1.定義
本発明をより容易に理解するために、特定の専門技術用語を以下に特定的に定義する。本明細書において特段の記載が無い限り、本明細書において使用する全ての他の専門技術用語は本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されている意味を有する。
添付請求項を包含する本明細書においては、文脈上明確に別様に推定されない限り、単数表記は相当する複数表記を包含するものとする。
細胞又は受容体に対して適用される場合の「活性化」、「刺激」及び「治療」とは、文脈上別様又は明示的に示されない限り、同様の意味、例えばリガンドによる細胞又は受容体の活性化、刺激又は治療であってよい。「リガンド」とは天然及び合成のリガンド、例えばサイトカイン、サイトカイン変異体、類縁体、ムテイン、及び抗体から誘導された結合化合物を包含する。「リガンド」とは又、小分子、例えばサイトカインのペプチドミメティック(peptide mimetic)及び抗体のペプチドミメティックを包含する。「活性化」とは内部の機序により、並びに外部又は環境の要因により調節されている状態としての細胞の活性化を指す場合がある。例えば細胞、組織、臓器、又は生物の「応答」とは、生化学的又は生理学的な挙動、例えば生物学的コンパートメント内部における濃度、密度、接着、又は遊走、遺伝子発現の比率、又は分化の状態における変化を包含し、この場合、変化は活性化、刺激、又は治療、又は内部の機序、例えば遺伝子プログラミングに相関している。
分子の「活性」とはリガンド又は受容体に対する分子の結合、触媒活性;遺伝子発現又は細胞シグナリング、分化、又は成熟を刺激する能力;抗原活性、他の分子の活性化のモジュレーション等、を説明又は指す場合がある。分子の「活性」とは又、細胞−細胞の相互作用、例えば接着をモジュレート又は維持する場合の活性、又は細胞の構造、例えば細胞膜又は細胞骨格を維持する場合の活性を指すこともできる。「活性」とは又、比活性、例えば生物学的コンパートメントにおける[触媒活性]/[mg蛋白]、又は[免疫学的活性]/[mg蛋白]等を意味する場合もある。「活性」とは又、生得又は適応の免疫系の要素のモジュレーションをさす場合がある。「増殖活性」とは例えば正常な細胞分裂、並びに癌、腫瘍、形成異常、細胞形質転換、転移、及び血管形成を促進するか、それに必要であるか、又はそれに特異的に関連している活性を包含する。
「投与」及び「治療」とは、動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、臓器、又は生物学的流体に適用する場合、動物、ヒト、対象、細胞、組織、臓器、又は生物学的流体への外来性の医薬品、治療薬、診断薬、又は組成物の接触を指す。「投与」及び「治療」とは施療、薬物動態、診断、研究及び実験の方法を指す場合がある。細胞の治療とは細胞への試薬の接触、並びに流体への試薬の接触を包含し、この場合、流体は細胞と接触している。「投与」及び「治療」は又、例えば細胞の、試薬、診断薬、結合化合物による、又は別の細胞によるインビトロ及びエクスビボの治療を意味する。ヒト、家畜又は研究対象に適用する場合の「治療」とは、施療的治療、予防的又は防止的な手段、研究及び診断上の適用を指す。ヒト、家畜又は研究対象、又は細胞、組織、又は臓器に適用する場合の「治療」とは、ヒト又は動物の対象、細胞、組織、生理学的コンパートメント、又は生理学的流体へのIL−17Aアゴニスト又はIL−17A拮抗剤の接触を包含する。「細胞の治療」とは又、例えば流体相又はコロイド相中でIL−17Aアゴニスト又はIL−17A拮抗剤がIL−17A受容体に接触する状況、しかし更にはアゴニスト又は拮抗剤が細胞又は受容体には接触しない状況も包含する。
「治療する」又は「治療すること」とは、本発明の結合化合物の何れかを含有する組成物のような治療薬を、薬剤が既知の治療活性を有する対象となる疾患の症状1つ以上を有する患者に対し、内部又は外部から投与することを意味する。典型的には、薬剤は、治療された患者又は集団において疾患の症状1つ以上を、何れかの臨床的に計測できる程度までそのような症状の退行を誘導するか、又はその進行を抑制することにより軽減するために有効な量において投与される。何れかの特定の疾患の症状を軽減するために有効な治療薬の量(「治療有効量」とも称する)は疾患の状態、患者の年齢及び体重、及び患者において所望の応答を誘発する薬物の能力のような要因に応じて変動する場合がある。疾患の症状が軽減されているかどうかは、その症状の重症度又は進行度を評価するために医師又は他の医療専門家により典型的に使用されている何れかの臨床計測法により評価できる。本発明の実施形態(例えば治療方法又は製造物品)は如何なる患者においても標的疾患症状を軽減する場合に有効である必要はないが、それは当該分野で知られた何れかの統計学的試験、例えばStudentのt検定、カイ自乗検定、Mann and WhitneyのU検定、Kruskal−Wallis検定(H検定)、Jonckheere−Terpstra検定及びWilcoxon検定で測定した場合に、統計学的に有意な数の患者において標的疾患症状を軽減しなければならない。
本明細書ではヒトIL−17A蛋白の4種の変異体に言及する。i)本明細書においては、「ヒトIL−17A」及び「ネイティブのヒトIL−17A」(「huIL−17A」及び「humIL−17A」)とはヒトIL−17A蛋白アクセッション番号NP_002181及びAAT22064の成熟形態(即ち残基24〜155)及びその天然に存在する変異体及び多形体を指す。ii)本明細書においては、「rhIL−17A」という用語は2つの追加的アミノ酸(LE)がネイティブのヒトIL−17Aの成熟形態のN末端に付随しているネイティブヒトIL−17Aの組み換え誘導体を指す。この命名法はIL−17Aの種々の形態を指す場合に簡便のために採用しており、文献における使用法に合致しない場合がある。iii)本明細書においては、「FLAG−huIL−17A」という用語は付随したN末端FLAG(登録商標)ペプチドを有するネイティブのヒトIL−17Aの変異体を指す。一部の実験においては、FLAG−huIL−17Aはビオチン化される。iv)R&D SystemヒトIL−17Aは本明細書においては追加的なN末端メチオニンを有するヒトIL−17A蛋白アクセッション番号NP_002181及びAAT22064の残基20〜155である。表1は本明細書において参照するIL−17A分子の変異体のN末端を総括したものである。
特段の記載が無い限り、アデノウィルスベクターを用いながら製造される本明細書に記載する実験において使用される何れのIL−17AもrhIL−17Aである。「IL−17A」という用語は一般的にヒトIL−17Aのネイティブ又は組み換えのもの、及びヒトIL−17Aの非ヒト相同体を指す。特段の記載が無い限り、IL−17Aのモル濃度はIL−17Aのホモ2量体の分子量を用いて計算される(例えばヒトIL−17Aの場合は30kDa)。
本明細書においては、「抗体」という用語は所望の生物学的活性を呈する抗体の何れかの形態を指す。即ち、それは最も広範な意味において使用され、そして特に、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を包含する)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を包含するがこれらに限定されない。本明細書においては、「IL−17A結合フラグメント」又は抗体(「親抗体」)の「結合フラグメント」という用語は、典型的には親抗体の結合特異性の少なくとも一部を保持している、親抗体の抗原結合又は可変領域(例えば1個以上のCDR)の少なくとも一部分を含む抗体のフラグメント又は誘導体を包含する。抗体結合フラグメントの例はFab、Fab’、F(ab’)2、及びFvフラグメント;ダイアボディー;線状抗体;単鎖抗体分子、例えばsc−Fv;及び抗体フラグメントから形成した多重特異性抗体を包含するがこれらに限定されない。典型的には、結合フラグメント又は誘導体はそのIL−17A結合活性の少なくとも10%を、その活性がモル基準で発現される場合に保持している。好ましくは結合フラグメント又は誘導体は親抗体の少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%、又は100%又はそれより高値のIL−17A結合親和性を保持している。IL−17A結合フラグメントは自身の生物活性を実質的に改変しない保存的アミノ酸置換(抗体の「保存的変異体」と称する)を包含することができることも意図している。「結合化合物」という用語は抗体及びその結合フラグメントの両方を指す。
「Fabフラグメント」という用語は1軽鎖及び1重鎖のCH1及び可変領域を含む。Fab分子の重鎖は別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することはできない。
「Fc」領域は抗体のCH1及びCH2ドメインを含む2つの重鎖フラグメントを含有する。2つの重鎖フラグメントはジスルフィド結合2つ以上により、そしてCH3ドメインの疎水性相互作用により、共に保持されている。
「Fab’フラグメント」は軽鎖1つ、及びVHドメイン及びCH1ドメイン、そして更にはCH1とCH2ドメインの間の領域を含有する重鎖1つの一部分を含有しており、これにより鎖間ジスルフィド結合がFab’フラグメント2つの重鎖2つの間に形成されることができ、これによりF(ab’)2分子が形成される。
「F(ab’)2フラグメント」は軽鎖2つ、及びCH1とCH2ドメインの間の定常領域の一部分を含有する重鎖2つを含有し、これにより重鎖2つの間に鎖間ジスルフィド結合が形成される。即ちF(ab’)2フラグメントは重鎖2つの間のジスルフィド結合により共に保持されているFab’フラグメント2つよりなる。
「Fv領域」とは重鎖及び軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが、定常領域は有さない。
「単鎖Fv」又は「scFv」という用語は、抗体のVH及びVLドメインを含む抗体フラグメントを指し、この場合これらのドメインは単一のポリペプチド鎖内に存在する。一般的にFvポリペプチドは更に抗原結合のための望ましい構造をscFvが形成できるようにするVHとVLドメインの間のポリペプチドリンカーを含む。scFvに関する考察はPluckthun(1994)THE PHARMACOLOGY OF MONOCLONAL ANTIBODIES,vol.113,Rosenburg and Moore eds.Springer−Verlag,New York,pp.269−315を参照できる。更に又、国際特許出願公開WO88/01649及び米国特許4,946,778及び5,260,203も参照できる。
「ドメイン抗体」とは重鎖の可変領域又は軽鎖の可変領域のみを含有する免疫学的に機能性の免疫グロブリンフラグメントである。一部の場合においては、2つ以上のVH領域はペプチドリンカーと共有結合して2価のドメイン抗体を形成する。2価のドメイン抗体の2つのVH領域は同じか又は異なる抗原をターゲティングしてよい。
「2価の抗体」は抗原結合部位2つを含む。一部の場合においては、結合部位2つは同じ抗原特異性を有する。しかしながら、2価の抗体は二重特異性であってよい(後述参照)。
本明細書においては、特段の記載が無い限り「抗IL−17A」抗体は、ヒトIL−17A又はその変異体、例えばhuIL−17A、rhIL−17A、FLAG−huIL−17A、及びR&DIL−17A、又はその何れかの抗原性フラグメントに対して作製された抗体を指す。
「モノクローナル抗体」という用語は本明細書においては、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、即ち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在するかもしれない、天然に存在する可能性のある突然変異を除き、同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原エピトープに対して施行される。これとは対照的に従来の(ポリクローナル)抗体の集団は典型的には異なるエピトープに対して指向された(又は特異的な)抗体を多数包含する。「モノクローナル」という修飾語は抗体の実質的に均質な集団から得られたという抗体の特徴を示しており、そして何れかの特定の方法による抗体の製造を要件としているとはみなしてはならない。例えば、本発明により使用されるモノクローナル抗体はKohler等(1975)Nature256:495により最初に報告されたハイブリドーマ法により製造してよく、或いは、組み換えDNA法により製造してよい(例えば米国特許4,816,567参照)。「モノクローナル抗体」とは又例えばClackson等(1991)Nature352:624−628及びMarks等(1991)J.Mol.Biol.222:581−597に記載の手法を用いながらファージ抗体ライブラリから単離してもよい。更に又、Presta(2005)J.Allergy Clin.Immunol.116:731も参照できる。
本明細書に記載するモノクローナル抗体は特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が特定の種から誘導された、又は特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一又は相同であるが、鎖の残余は別の種から誘導された、又は別の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)並びにそのような抗体のフラグメントを包含するが、ただし、それらは所望の生物活性を呈さなければならない(米国特許4,816,567;及びMorrison等(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:6851−6855)。
本明細書においては、「キメラ抗体」とは第1の抗体に由来する可変ドメイン及び第2の抗体に由来する定常ドメインを有する抗体であり、ここで第1及び第2の抗体は異なる種に由来する。典型的には、可変ドメインはげっ歯類のような実験動物に由来する抗体(「親抗体」)から得られ、そして定常ドメイン配列はヒト抗体から得られるものであり、これにより得られるキメラ抗体は親げっ歯類抗体よりもヒト対象において有害な免疫応答を呈する可能性が低下することになる。
本明細書におけるモノクローナル抗体は又ラクダ化された単一ドメイン抗体を包含する。例えばMuyldermans等(2001)Trends Biochem.Sci.26:230;Reichmann等(1999)J.Immunol.Methods231:25;WO94/04678;WO94/25591;米国特許6,005,079を参照することができ、これらは参照により全体が本明細書に組み込まれる。1つの実施形態において、本発明は単一ドメイン抗体が形成されるように修飾を有するVHドメイン2つを含む単一ドメイン抗体を提供する。
本明細書においては、「ダイアボディー」という用語は抗原結合部位2つを有する小型の抗体フラグメントを指し、そのフラグメントは同じペプチド鎖内の軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む(VH−VL又はVL−VH)。同じ鎖の上のドメイン2つの間の対形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、ドメインは強制的に別の鎖の相補ドメインと対形成させられ、そして2つの抗原結合部位を生じさせる。ダイアボディーは例えばEP404,097;WO93/11161;及びHolliger等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:6444−6448により詳細に説明されている。操作された抗体変異体の考察については一般的にHolliger and Hudson(2005)Nat.Biotechnol.23:1126−1136を参照できる。
本明細書においては、「ヒト化抗体」という用語はヒト及び非ヒト(例えばネズミ、ラット)の抗体の両方に由来する配列を含有する抗体の形態を指す。一般的に、ヒト化抗体は少なくとも1つ、そして典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになり、その場合、超可変ループの全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに相当し、そしてフレームワーク(FR)領域の全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものとなる。ヒト化抗体は場合によりヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分(Fc)を含む。
本発明の抗体は又、改変されたエフェクター機能を与えるために修飾(又はブロック)されたFc領域を有する抗体も包含する。例えば米国特許5,624,821;WO2003/086310;WO2005/120571;WO2006/0057702、を参照できる。そのような修飾は免疫系の種々の反応を増強又は抑制するために使用することができ、診断及び治療において有利な作用を有する可能性がある。Fc領域の改変はアミノ酸の変化(置換、欠失及び挿入)、グリコシル化又は脱グリコシル化、及び多数のFcの付加を包含する。Fcの変化は又、治療用抗体における抗体の半減期を改変する場合があり、投薬頻度の低減を可能にし、これにより簡便性を向上させ、材料の使用を低減する。Presta(2005)J.Allergy Clin.Immunol.116:731,p.734−35を参照できる。
「完全ヒト型抗体」という用語はヒト免疫グロブリン蛋白配列のみを含む抗体を指す。完全ヒト型抗体はマウス中、マウス細胞中、又はマウス細胞から誘導したハイブリドーマ中で生産されれば、ネズミ炭水化物鎖を含有する場合がある。同様に「マウス抗体」はマウス免疫グロブリン配列のみを含む抗体を指す。或いは、完全ヒト型抗体はラット中、ラット細胞中、又はラット細胞から誘導したハイブリドーマ中で生産されれば、ラット炭水化物鎖を含有する場合がある。同様に「ラット抗体」はラット免疫グロブリン配列のみを含む抗体を指す。
本明細書においては、「超可変領域」という用語は抗原結合を担っている抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は「相補性決定領域」即ち「CDR」に由来するアミノ酸残基(即ち軽鎖可変ドメイン中の残基24〜34(CDRL1)、50〜56(CDRL2)及び89〜97(CDRL3)、及び、重鎖可変ドメイン中の残基31〜35(CDRH1)、50〜65(CDRH2)及び95〜102(CDRH3);Kabat等(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.)及び/又は「超可変ループ」に由来する残基(即ち軽鎖可変ドメイン中の残基26〜32(CDRL1)、50〜52(CDRL2)及び91〜96(CDRL3)及び重鎖可変ドメイン中の26〜32(CDRH1)、53〜55(CDRH2)及び96〜101(CDRH3);Chothia and Lesk(1987)J.Mol.Biol.196:901−917)を含む。本明細書においては、「フレームワーク」即ち「FR」残基という用語は、本明細書においてCDR残基として定義される超可変領域の残基以外の可変ドメイン残基を指す。
「結合物質」とは標的に結合することができる分子、小分子、巨大分子、抗体、そのフラグメント又は類縁体、又は可溶性受容体を指す。「結合物質」とは又、標的に結合することができる、分子の複合体、例えば非共有結合複合体、イオン化された分子、及び、例えばホスホリル化、アシル化、交差結合、環化、又は制限切断により修飾された共有結合又は非共有結合的に修飾された分子を指してよい。「結合物質」は又、安定化剤、賦形剤、塩、緩衝液、溶媒、又は添加剤と組み合わせて標的に結合することができる分子を指す場合がある。「結合」とは標的との結合物質の会合として定義してよく、この場合、会合は、結合物質を溶液中に溶解又は懸濁できる場合は、結合物質の正常なブラウン運動の低減をもたらす。
「保存的に修飾された変異体」又は「保存的置換」とは、蛋白中のアミノ酸の、同様の特性(例えば電荷、側鎖の大きさ、疎水性/親水性、骨格のコンフォメーション及び剛性等)を有する別のアミノ酸との置換を指し、その場合、往々にして蛋白の生物活性を改変することなく変化を生じさせることができる。当業者の知る通り、一般的に、ポリペプチド中の非必須領域における単一のアミノ酸の置換は生物活性を実質的に改変しない(例えばWatson等(1987)Molecular Biology of the Gene,The Benjamin/Cummings Pub.Co.,p.224(4th Ed)参照)。更に又、構造的又は機能的に同様であるアミノ酸の置換は生物活性を破壊する可能性は低い。本発明の結合化合物の種々の実施形態は、本明細書に開示する特定のアミノ酸配列、例えば配列番号2、4、5又は6と比較した場合に0(無変化)、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20個以上までの保存的アミノ酸置換を包含する配列を有するポリペプチド鎖を包含する。本明細書においては、「X個まで」の保存的アミノ酸置換という表現は、0個の置換及びXを含むX個までの何れかの数量の置換を包含する。そのような例示される置換は好ましくは以下の表2に示すものに従って行われる。
「本質的に〜よりなる」又はその変形「本質的に〜よりなる」又は「本質的に〜よりなっている」という用語は、明細書及び請求項を通じて使用する場合、何れかの言及された要素又は要素の群の包含、及び、特定される投薬の計画、方法又は組成物の基本的又は新規な特性を現実上変化させないような、言及した要素と同様又は異なる性質の別の要素の任意の包含を示す。非限定的な例として、本質的に言及したアミノ酸配列よりなる結合化合物は、結合化合物の特性に現実上影響しないアミノ酸1個以上を包含してよい。
「有効量」とは医学的状態の症状又は兆候を改善又は防止するために十分な量を包含する。有効量は又診断を可能にするか容易にするために十分な量を意味する。特定の患者又は家畜対象に対する有効量は治療すべき状態、患者の全身状態、投与の方法経路及び用量、及び副作用の重症度のような要因に応じて変動してよい(例えばNetti等への米国特許5,888,530参照)。有効量は顕著な副作用又は毒性作用を回避する最大用量又は投薬プロトコルであることができる。作用は、診断尺度又はパラメーターの改善を、正常対象により示される診断パラメーターを100%と定義する場合に少なくとも5%、通常は少なくとも10%、より通常には少なくとも20%、最も通常には少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%、理想的には少なくとも70%、より理想的には少なくとも80%、そして最も理想的には少なくとも90%とするものである(例えばMaynard等(1996)A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice,Interpharm Press,Boca Raton,FL;Dent(2001)Good Laboratory and Good Clinical Practice,Urch Publ.,London,UK参照)。
「外因性」とは、文脈に応じて、生物、細胞、又はヒト身体の外部で生産される物質を指す。「内因性」とは、文脈に応じて、細胞、生物、又はヒト身体の内部で生産される物質を指す。
「相同性」とは2つのポリヌクレオチド配列の間、又は2つのポリペプチド配列の間の配列の類似性を指す。2つの比較された配列の両方におけるある位置が同じ塩基又はアミノ酸の単量体サブユニットで占有されている場合、例えば2つのDNA分子の各におけるある位置がアデニンで占有されている場合、分子はその位置において相同である。2配列間の相同性のパーセントは2配列により共有されるマッチング又は相同な位置の数を比較する位置の数で割ったものに100をかけた関数である。例えば、配列を最適にアラインした場合に2配列の位置10個のうち6個がマッチしているか相同であれば、2配列は60%相同である。一般的に、最大パーセント相同性となるように2配列をアラインさせながら比較を行う。
「免疫状態」又は「免疫障害」とは例えば病理学的な炎症、炎症性障害、及び自己免疫性の障害又は疾患を包含する。「免疫状態」とは又、感染症、難治性の感染症、及び増殖性の状態、例えば癌、腫瘍、及び血管形成、例えば免疫系による根絶に抵抗する感染症、腫瘍、及び癌を指す。「癌性の状態」とは例えば癌、癌細胞、腫瘍、血管形成、及び前癌性の状態、例えば形成異常を包含する。
「炎症性障害」とは、病理学的特徴が全体として、又は部分的に、例えば免疫系細胞の数の変化、遊走速度の変化、又は活性化の変化に起因する、障害又は病理学的状態を意味する。免疫系細胞は例えばT細胞、B細胞、単球又はマクロファージ、抗原提示細胞(APC)、樹状細胞、小神経膠細胞、NK細胞、NKT細胞、好中球、好酸球、肥満細胞、又は免疫学に特に関連する何れかの他の細胞、例えばサイトカイン生産性の内皮又は上皮細胞を包含する。
「単離された結合化合物」とは結合化合物の精製状態を指し、そしてそのような文脈においては分子が他の生物学的分子、例えば核酸、蛋白、脂質、炭水化物、又は他の物質、例えば細胞破砕物及び生育培地を実質的に含有しないことを意味する。一般的に、「単離された」という用語は、本明細書に記載した結合化合物の実験上又は治療上の使用を実質的に妨害する量において存在するのではない限り、そのような物質の完全な非存在、又は水、緩衝液、又は塩の非存在を指すことを意図するわけではない。
「単離された核酸分子」とは、単離されたポリヌクレオチドが天然に存在するポリヌクレオチドの全て又は一部分と会合していない、又はそれが天然には連結されていないポリヌクレオチドに連結している、ゲノムのDNA又はRNA、mRNA、cDNA、又は合成起源のもの又はそれらの何らかの組み合わせを意味する。本開示の目的のためには、特定のヌクレオチド配列「を含む核酸分子」は未損傷の染色体を包含しないと理解すべきである。特定の核酸配列を「含む」単離された核酸分子は特定の配列に加えて、10個まで、又は更には20個まで、又はそれより多い他の蛋白又はその部分に関するコーディング配列を包含してよく、或いは、言及されている核酸配列のコーディング領域の発現を制御する作動可能に連結した調節配列を包含してよく、及び/又はベクター配列を包含してよい。
「制御配列」という表現は特定の宿主生物の作動可能に連結したコーディング配列の発現のために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に適する制御配列はプロモーター、場合によりオペレーター配列、及びリボソーム結合部位を包含する。真核生物の細胞はプロモーター、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサーを使用することが知られている。
核酸は別の核酸配列と機能的な関係となるように置かれている場合に「作動可能に連結されている」ことになる。例えば、プレ配列又は分泌リーダーに関するDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレ蛋白として発現されれば、そのポリペプチドに関するDNAに作動可能に連結していることになり、プロモーター又はエンハンサーはそれが配列の転写に影響すればコーディング配列に作動可能に連結しており、或いはリボソーム結合部位はそれが翻訳を促進するように位置づけられていればコーディング配列に作動可能に連結していることになる。一般的に、「作動可能に連結している」とは連結しているDNA配列が隣接していること、そして分泌リーダーの場合は隣接し、そして読み取り相にあることを意味している。しかしながらエンハンサーは隣接する必要はない。連結は好都合な制限部位におけるライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、合成のオリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを慣行通り使用する。
本明細書においては、「細胞」、「細胞系統」及び「細胞培養物」という表現は互換的に使用され、そして全てのそのような表記は子孫細胞を包含する。即ち、「形質転換体」及び「形質転換した細胞」という単語は一次的な対象細胞及び転移数に無関係にそれより誘導された培養物を包含する。更に又、全ての子孫細胞は、意図的又は偶然による突然変異のために、DNA含量において厳密に同一である必要はない。元の形質転換細胞においてスクリーニングの対象とされたものと同じ機能又は生物学的活性を有する突然変異子孫細胞も包含される。区別可能な表記が意図される場合は、それは文脈から明確になる。
本明細書においては、「ポリメラーゼ連鎖反応」即ち「PCR」とは核酸、RNA及び/又はDNAの特定の小片の極少量を例えば米国特許4,683,195に記載の通り増幅させる操作法又は手法を指す。一般的に、オリゴヌクレオチドプライマーが設計可能であるためには目的の領域の末端又はそれ以降に由来する配列情報が入手可能である必要があり、そのようなプライマーは増幅されるべき鋳型と対向する鎖と配列において同一又は類似となる。2つのプライマーの5’末端は増幅産物の末端と合致するはずである。PCRを用いて特定のRNA配列、全ゲノムDNA由来の特定のDNA配列、及び全細胞RNAから転写されたcDNA、バクテリオファージ、又はプラスミド配列等を増幅することができる。一般的にMullis等(1987)Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.51:263;Erlich編(1989)PCR TECHNOLOGY(Stockton Press,NY)を参照できる。本明細書においては、PCRは核酸の特定の小片を増幅又は形成するためにプライマーとしての既知核酸及び核酸ポリメラーゼの使用を含む核酸被験試料を増幅するための核酸ポリメラーゼ反応法の一例であって、唯一のものではないとみなされる。
本明細書においては、「生殖細胞系統配列」という用語は再配列されていない免疫グロブリンDNA配列を指す。再配列されていない免疫グロブリンの任意の適当な原料を使用してよい。
「抑制剤」及び「拮抗剤」又は「活性化剤」及び「アゴニスト」とは、例えばリガンド、受容体、コファクター、遺伝子、細胞、組織、又は臓器の活性化に関して、それぞれ抑制性又は活性化性である分子を指す。例えば遺伝子、受容体、リガンド、又は細胞のモジュレーターは遺伝子、受容体、リガンド、又は細胞の活性を改変する分子であり、その場合、活性は活性化、抑制、又はその調節特性において改変されることができる。モジュレーターは単独で機能してよく、或いはコファクター、例えば蛋白、金属イオン、又は小分子を使用してよい。抑制剤は例えば遺伝子、蛋白、リガンド、受容体、又は細胞を低減、ブロック、防止、活性化遅延、不活性化、脱感作、又はダウンレギュレートする化合物である。活性化剤は例えば遺伝子、蛋白、リガンド、受容体、又は細胞を増大、活性化、促進、活性増強、感作、又はアップレギュレートする化合物である。抑制剤は又、構成的活性を低減、ブロック、又は不活性化する化合物として定義してもよい。「アゴニスト」とは標的の活性化の増大を誘発又は促進するように標的と相互作用する化合物である。「拮抗剤」とはアゴニストの作用に対抗する化合物である。拮抗剤はアゴニストの活性を防止、低減、抑制、又は中和する。拮抗剤は又、アゴニストが発見されない場合であっても、標的、例えば標的受容体の構成的活性を防止、抑制、又は低減する場合がある。
抑制の程度を調べるためには、例えば所定の、例えば蛋白、遺伝子、細胞、又は生物を含む試料又は検体を潜在的な活性化剤又は抑制剤で処理し、そして抑制剤非存在下の対照試料と比較する。対照試料、即ち拮抗剤で処理されていない試料には相対的活性値100%を割りつける。抑制は対照と相対比較した場合の活性値が約90%以下、典型的には85%以下、より典型的には80%以下、最も典型的には75%以下、一般的には70%以下、より一般的には65%以下、最も一般的には60%以下、典型的には55%以下、通常には50%以下、より通常には45%以下、最も通常には40%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、更により好ましくは25%以下、そして最も好ましくは25%未満の場合に達成されたものとする。活性化は対照と相対比較した場合の活性値が約110%、一般的には少なくとも120%、より一般的には少なくとも140%、より一般的には少なくとも160%、頻繁には少なくとも180%、より頻繁には少なくとも2倍、最も頻繁には少なくとも2.5倍、通常には少なくとも5倍、より通常には少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも40倍、そして最も好ましくは40倍超となる場合に達成されたものとする。
活性化又は抑制の終点は以下の通りモニタリングできる。例えば細胞、生理学的流体、組織、臓器、及び動物又はヒト対象の活性化、抑制、及び治療への応答は、終点によりモニタリングできる。終点は例えば炎症、腫瘍形成性、又は細胞の脱顆粒化又は分泌、例えばサイトカイン、毒性酸素、又はプロテアーゼの放出の兆候の所定の量又はパーセントを含んでよい。終点は、例えばイオンの流出又は輸送;細胞遊走;細胞接着;細胞増殖;転移可能性;細胞分化;及び表現型の変化、例えば炎症、アポトーシス、形質転換、細胞周期、又は転移に関連する遺伝子の発現の変化の所定量を含んでよい(例えばKnight(2000)Ann.Clin.Lab.Sci.30:145−158;Hood and Cheresh(2002)Nature Rev.Cancer2:91−100;Timme等(2003)Curr.Drug Targets4:251−261;Robbins and Itzkowitz(2002)Med.Clin.North Am.86:1467−1495;Grady and Markowitz(2002)Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.3:101−128;Bauer等(2001)Glia36:235−243;Stanimirovic and Satoh(2000)Brain Pathol.10:113−126参照)。
抑制の終点は一般的に対照の75%以下、好ましくは対照の50%以下、より好ましくは対照の25%以下、そして最も好ましくは対照の10%以下である。一般的に活性化の終点は対照の少なくとも150%、好ましくは対照の少なくとも2倍、より好ましくは対照の少なくとも4倍、そして最も好ましくは対照の少なくとも10倍である。
「リガンド」とは受容体のアゴニスト又は拮抗剤として作用することができる小分子、ペプチド、ポリペプチド、及び膜関連の又は膜結合の分子、又はそれらの複合体を指す。「リガンド」とは又、アゴニストや拮抗剤ではないが、受容体に結合できる物質も包含する。更に又、「リガンド」とは例えば化学的又は組み換えの方法により膜結合リガンドの可溶性型に変化している膜結合リガンドを包含する。簡便のために、第1の細胞上で膜結合している場合、受容体は通常は第2の細胞上に存在する。第2の細胞は第1の細胞と同じか異なる実体を有してよい。リガンド又は受容体は完全に細胞内であってよく、即ちそれは細胞質、核、又は何らかの他の細胞内コンパートメント内に存在してよい。リガンド又は受容体は例えば細胞内コンパートメントから原形質膜の外面にその位置を変えてよい。リガンドと受容体の複合体は「リガンド受容体複合体」と称する。リガンド及び受容体がシグナリング経路に関与する場合、リガンドはシグナリング経路の上流の位置に存在し、そして受容体は下流の位置に存在する。
「小分子」とは10kDa未満、典型的には2kDa未満、好ましくは1kDa未満、そして最も好ましくは約500Da未満の分子量を有する分子として定義される。小分子は無機の分子、有機の分子、無機成分を含有する有機の分子、放射性原資を含む分子、合成の分子、ペプチドミメティック、及び抗体ミメティックを包含するがこれらに限定されない。治療薬としては、小分子はより大きい分子よりも、細胞に対してより浸透性であり、分解されにくく、そして免疫応答を誘発しにくい。抗体及びサイトカインのペプチドミメティックのような小分子、並びに小分子毒素が報告されている(例えばCasset等(2003)Biochem.Biophys.Res.Commun.307:198−205;Muyldermans(2001)J.Biotechnol.74:277−302;Li(2000)Nat.Biotechnol.18:1251−1256;Apostolopoulos等(2002)Curr.Med.Chem.9:411−420;Monfardini等(2002)Curr.Pharm.Des.8:2185−2199;Domingues等(1999)Nat.Struct.Biol.6:652−656;Sato and Sone(2003)Biochem.J.371:603−608;Stewart等への米国特許6,326,482参照)。
リガンド/受容体、抗体/抗原、又は他の結合対に言及する場合の「特異的に」又は「選択的に」結合するとは、蛋白及び他の生体物質の非均質な集団中の蛋白の存在を決定づける結合反応を指す。即ち、所定の条件下において、特定のリガンドは特定の受容体に結合し、そして試料中に存在する他の蛋白には有意な量においては結合しない。意図する方法の抗体又は抗体の抗原結合部位から誘導された結合化合物は、その抗原、又はその変異体又はムテインに対し、何れかの他の抗原との親和性よりも少なくとも2倍高値、好ましくは少なくとも10倍高値、より好ましくは少なくとも20倍高値、そして最も好ましくは少なくとも100倍高値の親和性で結合する。好ましい実施形態においては、抗体は例えばScatchard分析により求めた場合、約109M−1より高値の親和性を有することになる(Munsen等(1980)Analyt.Biochem.107:220−239)。
本明細書においては、「免疫モジュレート剤」という用語は免疫応答を抑制又はモジュレートする天然又は合成の薬剤を指す。免疫応答は体液性、又は細胞性の応答であることができる。免疫モジュレート剤は免疫抑制性又は抗炎症性の薬剤を包含する。
「免疫抑制剤」、「免疫抑制性の薬物」又は「免疫抑制物質」とは本明細書においては免疫系の活性を抑制又は防止するために免疫抑制療法において使用される治療薬である。臨床的には、それらは移植された臓器又は組織(例えば骨髄、心臓、腎臓、肝臓)の拒絶を防止するため、及び/又は、自己免疫疾患又は自己免疫起源の可能性が最も高い疾患(例えば慢性関節リューマチ、重症筋無力症、全身エリテマトーデス、潰瘍性結腸炎、多発性硬化症)の治療において使用される。免疫抑制性の薬物は糖質コルチコイド;細胞増殖抑制剤;抗体(生物学的応答モディファイアー);イムノフィリンに作用する薬物;増殖性障害の治療に使用されている既知化学療法剤を包含する他の薬物、として分類される。多発性硬化症に関しては、特に、本発明の抗生物質はコパキソン(copaxone)として知られている新しいクラスのミエリン結合蛋白様治療薬と組み合わせて投与できる。
「抗炎症剤」又は「抗炎症性の薬物」とはステロイド系及び非ステロイド系の治療薬の両方を指す。コルチコステロイドとしても知られているステロイドは副腎により天然に生産されるホルモンであるコルチゾールに近似した薬物である。ステロイドは特定の炎症状態、例えば全身血管炎(血管の炎症);及び筋炎(筋肉の炎症)の主要な治療として使用される。ステロイドは又、炎症性の状態、例えば慢性関節リューマチ(身体の両側の関節において生じる慢性炎症性関節炎);全身エリテマトーデス(異常な免疫系の機能により生じる広汎性疾患);シェーグレン症候群(乾燥眼(dry eye)及び乾燥口(dry mouth)を誘発する慢性障害)を治療するために選択的に使用される。
非ステロイド性の抗炎症薬、通常はNSAIDと略されるものは、鎮痛、解熱、及び抗炎症作用を有する薬物であり、それらは、疼痛、熱及び炎症を低減する。「非ステロイド」という用語は(広範な他の作用の中でも)同様のエイコサノイド抑制性抗炎症作用を有するステロイドからこれらの薬物を区別するために使用される。NSAIDは以下の状態、即ち、慢性関節リューマチ;変形性関節症;炎症性関節症(例えば強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、ライター症候群);急性痛風;月経困難症;転移性骨疼痛;頭痛及び片頭痛;術後疼痛;炎症及び組織傷害に起因する軽度〜中等度の疼痛;発熱;及び腎仙痛の症候的緩解に適応される。NSAIDはサリチル酸塩、アリールアルカン酸、2−アリールプロピオン酸(プロフェン類)、N−アリールアントラニル酸(フェナム酸)、オキシカム、コキシブ、及びスルホンアニリドを包含する。
疾患変調性抗リューマチ薬(DMARD)は往々にしてNSAIDと組み合わせて投与してよい。一般的に処方されているDMARDにはヒドロキシクロロキン/クロロキン、メトトレキセート、金治療薬、スルファサラジン、及びアザチオプリンが包含される。
II.ヒトIL−17Aに特異的な抗体
本発明は操作された抗IL−17A抗体、及び種々の炎症性、免疫性、及び増殖性の障害、例えば慢性関節リューマチ(RA)、変形性関節症、慢性関節リューマチ性骨粗鬆症、炎症性線維症(例えば硬皮症、肺線維症、及び肝硬変)、炎症性腸障害(例えばクローン病、潰瘍性結腸炎、及び炎症性腸疾患)、喘息(例えばアレルギー性喘息)、アレルギー、COPD、多発性硬化症、乾癬及び癌を治療するためのその使用を提供する。
モノクローナル抗体を作製するための任意の適当な方法を用いて本発明の抗IL−17A抗体を作製してよい。例えばレシピエント動物をIL−17Aホモ2量体の連結又は未連結の(例えば天然に存在する)形態又はそのフラグメントで免疫化してよい。免疫化の任意の適当な方法を使用できる。そのような方法はアジュバント、他の免疫刺激物質、反復ブースター免疫化、及び免疫化経路の1つ以上の使用を包含できる。
IL−17Aの何れかの適当な形態をIL−17Aに特異的な非ヒト抗体の作製のための免疫原(抗原)として使用することができ、その抗体を生物学的活性に関してスクリーニングできる。誘導免疫原は完全長の成熟ヒトIL−17A、例えば連結した、及び天然に存在するホモ2量体、単一のエピトープ又は多数のエピトープを包含するそのペプチドであってよい。免疫原は単独で、又は、当該分野で知られた免疫原性増強剤1つ以上と組み合わせて使用してよい。免疫原は天然原料から精製するか、又は遺伝子的に修飾された細胞中で生産してよい。免疫原をコードするDNAはゲノム又は非ゲノム(例えばcDNA)起源であってよい。免疫原コードDNAは適当な遺伝子ベクター、例えば限定しないがアデノウィルスベクター、アデノ関連ウィルスベクター、バキュロウィルスベクター、プラスミド、及び非ウィルス性のベクター、例えばカチオン性脂質を用いて発現してよい。
任意の適当な方法を用いて、例えばIL−17Aのその受容体への結合を抑制するために所望の生物学的特性を有する抗体応答を誘発することができる。一部の実施形態においては、抗体を哺乳類宿主、例えばマウス、げっ歯類、霊長類、ヒト等において発生させる。モノクローナル抗体を製造するための手法は例えばStites等(編)BASIC AND CLINICAL IMMUNOLOGY(第4版)Lange Medical Publications,Los Altos,CA及びその引用文献;Harlow and Lane(1988)ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL CSH Press;Goding(1986)MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND PRACTICE(第2版)Academic Press,New York,NYに記載されている。即ち、モノクローナル抗体は当該分野で良く知られている種々の手法により得てよい。典型的には、所望の抗原で免疫化した動物に由来する脾細胞を、一般的には骨髄腫細胞と融合することにより不朽化する。Kohler and Milstein(1976)Eur.J.Immunol.6:511−519。不朽化の別の方法はエプスタイン・バーウィルス、癌遺伝子、又はレトロウィルスを用いた形質転換、又は当該分野で知られた他の方法を包含する。例えばDoyle等(編)(1994及び定期補遺)CELL AND TISSUE CULTURE:LABORATORY PROCEDURES,John Wiley and Sons,New York,NYを参照できる。単一の不朽化細胞から生じたコロニーを抗原に対する所望の特異性及び親和性を有する抗体の生産に関してスクリーニングする。そのような細胞により生産されるモノクローナル抗体の収率は種々の手法、例えば脊椎動物の腹腔内への注射により、増強してよい。
他の適当な手法ではファージ又は同様のベクターにおける抗体のライブラリの選択を行う。例えばHuse等、Science246:1275−1281(1989);及びWard等、Nature341:544−546(1989)を参照できる。本発明の抗体は修飾することなく例えば非経腸げっ歯類抗体として、又はキメラ又はヒト化抗体のようにヒト対象における治療薬としてのその使用を容易にするために修飾して使用してよい。一部の実施形態においては、抗体は検出可能なシグナルを与える物質で、共有結合又は非共有結合的に標識される。広範な種類の標識及びコンジュゲーションの手法が知られており、学術文献及び特許文献の両方において広範に報告されている。適当な標識は放射性核種、酵素、基質、コファクター、抑制剤、蛍光部分、ケミルミネセントネセント部分、磁性粒子などを包含する。そのような標識の使用を記載している特許は米国特許3,817,837;3,850,752;3,939,350;3,996,345;4,277,437;4,275,149;及び4,366,241を包含する。更に又、組み換え免疫グロブリンを製造してよく、Cabillyの米国特許4,816,567;及びQueen等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:10029−10033を参照でき;或いはトランスジェニックマウス中に製造してよく、Mendez等(1997)Nature Genetics15:146−156を参照でき、そして同様にAbgenix and Medarexの技術も参照できる。
IL−17Aの所定のフラグメントに対する抗体は、担体蛋白とのIL−17Aの所定のフラグメントのコンジュゲートで動物を免疫化することにより発生させることができる。モノクローナル抗体は所望の抗体を分泌する細胞から製造する。これらの抗体は正常又は欠損性IL−17Aへの結合に関してスクリーニングできる。これらのモノクローナル抗体は通常は少なくとも約1μM、より通常は少なくとも約300、30、10、又は3nM、好ましくは少なくとも約300、100、30、10、3又は1pMのKdで結合することになる。Kd値と親和性が逆比例関係にあることから、所定のKd「以下」での結合に言及する場合、少なくとも提示数値程度に高値である親和性において、即ち少なくとも記載数値程度に低値であるKdにおいて結合することを指す。結合親和性はELISA(後述する実施例5〜6参照)により、又はBiacore(登録商標)表面プラズモン共鳴スペクトル分析、KinExA又はECL法(後述する実施例7参照)により測定してよい。適当な非ヒト抗体は又、後述する実施例8〜11及び16〜17に記載する生物学的試験を用いて発見することもできる。
本発明の抗ヒトIL−17A抗体を製造する方法の例は実施例2に記載する。
III.IL−17A特異的抗体のヒト化
任意の適当な非ヒト抗体を本発明の抗IL−17A抗体の超可変領域のための原料として使用できる。非ヒト抗体の原料は例えば、限定しないが、げっ歯類(例えばマウス、ラット)、ウサギ目(例えばウサギ)、ウシ、及び非ヒト霊長類を包含する。大部分においては、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域残基が、所望の特異性及び親和性を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)由来の超可変領域残基で置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。更に又、ヒト化抗体は所望の生物活性の抗体性能を更に明確化するために行われる修飾のような、レシピエント抗体において、又はドナー抗体においては存在しない残基を含んでよい。更に詳細な説明はJones等(1986)Nature321:522−525;Reichmann等(1988)Nature332:323−329;及びPresta(1992)Curr,Op.Struct.Biol.2:593−596を参照できる。
抗体を組み換えにより操作及び製造するための方法は、例えばBoss等(米国特許4,816,397)、Cabilly等(米国特許4,816,567)、Law等(欧州特許出願公開438310)及びWinter(欧州特許出願公開239400)に記載されている。
本発明のヒト化抗IL−17A抗体のアミノ酸配列変異体はヒト化抗IL−17A抗体のDNA内に適切なヌクレオチド変化を導入することによるか、又はペプチド合成により、製造してよい。欠失、挿入、及び置換の何れの組み合わせも最終コンストラクトに到達するように行ってよいが、ただし最終コンストラクトは所望の特性を保有しなければならない。アミノ酸変化は又、グリコシル化部位の数又は位置を変化させる場合のように、ヒト化抗IL−17A抗体の翻訳後プロセシングを改変してよい。
突然変異誘発のための好ましい位置であるヒト化抗IL−17A抗体の残基又は領域を同定するための1つの有用な方法は、「アラニンスキャニング突然変異誘発」と称される。Cunningham and Wells(1989)Science244:1081−1085。標的残基の群を同定し(例えばArg、Asp、His、Lys及びGluのような荷電残基)、そして中性又は負荷電のアミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリアラニン)で置き換えることにより、IL−17Aとのアミノ酸の相互作用を改変する。次にアラニン置換に対する機能的感受性を示す残基を、別のアミノ酸置換を導入することにより明確化する。1つの実施形態においては、所定の標的コドンにおける突然変異の作用は、アラニンスキャニング又はランダム突然変異誘発、次いで、得られたヒト化抗IL−17A抗体変異体の活性及び結合の分析により調べる。
アミノ酸配列挿入は長さにおいて1残基から100以上の残基を含有するポリペプチドまでの範囲に渡るアミノ−及び/又はカルボキシ末端融合、並びに単一又は多数のアミノ酸残基の配列内挿入を包含する。末端挿入の例はN末端メチオニル残基を有するヒト化抗IL−17A抗体、又はエピトープタグに融合した抗体を包含する。他の変異体は抗体の血清中半減期を増大させる酵素又はポリペプチドのN又はC末端への融合を包含する。変異体の他の型はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体ではヒト化抗IL−17A抗体分子の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、その位置に異なる残基が挿入されている。置換突然変異誘発に関して最も有利な部位は超可変ループを包含するが、FR改変もまた意図される。抗原結合に関与する超可変領域残基又はFR残基は一般的に比較的保存的な態様において置換される。
抗体の他のアミノ酸変異体は例えば1つ以上の炭水化物部分を排除すること、及び/又は1つ以上のグリコシル化部位を付加することにより、抗体の元のグリコシル化パターンを改変する。抗体のグリコシル化は典型的にはN連結又はO連結である。N連結とはアスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を指す。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリン及びアスパラギン−X−スレオニン(ただし式中Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)はアスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。これらのトリペプチド配列の何れかがポリペプチド内に存在することで潜在的グリコシル化部位が生じる。O連結グリコシル化はヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニンへのN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース又はキシロースの結合を包含するが、5−ヒドロキシプロリン又は5−ヒドロキシセリンも使用してよい。
グリコシル化部位は上記したトリペプチド配列1つ以上の挿入(N連結グリコシル化部位の場合)又はセリン又はスレオニン残基1つ以上の付加(O連結グリコシル化部位の場合)により本発明の抗体に付加させることができる。ヒト化IL−17A特異的抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は当該分野で知られた種々の方法により製造される。これらの方法は例えば、限定しないが天然の原料からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)、又はオリゴヌクレオチド媒介(又は部位指向性)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、又はカセット突然変異誘発によるものを包含する。
通常は、ヒト化抗IL−17A抗体のアミノ酸配列変異体は、重鎖又は軽鎖の何れかの元のヒト化抗体アミノ酸配列とのアミノ酸配列同一性が、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、80%、85%、90%、そして最も好ましくは少なくとも95%であるアミノ酸配列を有することになる。この配列に関する同一性又は相同性は、配列を最適にアラインし(即ち配列をアラインし、そして必要に応じてギャップを導入することにより最大パーセント配列同一性を達成した後)、そして如何なる保存的置換も配列同一性の部分とみなさない場合に、ヒト化抗IL−17A残基と同一である候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして本明細書においては定義される。抗体配列へのN末端、C末端又は内部の伸長、欠失、又は挿入の何れも、配列同一性又は相同性に影響するものとみなさない。
ヒト化抗体はIgM、IgG、IgD、IgA及びIgEを包含する免疫グロブリンの任意のクラスから選択できる。1つの実施形態において、抗体はIgG抗体である。IgGの何れかのアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を使用できる。IgGアイソタイプの変異体も意図される。ヒト化抗体は1つより多いクラス又はアイソタイプに由来する配列を含んでよい。所望の生物活性を生じさせるために必要な定常ドメイン配列の最適化は実施例において後述する生物学的試験において抗体をすりすることにより容易に達成される。
同様に、軽鎖の何れかのクラスを本明細書に記載した化合物及び方法において使用できる。特に、カッパ、ラムダ、又はその変異体が本発明の化合物及び方法において有用である。
非ヒト抗体由来のCDR配列の何れかの適当な部分を用いて本発明のヒト化抗体を作製することができる。CDR配列は置換、挿入又は欠失により突然変異誘発してよいが、そのような突然変異はIL−17Aの結合親和性及び特異性を維持することが必要であるため最小限となる。典型的には、ヒト化抗体CDR残基の少なくとも75%が非ヒトCDR残基のものに相当することになり、より多くの場合90%、そして最も好ましくは95%超、そして頻繁には100%となる。ヒト抗体由来のFR配列の任意の適当な部分が使用できる。FR配列は、FR配列が使用するヒト及び非ヒトの抗体の配列と区別可能となるように少なくとも1つの残基の置換、挿入又は欠失により突然変異誘発できる。そのような突然変異は最小限であることを意図している。典型的には、ヒト化抗体残基の少なくとも75%がヒトFR残基のものに相当し、より多くの場合90%、そして最も好ましくは95%超となる。
所望の生物活性を呈する限りにおいてキメラ抗体又はそのフラグメントも同様に意図される(米国特許4,816,567;及びMorrison等(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:6851−6855)。上記した通り、典型的なキメラ抗体は、ある種の抗体に由来する定常ドメイン配列を、異なる種から得られた抗原特異的抗体の可変ドメインに連結した状態で含んでいる。
本発明の結合化合物は二重特異性抗体を含んでよい。本明細書においては、「二重特異性抗体」という用語は、少なくとも2つの異なる抗原性エピトープに対して結合特異性を有する抗体、典型的にはモノクローナル抗体を指す。1つの実施形態において、エピトープは同じ抗原に由来する。別の実施形態においては、エピトープは2つの異なる抗原に由来する。二重特異性抗体を作製するための方法は当該分野で知られている。例えば、二重特異性抗体は2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現を用いて組み換えにより製造できる。例えばMilstein等(1983)Nature305:537−39を参照できる。或いは、二重特異性抗体は化学的連結部を用いて製造できる。例えばBrennan等(1985)Science229:81を参照できる。二重特異性抗体は二重特異性抗体フラグメントを包含する。例えばHollinger等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:6444−48;Gruber等、J.Immunol.152:5368(1994)を参照できる。
本発明の抗ヒトIL−17A抗体をヒト化する方法の例は実施例3に記載する。
IV.IL−17A特異的抗体の特性化
実施例2及び3においてより詳細に説明する通り、本明細書に記載した方法を用いてヒトIL−17Aに対して免疫反応性のモノクローナル抗体を作製した。図1A及び1Bはそれぞれ、本発明の種々の抗IL−17A抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域の配列アライメントを示す。CDR領域を示し、そしてナンバリングはKabat等(1991)に従った。
ヒト化16C10軽鎖及び重鎖をコードする核酸配列を含有するプラスミドはアクセッション番号PTA−7675の下にAmerican Type Culture Collection(ATCC−Manassas,Virginia,USA)に2006年7月28日にブダペスト条約に準拠して寄託されている。抗体30C10及び23E12を発現するハイブリドーマはアクセッション番号PTA−7739及びPTA−7740の下にAmerican Type Culture Collection(ATCC−Manassas,Virginia,USA)に2006年7月20日にブダペスト条約に準拠してそれぞれJL7−30C10.C3及びJL7−23E12.B10として寄託されている。
本発明の種々のヒト化抗体の軽鎖及び重鎖のCDRはそれぞれ表3及び4に示す通りである。更に、表4は、1つより多いアミノ酸を使用できる可変位置を有するhu16C10のVHに関する追加的CDRを示す。
一般的に、ヒト化抗体にかかわるCDRは親ラット抗体のCDRと同一であるが、hum16C10及びhum4C3のCDRH2及びCDRH3は例外であり、これらは各々対応するラットCDRからの単一のアミノ酸変化を有する。それらは独立したクローンとして得られたが、親ラット抗体16C10及び4C3はV
H領域の配列は同一であり、そしてV
L領域はフレームワーク置換のみ異なっている(16C10の15位のイソロイシンは4C3ではバリンである)。その結果、CDRはこれらの2つの親ラット抗体に関して、従ってそれらのヒト化型に関しても同一である。
それぞれ配列番号5及び22において抗体16C10/4C3及び30C10のヒト化VL領域に関する配列を示す。それぞれ配列番号6及び23において抗体16C10/4C3及び30C10のヒト化VH領域に関する配列を示す。これらのヒト化可変ドメインは、適切な定常ドメイン配列を付加することにより完全長のキメラ又はヒト化の抗体を生じさせるために使用してよい。他の実施形態は例えば表4に示す16C10重鎖中のCDRアミノ酸残基における種々の他の改変を包含する。図1Bの残基のナンバリングを参照すれば、表4に記載した(そして配列番号17及び20中の)改変はN54A、N54Q、N60A、N60Q、M96L、M96A、M96K、M96F、M100hF、M100hLである。
本発明の1つの実施形態において、抗体16C10のキメラ軽鎖及び重鎖は、ヒト化VL(配列番号5)及びVH領域(配列番号6)のC末端にヒト定常ドメイン(それぞれヒトカッパ軽鎖及びヒトIgG1定常ドメイン)を付加させることにより作製される。キメラ16C10軽鎖及び重鎖の配列は配列番号9及び10に示す。他の実施形態においては、抗体30C10及び4C3のキメラ形態はキメラ16C10由来の同じ定常ドメインをそれらの対応するヒト化VL及びVH領域(30C10の場合は配列番号22及び23;4C3の場合は配列番号5及び6)に融合させることにより作製する。ヒト化4C3のキメラ形態は当然ながらヒト化16C10のキメラ形態と同一である。
別の実施形態において、完全長のヒト化抗体は実施例3により詳細に説明する通り、キメラ形態の抗体のフレームワーク残基(即ちCDRの部分ではない可変ドメイン中のアミノ酸残基)をヒト生殖細胞系統フレームワーク配列と置換することにより作製する。得られた抗体はラット抗体に由来するCDR配列のみを保持しており、定常ドメイン及びフレームワーク配列はヒト誘導配列により置き換えられている。シグナル配列を包含するヒト化抗体16C10に関する完全長の軽鎖及び重鎖はそれぞれ配列番号2及び4に示す。他の実施形態においては、抗体4C3及び23E12のヒト化された形態は16C10に関して記載した方法に準じて、即ち適切なヒトフレームワーク配列をこれらの抗体のキメラ型の配列となるように置換することにより作製する(上記)。実施例3を参照できる。
更に別の実施形態においては、本発明のヒト化抗体の完全長の軽鎖及び重鎖はそれらのN末端においてシグナルペプチドを有するようにクローニングすることにより抗体生産時の細胞からの分泌を促進する。1つの実施形態において、19アミノ酸シグナル配列をヒト化16C10抗体の軽鎖及び重鎖の両方に付加させる(配列番号2及び4の残基−19〜−1)。シグナル配列を付加させたヒト化16C10の完全長の軽鎖及び重鎖のDNA配列は、配列番号1及び3に示す。そのようなDNA配列は本発明のヒト化抗体の生産のための任意の適当な発現ベクターにおいてクローニングし、発現させることができる。他の実施形態においては、シグナル配列は、抗体16C10に関して記載したとおり、ヒト化抗体30C10及び4C3の軽鎖及び重鎖に付加させてよい。別の実施形態においては、シグナル配列ペプチドとしては、抗体の生産の意図する方法に応じて、配列番号1〜4に示す特定のシグナル配列とは異なるものを付加させる。そのようなシグナル配列は学術文献、例えばChoo等(2005)”SPdb−a signal peptide database”,BMC Bioinformatics6:249から得てよい。
更に別の実施形態においては、本明細書に示すヒト化VL及びVH領域に異なる定常ドメインを付加させてよい。例えば、本発明の抗体(又はふぐ)の特定の意図される使用が改変されたエフェクター機能を求めることであれば、IgG1以外の重鎖定常ドメインを使用してよい。IgG1抗体は長い半減期及びエフェクター機能、例えば補体活性化及び抗体依存性細胞性細胞毒性をもたらすが、そのような活性は抗体の全ての使用にとって望ましいわけではない場合がある。そのような場合は、例えばIgG4定常ドメインを使用してよい。
V.ヒト化抗IL−17Aの親和性及び生物学的活性
本明細書でヒト化抗IL−17A抗体において望ましいものとして同定された特性を有する抗体は、インビトロ、インビボにおいて、又は結合親和性を測定することにより、抑制性の生物活性に関してスクリーニングすることができる。目的の抗体(例えばサイトカインのその受容体への結合をブロックするもの)により結合される、ヒトIL−17A上のものと同じエピトープに結合する抗体をスクリーニングにより得るためには、定型的な交差ブロッキング試験、例えばANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に記載のものを実施することができる。或いは、例えばChampe等(1995)J.Biol.Chem.270:1388−1394に記載の通り、目的のエピトープに抗体が結合するかどうかを調べるためにエピトープのマッピングを実施することができる。抗体の親和性(例えばヒトIL−17Aに対する)は実施例7に記載するものを包含する標準的な方法を用いて測定してよい。好ましいヒト化抗体は約100nM(1×10−7M)以下、好ましくは約10nM以下、より好ましくは約1nMのKd値でヒトIL−17Aに結合するものである。更に好ましいものは、約200pM(2×10−10M)、100pM、50pM、20pM、10pM、5pM、又更には2pM以下のKd値を抗体が有する実施形態である。
本発明の化合物及び方法において有用な抗体及びそのフラグメントは、例えば、限定しないが生物学的に活性な抗体及びフラグメントを包含する。本明細書において「生物学的に活性な」という用語は、所望の抗原性エピトープに結合し、そして直接又は間接的に生物学的作用を発揮することができる抗体又は抗体フラグメントを指す。典型的には、これらの作用はIL−17Aがその受容体に結合することができないことに起因する。本明細書においては、「特異的」という用語は標的抗原エピトープへの抗体の選択的結合を指す。抗体は所定設定条件下におけるIL−17Aへの結合を無関連抗原又は抗原混合物への結合と比較することにより結合特異性に関して試験できる。抗体は無関連抗原又は抗原混合物に対するその親和性よりも少なくとも10倍、好ましくは50倍高値の親和性でそれがIL−17Aに結合する場合に、特異的であるとみなす。IL−17A(又はそのフラグメント)を含む蛋白に「特異的に結合する」抗体はIL−17A誘導配列を含まない蛋白には結合せず、即ち、「特異性」とは本明細書においては、IL−17A特異性に関するものであり、懸案の蛋白中に存在する可能性のある如何なる他の配列でもない。例えば、本明細書においては、IL−17AとFLAG(登録商標)ペプチドを含む融合蛋白であるFLAG−hIL−17Aに「特異的に結合する」抗体はFLAG(登録商標)ペプチド単独には、又はそれがIL−17A以外の蛋白に融合している場合には結合しない。
後述する実施例(例えば実施例7)に示したデータは、ヒト化抗体16C10(親ラット重鎖CDRと相対比較してN54Q及びM96A置換を包含する)はヒトIL−17Aへの結合に関する高い親和性を有し、KinExA分析により測定した場合1〜10pM範囲のKdを有することを示す。インビトロ活性試験、例えばBa/F3hIL−17Rc−GCSFR細胞増殖試験(実施例11)、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)試験(実施例9)、及びヒト慢性関節リューマチ(RA)滑膜細胞試験(実施例8)によれば、hu16C10は、観察されたIC50値が典型的には試験中に存在するhIL−17Aの濃度(3試験においてそれぞれ100pM、1000pM及び1000pM)の50%以下であったことから、高親和性抗体であることが確認されている。実験で使用した抗体の2価の特性、及びIL−17Aの2量体形成の可能性は、抗体0.5モル等量未満でIL−17Aの所定濃度の50%抑制を達成可能としている。インビボ活性試験、例えばコラーゲン誘導関節炎を呈しているマウスへの投与(実施例16)及びBAL好中球リクルートメント試験(実施例17)によれば、動物における本発明の抗IL−17A抗体数種の活性が確認されている。インビトロ及びインビボの活性試験は又、ヒト化抗体16C10が中和抗体であることを確認しており、これは結合実験単独からは知られていなかった。
本発明の抗体数種がカニクイザルIL−17A並びにヒトIL−17Aに結合する能力が好都合である理由は、そのような潜在的治療抗体は、毒性学的試験のために別個のカニクイザル特異的抗体を開発する必要を生じさせることなくカニクイザルにおけるそのような試験に直接使用できるためである。本発明の抗体の数種の高親和性は又、ヒト(及び他の)対象における所要用量を低減する場合があり、これにより特定の有害反応の可能性も低減する点においても好都合である。更に又、高親和性は対象に投与すべき容量を低減し、そして治療経費を低減する場合がある。
hu16C10の血清中半減期はマウス及びカニクイザルにおいて計測されている。カニクイザルにおいては、静脈内(iv)投与後の半減期を0.4、4.0及び40mg/kgの投薬量を用いた用量範囲試験において評価した。薬物の血清中濃度は42日間周期的に計測した。カニクイザルにおける皮下(sc)投与に関する半減期は4mg/kgの投薬量で測定し、やはり42日間追跡した。カニクイザルにおける半減期は薬物濃度vs時間のプロファイルの終末期の傾きにより計測した場合、ivで10〜19日、scで28日であった。より高用量における特定の変則的なデータポイントは分析から除外した。マウスにおける同様の実験はhu16C10抗体がivで13〜25日、scで12〜22日の半減期を有することを示していた。
実施例19は本発明の例示される抗IL−17A抗体(16C10)により結合されたエピトープ、即ちヒトIL−17AのL74−Y85の領域(配列番号40)における残基を測定するために使用される方法を説明している。本明細書に提示する生物学的試験データは抗体16C10が高親和性中和抗体であることを明らかにしているため、同じエピトープに結合する他の抗体も又中和抗体であり、そしておそらくは同様に高結合親和性を有することが期待される。本明細書において測定したエピトープは構造決定ではなくむしろ機能的計測により得られるものであり、そして本明細書において報告しているエピトープは、詳細においては構造的方法により決定されたエピトープとは異なる場合がある。本明細書に報告するエピトープは抗体16C10の結合のために重要であるアミノ酸残基の全てではなくともよいが、少なくとも一部を包含する。本発明の抗体により結合されるエピトープは又、他の方法、例えば交差ブロッキング実験(実施例12参照)により、或いは、X線結晶構造測定のような構造的方法により調べてもよい。抗体16C10と同じエピトープに結合する追加的抗体は例えばhIL−17Aに対して作製された抗体のスクリーニングによるか、又はエピトープ配列を含むペプチドによる動物の免疫化により得てよい。
V.抗体生産
抗体の組み換え生産のためには、それをコードする核酸を単離し、そして、その後のクローニング(DNA増幅)のため、又は発現のための複製可能なベクター内に挿入する。モノクローナル抗体をコードするDNAは従来の操作法を用いて容易に単離され、配列決定される(例えば抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによる)。多くのベクターを使用できる。ベクター成分は一般的に以下のもの、即ち、シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終止配列の1つ以上を包含するがこれらに限定されない。1つの実施形態において、本発明のヒト化抗IL−17A抗体の軽鎖及び重鎖の両方が同じベクター、例えばプラスミド又はアデノウィルスベクターから発現される。
本発明の抗体は当該分野で知られている任意の方法により生産してよい。1つの実施形態において、抗体は培養物中の哺乳類又は昆虫の細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚性腎(HEK)293細胞、マウス骨髄腫NSO細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、Spodoptera frugiperda卵巣(Sf9)細胞において発現される。1つの実施形態においては、CHO細胞から分泌された抗体を回収し、そして標準的なクロマトグラフィー法、例えばプロテインA、カチオン交換、アニオン交換、疎水性相互作用、及びヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにより精製する。得られた抗体を濃縮し、20mM酢酸ナトリウムpH5.5中に保存する。
別の実施形態においては、本発明の抗体はWO2005/040395に記載の方法に従って酵母中で生産する。手短にいえば、目的の抗体の個々の軽鎖又は重鎖をコードするベクターを、異なる酵母の一倍体細胞、例えば酵母の一倍体細胞が場合により補充栄養要求性である酵母Pichia pastorisの異なる交配型内に導入する。次に形質転換された一倍体酵母細胞を交配又は融合させることにより、重鎖及び軽鎖の両方を生産できる二倍体の酵母細胞を得る。ここで二倍体の菌株は完全に組み立てられた生物学的に活性な抗体を分泌することが可能となる。2つの鎖の相対的発現レベルは、例えば異なるコピー数のベクターを使用すること、異なる強度の転写プロモーターを使用すること、又は一方又は両方の鎖をコードする遺伝子の転写を駆動する誘導プロモーターから発現を誘導することにより最適化できる。
1つの実施形態において、複数の異なる抗IL−17A抗体(「元」の抗体)のそれぞれの重鎖及び軽鎖を酵母一倍体細胞内に導入することにより、軽鎖複数を発現する1つの交配型の一倍体酵母菌株のライブラリ、及び、重鎖複数を発現する異なる交配型の一倍体酵母菌株のライブラリを作製する。一倍体菌株のこれらのライブラリを交配(又はスフェロプラストとして融合)させることにより軽鎖及び重鎖の種々の可能な順列よりなる抗体のコンビナトリアルなライブラリを発現する一連の二倍体酵母細胞が得られる。次に抗体のコンビナトリアルなライブラリをスクリーニングすることにより、抗体の何れかが元の抗体の特性よりも優秀な特性(例えばIL−17Aに対するより高い親和性)を有するかどうかを調べることができる。例えばWO2005/040395を参照できる。
別の実施形態においては、本発明の抗体は、分子量約13kDaのポリペプチド中で抗体可変ドメインの部分が連結しているヒトドメイン抗体である。例えば米国特許公開2004/0110941を参照できる。そのような単一ドメインの低分子量の薬剤は、合成が容易であること、安定性、及び投与経路、という観点から多くの利点をもたらす。
VI.医薬組成物及び投与
本発明の抗huIL−17A抗体の医薬品又は滅菌組成物を製造するためには、抗体を製薬上許容しうる担体又は賦形剤と混合する。例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences及び米国薬局方:National Formulary,Mack Publishing Company,Easton,PA(1984)を参照できる。
治療用及び診断用の薬剤の製剤は、生理学的に許容される担体、賦形剤、又は安定化剤を、例えば凍結乾燥粉末、スラリー、水性の溶液又は懸濁液の形態において混合することにより製造してよい(例えばHardman等(2001)Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,McGraw−Hill,New York,NY;Gennaro(2000)Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott,Williams,and Wilkins,New York,NY;Avis等(編)(1993)Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,Marcel Dekker,NY;Lieberman等(編)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Tablet,Marcel Dekker,NY;Lieberman等(編)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Disperse Systems,Marcel Dekker,NY;Weiner and Kotkoskie(2000)Excipient Toxicity and Safety,Marcel Dekker,Inc.,New York,NY参照)。1つの実施形態において、本発明の抗IL−17A抗体はpH5〜6の酢酸ナトリウム溶液中に適切な濃度にまで希釈し、そして浸透圧調節用にNaCl又はスクロースを添加する。追加的な物質、例えばポリソルベート20又はポリソルベート80を添加することにより安定性を増強してよい。
単独又は他剤との組み合わせにおいて投与される抗体組成物の毒性及び治療効果は、例えばLD50(集団の50%に対して致命的な用量)及びED50(集団の50%において治療上有効である用量)を測定するための細胞培養物又は実験動物における標準的な薬学的操作法により測定できる。毒性及び治療作用の間の用量比が治療指数である(LD50/ED50)。高い治療指数を示す抗体が好ましい。これらの細胞培養試験及び動物実験から得られるデータは、ヒトにおいて使用するための用量の範囲を設定する場合に使用できる。そのような化合物の用量は毒性を殆ど又は全く伴わないED50を包含する循環系中濃度の範囲内にあることが好ましい。用量は使用する剤型及び投与経路に応じてこの範囲内で変動してよい。
投与の様式は特に重要ではない。適当な投与経路は、経口、直腸内、経粘膜、又は腸内投与;非経腸送達、例えば筋肉内、皮下、骨髄内注射、並びに髄腔内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、鼻内、又は眼内の注射を包含する。投与は種々の従来の態様において、例えば経口摂取、吸入、吸収、局所適用、又は皮膚、経皮、皮下、腹腔内、非経腸、動脈内、又は静脈内注射において行うことができる。患者への静脈内投与が好ましい。
或いは、全身投与ではなく局所投与において抗体を投与することができ、例えば免疫病理学的に特徴づけられる関節炎性の関節又は病原体に誘導された病変内に、頻繁には蓄積注射又は除放性製剤において直接抗体を注射することが挙げられる。更に又、例えば免疫病理学的に特徴づけられる関節炎性の関節又は病原体に誘導された病変をターゲティングする組織特異性抗体でコーティングされたリポソーム中の、ターゲティングされた薬物送達システムにおいて抗体を投与してよい。リポソームは罹患組織にターゲティングされ、そしてこれにより選択的に取り込まれることになる。
投与様式は数種の要因、例えば治療用抗体の血清中又は組織中のターンオーバー速度、症状のレベル、治療用抗体の免疫原性、及び生物学的マトリックス中の標的細胞への接近し易さに依存する。好ましくは、投与様式は標的疾患状態の改善をもたらすために十分な治療用抗体を送達しつつ、同時に望ましくない副作用を最小限にする。従って、送達される生物薬剤の量は部分的には特定の治療用抗体及び治療すべき状態の重症度に依存している。治療用抗体の適切な用量を選択する場合の指針は入手可能である(例えばWawrzynczak(1996)Antibody Therapy,Bios Scientific Pub.Ltd,Oxfordshire,UK;Kresina(編)(1991)Monoclonal Antibodies,Cytokines and Arthritis,Marcel Dekker,New York,NY;Bach(編)(1993)Monoclonal Antibodies and Peptide Therapy in Autoimmune Diseases,Marcel Dekker,New York,NY;Baert等(2003)New Engl.J.Med.348:601−608;Milgrom等(1999)New Engl.J.Med.341:1966−1973;Slamon等(2001)New Engl.J.Med.344:783−792;Beniaminovitz等(2000)New Engl.J.Med.342:613−619;Ghosh等(2003)New Engl.J.Med.348:24−32;Lipsky等(2000)New Engl.J.Med.343:1594−1602参照)。
適切な用量の決定は、例えば当該分野で治療に影響すると知られているかもしくは考えられているパラメーター又は要因を用いて医師により行われる。一般的に、用量は最適用量より幾分低値の量で始まり、そしてその後任意の望ましくない副作用と相対比較しながら所望又は最適な作用が達成されるまで少量ずつ漸増させる。重要な診断尺度には例えば炎症の症状の尺度、又は生産される炎症性サイトカインのレベルが包含される。好ましくは、使用されることになる生物薬剤は治療のためにターゲティングされる動物と同じ種から誘導されることにより、試薬への炎症性、自己免疫性、又は増殖性の応答を最小限にする。ヒト対象の場合は、例えばキメラ、ヒト化、及び完全ヒト型抗体が好ましい。
抗体、抗体フラグメント、及びサイトカインは連続注入によるか、又は例えば毎日、週1〜7回、毎週、隔週、毎月、隔月などで投与される用量により、提供することができる。用量は静脈内、皮下、局所、経口、経鼻、直腸、筋肉内、脳内、脊髄内、又は吸入により提供してよい。週当たり全用量は一般的に少なくとも0.05μg/kg体重、より一般的には少なくとも0.2μg/kg、0.5μg/kg、1μg/kg、10μg/kg、100μg/kg、0.25mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、5.0mg/kg、10mg/kg、25mg/kg、50mg/kg、又はそれより高値である(例えばYang等(2003)New Engl.J.Med.349:427−434;Herold等(2002)New Engl.J.Med.346:1692−1698;Liu等(1999)J.Neurol.Neurosurg.Psych.67:451−456;Portielji等(2003)Cancer Immunol.Immunother.52:133−144参照)。用量は又例えば0.1、0.3、1、3、10、30、100、300μg/ml又はそれより高値のような対象の血清中の抗IL−17A抗体の所定標的濃度を達成するように提供してもよい。別の実施形態においては、本発明のヒト化抗IL−17A抗体は10、20、50、80、100、200、500、1000、又は2500mg/対象において毎週、隔週、又は「4週毎」で皮下又は静脈内投与される。
本明細書においては、「抑制する」又は「治療する」又は「治療」とは障害に関連する症状の発症の遅延化、及び/又はそのような障害の症状の重症度の低減を包含する。用語は更に既存の制御不可能な症状又は望ましくない症状を改善すること、追加的症状を防止すること、及びそのような症状の伏在原因を改善又は防止することを包含する。即ち用語は、障害、疾患又は症状を有するか、又はそのような障害、疾患又は症状を発症する潜在性を有する脊椎動物の対象に対し、有益な結果がもたらされていることを指す。
本明細書においては、「治療有効量」、「治療有効用量」及び「有効量」という用語は単独又は別の治療薬と組み合わせて細胞、組織、又は対象に投与された場合に疾患又は状態の症状1つ以上又はそのような疾患又は状態の進行を防止又は改善するために効果的である本発明のIL−17A結合化合物の量を指す。治療有効用量は更に症状の改善、例えば該当する医学的状態の治療、治癒、防止、又は改善、又はそのような状態の治療、治癒、防止、又は改善の速度の上昇をもたらすために十分な結合化合物の量を指す。単独で投与される個々の活性成分に適用する場合は、治療有効用量はその成分単独を指す。組み合わせて適用する場合は、治療有効用量は、組み合わせ、逐次的、又は同時の何れにより投与されるかに関わらず、治療効果をもたらす活性成分の組み合わせた量を指す。治療薬の有効量は、少なくとも10%、通常は少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%;そして最も好ましくは少なくとも50%まで、診断の尺度又はパラメーターを改善させることになる。
第2の治療薬、例えばサイトカイン、別の治療用抗体、ステロイド、化学療法剤、又は抗生物質の同時投与のための方法は当該分野で良く知られている。例えばHardman等(編)(2001)Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第10版、McGraw−Hill,New York,NY;Poole and Peterson(編)(2001)Pharmacotherapeutics for Advanced Practice:A Practical Approach,Lippincott,Williams&Wilkins,Phila,PA;Chabner and Longo(編)(2001)Cancer Chemotherapy and Biotherapy,Lippincott,Williams&Wilkins,Phila,PAを参照できる。本発明の医薬組成物は又免疫抑制剤又は免疫調節剤を含有してよい。任意の適当な免疫抑制剤を使用することができ、例えば抗炎症剤、コルチコステロイド、シクロスポリン、タクロリムス(即ちFK−506)、シロリムス、インターフェロン、可溶性サイトカイン受容体(例えばsTNRF及びsIL−1R)、サイトカイン活性を中和する薬剤(例えばインフリキシマブ、エタネルセプト)、ミコフェノレートモフェチル、15−デオキシスペルグアリン、サリドマイド、グラチラマー、アザチオプリン、レフルノミド、シクロホスファミド、メトトレキセート等を挙げられるがこれらに限定されない。医薬組成物は又、光療法及び放射線のような他の治療手段とともに使用することもできる。
本発明のIL−17A結合化合物は又、例えば、限定しないがIL−23、IL−1β、IL−6及びTGF−βのような他のサイトカインの拮抗剤(例えば抗体)1つ以上と組み合わせて使用することもできる。例えばVeldhoen(2006)Immunity24:179−189;Dong(2006)Nat.Rev.Immunol.6(4):329−333を参照できる。種々の実施形態において、本発明のIL−17A結合化合物は他の拮抗剤の投与の前、同時、又は後に投与される。1つの実施形態において、本発明のIL−17A結合化合物は単独で、又はIL−23拮抗剤と組み合わせて、有害免疫応答(例えばMS、クローン病)の急性初期の治療において使用される。後者の場合においては、IL−17A結合化合物は漸減させてよく、そして、IL−23の拮抗剤のみによる治療を継続することにより有害応答の抑制を維持する。或いは、IL−1β、IL−6及び/又はTGF−βに対する拮抗剤を、本発明のIL−17A結合化合物と同時、その前、又は後に投与してよい。Cua and Kastelein(2006)Nat.Immunol.7:557−559;Tato and O’Shea(2006)Nature441:166−168;Iwakura and Ishigame(2006)J.Clin.Invest.116:1218−1222を参照できる。
典型的な獣医科用、実験用、又は研究用の対象には、サル、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ウマ、及びヒトが包含される。
VII.使用
本発明は炎症性の障害及び状態、並びに自己免疫性及び増殖性の障害の治療及び診断のために操作された抗IL−17A抗体を使用するための方法を提供する。炎症性腸疾患(IBD)、多発性硬化症(MS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、乾癬、全身硬皮症、自家移植片拒絶、自己免疫性心筋炎、及び腹膜癒着の診断、防止又は治療のための方法を提供する(例えばChung等(2002)J.Exp.Med.195:1471−78参照)。
乾癬
皮膚は潜在的に有害な抗原との接触を防止しながら、内部ミリューと環境との間の重要な境界線として機能している。抗原/病原体の浸透時には、抗原を排除するために炎症応答が誘導される。この応答は主にT細胞、多形核細胞、及びマクロファージよりなる皮膚浸潤をもたらす(例えばWilliams and Kupper(1996)Life Sci.,58:1485−1507参照)。通常では、病原体によりトリガーされるこの炎症応答は厳密な制御下にあり、病原体の排除時に停止することになる。
特定の場合において、この炎症応答は外的刺激の非存在下及び適切な制御の非存在下で生じ、皮膚の炎症をもたらす。本発明は皮膚の炎症を治療及び診断するための方法を提供する。皮膚の炎症、即ち上記した細胞浸潤並びにこれらの細胞からの分泌サイトカインの結果であるものは、数種の炎症性障害、例えば、瘢痕性類天疱瘡、硬皮症、化膿性汗腺炎、毒性表皮壊死、挫瘡、骨炎、対宿主性移植片病(GvHD)、壊疽性膿皮症、及びベーチェット症候群を包含する(例えばWillams and Griffiths(2002)Clin.Exp.Dermatol.,27:585−590参照)。皮膚炎症の大部分の共通した形態は乾癬である。
乾癬は炎症性浸潤と合併したケラチノサイトのT細胞媒介増殖亢進を特徴とする。疾患は特定の区別可能な重複した臨床的表現型、例えば慢性の斑状患部、皮膚発疹、及び膿疱性の患部を有している(例えばGudjonsson等(2004)Clin.Exp.Immunol.135:1−8参照)。乾癬患者の約10%が関節炎を発症する。疾患は強力であるが複雑な遺伝子的素因を有し、一卵性双生児と60%合致している。
典型的な乾癬患部は肥厚した銀色の鱗片に被覆された明確な境界線を有する紅斑様のプラークである。乾癬組織の炎症及び増殖亢進は、正常な皮膚とは異なる組織学的な抗原性及びサイトカインのプロファイルを伴う。乾癬に関連するサイトカインに属するものとしてはTNFα、IL−19、IL−18、IL−15、IL−12、IL−7、INFγ、IL−17A及びIL−23が挙げられる(Gudjonsson等参照、上出)。IL−17Aは乾癬性の皮膚に検出されている。
本発明の抗IL−17A抗体は単独又は他剤と組み合わせて乾癬の突発的悪化の防止、治療、診断、及び予測において使用してよい。乾癬の拡大の予測及び治療における抗IL−17A抗体の使用は共通に譲渡された米国特許出願公開2005/0287593及びPCT特許公開WO2005/108616に記載されており、その開示内容は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
慢性関節リューマチ(RA)
RAは世界人口の約0.5%が罹患している滑膜性の関節の炎症を特徴とする進行性の全身性疾患である。Emery(2006)BMJ332:152−155を参照できる。関節の炎症は変形、疼痛、硬直及び浮腫、そして究極的には関節の不可逆的な劣化をもたらす場合がある。罹患関節は、膝、肘、頸部及び手掌及び脚部の関節を包含する。従来の治療では症状を軽減するためにNSAIDを使用し、その後、疾患修飾性抗リューマチ薬(DMARD)、例えば金、ペニシラミン、スルファラジン及びメトトレキセートを投与する。最近の進歩はTNF−α抑制剤、例えばモノクローナル抗体、例えばインフリキシマブ、アダルミマブ及びゴリムマブ、及び受容体融合蛋白、例えばエタネルセプトを用いた治療を包含する。このようなTNF−α抑制剤を用いた治療は疾患に起因する構造的損傷を劇的に低減する。
本発明の抗IL−17A抗体はRAを治療するためにそのような治療を必要とする対象において使用してよい。実施例16はRAのコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルを用いた実験を説明しており、それに関するデータは図3A〜3D及び表15に示す。結果は、本発明の抗IL−17A抗体により治療された動物において、希釈剤及びアイソタイプの対照と比較して高い疾患重症度スコアを有する足の割合が低減されたことを示している。
本発明の抗IL−17A抗体はRAの他の治療、例えばメトトレキセート、アザチオプリン、シクロホスファミド、ステロイド、ミコフェノレートモフェチル、NSAID、又はTNF−α抑制剤(抗体又は受容体フラグメント)と組み合わせてもよい。
1つの実施形態において、本発明の抗IL−17A抗体はDMARD単独による治療に対し過去に十分な応答を示さなかったヒト対象を治療するために使用される。別の実施形態においては、本発明の抗IL−17A抗体を用いた治療はDMARD療法の過去の失敗を必要とすることなく、疾患の経過における早期に開始される。そのような早期の介入は例えば抗体療法の安全性が堅固に確立されれば適切であるといえる。
臨床的改善は実施例18でより詳細に説明する通り、ACRスコアを測定することにより計測される。種々の実施形態において、20、50及び70のACRスコアが望ましい終点であり、そしてこれらの終点は治療の過程の何れかの適切な時点、例えば5、10、15、24、40、50週目、又はそれより後に評価してよい。
多発性硬化症(MS)
MSは神経線維からのミエリンの損失が起こり、プラーク又は患部が生じる中枢神経系(CNS)の自己免疫性の疾患であると考えられている。最も一般的な形態は回帰性/弛張性MSであり、その場合、明確な境界線を有する症候性の突発的悪化が起こり、その後、部分的又は完全な弛張の時期となる。従来の治療の選択肢はインターフェロン−β−1a及び−1b、ミトキサントロン、テトラペプチドグラチラマーアセテート、治療用アルファ−4−インテグリン特異性抗体(ナタリズマブ)、又はアルファ−4−インテグリンの小分子拮抗剤(例えばWO2003/084984に開示されているもの)を包含する。
本発明の抗IL−17A抗体はMSを治療するためにそのような治療が必要な対象において使用してよい。抗IL−17A抗体は又、MSの他の治療法、例えばインターフェロン−β、インターフェロン−α、ステロイド、又はアルファ−4−インテグリン特異的抗体と組み合わせてもよい。
炎症性腸疾患(IBD)
IBDは腸が炎症を起こして腹部の痙攣及び疼痛、下痢、体重減少及び腸内出血がもたらされる障害(例えばクローン病及び潰瘍性結腸炎)群の名称である。IBDには600,000人超の米国人が罹患している。従来の治療の選択肢としてはスルファサラジン、コルチコステロイド(例えばプレドニソン)、免疫系の抑制剤、例えばアザチオプリン及びメルカプトプリン、或いは抗生物質(例えばメトロニダゾール)をクローン病に対して使用している。治療用モノクローナル抗体はエタネルセプト、ナタリズマブ及びインフリキシマブを包含する。
本発明の抗IL−17A抗体はIBDを治療するためにそのような治療を必要とする対象において使用してよい。Yen等(2006)J.Clin.Invest.116:1310−1316;Fujimo等(2003)Gut52:65−70)。本発明の抗IL−17A抗体はIBDに対する他の治療、例えばIL−10(米国特許5,368,854、7,052,686)、ステロイド及びスルファサラジンと組み合わせてもよい。
他の実施形態においては、IL−17Aのその受容体に対する結合をブロックしない本発明の抗体(例えば非中和抗体12E6)を長期のIL−17A活性を必要とする対象においてIL−17Aを安定化させるために治療上使用する。そのような対象は感染症又は癌に罹患した患者を包含する。
本発明の多くの変更及び変形は、当業者には明らかとなる通り、その精神及び範囲から逸脱することなく行うことができる。本発明は添付請求項及びそのような請求項の該当する等価物の完全な範囲の観点により定義される。後述する実施例を包含する本明細書に記載した特定の実施形態は例示のために示しており、その詳細により本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)
一般的方法
分子生物学における標準的方法は記載されている(Maniatis等(1982)Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Sambrook and Russell(2001)Molecular Cloning,第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Wu(1993)Recombinant DNA,Vol.217,Academic Press,San Diego,CA.)。標準的な方法は又Ausbel等(2001)Current Protocols in Molecular Biology,Vols.1−4,John Wiley and Sons,Inc.New York,NYにも記載されており、これは細菌細胞におけるクローニング及びDNA突然変異誘発(第1巻)、哺乳類細胞及び酵母におけるクローニング(第2巻)、グリココンジュゲート及び蛋白発現(第3巻)及びバイオインフォマティックス(第4巻)を記載している。
免疫沈降、クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、及び結晶化を包含する蛋白精製のための方法は記載されている(Coligan等(2000)Current Protocols in Protein Science,Vol.1,John Wiley and Sons,Inc.,New York)。化学分析、化学修飾、翻訳後修飾、融合蛋白の製造、蛋白のグリコシル化は記載されている(例えばColigan等(2000)Current Protocols in Protein Science,Vol.2,John Wiley and Sons,Inc.,New York;Ausubel等(2001)Current Protocols in Molecular Biology,Vol.3,John Wiley and Sons,Inc.,NY,NY,pp.16.0.5−16.22.17;Sigma−Aldrich,Co.(2001)Products for Life Science Research,St.Louis,MO.;pp.45−89;Amersham Pharmacia Biotech(2001)BioDirectory,Piscataway,NJ,pp.384−391参照)。 ポリクローナル及びモノクローナル抗体の製造、精製、及びフラグメント化は記載されている(Coligan等(2001)Current Protocols in Immunology,Vol.1,John Wiley and Sons,Inc.,New York;Harlow and Lane(1999)Using Antibodies,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Harlow and Lane,上出)。リガンド/受容体相互作用を特性化するための標準的手法を使用できる(例えばColigan等(2001)Current Protocols in Immunology,Vol.4,John Wiley,Inc.,New York参照)。
モノクローナル、ポリクローナル、及びヒト化抗体を製造できる(例えばSheperd and Dean(eds.)(2000)Monoclonal Antibodies,Oxford Univ.Press,New York,NY;Kontermann and Dubel(eds.)(2001)Antibody Engineering,Springer−Verlag,New York;Harlow and Lane(1988)Antibodies A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,pp.139−243;Carpenter等(2000)J.Immunol.165:6205;He等(1998)J.Immunol.160:1029;Tang等(1999)J.Biol.Chem.274:27371−27378;Baca等(1997)J.Biol.Chem.272:10678−10684;Chothia等(1989)Nature 342:877−883;Foote and Winter(1992)J.Mol.Biol.224:487−499;U.S.Pat.No.6,329,511参照)。ヒト化の代替法はファージ上にディスプレイされたヒト抗体ライブラリ又はトランスジェニックマウス中のヒト抗体ライブラリの使用である(Vaughan等(1996)Nature Biotechnol.14:309−314;Barbas(1995)Nature Medicine 1:837−839;Mendez等(1997)Nature Genetics 15:146−156;Hoogenboom and Chames(2000)Immunol.Today 21:371−377;Barbas等(2001)Phage Display: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Kay等(1996)Phage Display of Peptides and Proteins: A Laboratory Manual,Academic Press,San Diego,CA.;de Bruin等(1999)Nature Biotechnol.17:397−399)。
単鎖抗体及びダイアボディーが記載されている(例えばMalecki等(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:213−218;Conrath等(2001)J.Biol.Chem.276:7346−7350;Desmyter等(2001)J.Biol.Chem.276:26285−26290;Hudson and Kortt(1999)J.Immunol.Methods 231:177−189;and U.S.Pat.No.4,946,778参照)。2官能性抗体が報告されている(例えばMack等(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7021−7025;Carter(2001)J.Immunol.Methods 248:7−15;Volkel等(2001)Protein Engineering 14:815−823;Segal等(2001)J.Immunol.Methods 248:1−6;Brennan,et al(1985)Science 229:81−83;Raso等(1997)J.Biol.Chem.272:27623;Morrison(1985)Science 229:1202−1207;Traunecker等(1991)EMBO J.10:3655−3659;and U.S.Pat.Nos.5,932,448,5,532,210,and 6,129,914参照)。
二重特異性抗体も報告されている(例えば Azzoni等(1998)J.Immunol.161:3493;Kita等(1999)J.Immunol.162:6901;Merchant等(2000)J.Biol.Chem.74:9115;Pandey等(2000)J.Biol.Chem.275:38633;Zheng等(2001)J.Biol.Chem.276:12999;Propst等(2000)J.Immunol.165:2214;Long(1999)Ann.Rev.Immunol.17:875参照)。
抗原の精製は抗体の作製のためには必要ではない。動物は目的の抗原を保有する細胞で免疫化できる。次に脾細胞を免疫化動物から単離し、そして脾細胞を骨髄腫細胞系統と融合することによりハイブリドーマを製造することができる(例えばMeyaard等(1997)Immunity 7:283−290;Wright等(2000)Immunity 13:233−242;Preston等,上出;Kaithamana等(1999)J.Immunol.163:5157−5164参照)。抗体は通常は少なくとも約10−6M、典型的には少なくとも約10−7M、より典型的には少なくとも約10−8M、好ましくは少なくとも約10−9M、そしてより好ましくは少なくとも約10−10M、そして最も好ましくは少なくとも約10−11MのKdで結合することになる(例えばPresta等(2001)Thromb.Haemost.85:379−389;Yang等(2001)Crit.Rev.Oncol.Hematol.38:17−23;Carnahan等(2003)Clin.Cancer Res.(Suppl.)9:3982s−3990s参照)。
抗体は例えば小分子薬物、酵素、リポソーム、ポリエチレングリコール(PEG)にコンジュゲートできる。抗体は治療、診断、キット又は他の目的のために有用であり、そして例えば染料、放射性同位体、酵素、又は金属、例えばコロイド状金にカップリングさせた抗体を包含する(例えばLe Doussal等(1991)J.Immunol.146:169−175;Gibellini等(1998)J.Immunol.160:3891−3898;Hsing and Bishop(1999)J.Immunol.162:2804−2811;Everts等(2002)J.Immunol.168:883−889参照)。
フローサイトメトリー、例えば蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)のための方法を使用できる(例えばOwens等(1994)Flow Cytometry Principles for Clinical Laboratory Practice,John Wiley and Sons,Hoboken,NJ;Givan(2001)Flow Cytometry,第2版;Wiley−Liss,Hoboken,NJ;Shapiro(2003)Practical Flow Cytometry,John Wiley and Sons,Hoboken,NJを参照できる。例えば診断薬としての使用のための核酸、例えば核酸プライマー及びプローブ、ポリペプチド、及び抗体を修飾するために適する蛍光試薬を使用できる(Molecular Probes(2003)Catalogue,Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR;Sigma−Aldrich(2003)Catalogue,St.Louis,MO)。
免疫系の組織学的検討の標準的方法は記載されている(例えばMuller−Harmelink(ed.)(1986)Human Thymus: Histopathology and Pathology,Springer Verlag,New York,NY;Hiatt等(2000)Color Atlas of Histology,Lippincott,Williams,and Wilkins,Phila,PA;Louis等(2002)Basic Histology:Text and Atlas,McGraw−Hill,New York,NY参照)。
例えば抗原フラグメント、リーダー配列、蛋白折り畳み、機能的ドメイン、グリコシル化部位、及び配列アライメントを調べるためのソフトウエアパッケージ及びデータベースを使用できる(例えばGenBank,Vector NTI(登録商標) Suite(Informax,Inc,Bethesda,MD);GCG Wisconsin Package(Accelrys,Inc.,San Diego,CA);DeCypher(登録商標)(TimeLogic Corp.,Crystal Bay,Nevada.);Menne等(2000)Bioinformatics 16: 741−742;Menne等(2000)Bioinformatics Applications Note 16:741−742;Wren等(2002)Comput.Methods Programs Biomed.68:177−181;von Heijne(1983)Eur.J.Biochem.133:17−21;von Heijne(1986)Nucleic Acids Res.14:4683−4690参照)。
(実施例2)
ラット抗ヒトIL−17Aモノクローナル抗体
以下のようにしてヒトIL−17Aに対するモノクローナル抗体を得た。8週齢の雌性Lewisラット(Harlan Sprague Dawley, Indianapolis,Indiana,USA)にHEK239細胞中アデノウィルスベクターから発現させておいた組み換えヒトIL−17A(rhIL−17A)の一連の注射を行った。注射は第0、14、32、46及び83日に行った。
第0日の注射はフロイント完全アジュバントの腹腔内(ip)注射を伴った50μgのrhIL−17Aの皮下注射とした。第14、32及び46日の25μgrhIL−17Asc注射にはフロイント不完全アジュバントのip注射を伴わせた。第83日の注射はフロイント不完全アジュバント中の20μgrhIL−17Aのip注射と食塩水中のrhIL−17Aの静脈内(iv)尾部静脈注射の組み合わせとした。
被験採血は第53日に行った。ラット脾細胞の融合は第87日に、1.6×108脾細胞及び1.8×108骨髄腫細胞を用いながら、30枚の96穴プレートに分割し、合計1.13×105のウェル当たり総細胞数とした。
得られたモノクローナル抗体(数千個)の一次スクリーニングは間接的rhIL−17A ELISAにより実施した(実施例5参照)。得られた抗体に対する二次スクリーニングではST2(マウス間質)細胞によるネズミIL−6のrhIL−17A誘導発現の中和及びBa/F3 hIL−17Rc:mGCSFR細胞のrhIL−17A誘導増殖の中和を行った。約11個のモノクローナル抗体を第1及び2回目のスクリーニングの後に更に検討した。その後の実験は候補抗体がネイティブのhuIL−17Aに結合できることを確認することにより、それらが種々の治療、診断、及び/又は研究目的において有用であることを確認するために行った。そのようなスクリーニングはインビトロの活性試験による、又はインビボの活性試験による結合試験(例えば間接的ELISA又はサンドイッチELISA)を用いながらおこなってよく、その例は本明細書に記載する通りであり。
(実施例3)
ラット抗ヒトIL−17A抗体のヒト化
ラット抗ヒトIL−17Aモノクローナル抗体16C10のヒト化は本質的にWO2005/047324及びWO2005/047326に記載の通り実施し、その開示内容は参照により全体が本明細書に組み込まれる。手短にいえば、後により詳細に説明する通り、ヒト定常ドメインを用いて親(ラット)定常ドメインを置き換え、そしてラット可変ドメイン配列に相同であるヒト生殖細胞系統配列を選択して使用することにより、ラットCDRに対するヒトフレームワークを得た。
ヒト生殖細胞系統フレームワーク配列の選択のための操作法
本発明の抗ヒトIL−17A抗体をヒト化する場合の適切な生殖細胞系統フレームワーク配列を選択する場合に以下の工程を使用した。
1)非ヒトVL及びVHドメインをクローニングして配列決定し、そしてアミノ酸配列を決定する。
重鎖
2)非ヒトVH配列を5つのヒトVH生殖細胞系統アミノ酸配列のグループ、即ちサブグループIGHV1及びIGHV4の1代表、及びサブグループIGHV3の3代表と比較する。VHサブグループはM.−P.Lefranc(2001)“Nomenclature of the Human Immunoglobulin Heavy(IGH)Genes”、Experimental and Clinical Immunogenetics,18:100−116に記載されている。5つの生殖細胞系統の配列に対する比較は以下の通り実施する。
A)Kabat等(1991)に従って非ヒトVH配列残基番号を割り付ける。
B)非ヒトVH配列を5つのヒト生殖細胞系統配列の各々とアラインする。V遺伝子はVH残基1〜94を含むのみであるため、これらの残基のみをアライメントにおいては考慮する。
C)配列内の相補性決定(CDR)及びフレームワーク(FR)領域を明確化する。CDR及びFRはKabat等(1991)(上出)及びChothia and Lesk(1987)”Canonical Structures for the Hypervariable Regions of Immunoglobulins”,Journal of Molecular Biology,196:901−917に記載されている定義の組み合わせとして定義する。即ち定義は、VHCDR1=26〜35、CDR2=50〜65、CDR3=95〜102である。
D)以下(表1)の記載残基位置の各々に関し、非ヒト及びヒト配列が同一(IDENTICAL)となる各残基位置において数値スコアを割り付ける。
*C.Chothia等(1989)”Conformations of Immunoglobulin Hypervariable Regions”,Nature342:877−883においてCDRコンフォメーションに影響すると記載されている。
E)全ての残基の位置のスコアを付加する。アクセプター生殖細胞系統配列は最高総スコアを有するものである。2つ以上の生殖細胞系統配列が同じスコアを有する場合は、以下の通りとする。
1)以下の残基位置のうち、非ヒト及びヒト配列がIDENTICALであれば各位置に関する総スコアに1を付加する:1、3、5〜23、25、36、38、40〜43、46、66、68、70、72、74、75、77、79〜90、92(最大49)。
2)アクセプター生殖細胞系統配列は最高総スコアを有するものである。2つ以上の生殖細胞系統配列が同一のスコアをなお有する場合は、何れもアクセプターとして許容される。
軽鎖
III)VL配列がVLのカッパサブクラスのメンバーである場合は、非ヒトVL配列を4つのヒトVLカッパ生殖細胞系統アミノ酸配列のグループと比較する。4つからなるグループは、Barbie and Lefranc(1998)”The Human Immunoglobulin Kappa Variable(IGKV)Genes and Joining(IGKJ)Segments”,Experimental and Clinical Immunogenetics,15:171−183及びM.−P.Lefranc(2001)“Nomenclature of the Human Immunoglobulin Kappa(IGK)Genes”,Experimental and Clinical Immunogenetics,18:161−174に記載されている4つの確立されたヒトVLサブグループの各々の1代表よりなる。4サブグループは又、Kabat等(1991)pp.103−130に記載されている4サブグループに相当する。4つの生殖細胞系統の配列に対する比較は以下の通り実施する。
A)Kabat等(1991)に従って非ヒトVL配列残基番号を割り付ける。
B)非ヒトVL配列を4つのヒト生殖細胞系統配列の各々とアラインする。V遺伝子はVL残基1〜95を含むのみであるため、これらの残基のみをアライメントにおいては考慮する。
C)配列内の相補性決定(CDR)及びフレームワーク(FR)領域を明確化する。CDR及びFRはKabat等(1991)及びChothia and Lesk(1987)”Canonical Structures for the Hypervariable Regions of Immunoglobulins”,Journal of Molecular Biology,196:901−917に記載されている定義の組み合わせとして定義する。即ち定義は、VLCDR1=24〜34、CDR2=50〜56、CDR3=89〜97である。
D)以下(表2)の記載残基位置の各々に関し、非ヒト及びヒト配列が同一(IDENTICAL)となる各残基位置に置いて数値スコアを割り付ける。
*C.Chothia等(1989)”Conformations of Immunoglobulin Hypervariable Regions”,Nature342:877−883,1989においてCDRコンフォメーションに影響すると記載されている。
E)全ての残基の位置のスコアを付加する。アクセプター生殖細胞系統配列は最高総スコアを有するものである。2つ以上の生殖細胞系統配列が同じスコアを有する場合は、以下の通りとする。
1)以下の残基位置のうち、非ヒト及びヒト配列がIDENTICALであれば各位置に関する総スコアに1を付加する:1、3、5〜23、35、37、39〜42、57、59〜61、63、65〜70、72〜86、88。
2)アクセプター生殖細胞系統配列は最高総スコアを有するものである。それでも2つ以上の生殖細胞系統配列が同一のスコアを有する場合は、何れもアクセプターとして許容される。VL配列がVLのラムダサブクラスのメンバーである場合は、上記引用した文献情報源に由来するヒトVLラムダ生殖細胞系統アミノ酸配列を用いて同様の操作法を実施する。
抗ヒトIL−17A抗体のヒト化
定常ドメインの修飾に関しては、抗体16C10(ラット抗ヒトIL−17AIgG1)の可変軽鎖及び重鎖ドメインをクローニングし、そしてヒトカッパ軽鎖(CLドメイン)及びヒトIgG1重鎖(CH1−ヒンジ−CH2−CH3)にそれぞれ融合させた。ラット可変ドメインとヒト定常ドメインのこの組み合わせは抗体16C10のキメラ型を含む。このキメラ16C10の軽鎖及び重鎖の配列はそれぞれ配列番号9及び10に示す。
可変ドメインのフレームワーク領域の修飾に関しては。抗体16C10のVHドメインのアミノ酸配列を5つのヒトVH生殖細胞系統アミノ酸配列のグループ、即ちサブグループIGHV1及びIGHV4の1代表、及びサブグループIGHV3の3代表と比較した。VHサブグループはM.−P.Lefranc “Nomenclature of the Human Immunoglobulin Heavy(IGH)Genes”、Experimental and Clinical Immunogenetics,18:100−116,2001に記載されている。抗体16C10はサブグループIVにおいてヒト重鎖生殖細胞系統DP−71に対して最高のスコアとされた。
16C10のVL配列はカッパサブクラスのものであった。この配列を4つのヒトVLカッパ生殖細胞系統アミノ酸配列のグループと比較した。4つからなるグループは、Barbie and M.−P.Lefranc(1998)”The Human Immunoglobulin Kappa Variable(IGKV)Genes and Joining(IGKJ)Segments”,Experimental and Clinical Immunogenetics,15:171−183、1998及びM.−P.Lefranc“Nomenclature of the Human Immunoglobulin Kappa(IGK)Genes”、Experimental and Clinical Immunogenetics,18:161−174,2001に記載されている4つの確立されたヒトVLサブグループの各々の1代表よりなる。4サブグループは又、Kabat等(1991)pp。103−130に記載されている4サブグループに相当する。抗体16C10はサブグループIIにおいてヒト軽鎖生殖細胞系統Z−A19に対して最高のスコアとされた。
所望の生殖細胞系統フレームワーク配列が求められた後、完全長ヒト化可変重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドを作製した。親ラット抗体16C10のフレームワーク残基の代わりにヒトフレームワーク残基を置換することは、ヒトフレームワーク配列上へのラット16C10CDRのグラフティングと等しいものとみなすことができる。得られた抗体は本明細書においては「16C10wt」と称し、「wt」は親ラット16C10と同じCDRの存在を示しており、これは後述する最適化されたCDR(単一アミノ酸改変2か所を有する)とは区別可能である。重鎖及び軽鎖の可変ドメインの両方をコドン最適化し、合成し、そして定常ドメイン上に挿入することにより潜在的に最適な発現を可能にした。クローニングされた抗体の発現を向上させる場合があるコドン最適化は純粋に任意である。
ヒト化16C10wt抗体は、ヒト定常ドメイン及びフレームワーク配列の置換に加えて、2つのCDR残基においても修飾することにより最終ヒト化抗体のより大きい化学的安定性を達成した。2つの変化は図1Bに示す「hu16C10」VH配列において太字のアミノ酸残基により示す。図1Bにおいて示したKabatのナンバリングを参照すれば、CDR2の残基54はラット抗体におけるN(アスパラギン)からヒト化抗体におけるQ(グルタミン)に変化しており、これにより残基54〜55のNG配列におけるイソアスパルテートの形成の可能性が低減できる。イソアスパルテートの形成は抗体のその標的抗原への結合を減衰させるか、又は完全に排除する場合がある。Presta(2005)J.Allergy Clin.Immunol.116:731−734。更に又、CDR3の残基96はラット抗体におけるM(メチオニン)からヒト化抗体におけるA(アラニン)に変化しており、これにより、抗原結合親和性を低減して最終抗体調製品中の分子の異種性に寄与する可能性があるメチオニンのイオウの酸化の可能性が低減されている。上記参照。これらの1残基修飾はN54Q及びM96Aと表すことができる。本明細書に開示した最終的なヒト化16C10抗体は親ラット16C10CDRと相対比較したこれらの2つの置換を含む。
本発明の別の実施形態においては、ヒト化型に関して上記した単一残基修飾2つ、即ちN54Q及びM96Aを取り込むために、キメラ(非ヒト化)16C10抗体を改変することができる。
ヒト化抗体16C10(hu16C10)の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列をそれぞれ図2A及び2Bに、そして配列番号2及び4(シグナル配列を包含)に示す。hu16C10の軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列の1つの実施形態を配列番号1及び3に示す。hu16C10の軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列の別の実施形態を図5A(配列番号62)及び図5B(配列番号63)に示す。
命名法に関する明確化の目的のためには、種々の抗体の間でのCDR及びフレームワーク領域の長さにおける変動に対応するためにKabatのナンバリングシステムが非数値化アミノ酸残基の標記(例えばVH残基83a、83b、83c)を包含することを認識することが重要である。このナンバリングシステムは異なる長さのCDRを有する種々の抗体の間での相当するアミノ酸残基の参照が容易になる点において好都合であるが、厳密な連続数字による配列のナンバリング(例えば配列表)と比較する場合には特定のアミノ酸残基に関して矛盾する標記が生じる場合がある。本明細書におけるアミノ酸残基の標記は特段の記載が無い限り該当する配列表を参照しながら、例えば「Kabatナンバリング」を参照することにより行う。
命名法に関する明確化の別の点として、配列番号2及び4(ヒト化16C10)はN末端シグナルペプチドの配列(各々の最初の19残基)を包含し、これらのアミノ酸は抗体の成熟型においては除去される。配列番号1、3、62及び63はシグナル配列をコードする57ヌクレオチドを包含する。本明細書においては、蛋白の「成熟」型とはシグナル配列を有さない蛋白を指す。
ヒト化抗体4C3は抗体16C10に関して上記したものと類似の方法により作製する。親ラット4C3抗体は軽鎖のフレームワーク領域の単一のアミノ酸残基においてのみ異なっており、そしてそのようなフレームワーク領域はヒト化の間にヒト生殖細胞系統フレームワーク配列で置き換えられるため、最終的なヒト化4C3抗体配列はヒト化16C10抗体の配列と同一になる。
ヒト化抗体30C10も又、抗体16C10に関して上記したものと類似の方法により作製する。使用すべき適切なヒトフレームワーク配列を決定する場合、親ラット30C10抗体はサブグループIIIにおけるヒト重鎖生殖細胞系統DP−46及びサブグループIIにおけるヒト軽鎖生殖細胞系統Z−A19に対して最高値のスコアを有するため、これらのフレームワーク配列をラットフレームワーク配列に対して置換する。ヒト化30C10VL及びVH配列をそれぞれ配列番号22及び23に示す。他の実施形態においては、ラット30C10のCDRのメチオニン残基1つ以上を突然変異させることによりヒト16C10抗体におけるメチオニンイオウの酸化の潜在性を回避する。特に、重鎖残基34(CDRH1中)及び/又は軽鎖残基30f(Kabatナンバリング、図1A参照)をメチオニンから別のアミノ酸、例えばアラニンに変化させる。そのような抗体はその後、メチオニン置換がIL−17A結合親和性を望ましくないレベルにまで低下させないことを確認するためにスクリーニングする。
抗体12E6のキメラ、ヒト化、及びシグナル配列含有型は、親ラット抗体16C10に基づいてそのような抗体を製造する場合と類似させながら、本明細書に記載した方法を用いて作製する。親ラット抗体12E6に関する軽鎖及び重鎖のCDRを配列番号34〜36及び37〜39に示す。ヒト定常ドメイン及び可変ドメインフレームワーク配列は上記の通りに導入する。1つの実施形態において、重鎖残基34(CDRH1中)をメチオニンから別のアミノ酸、例えばアラニンに変化させることによりヒト化12E6抗体におけるメチオニンイオウの酸化の潜在性を回避する。得られた抗体はその後、メチオニン置換がIL−17A結合親和性を望ましくないレベルにまで低下させないことを確認するためにスクリーニングする。
抗体23E12のキメラ、ヒト化、及びシグナル配列含有型は、親ラット抗体16C10に基づいてそのような抗体を製造する場合と類似させながら、本明細書に記載した方法を用いて作製する。親ラット抗体23E12に関する軽鎖及び重鎖の可変ドメイン配列を配列番号44及び46(DNA)及び45及び47(アミノ酸)に示す。親ラット抗体23E12に関するCDRは配列番号48〜50(軽鎖)及び51〜53(重鎖)に示す。ヒト定常ドメイン及び可変ドメインフレームワーク配列は上記した通り親ラット抗体内に導入する。
(実施例4)
完全ヒト型抗IL−17A抗体
完全ヒト型抗IL−17Aモノクローナル抗体はマウス系ではなくヒトの免疫系の部分を担持しているトランスジェニックマウスを用いて作製する。これらのトランスジェニックマウスは、本明細書においては「HuMAb」と称し、再配列されていないヒト重鎖(μ及びγ)及びκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子のミニ遺伝子座を内因性のμ及びκ鎖遺伝子座を不活性化するターゲティングされた突然変異と共に含有する(Lonberg等(1994)Nature368(6474):856−859)。従って、マウスはマウスIgM又はκの低減された発現を示し、そして免疫化に応答して導入されたヒト重鎖及び軽鎖のトランスジーンはクラス切り替え及び体細胞突然変異を起こし、高親和性のヒトIgGκモノクローナル抗体を形成する(Lonberg等(1994),上出;考察文献はLonberg(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101;Lonberg等(1995)Intern.Rev.Immunol.13:65−93,及びHarding等(1995)Ann.N.Y.Acad.Sci764:536−546)。HuMabマウスの作製は一般的に当該分野で知られており、そして例えばTaylor等(1992)Nucleic Acids Research 20:6287−6295;Chen等(1993)International Immunology 5:647−656;Tuaillon等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:3720−3724;Choi等(1993)Nature Genetics 4:117−123;Chen等(1993)EMBO J.12:821−830;Tuaillon等(1994)J.Immunol.152:2912−2920;Lonberg(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101;Taylor等(1994)International Immunology 6:579−591;Lonberg等(1995)Intern.Rev.Immunol.13:65−93;及びFishwild等(1996)Nature Biotechnology14:845−851に記載されており、それらの内容は参照により全体が本明細書に組み込まれる。更に又、米国特許5,545,806;5,569,825;5,625,126;5,633,425;5,789,650;5,877,397;5,661,016;5,814,318;5,874,299;5,770,429及び5,545,807;及び国際特許出願公開WO98/24884;WO94/25585;WO93/1227;WO92/22645;及びWO92/03918も参照することができ、これらは全て参照により全体が本明細書に組み込まれる。
IL−17Aに対する完全ヒト型モノクローナル抗体を作製するためには、HuMabマウスをLonberg等(1994);Fishwild等(1996)及びWO98/24884に記載された抗原性IL−17Aポリペプチドで免疫化する。好ましくは、マウスは初回免疫化時には6〜16週齢とする。例えば、IL−17Aの精製調製品を使用してHuMabマウスを腹腔内で免疫化することができる。マウスは又、IL−17A遺伝子で安定に形質転換又はトランスフェクトされる全HEK293細胞を用いて免疫化することもできる。「抗原性IL−17Aポリペプチド」とはHuMabマウスにおいて抗IL−17A免疫応答を誘発するIL−17Aポリペプチド又はその何れかのフラグメントを指す場合がある。
一般的に、HuMAbトランスジェニックマウスは、先ず完全フロイントアジュバント中の抗原で腹腔内(IP)免疫化し、その後、不完全フロイントアジュバント中の抗原で隔週IP免疫化(通常は合計6回)を行う場合に、最も良好に応答する。マウスを先ずIL−17Aを発現する細胞(例えば安定に形質転換されたHEK293細胞)で、次にIL−17Aの可溶性フラグメントで免疫化し、その後2抗原による交互免疫化を行う。免疫応答は眼窩後方出血により血漿試料を得ながら免疫化プロトコルの過程に渡ってモニタリングする。血漿は例えばELISAにより抗IL−17A抗体の存在に関してスクリーニングし、そして免疫グロブリンの十分な抗体価を有するマウスを融合のために使用する。マウスは屠殺及び脾臓摘出の前3日に抗原で静脈内ブーストする。各抗原に対して2〜3融合が必要である場合がある。数種のマウスは各抗原で免疫化する。例えば、HCO7及びHCO12系統の合計12HuMAbマウスを免疫化する。
モノクローナルの完全ヒト型抗IL−17A抗体を生産するハイブリドーマ細胞はKohler等(1975)(Nature256:495−497)により元来開発されたハイブリドーマ手法;トリオーマ手法(Hering等(1988)Biomed.Biochim.Acta.47:211−216及びHagiwara等(1993)Hum.Antibod.Hybridomas 4:15);ヒトB細胞ハイブリドーマ手法(Kozbor等(1983)Immunology Today 4:72及びCote等(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.80:2026−2030);及びEBVハイブリドーマ手法(Cole等(1985)、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp77−96)のような一般的に当該分野で知られた方法により作製する。好ましくは、マウス脾細胞を単離し、標準的プロトコルに基づいてマウス骨髄腫細胞系統にPEGを用いて融合させる。得られたハイブリドーマを次に抗原特異的抗体の生産に関してスクリーニングしてよい。1つの実施形態においては、免疫化マウスに由来する脾リンパ球の単細胞懸濁液を、50%PEGを用いながらP3X63−Ag8.653非分泌マウス骨髄腫細胞(ATCC、CRL1580)の数量の6分の1に融合させる。細胞は平底マイクロプレート中約2×105個/mLでプレーティングし、その後20%胎児クローン血清、18%「653」コンディショニング培地、5%オリゲン、4mML−グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、5mMHEPES、0.055mM2−メルカプトエタノール、50単位/mLペニシリン、50mg/mlストレプトマイシン、50mg/mlゲンタマイシン及び1×HAT(Sigma;HATは融合後24時間に添加する)を含有する選択培地中2週間インキュベートする。2週間後、HATをHTで置き換えた培地中で培養する。次に個々のウェルをヒト抗IL−17AモノクローナルIgG抗体に関してELISAによりスクリーニングする。旺盛なハイブリドーマの生育があった場合は、通常は10〜14日後に培地を観察する。抗体分泌ハイブリドーマを再プレーティングし、再度スクリーニングし、そしてヒトIgGに関してなお陽性である場合は、抗IL−17Aモノクローナル抗体を限界希釈法により少なくとも2回サブクローニングする。次に安定なサブクローンをインビトロで培養することにより特性化のための組織培地中の抗体少量を得る。
別の実施形態においては本発明の抗IL−17A抗体分子は組み換えにより製造する(例えばE.coli/T7発現系において)。本実施形態においては、本発明の抗体分子(VH又はVL)をコードする核酸をpET系プラスミドに挿入し、そしてE.coli/T7系において発現させる。当該分野で知られた組み換え抗体を製造するための数種の方法が存在しており、例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許4,816,567が挙げられる。抗体分子は又、CHO又はNSO細胞において組み換え生産してもよい。
(実施例5)
抗IL−17Aモノクローナル抗体の間接的ELISA
rhIL−17Aへの抗ヒトIL−17Aモノクローナル抗体の結合は間接的酵素結合免疫吸着試験(ELISA)を用いて評価する。手短にいえば、固定濃度のrhIL−17Aをマイクロプレートのウェルに直接結合させる。次に試験すべきモノクローナル抗IL−17AをrhIL−17Aコーティングプレートに添加し、ここで抗体を捕捉させ、定量する。より詳細なプロトコルは以下の通りである。
96穴のU型底のMaxSorpプレートを炭酸塩コーティング緩衝液中のrhIL−17A(0.5μg/ml)50μl/ウェルでコーティングする(「試験プレート」)。炭酸塩コーティング緩衝液は2.9g/L NaHCO3、1.6g/L Na2CO3、pH9.4とする。プレートは4℃で一夜被覆してインキュベートする。スクリーニングすべきモノクローナル抗体を終容量が60μl/ウェルとなるようにV型底プレートの列に渡って2連で連続希釈する(「連続希釈プレート」)。試験プレートをプレート洗浄機(SkanWasher,Molecular Devices,Sunnyvale,California,USA)中でPBS−Tweenを用いて3回洗浄し、そして乾燥ブロッティングする。PBS−Tweenは1×PBSに0.5ml/L Tween20を添加することにより得る。連続希釈プレートの各ウェル由来の50μLを試験プレートに移し、1時間25℃でインキュベートする。二次抗体を希釈液(PBS−BSA−Tween、即ち1g/LのBSAを含有するPBS−Tween)中1/2000に希釈する。ラットモノクローナル抗体に対する二次抗体はヤギ抗ラットIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.,West Grove,Pennsylvania,USA)とする。キメラ及びヒト化モノクローナル抗体に対する二次交代はF(ab’)2ヤギ抗ヒトIgGFcγ−HRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.)とする。試験プレートを前の通り洗浄する。希釈した二次抗体(100μl/ウェル)を試験プレート中の適切なウェルに添加し、そしてプレートを45分間25℃でインキュベートする。試験プレートを前の通り洗浄する。ABTS(100μl/ウェル)(Kirkegaard&Perry Laboratories,Gaithersburg,Maryland,USA)を添加し、そしてプレートを5〜10分間25℃でインキュベートした後、吸光度をプレートリーダー(Versamax,Molecular Devices,Sunnyvale,California,USA)上405nmにおいて、読み取り前に5秒間振とうさせながら読み取る。
本発明の抗16C10の種々の形態に関する間接的ELISAの結果を表5に示す。結合はEC50(最大シグナルの半分を得るために必要な抗体の濃度)として報告する。結果は16C10の全ての形態で結合が検出されることを示している。このような間接的ELISA試験は抗IL−17A抗体の有無の迅速な測定において有用であるが、得られたEC50の数値は試験依存性であり、典型的には何れかの所定の抗体に関する絶対的な結合親和性を評価するためには使用されない。
(実施例6)
抗IL−17Aモノクローナル抗体のELISA
rhIL−17Aへの抗ヒトIL−17Aモノクローナル抗体の結合を以下の通りELISAを用いて試験する。手短にいえば、捕捉抗体をマイクロプレートのウェルに結合させ、その後固定濃度のrhIL−17Aを添加する。次に試験すべきモノクローナル抗IL−17Aをプレート上の結合rhIL−17Aに対して滴定することにより最大の結合の半分を達成するために必要な抗体の濃度を求める。より詳細なプロトコルは以下の通りである。
96穴のマイクロプレートを炭酸塩コーティング緩衝液pH9.5中の捕捉抗体(ラット抗hIL−17A12E6、0.5μg/ml)100μl/ウェルでコーティングする(「試験プレート」)。プレートを24〜48時間4℃で被覆してインキュベートする。試験プレートをプレート洗浄機(SkanWasher,Molecular Devices,Sunnyvale,California,USA)中で3回洗浄し、そして乾燥ブロッティングする。次にプレートを軌道振とう機上25℃で1時間、ELISA試験緩衝液(20mM Tris−HCl、0.15M NaCl、pH7.4、0.5%BSA、0.05%Tween−20、2mM EDTA)200μl/ウェルでブロッキングする。プレートを洗浄し、アデノウィルス誘導rhIL−17A又はE.coli誘導ヒトIL−17(IL−17A)(R&DSystems,Minneapolis,Minnesota,USA)(0.1μg/ml)の何れか100μl/ウェルをELISA試験緩衝液に添加し、軌道振とう機上25℃で2時間インキュベートする。プレートを洗浄し、スクリーニングすべきモノクローナル抗体を、4倍連続希釈を用いながら1000ng/ml〜0.0813ng/mlの範囲で7ウェルの列に渡って連続希釈する。プレートを軌道振とう機上25℃で1.5時間インキュベートする。プレートを洗浄し、100μl/ウェルの二次抗体(F(ab’)2ヤギ抗ヒトカッパ軽鎖−HRP、1:20,000希釈物、BioSource、Carlsbad,California,USA)を、試験ブランクウェルを除いて添加する。プレートはサイクル間プレート回転により2回洗浄する(即ちサイクル当たり3洗浄を2サイクル)。TMB基質(Kirkegaard&Perry Laboratories,Gaithersburg,Maryland,USA)を100μl/ウェルで添加し、そして軌道振とう機上で3〜5分間インキュベートする。停止溶液を添加し(100μl/ウェル)、そしてプレートの吸光度をプレートリーダー(Versamax,Molecular Devices,Sunnyvale,California,USA)上450〜570nmにおいて読み取る。
本発明の抗体16C10の種々の形態のELISAの結果を表6に示す。結合はEC50(最大シグナルの半分を得るために必要な抗体の濃度)として報告する。結果は16C10の全ての形態で結合が検出されることを示している。誤差範囲とともに示した値は標準偏差を伴った多数回の測定の平均を示す。
(実施例7)
抗ヒトIL−17A抗体の結合試験
電気ケミルミネセンス(ECL)試験を用いたラット及びキメラ抗ヒトIL−17A抗体の結合の測定
IGEN,Inc.(Gaithersburg,Maryland,USA)により開発されたオリゲン電気ケミルミネセンス技術を用いてFLAG−huIL−17Aに対するラット抗ヒトIL−17A抗体(及び1つのキメラ抗体)の結合を計測した。Elecsys(登録商標)イムノアッセイシステム、Roche Diagnostics(Indianapolis,Indiana,USA)を参照できる。電気ケミルミネセンス技術は安定なルテニウムの金属キレート(Ori−TAG)を使用し、これはトリプロピルアミン(TPA)の存在下で、電圧適用時に電気ケミルミネセンスを発生する。直径ミクロン単位の常磁性ビーズが固相として機能し、急速な試験動態を促進する。ビーズ/複合体はフローセル中でチャネリングさせ、そして磁気の適用により電極において捕捉する。電圧を適用し、そして生じた電気ケミルミネセンスを計測する。
ECL試験は以下のとおり実施する。試験緩衝液50μl中の抗ヒトIL−17AmAbの3倍連続希釈物を96穴マイクロプレート中に作製し、第1のウェルにおいて1〜3μg/mlの終濃度を得る。試験緩衝液50μl及び50ng/mlのビオチン化FLAG−huIL−17A50μlを各ウェルに添加し、その後OriTag標識ヤギ抗ラットIgG(H+L)pAb(450ng/mlで50μl)又は抗hIgGmAb(500ng/mlで50μl)の何れかを添加する。最後に、オリゲンストレプトアビジン−ダイナビーズ50μlを0.1mg/mLで各ウェルに添加する。25℃で1時間インキュベートした後、プレートをオリゲンMシリーズM8/384分析器で処理する。GraphPadプリズムソフトウエア(GraphPad Software,San Diego,California,USA)を用いてデータをプロットし、そして計算された曲線下部面積が結合の概ねの尺度となる。
結果を表7に示す(これは一部2連の測定を包含する)。FLAG−huIL−17Aへのラット16C10の結合を示す2列は2連の測定を示す。表中の全てのラット抗ヒトIL−17A抗体(1D10、16C10、30C10、23E12)はキメラ16C10の場合と同様にFLAG−huIL−17Aに結合した。4抗体全てがカニクイザルIL−17Aにも結合していた。抗体16C10及び30C10はこの試験の条件下ではマウスIL−17Aには結合しなかったのに対し、抗体1D10及び23E12は結合した。
KinExA技術を用いたラット及びヒト化抗ヒトIL−17A抗体に関する平衡解離定数(K
d)の測定
抗ヒトIL−17A抗体に関する平衡解離定数(K
d)をKinExA3000機材(Sapidyne Instruments Inc.,Boise,Idaho,USA)を用いて測定した。KinExAは抗体、抗原及び抗体−抗原複合体の混合物中の未複合体化抗体の濃度の計測に基づいた速度論的排除試験法の原理を使用する。例えばDarling and Brault(2004)Assay Drug Dev.Technol.2(6):647−57を参照できる。遊離抗体の濃度は極めて短時間固相固定化抗原に混合物を曝露することにより計測する。実際は、これは、フローセル中に捕獲された抗原コーティング粒子を通過して液相の抗原−抗体混合物を流動させることにより達成される。機材により発生したデータは専用ソフトウエアを用いて分析する。平衡定数は以下の仮定に基づいた数学的理論を用いて計算する。
1.結合は以下の平衡に関する可逆的結合式に従う。
kon[Ab][Ag]=koff[AbAg]、式中Kd=koff/kon
2.抗体(Ab)及び抗原(Ag)は1:1で結合し、そして総抗体は抗原−抗体複合体(AbAg)+遊離抗体に等しい。
3.機材のシグナルは遊離の抗体濃度に対して直線関係にある。
KinExA分析は数種のラット抗ヒトIL−17A抗体、そのヒト化変異体、及びこれらのヒト化抗体の配列変異体に対して実施した。IL−17Aはヒト(「hu」)、カニクイザル(「cyno」)又はマウス(「mu」)の何れかより誘導した。同じ種に由来するIL−17Aを各KinExA測定に関する固定化及び溶液相の両方において使用した。ポリ(メチルメタクリレート)(PMAA)粒子(98ミクロン)をSapidyne”Protocol for coating PMMA particles with biotinylated ligands having short or nonexistent linker arms”に従ってヒト、カニクイザル、又はマウスのIL−17Aでコーティングした。全ての実験の操作法はKinExA3000マニュアルに従って実施した。全ての試行は2連で実施した。KinExAの条件を表8に示す。
抗原の2倍連続希釈物を製造し、一定濃度において抗体と混合した。混合物を25℃で2時間インキュベートすることにより平衡化させた。
表9はKinExA分析の結果を示す。KinexA分析に関するモル濃度は、抗体上の結合部位2つの存在及びIL−17Aの2量体としての性質を考慮するために、抗体については75kDa、そしてIL−17Aについては15kDaの分子量に基づいて計算した。一部の抗体の場合は、抗体及び/又は抗原の異なるバッチを用いて重複実験を実施し、その場合には平均値を標準偏差とともに表9に示した。ヒト化16C10wt抗体及び親ラット16C10抗体に関する結合定数は約5〜10pMで同様であり、ヒト化がヒトIL−17Aに対する親ラット16C10の高親和性を有意に低減しなかったことを示していた。最終ヒト化16C10抗体(ラット16C10と比較してN54Q及びM96A置換を有する)を包含する種々のアミノ酸置換(N54Q、M96A、M100hF)を取り込んだヒト化16C10も試験したところ、1〜10pM範囲の同様に高い結合定数を有していることがわかった。結合hu16C10のFabフラグメントは完全な抗体と比較して高い親和性(16pM)を保持していた。本発明の他の抗体(ラット1D10、ラット23E12、ラット30C10)も又、高い親和性でFLAG−huIL−17Aに、そしてカニクイザルIL−17Aに結合していた。ラット1D10はヒト及びカニクイザルのIL−17Aに対する親和性と同様に10pMの親和性でマウスに結合したが、ラット23E12はマウスIL−17Aに対して200〜2000低値の親和性を有していた(7000pM)。抗体16C10及び30C10はマウスIL−17Aに結合しなかった(データ示さず)。
当該分野で知られた別の方法、例えばBiacore(登録商標)表面プラズモン共鳴スペクトル分析も本発明の抗体の親和性を計測するために使用してよい。Biacore(登録商標)分析を本発明の抗体の数種に対して実施したが、結合親和性が一般的に高値すぎるため正確に計測することができず、特に、解離速度はこの方法での計測には緩徐過ぎるものであった。しかしながらそのような分析は、より低い親和性の抗IL−17A抗体又はより速い解離速度定数を有する抗IL−17A抗体の分析においては有用である場合がある。
(実施例8)
抗IL−17A抗体に関する滑膜細胞試験
IL−17A(rhIL−17A又はネイティブhuIL−17Aの何れか)の生物学的活性をブロックする本発明の抗IL−17A抗体の能力は以下の通り、ヒト滑膜細胞の一次培養物中IL−6及びIL−8のIL−17A誘導発現をモニタリングすることにより計測する。滑膜細胞は膝置換患者から得た慢性関節リューマチ滑膜のコラゲナーゼ消化により単離する。滑膜細胞は生育培地(DMEM、10%BCS、1×Pen−Strep(50IU/mlペニシリン、55μg/mlストレプトマイシン)、1×ベータメルカプトエタノール(50μM)、1×グルタミン(20mM)、25mMHEPES)中で連続継代することにより富化し、継代数3で凍結し、そして液体窒素中に保存する。試験で使用する準備ができた時点で、細胞のバイアルを解凍し、プレーティングし、そして細胞をほぼコンフルエントとなるまで生育させる。次に細胞をトリプシン/EDTAを用いながらより大きいフラスコ中に1:2で継代する。十分な細胞が増殖した時点で、細胞をトリプシン処理し、96穴又は48穴プレートにプレーティングし、そしてそれらを完全コンフルエントとなるまで生育させることにより実験を開始する。
IL−17Aを120ng/ml、即ち30ng/ml(1nM)の終濃度の4×となるまで希釈する。IL−17Aはヒト型(rhIL−17A及びネイティブのhuIL−17A)であるか、非ヒト霊長類、この場合はカニクイザルに由来する。4×IL−17A保存液の100及び300μlのアリコートずつを空の96穴及び48穴のプレートにそれぞれ添加する。
試験すべき抗IL−17A抗体は、実験において試験するべき最大濃度の4×となるまで生育培地で希釈する。4×の抗IL−17A保存液を1:2で連続希釈することにより試験の抑制ダイナミックレンジが包含されるようにする。連続希釈抗体試料の各々(全てその終濃度の4×である)を空プレート中4×IL−17A溶液と1:1混合することによりIL−17A及び抗IL−17A抗体の両方の2×濃度を有する混合物を形成する。これらの混合物を、4時間を超える時間、組織培養インキュベーター中で37℃において平衡化させる。
培地を接着したコンフルエントの滑膜細胞から除去し、そして100μl(96穴プレート)又は200μl(48穴プレート)の生育培地と交換する。等しい容量の2×リガンド/2×抗体溶液を滑膜細胞に添加して1×IL−17A(最終30ng/ml)及び1×抗体とする。各ウェル(データポイント)は2連で試行する。滑膜細胞を3日間活性化(即ちIL−17A/抗体混合物に曝露)し、この時点で上澄みを96穴プレートに移し、場合により凍結し、そして分析時まで−80℃で保存する。上澄みの入ったマイクロプレートを解凍し、各溶液を、生育培地を用いて1:10希釈する。上澄みを、IL−6及びIL−8について、Luminexビーズペア(Upstate,Charlottesville,Virginia,USA)を用いながら製造元の説明書に従って分析する。
結果を表10(IL−6)及び11(IL−8)に示す。誤差範囲を伴って示した数値は標準偏差と共に多数回の測定の平均を示す。種々の型の抗体16C10、例えば元のラットCDRを有する16C10のヒト化形態(「hu16C10(wt)」)、並びに重鎖CDRにおいて1、2又は3つの変化を有する数種の変異体(一般的に「hu16C10X##Z」、ここでXはhu16C10(wt)の重鎖における残基##におけるアミノ酸であり、そしてZは新しいアミノ酸である)に関する結果を示す。「NHPIL−17A」は非人霊長類誘導IL−17A、この場合はカニクイザルIL−17Aである。「ネイティブのhuIL−17A」とは天然のシグナル配列を使用して前駆体蛋白を製造する場合に生成する成熟huIL−17Aを指し、そして2つのN末端アミノ酸の非存在によりrhIL−17Aとは異なっている。濃度及びIC50の値はng/mlで表示するが、pM単位で表示する場合もある。例えば30ng/mlのrhIL−17Aは1000pM(MW=30kDa)に相当し、そして70ng/mlの抗IL−17A抗体は約470pM(MW=150kDa)に相当する。
(実施例9)
抗IL−17A抗体に関するNHDF試験
IL−17Aの生物学的活性をブロックする本発明の抗IL−17A抗体の能力は、正常ヒト(成人)皮膚線維芽細胞(NHDF)初代細胞系統におけるIL−6のrhIL−17A誘導発現をモニタリングすることにより計測される。手短にいえば、種々の濃度の試験すべき抗IL−17A抗体をrhIL−17Aとともにインキュベートし、そして得られた混合物を次にNHDF細胞培養物に添加する。その後IL−17A活性を阻害する対象抗体の能力の尺度としてIL−6生産を測定する。より詳細なプロトコルを以下に示す。
目的の抗IL−17A抗体の2倍連続希釈物を40μg/mlの保存溶液から出発して製造する(2連)。rhIL−17Aの保存溶液は120ng/mlで製造する。rhIL−17A保存溶液70μlをマイクロプレートのウェル中の抗IL−17A抗体希釈物70μlと混合し、20分間室温でインキュベートする。次にこの混合物各々の100μlを、前夜1×104NHDF細胞/ウェル(100μL)を播種しておいたマイクロプレートのウェルに添加し、37℃でインキュベートする。NHDF細胞(第4継代)をCambrex Bio Science(Baltimore,Maryland,USA)から入手する。rhIL−17Aの終濃度は30ng/ml(1nM)とし、そして抗体は10μg/mlから2分の1の間隔で低下する濃度範囲とする。プレートを24時間37℃でインキュベートした後、上澄みを回収し、IL−6ELISAで使用するために50μLを採取する。
ヒトIL−6の検出のためのELISAは以下の通り実施する。試薬は一般的にR&D Systems(Minneapolis,Minnesota,USA)より入手する。hIL−6捕捉抗体(4μg/ml溶液を50μl/ウェル)をマイクロプレートのウェルに移し、これをシールして4℃で一夜インキュベートする。プレートを3回洗浄し、次に1時間以上ブロッキング緩衝液100μl/ウェルでブロックする。次にプレートを再度3回洗浄する。実験試料(培養上澄み50μl)及び対照(IL−6蛋白の連続希釈物)を50μlでウェルに添加し、2時間インキュベートする。プレートを3回洗浄し、50μl/ウェルのビオチン化抗IL−6検出抗体(300ng/ml)を添加する。プレートを2時間室温でインキュベートし、3回洗浄し、ストレプトアビジンHRP100μl/ウェルを添加し、20分間インキュベートする。プレートを再度洗浄し、ABTS(BioSource,Carlsbad,California,USA)を添加(100μl/ウェル)し、そして20分間インキュベートする。停止溶液を添加(100μl/ウェル)し、405nmにおける吸光度を計測する。
目的の抗IL−17A抗体に関するIC50はrhIL−17A誘導IL−6生産のレベルを添加抗IL−17A抗体の非存在下で観察されるレベルの50%まで低減するために必要な抗体の濃度である。
結果を表12に示す。
(実施例10)
包皮線維芽細胞試験抗IL−17A抗体
IL−17Aの生物学的活性をブロックする本発明の抗IL−17A抗体の能力をHS68包皮線維芽細胞系統のrhIL−17A誘導発現をモニタリングすることにより計測する。rhIL−17Aに応答したIL−6の生産の低減を、本発明の抗IL−17A抗体によるブロッキング活性の尺度として使用する。
線維芽細胞系統のパネルにおけるIL−17RC(IL−17A受容体)の発現の分析は、潜在的IL−17A応答性細胞系統としてヒト包皮線維芽細胞系統HS68(ATCC CRL1635)を同定している。これはポリクローナルヤギ抗ヒトIL−17R抗体(R&D Systems,Gaithersburg,Maryland,USA)、次いでフィコエリスリン(PE)−F(ab’)2ロバ抗ヤギIgG(Jackson Immunoresearch,Inc.,West Grove,Pennsylvania,USA)による間接的免疫蛍光染色、及びフローサイトメーター上でのPE免疫蛍光シグナルの分析(FACScan、Becton−Dickinson,Franklin Lakes,New Jersey,USA)により確認されている。モデルをさらに有効化するものとして、IL−17A(アデノウィルス誘導rhIL−17A及び市販のE.coli誘導IL−17Aの両方、R&D Systems)は5〜10ng/mlのEC50でHS68細胞におけるIL−6の用量応答性の誘導を誘導しており、この誘導は市販のポリクローナル及びモノクローナル抗IL−17A抗体(R&D Systems)と共に予備インキュベートすることによりブロックされている。
IL−17A抑制試験は以下の通り実施する。HS68細胞のコンフルエントのT−75フラスコ(約2×106細胞)をCa++及びMg++非含有のDulbeccoのPBSで洗浄し、次に5%CO2においてインキュベーター中37℃で2〜5分細胞解離培地(Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouri,USA)5mlとともにインキュベートした。次に細胞を組織培養(TC)培地5mlで回収し、1000rpmで5分間遠心分離した。TC培地の組成はDulbecco変性Eagle培地(グルタミン添加)、10%熱不活性化ウシ胎児血清(Hyclone)、10mMHepes、1mMピルビン酸ナトリウム、ペニシリン、及びストレプトマイシンとする。細胞を2mlのTC培地に再懸濁し、トリパンブルーで1:1希釈し、計数した。細胞の濃度はTC培地中1×105細胞/mlに調節し、そして0.1ml/ウェルのアリコートずつを0.1mlTC培地の入った平底プレートのウェルに分注する。細胞を一夜生育させ、そして上澄みを吸引し、細胞を新鮮TC培地0.2mlで洗浄する。
試験すべき抗IL−17Aを2倍または3倍の段階で連続希釈することにより、IL−17A抑制試験において1〜0.001μg/mlの最終抗体濃度が得られるように使用しうる一連の保存溶液を得る。ラットIgG対照を各試験において使用し、並びに培地のみの試料も対照として使用することによりHS68細胞における自発的IL−6生産を計測する。TC培地をHS68細胞の入ったプレートのウェルから吸引する。種々の濃度の抗IL−17A抗体のアリコートずつ(各0.1ml)を5分間37℃でHS68細胞とともにウェル中で予備インキュベートした後に、0.1mlの20ng/mlrhIL−17Aを添加することにより、10ng/mlのrhIL−17Aの終濃度を得る(IL−17A2量体約330pM)。細胞を37℃で24時間インキュベートし、上澄み(50〜100μl)を回収し、例えばPharmingenより入手可能なヒトIL−6ELISAキット(OptEIA−BD Biosciences,Franklin Lakes,New Jersey,USA)を用いながらIL−6に関して試験する。
包皮線維芽細胞IL−17A抑制試験における本発明の数種のラット抗ヒトIL−17A抗体に関する結果を表13に示す。
(実施例11)
Ba/F3−hIL−17Rc−mGCSFR増殖試験
IL−17Aの生物学的活性をブロックする本発明の抗IL−17A抗体の能力を、IL−17A刺激に応答して増殖するように操作された細胞系統のrhIL−17A誘導増殖をモニタリングすることにより計測する。特に、マウス顆粒球コロニー刺激因子受容体(GCSFR)の膜貫通ドメイン及び細胞質領域に融合したヒトIL−17A受容体(hIL−17RC)の細胞外ドメインを含む融合蛋白を発現するようにBa/F3細胞系統(IL−3依存性ネズミプロB細胞)を修飾した。得られた細胞系統は本明細書においてはBa/F3 hIL−17Rc−mGCSFRと称する。細胞外IL−17RCドメインへのホモ2量体IL−17Aの結合はhIL−17Rc−mGCSFR融合蛋白受容体の2量化をもたらし、これはBa/F3細胞の増殖を、それらのmGCSFR細胞質ドメインを介してシグナルする。そのような細胞はIL−17Aに応答して増殖し、抗IL−17A抗体のようなIL−17A抑制剤に関する、好都合な試験法をもたらす。
IL−17A刺激に対するBa/F3−hIL−17Rc−mGCSFR増殖試験の感度により、他の試験と比較して相対的に低い濃度のrhIL−17A(例えば3ng/ml、100pM)で実験を実施することが可能となるが、それでなお、頑健で容易に計測可能な増殖応答が維持されている。このことは、試験においてrhIL−17Aを上回るモル過剰量を達成するために必要な抗IL−17A抗体の濃度がより低値となることを意味している。より低い抗体濃度で実施される実験は、別様には区別不可能である高親和性抗体の間の判別を可能とする(即ち実験は抗体IL−17A結合曲線における定常状態部分ではなく直線部分に近似するように実施できる)。
抗体及びIL−17Aを、ワーキング濃度までの希釈後であるが実験試料への添加の前に、0.22μmフィルターを通して濾過した。試料の4セットを、96穴の平底組織培養プレートの列に渡って2連で製造した。本実施例においては、生育培地はRPMI1640w/Glutamax(Invitrogen,Carlsbad,California,USA)、55μM 2−メルカプトエタノール、10%配合飼料給餌ウシ胎児血清(Irvine Scientific,Santa Ana,California,USA)、50μg/mlゲンタマイシン、2μg/mlピューロマイシン、及び10ng/ml mIL−3とする。バイオアッセイ培地はピューロマイシン及びmIL−3を含有しない以外は生育培地と同様である。本実施例における全ての連続希釈はBioAssay Medium中に行った。
以下の実験試料(75μl)、即ち、1)生育培地の連続希釈(10ng/mlのmIL−3含有)、2)rhIL−17Aの連続希釈、3)「無抗体」対照を包含する3ng/mlIL−17A(細胞添加後の終濃度)と混合した本発明の抗IL−17A抗体の連続希釈、及び4)IL−17A又はmIL−3の抗体無添加の「細胞のみ」の対照、を製造した。次にBa/F3hIL−17Rc−mGCSFR細胞(7500細胞/ウェル)を添加することにより総容量を100μl/ウェルとし、そしてプレートを約40時間37℃/5%CO2においてインキュベートした。AlamarBlue(登録商標)指示薬染料(11μl/ウェル)を添加し、プレートを6〜8時間37℃/5%CO2においてインキュベートした。次にプレートを570nm及び600nmにおける吸光度の相違に関して読み取った。IC50値を非直線フィット/ジグモイド用量応答/変数傾きを用いて求めた。
Ba/F3 hIL−17Rc−mGCSFR増殖試験の結果を表14に示す。
(実施例12)
抗IL−17A抗体の交差ブロッキング
本発明の異なる種類の抗IL−17A抗体は同じエピトープ、オーバーラップするエピトープ、又はオーバーラップしないエピトープ、例えば2つ以上の抗体が同時に1つのIL−17A単量体に結合しうるに足ほど区別できるエピトープに結合する場合がある。受容体結合のために重要であるIL−17Aの部分に結合する抗体はIL−17Aの受容体媒介生物学的活性をブロックすることになる。そのような抗体は本明細書においては、「中和抗体」と称する。結合するが受容体結合をブロックしない抗体は非中和抗体と称する。
IL−17A及び抗IL−17A抗体に対する実験を実施する場合、サンドイッチELISAによるなどして、試料中のIL−17A(又は抗IL−17A)のレベルを調べられることは有用である。例えば実施例6を参照できる。1つのフォーマットにおいて、IL−17A ELISAでは、捕捉抗体でマイクロプレートのウェルをコーティングすること、IL−17Aを含有すると考えられる実験試料を添加すること、及び検出抗体を結合することを行う。捕捉抗体及び検出抗体は同時にIL−17Aに結合できなければならない。
同様の試験を用いて抗IL−17A抗体のレベルを測定してよく、その場合、IL−17Aの標準溶液を捕捉抗体でコーティングされたウェルに結合させ、その後IL−17Aを含有すると考えられる実験試料を添加し、そして二次検出抗体を結合させる(例えば本発明のIgGヒト化抗体の場合は抗ヒトIgG抗体)。IL−17AサンドイッチELISAの場合と同様、捕捉抗体は試験すべき抗体の結合を妨害できない。
本実施例において概説するELISA実験における使用のための好ましい抗体対は、交差ブロッキング実験を実施することにより求めることができる。交差ブロッキング実験において、第1の抗体をマイクロプレートのウェル上にコーティングする。次にビオチン化した第2の抗体をIL−17Aと混合し、そして結合させたのち、混合物をコーティングされたウェルに添加してインキュベートする。ビオチン化第2抗体は種々の濃度で添加(即ち滴定)することにより、少なくとも一部の試料においては抗体がホモ2量体IL−17Aよりも二倍(又はそれより高値)モル過剰において存在することを確保してよい。次にプレートを洗浄し、ウェル中に結合しているビオチン化第2抗体の存在又は非存在を標準的な方法により測定する。
2抗体が交差ブロッキングする場合、第2の抗IL−17A抗体を含有しない(又はアイソタイプ対照を含有する)対照試料と比較して、第2抗IL−17A抗体の存在下のプレートにはシグナル(IL−17A結合)の低下が生じる。交差ブロッキングしない抗体の対はサンドイッチELISAのような試験において共に使用できる。IL−17Aの2量体の性質により特定のフォーマット(例えばIL−17Aが検出抗体の添加よりも前にプレート上の捕捉抗体に結合する場合)においてはELISAにおける交差ブロッキング抗体の対を使用することが可能であるが、抗体の非交差ブロッキング対が一般的には好ましい。
本発明の数種の抗IL−17A抗体(クローン4C3、6C3、8G9、12E6,16C10、18H6、23E12、29H1、30C10、1D10、21B12、29G3)を交差ブロッキングのために対として使用した。29G3/1D10と29G3/21B12を除いて全ての対が交差ブロッキングし、従ってこれらの抗体対をELISAで使用することができた。ELISAで使用できる抗IL−17A抗体の対を同定することのほかに、これらの結果は、抗体29G3により結合されるエピトープが抗体1D10及び21B12により結合されるエピトープとは機能的又は物理的に区別可能であることを示している。これらのデータは又、1D10及び21B12に対するエピトープは16C10に対するエピトープとオーバーラップしているが同一ではないことも明らかにしている。
機能的に区別可能なエピトープに結合する抗IL−17A抗体のこのような対は、例えば抗IL−17A免疫組織化学(IHC)を有効化する場合において有用である。例えば、組織試料が機能的に区別可能なエピトープに結合する2つの異なる抗IL−17A抗体を用いて実施したIHCにおいてIL−17A発現の同じパターンを示す場合、試験は、組織試料中の一部の他の擬似的な交差反応蛋白ではなくIL−17Aを検出しているという可能性がさらに高くなる。
そのような非交差ブロッキング抗体対はまた例えば抗IL−17A抗体療法を受けている患者由来の試料における治療用抗IL−17A抗体の存在下のIL−17Aの検出のためのELISAを設計する場合に有用であり、その場合、治療用抗IL−17A抗体の過剰量の存在は、ELISA抗体が治療用抗体と非交差ブロッキング性でなければ抗IL−17A ELISAによる検出をブロックすることになる。
(実施例13)
抗IL−17A抗体を用いた遺伝子療法
本発明の抗IL−17A抗体はまた遺伝子療法により対象に投与してよい。遺伝子療法の研究法においては、対象の細胞を本発明の抗体をコードする核酸で形質転換する。次に核酸を含む対象が内因性に抗体分子(イントラボディー)を生産する。例えば、Alvarez等は遺伝子療法の研究法を用いて対象に単鎖抗ErbB2抗体を導入している。Alvarez等(2000)Clinical Cancer Research6:3081−3087。Alvarez等により開示された方法は対象への本発明の抗IL−17A抗体分子をコードする核酸の導入に容易に適合させてよい。1つの実施形態において、遺伝子療法により導入される抗体分子は完全ヒト型の単鎖抗体である。
本明細書に記載した遺伝子療法の研究法は、長期の遺伝子発現が達成されれば治療を僅か1回のみ、或いは多くとも限定回数のみ実施すればよいという潜在的利点を有している。このことは対象における適切な治療レベルを維持するためには周期的に反復しなければならない抗体投与とは対照的である。
核酸は当該分野で知られた何れかの手段により対象の細胞に導入してよい。一部の実施形態においては、核酸はウィルスベクターの部分として導入される。ベクターの誘導元としてよいウィルスの例は、レンチウィルス、ヘルペスウィルス、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス(AAV)、ワクシニアウィルス、バキュロウィルス、アルファウィルス、インフルエンザウィルス、及び所望の細胞向性を有する他の組み換えウィルスを包含する。種々の企業が市販のウィルスベクターを製造しており、例えばAvigen,Inc.(Alameda,CA;AAVベクター);Cell Genesys(Foster City,CA;レトロウィルス、アデノウィルス、AAVのベクター、及びレンチウィルスベクター);Clontech(レトロウィルス及びバキュロウィルスベクター);Genovo,Inc.(Sharon Hill,PA;アデノウィルス及びAVVのベクター);Genvec(アデノウィルスベクター);IntroGene(Leiden,Netherlands;アデノウィルスベクター);Molecular Medicine(レトロウィルス、アデノウィルス、AAV、及びヘルペスウィルスベクター);Norgen(アデノウィルスベクター);Oxford Biomedica(Oxford,United Kingdom;レンチウィルスベクター);及びTransgene(Strasbourg,France;アデノウィルス、ワクシニア、レトロウィルス、及びレンチウィルスベクター)が挙げられる。
ウィルスベクターを構築して使用する方法は当該分野で知られている(例えばMiller等(1992)BioTechniques7:980−990参照)。好ましくは、ウィルスベクターは複製欠損性(自律複製不可能)であり、従って標的細胞において感染性ではない。好ましくは複製欠損性ウィルスは、ウィルス粒子を製造するために自身のゲノムをカプシド化するのに必要であるそのゲノムの配列のみを保持している最小限のウィルスである。ウィルス遺伝子を完全に、又はほぼ完全に欠いている欠損性ウィルスが最も好ましい。欠損性ウィルスベクターの使用は、ベクターが他の細胞に感染することができるという懸案を伴うことなく特定の局所的区域における細胞への投与を可能にし、これにより組織特異的ターゲティングが可能となる。例えばKanno等(1999)Cancer Gen.Ther.6:147−154;Kaplitt等(1997)J.Neurosci.Meth.71:125−132;及びKaplitt等(1994)J.Neuro−Onc.19:137−142を参照できる。
アデノウィルスは種々の細胞片に本発明の核酸を効率的に送達するために修飾できる真核生物DNAウィルスである。弱毒化されたアデノウィルスベクター、例えばStratford−Perricaudet等(1992)(J.Clin.Invest.90:626−630)により記載されたベクターが一部の例において望ましい。種々の複製欠損性のアデノウィルス及び最小限のアデノウィルスベクターが報告されている(PCT公開WO94/26914、WO94/28938、WO94/28152、WO94/12649、WO95/02697、及びWO96/22378)。本発明の複製欠損性組み換えアデノウィルスは当該分野で知られた何れかの手法により製造できる(Levrero等(1991)Gene101:195;EP185573;Graham(1984)EMBO J.3:2917;Graham等(1977)J.Gen.Virol.36:59参照)。
アデノ関連ウィルス(AAV)は安定した部位特異的な態様においてそれらが感染する細胞のゲノム内に組み込まれることができる比較的小型のDNAウィルスである。それらは細胞の生育、形態又は分化に対する如何なる作用も誘導することなく、広範なスペクトルの細胞を感染させることができ、そしてそれらはヒトの病理には関与しないと考えられる。インビトロ及びインビボで遺伝子を転移させるためのAAV誘導ベクターの使用が報告されている(例えばDonsante等(2001)Gene Ther.8:1343−1346;Larson等(2001)Adv.Exp.Med.Bio.489.45−57;PCT公開WO91/18088及びWO93/09239;米国特許4,797,368及び5,139,941;及びEP488528B1参照)。
別の実施形態においては、遺伝子は例えば米国特許5,399,346、4,650,764、4,980,289、及び5,124,263;Mann等(1983)Cell33:153;Markowitz等(1988)J.Virol.62:1120;EP453242及びEP178220に記載の通りレトロウィルスベクター中に導入できる。レトロウィルスは分裂中の細胞に感染する組み込み型のウィルスである。
レンチウィルスベクターは数種の組織型、例えば脳、網膜、筋肉、肝臓及び血液における本発明の抗体分子をコードする核酸の直接送達及び持続性発現のための薬剤として使用できる。ベクターはこれらの組織における分裂中及び非分裂の細胞を効率的に形質導入し、そして抗体分子の長期の発現を維持することができる。考察についてはZufferey等(1998)J.Virol.72:9873−80及びKafri等(2001)Curr.Opin.Mol.Ther.3:316−326を参照できる。レンチウィルスパッケージング細胞系統が当該分野で入手可能であり、そして一般的に知られており、遺伝子療法のための高い力価のレンチウィルスベクターの製造を容易にしている。例としては、少なくとも3〜4日間106IU/mlより高値でウィルス粒子を生成することができるテトラサイクリン誘導性VSV−G疑似型レンチウィルスパッケージング細胞系統が挙げられ、Kafri等(1999)J.Virol.73:576−548を参照できる。誘導性の細胞系統により生産されるベクターはインビトロ及びインビボで非分裂中の細胞を効率的に形質導入するために必要に応じて濃縮することができる。
シンドビスウィルスは1953年に世界中の種々の地域でそれが発見されて以来広範に研究されているアルファウィルス属のメンバーである。アルファウィルス、特にシンドビスウィルスを基にした遺伝子形質導入はインビトロで十分研究されている(Straus等(1994)Microbiol.Rev.58:491−562;Bredenbeek等(1993)J.Virol.67;6439−6446;Iijima等(1999)Int.J.Cancer80:110−118;及びSawai等(1998)Biochim.Biophys.Res.Comm.248:315−323参照)。アルファウィルスベクターは、発現コンストラクトの迅速な操作、感染性粒子の高い力価の保存用液の製造、非分裂細胞の感染、及び高レベルの発現といった多くの特性により、開発すべき他のウィルス誘導ベクター系の望ましい代替品とされる(Strauss等(1994)Microbiol.Rev.58:491−562)。遺伝子療法のためのシンドビスウィルスも報告されている。(Wahlfors等(2000)Gene.Ther.7:472−480及びLundstrom(1999)J.Recep.Sig.Transduct.Res.19(1−4):673−686)。
別の実施形態においては、ベクターはリポフェクションによるか、又は他のトランスフェクション促進剤(ペプチド、重合体など)を用いて細胞内に導入できる。マーカーをコードする遺伝子のインビボ及びインビトロのトランスフェクションのためのリポソームを製造するために合成カチオン性脂質を使用できる(Felgner等(1987)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA84:7413−7417及びWang等(1987)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 84:7851−7855)。核酸の転移のための有用な脂質の化合物及び組成物はPCT公開WO95/18863及びWO96/17823及び米国特許5,459,127に記載されている。
ネイキッドのDNAプラスミドとしてインビボでベクターを導入することも可能である。遺伝子療法用のネイキッドDNAベクターは当該分野で知られた方法、例えばエレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈澱、遺伝子銃の使用、又はDNAベクタートランスポーターの使用により所望の宿主細胞内に導入できる(例えばWilson等(1992)J.Biol.Chem.267:963−967;Williams等(1991)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 88:2726−2730参照)。受容体媒介DNA送達の研究法もまた使用できる(Wu等(1988)J.Biol.Chem.263:14621−14624)。米国特許5,580,859及び5,589,466は哺乳類におけるトランスフェクション促進剤を使用しない外因性DNA配列の送達を開示している。エレクトロトランスファーと称される比較的低電圧の高効率のインビボのDNA転移手法もまた報告されている(Vilquin等(2001)Gene Ther.8:1097;Payen等(2001)Exp.Hematol.29:295−300;Mir(2001)Bioelectrochemistry53:1−10;PCT公開WO99/01157、WO99/01158及びWO99/01175)。
本明細書に概説する遺伝子療法法はインビボで実施してよく、或いはそれらはエクスビボで実施してよく、その場合、細胞を対象から取り出し、インビトロの遺伝子療法の方法で形質転換し、そしてその後対象内に再導入する。例えばWorgall(2005)Pediatr.Nephrol.20(2):118−24を参照できる。
(実施例14)
親抗体のCDRのカセット突然変異誘発
本発明の抗ヒトIL−17A抗体(例えば16C10)のCDR配列の最適化を、ショットガンスキャニング突然変異誘発を用いて実施する。CDR内のどの残基がIL−17A結合のために最も重要であるかを調べるためにアラニンスキャニング突然変異誘発を用いる(実施例19参照)。CDR1つ以上の内部の残基1つ以上に対するコドンをアラニンコドンと置き換えるか、又はアラニンコドンをグリシンコドンと置き換え、そして得られた抗体を該当する活性(例えば本明細書の種々の他の実施例に示すようなIL−17A結合親和性、競合試験における受容体ブロッキングに関するIC50、バイオアッセイ)に関して試験する。コドン置換は例えば、限定しないが部位指向性突然変異誘発(例えばKunkel、Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA(1985)82:488)及びPCR突然変異誘発を包含する当該分野で知られた何れかの方法により行ってよい。IL−17A結合に重要な残基は又、IL−17A抗体複合体の構造、例えばX線結晶構造を検査することにより決定してもよい。IL−17Aの接触距離内にあるか、又はIL−17A抗体複合体の形成において実質的に埋没している抗体CDR残基が、更に最適化するための候補となる。
次に突然変異に対して最大の感受性を有する残基を例えば相同体スキャニング突然変異誘発によりさらに検討する。本実施例においては、相同アミノ酸による保存的アミノ酸置換を標的残基において実施することにより、優れた品質を有する抗体を検索する。非保存的突然変異もまた、IL−17A結合を同時に崩壊させる可能性があるものの、可能である。
或いは、進歩した抗体配列は親和性突然変異を用いて形成してもよく、その場合、CDR中の選択された残基は、その位置における全ての可能なアミノ酸置換が生じるように突然変異される。別の実施形態においては、WO2005/044853に記載の通り、全20種の可能性のある天然のアミノ酸より少ない数を置換に用いることにより、潜在的な配列の数をより管理しやすいレベルにまで低減しつつ、各位置における化学的多様性はなお、最適に多様であるように選択される限定数のアミノ酸を用いながら与えられるのである(例えば代表的な疎水性の、電荷をもたない極性の、塩基性および酸性アミノ酸)。そのような親和性成熟は、非標準又は修飾されたアミノ酸を包含させる場合は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又はそれより多くを包含する、何れかの数量のアミノ酸による目的の位置における置換により実施できる。
(実施例15)
ヒト組織との交差反応性
ヒト対象における非標的組織との交差反応性に対するヒト化抗ヒトIL−17A抗体hu16C10の傾向を以下の通り試験した。hu16C10をビオチン化二次抗体とともに予備インキュベートすることにより予備複合体を形成した後に組織試料に曝露した。次に抗体複合体(抗体20μg/ml)を組織又は他の試料と混合し、そしてインキュベートすることにより結合させた。次に結合した二次抗体を、ABCイムノパーオキシダーゼ検出を用いて検出した(Vector Labs,Burlingame,California,USA)。Tuson等(1990)J.Histochem Cytochem.38(7):923−6。未関連のヒトIgG1抗体を用いた試料を陰性対照として使用した。
免疫組織化学(IHC)染色はUV樹脂スライド上のrhIL−17A蛋白スポット(Adhesive Coated Slides,Instrumedics,Inc.,St.Louis,Missouri,USA)、IL−17Aをコードするアデノウィルスを感染させたマウス肝細胞、及びヒト慢性関節リューマチ組織を包含する数種の陽性対照標的組織に対してhu16C10を用いて実施した。IHCによれば3種全ての陽性対照において結合が明らかになった(+++)。
次にIHCをヒト組織のパネル(全32検体)に対して実施することにより交差反応性を調べた。これらのヒト組織試料は全てUV樹脂スライド上に搭載した。試料は各組織について3ドナーより得た。スクリーニングしたヒト組織は、副腎、膀胱、小脳、大脳皮質、結腸、ファロピアン管、心筋、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、乳腺、卵巣、膵臓、上皮小体、脳下垂体、胎盤、前立腺、網膜、骨格筋、皮膚、小腸、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、尿管、子宮、及び頸部(子宮)であった。IHCは32組織全てにおいて陰性であった。
このように交差反応性がないことは本発明の抗IL−17A抗体の治療上の使用において幾つかの潜在的利点を有しており、他の組織への非特異的結合に起因する抗体の損失(その結果としての治療効果の低減)を低下させること、及び望ましくない組織への結合に関連する有害作用の可能性を低減することが挙げられる。
(実施例16)
抗IL−17A抗体を用いたコラーゲン誘導関節炎の治療
コラーゲン誘導関節炎(CIA)はヒトにおける慢性関節リューマチに関する広く許容されたマウスモデルである。本発明の抗IL−17A抗体1D10(親ラット抗体であって、そのヒト化型ではない)を、CIAを発現しているマウスに投与することにより、慢性関節リューマチを治療する抗IL−17A療法の能力を評価する。
操作法は以下の通りとした。第0日において、雄性B10.RIIIマウスを完全フロイントアジュバント中に乳化したウシII型コラーゲンで尾部の基部において皮内免疫化した。第21日において、マウスを尾部の基部において送達した不完全フロイントアジュバント中に乳化したウシII型コラーゲンで皮内攻撃した。免疫化群における重度の関節炎の初回兆候が生じた時点で(第21日後)、全ての残余の免疫化マウスを種々の投与群に無作為に割りつけた。動物には800μg、200μg、又は50μgの抗IL−17A抗体1D10;200μgのアイソタイプ対照抗体;又は希釈剤の何れかで処理した。治療は免疫化マウスにおける疾患発症の初日に皮下に行い、そしてその後は週1回で更に4回行った。マウスは第35日に屠殺し、そして肢を10%中性緩衝ホルマリン中に固定し、組織の処理及び切片化に付した。肢は以下の組織病理学的パラメーター、即ち反応性滑膜、炎症、パンヌス形成、軟骨破壊、骨侵食、及び骨形成に関して病理学者が分析した。各パラメーターは以下の疾患尺度、即ち0=疾患無し、1=最小、2=軽度、3=中等度、4=重度、を用いて等級付けした。更に又、肢は目視による疾患重症度スコア(DSS)を用いて評価し、これは0〜3の尺度上で浮腫と紅斑を計測するものであり、0は正常な肢であり、1は肢中1指が炎症を有し、2は2指又はその肢の手掌が炎症を有し、そして3は肢の手掌及び指が炎症を有するものとする。2及び3のスコアは本明細書においては重度又は高度な炎症を有する肢と称する。
結果を図3A〜3Cに示す。各データポイントはある動物に関する全4肢の平均又は全動物に渡る平均ではなく、1つの肢を示している。高い病理学的スコアを示す肢の数の低減は、試験濃度より高い抗IL−17A1D10濃度(28及び7mg/kg)を用いた場合に病理学の3尺度(目視DSS、肢浮腫及び紅斑、軟骨損傷及び骨侵食)で統計学的に有意であった。最低濃度(2mg/kg)による結果は骨侵食について統計学的に有意であり、目視DSS及び軟骨損傷に関して低減していた。同様の利益が炎症肢内の軟骨破壊性酵素(マトリックスメタロプロテアーゼMMP−2、MMP−3、MMP−13)の生産の低減においても観察された。
しかしながら肢の炎症の目視による評価は、例えば低下した骨侵食等、CIAマウスの抗IL−17A治療の治療上の利点を過小評価する場合がある。別の実験において、CIAマウス由来の高度な炎症を有する肢(DSSスコア2又は3)を組織病理学又はマイクロコンピューター断層撮影(マイクロCT)を用いて骨侵食に関して分析した。この試験は、抗IL−17A治療動物が高度な炎症を有する肢の極度に低減したパーセントを有していた(例えば図3A参照)にも関わらず、高度な炎症を有する肢がなお多数残存しており、そして無抗体対照を包含する全ての投与群の高度な炎症を有する肢(DSS=2又は3)を比較することができたため、可能であった。図3Dは希釈剤投与、アイソタイプ対照(rIgG1)投与、及び抗IL−17A抗体投与動物から得た、高度な炎症を有する肢に関する骨侵食のプロットを示す。組織病理学的に計測した骨侵食は、DSSスコアが同様であったにもかかわらず、無抗体対照と比較して抗IL−17A投与動物の肢で有意に低減していた。結果は、骨侵食の低下は、DSSスコアで計測した場合に炎症の見かけの改善がなかった肢においても抗IL−17A治療により達成されることを示している。
同様の結果は、CIAマウスにおける高度な炎症を有する肢における関節に関する骨無機質密度(BMD)を計測するためにマイクロCTを使用した場合にも観察されている。表15は本発明の抗IL−17A抗体(1D10)又はアイソタイプ対照(25D2)の何れかを投与したCIA動物の、0〜3の疾患重症度スコアを有する肢のBMDを示す。同じ目視による疾患重症度を有する関節の場合であっても、1D10抗体投与群はアイソタイプ対照投与動物で観察された骨無機質密度の低下の約半分を有するのみであった。
骨侵食の場合と同様、軟骨破壊及びパンヌス形成(炎症組織の過剰な折り畳みを形成する滑膜管壁の増殖)もまた抗hIL−17A(1D10)投与CIAマウスにおいて低減していた。組織病理学的検討によれば、抗IL−17A抗体投与は、希釈剤又はアイソタイプ投与対照と比較した場合に、重度の病理学的状態を示す肢の数を低減したのみならず、目視による検査に基づいて等しく炎症を有する外観を呈していた(DSSスコア2又は3)肢における病理学的状態をも低減したことを示している。
抗IL−17A抗体を用いた治療は関節の炎症のCIAモデルにおける骨侵食を有意に低減したという観察結果は、そのような療法がヒトにおけるRAの最も消耗性で不可逆の作用の1つを防止する場合に有用であることを示唆している。更に又、高度な炎症を有する肢においてさえも骨侵食が低減されたという観察結果は、実験室、又は究極的には病院においても、関節炎症の単純な目視による評価が治療効果を正確に計測しない場合があることを示唆している。骨侵食の計測は治療処置の作用を追跡するために必要である。そのような方法は限定しないが例えば標準的な2−DX線検出、コンピューター断層撮影(CT)、磁気共鳴画像化(MRI)、超音波(US)、及びシンチグラフィーを包含する。例えばGuermazi等(2004)Semin.Musculoskelet.Radiol.8(4):269−285を参照できる。
(実施例17)
抗IL−17A抗体のBAL好中球リクルートメント試験
インビボでIL−17Aの活性をブロックする本発明の抗IL−17A抗体の能力を、気管支肺胞洗浄液(BAL)好中球リクルートメント試験において評価した。手短にいえば、第−4日において、5週齢の雌性BALB/cAnNマウス(Taconic Farms,Germantown,New York,USA)に本発明の抗IL−17A抗体又はアイソタイプ対照をマウス当たり抗体0、10、30、40、60、100μgの皮下注射により投与した。第−1日において、軽度のイソフラン麻酔下にPBS50μl中のrhIL−17A1μg(又はPBS単独対照)の鼻内投与によりマウスを刺激した。
第0日において、BAL液中に存在する好中球のレベルを以下の通り測定した。マウスをCO2で安楽死させ、血液試料を採取し、これから抗IL−17A抗体の濃度を測定した。針を気管切開により上頸部気管内に挿入し、3回PBS0.3mlを導入及び排出することによりBAL液を収集した。BAL液を遠心分離(400xg、4℃10分間)し、細胞ペレットをPBS中に再懸濁した。総細胞数はトリパンブルー溶液を用いながら血球計において測定した。血球分画は油脂浸積顕微鏡を用いながら(元倍率×1000)標準的な形態学的基準に従ってWright−Giemsa染色(Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouri,USA)によりサイトスピンプレパレーション上で行った。細胞計数はパーセントBAL好中球を求めるために200又は300細胞(リンパ球、単球、好中球、好酸球)に対して実施した。
結果を図4に示す。データは本発明の3種の抗IL−17A抗体(1D10、16C10、及び4C3)並びに対照に関して示す。個体別の実験動物に関する全白血球のパーセントとしてのBAL液中の好中球のパーセントを血清中抗体濃度の関数としてプロットし、凡例に示す通り横軸の左側セグメント(0から1)を対照とした。対照はアイソタイプ対照抗体(抗IL−17A抗体と同じレベルで投与)の投与により低減されない有意な好中球リクルートメントをrhIL−17A刺激が誘導することを示している。これとは対照的に、抗IL−17AデータはrhIL−17A誘導好中球リクルートメントの用量依存的低減を示しており、好中球リクルートメントは40〜60μg/ml超の血清中抗体濃度において本質的にブロックされた。
(実施例18)
抗IL−17A抗体を用いた慢性関節リューマチ(RA)の治療
DMARD1つ以上に対して不十分な応答を有していたRAと診断されたヒト対象が、本発明のヒト化抗IL−17A抗体を用いた治療のために選択される。対象はメトトレキセート(10mg/週)で維持し、そして場合により2週間プレドニソンで治療する。対象には皮下投与により抗IL−17A抗体50又は100mgを毎月投与する。用量は標準的な臨床基準に従って、そして臨床応答に基づいて、特定の対象に対して調節する。
治療への応答はAmerican College of Rheumatologyにより開発された基準に基づいたACRスコアを測定することにより評価する。ACRスコアは腫脹及び圧痛状態の関節の数の低減、患者の全般的評価、医師の全般的評価、疼痛尺度、自己評価による障害、及び急性期の反応体(赤血球沈降速度又はC反応性蛋白)のような多数の臨床パラメーター及び放射線的スコアを統合する複合スコアである。Felson等(1995)Arthritis&Rheumatology38;727−735を参照できる。対象は治療24週でACR20以上のスコアを示せば改善されたとみなす。更に又、種々のACRスコア(例えばACR20、ACR50及びACR70)を達成した対象の集団を用いて臨床治験において投与群とプラセボ群の比較を行うことにより、本発明のヒト化抗IL−17A抗体の臨床薬効を評価できる。
(実施例19)
エピトープ決定
本発明の抗体、例えばラット16C10の結合のために重要であるアミノ酸残基を以下のとおり決定した。
第1のセットの実験は、ラット抗体16C10はヒトIL−17A(hIL−17A)には結合できるがマウスIL−17A(mIL−17A)又は関連のサイトカインであるヒトIL−17Fには結合できないという観察結果に基づくものとした。これらの3蛋白の各々をN末端FLAG(登録商標)ペプチドタグに連結させた(配列番号42の残基1〜9参照)。16C10結合のために重要なアミノ酸残基を同定するために、FLAGタグ付けされたhIL−17A、mIL−17A及びIL−17Fの種々のペプチドサブ配列を、該当する遺伝子の制限フラグメントを混合することにより組み合わせ、ハイブリッドポリペプチドを形成した。これらのハイブリッドポリペプチドの抗16C10への結合をAmplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay(AlphaScreen,Packard BioScience,Wellesley,Massachusetts,USA)において測定することによりhIL−17Aのどのセグメントが結合に重要であるかを調べた。ビオチン化抗体16C10をストレプトアビジンドナービーズに結合させ、そしてハイブリッドポリペプチドを抗FLAG(登録商標)抗体を有するアクセプタービーズに結合させた(Packard BioScience)。ドナー及びアクセプターのビーズを混合し、680nmで照明し、そして発光を520〜620nmで測定した。アクセプタービーズはドナービーズの近接部に保持されており、そして励起されたドナービーズから一重項の酸素がアクセプタービーズに拡散した時に光を発射しているため、抗体16C10に結合したハイブリッドポリペプチドを含有する試料中の増強蛍光として結合を計測した。
結果はhIL−17Aのアミノ酸残基50〜132、63〜132、1〜87、1〜112及び63〜87を含むハイブリッドポリペプチドに抗16C10が結合することを示しており、16C10の結合に重要な残基はhIL−17Aの残基63〜87に存在することを明らかにしている(PSVIWEAKCRHLGCINADG NVDYHM)。この例における全ての残基のナンバリングはhIL−17Aの配列を参照にしている(配列番号40)。例えばhIL−17Aの残基63〜87で置換されたmIL−17A及びIL−17Fポリペプチドは抗体16C10に結合できたが、未損傷のmIL−17A及びIL−17Fはできなかった。
点突然変異も又、hIL−17Aに導入することによりどのアミノ酸残基が抗体16C10結合に重要であるかを調べた。1つの実験においては、数種の残基(45、46、51、52、54、55、56、57、58、60、61、62、67、68、70、72、73、78、80、82、84、85、86、88、93、94、95、100、101、102、105、108、110、111、113、114)においてネイティブのアミノ酸の代わりにアラニンコドンが導入されているアラニンスキャニング突然変異誘発を実施した。hIL−17Aの突然変異体をコードする遺伝子を有する哺乳類発現プラスミドをヒト胚性腎(HEK)293細胞に一過性にトランスフェクトした。上澄みをFLAG(登録商標)ペプチドタグ定量に関して、そして、抗16C10結合に関して、上記した通りAlphaScreenにより分析した。単アミノ酸置換の何れも抗体16C10の結合を有意に低減しなかった。ヒトIL−17F又はマウスIL−17A残基が63〜87フラグメント内の種々の位置、即ちL74Q、G75R、V83E、Y85Hで置換されている、他の点突然変異を作製した。これらの個々の点突然変異の何れも抗体16C10結合を抑制しなかったが、4種の変化の全てを有するhIL−17Aは実質的に低下した結合を示し、hIL−17Aの63〜87フラグメントにおける残基、そしてより特記すれば74〜85フラグメントにおける残基(LGCINADGNVDY)が16C10結合のために重要であることが確認された。
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