JP5160806B2 - ステロイド誘導体及びその製造方法並びにアポトーシス誘導剤 - Google Patents

ステロイド誘導体及びその製造方法並びにアポトーシス誘導剤 Download PDF

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Description

本発明は、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物から得ることができる新規ステロイド誘導体及びその製造方法並びにヒメマツタケ子実体又はその破砕物から得ることができるアポトーシス誘導剤に関する。
現在、日本において癌は死亡原因のトップの病気であり、その予防や治療に対する人々の関心は非常に高い。また、日常的に取り人れることができる癌予防及び治療のための方法が数多く提案されている。
従来の多くの抗癌剤は、正常細胞と癌細胞の区別なく直接的に殺細胞的に作用し、癌細胞の増殖を阻害する(伊藤均,抗腫瘍剤 日高弘義編 阻害剤研究法 共立出版 東京 1985年 453-468頁)。このような殺細胞性抗癌剤は、使用量や使用期間等を最適に設定することが困難であり、さらにその副作用は癌患者にとって大きな負担となるものである。
近年、癌研究の分野ではアポトーシス、すなわち細胞自滅に関する研究が盛んに行なわれている。アポトーシスは生物個体発生における組織、臓器の形成、生体の恒常性の維持と防衛に重要な働きをするだけではなく、多くの病気の発生に深い関係があることが解明されつつある。
アポトーシスによる細胞の制御作用の異常は、癌形成の一つの原因であると考えられている。本来死滅すべき細胞がアポトーシス、つまり細胞自滅を起こすことなく生き残ると、その細胞が様々な刺激を受けて染色体に変異を重ね、最終的に癌細胞になるとされている。癌細胞は、アポトーシス機構への耐性を得て初めて増殖が可能となる。すなわち、癌はアポトーシス機構が衰退したために生じる病気である。このことから、種々の遺伝子変異を伴う細胞の癌化の過程はアポトーシスに対する耐性能獲得の過程に関係がある。
アポトーシスが正常に機能するためには、アポトーシス誘導を刺激する要因が必要である。この要因により、最終的に細胞死滅の実行過程を活性化し.アポトーシスが起きるとされている。従って、アポトーシス誘導刺激となる要因とその誘導物質の究明は癌の予防と治療に対して非常に重要である。
特開2005−73502号公報(特許文献1)には、コウタケを抽出して得られるコウタケ抽出物からなるアポトーシス誘導能を有する食品又は食品素材が記載されている。また同公報には、このコウタケ抽出物ががんの抑制乃至予防効果を示すこと、及び、アポトーシス誘導能を有する食品又は食品素材がコウタケ由来のエルゴステロールパーオキサイドからなるものであることが記載されている。
また特開2005−35987号公報(特許文献2)には、細胞増殖阻害剤および免疫賦活剤の少なくとも一方を主成分とする悪性腫瘍の治療剤が記載されている。同公報には、前記細胞増殖阻害剤がアポトーシス誘導活性を有するものであり得ること、前記細胞増殖阻害剤がビスフォスフォネート若しくはビタミンK2あるいはそれらの誘導体のうち少なくとも1種とすることができること、並びに、前記免疫賦活剤が、AHCC、溶連菌などの死菌体あるいはその抽出物、丸山ワクチン、アガリクス茸などのキノコやその抽出物等のうち、1種又は2種以上とすることができることが記載されている。
ヒメマツタケは、安全性の高い食用キノコとして知られており、日常的且つ継続的に摂取し得るものであるが、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物の抽出物がアポトーシス誘導刺激物質を含有することについては知られていない。
特開2005−73502号公報 特開2005−35987号公報
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物から得ることができる新規ステロイド誘導体及びその製造方法並びにヒメマツタケ子実体又はその破砕物から得ることができるアポトーシス誘導剤を提供することにある。
上記目的を達成する本発明のステロイド誘導体は、式(1)で表される。
....(1)
[式(1)中、
はHを示し、
は、
を示す。]
また本発明のアポトーシス誘導剤は、式(1)で表されるステロイド誘導体を有効成分とするものである。
また、本発明のアポトーシス誘導剤は、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物から有機溶媒により抽出される抽出物からなるものである。その有機溶媒としては、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、メタノール及びエタノールから選ばれる単独溶媒又は1若しくは2以上からなる混合溶媒を用いることができる。
また、本発明のステロイド誘導体製造方法は、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物から有機溶媒により抽出した抽出物の上清をシリカゲルカラムに吸着させ、その吸着物を有機溶媒で溶出させ、得られた画分について再度クロマトグラフィによる精製を行うことにより式(1)で表されるステロイド誘導体を得ることを特徴とする。その有機溶媒としては、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、メタノール及びエタノールから選ばれる単独溶媒又は1若しくは2以上からなる混合溶媒を用いることができる。
本発明のステロイド誘導体は、アポトーシス誘導作用を有し、癌細胞増殖阻害効果を発揮し得る。また、そのステロイド誘導体を有効成分とする本発明のアポトーシス誘導剤及びヒメマツタケ子実体又はその破砕物から有機溶媒により抽出される抽出物からなる本発明のアポトーシス誘導剤は、それぞれアポトーシス誘導効果を有し、アポトーシスの機能を正常化、活発化させることができ、また癌細胞増殖阻害効果を有する。
また、本発明のステロイド誘導体製造方法によれば、本発明のステロイド誘導体を確実に製造することができる。
上記式(1)で表される本発明のステロイド誘導体は、ヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)の子実体又はその破砕物から有機溶媒により抽出される抽出物に含まれる。ヒメマツタケ子実体は、新鮮子実体、乾燥子実体等、何れでもよいが、好ましくは新鮮子実体である。その有機溶媒としては、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、アルコール等の脂溶性のものが好ましく、特にアセトン、クロロホルム、メタノール、エタノールの何れかを単独で又は2以上の混合溶媒として用いることが好ましい。
本発明のステロイド誘導体、すなわち本発明のアポトーシス誘導剤の有効成分(アポトーシス誘導物質)は、低分子の脂質・ステロイド画分であると考えられ、例えば図1の工程図に示されるように製造することができる。
すなわち、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物に有機溶媒を加えて一定時間撹拌することにより(又はその他の手段により)抽出を行い、この有機溶媒抽出物のろ過又は遠心分離等により得られた上清を濃縮し、濃縮物を得る。この濃縮物に有機溶媒を加えて水層と有機溶媒層に分別する。この有機溶媒層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液により洗浄し、次いで1規定塩酸水溶液により洗浄し、更に無水硫酸ナトリウムで脱水する。その後、減圧濃縮により濃縮物を得る。この濃縮物をシリカゲルカラムを通過させてカラム吸着物を得る。次いで、このカラム吸着物を有機溶媒で溶出させて、[1]乃至[4]の画分に分画する。このうち[3]の画分について再度クロマトグラフィによる精製を行うことにより、本発明のステロイド誘導体を得ることができる。
本発明のアポトーシス誘導剤は、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物の有機溶媒抽出物に含まれる本発明のステロイド誘導体を有効成分とするものであり、また、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物から有機溶媒により抽出される抽出物からなるものである。
本発明のアポトーシス誘導剤は、他の成分(例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等)と混合した状態、各種食品に配合した状態、カプセルに内包した状態、錠剤若しくは顆粒剤等とした状態で、食し又は服用し得る。また、他の液体及び必要に応じ添加剤等(例えば安定剤、矯味矯臭剤等)と混合した状態、各種飲料に溶解させた状態で飲用又は服用することもできる。更に、アポトーシス誘導剤として通常採用し得る他の各種剤形において適用可能であることは言うまでもない。
なお、本発明のアポトーシス誘導剤のヒトの服用量は、本発明のステロイド誘導体含有量において例えば5mg乃至50mg/日程度が好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尤も、実施例についての記述は、特許請求の範囲に記載された発明を限定し、或は特許請求の範囲を減縮するように解すべきではない。また、本発明の構成は、下記実施例に記載された内容に限らす、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
実施例1(新規活性ステロイド[本発明のステロイド誘導体]の製造)
ヒメマツタケ新鮮子実体5kgにアセトン10L(リットル)を加え、ミキサーで破砕した後、5時間撹拌した。得られた混合液について、4℃で10分間の遠心分離(遠心加速度:9000×g)を行い、得られた上清(ろ液)を回収した。
その上清を50℃で3時間エバポレーターで減圧濃縮し、得られた濃縮物に酢酸エチル2L(リットル)を加えて5時間撹拌した後、水層を除き、酢酸エチル層を得た。その酢酸エチル層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、次いで1規定塩酸水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、更に減圧濃縮することにより、酢酸エチル層画分より、15.2gの濃縮物が得られた。
本濃縮物をシリカゲルカラム(ワコーゲルC−200,450g 和光純薬社製)を通過させてこのカラムに吸着させ、更にこのカラム吸着物をクロロホルム/メタノール混合溶媒(混合容量比:94:6)で溶出させ、[1]乃至[4]の画分を得た。このうち[3]の画分について再度クロマトグラフィによる精製を行うことにより、450mgの物質を得た。得られた物質をミリポアフィルター(0.22μm)でろ過滅菌して、後記の試験に使用した。
このようにして得られた物質は、エルゴステロールの酸化物と考えられ、下記物性を示した。
比旋光度:
電解離脱質量分析法[FDMS (Field Desorption Mass Spectrometry)]:
m/z 444 [M]
電子衝撃イオン化質量分析法[EIMS (Electron ionization Mass Spectrometry)]:
m/z 426 [M−HO],411 [M−HO−CH,393 [M−2HO−CH
赤外吸収分光法[IR (Infrared Spectrometry)]:
以上のデータより、前記物質は、前記式(1)で表されるβ,5α−Dihydroxy−6β−methoxyergosta−7,22−dieneであって、新規活性ステロイドであることが確認された。
なお、本実施例では、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物中の新規活性ステロイド成分の抽出において、有機溶媒としてクロロホルム/メタノール混合溶媒(混合容量比:94:6)を用いてカラム吸着物の溶出を行った。
次に、実施例1により得られた新規活性ステロイドの癌細胞に対する増殖抑制作用及びアポトーシス誘導作用について、以下の試験I−1及び試験I−2並びに試験II−1及び試験II−2を行なった。
試験I−1及び試験I−2においては、ヒト胃癌患者由来の癌細胞であるヒト胃癌細胞(KAT0 III 細胞)[以下、単に"ヒト胃癌細胞"という]を用いた。
試験II−1及び試験II−2においては、ヒト肺癌細胞(JCRB0080) [Health Science Research Resources Bank (HSRRB), Species; Human(Japanese), Tissue : Lung cancer][以下、単に"ヒト肺癌細胞"という]を用いた。
試験I−1(新規活性ステロイドの癌細胞増殖抑制作用I)
ヒト胃癌細胞を、10%牛胎児血清(Gibeo Laboratories,USA)、ペニシリンG (50 IU/ml)、及びストレプトマイシン(50μg/ml)が含まれたRPMI 1640培地(Sigma, USA)で培養した。
培養されたヒト胃癌細胞を1ml当たり4×10乃至5×10cells含む浮遊液を4つ用意し、次のようにエタノール又は新規活性ステロイドを添加したものを、それぞれ37℃で95%空気−5%CO中に放置して、3日間培養を行なった。
対照サンプルI−1:エタノール濃度が20μl/mlとなるようにヒト胃癌細胞の浮遊液にエタノールを添加したもの
試験サンプルI−2:新規活性ステロイド濃度が25μM/mlとなるようにヒト胃癌細胞の浮遊液に新規活性ステロイドを添加したもの
試験サンプルI−3:新規活性ステロイド濃度が50μM/mlとなるようにヒト胃癌細胞の浮遊液に新規活性ステロイドを添加したもの
試験サンプルI−4:新規活性ステロイド濃度が100μM/mlとなるようにヒト胃癌細胞の浮遊液に新規活性ステロイドを添加したもの
3日間の培養後、対照サンプルI−1及び試験サンプルI−2乃至I−4におけるヒト胃癌細胞数を血球計算板で数え、細胞の増殖抑制率を算出した。結果を図2に示す。
図2に示される通り、対照サンプルI−1及び新規活性ステロイド濃度25μM/mlの試験サンプルI−2では、ヒト胃癌細胞の死滅は認められなかった。しかし、新規活性ステロイド濃度がそれぞれ50μM/ml及び100μM/mlの試験サンプルI−3及びI−4では、何れも、対照に比べてヒト胃癌細胞が大きく減少していることがわかった。特に、新規活性テロイド濃度100μM/mlの試験サンプルI−4では、ヒト胃癌細胞の約75%が死滅した。
以上より、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物の有機溶媒抽出物である新規活性ステロイド[本発明のステロイド誘導体]は、ヒト胃癌細胞に対する増殖抑制作用を有し、新規活性ステロイド濃度を高くすることにより増殖抑制作用の向上を期待することができることがわかった。
試験I−2(新規活性ステロイドのアポトーシス誘導作用I)
次に新規活性ステロイドのヒト胃癌細胞に対するアポトーシス誘導作用について検討した。
試験I−1と同様に調整して同様に3日間培養した対照サンプルI−1並びに試験サンプルI−2乃至I−4について、それぞれ5分間の遠心分離(遠心加速度:3000×g)を行った。遠心分離後、上清を除去して残った細胞を採集し、これをPBS(−)で1回洗浄した。得られた細胞ペレットに細胞融解用バッファーを20μl加え、細胞を融解させた。
次に、融解させた細胞にRNase A(DNA free)[Funakoshi, Japan]溶液を加え、50℃で2.5時間反応させた後、プロテイナーゼK液(Roch, USA)を加え、更に50℃で2.5時間反応させ、DNA断片を抽出した。
得られたDNA抽出液10μlに、ゲルローディング液2乃至3μlを混合し、その混合液を2%アガロ一スゲル板のウエルに添加し、100Vで電気泳動を行った。電気泳動後、ゲルを水に浸し、UVトランスイルミネーターでエチジウムブロマイド蛍光を発するDNAを検出した。検出されたDNAの分布状態を写真撮影し、その写真を模式的に図3に示した。なお、図3中のMはDNA分子量マーカーである。
図3において、DNA分子量マーカーMとの比較により明らかなように、対照サンプルI−1及び試験サンプルI−2ではDNAの断片化は認められなかったが、試験サンプルI−3及びI−4(新規活性ステロイド濃度50乃至100μM/ml)では、図中の矢印で示すようにDNAの断片化が認められた。すなわち、ヒメマツタケの有機溶媒抽出物である新規活性ステロイド[本発明のステロイド誘導体](新規活性ステロイド濃度50μM/ml以上)にヒト胃癌細胞のアポトーシスを誘導する作用があることが確認された。
更に、新規活性ステロイドのヒト胃癌細胞に対するアポトーシス誘導作用を、次のように形態学的に検討した。
図4の写真Aは未処理のヒト胃癌細胞についての写真画像、写真Bは、試験I−1と同様に調整して同様に3日間培養した試験サンプルI−4についての写真画像である。何れについても、1%グルタルアルデヒド(Nacalai tesque, Japan)でヒト胃癌細胞を固定し、ヘキスト33258色素(Nacalai tesque, Japan)で染色した後、フジピクトグラフィー3000とCCDデジタルイメージシステムカメラ(Olympus, Japan)で蛍光写真撮影を行った。
試験サンプルI−4におけるヒト胃癌細胞は、培養開始から約8乃至10時間後にDNAに断片化が起こり、培養開始から3日目にはほぼ完全に死滅した。写真Bにおいて矢印で示される小さな細胞がアポトーシス小体である。
なお、ヒメマツタケ子実体の抗腫瘍活性成分として知られているβ−(1→6)−D−グルカン蛋白複合体、核酸蛋白複合体(伊藤均 ヒメマツタケ(Agaricus blazei)の抗腫瘍効果と生物活性 Biotherapy 14巻 10号 1009-1015頁 2000年)について上記と同様のアポトーシス誘導作用試験を行なったところ、その効果は非常に弱いか、或いは全く誘導作用を示さないことが確認された。
試験II−1(新規活性ステロイドの癌細胞増殖抑制作用II)
ヒト肺癌細胞を、10%牛胎児血清(Gibeo Laboratories,USA)、ペニシリンG (50 IU/ml)、及びストレプトマイシン(50μg/ml)が含まれたRPMI 1640培地(Sigma, USA)で培養した。
培養されたヒト肺癌細胞を1ml当たり4×10乃至5×10cells含む浮遊液を5つ用意し、次のようにエタノール又は新規活性ステロイドを添加したものを、それぞれ37℃で95%空気−5%CO中に放置して、3日間培養を行なった。
対照サンプルII−1:エタノール濃度が20μl/mlとなるようにヒト肺癌細胞の浮遊液にエタノールを添加したもの
試験サンプルII−2:新規活性ステロイド濃度が25μM/mlとなるようにヒト肺癌細胞の浮遊液に新規活性ステロイドを添加したもの
試験サンプルII−3:新規活性ステロイド濃度が50μM/mlとなるようにヒト肺癌細胞の浮遊液に新規活性ステロイドを添加したもの
試験サンプルII−4:新規活性ステロイド濃度が100μM/mlとなるようにヒト肺癌細胞の浮遊液に新規活性ステロイドを添加したもの
試験サンプルII−5:新規活性ステロイド濃度が200μM/mlとなるようにヒト肺癌細胞の浮遊液に新規活性ステロイドを添加したもの
3日間の培養後、対照サンプルII−1及び試験サンプルII−2乃至II−5におけるヒト肺癌細胞数を血球計算板で数え、細胞の増殖抑制率を算出した。結果を図5に示す。
図5に示される通り、対照サンプルII−1及び新規活性ステロイド濃度25μM/mlの試験サンプルII−2では、ヒト肺癌細胞の死滅は認められなかった。しかし、新規活性ステロイド濃度が50μM/mlの試験サンプルII−3、100μM/mlの試験サンプルII−4、及び200μM/mlの試験サンプルII−5の場合、それぞれ35%、68%及び83%のヒト肺癌細胞の死滅が認められ、何れも、対照に比べてヒト肺癌細胞が大きく減少していることがわかった。
以上より、ヒメマツタケ子実体又はその破砕物の有機溶媒抽出物である新規活性ステロイド[本発明のステロイド誘導体]は、ヒト肺癌細胞に対する増殖抑制作用を有し、新規活性ステロイド濃度を高くすることにより増殖抑制作用の向上を期待することができることがわかった。
試験II−2(新規活性ステロイドのアポトーシス誘導作用II)
次に新規活性ステロイドのヒト肺癌細胞に対するアポトーシス誘導作用について検討した。
試験II−1と同様に調整して同様に3日間培養した対照サンプルII−1並びに試験サンプルII−2乃至II−5について、それぞれ5分間の遠心分離(遠心加速度:3000×g)を行った。遠心分離後、上清を除去して残った細胞を採集し、これをPBS(−)[Sigma, USA]で1回洗浄した。得られた細胞ペレットに細胞融解用バッファーを20μl加え、細胞を融解させた。
次に、融解させた細胞にRNase A溶液(DNA free)[Funakoshi, Japan]を加え、50℃で2.5時間反応させた後、プロテイナーゼK液(Roch, USA)を加え、更に50℃で2.5時間反応させ、DNA断片を抽出した。
得られたDNA抽出液10μlに、ゲルローディング液2乃至3μlを混合し、その混合液を2%アガロ一スゲル板のウエルに添加し、100Vで電気泳動を行った。電気泳動後、ゲルを水に浸し、UVトランスイルミネーターでエチジウムブロマイド蛍光を発するDNAを検出した。検出されたDNAの分布状態を写真撮影し、その写真を模式的に図6に示した。なお、図6中のMはDNA分子量マーカーである。
図6において、DNA分子量マーカーMとの比較により明らかなように、対照サンプルII−1及び試験サンプルII−2ではDNAの断片化は認められなかったが、試験サンプルII−3乃至II−5(新規活性ステロイド濃度50乃至200μM/ml)では、図中の矢印で示すようにDNAの断片化が認められた。すなわち、ヒメマツタケの有機溶媒抽出物である新規活性ステロイド[本発明のステロイド誘導体](新規活性ステロイド濃度50μM/ml以上)にヒト肺癌細胞のアポトーシスを誘導する作用があることが確認された。
更に、新規活性ステロイドのヒト肺癌細胞に対するアポトーシス誘導作用を、次のように形態学的に検討した。
図7の写真Aは未処理のヒト肺癌細胞についての写真画像、写真Bは、試験II−1と同様に調整して同様に3日間培養した試験サンプルII−4(新規活性ステロイド濃度100μM/ml)についての写真画像である。何れについても、1%グルタルアルデヒド(Nacalai tesque, Japan)でヒト肺癌細胞を固定し、ヘキスト33258色素(Nacalai tesque, Japan)で染色した後、フジピクトグラフィー3000とCCDデジタルイメージシステムカメラ(Olympus, Japan)で蛍光写真撮影を行った。
試験サンプルII−4におけるヒト肺癌細胞は、培養開始から約8乃至10時間後にDNAに断片化が起こり、培養開始から3日目にはほぼ完全に死滅した。写真Bにおいて矢印で示される小さな細胞がアポトーシス小体である。
本発明の一実施例についての概略工程図である。 試験I−1のヒト胃癌細胞増殖抑制効果を比較するグラフである。 試験I−2のヒト胃癌細胞のDNA分布状態を比較する模式図である。 ヒト胃癌細胞の形態写真である。 試験II−1のヒト肺癌細胞増殖抑制効果を比較するグラフである。 試験II−2のヒト肺癌細胞のDNA分布状態を比較する模式図である。 ヒト肺癌細胞の形態写真である。

Claims (1)

  1. 式(1)で表されるステロイド誘導体を有効成分とする、ヒト胃癌細胞又はヒト肺癌細胞のアポトーシスを誘導するアポトーシス誘導剤
    ....(1)
    [式(1)中、
    はHを示し、
    は、
    を示す。]
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