===制振装置10について===
本発明に係る制振装置10について図1A、図1B及び図2を参照しながら説明する。図1A及び図1Bは、制振装置10の構成を模式的に示す図であり、図1Aは制振装置10の立面図であり、図1Bは制振装置10の平面図である。図2は、制振装置10における制御系を示すブロック図である。
制振装置10は、制振対象物の一例としての建物100の振動をアクティブに制振するアクティブ制振装置である。なお、本実施形態の制振装置10は、水平方向の地震動(地盤110の振動)が発生した場合に、当該水平方向における建物100の振動を制振するものである。すなわち、本実施形態では、建物100の振動の方向(所定方向)が水平方向である場合に当該振動を制振する制振装置10について説明する。但し、振動の方向(所定方向)については水平方向に限定されるものではなく、鉛直方向であってもよい。
制振装置10は、図1Aに示すように、免震支承体20と、制振力付与機構30と、コントローラ40と、地盤側センサ50と、建物側センサ60と、を備えている。本実施形態の制振方式は、地振動によって建物100に作用する入力を、制振力付与機構30が付与する制振力によって打ち消す方式(入力反射方式)である。本方式によって理想的に建物100が制振された場合、該建物100は絶対座標空間において静止することとなる。
以下、制振装置10の各機器について説明する。
免震支承体20は、建物100と地盤110(具体的には、建物100の基礎)との間に設置された免震装置である。免震支承体20は、その上面に建物100が載置されることにより建物100を支持し、該建物100の固有周期を本来の固有周期よりも長周期化するものである。本実施形態の免震支承体20は、バネ支承体の一例としての積層ゴムであり、建物100の直下に複数設置されている。複数の積層ゴムの各々は、比較的低剛性であり、地震動が発生したときに、水平方向において上面(建物100の支持面)及び下面(地盤110との接地面)の各々の位置が互いにずれるように弾性変形しながら建物100を支持する。なお、免震支承体20については積層ゴムに限定されず、積層ゴム以外のバネ支承体、滑り支承体、転がり支承体等を利用してもよい。
制振力付与機構30は、建物100と地盤110とに固定されており、地盤110を支点として建物100に制振力を付与して、水平方向における建物100の振動を制振する機構である。つまり、本実施形態では、地盤110側に反力点が、建物100側に作用点がそれぞれ形成されており、該反力点と該作用点の間に配置されている機器(具体的には、制振力付与機構30が備える各機器)によって制振力の伝達経路が形成されている。そして、制振力付与機構30は、制振力を上記伝達経路に沿って地盤110から建物100に向けて伝達させて、最終的に建物100に前記制振力を付与することになる。
なお、本実施形態において、反力点が地盤110に直接形成されていることとした。換言すると、制振力付与機構30が地盤110に直接固定されていることとした。但し、これに限定されるものではなく、地盤110と制振力付与機構30との間に他の部材(例えば、地盤110に固定され、制振力付与機構30を支持するために設けられた部材)が介在していてもよい。かかる構成であっても、制振力付与機構30は、地盤110を支点として(より正確には、上記他の部材を介して地盤110を支点として)制振力を発生させる。
さらに、本実施形態では、図1Aに示すように、建物100の基部に対して加力する方式(基部加力方式)を採用している。基部加力方式は、免震支承体20として積層ゴムや滑り支承等の比較的低剛性の免震支承体20が用いられる場合に有効である。但し、建物100に対して加力する位置は、建物100の基部にされるものではなく、例えば、建物100の中間階であってもよい。
また、制振力付与機構30は建物100の周囲に間隔を隔てて複数配置されている(図1A及び図1Bには、図示の都合上、1つの制振力付与機構30のみ図示している)。そして、複数の制振力付与機構30の中には、互いに異なる方向に伝達される制振力を付加するものが含まれている。これにより、建物100の様々な方向の水平振動を制振することが可能となる。
上記の制振力付与機構30について、より詳しく説明する。制振力付与機構30には、図1A及び図1Bに示すように、アクチュエータ31と、バネ体32と、滑り摩擦ダンパ33とが備えられている。これらの機器は、建物100から地盤110に向かって、バネ体32、滑り摩擦ダンパ33、アクチュエータ31の順に一直線状に並んでいる。
アクチュエータ31は、図1A及び図1Bに示すように水平方向に変位自在なロッド31aを備えており、制振力付与機構30が制振力を発生させる際に、当該ロッド31aを水平方向に沿って油圧駆動するものである。上記ロッド31aは、該アクチュエータ31の先端側に設けられている。すなわち、本実施形態では、上記ロッド31aがアクチュエータ31の先端部に相当する。そして、ロッド31aは、その長手方向が水平方向に沿った状態で、アクチュエータ31の内部に対して出入自在に支持されている。また、アクチュエータ31は、その後端部に支持部31bを備えており、該支持部31bが地盤110に固定されることにより地盤110に固定支持されている。
バネ体32は、弾性を備えた弾性部の一例である。このバネ体32は、滑り摩擦ダンパ33を介してアクチュエータ31のロッド31aの先端に固定されており、該ロッド31aの変位に伴って水平方向に沿って弾性変形する。なお、本実施形態のバネ体32は、ロッド31aの変位に伴って水平方向に沿って歪む梁である。この梁は、図1Bに示すように、建物100に固定された支持部材120により長手方向両端部を支持された両持ち梁である。そして、上記梁は、ロッド31aが変位することにより弧状に歪む。
以上のようなバネ体32をアクチュエータ31と建物100の間に介在させることにより、比較的高振動数の地震動が発生した際に建物100が振動するのを適切に抑制することが可能になる。具体的に説明すると、高振動数の地震動が発生した場合、該地振動に対してアクチュエータ31を追従させることは困難であるが、バネ体32をアクチュエータ31と建物100の間に介在させることにより、高振動数でのアクチュエータ31の動きの影響が建物100に及ぶのを抑制することが可能になる。この結果、アクチュエータ31の駆動に基づく制振効果は発揮されなくなるものの、免震支承体20によって建物100を十分に免震することが可能になる。すなわち、バネ体32をアクチュエータ31と建物100の間に介在させれば、高振動数の地震動が発生した際に免震支承体20の免震効果によって建物100の振動を抑えることが可能になる。
なお、バネ体32は、前述の梁に限定されるものではなく、例えば、コイルバネ等のバネ性(弾性)を有するものである限り他の部材であってもよい。
滑り摩擦ダンパ33は、滑り摩擦機構の一例であり、本実施形態ではアクチュエータ31のロッド31aの先端とバネ体32との間に配置されている。滑り摩擦ダンパ33の構成及び機能については後に詳述する。
コントローラ40は、建物100内部に設置されており、図2に示すように、コンピュータ41と増幅器42を有する。コンピュータ41は、アクチュエータ31に電気的に接続され該アクチュエータ31に向けて駆動信号を出力する。増幅器42は、地盤側センサ50及び建物側センサ60の両センサからの出力信号を増幅する。そして、コントローラ40は、増幅器42により増幅された地盤側センサ50及び建物側センサ60からの出力信号に基づき、コンピュータ41に内蔵された制御回路41aにて演算された制御量にてアクチュエータ31を制御する。アクチュエータ31は、上記制御量に応じてロッド31aを水平方向に沿って変位させる。ここで、制御量とは、ロッド31aを変位させる際の変位量(若しくは変位速度)に関する量である。
地盤側センサ50は、地盤110に取り付けられ、地震動の度合いに応じた信号を出力するセンサである。地震動の度合いとは、振動中の地盤110の速度(振動速度)、加速度、及び、変位量を意味する概念である。建物側センサ60は、建物100内部に取り付けられ、該建物100の水平振動の度合いに応じた信号を出力するセンサである。建物100の水平振動の度合いとは、水平方向に振動中の建物100の速度、加速度、及び、変位量を意味する概念である。
以上のような構成の制振装置10の下で地震が発生して地盤110が水平方向に沿って振動すると、コントローラ40が、地盤側センサ50及び建物側センサ60からの出力信号に基づいてアクチュエータ31を制御し、該アクチュエータ31にロッド31aを変位させる。このとき、コントローラ40は、水平方向において地盤110が変位した向きとは反対の向きにロッド31aを変位させる。これにより、制振力付与機構30が地盤110を支点として(換言すると、地盤110に反力点を取って)制振力を発生させるようになる。当該制振力は、ロッド31aの変位量(若しくは変位速度)に応じた大きさとなり、前述の伝達経路により建物100に向けて伝達され、最終的に建物100に付与される。
このとき、ロッド31aの変位に伴ってバネ体32が水平方向に沿って弾性変形する。また、免震支承体20としての積層ゴムについても、地盤110が変位した向きとは反対の向きに変形する。そして、ロッド31aが下記式により求められる変位量zだけ変位すると、理想的には(例えば、地盤側センサ50及び建物側センサ60による測定が正確であり、コントローラ40の制御が遅延なく行われた場合)、建物100が絶対座標空間において静止するようになる(すなわち、絶対制振が実現される)。
z=y(1+kl/ks)
z:変位量
y:地盤110の変位量、kl:免震支承体20の剛性、ks:バネ体32の剛性
上記のように、コントローラ40は、地盤側センサ50及び建物側センサ60からの出力信号に基づいてアクチュエータ31を制御することにより、制振力付与機構30が付加する制振力をアクティブに制御する。なお、本実施形態では、アクチュエータ31と建物100の間にバネ体32が介在しているため、例えば、アクチュエータ31の制御法としてフィードバック制御を採用する場合、高振動数領域での発振現象によって決定されるフィードバックゲインを大きく取ることが可能になる。この結果、低振動数領域においてアクチュエータ31を適切に制御し、制振効果を向上させることが可能になる。
<<アクチュエータ31に作用する荷重について>>
上記構成の制振装置10では、制振力が伝達経路に沿って伝達される際、アクチュエータ31に荷重が作用する。具体的に説明すると、前述したように、アクチュエータ31がロッド31aを変位させることに伴ってバネ体32が弾性変形する(具体的には、バネ体32としての梁が歪む)ため、アクチュエータ31にはバネ体32からの反発力が掛かるようになる。すなわち、アクチュエータ31は、前記反発力に抗してロッド31aを変位させるため、該ロッド31aの変位量(若しくは変位速度)に応じた荷重を受けることになる。なお、地震の規模が大きくなるほど(地盤110の振幅が大きくなるほど)、ロッド31aの変位量(変位速度)が大きくなり、アクチュエータ31に作用する前記荷重も大きくなる。
ところで、制振装置10の制振能力以内の地震動が発生した場合(換言すると、アクチュエータ31がロッド31aを変位可能な範囲内で変位させる場合)、アクチュエータ31に作用する荷重の大きさは、前記ロッド31aの変位量(若しくは変位速度)に応じた大きさとなる。そして、アクチュエータ31が、ロッド31aを限界変位量zaで変位させる場合、制振力の大きさは、制振力付与機構30が付与可能な範囲で最大の大きさとなる。このとき、アクチュエータ31に作用する荷重の大きさについても、該アクチュエータ31が許容可能な範囲で最大の大きさとなる。つまり、本実施形態では、ロッド31aが限界変位量zaで変位した際に、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重に達する。
しかし、制振装置10の制振能力を超えた規模の地震動が発生した場合には、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超えてしまう。つまり、アクチュエータ31が限界変位量zaでロッド31aを変位させてもなお建物100の振動を抑えられない場合(絶対制振を行えない場合)、アクチュエータ31には、前記ロッド31aを限界変位量zaで変位させた分の荷重(アクチュエータ31の許容荷重に相当する荷重)に加え、建物100の振動に起因する荷重が作用する。
アクチュエータ31に許容荷重を超える荷重が作用すると、該アクチュエータ31の破損を招き、制振装置10の制振効果が著しく喪失してしまう虞がある。そこで、本実施形態では、制振力が伝達経路に沿って伝達される際にアクチュエータ31に作用する荷重が、該アクチュエータ31の許容荷重を超えるのを防止するフェールセーフ機構が設けられている。具体的に説明すると、本実施形態では、前述した滑り摩擦ダンパ33がフェールセーフ機構として機能する。以下、滑り摩擦ダンパ33の構成について説明するとともに、当該滑り摩擦ダンパ33の役割について説明する。
なお、以降の説明では、ロッド31aが限界変位量zaまで変位した際に、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重に達するものとする。但し、これに限定されるものではなく、アクチュエータ31の許容荷重が、ロッド31aを限界変位量zaまで変位させた際にアクチュエータ31に作用する荷重よりも幾分大きい(あるいは、小さい)こととしてもよい。また、ロッド31aを限界速度にて変位させた際に、アクチュエータ31に作用する荷重が上記許容荷重に達することとしてもよい。
<<滑り摩擦ダンパ33について>>
滑り摩擦ダンパ33は、制振力の伝達経路内に設けられており、本実施形態ではアクチュエータ31のロッド31aの先端とバネ体32との間に配置されている。滑り摩擦ダンパ33は、図1Bに示すように、アクチュエータ31のロッド31aの先端に固定された一対の固定部33aと、該固定部33aと当接する当接面33cを備える当接部33bとを有する。
各固定部33aは、環状の取付部33eを介してアクチュエータ31のロッド31aの先端に固定されており、該ロッド31aの先端からバネ体32に向かって水平方向に伸びた金属製の板である。当接部33bは、その一端部(地盤110側の端部)が一対の固定部33aに挟まれた板状部材である。当接部33bは、その他端部(建物100側の端部)にてバネ体32の長手方向中央部に固定支持されている。そして、当接部33bは、その両側面にて固定部33aと当接する(すなわち、当接部33bの両側面が当接面33cに相当する)。
一対の固定部33aは、該固定部33aを貫通するボルト33dにより締結されている。このボルト33dの締付力により当接面33cにおける当接圧が調整されている。そして、一対の固定部33aの各々と当接部33bの双方には、前記当接圧に応じた摩擦力が作用する。換言すると、当接部33bの固定部33aとの当接面33cは、摩擦面に相当する。一対の固定部33aの各々は、上記摩擦力として静止摩擦力が作用する間には前記当接面33cに対して相対的に静止する。一方、一対の固定部33aの各々は、上記摩擦力が静止摩擦力から動摩擦力に移行すると、水平方向に沿って前記当接面33c上を摺動するようになる。
そして、本実施形態では、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超える前に、一対の固定部33aの各々が水平方向に沿って当接面33c上を摺動し始める。この結果、滑り摩擦ダンパ33が上記フェールセーフ機構としての機能を発揮するようになる。
具体的に説明すると、本実施形態では、ロッド31aの変位量zの大きさ(絶対値)に対して、上限量(以下、上限変位量zu)が設定されている。当該上限変位量zuは、ロッド31aの限界変位量za以下となっている。そして、アクチュエータ31が上限変位量zuを超えない範囲内でロッド31aを変位させた場合、上記摩擦力として静止摩擦力が作用する。したがって、アクチュエータ31が上限変位量zuを超えない範囲内でロッド31aを変位させる間、一対の固定部33aは当接面33cに対して静止し続け、滑り摩擦ダンパ33の各部が前記ロッド31aと一体的に移動するようになる。このとき、制振力付与機構30は、ロッド31aの変位量zに応じた制振力を建物100に付与し、アクチュエータ31には、前記変位量zに応じた荷重が作用する。
より具体的に説明すると、図3に示すように、ロッド31aの変位量zの大きさが上限変位量zuに達するまでの間、アクチュエータ31に作用する荷重は、上記変位量zの増加(減少)に応じて単調増加(単調減少)する。図3は、ロッド31aの変位量zとアクチュエータ31に作用する荷重との関係について示した図である。
一方、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuを超えると、上記摩擦力が静止摩擦力から動摩擦力に移行する。つまり、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達した後にアクチュエータ31が前記ロッド31aを更に変位させると、一対の固定部33aの各々が水平方向に沿って前記当接面33c上を摺動し始める。そして、ロッド31aの変位量zのうち、上限変位量zuを超えた分については、一対の固定部33aの摺動(摩擦滑り)に充てられる。この結果、図3に示すように、ロッド31aが上限変位量zuを超える量で変位したとしても、アクチュエータ31に作用する荷重の大きさは、前記ロッド31aが前記上限変位量zuに達した時点の大きさのまま推移する。
そして、ロッド31aが前記上限変位量zuに達した際にアクチュエータ31に作用する荷重の大きさは、該アクチュエータ31の許容荷重の大きさ以下となっている。以上の結果、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超えないようになる。
以上のように、本実施形態の滑り摩擦ダンパ33は、フェールセーフ機構として機能する。つまり、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超える前に、固定部33aが水平方向に沿って当接面33c上を摺動し始める上記構成により、フェールセーフ機構としての機能が的確に発揮される。なお、摩擦力が静止摩擦力から動摩擦力に移行する移行点、つまり、一対の固定部33aの各々が当接面33c上を摺動し始める際のロッド31aの変位量z(すなわち、上限変位量zu)は、当接面33cにおける当接圧により調整可能であり、当該当接力についてはボルト33dの締付力により調整可能である。
===本実施形態の制振装置10の有効性について===
制振力の発生源としてのアクチュエータ31を備える制振装置10の中には、バネ体32を備えるものがある。バネ体32が備えられる目的については前述の通りである。
ところで、発明が解決しようとする課題の項で説明したように、アクチュエータ31の先端部(上記構成においてはロッド31a)を変位させる範囲は、バネ体32の剛性に応じて確保することになるが、現実的な変位範囲を考えると、バネ体32の剛性を、例えば免震支承体20としての積層ゴムの剛性と同等若しくはそれ以上にしておく必要がある。
しかしながら、高剛性のバネ体32が備えられた場合、制振装置10の制振能力を上回る規模の地震が発生すると、アクチュエータ31に該アクチュエータ31の許容荷重を超えた荷重が作用する虞がある。つまり、前述したように、アクチュエータ31が限界変位量zaでロッド31aを変位させてもなお建物100の振動を抑えられない場合、アクチュエータ31には、ロッド31aを限界変位量zaで変位させた分の荷重に加え、建物100の振動に起因する荷重が作用する。
具体的に説明すると、制振装置10の制振能力を超えた分の地震動が建物100に入力されると、免震支承体20、及び、アクチュエータ31を含む制振力付与機構30の各部に対して荷重(具体的には、建物100が振動することによって発生する慣性力)が作用する。そして、当該荷重のうち、アクチュエータ31が負担する割合は、バネ体32の剛性が高くなるほど大きくなる。
以上の結果、高剛性のバネ体32が備えられた制振装置10の下で該制振装置10の制振能力を上回る規模の地震が発生すると、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超えてしまう可能性がある。そして、アクチュエータ31に対してその許容荷重を超える荷重が作用してしまうと、該アクチュエータ31が破損し、制振装置10の制振効果を著しく喪失することになってしまう(詳しくは、一般的な免震建物が有する免震性能よりも劣ってしまう)。
これに対し、本実施形態の制振装置10は、上記の滑り摩擦ダンパ33を備えている。そして、当該滑り摩擦ダンパ33が、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超えるのを防止するフェールセーフ機構として機能する。この結果、アクチュエータ31の破損を回避し、以って、建物100の振動に対する抑制効果を確保することが可能になる。また、アクチュエータ31自身が高額な機器であるため、フェールセール機構としての滑り摩擦ダンパ33を設けることによって前記アクチュエータ31を保護し、金銭的な損失についても軽減させることが可能になる。
なお、本実施形態では、滑り摩擦ダンパ33がバネ体32とアクチュエータ31との間に配置されていることとしたが、これに限定されるものではない。滑り摩擦ダンパ33は、制振力の伝達経路内に配置されていればよく、例えば、図4に示すように、アクチュエータ31と地盤110との間に配置されていてもよい。図4は、滑り摩擦ダンパ33の配置位置の変形例を示す図であり、図1Bに対応した図である。
また、本実施形態では、一対の固定部33aがアクチュエータ31に固定されており、当接部33bがアクチュエータ31以外(上記の実施形態では、バネ体32)に固定されていることとしたが、これに限定されるものではない。当接部33bがアクチュエータ31に固定されており、固定部33aがアクチュエータ31以外に固定されていることとしてもよい。
また、本実施形態では、バネ体32が建物100側に支持されていることとしたが、これに限定されるものではなく、図5及び図6に示すように、地盤110側に支持されていることとしてもよい。図5及び図6は、バネ体32が地盤110側に支持された構成を示す図である。なお、バネ体32が地盤110側に固定された場合においても、滑り摩擦ダンパ33は制振力の伝達経路内に配置されていればよく、例えば、図5に示すようにアクチュエータ31とバネ体32との間に配置されていてもよく、あるいは、図6に示すように、アクチュエータ31と建物100との間に配置されていてもよい。
===他のフェールセーフ機構について===
上述した実施形態では、滑り摩擦ダンパ33がフェールセーフ機構として備えられた実施形態について説明した。但し、フェールセーフ機構については、滑り摩擦ダンパ33以外にも考えられる。以下では、滑り摩擦ダンパ33以外の他のフェールセーフ機構が備えられた例(第一参考例〜第三参考例)について説明する。なお、本実施形態と重複する構成等については説明を省略する。
<<第一参考例について>>
第一参考例の制振装置10について、図7、図8A、及び図8Bを参照しながら説明する。図7は、第一参考例の制振装置10の構成を模式的に示す平面図である。図8A及び図8Bは、第一参考例に係るオイルダンパ70の模式断面図である。
第一参考例の制振装置10は、図7に示すように、制振力付与機構30の構成要素としてのアクチュエータ31とオイルダンパ70とを備えている。アクチュエータ31とオイルダンパ70は水平方向に沿って一直線状に並んでいる。具体的に説明すると、アクチュエータ31が、後端部に設けられた支持部31bを介して地盤110に支持されている。一方、オイルダンパ70は、アクチュエータ31のロッド31aの先端と建物100との間に配置されている。
オイルダンパ70は、第一参考例における弾性部に相当する。すなわち、このオイルダンパ70は、弾性を備え、アクチュエータ31のロッド31aの変位に伴って水平方向に沿って変形する。オイルダンパ70の構成について、以下、詳しく説明する。
オイルダンパ70は、流体圧力調整機構の一例であり、図8A及び図8Bに示すように、ケース71と、ピストン74とを備えている。ピストンロッド75の先端に設けられた取付部75aが建物100に固定され、ケース71の他端部に設けられた取付部71aがアクチュエータ31のロッド31aの先端に固定される。
ケース71は、図8Aに示すように、流体の一例であるオイルが封入され、内筒72と、内筒72の外周に配置された外筒73とを備えている。内筒72の内部は、ピストン74により、後述のピストンロッド75が通される側(建物100側)の第1室72aと、その反対側(地盤110側)の第2室72bとに区画されている。なお、第1室72aと第2室72bとをまとめて、以下、油圧室と呼ぶ。
ピストン74は、アクチュエータ31のロッド31aの変位に伴ってケース71内(具体的には内筒72内)を水平方向に沿って移動する部材である。このピストン74には、ケース71の一端側(建物100側)の壁を貫通するピストンロッド75が連結されている。
また、ピストン74には、前記第1室72a及び前記第2室72bを連通する室内流路74aが形成されている。この室内流路74aには、逆止弁76が設けられている。逆止弁76は、図8Bに示すように、ピストン74が一端側(建物100側)から他端側(地盤110側)に向かって移動する際に、室内流路74aを開放して第2室72bから第1室72aへのオイルの流通を許容する。また、逆止弁76は、図8Aに示すように、ピストン74が他端側(地盤110側)から一端側(建物100側)に向かって移動する際に、室内流路74aを塞いで第1室72a及び第2室72b間のオイルの流通を阻止する。
内筒72と外筒73との間には、外筒室73aが形成されている。外筒室73aには予備室73bが連通している。なお、外筒室73aと予備室73bとをまとめて、以下、貯蔵室と呼ぶ。外筒室73aにはオイルが充満し、また、予備室73bには所定空間を残しつつオイルが溜まっている。また、内筒72には、第1室72a及び外筒室73aを連通させる第1流路72cと、第2室72b及び外筒室73aを連通させる第2流路72dと、第1流路72cと並列に、第1室72a及び外筒室73aを連通させる第3流路72eとが形成されている。
つまり、上述の油圧室及び貯蔵室は、ケース71の内部に形成された二つの室であり、流路(具体的には、第1流路72c〜第3流路72e)を介して互いに連通する。ここで、油圧室は、前記二つの室のうちの一方の室に相当し、貯蔵室は、他方の室に相当する。
第1流路72cには、リリーフ弁77が取りつけられている。すなわち、リリーフ弁77は、油圧室と貯蔵室との間に形成された流路内(具体的には第1流路72c内)に設けられている。このリリーフ弁77は、通常時には第1流路72cを閉じており、第1室72a内のオイル圧(流体の圧力)が貯蔵室内のオイル圧よりも所定圧以上高くなった場合に第1流路72cを開放して、第1室72a内のオイルが外筒室73aへ流れるようにする。
第2流路72dには、逆止弁78が設けられている。この逆止弁78は、ピストン74が他端側(地盤110側)から一端側(建物100側)に向かって移動する際に、第2流路72dを開放して外筒室73aから第2室72bへのオイルの流通を許容し、ピストン74が一端側から他端側に向かって移動する際に、第2流路72dを塞いで外筒室73aと第2室72bとの間のオイルの流通を阻止する。第3流路72eには、調整弁79が設けられている。この調整弁79は、ピストン74の移動速度に応じて第3流路72eの開閉具合を調節する。なお、第3流路72e及び調整弁79の代わりに、オリフィスが第1流路72cと並列して設けられていることとしてもよい。
以上のような構成のオイルダンパ70は、アクチュエータ31のロッド31aの変位に伴ってピストン74を移動させる。すなわち、オイルダンパ70全体を見ると、前記ロッド31aの変位に伴って該オイルダンパ70は水平方向に沿って変形(収縮及び伸張)することになる。これにより、第1室72a内におけるオイル圧が調整されるようになる。このようなオイルダンパ70は、本実施形態におけるバネ体32と同様の機能を果たす。すなわち、第一参考例では、弾性部としてのオイルダンパ70を備えることにより、高振動数の地震動が発生した場合に建物100に対して免震性能を確保し、低振動数領域における制振効果を向上させている。
そして、第一参考例では、上記のリリーフ弁77がフェールセール機構として機能する。つまり、第一参考例では、フェールセーフ機構がオイルダンパ70内に設けられている。以下、リリーフ弁77がフェールセーフ機構として発揮する機能について説明する。
アクチュエータ31が上限変位量zu(上限変位量zuについては本実施形態と同様)を超えない範囲でロッド31aを変位させた場合、第1室72a内のオイル圧は、リリーフ弁77の開弁圧を超えない範囲で上昇する。この結果、前記ロッド31aの変位量zに応じた制振力が発生する一方で、当該変位量zに応じた荷重がアクチュエータ31に作用することになる。ここで、アクチュエータ31に作用する荷重は、第1室72a内のオイル圧に起因した荷重であるため、該荷重の大きさは前記オイル圧に応じた大きさとなる。
一方、アクチュエータ31のロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達すると、第1室72a内のオイル圧がリリーフ弁77の開弁圧となって該リリーフ弁77が開く。これにより、第1室72a内のオイルが貯蔵室(外筒室73a及び予備室73b)へ流入するようになる。この結果、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達した後にアクチュエータ31が前記ロッド31aを更に変位させたとしても、第1室72a内のオイル圧は、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達した時点の圧力のまま推移する。したがって、アクチュエータ31に作用する荷重の大きさについても、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達した時点の大きさを超えることがない。以上の結果、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超えないようになる。
以上のように、第一参考例では、上記オイルダンパ70がフェールセーフ機構として機能する。つまり、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超える前に、リリーフ弁77が油圧室(具体的には、第1室72a)内のオイルを該油圧室から前記貯蔵室へ流入させるように開く上記構成により、フェールセーフ機構としての機能が的確に発揮されることになる。なお、リリーフ弁77の開弁圧については調整可能であることが望ましい。当該開弁圧を調整することにより、該リリーフ弁77が開く際のロッド31aの変位量z、すなわち、上限変位量zuを調整することが可能になるためである。
また、オイルダンパ70の配置位置については上記の位置に限定されるものではなく、例えば、図9に示すように、アクチュエータ31が建物100に支持され、オイルダンパ70がアクチュエータ31と地盤110との間に配置されていることとしてもよい。図9は、オイルダンパ70の配置位置の変形例を示す図であり、図7に対応した図である。
また、オイルダンパ70の構成についても上記の構成に限定されるものではなく、例えば、図10に示すように、ケース71内に貯蔵室が備えられていない構成のオイルダンパ(以下、他のオイルダンパ90)であってもよい。以下、図10を参照しながら、他のオイルダンパ90について説明する。図10は、他のオイルダンパ90の模式断面図である。
他のオイルダンパ90も、上述のオイルダンパ70と同様、流体圧力調整機構の一例であり、弾性を備え、アクチュエータ31のロッド31aの変位に伴って水平方向に沿って変形する。他のオイルダンパ90は、図10に示すように、ケース91と、ピストン94とを備えている。ピストンロッド95の端部(建物100側の端部)に設けられた取付部95aが建物100に固定され、ケース91の端部(地盤110側の端部)に設けられた取付部91aがアクチュエータ31のロッド31aの先端に固定されている。
ケース91の内部には、オイルが充満した状態で封入されているオイル封入空間92と、水平方向において内壁を隔てて前記オイル封入空間内筒92と並んでいる並設空間93と、が形成されている。オイル封入空間92は、ピストン94により、建物100側の第1室92aと、その反対側(地盤110側)の第2室92bとに区画されている。
ピストン94は、アクチュエータ31のロッド31aの変位に伴ってケース91内(具体的にはオイル封入空間92内)を水平方向に沿って移動する。ピストン94は、ピストンロッド95の軸方向中央部に取り付けられている。ピストンロッド95は、その水平方向一端側でケース91の側壁(建物100側の側壁)を貫通し、水平方向他端側でオイル封入空間92と並設空間93との間に位置する内壁を貫通している。
また、ピストン94には、該ピストン94を貫通する一対の室内流路94a、94bが形成されている。つまり、第1室92a及び第2室92bは、ケース91の内部に形成された2つの室に相当し、一対の室内流路94a、94bを介して互いに連通する。更に、一対の室内流路94a、94bの各々には、リリーフ弁96a、96bが取り付けられている。
一対の室内流路94a、94bのうち、下側の室内流路94aに取り付けられたリリーフ弁96aは、通常時には当該下側の室内流路94aを閉じており、第1室92a内のオイル圧が所定圧以上になった場合に前記下側の室内流路94aを開放して、第1室92a内のオイルが第2室92bへ流れるようにする。他方、上側の室内流路94bに取り付けられたリリーフ弁96bは、通常時には当該上側の室内流路94aを閉じ、第2室92b内のオイル圧が所定圧以上になった場合に前記上側の室内流路94aを開放して、第2室92b内のオイルが第1室92aへ流れるようにする。
上記構成の他のオイルダンパ90は、アクチュエータ31のロッド31aの変位に伴ってピストン94を移動させる。これにより、第1室92a及び第2室92bのうちの一方の室に封入されたオイルが圧縮し、当該一方の室におけるオイル圧が上昇する。これに伴い、他のオイルダンパ90は、水平方向に沿って変形(収縮及び伸張)することになる。この結果、他のオイルダンパ90も、上述のオイルダンパ70と同様に、弾性部としての機能を果たすことになる。
そして、他のオイルダンパ90においても、リリーフ弁96a、96bがフェールセール機構として機能する。すなわち、リリーフ弁96a、96bの各々は、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超える前に、第1室92a及び第2室92bのうちの一方の室(オイル圧が所定圧力に達した側の室)内のオイルを他方の室へ流入させるように開く。この結果、フェールセーフ機構としての機能が的確に発揮されることになる。
<<第二参考例について>>
第二参考例の制振装置10について、図11を参照しながら説明する。図11は、第二参考例の制振装置10の構成を模式的に示す平面図である。
第二参考例の制振装置10は、図11に示すように、制振力付与機構30の構成要素としてのアクチュエータ31とバネ体32とを備えている。第二参考例のバネ体32は、本実施形態と略同じ構成の梁である。アクチュエータ31及びバネ体32は水平方向に沿って直線状に並んでいる。アクチュエータ31は、その後端部に設けられた支持部31bを介して地盤110に支持されている。バネ体32は、支持部材120を介して建物100に支持されている。
また、バネ体32としての梁の長手方向中央部には、アクチュエータ31のロッド31aの先端が固定されている。そして、前記梁は、本実施形態の場合と同様、アクチュエータ31のロッド31aの変位に伴って水平方向に沿って弧状に歪む。換言すると、バネ体32としての梁は、アクチュエータ31に固定され、前記ロッド31aの変位に伴って水平方向に沿って歪む歪み部材の一例である。
そして、第二参考例では、バネ体32としての梁が、弾性部として機能するとともに、フェールセーフ機構としても機能する。すなわち、第二参考例では、フェールセーフ機構が弾性部と一体化しており、前記梁は、弾性部と一体化したフェールセーフ機構に相当する。
具体的に説明すると、上記梁(すなわち、第二参考例のバネ体32)は、所定の大きさ以上の応力が掛かると降伏する鋼材からなる。そして、アクチュエータ31が上限変位量zu(上限変位量zuについては本実施形態と同様)を超えない範囲でロッド31aを変位させた場合、梁は、ロッド31aの変位量zに応じた分だけ水平方向に沿って歪むように弾性変形する。このとき、ロッド31aの変位量に応じた制振力が発生する一方で、アクチュエータ31には、前記変位量zに応じた荷重が作用することになる。ここで、アクチュエータ31に作用する荷重は、梁が歪むことによって生じる反発力に由来する荷重であるため、該荷重の大きさは、梁の歪み量に応じた大きさとなる。
一方、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達すると、梁に掛かる応力が該梁の降伏点に達し、該梁が降伏して塑性変形するようになる。その後、アクチュエータ31がロッド31aを更に変位させると、上記梁の歪み量はロッド31aの変位量zが上限変位量zuに到達した時点での歪み量を超えるものの、アクチュエータ31に作用する荷重の大きさについては殆ど変化(上昇)しなくなる。以上の結果、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超えないようになる。
以上のように、第二参考例では、バネ体32としての梁がフェールセーフ機構として機能する。つまり、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重に達する前に、前記梁が降伏する上記構成により、フェールセーフ機構としての機能が的確に発揮されることになる。なお、バネ体32としての梁の降伏点は当該梁の材質に依存するため、梁の材質を選択することにより、該梁が降伏する際のロッド31aの変位量z、すなわち上限変位量zuを調整することが可能である。
また、上記の説明においては、バネ体32としての梁が建物100側に支持されている例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図12に示すように、梁が地盤110側に支持され、アクチュエータ31が梁と建物100との間に配置されていることとしてもよい。図12は、バネ体32としての梁が地盤110側に支持された構成を示す図である。
<<第三参考例について>>
第三参考例の制振装置10について、図13を参照しながら説明する。図13は、第三参考例の制振装置10の構成を模式的に示す平面図である。
第三参考例の制振装置10は、図13に示すように、制振力付与機構30の構成要素としてのアクチュエータ31とバネ体32と連結機構80とを備えている。これらの機器は、建物100から地盤110に向かって、バネ体32、アクチュエータ31、連結機構80の順で一直線状に並んでいる。
連結機構80は、制振力の伝達経路においてアクチュエータ31と地盤110との間に設けられており、アクチュエータ31を地盤110に支持させておくためのものである。この連結機構80は、アクチュエータ31の後端部(より具体的に説明すると、アクチュエータ31の後端部に設けられた支持部31b)に固定された第一固定部81と、地盤110に固定された第二固定部82と、第一固定部81と第二固定部82とを連結させる連結ピン83とを備えている。つまり、連結ピン83は、互いに隣り合うアクチュエータ110及び地盤110の間に配置され、該アクチュエータ110及び地盤110を連結させるものである。そして、第三参考例では、前記連結ピン83がフェールセーフ機構として機能する。
具体的に説明すると、所定の大きさを超える荷重が連結ピン83に掛かると、該連結ピン83が外れて第一固定部81と第二固定部82との連結状態が解除されるようになっている。
より具体的に説明すると、アクチュエータ31が上限変位量zu(上限変位量zuについては本実施形態と同様)を超えない範囲でロッド31aを変位させた場合、ロッド31aの変位に伴ってバネ体32が変形するとともに、該バネ体32からの反発力がアクチュエータ31及び連結ピン83に荷重として作用する。このとき、連結ピン83は、第一固定部81と第二固定部82との連結状態を維持している。つまり、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達していない限り、第一固定部81と第二固定部82との連結状態が維持される。したがって、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達するまでの間、アクチュエータ31が地盤110に支持され、地盤110を支点にして発生した制振力が伝達経路に沿って伝達されることになる。
なお、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuに達するまで、アクチュエータ31及び連結ピン83に作用する荷重は、図14に示すように、上記変位量zの増加(減少)に応じて単調増加(単調減少)する。図14は、ロッド31aの変位量zとアクチュエータ31及び連結ピン83に作用する荷重との関係について示した図である。
一方、ロッド31aの変位量zが上限変位量zuを超えると(換言すると、連結ピン83に掛かる荷重の大きさが所定の大きさを超えると)、当該連結ピン83が不図示の取付位置から外れ、アクチュエータ31と地盤110の連結状態が解除される。この結果、アクチュエータ31が地盤110から絶縁され、制振力の伝達経路が遮断されるようになる。かかる状態においてアクチュエータ31がロッド31aを更に変位させたとしても、制振力が伝達されなくなり、アクチュエータ31及び連結ピン83にも荷重が作用しなくなる(図14参照)。以上の結果、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重を超えないようになる。
以上のように、第三参考例では、連結ピン83がフェールセーフ機構として機能する。つまり、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重に達する前に、連結ピン83が外れてアクチュエータ31と地盤110との連結状態が解除される上記構成により、フェールセーフ機構としての機能が的確に発揮されることになる。なお、連結ピン83が外れるタイミングは該連結ピン83の強度(例えば、破断強度)に依存するため、該連結ピン83の材質を選択することにより、上記連結状態が解除される際のロッド31aの変位量z、すなわち上限変位量zuを調整することが可能である。
なお、上記の説明においては、第一固定部81がアクチュエータ31に固定され、第二固定部82が地盤110に固定されていることとした。すなわち、連結ピン83は、アクチュエータ31と地盤110との間に配置され、該アクチュエータ31と地盤110を連結することとした。但し、これに限定されるものではない。連結ピン83は、アクチュエータ31、地盤110、建物100、及び、バネ体32のうち、互いに隣り合う二者の間に配置され、当該二者を連結させるものであればよい。そして、アクチュエータ31に作用する荷重が該アクチュエータ31の許容荷重に超える前に連結ピン83が外れて、前記二者の連結状態が解除される限り、第一固定部81及び第二固定部82の位置(換言すると、連結ピン83の配置位置)は、いずれの位置であってもよい。
具体的に説明すると、例えば、図15に示すように、連結ピン83がアクチュエータ31とバネ体32の間に配置されていることとしてもよい。図15は、連結ピン83の配置位置の変形例を示す図である。あるいは、図16に示すように、連結ピン83が建物100(具体的には、建物100に固定された支持部120)とバネ体32との間に配置されていることとしてもよい。図16は、連結ピン83の配置位置の他の変形例を示す図である。
また、既に説明したように、バネ体32が地盤110側に支持されていることとしてもよい。かかる構成において、連結ピン83は、図17に示すようにアクチュエータ31と建物100との間に配置されていることとしてもよく、あるいは、図18に示すようにアクチュエータ31とバネ体32との間に配置されていることとしてもよい。図17及び図18は、バネ体32が地盤110側に支持された構成における連結ピン83の配置位置を示す図である。
===その他の実施形態===
以上、上記の説明では、本実施形態の制振装置10について説明したが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
また、上記の実施形態では、制振力付与機構30を構成する各機器(アクチュエータ31、バネ体32、フェールセーフ機構)が水平方向に沿って一直線状に並んでいることとした。すなわち、制振力の伝達経路が略直線状であることとした。但し、これに限定されるものではない。制振力付与機構30を構成する各機器については建物100と地盤110との間において直列に並んでいればよい。ここで、制振力付与機構30を構成する各機器が直列に並んでいるとは、当該各機器によって形成される制振力の伝達経路が一本線状であることを意味する。したがって、例えば、図19に示すように、アクチュエータ31及びバネ体32が並んだ方向から見て、連結機構80が該アクチュエータ31及びバネ体32とから外れた位置に位置していることとしてもよい。図19は、制振力付与機構30を構成する各機器の配置位置の変形例を示す図である。