ところで、回転電極型のCVD装置では、回転電極と基板との間の間隙が狭くなった部分にプラズマを生成し、この生成したプラズマを用いて反応ガスを反応させて薄膜を形成するので、薄膜が形成される領域は、回転電極と基板との間の間隙が最も狭くなった部分の近傍に限られる。そのため、板状の基板の表面に薄膜を形成する場合は、回転電極型のCVD装置では、回転電極に対して基板を相対的に移動搬送させながら、薄膜を形成する必要がある。
ここで、特許文献1記載のプラズマ放電処理装置は、回転電極表面に載置可能なフィルム状の基材については、表面に薄膜を形成することが可能であるが、板状の基材については、そもそも薄膜を形成することもできない。また、このように回転電極表面に載置したフィルム状の基材の表面に薄膜を形成する場合、プラズマ生成領域に対する基材表面の相対移動速度は、基材表面に所望の厚さの薄膜を形成することができる程度に、充分遅い必要がある。すなわち、特許文献1記載のプラズマ放電処理装置では、回転電極表面の移動速度、すなわち回転電極の回転速度は遅い。このように遅い回転速度の回転電極では、回転電極の表面に沿って流れる反応ガスや、対向電極の表面に沿って流れる希ガスの流れのいずれについても、回転電極の回転によって形成・制御することはできない。実際、特許文献1記載のプラズマ放電処理装置では、特許文献1の、例えば段落[0041]〜[0043]に記載されているように、ガスの流速を調整することで、反応ガスと希ガスの2つの層流を形成している。しかし、ガスの流速を調整することで、反応ガスと希ガスの2つの層流を形成することは難しく、乱流が生じ易い。そして、特許文献1の、例えば段落[0026]にも記載されているように、ひとたび乱流が生じれば、対向電極に付着するパーティクルを防止することさえできない。このように、特許文献1記載のプラズマ放電処理装置では、板状の基材(すなわち基板)には薄膜を形成することもできず、対向電極の表面に付着するパーティクルを大幅に低減することもできない。しかも、特許文献1記載のプラズマ放電処理装置では、基材表面に付着するパーティクルを防止するための手段について、何ら示唆もされていない。
一方、特許文献2記載のプラズマ処理装置100では、成膜対象基板104を、基板搬送台102とともに、回転電極106の回転軸と直交する方向に走査することによって、成膜対象基板104の表面全体をプラズマ処理している。特許文献2記載のプラズマ処理装置100のような回転電極型のCVD装置では、基板搬送台やモータ等の駆動手段を介して、成膜対象基板の移動搬送を制御している。
ここで、特許文献2記載のプラズマ処理装置は、基板搬送台102と同程度か、基板搬送台102よりも小さい面積の成膜対象基板104に対して、基板一枚毎に処理を行う装置である(いわゆるバッチ式の装置である)。このように、基板搬送台102自体を、比較的小さい基板104の範囲にわたって移動させる場合には、基板104と回転電極106との間の間隙D’の変動を抑制することは比較的容易であるといえ、成膜対象基板104と回転電極106と間隙D’を、非常に狭く(例えば、特許文献2では200μm)しておくことも可能ではある。
しかし、例えば、特許文献2のプラズマ処理装置100において、基板搬送台102の大きさに比べて走査方向に十分に長い基板に対してプラズマ処理を行う場合など、基板搬送台102に代えて、例えば、図9に示すようなローラー型の基板搬送手段202などを用いる必要がある。このような装置では、回転中の各ローラ204に順次基板が接触し、複数のローラ204と接触した状態で基板が移動するので、基板に振動が発生し易く、回転電極と基板との間の間隙D’も変動し易い。また、基板が大きいほど、プラズマ生成領域から大きく離れた位置で振動が生じた場合でも、回転電極と基板との間の間隙D’は変動してしまう。特に、比較的大きな基板表面に対して、途切れることなく連続して処理を行う装置(いわゆるインライン型の装置)では、基板104と回転電極106との間の間隙D’の変動を抑制することは非常に困難である。このため、回転電極型のCVD装置を用いて、比較的大きな基板に対して成膜などの処理を行う場合など、成膜対象基板と回転電極との間隙は、比較的大きくしておく必要が生じる。
しかし、回転電極と基板との間隙を大きくした場合、当然、プラズマ生成領域も広くなる。このため、反応ガスが、広くなった気相中でプラズマにより大量に反応し、気相中でパーティクルが大量に発生してしまう。大量に発生したパーティクルは、プラズマ生成領域において、基板に降り積もって薄膜に付着してしまい、良質の薄膜を形成することができないといった問題が生じる。また、プラズマ生成領域が大きくなり、プラズマ生成領域中の反応ガスの濃度が比較的薄くなってしまうので、特に成膜対象基板表面近傍における反応ガス濃度が低くなってしまう。このように、成膜成膜対象基板表面近傍における反応ガス濃度が低くなった結果、薄膜の形成速度が低くなってしまうといった問題も生じる。特許文献2記載のプラズマ処理装置100では、回転電極106と成膜対象基板104との間隙D’を大きくした場合、このような、薄膜形成速度の低下の問題や、気相中で発生するパーティクルの増加の問題について、いずれも解決することはできない。このため、特許文献2記載のプラズマ処理装置100では、回転電極106と成膜対象基板104との間隙D’を大きくすることができず、比較的大きな基板は処理することができない。
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、回転電極と基板との間の間隙を従来に比べて広く設定しても、上記パーティクルの発生を抑制することができ、しかも、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、高い成膜速度で成膜することができる薄膜形成装置及び薄膜形成方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、成膜対象基板に対して回転中心軸が平行な円筒状の回転電極に電力を供給することで、この回転電極と前記成膜対象基板との間隙にプラズマを生成し、生成したプラズマを用いて、供給された反応ガスの化学反応により前記成膜対象基板に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記回転電極を前記回転中心軸の周りに回転させる駆動手段と、前記回転電極の回転により前記回転電極の表面に引きずられて前記回転電極の表面に沿って移動する不活性ガスの流れを形成するために、前記回転電極の表面に前記不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、前記不活性ガスの流れと前記成膜対象基板との間に反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、整流ガスの流れである整流ガス層を形成する整流ガス層形成手段と、を備え、前記整流ガス層形成手段は、前記整流ガスを供給する整流ガス導入管と、この整流ガス導入管が供給した整流ガスを排出する整流ガス導出管とを有することにより、前記プラズマが生成される領域であるプラズマ生成領域の近傍において前記整流ガス層を形成し、この整流ガス層に前記反応ガスの流れを沿わせることによって当該反応ガスの流れを整え、前記反応ガス供給手段は、前記プラズマ領域に対して前記回転電極の回転方向上流側において、前記成膜対象基板に対して前記回転電極の回転方向側に傾斜する方向に向けて前記反応ガスを供給し、前記不活性ガス供給手段は、前記プラズマ生成領域に対して近い側から前記反応ガスの流れと接するように前記反応ガスの供給方向と略平行に前記不活性ガスを供給し、前記整流ガス導入配管は、前記プラズマ生成領域に対して遠い側から前記反応ガスの流れと接するように前記反応ガスの供給方向と略平行に前記整流ガスを供給し、前記整流ガス導出配管は、前記成膜対象基板に沿い且つ前記整流ガスの供給位置よりも前記プラズマ生成領域から離れた位置から前記整流ガスを排出することを特徴とする薄膜形成装置を提供する。
なお、前記不活性ガス供給手段は、前記回転電極の表面のうち、少なくとも、前記プラズマ生成領域に対して前記回転電極の回転方向上流側の、前記プラズマ生成領域の近傍に対応する領域に、前記不活性ガスを供給することが好ましい。
また、前記不活性ガス供給手段は、前記プラズマ生成領域を含む前記プラズマ生成領域近傍に対応する部分の壁が開放された、前記回転電極を囲む容器と、前記容器の開放部分まで前記不活性ガスが到達して、前記回転電極の表面の、前記プラズマ生成領域の近傍に対応する領域に前記不活性ガスが供給されるよう、前記容器内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入手段と、を有して構成されていることが好ましい。
また、前記反応ガス供給手段は、前記プラズマ生成領域の近傍に設けられた反応ガス供給口を有し、前記反応ガス供給口から前記成膜対象基板表面に向けて前記反応ガスを流出させることで、前記プラズマ生成領域に、前記不活性ガスの流れと略同一の向きに流れる、前記成膜対象基板の表面に沿った前記反応ガスの流れを生成することが好ましい。
また、前記成膜対象基板の表面に沿って前記プラズマ生成領域を通過した前記反応ガス、および、前記プラズマによって生じた前記反応ガスの反応生成物を、前記プラズマ生成領域の近傍から吸引除去するガス回収手段を有することが好ましい。
また、前記ガス回収手段のガス吸引口は、前記プラズマ生成領域に対して前記回転電極の回転方向下流側の、前記プラズマ生成領域の近傍に配置されていることが好ましい。
また、前記プラズマによって生じた前記反応ガスの反応生成物を、前記回転電極表面に沿った前記不活性ガスの流れから分離させるために、前記回転電極表面に沿って前記プラズマ生成領域を通過した前記不活性ガスの流れに対して分離用ガスを噴きつける、分離ガス噴出手段を有することが好ましい。
また、前記分離用ガスは、前記不活性ガスと同種のガスであり、前記分離ガス噴出手段は、前記分離用ガスの一部のガス成分が、前記プラズマ生成領域を通過した前記不活性ガスの流れに対して噴きつけられた後、前記回転電極の回転によって前記回転電極の表面に沿って移動する前記不活性ガスの流れに取り込まれるよう、前記分離ガスを噴きつけることが好ましい。
なお、前記分離ガス噴出手段の分離用ガス噴出口は、前記プラズマ生成領域に対して前記回転電極の回転方向下流側の、前記プラズマ生成領域の近傍に配置されていることが好ましい。
さらに、前記成膜対象基板の前記表面に沿って前記プラズマ生成領域を通過した前記反応ガス及び前記プラズマによって生じた前記反応ガスの反応生成物を、前記プラズマ生成領域の近傍から吸引除去するガス回収手段を有し、前記ガス回収手段は、前記分離ガス噴出手段によって前記不活性ガスの流れから分離された前記反応ガスの反応生成物も、前記プラズマ生成領域の近傍から吸引除去することが好ましい。
また、前記ガス回収手段は、前記回転電極に沿った前記不活性ガスの流れに対して前記分離ガス噴出手段から噴きつけられた前記分離ガスの一部、および、前記回転電極に沿った前記不活性ガスの流れから分離した前記不活性ガスの一部も、前記プラズマ生成領域の近傍から吸引除去することが好ましい。
なお、前記ガス回収手段のガス吸引口は、前記プラズマ生成領域に対して前記回転電極の回転駆動方向下流側の、前記プラズマ生成領域の近傍に配置されていることが好ましい。
本発明は、さらに、 成膜対象基板に対して回転中心軸が平行な円筒状の回転電極に電力を供給することによって生成するプラズマを用いて、前記成膜対象基板に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記回転電極を前記回転中心軸の周りに回転させる工程と、前記回転電極の回転により前記回転電極の表面に引きずられて、前記回転電極の表面に沿って移動する不活性ガスの流れを形成するために、前記回転電極の表面に前記不活性ガスを供給する工程と、前記不活性ガスの流れと前記成膜対象基板との間に反応ガスを供給する工程と、整流ガスの流れである整流ガス層を形成する工程と、を備え、前記整流ガス層を形成する工程は、前記整流ガスを供給する工程と、この整流ガスを供給する工程において供給された整流ガスを排出する工程とを有することにより、前記プラズマが生成される領域であるプラズマ生成領域の近傍において前記整流ガス層を形成し、この整流ガス層に前記反応ガスの流れを沿わせることによって当該反応ガスの流れを整え、前記反応ガスを供給する工程では、前記プラズマ領域に対して前記回転電極の回転方向上流側において、前記成膜対象基板に対して前記回転電極の回転方向側に傾斜する方向に向けて前記反応ガスが供給され、前記不活性ガスを供給する工程では、前記プラズマ生成領域に対して近い側から前記反応ガスの流れと接するように前記反応ガスの供給方向と略平行に前記不活性ガスが供給され、前記整流ガスを供給する工程では、前記プラズマ生成領域に対して遠い側から前記反応ガスの流れと接するように前記反応ガスの供給方向と略平行に前記整流ガスが供給され、前記整流ガスを排出する工程では、前記成膜対象基板に沿い且つ前記整流ガスの供給位置よりも前記プラズマ生成領域から離れた位置から前記整流ガスが排出されることを特徴とする薄膜形成方法を提供する。
本発明の薄膜形成装置及び薄膜形成方法では、回転電極の回転により回転電極の表面に引きずられて、回転電極と基板との間隙のプラズマ生成領域を回転電極の表面に沿って移動する、不活性ガスの流れを形成するので、回転電極へパーティクルが付着することを大幅に低減することができる。また、プラズマ生成領域において、反応ガスを基板表面部分にのみ供給することができるので、プラズマ生成領域における気相部分での反応を抑制し、余分な反応生成物すなわちパーティクルの発生自体を抑制することができる。また、形成された不活性ガスの流れによって、プラズマ生成領域における反応ガスが供給される空間(基板表面と接する側の空間部分)の大きさを小さくする。これにより、プラズマ生成領域における、基板表面部分での反応ガスの濃度を向上させ、ひいては基板表面への成膜の速度も向上させることができる。このため、本発明の薄膜形成装置及び薄膜形成方法では、回転電極と基板との間の間隙を従来に比べて広く設定しても、パーティクルの発生を抑制することができ、しかも、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、高い成膜速度で成膜することができる。
また、プラズマ生成領域の近傍において反応ガスの流れと接して、反応ガスの流れを整える整流ガス層を形成するので、プラズマ生成領域内またはその近傍における、反応ガスや不活性ガスの渦の発生を防止することができる。これにより、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、さらに安定した成膜条件で成膜することができる。
また、プラズマ生成領域の近傍に設けられた反応ガス供給口から、基板表面に向けて反応ガスを流出させることにより、プラズマ生成領域に、不活性ガスの流れと略同一の向きに流れる、成膜対象基板の表面に沿った反応ガスの流れを生成し、反応ガスと不活性ガスとが略同一方向に流れる2層の安定した流れを、プラズマ生成領域に形成することができる。この2層の安定した流れにより、パーティクルの発生を抑制する一方、発生したパーティクルをプラズマ生成領域から不活性ガスの流れに沿って除去するとともに、基板表面へ反応ガスを安定的に供給する。このため、安定した条件で基板表面に薄膜を成膜することができる。
また、回転電極表面に沿ってプラズマ生成領域を通過した不活性ガスの流れに対して分離用ガスを噴きつけ、パーティクルを、回転電極表面に沿った不活性ガスの流れから分離させる。これにより、成膜装置の内部への侵入を抑え、特に回転電極表面へのパーティクルの付着を大幅に低減することができ、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、安定した成膜条件で成膜することができる。
また、プラズマ生成領域を通過した反応ガスとともに、反応ガスに含まれる、プラズマによって生じた反応ガスの反応生成物を、プラズマ生成領域の近傍から吸引除去することにより、回転電極表面へのパーティクルの付着をさらに大幅に低減することができ、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、さらに安定した成膜条件で成膜することができる。
以下、本発明の薄膜形成装置及び薄膜形成方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
まず、本発明の薄膜形成装置の一例の概略の構成について説明する。図1は、本発明の薄膜形成装置の一例である、薄膜形成装置10(装置10)について説明する概略構成図である。装置10は、基板Sに対して回転中心軸14が平行な円筒状の回転電極12に電力を供給することで、この回転電極12と基板Sとの間隙の、プラズマ生成領域Pにプラズマを生成し、生成したプラズマを用いて、供給された反応ガスGの化学反応により基板Sに薄膜を形成する、いわゆるプラズマCVD装置である。装置10は、圧力が900hPa以上で大気圧に近い圧力雰囲気中でプラズマを生成し、基板Sの表面に薄膜を形成する。以下、装置10を用い、透明なガラス基板である基板Sの表面に、酸化ケイ素(SiO2)膜を形成する場合について、説明する。
装置10は、回転電極12、対向電極16、電極駆動手段20、電源22、基板搬送手段30、不活性ガス供給手段40、反応ガス供給手段50、分離ガス噴出手段60、ガス回収手段70、整流ガス層形成手段80、および制御手段90を有して構成されている。
回転電極12は、基板に対して平行な回転中心軸14を備え、表面が滑らかな金属製円筒状回転体で構成されている。回転電極12は、例えば駆動モータからなる電極駆動手段20と接続されて、回転中心軸14を中心に回転する。また、回転電極12は電源22と接続されている。回転電極12の下側には、対向電極16が設けられている。電源22は、回転電極12と対向電極16との間の空間にプラズマを生成するための電力を、回転電極12と対向電極16に供給する(図1において、対向電極16への配線は図示されていない)。成膜対象基板である基板Sは、基板搬送手段30によって、回転電極12と対向電極16との間の空間を、図1において右側から左側に、基板Sの表面に沿った方向に移動する(必要に応じて、その逆方向の移動を行い、あるいは往復の移動を複数回行ってもよい)。
装置10は、回転電極12の回転により回転電極12の表面に引きずられて、回転電極12の表面に沿って移動する不活性ガスNの流れを、プラズマ生成領域Pに導く機能を有している。装置10は、この特徴的な機能によって、回転電極12の表面へのパーティクルの付着を低減し、また、プラズマ生成領域Pにおける反応ガスGの流れの空間を制限する。後に詳述するが、このような回転電極12の表面に沿って移動する不活性ガスNの流れによって、成膜反応中の余分な反応生成物すなわちパーティクルの発生自体を抑制し、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、高い成膜速度で成膜するといった効果が得られる。装置10では、主に、回転電極12を駆動する電極駆動手段20、および不活性ガス供給手段40の動作によって、不活性ガスNの流れが形成される。不活性ガス供給手段40は、回転電極12の表面に不活性ガスNを供給する手段である。また、反応ガス供給手段50は、不活性ガスNの流れと基板Sとの間に反応ガスGを供給する手段である。
ここで、不活性ガスNは、プラズマ生成領域Pに発生したプラズマに曝されても、当該ガスの分子のみでは余分な反応生成物を生じない、非反応性のガスである。不活性ガスNとしては、例えば希ガスや反応性の低いガスを用いればよい。本実施形態の装置10では、このような不活性ガスNとして窒素(N2)を用いる。また、反応ガスGは、プラズマ生成領域Pに発生したプラズマに曝されることで、当該ガスの分子が反応して、基板Sの表面に薄膜を形成するためのガス(必要に応じて、1種類のガスでも、複数のガスの混合でもよい)である。例えばSiO2薄膜を基板S上に形成する場合、原料ガスであるTEOS(テトラエトキシシラン;正珪酸四エチル)ガスと、成膜反応に寄与する酸化ガスである酸素(O2)ガスと、キャリアガスである窒素(N2)ガスとの混合ガスを、反応ガスGとして供給すればよい。ここで、キャリアガスとは、反応そのものに寄与しないが、成膜反応に寄与するガス濃度調整、体積調整等をするガスのことであり、不活性ガスNと同種のものが混合されていても、反応ガスという。
装置10は、また、プラズマによって生じたパーティクルを、回転電極12の表面に沿った不活性ガスの流れから分離させて、少なくとも回転電極12の近傍から除去するといった機能も有している。装置10では、このような特徴的な機能によって、回転電極12表面や装置10内のその他の部分へのパーティクルの付着を防止するといった効果を奏する。装置10は、主に、分離ガス噴出手段60およびガス回収手段70の動作によって、プラズマによって生じたパーティクルを、回転電極12の表面に沿った不活性ガスの流れから分離させて、少なくとも回転電極12の近傍から除去する。分離ガス噴出手段60は、回転電極表面12に沿ってプラズマ生成領域Pを通過した不活性ガスNの流れに対して分離用ガスを噴きつける手段である。ガス回収手段70は、プラズマ生成領域Pを通過した反応ガスGとともに、反応ガスGに含まれるパーティクルを、プラズマ生成領域Pの近傍から吸引除去するとともに、分離ガス噴出手段60によって不活性ガスNの流れから分離されたパーティクルも、プラズマ生成領域Pの近傍から吸引除去する手段である。
また、プラズマ生成領域Pの近傍において反応ガスGの流れと接して、少なくとも反応ガスGの流れを整える整流ガス層Rを形成する機能も装置10は有している。装置10では、このような特徴的な機能によって、プラズマ生成領域P内またはその近傍において、反応ガスGや不活性ガスNが渦状の流れを形成することを防止し、その結果渦状の流れが原因で発生するパーティクルを低減するといった効果を奏する。装置10は、整流ガス層形成手段80の作用によって、少なくとも反応ガスGの流れを整える整流ガス層Rを形成する。本実施形態の装置10では、分離ガスおよび整流ガスとして、不活性ガスNと同種のガス、すなわち窒素ガス(N2)を用いる。なお、本明細書においては、それぞれ同種のガスであっても、不活性ガスとして供給されるガスを不活性ガス、分離ガスとして導入されるガスを分離ガス、整流ガスとして導入されるガスを整流ガスとして、それぞれ区別して記載している。
上記各手段は、制御手段90に接続されている。制御手段90は、オペレータからの入力を受け付けて、受け付けた入力内容に応じて、例えば、反応ガスGの流れや不活性ガスNの流れが所望の状態となり、高速で安定した成膜が実現できるよう、各手段の動作それぞれを制御可能となっている。
図2〜図4は、図1に概略的に示した装置10の各手段の具体的な構成および機能について説明する図であり、図2は装置10の概略斜視断面図であり、図3は装置10の概略側断面図である。また、図4は、装置の一部、詳しくはプラズマ生成領域Pとその周辺部分を拡大した側断面図である。以下、図2〜図4を参照して、各手段の機能の詳細について説明する。なお、図3および図4中の白抜き矢印は、原料ガスであるTEOSガスを含む反応ガスGの流れを示している。また、図3および図4中の着色した矢印は、窒素ガス(不活性ガスN、分離ガス、整流ガスそれぞれ)の流れを示している。
回転電極12は、例えば、直径200mmの円筒形状の電極であり、対向電極16と所定の距離離間して配置されている。基板搬送手段30は、図示しない駆動手段と接続された複数のローラ32を備えて構成された公知のローラ型基板搬送手段である。基板Sは、回転中の各ローラ32に順次接触して、複数のローラ32と接触した状態で移動される。基板Sは、図2中の左右方向に充分長いガラス基板であり、基板搬送手段30によって、回転電極12と対向電極16との間の空間を、図2中右側から左側に移動する。装置10は、このように、一方向に充分に長い基板や、複数の基板に対して途切れることなく連続して処理を行う装置(いわゆるインライン型の装置)である。このようなインライン型の装置では、搬送方向に十分に長い基板の任意の場所で発生した振動が回転電極と基板との間の間隙D(図2参照)へ伝達され易く、間隔Dは変動し易い。装置10では、回転電極12と基板Sの表面の間隙Dが、例えば5mmと比較的大きく設定されており、このような振動が生じたとしても、基板Sと対向電極とが接触することはない。充分に長い基板Sに生じる振動に関わらず、この基板S表面に安定して薄膜を形成するためには、間隙Dは2mm以上、特に3mm以上が好ましく、6mm以下、特に5mm以下であることが好ましい。
回転電極12は、周囲が壁面で囲まれた反応室42を構成する容器43内に配置されており、電極駆動手段20(図2〜4においては図示せず)によって、反応室42内において回転駆動している。電極駆動手段20は、制御手段90に制御されて、回転電極12の表面の移動速度(周速度)が所定の速度(例えば13m/s)となるよう、回転電極12を回転駆動させる。
上述の不活性ガス供給手段40は、この容器43と不活性ガス導入手段45(図3参照)とを有して構成されている。容器43は、壁面に、不活性ガス導入口41と開放口44とを備えている。不活性ガス導入口41は、容器43の図2中上側の壁に設けられている。また、開放口44は、容器43の、回転電極12と基板Sとの間隙のプラズマ生成領域Pに対応する部分に設けられている。容器43の開放口44は、容器43の側壁端部42aおよび42bと、回転電極12の表面とが、それぞれ一定の距離を保って離間するよう形成されている。例えば、容器43の側壁端部42bと回転電極12の表面との距離(後述する不活性ガス返流口44bの幅)は、例えば、約1.2mmに設定されている。
不活性ガス導入口41には、不活性ガス導入手段45が接続されている。不活性ガス導入手段45は、不活性ガス導入口41と接続された図示しないガス導入パイプ、ガス導入パイプと接続された図示しない不活性ガスボンベ、さらに、ガス導入パイプに設けられた図示しない公知のマスフローコントローラー等からなるガス流量調整手段を有して構成されている。不活性ガス導入手段45は、上述の制御手段90と接続されている。不活性ガス導入手段45は、制御手段90によって、特にガス流量調整手段の動作が制御されて、所望のガス流量で、不活性ガス導入口41を介して反応室42内に不活性ガスNを流入させる。
この不活性ガス導入口41は、基板Sの表面に垂直で回転電極12の回転中心軸14を通る平面Cの近傍に、かつ、右回りで回転する回転電極をもつ図2の装置において平面Cより右側に設けられている。以下、本明細書においては、この平面C、及び右回りの回転電極における回転方向を基準として位置関係を表すものとする。平面Cによって回転電極を2分したときに、回転する回転電極の円周表面がプラズマ生成量域Pへ向かう側を“平面Cの右側”と呼ぶこととし、図2では平面Cの右側とは、平面Cを基準として、平面Cに垂直方向で基板Sに平行な方向に向かう側とする。また、回転電極の円周表面に沿った方向に対しては、円周表面に沿って回転電極の回転方向の逆方向を“回転方向の上流側”の方向もしくは単に“回転上流側”の方向とよび、円周表面に沿って回転電極の回転方向と順方向を“回転方向の下流流側”の方向もしくは単に“回転下流側”の方向と呼ぶ。
不活性ガス導入口41が、このように平面Cの右側に設けられているので、不活性ガス導入口41から流入した不活性ガスNは、回転電極12の回転方向に沿った速度成分を有している。これにより、不活性ガス導入口41から流入した不活性ガスNは、回転電極12の表面に沿って、反応室42内をスムーズに移動することができ、反応室42の開放口44まで不活性ガスNがスムーズに到達する。このように、不活性ガスNは、回転電極12の表面の、プラズマ生成領域Pの近傍に対応する領域にスムーズに供給される。不活性ガス導入口41は、例えば、平面Cから平面Cの右側に、例えば約7mm離間した位置に設けられており、不活性ガス導入口の幅(図2中左右方向の幅)は、例えば約3mmとなっている。なお、回転電極12の表面と、容器43の図中上側の内壁面との距離は、最も狭い部分で約1.0mmとなっている。
上述のように、容器43の開放口44は、側壁端部42aおよび42bと、回転電極12の表面とが、それぞれ一定の距離を保って離間するよう形成されている。すなわち、開放口44の回転上流側には、回転電極12と側壁端部42aとの間隙である不活性ガス供給口44aが形成され、開放口44の回転下流側には、回転電極12と側壁端部42bとの間隙である不活性ガス返流口44bが形成されている。不活性ガス導入口41から流入した不活性ガスNは、反応室42内を、回転電極12の表面に沿ってスムーズに移動し、この反応ガス供給口44aから回転電極12の表面の、プラズマ生成領域Pの近傍に対応する領域に供給される。特に、回転電極12が回転している状態では、反応室42内の不活性ガスNは、回転電極12の表面に引きずられて移動し、不活性ガス供給口44aに安定して供給され続ける。
不活性ガス供給手段40によって、反応室42内に不活性ガスNが供給されると、不活性ガスNは最終的に不活性ガス供給口44aから流出する。不活性ガス供給口44aに不活性ガスNが供給され、回転電極12が回転駆動されていると、供給された不活性ガスNは、回転電極12の回転によって回転電極12の表面に引きずられて移動して、プラズマ生成領域Pを、回転電極12の表面に沿って移動する不活性ガスNの流れが形成される。なお、反応室42の図2中右側の内壁面は、図面右から左に向かって傾斜(つまり、反応室のプラズマ生成領域の上流側の壁面下部は回転電極側に傾斜)しており、このように壁面を傾斜させたることが好ましい。このような内壁面の傾斜により、回転電極12の表面のプラズマ生成領域Pの近傍に対応する領域に、より効率的に不活性ガスNが供給される他、回転電極12の表面に沿って移動する不活性ガスNの流れが、より安定して形成されるといった効果を奏する。
反応ガス供給手段50は、平面Cの右側の、プラズマ生成領域Pの近傍に設けられた反応ガス供給口52、反応ガス配管54と、反応ガス導入手段55(図3参照)とを有して構成されている。反応ガス配管54は、容器43の図2中右側の壁に沿って設けられている。反応ガス供給口52は、この反応ガス配管54の開口端であり、不活性ガス供給口44aの近傍の、平面Cの右側方向に配置されている。反応ガス配管54には、反応ガス導入手段55が接続されている。反応ガス導入手段55は、反応ガス配管54と接続された図示しない反応ガスボンベ(TEOSガスボンベ、酸素ガスボンベ、窒素ガスボンベ[図示しない不活性ガスボンベと共通でよい])や、液体状原料であるTEOSを気体化して供給するための液体ソース供給機構や、各ガスボンベそれぞれに対応して設けられた、図示しない公知のマスフローコントローラー等からなるガス流量調整手段などを有して構成されている。反応ガス導入手段55は、上述の制御手段90と接続されている。反応ガス導入手段55は、制御手段90によって、特にガス流量調整手段の動作が制御されて、所望のガス流量で、反応ガス配管54に反応ガスGを流入させる。
反応ガス配管54に流入された反応ガスGは、反応ガス供給口52から基板Sの表面に向けて流出される。反応ガス供給口52は、不活性ガス供給口44aの近傍の、不活性ガス供給口44aよりも平面Cの右側方向に配置されており、不活性ガスNの流れと基板Sとの間に反応ガスGが流出される。このように反応ガス供給口52から、基板S表面に向けて、不活性ガスNの流れと基板Sとの間に反応ガスGが流出されると、プラズマ生成領域Pには、不活性ガスNの流れと略同一の向きに流れる、基板Sの表面に沿った反応ガスGの流れが生成される。回転電極12が回転駆動されると、回転電極12の表面に沿った不活性ガスNの流れが形成され、この不活性ガスNの流れによって、反応ガスGの流れが安定化される。また、後述するように、ガス回収手段70では、後述のガス回収口72から、プラズマ生成領域Pを通過した反応ガスGを吸引しており、この吸引の効果によっても反応ガスGの流れが安定化される(図4参照)。なお、反応ガス配管54は、反応室42の壁面の傾斜に沿って、図面右側から左側に向かって傾斜している。このように壁面を傾斜させることが好ましい。このような傾斜により、反応ガス供給口52から基板S表面に向けて、基板表面に沿った速度成分を有するように反応ガスGを流出させて、基板Sの表面に沿った反応ガスGの流れを、より安定して形成することができるといった効果を奏する。
このように、プラズマ生成領域Pにおいて回転電極12の表面に沿って移動する、不活性ガスNの流れを形成することで、回転電極へパーティクルが付着することを大幅に低減することができる。また、形成された不活性ガスNの流れによって、プラズマ生成領域における、反応ガスGが供給される空間(基板表面と接する側の空間部分)を小さくする。これにより、プラズマ生成領域Pにおける、基板表面部分での反応ガスGの濃度(より詳しくは、反応ガスGに含まれる原料ガス[本実施形態ではTEOSガス]の濃度)を高め、ひいては基板S表面への成膜の速度を向上させることができる。また、プラズマ生成領域Pにおいて、反応ガスGを基板Sの表面部分にのみ供給することができるので、プラズマ生成領域Pにおける気相部分での反応を抑制し、余分な反応生成物すなわちパーティクルの発生自体を抑制することができる。
また、プラズマ生成領域Pの近傍に設けられた反応ガス供給口52から、基板Sの表面に向けて反応ガスGを流出させることで、プラズマ生成領域Pに、不活性ガスNの流れと略同一の向きに流れる成膜対象基板の表面に沿った反応ガスGの流れを生成し、反応ガスGと不活性ガスNとが略同一方向に流れる2層の安定した流れを、プラズマ生成領域Pに形成することができる。この2層の安定した流れにより、パーティクルの発生を抑制しつつ、プラズマ生成領域Pからパーティクルを除去するとともに、基板Sの表面へ反応ガスGを安定して供給して、基板Sの表面に薄膜を安定した条件で成膜することができる。
本明細書において、反応ガスGと不活性ガスNとが略同一方向に流れ、2層の安定した流れを形成している状態とは、それぞれが層流として一方向に流れている状態であってもよく、また、少なくともいずれか1つのガスが乱流として流れている状態であっても構わない。不活性ガスNの流れは、回転電極12の回転によって回転電極12の表面に引きずられて生じる粘性流であり、通常、回転電極12の表面では不活性ガスNの濃度が充分高く、回転電極12の表面から離れるにしたがって、不活性ガスNの濃度は徐々に低くなる。本発明の薄膜形成装置では、このように、回転電極の回転によって、回転電極の表面に沿った不活性ガスNの流れを形成するので、回転電極の表面には充分高い濃度の不活性ガスNの流れが形成される。そして、この状態で、不活性ガスNの流れと成膜対象基板との間に反応ガスGを供給するので、回転電極12の表面近傍における反応ガスGの濃度、より詳しくは反応ガスGに含まれる原料ガス[本実施形態ではTEOSガス]の濃度は、充分に小さく、しかも安定して保たれる。このため、装置10では、プラズマ生成領域Pの回転電極12の表面近傍、すなわちプラズマ生成領域Pの気相部分において、パーティクルがほとんど発生しない。
また、装置10において不活性ガスNや、反応ガスGにおけるキャリアガスとして窒素(N2)ガスを用いれば、例えばヘリウム(He)ガスと比較して、比較的扱いやすく、また値段も低いため、成膜(薄膜形成)にかかるコストを低く抑えることができる。しかし、窒素ガスは、ヘリウムガスと比較すると、成膜反応過程において、余分な反応生成物を生じ易い傾向がある。このため、従来の回転電極型のプラズマCVD装置においては、反応生成物が比較的発生し易い状態に設定した場合、すなわち、回転電極と基板表面との間隙を例えば5mmと比較的大きく設定した場合など、窒素ガスを用いることができなかった。装置10では、回転電極12の表面に形成された不活性ガスNの流れによって、回転電極12へパーティクルが付着することを大幅に低減し、かつ、余分な反応生成物すなわちパーティクルの発生自体を抑制することができるので、不活性ガスNやキャリアガスとして比較的安価なN2ガスを利用しても、パーティクル発生の問題を生じることがない。本発明の薄膜形成装置を用いれば、薄膜の形成に係るコストを比較的低くすることもできる。
分離ガス噴出手段60は、平面Cの左側の、プラズマ生成領域Pの近傍に設けられた分離ガス噴出口62、分離ガス配管64と、分離ガス導入手段65とを有して構成されている。分離ガス配管64は、容器43の図2中左側(平面Cの左側)の壁に沿って設けられている。分離ガス噴出口62は、この分離ガス配管64の開口端である。分離ガス噴出口62は、ガス回収手段70の後述するガス回収口72の近傍に設けられており、ガス回収口72に対して図中のより上側、すなわち回転電極12の回転方向のより下流側に配置されている。分離ガス配管64には、分離ガス導入手段65が接続されている。分離ガス導入手段65は、分離ガス配管64と接続された図示しない分離ガスボンベ(図示しない不活性ガスボンベと共通でよい)や、図示しない公知のマスフローコントローラーからなるガス流量調整手段などを有して構成されている。分離ガス導入手段65は、上述の制御手段90と接続されている。分離ガス導入手段65は、制御手段90によって、特にガス流量調整手段の動作が制御されて、所望のガス流量で、分離ガス配管64に分離ガスを流入させる。分離ガス配管64に流入した分離ガスは、分離ガス噴出口62から噴出して、回転電極12表面に沿ってプラズマ生成領域Pを通過した不活性ガスNの流れに噴き付けられる。
分離ガス噴出手段60は、プラズマ生成領域Pを通過した不活性ガスNの流れに対して分離ガスを噴き付けることで、プラズマ生成領域において発生し、不活性ガスNの流れに混入した僅かなパーティクルを、回転電極表面12に沿って流れる不活性ガスNの流れから分離する(図4参照)。仮に、この分離ガス噴出手段60を有していない場合、プラズマ生成領域Pを通過した不活性ガスNの大部分は、回転電極表面12に沿って流れ続け、不活性ガス供給口44aを再度通過して、プラズマ生成領域Pに供給されることとなる。装置10では、上述のように、パーティクルの発生を大部分予防できるものであるが、微量ながらパーティクルが形成される可能性はある。特に、比較的大きい面積の基板Sに対して、長時間かけて成膜を行なった場合、形成されるパーティクルの量も無視できなくなる。分離ガス噴出手段60が、プラズマ生成領域Pを通過した不活性ガスNの流れに分離ガスを噴き付け、不活性ガスNの流れに混入したパーティクルを、回転電極表面12に沿って流れる不活性ガスNの流れから分離することで、装置10の内部、特に回転電極12の表面へのパーティクルの付着をより大幅に低減することができる。なお、分離ガス(窒素ガス)の一部のガスは、プラズマ生成領域Pを通過した不活性ガスN(窒素ガス)の流れに対して噴きつけられた後、回転電極12の回転によって回転電極12の表面に沿って移動する不活性ガスNの流れに取り込まれる。これにより、回転電極表面12に沿った不活性ガスNの流れ(窒素ガスの流れ)は、プラズマ生成領域Pより回転下流側においても安定して形成されることになる。このように、分離ガス噴出手段60を有することで、パーティクルの混入がほとんどないより高品質の薄膜を、より安定した成膜条件で成膜することができる。
ガス回収手段70は、回転下流側の、プラズマ生成領域Pの近傍に設けられたガス回収口72、ガス回収配管74と、ガス導出手段75とを有して構成されている。ガス回収配管74は、図2に示すように、容器43の図2中の左側(平面Cの左側)に、分離ガス配管64に沿って設けられている。ガス回収口72は、このガス回収配管74の開口端である。ガス回収口72は、分離ガス噴出口62に対して図2中のより下側、すなわちガス回収口72より回転電極12の回転方向のより上流側に配置されている。回収ガス配管74には、ガス導出手段75が接続されている。ガス導出手段75は、ガス回収配管74と接続された図示しない吸気ポンプや、図示しないガス排気量調整手段などを有して構成されている。ガス導出手段75は、上述の制御手段90と接続されている。ガス導出手段75は、制御手段90によって、特にガス排気量調整手段の動作が制御されて、所望のガス排気流量で、ガス回収配管74を介して、各種ガス(およびパーティクル)を排気する。
ガス回収手段70は、プラズマ生成領域Pの近傍に設けられたガス回収口72から、プラズマ生成領域P近傍の各種ガスや、各種ガスに混入しているパーティクルを吸入・除去する。まず、反応ガス供給手段50によって供給されて、プラズマ生成領域Pを通過した反応ガスGとともに、反応ガスGに含まれるパーティクルを、プラズマ生成領域Pの近傍から吸引除去する。それとともに、分離ガス噴出手段60によって不活性ガスNの流れから分離されたパーティクルも、プラズマ生成領域Pの近傍から吸引除去する。また、ガス回収手段70は、分離ガス噴出口62から不活性ガスN(窒素ガス)の流れに向けて噴きつけられた分離ガス(窒素ガス)の一部、および、回転電極12に沿った不活性ガスの流れから分離した不活性ガスN(窒素ガス)の一部も、プラズマ生成領域Pの近傍から吸引除去する(図4参照)。仮に、このガス回収手段70を有していない場合、プラズマ生成領域Pにおいて発生した微量なパーティクルが、反応室42内に混入して、反応室42の内壁面や回転電極表面に微量ながら付着する虞が生じる。また、ガス回収手段70を有していない場合、プラズマ生成領域Pを通過した反応ガスGが、反応室42内に混入して、回転電極12の表面に沿って流れる不活性ガスNの流れに混入する虞もある。この場合、回転電極12のごく近傍の気相中で、パーティクルが比較的多く生成されてしまう。装置10では、ガス回収手段70によって、反応ガスGやパーティクルを、プラズマ生成領域Pの近傍から吸引除去するので、回転電極12の表面へのパーティクルの付着をさらに大幅に低減することができ、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、さらに安定した成膜条件で成膜することができる。
整流ガス層形成手段80は、平面Cの右側において整流ガス層を形成するための上流側ガス層形成手段80Aと、平面Cの左側において整流ガス層を形成するための下流側ガス層形成手段80Bと、を有して構成されている。装置10は、一方向に充分に長い基板Sの表面に薄膜を形成するための装置であり、充分に大きな基板Sと、回転電極12や各種ガスの流出入口との間隙Fは、装置10および基板Sが設置される比較的大きな空間(例えば室内)の雰囲気に開放されている。整流ガス層形成手段80(上流側ガス層形成手段80Aおよび下流側ガス層形成手段80B)は、このような雰囲気からのコンタミの混入を防止し、かつ、反応ガスGや不活性ガスNの流れを整える整流ガス層Rを形成する。
上流側ガス層形成手段80Aは、平面Cの右側の間隙Fにおいて、プラズマ生成領域Pの近傍で反応ガスGの流れと接して、少なくとも反応ガスGの流れを整える整流ガス層Rを形成する。上流側ガス層形成手段80Aは、平面Cの右側の、プラズマ生成領域Pの近傍に設けられた整流ガス導入口82A、整流ガス導入配管84Aと、整流ガス導入・導出手段85、整流ガス導出口86Aと、整流ガス導出配管88Aとを有して構成されている。整流ガス導入口82Aは、整流ガス導入配管84Aの開口端であり、整流ガス導出口86Aは、整流ガス導出配管88Aの開口端である。整流ガス導入口82Aは、反応ガス導出口52の近傍に設けられており、反応ガス導出口52に対してより平面Cの右側方向に配置されている。また、整流ガス導出口86Aは、整流ガス導入口82Aに対してより平面Cの右側方向に配置されている。整流ガス導入・導出手段85は、整流ガス導入配管84Aを介して整流ガス導入口82Aから整流ガスを流出させるとともに、整流ガス導出口86Aから整流ガス導出配管88Aを通って整流ガスを排出させる。整流ガス導入・導出手段85は、図示しない整流ガスボンベ(図示しない不活性ガスボンベと共通でよい)や、図示しない公知のマスフローコントローラーからなるガス流量調整手段、図示しない吸気ポンプや、図示しないガス排気量調整手段などを有して構成されている。整流ガス導入・導出手段85は、上述の制御手段90と接続されている。整流ガス導入・導出手段85は、制御手段90によって、特にガス流量調整手段や、ガス排気量調整手段の動作が制御されて、整流ガス層Rにおける整流ガスの流れを調整する。下流側ガス層形成手段80Bも、上流側ガス層形成手段80Aと同様の構成になっており、平面Cの左側の間隙Fにおいて、プラズマ生成領域Pの近傍で反応ガスGの流れと接して、少なくとも反応ガスGの流れを整える整流ガス層Rを形成する。
整流ガス層Rにおいて、整流ガスは例えば図4に示したような流れを形成している。この整流ガス層Rによって、間隙Fから外部雰囲気の気体が流入することを防ぐことができる。また、同時に、プラズマ生成領域P内またはその近傍において、反応ガスGや不活性ガスNが渦状の流れを形成したり、乱流を形成することを防止して、プラズマ生成領域Pにおける反応ガスGの流れや不活性ガスNの流れを安定化することができる。これにより、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、さらに安定した成膜条件で成膜することができる。
各種ガスの流れを生成するための上記各手段は、制御手段90に接続されており、制御手段90が、各手段におけるガス流量やガス排気量の程度を調整することで、各種ガスの流れを所望の状態に調整することができる。
装置10の制御手段90によって、各種ガスの流れが所望の流れとなるよう調整されている状態で、電源22を用いて、回転電極12と対向電極16との間の空間に電界を形成して、プラズマ生成領域Pにプラズマが形成されている。このように、反応ガスGが流れるプラズマ生成領域Pにプラズマが生成されることで、反応ガスGの化学反応によって、基板Sのプラズマ生成領域Pに対応する領域に、酸化ケイ素膜(SiO2膜)が形成される。この際、プラズマ生成領域Pにおけるパーティクルの発生はほとんどなく、また、充分速い成膜速度で薄膜形成が進行することは上述のとおりである。装置10では、制御手段90が基板搬送手段30の動作を制御して、このようなプラズマが生成されている状態で、基板Sを図中右側から左側に基板Sの表面に沿った方向に移動させて、基板Sの表面全体に薄膜を形成する。装置10では、回転電極12と基板Sとの表面の間隙Dが、例えば5mmと比較的大きく設定されたインライン型の成膜装置であるが、充分早い成膜速度で、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を形成することができる。
すなわち、本発明の薄膜形成方法は、回転電極12を回転中心軸の周りに回転させる工程と、回転電極12の回転により回転電極12の表面に引きずられて、回転電極の表面に沿って移動する不活性ガスNの流れを形成するために、回転電極12の表面に不活性ガスNを供給する工程と、不活性ガスNの流れと成膜対象基板Sとの間に反応ガスGを供給する工程と、を有して行われる。
以下、装置10が備える各手段の効果について、装置10を再現するモデルを用いたシミュレーションによる結果を示す。シミュレーションは、CDadapco社製、STAR−CD version3.24を用いて行なった。装置10を再現するモデルとしては、図5に示す2次元再現モデルを用いた、2次元再現モデルにおいて、回転電極12を再現する回転電極モデル12Mの直径は200mmとした。また、回転電極モデル12Mの表面と基板モデルSMとの間隔は5mmとした。また図示するように、スリット幅3mmの不活性ガス導入口(モデル)41Mが、回転電極モデル12Mが設けられた容器モデル43Mの上側壁面に設けられているものとした。不活性ガス導入口41Mの中心位置は、基板モデルSMの表面に垂直で回転電極の回転中心軸を通る平面から、図面右側に7mm離間した位置に設定した。また、回転中心軸を通る平面から右側には、反応ガス供給配管(モデル)54Mおよび整流ガス導入配管(モデル)82aMとを再現し、各配管の幅は5mmとした。そして、回転中心軸を通る平面から左側には、分離ガス配管(モデル)64Mおよびガス回収配管(モデル)74Mを再現し、各配管の幅を3mmとし、各配管同士の間隔は10mmに設定した。また、成膜対象の基板SMと、回転電極12Mや各種ガスの流出入口との間隙FMの端部は、大気開放されているものと設定した。
以下の各シミュレーションでは、反応ガス供給配管54Mの端部から配管内に流入する反応ガスの流速を2.2(m/s)、整流ガス導入配管82aMの端部から配管内に流入する整流ガスの流速を1.1(m/s)、分離ガス配管の端部から配管内に流入する分離ガスの流速を3.3(m/s)と、それぞれ一定値に設定した(ただし、分離ガスの速度は、後述する条件3−2では変更している)。これらの流速は、実際の装置10において、各種ガス流量調整手段やガス排気流量調整手段によって調整することができるものであり、装置10を用いて行なう実際の成膜条件に対応している。なお、反応ガスとしては、原料ガスであるTEOSガスと、キャリアガスである窒素ガスとを混合した混合ガスを仮定した。反応ガスにおける各ガスの混合比は、装置10を用いて行なう実際の成膜条件に対応した混合比(TEOSガス:窒素ガス=1:99)とし、各シミュレーションにおいて常に一定とした。
以下の各シミュレーションでは、回転電極モデル12Mの表面の移動速度(回転周速度)r、不活性ガス導入口41Mから反応室モデル43Mに流出する不活性ガスの流速v1(図中下向きの流れ)、分離ガス配管64Mの端部から配管内に流入する分離ガスの流速v2(図中左から右向きの流れ)、をそれぞれ設定した各条件について、回転電極12Mと基板SMとの再接近部分における原料ガスの濃度(反応ガスに含まれるTEOSガスの濃度)勾配を計算した。再接近部分とは、再現モデルにおけるプラズマ生成領域PMに対応する部分であり、より詳しくは、基板SMの表面に垂直で回転電極12Mの回転中心軸を通る平面に対応する位置である。
第1のシミュレーションでは、下記表1に示すように、回転周速度rのみがそれぞれ異なる2つの条件(条件1−1、条件1−2)を設定した。
図6(a)および(b)は、それぞれ、条件1−1、条件1−2それぞれのシミュレーション結果を示すグラフである。条件1−2では、回転電極モデル12Mを回転させてはいるが、回転周速度rは著しく遅い(1.67(m/s))。このような回転周速度では、回転電極モデル12M表面に引きずられて回転電極モデル12M表面に沿って流れる不活性ガスの流れは、流量自体(すなわち回転に伴って移動するガスの量)も少なく、また外乱によって反応ガスが容易に混入してしまうような、不安定な流れである(例えば、上記特許文献1での、乱流が生じ易い不活性ガスの流れに対応している)。このような条件1−2でも、不活性ガス導入口41Mから、比較的大きな流速をもって不活性ガスが供給されているので、回転電極モデル12M表面の反応ガスの濃度はある程度低減できている。しかし、その他の条件が同一で回転電極モデル12Mの周速度rが充分に速い条件1−1と比較すると、条件1−2では、回転電極モデル12M表面の原料ガス濃度が著しく高くなっている。図6(a)および(b)、表1に示すように、条件1−1、すなわち回転電極モデル12Mの回転周速度rを充分速く回転させた方が、回転電極モデル12M表面での反応ガスの濃度が低いことが確認できる。このような第1のシミュレーションの結果から、回転電極を充分速く回転させることで、回転電極表面に引きずられて回転電極表面に沿って流れる不活性ガスの流れがより確実に形成され、回転電極表面における反応ガス濃度を低減できることが確認できた。この結果、プラズマ生成領域の回転電極表面の気相中で発生するパーティクルの量を低減できる。そして、パーティクルが薄膜に付着することを低減できるので、良質の薄膜を形成することができる。また、同じ原料ガス量を使用する従来型の装置に比べ相対的に、成膜対象基板表面近傍における反応ガス濃度が濃くなるので、薄膜の形成速度を速くすることができる。
第2のシミュレーションでは、下記表2に示すように、不活性ガス導入口41
Mから反応室モデル43
Mに流出する不活性ガスの流速v1のみがそれぞれ異なる2つの条件(条件2−1、条件2−2)を設定した。
図7(a)および(b)は、それぞれ、条件2−1、条件2−2それぞれのシミュレーション結果を示すグラフである。条件2−2では、回転上流側に設けられている不活性ガス導入口41Mから、回転電極モデル12Mの回転方向に沿った速度成分を有するように、反応室にガスを流入させてはいるが、そのガス流速v1は著しく小さい(0.1(m/s))。このようなガス流速では、回転電極モデル12M表面に不活性ガスが充分に供給されず、回転電極モデル12M表面に引きずられて回転電極表面に沿って流れる不活性ガスの流れは、回転が速いため不活性ガスの流量は多いが、不活性ガスだけでなく原料ガスをも引き込む。このような条件2−2でも、回転電極モデル12Mを充分速く回転させているので、回転電極モデル12M表面の原料ガスの濃度はある程度低減できている。しかし、その他の条件が同一で、不活性ガスの流速v1のみがより速い条件2−1と比較すると、条件2−2では、回転電極モデル12M表面の原料ガス濃度が著しく高くなっている。図7(a)および(b)、表2に示すように、条件2−1、すなわち不活性ガスの流速v1を充分速くさせた方が(不活性ガスの流量を充分多くした方が)、回転電極モデル12M表面での原料ガスの濃度が低いことが確認できる。このような第2のシミュレーションの結果から、回転上流側に設けられている不活性ガス導入口から、回転電極の回転方向に沿った速度成分を充分有する、充分な量の不活性ガスを導入することで、不活性ガス導入口から流入した不活性ガスが回転電極の表面に沿ってスムーズに移動して、プラズマ生成領域において、回転電極表面に引きずられて回転電極表面に沿って流れる不活性ガスの流れがより確実に形成され、回転電極表面における反応ガス濃度を低減できることが確認できた。この結果、プラズマ生成領域の回転電極表面の気相中で発生するパーティクルの量を低減できる。そして、パーティクルが薄膜に付着することを低減できるので、良質の薄膜を形成することができる。また、同じ原料ガス量を使用する従来型の装置に比べ相対的に、成膜対象基板表面近傍における反応ガス濃度が濃くなるので、薄膜の形成速度を速くすることができる。
第3のシミュレーションでは、下記表3に示すような、分離ガス配管64
Mの端部から配管内に流入する分離ガスの流速v2のみがそれぞれ異なる2つの条件(条件3−1、条件3−2)を設定した。
条件3−2では、回転下流側に設けられている分離ガス配管64Mから、回転電極モデル12Mの表面に向けて分離ガス(不活性ガス)を噴出していない。この場合、回転電極モデル12Mの表面には、不活性ガス導入口41Mからのみ不活性ガスが供給されていることになる。この場合、回転電極モデル12M表面に不活性ガスが充分に供給されず、回転電極モデル12M表面に引きずられて回転電極表面に沿って流れる不活性ガスの流れは、流量自体(すなわち回転に伴って移動するガスの量)が少ない。このような条件3−2でも、回転電極を充分速く回転させ、不活性ガスの流速v1を充分速くさせているので、回転電極表面の原料ガスの濃度はある程度低減できている。しかし、その他の条件が同一で、分離ガスの流速v2として充分速い条件(すなわち充分なガス流量)が与えられている条件3−1と比較すると、条件3−2では、回転電極モデル12M表面の原料ガス濃度が著しく高くなっている。下記表3に示すように、条件3−1、すなわち分離ガスの流速v2を充分速くさせた方が(分離ガスの流量を充分多くした方が)、回転電極モデル12M表面での原料ガスの濃度が低いことが確認できる。このような第3のシミュレーションの結果から、回転下流側に設けられている分離ガス噴出口から、充分な量の分離ガス(不活性ガス)を導入することで、分離ガスの一部が回転電極の表面に沿って移動する不活性ガスの流れに取り込まれ、回転電極表面に沿った不活性ガスの流れが回転下流側においても安定して形成され、結果として、プラズマ生成領域において、回転電極表面に引きずられて回転電極表面に沿って流れる不活性ガスの流れがより確実に形成され、回転電極表面における反応ガス濃度を低減できることが確認できた。この結果、プラズマ生成領域の回転電極表面の気相中で発生するパーティクルの量を低減できる。そして、パーティクルが薄膜に付着することを低減できるので、良質の薄膜を形成することができる。また、同じ原料ガス量を使用する従来型の装置に比べ相対的に、成膜対象基板表面近傍における反応ガス濃度が濃くなるので、薄膜の形成速度を速くすることができる。
なお、本発明の薄膜形成装置で形成される薄膜の種類は特に制限されないが、酸化物膜であることが好ましく、例えば、ガラス基板に、SiO2、TiO2、ZnO及びSnO2の群から選択される1種類以上の酸化物膜である。より好ましくは、ガラス基板に形成するSiO2又はTiO2の酸化物膜であることが好ましい。また、原料ガスは、TEOSの他に、金属アルコキシド、アルキル化金属、金属錯体等の有機金属化合物や金属ハロンゲン化物等を用いることができる。例えば、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、ジブチル錫ジアセテート、亜鉛アセチルアセトナート等を好適に用いることができる。
本発明の薄膜形成装置は、インライン型の薄膜形成装置であることに限定されず、例えば、比較的小さな搬送ステージに載置した、比較的小さなガラス基板に対して断続的に成膜(薄膜形成)を施す、バッチ型の成膜装置であってもよい。また、ローラ型の基板搬送手段を用いたインライン型の薄膜形成装置の場合、比較的大きな基板に対して薄膜を形成することができる。このようなインライン型の薄膜形成装置として、本発明の薄膜形成装置を用いることで、回転電極と基板との間の間隙を従来に比べて広く設定しつつ、余分な反応生成物(パーティクル)の発生を抑制することができ、しかも、パーティクルの混入がほとんどない高品質の薄膜を、高い成膜速度で成膜することができる。
なお、本発明の薄膜形成装置では、不活性ガス供給手段は、上記の構成、すなわち、回転電極が内部に配置された、不活性ガス導入口と開放口とを備えた容器と、この回転電極に不活性ガスを導入する手段とを有する構成に限定されない。本発明の薄膜形成装置では、不活性ガス供給手段は、回転電極の回転により回転電極の表面に引きずられて、プラズマ生成領域を回転電極の表面に沿って移動する不活性ガスの流れを形成するために、回転電極の表面に前記不活性ガスを供給するものであればよい。ただし、装置10の不活性ガス供給手段40では、回転電極12の表面が余分な外気に曝されることなく、また、回転電極の表面に、常に新しい(余分な反応生成物などが全く混入していない)不活性ガスを供給し続けることができ、さらに、不活性ガスをプラズマ生成領域にスムーズに供給することができる。本発明の不活性ガス供給手段は、回転電極が内部に配置された、不活性ガス導入口と開放口とを備えた容器と、この回転電極に不活性ガスを導入する手段とを有することが好ましい。
なお、本発明の薄膜形成装置では、不活性ガス供給手段は、上述の構成(不活性ガス導入口41と開放口44とを備える容器43、および不活性ガス導入手段45を有する、不活性ガス供給手段40の構成)に限定されない。ただし、装置10の不活性ガス供給手段40では、不活性ガスNを充填した容器43内に回転電極12を設け、この容器43内に不活性ガス導入口41から、回転電極12の回転方向に沿った速度成分を有するように不活性ガスNを供給し、容器43の開放口44から流出可能としている。このような構成とすることで、回転電極12の表面が余分な外気に曝されることなく、また、回転電極の表面に、常に新しい(余分な反応生成物などが全く混入していない)不活性ガスを供給することができ、さらに、不活性ガスをプラズマ生成領域にスムーズに供給することができる。本発明の不活性ガス供給手段は、不活性ガス導入口と開放口とを備える容器、および不活性ガス導入手段を有することが好ましい。
また、本発明の薄膜形成装置では、反応ガス供給配管の配置や構成など、本発明の反応ガス供給手段は、上述の構成に限定されない。ただし、プラズマ生成領域に安定した反応ガスの流れを形成するために、反応ガス供給口は、プラズマ生成領域Pに対して回転上流側に設けられていることが好ましく、この反応ガス供給口から成膜対象基板に沿って反応ガスを流出させることが好ましい。
同様に、分離ガス噴出配管の配置や構成など、本発明の分離ガス噴出手段は、上述の構成に限定されない。また、ガス回収配管の配置や構成など、本発明のガス回収手段は、上述の構成に限定されない。また、整流ガス導入配管や整流ガス導出配管の配置や構成など、本発明の整流ガス層形成手段は、上述の構成に限定されない。ただし、薄膜形成装置全体の大きさをコンパクトにしつつ、回転電極やプラズマ生成領域近傍のガスの流れを安定して形成するためには、上記各手段の構成は、上記実施形態の構成であることが好ましい。