JP5185519B2 - 高分散性キトサンおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、担子菌などから得られる植物性キトサンに関する。より詳しくは、本発明は、分散性の高い植物性キトサン加工物およびその製造方法に関する。
キトサンはD-グルコサミン単位を主体とする多糖であり、食品、医薬品、化粧品など
の幅広い分野で、生理活性をはじめとする多様な作用、機能が活用されている。例えば、キトサンを摂取することにより、コレステロールが体内へ吸収されにくくなることが知られており、肥満予防や生活習慣病の改善に役立つことが期待され、機能性食品(特定保健用食品等)の素材としても利用されている。
これまで工業的に製造されていたキトサンは、カニなどの甲殻(クチクラ層)を原料とし、これに含有されるキチン(N-アセチル-D-グルコサミンからなる多糖)を単離した
後、高濃度アルカリ処理によりキチンを脱アセチル化することで生成したキトサン、つまり動物性キトサンが一般的であった。
一方、真菌類(いわゆるキノコ、カビ)の細胞壁などにも、セルロースやグルカンといった多糖類が結合したキチンが含有されることは知られていたが、そのようなキチンからキトサンを製造する方法は確立されていなかった。しかし近年、担子菌類を原料としてキトサンを効率的に製造することができる方法が開発された(特許文献1、特許文献2)。
担子菌類などから得られる「植物性キトサン」には、グルカン等の多糖類が結合している点で、グルコサミンのみから構成されるホモポリマーである動物性キトサンとは異なる独特の物質といえる。そして、動物性キトサンとは異なるユニークな物性と生理活性、すなわちグルカンとキトサンそれぞれ固有の生理活性の他に、キトサンとグルカンの混合物あるいはヘテロポリマーとしての生理活性を保有しているといわれている。
また、カニを原料として製造されたキトサンには、カニ特有の異臭や不快なえぐみがあるが、上記特許文献に記載された方法によりキノコを原料として製造されたキトサンにはキノコ特有の好ましい香りが含まれており、異臭や不快なえぐみは全くない。このようなことから、植物性キトサンの今後の幅広い利用が期待されている。
ところが、上述のようなキトサンは(動物性、植物性ともに)、希酸(例えばクエン酸、リンゴ酸等の有機酸水溶液)には可溶であるものの中性程度の水には不溶である。そのため、水分を多く含有する食品や飲料等にキトサンを添加した場合、沈澱して固液分離を起こしてしまうという問題があり、食品等の分野におけるキトサンの利用の制限となっていた。
このような問題を回避するための手段としては、例えばキトサンと共に有機酸の粉末を食品中に配合することにより、溶媒を酸性にして溶解性を高める方法が提案されているが(特許文献3)、用いられる有機酸が食味に影響を及ぼすことがあるため、利用できる食品の範囲は限られている。また、酸化剤を用いた化学的処理や、加水分解酵素などを用いた酵素処理によってキトサンを低分子化(例えば分子量1万以下程度)することにより「水溶性」になることが知られている。しかし、前述のような生理作用はキトサンが水に不溶の「食物繊維」であることにより発揮されるものだと考えられており、低分子化した植物性キトサンを配合した飲食物を摂取したとしても、そのような生理作用は期待できない。
WO2004/033502 特開2005−029770号公報 特許第3313391号公報
本発明は、水への分散性が向上した植物性キトサン(高分散性植物性キトサン)およびその製造方法を提供することを目的とする。
植物性キトサンを糖転移酵素(例:シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ)で酵素処理することにより、高分散性植物性キトサンを効率的に製造することが可能である。上記酵素処理は、糖供与体の共存下で行うことがより好ましい。
また、上記植物性キトサンは、例えば、担子菌である椎茸、エノキ、マッシュルーム、マイタケ、エリンギ、シメジの子実体および菌糸体などに含有されるキチンを脱アセチル化して得られたものであることが好ましい。
このようにして得られる高分散性植物性キトサンは、従来の植物性キトサンに比べて水への分散性が優れており、飲食物、化粧品、医薬品または飼料などに添加して利用する用途に好適である。
本発明によれば、水中での分散性に優れた植物性キトサンを製造する(植物性キトサンの水中での分散性を向上させる)ことが可能となるため、飲食物、化粧品、医薬品、飼料等の製造分野における取り扱い性が改善され、また得られる製品における固液分離の問題が解消することができ、植物性キトサンの利用の拡大に寄与する。
本発明における「植物性」キトサンとは、担子菌類や放線菌、酵母等に由来するキトサンを呼称するが、従来一般的な甲殻類等に由来する「動物性」キトサンと区別するための用語であり、「植物」または「植物性」を狭義に解釈すべきではない。
また、本発明において植物性キトサンが「高分散性」であるとは、通常の植物性キトサンよりも水に対する分散性が向上していることをいう。より具体的には、例えば、植物性キトサンを水に添加、混合して得られるゲル様物質が、通常よりも長時間にわたって安定的に保持される(水との分離の程度が抑えられる)ような性質を表す。
なお、本発明における酵素処理では低分子化は起きていないと考えられ、本発明でいう「高分散性」は、キトサンを加水分解酵素などにより低分子化することにより得られる「水溶性」とは区別される性質である。
植物性キトサン
本発明における「植物性キトサン」とは、担子菌類や放線菌、酵母等に含有される、グルカン等の高分子多糖類が結合しているキチンに由来し、そのようなキチンを脱アセチル化処理することにより得られるものである。植物性キトサンの原料としては、例えば、椎茸、エノキ、マッシュルーム、マイタケ、エリンギ、シメジなどの一般的な食用の担子菌類が好適であるが、特にこれらに限定されるものではない。なお、本発明で好適に用いることのできるこのような植物性キトサンとしては、リコム(株)製「キトグルカン」などの商品が挙げられる。
植物性キトサンは、上記のような原料を用いて公知の方法により調製することが可能である。例えば、前記特許文献1には、必要によりセルラーゼまたはグルカナーゼで予備処理した茸を苛性アルカリ水溶液中で加熱処理した後、固液分離し、得られた固形分を有機酸水溶液に溶解し、これにアルコールを加えるか、またはpH10以上となるように苛性アルカリを加えて沈澱を生じさせ、この沈澱を洗浄、乾燥することによる、キトサン含有多糖類の製造方法が記載されている。前記特許文献2には、担子菌類をアルカリ溶液に浸漬させて加熱した後、担子菌類を回収してアルカリ溶液を除去し、さらに残されているアルカリを酢酸等の有機酸または炭酸等の弱酸で中和して、純水での洗浄、温風乾燥することにより、粉末状の植物性キトサンを効率的に得る方法が記載されている。いずれの文献に記載された方法も本発明で用いる植物性キトサンを調製する方法として好適に利用できるが、その他の方法により調製されたものであってもよい。
上述のような方法により得られる植物性キトサンは、キチン・キトサン部分(N-アセ
チル-D-グルコサミンおよびD-グルコサミンからなるポリマー)およびグルカン部分(
グルコースのホモポリマー)で構成され、このグルカン部分はβ(1-6)結合およびβ(1-4)結合を含む一方でβ(1-3)結合を実質的に含まないものと推定されている(特許文献1参
照)。このような点で、キチン・キトサン以外の高分子多糖類を含有しない動物性キトサンとは区別される物質である。
また、本発明に用いられる植物性キトサンの「キトサン含有量」(キチン・キトサン部分のグルコサミンの脱アセチル化されている割合)、分子量(キチン・キトサン部分およびグルカン部分の総和)、キチン・キトサン部分とグルカン部分との構成モル比などは、特に限定されるものではない。上述の方法により得られる植物性キトサンについては、原料や製造条件によっても変動するが、通常は、キトサン含有量は5〜80重量%程度であり、分子量は1万〜100万程度であり、構成モル比はキチン・キトサン部分:グルカン部分=1〜5:5〜1程度である。
高分散性植物性キトサンの製造方法
<糖転移酵素および糖供与体>
本発明による高分散性植物性キトサンの製造方法は、植物性キトサンを糖転移酵素で酵素処理する工程を有することを特徴とする。
本発明で用いる糖転移酵素としては、グリコシルトランスフェラーゼ(EC 2.4)のほか、アミラーゼ等の糖転移作用を有する加水分解酵素を用いることが可能であり、使用条件等に応じて適切なものを選択することができる。例えば、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase,EC 2.4.1.19)は、反応速度の速さなどの点から好適な糖転移酵素である。CGTaseは、バチルス属、クレブシェーラ属などの細菌により生産さ
れるいずれの起源の酵素でもよく、例えば、市販のバチルス属菌を培養して得られたものである商品名「コンチザイム」(天野エンザイム(株)製)が挙げられる。
また、得られる高分散性植物性キトサンの分散性が優れる傾向にあることなどから、上述のような糖転移酵素を用いた酵素処理は、糖供与体の存在下で行うことがより好ましい。
上記糖供与体としては、例えばデンプン、デンプン部分分解物(デキストリン、アミロース、アミロペクチン、マルトースなど)、シクロデキストリンなどを用いることができるが、例えば、糖転移酵素としてCGTaseを用いる場合はシクロデキストリンを用いる
ことが好ましい。
<酵素処理工程>
本発明における酵素処理について、糖転移酵素および糖供与体の添加量や、酵素処理時間・温度などの諸条件は、対象とする植物性キトサンの種類や化学的性質、目的とする分散性の程度、使用する糖転移酵素の性質などに応じて、適切に調整することができる。
例えば、担子菌より得られた一般的な植物性キトサンと、この植物性キトサンの1〜10倍程度の重量のデキストリンと、このデキストリン1gあたり10〜20単位の割合のCGTaseとを、2〜48時間程度かけて反応させることにより、本発明の高分散性植物
性キトサンを得ることができる。また、この酵素処理は、適切な試薬類を用いてpHを5〜6の範囲に調整し、50〜60℃の範囲の温度で行うことが好ましい。酵素処理後は、例えば90℃以上で1時間加温するなど、公知の適切な手法を用いて酵素を失活させればよい。
<その他の工程>
上記酵素処理により生成した高分散性植物性キトサンは、水中に分散したまま(分散液の態様で)各種の用途に用いることもできるが、必要に応じて、単離、精製のための工程を経た後、凍結乾燥、温風乾燥、スプレードライ等により乾燥粉末として製品化することが可能である。このような単離、精製、乾燥粉末化などの工程においては、公知の手段を適宜用いることができる。
高分散性植物性キトサンの利用
本発明による高分散性植物性キトサンは、従来のキトサンが使用されていた各種の用途において同様に使用できるのみならず、従来のキトサンでは固液分離などの問題により使用できなかった態様で使用することも可能となる。
例えば、植物性キトサンの経口摂取は、血圧、尿糖値、血糖値、尿酸値、総コレステロール値、中性脂肪値等の低下作用を有し、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病の検査数値の改善に大いに効果があることが報告されている(前記特許文献1:WO2004/033502等参照)。また、溶解性の問題に対処するために低分子化したキトサンを、保湿性成分または抗菌性成分として化粧品に添加する利用も提案されている(特許第2507425号公報、特許第2611956号公報等参照)。本発明の高分散性植物性キトサンは、このような様々な作用効果を活用すべく飲食物、化粧品、医薬品または飼料などに配合する用途に向けて、好適な製品である。
高分散性植物性キトサンは、公知の各種の飲食物、化粧品、医薬品または飼料などと組み合わせて使用することができる。また、飲食物、化粧品、医薬品または飼料に高分散性植物性キトサンを配合する方法などについては、公知の配合手段などを適宜用いることが可能である。
高分散性植物性キトサンを配合することのできる飲食物は、特に限定されるものではないが、例えば、果実飲料、ウーロン茶、緑茶、紅茶、ココア、野菜ジュース、青汁、豆乳、乳飲料、乳酸飲料、ニアウォーター、スポーツドリンク、栄養ドリンク等の飲料類、ゼリー、プリン、ヨーグルト等の洋菓子類、和菓子、調味料、魚肉、魚肉加工品、畜産加工品等などが挙げられる。
また、医薬品としては、例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形製剤またはシロップ剤、ドリンク剤等の液状製剤の形態で、充填剤、増量剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤などの公知慣用の成分と共に配合することができる。化粧品としては、例えば、乳液、リキッド、クリーム、ローション、化粧水などの態様のものが挙げられる。
実施例
乾燥したエノキに苛性ソーダ水溶液を加えて加熱処理し、中和・水洗した後熱風乾燥して、植物性キトサンを得た。この植物性キトサン10gとデキストリン(商品名「パインデックス#1」(松谷化学社製)20gとに水970mLを加え、さらに80℃でデキストリンを加温溶解した。次に、50℃に冷却しpHを6.0に調整後、糖転移酵素(商品
名「コンチザイム」天野エンザイム(株)製)を300U添加して、24時間反応させた。反応後、90℃・30分間の加熱失活を行い、得られた分散液を本発明品とした。
対照として、「コンチザイム」を添加しなかった以外は上記と同様の処理により分散液を調製し、本発明品および対照品の分散性を評価した。結果は次表の通りである。
Figure 0005185519
対象品(従来の植物性キトサンの分散液)は一晩静置後には水と分離したが、本発明品(高分散性植物性キトサンの分散液)は一晩静置後も非常に良好な分散性を保持したままであった。
キノコキトサン(商品名「キトグルカン」株式会社リコム製)1gとシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(商品名「コンチザイム」天野エンザイム株式会社製)0.04mLをイオン交換水100mLに添加し、分散させた後、55℃に24時間保持し
た。その後85℃、30分加熱し酵素を失活させ、得られた分散液を本発明品とした。
対照として、「コンチザイム」を添加しなかった以外は上記と同様の処理により分散液を調製し、本発明品と対照品について、下記の2通りの分散性に関する比較試験を行った。
・比較試験1
それぞれの分散液を100mLのシリンダーに入れ、分離沈降性を調べた。結果を次表に示す。数値はゲル様物の容積(mL)を示す。
Figure 0005185519
対照品(従来の植物性キトサンの分散液)では短時間のうちに植物性キトサンが沈降したが、本発明品(高分散性植物性キトサンの分散液)では、24時間以降わずかな分離が
見られたものの、安定したゲル様状態が保たれていた。
・比較試験2
それぞれの分散液を1g採取して100mLのシリンダーに入れ、イオン交換水100mLを加えよく振った後静置し、分離沈降性を調べた。結果を次表に示す。
Figure 0005185519
前述の比較試験1から100倍希釈した状態であっても、対照品では3時間後には植物性キトサンが沈降したが、本発明品は高分散性植物性キトサンが全体に均一に分散していた。
・機能性飲料
実施例2の本発明品の乾燥粉末0.01gにプレーンヨーグルト(無脂乳固形分 16%、乳脂肪分1%)50g、エリスリトール3.7g、マルチトールシラップ1.8g、「αGスイート
PX」(東洋精糖(株)製)0.01g、ブドウ糖果糖液糖2.0g、砂糖1.4g、ペクチン0.3g
、イチゴ果汁(6倍濃縮)0.80g、香料0.20gに水を加えて100gとし、イチゴ味の飲むヨーグルト飲料を調製した。沈澱等は見られなかった。本品は体脂肪抑制機能を有するキノコキトサンを含有しており、機能食品として好適に利用できる。
・機能性ゼリー
実施例2の本発明品の乾燥粉末0.01gに砂糖10g、「αGスイートPX」0.02g、アップルフレーバー0.1g、ベニバナ色素0.001g、酸味料0.4g、ゲル化剤4.0g、ビタミンC0.06gに水を加えて200gとし、アップル風味のゼリーを調製した。沈澱等は見られな
かった。本品は体脂肪抑制機能を有するキノコキトサンを含有しており、機能食品として好適に利用できる。

Claims (5)

  1. 担子菌、放線菌または酵母が含有するキチンを脱アセチル化して得られたキトサンシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼで酵素処理する工程を含む、高分散性キトサンの製造方法。
  2. 前記キトサンが、担子菌である椎茸、エノキ、マッシュルーム、マイタケ、エリンギまたはシメジの子実体または菌糸体に由来するものであることを特徴とする、請求項1に記載の高分散性キトサンの製造方法。
  3. 前記酵素処理をデンプン、デンプン部分分解物またはシクロデキストリンの共存下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の高分散性キトサンの製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られことを特徴とする高分散性キトサン
  5. 請求項4に記載の高分散性キトサンを含有することを特徴とする飲食物、化粧品、医薬品または飼料。
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