JP5113104B2 - 球状黒鉛鋳鉄管およびその製造方法 - Google Patents

球状黒鉛鋳鉄管およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、金型遠心鋳造により鋳造される球状黒鉛鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管)とその製造方法に関する。
一般的な球状黒鉛鋳鉄には、JIS規格のFCD350、FCD400、FCD450等の高靭性タイプのものや、FCD600、FCD700、FCD800等の高強度タイプのものがある。このうち、高靭性タイプのものを製造する場合は、材料溶解においてパーライト安定化元素の混入を防ぐとともに、鋳造後の熱処理によって基地組織をフェライト化することにより、規定された靭性が得られるようにしている。一方、高強度タイプのものを製造する場合には、基本的な化学成分にSnやCu等のパーライト安定化元素を適量添加して、基地組織に占めるパーライトの割合を増やすことにより、規定の強度を確保している。
しかし、高靭性タイプは強度が低く、高強度タイプは伸びが小さい材料となっているので、高強度と高靭性の両方が求められる用途に対しては、比較的強度と伸びのバランスのよいFCD450(引張強さ:450MPa以上、伸び:10%以上)等の高靭性タイプのものを用い、その製品肉厚を大きくすることによって材料の強度不足を補うか、あるいはオーステンパ処理に代表されるような特殊な熱処理を施した材料を用いる必要があった。このため、このような用途では、製品肉厚の増大や特殊な熱処理によるコストアップを抑えることが求められている。また、特に製品が大きい場合には、肉厚増大による自重歪みが問題となることもある。
これに対して、球状黒鉛鋳鉄の鋳造時の冷却条件および鋳造後の熱処理の条件を適切に設定して、基地組織にフェライトとパーライトを混在させるとともに、そのパーライトの性状を調整することにより、高強度を確保しつつ伸びの向上を図る技術が提案されている(特許文献1参照。)。
ところが、製品が水道管等の管材である場合、その球状黒鉛鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管)の鋳造方法は、上記特許文献1に記載の技術で想定する砂型での鋳造に比べて鋳造時の冷却速度がかなり大きい金型遠心鋳造が中心となるため、特許文献1の技術を適用することは困難である。すなわち、特許文献1の技術では鋳造時に基地組織にパーライトを生成する冷却速度で冷却を行うことが前提条件となっているが、それよりも冷却速度が大きい金型遠心鋳造を行った場合には、基地組織にセメンタイトが多く生成してしまうので、特許文献1に記載された熱処理を適用しても望ましい特性を得ることはできない。
このため、少なくとも金型遠心鋳造により鋳造される球状黒鉛鋳鉄管では、従来と同じく、肉厚の増大やオーステンパ処理等によって高強度と高靭性の両方が求められる用途に対応しており、コストアップや自重歪みの問題が解決されていないのが現状である。
特開2003−55731号公報
本発明の課題は、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管とその安価な製造方法を提供することである。
上記の課題を解決するために、本発明の球状黒鉛鋳鉄管は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuの少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織におけるパーライトの面積率が50〜90%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数が500個/mm以上でその平均粒径が15μm以下であるものとした。
ここで、パーライトの面積率とは、所定の大きさの視野において黒鉛を除いた基地組織の面積を100%とした場合のパーライトの面積の割合(%)である。また、黒鉛の粒数および平均粒径は、粒径3μm以下のものを除いて計測した値である。
すなわち、本発明では、パーライト安定化元素であるSnとCuの含有量を所定範囲に収めることにより、基地組織におけるパーライト面積率を50〜90%となるように調整して高強度が得られるようにするとともに、基地組織中に微細な黒鉛を多数晶出させることにより、組織を緻密化して高靭性が得られるようにしたのである。
次に、各合金元素の含有量を上記の範囲に限定した理由について説明する。
Cは、本発明に必要な黒鉛量と鋳造性(溶湯の流動性)を確保するために、少なくとも3.20%含むようにした。一方、含有量が4.00%を超えると、黒鉛の晶出が過剰になって高い強度が得られなくなるので、含有量の上限を4.00%とした。
Siは、溶湯の流動性を高める作用や黒鉛の晶出を促進する作用を有するが、含有量が1.40%未満ではこれらの作用による効果が十分に得られない。一方、含有量が3.00%を超えると、黒鉛の晶出が過剰になるとともに基地組織のパーライト化を抑える作用が大きくなって高強度が得られなくなるし、製品の外表面にピンホール等の荒れが発生しやすくなる。このため、含有量の範囲を1.40〜3.00%とした。
Mnは、Sを固定して無害化する元素であり、その効果を十分に得るために少なくとも0.10%含むようにした。しかし、過剰であれば伸びを低下させるので、含有量の上限を1.00%とした。
Mgは、黒鉛を球状化させるのに必要な元素であり、含有量が0.02%未満では十分な効果が得られない一方、0.08%を超えると効果の向上が少なくなるので、含有量の範囲を0.02〜0.08%とした。
Crは、通常、不可避的に0.01%以上含まれるが、含有量が0.20%以下であればその影響は小さい
SnおよびCuは、ともにパーライト安定化元素であるが、Cuの効果はSnの効果の約1/10であることが知られている。そして、一方で、需要家から求められている高強度と高靭性を両立するには、基地組織におけるパーライトの面積率を50〜90%に調整する必要があるという知見を得たことから、このパーライト面積率をSnとCuの少なくとも一方の添加によって達成する条件として、両元素の含有量を0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089の範囲に規定した。すなわち、Sn(重量%)+Cu(重量%)/10<0.050のときは、基地のパーライト面積率が小さくなりすぎて、靭性は高まるが高強度が得られなくなる。一方、Sn(重量%)+Cu(重量%)/10>0.089のときは、基地のパーライトが大きくなりすぎて、高強度は得られるが靭性が低くなる。よって、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089の範囲を規定したのである。
上記各合金元素のほかには、P、S等の不可避的不純物が含有されるが、その含有量は少ないほどよい。例えば、Pは0.08%以下、Sは0.015%以下とすることが好ましい。
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を用いて、金型遠心鋳造により管状の半製品を鋳造し、この半製品に対して900〜1100℃で5〜25分保持した後1〜8℃/分の冷却速度で630〜750℃まで冷却する焼鈍を行うことにより、前記半製品を上述した構成の球状黒鉛鋳鉄管となすものである。
すなわち、上記のようにSnとCuのうち少なくとも1種を添加した溶湯を用いる金型遠心鋳造と上記条件の焼鈍の組み合わせにより、パーライト面積率が50〜90%、かつ黒鉛の粒数が500個/mm以上でその平均粒径が15μm以下となり、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を容易に製造することができる。このとき、黒鉛粒数が500個/mmを下回ると、上記焼鈍を行う際にセメンタイトの分解に時間がかかり、また基地組織に含まれる固溶炭素の黒鉛化が遅れるため、上記範囲のパーライト面積率が得られにくくなるが、黒鉛粒数を500個/mm以上とすることにより、この影響を小さくすることができる。
ここで、前記溶湯を金型に注湯する際に、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種するようにすれば、基地組織中に晶出する黒鉛の粒数がさらに増加して、より確実に高い靭性が得られる。
上述したように、本発明の球状黒鉛鋳鉄管は、基地組織におけるパーライトの面積率を50〜90%とし、基地組織中に微細な黒鉛を多く晶出させたものであるから、高強度かつ高靭性のものとなり、高強度と高靭性の両方が求められる用途に対しても薄肉で使用することができる。その結果、従来の高靭性タイプのものを厚肉にして使用する場合に比べて製造コストを低減できるし、大口径管では軽量化によって自重歪みの問題を解消することもできる。
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、SnとCuの含有量を適量に調整した溶湯を用いて金型遠心鋳造を行った後、所定の条件で通常の焼鈍を行うことにより、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を容易に得られる。従って、オーステンパ処理等の特殊な熱処理を行う場合よりも製造コストを低減することができる。
a〜cは、それぞれ比較例1、実施例3、比較例2の材料組織の顕微鏡写真 a〜cは、それぞれ実施例5、実施例9、比較例3の材料組織の顕微鏡写真
以下、本発明の実施形態の球状黒鉛鋳鉄管の特性を確認するために行った実験について説明する。実験では、まず、実施形態の球状黒鉛鋳鉄管(実施例)と、比較例となる球状黒鉛鋳鉄管を製造した。表1および表2は、実施例および比較例の溶湯の化学成分を示す(記載を省略した残部はFeおよび不可避的不純物からなる)。なお、表1、表2に示した化学成分データは、それぞれの溶湯から作製した白銑試料を発光分光分析装置で分析した値である。
ここで、表1の実施例1〜4および比較例1、2は、それぞれC、Si、Mn、Mg、Cr、Cuの含有量を一定としてSn含有量を変化させたもので、各実施例ではSnが下記(1)式の範囲内で含有されており、各比較例ではSn含有量が(1)式の範囲から外れている。
0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089・・・(1)
なお、各実施例および各比較例には、表1に示した化学成分のほかに、不可避的不純物としてPが0.042%、Sが0.002%それぞれ含有されている。
一方、表2の実施例5〜9および比較例3は、それぞれC、Si、Mn、Mg、Cr、Snの含有量を一定としてCu含有量を変化させたもので、各実施例ではCuが上記(1)式の範囲内で含有されており、比較例3ではCu含有量が(1)式の範囲から外れている。また、各実施例および比較例3には、表2に示した化学成分のほかに、不可避的不純物としてPが0.047%、Sが0.002%それぞれ含有されている。
次に、表1、表2の各実施例および各比較例の組成を有する溶湯をそれぞれ約1300℃で遠心鋳造装置の円筒状金型に注湯して、厚さ7.0mmの管状の半製品(鋳放し管)を鋳造した。その注湯の際には、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種した。また、鋳造時の冷却方法は、注湯した溶湯を金型水冷により凝固させた後、金型から引き抜いて空冷した。このとき、注湯から共晶凝固完了までの冷却速度(管内面の温度降下量を冷却時間で除した値)は、約5.0℃/秒であった。なお、この冷却速度は注湯温度や管厚により変化するが、通常は2.0〜8.0℃/秒程度となる。
そして、上記の各鋳放し管を下記の条件で焼鈍することにより、製品としての球状黒鉛鋳鉄管に仕上げた。
(焼鈍条件)
・加熱温度 :900〜1100℃
・加熱保持時間:5〜25分
・冷却速度 :1〜8℃/分
このようにして製造した各球状黒鉛鋳鉄管から試験片を採取し、それぞれについて材料組織の性状および機械的性質を調査した。その調査結果を表3〜6に示す。また、図1および図2は、各実施例のうちの代表例と各比較例の材料組織の顕微鏡写真を示す。ここで、表4および表6の材料組織の性状に関するデータは、いずれも管の厚さ方向中心部の画像解析により計測したもので、そのうちのパーライト面積率は所定の大きさの視野における基地組織の面積を100%とした場合のパーライトの面積の割合であり、黒鉛面積率は所定の大きさの視野全体の面積を100%とした場合の黒鉛の面積の割合である。また、黒鉛に関しては、いずれも粒径が3μm以下のものを除いて計測を行っている。
表4、表6中のパーライト面積率および図1(a)〜(c)、図2(a)〜(c)から、Cuの含有量を一定としてSn含有量を変化させた場合も、Snの含有量を一定としてCu含有量を変化させた場合も、材料の基地組織がSnまたはCuの含有量増加に伴ってフェライト主体からパーライト主体に変化していくことがわかる。
そして、表3〜6から明らかなように、SnとCuの含有量が前記(1)式の範囲を超える比較例1では、パーライト面積率が90%を超えており引張強さは高いが伸びが10%に達しておらず(FCD450に劣る)、SnとCuの含有量が(1)式の範囲に満たない比較例2および比較例3では、パーライト面積率が50%未満で伸びは高いが引張強さが600MPaに達していない(FCD600に劣る)。これに対して、SnとCuの含有量が(1)式の範囲内にある各実施例では、パーライト面積率が50〜90%であり、600MPa以上の引張強さと10%以上の伸びが確保されている。
ここで、黒鉛の性状については、各実施例、各比較例とも、黒鉛の粒数が500個/mm以上でその平均粒径が15μm以下となっている。このため、パーライト面積率が90%を超える比較例1についても、その伸びが、FCD450には劣るものの、比較例1と引張強さが同等のFCD700(伸び:2%以上)に比べれば大幅に改善されている。
以上の結果から、各実施例の球状黒鉛鋳鉄管は、SnとCuの含有量を(1)式の範囲に収めて、基地組織におけるパーライト面積率を50〜90%に調整するとともに、冷却速度の大きい金型遠心鋳造と適切な条件の焼鈍とを組み合わせて、基地組織中に微細な黒鉛を多数晶出させることにより、FCD600と同等以上の引張強さとFCD450に匹敵する伸びを有する、高強度かつ高靭性のものになることが確認された。
なお、上述した実施形態では接種剤としてFe−Si系のものを用いたが、Biが0.5〜5.0重量%、Siが45〜75重量%含まれたBi系接種剤を用いることもできる。また、これらの接種剤は、黒鉛をより多く晶出させるために使用するが、必要な靭性が得られれば必ずしも使用しなくてもよい。
さらに、表1および表2に示した各実施例の溶湯の化学成分に加えて、Bを0.002〜0.010重量%程度添加することにより、焼鈍後に基地組織の黒鉛周囲のみにフェライトを生じるブルスアイ組織が得られるようにすれば、さらに靭性を改善することができる。

Claims (3)

  1. 重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織におけるパーライトの面積率が50〜90%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数が500個/mm以上でその平均粒径が15μm以下(面積率が8〜12%、球状化率が86%以上)である球状黒鉛鋳鉄管。
  2. 重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を用いて、金型遠心鋳造により管状の半製品を鋳造し、この半製品に対して900〜1100℃で5〜25分保持した後1〜8℃/分の冷却速度で630〜750℃まで冷却する焼鈍を行うことにより、前記半製品を請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄管となす球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
  3. 前記溶湯を金型に注湯する際に、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種することを特徴とする請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
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