以下、本発明の眼鏡レンズの玉形加工可否判定方法、眼鏡レンズの玉形加工可否判定プログラム、眼鏡レンズの玉形加工可否判定装置及び眼鏡レンズ製造方法を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
[眼鏡レンズの供給システム]
まず、本発明の眼鏡レンズの玉形加工可否判定方法が実施される眼鏡レンズの供給システムについて、図1を参照して説明する。
図1は、本発明の眼鏡レンズの玉形加工可否判定方法が実施される眼鏡レンズの供給システムの全体構成図である。
発注側である眼鏡店100とレンズ加工側であるレンズメーカの工場200とは、通信媒体300で接続されている。なお、図1では、眼鏡店100を1つしか示さないが、実際には複数の眼鏡店100が工場200に接続される。
眼鏡店100には、オンライン用の端末コンピュータ101と、フレーム形状測定器102が設置される。端末コンピュータ101は、キーボード等の入力装置やCRT等の表示装置、通信媒体300を介して加工側と通信するための通信手段を備えている。この端末コンピュータ101には、フレーム形状測定器102が接続されている。
フレーム形状測定器102は、装用者が指定した眼鏡フレームのフレーム形状を測定する装置であり、眼鏡フレームのリム溝の内周形状や、形板(例えば眼鏡フレームに取り付けられているサンプルレンズ)の周縁の形状を測定するものである。このフレーム形状測定器102の構成及び動作については後述する。フレーム形状測定器102は、測定した眼鏡フレームのフレーム形状をフレーム形状実測データとして端末コンピュータ101に供給する。
端末コンピュータ101は、フレーム形状測定器102から供給されたフレーム形状実測データに所定の計算処理を施してフレーム形状データを得る。このフレーム形状データは、装用者が指定した眼鏡フレームに対応する個々のレンズの周縁の形状を示すレンズ周縁形状データ、または、そのレンズ周縁形状データの他に左右レンズの相対位置や向き等に関する情報も含まれる形状データである。また、端末コンピュータ101には、入力装置によって眼鏡レンズ情報、前記フレーム形状データ以外の眼鏡フレーム情報、処方値等の発注に必要な情報が入力される。
そして、端末コンピュータ101から出力される出力データは、通信媒体300を介して工場200のメインフレーム201にオンラインで転送される。この出力データには、眼鏡レンズ情報、フレーム形状データを含む眼鏡フレーム情報、処方値等が含まれる。なお、本発明に係る眼鏡レンズの供給システムとしては、端末コンピュータ101とメインフレーム201との間に、中継局を設けるようにしてもよい。また、端末コンピュータ101の設置場所については、眼鏡店100に限定されるものではない。
工場200のメインフレーム201は、眼鏡レンズ加工設計プログラム、レンズ縁面加工設計プログラム、玉形加工可否判定プログラム等が実行可能に格納されたコンピュータである。メインフレーム201は、眼鏡店100の端末コンピュータ101から供給されたデータに基づき、レンズ周面形状(例えば、ヤゲン、平、溝)を含めたレンズ形状を演算したり、レンズの加工が可能であるか否かを判定したりする。そして、演算結果や判定結果を、通信媒体300を介して端末コンピュータ101に供給する。眼鏡店100の端末コンピュータ101は、メインフレーム201から供給された演算結果や判定結果を表示装置に表示させる。
また、メインフレーム201は、レンズ周面形状を含めたレンズ形状の演算結果を工場200の各端末コンピュータ210,220,230,240,250にLAN202を介して送る。
端末コンピュータ210には、レンズブランクの光学的に仕上げられていない面を仕上げるための切削装置や研磨装置が接続されており、例えば、荒擦り機(カーブジェネレータ)211と砂掛け研磨機212とが接続されている。この端末コンピュータ210は、メインフレーム201から送られた演算結果に従い、荒擦り機211と砂掛け研磨機212とを制御して、レンズブランクの光学的に仕上げられていない面の曲面仕上げを行う。
端末コンピュータ220には、両面が光学的に仕上げられたレンズ(フィニッシュトレンズ)の光学性能や光学面形状を検査するための装置が接続されており、例えばレンズの屈折力をスポット的に測定するレンズメータ221と、レンズの厚みを測定する肉厚計222とが接続されている。この端末コンピュータ220は、レンズメータ221と肉厚計222とで得られた測定値と、メインフレーム201から送られた演算結果とを比較して、両面が光学的に仕上げられたレンズの受入れ検査を行う。受入れ検査に合格したレンズには、光学中心を示すマーク(3点マーク)が施される。
端末コンピュータ230には、レンズを玉形加工するにあたってレンズにブロック用治工具を取り付けるための装置が接続されており、例えば、マーカ231と画像処理機232とが接続されている。この端末コンピュータ230は、メインフレーム201から送られた演算結果に従い、レンズの玉形加工をする際にレンズをブロック(保持)すべきブロッキング位置を決定する。そして、端末コンピュータ230は、画像処理機232から供給されるレンズの画像によってレンズの位置と形状を確認してマーカ231を制御し、決定したブロッキング位置にブロッキング位置マークを施す。このブロッキング位置マークに従い、ブロック用の治工具がレンズに固定される。
端末コンピュータ240には、レンズを玉形加工するための装置が接続されており、例えば、本出願人が出願した特開平9−225799号公報に詳細な開示されているような玉形加工装置241が接続されている。この端末コンピュータ240は、メインフレーム201から送られた演算結果に従い、玉形加工装置241を制御して、レンズの玉形加工を行う。この玉形加工装置は、所定の工具半径を持った回転砥石によってレンズの周面を研削する。
端末コンピュータ250には、玉形加工されたレンズの端面形状や周長を検査するための装置が接続されており、例えば、ヤゲンの頂点の周長および形状を測定する形状測定器251が接続されている。この端末コンピュータ250は、形状測定器251が測定した玉形加工済のレンズの周長および形状を、メインフレーム201から送られた演算結果と比較して加工の合否判定を行う。
[フレーム形状測定器の構成及び動作]
次に、眼鏡店100に設置されるフレーム形状測定器102について、図2を参照して説明する。
図2は、フレーム形状測定器102の構造の概略を示す斜視図である。なお、フレーム形状測定器については、本出願人が出願した特開平1−305308号公報に詳細な開示があり、本実施例では、そのフレーム形状測定器を用いる。
フレーム形状測定器102は、図示しない眼鏡フレーム保持手段によって所定位置に動かないように保持された眼鏡フレームFの眼鏡枠Frの形状を測定する測定部1を備えている。この測定部1は、U字状に形成された回転台2を備えている。
回転台2には、その下端面に取り付けられたタイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト4およびタイミングプーリ5を介してモータ6の回転が伝えられる。つまり、回転台2は、モータ6が回転することによりU方向に回転駆動される。この回転台2の回転の角度は、回転台2に取り付けられた図示しないタイミングプーリに、タイミングベルト7とタイミングプーリ8とを介して接続されたロータリエンコーダ9によって検出される。
モータ6とロータリエンコーダ9とは、フレーム形状測定器102の基板10に固定されている。図2において、基板10は、フレーム形状測定器102の他の部品を見易くするために一部しか示していないが、実際には回転台2の下面を覆うような大きさの板状に形成されている。また、図示しないタイミングプーリおよび回転台2は、軸受(図示せず)により基板10に対して回転可能に軸承されている。
回転台2は、平面部が対向する2枚の側板11,12と、これら両側板11,12を連結する長方形の中央板13とからなっている。側板11と側板12との間には、2本のスライドガイドシャフト14,15が平行に配置されている。これらスライドガイドシャフト14,15の一端は、側板11に固定されており、他端は側板12に固定されている。スライドガイドシャフト14,15は、スライド板16を滑動可能に支持しており、このスライド板16をX方向に案内する。
スライド板16の下面には、回転自在な3個のスライドガイドローラ17,18,19が設けられている。これらスライドガイドローラ17,18,19は、スライドガイドシャフト14,15を両側から挟むようになっている。つまり、スライドガイドローラ17,18がスライドガイドシャフト14に転動可能に接触し、スライドガイドローラ19がスライドガイドシャフト15に転動可能に接触している。そして、スライドガイドローラ17,18,19がスライドガイドシャフト14,15に沿って転動することにより、スライド板16がX方向にスライドする。
スライド板16には、定荷重ばね20によって側板12に接近する方向へ引っ張られている。この定荷重ばね20は、軸22とブラケット23とを介して側板12に回転可能に固定されたブッシング21に巻き取られている。定荷重ばね20がスライド板16を引っ張ることにより、後述するスタイラス30が眼鏡枠Frの内周溝に押し付けられる。
スライド板16のX方向の移動量Kは、変位計測スケールとしての反射型のリニアエンコーダ24で測定される。このリニアエンコーダ24は、スケール25と、検出器26と、アンプ27とを有している。スケール25は、回転台2の側板11と側板12との間に延設されており、検出器26は、スライド板16に固定され、かつスケール25に沿って移動する。アンプ27は、側板12に固定されたブラケット29に取り付けられている。アンプ27と検出器26は、フレキシブルケーブル28によって電気的に接続されている。
スライド板16がX方向に移動すると、検出器26は、スケール25と一定の距離を保ちながら移動する。この移動に対応して、検出器26は、パルス信号をフレキシブルケーブル28で接続されたアンプ27へ出力する。検出器26から出力された信号は、アンプ27によって増幅され、カウンタ(図示せず)を経てスライド板16の移動量Kとして検出される。
スライド板16には、測定子としてのスタイラス30が保持されている。このスタイラス30は、スライド板16に固定されたスリーブ31の中ですべり軸受によって上下方向(Z軸方向)に移動自在に、かつ回転自在に軸承されている。スタイラス30は、略円盤状の頭部32を有している。この頭部32は、定荷重ばね20の作用により眼鏡枠Frの内周溝に接触し、回転台2の回転により眼鏡枠Frの内周溝に沿って転動する。
頭部32が眼鏡枠Frの内周溝に沿って転動する際、スタイラス30は、眼鏡枠Frの形状に対応して頭部32の半径方向に移動する。この半径方向の移動量は、前述のようにスリーブ31とスライド板16とを介してリニアエンコーダ24で測定される。
また、スタイラス30は、眼鏡枠Frの形状に対応してZ軸方向にも移動する。このZ軸方向の移動量は、変位計測スケールとして形成されたZ軸測定器33によって検出される。Z軸測定器33は、スライド板16に固定されている。このZ軸測定器33は、スタイラス30の両側に配置された内蔵の電荷結合素子(CCD)ラインイメージセンサと、光源である発光ダイオード(LED)とを有しており、スタイラス30のZ軸方向への動きを変位量Zとして検出する。
つぎに、以上のように構成されるフレーム形状測定器102の動作について説明する。
眼鏡枠Frの内周溝の形状を測定するには、まず、眼鏡フレームFを、図示しない眼鏡フレーム保持手段に固定保持し、スタイラス30の頭部32を眼鏡枠FrのV字形の内周溝に接触させる。そして、制御装置(図示せず)によりモータ6を回転させる。
モータ6を回転させると、タイミングベルト4でモータ6に連結された回転台2が回転し、スタイラス30の頭部32が眼鏡枠Frの内周溝に接触しながら転動する。このとき、測定部1の回転は、タイミングベルト7で回転台2に連結されたロータリエンコーダ9によって回転角θとして検出される。
また、スタイラス30の半径方向の移動量は、リニアエンコーダ24によってスライド板16のE方向の移動量Kとして検出される。そして、スタイラス30のZ軸方向の移動量Zは、Z軸測定器33によって移動量Zとして検出される。これにより、眼鏡枠Frの内周溝の形状が円筒座標(θ,R,Z)として計測される。なお、円筒座標をなす値θ,R,Zは、連続して測定されるものではなく、回転角θが所定の角度だけ増加される毎に間欠的に測定される。
このようにして測定された眼鏡枠Frのリムの内周溝の形状は、フレーム形状実測データとして端末コンピュータ101に供給される。端末コンピュータ101は、供給されたフレーム形状実測データに所定の計算処理を施し、眼鏡枠Frの内周溝に嵌合する眼鏡レンズの周縁の形状を表した極座標を算出する。その後、端末コンピュータ101は、眼鏡レンズの周縁の形状を表す極座標をXY座標に変換し、レンズ周縁形状データを得る。つまり、レンズ周縁形状データは、XY座標の座標点群で構成されている。
レンズの縁面にヤゲンを形成する場合、レンズ周縁形状データで表されるレンズの周縁の形状は、ヤゲンの先端を周縁の形状とすることが好ましい。また、リムレス眼鏡に取り付けられるレンズのように、レンズの縁面を平に加工する場合、レンズ周縁形状データで表されるレンズの周縁の形状は、最も外側に突出する部分を周縁の形状とすることが好ましい。また、溝堀り枠、T溝枠、板抜き枠等に取り付けられるレンズのように、レンズの縁面に溝を形成する場合は、溝の開口の中央の部分を周縁の形状とすることが好ましい。
[メインフレームの構成]
次に、工場200に設置されるメインフレーム201の構成について、図3を参照して説明する。
図3は、メインフレーム201の概略構成を示すブロック図である。
メインフレーム201は、制御部41と、記憶部42とを備えている。記憶部42には、レンズ形状データ格納領域421と、設計データ格納領域422と、受注データ格納領域423と、工具半径データ格納領域424と、加工可否判定結果格納領域425と、プログラム格納領域(図示せず)等が設けられている。
レンズ形状データ格納領域421には、眼鏡店100の端末コンピュータ101から供給される受注データ(眼鏡レンズ情報、眼鏡フレーム情報、処方値等を含む)に基づいて、制御部41の後述するレンズ形状データ作成処理部411よって作成されるレンズ形状データ(光学面形状と縁面形状)が格納されている。また、このレンズ形状データ格納領域421にはレンズ製造過程(例えばブロック工程、切削工程、研磨工程、染色工程、表面処理工程、玉形加工工程など)における各種加工条件(例えば加工に用いる装置、治具、装置の設定条件など)が設定された加工データも格納される。設計データ格納領域422には、レンズの設計に必要なデータ(光学面形状、玉形形状など)である設計データが格納されている。
受注データ格納領域423には、通信媒体300を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101から供給される受注データが格納される。この受注データとしては、眼鏡レンズに関する情報、レンズ周縁形状データを含む眼鏡フレームに関する情報、処方値、レイアウト情報などがある。
工具半径データ格納領域424には、玉形加工に用いる玉型加工装置の回転砥石や回転カッター等の工具半径に関する情報が格納されている。加工可否判定結果格納領域425には、制御部41の後述する加工可否判定処理部412で判定された判定結果が格納される。
プログラム格納領域には、上述した眼鏡レンズ加工設計プログラム、レンズ縁面加工設計プログラム、玉形加工可否判定プログラム等のプログラムが格納されている。制御部41は、プログラム格納領域に格納された各種プログラムを実行し、レンズ形状データを作成する処理や、玉形加工可否を判定する処理を行う。
制御部41は、レンズ形状データ作成処理部411と、玉形加工可否判定処理部412と、エラー有無判断処理部413と、表示指令信号処理部414とを有している。レンズ形状データ作成処理部411は、設計データ及び受注データに基づいて、レンズ加工設計演算処理及びレンズ縁面加工設計演算処理を行う。これらの処理により、レンズの両光学面の形状及びレンズ周面の形状(ヤゲン、平、溝等の縁面形状も含む)が演算され、レンズ形状データが作成される。
加工可否判定処理部412は、レンズ周縁形状データに基づいて、外接点特定処理及び加工可否判定処理を行う。これらの処理により、レンズ周縁形状データどおりにレンズの周縁の形状を加工できるか否か、即ち特定の工具半径の研削部を有する玉型加工装置でレンズ周縁形状データどおりに玉形加工できるかどうかが判定される。
また、加工可否判定処理部412は、両側(左右)のレンズのうちの一方のレンズが玉形加工不可能である判定された場合に、データ反転複写処理を行う。この処理では、加工可能であると判定されたもう一方のレンズのレンズ周縁形状データを左右で反転させて複写するとともに周長を調整し、加工不可能である判定されたレンズのレンズ周縁形状データとする。
エラー有無判断処理部413は、レンズ形状データ作成処理部411によって演算されたレンズ形状データと、加工可否判定処理部412による判定結果に基づいて、エラーの有無を判断する。つまり、エラー有無判断処理部413は、レンズ形状データ作成処理部411による演算にエラーが生じたか否かという判断や、加工可否判定処理部412による判定結果が何れであったかという判断を行う。
表示指令信号処理部414は、エラー有無判断処理部413の判断結果に応じた表示を行うための表示指令信号を発生し、通信媒体300を介して端末コンピュータ101に送信する。端末コンピュータ101は、送られてきた表示指令信号に基づいた表示を表示装置に表示させる。
[眼鏡レンズの供給システムの処理の流れ]
次に、眼鏡レンズの供給システムにおいて、眼鏡レンズが加工されるまでの処理の流れを図4および図5を参照して説明する。
図4は、眼鏡店100での最初の入力処理の流れを示すフローチャートである。図5は、工場200での処理の流れ、ならびに工場200からの転送により眼鏡店100で行われる確認およびエラー表示を示すフローチャートである。
まず、眼鏡店100での最初の入力処理の流れについて図4を参照して説明する。
眼鏡店100に設置された端末コンピュータ101のレンズ注文問い合わせ処理プログラムを起動すると、オーダエントリ画面が表示装置に表示される。眼鏡店100のオペレータは、オーダエントリ画面を見ながら、キーボード入力装置を操作し、注文あるいは問い合わせの対象となるレンズの種類の指定を行う(ステップS1)。
レンズの種類としては、例えば、レンズの材質、屈折率、コーティング、レンズカラー、レンズの表面の光学設計、アンカットレンズの外径、これらを特定できる商品区別記号などを指定できる。
次に、眼鏡店100のオペレータは、レンズのカラーの指定を行う(ステップS2)。そして、レンズの処方値、レンズの加工指定値、眼鏡フレームの情報、アイポイント位置を指定するレイアウト情報と、レンズ縁面形状の種類(例えば、ヤゲンモード、ヤゲン位置およびヤゲン形状)等を入力する(ステップS3)。
ヤゲンモードでは、ヤゲンの立て方が指定される。このヤゲンの立て方としては、例えば、ヤゲンを凸面側に倣って立てるもの、ヤゲンを凸面と凹面の中間に立てるもの、ヤゲンを立てる位置を指定する等を挙げることができる。また、ヤゲン位置では、ヤゲンモードで指定したヤゲンの立て方において、レンズのコバの位置を可能な範囲で移動させることできる。
次に、眼鏡店100のオペレータは、対象となる眼鏡フレームのフレーム形状の測定が既に完了しているか否かを判別する(ステップS4)。つまり、フレーム形状測定器102によって対象となる眼鏡フレームのフレーム形状を事前に測定したか否かを判別する。この判別は、例えば、端末コンピュータ101に記憶された各眼鏡フレームのフレーム形状の測定の有無を示すデータを見て行う。
ステップS4の処理において、フレーム形状の測定が既に完了していると判別したとき、眼鏡店100のオペレータは、ステップS7の処理に移行する。
一方、フレーム形状の測定が完了してないと判別すると、レンズ注文問い合わせ処理プログラムからフレーム形状測定プログラムへ処理が渡される。そして、眼鏡店100のオペレータは、対象となる眼鏡フレームに付されたフレーム番号の入力と、フレームの材質(メタル、プラスティック等)及びフレーム曲げを行うか否かの指定を行う(ステップS5)。
ここでフレーム曲げについて説明する。フレームにレンズを収めるとき、レンズの凸面や凹面によって形成されるカーブがフレームのカーブに必ず一致するとは限らない。そこで、フレーム曲げを行ってフレームのカーブをレンズのカーブに合わせる。例えば、鼈甲等の硬い材質のフレームを用いる場合は、フレームを曲げることができないため、ステップS5の処理でフレーム曲げ不可の指定が行われる。
フレーム番号の入力等を行った後、眼鏡店100のオペレータは、測定すべき眼鏡フレーム(または形板)をフレーム形状測定器102に固定し、フレーム形状測定器102によってフレーム形状の測定を行う(ステップS6)。
フレーム形状測定器102で測定された測定値は、端末コンピュータ101に供給される。端末コンピュータ101は、フレーム形状測定器102で測定された測定値に対して所定の計算処理を施し、レンズ周縁形状データを含むフレーム形状データを得る。このレンズ周縁形状データは、対象となる眼鏡フレームに対応する眼鏡レンズの周縁の形状を表す。この眼鏡レンズの周縁の形状は、端末コンピュータ101の表示装置に表示される。
なお、フレーム形状測定器102で測定された測定値に大きな乱れがあったり、左右フレーム枠の形状に大きな差があったりした場合には、その旨のエラーメッセージが端末コンピュータ101の表示装置に表示される。フレーム形状測定器102で測定された測定値は、例えば、玉形のボクシング中心を原点とした座標値(例えば1度ピッチにすると360点)で表される。この座標値を極座標の半径、角度で表現したときに、隣の座標値の半径との差分が閾値よりも大きいと、端末コンピュータ101は、測定値に大きな乱れがあったと判断する。
端末コンピュータ101の表示装置にエラーメッセージが表示された場合は、眼鏡店100のオペレータがエラーメッセージの内容に応じてフレーム形状測定器102及び対象となる眼鏡フレームを点検し、問題がなければ再び測定を行う。
ステップS4の処理でフレーム形状の測定が既に完了していると判別した場合は、その測定値から得られたフレーム形状データが端末コンピュータ101の内部記憶媒体に記憶されている。したがって、眼鏡店100のオペレータは、記憶されたフレーム形状データを読み出すために、対象となる眼鏡フレームに付されたフレーム番号を入力する(ステップS7)。
対象となる眼鏡フレームに付されたフレーム番号が入力されると、端末コンピュータ101は、該当する眼鏡フレームの測定値から得られたフレーム形状データを内部記憶媒体から読み出す(ステップS8)。
以上のステップS1〜S8の処理により、レンズ情報、レンズ周縁形状データを含むフレーム情報、処方値、レイアウト情報、レンズの加工指定を表す加工指示情報等を得ることができる。
端末コンピュータ101によってフレーム形状データが得られると、眼鏡店100のオペレータは、「問い合わせ」と「注文」の何れかの指定を行う(ステップS9)。ここで、「問い合わせ」と「注文」について説明する。「問い合わせ」は、
ヤゲン、平、溝等の縁面形状を含めたレンズ玉形加工の完了時のレンズ予想形状を報知するように、眼鏡店100が工場200に求めることである。また、「注文」は、玉形加工前のレンズまたは玉形加工済のレンズを送るように、眼鏡店100が工場200に求めることである。
ステップS9の処理において、「問い合わせ」と「注文」の何れかの指定を行うと、ステップS1〜S8の処理によって得られたレンズ情報、フレーム情報、処方値、レイアウト情報、加工指示情報等が、通信媒体を介して工場200のメインフレーム201に送信される。
次に、工場200での処理の流れと、眼鏡店100で行われる確認およびエラー表示について図5を参照して説明する。
端末コンピュータ101から通信媒体300を介して、レンズ情報、フレーム情報、処方値、レイアウト情報、加工指示情報等が供給されると、メインフレーム201では、眼鏡レンズ受注システムプログラムを経て眼鏡レンズ加工設計プログラムが起動する。これにより、メインフレーム201では、レンズ加工設計演算処理が行われる(ステップS10)。これにより、レンズの両光学面の形状が演算される。
次に、メインフレーム201では、玉形加工可否判定プログラムが起動し、レンズ周縁形状データや、玉形加工に用いる玉形加工装置の工具半径データに基づいて、レンズの加工不可判定処理を行う(ステップS11)。このレンズの加工不可判定処理の内容については、後述する。
次に、メインフレーム201では、眼鏡レンズ受注システムプログラムを経て縁面加工設計プログラムが起動し、縁面加工設計演算処理が行われる(ステップS12)。これにより、レンズ周面の形状(ヤゲン、平、溝等の形状も含む)が演算される。
次に、メインフレーム201は、ステップS9の処理で指定された内容が「注文」と「問い合わせ」の何れであるかを判別する(ステップS13)。指定された内容が「問い合わせ」であると判別したとき、メインフレーム201は、問い合わせの結果を、通信媒体300を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送る。
メインフレーム201から問い合わせの結果が送られてくると、眼鏡店100の端末コンピュータ101は、その問い合わせに対する結果に基づいてレイアウト確認表示を行う(ステップS14)。つまり、端末コンピュータ101は、玉形加工完了時のレンズの予想形状あるいはエラー状況を表示装置に表示させる。
すなわち、ステップS10及びステップS12で行われた加工設計演算においてエラーが発生しておらず、ステップS11で行われたレンズの加工不可判定において加工不可と判定されていなければ、表示装置に各種の確認図等が順次表示される。
各種の確認図としては、レンズの厚さおよびレンズ重量を表示するオーダエントリ着信画面、眼鏡フレームに指定されたレイアウト情報に従ってレンズがどのように配置されるかを視覚的に表示するレイアウト確認図、フレームに枠入れされて空間的に配置された左右のレンズを任意の方向からみた立体図、レンズの形状や、コバとヤゲンとの位置関係を詳しく表示したヤゲン確認図、左右両方のレンズのコバ厚さとヤゲン位置とをヤゲンに沿って展開した左右ヤゲンバランス図などがある。
一方、ステップS10およびステップS12で行われた加工設計演算において、エラーが発生しているならば、端末コンピュータ101の表示装置に、エラーの内容に応じたメッセージが表示される。表示装置にエラーの内容に応じたメッセージが表示されると、眼鏡店100のオペレータは、表示された内容に応じて、これまでに入力した入力情報の変更や確認を行う。
ステップS13の処理において、指定された内容が「注文」であると判別したとき、メインフレーム201は、ステップS10およびステップS12で行われた加工設計演算においてエラーが発生したか否かを判別する(ステップS15)。エラーが発生していると判別したとき、メインフレーム201は、その結果を、通信媒体300を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送る。
ステップS15の処理において、メインフレーム201からエラーが発生していること示す情報が送られてくると、眼鏡店100の端末コンピュータ101は、表示装置にレンズ受注エラー表示を表示させる(ステップS16)。つまり、注文のレンズは、レンズ加工設計演算または縁面加工設計演算においてエラーが発生していて加工のできないレンズであるから、「注文を受け付けられない」旨の表示を行う。
一方、ステップS15の処理において、エラーが発生していないと判別したとき、メインフレーム201は、ステップS11の玉形加工可否判定処理で「加工不可能」と判定されたか否かを判別する(ステップS17)。玉形加工可否判定処理の判定結果が加工不可能ではなかった、つまり、判定結果が「玉形加工可能」であったと判別したとき、工場200において、レンズブランクの光学面の仕上げのため研削・研磨加工、レンズの玉形加工等の実際の加工を行う(ステップS18)。
また、ステップS17の処理において、玉形加工可否判定処理の判定結果が「玉形加工可能」であったと判別したとき、メインフレーム201は、受注が確定したという情報を、通信媒体300を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送る。
メインフレーム201から受注が確定したという情報が送られてくると、眼鏡店100の端末コンピュータ101は、表示装置に受注確認表示を表示させる(ステップS19)。つまり、端末コンピュータ101は、表示装置に「注文を受け付けた」旨の表示を行う。これにより、眼鏡店100のオペレータは、所望のレンズ周縁形状に玉形加工可能なレンズを発注できたことを確認できる。
ステップS17の処理において、玉形加工可否判定処理の判定結果が「加工不可能」であったと判別したとき、メインフレーム201は、両側(左右)のレンズが「加工不可能」であったか否かを判別する(ステップS20)。
両側(左右)のレンズが「加工不可能」であったと判別したとき、メインフレーム201は、その結果を、通信媒体300を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送る。そして、眼鏡店100の端末コンピュータ101は、ステップS16に処理を移行し、表示装置にレンズ受注エラー表示を表示させる。つまり、注文のレンズは、玉形加工可否判定処理において「玉形加工不可能」と判定された加工のできないレンズであるから、「注文を受け付けられない」旨の表示を行う。
一方、ステップS20において、両側(左右)のレンズが「玉形加工不可能」ではなかったと判別したとき、メインフレーム201は、その結果を、通信媒体300を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送る。両側(左右)のレンズが「玉形加工不可能」ではなかったということは、片側(左右のうちの一方)のレンズが「玉形加工不可能」であったということである。
メインフレーム201から片側(左右のうちの一方)のレンズが「玉形加工不可能」であったという情報が送られてくると、端末コンピュータ101は、表示装置に片側加工不可表示を表示させる(ステップS21)。つまり、注文のレンズは、玉形加工可否判定処理において片側のレンズが「加工不可能」と判定された旨の表示を行う。
表示装置に片側加工不可表示が表示されると、眼鏡店100のオペレータは、受注処理を続行させるか否かを決定し、その結果を端末コンピュータ101に入力する(ステップS22)。受注処理を続行しない場合は、処理が終了し、受注は確定されない。
受注処理を続行する場合は、端末コンピュータ101は、ステップS19の処理を行う。つまり、端末コンピュータ101は、表示装置に受注確認表示を表示させる。
また、受注処理を続行する場合は、受注処理を続行するという情報が通信媒体300を介してメインフレーム201に送られる。そして、メインフレーム201は、加工可否判定処理で「玉形加工可能」と判定されたもう一方のレンズの周縁の形状を、左右で反転させて複写する(ステップS23)。
次に、メインフレーム201は、複写したレンズの周縁の形状における周長を拡大又は縮小して調整(ステップS24)し、「加工不可能」と判定されたレンズの周長と等しくする(一致させる)。なお、「加工不可能」と判定されたレンズの周長は、レンズ周縁形状データから得る。このようにして得られたレンズの周縁の形状は、「加工不可能」であると判定されたレンズの周縁の形状に置き換えられて、「加工不可能」であると判定された側のレンズ周縁形状として用いられる。
即ち、ステップS23およびステップS24の処理を行うことにより、「玉形加工不可能」と判定されたレンズの周縁の形状は、「加工可能」と判定されたもう一方のレンズの周縁の形状に基づいて作成されたレンズ周縁形状に変更される。これらステップS23およびステップS24の処理は、メインフレーム201により行われるデータ反転複写工程である。つまり、データ反転複写工程では、加工可能と判定された一方のレンズ周縁形状データを反転させ、元の他方のレンズの周長と一致するように拡大縮小する工程である。
次に、メインフレーム201では、再び縁面加工設計プログラムが起動し、変更されたもう一方のレンズの周縁の形状を考慮した縁面加工設計演算が行われる(ステップS25)。そして、処理がステップS18に移行される。つまり、工場200において、レンズ光学面の研削・研磨加工、レンズの玉形加工等の実際の加工が実行される。
[玉形加工可否判定]
次に、玉形加工可否決定プログラムによって実行される玉形加工可否判定の第1の実施例について説明する。玉形加工可否判定処理の第1の実施例は、外接点特定工程と、加工可否判定工程によって行われる。
まず、外接点特定工程について図6を参照して説明する。
図6は、外接点特定工程を説明するための図である。
外接点特定工程は、二次元座標系における座標点群で構成されているレンズ周縁形状データを基に行われる。まず、レンズ周縁形状データを構成する座標点群が示されている平面座標上に、所定の角度で交差する2本の直線(以下、「外接点特定線」ともいう)L1,L2を作成する。そして、2本の直線L1,L2を座標点群で示されるレンズの周縁に外側から接するように平行に移動させる。
次に、各外接点特定線L1,L2と接した座標点を外接点P1,P2として特定する。2本の外接点特定線L1,L2に接する座標点が一つだけの場合(外接点P1と外接点P2が一致する場合)は、外接点は一つとして特定される。
また、外接点特定線L1,L2のうちの一方の外接点特定線に複数の座標点が接すると、2本の外接点特定線L1,L2に対して3つ以上の座標点が接することになる。この場合は、各外接点特定線L1,L2に接する座標点のうちそれぞれ最も内側の座標点をとり、これらを2つの外接点として特定するとよい。つまり、外接点特定線L1と接した座標点と外接点特定線L2に接した座標点との距離が最も短くなるような座標点の組合せを選択し、この組合せを構成する2つの座標点を外接点として特定するとよい。
特定された外接点が2つ(P1,P2)あり、かつ、これら2つの外接点P1,P2間に外接点特定線L1,L2と接しない少なくとも一つの座標点が存在した場合は、外接点P1,P2間に凹みが存在する可能性がある。外接点P1,P2間に形成される凹みは、レンズの玉型加工に用いる加工具によって加工することができない可能性があるため、この外接点P1,P2間を加工可否判定工程で精査する。レンズの玉型加工に用いる加工具としては、例えば円板上のエッジング砥石を挙げることができる。
外接点特定工程において、交角Aが一定で基準点Oを中心に回転させた複数組の2直線を外接点特定線として用いると、レンズの周縁の広範囲に亘って加工不可判定を行うことができる。
図7は、交角がAであり回転角が0度の外接点特定線L1,L2によって特定される外接点P1,P2を示す説明図である。図8は、交角がAであり回転角が90度の外接点特定線L1,L2によって特定される外接点P1,P2を示す説明図である。図9は、交角がAであり回転角が180度の外接点特定線L1,L2によって特定される外接点P1,P2を示す説明図である。図10は、交角がAであり回転角が270度の外接点特定線L1,L2によって特定される外接点P1,P2を示す説明図である。
図7〜図10において、基準点Oは、レンズの外形(周縁の形状)のボクシング中心である。この基準点Oは、任意の位置に設定することができ、例えば、フレーム形状を測定したときの測定基準点などを用いることもできる。なお、複数組の外接点特定線L1,L2の回転角を交角A以下に設定すると、レンズの周縁の全範囲に亘って外接点が特定されるか否かを調べることができるので好ましい。
回転角と交角が等しければn角形(n=360/回転角)でレンズの周縁を取り囲んだことになる。例えば、回転角=交角A=90度にすると、4角形でレンズの周縁を取り囲んだことになる。このように交角A≧回転角の条件ならば、レンズの周縁の全周に亘って加工可否判定を行う場所(2つの外接点に囲まれた場所)を検索したことになる。
また、複数組の外接点特定線L1,L2の回転角が、等間隔に設定されていると外接点特定工程を効率良く行うことができるため好ましい。より好ましくは、複数組の外接点特定線L1,L2の回転角と交角Aを等しくする。また、この外接点特定工程をレンズの周縁の全周に亘って行うことにより、レンズの周縁の全周について加工可否判定を行うことができ、好ましい。外接点特定線L1,L2が交わる角度である交角Aは、0度〜90度以内であればよいが、外接点を詳細に特定するには、30度以内に設定することが好ましく、5度以下に設定することがより好ましい。
次に、加工可否判定工程について図11を参照して説明する。
図11は、加工可否判定工程を説明する説明図である。
加工可否判定工程は、外接点特定工程において特定された2つの外接点P1、P2の間のうち少なくとも一つの座標点が存在する外接点間について行う。はじめに、レンズの周縁の外側に判定基準点Dを設定する。この判定基準点Dは、2つの外接点P1,P2からレンズの玉型加工に用いる加工具の半径(工具半径)Rだけ離れた点である。すなわち、外接点P1と外接点P2を通る曲率半径R(曲率1/R)の円の中心が判定基準点Dである。
次に、判定基準点Dから2つの外接点P1,P2の間にある各座標点Qn(n=1,2,・・・,N)までの距離Mn(n=1,2,・・・,N)を算出する。このようにして算出した距離Mn(n=1,2,・・・,N)のうち少なくとも1つが、工具半径Rより大きい場合には、
この外接点P1,P2間は玉形加工が不可であると判定する。このような場合は、加工具とレンズ縁面とが干渉するため、レンズ周縁形状データどおりに加工できないからである。一方、算出した距離Mn(n=1,2,・・・,N)の全てが工具半径Rよりも小さい場合には、この外接点P1,P2間は玉形加工が可能であると判定する。そして、玉形加工不可な外接点間が一つでもあった場合に、このレンズの玉形加工は不可であると判定する。
なお、この判定に当たって、距離Mn(n=1,2,・・・,N)の少なくとも一つが、工具半径Rに許容値Erを加えた値よりも大きい場合(Mn>R+Er)にその外接点間の玉形加工が不可能であると判定してもよい。許容値Erは、フレーム形状測定や玉形加工の際の誤差などを考慮して適宜設定することができる。
次に、玉形加工可否判定プログラムによって実行される玉形加工可否判定処理の第2の実施例について説明する。玉形加工可否判定処理の第2の実施例は、玉形加工可否判定の第1の実施例と同様に、外接点特定工程と、加工可否判定工程によって行われる。
玉形加工可否判定処理の第2の実施例における外接点特定工程は、玉形ズ加工可否判定の第1の実施例における外接点特定工程(図6を参照)と同一である。そのため、ここでは、玉形加工可否判定処理の第2の実施例における加工可否判定工程について、図12及び図13を参照して説明する。
図12は、外接点P1、P2間の平均曲率を用いて加工不可判定を行う場合の説明図である。図13は、外接点P1、P2間の最大の曲率を用いて加工不可判定を行う場合の説明図である。
第2の実施例における加工可否判定工程では、外接点特定工程により特定された2つの外接点P1,P2、並びに、この2つの外接点P1,P2間に位置する各座標点Qn(n=1,2,・・・,N)を用いて外接点P1,P2間の曲率Csを求める。この曲率Csとしては、外接点P1、P2間の平均曲率C1(図8を参照)と、外接点P1、P2間の最大曲率C2(図13を参照)を挙げることができる。
平均曲率C1は、例えば最小二乗法等を用いて算出することができる。一方、最大曲率C2は、外接点P1,P2と、その間にある座標点Qnのうちの1つの座標点の3点の曲率をそれぞれ算出し、算出した曲率の中で最大の曲率を選択することにより得ることができる。
このようにして得られた外接点P1,P2間の曲率Csと、加工具の曲率C(=1/R、Rは工具半径)とを比較し、外接点P1,P2間の曲率Csが加工具の曲率Cよりも大きい場合にこの外接点P1,P2間は玉形加工が不可であると判定する。このような場合も、加工具とレンズ縁面とが干渉するため加工できないためである。一方、外接点P1,P2間の曲率Csが加工具の曲率Cよりも小さい場合には、この外接点P1,P2間は玉形加工が可能であると判定する。そして、玉形加工不可な外接点間が一つでもあった場合に、このレンズの玉形加工は不可であると判定する。
なお、この判定に当たって、外接点P1,P2間の曲率Csが加工具の曲率Cに許容値Ecを加えた値よりも大きい場合(Cs>C+Ec)にその外接点間の玉形加工が不可能であると判定してもよい。許容値Ecは、フレーム形状測定や玉形加工の際の誤差などを考慮して適宜設定することができる。
次に、玉形加工可否判定プログラムによって実行される玉形加工可否判定処理の第3の実施例について、図14を参照して説明する。図14は、玉形加工可否判定処理の第3の実施例を説明する説明図である。
玉形加工可否判定処理の第3の実施例は、玉形加工可否判定の第1の実施例と同様に、外接点特定工程と、加工可否判定工程によって行われる。まず、外接点特定工程について説明する。
外接点特定工程は、二次元座標系における座標点群で構成されているレンズ周縁形状データと工具半径データを基に行われる。まず、レンズ周縁形状データを構成する座標点群が示されている平面座標上に、工具半径Rと等しい半径の円もしくは円弧(以下、「外接点特定線」という)TRを作成する。そして、外接点特定線TRを座標点群で示されるレンズの周縁の少なくとも2つの座標点に外側から接するように移動させる。
そして、外接点特定線TRと接した2つの座標点を外接点P1,P2として特定する。なお、外接点特定線TRと接する座標点が3つ以上ある場合は、それら座標点のうちの両端の座標点を外接点として特定するとよい。
このような外接点の特定は、レンズの周縁の全周に対して行う。また、外接点の特定は、周方向に順番に特定してもよい。例えば、反時計回りに外接点を特定する場合は、最初の外接点P1、P2特定した後、その外接点P2より反時計回り方向に位置する点でありP2とともに外接する座標点を特定し、これらを2組目の外接点とする。これを繰り返すことにより、レンズの周縁の全周に対して外接点の特定を行うことができる。
次に、加工可否判定工程について説明する。加工可否判定工程では、外接点特定工程において特定された2つの外接点P1,P2間に外接点特定線TRの外側に少なくとも1つの座標点が存在する場合に、この外接点P1,P2間は玉形加工が不可であると判定する。このような場合は、2つの外接点P1,P2の間に工具半径Rより小さい曲率半径の凹みがあるため、レンズ周縁形状データどおりに加工できないからである。なお、図14に示す例では、外接点P1,P2間に座標点が5つ存在し、何れの座標点も外接点特定線TRの外側に位置している。
一方、外接点特定工程において特定された2つの外接点P1、P2間に座標点が存在しない場合あるいは座標点が存在しても全ての座標点が外接点特定線TR上に位置する場合にはこの外接点P1,P2間は玉形加工が可能であると判定する。そして、玉形加工不可な外接点間が一つでもあった場合に、このレンズの玉形加工は不可であると判定する。
なお、この判定に当たっては、例えば、工具半径Rに許容値Erを加えた半径であって、外接点特定線TRと同心の円もしくは円弧(以下、「判定用ライン」という)TEを用いて行ってもよい。この場合は、外接点P1,P2間にある座標点のうち、判定用ラインTEの外側に少なくとも1つの座標点が存在すると、その外接点P1,P2間は玉形加工が不可であると判定する。なお、図14に示す例では、外接点P1,P2間に存在する5つの座標点のうち1つの座標点が判定用ラインTEの外側に位置している。
以上説明した玉形加工可否判定の第1〜第3の実施例では、外接点特定工程により外接点P1,P2を特定する毎に加工可否判定工程を行う。しかしながら、本発明の玉形加工可否判定としては、外接点特定工程により複数組の外接点P1,P2を特定した後、それぞれの外接点P1,P2の組に対して加工可否判定工程を行ってもよい。
また、本発明の玉形加工可否判定としては、加工可否判定工程で不可と判定した場合に、その後の外接点特定工程や加工可否判定工程を行わないで処理時間を短縮してもよい。
[玉形加工可否判定の具体的な判定結果]
次に、第1の実施例の玉形加工可否判定の具体的な判定結果について説明する。
図15は、レンズの周縁の形状を点画した図である。つまり、図15は、XY座標の座標点群で表されたレンズの周縁の形状を示す図である。このレンズに対して、第1の実施例の玉形加工可否判定を行った。
すなわち、図15に示すレンズに対して、工具半径Rを有する加工具としての砥石の中心点(判定基準点D)と、外接点P1,P2間にある各座標点Qnとの距離Mnを求めた。そして、Mn−R−Er>0の関係式を満たす座標点Qnがあった場合は、加工不可と判定し、これをレンズの全周に対して行った。
図16は、砥石の半径(工具半径)R=50.0mm、許容値Er=0.2mmの条件で第1の実施例の玉形加工可否判定を行った状態を示す説明図である。
図16に示すように、上記の条件で行った玉形加工可否判定では、外接点P1,P2によって表される複数の区間のうち、2つの区間F1,F2が加工不可と判定された。そして、加工不可と判定された区間F1,F2では、いずれも5つ以上の座標点を有していた。つまり、外接点P1,P2間に外接点特定線L1,L2と接しない5つ以上の座標点を有していた。
図17は、砥石の半径(工具半径)R=50.0mm、許容値Er=0.1mmの条件で第1の実施例の玉形加工可否判定を行った状態を示す説明図である。この条件で行った玉形加工可否判定では、外接点P1,P2によって表される複数の区間のうち、4つの区間G1〜G4が加工不可と判定された。
また、図18は、砥石の半径(工具半径)R=50.0mm、許容値Er=0mm(許容値なし)の条件で第1の実施例の玉形加工可否判定を行った状態を示す説明図である。この条件で行った玉形加工可否判定では、外接点P1,P2によって表される複数の区間のうち、7つの区間H1〜H7が加工不可と判定された。
次に、第2の実施例の玉形加工可否判定の具体的な判定結果について説明する。
図19は、レンズの周縁の形状を点画した図である。つまり、図19は、XY座標の座標点群で表されたレンズの周縁の形状を示す図である。このレンズに対して、第2の実施例の玉形加工可否判定を行った。
すなわち、図19に示すレンズに対して、外接点P1,P2と、その間にある各座標点Qnのうちの1つの座標点の3点を通る円の曲率をそれぞれ算出し、算出した曲率の中で最も大きい曲率を選択し、最大曲率C2を得た。一方、工具半径Rを有する加工具の曲率は、曲率C(=1/R)である。そして、Cs−C−Ec>0の関係式を満たすときに加工不可と判定し、これをレンズの全周に対して行った。
図20は、砥石の半径(工具半径)R=50.0mm、許容値Ec=0.001の条件で第2の実施例の玉形加工可否判定を行った状態を示す説明図である。この条件で行った玉形加工可否判定では、外接点P1,P2によって表される複数の区間のうち、2つの区間J1,J2が加工不可と判定された。そして、加工不可と判定された区間J1,J2では、いずれも5つ以上の座標点を有していた。つまり、外接点P1,P2間に外接点特定線L1,L2と接しない5つ以上の座標点を有していた。
[眼鏡レンズの製造方法]
次に、上述した玉形加工可否判定を用いた眼鏡レンズの製造方法について、図21を参照して説明する。
図21は、眼鏡レンズの製造工程の流れを示すフローチャートである。
初めに、工場200のメインフレーム201は、眼鏡店100の端末コンピュータ101から供給されたレンズ情報、フレーム情報、処方値、加工指示情報等の注文情報に基づいて、レンズ形状データを作成するとともに、レンズ周縁形状データに基づいて、玉形加工可否判定を行う(ステップS31)。この玉形加工可否判定については図6〜図13を参照して詳しく説明したため、ここでは、説明を省略する。
玉形加工可否判定の判定結果は、眼鏡店100の端末コンピュータ101に送出される。そして、眼鏡店100でレンズの加工が可能であることを確認すると、眼鏡店100のオペレータは、眼鏡レンズの発注を行う。これにより、受注が確定する(ステップS32)。
受注が確定すると、レンズ形状データ作成処理部411によって作成され、記憶部42のレンズ形状データ格納領域421に格納されているレンズ形状データや加工条件、記憶部の受注データ格納領域423に格納されている受注データにしたがって、以下のレンズの加工が行われる。
工場には、片面だけが光学的に仕上げられたセミフィニッシュレンズブランク(以下、セミフィニッシュレンズとする)や両面とも光学的に仕上げられていないレンズブランクがあらかじめ多くの種類について製造されストックされている。そして、加工データに基づいて、ストックされているレンズブランクの中から加工するレンズが選び出される。
次に、ブロック工程が行われる(ステップS33)。ブロック工程とは、後の工程の切削工程、研磨工程で使用する切削装置、研磨装置にレンズを取り付けるためのレンズ保持具をレンズの前面又は後面に取り付ける工程である。
次に、レンズブランクの光学的に仕上げられていない面に対して切削(研削)加工工程が行われる(ステップS34)。切削加工工程とは、切削装置を使用して研磨代分を残して所定の面形状に切削する工程である。切削する面形状は、レンズ形状データや加工データによってあらかじめ決定されている。
次に、切削加工されたレンズの切削面に対して研磨工程(ステップS35)が行われる。研磨工程とは切削加工されたレンズの切削面を研磨装置で研磨して光学的に仕上げる工程である。この研磨条件は、加工データによってあらかじめ決定されている。
次に、両面が光学的に仕上げられたレンズに対して、必要により染色工程が行われる(ステップS36)。染色工程とは、レンズを染色する工程である。レンズは、受注データで指定されている色に染色される。また、色見本がある場合には、その色に近くなるように染色される。染色方法としては、種々の方法が実施されているが、例えば、加熱した染料液の中にレンズを所定時間浸漬させた後、レンズを加熱して、レンズ内部に浸透した染料をさらに内部に拡散させて安定化させる方法がある。
なお、染色の必要がないレンズは、研磨工程の後に表面処理工程に移される。
次に、レンズに対して表面処理工程が行われる(ステップS37)。表面処理工程は、レンズの表面にハードコート、反射防止膜、水やけ防止コート、防汚膜などの表面処理を施す工程である。これらの表面処理は、受注データに従って指定されたものが施される。
次に、レンズに対して検査工程が行われる(ステップS38)。検査工程では、レンズの外観検査、所定の測定位置(例えば光学中心)における光学特性、レンズの厚さなどが検査される。この検査工程は、上述した端末コンピュータ220(図1を参照)と、この端末コンピュータ220に接続されたレンズメータ221及び肉厚計222によって行われる。つまり、端末コンピュータ220は、レンズメータ221と肉厚計222によって得られた所定の測定位置の測定値と、受注データやレンズ形状データに基づくレンズ仕様とを比較して、レンズが合格かどうかどうか判定する。
次に、レンズに対して玉形加工工程が行われる(ステップS39)。玉形加工工程では、レンズにレンズ保持具を取り付け、玉形加工装置により所定の玉形加工が施される。玉形加工済みのレンズの周長および形状は、形状測定器(図示せず)によって測定され、レンズ形状データや受注データと比較して加工の合否が判定される。この結果、合格になったレンズは、外観、光学特性、厚さ等が再び検査され、合格していれば発注元に送られる(ステップS40)。
[実施形態の効果]
上述した眼鏡レンズの玉形加工可否判定方法によれば、例えば凹みや矩形などを有する複雑な形状をした眼鏡レンズの玉形加工可否の判定を正確に行うことができる。それにより、実際にレンズに対して玉型加工を行ってから加工が不可能であったことが判明することを防ぐことができ、眼鏡レンズの製造に無駄が生じることを防止することができる。また、種々のレンズにおいて、周縁の形状の精度を高めることができ、種々のレンズを対応するフレームに確実に取り付けることができる。
[実施形態の変形例]
本実施形態では、眼鏡店100の端末コンピュータ101が、フレーム形状測定器102によって測定されたフレーム形状実測データからレンズ周縁形状データを得る構成とした。しかしながら、本発明に係るレンズ周縁形状データは、工場200のメインフレーム201で得る構成としてもよい。その場合、フレーム形状測定器102によって測定されたフレーム形状実測データは、通信媒体300を介して工場200のメインフレーム201にオンラインで転送される。
また、本実施形態では、両側(左右)のレンズのうち片側(左右のうちの一方)のレンズが「加工不可能」であった場合に、眼鏡店100において、受注処理を続行するか否かを決定する処理を有する。しかしながら、本発明に係る受注処理としては、両側(左右)のレンズのうち片側(左右のうちの一方)のレンズが「加工不可能」であった場合に、自動的に受注処理を続行するようにしてもよい。
その場合、片側(左右のうちの一方)のレンズが「加工不可能」であると判定されると、メインフレーム201は、「加工可能」と判定されたもう一方のレンズの周縁の形状を、左右で反転させて複写する。そして、複写したレンズの周縁の形状における周長を拡大又は縮小して調整し、「加工不可能」と判定されたもう一方のレンズの周長と等しくする。このようにして得られたレンズの周縁の形状は、「加工不可能」であると判定されたレンズの周縁の形状として用いられる。