JP5162836B2 - 溶接部の耐水素脆性に優れる高強度冷延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、最近では自動車の軽量化や衝突安全性の向上の必要性から、980MPa以上の超高強度薄鋼板をバンパーやインパクトビーム等の補強材に使用に供する場合が急速に増えてきている。したがって、耐水素脆性を備えた超高強度薄鋼板の開発が急務である。
一方、薄鋼板の遅れ破壊に関しては、例えば、非特許文献2に残留オーステナイト量の加工誘起変態に起因した遅れ破壊の助長について報告されている。これは、薄鋼板の成型加工を考慮したものであるが、耐遅れ破壊性を劣化させない残留オーステナイト量の規制について述べられている。すなわち、特定の組織を持つ高強度薄鋼板に関するものであり、根本的な耐遅れ破壊向上対策とは言えない。加えて、溶接部の溶接部の耐水素脆化特性を考えると、鋼板組織を制御したとしても、溶接部は一旦溶解されるため、その効果はほとんどなくなってしまう。
「遅れ破壊解明の新展開」(日本鉄鋼協会、1997年1月発行) CAMP−ISIJ vol.5 No.6 1839〜1842頁、山崎ら、1992年10月、日本鉄鋼協会発行
本発明者等は、種々検討を行った結果、鋼板中にCを0.06質量%以上含有する鋼の溶接部での水素脆化を改善する手法として、鋼中にSi、Mn、Al及びCrのうちいずれか一種以上を添加し、鋼板表層に酸化物を存在させることで、溶接部のビッカース硬度が330Hv以上であっても、水素脆化を抑制可能なことを見出した。
(1)本発明に係る溶接部の耐水素脆性に優れた高強度冷延鋼板は、質量%で、C:0.06〜0.25%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、Al:2.0%以下、Cr:3.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、O:0.01以下、N:0.01%以下を含有し、鋼板中のSi、Mn、Al及びCrの合計が0.3%以上となり、残部鉄及び不可避的不純物から成る鋼板の表面に、鋼板表層10μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、SiO 2 、FeSiO 3 、Fe 2 SiO 4 、MnSiO 3 、Mn 2 SiO 4 、Al 2 O 3 、MnAl 2 O 4 、MnO、Cr 2 O 3 から選ばれた1種以上の酸化物が平均含有率0.01〜30質量%で存在することを特徴とする。
(2)本発明に係る溶接部の耐水素脆性に優れた高強度冷延鋼板は、質量%で、C:0.06〜0.25%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、Al:2.0%以下、Cr:3.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、O:0.01以下、N:0.01%以下を含有し、鋼板中のSi、Mn、Al及びCrの合計が0.3%以上となり、残部鉄及び不可避的不純物から成る鋼板の表面に、Feを7質量%未満含有し、残部がZn,Alおよび不可避的不純物からなる溶融亜鉛めっき層を有する鋼板において、高強度鋼板とめっき層との界面から10μm以下の鋼板側の結晶粒界、結晶粒内、もしくは、めっき層中のいずれか一方、あるいは、両方に、SiO 2 、FeSiO 3 、Fe 2 SiO 4 、MnSiO 3 、Mn 2 SiO 4 、Al 2 O 3 、MnAl 2 O 4 、MnO、Cr 2 O 3 から選ばれた1種以上の酸化物が平均含有率0.01〜30質量%で存在することを特徴とする。
あるいは、V等の合金炭化物を鋼中に分散させて、母材の耐水素脆性を高めたとしても、これら合金炭化物が溶解する溶接部では、その改善が難しい。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、鋼板の表層、あるいは、めっき鋼板のめっき層中のいずれか一方、あるいは両方に酸化物を形成させることで、薄鋼板に要求される特性である成形性や耐食性を損なうことなく耐水素脆性を向上可能であることを見出した。
まず、成分の限定理由について説明する。なお、本明細書において%は質量%を意味する。
C:Cは、鋼板の強度を上昇できる元素である。しかし、0.06%未満であると溶接部のビッカース硬度がHv330を超えることがないことから、酸化物の有無に依らず水素脆性の懸念が小さい。このことから下限を0.06%とした。0.06%を下回ったとしても、鋼板表層への酸化物形成の抑制による化成性の向上や溶融めっきの濡れ性および合金化促進等の効果は得られる。一方、0.25%以上となると溶接部強度の確保が困難となる。このため、上限を0.25%以下に限定した。従ってCの含有量の範囲は0.06%以上、0.25%以下である。しかしながら、溶接部の強度を問題にしないのであれば、本発明の効果である耐水素脆性の向上効果は引き出される。
Si:Siは、強化元素であり、鋼板の強度を上昇させることに有効である。加えて、酸化物とすることで耐水素脆性向上に寄与することから、添加することが望ましい。2.0%超の添加は、成形性が低下することからその上限を2.0%とした。下限は、特に限定しないが、0.0005%以下とするのは困難であるのでこれが実質的な下限である。
Mn:Mnは、強化元素であり、鋼板の強度を上昇させることに有効である。しかしながら、3.0%超となると鋼板の成形性が低下することからその上限を3.0%とした。下限は、特に限定しないが、0.0005%以下とするのは困難であるのでこれが実質的な下限である。
Cr:酸化物とすることで耐水素脆性向上に寄与することから添加しても良い。3%超含有すると製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼすため、上限値を3%とした。下限は、特に限定しないが、Cr添加による耐水素脆化向上効果を活用するためには、0.05%以上添加することが好ましい。加えて、高強度化のために添加しても良い。
なお、本鋼板は、Si、Mn、Al及びCrを単独、あるいは、複合で含む酸化物を用いて、耐水素脆性の向上を図っていることから、Si、Mn、Al及びCrを合計で0.3%以上とする必要がある。0.3%未満であると、酸化物の含有量が小さく、顕著な耐水素脆性の向上が引き起こされない。このことから、下限を0.3%以上とした。上限は特に定めないが、それぞれの含有量の上限を上回ると、成形性が劣化することから、それぞれの上限範囲内内とする必要がある。
P:Pは鋼板の板厚中央部に偏析する傾向があり、溶接部を脆化させる。0.04%を超えると溶接部の脆化が顕著になるため、その適正範囲を0.04%以下に限定した。Pの下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。
O:Oは、酸化物を形成し、成形性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。特に、Oが0.01%を超えると、この傾向が顕著となることから、O含有量の上限を0.01%以下とした。0.001%未満とすることは、過度のコスト高を招き経済的に好ましくないことから、これを下限とした。ここで言うO含有量とは、鋼板表層に含まれる内部酸化物、めっき層中に含まれる酸化物を除去した後の鋼板中に含まれるOの含有量を意味する。特に、本鋼板は鋼板表層、あるいは、めっき層中のいずれか一方、あるいは、両方に酸化物を含むことから、表層のO含有量は鋼板内部に比較して高くなる。しかし、これら酸化物は、めっき層中や鋼板表層に存在することから、成形性にほとんど悪影響を及ぼさない。
N:Nは、粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。これは、Nが0.01%を超えると、この傾向が顕著となることから、N含有量の範囲を0.01%以下とした。加えて、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が良い。下限は、特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、N含有量を0.0005%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を招くことから、これが実質的な下限である。
Cu:Cuは、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.05%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.05%とした。逆に、1%超含有すると製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼすため、上限値を1%とした。加えて、濡れ性の向上や合金化反応の促進をもたらすことから添加しても良い。
Bは、0.0001質量%以上の添加で粒界の強化や鋼材の強度化に有効であるが、その添加量が0.0045質量%を超えると、その効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造製を低下させることから、その上限を0.0045%とした。
Ti:Tiは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。0.3%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.3%とした。
V:Vは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。0.3%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.3%とした。
W:Wは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.005%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.005%とした。0.3%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.3%とした。
また、Ti、Nb、V及びWを単独、あるいは、複合で含む炭化物、窒化物は、鋼板の母材の耐水素脆性を向上させることから、耐水素脆性が更に向上する。
なお、本鋼板の強度は特に限定しないが、溶接部での水素脆性の劣化が懸念されるのは、C含有量が0.06%以上であり、その改善のため、Si、Mn、Al及びCrの単独あるいは複合添加を行うことから、鋼板強度としては340MPa以上となる。
Si、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含む酸化物は、焼鈍ラインあるいは連続めっきラインにおける加熱中の雰囲気を制御することで、鋼板中に含まれるSi、Mn、Al及びCrを鋼板表層、あるいは、めっき層中のいずれか一方、あるいは、両方に酸化物を形成させることが出来る。
Si、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含む酸化物を鋼板表層、あるいは、めっき層中としたのは、本発明の効果である溶接部での耐水素脆性の向上と成形性、耐食性及び塗装性の両立を図るためである。
すなわち、鋼板表層に酸化物を分散させることで、鋼板全体に含まれる酸化物の質量%が小さくとも、効果を発揮させることが可能なためである。加えて、水素が鋼板中に進入したとしても、鋼板表層で水素がトラップされることから、容易に放出される。具体的には、腐食(水素発生と進入)−乾燥(水素放出)が連続的に起こる実環境下では、水素が進入したとしても鋼板表層でトラップされることから、鋼板表面までの拡散距離が短く、水素の放出が短時間で行われ、耐水素脆性を高めることに関してより効果的である。
めっき鋼板であれば、鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっきや溶融亜鉛めっきを行うことで、耐食性を向上させており、これら溶融めっきの濡れ性の確保、あるいは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であれば、合金化の促進が必要である。めっき浴浸漬前に鋼板表面にSi、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含有する酸化物が存在すると、溶融めっきとの濡れ性、あるいは、合金化を遅延することから、溶融亜鉛めっき鋼板、あるいは、合金化溶融亜鉛めっきが得られない。このことから、めっき浴浸漬前での鋼板表面への酸化物形成を抑制する必要がある。本発明では、加熱中の雰囲気を制御することで、加熱時の鋼板表面での酸化物形成を抑制し、鋼板内部での酸化物形成が可能となる。
この効果は、冷延鋼板であれば、鋼板表層10μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Si、Mn、Al及びCrの酸化物を平均含有率0.01〜30質量%含有させることで発揮される。更に、溶融亜鉛めっき鋼板、あるいは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であれば、高強度鋼板とめっき層との界面から10μm以下の鋼板側の結晶粒界、結晶粒内、もしくは、めっき層中のいずれか一方、あるいは、両方に前述の酸化物が平均含有率0.01〜30質量%で含有させることで発揮される。
鋼板表層10μm以下、あるいは、めっき層中としたのは、過度に鋼板内部まで酸化物を形成させることは、過度の熱処理を必要とし、経済的に好ましくないためである。加えて、成形性を劣化させることから好ましくない。
更には、これら酸化物は鋼板母材の耐水素脆性をも向上可能である。
酸化物の含有量を0.01〜30質量%とすることで、耐水素脆化特性が大きく向上する。0.01質量%以上としたのは、0.01質量%未満では、耐水素脆化特性向上の効果が得られ難いためである。一方、30質量%を超える酸化物を形成させるためには、長時間を要することから、生産性に劣る。
酸化物の含有率の測定は、Si、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含む酸化物の質量%が測定できればどのような方法でも構わないが、酸化物を含有する層を酸で溶解し、Si、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含む酸化物を分離させた後、質量を測定する方法が確実である。また、酸化物の内部酸化物を含有する鋼層の厚みの測定も特に規定しないが、鋼板断面から、光学顕微鏡やSEMで観察する方法が確実である。
Si、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含む酸化物であれば、酸化物の種類に依らず耐水素脆性は向上する。すなわち、SiO2、FeSiO3、Fe2SiO4、MnSiO3、Mn2SiO4、Al2O3、MnAl2O4、MnO、Cr2O3のいずれの酸化物が含まれても構わない。ただし、詳細な理由は不明なものの、SiとMn、あるいは、AlとMnを複合で含む酸化物を形成した場合、耐水素脆性の向上効果が著しいことから、MnSiO3、Mn2SiO4、MnAl2O4を含有することが望ましい。
鋼板組織は、特に限定されることなく本発明の効果である溶接部での優れた耐水素脆性は発揮される。しかしながら、薄鋼板として、高強度と延性、穴拡げ性及び曲げ性等の成形性を具備するためには、組織をフェライト及びマルテンサイトとするDP(デュアルフェイズ)鋼、特に優れた成形性と強度を有するフェライト、残留オーステナイト及びベイナイトより成るTRIP鋼、高強度と穴拡げ性及び曲げ性の両立の可能なベイナイト単相組織鋼、フェライト及びベイナイト組織鋼、あるいは、ベイナイト及びマルテンサイト組織鋼、更にはTi、Nb、V等による析出強化により高強度化を図った鋼板、更には、これら強化手法を併用した鋼板組織とすることが望ましい。
次に製造条件の限定理由について述べる。
炉内の雰囲気のH2濃度をH2を1〜60体積%としたのは、60体積%を超えるH2濃度の増加はコスト高を招くことから好ましくなく、1体積%未満となると、鋼板に含まれるFeが鋼板表面で酸化することから、化成性、塗装性及び溶融めっきの濡れ性の劣化を避けることができないためである。このことからその範囲を、1〜60体積%とした。
炉内の水分圧と水素分圧の対数log(PH2O/PH2)を−3≦log(PH2O/PH2)≦−0.5とすることで、Si、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含有する酸化物を鋼板表層、あるいは、めっき層中に含有させることが出来る。下限を−3以上としたのは、この値未満では、鋼板表面にSi、Mn、Al及びCrを含む酸化物が形成される割合が多くなり濡れ性やめっき密着性を低下させる。このことから下限を−3以上とした。一方、上限を−0.5としたのは、その効果が飽和するためである。
即ち、上記の雰囲気に制御することで、炉内の雰囲気は、Si、Mn、Al及びCrが内部酸化する条件となる。内部酸化とは、鋼板内部に酸化物が形成される現象であり、鋼板内部に拡散したOと、鋼板内部に含まれるSi、Mn、Al及びCrが反応し鋼板内部で酸化物を形成する。この結果、化成性、塗装性、濡れ性及びめっき密着性を低下させることなく、耐水素脆性の向上が可能となる。
また、冷延鋼板の化成性や塗装性を向上させるため、焼鈍後に鋼板にNi、Cu、Co、Feの単独あるいは複数より成るめっきを施しても本発明を逸脱するものではない。あるいは、めっき鋼板のめっき密着性をさらに向上させるために、焼鈍前に鋼板に、Ni、Cu、Co、Feの単独あるいは複数より成るめっきを施しても本発明を逸脱するものではない。
更には、めっき鋼板の焼鈍については、「脱脂酸洗後、非酸化雰囲気にて加熱し、H2及びN2を含む還元雰囲気にて焼鈍後、めっき浴温度近傍まで冷却し、めっき浴に侵漬」というゼンジマー法、「焼鈍時の雰囲気を調節し、最初、鋼板表面を酸化させた後、その後還元することによりめっき前の清浄化を行った後にめっき浴に侵漬」という全還元炉方式、あるいは、「鋼板を脱脂酸洗した後、塩化アンモニウムなどを用いてフラックス処理を行って、めっき浴に侵漬」というフラックス法等があるが、いずれの条件で処理を行ったとしても本発明の効果は発揮できる。
熱延スラブ加熱温度は、特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、加熱温度を過度に高温にすることは、経済上好ましくないことから、加熱温度の上限は1300℃未満とすることが望ましい。また、過度に低温で加熱すると仕上げ圧延温度をAr3温度以上とすることが困難となることから、下限温度を1100℃とすることが望ましい。
仕上げ圧延温度はオーステナイト+フェライトの2相域になると、鋼板内の組織不均一性が大きくなり、焼鈍後の成形性が劣化するので、Ar3温度以上が望ましい。
なお、Ar3温度は次の式により計算する。
Ar3=901−325×C+33×Si−92×(Mn+Ni/2+Cr/2+Cu/2+Mo/2)
このようにして製造した熱延鋼板に、酸洗を行う。酸洗は鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、めっき性向上のためには重要である。また、一回の酸洗を行っても良いし、複数回に分けて酸洗を行っても良い。
酸洗した熱延鋼板を圧下率40〜70%で冷間圧延して、連続焼鈍ラインあるいは連続溶融亜鉛めっきラインを通板する。圧下率が40%未満では、形状を平坦に保つことが困難である。また、最終製品の延性が劣悪となるのでこれを下限とする。一方、70%を越える冷延は、冷延荷重が大きくなりすぎてしまい冷延が困難となることから、これを上限とする。45〜65%がより好ましい範囲である。圧延パスの回数、各パス毎の圧下率については特に規定することなく本発明の効果は発揮される。
なお、熱延板に直接めっきを行う場合は、冷間圧延を行わなくても良い。
最高加熱温度は、750〜900℃の範囲である。最高加熱温度が750℃未満になると、鋼板表層に水素脆性抑制可能な量のSi、Mn、Al及びCrを単独あるいは複合で含む酸化物を形成させるのに長時間を要するためである。一方、過度の高温加熱は、コストの上昇を招くことから経済的に好ましくないばかりでなく、高温通板時の板形状が劣悪になったり、ロールの寿命を低下させたりとトラブルを誘発することから、最高加熱温度の上限を900℃とする。この温度域での熱処理時間は特に限定しないが、十分な量の酸化物を形成させるためには、10秒以上の熱処理が望ましい。一方、熱処理時間が600秒超となると、コストの上昇を招くことから経済的に好ましくない。熱処理についても、最高加熱温度にて等温保持を行っても良いし、傾斜加熱を行い最高加熱温度に到達した後、直ちに、冷却を開始したとしても、本発明の効果は発揮される。
上記焼鈍終了後、0.1〜200℃/秒にて冷却することが望ましい。0.1℃未満での冷却は、生産性が大きく損なわれることから好ましくない。200℃/秒を超えて冷却速度を上げる事は、製造コスト高を招くこととなるので、上限を200℃/秒とすることが好ましい。冷却方法については、ロール冷却、空冷、水冷およびこれらを併用したいずれの方法でも構わない。冷却速度を限定する冷却下限については、特に限定せず本発明の効果を発揮できるが、室温以下とすることは技術的に困難であることから、これが実質上の下限である。また、連続焼鈍ラインの場合、過時効帯を利用して、室温〜450℃の温度範囲で、30秒以上の熱処理を行っても良い。過時効帯内における平均板温度が450℃超とすることは、製造コスト高を招くことになるので好ましくない。過時効帯の温度を室温以下とすることは困難であることから、これが実質上の下限である。保持時間とは、単なる等温保持だけでなく、室温〜450℃の温度範囲の滞留時間を意味し、この温度域での除冷や加熱も含まれる。
また、化成性および塗装性をさらに向上させるために、焼鈍後に鋼板に、Ni、Cu、Co、Feの単独あるいは複数より成るめっきを施しても本発明を逸脱するものではない。また、箱焼鈍を行っても本発明の効果である溶接部の耐水素脆化に優れる高強度鋼板の製造は可能である。
めっき浴浸漬板温度は、溶融亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から溶融亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲とすることが望ましい。浴浸漬板温度が溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回ると、めっき浴浸漬進入時の抜熱が大きく、溶融亜鉛の一部が凝固してしまいめっき外観を劣化させる場合があることから、下限を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃とする。ただし、浸漬前の板温度が(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回っても、めっき浴浸漬前に再加熱を行い、板温度を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃以上としてめっき浴に浸漬させても良い。また、めっき浴浸漬温度が(溶融亜鉛めっき浴温度+50)℃を超えると、めっき浴温度上昇に伴う操業上の問題を誘発する。また、めっき浴は、純亜鉛に加え、Fe、Al、Mg、Mn、Si、Crなどを含有しても構わない。
なお、本冷延鋼板に電気めっきを施しても鋼板の有する引張強度、成形性、耐水素脆性を何ら損なうことはない。すなわち、本発明鋼板は電気めっき用素材としても好適である。
また、本発明の溶接部の耐水素脆性に優れる高強度鋼板の素材は、通常の製鉄工程である精錬、製鋼、鋳造、熱延、冷延工程を経て製造されることを原則とするが、その一部あるいは全部を省略して製造されるものでも、本発明に係わる条件を満足する限り、本発明の効果を得ることができる。
次に、本発明を実施例により詳細に説明する。
表1に示す成分を有するスラブを、1220℃に加熱し、仕上げ熱延温度900℃にて熱間圧延を行い、水冷帯にて水冷の後、表2に示す温度で巻き取り処理を行った。熱延板を酸洗した後、厚み3mmの熱延板を1.2mmまで冷延を行い、冷延板とした。その後、これらの冷延板に表2と表3に示す条件で熱処理を行った。最後に、得られた鋼板について0.3%の圧下率でスキンパス圧延を行った。
一部の鋼板については、上記と同様の手法で冷延まで行い、連続合金化溶融亜鉛めっき設備にて、熱処理と溶融亜鉛めっき処理を施した。一部の鋼板については、めっき処理に引き続き合金化処理を行った。その際の目付け量としては、両面とも約50g/m2とした。めっき後の鋼板に、0.3%スキンパス圧延を施した。
引張試験は、1.2mm厚の板から圧延方向に直角方向にJIS5号試験片を採取し、引張特性を評価した。
表4と表5に、鋼板のスポット溶接部の水素脆化特性評価結果を示した。評価方法は、次の条件で行った。まず、溶接部近傍に残留応力を発生させるため、板の両端に板厚:2mmと4mmの板をスペーサーとして挟み、スペーサー間の中央をスポット溶接にて接合し、試験片を作製した。この際のスポット溶接は、電極(ドーム型):先端径6mmφ、加圧力4.3kN、溶接時間:15サイクル、保持時間:10サイクルにて行った。溶接電流値は、それぞれの鋼板にて、4.9mmのナゲット径を形成する条件とした。両端のスペーサー間隔は、40mmとし、スペーサーと鋼板間での水素発生を抑制するため、スペーサーは絶縁樹脂で被覆した。スペーサーを間に含む試験片を、0.5mol/lの硫酸中に漬け、電流によって水素を侵入させ、2時間後の割れのありなしを評価した。
測定した引張特性と溶接部の耐水素脆性を表4と表5に示す。
Claims (5)
- 質量%で、
C:0.06〜0.25%、
Si:2.0%以下、
Mn:3.0%以下、
Al:2.0%以下、
Cr:3.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
O:0.01以下、
N:0.01%以下
を含有し、鋼板中のSi、Mn、Al及びCrの合計が0.3%以上となり、残部鉄及び不可避的不純物から成る鋼板の表面に、鋼板表層10μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、SiO2、FeSiO3、Fe2SiO4、MnSiO3、Mn2SiO4、Al2O3、MnAl2O4、MnO、Cr2O3から選ばれた1種以上の酸化物が平均含有率0.01〜30質量%で存在することを特徴とする溶接部の耐水素脆性に優れた高強度冷延鋼板。 - 質量%で、
C:0.06〜0.25%、
Si:2.0%以下、
Mn:3.0%以下、
Al:2.0%以下、
Cr:3.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
O:0.01以下、
N:0.01%以下
を含有し、鋼板中のSi、Mn、Al及びCrの合計が0.3%以上となり、残部鉄及び不可避的不純物から成る鋼板の表面に、Feを7質量%未満含有し、残部がZn,Alおよび不可避的不純物からなる溶融亜鉛めっき層を有する鋼板において、高強度鋼板とめっき層との界面から10μm以下の鋼板側の結晶粒界、結晶粒内、もしくは、めっき層中のいずれか一方、あるいは、両方に、SiO2、FeSiO3、Fe2SiO4、MnSiO3、Mn2SiO4、Al2O3、MnAl2O4、MnO、Cr2O3から選ばれた1種以上の酸化物が平均含有率0.01〜30質量%で存在することを特徴とする溶接部の耐水素脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。 - 質量%で、
C:0.06〜0.25%、
Si:2.0%以下、
Mn:3.0%以下、
Al:2.0%以下、
Cr:3.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
O:0.01以下、
N:0.01%以下
を含有し、鋼板中のSi、Mn、Al及びCrの合計が0.3%以上となり、残部鉄及び不可避的不純物から成る鋼板の表面に、Feを7〜15質量%含有し、残部がZn,Alおよび不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を有する鋼板において、高強度鋼板とめっき層との界面から10μm以下の鋼板側の結晶粒界、結晶粒内、もしくは、めっき層中のいずれか一方、あるいは、両方に、SiO2、FeSiO3、Fe2SiO4、MnSiO3、Mn2SiO4、Al2O3、MnAl2O4、MnO、Cr2O3から選ばれた1種以上の酸化物が平均含有率0.01〜30質量%で存在することを特徴とする溶接部の耐水素脆性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 - 請求項1に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、炉内の雰囲気を、H2を1〜60体積%含有し、残部N2、H2O、O2および不可避的不純物からからなる雰囲気とし、その雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PH2O/PH2)を−3≦log(PH2O/PH2)≦−0.5に制御した雰囲気下で、550〜750℃間を平均加熱速度0.7℃/秒以上で加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍することを特徴とする溶接部の耐水素脆性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
- 請求項3に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、炉内の雰囲気を、H2を1〜60体積%含有し、残部N2、H2O、O2および不可避的不純物からからなる雰囲気とし、その雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PH2O/PH2)を−3≦log(PH2O/PH2)≦−0.5に制御した雰囲気下で、550〜750℃間を平均加熱速度0.7℃/秒以上で加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍し、その後、亜鉛めっき浴に浸漬し、460℃以上の温度で合金化処理を施した後、室温まで冷却することを特徴とする溶接部の耐水素脆性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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