JP5141794B2 - 有機el用透明導電膜およびこの透明導電膜を用いた有機el素子 - Google Patents

有機el用透明導電膜およびこの透明導電膜を用いた有機el素子 Download PDF

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Description

本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置に用いられる透明導電膜およびこの透明導電膜を用いた有機EL素子に関するものである。
一般に、有機EL表示装置では、スイッチング素子であるTFT(薄膜トランジスタ)が配置されたTFTアクティブマトリックス基板上に、有機EL層を含む電界発光層の両側にアノード(陽極)とカソード(陰極)とを配した有機EL素子が、各画素領域に形成された構造とされている。
従来、この有機EL素子では、アノードの金属膜としてAlまたはAl合金の金属膜やAgまたはAg合金の金属膜が用いられており、この金属膜と電界発光層との間には、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)やAZO(Aluminum doped Zinc Oxide:アルミニウム添加酸化亜鉛)等の透明導電膜が設けられている。この透明導電膜は、電界発光層に含まれる硫黄(S)成分が金属膜に拡散することを防ぐことを目的に設けられている。
特開2006−236839号公報
神戸製鋼技報/Vol.57 No.1(Apr.2007)
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来、金属膜と電界発光層との間の透明導電膜に用いられるITOは、Al金属膜とのコンタクト抵抗が高いという問題があった(非特許文献1参照)。このため、AlまたはAl合金の金属膜に対して低いコンタクト抵抗が得られるAZOを採用した場合、金属膜からの反射光に対し、可視の短波長領域(波長380nm以下)における透過率が低くなってしまうという不都合があった。
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、AlまたはAl合金の金属膜との低いコンタクト抵抗が得られると共に短波長領域の良好な透過率が得られる有機EL用透明導電膜およびこの透明導電膜を用いた有機EL素子を提供することを目的とする。
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の有機EL用透明導電膜は、有機EL素子の有機EL層を含む電界発光層とAlまたはAl合金の金属膜との間に形成される透明導電膜であって、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、残部ZnであるAl−Mg−Zn系酸化物からなることを特徴とする。
この有機EL用透明導電膜では、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、残部ZnであるAl−Mg−Zn系酸化物からなるので、Alを含有することでITOに比べてAlまたはAl合金の金属膜に対して低いコンタクト抵抗を得ることができると共に、AZOに比べて短波長領域で高い透過率が得られる。
ここで、本発明の有機EL用透明導電膜中の金属成分元素の含有割合を上記のごとく限定した理由は、以下のとおりである。
Al:
Alは透明導電膜の導電性を向上させる作用を有するので添加するが、その含有量が0.7原子%未満では導電性向上効果が十分でなく、一方、Alを7原子%を超えて含有させると、キャリア濃度が高くなり、透明導電膜の透明性が低下するようになるので好ましくない。したがって、この発明の透明導電膜中に含まれる全金属成分元素に占めるAlまたはAl合金の含有割合をAl:0.7〜7原子%に定めた。
Mg:
透明導電膜中の金属成分元素としてMgを10原子%以上含有させることによって、その含有量に応じてバンドギャップを3.5〜4.2eVの範囲内に制御することができるため、短い波長の光に対する透明性が向上される。さらに、Mgを添加することにより、膜中の過剰なキャリア濃度増加を防ぎ、近赤外光に対する透明性も改善される。一方、Mg含有量が25原子%を超えると、水分、酸素の存在下で透明導電膜の導電性が著しく低下するようになることから、全金属成分元素に占めるMgの含有割合をMg:10〜25原子%に定めた。
また、本発明の有機EL用透明導電膜は、さらに、原子比で、Ga:0.015〜0.085%を含有し、Al−Mg−Ga−Zn系酸化物からなることを特徴とする。
すなわち、この有機EL用透明導電膜では、さらに、原子比で、Ga:0.015〜0.085%を含有し、Al−Mg−Ga−Zn系酸化物からなるので、Gaが添加されていないAl−Mg―Zn系酸化物透明導電膜に比して、格段に優れた耐湿性を備え、その結果として、使用環境下で水分、酸素の存在による比抵抗の増大が少なく、透明導電膜としての膜特性の劣化を抑えることができ、素子特性の低下を防止できる。
ここで、本発明の有機EL用透明導電膜中のGa成分の含有割合を上記のごとく限定した理由は、以下のとおりである。
Ga:
透明導電膜中の金属成分元素としてGaを0.015原子%以上含有させることによって、膜の透明性を損なうことなく且つバンドギャップを維持しつつ、高温高湿使用環境下での導電性劣化を抑制することができるが、Ga含有量が0.085%を超えると、膜の導電性(成膜直後、高温高湿試験前)が低下し、透明導電膜としての導電性が不足することから、透明導電膜中に含まれる全金属成分元素に占めるGaの含有割合をGa:0.015〜0.085原子%と定めた。
本発明の有機EL素子は、アノードと、該アノード上に形成された有機EL層を含む電界発光層と、該電界発光層上に形成されたカソードと、を備えた有機EL素子であって、前記アノードが、AlまたはAl合金の金属膜と、該金属膜と前記電界発光層との間に形成された上記本発明の有機EL用透明導電膜と、を有していることを特徴とする。
すなわち、この有機EL素子では、AlまたはAl合金の金属膜と電界発光層との間に上記本発明の有機EL用透明導電膜が形成されているので、低コンタクト抵抗により低電圧で駆動可能であると共に、高透明性により短波長領域を含む広い範囲で高い輝度を得ることができる。
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る有機EL用透明導電膜によれば、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、残部ZnであるAl−Mg−Zn系酸化物からなるので、低いコンタクト抵抗を得ることができると共に、短波長領域で高い透過率が得られる。さらに、金属成分元素として、微量のGaを含有させ、Al−Mg―Ga―Zn系酸化物透明導電膜として構成することにより、Gaを含まないAl−Mg―Zn系酸化物透明導電膜に比して、格段に優れた耐湿性を備え、その結果として、使用環境下で水分、酸素の存在による比抵抗の増大が少ない。
したがって、本発明の透明導電膜を使用した有機EL素子によれば、良好な電気特性が得られると共に高い輝度を広い波長領域で得ることができ、さらにGa含有によって膜の劣化を抑制して長期間にわたって発光効率の低下を抑制することができる。
本発明に係る有機EL用透明導電膜およびこれを備えた有機EL素子の実施形態において、有機EL素子の構造を示す模式的な断面図である。
以下、本発明に係る有機EL用透明導電膜およびこれを備えた有機EL素子の一実施形態を、図1を参照して説明する。
本実施形態の有機EL用透明導電膜1は、図1に示すように、有機EL素子10の電界発光層2とAlまたはAl合金の金属膜3との間に形成される透明導電膜であって、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、残部ZnであるAl−Mg−Zn系酸化物からなる膜である。
また、この有機EL用透明導電膜1は、さらに、原子比で、Ga:0.015〜0.085%を含有し、Al−Mg−Ga−Zn系酸化物からなる膜である。
また、本実施形態の有機EL素子10は、成膜基板4上に形成されたアノード5と、該アノード5上に形成された有機EL層2bを含む電界発光層2と、該電界発光層2上に形成されたカソード6と、を備えた有機EL素子であって、アノード5が、AlまたはAl合金の金属膜3と、該金属膜3と電界発光層2との間に形成された上記有機EL用透明導電膜1と、を有している。
上記各層および膜の厚さは、例えば電界発光層2が100〜200nm、有機EL用透明導電膜1が10〜20nm、金属膜3が100nmである。
上記電界発光層2は、アノード5上にホール(正孔)輸送層2a、有機EL層2b、電子輸送層2cの順に積層された三層構造を有している。
なお、ホール輸送層2aを構成する有機高分子材料(正孔注入・輸送材料)としては、正孔を輸送する能力を持ち、アノード5からの正孔注入効果、有機EL層2b又は発光材料に対して優れた正孔注入効果を有し、有機EL層2bで生成した励起子の電子輸送層2cへの移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。
具体的には、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、イミダゾールチオン、ピラゾリン、ピラゾロン、テトラヒドロイミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ヒドラゾン、アシルヒドラゾン、ポリアリールアルカン、スチルベン、ブタジエン、ベンジジン型トリフェニルアミン、スチリルアミン型トリフェニルアミン、ジアミン型トリフェニルアミン等及びこれらの誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等の高分子、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/カンファースルホン酸(PANI/CSA)等に代表される導電性高分子等の高分子材料が挙げられる。
有機EL層2bに用いる発光材料としては、例えば、4,4’−(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル等のオレフィン系発光材料、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン、9,10−ビス(9,9−ジメチルフルオレニル)アントラセン、9,10−(4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル)アントラセン、9,10’−ビス(2−ビフェニリル)−9,9’−ビスアントラセン、9,10,9’,10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントリル、1,4−ビス(9−フェニル−10−アントラセニル)ベンゼン等のアントラセン系発光材料、2,7,2’,7’−テトラキス(2,2−ジフェニルビニル)スピロビフルオレン等のスピロ系発光材料、4,4’−ジカルバゾリルビフェニル、1,3−ジカルバゾリルベンゼン等のカルバゾール系発光材料、1,3,5−トリピレニルベンゼン等のピレン系発光材料に代表される低分子発光材料、ポリフェニレンビニレン類、ポリフルオレン類、ポリビニルカルバゾール類等に代表される高分子発光材料等が挙げられる。
有機EL層2bには、蛍光色素をドーピングしてもよく、燐光色素をドーピングしてもよい。
電子輸送層2cに用いる電子注入・輸送材料としては、電子を輸送する能力を持ち、カソード6からの電子注入効果、有機EL層2b又は発光材料に対して優れた電子注入効果を有し、有機EL層2bで生成した励起子の正孔注入層への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。具体的には、例えば、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フレオレニリデンメタン、アントラキノジメタン、アントロン等及びこれらの誘導体が挙げられる。
上記有機EL用透明導電膜1は、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、残部Znからなる酸化物スパッタリングターゲットまたはAl:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部Znからなる酸化物スパッタリングターゲットを、DCスパッタリングまたはパルスDCスパッタリングすることにより、成膜することができる。
この有機EL用透明導電膜1は、比抵抗が約1×10−3Ω・cmである。
ここで、スパッタリングターゲットの成分組成を上記のごとく定めた技術的な理由は、以下のとおりである。
Al:
Alは、スパッタリングすることにより得られた透明導電膜のキャリア密度とホール移動量を向上させ、膜の導電性を向上させる作用を有するので0.7原子%以上含有させるが、その含有量が0.7原子%未満であっても、また、7原子%を超えても透明導電膜の導電性が低くなるので好ましくない。したがって、この透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるAlは、0.7〜7原子%に設定される。
Mg:
Mgは、スパッタリングすることにより得られた透明導電膜のバンドギャップを調整し、短波長の光に対する透明性の向上及び近赤外波長の光に対する透明性向上に有効である。Mgの含有量が10原子%未満であると、バンドギャップの調整効果が十分に得られず、短波長に対する膜の透明性向上効果が不十分となる。Mg含有量が25原子%を超えると膜の導電性が著しく低下する。したがって、この透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるMgは、10〜25原子%に設定される。
Ga:
Gaは、透明導電膜の耐湿性の向上に有効である。Ga含有量が0.015原子%未満であると、膜の耐湿性改善が不十分であり、一方、Gaの含有量が0.085原子%を超えると、膜の電気抵抗が顕著に増大する。したがって、この透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるGaは、0.015〜0.085原子%に設定される。
なお、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部Znからなる酸化物スパッタリングターゲットは、ターゲットのバルク抵抗を0.1Ω・cm以下に抑えることが可能であることから、DCまたはパルスDCスパッタによって高速で高品質な透明導電膜を成膜することができる。
この透明導電膜形成用スパッタリングターゲットは、例えば、以下の方法によって作製することができる。なお、ここでは一例としてGaを含有させた場合の酸化物スパッタリングターゲットの製法例について説明する。
まず、原料粉末として、純度99.9%以上、平均一次粒子径5μm以下のAl粉、MgO粉、Ga粉およびZnO粉を所定の組成となるように秤量・配合し、湿式のボールミルにて平均粒子径を0.1〜3.0μmに粉砕した後、80℃で5時間真空乾燥させる。次に、この乾燥した混合粉を黒鉛のモールドに充填し、700〜1300℃の温度で0.5〜5時間、加圧力:100〜350kgf/cmの条件で真空中にてホットプレスすることにより、透明導電膜形成用スパッタリングターゲットを作製することができる。
スパッタリングを行う際の好ましいスパッタ条件は、例えば、以下のとおりである。
まず、スパッタリングターゲットの相対密度は90%以上であることが好ましく、相対密度が90%未満では、成膜速度が低下する他、得られる膜の膜質が低下する。スパッタリングターゲットの相対密度は95%以上であることがより好ましく、97%以上であることが特に好ましい。
なお、上記のスパッタリングターゲットの純度は、99%以上であることが好ましい。純度が99%未満では、不純物により、得られる膜の導電性や化学的安定性が低下する。さらに、スパッタリングターゲットの純度は99.9%以上であることがより好ましく、99.99%以上であることが特に好ましい。
さらに、上述したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うにあたっては、まず、スパッタリング装置の真空槽内に成膜用の基板(以下「成膜基板」という。)およびスパッタリングターゲットを装着し、装置,成膜基板,スパッタリングターゲット等に吸着されている水分の除去を行うことが望ましい。
上記水分の除去は、例えば、真空槽の到達真空圧力が5×10−4Pa以下になるまで真空引きすることによって行うことができる。真空引きの間は加熱することが好ましく、この加熱によって、水分の除去をより確実に行うことが可能になると共に、真空引きの時間を短縮することが可能になる。このときの到達真空圧力が5×10−4Pa以下に達しない場合、装置,成膜基板,スパッタリングターゲット等に吸着されている水分の除去が不十分となり易いことから、得られる膜の緻密性が低下し、膜の導電性および耐湿性に影響を与える。なお、使用するスパッタリング装置の排気系は、水分を除去するためのトラップまたはゲッタを有していることが好ましい。
上記の真空排気を行った後、透明導電膜の成膜を行うが、成膜時の真空度は1×10−2〜1×10Paとすることが好ましい。このスパッタガス圧が1×10−2Pa未満(1×10−2Paより低圧)では成膜時の放電安定性が低下し、1×10Paを超えるとスパッタリングターゲットへの印加電圧を高くすることが困難になる。成膜時のスパッタガス圧は0.1〜1×10Paとすることが特に好ましい。
また、成膜時の直流出力は1W/cm以上10W/cm以下にすることが好ましい。この出力が10W/cmを超えると、得られる膜の緻密性が低下し、高耐湿性透明導電膜を得ることが困難になる。そして、成膜時の出力は3〜8W/cmとすることがより好ましい。また、成膜時の電圧は100〜400Vとすることが好ましい。
成膜時の雰囲気ガスとしては、通常、アルゴンガス(Arガス)のみでも十分な高透明性膜が得られるが、アルゴンガス(Arガス)と酸素ガス(Oガス)との混合ガスを用いることも可能である。ArガスとOガスの混合比は、用いるスパッタリングターゲットの酸化状態や成膜時の真空度および出力により異なってくるが、雰囲気ガスに占めるOガスの体積濃度が5%を超えると、得られる膜の導電性が低下し易くなる。したがって、成膜時の雰囲気ガスに占めるOガスの体積濃度は5%以下とすることが好ましく、3%以下とすることがより好ましい。
成膜時の基板温度は、50℃〜成膜基板の耐熱温度の範囲内で適宜選択可能であるが、基板温度が200℃を超えると、多くの樹脂基板ではその耐熱温度を超えるため、使用できる基板の種類が強く制限される。また、基板温度が50℃未満では、得られる膜の緻密性が低下し、高耐湿性透明導電膜を得ることが困難になるので、成膜時の基板温度は50〜200℃とすることが好ましく、80〜200℃とすることがより好ましく、100〜200℃とすることが特に好ましい。
成膜基板4は、例えばTFT基板上に有機EL用素子を形成する場合、SiN膜やゲート絶縁膜となるSiO膜等の複数の絶縁膜が上部に積層されたガラス基板や耐熱性樹脂基板等の絶縁性基板が用いられる。
このように本実施形態の有機EL用透明導電膜1では、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、残部ZnであるAl−Mg−Zn系酸化物からなるので、Alを含有することでITOに比べてAlまたはAl合金の金属膜3に対して低いコンタクト抵抗を得ることができると共に、AZOに比べて短波長領域で高い透過率が得られる。
また、本実施形態の有機EL素子10では、AlまたはAl合金の金属膜3と電界発光層2との間に上記有機EL用透明導電膜1が形成されているので、低コンタクト抵抗により低電圧で駆動可能であると共に、高透明性により短波長領域を含む広い範囲で高い輝度を得ることができる。
上記本実施形態に基づいて実際に成膜した有機EL用透明導電膜の実施例について以下に説明する。
まず、Gaを含有する本発明の有機EL用透明導電膜を成膜するスパッタリングターゲットの作製について説明する。
原料粉末として、純度99.9%以上平均粒子径0.4μmのAl原料粉、純度99.9%以上平均粒子径1μmのMgO原料粉、純度99.9%以上平均粒子径0.3μmのGa原料粉および純度99.9%以上平均粒子径0.4μmのZnO原料粉を表1に示す所定の組成となるように秤量・配合する。この配合した粉末を、ポリエチレン製ポットに投入し、直径3mmのジルコニアボールを使用してボールミルを行い、混合粉の平均一次粒子径を0.3μm以下に粉砕(なお、ボールミルに使用する溶媒はエタノールであり、分散剤や他の助剤は添加せず)し、目標平均粒子径に到達したスラリーを大気乾燥した後、80℃で5時間真空乾燥する。
この乾燥した混合粉を黒鉛のモールドに充填し、表1に示す所定の焼結温度および焼結時間、加圧力:350kgf/cmの条件で真空ホットプレスすることにより直径165mm×厚み9mmの焼結体を作製し、その後、機械加工により、直径152.4mm×厚み6mmのサイズの表1に示す透明導電膜形成用スパッタリングターゲット(以下、実施例1〜6として示す。)を作製した。
次に、表1に示す原料粉の配合により、Ga成分を含有しない原料粉を調製し、上記実施例1〜実施例6と同様な方法で、実施例7〜10のスパッタリングターゲットを作製した。
また、表1に示すように、AlおよびMgの少なくともいずれかの含有量が本発明範囲外となるように原料粉を調製し、上記実施例1〜実施例6と同様な方法で比較例1〜4のスパッタリングターゲットを作製した。
さらに、比較のため、従来のITOおよびAZOの有機EL用透明導電膜を成膜するのに用いる従来例1〜3のスパッタリングターゲットを作製した。
従来例1,2のAZOターゲットは、上記実施例と同様の原料粉を用い、表1に示す所定の組成となるように秤量・配合する。この配合した粉末を、ボールミル(ビーズミル)に投入し、直径1mmのジルコニアボールを使用してボールミルを行い、混合粉の平均一次粒子径を0.3μm以下に粉砕する。使用する溶媒は水である。目標平均一次粒子径に到達したら、スラリーにバインダ(PVA)を添加し、スプレードライヤーで乾燥造粒を行い、さらに金型による加圧成形により成形体を作製する。得られた成形体を酸素雰囲気中で表1の条件にて焼結し、機械研磨を経てターゲットを作成した。
従来例3のITOターゲットは、純度99.9%以上平均粒子径0.3μmのSnO原料粉、純度99.9%以上平均粒子径0.4μmのIn原料粉を表1に示す所定の組成となるように秤量・配合する。粒子の粉砕、混合、成形は従来例1、2と同様で行った。得られた成形体を酸素雰囲気中で表1の条件にて焼結し、機械研磨を経てターゲットを作成した。
上記で得た実施例1〜10,比較例1〜4,従来例1〜3の夫々のスパッタリングターゲットについて、理論密度比、比抵抗および金属元素の含有量を求めた。理論密度比とは、酸化物焼結体密度と理論密度との比をいい、理論密度とは焼結体原料の組成及びその結晶構造のデータから、空孔等の欠陥が全くない場合に導かれる密度をいう。焼結体密度は、重量と寸法とを測定し、計算によって求めた。
また、比抵抗は、三菱ガス化学製四探針抵抗測定計ロレスターで測定することによって求めた。さらに、金属元素の含有量は、ターゲットから分析用試料を採取し、ICP法(高周波誘導結合プラズマ法)によって定量測定することにより求めた。
上記それぞれの値を、表1に示す。
Figure 0005141794
次に、有機EL用透明導電膜の作製について説明する。
実施例1〜10,比較例1〜4,従来例1〜3の夫々のスパッタリングターゲットを、Inを用いて銅製バッキングプレートにボンディングし、スパッタ装置を用いてスパッタし、表2に示す有機EL用透明導電膜を成膜した。
表2の本実施例、比較例、従来例のスパッタ条件はすべて同様である。スパッタ時の到達真空圧力は、5×10−4Pa、スパッタ時のArガス圧は0.67Pa、基板温度は室温〜250℃の範囲内で行った。なお、スパッタに用いた電源は、日本エム・ケー・エス社製直流(DC)電源RPG−50である。投入電力密度は8W/cm2である。また、基板は、無アルカリガラス(コーニング社1737♯)を使用した。スパッタ時の異常放電およびスパッタ後のターゲットの状態を表2に示した。
膜中の金属成分元素の含有量は、スパッタ膜を分析用試料として採取し誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP法)[使用機器:SPS−1500VR(セイコー電子工業社製)]によって求めた。表2に、金属成分元素の含有量を示す。
Figure 0005141794
さらに、実施例、比較例、従来例の各透明導電膜の膜特性(光透過率、耐湿性)を調査した。
得られた有機EL用透明導電膜について、膜厚は触針法[使用機器:DEKTAK3030(Sloan社製)]によって求め、比抵抗は、三菱ガス化学製四探針抵抗測定計ロレスターで測定することによって求めた。膜の光透過率は、分光法[使用機器:U−3210(日立製作所社製)]によって求めた。表2に光波長350nm、900nmの光透過率を示している。
膜の耐湿性評価は、有機EL素子の評価に準ずる耐湿試験基準に従い、80℃、85%R.Hの高温高湿大気環境にて1000時間放置したのちの膜の比抵抗を、三菱ガス化学社製四探針抵抗測定器ロレスターで測定することにより行った。
表3に、各特性値を示す。
Figure 0005141794
次に、コンタクト抵抗を測定するため、Al膜をスパッタ法にてガラス基板に150nm成膜し、さらにその上に実施例、比較例、従来例のターゲットを用いて100nmの透明導電膜を形成した。さらに、この積層膜を真空中で150℃30分間熱処理した後、下記のTLM(Transmission Line Model)法によりコンタクト抵抗を測定し、表4に記載した。コンタクト抵抗は0.01Ω・cm以上か否かで評価を行った。0.01Ω・cm以上のコンタクト抵抗は、有機ELデバイスとして好ましくないためである。
TLM法では、先ず、半導体基板上に電極間隔が異なる複数のオーミック電極の電極対を形成して、それぞれの電極対について、電気抵抗を測定する。その後、電極間隔を横軸、電気抵抗を縦軸とした座標上に、測定された電気抵抗をプロットし、このプロットされた点から得られた近似的な1次直線の傾き、及び、切片からコンタクト抵抗を求める。
Figure 0005141794
表3〜4の膜特性の比較からわかるように、実施例1〜10は350nmの短波長における透過率がすべて90%以上であるのに対して、比較例1,2および従来例1〜3は90%未満である。さらに、膜の比抵抗についても、耐湿試験前の実施例1〜10はすべて10mΩ・cm以下であるのに対し、比較例はすべて100mΩ・cm以上である。100mΩ・cm以上の比抵抗では有機EL用の透明導電膜として好ましくない。また、耐湿試験について、実施例1〜10のすべての膜が350mΩ・cm以下であるのに対し、比較例1,2と従来例1、2は1000mΩ・cm以上を示し、比較例2,3も高めの比抵抗を示した。
Al膜とのコンタクト抵抗について、実施例1〜10はすべて10−2Ω・cm未満の値を示しているのに対し、比較例1〜4、従来例3が10−2Ω・cm以上の値になっている。10−2Ω・cm以上のコンタクト抵抗特性では、有機EL用の透明導電膜として好ましくない。
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
以上のとおり、本発明の有機EL用透明導電膜は、ITOに比べて低いコンタクト抵抗を得ることができると共に、AZOに比べて短波長領域で高い透過率が得られるため、有機EL素子におけるAlまたはAl合金の金属膜上の透明導電膜として好適である。すなわち、本発明の有機EL用透明導電膜を有機EL素子に使用すれば、良好な電気特性が得られると共に高い輝度を広い波長領域で得ることができことから、低電力で高輝度な有機ELディスプレイ装置の画素を構成する素子として期待される。
1…有機EL用透明導電膜、2…電界発光層、3…AlまたはAl合金の金属膜、4…成膜基板、5…アノード、6…カソード、10…有機EL素子

Claims (3)

  1. 有機EL素子の有機EL層を含む電界発光層とAlまたはAl合金の金属膜との間に形成される透明導電膜であって、
    金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、残部ZnであるAl−Mg−Zn系酸化物からなることを特徴とする有機EL用透明導電膜。
  2. 請求項1に記載の有機EL用透明導電膜において、
    さらに、原子比で、Ga:0.015〜0.085%を含有し、Al−Mg−Ga−Zn系酸化物からなることを特徴とする有機EL用透明導電膜。
  3. アノードと、
    該アノード上に形成された有機EL層を含む電界発光層と、
    該電界発光層上に形成されたカソードと、を備えた有機EL素子であって、
    前記アノードが、AlまたはAl合金の金属膜と、該金属膜と前記電界発光層との間に形成された前記請求項1または2に記載された有機EL用透明導電膜と、を有していることを特徴とする有機EL素子。
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