以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるポリオレフィン樹脂(A)は、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィンを主たる構成モノマーとする樹脂であり、これらのモノマーの2種以上を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のオレフィンがより好ましく、特にエチレン、プロピレンが好ましい。
ポリオレフィン樹脂(A)は不飽和カルボン酸成分を1.5〜10質量%含有したものであり、好ましくは1.5〜8質量%であり、より好ましくは2〜7質量%である。不飽和カルボン酸成分が1.5質量%未満であれば水性分散化が困難となり、10質量%を超えると水性分散化はより容易になるが、水性分散体から得られる塗膜の極性が高くなり、極性の低い基材に対する接着性が低下する傾向にある。
不飽和カルボン酸成分とは、分子内、すなわちモノマー成分内に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂(A)には、オレフィン成分、不飽和カルボン酸成分以外のモノマーが共重合されていてもよい。こうしたモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸エステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;ジエン類;(メタ)アクリロニトリル;ハロゲン化ビニル類;ハロゲン化ビリニデン類;一酸化炭素;二酸化硫黄が挙げられる。(なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタアクリル酸〜」を意味する。)
ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.01〜500g/10分のものが好ましく、0.1〜400g/10分がより好ましく、1〜300g/10分がさらに好ましく、5〜200g/10分が特に好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の水性化が困難となるか、あるいは、ヒートシール性が低下することがある。一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが500g/10分を超えると得られる塗膜は硬くてもろくなる傾向にあり、ヒートシール性が低下しやすい。
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー(B)としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ジエン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化エチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、一種を単独で用いてもよいし、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、スチレン系熱可塑性エラストマー又はオレフィン系熱可塑性エラストマーがTPO基材に対しての接着性能の点から好ましい。
本発明に用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、芳香族ビニル化合物を主体とする芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と共役ジエン化合物を主体とする共役ジエン系重合体ブロック(ソフトセグメント)とを有するブロック共重合体や、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体が好ましい。
芳香族ビニル系化合物の例としては、スチレン;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−シクロヘキシルスチレン等の核アルキル置換スチレン;o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン等の核ハロゲン化スチレン;1−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン誘導体;インデン誘導体;ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらの中で、スチレン、α−メチルスチレン及びp−メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好ましい。これらの芳香族ビニル化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
共役ジエン系化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4-ジメチル-1,3ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン等を挙げることが出来る。これらの中でも、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましい。これらの共役ジエン系化合物は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン−ブタジエンランダム共重合体およびその水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン−イソプレンランダム共重合体およびその水素添加物等であり、具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−ブタジエンランダム共重合体の水素添加物(HSBR)、ポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる例えば結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体などが挙げられる。これらのスチレン系エラストマーにおけるスチレンブロックの含有量は、5〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい、15〜40質量%であることが特に好ましい。
上記のようなスチレン系熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(230℃、2.16kg)は、0.1〜200g/10分が好ましく、0.5〜100g/10分がより好ましい。0.1g/10分未満だとポリオレフィンと溶融混練した場合に相溶性が悪化する傾向にあり、200g/10分を超えた場合は水性分散体とした場合の接着性が低下する傾向にある。
上記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JSR(株)社の「ダイナロン、TR、SIS」、クレイトンポリマージャパン(株)社の「クレイトンD、クレイトンG、クレイトンFG」、旭化成(株)社の「タフテックス、タフプレン、アサプレン」、アロン化成(株)社の「エラストマーAR」、三菱化学(株)社の「サーモラン」、クラレ(株)社の「セプトン」等が市販されている。
本発明に用いられるオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、(1)結晶性のポリオレフィンと非晶性のオレフィン系共重合ゴム又はゴム成分の混合物、(2)結晶性のポリオレフィンブロック(A)と非晶性のゴムブロック(B)をそれぞれ分子中に少なくとも1個有するブロック共重合体、(3)ハードセグメントとしてのアイソタクチックポリプロピレンに、ソフトセグメントとしてのアタクチックポリプロピレンを添加したもの、(4)エチレン/プロピレン/ブテンの共重合体、(5)ハードセグメントとしてのポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリメチルペンテン等の結晶質にソフトセグメントが部分架橋したエチレン/プロピレン非共役ジエン3元共重合体ゴム等のモノオレフィン共重合体ゴム、(6)ハードセグメントとしてのオレフィン系共重合体(結晶質)とソフトセグメントとしての未架橋モノオレフィン共重合体ゴムとを加熱しつつ剪断応力を加え、部分架橋させてあるもの、または(7)過酸化物分解型オレフィン重合体であるアイソタクチックポリプロピレン、プロピレン/エチレン共重合体、もしくはプロピレン/ブテン−1共重合体をハードセグメントとし、過酸化物架橋型モノオレフィン重合体であるエチレン/プロピレン共重合体ゴム、もしくはエチレン/プロピレン/非共役ジエン3元共重合体ゴム等をソフトセグメントとしたもの、等を挙げることができる。中でも好適なものとしては、(1)結晶性のポリオレフィンと非晶性のオレフィン系共重合ゴム又はゴム成分の混合物、および(2)結晶性のポリオレフィンブロック(A)と非晶性のゴムブロック(B)をそれぞれ分子中に少なくとも1個有するブロック共重合体がである。
前記(1)における結晶性のポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテンー1、ヘキセンー1、4ーメチルーペンテンー1等のαーオレフィンの単独重合体、エチレンおよびプロピレンまたは他のαーオレフィンの少なくとも1種類との非エラストマー性共重合体、単独重合体同士または単独重合体と共重合体との混合物などが挙げられる。オレフィン系共重合体ゴムとしては、エチレン/プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン/1−ブテン共重合ゴム(EPM)、エチレン/プロピレン/ブテン共重合ゴム、エチレン/ヘキセン共重合体、エチレン/ヘプテン共重合体、エチレン/オクテン共重合体、エチレン/4−メチルペンテン−1共重合体や、非共役ジエンとして、ブテン−1、1,4−ヘキサジエン等の脂肪族ジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ジシクロオクタジエン等を用いたエチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)などの、オレフィンを主成分とする共重合体の弾性体等を挙げることができ、それらは完全にまたは部分的に架橋されたものが好ましい。架橋剤としては、有機ペルオキシドやフェノール系加硫剤等が用いられる。
これらオレフィン系共重合体ゴムは、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体いずれでもよく、その製造法や形状はとくに限定されない。また、これらのオレフィン系共重合体ゴムは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記のオレフィン系共重合体ゴムのほかに、他のゴム成分として、たとえばスチレン- ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴム、SEBS、ポリイソブチレンなどを用いることができる。これらのゴム成分は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記(2)は、その構造として、(A−B)n1、(A−B)n2−A、(B−A)n3−B(n1、n2、n3は1以上の整数)や、これらをカップリング剤で結合した構造が例示される。これらの中ではトリブロックの共重合体またはそれ以上の数のブロックを有する共重合体が好ましい。
このような共重合体としては、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB’と共に、共役ジエン化合物を主体とし架橋処理などにより結晶性ポリオレフィンとなり得る部分を有するブロックA’からなる共重合体がある。また更に、ブロックA’の一部をビニル芳香化合物の重合体からなるブロックCで置き換えたブロック共重合体がある。
共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエンが例示される。
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB’は、水素添加された後に非晶質ポリオレフィンゴム質の重合体ブロックになり得るブロックである。例えば、ポリブタジエンのビニル結合(1,2−及び3,4−結合の含有量)が、25〜85%程度であれば水素添加により、ゴム状のエチレン−ブテン共重合体ブロックと類似の構造を示す非晶性のブロックとなる。
結晶性ポリオレフィンとなり得る部分を有するブロックA’は、例えばポリブタジエンのビニル結合(1,2−及び3,4−結合の含有量)が、25%以下程度であれば水素添加により、エチレン重合体に類似の構造を示す結晶性のブロックとなる。
本発明のブロック共重合体には、例えば上記ブロックA’と上記ブロックB’が、A’−B’−A’で表されるブロック共重合体がある。
このようなブロック共重合体として、硬質部となるポリプロピレン等の結晶性の高いポリマーを形成するオレフィンブロックと、軟質部となる非晶性を示すモノマー共重合体ブロックとのブロック共重合体が挙げられ、具体的には、オレフィン結晶−エチレン/ブチレン共重合体−オレフィン結晶(CEBC)の如きオレフィン結晶系ブロックポリマー、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ポリエチレンオキシド−プロピレンブロック共重合体、プロピレン−オレフィン(非晶性)−プロピレンブロック共重合体等があげられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
上記のようなオレフィン系熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(230℃、2.16kg)は、0.1〜200g/10分が好ましく、0.5〜100g/10分がより好ましい。0.1g/10分未満だとポリオレフィンと溶融混練した場合に相溶性が悪化する傾向にあり、200g/10分を超えた場合は水性分散体とした場合の接着性が低下する傾向にある。
上記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、三井化学(株)社製の「ミラストマー」、三菱化学(株)製の「サーモラン」、住友化学(株)社製の「住友TPE」、AESジャパン社製の「サントプレーン」、JSR(株)社の「ダイナロン」等が市販されている。
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー(B)には、ポリオレフィン樹脂(A)との相溶性を向上させたり、樹脂水性分散体として得た場合に基材との密着性や接着性を向上させるために、一部に官能基が付与されていてもよい。この官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、エポキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、イソシアネート基、スルホニル基、スルホネート基等が挙げられる。変性方法は公知の方法を使用することができる。
官能基の含有量は、10質量%以下であること好ましい。ただし、不飽和カルボン酸成分を付与した場合はその含有量が1.5質量%未満でなくてはならない。不飽和カルボン酸成分の含有量が1.5質量%以上になると、得られた樹脂水性分散体が凝集しやすくなり保存安定性が低下する傾向にある。
次にポリオレフィン樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)を混練して混合樹脂(C)を得る工程(I)について説明する。
本発明でいう「混練」とは、(A)(B)2種の樹脂が良好に混合される方法であれば特に限定されず、双方の樹脂が溶解可能な有機溶剤中に溶解して混合してもよいし、溶融混練によって混合してもよい。前者の混合方法では、比較的多量の有機溶剤が必要であり、コスト、自然環境、職場環境、消防法等による規制などの問題があるので、工業的に簡便である後者の溶融混練法が好ましい。
有機溶剤中に溶解して混合樹脂を得る場合には、溶解性を高めるために2種類以上の有機溶剤を混合してもよいし、加熱および攪拌してもよい。溶解後は有機溶剤を加熱や減圧等によって混合樹脂(C)から全量または所定量除去し、後述する水性分散化工程(II)に従って水性分散体とする。
溶融混練する場合には、一般的な押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)の押出機への供給は、予め両樹脂をドライブレンドしたものを一つのポッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの樹脂を仕込みポッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。溶融混練する温度は、ポリオレフィン樹脂(A)の融点または熱可塑性エラストマー(B)の融点が高い方の温度以上であることが好ましい。また、上限は350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。混練温度が少なくとも一方の樹脂の融点より低い場合には、溶融混練の効果が低下する場合があり、350℃を超える場合は、樹脂の酸化や熱分解が起こり、物性が低下しやすい。
混練の際には、目的に応じて、架橋剤、相溶化剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材等を添加してもよい。
ポリオレフィン樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)の質量比(A)/(B)は、99.5/0.5〜50/50の範囲とすることが好ましく、水性分散化収率を高めるためには、99.5/0.5〜60/40の範囲がより好ましく、99/1〜70/30の範囲がさらに好ましい。熱可塑性エラストマー(B)の含有量が0.5質量%未満の場合は、オレフィン系熱可塑性エラストマー基材への接着性の向上効果が発現しにくくなり、50質量%を超える場合は、水性分散化が困難となり水性分散化収率が低下したりする。水性分散化収率は、水性分散体を評価・利用する観点から、少なくとも30%以上あることが好ましい。
次に水性分散化工程(II)について説明する。
上記のように得られた混合樹脂(C)は、不揮発性水性化助剤を添加せずに水性媒体中に分散、すなわち水性分散化することができる。なお本発明において、不揮発性水性化助剤を添加せずに熱可塑性エラストマーを含有した混合樹脂(C)が水性分散化可能となった詳細な原理は不明であるが、混合樹脂(C)おいて、不揮発性水性化助剤を添加せずに水性分散化が可能なポリオレフィン樹脂(A)が海層、水性分散化が困難な熱可塑性エラストマー(B)が島層となった微細な海島構造が構成されているために、水性分散化に際して、はじめに海層のポリオレフィン樹脂(A)が分散化され、そのことにより次に島層として存在した熱可塑性エラストマー(B)が混合樹脂中から遊離されて媒体中に分散し、結果として、混合樹脂(C)の水性分散体が得られると推察される。
本発明の水性分散化工程(II)において、乳化剤、保護コロイド、高酸価ワックス等の不揮発性水性化助剤は添加する必要はない。不揮発性水性化助剤を添加した場合は、得られた樹脂水性分散体の耐水性や接着性能などの性能を悪化させる原因となるため、本発明においては、不揮発性水性化助剤の量は樹脂(A)と(B)の合計量100質量部に対して0.1質量部以下とすることが好ましい。「水性化助剤」とは、樹脂水性分散体の製造において、水性化促進や樹脂水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、高酸価ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が15質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
本発明の水性分散化方法としては、混合樹脂(C)を、塩基性化合物、水溶性有機溶剤、水とともに80〜250℃の温度で加熱、攪拌する方法が好ましい。なお、水性媒体とは、水および水溶性有機溶剤からなり、塩基性化合物が水溶性の場合にはこれも含める。
塩基性化合物は、混合樹脂(C)中のカルボキシル基を中和して、カルボキシルアニオンを生成させる。アニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、樹脂水性分散体に安定性が付与される。塩基性化合物としては、塗膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が塗膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物の添加量はポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、樹脂水性分散体が着色する場合がある。
水溶性有機溶剤は、混合樹脂(C)の水性分散化を促進し、分散粒子径を小さくさせる。水溶性有機溶剤とは、20℃における水に対する溶解性が10g/L以上のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは50g/L以上である。使用する水溶性有機溶剤量は、樹脂水性分散体に含まれる全溶媒の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤量が40質量%を超える場合には、得られた水性分散体の粘度が高くなりすぎたり、使用する有機溶剤によっては樹脂水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。全溶媒中の有機溶剤量は、ストリッピング操作によって、適度に減量することができる。
本発明において使用される水溶性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、中でも沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の乳化時に揮発する割合が多くなり、水性分散化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶剤は樹脂塗膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
上記の有機溶剤の中でも、混合樹脂(C)の水性分散化促進に効果が高く、しかも水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
本発明における水性分散化工程(II)に用いる混合樹脂(C)の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
混合樹脂(C)の添加量は、水性媒体と混合樹脂(C)の総和100質量%に対して1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、5〜45質量%が特に好ましい。添加量が1質量%未満の場合は得られる樹脂水性分散体の樹脂含有率が低すぎて塗膜の性能が発現しにくく、60質量%を超えた場合は水性分散化が困難となる傾向がある。
水性分散化のための容器は特に限定されず、公知の固/液撹拌装置、乳化機、オートクレーブ等を使用することができる。0.1MPa以上の加圧が可能であれば好ましい。本発明における撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではなく、簡便な装置でも樹脂水性分散体の製造が可能である。
混合樹脂(C)を水性分散化する際の温度は、80〜250℃とすることが好ましい。より好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜190℃である。槽内の温度が80℃未満の場合は、ポリオレフィン樹脂の水性分散化が不十分となることがある。槽内の温度が250℃を超える場合は、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。
本発明の方法を用いることで混合樹脂(C)は、水性媒体に微細かつ安定に分散でき、樹脂の数平均粒子径(以下、mn)は、3μm以下とすることができる。mnは保存安定性や低温造膜性の観点から1μm以下とすることが好ましく、0.5μm以下とすることがより好ましく、0.3μm以下とすることがさらに好ましい。さらに、体積平均粒子径(以下、mv)に関しては、3μm以下とすることができ、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。
このようにして得られた樹脂水性分散体は、所望の粘度や樹脂含有率になるように適宜、水性媒体を留去したり、水および/または有機溶剤により希釈してもよい。樹脂水性分散体における樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂塗膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる点で、樹脂水性分散体100質量%に対して1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、5〜45質量%が特に好ましい。
本発明の樹脂水性分散体は、接着性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を樹脂水性分散体中の樹脂(A)、(B)の総量100質量%に対して0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜40質量%添加することができる。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基や水酸基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、フェノール樹脂、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
本発明の樹脂水性分散体には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を添加してもよい。
本発明の樹脂水性分散体は、TPO基材をはじめ、熱可塑性樹脂フィルム基材、金属基材、ガラス基材、紙、合成紙等様々な基材に対しての接着性に優れる。
熱可塑性樹脂フィルムとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、製法も限定されるものではない。熱可塑性樹脂フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常1〜500μmであればよい。中でも、本発明の樹脂水性分散体は、ポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムへの接着性に優れる。
本発明の樹脂水性分散体は、公知のコーティング方法によって塗工することができる。コーティング方法としては、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂塗膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。
また、本発明の樹脂水性分散体を用いて形成される樹脂塗膜の厚さとしては、その用途によって適宜選択されるものであるが、0.01〜30μmが好ましく、0.02〜10μmがより好ましく、0.03〜9μmがさらに好ましく、0.05〜8μmが特に好ましい。樹脂塗膜の厚さが0.01μm未満ではヒートシール性が悪化する。なお、本発明の樹脂水性分散体は数μm以下の厚さでヒートシール性を含めた各種の優れた性能が発現するため、格別の理由がなければ10μmを超えて塗装する必要はない。樹脂塗膜の厚さを調節するには、コーティングに用いる装置やその使用条件を適宜選択したり、適度な濃度の樹脂水性分散体を使用する。
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種特性については以下の方法によって測定または評価した。
1. 樹脂の特性
(1)樹脂の構成
1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。ポリオレフィン樹脂は、オルトジクロロベンゼン(d4)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
2. 樹脂水性分散体の特性
(1)水性分散化収率
水性分散化後の樹脂水性分散体を600メッシュのステンレス製フィルター(平織、線径35μm、濾過面積133cm2)で加圧濾過(空気圧0.2MPa(G))後に、フィルター上に残存する樹脂を、80℃真空乾燥で1時間乾燥し樹脂重量を測定、仕込み樹脂重量より収率を算出した。尚、1回で全量濾過できなかった場合はフィルターの交換を行い、その場合においてはトータルの残存樹脂量で評価した。
(2)樹脂水性分散体の固形分濃度
600メッシュ濾過後の樹脂水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(3)樹脂水性分散体の平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、600メッシュ濾過後の樹脂水性分散体の数平均粒子径および重量平均粒子径を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
(4)保存安定性
600メッシュ濾過後の樹脂水性分散体30gを、透明なガラス容器(内容積50ml)に入れ、室温で2日間静置し、凝集物が発生していないか目視評価した。
○:全く凝集なし
△:微細な凝集物が少し確認されるが、固液の分離は見られない
×:凝集が確認され、固液の分離が見られる
3. 塗膜の特性
以下の評価においては、基材として、TPO(三井化学社製:ミラストマー6030N)をTダイにてシート状(厚み1mm)に成型したものを用いた(以下、TPOシート)。水性分散体として、600メッシュ濾過後、室温で2日間静置したものを用いた。
(1)濡れ性
TPOシートに樹脂水性分散体を乾燥後の膜厚が1μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、90℃で2分間、乾燥させた。得られた積層シートのコート層の濡れの程度を次の基準で目視評価した。
○:ハジキなし
×:ハジキが確認された(コート面積中の5%程度以上にハジキが確認できる)
(2)密着性(テープ剥離試験)
上記で得られた乾燥後の積層シートを室温で1日放置後、評価した。接着剤面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を次の基準で目視評価した。
○:全く剥がれなし
△:一部が剥がれた
×:殆どが剥がれた
(3)TPO/TPO接着性
TPOシートに樹脂水性分散体を乾燥後の膜厚が2μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、90℃で2分間、乾燥させ積層シートを得た。得られた積層シートのコート面同士を貼り合わせ、ヒートプレス機(シール圧0.2MPa/cm2で10秒間)にて100℃でプレスした。このサンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、引張角度90度で被膜の剥離強度を測定した。測定はn=5で行い測定値はその平均値とした。
(4)TPO/ステンレス(以下SUS)接着性
SUS板(厚み1.5mm)上に、乾燥後の塗膜層の厚みが10μmになるように樹脂水性分散体をマイヤーバーでコートし、90℃で5分間乾燥した。そのSUS板を200℃で3分間加熱し、その塗膜面に160℃×1.5分間で軟化させたTPOシートを、塗膜を介して積層し、200℃、0.5MPa、10秒の条件でプレスした。室温で1日放置後、TPOシートを5mm幅で切り出して、引張り試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用い、25℃、引張り速度50mm/分、引張り角度180度の条件で塗膜の剥離強度を測定した。測定はn=5で行い測定値はその平均値とした。
ポリオレフィン樹脂(A)としては、市販品であるボンダインHX8290(アルケマ社製、以下HX8290とする)を用いた。ポリオレフィン樹脂(A)の特性を表1にまとめた。
熱可塑性エラストマー(B)としては、以下に示した市販品を用いた。
SEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体:JSR社製ダイナロン8600P、スチレン含有量15質量%)、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体:クレイトンポリマージャパン社製クレイトンDKX415、スチレン含有量35質量%)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体:クレイトンポリマージャパン社製クレイトンD1124、スチレン含有量30質量%)、SEBC(スチレン−エチレン/ブチレン−エチレン結晶ブロック共重合体:JSR社製ダイナロン4600P、スチレン含有量20質量%、)、HSBR(スチレン−ブタジエンランダム共重合体の水素添加物:JSR社製ダイナロン1320P、スチレン含有量10質量%)、f−SEBC(スチレン−エチレン/ブチレン−エチレン結晶ブロック共重合体の官能基付与タイプ:JSR社製ダイナロン4630P、スチレン含有量5質量%)、M−SEBS1(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体のマレイン酸付与タイプ:クレイトンポリマージャパン社製クレイトンFG1924X、スチレン含有量13質量%、マレイン酸含有量1.0質量%)、CEBC(エチレン結晶−エチレン/ブチレン−エチレン結晶共重合体:JSR社製ダイナロン6100P)、TPO(三井化学社製ミラストマー6030N)、M−SEBS2(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体のマレイン酸付与タイプ:クレイトンポリマージャパン社製クレイトンFG1901X、スチレン含有量30質量%、マレイン酸含有量1.9質量%)
[実施例1]
ポリオレフィン樹脂「HX8290」と熱可塑性エラストマー「SEBS」とを、「HX8290」/「SEBS」=99/1の質量比でドライブレンドし、それを温度200℃の2軸混練機(池貝製PCM−30、スクリュー回転180rpm、吐出量100g/分)で溶融混練し、カッターでペレット化して混合樹脂を得た。
次いで、ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、125.0gの溶融混練した混合樹脂、100.0gの2−プロパノール、4.6gのトリエチルアミン及び270.4gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ、系内温度を120℃にし、さらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度400rpmのまま攪拌しつつ約40℃まで冷却した後、600メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
[実施例2〜13、参考例]
表2に示すように熱可塑性エラストマーの種類と混合比を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
[比較例1]
ポリオレフィン樹脂「HX8290」を単独で用い、実施例1と同様の水性分散化操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表3に示した。
[比較例2〜10]
表3に示した溶融混練していない熱可塑性エラストマーを、実施例1と同様の水性分散化操作を行った。しかし、ほとんど全く樹脂水性分散体は得られず、全ての樹脂がフィルター上に残っていた。
[比較例11]
熱可塑性エラストマー「SBS」30gとトルエン170gとを、内容積が500mlのセパラブルフラスコに仕込み、攪拌下、室温で溶解した。得られたトルエン溶液に、第4級ドデシルエチルジメチルアンモニウム硫酸エチルエステル2.0gを100gの水に溶解したものを添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社製“TKホモミキサー M型”)を用いて3分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ12,000rpmおよび30℃に設定した。得られた乳化液を50〜500torrの減圧下で40〜70℃に加熱しトルエンを留去した。さらに留去を進め、総留去量がおよそ190gに達したところで放圧し、樹脂水性分散体の固形分濃度が25%になるように水を添加し調整した。その後、600メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表3に示した。
[比較例12]
比較例1で得た「HX8290」の樹脂水性分散体と、比較例11で得た「SBS」の樹脂水性分散体とを、樹脂成分において「HX8290」/「SBS」=70/30となるように混合撹拌し、樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表3に示した。
[比較例13]
表−3に示すように、熱可塑性エラストマーとしてマレイン酸含有量1.9質量%の「M−SEBS2」を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表3に示した。
実施例1〜6の結果より、従来、不揮発性水性分散化助剤なしでは水性分散化することが出来なかった熱可塑性エラストマー(比較例2)であっても、ポリオレフィン樹脂と混合することにより水性分散化が可能であった。特に、樹脂中の混合比が30質量%以下であれば水性分散化収率は100%であった。また、実施例7〜14の結果より、熱可塑性エラストマーの種類が変わっても同じく水性分散化が可能であった。
比較例1と実施例1〜14の対比から、比較例1で得られた樹脂水性分散体より、実施例で得られた水性分散体は、TPOシートに対しての濡れ性、密着性、接着性において優れた性能であった。これは、TPO基材に対しての親和性の高い熱可塑性エラストマーが樹脂水性分散体に含有されることによって性能が向上したと考えられる。
比較例11の結果より、熱可塑性エラストマー単体の水性分散体であっても、不揮発性水性化助剤を含有している影響により、TPOシートに対する密着性、接着性などの性能は劣っていた。
比較例12は、実施例7とポリオレフィンと熱可塑性エラストマーの種類と混合比が同じ樹脂水性分散体であったが、調製に用いた比較例11が不揮発性水性化助剤を含有していた影響により、TPOシートに対する密着性、接着性などの性能は劣っていた。
比較例13の結果より、不飽和カルボン酸成分の含有量が高い熱可塑性エラストマーを用いた場合、得られた樹脂水性分散体の凝集がひどく、保存安定性は劣っていた。尚、実施例12においても保存安定試験において若干凝集物が見られたが、使用上まったく問題にならない程度であった。