JP5141645B2 - 車両の挙動制御装置 - Google Patents
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Description
K1・β+K2・dβ/dt …(A)
が参照される(特許文献2)。ここで、K1、K2は、重み係数である。かかるスピン状態量は、車体スリップ角を0に戻すために必要なヨーモーメントに相当する量である。しかしながら、かかる量だけを参照して、挙動安定化制御を開始する場合には、既に触れた通り、時間的な遅れを生ずる可能性がある。そこで、スピン抑制制御に於いては、上記のスピン状態量に更に、車体スリップ角の2階微分値d2β/dt2を加えた線形和、
K1・β+K2・dβ/dt+K3・d2β/dt2 …(B)
を制御量として、挙動安定化制御を実行させる場合がある(K3は、所定の係数)。かかる線形和を用いて制御する場合には、車両にスピンが発生する兆候が現れた段階で、挙動安定化制御が開始されるので、より確実に、車両がスピン状態に陥る可能性を回避できることとなる。この点に関し、本発明の発明者による研究によれば、上記の線形和(B)の如く、車体スリップ角の2階微分値d2β/dt2を含む制御量を用いて挙動安定化制御を実行する場合、急操舵が繰り返されたときには、車体スリップ角の2階微分値d2β/dt2の応答が早く、このことにより、挙動安定化制御の作用が早期に低減し、スピン抑制効果が損なわれる現象が生じ得ることが見出された(挙動制御が開始された後、その制御効果が現れ始めたときに、車体スリップ角の2階微分値がその兆候を捉えてしまうことに起因する。)。そこで、本願出願人による特願2008−204897に於いて、車体スリップ角と、車体スリップ角の微分値と、車体スリップ角の2階微分値とから算出される制御量に基づいて車両のスピンを抑制する挙動制御に於いて、急操舵が左右に(又は右左に)繰り返されたときには、制御量に於ける車体スリップ角の2階微分値の寄与を低減し、これにより、挙動安定化制御の作用の早期の低減を回避し、車体のスリップ角又はヨーレートを迅速に収束させることを提案した。
K1・β+K2・dβ/dt+K3・d2β/dt2
により与えられてよい。その場合、かかる制御量が大きくなると、スピンを抑制するヨーモーメントが発生され、或いは、車両の加速が制限されることにより、スピンの抑制が図られる。制御量に於ける車体スリップ角の2階微分値の寄与の低減は、係数K3の値を0に設定することにより為されてよい。
図1(A)は、本発明の挙動制御装置の好ましい実施形態が組み込まれる自動車を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダルの踏込みに応じて各輪(図示の例では、後輪駆動車であるから、後輪のみ)に制駆動力を発生する駆動系装置(一部のみ図示)と、前輪の舵角を制御するためのステアリング装置30(更に、後輪用の操舵装置が設けられていても良い。)と、各輪に制動力を発生する制動系装置40とが搭載される。駆動系装置は、通常の態様にて、エンジン及び/又は電動機(図示せず)から、変速機(図示せず)、差動歯車装置28等を介して、駆動トルク或いは回転力が後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成されている。なお、車両は、前輪駆動車又は四輪駆動車であってもよく、その場合、駆動系装置の回転力は、前輪又は全輪に伝達される。また、ステアリング装置は、運転者によって作動されるステアリングホイール32の回転を、倍力装置34により回転力を倍力しながら、タイロッド36L、Rへ伝達し前輪12FL、10FRを転舵するパワーステアリング装置であってよい。
図1(B)は、本発明の挙動制御装置を実現する電子制御装置50を制御ブロックの形式にて表したものである。なお、図示の制御装置の構成及び作動は、車両の運転中、電子制御装置50内のCPU等の処理作動に於いて実現されることは理解されるべきである。
SP=K1・β+K2・dβ/dt+K3・d2β/dt2 …(1)
ここで、β、dβ/dt及びd2β/dt2は、それぞれ、車体スリップ角、車体スリップ角の微分値、車体スリップ角の2階微分値であり、K1、K2、K3は、実験的に決定される重み係数である(通常、定数)。かかるスピン状態量は、旋回中の車両のスピン状態又は横滑り量の指標値であり、概して述べれば、第1項及び第2項の和が、車体スリップ角を0に戻すために必要な(安定化)ヨーモーメントの大きさに相当し、車体スリップ角の2階微分値の項(第3項)は、制御応答を早めるべく更に付加されている。
dβ/dt=Gy/Vx−γ …(2a)
により与えられる。なお、車速Vxは、典型的には、車速決定部50dに於いて車輪速センサからの各輪の車輪速値Vwiから公知の任意の態様にて決定されてよいが、車速センサが設けられている場合にはその検出値が用いられてもよい。また、車体スリップ角は、式(2a)を積分して、
β=∫(Gy/Vx−γ)dt …(2b)
により与えられる。そして、車体スリップ角の2階微分値は、式(2a)を微分して、
d2β/dt2=d(Gy/Vx−γ)/dt …(2c)
により与えられる。
上記の如く、VSC部50aでは、スピン状態量を算出し、これらの値が0に収束するよう、各輪のスリップ率(即ち、制動力)の調節或いは駆動出力の制限が実行される。かかる制御に於いて、本発明の発明者の研究によれば、「発明の概要」の欄に於いて述べられている如く、車両の制動系装置にポンプ出力を蓄圧するアキュムレータが組み込まれており、これにより、制御指令に対する制動力発生の応答が速い場合、通常の走行状態から急操舵を実行したときに、旋回外輪に制動力が発生していることが運転者に感知され、運転者のフィーリングが悪化する現象が見出された。また、特願2008−204897に於いても指摘されている如く、右旋回の後に左旋回へ、或いは、左旋回の後に右旋回へと、急操舵が2回別々の方向に繰り返された場合、車体スリップ角又はヨーレートが収束する前に、早期にスピン状態量が低減し、これにより、各輪に与えられるべきスピン抑制のための制動力が早期に低減してしまう現象が見出されている。図2は、上記の如き、通常の走行状態から急操舵を一方の方向に実行したとき(操舵角が右方へ変化させられたとき)の初期にやや過剰な旋回外輪の制動力の増大により運転者のフィーリングが悪化する現象と、更に急操舵が逆方向に為されたときに(操舵角が右方へ変化させられた後、左方へ変化させられる場合)、2回目の急操舵の後にスピン状態量が早期に、即ち、ヨーレートが収束する前に低減する現象とが観察される場合の、操舵角(a)、スピン状態量及びそれを構成する各項(b)、左輪制御量(左前輪制動力)(c)及び右輪制御量(右前輪制動力)(d)の実測データを示したものである(図に於いて、操舵角は、左旋回方向を正と定義し、車体スリップ角は、車両の前後方向軸から見た速度ベクトルの方向の角度で定義される。従って、車両の右旋回時、車体スリップ角は、+方向に変化する。)。
処理(a)[ステップ10]−上記の式(1)にて示されている車体スリップ角、車体スリップ角の微分値及び車体スリップ角の2階微分値の線形和に於ける重み係数K1、K2、K3をそれぞれ任意の態様にて決定する処理;
処理(b)[ステップ20−50]−車両が右方向に急操舵されたか否かを判定し、右方向に急操舵されたと判定されると、そのときからの時間を計測する処理;
処理(c)[ステップ60−90]−車両が左方向に急操舵されたか否かを判定し、左方向に急操舵されたと判定されると、そのときからの時間を計測する処理;
処理(d)[ステップ100−140]−通常の走行状態に在る車両に於いて急操舵が左右方向のうちの一方に為されることにより車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2の絶対値が一旦増大した後0近傍まで降下した時点と車両が右方向又は左方向に急操舵が為された後に所定の期間以内に逆の方向に急操舵が為された後に車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2の符号が反転する時点とをそれぞれ検出し、かかる時点間に於いてステップ10にて設定された係数K3が使用されるように、即ち、車体スリップ角の2階微分値の項の寄与が低減されないように設定する処理;
処理(e)[ステップ150−160]−ステップ100−140で検出される時点間以外に於いて、係数K3を0に設定し直して、スピン状態量に於いて、車体スリップ角の2階微分値の項が反映されないようにする処理;
処理(f)[ステップ170]−上記までの処理に従って与えられた係数K1−K3を用いて、スピン状態量を算出する処理。
K3・d2β/dt2>th2 …(3)
が成立しているか否かがまず判定される(ステップ20)。もし式(3)が成立していれば、右方への急操舵が為されたと判定され、そのことを記憶するために、フラグF1がONとされる(ステップ30)。そして、一旦、フラグF1が設定されると、続いて繰り返される処理サイクルに於いて、カウントT1が増大される(ステップ40、50)。
K3・d2β/dt2<−th2 …(4)
が成立しているか否かがまず判定される(ステップ60)。もし式(5)が成立していれば、左方への急操舵が為されたと判定され、そのことを記憶するために、フラグF2がONとされる(ステップ70)。そして、一旦、フラグF2が設定されると、続いて繰り返される処理サイクルに於いて、カウントT2が増大される(ステップ80、90)。
|K3・d2β/dt2|<th1 …(5)
を満たす否かを判定する処理(ステップ104)とが実行される。ここで、フラッグF1及びF2のうちのいずれか一方のみがONであり、且つ、条件(5)が成立していないときには、通常の走行状態から急操舵が一回だけ実行された状態であり、且つ、車体スリップ角の2階微分値の項がまだ大きいことになるので(フラッグF1及びF2のうちのいずれか一方がONになるとき、車体スリップ角の2階微分値の項の絶対値は既にth1を上回っている。)、F3がONに維持され、後で、K3は0に設定し直されることとなる(ステップ160)。また、処理サイクルが繰り返された後、条件(5)が成立したときには、車体スリップ角の2階微分値の項が一旦上昇した後に降下したことになるので、この時点で、F3がOFFに変更される(ステップ106)。即ち、ステップ102−106では、車両に於いて急操舵が左右方向のうちの一方に為されることにより車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2の絶対値が一旦増大した後に0近傍まで降下した時点が検出され、そのとき初めて、ステップ10にて設定された係数K3が使用されるようにする設定が実行されることとなる。
|K3・d2β/dt2|<th1 …(6)
を満たす否かが判定される(ステップ130)。そして、処理サイクルが繰り返されるうちに、式(6)が成立したときには、そのことを記憶するため、フラッグF3がONに設定される(ステップ140)。
SP=K1・β+K2・dβ/dt …(1’)
により与えられることは理解されるべきである。
(i)急操舵が実行されないとき又は実行される前−車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2は、所定の閾値範囲th2〜−th2から逸脱せず、F1、F2は、全てOFFである。従って、ステップ102に於いてノーと判定され、スピン状態量は、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2を用いずに算出される。
(ii)急操舵がいずれか一方に実行されたとき−車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2が第二の閾値範囲th2〜−th2の一方の側から逸脱し(図2(b)では、th2の側から逸脱)、F1又はF2の一方のみがONに設定され、カウンタT1又はT2による時間の計測が開始される。この段階では、ステップ102に於いてイエスと判定される。しかしながら、ステップ104で、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2が第一の閾値範囲th1〜−th1に入る前であれば、ステップ106が迂回され、ステップ120でノーと判定されるので、スピン状態量は、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2を用いずに算出される。
(iii)車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2の大きさが降下したとき−ステップ104で、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2が第一の閾値範囲th1〜−th1に入ると、ステップ106にてF3がOFFに設定される。この時点では、急操舵が逆方向に為されていないので、ステップ120でノーと判定され、結局、ここで初めて、スピン状態量は、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2をそのまま用いて算出される。
(iv)急操舵がいずれか一方に実行された後、所定の期間が経過する前に、急操舵が別の方向に実行されたとき−車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2が所定の閾値範囲th2〜−th2の他方の側から逸脱し(図2(b)では、−th2の側から逸脱)、F1及びF2の双方がONに設定された状態となり、ステップ120の判定がイエスとなる。しかしながら、この段階では、まだ、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2の絶対値は、所定値th1より大きく、フラッグF3は、OFFのままであるので、ステップ150の判定は、ノーであり、スピン状態量は、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2をそのまま用いて算出される。
(v)車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2の符号が逆転するとき−車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2の絶対値が所定値th1より小さくなりフラッグF3はONとなる(ステップ130、140)。そうなると、ステップ150の判定は、イエスとなり、K3が0に設定され、スピン状態量は、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2を無視して算出される。
(vi)最初の急操舵から所定の期間が経過したとき−ステップ100の判定がイエスとなり、それまでのフラッグ及びカウンタの設定が図3のステップ110の如くリセットされる。従って、スピン状態量は、車体スリップ角の2階微分値の項K3・d2β/dt2を用いずに算出される(最初の急操舵があったときから、2回目の急操舵がないまま、所定の期間が経過したときも同様である。)。
12FL〜RR…車輪
28…差動装置
30…ステアリング装置
34…倍力装置、操舵角センサ
36L、R…タイロッド
40…制動装置
42FL〜RR…各輪ホイールシリンダ
46…油圧回路
50…電子制御装置
62…横加速度センサ
64…ヨーレートセンサ
Claims (9)
- 車体スリップ角と、車体スリップ角の微分値と、車体スリップ角の2階微分値とから算出される制御量に基づいて車両のスピンを抑制する車両の挙動制御装置であって、前記車両の左右方向のうちの一方の方向に操舵が実行されて前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが所定値を超えた後に前記所定値を下回るまで前記制御量に於ける前記車体スリップ角の2階微分値の寄与が低減されることを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、更に、前記車両の左右方向のうちの一方の方向に操舵が実行されて前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが前記所定値よりも大きい第二の所定値を超えたときから所定の期間内に前記一方の方向とは逆の方向に操舵が実行され前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが前記第二の所定値を超えた後、前記制御量に於ける前記車体スリップ角の2階微分値の寄与が低減されることを特徴とする装置。
- 請求項1又は2の装置であって、前記制御量に於ける前記車体スリップ角の2階微分値の寄与が低減されるとき、前記制御量に於ける前記車体スリップ角の2階微分値の寄与が無視されることを特徴とする装置。
- 請求項1乃至3のいずれかの装置であって、前記車両の左右方向のうちの一方の方向に操舵が実行されて前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが前記所定値を超えた後に前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが前記所定値を下回ったときから前記一方の方向とは逆の方向に操舵が実行され前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが前記所定値を超えた後に前記所定値を下回るときまで前記制御量に於ける前記車体スリップ角の2階微分値の寄与が低減されないことを特徴とする装置。
- 車体スリップ角と、車体スリップ角の微分値と、車体スリップ角の2階微分値とから算出される制御量に基づいて車両のスピンを抑制する車両の挙動制御装置であって、前記車体スリップ角の2階微分値が、前記車両の左右方向のうちの一方の方向に操舵が実行されて前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが所定値を超えた後に前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが前記所定値を下回ったときから前記一方の方向とは逆の方向に操舵が実行され前記車体スリップ角の2階微分値の大きさが前記所定値を超えた後に前記所定値を下回るときまでの期間のみ、前記制御量に寄与することを特徴とする装置。
- 請求項1乃至5のいずれかの装置であって、前記制御量が、車体スリップ角βと、車体スリップ角の微分値dβ/dtと、車体スリップ角の2階微分値d2β/dt2と、所定の係数K1、K2、K3を用いて、
K1・β+K2・dβ/dt+K3・d2β/dt2
により与えられることを特徴とする装置。 - 請求項6の装置であって、前記制御量に於ける前記車体スリップ角の2階微分値の寄与が低減されるとき、係数K3の値が0に設定されることを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、前記制御量に基づいて前記車両のスピンを抑制するヨーモーメントを発生することを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、前記制御量に基づいて前記車両の加速が制限されることを特徴とする装置。
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