印刷機は、給紙部と排紙部との間に、印刷に使用するインキの色の数に応じた数の印刷ユニットで構成される印刷部を備える。この印刷ユニットは、内装された版胴に刷版を巻き付けて印刷を行う部分である。従来の印刷ユニットは、版胴に刷版を巻き付けるために、版胴の外周のクランプ構造に向かって手動で挿入した刷版を自動で巻き付ける版巻き付け機構を備えるのが一般的であった。しかし、近年は、作業者が刷版(新版)を所定位置にセットした後、その刷版を版胴(のクランプ構造)に自動的に供給することが可能な給版機構を備えた印刷機も増えてきている。また、そのような印刷機は、版胴(のクランプ構造)によるクランプ状態を解除して、刷版(旧版)を自動的に排出することが可能な排版機構を備える。
本願出願人は、排版機構(排版装置)に関し、特許文献1に係る出願を本願に先立ち行っている。この排版装置は、印刷ユニットの内部を開放可能とするために形成された印刷ユニットのフレームの側部開口を開閉自在に塞ぐカバー体に設けられ、図8〜図10に示す如く、排版方向Cに沿って排版路Tを形成する前後一対の板状の排版ガイド体60,60を有する。この排版ガイド体60,60は、下部が互いに離間する方向に傾斜して形成され、排版ガイド体60,60間に刷版Qを導入し易くしている。尚、「前後」とは、枚葉紙Pの流れ方向(印刷機の長手方向)をいう。
また、排版装置6は、刷版Qの搬送体として、刷版Qを前後両側(表裏面側)から挟持する挟持ローラ61,62を有する。挟持ローラ62は、挟持ローラ61から離間して挟持ローラ61,62間に刷版Qが進入可能な進入姿勢D1と、挟持ローラ61に接近して挟持ローラ61との間で刷版Qを挟持する挟持姿勢D2とに切り換え自在とされる。
また、排版装置6は、挟持ローラ61,62を排版路Tに沿って上下方向に往復動自在に支持するアクチュエータとしてのエアシリンダ63を有する。具体的には、挟持ローラ61は、エアシリンダ63のロッド63aの先端部に組み付けられた取付部材64に回転自在に支持される一方、挟持ローラ62は、取付部材64に揺動自在に取り付けられたアーム65の先端部に回転自在に取付けられる。
また、排版装置6は、挟持ローラ61,62を進入姿勢D1と挟持姿勢D2とに切り換えるための切換手段を有する。該切換手段は、前記アーム65と、挟持ローラ62を挟持ローラ61に向けて弾性付勢するコイルばね(引張ばね)66と、印刷ユニットのフレームに取り付けられ、挟持ローラ62の外周が当接離間(離着座する)するステー67とから構成される。
さらに、排版装置6は、挟持ローラ61,62が刷版Qを挟持した状態でエアシリンダ63のロッド63aのストローク量(伸縮量)に加算して刷版Qを排版方向Cに移動させるための搬送量加算手段を有する。該搬送量加算手段として、ラック・ピニオン機構が用いられ、これは、エアシリンダ63の軸心方向と平行に配置されて所定の長さを有するラック68と、挟持ローラ61と同心で一体化されてラック68に噛合するピニオン69とから構成される。
このように構成される排版装置6によれば、エアシリンダ63は、図8に示す如く、印刷が終了した時点で、そのロッド63aが最も伸長した状態になる。また、そのため、取付部材64は最下位置にあり、挟持ローラ62も最下位置でステー67に当接するため、コイルばね66の弾性に抗して挟持ローラ62が挟持ローラ61から離間した進入姿勢D1となる。
また、同じく、印刷機の制御装置は、必要に応じて、版胴の外周のクランプ構造が所定の位置に戻るよう版胴を回転させ、且つ、クランプ状態を一部解除する。そうすると、刷版Qの尻側端部Q’がその弾性によって版胴から外れる。この状態で、版胴を印刷時とは逆方向に回転させると、刷版Qは次第に版胴から離れ、まず最初に、刷版Qの尻側端部Q’が排版ガイド体60,60間に導入され、続いて、刷版Qの尻側端部Q’が挟持ローラ61,62間に導入される。
さらに、版胴が回転して所定の位置で刷版Qのクランプ状態を完全に解除すると、これまで伸長状態にあったエアシリンダ63のロッド63aが退避(上方に移動)し始め、挟持ローラ62がステー67の上面を転動しながら挟持ローラ61に近づく。そして、さらにロッド63aが後退すると、挟持ローラ62は、挟持ローラ61にさらに接近し、しかる後、図9に示す如く、挟持ローラ62は、挟持ローラ61とで刷版Q(の途中部)を版面両側から挟持するような挟持姿勢D2となる。
また、さらにロッド63aが後退する動作に伴い、刷版Qは、その途中部が挟持ローラ61,62で挟持された状態で排版ガイド体60,60に沿って上動することになる。このとき、ラック68にはピニオン69が噛合しているから、挟持ローラ61は、上動しながらピニオン69の回転と共に図10の反時計回りに回転することになる。そして、挟持ローラ62は、コイルばね66の弾性力によって挟持ローラ61側に付勢されているから、刷版Qを介して回転するようになり、挟持ローラ61,62の双方の回転に伴って、刷版Qは排版方向Cに送られる。即ち、挟持ローラ61,62で挟持された刷版Qは、エアシリンダ63のロッド63aが縮む方向に後退する後退量だけでなく、この後退量に、挟持ローラ61,62の回転量に相当する直線距離分を加算されながら排版方向Cに搬送・排版されることになる。
以上のようにして排版方向Cへ搬送された刷版Qは、例えば作業者によって外部へ取り出される。また、刷版Qを取り出した後は、エアシリンダ63のロッド63aが伸長し、これによって挟持ローラ61,62が下動する。そして、挟持ローラ62は、ステー67に接触し且つ該ステー67に押圧されることで、再び挟持ローラ61から離間した進入姿勢D1に復帰する。
以下、本発明に係る印刷機の一実施形態について、図面を参酌しつつ説明する。
図1に示す如く、本実施形態に係る印刷機1は、枚葉印刷機であり、印刷用紙としての枚葉紙Pを給紙する給紙部Aと、該給紙部Aの下流側に配置され、給紙部Aから給紙された枚葉紙Pに印刷を施す印刷部Bと、該印刷部Bの下流側に配置され、印刷が施された枚葉紙Pを排紙する排紙部Cとを備える。
印刷部Bは、印刷に使用するインキの色の数に応じた数の印刷ユニット2,…(本実施形態においては、5色印刷を行うために5台の印刷ユニット2,…)を備える。印刷ユニット2は、X部詳細に示すように、印刷駆動部として、圧胴2aと、該圧胴2aの上流側に配置され、圧胴2aに枚葉紙Pを渡すための渡し胴2bと、圧胴2aの上方側に配置され、刷版が巻き付けられる版胴2cと、圧胴2a及び版胴2cとの間に配置され、版胴2cに転接可能なゴム胴(ブランケット胴)2dと、版胴2cの上方側に配置され、版胴2cにインキを供給するインキツボ及び複数のインキローラからなるインキ部2eと、該インキ部2eの下流側且つ版胴2cの上方側に配置され、インキ部2eを洗浄した際に排出される廃液を溜める洗浄器2fとを備える。
尚、圧胴2a及び渡し胴2bのそれぞれは、送り込まれてきた枚葉紙Pを爪台と爪とで把持するクランプ構造(図示しない)を外周の1箇所乃至複数箇所に備える。また、版胴2cは、送り込まれてきた刷版を爪台と爪とで把持するクランプ構造(図示しない)を外周の1箇所乃至複数箇所に備える。また、印刷駆動部(圧胴2a、渡し胴2b、版胴2c、ゴム胴2d、インキ部2e及び洗浄器2f)は、印刷部Bの幅方向に所定間隔を有して配置される左右一対のフレーム3,3(本実施形態においては、印刷ユニット2単位で分割可能)間に配置される。
印刷ユニット2は、印刷駆動部の要素の配置関係上、一部が上方に突出する形態であり、また、それに合わせて、左右一対のフレーム3,3がそのような形状(凸状)に形成されるのであるが、そのような突出部分における左右一対のフレーム3,3間のうち、開放された上部及び上流側の側部は、フレーム3に固定されるカバー体(図示しない)によって基本的には塞がれるのに対し、開放された下流側の側部は、昇降するカバー体4によって開閉可能となっており、通常はカバー体4によって側部が塞がれているが、カバー体4を上方に移動させることにより、側部から印刷ユニット2の内部が開放されるようになっている。
カバー体4は、フレームや、適宜所望の形状に板金加工やプレス加工された金属製の板材等を用いて、内部に空間部が形成されるように組み立てられた筐体からなり、枚葉紙Pの流れ方向(印刷機の長手方向)に所定の厚みを有し、該流れ方向から見た正面視にて略矩形状を有する形状である。
また、図2に示す如く、カバー体4は、左右一対のフレーム3,3がそれぞれ備えるガイドレール3a,3aに沿ってスライドすることにより、昇降可能となっている。より詳しくは、ガイドレール3aは、上下方向に沿って長尺な凹溝3a’を有し、カバー体4は、その側部が凹溝3a’内に係入され、該側部が凹溝3a’内をスライドすることにより、昇降可能となっている。尚、カバー体4の側部及び/又はガイドレール3aには、相手側を転動することにより、カバー体4の昇降を円滑にするためのコロ(図示しない)が適宜箇所に設けられる。コロは、その回転軸を枚葉紙Pの流れ方向に一致させて配置することにより、幅方向におけるカバー体4のガタツキを無くし、また、その回転軸をカバー体4の幅方向に一致させて配置することにより、枚葉紙Pの流れ方向におけるカバー体4のガタツキを無くすことができる。
また、カバー体4は、左右一対のフレーム3,3(の下流側の側端面)にそれぞれ取り付けられたアクチュエータとしてのエアシリンダ5によって、昇降可能となっている。より詳しくは、ロッド5aの伸長方向が上方となるようにエアシリンダ5をフレーム3に配置し、且つ、ロッド5aの先端部をカバー体4(の側部)に直接又は間接的に取り付けることにより、ロッド5aが伸長すれば、カバー体4は上昇し、エアシリンダ5内の(一方のポート側の)エアを抜くことにより、カバー体4は自重により下降するようになっている。尚、自重ではなく、ロッド5aが退避するようにエアシリンダ5を作動させることにより、上昇時と同様、カバー体4を強制的に下降させるようにしてもよい。
本実施形態に係る印刷ユニット2は、版胴のクランプ構造によるクランプ状態を解除して、刷版を自動的に排出することが可能な排版機構を備える。この排版機構は、基本的な構成は従来の排版機構と同様である。そのため、詳細な説明は割愛する。
但し、大きく異なる点は、本実施形態においては、刷版Qの裏面側に位置する排版ガイド体60が可動であるということである。また、刷版Qの表面側に位置する排版ガイド体は設けられていない。可動な排版ガイド体60は、図2及び図2のE−E線断面図である図4に示す如く、カバー体4の幅方向に沿って長尺で、幅方向の適宜箇所にて蝶番70によってカバー体4の内面に揺動自在に取り付けられる。
また、排版ガイド体60は、横長の長方形に対し、蝶番70が取り付けられる部分(本実施形態においては、両端及び中央の計3箇所)が上方に突出した形状からなる。該突出部分は、一部を起立するように屈曲させて、そこに丸棒からなる軸体71が通される。従って、軸体71は、排版ガイド体60の揺動中心L(各蝶番70の回転中心を結んだ線)と平行で且つ揺動中心Lから所定量だけオフセットされた位置に配置される。また、軸体71は、カバー体4の幅方向に沿って長尺で、排版ガイド体60よりも長く、それぞれ端部が排版ガイド体60よりも横方向に突出する。
軸体71に対して、フレーム3には、軸体71が当接離間(離着座する)する受座72が設けられる。該受座72は、カバー体4の両側部に対応した位置に一対設けられ、排版ガイド体60よりも横方向に突出する軸体71の端部を受け入れる。また、受座72は、上下方向(カバー体4の移動方向)に対して傾斜した接線成分で構成されるガイド片72aを備える。従って、カバー体4が最下位置より上昇した位置にある場合は、軸体71が受座72から外れた状態にある(図7(a)参照)が、カバー体4が下降していくと、軸体71が受座72のガイド片72aに当接しつつガイドされ、これに伴い、排版ガイド体60が揺動を開始する(同図(b)参照)。そして、カバー体4が最下位置に到達すると、軸体71はガイド片72aの最下位置に到達し、カバー体4の移動方向に直交する方向での変位量が最大となるため、排版ガイド体60が揺動した角度が最大となる(同図(c)参照)。
このように、排版ガイド体60は、カバー体4の移動に基づく軸体71と受座72のガイド片72aとの協働により、カバー体4が最下位置より上昇した位置にある場合の、排版ガイド体60がカバー体4の内面に沿った姿勢(退避姿勢)E1と、カバー体4が最下位置にある場合の、排版ガイド体60が最大限に揺動変位した姿勢(進出姿勢)E2とに切り換え自在とされる。即ち、排版ガイド体60は、カバー体4の動きに連動して、退避姿勢E1と進出姿勢E2とに切り換え自在とされる。尚、前記蝶番70は、ねじりばね(図示しない)が内蔵されたもので、そのため、排版ガイド体60は、進出姿勢E2から退避姿勢E1に向かって常時付勢されている。従って、受座72のガイド片72aによる軸体71の拘束が解除されると、排版ガイド体60は、自然と退避姿勢E1を取るようになっている。
排版ガイド体60は、進出姿勢E2にあるときは、先端が版胴2cの外周に接近するような長さに形成される。また、排版ガイド体60は、進出姿勢E2にあるときは、刷版Qが版胴2cの外周のクランプ構造2c’における版胴2cの接線よりも内側に位置するようにされる。好ましくは、その接線と排版ガイド体60とは略平行である。従って、排版時、版胴に巻き付けられていて版胴から外れる刷版Qの尻側端部は、必ず排版ガイド体60に接触するようになっている。
排版ガイド体60の下流側に、刷版Qの搬送体としての挟持ローラ61,62が配置され、また、挟持ローラ61,62を上下方向に往復動させるアクチュエータとしてのエアシリンダ63が配置されること等、排版ガイド体60以降の刷版Qの搬送機構に関する構成は従来と全く同じである。尚、図2においては、挟持ローラ61,62、エアシリンダ63、取付部材64、アーム65、コイルばね66、ステー67、ラック68、ピニオン69を図示していないが、これらは、カバー体4の両側部に配置される。加えて言えば、左右一対の挟持ローラ61,61は前記軸体71のような軸体で同軸に連結され、また、左右一対の挟持ローラ62,62も長尺な軸体で同軸に連結されるが、各軸体の適宜箇所には別個の挟持ローラが配置され、これらにより、刷版Qを挟持することができるようになっている。また、図4においては、ステー67を図示していない。
本実施形態に係る排版機構6は以上の構成からなり、次に、印刷が終了した後、排版機構6によって刷版Qを排版する動作を図4及び図5を参酌しつつ説明する。尚、一部の構成は図示を省略しているが、これについては図8〜10を参照されたい。
図4に示す如く、エアシリンダ63は、印刷が終了した時点で、そのロッド63aが最も伸長した状態になる。また、そのため、取付部材64は最下位置にあり、挟持ローラ62も最下位置でステー67に当接するため、コイルばね66の弾性に抗して挟持ローラ62が挟持ローラ61から離間した進入姿勢D1となる。
また、カバー体4が下がっているということで、排版ガイド体60の軸体71は、受座72のガイド片72aの最下位置に位置し、これにより、排版ガイド体60は、カバー体4の内面から最も離間し且つ版胴2cの外周に最も接近した進出姿勢E2となっている。
さらに、同じく、印刷機の制御装置は、必要に応じて、版胴2cの外周のクランプ構造2c’が所定の位置に戻るよう版胴2cを回転させ、且つ、クランプ状態を一部解除する。そうすると、刷版Qoutの尻側端部がその弾性によって版胴2cから外れる。この状態で、版胴2cを印刷時とは逆方向に回転させると、刷版Qoutは次第に版胴2cから離れ、まず最初に、刷版Qoutの尻側端部が排版ガイド体60に導かれ、続いて、刷版Qoutの尻側端部が挟持ローラ61,62間に導入される。
さらに、版胴2cが回転して所定の位置で刷版Qoutのクランプ状態を完全に解除すると、これまで伸長状態にあったエアシリンダ63のロッド63aが退避(上方に移動)し始め、挟持ローラ62がステー67の上面を転動しながら挟持ローラ61に近づく。そして、さらにロッド63aが後退すると、挟持ローラ62は、挟持ローラ61にさらに接近し、しかる後、図5に示す如く、挟持ローラ62は、挟持ローラ61とで刷版Qout(の途中部)を版面両側から挟持するような挟持姿勢D2となる。
また、さらにロッド63aが後退する動作に伴い、刷版Qoutは、その途中部が挟持ローラ61,62で挟持された状態で排版ガイド体60に沿って上動することになる。このとき、ラック68にはピニオン69が噛合しているから、挟持ローラ61は、上動しながらピニオン69の回転と共に回転することになる。そして、挟持ローラ62は、コイルばね66の弾性力によって挟持ローラ61側に付勢されているから、刷版Qoutを介して回転するようになり、挟持ローラ61,62の双方の回転に伴って、刷版Qoutは排版方向Cに送られる。即ち、挟持ローラ61,62で挟持された刷版Qoutは、エアシリンダ63のロッド63aが縮む方向に後退する後退量だけでなく、この後退量に、挟持ローラ61,62の回転量に相当する直線距離分を加算されながら排版方向Cに搬送・排版されることになる。
以上のようにして排版方向Cへ搬送された刷版Qoutは、例えば作業者によって外部へ取り出される。また、刷版Qoutを取り出した後は、エアシリンダ63のロッド63aが伸長し、これによって挟持ローラ61,62が下動する。そして、挟持ローラ62は、ステー67に接触し且つ該ステー67に押圧されることで、図4に示す如く、再び挟持ローラ61から離間した進入姿勢D1に復帰する。
今までは、排版についての説明であったが、本実施形態に係る印刷機は、給版機構も備える。この給版機構は、本発明には直接的には関係ないので、その説明は簡略に行う。
図2及び図3に示す如く、給版機構8は、給版ガイド体80を備える。この給版ガイド体80は、カバー体4に傾動自在に取り付けられる。また、給版ガイド体80を、カバー体4に退避した退避姿勢F1と、版胴2c側に向けて傾動した進出姿勢F2とに切り換えるためのアクチュエータとしてのエアシリンダ81がカバー体4に回転自在に組み付けられる。
また、給版ガイド体80は、刷版Qの裏面を吸引吸着するための吸引装置(「サッカー」ともいう)82と、該吸引装置82の吸引ヘッドを上下方向に往復移動可能に支持するアクチュエータとしてのエアシリンダ83とを備える。
版胴2cに刷版Qを給版するに際しては、図3に示す如く、作業者は、給版ガイド体80を退避姿勢F1とした状態で、刷版Qinをカバー体4に形成されている隙間からカバー体4内に挿入する。次に、作業者が吸引スイッチ(図示しない)をON操作すると、吸引装置82の図示しない吸引ポンプが駆動し、吸引ポンプの吸引力が吸引パイプを介して各吸引ヘッドに伝わり、これらが刷版Qinの裏面を吸引し、刷版Qinの先端部が給版ガイド体80に沿った状態になると共に、刷版Qinが全体的にカバー体4内で直立した姿勢となる。
本実施形態においては、上記の状態から給版を直ちに行うこともできるが、そうせずに、排版が行われるまでに上記の状態にしておき、排版が終われば、直ちに給版を行うようにすることもできる。そのような手順の場合、上記の状態は給版のスタンバイ状態である。排版の動作については、図4及び図5を参酌しつつ既に説明したので、以下は、排版を終えた状態から説明を行う。
作業者が給版スイッチ(図示しない)をON操作すると、図6に示す如く、エアシリンダ81が駆動し、それまでカバー体4に退避していた給版ガイド体80が支軸回りに版胴2c側に傾動(図6の反時計方向)し、進出姿勢F2となる。この動作により、刷版Qinの先端部が版胴2cのクランプ構造2c’に接近することになる。
続いて、エアシリンダ83が駆動し、そのロッドが伸長する。そうすると、吸引装置82の吸引ヘッドは、刷版Qinを吸着したまま版胴2cのクランプ構造2c’に移動する。また、吸引装置82の吸引ヘッドが移動すると、クランプ構造2c’が駆動して刷版Qinの先端部をくわえ、版胴Qinが図6の反時計方向に回転すると、刷版Qinは版胴2cに巻き取られる。そして、クランプ構造2c’が版胴Qinの先端部をくわえ、刷版Qinが版胴2cに密着すると、印刷作業が可能な状態となる。
一方で、刷版Qinの版胴2cへの巻き取りが終了すると、エアシリンダ83がロッドを後退させるよう再び駆動し、これにより、吸引装置82が上動してその吸引ヘッドが次に給版される刷版Qinを吸引する吸引位置に復帰する。また、ほぼ同時に給版ガイド体80は、エアシリンダ81の駆動により進出姿勢F2から退避姿勢F1へ復帰する。
以上、本実施形態に係る印刷機は、給版のスタンバイを排版の前に行っておくことができるため、排版を終えてから給版を開始するまでに時間的なロスが無くなり、生産性を向上することができるようになった。
また、排版においては、排版ガイド体60が版胴2cと挟持ローラ61,62との間に広範囲に分布するので、版胴2cから外れた刷版Qを排版ガイド体60によって確実に挟持ローラ61,62間に誘導することができ、排版を円滑且つ確実に行うことができる。
しかも、印刷ユニット2内のメンテナンス等を行う際に、カバー体4を開けるが、排版ガイド体60は、カバー体4を動かすと、カバー体4の内面に沿うように退避するため、支障は生じない。即ち、本実施形態に係る排版機構によれば、カバー体4を開け閉めする際に、排版ガイド体60が邪魔になることはない。また、排版ガイド体60が蝶番70のねじりばねの付勢力に抗して退避姿勢E1から進出姿勢E2に移動する際、カバー体4の自重により下降する力を利用できるので、排版ガイド体60の移動用の駆動源を設ける必要がなく、装置の小型化、簡略化を図ることができる。
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、刷版Qの裏面側に排版ガイド体60を可動にして設けるものの、刷版Qの表面側には排版ガイド体を設けなかったが、従来と同様、刷版Qの表面側にも排版ガイド体を設け、可動の排版ガイド体60及び固定の排版ガイド体からなる一対の組み合わせを採用することは可能である。
また、上記実施形態においては、版胴2cからの刷版Qを外部に向けて搬送する搬送手段として、挟持手段である挟持ローラ61,62をエアシリンダ63で動かすという構成を採用しているが、挟持ローラ、エアシリンダの組み合わせ以外に、挟持体、ピニオン・ラックの組み合わせであってもよく、また、ローラ搬送、ベルト搬送等、公知の構成を適宜選択することができる。
また、上記実施形態においては、カム機構として、軸体71及び受座72のガイド片72aの組み合わせを採用しているが、これ以外の形態のものを採用することができるのは言うまでもない。また、上記実施形態においては、排版ガイド体60側の軸体71がカムフォロアとして機能する一方、フレーム3側のガイド片72aがカムとして機能するようになっているが、カムを排版ガイド体60側に、カムフォロアをフレーム3側に設けるようにしてもよい。
また、受座72のガイド片72aの最下位置に内側(上方)から例えばボルトを通し、ガイド片72a内に配置されたボルトの頭の位置を変更することで、最下位置を調整することが望ましい。これにより、印刷機の個体差(製造に伴うバラツキ)を解消して、排版ガイド体60の角度を等しく調整することができる。このようなカムプロフィールの調整機能としては、より単純な形態として、フレーム3に対する受座72の位置を微調整できるようなものもある。
1…印刷機、2…印刷ユニット、2a…圧胴、2b…渡し胴、2c…版胴、2c’…クランプ構造、2d…ゴム胴(ブランケット胴)、2e…インキ部、2f…洗浄器、3…フレーム、3a…ガイドレール、3a’…凹溝、4…カバー体、5…エアシリンダ、5a…ロッド、6…排版機構、60…排版ガイド体、61,62…挟持ローラ、63…エアシリンダ、63a…ロッド、64…取付部材、65…アーム、66…コイルばね、67…ステー、68…ラック、69…ピニオン、70…蝶番、71…軸体、72…受座、72a…ガイド片、8…給版機構、80…給版ガイド体、81…エアシリンダ、82…吸引装置、83…エアシリンダ、A…給紙部、B…印刷部、C…排紙部、L…排版ガイドの揺動中心、P…枚葉紙、Q…刷版、T…排版路