JP5208369B2 - 神経細胞の死滅または神経機能の障害を治療するための薬学製剤及び併用療法 - Google Patents

神経細胞の死滅または神経機能の障害を治療するための薬学製剤及び併用療法 Download PDF

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本発明は、細胞死を抑制する方法に関するものであって、より具体的には、神経細胞の死滅と関連した疾患の中で、細胞枯死(apoptosis)と細胞壊死(necrosis)とを同時に抑制して、細胞保護の効果、生存増進の効果及び脳機能の増進の効果を向上させる薬学製剤及び併用療法に関する。
神経細胞の死滅は、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ルーゲリック病、ハンチントン病などの退行性脳疾患、脳卒中などの脳血管疾患、急性脳及び脊髓損傷はもちろん主要眼疾患である緑内障、黄斑部変性及び糖尿病性網膜症の主な病理現象であり、神経細胞の死滅とともに致命的な脳機能、脊髓機能または眼機能の損傷に繋がるため、これを有効に防止する薬物に対する開発が活発に進んでいる(Osborne et al.,1999;Lewen et al., 2000; Danysz et al.,2001; and Behl et al.,2002)。
脳及び眼疾患における神経細胞の死滅は細胞壊死が主要機転であり、活性酸素と興奮性毒性とが神経細胞の壊死の主媒介体として働くことが明らかになっている(Beal,1996;Dugan & Choi,1994)。活性酸素は自由基の生成が増加するか細胞内の自由基除去機転の障害によって発生し、生成された活性酸素は細胞の機能と生存に必須的な蛋白質、脂質、核酸などの酸化を誘導して細胞の死滅を誘導するようになる。グルタメートは、N−メチル−D−アスパテート(N−methyl−D−aspartate;NMDA)グルタメート受容体の活性を通じて遅い興奮性神経伝達と、カイネート(kainate)、 アルファ−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸(α−amino−3−hydroxy−5−methyl−4−isoxazolepropionic acid,AMPA)グルタメート受容体の活性を通じた速い興奮性神経伝達とを媒介する中枢神経系の興奮性神経伝達物質である。グルタメート受容体は過度に興奮されれば神経細胞の死滅を誘導し、これを興奮性毒性と言う。興奮性毒性及び活性酸素による神経細胞の死滅は細胞質の膨脹、初期段階の細胞膜破壊を伴う壊死形態であると報告されている。
興奮性毒性及び酸化毒性により媒介される神経細胞の死滅がアルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ルーゲリック病、ハンチントン病、緑内障、黄斑部変性などの死後脳及び眼組織、そして動物モデルにおいて報告されており(Rao & Weiss,2003; Waldmeier,2003; Meldrum,2000)、また、ミトコンドリア異常、酸化促進物質の生成及びDNA、脂質、蛋白質の酸化が脳疾患及び眼疾患の動物モデル及び患者で観察されると知られている(Mecocci et al.,2003; Dauer et al.,2003; Beal,1995 & 2001; Won et al.,2002; Brown et al.,1992; Takahashi et al.,2004)。
グルタメート受容体の拮抗剤及び抗酸化剤の投与は、ルーゲリック病(Andreassen et al.,2000; Gurney et al.,1997)、アルツハイマー性痴呆(Sung et al.,2004; Miguel−Hidalgo et al., 2002) 、脳卒中(Holtzman et al.,1996; Park et al., 1988) 、ハンチントン病(Andreassen et al., 2001; Beister et al.,2004)、脊髓損傷(Faden & salzman 1992;Faden et al.,1994)、パーキンソン病(Prasad et al.,1999; Rabey et al.,1992)などのような脳疾患、緑内障(Neufeld et al., 2002; Pang et al., 1999)、糖尿病性網膜症(Chung et al., 2005; Smith et al., 2002)及び黄斑部変性(Richer et al., 2004)などのような眼疾患において、神経細胞の死滅と病理現象を減少させると報告されている。
また、抗酸化剤は、上記疾患の治療剤として開発するために臨床研究が進んでいる(Gilgun−Sherki et al., 2002)。しかし、ビタミンE、アセチル−L−カルニチンのような抗酸化剤は、アルツハイマー性痴呆及びパーキンソン病では治療効果を示さなかった(Hudson & Tabet,2003; Thal et al., 2003; Luchsinger et al., 2003; Morens et al., 1996)。脳疾患治療剤としての臨床開発において、抗酸化剤は低い効果(low potency)及び血液脳関門(BBB,blood brain barrier)の透過率が障害要因となっている(Gilgun−Sherki et al.,2002; Molina et al.,1997)。
グルタメート受容体の拮抗剤も上記疾患の治療剤として開発が進んでおり、グルタメート受容体の拮抗剤を投与すれば虚血性脳卒中を含んだ多様な動物モデルで神経細胞の死滅を抑制すると知られた。このようなグルタメート受容体の拮抗剤は、狭い治療指数(narrow therapeutic index)とタイムウィンドー(time window)とが脳卒中などの脳疾患治療剤として開発するのに深刻な障害要因となっている(Labiche et al., 2004; Hoyte et al., 2004; Ikonomidou & Turski, 2002)。このように、抗酸化剤及びグルタメート受容体の拮抗剤のような細胞壊死抑制剤の治療剤の開発に当たってこのような問題点は解決されなければならない。
予定死または枯死(apoptosis)が脳疾患において神経細胞の死滅に関与するという証拠が提示されている。枯死は、細胞質と核の収縮、核染色質の凝縮、核膜の破壊、核酸の規則的分解及び自殺遺伝子と蛋白質の活性により徐々に進まれる細胞死滅の類型である(Kerr et al., 1972; Gwag et al., 1995; Won et al., 2000)。
最近、細胞枯死を抑制するニューロトロフィンは、in vitro及びin vivoにおいて細胞壊死を増加させると報告された(Gwag & Kim,2003; Koh et al.,1995; Won et al.,2000; Kim et al.,2002)。このような事実は、細胞枯死と壊死とが互いに異なる経路で進まれる可能性を提示することである。
特に、TUNEL−positive細胞、ヌクレオソーム間の核酸分解、Baxのような細胞枯死促進蛋白質の発現及び代表的な自殺蛋白質として14種のシステイン−アスパテートプロテアーゼ(cysteine−aspartate proteases, caspases)の活性が、脳卒中(Chan et al.,2004; Won et al.,2002; Choi,1996)、パーキンソン病(Hartman et al.,2000; Tatton,2000; Turmel et al.,2001; Vila et al.,2001)、ルーゲリック病(Wootz et al.,2004; Martin,1999; Mu et al.,1996; Li et al.,2000; Gonzalez et al., 2000)、アルツハイマー性痴呆(Kang et al.,2005; Su et al.,1997)及び脊髓損傷(Emery et al.,1998; Fiskum,2000)などのような脳疾患の損傷された脳部位で観察されると報告されている。
脳疾患における神経細胞の枯死を防止する薬物の開発が活発に進んでいるが、特にカスパーゼ抑制剤(Honig et al.,2000; Robertson et al.,2000)、ニューロトロフィック因子(neurotrophic factors)(Gwag & Kim,2003; Lewin & Barde,1996)及びCEP−1347とCEP−11004のようなc−Jun N−末端キナーゼ(JNK)抑制剤(Peng et al.,2004; Saporito et al.,2002)などが開発されて前臨床及び初期臨床段階に進入している。しかし、これらのペプチド、ニューロトロフィン及びJNK抑制剤の脳及び眼疾患の治療剤としての開発に脳血管障壁の透過率及び安定性が問題となった。
一方、リチウムは原子番号3番の単純な軽金属であり、約200年前発見され、約50年前豪州の精神科医師であったJohn Cadeが躁うつ病患者に初めて用いた以来、過去50年間躁うつ病及び反復性躁うつ病の急性期だけでなく、再発防止のために広範囲に用いられてきた(Goodwin and Jamison,1990)。最近、興味深くもリチウムの神経細胞の保護効果に対する報告が増えている。例えば、リチウムはセラミド(ceramide)、スタウスポリン(stausporine)、アミロイドベータ及びカリウム欠乏による神経細胞の枯死は抑制できたが(Bijur et al.,2000; Centeno et al.,1998; D’Mello et al., 1994; Ghribi et al., 2003)、細胞壊死は抑制できなかった。しかし、リチウムの神経細胞の保護作用は抗枯死効果に限定される可能性が高いが、その証拠としてリチウムは自殺遺伝子であるBaxとp53の減少を抑制し、生存遺伝子であるBcl2の発現を増加させ、ニューロトロフィンのようにホスホイノシチド(phosphoinositide)3−キナーゼとホスホリパーゼCγの活性を通じて神経細胞の枯死を抑制するということである(Kang et al., 2003)。
従って、本発明が解決しようとする技術的課題は、細胞壊死と細胞枯死とを同時に抑制することによって細胞の保護効果及び脳機能の増進効果を向上させ得るという仮説に基づいて、神経細胞の壊死及び枯死を同時に抑制するだけでなく二種類の薬物が相互補完的に作用してシナジー効果を発揮することによって、神経細胞の死滅を治療または予防するのにさらに有効な複合剤である薬学製剤及び併用療法を提供することである。
上記技術的課題を達成するために、本発明は、(a)細胞壊死抑制剤、及び(b)リチウムまたはリチウムの薬学的に許容可能な塩を含むことを特徴とする薬学製剤またはキットを提供する。
また、本発明は、上記薬学製剤またはキットが神経細胞死滅の治療または予防用であることを特徴とする薬学製剤またはキットを提供し、さらに、本発明は、上記薬学製剤が神経細胞の死滅と関連した脳疾患または眼疾患の治療または予防用であることを特徴とする薬学製剤またはキットを提供する。
さらに、本発明は、上記脳疾患が、ルーゲリック病、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、外傷性脳損傷及び外傷性脊髄損傷から構成された群より選択された何れか一つであることを特徴とする薬学製剤またはキットを提供し、また上記眼疾患が緑内障、老人性黄斑変性及び糖尿病性網膜症から構成された群より選択された何れか一つであることを特徴とする薬学製剤またはキットを提供する。
さらに、本発明は、上記細胞壊死抑制剤が下記化学式1で表されるベンジルアミノサリチル酸誘導体とこれの薬学的に許容可能な塩、及び下記化学式2で表されるテトラフルオロベンジル誘導体とこれの薬学的に許容可能な塩、から構成された群より選択された何れか一つ以上であることを特徴とする薬学製剤またはキットを提供する:
Figure 0005208369
上記化学式1において、
Xは、CO、SOまたは(CH)n(nは1ないし5の常数)であり、
は、水素、アルキルまたはアルカノイル(alkanoyl)であり、
は、水素またはアルキルであり、
は、水素またはアセチルであり、
は、非置換フェニルまたはニトロ、ハロゲン、ハロアルキル及び炭素数1ないし5のアルコキシから構成された群より選択された何れか一つ以上に置換されたフェニルである;
Figure 0005208369
上記化学式2において、
、R及びRは、各々水素またはハロゲンであり、
は、ヒドロキシ、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ハロゲンに置換されたアルコキシ、アルカノイルオキシまたはニトロであり、
は、カルボキシ酸、炭素数1ないし4のアルキル基を有したエステル、カルボキシアミド、スルホン酸、ハロゲンまたはニトロである。
本発明は、また、(a)薬学的に有効な量の細胞壊死抑制剤及び(b)薬学的に有効な量のリチウムまたはこれの塩を併用することを特徴とする神経細胞の死滅の治療または予防方法を提供する。
さらに、本発明は、上記方法が脳疾患を治療または予防するためのものであることを特徴とする神経細胞の死滅の治療または予防方法を提供し、さらに、上記脳疾患が、ルーゲリック病、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、外傷性脳損傷及び外傷性脊髄損傷から構成された群より選択された何れか一つであることを特徴とする神経細胞の死滅の治療または予防方法を提供する。
さらに、本発明は、上記方法が眼疾患を治療または予防するためのものであることを特徴とする神経細胞の死滅の治療または予防方法を提供し、さらに、上記眼疾患が、緑内障、老人性黄斑変性及び糖尿病性網膜症から構成された群より選択された何れか一つであることを特徴とする神経細胞の死滅の治療または予防方法を提供する。
本発明は、また、細胞壊死抑制剤が上記化学式1で表されるベンジルアミノサリチル酸誘導体及びこれの薬学的に許容可能な塩、及び上記化学式2で示されるテトラフルオロベンジル誘導体及びこれの薬学的に許容可能な塩、から構成された群より選択された何れか一つ以上であることを特徴とする神経細胞の死滅の治療または予防方法を提供する。
以下、本発明の神経細胞の死滅を治療または予防するための複合剤及び併用療法についてより具体的に説明する。
本発明は、細胞壊死抑制剤は活性酸素を含む様々な原因に基づいた神経細胞の壊死は抑制できるが枯死による神経細胞の死滅は抑制できず、リチウムは神経細胞の枯死は抑制できるが活性酸素による神経細胞の壊死は抑制できないという事実と、このような細胞壊死抑制剤とリチウムとを同時に投与すれば神経細胞の死滅と関連したいろんな疾患、特に脳及び眼疾患における細胞死滅制御の効果、脳機能の改善効果及び生存延長の効果がさらに増進されるという驚くべき事実に基づく。
従って、本発明は、細胞壊死抑制剤及びリチウムを含むことを特徴とする神経細胞の死滅を治療または予防するための薬学製剤またはキットを提供する。また、本発明は、このような薬学製剤またはキットを用いるか、細胞壊死抑制剤とリチウムのうち一種類の成分が薬効を発揮する水準に服用した個体の体内に存在する間、他の一種類の成分を投与して二種類の成分が体内でシナジー効果を発揮するようにする神経細胞の死滅の治療または予防方法を提供する。
前述したように、細胞壊死抑制剤を投与して活性酸素を含む様々な原因による神経細胞の壊死を抑制し、同時にリチウムを投与して神経細胞の枯死を抑制すれば神経細胞の死滅を総合的に治療または予防できるだけでなく、上記二種類の薬物が相互補完的に作用して神経細胞の死滅と関連した疾患の治療または予防効果がシンナー的に向上される長所がある。
即ち、リチウムは神経細胞の枯死は抑制するが、神経細胞の死滅は防止しない。しかし、リチウムと共に細胞壊死抑制剤を投与すれば、リチウムにより細胞枯死が抑制され同時に細胞壊死抑制剤により活性酸素を含む様々な原因による神経細胞の壊死が抑制され、このとき細胞壊死抑制剤はリチウムによる細胞枯死の抑制には影響を及ぼさない。従って、リチウム及び細胞壊死抑制剤を共に処理すれば活性酸素による神経細胞の壊死及び枯死を同時に抑制させ得る。即ち、本発明のように、細胞壊死抑制剤及びリチウムを共に投与すれば活性酸素による神経細胞の壊死及び細胞枯死と関連した疾患、例えば、ルーゲリック病、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、外傷性脳損傷、外傷性脊髄損傷などの脳疾患と、緑内障、糖尿病性網膜症、老人性黄斑変性などの眼疾患と、を有効に治療または予防できる。但し、本発明の薬学製剤またはキットと本発明による併用療法は、神経細胞の死滅と関連したいかなる疾患にも適用可能であり、前述したルーゲリック病、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、外傷性脳損傷、外傷性脊髄損傷、緑内障、糖尿病性網膜症などに本発明の適用範囲が限定されるのではない。
従って、本発明による薬学製剤またはキットは細胞壊死抑制剤を含み、より望ましくは、本発明は、本発明者らが以前開発した細胞壊死抑制剤とリチウムまたはリチウム塩を併用する場合、目的とするシナジー効果がより卓越であるという驚くべき事実に基づく。
本発明者は、大脳皮質細胞における神経細胞の保護効果及び脳疾患の動物モデルにおいて興奮性毒性、酸化的毒性及び亜鉛毒性により誘導される神経細胞の壊死を抑制する非常に有効な神経細胞保護剤を開発したことがあり(米国特許第6,964,982号、第6,573,402号及び第6,927,303号参照)、従って、このような神経細胞保護剤がリチウムと併用される場合、神経細胞の死滅を防止するのにさらに有用である。
従って、より望ましくは、本発明の薬学製剤またはキットは細胞壊死抑制剤として下記化学式1で表されるベンジルアミノサリチル酸誘導体及びこれの薬学的に許容可能な塩と、下記化学式2で表されるテトラフルオロベンジル誘導体及びこれの薬学的に許容可能な塩と、から構成された群より選択された何れか一つ以上を含む。
Figure 0005208369
上記化学式1において、
Xは、CO、SOまたは(CH)n(nは1ないし5の常数)であり、
は、水素、アルキルまたはアルカノイルであり、
は、水素またはアルキルであり、
は、水素またはアセチルであり、
は、非置換フェニルまたはニトロ、ハロゲン、ハロアルキル及び炭素数1ないし5のアルコキシから構成された群より選択された何れか一つ以上に置換されたフェニルである;
Figure 0005208369
上記化学式2において、
、R及びRは、各々水素またはハロゲンであり、
は、ヒドロキシ、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ハロゲンに置換されたアルコキシ、アルカノイルオキシまたはニトロであり、
は、カルボキシ酸、炭素数1ないし4のアルキル基を有したエステル、カルボキシアミド、スルホン酸、ハロゲンまたはニトロである。
上記化学式1または2において、アルキルは炭素数1ないし4のアルキルであることが望ましく、炭素数1または2のアルキルであることがさらに望ましい。具体的に、上記アルキルは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、2次−ブチル及び3次−ブチル基が望ましいが、これに限定されるのではない。アルコキシは、炭素数1ないし4のアルコキシであることが望ましく、炭素数1または2であるアルコキシであることがさらに望ましい。具体的に、上記アルコキシとしては、メトキシ、エトキシ及びプロトキシが望ましいが、これに限定されるのではない。ハロゲンは、フッ素、塩素、ブロム及びヨードであることが望ましいが、これに限定されるのではない。アルカノイルオキシ(alkanoyloxy)は、炭素数2ないし10のアルカノイルオキシであることが望ましく、炭素数3または5であることがさらに望ましい。具体的に、上記アルカノイルオキシとしては、エタノイルオキシ、プロパノイルオキシ及びシクロヘキサンカルボニルオキシが望ましいが、これに限定されるのではない。
前述したように、上記望ましい細胞壊死抑制剤はナノモル(nanomolar)濃度で様々な原因に起因した神経細胞の死滅を完全に抑制し、脳卒中、脊髄損傷、ルーゲリック病、パーキンソン病などの動物モデルで神経細胞の死滅防止効果が検証された、強力な神経細胞の壊死の抑制効果を示す化合物であるため非常に効果的であり(米国特許第6,964,982号、第6,573,402号及び第6,927,303号参照)、このような細胞壊死抑制剤がリチウムまたはリチウム塩と併用される場合、神経細胞の死滅をより有効に抑制できるためさらに望ましい。
上記細胞壊死抑制剤の毒性、神経細胞の保護効果などの治療効率、リチウムとの併用効率などを考慮すれば、上記ベンジルアミノサリチル酸誘導体としては、5−ベンジルアミノサリチル酸(BAS)、5−(4−ニトロベンジル)アミノサリチル酸(NBAS)、5−(4−クロロベンジル)アミノサリチル酸(CBAS)、5−(4−トリフルオロメチルベンジル)アミノサリチル酸(TBAS)、5−(4−フルオロベンジル)アミノサリチル酸(FBAS)、5−(4−メトキシベンジル)アミノサリチル酸(MBAS)、5−(4−ペンタフルオロベンジル)アミノサリチル酸(PBAS)、5−(4−ニトロベンジル)アミノ−2−ヒドロキシエチルベンゾエート、5−(4−ニトロベンジル)−N−アセチルアミノ−2−ヒドロキシエチルベンゾエート、5−(4−ニトロベンジル)−N−アセチルアミノ−2−アセトキシエチルベンゾエート、5−(4−ニトロベンゾイル)アミノサリチル酸、5−(4−ニトロベンゼンスルホニル)アミノサリチル酸、5−(4−ニトロフェネチル)アミノサリチル酸、5−[2−(4−ニトロフェニル)−エチル]アミノサリチル酸(NPAA)、5−[3−(4−ニトロフェニル)−N−プロピル]アミノサリチル酸(NPPAA)、2−ヒドロキシ−5−(2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)エチルアミノ]−安息香酸(2−hydroxy−TPEA)及びこれらの薬学的に許容可能な塩から構成された群より選択された何れか一つ以上であることが望ましく、5−ベンジルアミノサリチル酸、5−(4−トリフルオロメチルベンジル)アミノサリチル酸、5−(4−ニトロベンジル)アミノサリチル酸、5−(4−クロロベンジル)アミノサリチル酸、5−(4−メトキシベンジル)アミノサリチル酸、5−(4−フルオロベンジル)アミノサリチル酸、5−(4−ペンタフルオロベンジル)アミノサリチル酸、2−ヒドロキシ−5−(2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)エチルアミノ)−安息香酸及びこれらの薬学的に許容可能な塩から構成された群より選択された何れか一つ以上であることがさらに望ましい。
また、上記テトラフルオロベンジル誘導体としては、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸(2−hydroxy−TTBA)、2−ニトロ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−クロロ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−ブロモ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジルアミノ)−安息香酸、2−メチル−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−メトキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−2−トリフルオロメトキシ安息香酸、2−ニトロ−4−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)フェノール、2−クロロ−4−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)フェノール、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)ベンズアミド、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)ベンゼンスルホン酸、メチル2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸塩、2−エタノイルオキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸、2−プロパノイルオキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸、2−シクロヘキサンカルボニルオキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸及びこれらの薬学的に許容可能な塩から構成された群より選択された何れか一つ以上であることが望ましく、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸またはこれの薬学的に許容可能な塩であることがさらに望ましい。
本発明の「薬学的に許容可能な塩」とは、毒性がないか少ない酸または塩基で製造された塩を言う。本発明の化合物が相対的に酸性である場合、塩基(base)付加塩は十分な量の所望の塩基と適当な非活性(inert)溶媒によりその化合物の中性形態を接触して得ることができる。薬学的に許容可能な塩基付加塩は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、マグネシウムまたは有機アミノからなる塩を含むが、これに限定されるのではない。本発明の化合物が相対的に塩基性である場合、酸(acid)付加塩は十分な量の所望の酸と適当な非活性によりその化合物の中性形態を接触して得ることができる。薬学的に許容可能な酸付加塩は、プロピオン酸、イソブチル酸、シュウ酸、りんご酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、 スベリン酸、フマル酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、塩酸、ブロム酸、窒酸、炭酸、一水素炭酸(monohydrogencarbonic)、燐酸、一水素燐酸、二水素燐酸、硫酸、一水素硫酸、ヨード化水素、亞りん酸(phosphorous acid)などで形成された塩を含むが、これに限定されるのではない。また、アルジネート(arginate)のようなアミノ酸の塩及びグルクロニック(glucuronic)またはガラクツノリック(galactunoric)酸のような有機酸の類似体を含むが、これに限定されるのではない。
本発明の一部化合物は水化物形態を含んで溶媒化された形態だけでなく非−溶媒化された(unsolvated)形態で存在する場合もある。本発明の一部化合物は結晶形または無定形の形態で存在することもでき、このような全ての物理的形態は本発明の範囲に含まれる。また、本発明の一部化合物は光学中心である非対称炭素原子または二重結合を有することができるためラセミ体、エナンチオマー、ジアステレオマー、幾何異性質体などが存在することができて、これらも本発明の範囲に含まれる。
本発明の薬学製剤またはキットは、リチウムまたはこれの薬学的に許容可能な塩を含む。リチウム塩としては、リチウムカーボネート、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、リチウムアセテート、リチウムシトレート、リチウムサクシネート(succinate)、リチウムアセチルサリシレート、リチウムベンゾエート、リチウムビタルトレート、リチウムニトレート、リチウムセレネート(selenate)、リチウムサルフェート、リチウムアスパテート、リチウムグルコネート及びリチウムテオネート(theonate)が用いられ得るが、これに限定されるのではない。
また、本発明の薬学製剤またはキットは細胞壊死抑制剤のリチウム塩を含むことができ、より望ましくは、上記化学式1で表されるベンジルアミノサリチル酸誘導体のリチウム塩または上記化学式2で表されるテトラフルオロベンジル誘導体のリチウム塩を含むことができる。
本発明は、また、細胞壊死抑制剤、リチウム及び薬剤学的に許容される賦形剤または添加剤を含む薬剤学的組成物を提供する。本発明の細胞壊死抑制剤及びリチウムは単独で或いは適宜の運搬体、賦形剤などと共に混合して投与されることができ、そのような投与剤形は単回投与または反復投与剤形であり得る。
本発明の薬学製剤は固形製剤または液状製剤であり得、固形製剤は散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、坐剤などがあるが、これに限定されるのではない。固形製剤には、賦形剤、着香剤、結合剤、防腐剤、崩解剤、滑澤剤、充填剤などが含まれ得るが、これに限定されるのではない。液状製剤としては、水、プロピレングリコール溶液のような溶液剤、懸濁液剤、油剤などがあるが、これに限定されるのではなく、適当な着色剤、着香剤、安定化剤、粘性化剤などを添加して製造することができる。
本発明の薬学製剤またはキットは、治療すべき疾患及び個体の状態により経口剤、注射剤(例えば、筋肉注射、腹腔注射、静脈注射、注入(infusion)、皮下注射、インプラント)、吸入剤、鼻腔投与剤、膣剤、直腸投与剤、舌下剤、トランスサーマル剤、トピカル剤などで投与され得るが、これに限定されるのではない。投与経路によって通常的に使用され非毒性である、薬剤学的に許容される運搬体、添加剤、賦形剤を含む適当な投与ユニット剤形で製剤化され得る。一定時間薬物を持続的に放出できるデポー(depot)剤形も本発明の範囲に含まれる。
上記言及された神経細胞の死滅と関連した疾患、特に脳疾患または眼疾患の治療のための使用において、本発明の細胞壊死抑制剤は、毎日約0.1mg/kgないし約100g/kgが投与され得、約0.5mg/kgないし約10g/kgの1日投与容量が望ましい。本発明のリチウムは、毎日約1mg/kgないし約2000mg/kgが投与され得、約20mg/kgないし約600mg/kgの1日投与容量が望ましい。しかし、上記投与量は患者の状態(年齢、性別、体重など)、治療している状態の深刻性、使用された化合物などによって多様である。必要によって便利性のために1日の総投与量が分けられ一日間数回に分けて投与され得る。
本明細書で使用されるときに、細胞壊死抑制剤とリチウムとの「併用」は、これらの化合物を同時または順次投与することを意味する。より具体的に、一方の薬物の個体内の作用部位での濃度が治療的に有効な濃度であるとき、他の薬物が投与されることも本発明の併用範囲に含まれる。但し、本発明の細胞壊死抑制剤及びリチウムは一つの薬剤学的組成物または薬学製剤にともに含まれることが患者の順応度及び相互作用の面で望ましい。
以下、本発明をより具体的に説明するために下記実施例などを挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は種々のほかの形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものとして解釈されてはいけない。本発明の実施例は、本発明の具体的な理解を助けるために例示的に提供されるものである。
本発明は、神経細胞の壊死は抑制するが神経細胞の枯死は抑制しない細胞壊死抑制剤と、神経細胞の枯死は抑制するが神経細胞の壊死は抑制しないリチウムとを共に含む薬学製剤またはキットとこれらを用いる併用療法を提供する。このような薬学製剤などは活性酸素などの様々な原因による神経細胞の死滅及び細胞の枯死を同時に抑制できるだけでなく相互補完的に作用してシナジー効果を示すことができる。
<実施例1> 神経細胞と神経膠細胞との混合培養
神経細胞(neuron)と神経膠細胞(glia)の混合培養のために妊娠14〜16日目(E14-16)のマウス胎児から大脳皮質(neocortex)を分離、回収してガラス(パスツール)ピペットを用いて組織を単一細胞に分離した後(trituration)、ポリ−D−リジンとラミニンでコーテイングされた24ウェルプレート(Falcon,Primaria)に約2×10/ウェル密度で細胞を分株して5%COと37℃に維持される培養器に入れた。分株培養液としては、2mM グルタミン、21mM グルコース、26.5mM 重炭酸塩、5% ウシ胎児血清(FBS)及び5% ウマ血清が補充されたMEM(Minimum Essential Medium,Gibco)を用いた。
分株後7〜8日目(7〜8days in vitro:DIV7−8)に神経膠細胞(glia)の繁殖を抑制するため、10μM ARa−C(cytosine arabinoside)を処理して、分株後11〜15日目に下記実施例に記載される薬物処理をした。神経細胞の死滅を定量するために細胞外に遊離される乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase,LDH)の量を測定し、500μM NMDAを24時間持続的に投与して100% 神経細胞の死滅が誘導されたときに遊離されるLDHの量に比べて神経細胞の死滅を百分率に換算した[Koh & Choi, J Neurosci Methods,20:83〜90(1987)]。
<実施例2> ビタミンE、トロロクッス(trolox)、2−Hydroxy−TTBA、2−Hydroxy−TPEA、BAS、NBAS、CBAS、MBAS、FBAS、PBAS、NPAA、NPPAA及びTBASの酸化的毒性による細胞死滅の抑制効果
実施例1で製造されたニューロン−神経膠細胞の混合培養からDIV 11〜15日目の培養細胞に酸化的毒性による神経細胞の死滅を誘導するために50μM FeCl(Fenton反応によりOH・の生成を促進する)或いは10mM DL−ブチオニン(buthionine)−[S,R]−スルホキシミン(sulfoximine)(BSO、グルタチオン欠乏誘導物質)で処理した。DIV 11〜15日目の培養細胞に、50μM FeCl或いは10mM BSOを単独で、また50μM FeCl或いは10mM BSOに0.1〜30μMの2−Hydroxy−TTBA、0.01〜3μMの2−Hydroxy−TPEAまたは3〜300μMのビタミンEを同時に添加した。投与24時間後に細胞外に遊離されるLDHの活性を測定して神経細胞の死滅を定量した(mean±SEM,N=8培養ウェル/実験群)。*は、アノバ(ANOVA)及びスチューデント−ニューマン−クルーズテスト(Student−Newman−Keuls test)を用いた場合において、対照群(FeCl単独またはBSO単独)に比べてp<0.05の有意差があることを示す。2−Hydroxy−TTBA或いは2−Hydroxy−TPEAは0.3uMで完璧に酸化毒性による神経細胞の死滅を抑制した(図1a及び1b)。ビタミンEは、2−Hydroxy−TTBA或いは2−Hydroxy−TPEAより高濃度で酸化的毒性による細胞死滅を抑制した。これは2−Hydroxy−TTBA或いは2−Hydroxy−TPEAが酸化的毒性に対する強力な細胞保護薬物であることが分かる。数々の細胞壊死抑制剤の細胞保護効果を酸化的毒性による細胞死滅を50%抑制する濃度、IC50値を求めて、その結果を下記表1に示した。表1の結果は、BAS、CBAS、FBAS、TBAS、PBAS、MBAS、NPAA、NPPAA、2−Hydroxy−TTBA及び2−Hydroxy−TPEAがビタミンEに比べて強力な細胞保護薬物であることを示す。
Figure 0005208369
しかし、細胞枯死を抑制する濃度である5mM リチウム(Kang et al., 2003)をFeCl或いはBSOと同時に添加する場合、酸化的毒性による神経細胞の死滅に対する保護効果は観察できなかった(図1c)。図1cは、培養された大脳皮質神経細胞に、50μM FeClまたは10mM BSOを単独で、また50μM FeClまたは10mM BSOに5mM リチウムを同時に添加し、24時間後に細胞外に遊離されるLDHの活性を測定して神経細胞の死滅を定量した結果である(mean±SEM, N=9〜12培養ウェル/実験群)。
<実施例3> リチウムによる神経細胞の枯死の抑制効果
実施例1で製造されたニューロン−神経膠細胞の混合培養から分株後11〜15日目(DIV11〜15)の培養細胞を細胞枯死を誘導するために、20μM シクロスポリン(cyclosporine)A(CsA)またはカリキュリン(caliculin)A(Cal A)を単独で、また20μM CsAまたはCal Aに3〜30mMのリチウムを同時に添加した。投与24時間後に細胞外に遊離されるLDHの活性を測定して神経細胞の死滅を定量した(mean±SEM, N=12培養ウェル/実験群)。*は、アノバ(ANOVA)及びスチューデント−ニューマン−クルーズテスト(Student−Newman−Keuls test)を用いた場合において、対照群(Cal A或いはCsA)に比べてp<0.05の有意差があることを示す。実験した結果、リチウムは容量によってCal A 或いはCsAによる細胞枯死を減少させる効果を示した(図2a)。リチウムの代わりに100uM ビタミンE、100uM 2−Hydroxy−TTBA或いは100uM 2−Hydroxy−TPEAを用いた実験において、上記ビタミンE、2−Hydroxy−TTBA或いは2−Hydroxy−TPEAはCsAによる神経細胞の死滅を抑制することができなかった(図2b)。これはリチウムと、BAS、CBAS、FBAS、TBAS、PBAS、MBAS、NPAA、NPPAA、2−hydroxy−TTBA、2−hydroxy−TPEAなどの細胞壊死抑制剤とは、細胞枯死と酸化的毒性とによる細胞壊死をそれぞれ選択的に抑制できるということを証明する結果である。
<実施例4−1> 年齢によるALS動物モデル(G93A mice)における酸化的毒性
ALS疾患が進みながら発生する活性酸素種(reactive oxygen species、以下「ROS」と称する)の程度を運動神経が死滅し運動上の障害が生じる以前のALS動物モデル(Tg(+), G93A mice)と、同じ年齢の普通のマウス(Tg(−)、Wild type)とを比較評価した。酸化的毒性を観察するためにニトロチロシン(Nitrotyrosine)免疫染色法を用いて8週齢のG93A マウスと同じ年齢の普通のマウスとの腰髄部位の運動神経細胞のニトロチロシンの蛍光強度を観察した。また、他の酸化毒性測定技法で酸化されたMitoTracker CM−H2XRosの蛍光強度の程度をニトロチロシン免疫染色法を用いて8週齢の動物の組織を観察した(図3a)。これはALS動物モデルの運動神経細胞で自由ラジカルの生成と蛋白質酸化の蓄積が伴うことを示すことであり、腰髄部位の運動神経細胞外の他の細胞では観察されない。生後4週齢後から2週間隔でG93A マウスと同じ年齢の普通のマウスとの腰髄部位の運動神経細胞での蛍光強度を観察したとき、G93A マウスは普通のマウスよりニトロチロシン蛍光強度が既に4週から普通のマウスより3倍も高く、8週齢でその差が4倍以上であり最も有意な値として年齢別頂点に達することを示した。G93A マウスが14週齢に至ってはニトロチロシン免疫反応の強度の差は減少した(図3b)。また、運動神経細胞の死滅の程度をG93A マウスを年齢毎に観察したとき、既に8週から弱く運動神経細胞の数が減り始め動物が死ぬ直前まで次第に減少することが観察された(図3c)。
その結果、G93A マウスモデルにおいて、運動神経細胞が死ぬ以前から酸化的毒性は運動神経細胞にのみ特異的に敏感に反応し、これは運動神経細胞が死んで行くのに一つの役割を果たしており、普通のマウスに比べてALS動物モデルが酸化的毒性にさらに敏感であるという事実を推論することができる。
<実施例4−2> ALS動物モデル(G93A mice)における運動神経細胞のFas−関連蛋白質の発現と枯死の機転の観察
Fas ligand(FasL)−関連枯死を通じた神経細胞の死滅はアルツハイマー痴呆やパーキンソン病のような退行性神経疾患で既に観察されたことがある(Morishima et al., 2001,Su et al, 2003; Hartman et al., 2002)。
これはG93A マウスにおけるFasL−関連枯死を通じた運動神経細胞の消失を可能にする証拠となる。従って、本発明者はG93A マウスと普通のマウスとが8週齢、12週齢、16週齢であるときウェスタンブロットを通じてFasLの受容体であるFas蛋白質とその下のアダプターの役割を果たすFADD蛋白質の発現程度と、FasとFADDの免疫沈澱法を通じた相互親和力を用いて活性化を観察した。12週齢から蛋白質発現と活性程度の差が普通のマウスに比べてG93A マウスで強い水準を示した(図4a)。また、機転の最高の段階として抗−Fas抗体を用いて免疫標識法を確認したとき、発現位置が腰髄の運動神経細胞に位置するということが分かった(図4b)。次の段階として、カスパーゼ−8とカスパーゼ−3の活性化をウェスタンブロットを用いて観察した結果、同様に12週に普通のマウスに比べてG93AWNLで活性化を大きく示した(図4c)。また、機転の最後の段階で活性化された抗−カスパーゼ−3抗体を用いた免疫染色を行ったときに発現位置が運動神経細胞であることを確認した(図4d)。
その結果、12週のG93A マウスの運動神経細胞内のFas,FADD,カスパーゼ−8そしてカスパーゼ−3を通じた機転による神経細胞の枯死が進んでいることを観察し、これは運動神経細胞が殆ど死んでいる16週齢ではこのような特徴がなくなっていることも分かった。
<実施例4−3> 2−hydroxy−TTBAとリチウムとの複合投与による大脳皮質の細胞培養及びALS動物モデル(G93A mice)における細胞壊死と細胞枯死に対する保護効果
本発明者らは酸化毒性による神経細胞の壊死と神経細胞の枯死を各々選択的に抑制する薬物を投与したとき、神経細胞の保護効果が相乗作用をするかどうかに対して追加実験を通じて観察した。実施例1で製造されたニューロン−神経膠細胞の混合培養からDIV11〜15目の培養細胞に30uM Fe2+と10mM BSO(グルタチオン欠乏誘導物質)を添加して酸化毒性を誘導した。その後、24時間が過ぎれば神経細胞は壊死による死に至る。このとき、2−hydroxy−TTBAを1μMを添加すれば酸化毒性による神経細胞の消失は完璧に抑制されその効果はビタミンEの220倍以上高い。同じ方法で、抗精神性薬物として用いられ神経細胞の枯死を選択的に保護すると報告された(Kang et al., 2003; Chuang et al., 2002)リチウム(Li)を添加したところ酸化的毒性に対する効果は全くないことが確認された(図5a)。図5aは、培養された大脳皮質神経細胞に30μM FeClまたは10mM BSOを単独で、また FeClまたはBSOに1μM 2−hydroxy−TTBAまたはビタミンEを同時に添加し、添加24時間後に細胞外に遊離されるLDHの活性を測定して神経細胞の死滅を定量した結果である(mean±SEM, N=12培養ウェル/実験群)。図5aにおいて、 *は、アノバ(ANOVA)及びスチューデント−ニューマン−クルーズテスト(Student−Newman−Keuls test)を用いた場合において、対照群(FeCl及びBSO単独)に比べてp<0.05の有意差があることを示す。
純粋神経細胞が殆どである大脳皮質の培養後血清を除去して神経細胞の枯死を誘導し、5mMのリチウム(Li)を添加したところ、カスパーゼ抑制剤であるzVADfmkだけ神経細胞の枯死は完璧に抑制された。しかし、2−hydroxy−TTBAを添加したときには、神経細胞の枯死が全く防止できなかった(図5b)。リチウム(Li)によってFas関連機転の活性も減少するか否かを確認するために純粋神経細胞の培養後8時間血清除去をした後、各々の薬物を処理してFasとFADDを用いた免疫沈澱法で活性化を測定した。Fas関連機転は2−hydroxy−TTBAによって保護されず、リチウムによって有効に保護された(図5c)。その結果、2−hydroxy−TTBAとリチウム(Li)の神経細胞の死滅を抑制する経路は互いに異なるということが推論できた。図5bは、純粋培養した大脳皮質の神経細胞から血清を除去した後単独または100μM zVADfmk、1μM 2−hydroxy−TTBA及び5mM リチウムを処理し、神経細胞の枯死が抑制されるかどうかを確認するために24時間後にトリパンブルー染色法を用いて、生存している神経細胞の数を数え神経細胞の死滅の程度を分析した結果である(mean±SEM, N=4 培養ウェル/実験群)。*は、アノバ(ANOVA)及びスチューデント−ニューマン−クルーズテスト(Student−Newman−Keuls test)を用いた場合において、対照群(FeCl及びBSO単独)に比べてp<0.05の有意差があることを示す。図5cは、同じサンプルでFasとFADD抗体を用いて免疫沈澱法を行った写真である。
G93Gマウスと年齢及び性(sex)が一致する普通のマウスとが8週齢になったときから10週齢になるまでの2週間、薬物を胃まで直接投与する方法である経口注入方法を通じて2−hydroxy−TTBA (30mg/kg/d)を注入し、その対照実験群には同じ注入方法で生理食塩水(0.9%NaCl)を投与した。10週齢になったときサンプルの腰髄部分を修得して上記実施例4−1で提示された方法のように、抗−ニトロチロシン抗体を用いた免疫染色法と酸化されたMitoTracker CM−H2XRos蛍光の強度を観察したとき、2−hydroxy−TTBAを投与したG93A マウスの運動神経細胞において酸化的毒性が普通のマウスほど減少したことを確認した(図5d及び5e)。図5dにおいて、aは10週齢の普通のマウス(Tg(−))、bは2週間生理食塩水(0.9% NaCl)を投与したマウスであり、cは2−hydroxy−TTBAを食餌として供給したG93A マウス(Tg(+))の脊髓の腰髄部位の組織にニトロチロシンで免疫染色した写真と蛍光強度を定量化したグラフである(mean±SEM, N=3 マウス/実験群、各々5section/マウス)。上図において、矢印は運動ニューロンである。図5eは、図5dと同じサンプルに対し酸化されたMT red CM−H2XRosの蛍光強度を測定したグラフである。p<0.05は、アノバ(ANOVA)及びスチューデント−ニューマン−クルーズテスト(Student−Newman−Keuls test)を用いた場合において、対照群に比べてp<0.05の有意差があることを示す。
G93A マウスと年齢及び性が一致する普通のマウスとが8週齢になったときから12週齢になるまでの4週間、薬物を胃まで直接投与する方法である経口注入方法を通じてリチウムカーボネート(200mg/kg)を注入し、対照実験群には同じ注入方法で生理食塩水(0。9% NaCl)を投与した。上記実施例4−2と同じく各マのマウスの腰髄部位のみを集めて抗−Fas、抗−FADD、抗−活性化カスパーゼ−8及び抗−活性化カスパーゼ−3抗体を用いたウェスタンブロットを行った(図5f)。ALS発病時点である12週齢に発現程度が顕著に増加した蛋白質は2−hydroxy−TTBAにより部分的な減少を示したが、リチウムによっては完璧に保護されることを確認した。
<実施例4−4> ALS動物モデル(G93A mice)における2−hydroxy−TTBAとリチウムとの混用を通じた相乗作用による運動遂行能力の向上と生存率の増加
図6a〜図6dは、マウスを13匹ずつ5グループに分けて8週齢になったときから餌に、2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)、0.2% リチウムカーボネート、または同時に2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)と0.2% リチウムカーボネートとを混用した薬物を添加して各マウスらが死ぬまでの行動実験を一週間に二回ずつ実行した結果である(mean±SEM, N=13/実験群)。図6a〜図6dにおいては、*は対照群に比べてp<0.05の有意差があることを示すものであり、#は2−hydroxy−TTBA及びリチウムの複合投与群と2−hydroxy−TTBA(或いはリチウム)投与群との間にp<0.05の有意差があることを示す。
図7aと7bは、マウスを13匹ずつ5グループに分けて8週齢になったときから餌に、2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)、0.2% リチウムカーボネート、または同時に2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)と0.2% リチウムカーボネートとを混用した薬物を添加して供給して実験し、図7cと7dは、マウスを4匹ずつ5グループに分けて8週齢になったときから16週齢まで各々同一種類の餌を供給して実験した結果である。*は対照群に比べてp<0.01の有意差があることを示すものであり、#は2−hydroxy−TTBA及びリチウムの複合投与群と2−hydroxy−TTBA (或いはリチウム)投与群との間にp<0.01の有意差があることを示す。
G93A マウスの体重は18週齢になったとき普通のマウスに比べて58%まで減量された。2−hydroxy−TTBAやリチウム(Li)を12週から経口投与したとき各々の薬物によって41%、そして53%の体重減少を見せた。しかし、2−hydroxy−TTBAとリチウム(Li)薬物を同時に投与後18週齢になったときに、正常マウスに比べて32%まで減少され薬物を処理しなかったものに比べてかなり体重減少を抑制した(図6a)。 G93A マウスは2−hydroxy−TTBAやリチウム(Li+)を投与したとき薬物を投与したマウスに比べて11週齢から18週齢まで種々の行動遂行能力が向上した(図6b〜図6d)。PaGEテストを通じた欠損とRotarodテストを通じた欠損を用いた発病時点(Onset)と死亡率(mortality)とを各グループ当たり13匹に対して測定した。伸筋伝導反射(Extension reflex)、全般的運動力、行動の調和において2−hydroxy−TTBAやリチウム(Li+)を各々供給したときに薬物が供給されなかったグループに比べて全般的に行動能力が向上したことを確認した。また、PaGEを通じた発病時点を観察したとき、薬物を供給しなかったグループは104日、2−hydroxy−TTBAのみを供給したグループは114.1日、リチウム(Li+)のみを供給したグループは113.3日で、各々の薬物を処理したときに発病時点が遅延されることを確認した。2−hydroxy−TTBAとリチウムを長期投与したとき、G93A マウスにおける発病時点と生存率の延長効果をまとめて下記表2に示し、各グループ当たり13匹で実験した。
Figure 0005208369
上記表2と図7aに示したように、2−hydroxy−TTBAとリチウムとを同時に供給したG93A マウスはPaGEテストを通じた発病時点が127.6日でかなり延長されたことが確認された。Rotarodテストを通じた発病時点は、薬物が供給されなかったグループは98.7日、2−hydroxy−TTBAのみ供給したグループは112.3日、リチウムのみ供給したグループは114.7日、二種類の薬物を複合投与したグループは121.5日であって、各々の一種類の薬物のみ供給したときより二種類の薬物を供給したときに相乗作用を見せた。生存能力は薬物を供給しなかったグループが125.3日、2−hydroxy−TTBAのみ供給したグループは143.8日、リチウムのみ供給したグループは137.2日、二種類の薬物を複合投与したグループは152.1日であって生存能力も二種類の薬物を混用して供給したときにさらに延長されることが確認できた(表2、図7b)。最後に、腰髄に位置した運動神経細胞の保護効果をクレシルバイオレット染色法を用いて動物が16週になったときに比較実験を施した。薬物を供給されなかったG93A マウスにおける運動神経細胞は74%まで減少し、2−hydroxy−TTBAやリチウムを各々供給したときに57%及び58%の減少率を見せ、二種類の薬物を複合投与したときに普通のマウスより17%の減少率を見せ、運動神経細胞の死滅の程度を遅延させる効果もやはり二種類の薬物を複合投与したときに上昇することが確認された。
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明の薬学製剤またはキットが適用され得る具体的な疾患に対して説明する。しかし、下記の適用例は本発明の理解を助けるために提供されるものであって本発明の範囲を限定するのではなく、前述したように後述する具体的病名以外の神経細胞の死滅と関連した疾患にも本発明の薬学製剤及びキットは有効である。
<適用例1> ルーゲリック病(Lou Gehrig Disease or Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)
ルーゲリック病(Lou Gehrig Disease)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS:amyotrophic lateral sclerosis)または運動ニューロン疾患(MND : motor neuron disease)などと呼ばれる病気であって、運動神経細胞の退行性変化による漸次的な損傷がこの疾患の特徴である。ルーゲリック病における選択的な運動神経死滅の原因に対して様々な仮説が立てられた。
第一、興奮性神経毒性がALSにおける細胞死滅の過程に関与すると知られている。ALS患者は神経膠細胞にあるグルタメート輸送蛋白質が減少されており、イオン性グルタメート受容体のアゴニストをマウスの脊椎に注入すればALS患者に類似な病理学的変化を示すと報告されている(Rothstein et al., 1995; Ikonomidou et al., 1996)。第二、興奮性神経毒性以外にも酸化的毒性がALSで神経細胞の死滅に関与するという証拠が集まれている。SOD−1遺伝子変異の最近の発見は、遺伝的ルーゲリック病における酸化的毒性の重要性を刺激した(Robberecht W,2000)。しかも、この患者の脳から酸化的毒性の指標である蛋白質カルボニル群及びニトロチロシンの増加が報告された(Abe K et al., 1995; Shaw PJ et al., 1995)。第三、最近ルーゲリック病モデルにおける運動神経の死滅は細胞枯死と連関しているという論文が多く報告されており、細胞枯死の重要性を証明している(Sathasivam et al., 2001)。
従って、本発明の薬学製剤またはキットを用いるか細胞壊死抑制剤とリチウムとを併用すればルーゲリック病をさらに有効に治療できる。
<適用例2> アルツハイマー性痴呆(Alzheimer’s disease; AD)
アルツハイマー性痴呆は、痴呆の原因のうち最も多い形態である。病理組織学的には、神経纖維の多発性病変(neurofibrillary tangle)、アミロイドプラーク(amyloid plaque)と深刻な神経細胞の死滅などがアルツハイマー性痴呆の特徴である。最近アルツハイマー性痴呆で観察される神経細胞の死滅が酸化的ストレスと連関しているという論文が多く報告されている。
第一、自由ラジカルの生成を刺激できるメタル基(Fe、Al、そしてHg)の増加、第二、脂質過酸化の増加、第三、蛋白質及びDNAの酸化などがアルツハイマー病で増加していると知られている(Olanow CW et al., 1994; Markesbery W.R.1997)。また、NMDA受容体の拮抗剤であるメマンチンは痴呆モデルにおいて学習及び記憶能力の改善効果を示し、痴呆治療剤として市販されることによって、痴呆において興奮性毒性が関与するということを間接的に示している(Minkeviciene R et al., 2004)。アルツハイマー性痴呆でカスパーゼ−3とカスパーゼ−9の活性による枯死が観察されることによって、細胞枯死の可能性も最近多く提起されている(Kang et al., 2005; Chong ZZ et al., 2005)。
従って、細胞壊死に対する神経細胞の保護効果を示す本発明による細胞壊死抑制剤は、細胞枯死に対する神経細胞の保護効果を示すリチウムとともにアルツハイマー性痴呆治療剤として用いられることができて、このような二種類の薬物を併用すれば治療効果を向上させ得る。
<適用例3> パーキンソン病(Parkinson’s disease)
パーキンソン病は黒質に存在するドーパミン神経細胞の死滅が伴って、振顫、筋肉硬直、運動緩徐、非正常的姿勢、運動不能などの多様な症状を示す退行性神経系疾患である。
神経細胞の壊死の主要原因として酸化的毒性が提示されているが、脂質過酸化(Lipid peroxidation)、DNA酸化(DNA oxidation)、蛋白質カルボニル及びニトロチロシン(protein carbonyl、nitrotyrosine)の増加が黒質で発見されると報告された(Sriram K et al., 1997; Wu DC et al., 2003)。そして、数々のNMDA受容体の拮抗剤はパーキンソン病の動物モデルにおいてドーパミン神経細胞の死滅を抑制した(Brouillet e and Beal MF, 1993)。また、パーキンソン病の動物モデルから細胞枯死の証拠が(例えば、カスパーゼの発現及び活性)報告された(Hartmann A et al., 2000 and 2001)。
従って、細胞枯死を選択的に抑制して神経細胞を保護する本発明のリチウムと細胞壊死抑制剤とを含有する薬学製剤またはキットはパーキンソン病の治療に非常に有効に用いられ得る。
<適用例4> ハンチントン病(Huntington’s disease)
ハンチントン病(HD)は主に脳線条体の連合ニューロン(interneurons)の死滅を伴うが、このようなHDの病理学的特性はNMDA受容体のアゴニストを処理すれば類似に再現されるため、HDで現れる選択的神経細胞の死滅はNMDA受容体を媒介とすると知られている(Koh et al., 1986; Beal MF et al., 1986)。
そして、ハンチントン病患者のサンプルでTUNEL−positivieな細胞が観察されカスパーゼ−3やカスパーゼ−9の活性及びbcl−2の増加は細胞枯死に関与すると知られている(Kiechle et al., 2002; Vis JC et al., 2005)。また、ミトコンドリアの損傷、活性酸素の生成を初めとした酸化的毒性がHDにおいて神経細胞の死滅の主原因であるという証拠が集まれ、活性酸素を抑制する薬物がHD治療剤として提示されている(Perez−Severiano F et al., 2003; Rosenstock TR et al., 2004)。
従って、本発明によってリチウムと細胞壊死抑制剤とを共に投与すればハンチントン病を有効に治療または予防できるということが分かる。
<適用例5> 虚血性脳卒中(Hypoxid ischemia)
脳卒中は脳の血液循環障害(血栓症、塞栓症、狹窄症)によって起こる疾患であって、その結果神経細胞の死滅が起こるようになる。脳卒中が起これば興奮性神経伝達物質であるグルタメートが神経細胞の連接部位で蓄積されCa2+透過性グルタメート受容体の過度活性により神経細胞の死滅が速く進まれる。実際に、NMDA受容体の拮抗剤は脳卒中の80%を占める虚血性脳卒中による脳細胞死滅を顕著に減少させると知られている(Simon RP et al., 1984)。脳卒中が起こった後ミトコンドリア内の電子伝達系(electron transport system)が損傷され活性酸素の生成が増加するようになる。増加した活性酸素は、細胞膜脂質の破壊、遺伝子の損傷、蛋白質変性などを誘導して神経細胞の壊死が起こり、これに対して抗酸化剤は虚血性神経細胞の壊死を抑制する効果がある(Yamaguchi T et al., 1998)。また、これ以外にも脳卒中後虚血部位(ischemic area)の半陰影地域(penumbra zone)でDNAラダー(ladder)とTUNEL染色のような細胞枯死の特徴も観察されることから細胞の枯死と壊死とが同時に起こることが分かる(Hu X et al., 2002)。
従って、本発明のリチウムと細胞壊死抑制剤との同時投与は脳卒中を効率的に予防または治療できる。
<適用例6> 退行性脳及び脊髄損傷(Traumatic brain injury and spinal cord injury)
興奮性神経毒性は外傷性脳損傷(TBI)及び脊椎損傷(TSCI)後に現れる脳細胞の退化にも密接に関与する。NMDA受容体の拮抗剤はTBI及びTSCI後に現れる神経細胞の死滅を減少させると知られている(Faden AI et al., 1988; Okiyama et al., 1997)。
酸化的毒性及び細胞枯死は外傷性脳損傷(TBI)及び脊椎損傷(TSCI)後に現れる脳細胞の退化にも密接に関与する。脳及び脊椎の損傷は下半身麻痺と四肢麻痺を起こして損傷部位から遠くにある部位まで神経細胞の死滅が観察されるが、これに対する治療剤や治療法が開発されていない実情である。脳及び脊髄損傷にはCa2+の流入、細胞膜の崩壊、酸化的毒性による脂質の過酸化が観察されると報告され(Faden AI & Salzman S, 1992; Juurlink BH and Paterson PG, 1998)、最近には細胞の死滅が2次損傷に関与するという証拠が提示されており、細胞枯死に関与する酵素であるカスパーゼ抑制剤が神経細胞の枯死を減少させると報告された (Clark RS et al., 2000; Li M et al., 2000; Keane RW et al., 2001)。
従って、本発明の細胞壊死抑制剤及びリチウムの複合剤及び併用療法は脳及び脊髓損傷の治療に有効に用いられ得る。
<適用例7> 緑内障(Glaucoma)、黄斑部変性 (macular degeneration)及び糖尿病性網膜症
緑内障(glaucoma)の場合、眼圧の増加により網膜への血流が塞がれることによって網膜神経細胞は虚血状態になり、このとき神経伝達物質であるグルタメートが神経連接に過量分泌され興奮性毒性が起こり、最近虚血による枯死の証拠が多く発表されている。また、血液の再貫流の際に生成される活性酸素による網膜神経細胞の死滅が起こるようになると知られている(Osborne NN et al., 1999; Tempestini A et al., 2003)。また、最近細胞壊死抑制剤(抗酸化剤及びNMDA受容体の拮抗剤)及び細胞枯死抑制剤を緑内障の動物実験に用いて視神経細胞の死滅を抑制する結果が報告されている(Neufeld AH et al., 2002; Richer S et al., 2004; Kim TW et al., 2002; Hartwick AT et al, 2001;)。
また、糖尿病性網膜症(retinopathy)と黄斑部変性(macular degeneration)の神経細胞の退化も活性酸素の増加、興奮性毒性及び細胞枯死が観察されるという報告が多くある (Lieth e et al., 2000; Moor P et al., 2001; Barber AJ., 2003; Joussen AM et al., 2003; Simonelli F et al., 2002)。
従って、このような視神経細胞の枯死及び細胞壊死を抑制するためには、本発明によるリチウムと細胞壊死抑制剤とを複合的に処理することが治療に非常に効果的であろうと期待される。
本発明は、神経細胞の壊死は抑制するが神経細胞の枯死は抑制しない細胞壊死抑制剤と、神経細胞の枯死は抑制するが神経細胞の壊死は抑制しないリチウムとを共に含む薬学製剤またはキットとこれらを用いる併用療法を提供する。このような薬学製剤などは活性酸素などの様々な原因による神経細胞の死滅及び細胞の枯死を同時に抑制できるだけでなく相互補完的に作用してシナジー効果を示すことができる。
図1a〜図1cは、酸化的毒性により誘導された細胞壊死に対するビタミンE、2−hydroxy−TTBA、2−hydroxy−TPEA及びリチウムの効果を示した図であって、図1aは、FeClにより誘導された細胞壊死に対するビタミンE、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸(2−hydroxy−TTBA)及び2−ヒドロキシ−5−(2−(4−トリフルオロメチルフェニル)エチルアミノ)−安息香酸(2−hydroxy−TPEA)の効果を示した図である(●: FeCl+2−hydroxy−TTBA,○: FeCl+2−hydroxy−TPEA,▼: FeCl+ビタミンE,▽: 50μM FeCl単独)。 図1bは、DL−ブチオニン(buthionine)−[S,R]−スルホキシミン(sulfoximine)(グルタチオン欠乏誘導物質、BSO)による細胞壊死に対する2−hydroxy−TTBAと2−hydroxy−TPEAの効果を示したグラフである(●: BSO+2−hydroxy−TTBA,○: BSO+2−hydroxy−TPEA,▼: 10mM BSO 単独)。 図1cは、リチウムがFeCl及びBSOにより誘導される酸化的毒性を抑制することができないことを示すグラフである。 図2a及び2bは、細胞枯死に対するビタミンE、2−hydroxy−TTBA、2−hydroxy−TPEA及びリチウムの効果を示すグラフであって、図2aは、リチウムがシクロスポリンA(CsA)またはカリキュリンA(Cal A)による細胞枯死を抑制する程度を示したグラフである(●: 20μM CsA 単独,○: CsA+リチウム,▼: 10nM Cal A 単独,▽: Cal A+リチウム)。 図2bは、ビタミンE、2−hydroxy−TTBA及び2−hydroxy−TPEAがシクロスポリンAによる細胞枯死を抑制する程度を示したグラフである。 図3a〜図3cは、ALS動物モデル(G93A transgenic mice,Tg(+))の脊髓の腰髄部位(lumbar spinal cord)における酸化的毒性及び細胞死に対して分析したグラフであって、図3aは、8週齢の普通のマウス(a,c)或いはG93A マウス(Tg(+))(b,d)の脊髓において、腰髄部位(lumbar spinal cord)にMitoTracker CM−H2XROS(赤色)とNeuN(緑色)とで二重免疫染色し(下側図)、ニトロチロシン抗体で(上側図)免疫染色法を通じて観察した蛍光写真である。矢印は、運動神経細胞(motor ニューロン)を示す。 図3bは、4週齢〜14週齢のG93A マウス(Tg(+))の腹側(ventral)の運動神経細胞におけるニトロチロシンの蛍光強度を分析したグラフである(mean±SEM、N=5マウス/実験群、それぞれ5section/マウス)。図3bにおいて、*は、インディペンデンスtテスト(independence t test)を用いて対照群(普通のマウス(Tg(−))に比べてp<0.05の有意差があることを示す。 図3cは、G93A マウス(Tg(+))の脊髓における運動神経の退化を示す図であって、腰髄(lumbar)の腹側(ventral)突起(horn)に生存している運動神経細胞の数はクレシルバイオレット(Cresyl violet)染色法により分析した(mean±SEM、N=5マウス/実験群)。 図4a〜図4dは、ALS動物モデルにおけるFasと関連した細胞枯死の経路(pathway)の活性化を示す図であって、図4aは、普通のマウス(Tg(−))とG93A マウス(Tg(+))との腰髄部位においてFas、FADD及びアクチン(actin)抗体を用いてウェスタンブロットを行った写真(上側図)及び同じサンプルにおいてFasとFADD抗体を用いて免疫沈澱法を行った写真である(下側図)。 図4bは、12週齢の普通のマウス(Tg(−))とG93A マウス(Tg(+))との脊髓において運動神経細胞をFas抗体で染色した写真である。 図4cは、指定された週齢で普通のマウス(Tg(−))とG93A マウス(Tg(+))との腰髄部位を修得して活性化カスパーゼ−8(activated caspase−8)、活性化カスパーゼ−3及びアクチンを用いてウェスタンブロットを行った写真である。 図4dは、12週齢の普通のマウス(Tg(−))とG93A マウス(Tg(+))との脊髓において運動神経細胞を活性化カスパーゼ−3抗体で染色した写真である。 図5a〜図5fは、ALS動物モデルの運動神経細胞の酸化的毒性及び細胞枯死に対する2−hydroxy−TTBAとリチウムとの効果を示した図であって、図5aは、30μM FeClまたは10mM BSOにより誘導される酸化的毒性に対する2−hydroxy−TTBAの保護効果を示したグラフである。 図5bは、血清除去により誘導される細胞枯死に対するリチウムの細胞保護効果を示したグラフである。 図5cは、血清除去により誘導されるFas/FADDと関連した細胞枯死の経路に対するリチウム及びzVADの抑制効果を示したグラフである。 図5dは、10週齢の普通のマウス(Tg(−))、それぞれ2週間生理食塩水(0.9% NaCl)及び2−hydroxy−TTBAが食餌として供給されたG93A マウス(Tg(+))の脊髓の腰髄部位の組織にニトロチロシンで免疫染色した写真と蛍光強度を定量化したグラフである。 図5eは、酸化されたMT red CM−H2XRosの蛍光強度を測定したことを除いては図5dと同一の実験を施した結果である。 図5fは、12週齢の普通のマウス(Tg(−))、それぞれ4週間生理食塩水(0.9% NaCl)、2−hydroxy−TTBA及びリチウムが食餌として供給されたG93A マウス(Tg(+))の脊髓の腰髄部位の組織を、Fas、FADD、分割されたカスパーゼ−8(cleaved−caspase−8)及び分割された-カスパーゼ−3抗体を用いてウェスタンブロットを行った写真である。 図6a〜図6dは、ALS動物モデルにおける2−hydroxy−TTBAとリチウムとの複合投与による運動機能の相乗作用を示す図であって、図6aは、各グループの体重を週齢毎に示す図である(●: 普通のマウス(Tg(−)control),○: G93A マウス(Tg(+)vehicle),▼: Tg(+)に2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)を投与した群(Tg(+)2−hydroxy−TTBA),△: Tg(+)に0.2% リチウムカーボネートを投与した群(Tg(+)リチウム),■: Tg(+)に2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)と0.2% リチウムカーボネートとを複合投与した群(Tg(+)2−hydroxy−TTBA+リチウム))。 図6bは、伸筋伝導反射(extension reflex)の実験結果を各週齢毎に示す図である。 図6cは、四肢の筋力をテストするためのPaGE実験結果を各週齢毎に示す図である。 図6dは、全般的な歩行及び調和された筋肉運動を行う程度をテストするためのローターロッド(rotarod)の実験結果を各週齢毎に示す図である(●: G93A マウス(Tg(+) vehicle),○: Tg(+)に2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)を投与した群(Tg(+) 2−hydroxy−TTBA),▼: Tg(+)に0.2% リチウムカーボネートを投与した群(Tg(+)リチウム),△: Tg(+)に2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)と0.2% リチウムカーボネートとを複合投与した群(Tg(+)2−hydroxy−TTBA+リチウム))。 図7a〜図7dは、ALS動物モデルで2−hydroxy−TTBAとリチウムとの複合投与による発病時点、生存力または運動神経細胞退化の遅延に対する相乗作用を示す図であって、図7aは、グループ毎に発病時点(Onset)を確率で計算したグラフである。 図7bは、グループ毎にマウスの生存率を確率で計算したグラフである。 図7cは、クレシルバイオレット染色法を用いて普通のマウス(a)と、G93A マウス(b)と、8週齢〜16週齢のG93A マウスに2−hydroxy−TTBA(30mg/kg)及び0.2% リチウムカーボネートを複合投与した群(c)との運動神経細胞を示す図である。 図7dは、各グループ毎にクレシルバイオレット染色された生存している運動神経細胞の数を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 細胞壊死抑制剤、及びリチウムまたはこれの薬学的に許容可能な塩を含み、
    上記細胞壊死抑制剤は、下記化学式2で表されるテトラフルオロベンジル誘導体とこれの薬学的に許容可能な塩、から構成された群より選択された何れか一つ以上であることを特徴とする、ルーゲリック病、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、外傷性脳損傷及び外傷性脊髄損傷から構成された群より選択された何れか一つ以上の脳疾患または、緑内障、老人性黄斑変性及び糖尿病性網膜症から構成された群より選択された何れか一つ以上の眼疾患の治療または予防用薬学製剤
    Figure 0005208369
    上記化学式2において、
    、R及びRは、それぞれ水素またはハロゲンであり、
    は、ヒドロキシ、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ハロゲンに置換されたアルコキシ、アルカノイルオキシまたはニトロであり、
    は、カルボキシ酸、炭素数1ないし4のアルキル基を有したエステル、カルボキシアミド、スルホン酸、ハロゲンまたはニトロである。
  2. 上記テトラフルオロベンジル誘導体は、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−ニトロ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−クロロ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−ブロモ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジルアミノ)−安息香酸、2−メチル−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、2−メトキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸、5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−2−トリフルオロメトキシ安息香酸、2−ニトロ−4−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)フェノール、2−クロロ−4−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)フェノール、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)ベンズアミド、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)ベンゼンスルホン酸、メチル2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸塩、2−エタノイルオキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸、2−プロパノイルオキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸、2−シクロヘキサンカルボニルオキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)安息香酸及びこれらの薬学的に許容可能な塩から構成された群より選択された何れか一つであることを特徴とする請求項1に記載の薬学製剤。
  3. 上記テトラフルオロベンジル誘導体は、2−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−トリフルオロメチル−ベンジルアミノ)−安息香酸またはこれの薬学的に許容可能な塩であることを特徴とする請求項に記載の薬学製剤。
  4. 細胞壊死抑制剤、及びリチウムまたはこれの薬学的に許容可能な塩を含み、
    上記細胞壊死抑制剤は、下記化学式2で表されるテトラフルオロベンジル誘導体とこれの薬学的に許容可能な塩、から構成された群より選択された何れか一つ以上であることを特徴とする、ルーゲリック病、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、外傷性脳損傷及び外傷性脊髄損傷から構成された群より選択された何れか一つ以上の脳疾患または、緑内障、老人性黄斑変性及び糖尿病性網膜症から構成された群より選択された何れか一つ以上の眼疾患の治療または予防用薬学キット
    Figure 0005208369
    上記化学式2において、
    、R及びRは、それぞれ水素またはハロゲンであり、
    は、ヒドロキシ、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ハロゲンに置換されたアルコキシ、アルカノイルオキシまたはニトロであり、
    は、カルボキシ酸、炭素数1ないし4のアルキル基を有したエステル、カルボキシアミド、スルホン酸、ハロゲンまたはニトロである。
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