JP5105384B2 - 非破壊検査方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は、超音波パルスを用いた非破壊検査方法及び装置に関するものである。
特許第3705960号公報(特許文献1)には、従来の超音波探傷について開示されている。従来の超音波を利用した異常診断または状態診断方法では、被検査物に投射した超音波が異常部である不連続界面で反射し、これをパルスとして測定する[図1(a)]。
また特開2004−340807号公報(特許文献2)には、接合面へ超音波を入射し、入射波に対する透過波の波形の歪みから微小冷接性欠陥を検出する超音波探傷方法が開示されている。そして該公報には、入射波に対する透過波の波形を周波数分析して基本波と高調波を求め、基本波の振幅と高調波の振幅の比をとり、振幅の比より微小冷接性欠陥の有無を判定する。
従来の方法では、図1(B)に示すような明確でない亀裂や剥離(閉じた亀裂などと呼ばれる)は、超音波が通過するため通常の方法での検出は難しい。これに対し、図2に示すような連続的なパルスの超音波信号を被検査対象に投射し、図1(B)のような明確でない亀裂を通過させると、超音波の基本周波数成分に加え高調波成分や分数調波成分が条件によって観測される。図2の連続した超音波パルス信号は、例えば、1/2分数調波成分が含まれる連続パルスである。このような連続した超音波パルス信号を投射した場合に得られる現象を超音波非線形と呼び、この観測によって通常の方法では困難な亀裂や剥離の検出が試みられている。
特許第3705960号公報 特開2004−340807号公報
しかしながら連続した超音波パルス信号を投射して得られる超音波非線形を利用した非破壊検査方法には、以下の問題点がある。
(1)汎用の超音波探傷装置は単一パルスの超音波を発生させるものがほとんどである。そのため図2に示すような連続パルスの超音波を発生させるには特殊な装置が必要となる。
(2)連続パルスの超音波は、多層部材など多くの反射波が発生する場合には波の干渉が生じ、正しい解析ができない場合がある。
本発明の目的は、従来、単一超音波パルス信号を用いた場合には診断できなかった被検査対象物の状態を診断できる非破壊検査方法及び装置を提供することにある。
本発明の非破壊検査方法では、まず被検査対象物に単一超音波パルス信号を入射する。本願明細書において、「単一超音波パルス信号」とは、単純な1周期のパルスに限定されるものではなく、汎用の超音波探傷装置で利用できる一般的な単一超音波パルス発生装置で使用している周波数と周期を有するパルス信号である。被検査対象物の性質によって異なるが、ゴム、コンクリート、金属等の非検査対象物に対して使用する単一超音波パルス信号は、1MHz〜10MHzの周波数を有する1乃至2周期のパルス信号が好ましい。
次に被検査対象物の内部に入った単一超音波パルスを受信部で受信し、受信した単一超音波パルスの減衰波形の瞬時周波数とその時間変化(時間的な移り変わり)を求める。被検査対象物の内部に入って且つ受信される単一超音波パルスは、被検査対象物の内部を透過した透過波、または被検査対象物の内部で反射した反射波のいずれでもよい。ここで減衰波形の瞬時周波数は、減衰波形の瞬時の位相変化率と言い換えることもできる。なお瞬時周波数については、例えば、戸田浩、章忠及び川畑洋昭が著作の「最新ウェーブレット実践講座入門と応用」(ソフトバンククリエイティブ株式会社発行)の40頁に説明されている。
そして本発明の方法では、瞬時周波数の時間変化に基づいて、被検査対象物の状態を診断する。発明者の研究によると、明確でない亀裂を通過した単一超音波パルス信号の減衰波形の周波数は、減少する傾向を示す。したがって単一超音波パルス信号の減衰波形の瞬時周波数の時間変化を見ることにより、従来の単一超音波パルス信号を用いた方法では見つけることができないような異常な状況を発見することができる。本発明では、単一超音波パルス信号を利用するため、反射波の干渉を受けにくく、周波数変化のわずかな量を捉えることができて、従来の高調波成分や分数調波成分を捉える方法よりも精度が高い。
例えば、予め定めた時間間隔で減衰波形の瞬時周波数を求め、瞬時周波数の時間変化のパターンの形状を、正常な被検査対象物について事前に測定した基準となる瞬時周波数の時間変化のパターンの形状と比較することにより、被検査対象物の状態を診断することができる。なお瞬時周波数の時間変化に基づく診断の具体的な手法は、任意である。
減衰波形の瞬時周波数の求め方も、任意である。例えば、受信した単一超音波パルス信号の減衰波形u(t)を、該減衰波形の包絡線A(t)と時刻tにおける位相φ(t)とから表されるu(t)=A(t)sinφ(t)の近似式で近似し、この近似式中の位相から時刻tにおける角周波数を求め、角周波数から時刻tにおける瞬時周波数を求めるようにしてもよい。減衰波形をこのような近似式で表現した上で、瞬時周波数を求めると、1乃至2周期程度の超音波パルス信号を用いる場合でも、より高い精度で瞬時周波数を求めることができる。
なお減衰波形の包絡線A(t)と位相φ(t)を、ウェーブレット変換またはヒルベルト変換を利用して求めると、1乃至2周期程度の少ない超音波パルス信号の減数波形の包絡線A(t)と位相φ(t)を簡単且つ確実に得ることができる。
本発明の非破壊検査装置は、被検査対象物に単一超音波パルス信号を入射するパルス入射部と、被検査対象物内を通った単一超音波パルス信号を受信する受信部と、受信した単一超音波パルス信号の減衰波形の瞬時周波数の時間変化を求める周波数時間変化演算部と、周波数時間変化演算部が演算した瞬時周波数の時間変化に基づいて、被検査対象物の状態を診断する診断部とを備えている。そして診断部は、正常な状態の被検査対象物について事前に測定した瞬時周波数の時間変化を少なくとも一つの判定基準として記憶しており、少なくとも一つの判定基準と周波数時間変化演算部が演算した瞬時周波数の時間変化とを比較して、被検査対象物の状態を診断する。本発明の非破壊検査装置によれば、単一超音波パルス信号の減衰波の瞬時周波数から診断をするため、反射波の干渉を受けにくく、周波数変化のわずかな量を捉えることができて、従来の高調波成分や分数調波成分を捉える装置よりも精度で診断をすることができる。
パルス入射部は、1MHz〜10MHzの周波数を有する1乃至2周期のパルス信号を前記単一超音波パルス信号として発生するものである。また周波数時間変換演算部は、受信した単一超音波パルス信号の減衰波形u(t)を、該減衰波形の包絡線A(t)と時刻tにおける位相φ(t)とから表されるu(t)=A(t)sinφ(t)の近似式で近似し、近似式中の位相から時刻tにおける瞬時角周波数を求め、瞬時角周波数から時刻tにおける瞬時周波数を求める。
パルス入射部及び受信部は、被検査対象物を透過した単一超音波パルス信号を受信するように被検査対象物に配置しても、また被検査対象物内で反射した単一超音波パルス信号を受信するように被検査対象物に配置してもよい。
(A)及び(B)は、超音波探傷法を説明するために用いる図である。 超音波非線形の例(1/2分数調波)を示す図である。 本発明の非破壊検査装置の構成の一例を示す図である。 (A)及び(B)は、ウェーブレット変換を説明するために用いる波形図である。 ウェーブレット変換の例を示す図であり、(A)は減衰振動波形u(t)を示し、(B)はu(t)に対するウェーブレット変換結果を示す図である。 (A)は1枚のゴム板を通過した超音波パルスを示す図であり、(B)はその時間に対する周波数変化を示す図である。 (A)は加圧した2枚のゴム板を通過した超音波パルスを示す図であり、(B)はその時間に対する周波数変化を示す図である。 2枚のゴム板間の加圧力の違いによる周波数変化の違い(実線:加圧力大,点線:加圧力小)を示す図である。 反射波に基づいて診断する場合に用いる被破壊検査装置の構成を示す図である。 試験に用いた供試体の構成と、推定される複数の反射波の経路を示す図である。 単一超音波パルス信号を投射したときに受信された4種類の反射パルスA,B,C及びDの波形を示す図である。 3つの条件下において、反射パルスA〜Dの瞬時周波数の時間変化を求めた結果を示す図である。
以下図面を参照して、本発明の非破壊検査方法及び非破壊検査装置の実施の形態を詳細に説明する。図3は、本発明の非破壊検査方法を実施する非破壊検査装置の実施の形態の一例の構成を示す図である。1は、2枚のゴムの板を接合した被検査対象物である。本実施の形態では、被検査対象物を間に挟むように、単一超音波パルス信号のパルス入射部2と受信部3を配置する。超音波発振器4は、1MHz〜10MHzの周波数を有する1乃至2周期のパルス信号を入射部2に送信する。入射部2は、被検査対象物1に単一超音波パルス信号を入射する。受信部3は、被検査対象物1内に入ってその内部を透過した単一超音波パルス信号(透過波)を受信する。受信部3で受信した単一超音波パルス信号の減衰波形は、増幅器5で増幅されてウェーブレット変換部6に入力される。ウェーブレット変換部6は、減衰波形をウェーブレット変換して、後述する減衰波形の包絡線A(t)と位相φ(t)を出力する。周波数時間変化演算部7は、ウェーブレット変換部6から入力された減衰波形の包絡線A(t)と位相φ(t)を用いて、減衰波形を演算可能な近似式で近似し、受信した単一超音波パルス信号の減衰波形の瞬時周波数の時間変化を求める。なおこの演算については、後に詳しく説明する。診断部8は、周波数時間変化演算部7が演算した瞬時周波数の時間変化に基づいて、被検査対象物の状態を診断する。本実施の形態で用いる診断部8は、正常な状態の被検査対象物について事前に測定した瞬時周波数の時間変化を少なくとも一つの判定基準として記憶している。そして少なくとも一つの判定基準と周波数時間変化演算部7が演算した瞬時周波数の時間変化とを比較して、被検査対象物の状態を診断する。
ウェーブレット変換部6でのウェーブレット変換について説明する。ウェーブレット変換は次式で定義される。
ここに、ψ(t)がマザーウェーブレットと呼ばれる局所的な関数であり、よく用いられるガボールウェーブレットでは以下のようになる。
ω0 はウェーブレットの基本周波数成分である。aはスケーリングパラメータと呼ばれ、これが小さくなるほど周波数成分が高くなる。例えば、aが1/2ならば周波数成分は2ω0 となる。bはトランスレートパラメータと呼ばれ、時間の情報を表す。したがって、ウェーブレット変換結果(Wψf)(b,a)は、時刻bにおけるω0 /aの周波数成分がどれほどあるかを示している。ψ(t)は複素数であるので、ウェーブレット変換結果(Wψf)(b,a)も複素数となる。通常のウェーブレット変換結果は、複素数である(Wψf)(b,a)の大きさ、すなわち、[(実部)2+(虚部)21/2として表す。例として、図4(a)に示す信号に対してウェーブレット変換を行った結果を図4(b)に示す。図4(b)の横軸が時間[(式(1)のbに相当]、縦軸が周波数[式(1)のω0 /aに相当]であり、等高線でその時間における周波数成分の強弱を表している。この図から、時間とともに信号の周波数(周波数)が上昇していく様子がわかる。
このように、通常のウェーブレット変換は、時間−周波数平面上の等高線や色の濃さなどで、時間と周波数両方の情報を与えることに大きな特徴がある。
本実施の形態で用いるウェーブレット変換は、式(1)の定義式においてa=1と固定し、マザーウェーブレットの基本周波数である式(2)のω0 を超音波パルスの主要周波数と一致させる。例として、超音波波形ではないが、図5(a)に示す減衰振動波形u(t)にこのウェーブレット変換を適用してみる。a=1と固定しているので、ウェーブレット変換結果はトランスレートパラメータbのみの関数となる。結果をg(b)と表すと下記の式(3)の通りになる。
トランスレートパラメータbは時間tと等価であるため、引数bをtと置き換え、改めてウェーブレット変換結果をg(t)と表す。g(t)は複素数であり、これを用いてもとの減衰波形u(t)を以下のように近似する。g′(t)[下記式(4)中でgの上にバーを表示してある]はg(t)の複素共役である。
この結果を図5(b)の実線に示す。減衰波形の立ち上がりの部分がもとの波形u(t)よりなだらかになっているが、それ以外は良く近似されていることがわかる。一方、g(t)の虚部について2Im[g(t)]を図5(B)の点線で示す。これは、2Re[g(t)]の位相を1/4周期ずらしたものに相当する。これらの関係を用いると、減衰波形u(t)を次のように近似することができる。
A(t)は時刻tにおける振幅であり、この減衰波形の包絡線となる。φ(t)は時刻tにおける位相であり、φ(t)の時間微分がその時刻tにおける減衰波形の瞬時角周波数ω(t)に相当する。すなわち、瞬時角周波数ω(t)は以下のように表すことができる。
そして時刻tにおける瞬時周波数f(t)は、
である。式(6)の微分は数値的に行う。
本実施の形態の周波数時間変化演算部7では、受信した単一超音波パルス信号の減衰波形u(t)を、減衰波形の包絡線A(t)と時刻tにおける位相φ(t)とから表されるウェーブレット変換で求めた上記(5)式におけるu(t)=A(t)sinφ(t)の近似式で近似する。そしてこの近似式中の位相φ(t)から時刻tにおける瞬時角周波数ω(t)を求める。その上で、瞬時角周波数ω(t)から時刻tにおける瞬時周波数f(t)を求める。
次に具体的な実験例を示す。まず、厚さ約2mmのゴム板に圧力をかけ、このゴム板(被検査対象)の一方の側に配置した入射部2は単一超音波パルス信号を投射し、反対側に配置した受信部3で受信する。図6(A)は、受信部3が受信した単一超音波パルス信号の波形を示しており、図6(B)は、周波数時間変化演算部7が演算した超音波パルス信号の瞬時周波数の時間的移り変わりを示す。診断部8では、図6(B)に示す瞬時周波数の時間的移り変わり(時間変化)を判定基準として記憶する。図6(B)の例では、超音波パルス信号の減衰波形の周波数は、6MHz付近で時間とともに若干上昇していることがわかる。なお図6(B)の例において、中央の波形が判定基準となる波形であって、中央の波形の両側に現れる波形は、ノイズ波形である。
これに対し、厚さ約1mmのゴム板を2枚重ねて2mm厚と同じ圧力をかける。2枚のゴム間には微小な隙間が存在する。上記同様に単一超音波御パルス信号を入射部2から投射して反対側の受信部3で透過波を受信する。得られた超音波パルス信号の減衰波形の一例を図7(A)に示し、この減衰波形の瞬時周波数の時間的移り変わり(時間変化)を図7(B)に示す。図7(B)においても、図6(B)と同様に、中央の波形が判定対象となる波形であって、中央の波形の両側に現れる波形は、ノイズ波形である。
図7(A)と図6(A)を比較すると、受信部3が受信した超音波パルス信号の波形はほとんど変わらないのに、瞬時周波数の時間変化には明らかな低下(5.8MHz付近)が認められる。つまり、この瞬時周波数の時間変化の低下からゴムの間に微小な隙間が存在することが推測できる。診断部8では、瞬時周波数の時間変化のパターンの比較を利用して診断を行う。
前述のように、単一超音波パルス信号の瞬時周波数の時間的変化の様子は、物体内部境界の接触状態によって変化する。その結果、この瞬時周波数の時間的変化の現象により、物体内部境界の接触状態を推測できる。前述の実験と類似の実験で、ゴム板の圧縮力が強い場合の瞬時周波数の時間変化を図8中に実線で示し、圧縮力が弱い場合の瞬時周波数変化を図8の点線に示す。図8において、圧縮力が弱い場合の瞬時周波数の時間変化(点線)のパターンは大きく波打つように変動しており、圧縮力が強い場合の瞬時周波数の時間変化(実線)のパターンとは大きく異なっている。また、周波数の平均値も下降していることがわかる。このことから、ゴム板に加えた圧縮力の違い、すなわち、ゴム板間の接触状態の違いを推測できる。なお図8においても、図6(B)及び図7(B)と同様に、中央の波形が判定対象となる波形であって、中央の波形の両側に現れる波形は、ノイズ波形である。
なお、上記実施の形態は、透過波のみを対象にしているが、被検査対象物の内部に入って、その内部にある何らかの反射層(ギャップ層、材質変化層等)で反射した反射波に基づいても、同様に診断ができる。図9は反射波に基づいて診断する場合に用いる被破壊検査装置の構成を示す。図9においては、図3の透過波に基づいて診断する場合に用いる被破壊検査装置の構成要素と同様の構成要素には、図3に付した符号の数に10の数を加えた数の符号をしてある。本実施の形態では、パルス入射部12から被検査対象物11に入射してその内部で反射して戻ってくる単一超音波パルス信号の複数の反射波を受信部13で受信できるように、パルス入射部12と受信部13とがセットになったセンサユニット10を用いる。このセンサユニット10を、被検査対象物11の表面に添って移動させることにより反射波を受信部13で受信する。本実施の形態では、反射波の減衰波形の包絡線A(t)と時刻tにおける位相φ(t)とを求めるために、図3のウェーブレット変換部6に代えてヒルベルト変換部16を用いている。反射波形u(t)をヒルベルト変換して得られる関数h(t)は、次式で定義される。
上記式においてu(s)は単一超音波パルス信号の減衰波形であり、またsは積分パラメータである。h(t)はu(t)の位相をπ/4周期ずらしたものに相当する。そして時刻tにおける位相φ(t)は、以下の式から求められる。
そして時刻tにおける瞬時周波数f(t)は、以下の式から求めることができる。
周波数時間変化演算部17は、上記式に基づいて瞬時周波数を演算し、前述の周波数時間変化演算部7と同様にして瞬時周波数の時間変化を求める。
反射波を用いる本実施の形態でも効果があることを確認するために試験を行った。この試験では、内部状態の診断として、接着剤の接着度強度評価に対する実現可能性を試験した。試験対象として、図10に示すように、2枚のアクリル板をエポキシ系接着剤で接着した簡単な供試体を作成した。その際、以下に示す3つの異なる条件で接着を行った。使用した接着剤は、所定の接着強度を得るには塗布後10分以内の接着が必要なものである。したがって接着剤塗布から接着までの時間が長いほど接着度は低下することになる。
[条件1]接着剤塗布、20分後接着(接着度低)
[条件2]接着剤塗布、10分後接着(接着度中)
[条件3]接着剤塗布、すぐに接着(接着度高)
図9に示す非破壊検査装置を用いて、図10に示すように、供試体の一方から単一超音波パルス信号を投射し、供試体内部で反射してきた超音波を測定した。条件1の場合において、単一超音波パルス信号を投射したときに受信された4種類の反射波A,B,C及びDは、図11に示す波形のようになる。そしてこれらの反射波の経路は、図10にA,B,C及びDで示すような経路で反射しているものと推測される。条件2及び3の反射パルスの場合の表示は省略するが、測定データからは、それぞれの条件における音速や反射パルスA〜Dの振幅に大きな違いを確認することはできなかった。また、反射パルスA〜Dに対し区分的に周波数解析を行い、それぞれの周波数スペクトルを求めても、各条件による周波数成分の違いを明確に見出すことはできなかった。すなわち、音速の変化、振幅の変化および周波数成分の変化からは接着条件1〜3を区別できないことが確認された。
条件1〜3におけるそれぞれの反射パルスA〜Dの瞬時周波数の時間変化を求めた結果を図12に示す。図12において、条件1(20分後接着)の結果は黒線、条件2(10分後接着)の結果は点線、条件3(すぐに接着)の結果はグレーの線で表している。アクリル部分のみを通過した反射パルスA,Cの瞬時周波数の時間変化は条件1〜3でほとんど差がないが、接着剤部分を通過した反射パルスB,Dの瞬時周波数の時間変化は条件1〜3で大きく異なり、接着剤塗布から時間をおかずに接着するほど、すなわち、接着強度が高いほど瞬時周波数の時間変化が低下している。したがって、接着剤部分を通過した反射パルスの瞬時周波数の時間変化から、接着強さが評価できることがわかる。通常の周波数スペクトルではこのような明確な違いを見出すことができないため、本実施の形態のように瞬時周波数の時間変化に着目する方法は有効であることが確認された。
上記実施の形態では、単一超音波パルス信号の減衰波形の瞬時周波数を求めるのにウェーブレット変換及びヒルベルト変換を利用したが、本発明はウェーブレット変換及びヒルベルト変換を利用することにこだわるものではなく、その他の公知の方法で超音波パルス信号の減衰波形の周波数の時間変化が求められれば、その方法を用いればよい。
本発明によれば、単一超音波パルス信号を利用するため、汎用の超音波探傷装置を利用できる。また、単一超音波パルス信号はせいぜい1.5〜2周期程度の波形であるため、反射波の干渉を受けにくい。したがって本発明によれば、減衰波形の瞬時周波数の時間変化のわずかな量を捉えることができて、高調波成分や分数調波成分を捉える方法より精度が高い診断をすることができる。
1,11 被検査対象物
2,12 パルス入射部
3,13 受信部
4,14 超音波発信器
5,15 増幅部
6 ウェーブレット変換部
16 ヒルベルト変換部
7,17 周波数時間変化演算部
8,18 診断部

Claims (13)

  1. 被検査対象物に1MHz〜10MHzの周波数を有する1乃至2周期のパルス信号である単一超音波パルス信号をパルス入射部から入射し、
    前記被検査対象物の内部に入った前記単一超音波パルス信号を受信部で受信し、
    前記受信した単一超音波パルス信号の前記減衰波形u(t)を、該減衰波形の包絡線A(t)と時刻tにおける位相φ(t)とから表されるu(t)=A(t)sinφ(t)の近似式で近似し、前記近似式中の前記位相から時刻tにおける瞬時角周波数を求め、前記瞬時角周波数から時刻tにおける前記瞬時周波数を求め、前記瞬時周波数の時間変化に基づいて、前記被検査対象物の状態を診断することを特徴とする非破壊検査方法。
  2. 被検査対象物に単一超音波パルス信号を入射し、
    前記被検査対象物の内部に入った前記単一超音波パルス信号を受信し、
    受信した前記単一超音波パルス信号の減衰波形の瞬時周波数の時間変化を求め、
    前記瞬時周波数の時間変化に基づいて、前記被検査対象物の状態を診断することを特徴とする非破壊検査方法。
  3. 前記単一超音波パルス信号は、1MHz〜10MHzの周波数を有する1乃至2周期のパルス信号である請求項2に記載の非破壊検査方法。
  4. 前記受信した単一超音波パルス信号は、前記被検査対象物を透過した透過波である請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
  5. 前記受信した単一超音波パルス信号は、前記被検査対象物内で反射した反射波である請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
  6. 前記受信した単一超音波パルス信号の前記減衰波形u(t)を、該減衰波形の包絡線A(t)と時刻tにおける位相φ(t)とから表されるu(t)=A(t)sinφ(t)の近似式で近似し、
    前記近似した式中の前記位相から時刻tにおける瞬時角周波数を求め、前記瞬時角周波数から時刻tにおける前記瞬時周波数を求めることを特徴とする請求項2に記載の非破壊検査方法。
  7. 前記減衰波形の包絡線A(t)と位相φ(t)が、ウェーブレット変換を利用して求められたものである請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
  8. 前記瞬時周波数の時間変化のパターンの形状を、正常な被検査対象物について事前に測定した基準となる瞬時周波数の時間変化のパターンの形状と比較することにより、前記被検査対象物の状態を診断することを特徴とする請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
  9. 被検査対象物に単一超音波パルス信号を入射するパルス入射部と、
    前記被検査対象物内に入った前記単一超音波パルス信号を受信する受信部と、
    受信した前記単一超音波パルス信号の減衰波形の瞬時周波数の時間変化を求める周波数時間変化演算部と、
    前記周波数時間変化演算部が演算した前記瞬時周波数の時間変化に基づいて、前記被検査対象物の状態を診断する診断部とを備えていることを特徴とする非破壊検査装置。
  10. 前記診断部は、正常な状態の被検査対象物について事前に測定した瞬時周波数の時間変化を少なくとも一つの判定基準として記憶しており、前記少なくとも一つの判定基準と前記周波数時間変化演算部が演算した前記瞬時周波数の時間変化とを比較して、前記被検査対象物の状態を診断することを特徴とする請求項9に記載の非破壊検査装置。
  11. 前記パルス入射部は、1MHz〜10MHzの周波数を有する1乃至2周期のパルス信号を前記単一超音波パルス信号として発生するものであり、
    前記周波数時間変換演算部は、前記受信した単一超音波パルス信号の前記減衰波形u(t)を、該減衰波形の包絡線A(t)と時刻tにおける位相φ(t)とから表されるu(t)=A(t)sinφ(t)の近似式で近似し、前記近似式中の前記位相から時刻tにおける瞬時角周波数を求め、前記瞬時角周波数から時刻tにおける前記瞬時周波数を求めることを特徴とする請求項10に記載の非破壊検査方法。
  12. 前記パルス入射部及び前記受信部が、前記被検査対象物を透過した前記単一超音波パルス信号を受信するように前記被検査対象物に配置される請求項9に記載の非破壊検査装置。
  13. 前記パルス入射部及び前記受信部が、前記被検査対象物内で反射した前記単一超音波パルス信号を受信するように前記被検査対象物に配置される請求項9に記載の非破壊検査装置。
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