチブロック共重合体を得ることができる。



式中、nは2〜15が好ましく、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜7である。mは10〜400が好ましく、20〜200がより好ましく、20〜150がさらに好ましい。lは2〜15が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜10がさらに好ましい。末端官能基数調整試薬の具体例としては、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9‐ノナンジカルボン酸、1,10‐デカンジカルボン酸(DDA)、1,11‐ウンデカンジカルボン酸、1,12‐ドデカンジカルボン酸、1,13‐トリデカンジカルボン酸、1,14‐テトラデカンジカルボン酸、1,16‐ヘキサデカンジカルボン酸、1,18‐オクタデカンジカルボン酸などを挙げることができるが、本発明においては生体内に存在する材料としてlが2、8、10のジカルボン酸を用いるのが好ましい。
溶剤としては、ジフェニルエーテル、アニソール等が挙げられる。
重縮合触媒としては、酸化錫、オクチル酸錫などの錫化合物、トリメチルアルミニウム-水、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム化合物、ジエチル亜鉛-水等の亜鉛化合物、あるいはイットリウムアルコキシド等の重縮合触媒が挙げられるが、本発明においては重合度を高めることが容易であるという点から錫系触媒、亜鉛系触媒を用いるのが好ましい。
本発明において、多孔質シートを作製する方法は特に限定されないが、一例として、前記得られた共重合体を溶剤に溶解し、上面が開口し下面が平底である容器に流し込んだ後、凍結乾燥することにより多孔質シートを作製するのが簡便かつ低コストであり好ましい。
ここで用いる溶剤としては、1,4−ジオキサン、ベンゼンなどが挙げられるが、本発明においては取り扱い性、安全性の点より1,4−ジオキサンを用いるのが好ましい。
凍結乾燥の条件としては、0℃より低い温度で10時間程度以上冷却した後、10時間以上減圧乾燥するのが好ましい。
前記得られた多孔質シートにHApを複合化する方法も特に限定されないが、本発明においては交互浸漬法を用いるのが好ましい。交互浸漬法の具体例としては、
(1)塩化カルシウム溶液(Ca溶液)
(2)水
(3)リン酸水素二ナトリウム溶液(P溶液)
を調整し、多孔質シートを(1)→(2)→(3)→(2)→(1)の順に浸漬する工程を1工程とし、この工程を複数回実施することにより多孔質シートにHApを複合化することができる。3〜10回程度実施するのが好ましい。
ここで、塩化カルシウムは緩衝液に溶解するのが好ましい。緩衝液としてはトリス-塩酸緩衝液を用いるのが好ましい。該溶液中の塩化カルシウムの濃度は50〜500mMとするのが好ましい。
リン酸水素ニナトリウム溶液の濃度は10〜1000mMが好ましい。
(1)、(3)液への多孔質シートの浸漬時間は1〜10分程度とするのがよい。
(2)の水洗工程は過剰のカルシウムおよびリン酸を洗い流す目的で行う。
また、本発明において、多孔質シート1mgあたりのHAp含有量が0.01〜1.0mgであることが好ましい。HAp含有量が少なすぎると、多孔質シートの吸水量、細胞接着性、組織浸潤性、生体吸収性が低下することがあるので、0.05mg以上の含有量がより好ましく、0.1mg以上がさらに好ましく、0.15mg以上がよりさらに好ましく、0.2mg以上が特に好ましい。また、HAp含有量が多すぎると、多孔質シートの細孔径や空隙率が減少するため、組織浸潤性や皮膚組織再生能が低下することがある。したがって、0.9mg以下の含有量がより好ましく、0.8mg以下がさらに好ましく、0.7mg以下がよりさらに好ましく、0.6mg以下が特に好ましい。
本発明において、多孔質シート中の生分解性ポリマーブロック/水溶性ポリマーブロック=90/10〜30/70であることが好ましい。該多孔質シート中の水溶性ポリマーブロックの含有量が少なすぎると、生分解性にかかる時間が長くなりすぎ却って皮膚組織の再生を阻害する可能性がある。逆に、水溶性ポリマーブロックの比率が高すぎると、分解速度が速くなるため皮膚組織が再生する前に多孔質シートが消失してしまうことがある。

したがって、該シート中の生分解性ポリマーブロック/水溶性ポリマーブロック=85/15〜40/60がより好ましく、80/20〜45/55がさらに好ましい。
本発明において、マルチブロック共重合体を37℃のリン酸緩衝液中に浸漬した際、6週間後の重量減少率が60%未満であることが好ましい。通常、創傷治癒は、止血、血液凝固、炎症、結合組織形成の各段階を経て行われるが、清浄化された創傷では、炎症段階が終結するのに7日程度要し、炎症の終焉と平行する形で結合組織形成が行われる。すなわち、結合組織形成が始まるまで患部に本発明の多孔質シートが残存する必要がある。重量減少率が大きすぎると(分解速度が速すぎると)、結合組織形成が始まる前に多孔質シートが生体に吸収されてしまう可能性がある。したがって、マルチブロック共重合体をリン酸緩衝液中に浸漬した際の6週間後の重量減少率は55%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。
逆に、重量減少率が小さすぎると、多孔質シートの存在が創傷治癒を遅延させるだけでなく、再生されつつある結合組織などを破壊するおそれがある。したがって、マルチブロック共重合体をリン酸緩衝液中に浸漬した際の6週間後の重量減少率は10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。
図5に37℃のリン酸緩衝液(0.1重量%アジ化ナトリウムを含む)に多孔質シートを浸漬した際の経過時間と多孔質シートの重量との関係を示す。多孔質シート中のPEG含量が増加するほど分解性が高まることを示している。
本発明において、多孔質シートにおいて水銀圧入法により測定された平均細孔径が2〜500μmであることが好ましい。細孔径が小さすぎると繊維芽細胞、あるいは、脂肪組織由来の幹細胞の侵入が起こりにくくなる場合がある。したがって、平均細孔径は5μm以上がより好ましく、8μm以上がさらに好ましい。細孔径が大きすぎると細胞侵入を誘引する要因の一つである毛細管現象が起こりにくくなるため、細孔径は450μm以下がより好ましく、400μm以下がさらに好ましく、350μm以下がよりさらに好ましい。
また、細孔(空隙)の形状は特に限定されず、円形、楕円形、その他の幾何学的形状や不定形状であっても構わない。また、多孔質シートの厚み方向に細孔が連続していてもよいし、不連続であっても良い。連通孔であれば、より好ましい。また、形状、大きさが異なる細孔が混在していてもよい。さらに、創傷部接触面から厚み方向に向かって細孔径がほぼ同一であってもよいし、小さくなるような非対称構造であってもよい。
本発明において、多孔質シートの空隙率は70〜99%であることが好ましい。空隙率が大きすぎると柔軟性や組織浸潤性は向上するが、拘縮抑制能や皮膚組織再生能に劣る可能性がある。また、空隙率が小さすぎると、機械的強度を向上することはできるが、組織浸潤性や柔軟性に劣ることがある。したがって、多孔質シートの空隙率は80〜98%であることがより好ましく、90〜97%であることがさらに好ましい。
本発明において、多孔質シートの弾性率が10〜150MPaであることが好ましい。多孔質シートの弾性率が低すぎると、創面に貼付した際に皮膚の伸縮により多孔質シートが破れたりする問題が生じることがある。したがって、弾性率は13MPa以上がより好ましく、17MPa以上がさらに好ましい。逆に、弾性率が高すぎて問題となることは特にないが、人の皮膚の弾性率が150MPa程度であることから上限としては150MPa程度が適当である。
本発明において、多孔質シートの吸水率は5〜1000%であることが好ましい。吸水率が低すぎると、創面を十分に湿潤状態に保つことが出来なくなる可能性がある。したがって、多孔質シートの吸水率は50%以上がより好ましく、100%以上がさらに好ましく、300%以上がよりさらに好ましい。また、多孔質シートの吸水率が高すぎて問題となることは特にないが、多孔質シートを人工皮膚として使用する際に生理食塩水などに浸漬して十分に湿潤させた場合の取り扱い性が低下することがある。したがって、吸水率は900%以下がより好ましく、800%以下がさらに好ましい。
図6に多孔質シート中のPEG含量と吸水率との一般的な関係を示す。PEG含量が増加するほど吸水率が増大すること、HApを複合化することにより吸水率が増大することがわかる。
本発明において、多孔質シートの片面に水分および酸素透過調節層が積層されていることが好ましい。水分および酸素透過調節層の材料は特に限定されないが、シリコン、ポリウレタン、ポリオレフィン、スチレン-ブタジエンブロックポリマー、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。本発明においては患部からの水分の蒸散や微生物等の浸入等を抑制できるとか、生体適合性が高いなどの理由からシリコン、ポリウレタンを用いるのが好ましい。
多孔質シートの片面に水分および酸素透過調節層を積層する方法も特に限定されないが、一例として、前記材料からなるペーストをポリテトラフルオロエチレンからなるシート上に、アプリケーターを用いて均一に塗布し、前記ペーストが硬化する前に多孔質シートを圧着し、乾燥してペーストを硬化させ、多孔質シートに水分および酸素透過調節層を積層する。
本発明において、乾燥状態の多孔質シートの大きさ及び形状は特に限定されず、目的や創面の大きさ、形状に合わせて適宜設定すればよい。例えば、皮膚損傷部に移植して用いる場合には、多孔質シートの厚みは0.5〜5mmであることが好ましい。もちろん、前記多孔質シートを横に重ねたり、縦に積み重ねたりして使用することも本発明の範囲内である。多孔質シートの厚みが薄すぎると創傷再生効果が不足することがある。したがって、多孔質シートの厚みは0.7mm以上がより好ましく、0.9mm以上がさらに好ましい。逆に、多孔質シートの厚みが厚すぎると繊維芽細胞や脂肪組織由来の幹細胞の再生が阻害されることがある。したがって、多孔質シートの厚みは4.5mm以下がより好ましく、4.0mm以下がさらに好ましく、3.0mm以下がよりさらに好ましい。
また、乾燥状態での水分および酸素透過調節層の厚みも特に限定されないが、本発明においては10〜1000μmであることが好ましい。水分および酸素透過調節層の厚みは薄いほど水分および酸素透過性が向上するが、感染防止の効果を得るためには下限を10μm程度とするのが好ましい。より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。また、水分および酸素透過調節層の厚みが厚くなると、当然水分および酸素の透過性が低下するので800μm以下がより好ましく、600μm以下がさらに好ましく、400μm以下がよりさらに好ましい。
さらに、必要に応じて感染防止を目的としてアンピシリン、塩酸タランピシリン、ヘタシリンカルシウム、フェノキシメチルペニシリンカリウム、ベンジルペニシリンベンザチン等のペニシリン系抗生剤、塩酸クリンダマイシン、塩酸リンコマイシン等のリンコマイシン系抗生剤、硫酸カナマイシン、硫酸フラジオマイシン等のアミノグリコキシド系抗生剤、セファクロル、セファドロキシル、セフロキシムアキセチル等のセフェム系抗生剤、ホスホマイシンカルシウム等のホスホマイシン製剤、ミデカマイシン、リン酸オレアンドマイシン、キタサマイシン等のマクロライド系抗生剤、クロラムフェニコル等のクロラムフェニコル系抗生剤、塩酸オキシテトラサイクリン、塩酸テトラサイクリン、塩酸ミノサイクリン等のテトラサイクリン系抗生剤、エノキサシン、オフロキサシン、シノキサシン等のキノロン系抗菌剤、チアンフェニコール等のクロラムフェニコール系抗菌剤、銀及びその塩等の抗菌剤、硝酸イソコナゾール、硝酸エコナゾール等の抗真菌剤等を含有させても良い。
前記、多孔質シートにはさらに補強材を組み合わせることも本発明の範疇から除外しない。多孔質シートを人工皮膚として使用する際、創部に該シートを密着させた後、縫合を施すが、縫合時の強度を確保するためにポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸系、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート等の材料からなる補強材を使用するのも好ましい態様として挙げられる。補強材の形態としては、多孔質シート状でもメッシュ状でも構わない。また、補強材は多孔質シートと水分および酸素透過調節層との間に入れても良いし、多孔質シート、水分および酸素透過調節層、補強材の順に積層するのもよい。
以上説明したように、本発明の生体適合性多孔質シートおよびそれを用いた人工皮膚は全体として完全合成系材料であるため、ウイルスバリデーション等生物由来材料で必要とされる規制がない。また生体吸収・分解性材料と含水性高分子材料との共重合体に、生体適合性の高いハイドロキシアパタイトなどの無機系成分を含有させることにより、軟組織への適合性を向上させるとともに、細胞増殖を促進させる効果を有するとともに、生体内で分解し、吸収される材料である。以上より従来技術との比較において、非生物由来としての安全性を高め、かつ細胞増殖を促進させる機能と治癒後、生体内に吸収される材料になるものである。
(マルチブロック共重合体の分子量測定)
マルチブロック共重合体の数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)はゲルろ過クロマトグラフ(GPC)法を用いて測定した。GPC装置として島津製作所社製LC-10AT、検出器はRID-6A、CLASS-LC10データプロセッサーを用いた。カラムは、TSKガードカラムHHR-H、TSKゲルGMHHR-H(東ソー社製)を組み合わせて用いた。溶離液はテトラヒドロフランを用い、40℃で分析を行なった。
(SEM観察)
多孔質シートの観察は、金蒸着処理の後、日立社製S-3000N走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行なった。
(細孔径の測定−1)
細孔径の測定は、水銀圧入法、および、画像解析法により行った。後者では、SEM観察写真を電子画像として取り込み、Planeton社製Image-Pro Plusを用いて、孔径を実測して、平均孔径と標準偏差を測定した。
(吸水率の測定)
多孔質シートの吸水率の測定は、直径約6mmの円形状にシートを切り抜き、これを40℃で12時間真空乾燥し、重量(WD)を測定する。次に、このシートを37℃でpH7.4のリン酸緩衝液に2時間浸漬する。シートを緩衝液から取り出し、表面の余分な水分を拭き取った後、軽く遠心分離して重量(WW)を測定する。下記式を用いて、吸水率を算定する。
吸水率(%)=(WW−WD)/WD×100
(弾性率の測定)
弾性率は、多孔質シートを長さ30mm、幅10mmに切り取り、40℃で12時間真空乾燥した後、島津製作所社製AGS-Hを用いて10Nロードセル、クロスヘッドスピード100mm/minで行った。
(生分解性速度の測定)
多孔質シートを40℃、12時間真空乾燥した後、直径約6mmにカットし、0.1%アジ化ナトリウムを含む37℃のリン酸緩衝液(pH=7.4)に浸漬する。経時ごとにサンプルを緩衝液中から取り出し、2度過剰の水で水洗し水をきる。得られたサンプルを室温で12時間真空乾燥し重量を測定する。数平均分子量(Mn)はポリスチレンスタンダードを用いてGPCにより測定する。
(ヒドロキシアパタイト含有量の測定)
多孔質シート中のヒドロキシアパタイト(HAp)含有量は、下記式を用いて算定した。
HAp含有量(mg/polymer-1mg)={(HAp複合化後の多孔質シートの質量)−(HAp複合化前の多孔質シートの質量)}/HAp複合化前の多孔質シートの質量
(接触角の測定)
PLLA(ポリ乳酸)/HAp(ヒドロキシアパタイト)シートおよびマルチブロック共重合体/HApシートをFACE CA-X Contact Angle Meterを用いて液滴法により測定時間1分以内で測定を行った。
(組織浸潤性の評価)
ラットを用いて本発明で得た材料の組織浸潤性について検討した。ラットに通常の方法にて麻酔を導入後皮下にそれぞれ評価する材料を埋め込んだ。1ヶ月間の埋め込み後、被評価材料を取り出し細胞組織が浸潤した深さをそれぞれ10ヶ所について分析・計測した。評価は、マルチブロック共重合体オリジナルと、これにヒドロキシアパタイト(HAp)複合化材料並びにコラーゲン複合化材料を用いた。また、比較対象として、ポリ乳酸オリジナル、HAp複合化材料及びコラーゲン複合化材料も追加して行った。
(拘縮抑制能の評価)
ラットを用いて本発明で得た材料の拘縮抑制能の評価を行った。ラットに通常の方法にて麻酔を導入した後、所定の大きさの皮膚全創欠損を作製し、その部分に被評価材料のシートを吻合固定した。6週間後、皮膚欠損部の被評価材料シートを除去し、欠損部の拘縮状態を確認した。なお拘縮率(残存率)は当初の手術時の欠損領域に対する残存した欠損領域(面積)の割合で示した。また比較の材料としてPLLA単独系の材料を用いた。
(L-乳酸オリゴマーの調製)
L-乳酸(和光純薬社)を最初常圧下で2時間、次に100mmHgで2時間、さらに30mmHgで2時間、最後に20mmHgで2時間撹拌して脱水した。温度はいずれも150℃とした。
(マルチブロック共重合体の調製)
100℃で8時間脱水したマクロゴール4,000(日本油脂)、当量のオリゴL-乳酸、当量の1,10-デカンジカルボン酸(東京化成)、50重量%のジフェニルエーテル(シグマ-アルドリッチ)および0.1重量%の酸化錫(ナカライテスク)を還流冷却器付きのフラスコ内に入れ、180℃、30mmHgで還流した。得られた生成物を20重量%となるようクロロホルムに溶解し、10,000rpmで1時間(4℃)遠心分離して酸化錫を除去した。得られた溶液を30倍のジエチルエーテル中に加え、沈殿した重合体を得た。得られた重合体をろ過して12時間真空乾燥した。
(多孔質シートの調製)
ポリ乳酸(PLLA、Mw130,000、三井化学)およびマルチブロック共重合体を別個に各々5重量%になるようにクロロホルムに溶解したものをペトリ皿に流し込み、4℃で12時間インキュベートした。得られた多孔質シートを40℃で12時間真空乾燥した。得られた多孔質シートの厚みはデジタルマイクロメーターで測定した。つぎに、PLLAおよびマルチブロック共重合体を1,4-ジオキサンに別個にそれぞれ5重量%となるように溶解したものをペトリ皿に流し込み、-20℃で12時間凍結し、室温で48時間凍結乾燥した。得られた多孔質シートを40℃で12時間真空乾燥した。
形態観察は、多孔質シートを液体窒素中で適当な大きさにカットし、金蒸着(5mA、5min)したものをSEMに供した。
(交互浸漬法によるマルチブロック共重合体とヒドロキシアパタイト(HAp)との複合化)
ヒドロキシアパタイト(HAp)と材料との複合化は、塩化カルシウム溶液(Ca溶液)とリン酸水素二ナトリウム溶液(P溶液)に交互に材料を浸漬する交互浸漬法により行った。マルチブロック共重合体を微細な多孔質シートとし、これに交互浸漬法によりHApを複合化させた。Ca溶液→水洗→P溶液→水洗→Ca溶液を1サイクルとし、これを3サイクル行った。
(多孔質シートへの水分および酸素透過調節層の積層)
シリコン/酢酸エチル溶液をポリテトラフルオロエチレンからなるシート上に、アプリケーターを用いて均一に塗布し、前記シリコン溶液が硬化する前に多孔質シートを圧着し、30℃で22時間乾燥して硬化させ、多孔質シートに水分および酸素透過調節層を積層した。得られたシリコン膜積層多孔質シートを40℃、6時間エチレンオキサイドガス(EOG)で滅菌した。得られたシリコン膜積層多孔質シートをエアレーションし、15時間真空乾燥した。つづいて、室温で12時間真空乾燥を行いEOGを除去した。シリコン膜の厚みはデジタルマイクロメーターおよびSEMを用いて測定した。
(実施例1〜4)
前記、マルチブロック共重合体の調整方法において、オリゴ乳酸(OLLA)とマクロゴール4,000との混合量を表1に示すように変更した以外は、該調製方法に従いマルチブロック共重合体を得た。結果を表1に示す。
(実施例5〜8、比較例1)
前記、実施例1〜4において得られた共重合体より多孔質シートを調製し、さらに交互浸漬法によりヒドロキシアパタイト(HAp)を複合化した多孔質シートを調製した。(実施例5〜8)。交互浸漬法は6回行った。また、別にポリ乳酸(PLLA)単独重合体からなる多孔質シートを調製した。(比較例1)。得られた多孔質シートの厚みは約2mmであった。得られた各種多孔質シートについて弾性率およびHAp含有率を測定した。結果を表2に示す。
なお、本実験及び以後の実験においては、厚み100μmのシリコン膜を積層した多孔質シートを用いた。
(実施例9、比較例2〜6)
前記、実施例7で得られたマルチブロック共重合体にHApを複合化した多孔質シート(実施例9)および表3に示す各種多孔質シートを調製した。得られた多孔質シート各種を用いて前記「組織浸潤性の評価」法に従い、試験を行った。HAp複合化多孔質シートにおいて組織浸潤深さは0.78±0.06mmであり、コラーゲンを複合化した材料に比べても良好な組織浸潤性を示した。結果を表3に示す。
(実施例10、比較例7〜9)
実施例7および表4に示す多孔質シート各種を用いて前記「拘縮抑制能の評価」法に従い評価を行った。HApを複合化させた多孔質シートは6週間後の残存率が46%であり、非常に良好な拘縮抑制効果が認められた。結果は表4に示した。また肉眼的な評価では皮膚欠損部の再生も順調に進捗していることも確認され、良好な皮膚再生能も認められた。
なお、残存率(%)は(6週間後の多孔質シート面積/貼付前多孔質シート面積)×100により求めた。
本発明である生体適合性多孔質シートにヒドロキシアパタイトを複合化させた材料は、生体適合性に優れ、安全性の高い材料の組み合わせである。従来技術に比較して創部の治癒効果が期待されるとともに、非生物由来材料であるため、未知のウイルス等の感染に対する心配も予防も必要がない。したがって、本発明は産業の発展に寄与することが大である。
本願発明の1実施形態を示す概略図。 本願発明の多孔質シートの1実施形態を示す断面SEM(×30)写真。 本願発明の多孔質シートの1実施形態を示す断面SEM(×150)写真。 本願発明の多孔質シートにHApを複合化した1例を示すSEM(×2,000)写真。 リン酸緩衝液中での多孔質シートの分解速度を示す一般的な傾向を示すグラフ。 本願発明の多孔質シートの吸水率を表すデータの一例。

Claims (13)

  1. 生分解性ポリマーブロックおよび水溶性ポリマーブロックからなるマルチブロック共重合体を多孔質シートに加工し、得られた多孔質シートにヒドロキシアパタイトを複合化させたことを特徴とする生体適合性多孔質シートであって、該生分解性ポリマーブロックがポリ乳酸および/またはオリゴ乳酸であり、該水溶性ポリマーブロックがポリエチレングリコールである、生体適合性多孔質シート。
  2. 該多孔質シート中の生分解性ポリマーブロック/水溶性ポリマーブロック=90/10〜30/70であることを特徴とする請求項1記載の生体適合性多孔質シート。
  3. 該マルチブロック共重合体を37℃のリン酸緩衝液中に浸漬した際、6週間後の重量減少率が60%未満であることを特徴とする請求項1または2記載の生体適合性多孔質シート。
  4. 該多孔質シートにおいて水銀圧入法により測定された平均細孔径が2〜500μmであることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  5. 該多孔質シートの空隙率が70〜99%であることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  6. 該多孔質シートに交互浸漬法によりヒドロキシアパタイトを複合化されたことを特徴とする請求項1〜いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  7. 該多孔質シート1mgあたりのヒドロキシアパタイト含有量が0.01〜1.0mgであることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  8. 該多孔質シートの弾性率が10〜150MPaであることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  9. 該多孔質シートの吸水率が5〜1000%であることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  10. 該多孔質シートの片面に水分および酸素透過調節層が積層されたことを特徴とする請求項1〜いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  11. 該水分および酸素透過調節層がシリコン膜であることを特徴とする請求項1〜1いずれか記載の生体適合性多孔質膜シート。
  12. 乾燥状態の該多孔質シートの厚みが0.5〜5mmであって、該水分および酸素透過調節層の厚みが10〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜1いずれか記載の生体適合性多孔質シート。
  13. 請求項1〜1いずれか記載の多孔質シートを用いた人工皮膚。
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