JP5137084B2 - 偏光子、その製造方法及び光モジュール - Google Patents

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Description

本発明は、偏光子、その製造方法及び光モジュールに関し、さらに詳しくは、大面積の作製が容易で、偏光分離と反射防止の両方を同時に実現できる偏光子、その製造方法及び光モジュールに関する。
偏光子は、ある特定の偏光のみを透過させる素子である。光通信、光情報処理又は光センシング等の分野では、小型で、消光比が高く、使用波長範囲が広く、耐環境性に優れ、量産性にも優れた偏光子が要求されている。
例えば、近赤外領域用偏光子として、特許文献1では、透明薄膜(石英薄膜)と、複素誘電率を持つ材料薄膜(アルミニウム薄膜)との交互多層膜からなるラミポールと呼ばれる多層構造偏光子が提案されている。しかし、その多層構造偏光子は、波長が短くなるにつれてTM波の損失が大きくなり、同時にTE波の損失が小さくなり、その結果、消光比が低下するという問題があった。この問題に対し、特許文献2では、透明体の薄膜層と、光学アドミッタンスの実部と虚部がともに正の光学特性を持つ半導体薄膜層との多層構造からなる偏光子が提案されている。
一方、遠赤外領域からテラヘルツ領域では、その波長以下の間隔を空けて多数並列に配置した金属細線からなるワイヤーグリッド偏光子が従来用いられている。
特公昭61−16961号公報 特開平4−256904号公報
上記特許文献2に記載の偏光子は上記特許文献1での問題(可視域から波長1μm付近での消光比の低下)は解決しているものの、両文献に記載の偏光子は、金属層又は半導体薄膜と石英薄膜とを交互に100周期程度堆積させ、その後に薄板状に切り出して製造している。こうした方法は堆積膜の形成に多くの時間がかかって製造コストがかさむという問題があり、さらに大面積の偏光子の製造が困難であるという難点がある。
また、遠赤外領域からテラヘルツ領域では、広開口で機械的に安定なワイヤーグリッド偏光子を作製することが困難であった。また、より高周波領域になるに従い、金属細線をより細く、より密に配列する必要があり、作製がより困難であるという問題があった。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、平易な作製プロセスによりコストが大幅に削減でき、かつ広開口の偏光子を作製することが容易で、偏光分離と反射防止の両方を同時に実現できる偏光子及びその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明に係る偏光子は、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造を有した基材と、前記周期構造の全面、又は前記周期構造の尾根部及び谷部の一方若しくは両方を除く面、に設けられた金属層と、を有することを特徴とする。
本発明の偏光子において、前記周期構造の断面が三角波形状又は正弦波形状であることが好ましい。
本発明の偏光子において、前記周期構造のアスペクト比(高さ/周期)が0.5以上であることが好ましい。
本発明の偏光子において、前記金属層の厚さが適用する周波数における表皮深さδの1/2〜1/10であることが好ましい。
上記課題を解決するための本発明に係る偏光子の製造方法は、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造を前記基材面に形成する工程と、前記周期構造の全面に、又は前記周期構造の尾根部及び谷部の一方若しくは両方を除く面に金属層を形成する工程とを有することを特徴とする。
本発明の偏光子の製造方法において、前記金属層の形成工程後、前記周期構造の尾根部及び谷部の一方又は両方に設けられた金属層を除去する工程を有するように構成してもよい。
本発明の偏光子の製造方法において、前記周期構造の断面が三角波形状又は正弦波形状であることが好ましい。
上記課題を解決するための本発明に係る光モジュールは、上記本発明に係る偏光子を用いたことを特徴とする。
本発明の偏光子によれば、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造を有した基材と、前記周期構造の全面、又は前記周期構造の尾根部及び谷部の一方若しくは両方を除く面、に設けられた金属層とを有するので、前者の周期構造が反射低減効果に寄与し、後者の金属層が偏光特性に寄与するものとなる。したがって、本発明の偏光子は、そうした周期構造と金属層からなる表面構造により、反射低減効果と偏光特性を同時に実現することができる。
本発明の偏光子の製造方法によれば、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造を前記基材面に形成する工程と、その周期構造の全面に、又はその周期構造の尾根部及び谷部の一方若しくは両方を除く面に金属層を形成する工程とを有するので、従来のような多層構造を形成した後に切り出す方法よりも効率的に製造することができる。
本発明に係る偏光子の一例を示す拡大図である。 本発明に係る偏光子の一例とその使用態様を示す全体図である。 周期構造の占有率(充填率)についての説明図である。 周期構造の形状例である。 図4(A)に示す構造の構造周期を変えた3種の試料について、Au層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を厳密結合波解析(RCWA)法を用いた数値解析により求めたグラフである。 図4(A)に示す構造において金属層としてAu層を用いて実際に作製した試料について、テラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を測定した結果を示すグラフである。 周期構造を有さない構造の全面にAu層を設けた試料について、電磁波の3種の入射角度βとAu層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)の関係をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。 図4(A)に示す構造の試料について、法線方向から入射した電磁波に対して変化させた周期構造構成面の3種の角度αとAu層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。 図4(A)に示す構造の構造周期を変えた3種の試料について、Al層の厚さに対する、波長1.55μmの近赤外帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。 図4(A)に示す構造のAl層厚さを変えた3種の試料について、アスペクト比に対する、波長1.55μmの近赤外帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。 図4に示す三角波形状の周期構造上に形成した金属層の被覆形態に対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。 図4に示す周期構造の形態に対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。 図4(A)に示す構造のアスペクト比を変えた4種の試料について、金属層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。 図4(A)に示す構造の金属層の厚さを変えた4種の試料について、アスペクト比に対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。 テラヘルツ帯域での各金属の表皮深さδについてのグラフである。 周期構造上に設けられた金属層について、dと表皮深さδについての説明図である。 図17は、図6に示す実験例1の結果について、テラヘルツ帯域でのTE偏光とTM偏光についての透過率及び反射率を示したグラフである。 図4(A)に示す構造において金属層としてPt層を用いて実際に作製した試料について、周期構造の表面形状を示す電子顕微鏡写真(A)と断面の光学顕微鏡写真(B)である。 実験例3で得られた図18に示す試料について、テラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を示すグラフである。 図4(A)に示す構造の金属層の種類を変えた3種の試料について、金属層の厚さに対する、波長1.55μmの近赤外帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。 図4(F)に示す正弦波形状の断面を有し、その正弦波形状の表面に金属層が形成されている偏光子(サブ波長格子)の例を示す全体図である。 図21に示す構造をモデリングし、正弦波形状の断面を持つ偏光子のアスペクト比h/Λに対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。 正弦波形状の断面を持つサブ波長格子の、格子周期に対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。 三角波形状の断面を持つサブ波長格子の、格子周期に対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。 金属層の厚さに対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。 断面が正弦波形状で、h/Λ=1.0、Λ=30μmの構造パラメータの偏光子における、周波数特性に対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。 入射光を基板に対してx−z平面内でθだけ傾けた場合の透過損失特性計算結果を示すグラフである。 断面が正弦波形状で、種々の材料からなる金属層に対するTE波とTM波の透過損失特性の計算結果を示すグラフである。 波長5μm〜300μmの周波数帯における透過損失特性の計算結果を示すグラフである。 先端角75°の円形ダイヤモンドブレードで機械的に研削加工して基板表面に構造周期を形成し、その上にAu層を形成した試料について、テラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を示すグラフである。
次に、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、その技術的思想を含む範囲を包含し、以下に示す説明や図面等に限定されない。
[偏光子]
本発明の偏光子1は、図1、図2、図3及び図4(A)〜(F)の例に示すように、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造10を有した基材2と、その周期構造10の全面、又はその周期構造10の尾根部4(凸部ともいう。)及び谷部5(凹部ともいう。)の一方若しくは両方を除く面3に設けられた金属層11と、を有している。
その具体例を図4(A)〜(F)に示しているが、本発明の周期構造10の形態は、図4(A)〜(F)の具体例に限定されるものではなく、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造10である限りにおいて図示しない種々の形態も本発明の範囲に含まれる。なお、図4中、太い線は金属層11が設けられている部分(面)を表し、細い線は金属層が設けられていない部分(面)を表している。
本発明の偏光子1は、従来のワイヤーグリッド偏光子と同様、図2に示すように、周期構造10が形成された基材面に所定の角度で電磁波(光)が入射波として入射した場合に、その周期構造10の尾根部4乃至谷部5に平行な偏波成分を反射し、垂直な偏波成分を透過する性質を持つ。
なお、言うまでもないが、電磁波(光)は進行方向と垂直に振動する横波であり、入射角は入射波の方向と基材面の法線方向とがなす角度であり、入射面は入射波の方向と基材面の法線方向を含む平面である。そして、図2にも示したように、電界が入射面に垂直な成分のみを持つ平面波をTE波(Transverse Electric wave、電気ベクトルの振動方向が入射面に垂直で、磁気ベクトルの振動方向は入射面内にあるような光波)といい、磁界が入射面に垂直な成分のみを持つ平面波をTM波(Transverse Magnetic wave、磁気ベクトルの振動方向が入射面に垂直で、電気ベクトルの振動方向は入射面内にあるような光波)という。本発明で言うTE透過損失とTM透過損失は、そうしたTE波やTM波が偏光子1を透過する際の損失(dB)で表している。
以下、本発明の構成について詳しく説明する。
(基材)
基材2は、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造10を有している。
周期構造10は、図1及び図4に示すように、一定の単位構造が周期的に繰り返される構造であり、基材2は、そうした周期構造10が基材面に形成されている。周期的に繰り返す単位構造は、基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化するものである。
ここで、「基材面に所定の角度で入射する電磁波」とは、所定の入射角(入射波の方向と基材面の法線方向とがなす角度)で基材面に入射するものであれば、図2及び図3に示すように必ずしも法線方向から入射するものでなくてもよく、「所定の角度(入射角)」で基材面に入射するものであればよい。
また、「電磁波に対して占有率が連続的に変化する」とは、例えば図3に示すように、基材面の法線方向から入射する電磁波が基材面にそのまま直進透過するとした場合に、電磁波が直進透過する長さの割合ということができる。例えば図3では、電磁波Eが透過する谷部5は透過長さが最も短い部位であり、電磁波Eが透過する尾根部4は透過長さが最も長い部位である。「電磁波に対する占有率」とは、このように、電磁波の透過長さが最も長い部位を占有率100%とし、電磁波の透過長さが最も短い部位を占有率0%として表すものということができる。そして、「占有率が連続的に変化する」とは、図3の例のように、尾根部4から谷部5に向かって占有率(単位構造の長さL)が連続的に変化することをいう。なお、「連続的」とは、尾根部4から谷部5に向かう面3が、図4(A)の三角波形状のように直線的に変化する場合や図4(F)の正弦波形状のよう曲線状に変化する場合の他、ガウス形、アークタンジェント形、レイズドコサイン形、等々に連続変化する場合(図示しない)であってもよい。つまり、尾根部4から谷部5に向かって占有率が総じて増加乃至減少する態様のものも含まれてもよい。
また、「一定の単位構造が周期的に繰り返される」とは、上記した「電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造」が一定の周期(ピッチ)で繰り返されているものである。その周期は全て一致していることが好ましいが、必ずしも完全に一致していなくてもよく、周期が不規則であってもある意図を持った設計思想の下で繰り返されているものであればよい。また、構造単位も全て同じ形状であることが好ましいが、完全に一致していなくてもよく、異なる形状の構造単位がある意図を持った設計思想の下で繰り返されているものであればよい。
基材2の材質としては、屈折率の実部n及び虚部κが低い材料を用いることが好ましい。屈折率の実部nが低いほど優れた偏光特性を見込むことができるとともに、基材10によるフレネル反射損失を低減することができる。一方、虚部κが小さいほど吸収損失を低減することができる。
表1は、テラヘルツ帯域と近赤外帯域における基材材料の光学定数(屈折率の実部nと虚部κ)を示している。なお、テラヘルツ帯域(およそ0.5〜4THz)はおよそ75μm〜600μmの波長範囲であり、対象とする近赤外帯域は1.3μm〜1.6μmの波長範囲であり、可視光帯域は0.4μm〜0.7μmの波長範囲である。表皮深さδとは、金属表面に入射した電磁波の電界の振幅が1/eとなる深さである。
Figure 0005137084
テラヘルツ帯域で適用する基材2の材質は、テラヘルツ帯域において低損失材料であるSiを好ましく挙げることができるが、屈折率がやや高い。より好ましい材質としては、低屈折率で低損失なZEONEX(登録商標)樹脂(日本ゼオン株式会社製)を挙げることができる。
また、近赤外帯域で適用する基材2の材質は、石英(SiO)、単結晶シリコン等を挙げることができる。特に、低屈折率である石英(SiO)が好ましい。
基材面に形成された周期構造10は、基材2の一方の面の表面に形成されていてもよいし、内部に形成されていてもよい。基材面の表面に形成されている場合は、図1及び図2に示すように、周期構造10が露出した態様となっている。一方、基材面の内部に形成されている場合は、例えば図1に示す基材面の表面に形成された周期構造10の上にZEONEX(登録商標)樹脂等を被覆した態様を挙げることができる。
周期構造10は、例えば図4(A)(F)に示す三角波形状と正弦波形状の例では、その尾根部4と谷部5がサブ波長周期で繰り返す構造となっている。サブ波長周期とは、構造周期が入射電磁波の波長と同程度か、それよりも小さいという意味である。この周期構造10は、媒体の屈折率境界で生じるフレネル反射を低減するように作用する。このとき、その周期が波長よりも小さい場合には、回折波が生じないので反射波が生じ難く、いわゆる反射低減効果を有する。こうした周期構造10は、サブ波長格子(Sub-Wavelength Grating:SWG)といい、反射防止表面や偏光分離素子として、ディスプレイ、光検出器、発光素子への応用が期待できる。
周期構造10の格子形状は、適用する波長(テラヘルツ帯域、近赤外帯域等)において、回折散乱を伴わない構造周期Λ(ラムダ)(<λ/n)であることが好ましい。ここで、λは波長であり、nは基材2の屈折率である。上記の式「Λ<λ/n」を満たす範囲内で、Λをより小さい値とするように組み合わせた場合には、偏光特性を向上させることができる。
テラヘルツ帯域では、基材をZEONEX(登録商標)樹脂とした場合、λ/nよりも小さいΛの好ましい範囲は20〜50μmとすることが好ましく、近赤外帯域では、基材をSiOとした場合、構造周期Λを0.1〜1.0μmの範囲とすることが好ましい。
周期構造10は、図1及び図4(A)(F)に示すような三角波形状や正弦波形状等を例示できる。図示しないが、ノコギリ波形状であってもよい。これらの形状は、尾根部4(凸部)と谷部5(凹部)を有し、上記の構造周期Λは、尾根部4,4間、又は谷部5,5間で評価することができる。なお、図4(G)(H)に示す矩形波形状は、電磁波に対して占有率が連続的に変化しないので、本発明には含まれない。
周期構造10を構成する単位構造の尾根部4から谷部5までを高さLとすると、アスペクト比(L/Λ)は0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましい。アスペクト比が高いほど高い偏光特性を得ることができる。なお、アスペクト比の上限は特にないが、製造容易の観点から現実的なアスペクト比は3.0程度である。こうしたアスペクト比の範囲内になるように、三角波形状や正弦波形状等からなる単位構造の構造周期Λ(ピッチ)と高さLを規定する。テラヘルツ帯域で好ましい構造周期Λが上記の20〜50μmの範囲である場合には、その上下限に対応した高さLは10〜25μm以上、60〜150μm以下の範囲となる。一方、近赤外帯域で好ましい構造周期Λが上記の0.1〜1μmの範囲である場合には、その上下限に対応した高さLは0.05〜0.5μm以上、0.3〜3μm以下の範囲となる。
こうした周期構造10を含む基材2の全体の厚さTは特に限定されないが、テラヘルツ帯域では、500〜2000μm程度であればよい。周期構造10の形成は、例えば基材2としてZEONEX(登録商標)樹脂を用いた場合、そのZEONEX(登録商標)樹脂の表面に、ダイヤモンドブレードによる機械切削を繰り返して形成することができる。なお、ダイヤモンドブレードの歯面の角度は、上記のアスペクト比の範囲内で任意に設定される。また、周期構造10の形成は、レーザーアブレーションにより表面を走査することによっても可能である他、周期構造を形成した金属或いはセラミックスを型として、樹脂等に周期構造を転写して形成することもできる。
(金属層)
金属層11は、周期構造10の全面に設けられていてもよいし、周期構造10の尾根部4及び谷部5の一方を除く面に設けられていてもよいし、周期構造10の尾根部4及び谷部5の両方を除く面に設けられていてもよい。
例えば、図1及び図4(A)に示すように、三角波形状で構成された周期構造10の全表面に金属層11が設けられていてもよいし、図4(B)(C)のように、三角波形状の尾根部4乃至谷部5以外の面3に金属層11が設けられていてもよい。詳しくは、図4(B)は、三角波形状を構成する表面3,3と尾根部4には金属層11があり、谷部5のみに金属層11が無い場合である。図4(C)は、三角波形状を構成する表面3,3と谷部5には金属層11があり、尾根部4のみに金属層11が無い場合である。また、図示しないが、三角波形状を構成する表面3,3には金属層11があり、尾根部4と谷部の両方に金属層11が無い場合であってもよい。一方、図4(D)は、三角波形状を構成する表面3,3のうち一方の面3のみに金属層11がある場合であるが、この態様では本発明の効果を奏さないので、本発明の範囲外である。
また、図4(F)は、正弦波形状で構成された周期構造10の全面に金属層11が設けられた態様である。この形態においても、上記三角波形状の場合と同様、金属層11は全面に設けられていてもよいし、尾根部4と谷部5のいずれか一方又は両方に金属層11が設けられていない態様であってもよい。なお、図4(G)(H)に示す矩形波形状の場合は、金属層11の形成部位にかかわらず本発明の範囲外である。
本発明において、金属層11は、三角波形状や正弦波形状等の周期構造10の尾根部4乃至谷部5以外の面3に設けられている態様がより好ましい。すなわち、その尾根部4と谷部5のいずれか一方又は両方に金属層11が設けられていない態様がより好ましい。
金属層11の材質は、下記のように、適用する波長帯域に応じた適切な材質のものが選ばれる。
テラヘルツ帯域では、上記表1に示したように、金属は非常に大きい光学特性(屈折率の実部nと虚部κ)を持つので、種々の金属を好ましく用いることができる。この帯域で適用する金属層11の材質としては、薄膜形成可能なあらゆる金属を薄膜材料として用いることができるが、金属層11は表皮深さδよりも十分に薄いこと(例えば表皮深さδの1/2〜1/10程度薄いことが好ましい。)が求められる。そのため、例えば表1のPt(白金)のように表皮深さδが130nm(波長100μm)や240nm(波長300μm)の場合には、金属層11をある程度厚く(例えば10〜100nm)することができ、成膜自体が比較的容易になるので好ましく用いることができる。また、表1に示したAu(金)も白金と同様に好ましく用いることができる。また、Pt、Auの他にも、Ni、W等を用いることができる。
一方、近赤外帯域では、上記表1に示したPt,アルミニウム,Auのように、テラヘルツ帯域の場合と比べて光学特性(屈折率の実部nと虚部κ)が大きく異なっているが、表皮深さδはテラヘルツ帯域のものと同程度である。この帯域で適用する金属層11の材質としては、Pt,アルミニウム,Au,Ni等を用いることができるが、中でも、高い虚部κを持つアルミニウムが好ましく用いられる。そして、この帯域で適用する金属層11の厚さも、上記テラヘルツ帯域で適用する場合と同様、例えば近赤外帯域での表皮深さδの1/2〜1/10程度薄いことが好ましく、具体的には5〜25nmの厚さであることが好ましい。
金属層11の厚さが適用波長における表皮深さδ以上である場合には、TM偏光とTE偏光に対して、テラヘルツ帯域では高反射ミラーとなってしまう。TM偏光を透過して偏光子として動作させるためには、金属層11の厚さを、上記のように、表皮深さδよりも十分に薄くすることが望ましい。
こうした金属層11は、スパッタリング法、蒸着法等で周期構造10上の全面に形成することができる。なお、図4(B)の谷部5に金属層11が形成されていない態様は、金属を斜めに蒸着することによる射影効果によって作製することができ、また、図4(C)の尾根部に金属層11が形成されていない態様は、周期構造10上の全面に金属層11を形成した後に尾根部4の金属層11のみを研削等によって除去して作製することができる。
以上説明したように、本発明の偏光子1は、図1等に示すように、サブ波長オーダーの周期構造10の表面に金属層11が形成されているので、TM偏光を透過し、TE偏光を反射又は吸収するという特性、すなわちTM偏光を低損失で透過(TM透過損失が小さい)しTE偏光を高損失で透過(TE透過損失が大きい)するという高い偏光特性を持っている。こうした特徴を持つ偏光子1は、分光分析(試薬、セキュリティー)、光通信、テラヘルツ分光、光通信アイソレーター等、偏光分離と反射防止効果に基づいた用途に利用可能である。
[光モジュール]
本発明に係る光モジュールは、上記した本発明の偏光子1を用いて構成されるデバイス又は機器である。近赤外帯域で用いる光モジュールの例としては、通信用光アイソレーターを挙げることができる。通信用光アイソレーターは、互いに透過する偏光の向きが45度傾いた2枚の偏光子の間に、偏光の回転角が45度のファラデー回転子を挿入することにより構成したものである。こうした光アイソレーターによれば、ある方向の光はすべて透過し、逆方向の光は透過しないようにできる。光通信では半導体レーザの発信を安定化するのに必要であり、偏光子は必要不可欠なモジュールの一つの構成部品である。その偏光子に本発明の偏光子1を用いれば、安価かつ広開口の光アイソレーターが製造できる。
また、テラヘルツ帯域で用いる光モジュールの例としては、種々のものを構成できるが、例えば各種の物質の光に対する偏光特性(ファラデー回転、カー効果、旋光性、複屈折、等々)を利用して物質の分析を行うとき等に、試料を通過した光の偏光特性を調べる装置を挙げることができる。本発明の偏光子1は、そうした装置を構成する偏光子として利用できる。
以下、解析例と実験例により本発明をさらに具体的に説明する。
[解析例1]
図5は、図4(A)に示す構造をモデリングし、その構造周期を変えた3種の試料について、Au層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を厳密結合波解析(RCWA)法を用いた数値解析により求めたグラフである。評価した試料は、基材2を厚さ0.5mmのSiとし、その片面に図4(A)に示す三角波形状を周期構造10としたものとした。周期構造10は、アスペクト比を1.0とし、構造周期Λを10μm、30μm及び50μmの3種とし、金属層11をAu層として全面に形成し、その厚さを10nm〜300nmの範囲で変化させて解析した。なお、Auの表皮深さδは93nm(波長300nm)である。
図5に示すように、構造周期Λが10μmの場合においては、TM透過損失は、Au層の厚さが100nm付近で急峻に増大した。Auの表皮深さδである93nm(波長300nm)を超えると、TM透過損失とTE透過損失が高くなる傾向がある。Au層の厚さが50nm未満であれば、TM透過損失が低く、TM偏光に透過が見られるので、偏光子として動作することがわかる。構造周期Λが50μmから10μmと小さくなるにつれ、TE透過損失は増加し、TM透過損失は減少するため、高い偏光特性が得られることがわかる。
[実験例1]
図6は、図4(A)に示す構造において金属層11としてAu層を用いて実際に作製した試料について、テラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を測定した結果を示すグラフである。評価した試料は、基材2を厚さ0.5mmのSiとし、その片面に図4(A)に示す三角波形状を周期構造10として形成した。周期構造10は、先端角75°の円形ダイヤモンドブレードで機械的に研削加工して形成し、三角波形状の構造周期Λを25μmとし、高さを22μmとした。アスペクト比は0.88である。周期構造10の全面には、厚さ20nmのAu層をスパッタリング法で成膜した。なお、Au層の表皮深さδは93nm(波長300μm)である。この試料について、0.5〜3THzのテラヘルツ帯域におけるTE透過損失とTM透過損失をテラヘルツ分光器を用いて評価した。
図6に示すように、0.5〜3.0THzの広域帯において、TE透過損失は25dB以上、TM透過損失は3.0dB以下の実測結果が得られており、計算結果と併せて評価しても、高い偏光特性が得られることを確認できた。なお、TE透過損失における実測結果と計算結果との顕著な差は、入射光の偏光方向と、サンプルの設置角度のずれに基づくものである。
また、図6に示すように、TM波については、測定結果と計算結果が良く一致していた。一方、TE波の透過損失は測定値が計算値より大幅に低くなっていた。これは、測定系のダイナミックレンジによるものである(<30dB)。なお、図6には参考のため、表裏面とも鏡面の平板(ブランク)になっているSi基板の透過損失測定値も記した。なお、図6の透過損失の計算値と測定値には、フレネル反射損失約1dBが含まれている。また、ブランクのSi基板の透過損失にはフレネル反射損失約1.5dBが含まれている。ブランクのSi基板の透過損失測定値よりも、表面に偏光子が形成された基板の透過損失の計算値の方が低いのは、表面に形成されているサブ波長格子に反射防止効果があるためである。
[解析例2]
図7は、周期構造を有さない構造をモデリングし、その全面にAu層を設けた試料について、電磁波の3種の入射角度βとAu層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)の関係をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。評価した試料は、基材2を厚さ0.5mmのSiとし、その上には周期構造を形成せずにAu層を全面に形成し、その厚さを10nm〜1000nmの範囲で変化させて解析した。その試料の法線に対して入射角βが15°、30°、60°の3種の光(波長300μmのテラヘルツ帯域の光)を入射した。
一方、図8は、図4(A)に示す構造をモデリングした試料について、法線方向から入射した電磁波に対して変化させた周期構造構成面の3種の角度αとAu層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。評価した試料は、基材2を厚さ0.5mmのSiとし、その片面に図4(A)に示す三角波形状を周期構造10としたものとした。周期構造10は、構造周期Λを20μmとし、尾根部4から水平方向に延びる基準線と三角波形状の面3との間の角度α(図8参照)を15°、30°、60°の3種とした周期構造とし、金属層11をAu層として全面に形成し、その厚さを10nm〜1000nmの範囲で変化させて解析した。
図7では、透過損失に対する入射角度依存性は大きくなく、Au層の厚さを変えても同様であった。また、Au層が厚いほど、透過損失は大きくなる傾向があった。波長300μmにおける表皮深さと同じ厚さ93nmのAu層でのTE透過損失とTM透過損失との差は10dBであった。一方、図8では、Au層の厚さが薄い場合にTE透過損失とTM透過損失との差が大きくなり、例えば角度αが30°で且つ波長300μmにおける表皮深さと同じ厚さ93nmのAu層でのTE透過損失とTM透過損失との差は60dB以上であった。この傾向は、角度αが60°の場合も同様であったが、角度αが15°の場合は十分な差が得られないことがわかった。
[解析例3]
図9は、図4(A)に示す構造をモデリングし、その構造周期を変えた3種の試料について、Al層の厚さに対する、波長1.55μmの近赤外帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。評価した試料は、基材2を厚さ0.5mmのSiOとし、その片面に図4(A)に示す三角波形状を周期構造10としたものとした。周期構造10は、アスペクト比を2.0とし、構造周期Λを300nm、500μm及び800μmの3種とし、金属層11をAl層として全面に成膜し、その厚さを1nm〜30nmの範囲で変化させて解析した。なお、Alの表皮深さδは51nm(波長1.55μm)である。
図9に示すように、構造周期Λが狭くなるにつれ、TE透過損失は増加したが、TM透過損失には大きな変化は見られなかった。したがって、構造周期Λが狭いほど、TE透過損失とTM透過損失との差が大きくなるので、高い偏光特性を得ることができる。Al層の厚さは、TE透過損失に対してもTM透過損失に対しても影響するが、その最適値は、許容挿入損失、消光比の兼ね合いによって選ぶことができる。例えば、図9の場合、構造周期Λが300nmのとき、Al層の厚さとして5nmを挙げることができる。
[解析例4]
図10は、図4(A)に示す構造をモデリングし、そのAl層厚さを変えた3種の試料について、アスペクト比に対する、波長1.55μmの近赤外帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。評価した試料は、基材2を厚さ0.5mmのSiOとし、その片面に図4(A)に示す三角波形状を周期構造10としたものとした。周期構造10は、三角波形状の構造周期Λを300nmとし、金属層をAl層として5nm、10nm、20nm、30nmの4種を各試料の全面に形成した。そして、アスペクト比を0.5〜2.0の範囲で変化させて解析した。なお、Alの表皮深さδは51nm(波長1.55μm)である。
図10に示すように、TE透過損失は、アスペクト比が増し且つAl層の厚さが20nm、30nmに増すほど増加する傾向が見られた。一方、TM透過損失は、アスペクト比が増し且つAl層の厚さが薄いほど低下する傾向がある。また、TE透過損失とTM透過損失との差(偏光特性)は、アスペクト比が大きく且つAl層の厚さが20nmと30nmの場合に大きくなっている。したがって、より高いアスペクト比の構造が高消光比、低挿入損失を実現に適しているということがわかった。
[解析例5]
図11は、図4に示す構造をモデリングし、その三角波形状の周期構造上に形成した金属層の被覆形態に対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。図11中の符号A、B、C、Dはそれぞれ図4中の(A)(B)(C)(D)に示す周期構造に対応するものである。また、符号Sは三角波形状を有さない金属平板を試料としたものである。各試料は、構造周期Λを30μm、アスペクト比を1.0、金属層をAl層として10〜500nmの範囲で変化させて解析した。
図11に示すように、TE透過損失では、A、B、Cのいずれも大きな違いが見られなかったが、三角波形状の片面にしかAl層が形成されてないDは、TE透過損失が低下した。一方、TM透過損失では、Aのみが厚さ100nmを超えたあたりから増加が見られたが、B,C,Dでは顕著な増加が見られなかった。このことは、TM偏光については、Al層の一部に不連続の部分(例えば尾根部4や谷部5にAl層が形成されていない部分)があると、TM透過損失が小さく、大幅に改善されることを示している。なお、この図には示さないが、Aにおいても、Al層は十分に薄い場合(例えば10〜50nm程度)には、TM透過損失が小さくなる。
[解析例6]
図12は、図4に示す周期構造の形態をモデリングし、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。図12中の符号A、F、Gはそれぞれ図4中の(A)(F)(G)に示す周期構造に対応するものである。また、符号Sは三角波形状を有さない金属平板を試料としたものである。各試料は、構造周期Λを30μm、アスペクト比を1.0、金属層をAl層として10〜500nmの範囲で変化させて解析した。なお、各試料において、Al層はいずれも全面に形成している。
図12に示すように、TE透過損失では、G(矩形波形状)が特に優れていたが、A(三角波形状)とF(正弦波形状)は同程度であった、一方、TM透過損失では、Gが特に大きく、唯一反射低減効果が得られず、干渉による影響が大きく出ていると考えられる。これらの中では、F(正弦波形状)が最も優れた特性となっている。
[解析例7]
図13は、図4(A)に示す構造をモデリングし、そのアスペクト比を変えた4種の試料について、金属層の厚さに対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。各試料は、三角波形状の構造周期Λを30μm、アスペクト比を0.05、0.1、0.5、1.0の4種とし、金属層をAu層として10〜500nmの範囲で変化させて解析した。なお、各試料において、Au層はいずれも全面に形成している。また、符号Sは三角波形状を有さない金属平板を試料としたものである。
図13に示すように、TE透過損失では、アスペクト比が小さくなるほど金属平板Sの結果に近くなった。一方、TM透過損失では、アスペクト比が小さくなるほど透過損失に対するAu層の厚さの要件が厳しくなる。つまり、厚さを薄くしなければ、所望のTM透過損失とすることができない。したがって、十分な偏光特性を得るためには、アスペクト比が0.5以上であることが好ましい。
[解析例8]
図14は、図4(A)に示す構造をモデリングし、その金属層の厚さを変えた4種の試料について、アスペクト比に対する、波長300μmのテラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により評価したグラフである。各試料は、三角波形状の構造周期Λを30μmとし、金属層をAu層として10nm、30nm、50nm、100nmの4種とし、いずれも全面に形成した。そして、アスペクト比を0.01〜1.0の範囲で変化させて解析した。
図14に示すように、TE透過損失では、Au層の厚さが増すにつれ、単調増加の傾向が見られた。一方、TM透過損失では、Au層の厚さが増すにつれ、アスペクト比の制限が厳しくなる傾向がある。つまり、アスペクト比が大きくてある程度の高さLを持つ三角波形状においては、Au層の厚さが厚い場合にTM透過損失を生じる傾向がある。これらの結果から、TE透過損失とTM透過損失との差(偏光特性)は、アスペクト比が大きくなるに従い、大きくなっている。アスペクト比が0.01の場合には、その構造が平板に近づくため、TE透過損失とTM透過損失との差がなく、一致していることがわかる。
[解析例9]
図15は、テラヘルツ帯域での各金属の表皮深さδについてのグラフである。表皮深さδは、周波数が高くなるほど低下し、金属種に関しては、アルミニウム、Pt、Ni、Auの順で小さかった。
図16は、周期構造上に設けられた金属層について、dと表皮深さδについての説明図である。図16中、dは[金属層の厚さ/(2×アスペクト比)]である。すなわち、dは、基材の面方向Xと平行方向における金属層11の厚さを表しており、Dは、基材の面方向Xと直交方向における金属層11の厚さを表している。d>δの場合は、TM偏光の電磁波においても金属層内で大きく減衰するため、挿入損失が高くなり、d<<δの場合は、TM偏光の電磁波が金属層内を透過する際に減衰を殆ど受けないため、挿入損失が低くなる。このことから、TM偏光の電磁波において高い透過率を得るためには、金属層の厚さはδより十分小さい値であることを要するということが言える。
[実験例2]
図17は、図6に示す実験例1の結果について、テラヘルツ帯域でのTE偏光とTM偏光についての透過率及び反射率を示したグラフである。1THz〜3THzの帯域で、TM偏光の透過率50%以上、即ち挿入損失3dB以下が得られている。TE偏光の透過率はほとんど零であり、dBで表すと30dB以上の透過損失が得られており、高い消光比をもつ偏光子になっている。TE偏光の反射率が高いことから、TE偏光の大部分は金属層において反射されているということがわかった。なお、テラヘルツ帯での測定器の構造上、反射光を全て受光することが難しいために、TE偏光の反射率が100%近くになっていない。
[実験例3]
図18は、図4(A)に示す構造において金属層としてPt層を用いて実際に作製した試料について、周期構造の表面形状を示す電子顕微鏡写真(A)と断面の光学顕微鏡写真(B)である。評価した試料は、基材2を厚さ2mmのZEONEX(登録商標)(日本ゼオン株式会社製)とし、その片面に所定のアスペクト比と構造周期Λからなる図4(A)に示す三角波形状の周期構造10を形成した。周期構造10は、先端角75°の円形ダイヤモンドブレードで機械的に研削加工して形成し、三角波形状の構造周期Λを35μmとし、高さを52μmとした。アスペクト比は1.5である。周期構造10の全面には、厚さ20nmのPt層をスパッタリング法で成膜した。なお、Ptの表皮深さδは130nm(波長100nm)、240nm(波長300nm)である。この試料について、テラヘルツ帯域におけるTE透過損失とTM透過損失をテラヘルツ分光器で評価した。
図19は、実験例3で得られた図18に示す試料について、テラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を示すグラフである。縦軸は透過率及び反射率のパーセンテージ表示とした。図19に示すように、1THz〜3THzの帯域で、挿入損失1dB以下、消光比7dB程度が得られており、基材をZEONEX(登録商標)とすることで挿入損失の大幅な改善を見込むことができる。一方、Pt層を金属層に用いる場合、厚さ20nmでは十分な消光比を得ることができないということがわかった。
[解析例10]
図20は、図4(A)に示す構造をモデリングし、その金属層の種類を変えた3種の試料について、金属層の厚さに対する、波長1.55μmの近赤外帯域での透過損失(TE、TM)をRCWA法を用いた数値解析により求めたグラフである。評価した試料は、基材2を厚さ0.5mmのSiOとし、その片面に図4(A)に示す三角波形状を周期構造10としたものとした。周期構造10は、三角波形状の構造周期Λを300μmとし、アスペクト比を1.0とした。その周期構造10の表面に、金属層としてAl層、Au層、Pt層をそれぞれ全面に形成した3種の試料を準備し、その厚さを1〜30nmの範囲で変化させて解析した。
図20に示すように、TE透過損失では、金属層が厚くなるほど高くなり、材料としてはAl層が最も高い結果となった。一方、TM透過損失では、金属層が厚くなるほど高くなり、特にAl層は急激にTM透過損失が増加する結果となった。したがって、高消光比、低挿入損失を実現するためには、Al層を20nmの厚さで形成することが好ましいということがわかった。
[正弦波形状のサブ波長格子]
次に、周期構造の断面が正弦波形状である場合について、構造パラメータを変化させたときの光学特性を詳しく解析する。なお、以下では、これまでの三角波形状との違いを強調する目的から、便宜上、断面形状の高さをLからhに、また金属層の厚さをDからtに変更しているが、物理量は同一である。
図21は、図4(F)に示す正弦波形状の断面を有し、その正弦波形状の表面に金属層が形成されている偏光子(サブ波長格子)である。この偏光子は、格子に入射した光波の電界が周期構造と直交(Ex)するTM波は金属層があるにもかかわらず低損失で透過し、周期構造と平行な電界(Ey)を持つTE波は金属層により吸収・反射されることで高透過損失となる。
以下の解析では、特に断らない限り、金属層をAu(屈折率n=224.5、消衰係数k=318.6)、基板をZEONEX(登録商標)樹脂の一種であるTsurupica(登録商標)(n=1.53、k=0)として計算した。なお、主要な構造パラメータは,周期構造のアスペクト比(h/Λ)、金属層の厚さ(t)とした。また、本願において「消光比(extinction ratio)」とは、偏光軸がビームの面に平行である光路内に置いた偏光子を通る平面偏光ビームのパワーと、偏光軸がビームの面に垂直に置いた時の透過パワーとの比のことである。
[解析例11]
アスペクト比依存性を解析した、図22は、図21に示す構造をモデリングし、正弦波形状の断面を持つ偏光子のアスペクト比h/Λに対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。アスペクト比の増加に伴い、TE波とTM波の透過損失曲線が分離し、高い消光比が得られることがわかった。また、TM波の透過損失は、h/Λ=0.1付近を境に急峻に減少した。同等のアスペクト比を持つ構造では、金属層の厚さが大きいほど両偏波とも透過損失が増加したが、アスペクト比がh/Λ>0.5ではいずれの厚さ(厚さ100nm以下)の場合もTM波に対しほぼ無損失となった。以上より、周期構造のアスペクト比は0.5以上であることが望ましい。なお、三角波形状における図14の結果では、TM波に対しほぼ無損失となるアスペクト比は0.7以上であり、両者の違いがわかる。
[解析例12]
格子周期依存性を解析した。図23は、正弦波形状の断面を持つサブ波長格子の、格子周期に対する透過損失特性の計算結果を示すグラフであり、図24は、三角波形状の断面を持つサブ波長格子の、格子周期に対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。TE波の透過損失は、断面形状によらず、格子周期が長くなるにつれ低下した。しかし、その透過損失値は30dB以上であり、実用的には問題にならない。一方、TM波の透過損失は、格子周期が30μm以上ではいずれも低い透過損失であったが、格子周期が25μm以下に短くなるにつれ、特に三角波形状では急激に増加した。この点から、三角波形状よりも正弦波形状がより望ましいといえる。格子周期が短くなったときの正弦波形状と三角波形状のTM波の透過損失の差は、金属格子におけるプラズモンポラリトンモードの励振効率の違いに起因する。すなわち、三角波形状が高い空間周波数成分を有するのに対し、正弦波形状は格子周期に相当する空間周波数成分付近のみを有するため、その空間周波数に対応するプラズモンポラリトンモードを効率よく励振できる。このプラズモンポラリトンモードが透過側のTM偏光を励振して透過率を高くしており、電子の移動度だけの定性的な解釈では説明できない。
[解析例13]
金属層厚依存性を解析した。図25は、金属層の厚さに対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。金属層の厚さの増加に伴い、両偏波ともに透過損失が増加した。断面が正弦波形状の場合は、金属層の膜厚が厚く(t≧200nm)なってもTM波の透過損失(すなわち偏光子としての挿入損失)が充分低いことがわかった。一方、断面が三角波形状の場合には、金属層の膜厚が厚く(t≧200nm)なったときにTM波の透過損失が急増した。また、他の種々の金属(Ni、Pt、Al)についても、同様の結果が得られた。
[解析例14]
周波数依存性を解析した。図26は、断面が正弦波形状で、h/Λ=1.0、Λ=30μmの構造パラメータの偏光子における、周波数特性に対する透過損失特性の計算結果を示すグラフである。この偏光子は、広い周波数帯において安定した特性を持ち、消光比60dB以上が得られることがわかった。この結果は、この偏光子の動作メカニズムが、周波数に対して偏光特性の変化が急峻である表面波プラズモンによる共鳴トンネリングを利用したものとは異なることを示している。なお、三角波形状の断面を持つ構造においても、同様の結果が得られた。
[解析例15]
入射角依存性を解析した。図27は、入射光を基板に対してx−z平面内でθだけ傾けた場合の透過損失特性計算結果を示すグラフである。正弦波形状及び三角波形状の構造とも、入射角に対する偏光特性変化がほとんど無く、偏光子として使用しやすい特長を有していることがわかった。
[解析例16]
金属の種類に対する依存性を解析した。図28は、断面が正弦波形状で、種々の材料からなる金属層に対するTE波とTM波の透過損失特性の計算結果を示すグラフである。図28に示すように、多くの金属に対して高い偏光特性が得られることがわかった。4種の金属の中では、Auの場合にTE波とTM波の透過損失がそれぞれ最も高い値となった。これは、これらの金属の中でAuが最も大きな複素誘電率の虚部をもつことに起因している。この偏光子では、赤外からテラヘルツの周波数帯にわたり、非常に大きな複素誘電率の虚部を持つ金属の材料特性が利用できる。多くは薄膜として形成可能な金属である。なお、金属層の厚さ(t)は、複素誘電率と周波数から得られる表皮深さ(δ)を目安に決定した(テラヘルツ帯での金属の表皮深さは図15を参照)。TM波に対して金属層による損失を抑えるためには、t≦δであることが望ましい。Auの場合、図15からt≦60nmとなる。
[解析例17]
赤外からテラヘルツ帯での特性を解析した。図29は、波長5μm〜300μmの周波数帯における透過損失特性の計算結果を示すグラフである。構造パラメータは波長λで正規化しており、Λ=λ/2、h/Λ=0.5、t=λ/2000とした。また、金属層はAu(n=n(λ))、基板はn=1とした。この結果から、λ≧10μmにおいて、挿入損失は無視できるほど小さく、消光比が20dB以上の特性が得られた。λ<10μmではAuの複素誘電率の虚部が小さくなるため、消光比が低下するが、金属層の厚さtを大きくすることにより消光比20dB以上を得ることが可能であった。これらの結果から、この偏光子は、近赤外からテラヘルツの周波数帯において適用可能であることがわかった。
[実験例4]
図30は、先端角75°の円形ダイヤモンドブレードで機械的に研削加工して基板表面に構造周期を形成し、その上にAu層を形成した試料について、テラヘルツ帯域での透過損失(TE、TM)を示すグラフである。基板は、テラヘルツ帯において比較的透明で加工が容易な厚さ25μmのTsurupica(登録商標)樹脂基板とし、構造パラメータは、Λ=35μm、h=50μm、h/Λ=1.4とし、Au層はスパッタリング法により格子全面に形成した。図31に示すように、図6に示すSi基板の場合と同様、優れた偏光特性が得られている。樹脂基板の試料では、1〜3THzの周波数帯において、消光比30dB以上、挿入損失5dB以下が得られた。これらの値には樹脂基板の吸収損失(3THzにおいて2.5dB)が含まれている。この吸収損失を差し引くと、偏光子自体の挿入損失は、2.5dB以下である。
以上のように、数値計算による偏光特性の解析と実験的検証を行った。数値解析により、テラヘルツ帯において消光比60dB以上が得られることを示した。基板にSi、金属層に厚さ20nmのAuを用いた偏光子を作製し、1〜3THzの周波数帯で消光比30dB以上、挿入損失3dB以下の特性を得、偏光子としての動作を実証した。基板にTsurupica(登録商標)樹脂を用いた偏光子も作製し、消光比30dB以上、挿入損失2.5dB以下(基板の吸収損失を除く)が得られ、樹脂を用いて広開口かつ量産性に優れた偏光子が実現可能であることを明らかにすることができた。
1 偏光子
2 基材
3 表面
4 尾根部
5 谷部
10 周期構造
11 金属層
Λ 構造周期(ピッチ)
L,h 三角波形状又は正弦波形状の高さ
T 偏光子の厚さ
D,t 金属層の厚さ

Claims (6)

  1. 基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造を有した基材と、前記周期構造の全面、又は前記周期構造の尾根部及び谷部の一方若しくは両方を除く面に設けられ、厚さが適用する周波数における表皮深さδの1/2〜1/10である金属層と、を有することを特徴とする偏光子。
  2. 前記周期構造の断面が三角波形状又は正弦波形状である、請求項1に記載の偏光子。
  3. 前記周期構造のアスペクト比(高さ/周期)が0.5以上である、請求項1又は2に記載の偏光子。
  4. 基材面に所定の角度で入射する電磁波に対して占有率が連続的に変化する単位構造を繰り返す周期構造を前記基材面に形成する工程と、
    前記周期構造の全面に、又は前記周期構造の尾根部及び谷部の一方若しくは両方を除く面に、厚さが適用する周波数における表皮深さδの1/2〜1/10である金属層を形成する工程と、を有することを特徴とする偏光子の製造方法。
  5. 前記周期構造の断面が三角波形状又は正弦波形状である、請求項に記載の偏光子の製造方法。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の偏光子を用いたことを特徴とする光モジュール。
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