JP5183042B2 - 粉末厚膜胞子及びその製造方法 - Google Patents

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この発明は、トリコデルマ ハルジアナム SK−55(受託番号FERM BP−4346)の厚膜胞子を製造し、これを乾燥して粉末化することを目的とした粉末厚膜胞子の製造方法に関する。
この発明の対象物たるトリコデルマ ハルジアナム SK−55は出願人により、平成4年12月25日に特許出願され、平成12年3月17日に特許登録された(特許第3046167号)。
またトリコデルマ ハルジアナム SK−55の菌糸体を培養して厚膜胞子を製造する技術も発明されている(特開2000−93167、特開2001−172112)。なお、トリコデルマ ハルジアナム SK−55は、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(あて名:茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター 中央第6)(旧工業技術院生命工学工業技術研究所)に1992年12月9日付で寄託され、受託番号FERM BP−4346が付与されている。
次に、凍結乾燥された微生物の製造方法についての提案(特公平4−12950)、ビフィズス乾燥菌体の安定化方法の発明(特公平4−6349)及び活性ビフィズス菌含有粉末の製造方法の発明(特公昭63−12594)が知られている。
特公平4−12950 特公平4−6349 特公昭63−12594
前記従来知られているビフィズス菌は、菌体自体を凍結乾燥するものであるが、このような処理ができるのは、凍結乾燥し、これを使用する際再び生菌に戻る菌に限られるので、他の菌にそのまま使用できない問題点があった。この発明の対象物たるトリコデルマ ハルジアナム SK−55の分生子は、これを乾燥すると、大部分死滅することが判明していた。
そこで温度等に耐性のある厚膜胞子を製造し、この厚膜胞子を凍結乾燥することについて実験を繰り返したが、水分を少なくする(例えば水分30%以下、特に10%以下)にすると、処理前に10 CFU/gあった厚膜胞子が、10 CFU/g以下に激減し、残留厚膜胞子の活性も小さいという問題点があってので、平成14年以来の実験研究において低水分(10%以下)の厚膜胞子の乾燥粉末化は極めて困難とされていた。
またトリコデルマ ハルジアナム SK−55(以下、「SK−55」とする)の分生子から厚膜胞子を製造した場合に、培養液中には厚膜胞子と、菌糸とが絡み合って共存しているので、菌糸と厚膜胞子を分離する必要があったが、厚膜胞子を傷つけることなく、効率よく分離する手段が不明であった。
また厚膜胞子と、菌糸が分離したとしても、厚膜胞子と培養液とを分離する手段が必要であったが、これまた不明であった。
次に厚膜胞子を分離しても、これを乾燥する手段がなく、例えば20℃〜30℃の低温乾燥では、長時間を要し、SK−55数が激減することが判明し、その上乾燥された物の活性が著しく低下することが判明した。例えば処理前に10 CFU/gあった厚膜胞子が10 CFU/g程度になると共に、その活性が弱くなり、発芽率が50%以下となるような、実用性のないものであった。
前記厚膜胞子と、菌糸との分離については、ホモジナイズの技術によって解決したが、その条件(吹き込み空気量、速度、吹き込み状態)については試行錯誤があって多大の時間、労力を費やした。前記ホモジナイズについて実験の結果、図1の現象が明らかになった。そこでホモジナイズ開始後50分〜200分を実施時間とすることにより、SK−55の数を高く保つことができることが判った。
次に厚膜胞子と、培養液との分離についても、遠心力分離が適当であることが判明してから、各種条件について最良条件が見つからず、多大の時間を費やした。単なる分離だけはすぐできたけれども、遠心力が強いと効率のよい反面、有効なSK−55の数が半減し、遠心力が弱いと分離効率が低下することが判明してから、効率よく、しかも残留SK−55の数を多くすることについて試行錯誤を繰り返した。前記遠心分離は、例えば直径30cmの分離器を3000rpm以上で使用した(重力の加速度はほぼ1500×g)。
次に低温乾燥で、例えば20℃〜30℃の乾燥空気利用だと、数時間以上掛かるのみならず、水分10%以下というような低水分に乾燥することが難しくなった。そこで温度を40℃〜50℃にすると乾燥できるけれども、活性を有する残留SK−55の数が激減し(例えば処理前のSK−55が1.0×10 CFU/gのものが、減圧常温乾燥すると8.7×10 CFU/g程度となった)、実用性が乏しくなった。
そこで−30℃〜−80℃の凍結乾燥について試験したが、水分5%以下まで乾燥することが可能となったけれども、依然として活性を有する残留SK−55の数が少ない問題点があった。
前記改善方法として保護剤を使用することとし、保護剤として、例えばグルコース又はスクロースを試した際、表1のような良好な結果を得て、凍結したSK−55にも3.7〜8.01×10 CFU/gの残留が認められ、しかも活性が失われていないことが確認された。また前記保護剤の使用量については、表2の結果を得た。そこで濃度20%前後が実用範囲とし、これを採用した。
Figure 0005183042
Figure 0005183042
前記保護剤としては、グルコース、スクロース、フルクトース、ソルビトール等の単糖類の15%〜25%を用いるとほぼ安定することが判明した。この場合にグルタミン酸ナトリウム等をさらに0.1〜3%添加する場合もある。
そこで前記凍結物を25℃程度の温度で乾燥すれば、活性を有するSK−55が残存することを認めたが、乾燥時間が著しく長くなる(例えば50時間〜100時間)ことが判明したので、これを短縮すべく減圧乾燥を採用し、この発明を完成したのである。
即ちこの発明は、トリコデルマ ハルジアナム SK−55の厚膜胞子であって、その数を1.0×10CFU/g以上を含み、水分10%以下の粉末としたことを特徴とする粉末厚膜胞子であり、厚膜胞子の数を1.0×10CFU/g以上を含み、水分5%以下の粉末とした粉末厚膜胞子の製造方法である。
また方法の発明は、トリコデルマ ハルジアナム SK−55の菌糸体に、下記各工程を順次加えることを特徴とした粉末厚膜胞子の製造方法である。
(1)菌糸体を培養して厚膜胞子を多量に含む厚膜胞子入り培養液とする。
(2)厚膜胞子入り培養液内の厚膜胞子と、菌糸とを分離する。
(3)前記処理を経た培養液を、厚膜胞子と培養上澄み液とに分離する。
(4)厚膜胞子に保護剤を添加した後、急速凍結処理する。
(5)急速凍結処理した凍結厚膜胞子を減圧乾燥する。
(6)乾燥した厚膜胞子を粉砕して粉末厚膜胞子とする。
次に、菌糸体をグルコース、酵母エキス及びポリペプトンを含む培養培地に接種して培養し、厚膜胞子を多量に含む培養液を得るものである。また、厚膜胞子と菌糸との分離は、ホモジナイズ処理により行うものであり、厚膜胞子と菌糸体とを分離した培養液を遠心分離機にかけて、厚膜胞子と、培養液とに分離するものである。更に、保護剤はグルコース、スクロース、フルクトース、ソルビトール等の単糖体を15%〜25%添加して行うものとするものであり、急速凍結処理は、60〜180秒間以内に−30℃〜−80℃とするものであり、減圧乾燥は、0〜10Paの減圧下で、0〜25℃の温度下で、24〜48時間かけ、水分10%以下とするものである。
前記のように、この発明は、厚膜胞子を採用し、これを乾燥したこと、厚膜胞子は、各種加工に対応できることは判明していたが、これを発芽させた場合に、処理方法によって、残留SK−55の数に大差があることが判明した。そこで活性のあるSK−55が多数生存させることを目標とし、各種処理を経てこの発明を完成したのである。
前記におけるホモジナイズ処理は、培養液に超音波振動を与え溶液中にキャビテーションを引き起こす。溶液中でキャビテーションが起こると溶液中の物質に衝撃を与え、菌糸、胞子を分離する。従って同一効果を生じる処理は何れもホモジナイズ処理として取り扱うものにする。
前記において、粉末厚膜胞子中の厚膜胞子の数を1.0×10 CFU/gとしたのは、この厚膜胞子を植物に施用した結果、厚膜胞子による本来の効果が認められたからである。また厚膜胞子粉末製品を提供する場合には、1.0×10 CFU/g以上を含み、水分5%以下がより好ましい。
この発明によれば、従来知られているSK−55の厚膜胞子を含む培養液から、厚膜胞子を分離、抽出して水分10%〜5%以下であって、活性SK−55を多量に含む粉末厚膜胞子とすることであるから、保存性が抜群であり、特別の手段(例えば恒温容器による保存)によることなく、寒冷地又は熱帯地等へ輸送し使用できると共に、使用に際して、必要量を容易に分取し、かつ取り扱いが容易であるなどの諸効果がある。
またこの発明の製造方法によれば、厚膜胞子を含む培養液からSK−55の減少を極力少なくして容易に厚膜胞子の粉末を製造し得ると共に、活性を保有し得る効果がある。
また乾燥効率もよいので、粉末製造についての費用を低減し得る効果もある。
この発明の厚膜胞子の乾燥粉末は、温度に影響されないので、取り扱いが容易であり、保存性、分取性、再生発芽性など何れにおいても優れているなどの諸効果がある。
この発明は、菌糸体を、グルコース、酵母エキス及びポリペプトンを含む培養培地に接種して培養し、厚膜胞子を多量に含む培養液とする。ついでこの培養液をホモジナイズ処理して、厚膜胞子と菌糸とを分離し、ついで遠心分離機にかけて厚膜胞子と、上澄液とに分離する。前記のようにして得た厚膜胞子に保護剤を添加してから−30℃〜−80℃に急速凍結する。この急速凍結には、従来知られている手段として、液体窒素を噴射する(例えば100gの厚膜胞子に0.1リットルの液体窒素を噴射する)と、60秒間に−30℃の凍結物となる。
そこで乾燥室へ移し、5Paの減圧下で10℃の温度下で24時間乾燥し、水分5%の厚膜胞子を得た。ついでこの厚膜胞子を粉砕機にかけて粒度0.01mm以下の粉末とすれば、この発明の粉末乾燥物を得たのである。
この発明の実施例について説明すれば、次のとおりである。
トリコデルマ ハルジアナム SK−55を下記培地に接種し、振盪培養機(26℃、100rpm)で50〜70時間好気的に培養した後、前記培地から菌糸体(5μm以上)を分離し、菌糸体の5〜100倍の生理食塩水を用いて菌糸体の表面に付着している栄養分を除去する。
種培養(栄養培地)
グルコース 6.25 g
麦芽エキス 6.25 g
KHPO 1.25 g
酵母エキス 1.0 g
MgSO・7HO 0.625 g
ペプトン 0.625 g
蒸留水 1000 ml
前記のように栄養分を除去した菌糸体を下記飢餓培地に接種し、振盪培養機(26℃、100rpm)で170〜200時間好気的に培養した。
主培養(飢餓培地)
ショ糖 20 g
KNO 1.0 g
KHPO 1.0 g
MgSO・7HO 0.5 g
CaCl 0.1 g
ZnSO 2.0 mg
CuCl 0.1 mg
FeSO 0.2 mg
NaMoO・2HO 0.2 mg
BO 0.01 mg
蒸留水 1000ml
前記培養液を30分間ホモジナイズし、厚膜胞子と菌糸を分離し次いでこの培養液を遠心分離機(直径32cm、回転数は3000rpm)を用い、1500×gの重力加速度で5分間かけて、胞子と液分を分離し、厚膜胞子を取り出す。
この厚膜胞子に、グルコース濃度20%に混合した後、−30℃に急速凍結する。この凍結処理物を乾燥器に収容して5Pa、20℃以下の温度で30時間乾燥し、水分5%の厚膜胞子を得た。前記厚膜胞子を乳鉢に入れて粉砕し、この発明の粉末厚膜胞子を得た。この場合のSK−55の数は7.5×10であった。また、−80℃で凍結し、以下同様に処理した所、SK−55の数は9.0×10であった。
前記凍結温度差による性質は表3のとおりである。
Figure 0005183042
前記粉末厚膜胞子の保存による経時的変化について判定した所、表4の結果を得た。従って、室温保存でもよいが、長期に亘る場合は冷蔵(0℃〜5℃)が望ましい。
Figure 0005183042
前記実施例1の成分を用いて、振盪培養機を用いシード培養3日、本培養8日を行い、ホモジナイズ処理後、遠心分離し、分離して得た厚膜胞子に、20%グルコースを添加して、−30℃で急速凍結して実施例1と同様に乾燥した所、表5の結果を得た。この場合のSK−55の数は2.3×10 CFU/gから8.7×10 CFU/gに変わった。
Figure 0005183042
前記のように、凍結処理によりSK−55の数に若干の減少がみられた。
前記実施例1において、凍結温度を−80℃とした所、表6のように処理前と、処理後のSK−55の数の変化は殆どなかった。従って凍結温度が低い程減少するということもできるが、その限界(例えば−40℃以上は同一とか、−50℃以上は同一とかの限界)は不明である。
Figure 0005183042
ジャーファーメンターを用い、シード培養2日、本培養6日を行った以外は実施例3と同様に行った所、厚膜胞子の菌数は表7のようになった。要するに−80℃凍結の方がSK−55の数の減少度が少ない。
Figure 0005183042
この発明において、培地組成を変えた場合の実施例を説明する。
(1)ジャー培養(培地組成)
グルコース 3.3%
ポリペプトン 0.3%
mgSo 0.05%
CaCl 0.05%
pH 無調整
シード量 0.7%
(2)条件
温度 28℃
撹拌 200rpm
通気量 0.3vvm
前記培地で液体通気(撹拌)状態で3日間通気培養し、3日経過後1リットルサンプリングして、容量500mlの三角フラスコに100ml添加し、下記条件で7日間培養(全部で10日間培養)し、前記ジャーで継続培養したものと比較した所、表8の結果を得た。
Figure 0005183042
前記実験より次のことが考えられる。
(イ)胞子化の温度条件は、培養温度(28℃)が最適と思われる。
(ロ)最近の胞子形成と異なり、カルシウムの添加効果はない。
(ハ)厚膜胞子の形成は、菌体の自己消化酵素との関係が推定され、アルカリ側で若干の増加傾向が見られた。
(ニ)培養液のpHを5に調整した区で極端に胞子化が悪く、自己消化酵素との関係を裏付けられている。
(ホ)ジャー培養の胞子5×10 CFU/mlで再現性あがり、糖切れ後のpH調整で胞子率は促進される。
前記培養液をホモジナイズして、菌糸と厚膜胞子を分離した後、遠心力をかけて厚膜胞子を分離採取し、これにグルコースをまぶして、−80℃で凍結し、ついで減圧10Paすると共に、温度10℃で乾燥した後粉砕すれば、この発明の粉末厚膜胞子を得た。この場合のSK−55は、1.3×10 CFU/mlであった。
実施例1と同様の培地を用い、主培養を2、3日、本培養日数を7〜11日とした時の凍結乾燥前のSK−55を上段に、凍結乾燥後のSK−55を下段にまとめて表9に示す。
Figure 0005183042
ジャーファーメンター(26℃、300rpm、通気量1L/分)を用い、種培養を2日、本培養6日行った以外は実施例1と同様に行った厚膜胞子の菌数は1.3×10 CFU/gであった。
ジャーファーメンター(26℃、300rpm、通気量1L/分)を用い、本培養5日行った以外は実施例7と同様に行った厚膜胞子の菌数は1.0×10 CFU/gであった。
前記各実施例をまとめると、水分6%以下で、SK−55は初期に5×10以上あり、一年後に1×10 CFU/g以上あることを目標として研究開発している。
ホモジナイズ時間と、SK−55との関係を示す図。

Claims (1)

  1. トリコデルマ ハルジアナム SK−55(受託番号FERM BP−4346)の菌糸体に、下記各工程を順次加えることを特徴とした粉末厚膜胞子の製造方法。
    (1)菌糸体をグルコース、酵母エキス及びポリペプトンを含む培養培地に接種して培養して厚膜胞子を多量に含む厚膜胞子入り培養液とする。
    (2)厚膜胞子入り培養液内の厚膜胞子と、菌糸とをホモジナイズ処理により分離する。
    (3)前記処理を経た培養液を、厚膜胞子と培養上澄み液とに分離する。
    (4)厚膜胞子にグルコース、スクロース又はフルクトースなどの単糖類よりなる菌数保護剤を15%〜25%添加した後、−30℃〜−80℃の冷凍庫で60〜180秒以内に共晶点以下に急速凍結処理する。
    (5)前記急速凍結処理した凍結厚膜胞子を0〜10Paの減圧下で、0〜25℃の温度下で、24〜48時間かけ、水分10%以下に減圧乾燥する。
    (6)乾燥した厚膜胞子を粉砕して粉末厚膜胞子とする。
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