JP5158211B2 - パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

本発明は、ステアリングに付与する付加摩擦トルクを制御するパワーステアリング装置に関する。
この種の技術が、例えば特許文献1に提案されている。特許文献1には、低速走行時にはステアリングの戻り特性を良好にし、高速走行時にはステアリングの収斂性を良好にするために、操舵角や車速に応じた摩擦トルクをステアリングに付与する技術が提案されている。
特開2002−104210号公報
ところで、車両の荷重状態に起因して操舵の手応えが変化する場合がある。例えば、積載量が多い車両では、積載量が少ない場合と比べて操舵が重くなる傾向がある。その他、前輪よりも後輪の荷重が重い場合や車両の左右の荷重差などの荷重状態によっても操舵感は変化する。従って、車両の荷重状態によっては、操舵角や車速に基づき算出した付加摩擦トルクが最適ではない可能性がある。上述した特許文献1には、このような問題点やその解決手段については記載されていない。
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ステアリングに付与する付加摩擦トルクの制御を、車両の荷重状態を考慮して適切に実行することが可能なパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
本発明の1つの観点では、車両に搭載されるパワーステアリング装置であって、車両状態を表す情報に基づいて、ステアリングに付与すべき摩擦トルクを設定する摩擦トルク設定手段と、前記摩擦トルクに基づいて目標操舵角を設定する目標操舵角設定手段と、前記目標操舵角と実操舵角との偏差に基づいて、付加摩擦トルクを定め、ステアリングに前記付加摩擦トルクを付与する制御を行うトルク付与手段と、前記車両の荷重状態に基づき前記付加摩擦トルクを変更する付加摩擦トルク変更手段を備える。
上記のパワーステアリング装置は、車両に搭載され、摩擦トルク設定手段と、目標操舵角設定手段と、トルク付与手段と、付加摩擦トルク変更手段と、を備える。トルク付与手段は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)であり、ステアリングに付与すべき付加摩擦トルクを設定し、付加摩擦トルクを付与する制御を行う。付加摩擦トルク変更手段は、例えばECUであり、実操舵角及び目標操舵角に基づいて算出した付加摩擦トルクをさらに車両の荷重状態に基づき変更する。このようにすることで、パワーステアリング装置は、車両の荷重状態を考慮した適切な付加摩擦トルクをステアリングに付与することができ、車両の荷重状態に起因して操舵感が変化するのを防ぐことができる。
上記のパワーステアリング装置の一態様では、前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の全体荷重が大きいときは、前記全体荷重が小さいときに比べて、前記付加摩擦トルクを小さくする。一般的に、車両の全体荷重が大きいときは、全体荷重が小さいときに比べ、操舵が重くなる。従って、この態様では、パワーステアリング装置は、ステアリングに対し、適切な付加摩擦トルクを付与することができる。
上記のパワーステアリング装置の他の一態様では、前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の後輪荷重配分が大きいときは、前記後輪荷重配分が小さいときに比べて、前記付加摩擦トルクを大きくする。後輪荷重配分が大きい場合、後輪荷重配分が小さい場合に比べて操舵が不安定になり、即ち、保舵性が弱まり、車両が不安定になる可能性がある。従って、この態様では、付加摩擦トルク変更手段は、後輪荷重配分が大きい場合には付加摩擦トルクを大きくすることで、操舵を適切に調整し、車両の安定を実現する。
上記のパワーステアリング装置の他の一態様では、前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の左右の荷重差が大きいときは、前記左右の荷重差が小さいときに比べて、前記付加摩擦トルクを大きくする。前記車両の左右の荷重差が大きいときは、前記左右の荷重差が小さいときに比べて、保舵がしにくくなり、車両が不安定になる可能性がある。従って、この態様では、付加摩擦トルク変更手段は、車両の左右の荷重差が大きいときは付加摩擦トルクを大きくすることで、操舵を適切に調整し、車両の安定を実現する。
上記のパワーステアリング装置の他の一態様では、前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の加減速状態に基づき前記付加摩擦トルクを変更する。車両の加減速状態によって、車両の荷重状態が変化する。従って、この態様では、パワーステアリング装置は、ステアリングに対し、車両の加減速状態に基づき、適切な摩擦トルクを付与する。
上記のパワーステアリング装置の好適な例では、前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両が加速している場合、前記付加摩擦トルクを大きくする。この態様では、付加摩擦トルク制御手段は、加速時には車両の前輪荷重が減ることから、付加摩擦トルクを大きくする。これにより、パワーステアリング装置は、保舵性を高め、車両を安定させることができる。
本実施形態に係るパワーステアリング装置が適用された操舵制御システムの概略構成図を示す。 摩擦トルクを求める方法の一例を示す。 付加摩擦トルクの特性の一例を示す。 付加摩擦トルクの特性を可視的なモデルで表すイメージ図である。 第1実施形態における制御処理を示すフローチャートである。 第2実施形態における制御処理を示すフローチャートである。 第3実施形態における制御処理を示すフローチャートである。
符号の説明
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 操舵角センサ
4 操舵トルクセンサ
5 ピニオン
6 ステアリングラック
7 モータ
8 モータ回転角センサ
12 車輪
15 車速センサ
16 サスペンションストロークセンサ
30 コントローラ
50 操舵制御システム
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
[装置構成]
まず、本実施形態に係るパワーステアリング装置が適用されたシステム(以下、「操舵制御システム」と呼ぶ。)50の全体構成について説明する。図1は、操舵制御システム50の構成を示す概略図である。
操舵制御システム50は、主に、ステアリングホイール1と、ステアリングシャフト2と、操舵角センサ3と、操舵トルクセンサ4と、ピニオン5と、ステアリングラック6と、モータ7と、モータ回転角センサ8と、タイロッド10R、10Lと、ナックルアーム11R、11Lと、車輪(前輪)12FR、12FLと、車速センサ15と、サスペンションストロークセンサ16と、コントローラ30と、を備える。なお、以下では、タイロッド10R、10L、ナックルアーム11R、11L、及び車輪12FR、12FLの符号の末尾に付した「R」、「L」は、これらを区別しないで用いる場合には、省略するものとする。また、車輪12FR、12FLに対応する後輪(不図示)を、以後、車輪12RR、12RLと表現する。
操舵制御システム50は、電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)システムによって構成される。具体的には、操舵制御システム50は、車両に搭載され、ステアリングホイール1の操作などに応じて車輪12F(転舵輪)を転舵させる制御を行うシステムである。
ステアリングホイール1は、運転者により車両を旋回等させるために操作される。ステアリングホイール1は、ステアリングシャフト2を介して、ピニオン5に接続される。ステアリングシャフト2には、主に、操舵角センサ3及び操舵トルクセンサ4が設けられている。なお、以下では、ステアリングホイール1のことを単に「ステアリング」とも表記する。
ピニオン5は、ステアリングシャフト2の回転に応じて回転可能に構成され、ステアリングラック6は、ピニオン5の回転に応じて移動可能に構成されている。ステアリングラック6にはタイロッド10を介してナックルアーム11が連結されており、ナックルアーム11には車輪12Fが連結されている。この場合、ステアリングラック6によってタイロッド10及びナックルアーム11が動作されることにより、ナックルアーム11に連結された車輪12Fが転舵されることとなる。
モータ7は、例えば3相交流モータなどで構成され、ステアリングギヤボックス(不図示)内にステアリングラック6と同軸に設けられている。モータ7は、ステアリングラック6の移動をアシストするような力、若しくはステアリングラック6の移動を阻害するような力を付与することが可能に構成されている。具体的には、モータ7は、操舵感や操舵安定性などを向上させるために、運転者による操舵方向にアシストトルクを付与する。これに対して、モータ7は、保舵性能などを向上させるために、運転者による操舵方向と反対方向に付加摩擦トルクを付与する(つまり操舵反力を付与する)。モータ7は、コントローラ30から供給される制御信号S7によって制御される。
操舵制御システム50内に設けられた各種センサは、以下のように機能する。操舵角センサ3は、運転者によるステアリングホイール1の操作に対応する操舵角(実操舵角に対応する)を検出し、検出した操舵角に対応する検出信号S3をコントローラ30に供給する。操舵トルクセンサ4は、運転者によって入力された操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクに対応する検出信号S4をコントローラ30に供給する。モータ回転角センサ8は、モータ7の回転角を検出し、検出した回転角に対応する検出信号S8をコントローラ30に供給する。車速センサ15は、車速を検出し(例えば車輪速度を検出する)、検出した車速に対応する検出信号S15をコントローラ30に供給する。
また、サスペンションストロークセンサ16は、各車輪12FR、12FL、12RR、12RLに備えられた図示しないサスペンションの伸縮状態、即ちサスペンションのストローク量(以後、単に、「ストローク量」と呼ぶ。)を計測するセンサである。サスペンションストロークセンサ16は、検出信号S16をコントローラ30へ供給する。サスペンションストロークセンサ16は、例えば車輪12FR、12FL、12RR、12RLごとに備えられる。以後、車輪12FRに対応するサスペンションのストローク量をストローク量FR、車輪12FLに対応するサスペンションのストローク量をストローク量FL、車輪12RRに対応するサスペンションのストローク量をストローク量RR、車輪12RLに対応するサスペンションのストローク量をストローク量RLと呼ぶ。
コントローラ30は、図示しないCPU、ROM、RAM、及びA/D変換器などを含んで構成される。コントローラ30は、上記した各種センサから供給される検出信号S3、S4、S8、S15、S16などに基づいて、モータ7に制御信号S7を供給することで、モータ7に対する制御を行う。本実施形態では、コントローラ30は、モータ7からステアリングに対して付加摩擦トルクを付与させるための制御(以下、「摩擦付与制御」と呼ぶ。)を行う。このように、コントローラ30は、本発明におけるパワーステアリング装置として機能する。なお、コントローラ30は、車両内の制御を行うECUにより実現されても良い。
[摩擦付与制御の例]
次に、コントローラ30が行う摩擦付与制御の一例について説明する。まず、コントローラ30は、操舵角(以下、「θ」と表記する。)及び車速(以下、「V」と表記する。)に基づいて、ステアリングに付与すべき摩擦トルク(以下、「Tt」と表記する。)を求める。次に、コントローラ30は、操舵角θ及び摩擦トルクTtに基づいて目標操舵角(以下、「θt」と表記する。)を求める。次に、コントローラ30は、目標操舵角θtと操舵角θとの偏差(以下、「Δθ」と表記する。)に基づいて、付加摩擦トルク(以下、「Tc」と表記する。)を求める。即ち、コントローラ30は、目標操舵角θtなどに基づいて摩擦トルクTtを補正し、補正後の摩擦トルクを付加摩擦トルクTcとする。そして、コントローラ30は、このように求められた付加摩擦トルクTcがステアリングに付与されるように、モータ7に対する制御を行う。
ここで、図2乃至図4を参照して、摩擦付与制御を具体的に説明する。
図2は、摩擦トルクTtを求める方法の一例を示した図である。図2は、横軸に操舵角θを示し、縦軸に摩擦トルクTtを示している。より具体的には、図2は、車速Vに応じて、操舵角θに対して設定すべき摩擦トルクTtが規定されたマップに相当する。ここでは、一例として、高速域V2、中速域V1、及び低速域V0のそれぞれに対応するマップを示している。コントローラ30は、このようなマップを参照することで、現在の操舵角θ及び車速Vに対応する摩擦トルクTtを求める。
図2に示すマップによれば、同一の操舵角θの場合、車速が大きいほど、大きな値を有する摩擦トルクTtが設定されることとなる。これは、高速域V2や中速域V1では、直進安定性向上や、操舵保持時の保舵力低減・安定性向上を図る観点から、ある程度の摩擦トルクを発生することが好ましい一方、低速域V0では、摩擦トルクが大きいと運転者に違和感を与え、操舵感が悪化する場合があるからである。また、図2に示すマップによれば、車速が同一である又は同一の車速域にある場合、操舵角θが大きいほど、大きな値を有する摩擦トルクTtが設定されることとなる。これは、操舵角θが大きい場合は車輪の転舵角が大きくなるため、大きな横力が発生し易く、操舵保舵時の保舵力低減・安定性向上を図る観点から、より大きな摩擦トルクが必要となるからである。
次に、上記のように求められた摩擦トルクTtから、目標操舵角θtを求める方法について説明する。コントローラ30は、目標操舵角θtと操舵角θとの偏差Δθ(=θt−θ)、及び、摩擦トルクTt及びゲインKによって規定された偏差上限値Δ(=Tt/K)に基づいて、目標操舵角θtを求める。詳しくは、コントローラ30は、まず目標操舵角θtをθに初期化した後に(初期化済みであれば初期化しない)、偏差Δθ(=θt−θ)を求め、「Δθ>Δ」である場合には目標操舵角θtを「θt=θ+Δ」に変更し、「Δθ<−Δ」である場合には目標操舵角θtを「θt=θ−Δ」に変更し、「−Δ≦Δθ≦Δ」である場合には目標操舵角θtを変更しない。なお、ゲインKは、例えばステアリング系の剛性などを考慮して決定される値である。
次に、上記のように求められた目標操舵角θtから付加摩擦トルクTcを求める方法について説明する。コントローラ30は、目標操舵角θtより得られる偏差Δθ(=θt−θ)、及びゲインK(=Tt/Δ)から、付加摩擦トルクTcを求める。具体的には、コントローラ30は、「Tc=K・Δθ」、即ち「Tc=K(θt−θ)」より、付加摩擦トルクTcを求める。
図3は、付加摩擦トルクTcの特性の一例を示す図である。図3は、横軸に操舵角θを示し、縦軸に付加摩擦トルクTcを示している(左回りのトルクの方向を正とし、右回りのトルクの方向を負としている)。ここでは、摩擦トルクTtが「Tt」の場合と「Tt」の場合(Tt<Tt)とを一例として示している。例えば、車速が高速域V2若しくは中速域V1である場合における摩擦トルクTtと、車速が低速域V0である場合における摩擦トルクTtとを示している(図2参照)。また、図3では、「Tt」及び「Tt」のいずれの場合も、理解の容易化のため、便宜上、目標操舵角θtが同一で、操舵角θの変化に応じて変化しないものとする。なお、目標操舵角θtが変化した場合には、それに応じてグラフが新たな目標操舵角θtを中心として横軸方向に平行移動するだけである。
図3に示すように、偏差上限値Δは、「Δ=Tt/K」であることから、摩擦トルクTtが大きいほど大きくなる(例えば、「Tt」の場合の偏差上限値Δは「Tt」の場合の偏差上限値Δよりも大きい)。また、「−Δ≦Δθ≦Δ」の範囲では、目標操舵角θtが変更されずに維持され、「Tc=K・Δθ」、即ち「Tc=K(θt−θ)」より、付加摩擦トルクTcの大きさはΔθに比例して増加する。そして、「Δθ>Δ」及び「Δθ<−Δ」の範囲では、目標操舵角θtが上述したように変更されてΔθの大きさが一定となるので、「Tc=K・Δθ」、即ち「Tc=K(θt−θ)」より、付加摩擦トルクTcの大きさは摩擦トルクTtに応じた一定値となる。この場合、「−Δ≦Δθ≦Δ」の範囲では、ステアリングホイール1に付与されるべき摩擦トルクTtは、実際にはステアリングホイール1には付与されず、Δθの絶対値が偏差上限値Δ以上となって初めて、付加摩擦トルクTcの大きさが、ステアリングホイール1に付与されるべき摩擦トルクTtの大きさに設定されることとなる。「−Δ≦Δθ≦Δ」の範囲で摩擦トルクTtを付与しないのは、摩擦トルクが過敏に振動し易くなり、操舵感が悪化してしまうことを抑制するためである。
図4は、付加摩擦トルクTcの特性を可視的なモデルで表すイメージ図である。図4(A)は、「−Δ≦Δθ≦Δ」の範囲に相当するイメージ図である。この場合には、目標操舵角θtは変化せず、力T(例えば車輪への入力に起因して発生する外力)に対して釣り合うような力、即ちバネ定数K(=ゲインK)のバネが変位量(θt−θ)で変位したときの弾性力(=K・Δθ)が生成される。図4(B)は、「Δθ>Δ」及び「Δθ<−Δ」の範囲に相当するイメージ図である。この場合には、目標操舵角θtは力Tを受ける方向に変化し、力Tに対向する方向に一定の摩擦力Tt’(<力T)が生成される。なお、摩擦力Tt’は、摩擦力Ttを力に変換した値に相当する。
以下の第1実施形態乃至第3実施形態では、さらに車両の荷重状態を考慮し、上述の付加摩擦トルクTcをより適切な値に変更する方法について説明する。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態における付加摩擦付与トルクTcの変更方法について説明する。第1実施形態では、コントローラ30は、検出したストローク量FL、FR、RL、RRから推定した車両全体の荷重と後輪の荷重配分との少なくとも一方に基づき、付加摩擦トルクTcを変更する。これにより、コントローラ30は、車両の荷重状態を考慮した付加摩擦付与トルクTcを設定し、車両の荷重状態に適した操舵感を実現する。
まず、本実施形態において、コントローラ30は、検出したストローク量FL、FR、RL、RRから車両の荷重状態を推定する。以後、この推定方法の一例を説明する。コントローラ30は、例えば、事前の実験等により、車輪に掛かる荷重とそのサスペンションのストローク量とのマップ又は式を作成し、予めメモリに保持しておく。そして、コントローラ30は、検出したストローク量FL、FR、RL、RRから上述のマップ等を参照することで車輪12FR、12FL、12RR、12RLに掛かる荷重を推定する。以後、前輪12FRと前輪12FLとに掛かる荷重の和を「前輪荷重Wf」と呼び、後輪12RRと後輪12RLとに掛かる荷重の和を「後輪荷重Wr」と呼ぶ。さらに、車輪12FR、12FL、12RR、12RLに掛かる荷重の和を「全体荷重W」と呼ぶ。
次に、コントローラ30は、推定した荷重状態に基づき、付加摩擦トルクTcを変更する。具体的には、コントローラ30は、例えば摩擦付与制御の例に示すように付加摩擦トルクTcを算出後、さらに前輪荷重Wfと後輪荷重Wrとに基づき付加摩擦トルクTcを変更する。以後、コントローラ30が行う付加摩擦トルクTcの具体的な3つの変更方法(以後、説明の便宜上、「第1の方法」、「第2の方法」、「第3の方法」と呼ぶ。)を説明する。なお、第3の方法は、第1の方法と第2の方法とを組み合わせたものである。
(第1の方法)
まず、第1の方法について説明する。第1の方法として、コントローラ30は、全体荷重Wが大きいと判断した場合には、操舵が重くなるのを補償するため、付加摩擦トルクTcを減らす。車両の積載量が重い場合、操舵性が悪化する。従って、コントローラ30は、例えば、全体荷重Wが所定の基準値W0(以後、「基準全体荷重W0」と呼ぶ。)より大きい場合には、付加摩擦トルクTcを減らす。ここで、基準全体荷重W0は、例えば、車種ごとに想定される標準の荷重、または無積載の場合の車両の荷重、若しくは実験等により付加摩擦トルクTcを変更する必要がないと判断された車両の荷重に設定される。
より具体的には、コントローラ30は、基準全体荷重W0と全体荷重Wとの比率に応じて付加摩擦トルクTcを減らす。例えば、車両の荷重状態に基づき変更した後の付加摩擦トルク(以後、「付加摩擦トルクTcn」と呼ぶ。)は、補正量「H」を用いて式(1)、(2)で表される。
Figure 0005158211
Figure 0005158211
このように付加摩擦トルクTcnが設定されることで、全体荷重Wが標準荷重W0より大きい場合には、補正量Hは1より小さくなり、付加摩擦トルクTcnも小さくなる。従って、コントローラ30は、荷重状態に起因した操舵性の悪化を防ぐことができる。
(第2の方法)
次に、第2の方法について説明する。第2の方法として、コントローラ30は、前輪荷重Wfに対し後輪荷重Wrが大きいと判断した場合、即ち、全体荷重Wに対する後輪荷重Wrの配分(以後、「後輪荷重配分」と呼ぶ。)が大きいと判断した場合、付加摩擦トルクTcを大きくする。一般に、後輪荷重配分が大きい場合、前輪荷重Wfと後輪荷重Wrとが均衡している場合と比べ、保舵性が弱まり車両が不安定になる。従って、第2の方法では、コントローラ30は、付加摩擦トルクTcを大きくすることで、保舵性を高め、車両の安定性を確保する。
具体的には、後輪荷重配分の比率を「Ar」、基準となる後輪荷重Wrの配分(以後、「後輪基準配分」と呼ぶ。)の比率を「Ar0」とすると、コントローラ30は補正量Hを式(3)のように決定する。
Figure 0005158211
なお、比率Arは以下の式(4)で表される。
Figure 0005158211
また、比率Ar0は、以下の式(5)で表される。
Figure 0005158211
ここで、「Wf0」は、基準となる前輪の荷重を表し、「Wr0」は、基準となる後輪の荷重を示す。従って、荷重Wf0と荷重Wr0との和は、基準全体荷重W0に相当する。ここで、後輪基準配分の比率Ar0は、例えば、車種ごとに想定される標準の後輪荷重配分の比率、または無乗車の場合の後輪荷重配分の比率、若しくは実験等により付加摩擦トルクTcを変更する必要と判断された後輪荷重配分の比率に設定される。これにより、後輪荷重配分Arが大きい場合には、後輪荷重配分Arが小さい場合に比べ、補正量Hは大きくなり、付加摩擦トルクTcnも大きくなる。従って、コントローラ30は、後輪荷重配分が大きい場合であっても、保舵性を高め、車両を安定させることができる。
なお、コントローラ30は、第1の方法と第2の方法とを例えば車種ごとに使い分けてもよい。具体的には、車両がスポーツ車などの操舵性を重視し、後輪荷重Wrが比較的小さい車両の場合、コントローラ30は、第1の方法を適用する。一方、一般車両のように後部座席がある車両や車両後部に積載物が詰まれる可能性がある車両には、コントローラ30は、第2の方法を適用する。また、コントローラ30は、後述する第3の方法に示すように、第1の方法と第2の方法とを組み合わせて適用してもよい。
(第3の方法)
次に、第3の方法について説明する。第3の方法では、コントローラ30は、全体荷重Wが大きい場合には付加摩擦トルクTcを減らすとともに、後輪荷重配分が大きい場合には付加摩擦トルクTcを増やす。
第3の方法における補正量Hの決定方法の一例を以下に示す。ここでは、コントローラ30は、第1の方法で使用した式(2)に示す補正量Hの算出式と、第2の方法で使用した式(4)に示す後輪荷重配分Arの算出式とを加味した正規化前補正量「H1」をまず算出する。そして、コントローラ30は、車両の全体荷重Wが基準全体荷重W0で、かつ後輪荷重配分の比率Arが後輪基準配分Ar0の場合に、補正量Hが1になるように、正規化前補正量H1を正規化する。即ち、コントローラ30は、初期補正量「H0」を設定し、正規化前補正量H1を初期補正量H0で除することで、補正量Hを算出する。より具体的には、式(2)に対する重み付け係数を「G1」、式(4)に対する重み付け係数を「G2」とすると、正規化前補正量H1、初期補正量H0、及び補正量Hはそれぞれ式(6−1)乃至(6−3)により表される。
Figure 0005158211
式(6−1)乃至式(6−3)では、重み付け係数G1を重み付け係数G2に対し相対的に大きくすることで、操舵性が重視される。即ち、この場合、第1の方法で算出した補正量Hに近い値に補正量Hが設定される。一方、重み付け係数G2を重み付け係数G1に対し相対的に大きく設定することで、保舵性が高まり車両の安全性がより重視される。即ち、この場合、第2の方法で算出した補正量Hに近い値に補正量Hが設定される。重み付け係数G1、G2は、例えば実験等により適用する車種ごとに適切な値に設定される。また、初期補正量H0は、正規化前補正量H1の式(6−1)に対し、前輪荷重Wfを荷重Wf0、後輪荷重Wrを荷重Wr0に置換した場合に得られる値である。式(6−3)に示すように、正規化前補正量H1を初期補正量H0で除した値を補正量Hとすることで、補正量Hは、前輪荷重Wfが荷重Wf0、後輪荷重Wrが荷重Wr0のときには1になるように、即ち、付加摩擦トルクTcを変更しない値に設定される。以上のように、第3の方法により、コントローラ30は、操舵性の観点と車両の安全性の観点とを両方を加味した補正量Hを設定することができる。
(坂道でのストローク量補正方法)
次に、坂道でストローク量を検出した場合のストローク量の補正方法について説明する。一般に、車両が同一の積載量であっても、平坦な道で得られるストローク量と坂道で得られるストローク量とは異なる。例えば、実際には前輪荷重Wfと後輪荷重Wrとが同一の車両であっても、上り坂に向かって車両が停止した状態でストローク量を検出した場合には、後輪荷重Wrが前輪荷重Wfより大きい。即ち、この場合、後輪荷重Wrが前輪荷重Wfより大きいことを示すように、ストローク量が検出される。従って、コントローラ30は、坂道でストローク量を検出した場合には、正確な荷重状態を把握するため、平坦な道(即ち、勾配が0)でのストローク量に補正する必要がある。
そこで、コントローラ30は、車両が坂道でストローク量を取得した場合には、検出したストローク量FR、FL、RR、RLをその坂道の勾配に応じて補正する。この補正方法について以下に例示する。まず、坂道で検出したストローク量と平坦な道で検出したストローク量とのマップ(対応表)を、坂道の勾配ごとに予め実験等により作成しておく。そして、コントローラ30は、上述のマップをメモリに保持しておく。そして、コントローラ30は、取得したストローク量FR、FL、RR、RLと坂道の勾配とに基づき、上述のマップを参照して、平坦な道で検出した場合のストローク量に補正する。また、コントローラ30は、例えば、図示しない車両のGセンサ、即ち、勾配車両加速度センサ又は加速度センサから得られる車両の加速度成分と実際の車両の加速度との差から道路勾配、即ち坂道の勾配を算出する。
(処理フロー)
次に、第1実施形態における処理の手順について説明する。図5は、第1実施形態におけるコントローラ30の制御の一例を示すフローチャートである。以下では、上述の第3の方法を代表例として説明する。この処理はコントローラ30により、例えば所定の周期ごとに繰り返し実行される。
まず、コントローラ30は、車両が停止しているか否かについて判定する(ステップS101)。そして、停止中ではないと判断した場合(ステップS101;No)、コントローラ30は、フローチャートの処理を終了する。
一方、車両が停止中であると判定した場合(ステップS101;Yes)、コントローラ30は、車輪12FR、12FL、12RR、12RLのストローク量を読み込む(ステップS102)。具体的には、コントローラ30は、サスペンションストロークセンサ16からストローク量FR、FL、RR、RLを取得する。
次に、コントローラ30は、車両が坂道に停止しているか否かについて判定する(ステップS103)。具体的には、コントローラ30は、図示しないGセンサの検出値に基づき坂道であるか否か判定するとともに、坂道の場合にはその勾配をさらに算出する。
そして、坂道であると判定した場合(ステップS103;Yes)、コントローラ30はステップ102で取得したストローク量の坂道補正を行う(ステップS104)。具体的には、上述したように、コントローラ30は、坂道の勾配に基づき、検出したストローク量FR、FL、RR、RLを、平坦な道で検出した場合に相当するストローク量に補正する。
そして、コントローラ30は、車両の荷重状態を推定する(ステップS105)。即ち、コントローラ30は、ステップS102で取得したストローク量FR、FL、RR、RLまたはステップS104で補正したストローク量に基づき、前輪荷重Wf、後輪荷重Wr、及び全体荷重W(=Wf+Wr)を算出する。
次に、コントローラ30は、車両の荷重状態に基づき補正量Hを算出する(ステップS106)。具体的には、コントローラ30は、全体荷重Wが大きいほど正規化前補正量H1を減らすとともに、後輪荷重配分Ar(式(4)参照。)が大きくなるほど正規化前補正量H1を増やす。これらの正規化前補正量H1の増減は、重み付け係数G1、G2に応じて重み付けされる。また、コントローラ30は、正規化前補正量H1を初期補正量Hで除して補正量Hを算出する。
そして、コントローラ30は、付加摩擦トルクTcを変更する(ステップS107)。具体的には、車両の走行中に、コントローラ30は、操舵角θと目標操舵角θtとに基づき付加摩擦トルクTcを算出し、算出した付加摩擦トルクTcに対し補正量Hを乗ずる。これにより、コントローラ30は、車両の荷重状態に基づき操舵性や車両の安定性を考慮した付加摩擦トルクTcnを算出することができる。
なお、図5では、コントローラ30は、第3の方法により補正量Hを算出したが、これに代えて第1の方法で補正量Hを算出する場合、ステップS106では式(2)により補正量Hを算出する。また、第2の方法で補正量Hを算出する場合には、コントローラ30は、式(3)により補正量Hを算出する。
(変形例)
なお、上述第1の方法乃至第3の方法の説明では、補正量Hを付加摩擦トルクTcに乗じたが本発明はこれに限定されない。例えば、これに代えて、コントローラ30は、所定の定数に対し補正量Hを乗じた値を付加摩擦トルクTcから減算してもよい。その他、補正量Hと付加摩擦トルクTcとをパラメータとする任意の式により付加摩擦トルクTcnを算出してもよい。いずれの場合であっても、コントローラ30は、補正量Hが1より大きい場合には付加摩擦トルクTcを増やし、補正量Hが1より小さい場合には付加摩擦トルクTcを減らす。また、補正量Hは、摩擦付与制御の例で示したゲインKのパラメータであってもよい。例えばこの場合、ゲインKは補正量Hと定数「K1」との積(K=H×K1)で表され、定数K1は例えば車両の荷重状態以外、例えばステアリングの剛性などを考慮して決定される。以上の変形例は、以後の第2実施形態及び第3実施形態にも適用される。
同様に、補正量Hの算出方法は、上述の式に限定されない。例えば、第1の方法では、コントローラ30は、これに代えて、基準全体荷重W0と全体荷重Wとの比率(W0/W)をパラメータとする式により補正量Hを算出してもよい。その他、例えば、コントローラ30は、第1の方法で、基準全体荷重W0と全体荷重Wとの差分(W−W0)に基づき補正量Hを設定してもよい。この場合、全体荷重Wが基準全体荷重W0よりも大きい場合のみ付加摩擦トルクTcを変更する。第2の方法、第3の方法、及び後述する第2実施形態の説明においても、これと同様の式の変形が可能である。例えば、第3の方法では、コントローラ30は、式(6−1)乃至式(6−3)により得られた補正量Hを付加摩擦トルクTcに乗じるのに代えて、式(2)により得られた補正量Hと式(3)により得られた補正量Hとをそれぞれ付加摩擦トルクTcに乗じてもよい。
[第2実施形態]
第1実施形態では、コントローラ30は、全体荷重Wと後輪荷重配分との少なくとも一方に基づき、即ち第1の方法、第2の方法、または第3の方法により補正量Hを算出し、付加摩擦トルクTcを変更した。これに対し、第2実施形態では、これに代えて、またはこれに加えて、車両の左右で荷重の配分が異なるか否か判定し、車両の左右で荷重の配分が異なる場合には、付加摩擦トルクTcを増やす。これにより、コントローラ30は、より車両の安定性を高める。
まず、説明の便宜上、車両の左右の荷重配分のみを考慮した場合の補正量Hの算出方法について説明する。なお、後述するフローチャートの説明において、第1実施形態と組み合わせた場合のコントローラ30の処理の手順について説明する。
コントローラ30は、図1で車両の右側に配置された前輪12FRと後輪12RRとに掛かる荷重の和(以後、「右輪荷重Wrh」と呼ぶ。)を取得するとともに、図1で車両の左側に配置された前輪12FLと後輪12RLとに掛かる荷重の和(以後、「左輪荷重Wlh」と呼ぶ。)を取得する。そして、コントローラ30は、右輪荷重Wrhと左輪荷重Wlhとの差、即ち車両の左右の荷重差が大きい場合、付加摩擦トルクTcを増やす。具体的には、コントローラ30は、例えば、右輪荷重Wrhが左輪荷重Wlhより大きい場合には、補正量Hを式(7)に示すように設定する。
Figure 0005158211
一方、右輪荷重Wrhが左輪荷重Wlhより大きい場合には、補正量Hを式(7)の分子と分母を逆にして計算する。このようにすることで、補正量Hは必ず1以上になり、右輪荷重Wrhと左輪荷重Wlhとの差が大きいほど補正量Hが大きくなる。即ち、コントローラ30は、右輪荷重Wrhと左輪荷重Wlhとの差が大きいほど付加摩擦トルクTcを増やす。一般に、右輪荷重Wrhと左輪荷重Wlhとの差が大きい場合には、保舵性が悪化し、車両が不安定になる可能性がある。従って、コントローラ30は、右輪荷重Wrhと左輪荷重Wlhとの差が大きい場合、付加摩擦トルクTcを増やすことで、操舵を安定させ、車両を安定させることができる。
(処理フロー)
次に、第2実施形態における処理の手順ついて説明する。図6は、第2実施形態においてコントローラ30が実行するフローチャートの一例である。なお、ステップS201乃至ステップS204までの処理はステップS101乃至S104と同一であるため、説明を省略する。また、ここでは、右輪荷重Wrhが左輪荷重Wlh以上の場合について説明する。
ステップS201乃至S204を実行後、コントローラ30は、荷重状態を推定する(ステップ205)。ここで、コントローラ30は、ステップS202で取得したストローク量FR、FL、RR、RLまたはそれをステップS204で補正したストローク量に基づき、前輪荷重Wf、後輪荷重Wr、右輪荷重Wrh、左輪荷重Wlh、及び全体荷重Wをそれぞれ算出する。
次に、コントローラ30は、補正量Hを算出する(ステップS206)。ここでは、コントローラ30は、全体荷重W(=Wf+Wr)が大きいほど正規化前補正量H1を減らすとともに、後輪荷重配分Ar(式(4)参照。)が大きくなるほど正規化前補正量H1を増やし、さらに、右輪荷重Wrhと左輪荷重Wlhとの差が大きいほど正規化前補正量H1を増やす。ここで、「G3」は、右輪荷重Wrhと左輪荷重Wlhとの差に対する重み付け係数である。また、コントローラ30は、正規化前補正量H1を初期補正量H0で除することで正規化された補正量Hを算出する。
そして、コントローラ30は、補正量Hに付加摩擦トルクTcを乗じて荷重状態を加味した付加摩擦トルクTcnを取得する(ステップS207)。以上により、コントローラ30は、車両の全体荷重、後輪荷重配分、及び車両の左右の荷重差を考慮した適切な付加摩擦トルクTcnを算出することができる。
[第3実施形態]
第1及び第2実施形態では、コントローラ30は、サスペンションのストローク量に基づき荷重状態を推定し、付加摩擦トルクTcを荷重状態に応じた適正な値に変更した。第3実施形態では、これに加え、またはこれに代えて、コントローラ30は、車両の加減速に基づく荷重状態の変化を考慮し、付与摩擦トルクTcの値を変更する。これにより、コントローラ30は、車両の加減速時であっても適切に付加摩擦トルクTcを変更する。
まず、車両の加速時での付加摩擦トルクTcの補正方法について説明する。車両が加速している状態では、車両が加減速していない状態と比べ、慣性の影響などに起因して前輪荷重Wfが減少し、後輪荷重Wrが増加する。即ち、後輪荷重配分が増加する。従って、この場合、コントローラ30は、第1実施形態での第2の方法と同様、付加摩擦トルクTcを増やす。これにより、コントローラ30は、保舵性を高め、車両の安定性を向上させることができる。
次に、車両の減速時での付加摩擦トルクTcの補正方法について説明する。車両が減速している状態では、車両が加減速していない状態と比べ、慣性の影響などに起因して、加速時とは逆に前輪荷重Wfが増加し、後輪荷重Wrが減少する。この場合、前輪荷重Wfが増加することで、ステアリングの操舵は重くなる。従って、車両の減速時では、コントローラ30は、付加摩擦トルクTcを減らす。これにより、コントローラ30は、不要に操舵が重くなるのを防ぐことができる。
(処理フロー)
次に、第3実施形態における処理の手順について説明する。図7は、第3実施形態におけるコントローラ30の制御の一例を示すフローチャートである。図7に示す処理は、コントローラ30により繰り返し実行される。
まず、コントローラ30は、車速を検出する(ステップS301)。コントローラ30は、例えば図示しない車速センサから車速を検出する。次に、コントローラ30は、前後の加速度を算出する(ステップS302)。具体的には、コントローラ30は、検出されたステップS302で検出した車速から、単位時間あたり車速の変化を算出することで、加速中であるか減速中であるか判断するとともに、その加速度を推定する。
そして、コントローラ30は、車両が加速中であると判断した場合(ステップS303;Yes)、コントローラ30は、付加摩擦トルクTcを増加させる(ステップS304)。例えば、コントローラ30は、予め実験等で作成した前進方向における加速度とそれに対応する適切な補正量Hとのマップに基づき、補正量Hを設定し、付加摩擦トルクTcに乗じる。この場合、補正量Hは必ず1以上に設定される。これにより、コントローラ30は、この補正量Hを用いて付加摩擦トルクTcを増やす方向に変更することで、保舵性を高め、車両の安定性を向上させる。
一方、加速中でないと判断した場合(ステップS303;No)、コントローラ30は、次に車両が減速中であるか否か判定する(ステップS305)。そして、減速中であると判定した場合(ステップS305;Yes)、コントローラ30は、付加摩擦トルクTcを減少させる(ステップS306)。例えば、コントローラ30は、予め実験等で作成した進行方向とは逆の加速度とそれに対応する適切な補正量Hとのマップに基づき、補正量Hを設定し、付加摩擦トルクTcに乗じる。この場合、補正量Hは1以下に設定される。これにより、コントローラ30は、付加摩擦トルクTcを減らす方向に変更することで、操舵が不要に重くなるのを防ぐことができる。
一方、減速中でないと判断した場合(ステップS305;No)、コントローラ30はフローチャートの処理を終了し、所定時間経過後、再びフローチャートの処理を開始する。
以上により、コントローラ30は、加減速時における車両の前後の荷重移動を考慮した適切な付与摩擦トルクTcを設定することができる。
なお、上述の説明では、コントローラ30は、車両の減速中には、付加摩擦トルクTcを減らしたが、これに代えて、制動時における車両の偏向を防止するため、付加摩擦トルクTcを増やしてもよい。例えば、コントローラ30は、車両の偏向が生じやすい特定の車種に対して、または、軽い減速であって車両の前後の荷重状態の変動がない場合には、車両の偏向を防止するため、付加摩擦トルクTcを増やしてもよい。
また、第3実施形態は、第1実施形態または第2実施形態にも適用することができる。例えば、コントローラ30は、第1実施形態または第2実施形態で算出した補正量Hを付与摩擦トルクTcに乗じた後、さらに、第3実施形態で算出した補正量Hを乗じて付加摩擦トルクTcnを算出する。
本発明は、車両に搭載される運転者の操舵を補助する機構に利用することができる。

Claims (6)

  1. 車両に搭載されるパワーステアリング装置であって、
    車両状態を表す情報に基づいて、ステアリングに付与すべき摩擦トルクを設定する摩擦トルク設定手段と、
    前記摩擦トルクに基づいて目標操舵角を設定する目標操舵角設定手段と、
    前記目標操舵角と実操舵角との偏差に基づいて、付加摩擦トルクを定め、ステアリングに前記付加摩擦トルクを付与する制御を行うトルク付与手段と、
    前記車両の荷重状態に基づき前記付加摩擦トルクを変更する付加摩擦トルク変更手段を備えることを特徴とするパワーステアリング装置。
  2. 前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の全体荷重が大きいときは、前記全体荷重が小さいときに比べて、前記付加摩擦トルクを小さくする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
  3. 前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の後輪荷重配分が大きいときは、前記後輪荷重配分が小さいときに比べて、前記付加摩擦トルクを大きくする請求項1または2に記載のパワーステアリング装置。
  4. 前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の左右の荷重差が大きいときは、前記左右の荷重差が小さいときに比べて、前記付加摩擦トルクを大きくする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のパワーステアリング装置。
  5. 前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両の加減速状態に基づき前記付加摩擦トルクを変更する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のパワーステアリング装置。
  6. 前記付加摩擦トルク変更手段は、前記車両が加速している場合、前記付加摩擦トルクを大きくする請求項5に記載のパワーステアリング装置。
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