JP5117853B2 - 甲状腺刺激ホルモンレセプター試料、該甲状腺刺激ホルモンレセプターの結合部位、抗体及び該結合部位とのホルモンの相互作用、およびそれらの使用 - Google Patents

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Description

本発明は、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)の試料に関し、特に、変異型甲状線刺激ホルモンレセプター(TSHR)の試料、抗体及びそれらとのホルモンの相互作用、それらの使用、それらを提供する方法、TSHR抗体を識別するためのエピトープ領域及び結合部位、並びに、それらの複合体に関する。
甲状腺刺激ホルモン(thyrotropin or thyroid stimulating hormone (TSH))は、甲状腺の機能を調整することにおいて重要な役割を果たす下垂体ホルモンである。その放出は、視床下部で形成されるホルモンTRHによって刺激され、重要な甲状腺ホルモン、チロキシン(T4)及びトリヨードサイロニン(T3)の形成及び放出を制御する。フィードバック・メカニズムを基礎として、血清の甲状腺ホルモン含有量は、TSHの放出を制御する。甲状腺細胞によるT3及びT4の形成は、下垂体によって放出されるTSHが甲状腺細胞膜のTSHRと結合する手順によって、TSHによって促進される。
我々は、TSHRの強力な甲状腺刺激物として作用する、TSHRに対するヒトモノクローナル抗体を特許文献1に記載した。このモノクローナル抗体(hMAb TSHR1)におけるTSHR上の結合部位は、特許文献1に開示されておらず、結合部位またはポケット(pocket)は適合しており、共にフォールド(fold)するレセプターの不連続な領域を含むことがあり得るものと考えられた。hMAb TSHR1などのTSHRに対するヒトモノクローナル又は組換抗体における、TSHRの結合部位又はエピトープ領域の識別、あるいは、必須の結合アミノ酸残基又はそれらの配列の識別は、それとともにTSHR構造及びヒト抗体の相互作用の理解において重要であって、このように自己抗体群の改良された評価およびTSHRへの自己免疫反応と関連する甲状腺の疾患の次の処置を可能にしなければならない。
TSHRに対する様々な形の自己抗体が、TSHRに自己免疫と関連する疾患の経過で形成されることが従来技術において実証される。それら自己抗体の種類に依存して、T3及びT4の形成及び放出のいずれかの阻害は、TSH分子からTSHRの遮蔽のために起こり得る。あるいは、一方で、抗TSHR自己抗体がTSHの作用を模倣して、甲状腺のホルモン類の合成及び放出を刺激するので、これらの甲状腺のホルモン類は制御されずに放出されることができる。
自己免疫甲状腺疾患(AITD)は、世界的に異なる人口に影響を及ぼしている最も一般的な自己免疫疾患である。先に記載されているように、一部のAITD患者(主にグレーブス病を有する患者)は、実質的にTSHRに自己抗体を有する。自己抗体はTSHRと結合して、通常TSHの作用を模倣する。そして、甲状腺を刺激して、高水準の甲状腺のホルモン類を生じる。それら自己抗体は、刺激的な活性を有するように記載される。自己抗体を刺激することはまた、眼球細胞でTSHRsと相互作用し、少なくとも幾つかのグレーブス病の目の徴候をもたらす。ある患者において、自己抗体はTSHRに結合するが、甲状腺ホルモンの生成を刺激せず、活性を阻害することが非特許文献1に記載されている。
TSHR自己抗体の測定は、AITD、特に、グレーブス病の診断及び管理において重要である。現在、TSHR自己抗体を測定するために、3種類のアッセイが使用されており、それらは、
(a)TSHをTSHRの試料に結合することを阻害するためにTSHR自己抗体の能力を測定する競合結合測定;
(b)培養組織でTSHRを発現している細胞を刺激するためにTSHR自己抗体の能力を測定する生物検定;
(c)TSHR自己抗体でTSHR試料の免疫沈降;
である。
このようなアッセイを用いるTSHR自己抗体の測定は、非特許文献1及び2に記載されている。
しかしながら、TSHR自己抗体を測定するために上記した現在利用可能な検査法を用いて多くの限界がある。異なるフォーマットにおいて利用できるタイプ(a)の競合検査法は、通常、感度が高くて、実行するのが比較的容易で、日常的な使用に適応できる。しかしながら、TSHR自己抗体を検出するために周知の競争的放射性受容体測定法によって、実際的な自然の基本的な不利な点を有して(それは、一般に、TSHR試料の結合能力が非常に高感度で、レセプターのまたはそれによって結合される生体分子の変化と反応するという事実に帰する)、加えて、自己抗体群のディファレンシャル診断(differential diagnosis)が行われることができない(例えば、上述したように、自己抗体を刺激するか又は阻害する分化)。
(b)で言及されるタイプの生物検定が関する限り、これらは高価で、時間がかかって、非常に熟練したスタッフを必要とする傾向がある。
タイプ(c)の直接の免疫沈降分析に関して、実際には、それに関連する感度問題がしばしばあり、また、自己抗体群のディファレンシャル診断は現在まで可能でなかった。
前述の考察から認められることができるようにTSHR自己抗体検出において改良された検査法を提供する必要がある。例えば、TSHRに対する自己免疫と関連する自己抗体を刺激することと遮断することを区別することが可能であることが有利である。この目的で、TSHR自己抗体のディファレンシャル診断決定を行う分析方法を特許文献2に記載する。それによって、刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体および非病原性のTSHR自己抗体(刺激的でもなく遮断的でもない)もサンプルにおいて理論的には選択的に決定されることができる。TSHR−キメラが採用され、そこでは、TSHR自己抗体の刺激及び/又は遮断の結合するために必要なTSHRの配列は、レセプターのGタンパク質結合型の異なるレセプターの配列と置換される。また、必要とされる、反応混合物の可溶性にされた野生型組換TSHRの使用が開示される。キメラAがTSHR−キメラを表し、ここで、TSHRの8から165のアミノ酸は、ルトロピン(lutropin)/絨毛膜性腺刺激ホルモンレセプターのうちの10から166のアミノ酸と置換され、キメラBはTSHR−キメラを表し、ここで、TSHRの261から370のアミノ酸は、ルトロピン(lutropin)/絨毛膜性腺刺激ホルモンレセプターのうちの261から329のアミノ酸と置換され、キメラCはTSHR−キメラを表し、ここで、TSHRの8−165及び261から370のアミノ酸は、ルトロピン(lutropin)/絨毛膜性腺刺激ホルモンレセプターのうちの10−166及び261−329のアミノ酸とそれぞれ置換されることが分かる。
特許文献3は同様に、TSHR自己抗体のディファレンシャル診断決定を行う分析方法を記載する。それによって、刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体および非病原性のTSHR自己抗体はサンプルにおいて再び理論的には選択的に決定されることができる。少なくとも、選別されている自己抗体を結合する任意の結合剤(例えば野生型組換えTSHR)は、過剰な選択されたTSHR―キメラ(遮断型または刺激型自己抗体にとって重要な配列を結合しているTSHRが選別されている自己抗体のそれぞれのタイプを結合しない配列と置換される)がある場合には、サンプルと作用される。特許文献3において開示されるTSHR−キメラは、上で述べた特許文献2のTSHR−キメラに対応する。
さらに、特許文献2及び3に記載される上述の技術は、非特許文献3によって記載されている。
非特許文献3に記載されているこれらの研究のための正当性は、TSHR(アミノ酸の25と165との間)のN末端のエピトープと相互作用する甲状腺の刺激(つまり、TSHアゴニスト)活性を有するTSHR自己抗体を報告し、一方で、より多くのC末端(アミノ酸261-370)であるエピトープと相互作用するTSHアンタゴニスト活性を有するTSHR自己抗体を報告する。特に、キメラAでの研究は、それが125I標識のTSHと良好に結合し、このキメラとトランスフェクションする細胞が、良好にTSHに反応することを示した。
キメラAと野生型TSHRの両方に対する標識TSHの結合は、TSHR自己抗体を含む血清によって阻害された。しかしながら、血清の阻害作用は野生型レセプターを使用して強力であり、これはTSHアゴニスト及び/又はTSHアンタゴニスト活性を有する自己抗体における場合であった。キメラと結合しているTSHの阻害に基づくアッセイは、TSHアゴニスト及びTSHアンタゴニスト活性を有するTSHR自己抗体間の改良された分化(野生型TSHRと比較して)を示すように見えたが、相当な重なりがあった。この重なりは、臨床応用を制限する。さらに、かなり以前の調査で、天然の(つまり、野生型)TSHRと結合している標識されたTSHの阻害に基づくTSHR自己抗体のアッセイは、分析感度を減少する(つまり、希釈されたテストサンプルを使用する)ことによってTSHアンタゴニスト活性を有するTSHR自己抗体において選択するために変更された。通常、TSHアンタゴニスト自己抗体が、TSHアゴニスト自己抗体よりも非常に高い濃度の血清に存在するので、これは効果的である。
WO2004/050708A2 WO 01/27634 WO 01/63296 J Sanders, Y Oda, S-A Roberts, M Maruyama, J Furmaniak, B Rees Smith "Understanding the thyrotropin receptor function-structure relationship." Bailliere's Clinical Endocrinology and Metabolism. Ed. T F Davies 1997 1 1(3): 451-479. Pub. Bailliere Tindall, London J Sanders, Y Oda, S Roberts, A Kiddie, T Richards, J Bolton, V McGrath, S Walters, D Jaskolski, J Furmaniak, B Rees Smith "The interaction of TSHR autoantibodies with 125I- labelled TSHR", Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 1999 84(10):3797-3802 Minich et al in Journal of Endocrinology & Metabolism, 89 (1): 352-356
TSHRに対する反応で生成されるTSHR自己抗体の検出及び分析のために改良したアッセイを提供し、さらに、従来技術を使用して経験される問題を軽減するために、本発明は、非特許文献3に記載の従来技術と異なる方法を提供する。特に、我々は、TSHRの一つのアミノ酸を突然変異させて、様々な新規なリガンドによって、TSHRの結合及び刺激における突然変異の効果を研究した。それらの新規なリガンドは、ヒトモノクローナル甲状腺刺激型自己抗体(hMAb TSHRl)、強力なhMAb TSHRl(及びTSH)アンタゴニストであるマウスモノクローナル抗体(9D33)並びに強力なTSHアゴニストであるマウスモノクローナル抗体を含む。
従来技術とは対照的に、我々の研究は、驚くべきことに、様々なTSHRリガンド間の非常に明確な差異を提供するシステムを導いた。特に、我々は、TSHアゴニスト活性を有するTSHR抗体(自己抗体およびモノクローナル抗体)の作用を基本的に消失するが、TSHアンタゴニスト活性を有するTSHレセプター抗体(自己抗体およびモノクローナル抗体)の効果の影響を受けないか、あるいは同じ突然変異によって増加した、TSHRの特定の点突然変異を明らかにした。
したがって、本発明は、TSHR自己抗体群の刺激と遮断とを区別する、新規の改良された手段を提供する。ここで、本発明によって、少なくとも1つの点突然変異を含む、変異型TSHR試料が提供され、完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置の少なくともアミノ酸Argが、変異型TSHR試料の異なるアミノ酸残基に突然変異したことを特徴とする。それによって、変異型TSHR試料は、ディファレンシャルに(differentially)患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHと相互作用する。(i)完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置でArgの変異が基準TSHR試料に存在しないことを除いて、変異型TSHR試料のアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列を有する基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用と比較した場合、変異型TSHR試料と相互作用する、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用は、実質的に減少されるか、又は本質的に消失される。(ii)基準TSHR試料と相互作用するTSHの刺激作用と比較すると、変異型TSHR試料と相互作用する場合のTSHの刺激作用は基本的に影響されない。(iii)基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断作用と比較すると、変異型TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断効果は、基本的に影響されないか又は上昇し、それによって、変異型TSHR試料は、スクリーニングされる体液のサンプル中、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニング(differential screening)及び識別に対して効果的である。
本発明の好ましい実施態様において、完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置で少なくともアミノ酸Argが、負に帯電したアミノ酸残基、好ましくは、Aspに点突然変異される。好ましくは、したがって、少なくとも1つの点突然変異を含む、変異型TSHR試料が提供され、完全長のヒトのTSHRのアミノ酸255に対応する位置の少なくともアミノ酸Argが、変異型TSHR試料の異なるアミノ酸残基に突然変異したことを特徴とする。それによって、変異型TSHR試料は、ディファレンシャルに患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHと相互作用する。(i)完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置でArgの変異が基準TSHR試料に存在しないことを除いて、変異型TSHR試料のアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列を有する基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用と比較した場合、変異型TSHR試料と相互作用する、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用は、実質的に減少されるか、又は本質的に消失される。(ii)基準TSHR試料と相互作用するTSHの刺激作用と比較すると、変異型TSHR試料と相互作用する場合のTSHの刺激作用は基本的に影響されない。(iii)基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断作用と比較すると、変異型TSHR試料と相互作用する、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断効果は、基本的に影響されないか又は上昇し、それによって、変異型TSHR試料は、スクリーニングされる体液のサンプル中、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニング及び識別に対して効果的である。
最適には、本発明によって提供される変異型TSHR試料は、上述したように突然変異された、完全長の野生型ヒトTSHRを含むことができる。代替として、変異型TSHR試料は、上述のように突然変異された完全長の野生型ヒトTSHRの断片を含み、その断片は、同じく、上述したように、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHとディファレンシャルに相互作用する。さらに、アミノ酸の突然変異が、ここに記載したように、変異型TSHR試料に存在し、さらに、そのような突然変異は、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHと変異型TSHR試料とのディファレンシャルな相互作用をさらに促進するための点突然変異であるか、または、本発明によって提供される変異型TSHR試料の生物学的活性又は機能を変えないか或いは実質的に変化するサイレント置換、付加又は削除であってよい。
更なる突然変異が保存的アミノ酸置換を意味する場合には、この種の置換は、同様の特徴の他のアミノ酸による変異型TSHR試料の所与のアミノ酸を置換するものである。保守的な置換として、典型的には、脂肪族アミノ酸、ヒドロキシ残基、酸性の残基、アミド残基、塩基の残基及び芳香族の残基の中で、1つが別のものにとって代わる置換である。
ここで使用される用語“断片”は、本発明による変異型TSHR試料に関するアミノ酸配列を意味し、そのアミノ酸配列は、野生型ヒトTSHRのアミノ酸配列のすべての配列ではなく、その一部に対応しており、完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置で少なくともアミノ酸Argが、上述のように、異なるアミノ酸残基への突然変異を含み、その断片は、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルに相互作用する。このようにして、スクリーニングされる体液のサンプル中、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニング及び識別を可能にする。本発明による変異型TSHR試料において提供される“断片”は、“フリースタンディング(free standing)”、つまり、他のアミノ酸又はポリペプチドの一部でないか、あるいは他のアミノ酸又はポリペプチドに連合されてよく、または、それら断片は、それらが一部または領域を形成する、より大きなポリペプチドの範囲内に含まれることができる。このような断片は、このように“スキャホールド”タイプのポリペプチドに取り入れられてもよく、ここで、付加アミノ酸は、野生型TSHR試料の活性部位に存在するようなアミノ酸の形態、配列または配列に類似しているか、または実質的に類似している形態、配列または配列の変異型TSHR断片の試料のアミノ酸を“保持”するように提供される。
野生型ヒトTSHRのアミノ酸配列における完全な配列の情報は当該技術分野の刊行物及び/又はレセプター配列のアミノ酸データベースを参照することによって容易に得ることができる。そのように、本発明に基づき適切な変異型試料及び変異型断片の完全な配列は、本明細書の開示に関連して周知の野生型の配列に基づいて、容易に決定できる。
本発明によって提供されるような変異型TSHR試料は、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニング及び識別における診断において用いられ、したがって、重要なステップはTSHRへの自己免疫反応と関連する自己免疫疾患の信頼性が高い診断を提供し、上述した従来技術で知られていた診断方法及びキットに関連する多数の問題を軽減する、重要なステップを提供する。特に、特許文献2及び3によって提供される教示に対する利点を提供する。
本発明によると、したがって、TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、その疾患の疑いがあるか、その疾患症状を有しているか、あるいはその疾患から回復したと思われる被験者(特に、ヒト)から得られるサンプル中の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニング及び識別において、実質的に、ここで記載したような変異型TSHR試料の活用が提供される。
また、本発明によって、TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、その疾患の疑いがあるか、その疾患症状を有しているか、あるいはその疾患から回復したと思われる被験者(特に、ヒト)のTSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患の診断において、実質的に、ここで記載したような変異型TSHR試料の活用が提供される。
さらに、本発明は、スクリーニングされる体液のサンプルに存在する、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHで、変異型TSHR試料のディファレンシャルな相互作用のモニタリングを可能にする検出手段を伴い、実質的に、ここで記載したような変異型TSHR試料を有するキットを提供する。
さらに、本発明によって、TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、その疾患の疑いがあるか、その疾患症状を有しているか、あるいはその疾患から回復したと思われる被験者から得られる体液のサンプル中の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニングの方法が提供され、その方法は、被験者から得られる体液のサンプル中の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHとディファレンシャルに相互作用し、且つ、検出する、変異型TSHR試料を採用する。
さらに、本発明は、TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、その疾患の疑いがあるか、その疾患症状を有しているか、あるいはその疾患から回復したと思われる被験者(特にヒト)のTSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の見込まれる発症または存在を診断する方法を提供し、その方法は、被験者から得られる体液のサンプル中の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHとディファレンシャルに相互作用し、且つ、検出する、実質的に上述されるような変異型TSHR試料を採用し、被験者のTSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の見込まれる発症または存在の診断方法を提供する。
さらにまた、本発明は、TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、その疾患の疑いがあるか、その疾患症状を有しているか、あるいはその疾患から回復したと思われる動物被験者(特にヒトの被験者)のTSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の見込まれる発症を遅延させるか、又は回避する方法を提供し、その方法は、被験者から得られる体液のサンプル中でTSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の見込まれる発症または存在を暗示する刺激及び/又は遮断型TSHR自己抗体と初期にディファレンシャルに相互作用し、且つ、検出する、実質的に上述されるような変異型TSHR試料を採用する。それによって、被験者のTSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の見込まれる発症の診断方法を提供し、その後、被験者に治療処置を行い、TSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の発症を遅延、及び/又は、TSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患を防ぐ。
本発明はさらに、被験者のTSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の治療方法を提供し、その方法は、被験者から得られる体液のサンプル中でTSHRに対する反応で生成される刺激及び/又は遮断型TSHR自己抗体と初期にディファレンシャルに相互作用し、且つ、検出する、実質的に上述されるような変異型TSHR試料を採用する。それによって、被験者の自己免疫疾患の診断を提供し、被験者に対して、このような自己免疫疾患の治療に効果的な少なくとも一つの治療薬の治療上の有効量を投与する。
投与される治療薬の量は、治療されている特定の自己免疫疾患状態に依存し、おそらく、患者の年齢に依存する。また、投与される治療薬の量は、最終的に付き添いの医師の裁量となる。
さらにまた、本発明は、TSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の治療に対して効果的な、実質的に上述されるような少なくとも一つの治療薬の治療上の有効量を伴って、実質的に上述されるようなキットも共に提供される。
典型的に、本発明によってスクリーニングされる体液のサンプルは血液サンプル又は他の流体の血液分画(例えば、特に、血清サンプルまたは血漿サンプル)であるが、サンプルは、原則として、他の生物流体(例えば、唾液、尿、若しくは可溶性の細胞抽出物)であってもよいし、又は針生検によって得てもよい。
実質的に上述の本発明による変異型TSHR試料は、TSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患を治療する治療薬として使用するために適しているか、または、自己免疫疾患の治療のための適切な治療薬の識別において使われることができる。例えば、変異型TSHR試料は、TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、その疾患の疑いがあるか、その疾患症状を有しているか、あるいはその疾患から回復したと思われる被験者(特にヒト被験者)で、循環している刺激及び/又は遮断型TSHR自己抗体と相互作用し、且つ、基本的に取り除くように、治療上使用できる。
したがって、本発明によって、薬学的に受け入れられるキャリア、希釈剤または賦形剤を伴う、実質的に上述の本発明による変異型TSHR試料からなる医薬品組成物が提供され、変異型TSHR試料は、TSHRに対する反応で生成された刺激及び/又は遮断自己抗体とディファレンシャルに相互作用できる。
さらに、本発明は、グレーブス病の治療のための薬剤の製造に使用するための、実質的に上述した、変異型TSHR試料を提供する。特に、本発明によって提供されるような変異型TSHR試料は、グレーブス病の少なくとも目の徴候の治療のための薬剤の製造の使用において適している。
本発明による組成物又は薬剤は、薬学的に受け入れられるキャリアに、本発明により変異型TSHR試料の治療的又は予防的な量を含まなければならない。薬剤担体は、患者に対する変異型TSHR試料の送達に適した、いかなる互換性を有し、無毒な物質であり得る。滅菌水、アルコール、脂肪、ワックス及び不活性な固体が、キャリアとして使用されてよい。薬学的に受け入れられる佐剤、バッファー剤、分散助剤などもまた、医薬品組成物に組み込まれてよい。このような組成物は、単一の変異型TSHR試料を含むことができるか、または本発明による2つ以上の変異型TSHR試料を含んでよい。
本発明による医薬品組成物は、非経口投与に有用である。好ましくは、組成物は、非経口的に、すなわち皮下に、筋注または静脈内に投与される。このように、本発明は、患者に対して非経口投与するための組成物を提供する。ここで、上述したように、組成物は、受け入れられるキャリアに、変異型TSHR試料の溶液または分散を含む。医薬品組成物の変異型TSHR試料の濃度は幅広く変化することができる、つまり、約0.1重量%未満から、通常、少なくとも約1重量%から20重量%以上までである。筋内注射のための典型的な医薬品組成物は、例えば、1mlの滅菌した緩衝水と、1〜100μgの本発明の精製された変異型TSHR試料を含むように形成される。静脈内注入のための典型的な組成物は、100〜500mlの滅菌したリンガー溶液と、100〜500mgの本発明の精製された変異型TSHR試料を含むように形成され得る。非経口的に投与可能な組成物を調製するための実際の方法は、従来技術において周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Science, 15th Edition, Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)を含む様々な情報源において、より詳細に記載されている。
本発明のさらなる態様と一致して、
(i)実質的に、上述の変異型TSHR試料をエンコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)の配列の対立遺伝子のバリエーションからなるヌクレオチド配列;
(iii)(i)の配列の断片からなるヌクレオチド配列;又は
(iv)(i)の配列のストリンジェントな状況でハイブリダイズするヌクレオチド配列;からなるポリヌクレオチドが提供される。
本発明はさらに、表1で表される、プライマーヌクレオチド配列Arg 255 Asp F; Arg 255 Asp R、及び/又は、そこから遺伝コードの変質によるコドン配列において、異なっているヌクレオチド配列が提供される。ヌクレオチド配列が表1において与えられるプライマーの用途にだけ提供されるにもかかわらず、本発明による残りのヌクレオチドをコードするTSHR試料は、従来技術において刊行物及び/又はレセプター・配列(野生型ヒトTSHRの全長配列は従来技術において周知である)のためのヌクレオチド・データベースを参照することで容易に得られることができることを認識できる。
より詳細には、本明細書の実施例に記載の特定技術を参照することによって理解できる。その実施例で、突然変異は、本発明によって提供されるようなポリヌクレオチド配列で存在し、本発明による変異型ヒトTSHR試料に存在する点突発変異を遂行することを要求され、表1において示されるプライマー配列の以下の一対、Arg 255 Asp F:Arg 255 Asp Rを用いることによって成し遂げられ、255(Arg)の255(Asp)への突然変異をもたらす。さらに、表1に示されるプライマーが、要求される変異型ヌクレオチド配列を得るためにPCR増幅に使用され、本発明によって対応する変異型ヒトTSHR試料が、本発明によるポリヌクレオチドの発現によって適切に得られるか、又は得られうることが好ましい。実質的に、ここに記載のような、本発明による変異型TSHR試料は、組換えタンパク質を生成する様々なシステムで発現できる。例えば、哺乳動物細胞(例えば、Chinese Hamster Ovary(CHO)細胞など)での発現が好ましく、CHO細胞の特定の使用はpcDNA5.1/FRTベクターと共に実施例に記載されている。代替として、本発明の変異型ヒトTSHR試料は、従来技術で周知な技術を採用する、従来のペプチド・シンセサイザーによって、総合的に生成できる。
本発明はさらに、実質的に、上述された変異型TSHR試料を調製するための方法を提供し、この方法は、
(i)実質的に、ここに記載のような、宿主細胞の提供;
(ii)上記宿主細胞の成長;及び
(iii)その成長した宿主細胞からの本発明による変異型TSHR試料の回収
を含む。
本発明による変異型TSHR試料の回収は、概して、従来技術において当業者にとって公知である、従来の抽出および精製技術(例えば、クロマトグラフィ分離または免疫学的分離)を使用することができる。
本発明のポリヌクレオチドは、DNAの形態であってよく、例えば、クローニングによって得られるか、若しくは化学的な合成技術によって生成される、cDNA、合成DNA及びゲノムDNAであってよく、又は、それらの組み合わせであってもよい。本発明の好ましい実施態様は、cDNAまたは合成DNAを含むことが好ましい。
本発明はさらに、本発明によって提供されるような変異型TSHR試料をエンコードする、上述したポリヌクレオチドの異型に関する。ポリヌクレオチドの異型は、自然発生する異型(例えば、自然発生する対立遺伝子変異体)であってよく、又は、自然発生することが知られていない異型であってもよい。ポリヌクレオチドのそのような非自然発生の異型は、突然変異生成技術によって成されてよい。
この点に関して、ヌクレオチドの置換、欠失または付加によって上述したポリヌクレオチドと異なる異型は、異型の一つである。置換、欠失または付加は、1つ以上のヌクレオチドを含んでよい。コード領域の変更は、保守的であるか非保守的なアミノ酸の置換、欠失または付加を生成することができる。
本発明による異型のポリヌクレオチドは、ここで記載されるような変異型TSHR試料をエンコードするポリヌクレオチド、及びそのようなポリヌクレオチドに相補的であるか又はハイブリダイズするポリヌクレオチドに対して、異型のポリヌクレオチドの完全長の少なくとも70%以上が同一であることが適している。あるいは、最も好ましいポリヌクレオチドは、ここで記載されるような変異型TSHR試料をエンコードするポリヌクレオチド、及びそのようなポリヌクレオチドに相補的であるか又はハイブリダイズするポリヌクレオチドに対して、異型のポリヌクレオチドの完全長の少なくとも80%以上が同一である領域を含む。この点に関して、完全長の少なくとも90%以上が同一であるポリヌクレオチドが特に好ましく、特に、それらの好ましいポリヌクレオチドにおいて、少なくとも95%が同一であるものが特に好ましい。さらに、少なくとも95%が同一であるものの中でも、少なくとも97%が同一であるものがより好ましく、さらにそれらの中でも、特に、少なくとも98%が同一及び少なくとも99%が同一のものがより好ましく、少なくとも99%が同一のものが、よりさらに好ましい。
実質的に上述されるように、本発明はさらに、ここで上述した配列にハイブリダイズするポリヌクレオチドに関する。この点に関し、本発明は特に、ここで上述したポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする、ポリヌクレオチドに関する。ここで使用される用語、“ストリンジェントな条件”は、配列間で少なくとも95%の相補的に同一、さらに好ましくは少なくとも97%の相補的に同一である場合にのみ、ハイブリダイゼーションが生じることを意味する。
本発明はまた、ベクターに関し、そのベクターは、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクターで遺伝子工学的に改変された宿主細胞、及び組換え技術による、本発明のここに記載された変異型TSHR試料の生成を含む。
したがって、本発明は、さらに、実質的にここに記載されたポリヌクレオチドを有し、宿主生物のゲノムに対するポリヌクレオチドの導入が可能な生物学的に機能的なベクターシステムを提供する。
宿主細胞は、ポリヌクレオチドを組み込み、本発明の変異型TSHR試料を発現するように遺伝子工学的に改変できる。また、本発明は、さらに、ポリヌクレオチド若しくは1つ以上のポリヌクレオチドで形質転換又はトランスフェクションされた宿主細胞、あるいは、ここに、各々が実質的に記載されたベクターシステムを提供する。適切なDNA配列は、様々な周知の慣習的な技術によって、ベクターに挿入されてよい。
本発明はさらに、体液のサンプル中の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニング及び識別に対して使用できる変異型TSHR試料を識別する方法を提供し、その方法は、TSHRの潜在的に相互作用している領域の識別と、TSHRのための結合パートナー(hMAb TSHRl, 9D33 又はTSHなど)と相互作用するそれらの能力(野生型TSHRに比較して異なる能力を含む)によってさらに識別できる、そこに存在するアミノ酸残基の識別を含み、候補であるアミノ酸は、一つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとTSHRとの相互作用に必要とされるアミノ酸であり、さらに、この方法は、当該候補となるアミノ酸の点突然変異の実行を含み、さらに、変異型TSHR試料が結合パートナーと生じた相互作用のモニタリングを含み、変異型TSHRの少なくとも1つの患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとの結果として相互作用の阻害で生じる点突然変異を識別する。
本発明はまた、TSHRのエピトープ領域に対して重要である、アミノ酸残基を識別するために使用でき、それによって、識別方法が提供され、その識別方法は、TSHRの潜在的に相互作用している領域の識別と、TSHRのための結合パートナー(hMAb TSHRl, 9D33 又はTSHなど)と相互作用するそれらの能力(野生型TSHRに比較して異なる能力を含む)によってさらに識別できる、そこに存在するアミノ酸残基の識別を含み、候補であるアミノ酸は、一つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとTSHRとの相互作用に必要とされるアミノ酸であり、さらに、この方法は、当該候補となるアミノ酸の点突然変異の実行を含み、さらに、変異型TSHR試料が結合パートナーと生じた相互作用のモニタリングを含み、TSHRと1つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとのそれぞれの相互作用において必要とされる、重要なアミノ酸を識別する。
さらに、本発明は、1つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとそれらの相互作用を可能にするように、TSHRの形態に必要なアミノ酸残基を識別するために用いることができ、それによって、識別方法が提供され、その識別方法は、TSHRの潜在的に相互作用している領域の識別と、TSHRのための結合パートナー(hMAb TSHRl, 9D33 又はTSHなど)と相互作用するそれらの能力(野生型TSHRに比較して異なる能力を含む)によってさらに識別できる、そこに存在するアミノ酸残基の識別を含み、候補であるアミノ酸は、一つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとTSHRとの相互作用に必要とされるアミノ酸であり、さらに、この方法は、当該候補となるアミノ酸の点突然変異の実行を含み、さらに、変異型TSHR試料が結合パートナーと生じた相互作用のモニタリングを含み、TSHRと1つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとのそれぞれの相互作用が可能となるように、TSHRの形態において必要とされる、重要なキーのアミノ酸を識別する。
各々の上記の方法において、変異型TSHR試料との結合パートナーの相互作用の結果として、サイクリックAMPの生成をモニターすることによって、モニターされる変異型TSHR試料の相互作用は、好ましくは、変異型TSHRの刺激、又はそのような刺激の遮断である。
ここに記載されるように、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置に存在するアミノ酸Argは、抗体が結合するために必要とされるヒトTSHRの重要なアミノ酸として、本発明によって識別される。さらに、それの突然変異は、抗体群の刺激及び遮断のディファレンシャル診断を達成できる。
したがって、本発明によると、TSHR抗体における結合部位として使用するために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置でTSHR試料に存在するアミノ酸Argが提供される。さらに、本発明によって、TSHRレセプター自己抗体又はその1つ以上の断片における結合部位として使用するために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置でTSHR試料に存在するアミノ酸Argが提供される。さらに、本発明によって、ヒトモノクローナル若しくは組換え抗体からなるか、又はヒトモノクローナル若しくは組換え抗体から派生した、TSHR結合パートナー又はその1つ以上の断片における結合部位として使用するために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置でTSHR試料に存在するアミノ酸Argが提供される。さらに、本発明によって、スクリーニングされる体液のサンプルにおいて、1つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニングのために、さらに、好ましくは、体液のサンプル中の刺激型TSHR自己抗体の有無を識別するために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置でTSHR試料に存在する、変異型アミノ酸残基の活用が提供される。さらに、本発明によって、TSHRと関連する自己免疫疾患の診断のために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置でTSHR試料に存在する、変異型アミノ酸残基の活用が提供される。より詳細には、本発明によって、スクリーニングされる体液のサンプルにおいて、1つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニングのために、さらに、好ましくは、体液のサンプル中の刺激型TSHR自己抗体の有無を識別するために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置でTSHR試料に存在する、Aspの活用が提供される。さらに、本発明によって、TSHRと関連する自己免疫疾患の診断のために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置でTSHR試料に存在する、Aspの活用が提供される。
さらに、本発明によって、(a)ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置に存在する、Argによって表される結合部位と、(b)当該結合部位のための結合パートナーとを含む結合複合体が提供され、その結合パートナーは、好ましくは、ヒトモノクローナル若しくは組換え抗体からなるか、又は派生する。あるいは、結合パートナーは、ヒトモノクローナル若しくは組換え抗体の一つ以上の断片からなる。
最適には、結合パートナーは、TSHRと反応的なヒトモノクローナル抗体、若しくはその1つ以上の断片からなるか、又は、当該抗体の1つ以上の断片から派生する。代替として、結合パートナーは、TSHRと反応的なヒト組換え抗体、若しくはその1つ以上の断片からなるか、又は、当該抗体の1つ以上の断片から派生する。好ましくは、結合パートナーは、TSHRと反応的なヒトモノクローナル若しくは組換え抗体、又は、当該抗体の1つ以上の断片から派生する。好ましくは、結合パートナーは、さらに、その能力によって、TSHRへのTSHの結合を阻害し、及び/又は、TSHRを刺激することを特徴とすることができ、これら両者の特徴は、グレーブス病患者から得られる血清に存在するTSHR自己抗体のそれぞれの抑制及び刺激特性と同等であることが認められる。
本発明によって提供されるような、特に好ましい、複合体の結合パートナーは、WO 2004/050708A2に記載されるようなヒトTSHRモノクローナル抗体hMAb TSHR 1である。従来技術に記載されるように、hMAb TSHR 1の結合部位は開示されておらず、TSHRの複合体の性質、さらに、それに対する抗体の異質性からみて、エピトープ領域若しくはそこに対する結合部位を決定するか又は予測するために、従来技術開示に基づいて可能ではなかった。
以下の図示する説明は、本願明細書において用いられる特定の条件の理解を容易にするために提供される。この説明は、便宜的に提供されて、本発明を制限するものではない。
TSHRのための結合パートナーは、TSHRにおける特異的な結合を有する分子を記載する。ここに記載される結合パートナーは、自然に派生されてよいし、又は、全体的若しくは部分的に合成的に生成されてよい。そのような結合パートナーは、特異的に結合するドメイン又は領域を有し、したがって、TSHRの1つ以上のエピトープ領域と相補的であり、TSHRに対する刺激及び/又は遮断抗体を含むことができ、当該抗体は、自己抗体、モノクローナル若しくは組換え抗体、あるいはTSHなどのリガンドであってよい。
結合部位は、TSHRの原子、官能基又はアミノ酸残基などの部位を意味し、TSHR抗体、他のリガンド、あるいはそれらの結合パートナーに対して結合し得る。キャビティ(cavity)の特異的な分子に依存して、部位は魅力的であるか不快な結合相互作用(電荷、立体的な条件などによってもたらされる)を呈することができる。
結合パートナーによるTSHRの遮断は、TSHRに対する結合パートナーの結合能力を意味し、ここに記載されるように、例えば、TSHR刺激の結果として形成されるサイクリックAMPの生成を阻害する。
遮断型TSHR抗体は、TSHRに結合し、ここに記載されるようにTSHRの遮断を遂行する。
本発明によって提供される、変異型TSHR試料に関する、ディファレンシャルに相互作用する、又は、ディファレンシャルな相互作用は、下記を意味し、(i)完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置でArgの変異が基準TSHR試料に存在しないことを除いて、変異型TSHR試料のアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列を有する基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用と比較した場合、変異型TSHR試料と相互作用する、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用は、実質的に減少されるか、又は本質的に消失される。(ii)基準TSHR試料と相互作用するTSHの刺激作用と比較すると、変異型TSHR試料と相互作用する場合のTSHの刺激作用は基本的に影響されない。(iii)基準TSHR試料と相互作用する、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断作用と比較すると、変異型TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断効果は、基本的に影響されないか又は上昇する。上記の記載の相互作用(阻害されるか、変化されないか、又は増幅される)は、TSHRの刺激又はTSHRの遮断である。さらに、実施例に記載されるように、変異型TSHRの、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHとの結合の相互作用、アフィニティに関して、これは、本発明によって提供される変異型TSHR試料の刺激及び/又は遮断に関して観察される結果に対応して見られる、特定の事象ではなく、例えば、変異型レセプターの減じた発現レベルによるものであってよい。
プライマーの定義及びプライマーのネーミングの“F”は、フォワードプライマーを意味する。
宿主細胞は、形質転換若しくはトランスフェクションされた細胞であるか、又は外因性のポリヌクレオチド配列によって形質転換若しくはトランスフェクションできる。
配列を比較することによって定まる、同一性は、周知のように、2つ以上のポリペプチド配列または2つ以上のポリヌクレオチド配列の関係である。
変異型TSHR試料は、TSHR試料を意味し、当該TSHR試料は、結果として生じるTSHR試料が、スクリーニングされる体液のサンプル中の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHのディファレンシャルスクリーニング及び識別を可能にすることを特徴とする、1つ以上の点突然変異を含む。しかしながら、特に、本発明によって提供されるような変異型TSHR試料は、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置にある少なくともアミノ酸Argが、変異型TSHR試料で異なるアミノ酸残基に突然変異することを特徴とする、少なくとも1つの点突然変異を含む。
点突然変異は、別のアミノ酸又はヌクレオチドによる、アミノ酸又はヌクレオチドの置換を意味する。これは、本発明の範囲内でPCRプライマーの使用と突然変異したヌクレオチド配列の後の発現によって達成される点突発変異を含む。さらに、ここに使用されるような点突然変異は突然変異であり、この突然変異は、所望のポリペプチド配列の合成を成すために、例えば、従来のペプチド・シンセサイザーを用いる、周知の合成技術によって達成できる突然変異である。ここで、合成された配列は、他のアミノ酸を有する所望のアミノ酸の置換を含む。
プライマーの定義及びプライマーのネーミングの“R”は、リバースプライマーを意味する。
ここに記載される結合パートナーによるTSHRの刺激は、TSHRに対して結合し、それによって、そのようなTSHRに対する結合の結果として、例えば、サイクリックAMPの生成をなす、結合パートナーの結合能力を意味する。そのような刺激は、TSHRに対する、TSHまたはTSHR自己抗体の結合に見られる反応に類似しており、この手法で、ここに記載される結合パートナーは、TSHRに対するTSHまたはTSHR自己抗体の結合する効果を擬態する。
刺激型TSHR抗体はTSHRに結合し、ここに記載されるTSHRの刺激をもたらす。
TSHは、甲状腺刺激ホルモンを意味する。
TSHRは、甲状腺刺激ホルモンレセプターを意味し、さらに、当該技術分野において、TSHレセプターとしても呼ばれる。
TSHR自己抗体は、TSHRと関連する自己免疫疾患の経過でTSHRに対して生成される抗体を意味する。生成される抗体の種類に依存して、TSH分子からTSHRの遮断に起因して、T3及びT4の形成及び放出のいずれかの阻害が生じる。また一方で、生成された抗体がTSHの作用を擬態し、甲状腺ホルモンの合成と放出を刺激するので、T3及びT4は非制御下で放出され得る。
TSHR試料は、野生型TSHRの完全長に一致することができるか、ここに記載されたような、1つ以上の異形、類似体、派生体又はそれらの断片を含むことができる、ペプチド配列を意味する。
本発明は、添付図及び実施例によって例示されるが、本発明の範囲を制限しない。
TSHRの細胞外領域の様々なアミノ酸が選択されて、アラニンに突然変異される。それらのアミノ酸は、下記を含む。
Asp43。電荷された残基、(電荷−電荷の相互作用)TSHRとTSHR自己抗体及びTSHとの相互作用で重要であると知られているためである。(Rees Smith B, McLachlan SM, Furmaniak J 1988 Autoantibodies to the thyrotropin receptor. Endocr Rev 9: 106-121を参照。)加えて、ASP43はTSHRのロイシンが豊富な領域(LRD;アミノ酸36−281)の第一の(つまり、大部分のN末端)繰り返しに位置する。同様に、電荷されており、TSHR LRDの第二の繰り返しにあるので、Glu61が選択される。
電荷しており、TSHR Lys183とのソルトブリッジ(salt bridge)の形成における関与に基づいて、Glu157が選択された。(Duprez L, Parma J, Costagliola S, Hermans J, Van-Sande J, Dumont JE, Vassart G 1997 Constitutive activation of the TSHR by spontaneous mutations affecting the N-terminal extracellular domain. FEBS Letters 409: 469-474を参照。)2つの追加の電荷されたアミノ酸、Glu178及びAsp203は、それぞれ、LRDの第七番目と、第八番目の繰り返しのそれらの位置に基づいて選択された。
電荷されたアミノ酸、Asp232及びArg255が、それぞれ、TSHR LRDの第9番目と、第10番目の繰り返しのそれらの位置に基づいて選択された。また、LRDの第10番目の繰り返しの芳香族アミノ酸Trp258は、アラニンに突然変異された。さらに、LRDのC末端のアミノ酸、Asp276及びSer281は、TSHR活性化におけるそれらの関与から、突然変異された。(Corvilain B, Van Sande J, Dumont J E and Vassart G 2001 Somatic and germ line mutations of the TSH receptor and thyroid disease. Clin Endocrinol 55: 143-158; and Russo D, Arturi F, Chieari E, Filetti S 1997 Molecular insights into TSHR abnormality and thyroid disease. J Endocrinol Invest 20: 36-47を参照。)
方法
PCRを用いて、ヒトTSHR配列への特定のアミノ酸の突然変異の導入
下記の基本的なクローニング手法にしたがって、TSHRの完全長のヌクレオチド配列(スイスプロットアクセッションナンバー(Swiss prot accession number): Pl 6473 - http://www.ncbi. nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=protein&val= 136448; NCBl Entrez Nucleotide accession number NM 000369-http://www.ncbi. nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nucleotide&val=4507700)は、BamHI及びXhoIを用いて、pcDNA5.1/FRTベクター(Invitrogen)にクローニングされた。
ヌクレオチドのコード配列を適切なアミノ酸の突然変異のためのコードに変化するために、各突然変異(表1)において、特定の“フォワード”及び“リバース”PCRプライマーが設計された。2つの個別のPCR反応が設定された(PCR1及びPCR2)。
PCR1に添加された試薬:32.5μLのHO、2.5μLの20xデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTPs)(5mmol/L)、5μLの10xPfuDNAポリメラーゼバッファー(10xPfuバッファー;プロメガ)、2.5μLの10pmol/μL T7プライマー(表1)、2.5μLの10pmol/μLの突然変異のための“リバース”プライマー、4μLのpcDNA5.1/FRT TSHRテンプレートDNA(100ng)及び1μLのPfu DNAポリメラーゼ(3 units、プロメガ)。PCR2に添加された試薬:34.5μLのHO、2.5μLの20xdNTPs(5mmol/L)、5μLの10xPfuバッファー、2.5μLの10pmol/μLの突然変異のための“フォワード”プライマー(表1)、2.5μLのウシ成長ホルモンポリアデニレーションシグナルリバースプライマー(BGHRプライマー)(表1)10pmol/μL、2μLのテンプレートDNA(100ng)及び1μLのPfu DNAポリメラーゼ(3 units)。
テンプレートDNAの使用量は、生成されるPCR産物の長さに依存する。上述に示された実施例において、PCR1産物は800塩基対の長さであり、PCR2産物は1600塩基対の長さである。PCR1及びPCR2産物のサイズは、TSHR配列内で突然変異される、アミノ酸の位置に依存する。
PCR反応は、GeneAmp PCR System 9700(アプライドバイオシステムズ)を用い、94℃の5分間に続いて、94℃の1分間、40℃の1分間及び72℃の2分間の30サイクル(94℃から40℃及び40℃から72℃まで50%ランプ率によって)に続いて、72℃で7分間、その後、反応物は4℃まで冷却された。
PCR1及びPCR2の産物は、TAEバッファーの1%アガロースゲル(40mmol/L Tris−HCl pH8.0、1mmol/L EDTA、0.114%氷酢酸)で泳動され、スカルペルブレードでゲルからバンドを取り出した。バンドはGeneclean II kit((Anachem Ltd, Luton, LU2 OEB, UK)を用いて、使用説明書にしたがって洗浄された。DNA濃度は、当該技術の基本的な方法を用いて決定された。このDNAは、突然変異を含む、完全なTSHR配列を構成するように、PCR3反応を設定するように使用された。PCR3反応は、2.5μLの10xPfuバッファー、1μLの20xdNTPs、200ngのPCR1産物及び200ngのPCR2産物、1μLのPfu DNAポリメラーゼ、並びに水を25μLの終量に含む。この反応は、94℃の1.5分間、65℃の1.5分間及び72℃の1.5分間の7サイクルのために、GeneAmp PCR System 9700に設置された。次いで、温度は94℃の2分間まで高められ、PCR4反応(25 μLに対して、2.5 μL 10x Pfuバッファー, 1.3 μL 2Ox dNTPs, 2.5 μL T7プライマー 10 pmol/μL, 2.5 μL BGHR プライマー 10 pmol/L, 1 μL Pfu DNAポリメラーゼ及び水)がPCR3に添加された。この混合物は、94℃の1分間、52℃の1分間及び72℃の2分間の30サイクル(94℃から52℃及び52℃から72℃まで50%ランプ率によって)に続いて、72℃で10分間、その後、反応物は4℃まで冷却された。
PCR産物は、酢酸ナトリウム及びエタノールで沈殿させた、50μLの1:1フェノール/クロロフォルムの混合物を用いて洗浄され、当該技術に記載のように空気乾燥された。次いで、DNAは、制限消化(Roche Diagnostics, Lewes, BN7 1LG,UK)のために1xバッファーBで再懸濁されて、37℃で4時間においてBamHI/XhoIで切断された。PCRバンドは、1%アガロースゲル上で泳動されて、Geneclean II kitを用いて、切り出されて洗浄された。次いで、PCR産物は、BamHI/XhoIで切断されたpBluescript(ストラタジーン)にライゲーションされて、突然変異は、当該技術に記載のDNAシークエンシング(アマシャムバイオサイエンス、Sequenase version 2 DNA sequencing kit)を用いて確認された。次いで、突然変異されたTSHR DNAは、BamHI/XhoI制限酵素を用いて、pBluescriptから取り除かれ、pcDNA 5.1/FRTベクター(Invitrogen)にクローニングされて、上述したように、配列が再度確認された。
FIp-Inシステムを用いるCHO細胞に対する突然変異されたTSHR構造のトランスフェクション
FIp-In-CHO細(Invitrogen)のコンフルエント(confluent)フラスコは、1x10−1.5x10細胞/ウェルのDMEM (Invitrogen)、10%胎仔の仔牛血清(FCS) (Invitrogen)、1xのL−グルタミン(Invitrogen)及び抗体がなく、1xの必須でないアミノ酸(NEAA)(Invitrogen)で、24穴のプレートウェルで播種するために使用された。ウェルは、37℃、5%CO、95%より高い湿度でオーバーナイトにわたって培養された。
上記のpcDNA5.1/FRT TSHR DNA及びPOG44 DNA (Invitrogen)は、0.01μg/mL及び0.1μg/mL溶液となるように、蒸留水でそれぞれ希釈された。POG44 DNAとTSHRDNAは、3種類の異なる濃度に希釈された。それらは、(1)9μLのPOG44、10μLのTSHR DNA及び31μLのOptimem I (Invitrogen);(2)8μLのPOG44、20μLのTSHR DNA及び22μLのOptimem I;(3)9.5μLのPOG44、5μLのTSHR DNA及び35.5μLのOptimem Iであり、室温で5分間インキュベーションされた。Optimem Iで1:25に希釈された、50μLのlipofectamine (Invitrogen)は、各試験管(上記の1−3)に加えられ、室温で20分間インキュベーションされた。次いで、各インキュベーションされた混合物は、95%のコンフルエントな(confluent)FIp-In-CHO細胞のウェル(24穴プレート)に添加され、上述した条件下にて、オーバーナイトでインキュベーションした。次いで、培地が取り除かれて、DMEM, 10% FCS, 1x L-glutamine, 1x NEAA及び1x ペニシリン(100u/mL)/ストレプトマイシン(100μg/mL) (Invitrogen)に変えられ、オーバーナイトのインキュベーションが継続される。次いで、細胞は、1xトリプシン/EDTA溶液(Invitrogen)を用いてウェルから分離され、4つの新規なウェルに分割されて、600μg/mlのハイグロマイシン(hygromycin)(Invitrogen)を添加して、上述のように培地で成長される。
POG44プラスミドDNAとpcDNA5.1/FRT TSHRの両者でトランスフェクションされた細胞は、TSHRのFIp-In-CHO細胞のゲノムへの挿入を可能にし、ハイグロマイシン選択培地で成長することが可能であるように細胞にハイグロマイシンに対する耐性を与える。我々の構成のTSHRがPOG44によってFIp-In-CHO細胞のFRT部位に挿入されるように、インビトロジェンのFIp-Inシステムが設計される。FIp-In-CHO細胞は、細胞ごとに1つのFIp-In部位を含んでおり、したがって、TSHR DNAは各実験においてゲノムの同一の場所に挿入され、細胞ごとに1つのコピーとして存在する。このシステムは、最適な発現レベルの細胞のコロニーのスクリーニング(安定した細胞系を見つけるために、細胞クローニングが続く)が必要でないという利点を有する。結果として、ハイグロマイシン選択培地で成長する、突然変異したTSHRを発現する細胞が、急速に膨張することができて、異なる分析法で用いられることができる。
サイクリックAMP生成の刺激分析
野生型及び突然変異型のTSHRの両者を発現する、FIp-In-CHO細胞のサイクリックAMPの生成を刺激する、hMAb TSHR1及びTSHの能力は、WO2004/050708A2に従って分析された。要約すると、CHO細胞は、96穴プレート(12,500−20,000細胞/ウェル)に播種され、10%仔牛の胎児の血清を含むDMEM(インビトロジェン)で48時間にわたってインキュベーションされた。次いで、DMEMが取り除かれ、サイクリックAMPアッセイバッファー(1 g/L グルコース, 20 mmol/L HEPES, 222 mmol/Lスクロース, 15 g/Lウシ血清アルブミン(BSA)と0.5 mmol/L 3イソブチル−1−メチルキサンチン, pH 7.4を含むNaClフリーのHank's バッファー塩溶液)でのブタのTSH(RSR Ltd; 0.01 -3 ng/mL)及びhMAb TSHRl Fab (0.1-10 ng/mL)の希釈液が添加され、5%CO2の大気下にて37℃で1時間インキュベーションされた。試験溶液を除去した後、細胞は溶解されて、アマシャムバイオサイエンスのBiotrak酵素免疫アッセイシステムを用いて、サイクリックAMPをアッセイした。TSHアゴニスト活性を有するTSHレセプター抗体を含有する血清を用いた実験は、アッセイに先立ってサイクリックAMPアッセイバッファーで血清サンプルが1:10に希釈された以外は、同様の手順で実行された。
TSHアンタゴニスト活性の測定
いくつかの実験において、ブタのTSHの活性を阻害するようにTSHRに対する患者の血清及びマウスモノクローナル抗体の能力が評価された。これは、(a)TSH単独の刺激効果と、(b)患者の血清又はマウスモノクローナル抗体が存在する際のTSHの刺激効果を比較することによって実行された。簡潔すると、サイクリックAMPバッファーで希釈された50μLの患者の血清と、50μLのマウスモノクローナル抗体が、細胞のウェルに添加され、続いて50μLのバッファー又は50μLのTSH(0.6ng/mL終濃度0.3 ng/mL)が添加され、上述の刺激アッセイのようにインキュベーションされた。試験溶液を除去した後、細胞は溶解されて、Biotrak酵素免疫アッセイシステムを用いて、cAMPをアッセイした。
洗剤に可溶性の野生型試料及び突然変異型TSHR試料
野生型(wt)又は突然変異型TSHRのいずれかを発現する、FIp-In-CHO細胞は、175cm2フラスコでコンフルエンス(confluence)に成長されて、細胞はDulbecco's PBS (カルシウム及びマグネシウムイオンなしで) (Invitrogen)で洗浄されて、ロシュダイアグノスティックスのプロテアーゼインヒビター(50mLの溶液に対して、1タブレット(プロダクトコード1836145))及び1 mmol/Lのフェニルメチルスルフォニルフロライド(PMSF)を含有する10mLの冷却バッファーA(50 mmol/L NaCl, 10 mmol/L Tris-HCl pH 7.5)にスクレープ(scrape)された。細胞は4℃下にて1000xgで5分間ペレットにされて、ペレットは1mLのバッファーAで再懸濁されて、氷上のグラスホモジナイザーでホモジナイズされた。細胞膜は4℃下にて12,000xgで30分間ペレットにされて、6mLのバッファーAに加えて0.5g/Lのアジ化ナトリウム及び2.75g/Lのヨードアセトアミドで再懸濁されて、上述のようにペレットにされた。次いで、膜ペレットは、1%のTritonX−100及び0.5g/Lのアジ化ナトリウムを含有する1mLの冷バッファーAで再懸濁されて、ホモジナイズされた。可溶化されたTSHR試料は、4℃下にて90,000xgで2時間遠心分離されて、上澄みはアリコートに−70℃で保存された。
野生型又は突然変異型TSHRに対する標識されたTSH及び標識されたモノクローナル抗体の結合
これらの実験において、125Iを用いた標識及び未標識のブタのTSH(RSR Ltdの70units/mg)及びモノクローナル抗体(Fab又はIgG)が、既に記載されたように調製された(WO2004/050708A2)。
まず最初に、各TSHR試料のプロファイルが設定された。これらの実験において、プラスチックチューブ(Maxisorp Star; NUNC)は、10μg/mLのコーティング・バッファー(0.1 mmol/L Na2CCb pH 9.2)で、200μL TSHR C末端に対するマウスモノクローナル抗体を4°Cにおいて、オーバーナイトでコーティングされた。洗浄及びポストコーティング(水10μg/mLのBSA)後、チューブは、0.1%TritonX−100を含有するアッセイバッファー(10mmol/L Tris-HCl pH 7.8, 50 mmol/L NaCl及び1 mg/mL BSA)で洗浄された。次のステップでは、200μLの可溶化された野生型又は突然変異型TSHR試料がチューブに添加されて、4℃にてオーバーナイトでインキュベーションされた。チューブの内容物はアスピレーションで取り除かれ、チューブはアッセイバッファーで洗浄され、50μLの開始バッファー(RSR Ltd)、50μLのアッセイバッファー及び50μLの125I−TSH又は125I標識のモノクローナル抗体(10,000−15,000cpm)が添加されて、2時間にわたって攪拌されながら室温でインキュベーションされた。溶液のアスピレーション後、チューブは洗浄されてガンマカウンターでカウントされた。
15−40%の標識されたTSH又はモノクローナル抗体の結合を与えるTSHR試料の希釈は、分析のためのTSHRでコーティングされたチューブを調製するために使用された。幾つかの実験において、50μLのアッセイバッファーは、未標識TSH(0.4 - 500 munits/mL)又はモノクローナル抗体((0.001 - 1.0 μg/mL)の濃度の増加と共に、溶液と置換された。結合及びフリーのTSH又はモノクローナル抗体の濃度が算出されて、結合/フリーに対する結合のプロット(スカチャード分析(Scatchard analysis))は、TSHRを結合するためのアフィニティを計算するために使用された。
突然変異型TSHRを含有するCHOの刺激の分析
様々な突然変異を含み、TSHRでトランスフェクションされたCHO細胞でサイクリックAMP生成を刺激する、TSH又はhMAb TSHR1の能力が評価された。結果は表2a−2j、15a−15x及び27a−27hに示され、さらに、表3、16及び28に要約された。大部分の突然変異は、TSH及びhMAb TSHR1の両方の反応に対して、わずかな減少を引き起こした。しかしながら、しかしながら、Alaに対するArg80、Aspに対するArg80、Alaに対するTyr82、Alaに対するGIu 107、Alaに対するArgl09、Aspに対するArg109、Alaに対するLysl29、Aspに対するLysl29、Alaに対するPhel30、Alaに対するLysl83、Aspに対するLysl83、Alaに対するTyrl85、Alaに対するAsp232、Alaに対するArg255、Alaに対するAla、並びにダブルミューテーション(double mutation)Alaに対するArg255及びAlaに対するTrp258;Alaに対するTrp258及びAlaに対するLysl83; Alaに対するTrp258及びAlaに対するTyrl85の場合において、突然変異の効果の明確な相違が、ホルモン及び抗体に対する反応にあった。TSHへの反応が基本的に維持されたのに対して、これらのアミノ酸のいずれかの突然変異はhMAb TSHR1に対する反応において、著しい減少を引き起こした。
Asp232、Arg255およびTrp258を突然変異させる効果は、若干の詳細において調査された。Asp232の場合、近くのグルタミン(Glu235)は、Alaに変異した。しかしながら、この突然変異は、TSH又はhMAb TSHR1によって、刺激にほとんど影響を及ぼさなかった(野生型と比較して)(表4a)。同様に、Trp258に隣接したトレオニン257の突然変異は、ホルモン又は抗体の刺激にほとんど影響を及ぼさなかった(表4b)。しかしながら、ダブルミューテーション、Alaに対するArg255及びAlaに対するTrp258;Alaに対するTrp258及びAlaに対するLysl83; Alaに対するTrp258及びAlaに対するTyrl85は、TSHによって、刺激にほとんど影響を及ぼさないか又は全く影響がないが、hMAb TSHR1による刺激は、基本的に無くなった(表4c、27g及び27hをそれぞれ参照)。さらに、Arg255(正帯電のアミノ酸)の負電荷のアスパラギン酸(中性Alaに代わって)への突然変異は、また基本的に、hMAb TSHR1に対する反応がなくなったが、TSH刺激に対しては、ほとんど影響を及ぼさないか、又は全く影響を及ぼさなかった(表4d)。これらの結果は、表5及び28において要約される。
14人の異なるグレーブス病患者からTSHR自己抗体を含有する血清の能力においてAspにArg255を突然変異させる効果も研究されて、結果が表6に示される。表から分かるように、この変異体を発現するCHO細胞は、14人のすべての血清に対する反応を多大に減じた(野生型と比較して)。対照的に、Alaに対するArg80、Aspに対するArg80、Alaに対するGIu 107、Alaに対するArg109、Aspに対するArg109、Alaに対するLysl29、Alaに対するLysl 83、Aspに対するLysl83の突然変異は、血清に若干影響を及ぼしたが、試験される血清で刺激の全てを低下させるというわけではなかった(表19a−19h及び表20に要約)。唯一、AspへのArg255と、ダブルミューテーションAlaに対するArg255及びAlaに対するTrp258が、試験される全ての血清の反応を減じることができた(表6、19i及び表20に要約)。表7は、野生型TSHR及びAspに変異したArg255を有するTSHRを発現するCHO細胞でhMAb TSHR1 IgGとドナーの血漿(hMAb TSHR1 ハイブリドーマのためのリンパ球を抽出するように使用される同一の血液サンプルから得られる)の異なる投与による、サイクリックAMPの生成の刺激を示す。突然変異したTSHRに対するIgGと血漿の両者の効果は、野生型と比較して、かなり減じられ、投与の反応効果は同様であった。甲状腺刺激活性を有する、様々なマウスモノクローナル抗体(WO 03/018632A2のように調製されたmTSMAbs)の効果はまた、野生型TSHR及びAspに変異したArg255(表8)、Aspに変異したArg80、Alaに変異したGlu107、Alaに変異したArg109、Aspに変異したArg109、Alaに変異したLys129、Alaに変異したLys183、Aspに変異したLys183(表21a−g)を有するTSHRによってトランスフェクションされたCHO細胞のサイクリックAMP生成を刺激する、それら抗体の能力に関して試験された。表8及び表21a−gから認識でき、表22に要約されるように、mTSMAbの刺激効果は、基本的に突然変異によって逸した。野生型TSHR及びAspに変異したArg255を有するTSHRを発現するCHO細胞でのサイクリックAMP生成のTSH刺激に影響する、TSHアンタゴニストを有する、4人の患者の血清の能力もまた調査された。全ての4つの血清は、野生型及び突然変異型TSHRを発現するCHO細胞の強力なTSHアンタゴニストとして作用した(表9)。さらに、投与反応の試験は、TSHアンタゴニスト効果が、変異型レセプターを発現する細胞において、患者の血清の低い投与(高い希釈)で、より強力であった(表10)。さらに、Alaへの突然変異Glu107は、患者の血清で同様の増強したアンタゴニスト効果を示した(表23a及び24)が、一方で、他の2つの突然変異(AlaへのArg109、AlaへのLys183)は効果がなかった(表23a及び24)(表24に要約)。強力なTSHアンタゴニスト(及びhMAbTSHR1アンタゴニスト)活性(9D33、WO2004/05078A2に記載)を有する、TSHRへのマウスモノクローナル抗体の作用もまた調査された(表11、13a−j、17a−v並びに要約表14及び18)。表11で認識できるように、9D33は、野生型TSHR又はAspに変異したArg255を有するTSHRを発現するCHO細胞のTSH刺激を遮断することが可能であった。加えて、9D33のアンタゴニスト効果は、変異型レセプターを発現する細胞において、低い投与で、さらに強力であった(表11)。Alaに変異するAsp160及びAlaに変異するArg274の2つの他の突然変異は、野生型TSHRと比較して、9D33での増大したアンタゴニスト効果を示し(表17n及び17v)、一方で、Lys58のAlaへの変異、Arg80のAlaへの変異、Arg80のAspへの変異、Tyr82のAlaへの変異、Glu107のArgへの変異、Arg109のAlaへの変異、Arg109のAspへの変異、Lys129のAspへの変異、Phe134のAlaへの変異及びLys250のAlaへの変異は、それらの変異型TSHRを発現するCHO細胞におけるTSH刺激を遮断する9D33の能力の減少を示した(表17、さらに表18に要約)。しかしながら、検討した32の異なる突然変異のうちの19は、サイクリックAMPのTSH刺激を遮断する9D33の能力に、影響を及ぼさなかった(表13、14、17及び18)。
変異型TSHRに対する結合の分析
TSH、hMAb TSHR1及び9D33 MAbの結合において、アラニン、アルギニン又はアスパラギン酸に対して変異する、様々なTSHRのアミノ酸の効果が表12、25、29及び要約表26に示される。
AlaへのAsp43,AlaへのGlu61、AlaへのAsp203、AlaへのGln235、AlaへのGlu251、AlaへのAsp276及びAlaへのSer281の突然変異は、TSH、hMAb TSHR1又は9D33結合に対して、ほとんど影響を及ぼさないか、全く影響を及ぼさなかった。しかしながら、ArgへのGlu107、AspへのArg109、AspへのLys129、AspへのLys183及びAla又はArgへのAsp232の突然変異は、検出不可能になる、TSH、hMAb TSHR1又は9D33結合に結果としてなった。AlaへのTyr206は、TSH及び9D33における検出できない結合を有したが、一方で、hMAb TSHR1は検討されなかった。AlaへのGlu157、AlaへのAsp160、AlaへのLys209、AlaへのThr257及びAlaへのTrp258の突然変異は検出可能なTSHが結合するのを妨げたが、hMAb TSHR1又は9D33 MAb結合に対して、ほとんど影響を及ぼさないか、全く影響を及ぼさなかった。AlaへのLys58、AlaへのIle60、AlaへのTyr82の突然変異は検出できない9D33 MAb結合を示し、一方で、hMAb TSHR1及びTSHへの結合は野生型と同様であった。AlaへのArg80及びAspへのArg80の突然変異は、検出できない9D33 MAb及びhMAb TSHR1結合に結果としてなったが、一方、TSHはいまだ良好な結合であった。AlaへのGlu107及びAlaへのPhe134の突然変異は、結果として、hMAb TSHR1及び9D33 MAbにおける低い結合アフィニティとなったが、一方、TSHはいまだ良好な結合であった。AlaへのArg109の突然変異は、TSH結合でわずかな減少を示したが、一方、hMAb TSHR1結合の変化はなく、9D33 MAb結合は検出できなかった。TSHとhMAb TSHR1の両者の低い結合アフィニティは、Glu178がAlaに変異した際に観察されたが、一方で、9D33 MAb結合は影響を受けなかった。Lys129がAlaに変異した場合、TSHはいまだ良好に結合したが、一方、hMAb TSHR1におけるアフィニティは著しく減じられ、9D33 MAbの結合は検出できなかった。AlaへのPhe130、AlaへのTyr185、AlaへのArg255の突然変異は、結果として、hMAb TSHR1結合での著しい減少及び9D33 MAb結合での減少となったが、一方、TSHはいまだ良好に結合した。Arg255がAspに変異した場合、TSH結合は検出不可能で、かつ、hMAb TSHR1結合のアフィニティは著しく減じられたが、一方、9D33 MAb結合は影響を受けなかった。Lys250がAlaに、Arg274がAlaに、及びTyr279がAlaに変異した場合、TSH結合は検出できなかったが、一方、hMAb TSHR1及び9D33結合のアフィニティは減じられた。Lys183がAlaに変異する突然変異(hMAb TSHR1及び9D33 MAb結合は検討されなかった)(表25)は、Tyr185がAlaに変異し、Lys183がAlaに変異するダブルミューテーション(double mutation)(hMAb TSHR1結合は検討されなかったが、一方、9D33 MAb結合は減じられた)(表29)でなされたように、TSHの結合アフィニティを高めた。
Arg255がAlaに変異し、Trp258がAlaに変異するダブルミューテーションは、検出不可能なTSH結合を示し、hMAb TSHR1におけるわずかに減じられたアフィニティを示したが、一方、9D33 MAbはいまだ良好に結合した(表25)。Asp232のArgへの変異及びArg255のAspへの変異;Asp232のAlaへの変異及びTrp258のAlaへの変異;Asp232のAlaへの変異、Arg255のAlaへの変異及びTrp258のAlaへの変異;Trp258のAlaへの変異及びLys183のAlaへの変異;Arg255のAlaへの変異及びLys183のAlaへの変異;Trp258のAlaへの変異、Lys183のAlaへの変異及びTyr185のAlaへの変異;Arg255のAlaへの変異、Trp258のAlaへの変異、Tyr185のAlaへの変異及びLys183のAlaへの変異の突然変異はすべてTSH、hMAb TSHR1及び9D33 MAbに対する検出できない結合を示した(表29)。Asp232のAlaに変異し、Arg255がAlaに変異するダブルミューテーションも、TSH又は9D33 MAbに対する結合を示さず、hMAb TSHR1におけるアフィニティは検討されなかった(表29)。Glu157がAlaに変異し、Asp203がAlaに変異するダブルミューテーションの場合、TSH結合は検出できず、hMAb TSHR1に対する結合は野生型と同様であったが、一方、9D33 MAb結合は減じられた(表29)。Glu178のAlaへの変異及びAsp203のAlaへの変異;Trp258のAlaへの変異及びTyr185のAlaへの変異;Arg255のAlaへの変異及びTyr185のAlaへの変異;Arg255のAlaへの変異、Trp258のAlaへの変異及びTyr185のAlaへの変異の突然変異は検出できないTSH結合をもたらし、hMAb TSHR1結合を著しく減じ、さらに、9D33 MAb結合をわずかに減じた(表29)。Arg255がAlaに変異、Lys183がAlaに変異及びTYr185がAlaに変異する場合、TSH及びhMAb TSHR1の両者の結合は検出できなかったが、一方、9D33 MAb結合は減じられた(表29)。
結論/解釈
1)TSHRの選択された一つのアミノ酸を突然変異させる効果は、様々なリガンドによって、サイクリックAMP生成の刺激に関して観察された。
驚いたことに、幾つかのアミノ酸の突然変異は、TSH結合および/または刺激よりも、hMAb TSHR1結合および/または刺激に対して多大な影響を及ぼした。ホルモンと抗体の効果における、この違いは、AlaへのArg80、AspへのArg80、AlaへのTyr82、AlaへのGlu107、AlaへのArg109、AspへのArg109、AlaへのLys129、AspへのLys129,AlaへのPhe130、AlaへのLys183、AspへのLys183、AlaへのTyr185、AlaへのAsp232、AlaへのArg255及びAlaへのTrp258の突然変異の場合において、最も明白であった。加えて、AlaへのArg255及びAlaへのTrp258のダブルミューテーションは、AlaへのArg255の単独又はAlaへのTrp258の単独の突然変異よりも、より強力な効果を有した。
さらに、TSHによる刺激が基本的に影響を受けない一方で、反対に電荷されたAspに対するArg255の突然変異は基本的にhMAb TSHR1の刺激効果は消失した。さらに、また、14人の異なるグレーブス病患者のTSHレセプター自己抗体は、6つのマウスモノクローナル甲状腺刺激抗体のように、AspへのArg255の突然変異によって基本的に消失される、それらの刺激効果を有した。
AspへのArg255の突然変異と対照的に、AlaへのArg80、AspへのArg80、AlaへのGlu107、AlaへのArg109、AspへのArg109、AlaへのLys129、AlaへのLys183、AspへのLys183を含む他のTSHRのアミノ酸の突然変異及びAlaへのArg255とAlaへのTrp258のダブルミューテーションは、hMAb TSHR1の刺激効果を減じるか又は消失させたが、すべての患者の血清のTSHR自己抗体を検査しなかった。
2)結果として、驚くべくことに、TSHRのアミノ酸、Arg255の突然変異は、TSHと患者の血清のTSHR自己抗体(hMAb TSHR1を含む)との刺激作用の明確な差異をもたらす唯一のものであると我々は見出した。
3)TSHアンタゴニスト活性を有する患者の血清は、変異型TSHR(Arg255 Asp 変異)を発現するCHO細胞のTSH刺激の遮断において効果的である。さらに、強力なTSHアンタゴニスト活性を有するマウスモノクローナル抗体(9D33)は、野生型又は変異型(Arg255 Asp)レセプターを発現するCHO細胞における効果的なTSHアンタゴニストである。
我々はまた、TSH刺激を阻害する9D33の能力を妨げる、Alaに変異する、アミノ酸Arg109の突然変異を見出したが、この突然変異は、TSH刺激を遮断する、血清TSHR自己抗体(TSHアンタゴニスト自己抗体)の能力に効果がない。
4)結果として、AspへのTSHR Arg255の突然変異は、基本的に、レセプターと相互作用する、TSHアゴニストタイプのTSHR自己抗体(hMAb TSHR1を含む)の能力を消失する。対照的に、TSHアンタゴニストタイプのTSHR自己抗体(及びTSH)は、変異型レセプターと良好に反応できる。TSHR Arg255のAspへの突然変異は、したがって、TSHアゴニストとTSHアンタゴニスト活性を有するTSHR自己抗体を区別するために使用できる。
5)野生型及び変異型TSHR試料に対する標識TSH及び未標識hMAb TSHR1の結合の分析は、AlaへのArg255の突然変異がhMAb TSHR1におけるレセプターのアフィニティを減じるが、TSH結合ではほとんど効果がないことを示す。これは、サイクリックAMP生成の刺激における突然変異の効果と整合している。
Asp232 Alaの突然変異の場合、おそらく変異型レセプターの減少した表現レベルのため、ホルモン又は抗体の結合は、検出可能でなかった。
hMAb TSHR1結合が約3倍減少するだけだったのに対してTrp258がAlaに突然変異する際、TSH結合はまた、検出できなかった。
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Claims (28)

  1. 少なくとも1つの点突然変異を含む変異型TSHR試料であって、完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置の少なくともアミノ酸Argが、負に帯電したアミノ酸残基に点突然変異され、それによって、該変異型TSHR試料は、差別的に患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHと相互作用し、(i)該完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置でArgの変異が基準TSHR試料に存在しないことを除いて、該変異型TSHR試料のアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列を有する該基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用と比較した場合、該変異型TSHR試料と相互作用する、該患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用は、実質的に減少されるか、又は本質的に消失され、(ii)該基準TSHR試料と相互作用するTSHの刺激作用と比較すると、該変異型TSHR試料と相互作用する場合のTSHの刺激作用は基本的に影響されず、(iii)該基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断作用と比較すると、該変異型TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断効果は、基本的に影響されないか又は上昇し、それによって、該変異型TSHR試料は、スクリーニングされる体液のサンプル中、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHの差別的スクリーニング及び識別に対して効果的であることを特徴とする変異型TSHR試料。
  2. 前記完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置で少なくともアミノ酸Argが、Aspに点突然変異されることを特徴とする請求項1に記載の変異型TSHR試料。
  3. 少なくとも1つの点突然変異を含む変異型TSHR試料であって、完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置の少なくともアミノ酸Argが、該変異型TSHR試料でAspに突然変異し、それによって、該変異型TSHR試料は、差別的に患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHと相互作用し、(i)該完全長のヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置でArgの変異が基準TSHR試料に存在しないことを除いて、該変異型TSHR試料のアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列を有する該基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用と比較した場合、該変異型TSHR試料と相互作用する、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体の刺激作用は、実質的に減少されるか、又は本質的に消失され、(ii)該基準TSHR試料と相互作用するTSHの刺激作用と比較すると、該変異型TSHR試料と相互作用する場合のTSHの刺激作用は基本的に影響されず、(iii)該基準TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断作用と比較すると、該変異型TSHR試料と相互作用する患者の血清の遮断型TSHR自己抗体の遮断効果は、基本的に影響されないか又は上昇し、それによって、該変異型TSHR試料は、スクリーニングされる体液のサンプル中、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHの差別的スクリーニング及び識別に対して効果的であることを特徴とする変異型TSHR試料。
  4. 前記変異型TSHR試料は、変異した完全長のヒトTSHRであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料。
  5. 前記変異型TSHR試料は、ヒトTSHRの変異した断片であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料。
  6. 前記変異型TSHR試料は、患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHで、前記変異型TSHR試料の差別的な相互作用を増強する、アミノ酸の突然変異をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料。
  7. 前記変異型TSHR試料は、前記変異型TSHR試料の生物学的活性又は機能を変えないかあるいは実質的に変化する、サイレント置換、付加又は削除を表す、アミノ酸の突然変異をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料。
  8. TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、該疾患の疑いがあるか、該疾患症状を有しているか、あるいは該疾患から回復したと思われる被験者から得られるサンプル中の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体及びTSHの差別的スクリーニング及び識別での請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料の使用。
  9. TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、該疾患の疑いがあるか、該疾患症状を有しているか、あるいは該疾患から回復したと思われる被験者から得られる体液サンプルに存在する、刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体及びTSHと前記変異型TSHR試料との差別的な相互作用をモニタリング可能な検出手段を伴うことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料からなるキット。
  10. TSHRに対する免疫反応に関連した自己免疫疾患であるか、該疾患の疑いがあるか、該疾患症状を有しているか、あるいは該疾患から回復したと思われる被験者から得られる体液サンプルの刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体及びTSHの差別的なスクリーニングのための方法であって、該方法は、被験者から得られる体液のサンプルでTSHRに反応して生成される、刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体及びTSHと差別的に相互作用し、且つ、検出する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料を活用することを特徴とする方法。
  11. TSHRに対する免疫反応と関連する自己免疫疾患の治療に対して効果的な、少なくとも一つの治療薬の治療上の有効量を伴う組み合わせの請求項9に記載のキット。
  12. 薬学的に受け入れられるキャリア、希釈剤または賦形剤を伴う、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料からなる医薬品組成物。
  13. 治療で使用するための請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料。
  14. グレーブス病の治療のための薬剤の製造に使用するための請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料。
  15. グレーブス病の目の徴候の治療のための薬剤の製造に使用するための請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料。
  16. (i)請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料をエンコードするヌクレオチド配列;
    からなるポリヌクレオチド。
  17. 請求項16に記載のポリヌクレオチドを有し、宿主細胞のゲノムに対してポリヌクレオチドを導入可能な、生物学的に機能的なベクターシステム。
  18. 請求項16に記載のポリヌクレオチドの1つ以上、又は請求項17のベクターシステムで形質転換されるか又はトランスフェクションされる宿主細胞。
  19. 請求項1乃至7のいずれか一項に記載の変異型TSHR試料を調製するための方法であって、該方法は、
    (i)請求項18に記載の宿主細胞の提供;
    (ii)当該宿主細胞の成長;及び
    (iii)当該成長した宿主細胞からの本発明による変異型TSHR試料の回収
    を含むことを特徴とする方法。
  20. 体液のサンプル中の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体及びTSHの差別的スクリーニング及び識別に対して使用できる変異型TSHR試料を識別する方法であって、該方法は、TSHRの潜在的に相互作用している領域の識別と、該TSHRのための結合パートナーと相互作用するそれらの能力によってさらに識別できる、そこに存在するアミノ酸残基の識別を含み、候補であるアミノ酸は、一つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体およびTSHとTSHRとの相互作用に必要とされるアミノ酸であり、さらに、当該候補となるアミノ酸の点突然変異の実行を含み、さらに、変異型TSHR試料が結合パートナーと生じた相互作用のモニタリングを含み、変異型TSHRの少なくとも1つの刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体及びTSHとの結果として相互作用の阻害で生じる点突然変異を識別し、
    前記変異型TSHR試料が刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHと差別的に相互作用するように、点突然変異がヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置に存在するアミノ酸Argにおいて実行され、前記アミノ酸Argは、負に帯電したアミノ酸残基に選択的に点突然変異される
    ことを特徴とする方法。
  21. TSHRの1つ以上の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHとの相互作用において必要とされるアミノ酸残基を識別する方法であって、該識別方法は、TSHRの潜在的に相互作用している領域の識別と、TSHRのための結合パートナーと相互作用するそれらの能力によってさらに識別できる、そこに存在するアミノ酸残基の識別を含み、候補であるアミノ酸は、一つ以上の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHとTSHRとの相互作用に必要とされるアミノ酸であり、さらに、この方法は、当該候補となるアミノ酸の点突然変異の実行を含み、さらに、変異型TSHR試料が結合パートナーと生じた相互作用のモニタリングを含み、TSHRと1つ以上の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHとのそれぞれの相互作用において必要とされる、重要なアミノ酸を識別し、
    前記変異型TSHR試料が刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHと差別的に相互作用するように、点突然変異がヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置に存在するアミノ酸Argにおいて実行され、前記アミノ酸Argは、負に帯電したアミノ酸残基に選択的に点突然変異される
    ことを特徴とする方法。
  22. 1つ以上の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHとTSHRの形態に必要なアミノ酸残基の相互作用を可能にするように、TSHRの形態に必要なアミノ酸残基を識別する方法であって、該識別方法は、TSHRの潜在的に相互作用している領域の識別と、TSHRのための結合パートナーと相互作用するそれらの能力によってさらに識別できる、そこに存在するアミノ酸残基の識別を含み、候補であるアミノ酸は、一つ以上の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHとTSHRとの相互作用に必要とされるアミノ酸であり、さらに、当該候補となるアミノ酸の点突然変異の実行を含み、さらに、変異型TSHR試料が結合パートナーと生じた相互作用のモニタリングを含み、TSHRと1つ以上の刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHとのそれぞれの相互作用が可能となるように、TSHRの形態において必要とされる、重要なアミノ酸を識別し、
    前記変異型TSHR試料が刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHと差別的に相互作用するように、点突然変異がヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置に存在するアミノ酸Argにおいて実行され、前記アミノ酸Argは、負に帯電したアミノ酸残基に選択的に点突然変異される
    ことを特徴とする方法。
  23. 前記ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置に存在する、少なくともアミノ酸Argは、選択的に、負に電荷されたアミノ酸残基へと点突然変異されることを特徴とする請求項20乃至22のいずれか一項に記載の方法。
  24. 前記負に帯電したアミノ酸はAspであることを特徴とする請求項23に記載の方法。
  25. スクリーニングされる体液サンプルで1つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型自己抗体及びTSHの差別的スクリーニングのための、完全長ヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置で変異したアミノ酸残基を有する変異型TSHR試料の使用であって、
    前記アミノ酸255は、前記変異型TSHR試料が刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHと差別的に相互作用するように、負に帯電したアミノ酸残基に選択的に点突然変異されている、使用。
  26. 体液のサンプルに存在しないか、存在する、刺激型TSHR自己抗体の識別において、完全長ヒトTSHRのアミノ酸255に対応する位置で変異した変異型アミノ酸残基を有する変異型TSHR試料の使用であって、
    前記アミノ酸255は、前記変異型TSHR試料が刺激型TSHR自己抗体、遮断型TSHR自己抗体およびTSHと差別的に相互作用するように、負に帯電したアミノ酸残基に選択的に点突然変異されている、使用。
  27. スクリーニングされる体液のサンプルにおいて、1つ以上の患者の血清の刺激型TSHR自己抗体、患者の血清の遮断型TSHR自己抗体及びTSHの差別的スクリーニングのために、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置で変異したAspを有する変異型TSHR試料の使用。
  28. 体液のサンプル中の刺激型TSHR自己抗体の有無の識別で、ヒトTSHRの完全長のアミノ酸255に対応する位置で変異したAspを有する変異型TSHR試料の使用。
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