従来から、互いに接合された第1部材及び第2部材の接合部を含む被検査部内の欠陥、例えば、溶接によって接合された2つの鋼材(第1の鋼材及び第2の鋼材)における溶接部及びその周辺部内の欠陥(表面割れ、内部割れ、融合不良、溶込み不良等)を検出する超音波探傷方法として種々の方法が知られている。
例えば、平板の突合せ溶接等における直線状の単純な形状の溶接部(被検査部)に対する超音波探傷方法としては、特許文献1に記載されたTOFD(Time Of Flight Diffraction)法が知られている。このTOFD法は、図11(a)乃至図11(c)に示されるように、突合せ溶接された平板状の2枚の鋼材101a,101bの探傷面(表面)102に一対の探触子103a,103bが溶接部WLを挟んで対称に配置される。この一対の探触子103a,103bは、一方が探傷面102に対し超音波を発信して鋼材101(101a及び101b)の探傷面102及び内部に超音波を伝播させる発信探触子103aで、他方が鋼材101の探傷面102から前記伝播してきた超音波を受信する受信探触子103bである。
このように配置された状態で発信探触子103aが溶接部(被検査部)WLに向けて超音波を発信すると共に受信探触子103bが前記超音波を受信しつつ、両探触子103a,103bがその間隔を一定に保った状態で溶接部WLに沿って鋼材101の表面(探傷面)102上を移動(走査)する(図11(c)の矢印V方向)。
受信探触子103bは、前記走査の際、発信探触子103aから発信され、探傷面102に沿って伝播してくるラテラル波110、溶接部WL内に生じている欠陥CL1の上端CL1aからの回折波(又は散乱波)111、欠陥CL1の下端CL1bからの回折波(又は散乱波)112、及び鋼材101の底面104で反射した底面反射波113を受信する(図11(a)及び図11(b)参照)。このようにして受信探触子103bで受信した超音波の受信波形(図11(b)参照)から伝播時間差TM1乃至TM4を求め、この伝播時間差TM1乃至TM4と鋼材101内を伝播する超音波の伝播速度、鋼材101の厚さT、両探触子103a,103b間の距離D等から幾何学的に欠陥CL1の上端CL1a及び下端CL1bの位置が求められる。このように求められた欠陥CL1の上端CL1a及び下端CL1bの位置から欠陥CL1の高さh及び欠陥CL1の探傷面102からの深さ(欠陥深さ)d等が導出される。
このようなTOFD法は、前記のように単純な形状の溶接部WLに対する超音波探傷に用いられる探傷方法であるため、溶接部(被検査部)を挟んで両側が曲面等で構成される複雑な形状の溶接部、例えば、図12(a)及び図12(b)に示されるような円筒形状のノズル201bと円筒形状のシェル201aとの接合部であるノズル溶接部WCに対しては適用できなかった。
そこで、ノズル溶接部WCのような複雑な形状の溶接部(被検査部)の探傷を可能とするためにTOFD法を発展させたCG−TOFD(Complex Geometry Time Of Flight Diffraction)法が開発された。この方法は、一方の探触子(受信探触子)203bをノズル201b表面に配置し、他方の探触子(発信探触子)203aをシェル201a表面に配置し、ノズル溶接部WC内の欠陥CL2の上端CL2a及び下端CL2bで回折した後に異なる複数の経路で受信探触子203bに伝播する超音波210乃至213の受信波形等を解析することによって欠陥CL2の位置(上端CL2a及び下端CL2bの位置)や大きさを検出する方法である。
しかし、このCG−TOFD法では、ノズル溶接部WCの内面204側が肉盛溶接されている場合には、この肉盛溶接部205で不規則に反射した反射波(妨害信号)が多く現れ、これら妨害信号が受信探触子203bで受信されることでS/N比が低下する等の問題が生じていた。
そこで、図13(a)乃至図13(c)に示されるように、発信探触子303aと受信探触子303bとを共に台部分(シェル)201aの表面(探傷面)301上にノズル溶接部(被検査部)WCに沿って配置する探傷方法が開発された。この方法では、前記のように配置された状態で発信探触子303aがノズル溶接部WCに向けて超音波を発信する。ノズル溶接部WC内に欠陥CL3が生じていた場合には、当該欠陥CL3からの超音波信号を受信探触子303bが受信し、この受信した欠陥CL3からの超音波を解析することでノズル溶接部WC内の欠陥CL3の検出が行われる(特許文献2参照)。即ち、欠陥CL3からの超音波信号がノズル201bの内面等で反射されることなく直接受信探触子303bに到達し、この直接到達した超音波の受信波形等が解析されることで前記妨害信号が多く現れていたとしても精度よく欠陥CL3の検出(受信波形等の解析)ができる。尚、この超音波探傷方法では、ノズル内面コーナー部に発生した欠陥(割れ)の検出が主体であるが、溶接部の探傷に適用した場合を想定した。
特開2002−62281号公報
特開2004−258008号公報
しかし、前記のように一対の探触子303a,303bが共通の面301上において被検査部(ノズル溶接部)WCに沿って配置された状態で行われる超音波探傷方法では、発信探触子303aから超音波が発信され、欠陥CL3からの超音波信号を受信探触子303bで受信する(図13(c)参照)ため両探触子303a,303b間の中央位置Cに対応する被検査部WC内しか精度よく欠陥の検出ができない。即ち、被検査部WCにおける探傷範囲(検査範囲)が狭く、欠陥CL3が被検査部WCに沿った方向に延びる場合、当該被検査部CWに沿った方向の欠陥の長さ(以下、単に「欠陥長さ」とも称する。)L1を精度よく検出することができない場合が懸念される。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、接合部を介して互いに接続された2つの部材において、複雑な形状の接合部を含み当該接合部に沿って延びる被検査部内の欠陥を精度よく検出することができる超音波探傷方法及び超音波探傷装置を提供することを課題とする。
上記課題を解消するために、前記のように被検査部WCに沿って探傷面301上に発信及び受信の両探触子303a,303bを配置し、前記被検査部WCに沿って探傷面301上を移動させながら走査する探傷方法が考えられる。
しかし、このように両探触子を配置すると共に移動させつつ走査する場合であっても、検査対象となる部材(検査対象部材)の形状により探傷面上での両探触子の被検査部に沿った移動が規制される(移動できる距離が限定されている)ような場合には被検査部全体の探傷を行うことができない。
具体的には、例えば、図14(a)及び図14(b)に示される検査対象部材400のように、被検査部402と探傷面401とに直交する壁部材405が設けられているような場合に、互いの間隔(相対位置)を保った状態での両探触子403a,403bの被検査部402に沿った移動(走査)が前記壁部材405によって規制される。
この場合、前記走査方向の移動可能な両端位置に両探触子403a,403bがそれぞれ位置したときに、この両探触子403a,403bの中間位置にそれぞれ対応する被検査部の部位e1,e2間の当該被検査部402の延びる方向に沿った距離(以下、単に「探傷範囲長さ」とも称する。)L2よりも前記延びる方向に沿った被検査部402全体の距離L3の方が長くなる。そのため、被検査部402全体の探傷を行うことができない。
尚、発信探触子403aの超音波の発信部と受信探触子403bの超音波の受信部とは、探傷面401に接した状態で移動(走査)する必要があるため、前記のような壁部材405が設けられることなく探傷面401が前記壁部材405の設けられた位置で途切れているような場合であっても、両探触子403a,403bの被検査部402に沿った移動が規制され、被検査部402全体の探傷を行うことができない。
また、図15に示されるように、例えば、円筒の周面形状のシェル501aに円筒形状のノズル501bが接合されている検査対象部材500において前記方法での超音波探傷を行う場合、発信及び受信の両探触子503a,503bが移動方向(被検査部502)に沿って間隔をおいた配置であるため、両探触子間の中央に対応する被検査部の部位に対する発信探触子からの超音波の到達位置は一定でなく両探触子が走査する方向に沿ったシェル501a表面(探傷面)の曲率変化の影響を受け変化する。特に、シェル501aの表面504の走査方向における曲率の変化が大きい場合、受信した超音波の解析が困難となる場合がある。
そこで、本発明者らが鋭意研究した結果、以下の構成の超音波探傷方法及び超音波探傷装置を創作することにより上記課題を解消した。
本発明に係る超音波探傷方法は、互いに接合された第1部材及び第2部材における接合部を含んだ被検査部内に超音波を伝播させ、この伝播させた超音波を受信することで前記被検査部内の欠陥を検出する超音波探傷方法であって、互いに交差するように前記接合部を介して連接された前記第1部材における第1の特定の面及び第2部材における第2の特定の面によって形成される探傷面上において、当該探傷面に対して前記超音波を発信する発信探触子とこの発信された超音波を前記探傷面から受信する受信探触子とを前記接合部に沿って延びる被検査部に対して直交若しくは略直交する方向に並べて第1の配置とし、前記第1及び第2の特定の面同士が交差する部位からの距離をそれぞれ維持した状態で両探触子を前記被検査部に沿って前記探傷面上を移動させつつ前記被検査部に向けて前記発信探触子から超音波を発信させると共に前記被検査部内に欠陥が生じていた場合にこの欠陥で回折又は反射した超音波を前記受信探触子で受信することで前記被検査部を走査し、前記第1の配置での両探触子の相対位置を前記直交若しくは略直交する方向に沿って変化させて第2の配置とし、この第2の配置で前記被検査部を走査し、前記第1の配置及び第2の配置での走査で受信探触子がそれぞれ受信した前記超音波に基づき、前記被検査部内での前記欠陥における前記超音波の回折又は反射した部位が存在する可能性のある存在可能性位置がそれぞれ導出され、これら第1の配置及び第2の配置での各存在可能性位置に基づき前記欠陥における前記超音波の回折又は反射した部位の前記被検査部内での存在位置が導出されることを特徴とする。
かかる構成によれば、前記第1の配置及び第2の配置のいずれの配置も前記両探触子が前記被検査部と直交若しくは略直交する方向に配置されているため、被検査部の延びる方向において、前記両探触子の前記探傷範囲長さと被検査部全体の長さとが等しく若しくはほぼ等しくなり、前記被検査部全体若しくはほぼ全体の探傷が可能となる。また、前記探傷面が前記走査方向に沿って湾曲する曲面であっても、発信探触子から超音波が到達する被検査部の部位に対する前記超音波の到達位置の変化量が小さくなるため前記受信探触子で受信した受信波形の解析が容易となる。
さらに、第1の配置での走査と第2の配置での走査とにおいて、被検査部内に生じている共通の欠陥に対する欠陥長さ(被検差部に沿った欠陥長さ)をそれぞれ検出するため1つの配置での走査よりも正確な欠陥長さの検出が可能となる。
また、上記の構成によれば、前記欠陥における所定の部位の正確な被検査部内での存在位置を導出できる。その結果、この欠陥の正確な存在位置に基づき前記被検査部の延びる方向と直交する方向の欠陥の長さ(以下、単に「欠陥高さ」とも称する。)を精度よく検出することが可能となる。
具体的には、例えば以下のようにして前記欠陥高さを検出(導出)する。まず、前記被検査部内に欠陥が生じていた場合、前記第1の配置で走査を行ったときに、前記受信探触子で受信した超音波に基づき前記発信探触子から前記欠陥の所定の部位(前記欠陥の上端又は下端)を経て前記受信探触子に至る超音波の伝播距離である第1欠陥信号伝播距離を求める。そして、前記発信探触子から第1部材又は第2部材内の仮想点で反射して前記受信探触子に至る前記超音波の伝播距離が前記第1欠陥信号伝播距離と一致した状態で前記発信探触子が前記探傷面に対して種々の方向に超音波を発信したときの前記仮想点の軌跡で構成される回転楕円面を求め、この回転楕円面と前記両探触子を通り且つ前記探傷面に直交する面との交線である前記被検査部内における前記欠陥の所定の部位(前記欠陥の上端又は下端)が存在する可能性のある第1の存在可能性位置(第1のローカス)を求める。
次に、前記第2の配置で走査を行ったときに、前記と同様にして第2の存在可能性位置(第2のローカス)を求める。
このようにして求めた前記第1のローカスと第2のローカスとのうち、前記欠陥の同一部位(上端又は下端)を経て受信探触子で受信した超音波から導出した前記欠陥の同一部位(上端又は下端)の前記第1のローカスと第2のローカスとを用い、その交点を求めることで前記被検査部内での前記欠陥の所定の部位(上端又は下端)の正確な位置が導出される。このようにして導出された前記欠陥の上端と下端との被検査部内での位置から前記欠陥高さが導出される。
即ち、前記第1の配置による走査と第2の配置による走査とで前記欠陥の上端及び下端の第1のローカス及び第2のローカスがそれぞれ求められ、その交点から欠陥の前記被検査部内での上端位置及び下端位置が求められ、当該被検査部内での欠陥の上端位置及び下端位置が精度よく検出される。これら精度のよい上端及び下端位置を用いることで欠陥高さを精度よく導出することが可能となる。
また、前記の第1の配置と第2の配置とで両探触子の配置を変える構成の場合、前記第1の配置では、前記発信探触子と受信探触子とが共に第1の特定の面又は第2の特定の面上に配置され、前記第2の配置では、前記発信探触子と受信探触子との一方が第1の特定の面上に配置されると共に他方が第2の特定の面上に配置される構成が好ましい。また、前記第1の配置では、前記発信探触子と受信探触子との一方が第1の特定の面上に配置されると共に他方が第2の特定の面上に配置され、前記第2の配置では、前記発信探触子と受信探触子とが共に第1の特定の面又は第2の特定の面上に配置される構成も好ましい。
これらいずれの構成であっても、欠陥上端(又は下端)の第1及び第2のローカス同士の交点を求める際、第1及び第2のローカス同士の交差角が大きくなるためより正確に前記ローカス同士の交点の位置を特定できる。そのため、より精度よく欠陥上端(又は下端)の前記被検査部内での位置の検出が可能となり、前記欠陥高さをより精度よく検出することが可能となる。
また、前記第1の配置では、前記発信探触子と受信探触子との一方が第1の特定の面上に配置されると共に他方が第2の特定の面上に配置され、前記第2の配置では、前記発信探触子又は前記受信探触子が前記第1の配置において配置された位置から同一面上を前記直交若しくは略直交する方向に沿って移動した位置に配置される構成であってもよい。
かかる構成によっても、前記同様、前記第1の配置による走査と第2の配置による走査とで欠陥の上端及び下端の第1のローカス及び第2のローカスがそれぞれ求められ、その交点から欠陥の前記被検査部内での上端位置及び下端位置が求められ、当該被検査部内での欠陥の上端位置及び下端位置が精度よく検出される。
以上より、本発明によれば、接合部を介して互いに接続された2つの部材において、複雑な形状の接合部を含み当該接合部に沿って延びる被検査部内の欠陥を精度よく検出することができる超音波探傷方法及び超音波探傷装置を提供できる。
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る超音波探傷装置は、超音波を用い、互いに接合された2つの部材(検査対象部材)の接合部を含んだ被検査部内の欠陥(表面割れ、内部割れ、融合不良、溶込み不良等)を検出するための装置である。本実施形態において検査対象部材は、円筒の周面形状に形成されたシェルに円筒形状のノズルが溶接(接合)されたもので、被検査部は、これらシェルとノズルとの溶接部と当該溶接部の周辺を含んで溶接部に沿って延びる部位である(図3(a)参照)。
具体的には、図1に示されるように、本実施形態に係る超音波探傷装置10は、超音波の発信及び受信を行う一対の探触子12a,12bと、これら一対の探触子12a,12bがそれぞれケーブルkを介して接続された超音波探傷器30と、この超音波探傷器30で得られた検査情報に基づき欠陥の有無等を解析するための解析用計算機40と、を備える。
一対の探触子12a,12bは、図2(a)及び図2(b)にも示されるように、発信探触子12aと受信探触子12bとで構成されている。発信探触子12aは、先端に設けられた発信部14aから後述する探傷面53に対して超音波、詳細には、パルス状の超音波の縦波を発信するためのものである。また、受信探触子12bは、先端に設けられた受信部14bで探傷面53から超音波、詳細には、発信探触子12aから発信され、検査対象部材50表面(探傷面53)及び内部を伝播してきた超音波を受信するためのものである。
これら発信探触子12a及び受信探触子12b(以下、単に「両探触子12」と称することもある。)は、探傷面53の形状によってこの探傷面53上での配置位置に制約を受ける場合もあるため、前記探傷面53に対して0〜90°(探傷面の法線方向から平行な方向まで)の範囲内で超音波を発信又は受信できるように構成されている。
また、両探触子12の先端部には当該探触子12a又は12bが探傷面53上を滑らかに移動できるようにシュー20が取り付けられている。このシュー20は探傷面53と面接触するような当接面22を先端部に有する。シュー20は、探触子12a(又は12b)に対して着脱自在であり、探傷面53の形状に合わせて交換される。本実施形態においては、探傷面53と接する当接面22と反対側(図2(a)においては上側)の面24に探触子先端部が羅入される凹部26が形成され、この凹部26の内周面26aには雌ネジが螺刻されている。この雌ネジは、探触子12a及び12b先端部の外周面16に螺刻された雄ネジと螺合する。
また、本実施形態において、発信探触子12aと受信探触子12bとはそれぞれ独立しているが、発信探触子12aと受信探触子12bとの相対位置を固定して高精度な探傷を行うために、互いが連結機構(図示省略)によって連結されていてもよい。
超音波探傷器30は、CRT、LCD等で構成される表示手段(モニタ)32を備え、発信探触子12aに超音波を発生させるための信号を生成して送信すると共に、受信探触子12bからの超音波の受信信号(受信波形)を受信し、表示手段32に探傷結果を表示(例えば、図4(a)及び図4(b)参照)するものである。また、超音波探傷器30は、受信波形を記憶する探傷結果記憶手段(図示省略)も備える。
解析用計算機40は、CRT、LCD等で構成される表示手段42を備える。超音波探傷器30の探傷結果記憶手段から探傷結果情報を読取り、後述する欠陥存在置位の解析を行うものである。解析用計算機40は、汎用の計算器(いわゆるパソコン)と同様に、CPU、RAM、ROM、HDD、FDD、CDR、キーボード、マウス等を備え(図示省略)、ハードディスク(又はROM、RAM等)には、OS及び欠陥の位置を解析するための解析プログラムが予め記憶されている。
尚、ハードディスクに代えて、CD、LD、メモリーカード等の他の外部記憶手段に解析プログラムが記憶されており、解析を実行する際にRAMに読み込む形態でもよい。
本実施形態に係る超音波探傷装置10は、以上の構成からなり、次に、両探触子12での走査方法について図3(a)乃至図6(b)も参照しつつ説明する。
本実施形態における検査対象部材50は、互いに接合された第1部材51及び第2部材52で構成されている。具体的には、円筒の周面形状のシェル(第1部材)51に円筒形状のノズル(第2部材)52が溶接(接合)されたものである。この検査対象部材50において超音波探傷装置10によって探傷が行われる被検査部55は、シェル51とノズル52との溶接部We及びこの溶接部Weの周辺を含み、溶接部Weに沿って延びる部位である。
まず、検査対象部材50の探傷面53上に一対の探触子12a,12bが配置される。ここで、探触子12a(又は12b)が配置される探傷面53は、互いに交差するように溶接部Weを介して連接されたシェル51の表面(第1部材51における第1の特定の面)及びノズル52の表面(第2部材52における第2の特定の面)によって形成される面である。尚、本実施形態において、探傷面53におけるシェル51の表面に対応する部位をシェル探傷面51a、ノズル52の表面に対応する部位をノズル探傷面52aと称する場合もある。
このとき、図3(a)乃至図3(c)にも示されるように、両探触子(発信探触子と受信探触子と)12a,12bは、溶接部Weに沿って延びる被検査部55に対して直交する方向に並べて配置される。また、両探触子12は、共にシェル探傷面51a上に配置されている。本実施形態では、このように互いに接合されたシェル(第1部材)51及びノズル(第2部材)52の一方の部材における表面上に、両探触子12が被検査部55に対して前後に並べられる配置を第1の配置と称する。尚、本実施形態においては、両探触子12が並べられる方向は、被検査部55と直交する方向であるが、略直交(前記直交する方向に対して10°以内が好ましい。)する方向であってもよい。また、前記第1の配置では、被検査部55に対して前側に発信探触子12aが配置され、後側に受信探触子12bが配置されているが、逆の配置、即ち、被検査部55に対して前側に受信探触子12bが配置され、後側に発信探触子12aが配置されてもよい。
このように配置された後、シェル51の表面及びノズル52の表面同士が交差する部位、即ち、溶接部Weからの距離をそれぞれ維持した状態で両探触子12は、被検査部55に沿って探傷面53(シェル探傷面51a)上を移動する。このとき、発信探触子12aは被検査部55に向けて超音波を発信しつつ移動する。一方、受信探触子12bは、発信探触子12aが発信して検査対象部材50内を伝播し、被検査部55内に欠陥CLが生じていた場合にこの欠陥CLで回折又は反射した超音波を探傷面53から受信しつつ移動する。
このように被検査部55と直交する方向に並べられた両探触子12は、当該探触子12a,12bを結ぶ方向との交差部付近の被検査部55内の探傷を精度よく検出することができる。そのため、前記のように両探触子12が配置されて被検査部55を走査することで、被検査部55の延びる方向における両探触子12の被検査部55内の欠陥を精度よく検出できる範囲(探傷範囲長さ)と被検査部55全体の長さとが等しく若しくはほぼ等しくなり、被検査部55全体若しくはほぼ全体の探傷が可能となる。
また、前記のように両探触子12が被検査部55に沿って移動しつつ当該被検査部55内の欠陥CLの検出を行うため、被検査部55内の欠陥CLの有無の検出だけでなく、当該被検査部55に沿った欠陥の長さ(欠陥長さ)Lも検出可能となる(図4(b)参照)。
さらに、本実施形態のように、探傷面53が両探触子12の移動(走査)方向に沿って湾曲するような曲面であっても、発信探触子12aからの超音波が到達する被検査部55の部位に対する前記超音波の到達位置の変化が従来の走査方向に沿って間隔をおいた配置の一対の探触子での走査時に比べて小さくなる。即ち、前記被検査部55の部位に対する発信探触子12aからの超音波の到達位置が走査する方向に沿った探傷面53の曲率変化の影響を受け難くなる。そのため、前記受信探触子で受信した受信波形からの欠陥検出が前記従来の被検査部に沿って間隔をおいた場合に比べて容易になる。
このように両探触子12を第1の配置で走査したときに得られた受信波形(図4(a)参照)は、超音波探傷器30に送信される。超音波探傷器30は、この受信波形を両探触子12の探傷面53上での走査距離と対応付けて探傷結果記憶手段に記憶する。また、この受信波形に表れる欠陥上端信号Sig1及び欠陥下端信号Sig2と走査距離等とに対応して導出された探傷画像(図4(b)参照)が超音波探傷器30の表示手段32に表示される。
ここで、欠陥上端信号Sig1(又は欠陥下端信号Sig2)とは、発信探触子12aから発信されて検査対象部材50内を伝播し、欠陥上端CLa(又は欠陥下端CLb)で回折又は反射した後、他の部位で回折や反射されることなく受信探触子12bで受信された超音波の受信信号(受信波形)をいう。
このように両探触子12の第1の配置での走査が終了すると、両探触子12の配置を変更し、この変更後の配置で再度走査が行われる。
前記の両探触子12の配置変更は、具体的には、図5(a)乃至図5(c)に示されるように、前記第1の配置での一方の探触子(受信探触子)12bの探傷面53上の位置を維持しつつ両探触子12a,12bの相対位置を前記直交する方向(両探触子12が並んでいた方向)に沿って変化させる。配置変更後の両探触子12は、発信探触子12aがノズル52の表面(ノズル探傷面52a)上に配置され、受信探触子12bがシェル51の表面(シェル探傷面51a)上に配置されている。
本実施形態では、このように両探触子12における発信探触子(一方)12aがノズル探傷面52a上に配置されると共に受信探触子(他方)12bがシェル探傷面51a上に配置される配置を第2の配置と称する。尚、第2の配置では、前記第1の配置同様に、両探触子12の配置が入れ替わってもよい。即ち、受信探触子12bがノズル探傷面52a上に配置され、発信探触子12aがシェル探傷面51a上に配置されていてもよい。
この第2の配置で前記第1の配置での走査同様に前記被検査部55が走査され、得られた受信波形(図6(a)参照)が超音波探傷器30に送信される。また、前記同様、この受信波形に表れる欠陥上端信号Sig1及び欠陥下端信号Sig2と走査距離等とに基づいて導出された探傷画像(図6(b)参照)が超音波探傷器30の表示手段32に表示される。
以上のように両探触子12の配置を変更し、それぞれ前記走査を行うことで得られた受信波形が超音波探傷器30及び解析用計算器40によって解析されることで、被検査部55内の欠陥CLの有無、欠陥存在位置が検出される。以下でこの解析について図7(a)乃至図8も参照しつつ説明する。
超音波探傷器30は、受信探触子12bから第1の配置での走査において得られた受信波形に欠陥CLからの信号が含まれているか否かを判定する。欠陥CLからの信号が含まれていると判定した場合には、走査距離と欠陥信号が含まれていると判定されている時間とに基づき、欠陥CLの被検査部55に沿った長さ、即ち、欠陥長さLが求められる。
具体的には、両探触子12を被検査部55に沿って走査し、探傷画像上に欠陥の上端と下端とを表示させる(図4(b)及び図6(b)参照)。この欠陥上端CLa及び下端CLbの探傷画像上の左右両端部は円弧状となり、この円弧状部分を除いた直線部の長さが欠陥長さLとなる。詳細には、両探触子12の配置と検出された欠陥信号の時間に対応する放物線カーソルを探傷画像上に表示させ、検出された欠陥画像の端部の曲率と前記放物線カーソルの曲率とが一致した位置を欠陥の長さ方向の端部とし、左右両端の位置を計測することによって欠陥長さLが導出される。
この欠陥長さLが導出された後、第1の配置及び第2の配置での走査で受信探触子12bがそれぞれ受信した前記超音波に基づき、前記被検査部55内での欠陥CLにおける前記超音波の回折又は反射した部位が存在する可能性のある存在可能性位置がそれぞれ導出される。そして、これら第1の配置及び第2の配置での各存在可能性位置に基づき欠陥CLにおける前記超音波の回折又は反射した部位の被検査部55内での正確な存在位置が導出される。このようにして導出された前記存在位置を用いて欠陥CLの被検査部55と直交する方向における長さ、即ち、欠陥高さHが求められる。
具体的には、例えば、以下のようにして欠陥CLの被検査部55内での存在位置が導出される。
まず、受信探触子12bで受信した受信波形(超音波)に基づき発信探触子12aから欠陥CLの所定の部位を経て受信探触子12bに至る超音波の伝播距離(第1欠陥伝播距離)を求める。詳細には、発信探触子12aから前記欠陥CLの前記所定の部位(本実施形態においては、欠陥CLの上端CLa又は下端CLb)で回折又は反射されて受信探触子12bに至る超音波の欠陥信号伝播時間t1又はt2(図4(a)及び図6(a)参照)を求め、この欠陥信号伝播時間t1又はt2と検査対象部材50内の超音波の伝播速度とから第1欠陥伝播距離を求める。
そして、発信探触子12aから検査対象部材50(詳細には、被検査部55)内の仮想点Vp(図7(a)参照)で回折して受信探触子12bに至る前記超音波の伝播距離(PS1+PS2)が第1欠陥信号伝播距離と一致した状態で発信探触子12aが探傷面53に対して種々の方向の超音波を発信したときの仮想点の軌跡で構成される回転楕円面を求める。
この回転楕円面と両探触子12a,12bを通り且つ探傷面53に直交する面(ローカス解析平面(図7(a)及び図7(b)における紙面))との交線である第1のローカスRc1を求める。この第1のローカスRc1は、楕円曲線で構成され、被検査部55内における欠陥CLの所定の部位(本実施形態においては、欠陥CLの上端CLa又は下端CLb)が存在する可能性のある点の軌跡(存在可能性位置)であり、欠陥上端CLa及び下端CLbに対応した2本の第1のローカスRc1が求められる。
同様にして、第2の配置での走査において得られた受信波形に基づき第2の存在可能性位置、即ち、第2のローカスRc2を求める。
このようにして求められた第1のローカスRc1と第2のローカスRc2とを用い、欠陥上端CLaに対応する第1及び第2のローカスRc1,Rc2同士の交点N1、並びに欠陥下端CLbに対応する第1及び第2のローカスRc1,Rc2同士の交点N2をそれぞれ求める。この交点N1,N2から欠陥CLの被検査部55内での上端位置及び下端位置を求めることで、被検査部55内での欠陥CLの上端位置及び下端位置を精度よく検出できる。
さらに、これら被検査部55内での正確な欠陥上端CLa及び下端CLbの位置を用いることで欠陥CLの欠陥高さHが正確に(精度よく)求められる。
前記の実施形態に係る超音波探傷方法及び超音波探傷装置10を用いて超音波探傷を行った。図9に示されるように、試験体Exとして前記ノズル溶接部を模擬した200mm厚さのものを用いた。この試験体は、材質が炭素鋼で、その内表面がステンレス鋼の肉盛溶接にて形成され、前記の実施形態におけるノズル52に相当する部分の厚さが96mm、シェル51に相当する部分の厚さが200mmに形成されている。前記の実施形態における溶接部Weに相当する部分には人工欠陥ACL1乃至ACL3が形成されている。
この人工欠陥ACL1乃至ACL3は、試験体Ex内に形成された割れを模擬したスリット状の人工欠陥で、前記の実施形態における溶接部Weに相当する部分の外表面、内表面及び内部にそれぞれ設けられている。また、試験体Exの内表面部は肉盛溶接が施されている。
外表面及び内表面に設けられた外表面欠陥ACL1と内表面欠陥ACL2との大きさ(寸法)は、高さが5mm、長さが10mmである。また、内部に設けられた内部欠陥ACL3の大きさは、高さが14mm、長さが14mmである。尚、前記人工欠陥ACL1乃至ALC3の高さは、欠陥高さ方向の長さであり、前記人工欠陥ACL1乃至ACL3の長さは、欠陥長さ方向の長さである。
この試験体Exに対し、各探触子から溶接部に対応する部位(被検査部)までの距離の変更等を行った複数の条件で第1の配置での走査及び第2の配置での走査をそれぞれ行った。また、これら種々の条件における第1の配置及び第2の配置での走査結果から第1及び第2のローカスを求め、その交点から欠陥高さを導出した。その結果を表1に示す。
この結果から、全ての欠陥が検出されていることが確認できる。
上記結果において、欠陥長さ及び欠陥高さは、いずれも測定値の方が実際の人工欠陥ACL1乃至ACL3の大きさ(実測値)よりも大きな値となっている。欠陥寸法の測定において、実測値(実際の寸法)より測定値の方が大きな値となることは、工業分野では安全側に評価される。
以上より、当該超音波探傷方法及び超音波探傷装置におけるノズル溶接部の欠陥検出能力及び寸法測定能力の有用性が確認できた。
尚、本発明に係る超音波探傷方法及び超音波探傷装置10は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、前記の実施形態においては、欠陥CLの検出の際に、第1の配置での走査及び第2の配置での走査を順に行っているが、第2の配置での走査を行った後、第1の配置での走査を行っても同様の精度で欠陥の検出を行うことが可能である。
また、図10(a)及び図10(b)に示されるように、前記の実施形態における第1(又は第2)の配置(図10(a)及び図10(b)における実線の位置)での走査を行った後、発信探触子12aを第1(又は第2)の配置において両探触子12a,12bがそれぞれ配置されている同一部材の探傷面51a(又は52a)上で被検査部55と直交(又は略直交)する方向にそれぞれ移動させた第1a(又は第2a)の配置(図10(a)及び図10(b)における二点差線の位置)とし、この第1a(又は第2a)の配置での走査を行うようにしてもよい。
この場合、欠陥の上端と下端に対応する第1及び第1a(又は第2及び第2a)のローカスRc1,Rc1a(又はRc2及びRc2a)同士の交点N1(又はN2)を求める際に、ローカス同士の交差角が前記の実施形態に比べて小さくなるが、交点N1,N2間の距離から欠陥高さを求めることが可能である。
また、前記の実施形態においては、両探触子12の配置を変更し、異なる配置での走査をそれぞれ行っているが、欠陥CLの有無及び欠陥長さLのみの検出を目的とする場合であれば、1つの配置(例えば、第1の配置のみ、又は第2の配置のみ)での走査により検出可能である。
また、前記の実施形態においては、検査対象部材50として円筒の周面形状のシェル51に円筒形状のノズル52を前記シェル51の表面と直交する方向に接合(溶接)された部材が用いられているが、これに限定される必要はない。例えば、図16(a)及び図16(b)に示されるように、ノズル52の軸がシェル51の軸方向及び円周方向にオフセットするように接合された部材であってもよい。また、図16(c)及び図16(d)に示されるように、表面が球面形状(曲面形状)のシェル51であってもよいし、ノズルの軸心がオフセットされていてもよい。また、図16(e)乃至図16(g)に示されるように、いわゆるT継手、角継手又は十字継手で構成される部材であってもよい。
即ち、本発明に係る超音波探傷方法及び超音波探傷装置によれば、前記図16(a)乃至図16(g)に記載の部材における溶接部We及びこの溶接部Weを含んで当該溶接部Weに沿って延びる被検査部内の欠陥の有無、欠陥存在位置及び欠陥大きさの検出が可能である。