以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を、建設車両としてのホイールローダに適用した場合を例に挙げて説明する。但し、本実施形態は、ホイールローダ以外の他の建設車両であっても、バケットを有する建設車両に適用することができる。
図1は、本実施形態の概要を示す。ホイールローダ100は、後述のように、本体102と、走行駆動輪(以下、ホイール)104と、作業機106とを備える。作業機106は、ブーム108と、バケット110と、バケットシリンダ112等を備える。
ホイールローダ100に搭載されるコントローラ160は、姿勢判別部165と、走行判別部166と、駆動力判別部167と、駆動力制御部164と、傾斜判別部168と、を備えることができる。さらに、コントローラ160は、「所定の機械要素」としての所定の油圧機器の最大負荷を記憶する油圧機器最大負荷記憶部3と、記録及び警告部4と、エンジン回転数制御部5と、ブレーキ制御部6と、クラッチ圧制御部161と、T/M制御部162(図3参照)とを備える。
姿勢判別部165は、作業機106の姿勢が「所定の姿勢」であるかを判別する。所定の姿勢とは、バケット110がダンプエンド位置にあり、かつ、バケットが地面に接触している姿勢である。または、所定の姿勢は、バケット110がダンプエンド位置にあり、かつ、バケット110の高さ位置が所定高さよりも低い姿勢であってもよい。さらに、所定の姿勢は、バケット110がバケットダンプ位置にあり、かつ、ブーム角度が所定値以下である姿勢でもよい。なお、バケット110が地面に接触しているとは、バケット110の刃先が地面に接触している場合を含む。
走行判別部165は、ホイールローダ100の走行動作が所定の走行動作であるか否かを判別する。所定の走行動作としては、トランスミッション144(図3参照)の速度段が1速等の低速前進段であり、かつ、ホイールローダ100の前進速度が所定の低速度である状態を挙げることができる。
駆動力判別部167は、走行駆動装置138(図3参照)から出力される走行駆動力が所定の大きさであるか否かを判別する。所定の大きさとは、走行駆動力に基づく反力126(図2参照)が作業機106に所定値以上の負荷を与える値として、定義することができる。
所定値は、油圧機器最大負荷記憶部3に記憶されている最大負荷値に基づいて決定することができる。例えば、所定値を最大負荷値に設定してもよいし(所定値=最大負荷値)、または、所定値を最大負荷値よりも所定量αだけ小さく設定してもよい(所定値=最大負荷値−α)。さらには、最大負荷値に係数β(β<1)を乗じた値を所定値として用いてもよい(所定値=最大負荷値×β)。なお、最大負荷値は、後述の図6において「MAX」として示されている。
駆動力制御部164は、姿勢判別結果及び駆動力判別結果に基づいて、走行駆動装置138から出力される走行駆動力を低下させる。なお、場合によっては、さらに、走行判別結果も考慮して、走行駆動力を低下させてもよい。
本実施形態では、バケット110がダンプエンド位置になる所定の姿勢の場合、駆動力判別結果に基づいて、走行駆動力が制御される。本実施形態では、作業機106の姿勢に応じて、駆動力制御の開始条件を変えている。
走行駆動力を低下させるための手段として、例えば、クラッチ圧制御、エンジン回転数制御、ブレーキ制御、トランスミッション制御を挙げることができる。これらの制御のうちいずれか一つまたは複数を用いて、走行駆動力を調整することができる。
クラッチ圧制御部161は、駆動力制御部164からの指示に基づいて、クラッチ140(図3参照)の係合度を制御する。エンジン回転数制御部5は、駆動力制御部164からの指示に基づいて、エンジン130(図3参照)の出力回転数を制御する。ブレーキ制御部6は、駆動力制御部164からの指示に基づいて、ブレーキ装置(不図示)の作動量を制御する。以下の説明では、クラッチ圧を制御することにより走行駆動力を調整する場合を主に説明する。
傾斜判別部168は、ホイールローダ100の水平面に対する角度を判別する。ホイールローダ100の角度(車体角度とも呼ぶ)を判別することにより、ホイールローダ100が登坂中であるか否か等を判定することができる。
記録及び警告部4は、作業機106(詳しくはバケットシリンダ112)に過大な負荷が加わる場合、または、加わる可能性が高い場合に、その事実を記録すると共に、ホイールローダ100を操作するオペレータに警告する。なお、記録及び警告部4に記録されたデータは、図外の管理サーバに送信して管理させることもできる。
図2−図6を参照して第1実施例を説明する。本実施例では、作業機106が所定の姿勢になった場合に、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにした構成を説明する。図2(a)に示すように、バケット110を地面に対し、比較的小さい角度で接触させた状態で、ホイールローダ100を前進させることにより、地面を整地することができる。図2(b)は、作業機106が所定の姿勢である場合の問題点を模式的に示す図である。図3は、本実施形態に係るホイールローダ100の全体構成の概略を示すブロック図である。
図3に示すように、ホイールローダ100は、例えば、エンジン130と、ホイールローダ100を走行させるための走行駆動装置138と、作業機106と、主に作業機106を駆動するための油圧回路134と、エンジン130の出力を走行駆動装置138及び油圧回路134に分配する出力分配器(PTO:Power Take Off)132とを備えている。
走行駆動装置138は、例えば、モジュレーションクラッチ(以下、単に「クラッチ」という)140と、トルクコンバータ(T/C)142と、トランスミッション(T/M)144と、アクスル146と、ホイール148とを備えている。エンジン130から出力された動力は、クラッチ140、トルクコンバータ142、トランスミッション144及びアクスル146を介して、ホイール148に伝達される。
本実施形態に係るクラッチ140は、単なる直結(係合度100%)と切り離し(係合度0%)だけでなく、滑らせることも考慮されたクラッチ(即ち、その係合度を100%から0%の間の中間的な値に調整することができ、それによりエンジン出力の伝達量を調整することができるクラッチ)である。クラッチ140の係合度が低下するほど、エンジン出力のトランスミッション144へ伝達されるトルクの最大値が低下する。つまり、同じエンジン出力の場合、ホイール148から出力される走行駆動力(以下、単に「駆動力」という)が低下するようになっている。クラッチ140の係合度を制御する方法には、いくつかのやり方があるが、本実施形態では、クラッチ140の係合度は、クラッチ140に加えられる制御油圧によって決定される。以下、クラッチ140に加えられる制御油圧を、「クラッチ圧」と呼ぶ。
作業機106は、ブーム108、バケット110、ブームシリンダ136及びバケットシリンダ112等を有する。油圧回路134は、エンジン130で駆動された図示されていない油圧ポンプを用いて、ブームシリンダ136及びバケットシリンダ112に作動油を供給し、それぞれのシリンダ136,112を伸縮させることにより、ブーム108及びバケット110をそれぞれ駆動する。
図3に示すように、ホイールローダ100には、主にクラッチ140及びトランスミッション144の制御を行うコントローラ160が備えられている。コントローラ160は、例えば、マイクロプロセッサ(不図示)及びメモリ170を備えたコンピュータを含む電子回路として構成される。クラッチ140及びトランスミッション144等の制御は、コントローラ160のマイクロプロセッサが、メモリ170に記憶されている所定のプログラムを実行することにより行われる。
コントローラ160は、図1でも述べた通り、例えば、クラッチ圧制御部161と、T/M制御部162と、クラッチ圧目標値決定部163と、駆動力制御部164と、姿勢判別部165と、走行判別部166と、駆動力判別部167と、傾斜判別部168とを備える。メモリ170には、例えば、速度段記憶部172と、クラッチ圧記憶部174とが備えられる。
なお、図1に示す油圧機器最大負荷記憶部3は、メモリ170内に設けることができる。さらに、図1に示す記録及び警告部4のうち、過大な負荷の発生を記録する部分もメモリ170内に設けることができる。走行判別を制御に使用しない場合は、走行判別部165をコントローラ160から取り除いてもよい。
T/M制御部162は、トランスミッション144に対して速度段を指示する信号を送信することにより、トランスミッション144における速度段の切り替えを制御する処理部である。例えば、T/M制御部162は、トランスミッション144の現在の速度段を速度段記憶部172に記憶させておくことができる。
クラッチ圧制御部161は、クラッチ140に対してクラッチ圧を指示する信号(以下、「クラッチ圧指示信号」)を送信することにより、クラッチ圧を制御し、それによりクラッチ140の係合度を調整する処理部である。以下、クラッチ圧指示信号において、クラッチ圧制御部161が指示したクラッチ圧を、「クラッチ圧指令値」と呼ぶ。クラッチ160は、そのクラッチ圧がクラッチ圧指令値に制御され、それによりその係合度がクラッチ圧指令値に対応した係合度となる。
姿勢判別部165は、作業機106の現在の姿勢が、図2(b)に示されるような所定の姿勢に該当するか否か判別するための処理部である。走行判別部166は、走行駆動装置138の現在の走行動作が、作業機106に過大な負荷を与える作業を行う場合の走行動作に該当するか否かを判別する処理部である。
駆動力判別部167は、現在の走行駆動力の大きさが、作業機106に過大な負荷を与える所定の大きさに該当するか否かを判別する処理部である。傾斜判別部168は、車体の前後方向軸の傾斜角度が、作業機106に過大な負荷を与える作業が行われる可能性のない所定の角度範囲に該当しているか否かを判別する処理部である。
駆動力制御判定部164は、姿勢判別部165及び駆動力判別部167のそれぞれの判別結果に基づいて、駆動力を制御するか否かを判定する処理部である。クラッチ圧目標値決定部163は、現在の駆動力値に対応したクラッチ圧の目標値を決定する処理部である。
コントローラ160は、駆動力120に対応した反力126によって、作業機106に過大な負荷がかかることを防止する。そのために、コントローラ160は、走行駆動装置138から出力される駆動力120を作業機106に過大な負荷がかからない大きさに調節する、という制御を行う。以下、この制御を「駆動力制御」と呼ぶ。
駆動力制御において、コントローラ160は、ホイールローダ100の動作状態が、作業機106に過大な負荷がかかる状態にあるか否かを判定する。コントローラ160は、作業機106に過大な負荷がかかる状態にある場合に、駆動力120の調整を行う。
再び図3を参照する。ホイールローダ100には、クラッチ140の出力軸回転数を検出するクラッチ出力軸回転数センサ154と、トランスミッション144の出力軸回転数を検出するT/M出力軸回転数センサ156と、車体の前後方向軸の傾斜角度(つまり、ピッチ角度)を検出する傾斜計158とが設けられている。
クラッチ出力軸回転数センサ154、T/M出力軸回転数センサ156及び傾斜計158から出力される信号は、矢印(3)〜(5)に示されるように、コントローラ160に入力される。具体的には、クラッチ出力軸回転数センサ154から出力される信号(クラッチ140の出力軸回転数を示す信号)が、駆動力判別部167に入力される(図3(3))。また、T/M出力軸回転数センサ156から出力される信号(トランスミッション144の出力軸回転数を示す信号)が、走行判別部166及び駆動力判別部167に入力される(図3(4))。更に、傾斜計158から出力される信号(車体の前後方向軸の傾斜角度を示す信号)が、傾斜判別部168に入力される。また、上述したように、ブーム角度センサ152からの信号及びストロークエンドセンサ150からの信号(ONかOFFか)も、矢印(1)及び(2)に示されるように、コントローラ160(具体的には、姿勢判別部165)に入力される。コントローラ160は、これらのセンサ信号((1)〜(5))に基づいて、後述の駆動力制御を行う。
ここで、図2を参照する。図2(b)に示すように、バケット100がダンプエンド位置になり、バケット110の刃先110Aが地面に接触する状態では、バケット110と地面とがなす角度θが大きくなり、ホイールローダ100の走行駆動力120に基づく反力125が、作業機106に作用する。この場合、バケットシリンダ112は、ダンプ側のストロークエンド位置にある。反力125と走行駆動力120とは、ほぼ等しい値であるとして扱うことができる。
作業機106に加わる反力125の一部は、力(負荷)126として、バケットシリンダ112に作用する。バケットシリンダ112に加わる力126は、バケット110と地面との角度θ及び走行駆動力等により、幾何学的に求めることができる。または、図5で後述するように、予め用意されたテーブル(特性図)から求めることもできる。
バケットシリンダ112に加わる力126が、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにする必要がある。バケットシリンダ112の最大負荷とは、バケット110がダンプエンド位置にある場合において、バケットシリンダ112に外力126が作用した場合の耐久力を示す。
図4は、本実施例による駆動力制御を示すフローチャートである。以下、動作の主体をコントローラ160として述べる。
コントローラ160は、作業機106が所定の姿勢であるか否かを判別するための信号を、各センサ150,152から取得する(S101)。上述の通り、所定の姿勢とは、バケット110がダンプエンド位置にあり、かつ、バケット110が地面に接触している姿勢である。
コントローラ160は、走行駆動力fdを算出する(S102)。走行駆動力fdは、図2に示す走行駆動力120と同一である。便宜上、走行駆動力に符号fdを付して説明する。走行駆動力fdの算出方法は、次の段落で述べる。または、より簡易に、ホイールローダ100の車速から走行駆動力を決定する方法でもよいし、あるいは、速度段とスロット開度とから走行駆動力を決定する方法でもよい。
ここで、走行駆動力の値(以下、駆動力値)の計算手順について簡単に説明する。駆動力値の計算は、駆動力判別部167によって行われる。まず、駆動力判別部167は、クラッチ出力軸回転数センサ154によって検出されたクラッチ140の出力軸回転数(トルクコンバータ142の入力軸回転数に相当する)と、T/M出力軸回転数センサ156により検出されたトランスミッション144の出力軸回転数(トランスミッション144の出力軸回転数にトランスミッション144の現在の減速比を用いて、トランスミッション144の入力軸回転数を求める。トランスミッション144の入力軸回転数はトルクコンバータ142の出力軸回転数に相当する)とに基づいて、トルクコンバータ142の速度比を計算する。
次に、駆動力判別部167は、所定のマップを参照して、上記計算されたトルクコンバータ142の速度比に対応したプライマリトルク係数を取得する。次に、駆動力判別部167は、上記検出されたクラッチ140の出力軸回転数(トルクコンバータ142の入力軸回転数)と、上記取得されたプライマリトルク係数とに基づいて、トルクコンバータ142の入力トルクを計算する。そして、駆動力判別部167は、トルクの伝達効率、トランスミッション144の減速比、アクスル146の減速比及びホイール(タイヤ)148の有効半径を考慮して、上記計算されたトルクコンバータ142の入力トルクから、駆動力値を計算する。
図4に戻る。コントローラ160は、S101で取得した信号に基づいて、作業機106の姿勢が所定の姿勢であるか否かを判断する(S103)。作業機106の姿勢が所定の姿勢ではない場合(S103:NO)、本処理は終了する。そして、予め設定される所定のサイクル時間が経過すると、再び本処理が開始される。
作業機106の姿勢が所定の姿勢である場合(S103:YES)、コントローラ160は、バケットシリンダ112に加わる力fc(図2に示す力126である。ここでは便宜上、符号fcとして説明する)を算出する(S104)。
ここで、図5を参照する。図5は、バケット角度θと走行駆動力fdとから、バケットシリンダ112に加わる力fcを求めるための特性図(テーブル)を示す。この特性図は、シミュレーションまたは実機試験により求めることができる。
図5に示すように、バケット角度θが大きくなるほど、バケットシリンダ112に加わる力fcも増大する。バケット角度θが同一の場合、走行駆動力fdが大きくなるほど、バケットシリンダ112に加わる力fcは増大する。図5では、fd1<fc2<fc3<fc4の順番で、値が大きくなっている。
なお、図5に示す特性図を用いずに、幾何学的関係に基づいて、バケットシリンダ112に加わる力fcを算出することもできる。いずれの方法を採用してもよい。
図4に戻る。コントローラ160は、バケットシリンダ112に加わる力fcが予め設定される閾値Th1以上であるか否かを判定する(S105)。バケットシリンダ112に加わる力fcが閾値Th1未満の場合(S105:NO)、本処理は終了する。
バケットシリンダ112に加わる力fcが閾値Th1以上の場合(S105:YES)、コントローラ160は、その事をメモリ170に記録し、かつ、キャビン内のオペレータに警報を発する(S106)。
そして、コントローラ160は、バケットシリンダ112に加わる力fcが、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないように、図6の制御特性に従って、走行駆動力を制御する(S107)。図6では、横軸がバケットシリンダ112に加わる力fcを示し、縦軸が駆動力の出力割合を示す。駆動力の出力割合とは、走行駆動装置138の走行駆動力を実際に出力させる割合を示す。例えば、走行駆動力fd1が出力される場合、出力割合が60%に設定されると、ホイール148に作用する実際の走行駆動力は、fd1×0.6となる。
コントローラ160は、バケットシリンダ112に加わる力fcが閾値Th1に達するまでの間は、出力割合を100%に設定して、走行駆動力fdを各ホイール148に作用させる。この期間を、図6では、全開領域として示す。全開領域では、駆動力制御は行われない。
バケットシリンダ112に加わる力fcが閾値Th1以上になると、コントローラ160は、駆動力制御を開始する。コントローラ160は、バケットシリンダ112に加わる力fcが閾値Th1から最大値MAXに至るまでの制御領域において(Th1≦fc≦MAX)、走行駆動力の出力割合を、力fcの増加に応じて、上限値100%から下限値0%まで連続的に(または段階的に)低下させる。
バケットシリンダ112に加わる力fcが、バケットシリンダ112の耐えうる最大値MAXに達した後は(fc≧MAX)、停止領域となる。コントローラ160は、各ホイール148に作用する走行駆動力を停止させる。
なお、走行駆動力の出力割合の上限値を100%、下限値を0%として述べたが、これは一例であって、本発明はそれらの値に制限されない。上限値は100%以外の他の値であってもよく、下限値は0%以外の他の値であってもよい。コントローラ160は、例えば、100%から20%までの範囲で、または、100%から50%までの範囲で、または、100%から80%までの範囲で、ホイール148に実際に加わる走行駆動力を制御することができる。なお、走行駆動力の制御方法は、後述のクラッチ制御でもよい。または、エンジン出力を制御することにより、走行駆動力を制御してもよい。さらに、走行駆動装置138に設けられるブレーキを作動させることにより、走行駆動力を制御してもよい。
このように構成される本実施例では、作業機106の姿勢が所定の姿勢になった場合、バケットシリンダ112に過大な力が加わっても、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにすることができる。従って、ホイールローダ100の能力を限界まで使用することもできるため、使い勝手が向上する。さらに、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないように、走行駆動力を調整するため、ホイールローダ100の信頼性及び寿命を高めることができる。
図7−図9を参照して第2実施例を説明する。本実施例では、クラッチ圧を制御することにより、走行駆動力の値を調整する。以下、クラッチ制御の内容について具体的に説明する。クラッチ制御では、現在の駆動力値に応じた、クラッチ140の係合度の目標値(以下、「目標係合度」)が決定され、クラッチ140の係合度が目標係合度となるように(或いは、目標係合度に近づくように)制御される。
具体的には、クラッチ圧目標値決定部163が、現在の駆動力値に対応したクラッチ圧の目標値(以下、「クラッチ圧目標値」)を決定し、クラッチ圧制御部161が、その決定されたクラッチ圧目標値に基づいて、クラッチ圧がクラッチ圧目標値となるように(或いは、現在のクラッチ圧よりもクラッチ圧目標値に近い値となるように)、クラッチ140を制御する。例えば、クラッチ圧目標値決定部163は、種々の駆動力値の各々ごとにその駆動力値に対応したクラッチ圧目標値を予め定めておき、その駆動力値とクラッチ圧目標値との対応関係に基づいて、現在のクラッチ圧に対応したクラッチ圧目標値を決定することができる。
図7は、駆動力値とクラッチ圧目標値との対応関係の一例を示す図である。図8は、図7の対応関係をグラフ化したものである。図7又は図8に示すように、本実施形態では、クラッチ圧の最大値は、25[kg/cm2]である。クラッチ圧が最大(即ち、25[kg/cm2])の場合、クラッチ140は直結状態(係合度が100%)となる。
図7又は図8に示すように、駆動力値が大きいほど、クラッチ圧目標値は低い値とされる。即ち、現在の駆動力値が大きいほどクラッチ圧がより低くなるように(つまり、係合度がより低くなるように)制御され、駆動力120が抑えられるように制御される。
図9は、本実施形態に係るクラッチ制御の内容を示すフローチャートである。
まず、クラッチ圧目標値決定部163は、図7又は図8に示された、駆動力値とクラッチ圧目標値との対応関係を参照して、現在の駆動力値に対応したクラッチ圧目標値を取得する(S201)。例えば、現在の駆動力値が48000[kgf]であれば、クラッチ圧目標値は、9.5[kg/cm2]とされる。尚、駆動力値の計算手順は、上述の通りである。
次に、クラッチ圧制御部161は、現在のクラッチ圧指令値(クラッチ圧指示信号(クラッチ圧を指示する信号)によって、クラッチ圧制御部161が指示したクラッチ圧)が、ステップS201で取得されたクラッチ圧目標値よりも大きいか否かを判定する(S202)。
ここで、現在のクラッチ圧指令値とは、現在クラッチ140に対して指示されているクラッチ圧指令値のこと、即ち、前回送信されたクラッチ圧指示信号において指示したクラッチ圧指令値のことである。後述するが、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧指示信号を送信した際、そのクラッチ圧指示信号において指示したクラッチ圧指令値を、クラッチ圧記憶部174に記憶しておく。従って、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧記憶部174に記憶されているクラッチ圧指令値を、現在のクラッチ圧指令値として参照することができる。尚、クラッチ制御の開始直後であって未だクラッチ圧指示信号が一度も送信されていない場合は、クラッチ圧記憶部174には現在のクラッチ圧指令値が記憶されていないことになる。この場合、クラッチ圧制御部161は、例えば、クラッチ140が直結(係合度100%)の状態にある場合のクラッチ圧(即ち、25[kg/cm2])を、現在のクラッチ圧指令値とすることができる。
現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値よりも大きい場合は(S202:YES)、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧目標値を、実際に指示するクラッチ圧指令値(以下、「実指令値」)とし、実指令値を指示するクラッチ圧指示信号をクラッチ140へ送信する(S204)。これにより、クラッチ圧は、実指令値(クラッチ圧目標値)に制御され、クラッチ140の係合度は、実指令値(クラッチ圧目標値)に対応した係合度となる。
このように、現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値よりも大きい場合は、クラッチ圧目標値が直接実指令値とされ、クラッチ圧がクラッチ圧目標値となるように制御される。つまり、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧目標値に向ってクラッチ圧を一気に低下させるように、クラッチ140を制御する。その結果、実際に出力される駆動力120が強制的に抑制されるので、作業機106に過大な負荷がかかるおそれが減少する。その後、クラッチ圧制御部161は、ステップS204において送信されたクラッチ圧指示信号におけるクラッチ圧指令値(即ち、クラッチ圧目標値)を、クラッチ圧記憶部174に記憶する(S205)。
一方、現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値以下の場合は(S202:NO)、クラッチ圧制御部161は、現在のクラッチ圧指令値が、クラッチ圧目標値から所定のオフセット値だけ差し引いた値(以下、「オフセット減算値」)よりも小さいか否かを判定する(S203)。
現在のクラッチ圧指令値がオフセット減算値よりも小さい場合は(S203:YES)、クラッチ圧制御部161は、現在のクラッチ圧指令値に所定の増分(以下、「第一の増分」)を加えた値(以下、「増分加算値」)を実指令値とし、実指令値を指示するクラッチ圧指示信号をクラッチ140へ送信する(S206)。これにより、クラッチ圧は、実指令値(増分加算値)に制御され、クラッチ140の係合度は、実指令値(増分加算値)に対応した係合度となる。
ここで、第一の増分は、クラッチ圧(係合度)を上昇させる際の上げ幅であり、比較的小さい値に設定される。具体的には、本実施形態では、図7に示されるように、クラッチ圧目標値は、5[kg/cm2]〜25[kg/cm2]の範囲で、0.5[kg/cm2]刻みの値とされている。例えば、第一の増分は、この刻み幅(0.5[kg/cm2])よりも小さい値(例えば、0.2[kg/cm2])に設定される。このように、第一の増分が比較的小さい値に設定されることにより、クラッチ圧は、現在のクラッチ圧から比較的小さい上げ幅で大きくなるように制御される。つまり、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧(係合度)をクラッチ圧目標値に向って緩やかに上昇させるように、クラッチ140を制御する。
その後、クラッチ圧制御部161は、ステップS206において送信されたクラッチ圧指示信号におけるクラッチ圧指令値(即ち、増分加算値)を、クラッチ圧記憶部174に記憶する(S207)。
一方、現在のクラッチ圧指令値がオフセット減算値以上である場合は(S203:NO)、クラッチ圧指示信号は、送信されない。即ち、現在のクラッチ圧指令値が、オフセット減算値からクラッチ圧目標値までの範囲内にある場合は、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧を変化させずに、現在のクラッチ圧を維持する。
このように、クラッチ圧を変化させない範囲である不感帯(オフセット減算値からクラッチ圧目標値までの範囲)が設けられている理由は、現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値付近の値となった場合にクラッチ圧の上昇と低下とが交互に繰り返されて動作が不安定になるといった問題(所謂チャタリングの問題)の発生を防止するためである。そして、この不感帯がクラッチ圧目標値よりも小さい領域に設けられている理由は、クラッチ圧を低下させる場合は応答性よく一気に低下させ、クラッチ圧を上昇させる場合は緩やかに上昇させるといった、本実施形態に係るクラッチ制御の制御方針に合致させるためである。
その後、クラッチ圧目標値決定部163は、所定時間(例えば、10[ms])待機した後、再度、S201の処理を行う。つまり、所定時間間隔で、ステップS201〜S208の処理が繰り返して行われる。
なお、クラッチ制御が解除された場合、クラッチ圧制御部161は、クラッチ140を直結の状態(即ち、クラッチ圧が25[kg/cm2]の状態)に戻すために、クラッチ圧を上昇させる制御を行う。
具体的には、例えば、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧が25[kg/cm2]になるまで、10[ms]毎に、現在のクラッチ圧指令値に所定の増分(以下、「第二の増分」)を加えた値をクラッチ圧として指示するクラッチ圧指示信号を、クラッチ140へ繰り返して送信する。ここで、第二の増分は、例えば、第一の増分(0.2[kg/cm2])よりも大きい値(例えば、0.5[kg/cm2])とされる。つまり、クラッチ制御が実行されている間のクラッチ圧の上げ幅よりも大きい上げ幅で、クラッチ圧の上昇が行われる。
図10−図12を参照して第3実施例を説明する。本実施例では、電動モータ181(図11参照)を用いるホイールローダに、本発明の駆動力制御を適用する場合を説明する。
図10は、本実施例による駆動力制御を示すフローチャートである。本フローチャートは、図4のフローチャートに示されるS101−S106を備える。本フローチャートは、図4に示されるS107に代えて、S108を備えている。本実施例のコントローラ160は、走行駆動力fdを制御するために、電動モータ181の出力を制御するようになっている(S108)。
なお、電動モータ181の出力を単独で制御する構成でもよいし、または、トランスミッション144の速度段をニュートラルにする制御、あるいは、ブレーキ量の制御のような他の制御と組み合わせる構成でもよい。
図11は、電動モータ181を利用するホイールローダの走行系構成の要部を模式的に示す。図11(b),(c)に示す構成では、便宜上、クラッチ及びバッテリ等を省いている。発電機180から出力される電気エネルギのうち余分のエネルギはバッテリ等の充放電装置182に蓄電され、電動モータ181の減速時の逆起電力も充放電装置182に保存される。充放電装置182は、バッテリに限らず、コンデンサ等であってもよい。
図11(a)に示すタイプは、エンジン130の出力により発電機180を駆動させ、発電された電気エネルギによって電動モータ181を回転させる。電動モータ181の回転力は、トランスミッション144から出力される回転力に加えられる。
ホイール148に作用する回転力のうち、例えば、80%程度をエンジン出力でまかない、残りの20%を電動モータ181によってまかなう構成が考えられる。コントローラ160は、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにするために、電動モータ181の回転力を制御する。
図11(b)に示すタイプは、電動モータ181の回転力のみでホイール148を回転させる。発電機180は、エンジン出力によって発電する。電動モータ181は、発電機180から供給される電気エネルギを回転力に変換し、トランスミッション144を介して、各ホイール148に伝達する。コントローラ160は、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにするために、電動モータ181の回転力を制御する。
図11(c)に示すタイプでは、駆動輪となる複数のホイール148にそれぞれ電動モータ181を設ける。後輪駆動の場合、後輪となる各ホイール148に電動モータ181が設けられ、前輪駆動の場合、前輪となる各ホイール148に電動モータ181が設けられる。4輪駆動の場合、全てのホイール148に電動モータ181が設けられる。
各電動モータ181の回転力は、各ファイナルギア145を介して各ホイール148に伝達される。コントローラ160は、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにするために、各電動モータ181の回転力を個別に制御する。
図12に示すタイプでは、エンジン130の回転力は、遊星歯車機構143を介して各ホイール148に伝達される。発電機180はエンジン出力を利用して発電し、電動モータ181に電気エネルギを供給する。電動モータ181の回転力は、遊星歯車機構143を介して、エンジン130からの回転力に加えられる。コントローラ160は、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにするために、電動モータ181の回転力を制御する。
このように、電動モータ181を用いるホイールローダにも本発明を適用して、信頼性及び寿命を高めることができる。
上述した本発明の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。例えば、第3実施例は、第1実施例または第2実施例の両方に適用できる。また、第1実施例と第2実施例とを一つの建設車両に同時に適用することもできる。