以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る永久磁石ドライブシステム1の構成を示すブロック図である。なお、以降の図における同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、異なる部分について主に述べる。以降の実施形態も同様にして重複する説明を省略する。
永久磁石ドライブシステム1は、インバータ5と、直流電源3と、電流検出器2u,2wと、制御部10と、可変磁束モータ4と、位置検出器(レゾルバ)9とを備えている。
インバータ5は、直流電源3から供給された直流電力を交流電力に変換する。インバータ5は、変換した交流電力を可変磁束モータ4に供給することで、可変磁束モータ4を駆動する。
電流検出器2uは、可変磁束モータ4に供給される三相交流のU相電流Iuを検出する。電流検出器2wは、可変磁束モータ4に供給される三相交流のW相電流Iwを検出する。
位置検出器9は、モータロータの角度(位置)を検出する。
制御部10は、電流検出器2u,2w及び位置検出器9のそれぞれの検出値に基づいて、可変磁束モータ4を駆動制御する。
次に、可変磁束モータ4について説明する。ここでは、ロータ側について主に説明する。なお、ステータ側については、以下に説明するロータ側の要旨を逸脱しなければ、どのような構成でもよい。
可変磁束モータ4は、永久磁石を備えた永久磁石モータである。可変磁束モータ4は、磁束密度を可変にすることができる。
図2は、第1の実施形態に係る可変磁束モータ4をモデル化したイメージ図である。可変磁束モータ4は、ロータ側には、永久磁石として、磁性体の磁束密度が固定の固定磁石42と、磁性体の磁束密度が可変の可変磁石41とを設けている。同図において、可変磁石41の磁束量も、D軸方向の量が変動するだけで、Q軸方向は0と考えてよい。但し、設計の都合などで、厳密には0でなくともよい。
可変磁石41及び固定磁石42について説明する。
まず、永久磁石とは、外部から電流などを流さない状態において、磁化した状態を維持するものである。従って、その磁束密度は、いかなる条件においても厳密に変化しないわけではない。可変磁束モータでないPMモータであっても、インバータなどにより過大な電流を流すことで減磁したり、又は着磁したりする。よって、永久磁石とは、その磁束量が変化しないものではなく、通常のインバータ運転中では、その電流によって、磁束密度が概変化しないものを指すものとする。
可変磁石41は、磁束密度を変化させることを目的として設けられた永久磁石である。従って、インバータ5で流し得る電流によって、磁束密度を変化させることができる。このような可変磁石41は、磁性体の材質や構造に依存して、ある程度の範囲で設計することができる。一方、固定磁石42は、磁束密度を変化させることを目的とせずに設けられた永久磁石である。
固定磁石42は、例えばネオジム(NdFeB)磁石である。ネオジム磁石は、残留磁束密度Br(1.2T程度)が高いため、大きなトルクを小さい体格にて出力することができる。よって、ネオジム磁石は、モータの高出力小型化が求められるHEV(Hybrid Electric Vehicle)や電車には好適である。ネオジム磁石は、非常に高い保持力Hc(約1,000kA/m)を有しているため、通常の電流によって減磁しないことから固定磁石42として最適な磁性体である。即ち、固定磁石42としては、残留磁束密度が大きく、保磁力の大きい磁石を選定する。
可変磁石41は、例えばアルニコ(AlNiCo)磁石(Hc:60〜120kA/m)やFeCrCo磁石(Hc:約60kA/m)などである。アルニコ磁石やFeCrCo磁石は、残留磁束密度が高く、保持力Hcの小さい磁石である。
図3は、第1の実施形態に係る可変磁束モータ4の構成を示す構成図である。
可変磁束モータ4は、高保磁力の固定磁石42と低保磁力の可変磁石41とを組み合わせて配置している。可変磁束モータ4は、D軸方向において、固定磁石42による一定した磁束量に、可変磁石41による可変した磁束量が加わるように配置されている。可変磁石41は、Q軸方向とその磁化方向が直交するため、基本的にはQ軸電流の影響を受けず、D軸電流によって磁化することができる。
図4は、第1の実施形態に係る固定磁石42と可変磁石41のBH特性(磁束密度−磁化特性)のイメージ図である。また、図5は、永久磁石の第2象限におけるBH特性を定量的に示したグラフ図である。
可変磁束モータ4は、通常の電流によって、固定磁石42の磁束密度(磁束量)はほぼ一定であり、可変磁石41の磁束密度(磁束量)は可変するように、構成されている。ここで、「通常の電流」とは、インバータによって従来のPMモータを駆動する際に流す程度の電流量という意味である。厳密に言えば、固定磁石42は可逆領域で利用しているため、微小な範囲で磁束密度の変動をし、インバータ電流がなくなれば、当初の値に戻るものである。一方、可変磁石41は、不可逆領域(電流を0にしても、電流印加前の磁束密度Bに戻らない)まで利用するため、インバータ電流がなくなっても、当初の値にならず、磁石が可変した状態となる。
残留磁束密度Brは、ネオジム磁石とアルニコ磁石とには大差がない。保磁力Hcは、ネオジム磁石に対して、アルニコ磁石で1/15〜1/8、FeCrCo磁石で1/15になる。可変磁束モータでないPMドライブにおいては、インバータの出力電流による磁化領域は、ネオジム磁石の保磁力より十分に小さく、その磁化特性の可逆範囲で利用されている。一方、可変磁石41は、保磁力が小さい。このため、インバータの出力電流の範囲において、不可逆領域での利用ができる。この特性を利用することで、可変磁石41の磁束密度(磁束量)を可変にすることができる。
可変磁束モータ4の動特性の等価簡易モデルを、式(1)に示す。同モデルは、D軸を磁石磁束方向、Q軸をD軸に直交する方向として与えたDQ軸回転座標系上のモデルである。
ここに、R1は巻線抵抗、LdはD軸インダクタンス、LqはQ軸インダクタンス、φFIXは固定磁石の(鎖交)磁束量、φVARは可変磁石の(鎖交)磁束量、ω1はインバータ周波数である。
図1を参照して、制御部10について説明する。
制御部10は、永久磁石ドライブシステム1における主回路および制御ブロックにより構成されている。この制御ブロックは、制御マイコンによって、所定時間ごとに制御がなされている。
制御部10は、運転指令生成部16、トルク指令生成部19、ゲート指令生成部15、磁束指令演算部12、電流基準演算部11、磁化要求生成部14、電圧指令演算部20、座標変換部17,21、擬似微分器18、PWM回路22を備えている。
座標変換部17は、U相電流Iu及びW相電流Iwを、DQ軸座標上のD軸電流Id及びQ軸電流Iqに変換する。座標変換部17は、変換したDQ軸電流Id,Iqを電圧指令演算部20に入力する。
座標変換部21は、電圧指令演算部20により出力されたDQ軸電圧指令Vd*,Vq*を、インバータ5から出力される三相交流の各相に対する電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換する。座標変換部21は、変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をPWM回路22に出力する。
PWM回路22は、電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、インバータ5をパルス幅変調による制御をするための回路である。
運転指令生成部16は、運転指令Run*が入力され、保護条件などを加味して、運転状態フラグRunを生成出力する。基本的には、運転指令が入った場合(運転指令Run*=1)に、運転状態フラグRunを運転状態「1」にする。また、運転指令が停止を指示した場合(運転指令Run*=0)に、運転状態フラグRunを停止状態「0」にする。運転指令生成部16は、トルクをかける許可をするためのトルク許可フラグTrqONを生成する(「1」はトルクをかける、「0」はトルクをかけない)。運転指令Run*が「0」から「1」になった場合、可変磁束モータ4の磁化処理が行われる。この磁化処理を実施している間、磁化完了フラグが「1」になっている。トルク許可フラグTrqONは、この磁化が完了して、磁化完了フラグが「1」から「0」になって、初めて「1」になる。即ち、制御部10は、磁化を完了させてからトルクを立ち上げる。
一方、運転指令Run*が「1」から「0」になった場合(即ち、運転停止を指示した場合)、トルク許可フラグTrqON=0にして、トルク指令Tm*を0まで絞る。その後、運転状態フラグRunを停止状態「0」にする。
トルク指令生成部19は、トルク指令Tm*を生成する。トルク指令Tm*は、トルク許可フラグTrqON=0の場合には、目標値を0にする。トルク指令Tm*は、TrqON=1の場合には、所望なトルクになるように生成される。
ゲート指令生成部15は、運転状態フラグRunが入力され、インバータ1に内在するスイッチング素子へのゲート指令Gstを生成出力する。ゲート指令生成部15は、運転状態フラグRunが停止「0」から運転「1」に変わる場合、即時に、ゲートスタート(ゲート指令Gst=1)させる。ゲート指令生成部15は、運転状態フラグRunが運転「1」から停止「0」に変わる場合、所定時間の経過後に、ゲートオフ(ゲート指令Gst=0)する。この所定時間経過した後にゲートオフするのは、フリーラン時に誘起電圧を低減させて、可変磁石41を減磁してから停止させたいためである。
磁束指令演算部12では、運転状態フラグRunとインバータ周波数ω1、すなわち、ロータ回転周波数ωRを入力として、磁束指令φ*を生成して、出力する。制御部10は、位置検出器9であるレゾルバを用いた制御構成としている。このため、制御部10は、レゾルバで検出したモータロータの角度を微分したロータ回転周波数ωRを、インバータ周波数ω1として利用する。擬似微分器18は、位置検出器9により検出されたモータロータの角度を擬似微分して、インバータ周波数ω1に変換している。
磁束指令演算部12は、磁束指令φ*を、例えば次のように生成する。
運転状態フラグRunが停止状態「0」の場合、磁束指令演算部12は、磁束指令φ*を「0」にする。運転状態フラグRunが運転状態「1」で、かつ回転周波数ωRが所定値ωAよりも低い場合、磁束指令演算部12は、磁束指令φ*を最大φmaxとする。運転状態フラグRunが運転状態「1」で、かつ回転周波数ωRが所定値ωAよりも高い場合、磁束指令演算部12は、磁束指令φ*を最小φminとする。
図6は、第1の実施形態に係る磁束指令演算部12の処理手順を説明するための流れ図である。
磁束指令演算部12は、運転状態フラグRunが停止状態「0」か否かを判定する(ステップS101)。磁束指令演算部12は、運転状態フラグRunが停止状態「0」と判定した場合は、磁束指令φ*を「0」にする(ステップS101のYes、ステップS102)。磁束指令演算部12は、運転状態フラグRunが停止状態「0」でない(又は、運転状態「1」である)と判定した場合は、回転周波数ωRが所定値ωAよりも低いか否かを判定する(ステップS101のNo、ステップS103)。磁束指令演算部12は、回転周波数ωRが所定値ωAよりも低いと判定した場合は、磁束指令φ*を最大φmaxにする(ステップS103のYes、ステップS104)。磁束指令演算部12は、回転周波数ωRが所定値ωAよりも低くない(又は、所定値ωAよりも高い)と判定した場合は、磁束指令φ*を最小φminにする(ステップS103のNo、ステップS105)。
磁束指令演算部12は、磁束を3段階に変える。磁束指令演算部12は、運転中はこの3段階のうち2段階を、所定回転数ωAで磁束の高低を切り替えている。磁束指令演算部12は、回転数が低い領域では、高トルクを必要とするため、磁束を高くして電流を抑制する。磁束指令演算部12は、回転数が高い領域では、誘起電圧を抑制する弱め界磁電流が流れないようにするため、磁束を低くする。また、磁束指令演算部12は、運転を停止させるときには、可変磁束モータ4の磁石によって生じる誘起電圧が零になるように、磁束指令φ*を零にする。
電流基準演算部11は、可変磁束モータ4を通常運転するための電流基準を演算する。電流基準演算部11は、トルク指令Tm*及び磁束指令φ*が入力され、D軸電流基準IdR及びQ軸電流基準IqRを演算する。
次に、電流基準演算部における演算処理について説明する。
式(2)及び式(3)は、モータのリアクタンストルクを用いないことを想定した演算式(モータ極対数=1)である。
IdR=0 …式(2)
IqR=Tm*/φ* …式(3)
D軸インダクタンスLdとQ軸インダクタンスLqの差異ΔLがある突極形モータである場合、例えば、次式のように演算できる。
IdR=K×IqR …式(5)
ここで、Kは、D軸電流とQ軸電流の比率である。Kは、前述の効率最適化や最大出力など、用途によって変わる値である。最適化を図るためには、Kは、関数とする。このとき、その関数の引数は、トルクや速度など様々である。K、或いは、D軸電流基準IdR、Q軸電流基準IqRは、簡易的な近似やテーブル化をして用いてもよい。
DQ軸電流基準IdR,IqRは、電圧指令演算部20に入力される。電圧指令演算部20は、磁化しない通常運転時には、DQ軸電流基準IdR,IqRにDQ軸電流Id,Iqが一致するように、モータモデルに基づくフィードフォワード演算やフィードバック制御により、DQ軸電圧指令Vd*,Vq*を演算し出力する。また、電圧指令演算部20は、磁化する際には、後述するように、所望な磁束指令になるようにDQ軸電圧指令Vd*,Vq*を演算し出力する。
図7は、第1の実施形態に係る磁化要求生成部14の構成を示す構成図である。
磁化要求生成部14は、磁束を変化させるための磁化を要求する磁化要求フラグFCreqを生成する。磁化要求フラグFCreqが立つと、制御部10は、可変磁束モータ4を通常運転する通常モードから磁石磁束を変化させるための運転である磁化モードに制御を切り換える。
磁化要求生成部14は、磁束指令前回値保持部141と、磁束指令変化判定部142と、運転状態フラグ前回値保持部143と、運転状態フラグ変化判定部144と、及び論理和演算部145とを備えている。
磁束指令前回値保持部141は、前回値の磁束指令φ*を保持する。
磁束指令変化判定部142は、磁束指令φ*が変化したか否かを判定する。
運転状態フラグ前回値保持部143は、前回値の運転状態フラグRunを保持する。
運転状態フラグ変化判定部144は、運転状態フラグRunが変化したか否かを判定する。
論理和演算部145は、磁束指令変化判定部142の判定結果と運転状態フラグ変化判定部144との論理和を演算する。
次に、磁化要求生成部14の処理動作について説明する。
磁束指令前回値保持部141は、磁束指令φ*が入力され、その値を保持する。磁束指令前回値保持部141は、この保持した磁束指令φ*を、前回値の磁束指令φ*として使用する。
磁束指令変化判定部142は、磁束指令前回値保持部141から入力された前回値の磁束指令φ*と、今回の磁束指令φ*とが入力される。磁束指令変化判定部142は、前回値の磁束指令φ*と今回の磁束指令φ*とを比較し、変化したか否かを判定する。磁束指令変化判定部142は、変化した場合は「1」、変化がない場合は「0」を出力する。
運転状態フラグ前回値保持部143は、運転状態フラグRunが入力され、その値を保持する。運転状態フラグ前回値保持部143は、この保持した運転状態フラグRunを、前回値の運転状態フラグRunとして使用する。
運転状態フラグ変化判定部144は、運転状態フラグ前回値保持部143から入力された前回値の運転状態フラグRunと、今回の運転状態フラグRunが入力される。運転状態フラグ変化判定部144は、前回値の運転状態フラグRunと今回の運転状態フラグRunとを比較し、変化したか否かを判定する。運転状態フラグ変化判定部144は、変化した場合は「1」、変化がない場合は「0」を出力する。
論理和演算部145は、磁束指令変化判定部142の判定結果と、運転状態フラグ変化判定部144の判定結果が入力される。論理和演算部145は、磁束指令変化判定部142から「1」が入力された場合、又は、運転状態フラグ変化判定部144から「1」が入力された場合に、磁化要求フラグFCreqを“磁化要求”を意味する「1」にする。それ以外は、磁化要求フラグFCreqは、“磁化要求なし”を意味する「0」となる。即ち、磁化要求フラグFCreqは、インバータ5が始動するとき、又は、インバータ5が停止するときなどに変化する。
図8は、第1の実施形態に係る電圧指令演算部20の構成を示す構成図である。
電圧指令演算部20は、インバータ5から出力させる電圧に対するDQ軸電圧指令Vd*,Vq*を出力する。
電圧指令演算部20は、通常モード電圧指令演算部202と、磁化モード電圧指令演算部203と、切替器201とを備えている。
通常モード電圧指令演算部202は、通常運転時において、電流基準演算部11の出力であるDQ軸電流指令IdR,IqRに一致するように、第1のDQ軸出力電圧指令Vd1*,Vq1*を演算する。通常モード電圧指令演算部202は、モータモデルに基づくフィードフォワード項やフィードバック演算を用いて、第1のDQ軸出力電圧指令Vd1*,Vq1*を演算する。
磁化モード電圧指令演算部203は、可変磁束モータ4の永久磁石の磁束を変化させるための第2のDQ軸出力電圧指令Vd2*,Vq2*を演算する。
切替器201は、通常モード電圧指令演算部202から出力された第1のDQ軸出力電圧指令Vd1*,Vq1*と、磁化モード電圧指令演算部203から出力された第2のDQ軸出力電圧指令Vd2*,Vq2*とのいずれを出力するかを選択するために切り替える。
次に、磁化モード電圧指令演算部203の動作について説明する。
磁化モード電圧指令演算部203は、磁束指令演算部12から磁束指令φ*が入力される。磁化モード電圧指令演算部203は、磁石磁束が磁束指令φ*に一致するまで磁化電流を流す。その後、磁化モード電圧指令演算部203は、磁化電流を減少させて、通常運転に移行させる。この間を磁化モードと呼び、「モード状態MAGmode>0」を磁化モードと定義する。一方、通常モードは、「モード状態MAGmode=0」と定義する。即ち、通常モードは、通常運転する運転モードである。磁化モードには、磁化フェーズ(モード状態MAGmode=1)と、移行フェーズ(モード状態MAGmode=2)がある。磁化フェーズは、磁束を変化させるために、磁化電流を増加させる。移行フェーズは、磁束変化が完了したときに、磁化電流を減少させて通常モードへの移行を行う。ここに、磁化とは、磁化モード、すなわち、磁化フェーズと移行フェーズとの両フェーズを合わせて指すと定義する。磁化モード電圧指令演算部203は、磁化の際(モード状態MAGmode>0)、トルク変動が生じないように電圧指令を演算するものである。
図9は、第1の実施形態に係る磁化モード電圧指令演算部203の処理手順を説明するための流れ図である。なお、磁化フェーズ(モード状態MAGmode=1)と移行フェーズ(モード状態MAGmode=2)との処理手順は、図9に示すステップS202における磁化電流の方向を含む変移量ΔIdの初期値の算出方法が異なる点以外は、同じ処理手順である。
まず、磁化フェーズにおける処理手順について説明する。
現時点でのDQ軸電圧指令Vd*,Vq*を、初期値Vd0,Vq0として記憶する。また、現時点でのDQ軸電流値Id,Iqを、初期値Id0,Iq0として記憶する(ステップS201)。
磁束指令φ*と、現時点での磁束量を示している磁束シミュレータの予測値φhに基づき、磁化電流を流すべき方向を含む磁化電流の変移量ΔIdの初期値を決定する。即ち、αを正の所定値とすると、次のようになる。
磁束指令φ*が磁束予測値φhよりも大きければ、変移量ΔIdをαとする。そうでなければ(磁束指令φ*が磁束予測値φh以下であれば)、変移量ΔIdを−αとする(ステップS202)。
制御周期ΔTの経過後のトルク変動を零であるようにΔIqを決定するための処理を行う(ステップS203)。磁化電流(即ち、D軸電流)を式(6)のように流した場合の磁束推定値φh’を予測する。この磁束推定値φh’は、式(7)の磁束シミュレータを使って予測する(ステップS204)。この磁束シミュレータは、現時点での磁束φhに対して、磁化電流Id’を流すことで変化することが予想される磁束の推定値φh’を出力するものである。
Id’=Id0+ΔId …式(6)
φh’=F(Id’,φh) …式(7)
磁化特性のモデル化は様々な方式があるが、1つの実現方法としては、複数の磁化特性をそれぞれ多項式近似しておき、条件に応じた磁化特性多項式を参照することで、実現することができる。磁化特性のモデリングは、次のURLが参考になる。
http://www.engin.umd.umich.edu/vi/w2_workshops/memory_motors_vlado_w2.pdf
式(6)及び式(7)により求められた磁化電流Id’及び磁束推定値φh’に基づいて、トルク変動を抑制するに必要なQ軸電流Iq’を演算する。Q軸電流Iq’は、式(8)を用いて、求めることができる。
磁化電流(D軸電流)Id’、Q軸電流Iq’、磁束φh’とするために、必要なDQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*を求める(ステップS206)。
永久磁石リラクタンスモータの動特性は、式(9)で表される。特に可変磁束モータ4に適合するため、磁束の変化項がある。
式(9)で、Id’→Id、Iq’→Iq、φh’→φとすれば、直接、必要なDQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*を求めることができる。また、変化分を別に考えれば、次のように求めることもできる。
ΔId=Id’−Id0
ΔIq=Iq’−Iq0
Δφ =φh’−φ0
このDQ軸電圧ΔVd’,ΔVq’は、所望な磁束指令φ*に向けて、微小な磁化電流を流すにあたり、トルク変動がないようなDQ軸電圧の変移ベクトルになる。DQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*は、初期電圧に、変移電圧ベクトルを加えて、次式のように演算する。
Vd2*=Vd0+ΔVd
Vq2*=Vq0+ΔVq …式(11)
このDQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*が、上記の微小な磁化電流Id’を流し、かつ、トルク変動を抑制するのに必要なDQ軸電圧である。
インバータ5で出力可能なDQ軸上の最大電圧であるDQ軸最大電圧VdqMaxと、上記のDQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*を比較する(ステップS207)。DQ軸最大電圧VdqMaxは、1パルスモードまで用いれば、直流リンク電圧をVdcとして、次式のように演算する。
また、必要なDQ軸電圧の大きさVdq2は、次式で演算できる。
必要なDQ軸電圧の大きさVdq2がDQ軸最大電圧VdqMaxよりも小さい場合は、インバータ5の出力電圧にまだ余裕がある。このため、磁化電流Id’(=Id0+ΔId)の大きさを更に増加させる(ステップS207のNo、ステップS208)。磁化電流Id’の大きさを増加させた後は、ステップS203から処理を繰り返す。
ここで“磁化電流の大きさを増加する”とは、符号を変えずに、磁化電流の大きさを大きくするという意味である。よって、磁化電流は、ステップS202で述べたように、磁束を増磁させる場合と減磁させる場合とで、重畳すべき磁化電流の符号が異なる。
必要なDQ軸電圧の大きさVdq2がDQ軸最大電圧VdqMaxよりも大きい場合は、インバータ5の出力電圧に余裕がない。よって、これ以上の磁化電流は流せない。繰り返し計算は、これで終了する。この時点でのDQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*を出力する(ステップS209)。なお、DQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*の出力は、前回の演算で算出されたDQ軸電圧を出力してもよいし、前回と今回の演算で算出されたDQ軸電圧の間を補完した値でもよいし、又はインバータ5の出力可能な最大にリミットして出力してもよい。
上述のように、磁化モード電圧指令演算部203では、上記の各ステップに基づき、第2のDQ軸出力電圧指令Vd2*,Vq2*を演算し、出力する。
切替器201は、磁化処理中であることを表す磁化モード(モード状態MAGmode>0)の場合は、磁化モード電圧指令演算部203からの第2のDQ軸電圧指令Vd2*,Vq2*を選択する。一方、切替器201は、磁化が行われていない通常モード(モード状態MAGmode=0)の場合は、通常モード電圧指令演算部20からの第1のDQ軸電圧指令Vd1*,Vq1*を選択する。切替器201は、選択したDQ軸電圧指令を最終的なDQ軸電圧指令Vd*,Vq*として出力する。
磁化モード(モード状態MAGmode>0)では、所定の磁束変化を達成すると、第1の磁化フェーズから、第2の移行フェーズへと移る。
次に、移行フェーズにおける処理手順について説明する。ここでは、磁化フェーズの処理手順と異なる点について説明する。その他の点は、磁化フェーズと同様のため説明を省略する。
移行フェーズでは、磁化フェーズにおけるステップS202での磁化電流の方向を含む変移量ΔIdの初期値を以下のように算出する。
D軸電流基準IdRと、その時点でのD軸電流Idに基づき、磁化電流の方向と初期値を決定する。すなわち、αを正の所定値とすると、次のようになる。
D軸電流基準IdRがD軸電流Idよりも大きければ、変移量ΔIdをαとする。そうでなければ(D軸電流基準IdRがD軸電流Id以下であれば)、変移量ΔIdを−αとする(ステップS202)。
ここに、磁化フェーズと移行フェーズでは、磁化電流の変移量ΔIdの符号が逆になる。移行フェーズにおいて、他は磁化フェーズと同等に動作させる。
D軸電流IdがD軸電流基準IdRに到達したときに、磁化モード(モード状態MAGmode>0)を通常(モード状態MAGmode=0)に切り替える。これにより、移行フェーズの完了、即ち、磁化モードの完了となる。
次に、永久磁石ドライブシステム1の動作について説明する。
磁束指令φ*が変化することにより磁化要求フラグFCReqが立つ。これにより、制御部10のモードが通常モード(モード状態MAGmode=0)から磁化モード(モード状態MAGmode>0)へ移行する。これを受けて、電圧指令演算部202では、通常モード電圧指令演算部20から磁化モード電圧指令演算部203へと処理が移行する。
磁化モード電圧指令演算部203では、その時点でのDQ軸電流Id,Iqに基づき、ある制御処理時間経過する間の磁化電流の変移量ΔId’を初期値として求める。これは、取り敢えず、微小な変移でよい。この磁化電流(Id+ΔId’)を流すことで、磁石磁束が変移(変移量Δφ)することが想定されるため、磁束の変化を磁束シミュレータで予測する。
このとき、磁化電流としてD軸電流Idが変化し、磁石磁束φが変化するため、トルク変動を生じる可能性がある。このため、トルクが変動しないように、トルク電流(Q軸電流Iq)の変移量ΔIqを算出する。この変移量ΔId,ΔIq,Δφは、ある制御処理時間ΔTに変移すると仮定しているため、それに要する電圧ベクトルΔVd,ΔVqを演算できる。即ち、磁化電流Idを変化させるにあたり、磁化電流Idと共に、トルク変動を抑制する方向に、トルク電流Iqを変化させる。或いは、その電流が流れるように、電圧ベクトルに変移量(ΔVd,ΔVq)を与える。
ここで、この時点での電圧ベクトルの変移量ΔVd,ΔVqは、出力電圧に余裕がある場合がある。この場合、磁化電流の変移量ΔIdの大きさを、初期値の変移量ΔId’から更に増加させ、上述の演算処理を再度行う。このような演算を繰り返し行う。
このようにして、最終的に求まる変移量Idをインバータ5の制御に用いる。これにより、インバータ5が出力可能な最大電圧による磁化電流Idを流すことができる。
図10を参照して、磁化モード電圧指令演算部203による出力電圧・電流ベクトルの推移について説明する。
磁化モードに切り替った時点での出力電圧はV0、モータ電流はI0であるとする。このとき、増磁するために、磁化電流であるD軸電流Idを磁化電流目標値まで増加することを考える(そこまで磁化すれば、磁束指令φ*に磁束φが一致する)。図10中において、インバータ5が出力可能な範囲を、出力電圧リミットとして示している。即ち、出力電圧リミット内がインバータ5の自由に出力できる電圧である。
ある制御処理時間ΔTが経過した後に、ある磁化電流Id(D軸電流としてI0+ΔId)を流すことを考える。
磁化モード電圧指令演算部203は、この流した磁化電流による磁束変化Δφを磁束シミュレータで予測する。次に、磁化モード電圧指令演算部203は、磁束変化Δφによるトルク変動を抑制するようにQ軸電流の変移量ΔIqを決定する。D軸電流の変移量ΔIdとQ軸電流の変移量ΔIqにより、電流ベクトルの変移量ΔI1が決定される。この変移量ΔI1を流すために必要となる電圧ベクトルの変移量がΔV1となる。
ここで、電圧ベクトルV0から電圧変移ベクトルΔV1が変移しても、出力電圧は、リミット内である。このため、変移量ΔV1による電圧は、出力可能と判断される。従って、磁化モード電圧指令演算部203は、更に磁化電流Idを増加させて、2度目の同様の演算を行う。この演算により、電流変移ベクトルΔI2、電圧変移ベクトルΔV2が求まる。
この電圧変移ベクトルΔV2の変移による電圧も、出力可能な範囲である。そこで、再度更に磁化電流Idを増加させて、3度目の同様の演算を行う。この演算により電流変移ベクトルΔI3、電圧変移ベクトルΔV3が求まる。
電圧変移ベクトルΔV3の変移による電圧は、出力可能な範囲外となる。従って、繰り替えし演算は、これで打ち切る。電圧指令としては、V0+ΔV2、又は、V0+ΔV3を出力する。なお、最大電圧となるように、変移量ΔV2と変移量ΔV3を補間することや、電圧リミットになるまで、磁化電流の変移量ΔIdを変えて収束演算をさせてもよい。
図11は、第1の実施形態に係る永久磁石ドライブシステム1における制御状態を示すタイミングチャートである。図11は、制御部10が通常モード(モード状態MAGmode=0)から磁化モード(モード状態MAGmode>0)へ、そして、再度、通常モードへと移行するときの、状態量の変化を簡便に図示している。
トルク指令Tm*は、通常モードであるか磁化モードであるかに関わらず、不変である。
磁化要求フラグFCReqは、磁束指令φ*の変化と同時に立つ。これにより、モード状態MAGmodeは、「0」から「1」になる。
磁束指令φ*の変化と同時に、電流基準演算部11の作用として、D軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRが変化する。これらの電流基準は、磁束変化が完了した後の通常状態における電流基準を指し示すものである。
磁束指令φ*に磁束φ(実磁束)が一致するように、D軸電流Idが増加する。これに応じて、磁束φ(同時に磁束推定値φh)は、増加する。Q軸電流Iqは、磁束の変化Δφ、D軸電流の変化によるリラクタンストルクの変化を考慮して、トータルのトルク変動を抑えるように変化する。
磁束指令φ*に推定磁束φh(ここでは、実磁束φは、推定磁束φhと等しいと仮定する。)が一致した段階で、制御部10は、磁化フェーズ(モード状態MAGmode=1)から移行フェーズ(モード状態MAGmode=2)へ移行する。移行フェーズは、磁石磁束の変化が完了した後、磁化するために必要だった磁化電流を低減し、スムーズに通常モードへとモード移行するための磁化モードである。磁化電流(D軸電流)の低減目標値は、D軸電流基準IdRである。Q軸電流は、磁化フェーズのときと同様に、そのときのトルク変動を抑制するように変化する。制御部10は、D軸電流がD軸電流基準IdRに達して、磁化するために行った一連の制御を完了すると、磁化モード(モード状態MAGmode=2)から通常モード(モード状態MAGmode=0)に変化する。
本実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
出力可能な電圧範囲による最大の電圧によって、磁化電流の変移をさせている。したがって、磁化に要する時間を最小化することができる。磁化には、通常より過大な電流が必要であり、損失や発熱が問題となる。永久磁石ドライブシステム1の構成によれば、インバータの限界内にて、最小時間にて所定の磁化を完了させることが可能である。従って、損失や発熱を最小に抑えることができる。これにより、永久磁石ドライブシステム1は、インバータ5の冷却器を簡素化したり、スイッチング素子容量を低減できる。従って、ドライブシステム1は、小型・軽量化やコスト低減の効果が得られる。
また、磁化の際には、磁化電流を流すことによって、過渡トルクが生じる。この過渡トルクは、モータの負荷側に機械が接続された場合などでは、機械系に運動エネルギーを与えることで、振動等の問題を生じる。しかし、過渡トルクの大きさが低減できずとも、過渡トルクによって機械系に与える運動エネルギーが小さければ、問題にはならない。永久磁石ドライブシステム1の構成によれば、インバータ5による出力可能な最大の電圧で、磁化電流を最短で流すことで、過渡トルクの生じる時間を最短にすることできる。これにより、永久磁石ドライブシステム1は、振動等を低減することができる。
さらに、可変磁束モータ4を用いることで、磁束を零にして、惰行すれば、インバータの短絡故障やモータの地絡した場合などによる誘起電圧の発生を抑えることができる。例えば、PMドライブでは、誘起電圧の発生を防止するため、PMとインバータとの間に負荷接触器を入れるなど、装置が増大する。本実施形態に係る構成によれば、このような課題を解決することができる。また、磁束は、零まででなくとも、可変磁束モータ4における最小にして惰行することで、誘起電圧の発生によるリスクを低減できる。
また、ある制御処理時間の経過後の状態を評価することにより、トルク変動が生じないような磁化電流(D軸電流)Id,トルク電流(Q軸電流)Iqを得ることができる。例えば、単純に、磁化電流を所定値まで流して、磁束φを磁束指令φに変化させると、磁化途中でのトルク変動が生じる。よって、トルク変動が生じないような磁化電流及びトルク電流を用いて、永久磁石ドライブシステム1を運転することにより、磁化をする過程においても、トルクの変動を抑制することができる。磁化に伴うトルク変動は、モータの機械負荷への振動を誘発し、また、騒音の要因となる。従って、本効果により、これらを低減した好適な永久磁石ドライブシステムを提供することができる。
具体的には、ある制御処理時間ΔT経過した後の状態を評価し、トルク変動を抑制するように、出力電圧の範囲内にて到達可能なDQ軸電流値を目標として、出力電圧を決定している。よって、磁化の最終段階のみならず、磁化の開始から終了までの間、トルク変動を抑制できる。ある制御処理時間とは、例えば、スイッチング周波数の1周期など、半周期の整数倍(この整数は1以上)に設定することができる。スイッチング半周期とは、各相が1回ずつスイッチングする状態である。このスイッチング半周期で制御をすると、出力可能な電圧ベクトルのうち、任意の電圧を指定できることになる。
さらに、スイッチングと、制御処理との同期をとると、出力電圧の制御性を良くすることができ、インバータ5の応答性を向上させることができる。
また、本実施形態では、磁化モード(モード状態MAGmode>0)として、磁化フェーズ(モード状態MAGmode=1)と移行フェーズ(モード状態MAGmode=2)と分けている。磁化フェーズでは、磁化電流を増加して、磁束を変化させるフェーズであり、移行フェーズは、磁化電流を低減して、通常制御モードへと移行するフェーズである。移行フェーズにおいても、大きな磁化電流を急速に減少させる必要があるため、トルク変動が生じる可能性が高い。よって、磁化フェーズと同様に処理することで、トルク変動が生じないようにすることができる。
さらに、出力可能な電圧を最大限に使えるため、最も短時間に通常モードへと移行することができる。よって、磁化電流を重畳している時間が短縮され、インバータやモータでの損失・発熱を抑制する効果を低減することができる。
(第2の実施形態)
図12は、本発明の第2の実施形態に係る永久磁石ドライブシステム1Aの構成を示すブロック図である。
永久磁石ドライブシステム1Aは、図1に示す第1の実施形態に係る永久磁石ドライブシステム1において、電圧指令演算部20及び座標変換部17,21の代わりに、電流指令演算部26、電流制御部27及び座標変換部23,24,25を設けた点以外は、同様である。
電流指令演算部26は、DQ軸電流基準IdR,IqR、磁束指令φ*、及び磁化要求フラグFCReqに基づいて、通常モード中及び磁化モードにおけるDQ軸電流指令Id*,Iq*を演算する。電流指令演算部26は、演算したDQ軸電流指令Id*,Iq*を座標変換部25に出力する。
座標変換部25は、電流指令演算部26から入力されたDQ軸電流指令Id*,Iq*を3相電流指令Iu*,Iv*,Iw*に変換する。座標変換部25は、変換した3相電流指令Iu*,Iv*,Iw*を電流制御部27に出力する。
電流制御部27は、3相電流指令Iu*,Iv*,Iw*に、電流検出器2u,2wにより検出された3相電流Iu,Iv(=−Iu−Iwの演算で求まる),Iwが一致するように、3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を演算する。電流制御部27は、例えば、ヒステリシスコンパレータ方式などの瞬時比較制御方式を利用して、3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を決定する。電流制御部27は、演算した3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を座標変換部23及びPWM回路22に出力する。
座標変換部23は、入力された3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を、DQ軸回転座標系上でのDQ軸電圧指令Vd*,Vq*に換算する。座標変換部23は、換算したDQ軸電圧指令Vd*,Vq*を電流指令演算部26に出力する。
図13は、第2の実施形態に係る電流指令演算部26の構成を示すブロック図である。
電流指令演算部26は、通常モード(モード状態MAGmode=0)における電流指令と磁化モード(モード状態MAGmode>0)における電流指令のうちいずれか一方を出力するために選択する切替器261と、磁化モードにおける電流指令を演算する磁化電流指令演算部262とを備えている。
磁化要求フラグFCReqが「1」になると、モード状態MAGmodeは、「0」から「1」に変化する。切替器261は、通常モードでは、電流基準IdR,IqRをDQ軸電流指令Id*,Iq*として選択する。切替器261は、磁化モードになると、磁化電流指令演算部262により演算された電流指令を選択する。
図14は、第2の実施形態に係る磁化電流指令演算部262の処理手順を説明するための流れ図である。
図14に示す処理手順は、図9に示す第1の実施形態に係る磁化モード電圧指令演算部203の処理手順において、ステップS209をステップS209Aに代えた点以外は、同様である。
磁化電流指令演算部262のステップS209Aは、繰り返し計算により最終的に決定されたDQ軸電流をDQ軸電流指令Id*,Iq*として出力する。なお、DQ軸電流指令Id*,Iq*の出力は、前回の演算で算出されたDQ軸電流を出力してもよいし、前回と今回の演算で算出されたDQ軸電流の間を補完した値でもよいし、又はインバータ5の出力可能な最大にリミットして出力してもよい。
本実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
本実施形態に係る永久磁石ドライブシステム1Aは、第1実施形態と同様に、インバータの出力可能な電圧範囲にて、トルク変動を抑制しつつ、最も大きな磁化電流の変移を与えられるように、電流指令を演算する。この電流指令に基づいて、電流追従性の良好である、ヒステリシス制御や空間ベクトル制御などの瞬時比較方式の電流制御部27が動作する。よって、第1実施例の効果を得ると同時に、精度よく、電流を追従させることが可能である。
可変磁束モータ4は、永久磁石の磁石磁束の急峻な変化を伴うものである。この可変磁石のモデル化は、複雑となる。そのため、モデル化の精度が不十分であると、所望な電流を流すことができず、所望な磁束変化が得られないことになる。このことは、磁束制御精度が劣化し、また、磁化処理に時間を要して、損失や発熱が増大するなどの懸念が生じる。
本実施形態に係る永久磁石ドライブシステム1Aは、インバータの出力可能な電圧範囲と見込まれる条件にて、変移可能な電流を電流指令として与え、電圧外乱に対してロバスト性が高く電流追従性が高い瞬時比較制御を施している。これにより、上記の懸念を払拭することができる。
なお、第1の実施形態において、図3に示す可変磁石モータ4の構成は、これに限らない。可変磁石モータ4の構成は、図2に示すようなモデル化した構成が成り立てば、可変磁石41又は固定磁石42をどのように配置してもよい。
第1の実施形態において、磁束指令演算部12は、磁束を3段階に変えるものとしたが、何段階に変えるようにしてもよい。また、磁束指令演算部12は、任意の磁束量に制御できる。
第1の実施形態では、可変磁束モータ4の永久磁石の磁束を変化させる際に、トルク変動が生じないようにQ軸電流を決定している。これに対して、インバータの出力電圧を最大にして、磁化電流(D軸電流)を最短時間で流すことで、トルク変動を許容する制御にしてもよい。トルク変動の生じる時間を最短にすることで、機械系に与える運動エネルギーを低減し、振動等を低減することができる。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
1,1A…永久磁石ドライブシステム、2u,2w…電流検出器、3…直流電源、4…可変磁束モータ、5…インバータ、9…位置検出器、10,10A…制御部、11…電流基準演算部、12…磁束指令演算部、14…磁化要求生成部、15…ゲート指令生成部、16…運転指令生成部、17…座標変換部、18…擬似微分器、19…トルク指令生成部、20…電圧指令演算部、21…座標変換部、22…PWM回路、23…座標変換部、24…座標変換部、25…座標変換部、26…電流指令演算部、27…電流制御部。