特許文献1で用いられている窒化ケイ素や酸窒化ケイ素は一定のガスバリア性を有する有用な材料であるが、その実用性を確保するために本発明者がさらに検討を行ったところ、以下のような課題を有することが判明した。
まず、窒化ケイ素は、真空中イオンプレーティング法にて成膜を行おうとすると、その状態変化(固相→液相(少なくとも局所的には液状化している状態)→気相)に伴って導電率が大きく変わり、過電流、電圧降下等が起こり、安定した成膜が難しいという課題がある。
また、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素からなるガスバリア膜は、上述のとおり所定のガスバリア性を有するものの、近年、ディスプレイ用途等の分野では以前にも増して高性能化の要求があり、酸素透過率だけでなく水蒸気透過率も抑制してガスバリア性を総合的に高めたいとの課題がある。また、耐熱性や耐腐食性をより高めたいとの課題もある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、生産性が高く、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性に優れるガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等を提供することにあり、詳しくは、イオンプレーティング法に適したイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法を提供することにある。
本発明者は、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素をガスバリア膜に用いたガスバリア性シートにおいて、生産性を高めつつ、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性を高めるための研究開発を行っている過程で、イオンプレーティング法で用いる蒸発源材料を改良することにより、ガスバリア性が著しく向上することを見出した。
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有する原料粉末とするので、この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、この蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末において、前記6価のセラミック材料が、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンであることが好ましい。
この発明によれば、6価のセラミック材料が、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンであるので、融点が低いモリブデンを用いつつ、密度の高い酸化モリブデンや窒化モリブデンを用いることになり、蒸発源材料の蒸発が容易となるとともにガスバリア膜が緻密になりやすいので、その結果、より生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性がさらに向上し、耐熱性、耐腐食性がさらに向上しやすい。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末において、前記6価のセラミック材料の含有量が、前記窒化ケイ素又は前記酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であることが好ましい。
この発明によれば、6価のセラミック材料の含有量が、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であるので、6価のセラミック材料を含有させる意義が特に高くなり、その結果、生産性、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性をより向上させやすくなる。
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法は、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、前記原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、この原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程と、を有するので、焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、この蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法において、前記所定形状に加工する工程が、前記原料粉末を構成する前記窒化ケイ素又は前記酸窒化ケイ素と、前記6価のセラミック材料と、を焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程であることが好ましい。
この発明によれば、所定形状に加工する工程において、原料粉末を構成する窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、6価のセラミック材料と、を焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工するので、その結果、得られる蒸発源材料の蒸発時の飛散を防ぎやすくなる。
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒して得られた、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料であって、該イオンプレーティング用蒸発源材料を加熱したときに、該蒸発源材料の気化が液相を経ずに生じることを特徴とする。
この発明によれば、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒して得られた、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料とし、このイオンプレーティング用蒸発源材料を加熱したときに、蒸発源材料の気化が液相を経ずに生じるようにするので、この蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。なお、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料において、前記6価のセラミック材料が、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンであることが好ましい。
この発明によれば、6価のセラミック材料が、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンであるので、融点が低いモリブデンを用いつつ、密度の高い酸化モリブデンや窒化モリブデンを用いることになり、蒸発源材料の蒸発が容易となるとともにガスバリア膜が緻密になりやすいので、その結果、より生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性がさらに向上し、耐熱性、耐腐食性がさらに向上しやすい。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料において、前記6価のセラミック材料の含有量が、前記窒化ケイ素又は前記酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であることが好ましい。
この発明によれば、6価のセラミック材料の含有量が、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であるので、6価のセラミック材料を含有させる意義が特に高くなり、その結果、生産性、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性をより向上させやすくなる。
上記課題を解決する本発明のガスバリア性シートの製造方法は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、該イオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、そのイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有するが、特に本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたことにより、この蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、この蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
本発明のガスバリア性シートの製造方法において、前記6価のセラミック材料が、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンであることが好ましい。
この発明によれば、6価のセラミック材料が、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンであるので、融点が低いモリブデンを用いつつ、密度の高い酸化モリブデンや窒化モリブデンを用いることになり、蒸発源材料の蒸発が容易となるとともにガスバリア膜が緻密になりやすいので、その結果、より生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性がさらに向上し、耐熱性、耐腐食性がさらに向上しやすい。
本発明のガスバリア性シートの製造方法において、前記イオンプレーティング用蒸発源材料中の前記6価のセラミック材料の含有量が、前記窒化ケイ素又は前記酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であることが好ましい。
この発明によれば、イオンプレーティング用蒸発源材料中の6価のセラミック材料の含有量が、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であるので、6価のセラミック材料を含有させる意義が特に高くなり、その結果、生産性、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性をより向上させやすくなる。
上記課題を解決するための本発明のガスバリア性シートは、基材上の少なくとも一方の面にガスバリア膜を備えるガスバリア性シートにおいて、前記ガスバリア膜が、Si:N:Mo:Oの原子数比で100:80〜120:1〜30:70〜120の範囲にあるSi−N−Mo−O膜であることを特徴とする。
この発明によれば、ガスバリア膜が、Si:N:Mo:Oの原子数比で100:80〜120:1〜30:70〜120の範囲にあるSi−N−Mo−O膜であるので、厚さ方向の膜質が均一で高密度のガスバリア膜を有するガスバリア性シートとなり、その結果、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上したガスバリア性シートを提供できる。なお、本発明で示す原子数比はバルクでの値を指している。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末によれば、この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法によれば、焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料によれば、蒸発源材料の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。こうした本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料に対し、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
本発明のガスバリア性シートの製造方法によれば、特に本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたことにより、蒸発源材料の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
本発明のガスバリア性シートによれば、厚さ方向の膜質が均一で高密度のガスバリア性シートとなるので、その結果、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上したガスバリア性シートを提供できる。
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
(イオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末(本明細書においては、単に「原料粉末」という場合がある。)は、イオンプレーティング法においてイオン化させる原子の蒸発源として用いられる蒸発源材料の原料であって、具体的には、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有する。これにより、この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
イオンプレーティング法を採用する場合には、一般的には、プラズマを照射した場合に固相→気相と昇華する性質を有する蒸発源材料を用いることが試みられる。これは、プラズマ照射をした場合に、固相→液相→気相と相変化を起こす蒸発源材料では、液相を経る分だけ成膜速度が遅くなり、成膜時間が長くなるからである。ここで、本発明者の検討によれば、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素は、プラズマ照射時に固相→液相(少なくとも局所的には液状化している状態)→気相と相変化を起こす性質を有し、その状態変化(固相→液相(少なくとも局所的には液状化している状態)→気相)に伴って導電率が大きく変わるため、過電流・電圧降下等が起こり、安定して成膜しにくいことがわかった。そこで、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素に、6価のセラミック材料を加えたイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料を得て、この蒸発源材料をイオンプレーティングの蒸発源として用いたところ、蒸発源の蒸発が容易となることが判明した。そして、その結果、ガスバリア性シートの生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上することがわかった。
原料として用いる、窒化ケイ素は、窒素とケイ素とから構成される化合物であればよく特に制限はない。具体的には、窒化ケイ素は、通常Si3N4で表され、従来公知の材料を用いることができる、本発明の原料粉末として適している。その理由は、Si3N4の持つ種々の特性に基づくものであり、その特性としては、例えばガスバリア性、耐熱性、絶縁性、プラズマ耐性等が挙げられる。
原料として用いる酸窒化ケイ素も、酸素、窒素、及びケイ素から構成される化合物であれはよく特に制限はない。具体的には、酸窒化ケイ素は、窒化ケイ素を自然酸化する、窒化ケイ素を焼成して酸化する、酸化ケイ素を窒化する、ケイ素を原料として酸化と窒化とを進行させる等の種々の方法によって得ることができる。こうした酸窒化ケイ素は、従来公知のものを用いることができ、本発明の原料粉末として適している。その理由は、酸窒化ケイ素の持つ種々の特性に基づくものであり、その特性として、例えばガスバリア性、耐熱性、絶縁性、プラズマ耐性等が挙げられる。
原料として用いる窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素の性状は、粉末状であり、より具体的には平均粒径5μm以下の粉末である。ここで、本発明において「平均粒径」とは、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。また、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
6価のセラミック材料としては、特に制限はない。本発明においては、窒化珪素や酸窒化ケイ素に、6価のセラミック材料を混合させることにより、従来にない耐熱性・耐腐食性・ガスバリア性に優れたガスバリア膜が提供できる。これは、6価のセラミック材料を混合することにより、稠密なネットワークが形成されることによるものと考えられる。
6価のセラミック材料としては、好ましくは、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンを用いる。これにより、融点が低いモリブデンを用いつつ、密度の高い酸化モリブデンや窒化モリブデンを用いることになり、蒸発源材料の蒸発が容易となるとともにガスバリア膜が緻密になりやすいので、その結果、より生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性がさらに向上し、耐熱性、耐腐食性がさらに向上しやすい。
上述のとおり、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素は、真空中イオンプレーティング法にて成膜を行おうとすると、その状態変化に伴って、導電率が大きく変わるため、過電流、電圧降下等が起こり、安定して成膜することが容易ではなかった。このため、本発明においては、6価のセラミック材料(好ましくは酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデン)を窒化ケイ素や酸窒化ケイ素に含有させた原料粉末からイオンプレーティング用の蒸発源を得ることにより、蒸発源の蒸発を容易にしている。こうした6価のセラミック材料(好ましくは酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデン)を用いると蒸発源の蒸発が容易になる理由は、その融点にあると推測される。例えば、モリブデンは低融点(795℃)の材料である。このため、プラズマが低電力で高蒸気圧となるために、電圧の振れが小さくなりプラズマが安定化されると推測される。その結果、蒸発源の蒸発が容易となり基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができるとともに、緻密で密着性のよいガスバリア膜を得ることができる。また、6価のセラミック材料(好ましくは酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデン)を用いると得られるガスバリア膜のガスバリア性が向上する理由は、その密度と価数にあると推測される。例えば、酸化モリブデンは、密度が4.69g/m3と高い材料であることに加えて、その価数が6価である。このため、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素とのネットワーグが稠密な構造で安定化され、その結果ガスバリア性が向上すると推測される。さらに、ネットワークの稠密な構造の実現により、耐熱性・耐腐食性を向上させることができ、耐熱性・酸アルカリ耐性を必要とするディスプレイ用のガスバリア性シートとしての必要性能に十分に寄与する。
6価のセラミック材料の性状は、粉末状であり、より具体的には平均粒径5μm以下の粉末である。ここでの平均粒径も上記同様の測定方法で測定した結果で表される。また、6価のセラミック材料は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
本発明の原料粉末においては、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、及び6価のセラミック材料の平均粒径は、5μm以下、好ましくは3μm以下である。この範囲内の粉末材料を用いれば、粉末材料同士の混合が容易であり、分散むらが低減された原料粉末を得ることができる。こうした原料粉末を焼結又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造すれば、単位体積あたりの小領域に、微細な窒化ケイ素粉末や酸窒化ケイ素粉末と、6価のセラミック粉末とが均一に存在しており、個々の粉末はイオンプレーティング装置内で発生するプラズマに容易に被爆することができる。
なお、平均粒径の下限は特に限定されないが、好ましくは0.2μmである。平均粒径を0.2μm以上とすれば、粉末材料同士を混合する際や焼結・造粒時等に飛散が起こりにくくなり生産性が向上するという利点が発揮されやすくなる。
本発明の原料粉末においては、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、6価のセラミック材料との両粉末の一方又は両方の平均粒径が5μmを超えると、粉末材料同士を混合しても分散が十分に起こりにくくなる。そのため、得られた原料粉末を焼結又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造した場合であっても、単位体積あたりの小領域に微細な窒化ケイ素粉末や酸窒化ケイ素粉末と、6価のセラミック粉末とが均一に存在していないので、安定した成膜が行いにくい。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末は、好ましくは、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素を主体(母体)とするものである。これは、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は所定のガスバリア性を有するからである。そして、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末においては、蒸発源の蒸発の容易性を確保して生産性を向上させ、ガスバリア膜中でのネットワークの稠密な構造の実現により、ガスバリア性、耐熱性、耐腐食性を向上させるために、6価のセラミック材料を用いている。こうした観点から、原料粉末中の6価のセラミック材料の含有量は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、通常5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上、また、通常100重量部以下、好ましくは70重量部以下、より好ましくは50重量部以下とする。この範囲内の6価のセラミック材料を含む混合粉末でイオンプレーティング用蒸発源材料を作製し、その蒸発源材料を用いてイオンプレーティングを行えば、6価のセラミック材料を含有させる意義が特に高くなり、その結果、生産性、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性をより向上させやすくなる。特に、6価のセラミック材料の含有量を50重量部以下とすれば、蒸発を容易に安定して行うことができるとともに、緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
6価のセラミック材料の質量割合が5重量部未満となると、成膜時の過電流異常を抑えるには不十分となりやすく、また十分なネットワーク構造が生じないことがあり、また、100重量部を超えると、得られたガスバリア膜が例えば着色することが多い。このため、上記範囲とすることが好ましい。
以上説明したように、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末によれば、この原料粉末を焼結又は造粒して蒸発源材料とし、この蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いたとき、その蒸発源の蒸発を容易にする。その結果、イオンプレーティング成膜時において、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができると共に、緻密で密着性がよく、耐熱性・耐腐食性にすぐれたガスバリア膜を得ることができる。
(イオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法(本明細書においては、単に「蒸発源材料の製造方法」という場合がある。)は、上記で説明した本発明の原料粉末を準備する工程と、その原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程とを有している。これにより、焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、この蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
原料粉末を準備する工程は、上記の原料粉末の説明欄で説明したように、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料とを有する原料粉末を準備する工程である。準備される原料粉末は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素の粉末と6価のセラミック材料の粉末とを例えばミキサー等の混合手段によって混合されたものである。
所定形状に加工する工程は、特に制限はないが、原料粉末を構成する窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、6価のセラミック材料と、を焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程であることが好ましい。これにより、得られる蒸発源材料の蒸発時の飛散を防ぎやすくなる。
焼結手段としては、例えば、原料粉末を所定形状に圧縮成形し、その圧縮成形体を構成粉末の溶融温度よりも低い温度に加熱して粉体同士が結合するようにする、一般的な焼結手段を適用できる。具体的には、金型プレス、CIPプレス(静水圧プレス)、RIPプレス(ラバープレス)等の従来公知の各種の方法を適用できる。
焼結温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは300℃以上、また、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1000℃以下、さらに好ましくは500℃以下の任意の温度とすることができる。この範囲内で焼結することにより、原料粉末中からの脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物にすることができる。一方、焼結温度が200℃未満では、十分に焼結されず、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物にすることができないことがあり、焼結温度が1500℃を超えると、窒化ケイ素が酸化されてガスバリア性等の効果が消失する場合がある。このため、窒化ケイ素等が酸化されないよう酸素を遮断した雰囲気で焼結するのが好ましい。
また、造粒手段としては、撹拌造粒、流動層造粒、押出造粒等の造粒方法を適用できる。具体的には、撹拌造粒とは、原料粉末を容器に入れ撹拌しながら液体の結着剤を添加して粉末を凝集させ、これを乾燥させる操作で、球形に近い塊状粒子を得る方法であり、流動層造粒法とは、原料粉末を入れた容器に下から熱風を送り粉末が空中にやや浮いた状態で結着剤を吹き付け、粉末を凝集乾燥させる操作で、比較的かさ高い塊状粒子を得る方法であり、押出造粒とは、原料粉末の湿塊を小孔から円柱状に押し出したのち乾燥させる操作で、比較的密度の高い塊状粒子を得る方法である。こうした造粒手段は通常結着剤を利用するが、その場合には、造粒後に例えば200℃以上で加熱焼成して結着剤を除去するのが一般的である。また、結着剤を使用しない場合には、例えば200℃以上1500℃以下の任意の温度で加熱焼成する。これらの加熱焼成により、脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物を形成しやすくなる。
原料粉末を焼結又は造粒する際に、結着剤(バインダー)を利用する場合の代表例としては、デンプン、小麦蛋白、セルロース等を挙げることができるが、それ以外のものであっても構わない。こうした結着剤は、焼結や造粒を行った後に加熱焼成により除去されるのが一般的である。
以上、本発明の蒸発源材料の製造方法によれば、造粒又は焼結された所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料は、イオンプレーティング用の蒸発源として用いたとき、その蒸発源の蒸発を容易にする。その結果、イオンプレーティング成膜時において、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができると共に、緻密で密着性がよく、耐熱性・耐腐食性にすぐれたガスバリア膜を得ることができる。
(イオンプレーティング用蒸発源材料)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、イオンプレーティング法においてイオン化させる原子の蒸発源として用いられるものであって、上記本発明の原料粉末を焼結又は造粒して得られたものである。具体的には、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒して得られた、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料であって、このイオンプレーティング用蒸発源材料を加熱したときに、蒸発源材料の気化が液相を経ずに生じるものである。これにより、イオンプレーティング用の蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。6価のセラミック材料として酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンを用いることが好ましい等の原料粉末に関する説明、さらには製造方法に関する説明については、上記説明したとおりであるので、説明の重複をさけるため、ここでの説明は省略する。
蒸発源材料は、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物であればよく、平均粒径が5mm以上であることが好ましい。平均粒径の上限は特に限定されない。したがって、2mm程度の塊状粒子であってもよいし、例えば平均粒径が10m、50mm等の大きな塊状物であってもよい。平均粒径を2mm以上としたのは、2mm未満では粒子が細かくてイオンプレーティング装置内でのプラズマ照射時の衝撃により蒸発源材料が飛散しやすく、また、装置のボート(ハース)内に入れる際の取り扱いにも手間がかかる傾向となることによる。平均粒径の上限は特に限定されないが、強いて例示すれば200mm程度である。平均粒径の上限は、蒸着装置の材料投入部(ハース)に収納される程度の大きさであれば特に制限はない。また、蒸発源材料の粒子の形態も、丸形、楕円形、角形等の形態であってもよい。なお、塊状粒子又は塊状物にするための焼結又は造粒については、各種の方法を適用できる。なお、この蒸発源材料の「平均粒径」も上記原料粉末の平均粒径と同様、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、好ましくは、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素を主体(母体)とするものである。これは、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は所定のガスバリア性を有するからである。そして、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料においては、蒸発源の蒸発の容易性を確保して生産性を向上させ、ガスバリア膜中でのネットワークの稠密な構造の実現により、ガスバリア性、耐熱性、耐腐食性を向上させるために、6価のセラミック材料を用いている。こうした観点から、イオンプレーティング用蒸発源材料中の6価のセラミック材料の含有量は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、通常5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上、また、通常100重量部以下、好ましくは70重量部以下、より好ましくは50重量部以下とする。この範囲内のイオンプレーティング用蒸発源材料を作製し、その蒸発源材料を用いてイオンプレーティングを行えば、6価のセラミック材料を含有させる意義が特に高くなり、その結果、生産性、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性をより向上させやすくなる。特に、6価のセラミック材料の含有量を50重量部以下とすれば、蒸発を容易に安定して行うことができるとともに、緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。なお、通常、イオンプレーティング用蒸発源材料中の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、6価セラミック材料と、の含有量の比率は、原料粉末中での含有量の比率を反映したものとなる。
6価のセラミック材料の質量割合が5重量部未満となると、上記の作用が生じにくくなり、また、100重量部を超えると、得られたガスバリア膜が例えば褐色に着色したり硬くなったりすることが多い。このため、ガスバリア膜を透明部材に形成する場合やガスバリア性シートの柔軟性を確保したいような場合には、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対する6価のセラミック材料の質量割合の上限を100重量部とすればよい。
以上、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料によれば、イオンプレーティング用の蒸発源として用いたとき、その蒸発源の蒸発を容易にする。その結果、イオンプレーティング成膜時において、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができると共に、緻密で密着性がよく、耐熱性・耐腐食性にすぐれたガスバリア膜を得ることができる。なお、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
(ガスバリア性シート)
図1は、本発明のガスバリア性シートの一例を示す概略断面図である。本発明のガスバリア性シート1は、図1に示すように、基材2上の少なくとも一方の面にガスバリア膜3を備えたものであり、ガスバリア膜3は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、6価のセラミック材料として酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンとから形成されるものである。酸化モリブデンや窒化モリブデンは、原料粉末の説明欄で説明したように、融点が相対的に低いモリブデンを用いているので蒸発源の蒸発が容易となる上、密度が相対的に高くかつ価数が6価であるために、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素とのネットワークが稠密な構造が実現しやすいという利点がある。ガスバリア膜は、好ましくは、窒化ケイ素と、6価のセラミック材料として酸化モリブデンと、から構成される。
ガスバリア膜3は、より具体的には、Si:N:Mo:Oの原子数比で100:80〜120:1〜30:70〜120の範囲にあるSi−N−Mo−O膜である。これにより、厚さ方向の膜質が均一で高密度のガスバリア膜を有するガスバリア性シートとなり、その結果、ガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上したガスバリア性シートを提供できる。
ガスバリア膜3中におけるNの原子数比は、好ましくは85以上、より好ましくは90以上、また、好ましくは110以下、より好ましくは105以下とする。また、ガスバリア膜3中におけるMoの原子数比は、好ましくは3以上、また、好ましくは29以下とする。さらに、ガスバリア膜3中におけるOの原子数比は、好ましくは75以上、より好ましくは80以上、また、好ましくは115以下とする。
各元素の原子数比は、ESCA等の分析装置で得られた結果で評価できる。本発明において、ESCAの測定は、ESCA(英国 VG Scientific社製、型式:LAB220i−XL)により測定したものである。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるモノクロAlX線源、及び、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のESCA装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、N:2p、O:1s、Mo:3d、C:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1に対して、Si=0.865、N=1.77、O=2.850、Mo=9.74)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を100とし、他の成分であるN、O、Moの原子数を算出して成分割合とした。
ガスバリア膜3は、主として酸素や水蒸気等の気体の透過を遮断する機能をするものであり、本発明におけるガスバリア膜は高いガスバリア性を示す。こうした高いガスバリア性を示す理由は、ガスバリア膜3が、上述した本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いて形成され、従来公知のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いた場合よりも高い成膜速度で成膜され、高密度で緻密であり密着性がよいからである。
ガスバリア性の測定は、各種の測定装置で測定できるが、上記の水蒸気透過率は、Mocon社製のPARMATRAN−W 3/31を用い、40℃で90%Rhの条件で測定した。一方、上記の酸素ガス透過率の測定は、MOCON社製 OX−TRAN 2/20を用い、温度23℃、湿度90%RH、バックグラウンド除去測定を行うインディヴィジュアルゼロ(Individual Zero)測定ありの条件で測定した。
ガスバリア膜3の厚さは、通常5nm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上とする。ガスバリア膜3の厚さを上記範囲とすれば、上記した優れた酸素透過率と水蒸気透過率を満たしやすくなる。特に、ガスバリア膜3の厚さを0.05μm以上(50nm以上)とすれば、ガスバリア性をより確保しやすい。また、ガスバリア膜3の厚さは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.2μm以下とする。ガスバリア膜3の厚さを上記範囲とすれば、膜応力を低くして、基材2がフレキシブルフィルムである場合にガスバリア膜3にクラックが生じにくくなり、ガスバリア性が低下するのを抑制し、さらに成膜に要する時間も低減できるため生産性も向上させやすくなる。
本発明のガスバリア性シートに透明性が必要とされる場合には、基材2は高度の透明性を有する材料であることが好ましく、具体的には、400nm〜700nmの光透過度が80%以上のガスバリア性シートは、表示媒体や照明、太陽電池のカバー等のような、光を透過させることが必要な用途のような内容物を見ることが要求される用途などに用いる際に好ましく適用できる。なお、光透過度は全光線透過率と同じ意味で用いている。ただし、全光線透過率は、膜厚と屈折率とから光学的に調整することができるため、この数値は目安となるが、必ずしも厳格に適用されるというわけではない。
図1においては、基材2の一方の面にガスバリア膜3が形成されたものであるが、他の形態としては、基材2の両面にガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、基材2の一方の面に樹脂層を介してガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、基材2の両面に樹脂層を介してガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、その樹脂層とガスバリア膜とが2回以上繰り返して積層されたものであってもよい。また、ガスバリア膜3の上には、必要に応じて、ハードコート層、耐スクラッチ層、導電層、反射防止層等を適宜形成することができる。また、ガスバリア膜3を多層化させてもよい。
基材2は、イオンプレーティング用蒸発源材料を付着させる基材であるが、特に制限なく用いることができる。基材2としては、主にはシート状やフィルム状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることができる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよいし、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等のフレキシブル基板を用いてもよい。基材2が樹脂製である場合、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。
基材2の厚さについても特に制限はないが、可とう性及び形態保持性の観点から、通常6μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常400μm以下、好ましくは250μm以下の範囲とする。
基材2とガスバリア膜3との間に設けられる樹脂層(図示しない)は、基材2とガスバリア膜3との密着性を向上させ、かつ、ガスバリア性をより向上させるためのものである。また、ガスバリア膜3を被覆する樹脂層(図示しない)は、保護膜として機能し、耐熱性、耐薬品性、耐候性をガスバリア性シートに付与すると共に、ガスバリア膜3に欠損部位があってもそれを埋めることによりガスバリア性を向上させるためのものである。このような樹脂層は、ポリアミック酸、ポリエチレン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオール樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリアゾメチン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等の市販の樹脂材料、二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類との重合体である高分子量エポキシ重合体を含有する硬化性エポキシ樹脂、及び、上述の基材に使用する樹脂材料等の1種又は2種以上の組み合わせにより形成することができる。樹脂層の厚さは、使用する材料により適宜設定することが好ましいが、例えば、5nm以上、500μm以下の範囲で設定することができる。
こうした樹脂層には、平均粒径が0.8μm以上、5μm以下の範囲にある非繊維状の無機充填材を含有させてもよい。使用する非繊維状の無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、アルミナ、マグネシア、シリカ、二酸化チタン、クレイ等を挙げることができ、特に焼成されたクレイが好ましく使用できる。このような無機充填材は、樹脂層の通常10重量%以上、好ましくは25重量%以上、また、通常60重量%以下、好ましくは45重量%以下の範囲で含有させることができる。
以上、本発明のガスバリア性シートによれば、厚さ方向の膜質が均一で、高密度かつ緻密で密着性のよいガスバリア膜を有するので、ガスバリア性に優れたガスバリア性シートを提供できる。こうした効果を奏する本発明のガスバリア性シートは、ガスバリア性が要求される各種部材への適用が可能である。例えば、種々の飲食品、接着剤、粘着剤等の化学品、化粧品、医薬品、ケミカルカイロ等の雑貨品、電子部品等の包装用部材の一部として用いてもよいし、液晶表示装置の構成部材として用いてもよい。
(ガスバリア性シートの製造方法)
本発明のガスバリア性シートの製造方法は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、平均粒径が5μm以下の6価のセラミック材料と、を有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、このイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有している。本発明のガスバリア性シートの製造方法は、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、この蒸発源の蒸発が容易となり、その結果、生産性が向上するとともに、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性、耐熱性、及び耐腐食性が著しく向上する。
この製造方法において、原料粉末、蒸発源材料、ガスバリア性シートのそれぞれについては既に説明したとおりである。例えば、6価のセラミック材料が、酸化モリブデン及び/又は窒化モリブデンであることが好ましい点については、すでに説明したとおりである。したがって、説明の重複を避けるため、ここではその説明は省略する。また、原料粉末を焼結又は造粒して蒸発源材料にする方法も、すでに説明したとおりであるので、ここではその説明を省略する。
図2は、イオンプレーティング装置の一例を示す構成図であり、詳しくは、後述の実施例で使用したホローカソード型イオンプレーティング装置の構成図である。図2に示すホローカソード型イオンプレーティング装置101は、真空チャンバー102と、このチャンバー102内に配設された供給ロール103a、巻き取りロール103b、コーティングドラム104と、バルブを介して真空チャンバー102に接続された真空排気ポンプ105と、仕切り板109,109と、その仕切り板109,109で真空チャンバー102と仕切られた成膜チャンバー106と、この成膜チャンバー106内の下部に配設された坩堝107と、アノード磁石108と、成膜チャンバー106の所定位置(図示例では成膜チャンバーの右側壁)に配設された圧力勾配型プラズマガン110、収束用コイル111、シート化磁石112、圧力勾配型プラズマガン110へのアルゴンガスの供給量を調整するためのバルブ113と、成膜チャンバー106にバルブを介して接続された真空排気ポンプ114と、酸素ガスの供給量を調整するためのバルブ116とを備えている。なお、図示のように、供給ロール103aと巻き取りロール103bはリバース機構が装備されており、両方向の巻き出し、巻き取りが可能となっている。
このようなイオンプレーティング装置101を用いたガスバリア膜の形成は以下のように行われる。先ず、真空チャンバー102、成膜チャンバー106内を、真空排気ポンプ105,114により所定の真空度まで減圧し、次いで、必要に応じて成膜チャンバー106内に酸素ガスを所定流量導入し、真空排気ポンプ114と成膜チャンバー106との間にあるバルブの開閉度を制御することにより、チャンバー106内を所定圧力に保ち、基材フィルムを走行させ、アルゴンガスを所定流量導入した圧力勾配型プラズマガン110にプラズマ生成のための電力を投入し、アノード磁石108上の坩堝107にプラズマ流を収束させて照射することにより蒸発源材料を蒸発させ、高密度プラズマにより蒸発分子をイオン化させて、基材上に所定のガスバリア膜を形成して、ガスバリア性シートを得る。
本発明は、上述した本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いた点に特徴がある。その蒸発源材料を用いてイオンプレーティング成膜を行えば、イオンプレーティング成膜時において、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができると共に、緻密で密着性がよく、耐熱性・耐腐食性にすぐれたガスバリア膜を得ることができる。
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
(実施例1)
窒化ケイ素粉末であるSi3N4粉末(高純度化学製、平均粒径:1μm)を100重量部に対し、6価のセラミック材料であるMoO3粉末(高純度化学製、平均粒径:1μm)を10重量部加えて混合して、本発明に係る原料粉末を得た。
この原料粉末にバインダーとして、2%セルロース水溶液を滴下しながら原料粉末を回転させて、5mmφの球状体を得た。その後、焼成炉に入れ、400℃で1時間保持してバインダーを除去するとともに原料粉末を焼結させ、平均粒径5mmφの塊状物からなる本発明に係るイオンプレーティング用蒸発源材料を得た。
一方、乾燥機で160℃で1時間乾燥させた厚さ100μmのPEN樹脂(帝人デュポン社製、Q65)からなるプラスチックフィルム基材を透明フィルム基材とし、図2に示す構造の圧力勾配型イオンプレーティング装置の供給ロール103a及び巻き取りロール103b間にセットした。
次に、作製した蒸発源材料を、図2に示したホローカソード型イオンプレーティング装置内の坩堝に投入した後、真空引きを行った。真空度が5×10−4Paまで到達した後、プラズマガンにアルゴンガスを15sccm導入し、電流110A、電圧90Vのプラズマを発電させた。チャンバー内を1×10−3Paに維持することと磁力によりプラズマを所定方向に曲げ、本発明に係る蒸発源材料に照射させた。坩堝内の蒸発源材料は良好に昇華することが確認された。イオンプレーティングを30秒間(蒸着レート:18.5nm/min)行って基板に堆積させることにより、膜厚9.25nmのSiNMoOのガスバリア膜を得た。なお、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略であり、以下の実施例、比較例においても同様である。
ガスバリア膜の組成をESCA(英国 VG Scientific社製、型式:LAB220i−XL)測定により、Si:N:Mo:O=100:93:4:81であった。このESCA測定において、X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるモノクロAlX線源、及び、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のESCA装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、N:2p、O:1s、Mo:3d、C:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1に対して、Si=0.865、N=1.77、O=2.850、Mo=9.74)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を100とし、他の成分であるN、O、Moの原子数を算出して成分割合とした。
ガスバリア性として水蒸気透過率を測定したところ、5.8×10−1g/m2/dayであった。水蒸気透過率の測定は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製 PERMATRAN−W 3/31)を用いて、温度40℃、湿度90%RHで測定した。また、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であった。酸素ガス透過率の測定は、酸素ガス透過率測定装置(MOCON社製 OX−TRAN 2/20)を用いて、温度23℃、湿度90%RH、バックグラウンド除去測定を行うインディヴィジュアルゼロ(Individual Zero)測定ありの条件で測定した。なお、上記酸素ガス透過率測定装置の測定限界は0.01cc/m2/day・atmである。また、ガスバリア性シートの400nm〜700nmの全光線透過率を、ヘーズメータを用いて測定したところ、87.9%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。実施例1のガスバリア膜の厚さは9.25nmと相対的に薄い。このため、水蒸気透過率が相対的に大きい値となるが、水蒸気透過率は、ガスバリア膜の厚さを調整することによってさらに改良することが可能である。
(実施例2)
イオンプレーティングを60秒間(蒸着レート:9.8nm/min)としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚9.8nmのSiNMoOのガスバリア膜を得た。実施例1と同様、坩堝内の蒸発源材料は良好に昇華することが確認された。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Mo:O=100:94:4:94であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、2.3×10−1g/m2/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は88.3%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。実施例2のガスバリア膜の厚さは9.8nmと相対的に薄い。このため、水蒸気透過率が相対的に大きい値となるが、水蒸気透過率は、ガスバリア膜の厚さを調整することによってさらに改良することが可能である。
(実施例3)
MoO3粉末の含有量を20重量部として本発明に係る原料粉末を得たこと、イオンプレーティングを240秒間(蒸着レート:7.4nm/min)としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚29.8nmのSiNMoOのガスバリア膜を得た。実施例1と同様、坩堝内の蒸発源材料は良好に昇華することが確認された。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Mo:O=100:96:11:104であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、7.3×10−2g/m2/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は89.1%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
(実施例4)
MoO3粉末の含有量を30重量部として本発明に係る原料粉末を得たこと、イオンプレーティングを240秒間(蒸着レート:14.4nm/min)としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚57.8nmのSiNMoOのガスバリア膜を得た。実施例1と同様、坩堝内の蒸発源材料は良好に昇華することが確認された。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Mo:O=100:102:14:106であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、8.2×10−2g/m2/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は90.7%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
(実施例5)
MoO3粉末の含有量を50重量部として本発明に係る原料粉末を得たこと、イオンプレーティングを240秒間(蒸着レート:9nm/min)としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚36nmのSiNMoOのガスバリア膜を得た。実施例1と同様、坩堝内の蒸発源材料は良好に昇華することが確認された。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Mo:O=100:89:28:113であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、1.8×10−0g/m2/dayであり、酸素透過率を測定したところ、2.74cc/m2/day・atmであり、ガスバリア性シートの全光線透過率は89.6%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。実施例5のガスバリア膜では、水蒸気透過率や酸素透過率が相対的に大きい値となるが、これらの特性はガスバリア膜の厚さ等を調整することによってさらに改良することが可能である。
(比較例1)
MoO3粉末を用いなかったこと、イオンプレーティングを30秒間(蒸着レート:48.4nm/min)としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートの形成を試みた。しかしながら、イオンプレーティングの際にシャッターを開けようとしたところ、電圧降下異常が起こり成膜に失敗した。そこで、再度電流の上昇をゆっくりと行ったが、今度は過電流異常警告が発生した。警告を無視して続行したところ、30秒間基板に付着させることで、膜厚24.2nmのSiONのガスバリア膜を得た。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:O:N=100:60:90であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、2.4×10−1g/m2/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は87.8%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。