JP5140006B2 - 炭酸亜鉛の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、Zn含有原料、とくに製鉄所においてZnを除去するための還元炉等から発生するZn含有ダストやその他のZn含有発生物から、顔料、医療品等に供せられる酸化亜鉛の原料や、電気亜鉛メッキ用Zn素材として使用される炭酸亜鉛(塩基性炭酸亜鉛)を製造する方法に関する。
より詳しくは、本発明は、(NHCO(炭酸アンモニウム)およびNHOH(水酸化アンモニウム)を含む炭酸アンモニウム溶液にZn含有発生物を溶解させ、その溶液中の不純物を金属Znの添加により低減した後に、当該溶液より炭酸亜鉛を晶析させる炭酸亜鉛の製造方法に関し、とくにZn含有発生物の溶解方法に関する。
なお、本発明において炭酸アンモニウム溶液とは、(NHCOおよびNHOHを含む溶液のことをいう。
Zn含有原料から炭酸亜鉛を製造する方法として、炭酸アンモニウム溶液にZn含有原料を溶解させ、その溶液中のアンモニアを加熱ないし減圧により蒸発させて炭酸亜鉛を晶析させる、いわゆる炭酸アンモニウム溶解法が知られている。
この炭酸アンモニウム溶解法によって、製鉄所で発生するZn含有ダストから炭酸亜鉛を製造する場合、製鉄所のZn含有ダストはアルカリ、ハロゲンおよび重金属類などの不純物を多く含むことから、高純度の炭酸亜鉛を製造するためには、これら不純物の除去が重要である。
この不純物の除去方法として、例えば特許文献1には、炭酸アンモニウム溶液にZn含有ダストを溶解させ、その溶液に金属Znを添加してイオン交換を行い、不純物としてFe、Pb等の重金属類を沈殿させ残渣として除去する方法が開示されている。
また、特許文献2には、炭酸アンモニウム溶解法におけるZn含有ダストの溶解方法の一例として、複数の溶解槽および沈降分離槽を設けて、溶解用の溶液を第一段溶解槽から最終段溶解槽へ、溶解Znを含むスラリーを溶解槽最終段から前段へ返送する向流溶解法が開示されている。これは、Zn含有ダストを溶解する際に発生する水素の気泡により微細なダストの未溶解残渣のFe、Pb分が沈降せず懸濁したまま次工程へ移送されることによる溶解能力の低下、製品中への不純物成分であるFe、Pb分混入の増加を防ぐことを狙ったものである。
また、特許文献3には、Zn含有ダストの溶解方法の他の例が開示されている。これは、不純物イオン(Fe、Pb)が多くなる原因が原料中のZn含有物の過溶解と考え、過溶解を防止するため、溶解工程等の槽に設置した撹拌機の回転速度を制御する方法である。
さらに、特許文献4には、炭酸アンモニウム溶液とZnを含む未溶解残渣とを向流させて溶解する際に、「撹拌過剰による撹拌流による添加物の早期浮上、その結果未溶解のまま次槽へ流されることによる不純物分離不足」、「撹拌不足による早期沈降によるスラリー量増加、その結果によるポンプ動力増・キャビテーション等のトラブル発生」などの不都合の防止を図りつつ微細なダストを利用するための方法として、添加Zn粉の粒度を添加場所により変えること、溶解槽間を移行する清澄液中の未溶解分の量に応じて攪拌羽根の回転数を制御する方法が開示されている。
特公平2−35693号公報 特公平01−038050号公報 特公平05−044410号公報 特公平06−076213号公報
炭酸アンモニウム溶解法において、とくにZn含有原料の溶解後、特許文献1のように不純物の除去のために金属Znを添加する場合、Zn含有原料の溶解工程で求められる最大の基本要件は「溶解に使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力(いわゆる飽和溶解度)のZn濃度近くまでZn含有原料中のZnを溶解させること」である。その理由は以下のとおりである。
溶解工程の次工程の精製工程では金属Znを添加し、標準電極電位の差を利用して、次式(1)に示すようなイオン交換反応によりPbやCdのようなZnよりも高い標準電極電位の重金属不純物元素(M)の低減を行う。
2+ + Zn → M↓ + Zn2+ …(1)
もし、溶解工程でZn含有原料の配合量が大幅に不足で、炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力に比べて実際のZn濃度が低い状態で次の精製工程に供されると、Pb等の不純物元素とのイオン交換用の金属Znが本来目的のイオン交換に用いられる以外に炭酸アンモニウム溶液の溶解能力までZn値を増加させることにも大量に消費される。すなわち、精製用Znの消費量が増加し、製造コストの増加をもたらす。
一方、溶解工程で炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力以上のZn量となるようにZn含有原料を過剰に配合すると、溶解しきれずに溶解残渣が発生するか、溶解能力以上に溶解した過溶解、過飽和の状態となる。過溶解、過飽和は非常に不安定な状態であり、本発明者の経験でも濾過後の清澄液が再度沈殿を生じるなどプロセス制御、品質保証に不都合な現象が多々発生する。上記特許文献3にも、過溶解の不都合が記されている。
このため、溶解工程では使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力(いわゆる飽和溶解度)のZn濃度に相当するZn量を含むZn含有原料を過不足なく添加することが理想的であり、最も好ましい。
炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力は含有する(NHCOおよびNHOHの濃度によりに大幅に変化するが、これらは工業原料を配合して調整するため、工業的な精度で炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力は制御することが可能である。これに対して、Zn含有発生物は、製鉄所で発生するZn含有ダストその他のZn含有発生物であって大ロットの鉱工業製品ではないので、そのZn品位(濃度)は一定ではなく、常に変動する。かつその変動幅も大きく、一例として回転炉床型還元炉の場合ではその二次ダスト中のZn含有量は24時間で最大10〜20質量%の範囲で変化する場合もある。よって、大ロットの鉱工業製品である原料のように、事前のロット毎の代表分析によって最適の原料配合を標準値として決めて、その標準値に従い操業する方法は現実的ではない。
ここで、上記特許文献2に開示された溶解方法は、溶解用の炭酸アンモニウム溶液を第一段溶解槽から最終段溶解槽へ、溶解Znを含むスラリーを溶解槽最終段から前段へ返送する向流溶解法であり、常に最終段階で新たな溶解Znを含むスラリーが炭酸アンモニウム溶液に接する方式であるため、常に炭酸アンモニウムのZn溶解能力のZn濃度まで溶解されるように思えるが、必ずしもその保証はない。例えば、使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力に見合うZn量よりはるかに少ないZn量しか含有していないスラリーを供給して操業を続ければ、最終段階でもZn溶解能力のZn濃度までは達し得なくなる。逆に、使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力に見合うZn量より過剰な量のZn量のスラリーを常に供給すれば、Zn溶解能力のZn濃度まで溶解した炭酸アンモニウム溶液が得られる。ただし、炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力以上の過剰なZnを供給した結果、過溶解、過飽和が発生する可能性が増大するとともに、残渣になるZnが増加してZn歩留が低下しコスト増となる。
上記特許文献3による溶解方法では、過溶解を防止する効果はあったとしても、その構成上、溶解不足を防止する機能はなく、使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力のZn濃度までのZn含有原料中のZn溶解を保証するプロセスにはなり得ない。
上記特許文献4は、上記特許文献2と同様の向流溶解法において粒径10μm以下の微細な粉体Zn原料を障害なく使用する方法を開示するものであって、過溶解や溶解不足を防止する方法を開示するものではない。
以上のように「使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力(いわゆる飽和溶解度)のZn濃度近くまでZn含有発生物中のZnを溶解すること」および「使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力以上に溶解した過溶解、過飽和の状態を避けること」の両方を、容易かつ確実に実現する溶解方法は未だ存在していない。この溶解方法を提供することが本発明の目的である。
本発明は、(NHCOおよびNHOHを含む炭酸アンモニウム溶液に製鉄所で発生するZn含有発生物を溶解させ、その溶液中の不純物を金属Znの添加により低減した後に、当該溶液より炭酸亜鉛を晶析させる炭酸亜鉛の製造方法において、炭酸アンモニウム溶液にZn含有発生物を溶解させる溶解工程を行う前に、実際の溶解に用いる炭酸アンモニウム溶液と同じ組成の炭酸アンモニウム溶液にZn含有発生物を試溶解した液を分析することにより、当該Zn含有発生物中の、炭酸アンモニウム溶液に容易に溶解するZn(以下「易溶性Zn」という。)の含有量を把握し、これに基づいて、当該Zn含有発生物からの易溶性Znの配合量が、当該炭酸アンモニウム溶液の組成により決まるZn溶解能力に対して80〜100質量%となるように、炭酸アンモニウム溶液に対するZn含有発生物の配合比率を決定し、溶解工程を行うことを特徴とするものである。
本発明によれば、炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造の溶解工程において、過不足なく適正量のZn含有発生物を配合できるようになり、これによってZn含有発生物のZn歩留の向上、精製用金属Znの使用量減少、溶解残滓量の減少等の製造コスト削減効果が得られる。また、過溶解に起因する濾過後の清澄液の再懸濁などによるプロセスの不安定化を防止でき、最終的な炭酸亜鉛製品の品質が安定する。
炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造の基本プロセスを示すフロー図である。 本発明において溶解工程の配合を決定する手順を示すフロー図である。
まず、炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造の基本プロセスを、図1を用いて説明する。
第一工程は洗浄工程である。この工程は使用するZn含有発生物を、温水などを用いて水洗浄して、水溶性であるNa、K、Cl等のアルカリ・ハロゲン類の不純物を溶解除去する工程である。使用するZn含有発生物が水溶性のアルカリ・ハロゲン類の不純物を実質的に含有していなければ省略することが可能である。洗浄工程終了後、付着洗浄水に含有される不純物を減少させるために固液分離を行う。
第二の工程は溶解工程である。この工程は、Zn含有発生物中のZn成分を炭酸アンモニウム溶液で溶解する工程である。洗浄工程で洗浄されたZn含有発生物中のZnは、次式(2)に示すように炭酸アンミン錯体として溶解する。溶解工程終了後、残渣を分離するため固液分離を行い、濾液側を次工程に供する。
ZnO+2NHOH+(NHCO→[Zn(NH]CO+3H
…(2)
溶解工程で使用する炭酸アンモニウム溶液の組成の一例は、(NHCO濃度:10〜20質量%程度、NHOH濃度:10〜20質量%程度である。ただし、この組成例に限定されるものではない。(NHCOおよびNHOHの濃度が大であるほどその溶液のZn溶解能力は増加し、装置の単位体積あたりの生産効率は増加するが、薬品コストが増加し、また後述の第四工程においてアンモニアを分離・揮発させるための熱負荷が増加する。逆に、(NHCOおよびNHOHの濃度が過小であるとその溶液のZn溶解能力が小さくなり、生産効率が著しく低下する。これらを考慮して、そのプラントごとに最適値が選択される。
第三の工程は精製工程である。Zn含有発生物中のFeやPbのような不純物重金属成分も、Znと同じように炭酸アンミン錯体として溶解する。Znよりも標準電極電位が高い重金属成分は、金属Znを添加することにより上記の(1)式のイオン置換反応によって置換析出させることができる。その後、この精製工程で発生した残渣を固液分離により除去し、清澄濾液を次の第四の工程に供する。
第四の工程では、Znの炭酸アンミン錯体を含む精製後の清澄濾液へ、蒸気を吹き込み、アンモニアを分離・揮発させて、炭酸亜鉛の結晶を晶析させる。その後、晶析させた炭酸亜鉛の結晶を洗浄後、固液分離、乾燥して炭酸亜鉛の製品を得る。
次に、本発明の特徴である溶解工程について説明する。本発明における溶解工程の要点は、Zn含有発生物中に含有される易溶性Zn量を簡易かつ迅速に分析し、その分析結果を用いて使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力に相当するZn溶解量となるように、Zn含有発生物の配合を決定することにある。以下、図2を用いて具体的に説明する。
洗浄工程後の固液分離により得られた脱水ケーキ(洗浄後のZn含有発生物)から適量をサンプリングする。実際の溶解工程で用いる予定の炭酸アンモニウム溶液と同じ組成の炭酸アンモニウム溶液を用いて、脱水ケーキのサンプルを試溶解する。試溶解させる脱水ケーキサンプルの量は、試溶解に用いる炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力を考慮し、Zn含有発生物中の易溶性Znが確実に全量溶解できるような量とする。完全に溶解しきれないとZn含有発生物中の易溶性Zn含有量を知ることにならない。具体的には、試溶解に用いる炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力を把握しておき、試溶解に用いる脱水ケーキサンプルの全量がZnであるとしてもその溶解能力を上回らない量を選んで試溶解を行う。
試溶解に用いる炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力は、その溶液の配合組成から溶液に含まれるアンモニアイオン量や炭酸イオン量から理論的に計算して定める方法、あるいは実際に溶解実験を行ってZn過溶解を生じない値として定める方法によって把握できる。ただし、後者の方法のほうが実際的である。このZn過溶解を生じない値は、例えば溶解後二三日静置しても懸濁物や沈殿を生じない濃度として判断する。
ここで、同じ組成の炭酸アンモニウム溶液とは、実際に溶解に用いる炭酸アンモニウム溶液が(NHCOおよびNHOHの水溶液であれば、試溶解用の炭酸アンモニウム溶液も同じ濃度の(NHCOおよびNHOHの水溶液であること、あるいは実際に溶解に用いる炭酸アンモニウム溶液が第三の成分を含むのであれば、試溶解用の炭酸アンモニウム溶液も同じ濃度の第三の成分を含むことを意味する。
Znを溶解した炭酸アンモニウム溶液を濾過し、その清澄液を何らかの迅速分析法によって、脱水ケーキ(洗浄後のZn含有発生物)サンプル中の易溶性Zn含有量を分析する。その分析法の詳細は後述する。
得られた脱水ケーキ(洗浄後のZn含有発生物)サンプル中の易性Zn含有量の分析値を用いることにより、溶解工程で投入する易溶性Zn量を意図する量に制御できる。本発明では、脱水ケーキ(洗浄後のZn含有発生物)からの易溶性Znの配合量が、使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力の80〜100質量%に相当する量となるように、脱水ケーキ(洗浄後のZn含有発生物)の炭酸アンモニウム溶液に対する配合量を調整する。このような量のバランスにすれば、次の精製工程での溶解Zn量不足による精製用金属Znのロスや、Zn過溶解による不安定現象、溶解工程での必要以上のZn未溶解残渣の発生などの不都合を防止できる。
以上の本発明を適用する処理プロセスとしては、各工程を一定量ごとに処理するバッチ処理方式が最も好適であるが、必ずしもその適用はバッチ処理方式に限定されるものではなく、連続処理方式へも適用可能である。これらについての詳細は後述する。
本発明において、Zn含有発生物からの易溶性Znの配合量を、使用する炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力の80〜100質量%に相当する量とした理由は、以下のとおりである。
まず、上限を100質量%とした理由について説明する。Zn溶解能力の100%をごく僅かでも上回ると、常に溶液が懸濁・沈殿するなど不安定になる訳ではない。ただし、100%を上回るとそのような不安定の発生頻度が増加し、110%、120%と過剰程度が大きくなるにつれて、その発生頻度が著しく増加する。したがってこのような不都合を避けようとする本発明の目的からは、狙いの上限側はZn溶解能力の100%とすることが好適かつ必然である。
次に、下限を80質量%とした理由について説明する。精製工程における高価な精製用金属Znの使用量を削減するというコスト低下の観点からは、可能な限り100%に近い値を狙うべきであるが、同時に考慮しなければならないのは、実行上の精度である。すなわち、設備機器や操業上の精度が限りなく良好で誤差がゼロに近ければ、コストの観点から100%に近いところを狙って操業できるが、精度が悪ければその誤差を考慮して狙い値を設定すべきである。ただし、その誤差の最大値以上に狙いを下げるのは無駄である。
考慮すべき精度要因の第一は、Zn含有発生物中の易溶性Zn含有量を把握するための分析の精度である。分析専門家による正式分析であればその分析誤差は、工業的な配合を行う際の他の要因より小さく現実的には考慮する必要がないが、本発明においては、オンサイトで非専門家が簡易迅速分析を行うことを想定しており、この場合、発明者の経験から最大で±3%程度の誤差を考慮する必要がある。
第二の要因は配合操作の精度である。すなわち、決定したZn含有発生物配合値(ドライベース)に対する、ウエットベースの実際のZn含有発生物配合量の誤差である。切り出し配合装置の秤量器精度、切り出し装置の精度、脱水ケーキの含水量測定の精度などが含まれる。使用する装置、機器次第ではあるが、最大で±3%程度の誤差を考慮する必要がある。
第三の要因は炭酸アンモニウム溶液の濃度誤差である。炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力は、それが含有する(NHCOおよびNHOHの濃度に依存して変化する。例えば、上述の濃度範囲の例において、(NHCO濃度:10質量%程度、NHOH濃度:10質量%程度の場合のZn溶解度は80g/L程度、(NHCO濃度:20質量%程度、NHOH濃度:20質量%程度の場合のZn溶解度は200g/L程度である。よって設定した溶液組成から実際に溶液中の(NHCOおよびNHOHの濃度が変化、とくに実濃度が低下しているとZn溶解能力が低下し、意図せず配合Zn量が溶解能力の100%を上回るケースが発生する。
炭酸アンモニウム溶液の濃度誤差の原因には、アンモニアの蒸発による濃度変化および作液装置の両物質の配合精度などが含まれるが、前者の影響が大きい。すなわち、炭酸アンモニウム溶解法では、上述のとおり加熱によりアンモニアを蒸発除去し炭酸亜鉛を晶析させることから分かるように、アンモニアは蒸気圧が高く揮発減少しやすい。温度や時間などの溶解条件や溶解装置の構造次第ではあるが、溶解処理中に容易に実際の濃度が低下し得る。前に例示した溶液濃度範囲ではNHOH濃度が1質量%低下すると、炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力が10g/L程度低下する。この範囲でのZn溶解量絶対値が80〜200g/Lであることに比し、その比率はかなり大きい。このアンモニアの蒸発ロスと作液装置の誤差の分離は困難であるが、(NHCO濃度の誤差も含めた炭酸アンモニウム溶液のZn溶解度に対する溶液濃度誤差影響は、発明者の操業経験からは設定溶解能力に対して最大で12%程度である。
以上の精度要因を考慮し、そのマイナス側(Zn溶解能力が低下する側)の最大を考えると誤差は18%程度となる。よって本発明では、その他の誤差要因も考慮して狙いの下限側を80%としたものである。誤差の最大程度がこれであるから、これ以上低めの配合を狙うことは、精製用金属Znの使用量が増加することとなり、好適でない。
ここで、とくに製鉄プロセスで発生するZn含有ダストのようなZn含有発生物においては、そのZn含有発生物中の全Zn含有量が炭酸アンモニウム溶液に溶解するわけではない。単純なZn酸化物の形のZnは容易に溶解するが、いわゆるジンクフェライトといわれるFe−Zn複合酸化物などは、炭酸アンモニウム溶液では溶解が困難である。したがって強酸溶解などの分析法で得られる全Zn濃度と、炭酸アンモニウム溶液に易溶であるZn濃度は異なる。本発明では、この炭酸アンモニウム溶液に易溶であるZnを易溶性Znという。
発明者の経験による一例では、回転炉床式還元炉発生の二次ダスト中の全Zn中の易溶性Znの比率は、70〜95質量%程度の値でバラツキを持つ。よって、Zn含有発生物中の易溶性Zn含有量を適正に把握するには、上述のとおり、Zn含有発生物を溶解するために実際に使用する炭酸アンモニウム溶液と同一の組成の炭酸アンモニウム溶液を使用して試溶解をし、その液のZn分析値を用いる必要がある。炭酸アンモニウム溶液とは異なる溶液で試溶解した液中のZn量を分析した結果には、炭酸アンモニウム溶液に難溶であるZn値も含まれてしまう恐れがあるからである。
試溶解には、上述のとおり、Zn含有発生物を溶解するために実際に使用する炭酸アンモニウム溶液と同一の組成の炭酸アンモニウム溶液を使用することが必要であるが、溶解温度等の溶解条件も実際の溶解工程と同一にすることが好ましい。溶解条件も同一にすることで、Zn含有発生物中の易溶性Zn含有量をより正確に評価できる。
ここで、同一の組成、同一の溶解温度とは、工業的な意味で実質的に同一と見なされる範囲をいう。例えば、実際の溶解を温度制御範囲±3℃の制御能力の溶解槽にて50℃設定で溶解するなら、試溶解も50℃狙いで行うという意味である。
Zn分析のためのサンプル量は、その用いる分析方法その他により適宜定めれば良い。洗浄工程を実施していれば、その性格上、十分な撹拌・混合を行っているので、サンプリングにあたって縮分操作などを厳密に行う必要はない。
次に分析方法について説明する。本発明においてZn含有発生物中の易溶性Zn含有量を把握するために行う試溶解液中のZn分析の方法は、とくに限定されないが、次の第一および第二の条件を満たす分析方法であることが好ましい。
第一の条件は、易溶性Znをある程度の精度で分析できることである。ある程度の精度とは、Zn量で2桁の分析精度もあれば通常十分で、3桁、0.1質量%の桁の分析精度までは不要である。これは、上述の他の誤差要因を考えると、分析精度のみ精度が高くても活かされないからである。勿論、他の誤差要因次第では3桁の分析精度が意味を有する場合もある。難溶性Znも含めた全Zn量が得られる分析法が本発明で使用できないことは、上述のとおりである。
第二の条件は、迅速に分析できることである。迅速な分析が求められることは、製造プロセスの途中で分析を行い、それを次工程の配合に反映するのであるから当然である。分析所要時間が長ければ長いほど、工程間のバッファーとなる槽類の容量が大きくなり、設備費が増加する。バッチ処理法の場合には工程間に前後工程の所要時間差やバラツキを吸収するため、装入ホッパーなどの形で通常それぞれ一バッチないしそれを多少上回る程度の中間仕掛を置くものであるから、分析所要時間は溶解工程の一バッチ処理時間程度であれば十分である。具体的には20〜40分程度以下であれば通常十分である。
連続処理式でも20〜40分程度の分析所要時間分の制御アクション遅れは、実質的に問題にならない。その程度の時間ならプロセス制御や品質管理に問題となるほど急減にZn含有発生物中の易溶性Zn含有量が急変すること、その結果としての制御時間遅れの悪影響は通常ない。
さらに安価かつ簡易に分析できる方法であることが望まれる。例えばICP発光分析装置など高価な機器分析装置を用いれば、上記第一の条件と第二の条件を満たせることは明らかであるが、分析装置の費用の増加により製造プラント全体の採算性が悪化する。操作するにも専門知識が必要となり、また粉塵・温度など分析器設置環境への要求も厳しくなり、製造プラントの一部においてプラントのオペレーターが簡易に分析できるものではなくなる。よって製造プラントの一部で特別な設置環境を必要とせず、かつ分析の専門家でないプラントのオペレーターが操作をして実用にたる分析ができる方法が好ましい。
具体的には、高価な機器分析法ではなく、滴定などの化学的な分析法の方がやや精度は低くなったとしても以上の条件を満たす現実的な方法である。
本発明では、上述の分析によりZn含有ダスト中の易溶性Zn含有量を把握し、その結果に基づいて、Zn含有発生物からの易溶性Znの配合量が、炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力に対して80〜100質量%となるように配合調整する。この易溶性Zn含有量判明後の配合調整の方法には、理論的には二つの方法がある。一つの方法は炭酸アンモニウム溶液の組成を変更する方法、もう一つの方法はZn含有発生物と炭酸アンモニウム溶液の配合比率を調整する方法である。以下、バッチ処理を例にとり、説明する。
前者は、Zn含有発生物と炭酸アンモニウム溶液の配合比率は常に一定とし、炭酸アンモニウム溶液の(NHCOおよびNHOHの濃度を、Zn含有ダスト中の易溶性Zn含有量に応じて変更調整する方法である。すなわち、標準の易溶性Zn含有量に基づく配合比率と標準濃度を定めておき、易溶性Zn含有量が低い場合には(NHCOおよびNHOHの濃度をそれに応じて減少させ、易溶性Zn含有量が高い場合には濃度を増加させる方法である。
後者は、炭酸アンモニウム溶液の(NHCOおよびNHOHの濃度およびその液量は常に一定とし、炭酸アンモニウム溶液に対するZn含有発生物の配合比率をZn含有ダストの易溶性Zn含有量に応じて変更調整する方法である。
本発明では、炭酸アンモニウム溶液の(NHCOおよびNHOHの濃度およびその液量を一定にする後者の方法を採用する。すなわち、炭酸アンモニウム溶液の(NHCOおよびNHOHの濃度とその液量を一定にすることは、炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力を一定にすることであり、溶解工程以降の精製工程や晶析工程のZn量を一定とすることである。したがって、Zn含有発生物中の易溶性Zn含有量が変動しても溶解工程以降の工程への変動影響をなくすることができる。これは操業安定および品質確保の観点から必要なことである。
逆に前者のような炭酸アンモニウム溶液の濃度を変更する方法を採用すると、溶解・精製後の溶液の単体体積あたりのZn含有量が時々刻々変化することになる。これは後の晶析工程で一定量の溶液を処理しても、晶析する炭酸亜鉛の量が変化することになり、晶析工程出側の固液比が変化する。また晶析に必要な蒸気のエンタルピー量も一定とならない。このような状態では操業管理が困難であり、品質が安定しない。
以上の配合調整方法の説明は、バッチ処理を前提に液量を一定と表記したが、連続処理の場合には、「液量」を「流量ないし物量速度」、具体的にはton/hrなどに置き換えればよい。このように読み替えれば、連続処理でも同様の概念で整理できる。
このように炭酸亜鉛製造プロセスの実際の製造方法には、工程ごとのバッチ処理の場合と連続処理の場合とがある。
前者のバッチ処理では、例えば洗浄工程として一定量のZn含有発生物を一ロットとして洗浄槽に装入し所定量の洗浄水を加えて洗浄を行う。洗浄が完了したら、そのロットのスラリーを固液分離に供して、得られた脱水ケーキを次の溶解槽へ装入して、相当量の炭酸アンモニウム溶液を加えて溶解する。以降も同様に各工程を一定量のロット単位で処理していく。また第一回洗浄処理・第二回洗浄処理のように各工程をさらに数段階に分けてバッチ処理を行う場合もある。
後者の連続処理では、各工程を連続的に行う。例えば、洗浄槽に一定速度でZn含有発生物を連続装入しつつ、見合いの洗浄水を連続添加し、連続的に洗浄を行う。洗浄槽から原料投入速度見合いでスラリーを引抜き、固液分離に供する。脱水ケーキは連続的に溶解槽へ装入し、見合いの速度で炭酸アンモニウム溶液も同時に添加する。以降も同様に各工程でマスバランスが取れるよう連続的に入れ出しして処理を行う。また、第一洗浄槽・第二洗浄槽のように各工程にて複数槽を使用して連続処理を行う場合もある。さらに、一部工程をバッチ処理、他を連続処理として両方を組み合わせる場合もある。
本発明を適用するには、洗浄および溶解工程はバッチ処理とすることが最も好ましい。その理由は、ロット単位のバッチ処理であるため、Zn含有発生物中の易溶性Zn含有量を迅速に分析した結果を、そのロットが使用される溶解工程での配合に直接的かつ正確に反映できるためである。本発明の目的である精製用金属Zn使用量の削減と、過剰配合による品質不安定防止の両立が図りやすい。バッチ処理は本発明の効果をより活かすための方法といえる。
しかし、洗浄および溶解工程がバッチ処理でなければ、本発明が適用できない訳ではない。連続処理でも、Zn含有発生物中の易溶性Zn含有量の変動周期を考慮した上で、Zn含有発生物のサンプリング、その迅速分析および溶解工程での配合変更の頻度を実質的に問題がないように定めればよい。具体的には、使用するZn含有発生物中の易溶性Zn含有量の変動程度、変動周期を事前に調査しておき、その程度に応じて前記頻度を定めれば良い。例えば、易溶性Zn含有量にして数質量%の変動幅にて日単位で変動しているのであれば、日に3〜4回の頻度でZn含有発生物のサンプリング、迅速分析および溶解工程での配合変更を行えば、実際上の問題はない。ただし、バッチ処理に比し、配合Zn狙いを好適範囲の中であっても高めの狙いとすることは避けるほうが好ましい。
バッチ処理であれば、原則としてロットごとに、連続処理であれば上述のような基準で定めた頻度ごとにZn含有発生物をサンプリングする。バッチ処理でも易溶性Zn含有量の変動実績から判断してZn含有発生物中の易溶性Zn含有量の変動程度が少ない場合は、必ずしも全ロットからサンプリングを行う必要はない。
3mの容積の溶解槽を用いてバッチ溶解を行い、Zn含有発生物の易溶性Zn分析結果に基づく配合比率の調整を実施した本発明の実施例と、上記調整を実施しなかった比較例との比較を行った。
製造プロセスは図1に示したプロセスとし、本発明における洗浄後のZn含有発生物(脱水ケーキ)の易溶性Zn分析およびその結果の配合比率への反映は図2の方法で行った。易溶性Zn分析は、溶解工程で使用するものと同じ炭酸アンモニウム溶液で試溶解後に、迅速分析により行った。具体的には、一般的にZn迅速分析法として精度良好といわれているEDTA標準溶液による滴定分析により行った(その具体的な方法は、例えば丸善「分析化学便覧」参照)。また、配合比率への反映方法は、炭酸アンモニウム溶液の濃度および液量を一定とし、分析結果を反映した配合比率設定値に従い、洗浄後のZn含有発生物(脱水ケーキ)の一バッチ当りの投入量を変更した。
比較例では、Zn含有発生物中の易溶性Zn含有量を標準の45.8質量%と仮定して、炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力の95%を狙ってZn含有発生物を配合した。
Zn含有発生物としては、回転炉床式還元炉発生の二次ダストをバグフィルターで捕集したものを用いた。一日に発生した二次ダストのフレコン9袋を、半分ずつに縮分し、本発明の実施例と比較例のそれぞれに供した。よって溶解槽は各ロットとも半量レベルの操業となった。
本発明の実施例と比較例共通の条件を表1に示す。
炭酸アンモニウム溶液としては、(NHCOおよびNHOHそれぞれ120g/Lを純水に溶解した水溶液を使用した。溶解時の温度は50℃狙いとした。炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力はビーカー実験により事前に求めた。すなわち、上記炭酸アンモニウム溶液をビーカーに作製し、易溶性Zn含有量が既知であるZn含有発生物(回転炉床式還元炉発生の二次ダスト)を適宜量を変えながら添加して、二三日静置後も含めて懸濁物や沈殿を生じなかった最大の濃度として89kg−Zn/mを得た。
Figure 0005140006
本発明の実施例の結果を表2に、比較例の結果を表3に示す。それぞれの表の(F)欄〜(H)欄は、結果の理解のため専門の業者で精度高く分析した易溶性Znの分析値および、それを用いて計算した配合実績の易溶性Zn量と炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力89kg−Zn/mに対する過不足である。
本発明の実施例では、No.1〜No.9の9回とも全く問題が生じなかった。これに対して、比較例では溶解後の固液分離後の清澄濾液での再懸濁が2回生じた(No.8,9)。これは易溶性Zn含有量を標準の45.8質量%とした一定配合では、結果的に表3の(G)欄に示したように炭酸アンモニウム溶液のZn溶解能力を大きく上回る易溶性Znが配合されたため、溶解時に一時的に過溶解状態になっていたものが、時間経過とともに沈殿したものと理解できる。
比較例のNo.2では精製後濾液中の不純物濃度が、Fe=16mg/L、Pb=55mg/Lと精製不足を生じた。これは、No.2のZn含有発生物の易溶性Zn量は(F)欄に示したように実際には38.0質量%と標準の45.8質量%よりかなり低かったため、結果的に溶解濾液中のZn濃度が70.1kg/mと少ないため((G)欄参照)、精製用金属Zn添加量が不足であったためと理解できる。
このように溶解に供するZn含有発生物中の易溶性Zn含有量を簡易迅速分析で把握し、それを配合に活用して溶解を行う本発明の効果が明確に確認された。
Figure 0005140006
Figure 0005140006

Claims (1)

  1. (NHCOおよびNHOHを含む炭酸アンモニウム溶液に製鉄所で発生するZn含有発生物を溶解させ、その溶液中の不純物を金属Znの添加により低減した後に、当該溶液より炭酸亜鉛を晶析させる炭酸亜鉛の製造方法において、
    炭酸アンモニウム溶液にZn含有発生物を溶解させる溶解工程を行う前に、実際の溶解に用いる炭酸アンモニウム溶液と同じ組成の炭酸アンモニウム溶液にZn含有発生物を試溶解した液を分析することにより、当該Zn含有発生物中の、炭酸アンモニウム溶液に容易に溶解するZn(以下「易溶性Zn」という。)の含有量を把握し、これに基づいて、当該Zn含有発生物からの易溶性Znの配合量が、当該炭酸アンモニウム溶液の組成により決まるZn溶解能力に対して80〜100質量%となるように、炭酸アンモニウム溶液に対するZn含有発生物の配合比率を決定し、溶解工程を行うことを特徴とする炭酸亜鉛の製造方法。
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