JP5189704B1 - 山地河川流域の流量推定用回帰関数の演算方法、同関数の選定方法、および山地河川流域の年平均流量推定方法 - Google Patents
山地河川流域の流量推定用回帰関数の演算方法、同関数の選定方法、および山地河川流域の年平均流量推定方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】市販の地形図に基づき、検討河川流域(複数流域対象)の標高帯別標高と、標高帯別面積,これらを入力データとして流域地形を立体的に捉えた流域立体地形相関面積Aeqと流域立体地形相関標高Heqとを相互独立かつ一義的に算定し、かつ流域地形勾配Seqを算定し、少なくともこれらAeq、Heq、Seqとを変数中に含む河川流量の回帰関数を誘導する。この回帰関数を適用して流量測定が行われていない地点の推定流量を演算する。さらにこの回帰関数を適用して河川流量の推定を行うと共に、検証誤差率を算出して回帰関数の適否の評価を可能にする。
【選択図】図1
Description
測水所流域の標高帯(j)ごとの山地の斜面面積である標高帯別面積データ(aj)と、標高帯(j)ごとの平均標高データである標高帯別標高データ(Hcj)
、下記式で計算される流域地形勾配(Seq)とを前記コンピューターシステムの記憶部に保存し、
前記記憶部に保存されている標高帯別面積データ(aj)と標高帯別標高データ(Hcj)とを標高帯(j)ごとに乗算し、この乗算した値を全標高帯(j=1〜n)について加算することによって流域特性値(CAP)を算出し、
一方、標高帯(j)の標高帯別面積データ(aj)を用いて、次の式により最低標高点から標高Hcj面までの実地表面面積(acj)を求め、
当該Zcjが前記流域特性値(CAP)と略一致する点のacj、Hcjの値を求め、それぞれ流域立体地形相関面積(Aeq)、流域立体地形相関標高(Heq)とし、
各測水所流域における年平均流量の測定値Qmean、対応する測水所流域の前記流域立体地形相関面積(Aeq)、前記流域立体地形相関標高(Heq)、流域地形勾配(Seq)の各データ、および、技術計算ソフトウェアであるmathcad(登録商標)のregress関数を用いて、少なくとも流域立体地形相関面積(Aeq)と、流域立体地形相関標高(Heq)と、流域地形勾配(Seq)とを変数中に含む山地河川流域の年平均流量の回帰関数を算出することを特徴とする山地河川流域の流量推定用回帰関数の演算方法に関する。
測水所流域の標高帯(j)ごとの山地の斜面面積である標高帯別面積データ(aj)と、標高帯(j)ごとの平均標高データである標高帯別標高データ(Hcj) 、流域地形勾配(Seq)に加えて経度(Lon)と緯度(Lat)とを前記コンピューターシステムの記憶部に保存し、
次に、各測水所流域における年平均流量の測定値Qmean、対応する測水所流域の前記流域立体地形相関面積(Aeq)、前記流域立体地形相関標高(Heq)、流域地形勾配(Seq)、経度(Lon)と緯度(Lat)の各データ、および、技術計算ソフトウェアであるmathcad(登録商標)のregress関数を用いて、少なくとも流域立体地形相関面積(Aeq)と、流域立体地形相関標高(Heq)と、流域地形勾配(Seq)と、経度(Lon)と緯度(Lat)を変数中に含む山地河川流域の年平均流量の回帰関数を算出することを特徴とする山地河川流域の流量推定用回帰関数の演算方法に関する。
所定の地域内の測水所数mケ所より成る測水所群における年平均流量測定値をデータとして上記(1)または(2)に記載の方法により回帰関数を算出した後、
前記測水所群中の任意の一の測水所である測水所i0(i0=1,2,,,m)を検証地点として抽出する一方、当該算出した回帰関数を適用して前記測水所群の各測水所の年平均流量の推定値を演算し、
当該推定値とその測水所における年平均流量の測定値との間に生ずる推定誤差の推定誤差率をεinとおき、
つぎに前記mケ所より成る測水所群中より前記測水所i0を除去した残りm-1ケ所より成る測水所群を新たなデータ測水所群として、上記(1)または(2)に記載の方法により新たに回帰関数を算出し、
当該算出した回帰関数を適用して前記測水所i0の年平均流量の推定値と該測水所i0の年平均流量の測定値との推定誤差率εoutを算出し、
両推定誤差率εinとεoutとの差をΔεとして、前記測水所i0をi0=1,2,,,mについて順繰りに1測水所づつ検証地点として抽出することによって、全測水所群中の測水所数mだけ差Δεを算出し、
これらm個の差Δεの内、絶対値の最大値を与える検証地点の推定誤差率εoutを以て検証誤差率maxεoutと定め、
該検証誤差率maxεoutの値が許容基準を満たす回帰関数のみを合格関数として出力することを特徴とする山地河川流域の流量推定用回帰関数の選定方法に関する。
流量測定が行われていない地点の流域の標高帯(j)ごとの山地の斜面面積である標高帯別面積データ(aj)と、標高帯(j)ごとの平均標高データである標高帯別標高データ(Hcj)
と、下記式で計算される流域地形勾配(Seq)とを前記コンピューターシステムの記憶部に保存し、
前記記憶部に保存されている標高帯別面積データ(aj)と標高帯別標高データ(Hcj)とを標高帯(j)ごとに乗算し、この乗算した値を全標高帯(j=1〜n)について加算することによって流域特性値(CAP)を算出し、
一方、標高帯(j)の標高帯別面積データ(aj)を用いて、次の式により最低標高点から標高Hcj面までの実地表面面積(acj)を求め、
当該Zcjが前記流域特性値(CAP)と略一致する点のacj、Hcjの値を求めて、それぞれ流域立体地形相関面積(Aeq)、流域立体地形相関標高(Heq)とし、
当該流域立体地形相関面積(Aeq)と、当該流域立体地形相関標高(Heq)と、流域地形勾配(Seq)との各データに、上記(1)または(2)に記載の方法により算出した回帰関数または上記(3)に記載の方法により出力した合格関数を適用して、流量測定が行われていない地点の流域の年平均流量の推定値を演算することを特徴とする山地河川流域の年平均流量推定方法に関する。
(2)また本発明に係わる山地河川流域の流量推定用回帰関数の選定方法によれば、検証誤差率を算出することによって、回帰関数の適否の評価を行うことができるので、より精度の高い推定値を採択することができる。
(4) 一般に、山地高地帯を流下する河川の実流量は、従来慣用の流域比計算によって下流地点における流量測定値に基づいて算定される推定値より大である。従ってこれまで経済性無しとして放棄されてきた山地高地部河川の開発計画が、実際には経済性に富む地点であることが多いことがわかってきた。よって本発明は新たに山地高地部河川流量の高精度算定法を確定するものである。
以下に、上記の流量演算支援システム1を用いて、山地河川の流量を推定する方法について説明する。
以下、図面を参照しながらこの算出処理の手順について説明する。
本発明においては、流域立体地形特性値(CAP)に加えて、流域地形勾配(Seq)が必須要素であることを発見して、本発明を完成した。後述する流域立体地形特性値(CAP)に先立って、流域地形勾配(Seq)について述べる。
(1.流域特性を表す指標とその算定)
(1.1 流域地形勾配(Seq)の算出処理)
流域地形勾配(Seq)は、下記式によって計算される。
流域地形勾配(Seq)は、山地河川流域の流量を推定するために今まで用いられてこなかった指標値であり、本発明者が始めて本発明において採用した指標値である。本発明者は、元来自然地形は3次元の形態をもつから立体地形指標は3個の基本指標の一義的組合せによって表現さるべきであるとの発想の下、本発明者は流域立体地形相関面積Aeqと流域立体地形相関標高Heqとの2指標に加えて種々の指標を検討した結果、流域地形勾配指標Seqを導入することに想致し、流域立体地形相関面積Aeq、流域立体地形相関標高Heq、流域地形勾配指標Seqを用いることによって、流量測定が行われていない地点の流域の山地河川の流量を効率的に精度良く推定できるようになることを見出した。
(1.2.1.流域立体地形特性値(CAP))
流域地形をAeqとHeqの2指標の積CAPによって表す。CAPの概要は以下の通りである。
河川の一定地点、例えば測水地点のもつ流域面積とはこの地点の河川水位を最低標高面とし、この地点から発し左右両岸に続く稜線を連ねて最高峰に到る連続した閉曲線によって囲まれた区域(流域)の水平面への鉛直投影面積として定義される。この流域内に発する河川流量は、特別の場合(断層破砕帯が流域境界を横断する場合等)を除き、他流域に流出することなく、すべて上記一定地点に流下する。
を定義すると、zjは標高帯jが持つ一種の地形指標を表す。上でみたようにあるj点においてピークをもつajと、増加一方のHcjの積zjはピークは異なるが、ajと同様、あるピークを持つ曲線となる。ここで標高帯の総数をnとおいて
とすればCAPは当該流域の特有値となる。以降流域の立体地形特性値としてCAPを採用する。なお、上式中のajとHcjは市販の2万5千分の1、5万分の1地形図等によって算定可能である。
水平面への投影面積Ajをもつ標高帯jへの全降水量Rjはこの水平面の単位面積当り降水量をrjとおけば
によって表される(図3)。多くの標高帯は水平面に対して傾斜している。
この傾斜角をθj実斜面面積をajとおくとajはAjより大で
とおけば式(6)は次式となる。ここにc0,c1は常数である。
よって降水量rj, Rjは地形特性値Hj, Ajの関数として表すことができる。
となる。さて地表面上の降水の比重は1であるからRjの質量をMjとおけば
となり、Mjなる質量は標高帯jにかかる荷重となる。しかるときは周知の公式によりMjは平均海水面に対して
なるポテンシャルエネルギーをもつ。
となる。この式のrjに式(8)を代入すれば
流域立体地形特性指標CAPは流域の平面面積CAに変るべき指標として、上記の処理手順によって求めた。しかしながら山地河川流域の地形の変化は多様であるため、例えば2つの流域のCAPの値は等しいにも拘らず、それぞれの流域流量は明らかに異なるという場合もあり得る。このような2流域を区別するためにはCAPを、さらに面積を表す単一指標と標高を表す単一指標の積に分解する必要がある。即ち、式(4)のCAPは標高帯面積ajと垂直方向高Hcjとの積の総和として定義されているので、流域のもつ水平方向特性と垂直方向特性を明確に区別した指標とはなっていない。よって以下の処理手順によってCAPを分解し、流域の平面的な特性のみを表す単一指標と,垂直方向特性のみを表す単一指標の積として表す。
一方、標高帯jの平均標高Hcjと式(15)のacjに基づき、Hcとacの積をZcとして
を定める。ここにHcj,acjはそれぞれ別個に算定される値であるが、あるjの値のときにのみZcjがCAPに一致する。この一致点のHcj,acjの値をそれぞれ独立のトライアル計算によって求め、それぞれHeq, Aeqとおけば
となりAeq,Heqが求まる。トライアルの具体的計算手法については後記するがその際,Aeq, Heqのそれぞれは各々別個の計算によって求められることを示す。 以上によりわかるとおり、Aeq, Heqの組合せは相互独立でかつ一義的に確定される値である。従ってAeqとHeqの組合せは対象流域の立体地形を一義的に表す基本指標の組合せとなる。この故に以降Aeqを流域立体地形相関面積、Heqを流域地形相関標高と呼ぶこととする。
具体的なaj Hcjの算定法は下記のとおりである。
標高帯 jの水平面積(鉛直投影面積)を AjとおけばAjはこの標高帯を挟む上下等高線HciとHci+1の流域面積AiとAi+1の差として算定できる(図2)。
標高帯jの中心線長ljはHc j とHc j+1 の平均高Hc j の等高線長であって、地形図において図上測定できる。よって標高帯jの平均水平巾wjは次式により算定できる。
また、標高帯jの平均標高をHcjとおくとHcjは次式により算定される。
かくして算定されたajとHcjを式(3)に代入してzjを,(4)に代入してCAPを求めることができる。
ajとHcjは地形図上における測定値に基づき算定される値であるから、与えられた対象流域については、これらaj とHcj に基づいて式(4)によって算定されるCAP値はそれぞれの流域の固有値となる。
以上により流域の立体地形特性を一義的に表したCAPの算定を終る。
以下、上記において誘導した諸式の具体的算定過程を札59奥美瑛測水所流域を例に採り示す。
算定対象流域:札59奥美瑛測水所流域 使用地形図: 1/50000 十勝岳、十勝川上流、旭岳、志比内
流域内最高点標高:2077m(十勝岳),最低点標高:605m(推定測水地点)
地形図上にて等高線別流域面積を測定した結果を次表に示す。等高線間隔は100mおきを基準とした。表中に使用した諸記号はそれぞれ次値を表す。
i:等高線カウンター, Hc:等高線標高(m), CA:各等高線の囲む流域面積(km2),
j:標高帯カウンター, Aj:標高帯の水平底面積(km2)
Aj=CAi+1−CAi
式(2)のw j 及びその算定例として札59奥美瑛測水所について言及する。
例として、Hcq=1450mの標高帯の水平幅w j の算定過程を示す。
w j は、標高1400mと1500m等高線間の流域実斜面の表面面積を、同一水平面上に投影した帯状面積A j =6.53km 2 (表2のj8行参照)を標高1450mの等高線長l j =27.4km(Ajと同じj8行参照)によって除した下記式によって与えられる。即ち、w j は帯状区間の一つの平均幅を表す値である。
w j =6.53/27.4=0.238321km=238.321m
さらに、表2のh j 列の合計値はΣh j =1472m、w j 列の合計値はΣw j =4787.53855mであるから、これらを式(1)に代入してSeqを求める。これが後述の表5の奥美瑛測水所のSeq値の算出根拠である。
Seq=Σh j /Σw j =0.30746
なお図4においては vs1=lspline(Hc,a)を
図5においては vs1=lspline(Hc,z)を
図6においては vs1=lspline(Hc,ac)を
図7においては vs1=lspline(Hc,Zc) を示す。
これらの図4、図5は前述した標高帯面積aと標高帯のポテンシャルzの標高Hcに対する曲線が複数のピークをもつ曲線であることを示している。図6は標高帯の累計実面積acの標高帯中心点の標高Hcに対する変化を示し、図6の○点は、後述の計算によるHeq=1468.6413m、Aeq=60.541m2の交点である。
以下、Aeq,Heqトライアル算定例を奥美瑛測水所流域を例に採り示す。Hc,a,ac,z,Zcの地形図に基づく算定値は表2に記載のとおりである。
この表にみるようにzの値はj=0からj=7までは増加し、それ以降j=14までの間は減少に転じている。一方、Zcはj=0から最終のj=14まで増加するのみである。よって増加一方のZcの途中のj=8,9の間にzの合計値CAPに等しいZc値があることがわかる。上記トライアルはこの一致点を求める計算である。Aeq,Heqのトライアル計算は市販のソフト mathcad(MathSoft Engineering & Education,Inc.:mathcad13,2005年9月.)
の組込み関数を適用して行う(プログラムの記載省略)。
図8は流域立体地形相関面積Aeqのトライアル算定結果のプロット図である。この図においてZc=Hc・acのZcは横軸acに対する曲線として描かれている。この曲線上の点(○印)を左右に動かしてこの点の従距値がCAPに等しくなる点を見付け、この点の横距値をAeqとしたものである。このトライアルはacとZcとの関係のみに基づくAeq値の推定であり、Hcとは無関係にAeqが算定されている。
計算手法は変数の取り方が異なるだけで前項(a)と同じである。以下このプログラムの概要を示す。
図9は、流域立体地形相関標高Heqのトライアル算定結果を示す。この図においてZc=Hc・acのZcは横軸Hcに対する曲線として描かれている。トライアルは、この曲線上で○印点を左右に動かしてその縦軸値がCAPに等しくなる点の横軸値を見付けてHeq値としたものである。トライアルの結果、曲線上において縦軸値ZcがCAP=88565.608点の横軸値Hc即ちHeq値が1468.6413となることを示している。この算定はacとは無関係にHeqが算定されている。上記(a),(b)の計算においてみられるとおり、Aeq,Heqは各々別個のトライアルによって算定され相互独立な値である。但し両者の積はCAPに等しくなる。
上記において算定されたAeq,Heqがこの流域の固有値であることを確認するためつぎの検討を行う。
図8の縦軸と横軸を入替え、同様に図9の縦軸と横軸を入替え、両図を同一の横軸Zcを持つ図としてプロットすれば図10となる。図10は、 Aeq,Heqの交点が流域の固有点であることを示すプロット図である。ただしプロットに際し、Hc=1468.6413=Heqなる高さをもつ水平線と、ac=60.54165=Aeqなる高さをもつ水平線が同じ高さとなるようac軸の上限値を調整した。両曲線はZc値がCAP値に達するまでは略一致しているが、CAP点以降両曲線は分離し、相反する勾配形をもって変化している。最後の一致点は両曲線がZc=88565.60826=CAP垂直線上に達した点である。最後の一致点の縦距値はHc=1468.6413=Heq,
ac=60.54165=Aeqとなっている。よってAeqとHeqはZc値を共有する条件下におけるZcの最大値CAP垂直線上の唯一点によって表される固有点であることが確かめられた。前項(a),(b)の算定はこの固有点を見出すためのトライアルであるとみることができる。
(1.3.1 流域地質の火山岩類、非火山岩類等の構成率)
流域地質に関する既往の研究において、地頭薗隆、竹下敬司は、豊水渇水流量比は流域からの流出状況を表す指標値として用いられており、豊水渇水流量比が小さいほど流域からの流出は均等化しており、流域の水源涵養機能は高いと評価されるとしている。豊水渇水流量比の値は流域地質によって異なり、第四紀火山岩類の流域では特に小さく、ついで第三紀火山岩類、変成岩類の流域で小さく、中生層、古生層の流域で大きい傾向があると報告している。地頭薗隆・竹下敬司:山地河川の流況と流域の地形・地質との関係,日林九支研論,41,205〜206,1988参照.
本発明においては Aeq, Heq,Seq なる要因は分類ではなく算定値として数値で与えられる。よってこれら3要因に地質要因を追加するには地質要因も数値で与える必要がある。もし地質要因を分類で与えると地質要因については後節において論ずる検証誤差率が算定できないこととなり、最適回帰関数を求めることができなくなる。
なお後節において述べるように回帰関数に採用可能な変量数は、回帰関数算定のために利用可能なデータ数(対象山地内にある測水所数)によって制限される。よって測水所数が少ない山地においては上記6地質区分のすべてを変量としてもつことができない。このような場合は6区分のうち最適と考えられる区分のみを用いる。各測水所流域のこれら地質の占める面積を地質図上において測定し、流域面積に対する各区分の構成率を算定する。
κ1,,, κ6およびKv算定例を奥美瑛測水所流域について示せば次表となる。
(1.4.1 流域重心点の経度、緯度)
前記各節において、対象流域の違いによる流量の違いを生ずる要因についての数量化を行ったが、なおこれ以外にこのような数量化を行うことができない要因が数多存在する(例えば寒冷地帯高地における越年雪量を含む降水量や蒸発散量、永久凍土パルサの存在による地下水流量変化の測定等で現時点における観測測定がなされていないことによる)。これらの未測定要因を概略的にカバーするために流域の位置を表す指標を導入することが考えられる。
以下本節においては例として札59奥美瑛測水所流域重心点の算定を行う。
使用地形図:1/20万、“旭川”
(a) 経度 Lonの算定
仮定した重心点を通る経度線142°42′より東側の流域面積の測定値
A=47.685km2
同上 西側の流域面積の測定値 B=23.312km2
A-B=24.373km2
要調整面積(仮定経度線の東側への移動により調整される面積): (A-B)/2=12.1865 km2、仮定経度線長(南北方向の長さ、図上測定値): La=8.911km、仮定経度線の東側への要移動距離:
△a=12.1865/8.9115=1.3675km
流域重心点は仮定経度線を△bだけ東側に移動した南北線上にある。
経度線間隔15′の距離(東西方向の長さ、図上測定値):D a15=20.2365km
重心点の経度:Lon=142°42′+15′×△a/Da15=142°42′+1.0136′=142°43.0136′=142.7169°
仮定した重心点を通る緯度線43°28′より東側の流域面積の測定値
C=50.144km2
南側の流域面積の測定値 D=20.535km2
C-D=29.609km2
要調整面積(仮定緯度線の北側への移動により調整される面積): (C-D)/2=14.8045km2
仮定緯度線長(東西方向の長さ、図上測定値): Lc=8.195km
仮定緯度線の北側への要移動距離:△c=14.8045/8.195=1.8065km
流域重心点は仮定緯度線を△cだけ北側に移動した東西線上にある。
緯度線間隔10′の距離(南北方向の長さ、図上測定値):Dc10=18.451km
重心点の緯度: Lat=43°28′+10′×△c/ Dc10=43°28′+0.9791′=43°28.9791′=43.4830°
本節において対象とする中央山地候補流域群(灰色部分)の配置を図11に、これらの流域群について算定した流域形態指標等の総まとめを表5(表5-1と表5-2)に示す。
本章においては前章で求めた流域諸指標の一部または全部を変量とする最適回帰関数の選定を目的とする。このための理論展開に先立って、比較のため先ず従来慣用されてきた流域比による流量推定法を想起しよう。
(2.1 従来手法による目標地点流量算定法)
流域比手法は検討目標地点の流域面積と流域比算定元測水所地点の流域面積との比、即ち流域比を比例常数とし、算定元測水所地点における測定流量にこの流域比を乗じて目標地点の流量を推定する比例計算手法である。
従って流域比法は3次元立体流域の指標を2次元水平投影面上の流域面積の比として捉えており自然流域の3次元性を表す指標ではない。
又、流域比手法においては、算定元測水所は1測水所に限定されるため、算定元測水所が変わると目標地点の流量推定値も変わってくる。従って候補となる複数の算定元測水所のうち、どの測水所が最適算定元測水所であるかを選ぶことが流域比手法のポイントとなる。
逆に目標地点流域の隣接流域が複数流域存在し、その何れもが規定流域比の範囲内にある既設測水所をもつ例もある。しかしながらこれら複数の算定元測水所のそれぞれから流域比によって算定された目標地点の推定流量が大きく異なり、その何れをもって目標地点の算定元測水所とするか判断に苦しむ例もある。
なお、流域比による流量推定手法は次のとおりである。
算定元測水所i(流域面積CAi)の流域面積に対する目標地点t(流域面積CAt)の流域面積の比、即ち流域比CAratioは
よって算定元測水所iの流量測定値をQiとおけば目標地点tの流量Qtは次式により算定される。
(2.2.1 多変量回帰関数の算定)
本発明において採用する流量回帰関数の算定手法は下記のとおりである。下記各式は表現の簡素化のためHeq,Aeq,Seqの1次式3変量A1による回帰関数を示すが、変量数が3個以外の場合、また次数が2次以上の場合についても下記各式の変量項を適宜修正して適用することができる。
変量の次数をn=1次、目的変数を年平均流量Qmeanとした場合の3変量回帰関数の算定アルゴリズムは市販のソフトmathcad9)により下記諸式により与えられる。ここにQmeanはデータ地点である各測水所における年平均流量の観測値である。流域諸元値の行列をMとおく。
ここに
つぎに
とおく。ここにregressはmathcadの組込み関数で回帰関数を意味する。この式は基礎データである流域諸元行列M以外の流量変数Qおよびその次数nを含んでいる。従ってQ,nが変わると基礎データMは一定でも、Rの値は変化する。
次節に中央山地6B測水所群におけるこれら3変量A1回帰関数の適用例を示す。
上記アルゴリズムに含まれる組込み関数augment,regress,interpは一般的ではないのでQestを通常の多項式p(x,y,z)として表せば次式となる(MathSoftEngineering&
Education,Inc.:mathcad11ユーザーズガイド,2003年4月,p.310.)。いまの場合、変数の数nvars=3,変数の次数deg=1であるから多項式p(x,y,z)の項数Ntermsは次式:
この式中のx,y,zは前式(30)のx,y,zおよび(31)のHeq,Aeq,Seqと同じ基礎データで与値であり、c0,c1,c2,c3の値のみが目的変数に応じて変化する。式(31)による回帰値と多項式(33)による計算値が一致することは多くの実例地点について確認済である。ただし変数の次数が大きい場合は係数cの有効桁数を12以上にとる必要がある。
回帰関数であるregress関数の場合、入力データ値の数mは
一般に、変数の数が一定の場合、回帰関数自体の回帰精度は変数の次数が大なるほど高くなるが、反面回帰関数算定に用いた流域諸元とは異なる値を流域諸元としてもつ任意計画地点の流量推定に高次変数による回帰関数を適用すると(たとえその任意地点の諸元値が回帰関数算定の為のデータとして用いられた諸元の変化範囲内にある場合でも)異常な推定値が現れることがある。一方有意味、有効な変数の数の増加も回帰精度の向上に効果がある。例えば次表から変数の数が2の場合、2元3次連立回帰関数を解くのに必要な最小データ数は12であり,これに対して変数の数が3の場合、3元2次連立回帰関数を解くのに必要な最小データ数も同じく12である。よって2元3次関数と3元2次関数の何れを採用すべきかを検討する必要がある。さらに変量数が増えて9元となっても9元1次連立回帰関数の場合の必要最小データ数は12のままで変らない。よって最適回帰関数の選定においては、対象とする山地測水所群内において利用可能な測水データ数に基づき、採用変量とその組合せおよび変量の次数について充分な検討が必要である。後節の検証誤差率の導入及び実例測水所群についての算定においてさらに詳細検討する。
統計学では全測定値の平均値に対する個別測定値の差に着目することも多いが、これは全測定値の真値が不明の場合に用いられる算定法であって、平均値と真値とは異なる。測定値と平均値の差は偏差と呼ばれる(矢野健太郎編;数学小辞典 共立出版株式会社 偏差 deviation 1985年 p.536.)。
本発明における検討対象は、各測水所における測定流量と、この測定流量に対する回帰流量であるから、差は各測水所の回帰流量と測定流量の差となる。この差を誤差と呼ぶ(矢野健太郎編;数学小辞典 共立出版株式会社 誤差 error 1985年 p.175.)。全測水所の回帰流量の平均値と各測水所の流量回帰値の差を誤差とするのではない。
式(31)の回帰値Qestiの測定値Qiに対する誤差, 誤差率、平均誤差率、最大誤差率、分散,標準誤差率の算出式:
誤差
誤差率:
平均誤差率:
分散:
標準誤差率:
によって表される。
標準誤差率sterr(ε)は各データ点の測定値に対する回帰誤差のバラツキの平均値であるから、仮定された回帰関数の適否をみるための基本指標である。さらに最大誤差率maxεは仮定された測水所群に、この測水所群に含めるのは適当ではない測水所があるか否かを判断する指標となる。
検討対象として選定した山地測水所群内の河川流量の回帰関数を選定する場合、候補とした回帰関数の当、不当を判定するための目安として前節において定義した標準誤差率、最大誤差率の制限範囲を下記のように定める。
1級標準誤差率:sterr<2.5% 最大誤差率:maxε<5% (48)
2級標準誤差率: sterr<5% 最大誤差率:maxε<10% (49)
3級標準誤差率:sterr<10% 最大誤差率: maxε<20% (50)
各級とも標準誤差率の基準値と最大誤差率の基準値の同時成立を条件とする。
これらの許容限度を超える誤差をもつ回帰関数を採用することはできない。許容限度を超える誤差をもつ回帰関数の場合は、当初仮定したデータ数(測水所数)と変数の数(変量数)の何れか、または双方を変更して回帰関数を算定し直す必要がある。ここにデータ数の変更と変量数の変更は相互に関連している。一般に回帰関数の適用可能範囲はできるだけ広い方が望ましいから、データ数を増加すればそれに伴って変量数の増加が可能となり、この結果回帰誤差率を低下することができる。但しデータ数を増加しても変量数の増加が期待できない場合は、データ数の増加は逆に回帰誤差率の増加を招くことも起り得る。
上記変量数の増加が期待できるデータ数の増加による場合と、データ数の減少にも拘らず変量数が減少しないデータ数の減少による場合の何れを採用すべきかは、対象とする山地測水所群のそれぞれについての検討事項となる。
かくして縮小または拡大された流域群についての回帰関数を算定し、回帰誤差が許容限度以下となったときの回帰関数を以って第1次選定回帰関数とする。この第1次選定回帰関数を求める回帰を基礎回帰と呼ぶ。
回帰関数は与えられたデータ点を最も良く近似する回帰曲面を与える。しかしながら回帰関数は与えられたデータ点群が分布する領域内に存在するデータ点以外の点とは如何なる関係も持ってはいない(データ点以外の点の流量とは無関係である)。よって上記算定において求めた回帰関数を与えられたデータ点以外の点の流量推定に適用したときその点の誤差がどうなるか検討する必要がある。
maxεout=全△εのうちの絶対値が最大値を与える検証地点のεout (51)
検証地点として除外される前の検証地点は、原測水所群の流量回帰関数(原回帰関数)形成の1地点であった。この地点を除外したことにより、原回帰関数は変化した。この変化の大きさ△εは独立地点として解放された検証地点の原回帰関数への影響の大きさを示している。△εが大なるほど検証地点が原回帰関数に与えた影響が大であったことになる。
逆に原回帰関数の側からみれば任意地点となった検証地点による回帰関数変化の大きさ、すなわち新たに生じた任意計画地点に対する原回帰関数の変化の大きさを表している。この変化の最大値(△εのうちの絶対値の最大値)を与える検証地点の誤差率maxεoutを検証誤差率としたものである。
よって検証誤差率は求められた原回帰関数の適用性を証するための指標値として用いることができる。これは従来の回帰関数算定法に欠けていた算定回帰関数適用可能性の検討法である。
第1次選定回帰関数の内、最小の検証誤差率を与える回帰関数をもって最適回帰関数とする。ここで検証誤差率の許容基準を選ぶとすれば、第1次回帰関数の最大誤差率maxεの許容基準と等しくなる(何となれば第1次回帰関数においてその回帰誤差の許容最大値はmaxεであったから、検証地点の誤差率はmaxε以下であれば充分であるからである)。よって検証誤差率の許容基準は最大誤差率の許容基準と一致する次式とする。
検証誤差率maxεoutの許容基準=1級<5% 2級<10% 3級<20% (52)
結論として最終的に選定される回帰関数は最大誤差率、標準偏差、検証誤差率のすべてが許容基準を満たす関数でなければならない。
さらに下記理由により検証誤差率は基礎回帰の対象となった全変量組合せについて行う必要はない。基本的に最終的に確定される変量組合せは、標準誤差率、最大誤差率及び検証誤差率のすべてが許容基準を満たしている合格候補変量組合せのうち、標準誤差率が最小値なる変量組合せでなければならないとするのが妥当である。
従って検証誤差率の算定は、基礎回帰における合格候補変量組合せのうち、標準誤差率が最小なる変量組合せから開始すればよい。何となれば、この順序に従って算定をしてゆけば、合格基準を満たす検証誤差率が現われたら、その時点で検証誤差率の算定を終了すればよいことになるからである。
従って検証誤差率は一部の変量組合せについてのみ実施すればよいケースも起り得る。これは実際問題としてかなりの手間がかかる検証誤差率の面倒な計算を簡易化する効果が大である。
1.2.2においては流域立体地形を表す指標としてAeqとHeqの組合せを検討し、節1.1においてはこれらAeqとHeqに追加すべき流域地形勾配指標Seqについて検討した。その結果として、これら指標又は組合せの何れが山地河川流量の推定において最も優れているかを識別する必要が生じた。しかしてこの検討には、これら算定された指標値を用いた年平均流量の回帰算定方法の確立が必要である。以下その検討を行う。
中央山地6B測水所群の候補流域群(灰色部分)の配置図を図12に示す。本測水所群を選定した第1の理由はそれが北海道中央山地の中枢に位置し、中央山地の代表的測水所群と考えられるからである。第2の理由は測水所群を構成する測水所数を6とすることにより前節1.2.2のAeq,Heqの組合せからなる流域立体地形特性値による流量回帰誤差率とこれらに節1.1 において導入した流域地形勾配を加えたAeq,Heq,Seqの組合せからなる流域立体特性値による流量回帰誤差率の純粋比較(地理変量、地質変量等を含まない地形変量のみの変量組合せ)が可能となり、さらに1変量CAPの次数を1次から3次に上げることの効果と、2変量Aeq,HeqにSeqを追加して3変量する効果の比較ができるからである。算定プログラムのprint out を以下に示す。
*は参考のため、検証不可地点を、
**はΔε=|εout-εin|の値のうち検証可なる縮小地
点群のΔεの最大値を、***は検証可なる縮小5地点
群の回帰関数を適用して算定されたεoutの最大値
maxεout即ち検証誤差率を示す。
縮小測水所群の算定プログラム;
サブファイル:/水力/流量回帰論/中央山地/6流域群/6B流域群/
多変量回帰/検証回帰/
“CAPの3次式回帰検証中央山地6B群5b測水所改.xmcd”
“CAPの3次式回帰検証中央山地6B群5f測水所改.xmcd”
また、εinの値はプログラム/水力/流量回帰論/中央山地/6流域群/
/6B流域群/多変量回帰/基礎回帰/
“中央山地6B流域群流量回帰基準誤差率改.xmcd”より引用。
上記算定結果,原6B測水所群の標準偏差stdev=2.9%および最大誤差率max|ε|=5.4%の組合せは基準2級を満たし、検証誤差率9.0% も基準2級を満たしている。よって中央山地6B測水所群流量回帰関数としてCAPの3次式を1変量Bとする回帰関数は2級合格である。
中央山地6R測水所流域群の候補流域群(灰色部分)の配置図を図13に示す。図12で6B群の最南に位置する札61A落合測水所を外し、代わりに最北部の位置に札57安足間を加えたものである。この配置を選定した理由は同じ中央山地の中にあっても最北部に位置する流域と最南部に位置する流域とを入れ換えることにより流量回帰にどのような変化が生じるかをみるためである。算定プログラムのprint out を以下の頁に示す。但し、ページ数節約のため全プログラムのprint outは省略し、5変量Y回帰による6R測水所群の算定プログラムのみを以降に示す。
*は参考のため、検証不可地点を、**はΔε=|εout-
εin|の値のうち検証可なる縮小地点群のΔεの最大値
を、***は検証可なる縮小5地点群の回
帰関数を適用して算定された
εoutの最大値maxεout即ち検証誤差率を示す。
縮小測水所群の算定プログラム;
サブファイル:/水力/流量回帰論/中央山地/6流域群/6R流域群/
多変量回帰/検証回帰/
“ CAPの3次式回帰検証中央山地5b測水所改.xmcd”
“ CAPの3次式回帰検証中央山地5f測水所改.xmcd”
また、εinの値はプログラム /水力/流量回帰論/中央山地/6流域群/6R流域群/多変量回帰/基礎回帰/
“中央山地6R流域群流量回帰基準誤差率改.xmcd”より引用。
上記算定結果,原6R測水所群の標準偏差stdev=2.3%および最大誤差率max|ε|=4.1%の組合せは基準1級を満たしているが、検証誤差率22.2% は基準3級を満たしていない。よって中央山地6R測水所群流量回帰関数としてCAPの3次式を1変量Bとする回帰関数は不合格である。
*は参考のため、検証不可地点を、**はΔε=|εout-
εin|の値のうち検証可なる縮小地点群のΔεの最大値
を、***は検証可なる縮小5地点群の回帰関数を適用
して算定されたεoutの最大値maxεout即ち検証誤差率
を示す。
縮小測水所群の算定プログラム;
サブファイル:/水力/流量回帰論/中央山地/6流域群/6R流域群/多変量回帰/検証回帰/
“ 3変量A1回帰検証精中央山地5d測水所改.xmcd”
“ 3変量A1回帰検証精中央山地5f測水所改.xmcd”
また、εinの値はプログラム /水力/流量回帰論/中央山地/6流域群/6R流域群/多変量回帰/基礎回帰/
“中央山地6R流域群流量回帰基準誤差率改.xmcd”より引用。
上記算定結果,原6R測水所群の標準偏差stdev=6.5%および最大誤差率max|ε|=11.2%の組合せは基準3級を満たしているが、検証誤差率20.5% は基準3級を満たしていない。よって中央山地6R測水所群流量回帰関数としてAeq,Heq,Seqを3変量A1とする回帰関数は不合格である。
前節の算定結果を纏めて次表に示す。この表において、6B群,6R群に共通して見られる現象として
(1) 回帰誤差はCAの1次、3次関数による場合よりCAPの1次,3次関数による場合の方が小である。
(2) 変量がCA,CAPの何れの場合でも、その次数が上昇すると回帰誤差率は小となる。
(3) 3変量Aeq,Heq,Seqの1次式組合せ関数はCAP単独関数より回帰誤差率は大である。
最適結果はCAPの3次式を回帰変量とする6B流域群の流量回帰で、その標準誤差率2.9%,最大誤差率5.4%,検証誤差率9.0%の2級合格関数である。この最適関数は同じ6B群の3変量Aの1次関数による回帰結果(3級)より上位にある。
上記算定は流域群の規模は6群に限定した場合の結果で最適回帰関数の合格級は2級に留まっている。1級合格関数を得るためには6群以上の構成流域群についての検討が必要である。この場合においては回帰関数を構成する変量数の増加と、変量次数の上昇の何れを優先すべきか、或いは両者を併用すべきかについてさらに検討する必要があると考える。次節以降の検討においてこれを行う。
中央山地8測水所群)
前節3において中央山地6測水所群について検討し、最適関数として6B群の2級合格関数を得た。しかしてこれよりさらに上級の合格関数を得るには組合せ変量数の増加及び又は,変量次数の上昇の必要があることをみた。よって以下本節においては選択流域群の範囲を広げ、8流域群について検討する。
中央山地候補流域群は前出の図11に示したとおりである。同図において灰色に網掛けした10流域群の中から最適の8流域群を算定するのが本節の目的である。
この10流域群から表16にみるとおり8A,8B,8C,8D,8E,8F,8H,8I,8Jの9候補群を選定した。その内の代表例として8D群のそれを図13に示す。
回帰関数は回帰目標値である流量測定値が各8個に限られるため、回帰関数を構成する変量数は検証誤差率の算定可能条件を含めると、変量の次数が1次の場合は5変量組合せ迄、2次の場合は2変量組合せ迄、3次以上の場合(5次迄可能)は1変量のみとなる(節2.2.3参照)。
よって本8測水所群における流量回帰関数は表16にみるように42ケース(表16の第1横ブロック〜第42横ブロック参照)の変量種別の組合せについて回帰誤差率の算定を行うこととなる。
算定結果は表17及び後出の表12にみるように、中央山地8測水所群の最適回帰関数は8D群における5変量Yの1次式関数として確定する。その標準誤差率0.9%,最大誤差率2.0%,検証誤差率2.8%の1級合格関数である。算定過程を通じて得られた諸考察事項は下表に続いて記載されている。
全算定プログラムのprint
out は省略し、8D測水所群における変量CAの1次式,5次式及び5変量Yの1次式フ゜ロク゛ラムのprint outのみを次表16に続けて示す。図14は、中央山地8D流域群の候補流域群(灰色部分) (縮尺1/20万)を示す。
表16から次記の諸考察事項が浮ぶ。
考察-1 CAの1次式,5次式をそれぞれ1変量Aとする回帰誤差率(表の(1)行,(2)行)とCAPの1次式,5次式をそれぞれ1変量Bとする回帰誤差率(表の(3)行,(4)行)を比較すると、8E群,8F群以外のすべての測水所群において後者は前者に勝っている。
考察-2 CA,Seqの1次式,2次式をそれぞれ2変量Oとする回帰誤差率(表の(5)行,(6)行)とCAP,Seqの1次式,2次式をそれぞれ2変量Pとする回帰誤差率(表の(7)行,(8)行)を比較すると、1次式変量の場合は考察1と同じ傾向が認められるが、2次式変量の場合はこの傾向は薄れている。
但しここで、8J群におけるCA,Kvの2次式を2変量Bとする回帰結果、標準誤差率が1.21%の1級合格関数が生じていることに注目したい(灰色網掛け区画)。これは従来慣用されてきた流域面積CAと地質変量Kvの2次式組合せが場合によっては有力な変量組合せになることを示すものである。
考察-4 Aeq,Heqの2次式を2変量Aとする回帰誤差率(表の(16)行)の内、8J群の標準誤差率は0.676%と全トライアルケ−ス(42行×9列+10=388ケース)中で最小値を示しているが、その検証誤差率は8.0%となり、他の数個のトライアルの検証誤差率より劣っている。この原因は変量の次数を2次としたこところにある。これは標準誤差率を下げることを狙って変量の次数を上げると、検証誤差率は大となる危険があることを示している。
考察-6 CA,Kv,Kwの1次式を3変量Yとする回帰誤差率(表の(22)行)と、CAP,Kv,Kwの1次式を3変量Gとする回帰誤差率(表の(23)行)を比較すると、8E,8F群を除くすべての候補群において後者の回帰精度が前者のそれより、はるかに優れている。これも前項と同様、地形変量としてCAに対するCAPの有用性を示すものである。
なお、上記諸考察を勘案すると向後CAの採用は不必要と考えられる。
考察-8 Aeq,Heq,Seqの1次式を3変量A1とする回帰誤差率(表の(24)行)と、Aeq,Heq,Kvの1次式を3変量Aとする回帰誤差率(表の(25)行)を比較すると、8E群,8I群以外のすべての群で3変量Aの回帰精度は3変量A1のそれより優れている。これは、3変量A1はAeq,Heq,Seqのすべてが地形変量であるのに対し、3変量AのAeq,Heq,Kvは地形変量Aeq,Heqと地質変量Kvの組合せからなる違いによるものと考えられる。
このことは、変量組合せは地形変量のみの組合せによるよりも地形変量と地質変量の組合せにする方がよい結果を得ることを示している。
即ち北美瑛測水所流域の流域面積CA=411.0平方kmで、中央山地測水所群中最大であるのに対し、パンケニコロ川測水所の流域面積は69.5平方kmで、同じ測水所群中で最小である。よって両極端のCA値を持つ測水所を交換したことにより当該交換測水所の回帰誤差率が極端に変化した為と考えられる。これは8測水所群を拡張して9測水所群,10測水所,を検討するに際し、導入すべき測水所の選定にさいして参考となる考察である。
考察-11 Aeq,Heq,Seq,Lon,Latの1次式を5変量Yとする回帰誤差率(表の(40)行)とAeq,Heq,Seq,Kv,Kwの1次式を5変量E1とする回帰誤差率(表の(41)行)を比較すると、8E群,8F群,8J群以外のすべての群で5変量Yの回帰精度は5変量E1のそれより優れ、特に8D群における5変量Yの標準誤差率0.9%は全測水所群の全変量組合せ中の1級合格関数中で最小値であり、全8測水所群中の最適回帰関数(灰色網掛け区画)となっている。
しかして5変量Y(Aeq,Heq,Seq,Lon,Lat)と5変量E1(Aeq,Heq,Seq,Kv,Kw)は共に全測水所群を通じて標準誤差率が小さく、他の変量組合せを引離している。
これらは何れも構成変量数は5個であるから必要な対象測水所群は8測水所群で済むが 両者を総合した7変量Q(Aeq,Heq,Seq,Lon,Lat,Kv,Kw)を考えると10測水所が必要となる。これは10測水所群の流量選定のヒントとなる。
前掲の表16は全算定結果を網羅した表のため複雑で見辛いので、これを簡約した表を次の表17に示す。なお最適測水所群:8D群の構成流域一覧図は図14参照のこと。
前記算定結果の考察および上表を総合すると、中央山地8測水所群流域流量の最適回帰関数は8D測水所群のAeq,Heq,Seq,Lon,Latの1次式組合せを変量とする5変量Y回帰関数となる。その回帰精度は標準誤差率0.9%,最大誤差率2.0%,検証誤差率2.8%の1級合格関数である。
この回帰精度は前節における中央山地6測水所群における最適回帰関数(2級合格)より優れている。
上記考察事項の多くは測水所群規模を9群以上に拡張する場合の有力な参考となる。
なお、北海道中央山地における流域最高点の標高は2290.6m(旭岳),流域重心点の緯度は北緯43.62°であるから、上記算定結果は最高点標高が2290m以下、重心点緯度が43.62°以南である流域については越年積雪や、永久凍土パルサ等による地表面及び地層内水分の凍結による河川流量の減少を考慮することなく、上記で得られた流量回帰関数手法を適用できることを示している。これは中央山地西方の日本海側に流域を持つ西方山地及び南方の太平洋側に流域をもつ日高山地については中央山地と同様の方法を適用して回帰関数を適用できることを示すものである。
即ちこれは虫明.高橋.安藤(資料4参照)が除外した北海道における河川流量回帰の大部分を復活させるものである。
これは山地河川における水力開発にも繋がりCO2の発生が皆無なクリーンエネルギー創出の推進にも寄与するものである。
本発明において提唱する流量回帰関数算定には基礎データとして流域の地理、地形、地質諸元および既設測水所の流量測定資料が必要となる。
この内、流域の地理的位置、地形諸元は、国土地理院発行の1/20万分、1/5万分、1/2万5千分等の地形図により、また地質諸元は工業技術院地質調査所発行の1/20万分、1/5万分地質図において読取ることができる。これらの地形図、地質図は一般に購入可能である。
流量資料は、通商産業省、資源エネルギー庁編の流量要覧に記載されている(流量要覧(北海道通商産業局管内)通商産業省エネルギー庁編;平成8年度版および指定番号札59石狩川水系 美瑛川、奥美瑛測水所、昭36.1〜44.)。この流量要覧は電気事業法第101条に基く通商産業省直轄測水所と、同法第102条に基く指定測水所について、その調査記録を収録したものである。流量要覧(北海道通商産業局管内)通商産業省エネルギー庁編;平成8年度版および指定番号札59石狩川水系 美瑛川、奥美瑛測水所、昭36.1〜44参照。
従って本発明において提唱する多変量回帰関数による山地河川流量算定は普遍性、一般性を持つものである。
山地河川小流域地点の流量推定法として、下流または近傍河川の既設測水所における測定流量から流域面積比(流域比と略称される)計算によって推定する従来手法に替えて、流域地形を立体的に捉えた流域立体地形相関面積Aeq,流域立体地形相関標高Heq、流域立体地形斜面勾配Seq,および流域の地理的位置を表す流域重心点の経度Lon、緯度Latさらに流域地質に占める火山岩類等の構成率Kv,Kw等を定義し、これらを新変量とする年平均流量の回帰関数を適用する手法を新たに導入した。
流域の規模を表す指標として従来用いられている流域面積CAは対象流域境界線が取囲む領域の平面面積として地形図上において測定される指標である。従って流域比は流域の平面的特性のみに基いて算定される単一の指標であるのに対し、上記新変量の組合せは流域地形は本来3次元立体地形であることから3個の基本地形変量の組合せを含むより広範囲の見地から流域実態を捉えている。よってこの新変量回帰関数による回帰流量は流域比による推定流量に比し、より真値に近い流量推定を可能にする。
適用例として北海道山地を数分割した測水所群について上記発明に基く回帰関数を算定した結果、測水所群の規模に応じた変量の最適組合せ及び次数を決定することが可能であり、標準誤差率、最大誤差率とも実用上許容し得る誤差率以下で、かつ検証誤差率が最低の値を持つ最適回帰関数を得ることができた。
とくに福島原子力発電所の事故以後、我が国全般の原子力発電所存続の可否が論議される現在、原子力発電に換わるべき無公害発電所の投入検討は緊急の問題となっている。
しかしながら原子力に換わる能力をもつ火力発電は、CO2の大量発生により、その容量拡大に限度があるため、充分な代替能力をもつとは云えない。さらに風力、太陽熱、地熱等の電力資源はその能力及び安定性に限りがあるため、充分な原子力代替能力を持ってはいない。
新組合せ指標を用いることにより、従来の流域比手法の場合、適用可能な近傍測水所をもたない新規計画地点流量把握のため必要であった相当数の測水所新設の費用と測水期間が不必要となるのみならず、従来採用されてきた流域比手法では見落されてきた山地上流域の有望水資源地点発掘が促進される効果は大である。これは山地上流域における新しい水資源の存在発見を意味する。
Claims (4)
- コンピューターシステムを用いて、山地河川流域の年平均流量を推定するための回帰関数を演算する方法であって、該回帰関数を演算する方法は、
測水所流域の標高帯(j)ごとの山地の斜面面積である標高帯別面積データ(aj)と、標高帯(j)ごとの平均標高データである標高帯別標高データ(Hcj)
、下記式で計算される流域地形勾配(Seq)とを前記コンピューターシステムの記憶部に保存し、
前記記憶部に保存されている標高帯別面積データ(aj)と標高帯別標高データ(Hcj)とを標高帯(j)ごとに乗算し、この乗算した値を全標高帯(j=1〜n)について加算することによって流域特性値(CAP)を算出し、
一方、標高帯(j)の標高帯別面積データ(aj)を用いて、次の式により最低標高点から標高Hcj面までの実地表面面積(acj)を求め、
当該Zcjが前記流域特性値(CAP)と略一致する点のacj、Hcjの値を求め、それぞれ流域立体地形相関面積(Aeq)、流域立体地形相関標高(Heq)とし、
各測水所流域における年平均流量の測定値Qmean、対応する測水所流域の前記流域立体地形相関面積(Aeq)、前記流域立体地形相関標高(Heq)、流域地形勾配(Seq)の各データ、および、技術計算ソフトウェアであるmathcad(登録商標)のregress関数を用いて、少なくとも流域立体地形相関面積(Aeq)と、流域立体地形相関標高(Heq)と、流域地形勾配(Seq)とを変数中に含む山地河川流域の年平均流量の回帰関数を算出することを特徴とする山地河川流域の流量推定用回帰関数の演算方法。 - 請求項1に記載の山地河川流域の年平均流量を推定するための回帰関数を演算する方法において、
測水所流域の標高帯(j)ごとの山地の斜面面積である標高帯別面積データ(aj)と、標高帯(j)ごとの平均標高データである標高帯別標高データ(Hcj) 、流域地形勾配(Seq)に加えて経度(Lon)と緯度(Lat)とを前記コンピューターシステムの記憶部に保存し、
次に、各測水所流域における年平均流量の測定値Qmean、対応する測水所流域の前記流域立体地形相関面積(Aeq)、前記流域立体地形相関標高(Heq)、流域地形勾配(Seq)、経度(Lon)と緯度(Lat)の各データ、および、技術計算ソフトウェアであるmathcad(登録商標)のregress関数を用いて、少なくとも流域立体地形相関面積(Aeq)と、流域立体地形相関標高(Heq)と、流域地形勾配(Seq)と、経度(Lon)と緯度(Lat)を変数中に含む山地河川流域の年平均流量の回帰関数を算出することを特徴とする山地河川流域の流量推定用回帰関数の演算方法。 - 山地河川流域の流量推定用回帰関数の選定方法であって、該選定方法は、
所定の地域内の測水所数mケ所より成る測水所群における年平均流量測定値をデータとして請求項1または請求項2に記載の方法により回帰関数を算出した後、
前記測水所群中の任意の一の測水所である測水所i0(i0=1,2,,,m)を検証地点として抽出する一方、当該算出した回帰関数を適用して前記測水所群の各測水所の年平均流量の推定値を演算し、
当該推定値とその測水所における年平均流量の測定値との間に生ずる推定誤差の推定誤差率をεinとおき、
つぎに前記mケ所より成る測水所群中より前記測水所i0を除去した残りm-1ケ所より成る測水所群を新たなデータ測水所群として、請求項1または請求項2に記載の方法により新たに回帰関数を算出し、
当該算出した回帰関数を適用して前記測水所i0の年平均流量の推定値と該測水所i0の年平均流量の測定値との推定誤差率εoutを算出し、
両推定誤差率εinとεoutとの差をΔεとして、前記測水所i0をi0=1,2,,,mについて順繰りに1測水所ずつ検証地点として抽出することによって、全測水所群中の測水所数mだけ差Δεを算出し、
これらm個の差Δεの内、絶対値の最大値を与える検証地点の推定誤差率εoutを以て検証誤差率maxεoutと定め、
該検証誤差率maxεoutの値が許容基準を満たす回帰関数のみを合格関数として出力することを特徴とする山地河川流域の流量推定用回帰関数の選定方法。 - コンピューターシステムを用いて山地河川流域の年平均流量の推定値を演算する方法であって、山地河川流域の年平均流量の推定値を演算する方法は、
流量測定が行われていない地点の流域の標高帯(j)ごとの山地の斜面面積である標高帯別面積データ(aj)と、標高帯(j)ごとの平均標高データである標高帯別標高データ(Hcj)
と、下記式で計算される流域地形勾配(Seq)とを前記コンピューターシステムの記憶部に保存し、
一方、標高帯(j)の標高帯別面積データ(aj)を用いて、次の式により最低標高点から標高Hcj面までの実地表面面積(acj)を求め、
当該Zcjが前記流域特性値(CAP)と略一致する点のacj、Hcjの値を求めて、それぞれ流域立体地形相関面積(Aeq)、流域立体地形相関標高(Heq)とし、
当該流域立体地形相関面積(Aeq)と、当該流域立体地形相関標高(Heq)と、流域地形勾配(Seq)との各データに、請求項1または請求項2に記載の方法により算出した回帰関数または請求項3に記載の方法により出力した合格関数を適用して、流量測定が行われていない地点の流域の年平均流量の推定値を演算することを特徴とする山地河川流域の年平均流量推定方法。
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