本発明は、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法およびキット等に関するものである。
本発明者は、哺乳動物複製開始領域(IR;initiation region)と核マトリックス結合領域(MAR;matrix attachment region)を持つプラスミド(以下「IR/MARプラスミド」という)をヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン(Blasticidine)あるいはネオマイシン(Neomycine))を利用して選択するだけで、所望のタンパク質をコードする遺伝子(目的遺伝子)の細胞内コピー数を1万コピー程度にまで増幅できること、および目的遺伝子はIR/MARプラスミドに対して同一の遺伝子構築物(シス)として導入した場合であっても、別の遺伝子構築物(トランス)として導入した場合であっても、高度に増幅することができるということを発見した(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、および非特許文献2参照)。
しかしながら、上記IR/MARプラスミド、および目的遺伝子を導入した細胞株について、目的遺伝子からのmRNAの転写量を定量したところ、目的遺伝子のコピー数が増加しているにも関わらず、mRNAの転写量が増加していないということがわかった。このことは、目的遺伝子を含む領域が高度に増幅することによる反復配列に起因して転写の抑制が起こっているということが考えられた。
遺伝子の反復配列に起因する転写抑制を解除する方法としては、例えばtrichostatin A等のヒストンアセチル化酵素阻害剤で細胞を処理する方法が知られている(非特許文献3参照)。
特開2003−245083号公報(公開日:平成15(2003)年9月2日)
特開2004−337066号公報(公開日:平成16(2004)年12月2日)
Noriaki Shimizu,et al.(2001)Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification.Cancer Research vol.61,no.19,p6987−6990.
Noriaki Shimizu,et al(2003)Amplification of plasmids containing a mammalian replication initiation region is mediated by controllable conflict between replication and transcription.Cancer Research,vol.63,no.17,p5281−5290.
McBurney,M.W.et al,Exp Cell Res(2002),vol 274,p1−8
上記のごとく、目的遺伝子を増幅することによりタンパク質を大量に生産させるために、その増幅した目的遺伝子を含むポリヌクレオチドを増幅させた場合であっても、反復配列が生じてしまえば目的遺伝子の転写が抑制されてしまい、最終目的であるタンパク質の発現に至らないという問題点がある。
しかしながら、上記非特許文献3に開示されたtrichostatin A等のヒストンアセチル化酵素阻害剤で細胞を処理する方法のみでは、数千から1万コピー程度にまで増幅した遺伝子の反復配列に起因する転写抑制を十分に解除することができなかった。
そこで本発明は、上記遺伝子の反復配列に起因する転写抑制を解除する方法およびキット等を提供し、遺伝子増幅により有用タンパク質を大量に生産する系を樹立することを目的としている。
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記IR/MARプラスミドの系を用いて目的遺伝子の増幅を行ない、反復配列を生じた場合であっても、転写抑制が起こることなくタンパク質を発現することができる方法について鋭意検討を行なった。その結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、当該第1および第2のポリヌクレオチドを導入する際に、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチド、またはインシュレーター配列を含む第4のポリヌクレオチドの少なくとも一方を上記哺乳動物細胞に導入する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第5のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第5のポリヌクレオチドは、発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド、および薬剤耐性遺伝子を含んでおり、上記哺乳動物細胞を漸増濃度の薬剤を含有する培地中で培養する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第6のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第6のポリヌクレオチドにおいて、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されており、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入して転写活性化因子を発現させる工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第8のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第8のポリヌクレオチドは、発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドおよびLoxP遺伝子を含み、Cre Recombinase遺伝子を含む第9のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入してCre Recombinaseを発現させる工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、5−aza−2’−deoxycytidineで上記哺乳動物細胞を処理する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、5−aza−2’−deoxycytidineで上記哺乳動物細胞を処理する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、上記遺伝子増幅がダブルマイニュート染色体上で起こっている上記哺乳動物細胞を選択する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、上記遺伝子増幅がダブルマイニュート染色体上で起こっている上記哺乳動物細胞を選択する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第6のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第6のポリヌクレオチドにおいて、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されており、当該第1および第6のポリヌクレオチドを導入する際に、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞へ同時に導入する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、上記遺伝子増幅がダブルマイニュート染色体上で起こっている上記哺乳動物細胞を選択する工程、および5−aza−2’−deoxycytidineで上記哺乳動物細胞を処理する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決するために、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第6のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第6のポリヌクレオチドにおいて、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されており、当該第1および第6のポリヌクレオチドを導入する際に、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞へ同時に導入する工程、および5−aza−2’−deoxycytidineで上記哺乳動物細胞を処理する工程を包含することを特徴としている。
また本発明にかかる方法は、上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c−myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ−グロビン遺伝子座の複製起点に由来するものであってもよい。
また本発明にかかる方法は、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来するものであってもよい。
一方、本発明にかかるキットは、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させるためのキットであって、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチド、またはインシュレーター配列を含む第4のポリヌクレオチドの少なくとも一方と、を具備することを特徴としている。
また本発明にかかるキットは、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させるためのキットであって、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、プロモーター領域を含むポリヌクレオチド、および当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを具備することを特徴とするキットであってもよい。
また本発明にかかるキットは、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させるキットであって、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、LoxP遺伝子を含むポリヌクレオチド、およびCre Recombinase遺伝子を含む第9のポリヌクレオチドを具備することを特徴とするキットであってもよい。
また本発明にかかるキットは、上記構成に加え、5−aza−2’−deoxycytidineをさらに含む、キットであることが好ましい。
また本発明にかかるキットは、上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c−myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ−グロビン遺伝子座の複製起点に由来するものであってもよい。
また本発明にかかるキットは、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来するものであってもよい。
一方、本発明にかかる形質転換体は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドと、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチド、またはインシュレーター配列を含む第4のポリヌクレオチドの少なくとも一方とが哺乳動物細胞に導入されてなる、形質転換体である。
また本発明にかかる形質転換体は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されてなる第6のポリヌクレオチドと、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドとが哺乳動物細胞に導入されてなる、形質転換体であってもよい。
また本発明にかかる形質転換体は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドおよびLoxP遺伝子を含む第8のポリヌクレオチドと、Cre Recombinase遺伝子を含む第9のポリヌクレオチドとが哺乳動物細胞に導入されてなる、形質転換体であってもよい。
また本発明にかかる形質転換体は、上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c−myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ−グロビン遺伝子座の複製起点に由来するものであってもよい。
また本発明にかかる形質転換体は、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来するものであってもよい。
また本発明にかかる形質転換体は、上記哺乳動物細胞が、COLO 320DM細胞、COLO 320HSR細胞、Hela細胞、およびCHO細胞からなる群から選択されるいずれかの細胞であってもよい。
本発明は以下の通りに表現することができる。
(1)遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、
当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、
当該第1および第2のポリヌクレオチドを導入する際に、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入する工程を包含することを特徴とする方法。
(2)遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法であって、
当該哺乳動物細胞は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、
当該第1および第2のポリヌクレオチドを導入する際に、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入する工程、および、
5-aza-2’-deoxycytidineで上記哺乳動物細胞を処理する工程を包含することを特徴とする方法。
(3)上記(1)または(2)に記載の方法において、
上記第2のポリヌクレオチドは、第2のポリヌクレオチドおよび薬剤耐性遺伝子を含む第5のポリヌクレオチドとして、上記第1のポリヌクレオチドと同時に哺乳動物細胞に導入されており、
上記哺乳動物細胞を漸増濃度の薬剤を含有する培地中で培養する工程を包含することを特徴とする方法。
(4)遺伝子増幅がダブルマイニュート染色体上で起こっている哺乳動物細胞を選択する工程を包含することを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来することを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来することを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させるためのキットであって、
真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、
10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチドと、
5-aza-2’-deoxycytidineとを具備することを特徴とするキット。
(8)上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来することを特徴とする上記(7)に記載のキット。
(9)上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来することを特徴とする上記(7)または(8)に記載のキット。
(10)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、
発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドと、
10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチドとが哺乳動物細胞に導入されてなる、形質転換体。
(11)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、
発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドと、
10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチドとが哺乳動物細胞に導入され、かつ 5-aza-2’-deoxycytidineで処理されてなり、
遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現し得る、形質転換体。
(12)上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来することを特徴とする上記(10)または(11)に記載の形質転換体。
(13)上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来することを特徴とする上記(10)ないし(12)のいずれか1項に記載の形質転換体。
(14)上記哺乳動物細胞が、COLO 320DM細胞、COLO 320HSR細胞、Hela細胞、およびCHO細胞からなる群から選択されるいずれかの細胞である、上記(10)ないし(13)のいずれか1項に記載の形質転換体。
本発明によれば、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させることができる。それゆえ本発明によれば、遺伝子増幅の手法により、有用タンパク質を大量に生産する系を樹立することができるという効果を奏する。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、次の説明で明白になるであろう。
実施例1において、コントロールとしてλ−ファージDNAを混合せずにpSFVdhfr(GAP−GFP)のみを細胞に導入した場合の蛍光強度を示す図である。
実施例1において、pSFVdhfr(GAP−GFP)、およびλ−ファージDNAを混合して細胞に導入した場合(コトランスフェクション)の蛍光強度を示す図である。
実施例2において、コントロールとしてpSFVdhfr/d2EGFPのみを細胞に導入した場合の蛍光強度を示す図である。
実施例2において、pSFVdhfr/d2EGFPのみを細胞に導入し、80μg/mlのブラスティサイジンで選択をさらに行なった場合の蛍光強度を示す図である。
実施例2において、pSFVdhfr/d2EGFPと、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAとを混合して細胞に導入した場合の蛍光強度を示す図である。
実施例2において、pSFVdhfr/d2EGFPと、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAとを混合して細胞に導入し、80μg/mlのブラスティサイジンで選択をさらに行なった場合の蛍光強度を示す図である。
実施例3において、5μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例3において、10μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例3において、40μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例3において、160μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例3において、320μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例4における、Tet−ON遺伝子通常発現の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)である。
実施例4における、Tet−ON遺伝子高発現の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)である。
実施例4における、Tet−ON遺伝子通常発現についての蛍光顕微鏡像(×200)である。
実施例4における、Tet−ON遺伝子高発現の細胞についての蛍光顕微鏡像(×200)である。
実施例4における、pSFVdhfr/d2EGFPを導入した細胞について、Tet−ONタンパク質通常発現の場合の蛍光強度を示す図である。
実施例4における、pSFVdhfr/d2EGFPを導入した細胞について、Tet−ONタンパク質高発現の場合の蛍光強度を示す図である。
実施例4における、鳥類由来HS4インシュレーター配列をpSFVdhfr/d2EGFPと同時増幅させた細胞について、Tet−ONタンパク質通常発現の場合の蛍光強度を示す図である。
実施例4における、鳥類由来HS4インシュレーター配列をpSFVdhfr/d2EGFPと同時増幅させた細胞について、Tet−ONタンパク質高発現の場合の蛍光強度を示す図である。
実施例5における、Cre Recombinase遺伝子を導入する前の細胞の位相差顕微鏡像(×200)である。
実施例5における、Cre Recombinase遺伝子を導入後の細胞の位相差顕微鏡像(×200)である。
実施例5における、Cre Recombinase遺伝子を導入する前の細胞の蛍光顕微鏡像(×200)である。
実施例5における、Cre Recombinase遺伝子を導入後の細胞の位相差像(×200)である。
実施例6における、5−aza−2’deoxycytidine(5−aza)処理前の細胞の位相差顕微鏡像(×200)である。
実施例6における、1μMの5−aza処理後の細胞の位相差顕微鏡像(×200)である。
実施例6における、5−aza処理前の細胞の蛍光顕微鏡像(×200)である。
実施例6における、1μMの5−aza処理後の細胞の蛍光顕微鏡像(×200)である。
実施例6における、5−aza−2’deoxycytidine(5−aza)処理前の細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例6における、20nMのTrichostatin A(TSA)処理後の細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例6における、1μMの5−azaで処理した細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例6における、1μMの5−azaおよび20nMのTSAで処理した細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例6における、3μMの5−azaで処理した細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例6における、3μMの5−azaおよび20nMのTSAで処理した細胞の蛍光強度を示す図である。
実施例7における、pSFVdhfr/d2EGFPを導入したTet−ON細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによりd2EGFPの発現誘導を行なった時のd2EGFP発現量を、セルソーターで解析した結果を示す図である。
実施例7において、pSFVdhfr/d2EGFPを導入したTet−ON細胞の多クローン性集団から選択したクローン4について、FISH法によりpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例7において、pSFVdhfr/d2EGFPを導入したTet−ON細胞の多クローン性集団から選択したクローン5について、FISH法によりpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例7において、pSFVdhfr/d2EGFPを導入したTet−ON細胞の多クローン性集団から選択したクローン6について、FISH法によりpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例7において、pSFVdhfr/d2EGFPを導入したTet−ON細胞の多クローン性集団から選択したクローン9について、FISH法によりpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例7において取得したクローン4について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−azaを培地に添加せずに、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン4について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度1μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン4について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度3μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン5について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−azaを培地に添加せずに、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン5について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度1μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン5について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度3μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン6について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−azaを培地に添加せずに、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン6について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度1μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン6について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度3μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン9について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−azaを培地に添加せずに、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン9について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度1μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例7において取得したクローン9について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なうとともに、5−aza(最終濃度3μM)を培地に添加し、培養を一週間行なった後のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なう前後の位相差顕微鏡像および蛍光顕微鏡像であり、(a)はDoxycycline添加前の位相差顕微鏡像(×200)であり、(b)はDoxycycline添加前の蛍光顕微鏡像(×200)であり、(c)はDoxycycline添加後の位相差顕微鏡像(×200)であり、(d)はDoxycycline添加後の蛍光顕微鏡像(×200)である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行なう前に、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を1時間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を3時間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を6時間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を15時間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を24時間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を48時間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を120時間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を2週間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8における、陰性対照の多クローン性集団について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、d2EGFP発現量の平均値と生細胞率とを時間に対してプロットしたチャート図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団から任意に選抜したクローンAについて、発現誘導前のd2EGFP発現量をセルソーターにて解析を行なった結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団から任意に選抜したクローンAについて、発現誘導後のd2EGFP発現量をセルソーターにて解析を行なった結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団から任意に選抜したクローンBについて、発現誘導前のd2EGFP発現量をセルソーターにて解析を行なった結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団から任意に選抜したクローンBについて、発現誘導後のd2EGFP発現量をセルソーターにて解析を行なった結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団から任意に選抜したクローンCについて、発現誘導前のd2EGFP発現量をセルソーターにて解析を行なった結果を示す図である。
実施例8において、pSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団から任意に選抜したクローンCについて、発現誘導後のd2EGFP発現量をセルソーターにて解析を行なった結果を示す図である。
実施例8にかかる方法を実施することにより、ヘテロクロマチン化していたHSR上の増幅遺伝子からRNAの転写が活性化されることを示す蛍光顕微鏡像である。
実施例9において単離したHSRクローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列をFISH法により検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例9において単離したDMクローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列をFISH法により検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例9において単離したHSRクローンについて、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を2日間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例9において単離したDMクローン(5−aza処理無し)について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を2日間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例9において単離したDMクローン(5−aza処理有り)について、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を2日間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例9における、陰性対照、HSRクローン、およびDMクローン(5−aza処理有りの場合と無しの場合)について、Doxycycline添加2日後の積算蛍光強度を示す棒グラフである。
実施例10において単離したCHO細胞のHSRクローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列をFISH法により検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例10において単離したCHO細胞のDMクローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列をFISH法により検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
実施例10において単離した最高クローンについて、Doxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を2日間行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を示す図である。
実施例10における、陰性対照における形質転換細胞の多クローン性集団、本実施例の形質転換細胞の多クローン性集団、および最高クローンについて、Doxycycline添加2日後の積算蛍光強度を示す棒グラフである。
実施例10において単離した最高クローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列をFISH法により検出した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明は、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させる方法である。ここで「反復配列」とは、ある単位塩基配列がリピートした塩基配列のことを意味する。かかる反復配列が染色体上に存在すると、その遺伝子領域のヘテロクロマチン化が起こり、遺伝子の転写が抑制される場合があることが知られている。
本発明者は、既述のごとく、哺乳動物複製開始領域(IR;initiation region)と核マトリックス結合領域(MAR;matrix attachment region)を持つプラスミド(以下「IR/MARプラスミド」という)をヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(BlasticidineあるいはNeomycine)を利用して選択するだけで、所望のタンパク質をコードする遺伝子(目的遺伝子)の細胞内コピー数を1万コピー程度にまで増幅できる系(以下、「高度遺伝子増幅系」という)を開発した(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、および非特許文献2参照)。
しかし、かかる高度遺伝子増幅系では、後述する比較例1に示すごとく、目的遺伝子であるブラスティサイジン抵抗性遺伝子のコピー数が増加しても、ブラスティサイジン抵抗性遺伝子のmRNAへの転写量の増加には至らないということが判明した。この現象は、目的遺伝子を含む遺伝子領域が高度に増幅することによって生じる反復配列により、転写抑制が起こっているということが考えられた。本発明は、(a)かかる反復配列に起因する転写抑制を解除すること、または(b)その大多数が上記転写抑制を起こしている細胞集団(クローン集団)の中から当該転写抑制が起こっていない(または転写抑制の程度が低い)細胞(クローン)を選択することによって、発現抑制されているタンパク質を発現させるためになされたものである。
したがって本発明において「発現抑制されているタンパク質を発現させる方法」とは、反復配列に起因する転写抑制を解除することによって発現抑制されているタンパク質を発現させる方法のみならず、その大多数が上記転写抑制を起こしている細胞集団(クローン集団)の中から当該転写抑制が起こっていない(または転写抑制の程度が低い)細胞(クローン)を選択することによって所望するタンパク質を発現させることをも含む意味である。
ここで本発明において「遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞」は、細胞内で遺伝子(ポリヌクレオチド)の増幅が誘導された哺乳動物細胞のことである。当該哺乳動物細胞としては、例えば上記IR/MARプラスミドを導入した哺乳動物細胞が挙げられる。また上記哺乳動物細胞は、特に限定されるものではなく、例えばCHO−K1細胞(入手先:例えば、ATCC CCL−61、RIKEN RCB0285、RIKEN RCB0403等)が挙げられる。ただし、上記哺乳動物細胞としては、無限増殖能を有する腫瘍細胞が特に好ましい。上記腫瘍細胞としては、例えば、HeLa細胞(入手先:例えば、ATCC CCL−2、ATCC CCL−2.2、RIKEN RCB0007、RIKEN RCB0191等)、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞(入手先:例えば、ATCC CCL−220)、ヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞(入手先:例えば、ATCC CCL−220.1)、NS0細胞(入手先:例えば、RIKEN RCB0213)等が挙げられる。
〔実施の形態1〕
本実施の形態にかかる方法は、上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞が、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、当該第1および第2のポリヌクレオチドを導入する際に、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチド、またはインシュレーター配列を含む第4のポリヌクレオチドの少なくとも一方を上記哺乳動物細胞に導入する工程を包含している。
第1のポリヌクレオチドには、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域が含まれている。かかる第1のポリヌクレオチドに含まれる複製起点としては真核生物細胞内で機能するものであれば特に限定されるものではなく、c−myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、β−グロビン遺伝子座等の複製起点が挙げられる。なおc−myc遺伝子座の複製起点については、例えば『McWhinney,C.et al.,Nucleic Acids Res.vol.18,p1233−1242(1990)』に記載されている。ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製起点については、例えば『Dijkwel,P.A.et al.,Mol.Cell.Biol.vol.8,p5398−5409(1988)』に記載されている。β−グロビン遺伝子座の複製起点については、例えば『Aladjem,M.et al.,Science vol.281,p1005−1009(1998)』に記載されている。
またかかる第1のポリヌクレオチドに含まれる核マトリックス結合領域としては、真核生物細胞内で機能するものであれば特に限定されるものではなく、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座等の核マトリックス結合領域に由来する配列が挙げられる。なお、Igκ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、例えば『Tsutsui,K.et al.,J.Biol.Chem.vol.268,p12886−12894(1993)』に記載されている。SV40初期領域の核マトリックス結合領域については、例えば『Pommier,Y.et al.,J.Virol.,vol 64,p419−423(1990)』に記載されている。ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、例えば『Shimizu N.et al.,Cancer Res.vol.61,p6987−6990』に記載されている。
なお第1のポリヌクレオチドには、この他、適宜目的に応じて、大腸菌内でクローニングを行なうために必要な配列、あるいは、マーカータンパク質として薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子等)または緑色蛍光タンパク質遺伝子等を選択マーカーとして有してもよい。これらの選択マーカーを指標として第1のポリヌクレオチドが導入された細胞を選別できる。
一方、第2のポリヌクレオチドは、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチド(適宜「目的タンパク質をコードする遺伝子」と称する)であり、特に限定されるものではなく、所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適宜選択の上、採用すればよい。当該ポリヌクレオチドは、その塩基配列情報を元にPCR等の公知の技術を用いて取得すればよい。なお本発明の説明において「発現させるべきタンパク質」のことを「目的タンパク質」と称する。
上記第1のポリヌクレオチド、および発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが、哺乳動物細胞へ同時に導入されることによって、本発明者が特許文献1等に開示した「高度遺伝子増幅系」を構成することができ、当該細胞は第2のポリヌクレオチドを増幅することが可能となる。ここで、上記第1および第2のポリヌクレオチドが同時に導入された哺乳動物細胞は、本発明でいう「遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞」である。当該第1および第2ポリヌクレオチドが導入される哺乳動物細胞は、特に限定されるものではなく、例えばCHO細胞等が挙げられる。ただし、上記哺乳動物細胞としては、無限増殖能を有する腫瘍細胞が特に好ましい。上記腫瘍細胞としては、例えば、HeLa細胞、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞、ヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞、NS0細胞等が挙げられる。ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞およびヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞については、例えば『Quinn,L.A.,Moore,G.E.,Morgan,R.T.,and Woods,L.K.Cell lines from human colon carcinoma with unusual cell products,double minutes,and homogeneously staining regions.Cancer Res.1979 39(12):4914−4924.』および『Shimizu,N.,Kanda,T.,and Wahl,G.M.Selective capture of acentricfragments by micronuclei provides a rapid method for purifying extr achromosomally amplified DNA.Nat.Genet.,12:65−71,1996.』に記載されている。
なお、第1および第2のポリヌクレオチドを細胞に導入する際には、両ポリヌクレオチドが同時に哺乳動物細胞へ導入される態様であれば特に限定されるものではなく、両ポリヌクレオチドを連結して同一の遺伝子構築物として導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよい。また遺伝子構築物の形態については、プラスミドであってもコスミドであってもよい。
また第1および第2のポリヌクレオチドの細胞への導入方法は、特に限定されるものではなく、リポフェクション、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法等公知の方法を適宜選択の上、利用可能である。
ところで、第1および第2のポリヌクレオチドが導入された哺乳細胞内で第2のポリヌクレオチドが増幅する際に反復配列が生じ、当該反復配列によって転写抑制が起こり、結果的にタンパク質の発現抑制が起こる。本発明者は、この現象を発がん過程の遺伝子増幅において生じる反復配列の場合と比較した(後述する「参考例1」)。その結果、発がん過程で生じた遺伝子増幅領域からmRNAへの転写は抑制されていないということがわかった。比較例1で示したIRとMARを持つプラスミド(pSFVdhfr)による反復配列と、発がん過程で生じた反復配列との相違点は、後者では反復している配列が長いこと(通常、100〜200kbp)、および反復配列が組み替え等により複雑になっていることである。したがって、比較例1および参考例1の結果から、IRとMARを持つプラスミドによって生ずる反復配列からmRNAの転写量を高めるためには、反復単位を長くし、反復構造を複雑化すれば良いということが考えられた。
本実施の形態のかかる方法は、上記検討を元にして考案された。すなわち、当該第1および第2のポリヌクレオチドを導入する際に、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチド、またはインシュレーター配列を含む第4のポリヌクレオチドの少なくとも一方を上記哺乳動物細胞に導入する工程を包含している。
上記第3のポリヌクレオチドを、上記第1および第2のポリヌクレオチドを同時に哺乳動物細胞へ導入することによって、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよび第3のポリヌクレオチドが上記哺乳動物細胞内において共増幅する。その結果、ポリヌクレオチド(遺伝子)の増幅によって形成される反復配列の反復単位が長くなる、もしくは反復構造が複雑になる。したがって、反復配列に起因する転写抑制を解除することができ、ポリヌクレオチドのコピー数に応じたタンパク質を発現させることができるという効果を奏する。
ここで第3のポリヌクレオチドの長さは、10kbp以上が好ましく、50kbp以上がさらに好ましく、100kbp以上が最も好ましい。第3のポリヌクレオチドは、上記長さの条件を満たすものであれば、塩基配列については限定されるものではなく、タンパク質をコードするものであっても、コードしないものであってもよい。なお第3のポリヌクレオチドは任意のポリヌクレオチドを合成等の手法により適宜調製して適用してもよいし、例えば、λ−ファージDNA、ヒトゲノムDNA、等の公知のポリヌクレオチドを適宜選択の上適用してもよい。
一方、第4のポリヌクレオチドを、上記第1および第2のポリヌクレオチドとを同時に哺乳動物細胞へ導入することによって発現させるべきタンパク質、およびインシュレーター配列のポリヌクレオチドが上記哺乳動物細胞内において共増幅すると、ポリヌクレオチド(遺伝子)の増幅によって形成される反復配列の反復単位が長くなる、もしくは反復構造が複雑になる。さらにはヘテロクロマチン化が周囲に拡散することがなくなり、反復配列に起因する転写抑制を解除することができ、ポリヌクレオチドのコピー数に応じたタンパク質を発現させることができるという効果を奏する。
ここで、「インシュレーター配列」はクロマチンの境界であり、遺伝子発現の独立性を保つDNA配列であるということが知られている。かかるインシュレーター配列としては、例えば、鳥類由来HS4インシュレーター配列(1210bp、『Recillas−Targa,F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,vol.99,p6883−6888,(2002)参照』)、ウニ由来ARSインシュレーター配列(575bp、『Akasaka K,et al.,Cell.Mol.Biol.vol.45,p555−565(1999).』参照)が挙げられる。
上記第3または第4のポリヌクレオチドは、第1または第2のポリヌクレオチドと同一の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよい。ただし、第3、第4のポリヌクレオチドは、サイズが比較的大きいこと、第1または第2のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物にさらに挿入する操作が必要となること等の理由により、おのおの別々の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入することが好ましい。また第3または第4のポリヌクレオチドのいずれか1つを哺乳動物細胞内に導入してもよいが、両ペプチドを哺乳動物細胞内に導入した方が、さらに転写抑制を解除する効果を得ることができるために好ましい。なお遺伝子構築物の形態、哺乳動物細胞への導入方法については、第1および第2のポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。
本実施の形態にかかる方法の効果については、その一例として後述する実施例1、2において検討しており、確かに発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写抑制が解除されており、目的タンパク質が高発現していることがわかった。
なお本発明は、本実施の形態にかかる方法によって得られた形質転換体を包含する。
〔実施の形態2〕
本実施の形態にかかる方法は、上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞が、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第5のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第5のポリヌクレオチドは、発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド、および薬剤耐性遺伝子を含んでおり、上記哺乳動物細胞を漸増濃度の薬剤を含有する培地中で培養する工程を包含している。
ここで第5のポリヌクレオチドとは、発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド、および薬剤耐性遺伝子を含むポリヌクレオチドである。薬剤耐性遺伝子としては、ブラスティサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子、ヒグロマイシン抵抗性遺伝子、等が挙げられる。かかる第5のポリヌクレオチドを上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞に導入する際は、第1または第5のポリヌクレオチドと同一の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよい。なお遺伝子構築物の形態、哺乳動物細胞への導入方法については、既述の第1および第2のポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。
本実施の形態は、上記第1および第5のポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を、漸増濃度の薬剤を含有する培地中で培養する工程を包含している。上記第1および第5のポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞においては、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよび薬剤耐性遺伝子が共増幅される。漸増濃度の薬剤を含有する培地中で上記哺乳動物細胞を培養すれば、反復配列に起因する転写抑制が起こっていない(もしくは、転写抑制の程度が低い)哺乳動物細胞を、薬剤耐性を指標に選抜することができる。したがって、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドについても転写抑制が起こっていない(もしくは、転写抑制の程度が低い)哺乳動物細胞を選抜することができ、当該ポリヌクレオチドのコピー数に応じたタンパク質を発現させることができるという効果を奏する。
ここで、細胞培養を行なう際の薬剤の漸増方法としては、特に限定されるものではなく、薬剤濃度の高い培地に段階的に植え継いでいく方法であっても、培地中に薬剤を連続的に添加していく方法であってもよい。より具体的には、前者の場合3日〜7日間隔で植え継いでいくことが好ましく、薬剤濃度の増加率は30〜100%増が好ましい。また後者の場合は、薬剤濃度が24時間当り10〜30%増となるように薬剤を添加することが好ましい。後述する実施例3においては、3〜5日間隔の植え継ぎ毎に薬剤(ブラスティサイジン)濃度を倍増させている。
なお培地中に添加する薬剤の上限は、薬剤の種類、細胞の種類、状態等によって異なるために限定されるものではなく、適宜検討の上、決定すればよい。
本実施の形態にかかる方法の効果については、その一例として後述する実施例3において検討しており、確かに発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写抑制が解除されており、目的タンパク質が高発現していることがわかった。
〔実施の形態3〕
本実施の形態にかかる方法は、上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞が、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第6のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第6のポリヌクレオチドにおいて、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されており、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入して転写活性化因子を発現させる工程を包含している。
ここで第6のポリヌクレオチドとは、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されているものである。プロモーター領域としては、第6のポリペプチドが導入される哺乳動物細胞において機能し、かつ転写活性化因子によって転写調節されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、TREプロモーター(クロンテック社製)、T−REXプロモーター(インビトロジェン社製)等が利用可能である。第6のポリヌクレオチドを上記遺伝子増幅能を有する哺乳動物細胞に導入する際は、第1のポリヌクレオチドと同一の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよい。なお遺伝子構築物の形態、哺乳動物細胞への導入方法については、既述の第1および第2のポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。
本実施の形態は、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入して転写活性化因子を発現させる工程を包含している。かかる工程によれば、発現させるべきタンパク質の発現を制御するプロモーターの活性自体を向上させることができ、反復配列によって発現抑制されているタンパク質を発現させることができるという効果を奏する。ここで第7のポリヌクレオチドとは、上記第6のポリヌクレオチドに含まれるプロモーターの転写活性化因子をコードするポリヌクレオチドのことである。例えば、プロモーターとしてTREプロモーターを用いた場合には、Tet−ON遺伝子(クロンテック社製)を第7のポリヌクレオチドとすればよい。
第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入して転写活性化因子を発現させる工程では、かかる第7のポリヌクレオチドと当該ポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとを制御可能に連結して構築した遺伝子構築物を上記哺乳動物細胞に導入すればよい。当該第7のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターは、哺乳動物細胞において機能するものであれば特に限定されるものではなく、誘導型プロモーターであっても、非誘導型プロモーターであってもよい。また第7のポリネクレオチドを含む遺伝子構築物の哺乳動物細胞への導入の時期は、上記第1および第6のポリヌクレオチドの導入後に第7のポリヌクレオチドを導入してもよいし、またその逆であってもよい。なお遺伝子構築物の形態、哺乳動物細胞への導入方法については、既述の第1および第2のポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。
本実施の形態にかかる方法の効果については、その一例として後述する実施例4において検討しており、確かに発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写抑制が解除され、目的タンパク質が高発現していることがわかった。
なお本発明は、本実施の形態にかかる方法によって得られた形質転換体を包含する。
〔実施の形態4〕
本実施の形態にかかる方法は、上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞が、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第8のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第8のポリヌクレオチドは、発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド、およびLoxP遺伝子を含み、Cre Recombinase遺伝子を含む第9のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入してCre Recombinaseを発現させる工程を包含している。
ここで第8のポリヌクレオチドとは、第2のポリヌクレオチドおよびLoxP遺伝子を含むポリヌクレオチドである。LoxP遺伝子は、公知のCre−LoxP System(クレ・ロックスピー系)にかかる遺伝子である(『“Molecular Cloning−−−−a laboratory manual 3rd Ed.”,by J.Sambrook and D.W.Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001),page 4.82−4.85.』参照)。なお上記LoxP遺伝子の両端(5’末端および3’末端)にはクローニングのための制限酵素認識配列または制限酵素切断配列が付加されていてもよい。
また第9のポリヌクレオチドは、同Cre−LoxP System(クレ・ロックスピー系)にかかるCre Recombinase遺伝子を含むポリヌクレオチドである。当該第9のポリヌクレオチドには、Cre Recombinase遺伝子を発現させるためのプロモーターが含まれていることが好ましい。
第1のポリヌクレオチド、第8のポリヌクレオチド、および第9のポリヌクレオチドが哺乳動物細胞に導入されることによって、LoxP遺伝子と発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが増幅される。この時、哺乳動物細胞において発現したCre RecombinaseがLoxP遺伝子を認識して、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドが染色体外に切り出され、環状体分子を形成する。染色体外の環状分子は、転写抑制等の影響を受けにくいため、反復配列に起因する転写抑制を回避でき、ポリヌクレオチドのコピー数に応じたタンパク質を発現させることができるという効果を奏する。
なお各ポリヌクレオチドの哺乳動物細胞への導入方法については、既述の第1および第2のポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。また導入の時期は、上記第1および第8のポリヌクレオチドの導入後に第9のポリヌクレオチドを導入してもよいし、またその逆であってもよい。
本実施の形態にかかる方法の効果については、その一例として後述する実施例5において検討しており、確かに発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写抑制が解除されており、目的タンパク質が高発現していることがわかった。
なお本発明は、本実施の形態にかかる方法によって得られた形質転換体を包含する。
〔実施の形態5〕
本実施の形態にかかる方法は、上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞が、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、5−aza−2’−deoxycytidineで上記哺乳動物細胞を処理する工程を包含している。
本発明者は、RNAiにおけるDNAのサイレンシング(転写抑制)がDNAのメチル化を伴っているということから、逆にDNAのメチル化のレベルを低下させれば転写抑制を解除することができるのではないかということを独自に考え、本実施の形態にかかる方法を考案するに至った。5−aza−2’−deoxycytidineは、DNAのメチル化のレベルを低下させるということが知られており、本発明者はこれを採用することとした。当該5−aza−2’−deoxycytidineは市販のものを適宜購入の上、利用すればよい。例えば、Sigma社より購入することができる。
5−aza−2’−deoxycytidineで哺乳動物細胞を処理する方法は、5−aza−2’−deoxycytidineと哺乳動物細胞とが接触する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、5−aza−2’−deoxycytidineを含む培地中で哺乳動物細胞を培養すればよい。この時の5−aza−2’−deoxycytidineの濃度は、細胞の種類や状態によって好適な条件が異なるため、適宜検討の上、決定すればよいが、通常0.2μM〜10μMが好ましく、1μM〜2μMがさらに好ましい。上記好ましい範囲を超えると、哺乳動物細胞に対して毒性を発揮する場合があり、上記好ましい範囲未満であると、転写抑制を十分に解除することはできない。なお、5−aza−2’−deoxycytidineを添加する培地は、哺乳類動物細胞を培養することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDulbecco’s modified Eagle’s培地(DEM培地;インビトロゲン社製)、RPMI1640培地(日水製薬社製)、等が利用可能であり、10%の牛胎児血清を加えて使用する。
なお哺乳動物細胞の処理時間については、5−aza−2’deoxycytidineの濃度、細胞の種類や状態によって異なるために限定されるものではないが、3日〜10日が好ましい。
本実施の形態にかかる方法の効果については、その一例として後述する実施例6において検討しており、確かに発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写抑制が解除され、目的タンパク質が高発現していることがわかった。
なお、上記5−aza−2’−deoxycytidineで哺乳動物細胞を処理する方法は、第1のポリヌクレオチド、および第2のポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞のみに適用されるものではなく、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞に広く適用が可能である。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO;Chinese Hamster Ovary)細胞に、タンパク質をコードする遺伝子とジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR;Dihydrofolate reductase)遺伝子とを同時に導入して遺伝子増幅が可能となった哺乳動物細胞にも適用可能である。
〔実施の形態6〕
本実施の形態にかかる方法は、上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞が、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドが同時に導入されており、上記遺伝子増幅がダブルマイニュート染色体上で起こっている上記哺乳動物細胞を選択する工程を包含している。
本発明者は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)およびIR/MARプラスミドを導入した哺乳動物細胞の安定形質転換細胞集団から、目的タンパク質を発現するクローンを単離してその目的タンパク質の発現量を比較したところ、染色体の均一染色領域(Homogeneously staining regeon;以下「HSR」という)上で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)の増幅が起こっているクローンに比して、染色体外のダブルマイニュート染色体(以下「DM」という)上で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)の増幅が起こっているクローンの方がはるかに高い発現量を示すということを発見した。すなわち、高度遺伝子増幅系を用いて目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)が高度に増幅された哺乳動物細胞から、DM上で当該ポリヌクレオチド(遺伝子)の増幅増幅が起こっているクローンを選択すれば、反復配列に起因する転写抑制が起こっていないクローンを選択することができ、当該クローンを培養することによって、目的タンパク質を高発現させることができるといえる。
DM上で遺伝子増幅が起こっている哺乳動物細胞(クローン)を選択する方法は、特に限定されるものではないが、例えば分裂期の染色体について公知のFISH法(fluorescence in situ hybridization)を行ない、哺乳動物細胞へ導入した第1〜9のうちいずれかのポリヌクレオチドを検出して、DM上に蛍光を示す哺乳動物細胞(クローン)を単離するという方法が挙げられる。HSRは染色体上の領域であるのに対して、DMは染色体外に存在するため、蛍光顕微鏡観察により染色体以外の領域に蛍光を示す哺乳動物細胞(クローン)を選抜すればよい。FISH法を実施する際の具体的な方法については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。
またその他、DM上で遺伝子増幅が起こっている哺乳動物細胞(クローン)を選択する方法としては、Lactose Operator(LacO)配列を第1〜9のうちいずれかのポリヌクレオチドに組み込み、上記の方法で増幅させ、それをLactose Repressor(LacR)−Green Fluorescence Protein(GFP)融合遺伝子の発現により可視化する方法が挙げられる(『Kanda,T.,and G.M.Wahl.2000.The dynamics of acentric chromosomes in cancer cells revealed by GFP−based chromosome labeling strategies.J Cell Biochem.Suppl:107−114.』;『Li,G.,G.Sudlow,and A.S.Belmont.1998.Interphase cell cycle dynamics of a late−replicating,heterochromatic homogeneously staining region:Precise choreography of condensation/decon densation and nuclear positioning.J Cell Biol.140:975−989.』;および『Shimizu,N.,K.Shingaki,Y.Kaneko−Sasaguri,T.Hashizume,and T.Kanda.2005.When,where and how the bridge breaks:anaphase bridge breakage plays a crucial role in gene amplification and HSR generation.Exp Cell Res.302:233−243.』参照)。
ここでDMおよびHSRについては以下のことが知られている。遺伝子増幅は、腫瘍細胞の分限増殖または薬剤抵抗性を獲得する主要な機構であり(『Benner,S.E.,Wahl,G.M.,and Von Hoff,D.D.Double minute chromosomes and homogeneously staining regions in tumors taken directly from patients versus in human tumor cell lines.Anti−Cancer Drugs,2:11−25,1991』参照)、細胞遺伝学的に言えば、増幅遺伝子は、インビボにおいて、染色体外のダブルマイニュート染色体(DM)上で最も頻繁に検出される。しかし、長期にわたるインビトロでの継代によって、通常は染色体の均一染色領域(HSR;homogeneously staining region)に増幅遺伝子を有する細胞の優勢的増殖に至る。これまでの研究により、腫瘍細胞からDM上の増幅遺伝子を除去すると、腫瘍表現型および細胞分化を呈する状態から正常状態に復帰することが示されている(『Shimizu,N.,Nakamura,H.,Kadota,T.,Kitajima,K.,Oda,T.,Hirano,T.,and Utiyama,H.Loss of amplified c−myc genes in the spontaneouslydifferentiated HL−60 cells.Cancer Res.,54:3561−3567,1994.』、『Von Hoff,D.D.,McGill,J.R.,Forseth,B.J.,Davidson,K.K.,Bradley,T.P.,Van Devanter,D.R.,and Wahl,G.M.Elimination of extrachromosomally amplified MYC genes from human tumor cells reduces their tumorigenicity.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:8165−8169,1992.』、および『Eckhardt,S.G.,Dai,A.,Davidson,K.K.,Forseth,B.J.,Wahl,G.M.,and Von Hoff,D.D.Induction of differentiation in HL60 cells by thereduction of extrachromosomally amplified c−myc.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:6674−6678,1994.』参照)。この種の除去過程は、分裂細胞から放出される微小核へのDMの選択的取り込みによって仲介される(『Von Hoff,D.D.,McGill,J.R.,Forseth,B.J.,Davidson,K.K.,Bradley,T.P.,Van Devanter,D.R.,and Wahl,G.M.Elimination of extrachromosomally amplified MYC genes from human tumor cells reduces their tumorigenicity.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:8165−8169,1992.』、『Shimizu,N.,Kanda,T.,and Wahl,G.M.Selective capture of acentricfragments by micronuclei provides a rapid method for purifying extrachromosomally amplified DNA.Nat.Genet.,12:65−71,1996.』、および『Shimizu,N.,Shimura,T.,and Tanaka,T.Selective elimination of acentric double minutes from cancer cells through the extrusion of micronuclei.Mutat.Res.,448:81−90,2000.』参照)。このような微小核形成(micronucleation)過程は、細胞周期の際におけるDMの細胞内挙動と密接に関連していることが理解されている(『Tanaka,T.,and Shimizu,N.Induced detachment of acentric chromatinfrom mitotic chromosomes leads to their cytoplasmic localization at G1 and the micronucleation by lamin reorganization at S phase.J.Cell Sci.,113:697−707,2000.』参照)。DMは様々なサイズの無動原体環状DNAから構成され(『Levan,A.,and Levan,G.Have double minutes functioning centromeres?Hereditas,88:81−92,1978.参照』)、無動原体性であるにもかかわらず、有糸分裂する染色体に付着して娘細胞へと安定に分離される(『Tanaka,T.,and Shimizu,N.Induced detachment of acentric chromatinfrom mitotic chromosomes leads to their cytoplasmic localization at G1 and the micronucleation by lamin reorganization at S phase.J.Cell Sci.,113:697−707,2000.』、『Levan,A.,and Levan,G.Have double minutes functioning centromeres?Hereditas,88:81−92,1978.』、および『Kanda,T.,Sullivan,K.F.,and Wahl,G.M.Histone−GFP fusion protein enables sensitive analysis of chromosome dynamics in living mammaliancells.Curr.Biol.,8:377−385,1998.』参照)。最近の関連する重要な知見として、牛パピローマウイルス(『Lehman,C.W.,and Botchan,M.R.Segregation of viral plasmids depends on tethering to chromosomes and is regulated by phosphorylation.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:4338−4343,1998.』参照)、EBウイルス(『Marechal,V.,Dehee,A.,Chikhi−Brachet,R.,Piolot,T.,Coppey−Moisan,M.,and Nicolas,J.C.Mapping EBNA−1 domains involved in binding tometaphase chromosomes.J.Virol.,73:4385−4392,1999.』参照)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(『Ballestas,M.E.,Chatis,P.A.,and Kaye,K.M.Efficient persistence of extrachromosomal KSHV DNA mediated by latency−associated nuclear antigen.Science(Wash.DC),284:641−644,1999.』参照)およびSV40(『Baiker,A.,Maercker,C.,Piechaczek,C.,Schmidt,S.B.,Bode,J.,Benham,C.,and Lipps,H.J.Mitotic stability of an episomal vector containing a human scaffold/matrix−attached region is provided by association with nuclear matrix.Nature Cell Biol.,2:182−184,2000.』参照)を含むいくつかのウィルス性核内プラスミド(viral nuclear plasmid)が、細胞分裂の際に同様の機構を利用することが示されている。さらに、最近の興味深い研究では、EBウイルス・レプリコンを有するプラスミドが、腫瘍細胞でDMに組込まれ得ることが示されている(『Kanda,T.,Otter,M.,and Wahl,G.M.Mitotic segregation of viral and cell ular acentric extrachromosomal molecules by chromosome tethering.J.Cell Sci.,114:49−58,2001.』参照)。
なお、第1および第2のポリヌクレオチドの哺乳動物細胞への導入方法、当該ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入する際の遺伝子構築物については、〔実施の形態1〕の項で説示した場合と同様にすればよい。
本実施の形態にかかる方法の効果については、その一例として後述する実施例7において検討しており、確かに発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写抑制が解除され、目的タンパク質が高発現していることがわかった。
また上記本実施の形態にかかる方法は、第1のポリヌクレオチド、および第2のポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞のみに適用されるものではなく、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞に広く適用が可能である。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO;Chinese Hamster Ovary)細胞に、タンパク質をコードする遺伝子とジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR;Dihydrofolate reductase)遺伝子とを同時に導入して遺伝子増幅が可能となった哺乳動物細胞にも適用可能である。
〔実施の形態7〕
本実施の形態にかかる方法は、上記遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞が、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、並びに第6のポリヌクレオチドが同時に導入されており、第6のポリヌクレオチドにおいて、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されており、当該第1および第6のポリヌクレオチドを導入する際に、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に同時に導入する工程を包含することを特徴としている。
ここで第6のポリヌクレオチドとは、プロモーター領域と発現させるべきタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとが制御可能に連結されているものである。プロモーター領域としては、第6のポリペプチドが導入される哺乳動物細胞において機能し、かつ転写活性化因子によって転写調節されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、TREプロモーター(クロンテック社製)、T−REXプロモーター(インビトロジェン社製)等が利用可能である。第6のポリヌクレオチドを上記遺伝子増幅能を有する哺乳動物細胞に導入する際は、第1のポリヌクレオチドと同一の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよい。なお遺伝子構築物の形態、哺乳動物細胞への導入方法については、既述の第1および第2のポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。
本実施の形態は、当該第1および第6のポリヌクレオチドを導入する際に、当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に同時に導入する工程を包含している。かかる工程によれば、目的タンパク質の発現を制御するプロモーターの活性自体を向上させることができ、反復配列によって発現抑制されているタンパク質を発現させることができるという効果を奏する。ここで第7のポリヌクレオチドとは、上記第6のポリヌクレオチドに含まれるプロモーターの転写活性化因子をコードするポリヌクレオチドのことである。例えば、プロモーターとしてTREプロモーターを用いた場合には、Tet−ON遺伝子(クロンテック社製)を第7のポリヌクレオチドとすればよい。
第7のポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入して転写活性化因子を発現させる工程では、かかる第7のポリヌクレオチドと当該ポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとを制御可能に連結して構築した遺伝子構築物を上記哺乳動物細胞に導入すればよい。当該第7のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターは、哺乳動物細胞において機能するものであれば特に限定されるものではなく、誘導型プロモーターであっても、非誘導型プロモーターであってもよい。また第7のポリネクレオチドを含む遺伝子構築物の哺乳動物細胞への導入の時期は、上記第1および第6のポリヌクレオチドの導入する際に第7のポリヌクレオチドを同時に導入すればよい(コトランスフェクション)。簡単には、第1のポリヌクレオチドおよび第6のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物と第7のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物を混合し、リポフェクション法等により哺乳動物細胞へ遺伝子導入を行なえばよい。もしくは、第1のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物、第6のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物、および第7のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物をそれぞれ混合し、リポフェクション法等により哺乳動物細胞へ遺伝子導入を行なえばよい。なお、遺伝子構築物の形態、哺乳動物細胞への導入方法については、既述の第1および第2のポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。
本実施の形態にかかる方法の効果については、その一例として後述する実施例8において検討しており、確かに発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写抑制が解除され、目的タンパク質が高発現していることがわかった。
なお本発明は、本実施の形態にかかる方法によって得られた形質転換体を包含する。
また上記実施の形態1〜7に示した各工程を適宜組み合わせて行なうことも可能である。かかる場合には、反復配列による転写抑制を解除する効果をさらに得ることができ、発現抑制されていたタンパク質をさらに高発現させることができるという効果を奏する。
〔実施の形態8〕
本発明は、上記実施の形態1〜7において説示した各ポリヌクレオチド、試薬等を適宜組み合わせることによって構成した、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させるためのキットをも包含する。本発明にかかるキットによれば、簡便に、遺伝子増幅が誘導された哺乳動物細胞内において形成された反復配列から、発現抑制されているタンパク質を発現させることができる。
本発明のキットは特に限定されるものではないが、例えば、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチドと、10kbp以上の長さを有する第3のポリヌクレオチド、またはインシュレーター配列を含む第4のポリヌクレオチドの少なくとも一方とを具備するキットが挙げられる。上記キットは実施の形態1に記載した方法にしたがって使用することができる。なお、上記第1のポリヌクレオチドと、第3および/または第4のポリヌクレオチドとは、同一の遺伝子構築物として構成されていてもよい。
また、本発明にかかるキット(一例)は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、プロモーター領域を含むポリヌクレオチド、および当該プロモーターの転写活性化因子をコードする第7のポリヌクレオチドを具備することを特徴とするキットであってもよい。上記キットは、上記プロモーター領域と目的遺伝子とを連結することによって第6のポリヌクレオチドを調製した後、実施の形態3または7に記載した方法にしたがって使用すればよい。なお、上記第1のポリヌクレオチドと、上記プロモーター領域を含むポリヌクレオチドとは、同一の遺伝子構築物として構成されていてもよい。
さらに本発明にかかるキット(一例)は、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1のポリヌクレオチド、LoxP遺伝子を含むポリヌクレオチド、およびCre Recombinase遺伝子を含む第9のポリヌクレオチドを具備することを特徴とするキットであってもよい。上記キットは、上記LoxP遺伝子を含むポリヌクレオチドと目的遺伝子とを連結することによって第8のポリヌクレオチドを調製した後、実施の形態4に記載した方法にしたがって使用すればよい。なお、上記第1のポリヌクレオチドと、上記LoxP遺伝子を含むポリヌクレオチドとは、同一の遺伝子構築物として構成されていてもよい。
また上記キットには、5−aza−2’−deoxycytidineが含まれていてもよい。上記5−aza−2’−deoxycytidineによれば、既述のように、目的タンパク質をさらに高発現することができる。
その他、上記本発明にかかるキットには、上記実施の形態1〜7において説示した本発明の方法を実施するために必要な試薬、器具等が含まれていてもよい。例えば、上記各ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞に導入するために必要な試薬、器具が、本発明にかかるキットに含まれていてもよい。さらに上記キットには、哺乳動物細胞、当該哺乳動物細胞を培養するための培地等が含まれていてもよい。
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
比較例1、参考例1、実施例1〜10において使用する材料および方法を以下に示す。
(プラスミド)
pSFVdhfr(11.0kbp)は、John Kolman博士およびGeoffrey M.Wahl博士(The Salk Institute,San Diego,CA)から供与された。PSFVdhfrはヒドロ葉酸リダクターゼに対して3’−下流の領域に由来するOriβを含む4.6kbp断片を有している(『Dijkwel,P.A.,and Hamlin,J.L.Matrix attachment regions are positioned near replication initiation sites,genes,and an interamplicon junction in the amplified dihydrofolate reductase domain of Chinese hamster ovary cells.Mol.Cell Biol.,8:5398−5409,1988.』参照)。
複製起点を欠くpSFV−Vプラスミド(6.4kbp)は、NotI消化で全てのジヒドロ葉酸リダクターゼ由来配列を削除することによってpSFVdhfrから構築された。
pSFVdhfr(GAP−GFP)は、pSFVdhfrのヒグロマイシン抵抗性遺伝子発現ユニットを除去し、その位置に、pEPBG plasmid(Salk Institute Geoffrey M.Wahl博士より受領)から切り出したGAP−GFP発現ユニットを、転写がIRの方向に向かうように組み込むことにより構築した。
pSFVdhfr/d2EGFPは、pSFVdhfrのヒグロマイシン抵抗性遺伝子発現ユニットを除去し、その位置にTREプロモーター、d2EGFP構造遺伝子、SV40 poly A配列(pTRE−d2EGFP(クロンテック)由来)を、この順で、転写がIRの方向に向かうように組み込むことにより構築した。
(細胞)
ヒト結腸直腸のCOLO 320DMおよびCOLO 320HSR腫瘍細胞株(ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞株およびヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞株)は、『Shimizu,N.,Kanda,T.,and Wahl,G.M.Selective capture of acentricfragments by micronuclei provides a rapid method for purifying extrachromosomally amplified DNA.Nat.Genet.,12:65−71,1996.』の記載に従い獲得し、維持した。
また上記細胞および当該形質転換細胞の培養についても上記文献に従って行なった。簡単には、上記細胞株をRPMI 1640培地(日水製薬社製)へ10%牛胎児血清を添加した培地中で、37℃、5% CO2存在下で培養した。
(リポフェクション)
上記全てのプラスミドをQiagenプラスミド精製キット(Qiagen Inc.,Valencia,CA)により精製し、GenePorter 2リポフェクションキット(Gene Therapy Systems,San Diego,CA)により細胞にトランスフェクトした。
(セルソーターによる解析)
セルソーターを用いて各細胞の蛍光強度を測定した。測定は、生細胞のみをゲートにかけ、2万個の細胞をソートした。なおセルソーターは、Becton Dickinson社製を用い、運転条件は付属のマニュアルに従った。
〔比較例1〕IRおよびMARを有するプラスミドを用いた遺伝子増幅、およびmRNAの転写量の測定
(方法)
ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞株に、ヒトDHFR(dihydrofolate reductase)遺伝子座由来のIRとMARを持つプラスミド(pSFVdhfr)をリポフェクション法で導入した。またコントロールとして、ヒトDHFR遺伝子座由来のIRとMARを除いたベクタープラスミド(pSFV)を同様にリポフェクション法により、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞株に導入した。
両プラスミドは、ブラスティサイジン(Blasticidine)抵抗性遺伝子を有しており、5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で形質転換細胞を選択した。
(結果)
pSFVdhfrで形質転換した細胞からは、プラスミド配列がダブルマイニュート(DM)上で遺伝子増幅したクローン(clone 12)と均一染色体領域(HSR)上で増幅したクローン(clone 22)を得た。また、ベクタープラスミドpSFV−Vで形質転換した細胞は、IRとMARを持たないために遺伝子コピー数は増加しないが、多コピー導入形質転換細胞を得た。
これらの細胞について、ブラスティサイジン抵抗性遺伝子のDNA量と、転写されたmRNA量をCmpetitive PCR法により定量した。この結果を表1に示す。
表1に示すように、IRとMARを持つプラスミド(pSFVdhfr)の効果によりブラスティサイジン抵抗性遺伝子のコピー数が増加しても、ブラスティサイジン抵抗性遺伝子のmRNAの転写量の増加には至らないということが判明した。このことは、目的遺伝子を含む遺伝子領域が高度に増幅することによって反復配列が生じ、該反復配列によって転写抑制が起こっているということが考えられた。
〔参考例1〕発がん過程で生じた遺伝子増幅領域からのmRNAへ転写
ヒト大腸がん細胞株COLO 320DM(ATCC CCL220)は、患者体内での発がん過程においてc−mycがん遺伝子が増幅し、DMかHSRに局在することが知られている(『Alitalo,Kari,Schwab,Manfred,Lin,C.C.,Varmus,Harold,Bishop,J.Michael、Homogenously staining chromosomal regions contain amplified copies of an abundantly expressed cellular oncogene(c−myc)in malignant neuroendocrine cells from a human colon carcinoma.Proc Natl Acad Sci U S A.v80.,p1701−1711』参照)。そこで当該細胞においてc−mycがん遺伝子のコピー数と、mRNAの転写量とをcompetitive PCR法で定量した。なおcompetitive PCRは、『shimizu et al.,nature genetics 1996』に記載の方法に準じて行なった。
その結果を表2に示す。
表2によればヒト大腸がん細胞株COLO 320DM、およびヒト大腸がん細胞株COLO 320HSRについて、c−mycがん遺伝子のコピー数に比例したmRNAの転写が検出された。なおコントロールとして、ヒト正常2倍体繊維芽細胞株WI−38を用いた。
以上の結果より、発がん過程で生じた遺伝子増幅領域からmRNAへの転写は、抑制されていないということがわかった。
上述の比較例1で示したIRとMARを持つプラスミド(pSFVdhfr)による反復配列と、発がん過程で生じた反復配列との相違点は、後者では反復している配列が長いこと(通常、100〜200kbp)、および反復配列が組み替え等により複雑になっていることである。したがって、比較例1および参考例1の結果から、IRとMARを持つプラスミドによって生ずる反復配列からmRNAの転写量を高めるためには、反復単位を長くし、反復構造を複雑化すれば良いということが示唆された。
〔実施例1〕λ−ファージDNAおよび目的遺伝子を宿主細胞に導入した場合の効果
ヒトDHFR(dihydrofolate reductase)遺伝子座由来IRおよびMARを有し、恒常的プロモーター(CAプロモーター)の制御下に、GFP(Green Fluorescence Protein)遺伝子とGAP(G−associated polypeptide)遺伝子の融合タンパク質を発現するプラスミド(pSFVdhfr(GAP−GFP))とλ−ファージDNAとを重量比1:2で混合し、これをヒト大腸がん細胞COLO 320DM細胞にリポフェクション法で導入した。遺伝子導入2日後から、プラスミド上のブラスティサイジン耐性遺伝子に対応する5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で選択し、3〜4週間後に多数のコロニーからなる形質転換細胞を得た。
図1にGFPの蛍光強度をセルソーターで解析した結果を示す。図1(a)はコントロールとしてλ−ファージDNAを混合せずにpSFVdhfr(GAP−GFP)のみを細胞に導入した場合の結果を示し、図1(b)はpSFVdhfr(GAP−GFP)、およびλ−ファージDNAを混合して細胞に導入した場合(コトランスフェクション)の結果を示す。同図中の括弧内に蛍光強度の平均値を示した。
コントロールの蛍光強度が65.51であったのに対して、pSFVdhfr(GAP−GFP)およびλ−ファージDNAを混合して細胞に導入した場合(コトランスフェクション)の蛍光強度が85.27であった。したがってコトランスフェクションすることにより、目的タンパク質であるGFPが明らかに高発現しているということがわかった。換言すれば、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、λ−ファージDNAとが共増幅することによって、反復配列に起因するタンパク質の発現抑制を解除することができるということがわかった。
〔実施例2〕インシュレーター配列および目的遺伝子を宿主細胞に導入した場合の効果
(方法)
ヒトDHFR遺伝子座由来のIRおよびMAR、並びにブラスティサイジン(Blasticidine)抵抗性遺伝子を持ち、かつ、TRE−promoter(テトラサイクリン誘導プロモーター)の支配下にd2EGFP遺伝子を持つプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)と、鳥類由来HS4インシュレーター配列(『Recillas−Targa,F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,vol.99,p6883−6888,(2002)』参照)を持つプラスミドDNAとを混合して、ヒト大腸がん細胞COLO 320DM細胞にリポフェクション法で導入した。なお鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAは、上記Recillas−Targa,F.らの論文に記載された1.2kbpの5’HS4インシュレーター配列を持つプラスミドを用いた。遺伝子導入2日後から、プラスミド上のブラスティサイジン耐性遺伝子に対応する5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で選択し、3〜4週間後に多数のコロニーからなる形質転換細胞を得た。
遺伝子導入2日後から、プラスミド上のブラスティサイジン耐性遺伝子に対応する5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で選択し、3〜4週間後に多数のコロニーからなる形質転換細胞を得た。その後、植え継ぎ(3〜6日毎)のたび段階的に培地中のブラスティサイジンの濃度を倍増させて形質転換細胞の選択を行なった(最終濃度320μg/ml)。
(結果)
図2にGFPの蛍光強度をセルソーターで解析した結果を示す。
図2(a)はコントロールとしてpSFVdhfr/d2EGFPのみを細胞に導入した場合の結果を示し、図2(b)はpSFVdhfr/d2EGFPのみを細胞に導入し、80μg/mlのブラスティサイジンで選択をさらに行なった場合の結果を示し、図2(c)はpSFVdhfr/d2EGFPと、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAとを混合して細胞に導入した結果を示し、図2(d)はpSFVdhfr/d2EGFPと、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAとを混合して細胞に導入し、80μg/mlのブラスティサイジンで選択をさらに行なった場合の結果を示す。同図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。
なお当該方法による蛍光強度の検出限界は1であり、それ以下の蛍光強度は全て1として検出されてしまう。かかる事情に鑑みて、図2(a)〜(d)の結果をより詳細に検討すべく、それぞれの試験区について、全生細胞(1万個)中の蛍光強度が2以上の細胞の割合(cell %)と、蛍光強度が2以上の細胞の蛍光強度の平均値との積を求め、その値(以下「積算蛍光強度」という。以下に示す他の実施例においても同じ。)を同図中に四角囲み文字で示した。
図2(a)に示すコントロールの平均蛍光強度が2.73であり、積算蛍光強度が61.5であるのに対し、図2(c)に示すpSFVdhfr/d2EGFPと、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAとを混合して細胞に導入した場合の平均蛍光強度が7.14であり、積算蛍光強度が312であった。よって、目的タンパク質をコードする遺伝子と鳥類由来HS4インシュレーター配列とをコトランスフェクションし、共増幅することにより、目的タンパク質であるd2EGFPが明らかに高発現しているということがわかった。
また、図2(a)に示すコントロールの平均蛍光強度が2.73であり、積算蛍光強度が61.5であったのに対して、図2(b)に示すpSFVdhfr/d2EGFPのみを細胞に導入し、80μg/mlのブラスティサイジンで選択をさらに行なった場合の平均蛍光強度が6.09であり、積算蛍光強度が542であった。一方、図2(c)に示すpSFVdhfr/d2EGFPと、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAとを混合して細胞に導入した場合の平均蛍光強度が7.14であり、積算蛍光強度が312であったのに対して、図2(d)に示すpSFVdhfr/d2EGFPと、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNAとを混合して細胞に導入し、80μg/mlのブラスティサイジンで選択をさらに行なった場合の平均蛍光強度が9.65であり、積算蛍光強度が941であった。
よって、遺伝子増幅が起こった細胞をブラスティサイジンの濃度を段階的に高めながら選択することによって、目的タンパク質の発現を高めることができるということがわかった。さらには、目的タンパク質をコードする遺伝子と鳥類由来HS4インシュレーター配列とをコトランスフェクションし、共増幅させた上で、さらにブラスティサイジンの濃度を段階的に高めながら細胞を選択することによって、目的タンパク質であるd2EGFPの発現がさらに高まるということがわかった。換言すれば、目的タンパク質の発現を高めるための手段を複数組み合わせることによって、さらなるタンパク質の高発現を行なうことができるということがわかった。
〔実施例3〕段階的に選択薬剤濃度を高めて形質転換細胞を選択する効果
(方法)
ヒトDHFR遺伝子座由来のIRおよびMAR、並びにブラスティサイジン(Blasticidine)抵抗性遺伝子を持ち、かつ、TRE−promoter(テトラサイクリン誘導プロモーター)の支配下にd2EGFP遺伝子を持つプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)を、ヒト大腸がん細胞COLO 320DM細胞にリポフェクション法で導入した。形質転換した細胞を、5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で選択し、形質転換した多数のクローンを取得した。当該クローンを混合後、培養を継続した。3〜5日間隔の植え継ぎのたびに、培地中のブラスティサイジン濃度を倍増させた(5μg/ml〜320μg/ml)。種々のブラスティサイジン濃度において選択された細胞のそれぞれについて、Doxycycline(クロンテック社製)を1μg/mlとなるように培地中へ添加することによりTRE−promoterを活性化し、d2EGFP(半減期が通常のEGFPに比べて遥かに短い)の発現を誘導した。
(結果)
細胞当たりのd2EGFP発現量を、セルソーターで解析した結果を図3に示す。
図3(a)は5μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった場合の結果を示し、図3(b)は10μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった場合の結果を示し、図3(c)は40μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった場合の結果を示し、図3(d)は160μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった場合の結果を示し、図3(e)は320μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった場合の結果を示した。同図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。また同図中、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。
図3(a)より5μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の平均蛍光強度は、2.94、積算蛍光強度は222であり、図3(b)より10μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の平均蛍光強度は3.77、積算蛍光強度は322であり、図3(c)より40μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の平均蛍光強度は6.67、積算蛍光強度は640であり、図3(d)より160μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の平均蛍光強度は9.47、積算蛍光強度は929であり、図3(e)より320μg/mlのブラスティサイジンで選択を行なった細胞の平均蛍光強度は18.55、積算蛍光強度は1850であった。
よって形質転換した細胞を選択する際に薬剤濃度を漸増させることによって、目的タンパク質の発現量を増加させることができるということがわかった。
〔実施例4〕目的タンパク質の発現を制御するプロモーターの転写活性化因子を高発現させる効果
(方法)
TRE−promoterの転写活性化因子(Tet−ONタンパク質)をコードするTet−ON遺伝子を有するpTet−ON plasmid(クロンテック社製)を、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞にリポフェクション法で導入し、安定な形質転換細胞をヒグロマイシンで選択した。このような細胞(以下「Tet−ON細胞」という)に、ヒトDHFR遺伝子座由来のIRおよびMAR、並びにブラスティサイジン(Blasticidine)抵抗性遺伝子を持ち、かつ、TRE−promoter(テトラサイクリン誘導プロモーター)の支配下にd2EGFP遺伝子を持つプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)と、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドとを混合し、リポフェクション法で導入し、ブラスティサイジンで安定な形質転換体を選択した。なお当該鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドは、実施例2に記載のものを用いた。
次に、このような細胞について、さらにpTet−ON plasmidを再度リポフェクション法で導入して2日後の一過性発現の時期に、d2EGFP発現量の検討を行なった。
一般に、当該安定な形質転換細胞はTet−ONタンパク質(rtTA)の発現レベルは低いのに対して、一過性発現の場合はその発現レベルが高い。したがって、安定な形質転換細胞のd2EGFPの発現量をTet−ONタンパク質通常発現の場合の結果とし、一過性発現の場合のd2EGFPの発現量をTet−ONタンパク質高発現の場合の結果として比較した。
(結果)
図4に各種細胞の位相差顕微鏡像、蛍光顕微鏡像を示す。また各細胞当たりのd2EGFP発現量を、セルソーターで解析した結果を図5に示す。
図4(a)はTet−ONタンパク質通常発現の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)であり、図4(b)はTet−ONタンパク質高発現の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)であり、図4(c)はTet−ONタンパク質通常発現についての蛍光顕微鏡像(×200)であり、図4(d)はTet−ONタンパク質高発現の細胞についての蛍光顕微鏡像(×200)である。
また図5(a),(b)は、複製起点も核マトリックス結合領域も持たない上記pSFV−VプラスミドにTRE−promoterに支配されたd2EGFP遺伝子を組み込むことによって構築したプラスミドを導入した細胞についてTet−ONタンパク質通常発現の場合(図5(a))、およびpSFV−VプラスミドにTRE−promoterに支配されたd2EGFP遺伝子を組み込むことによって構築したプラスミドを導入した細胞についてTet−ONタンパク質高発現の場合(図5(b))の蛍光強度をそれぞれ示し、図5(c),(d)は、鳥類由来HS4インシュレーター配列をpSFVdhfr/d2EGFPと同時増幅させた細胞についてTet−ONタンパク質通常発現の場合の結果(図5(c))、および鳥類由来HS4インシュレーター配列をpSFVdhfr/d2EGFPと同時増幅させた細胞についてTet−ONタンパク質高発現の場合(図5(d))の蛍光強度を示した。同図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。また同図中、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。
図4(a)〜(d)によれば、Tet−ONタンパク質が通常発現している安定な形質転換細胞の蛍光に対して、Tet−ONタンパク質が高発現している細胞の蛍光が明らかに増加していることがわかった(特に図4(c)、(d)参照)。
また図5(a)の平均蛍光強度が1.02、積算蛍光強度が0.787であるのに対して、図5(b)の平均蛍光強度が1.21、積算蛍光強度が18.1となっており、また図5(c)の平均蛍光強度が5.80、積算蛍光強度が532であるのに対して、図5(d)の平均蛍光強度が8.15、積算蛍光強度が766となっていることから、遺伝子増幅のコピー数によらず、Tet−ONタンパク質が高発現している場合に蛍光強度が増加する、すなわち目的タンパク質の発現量が増加するということがわかった。さらに鳥類由来HS4インシュレーター配列と同時増幅させ、かつTet−ONタンパク質が高発現している細胞の蛍光強度(図5(d))が最も高かった(平均蛍光強度:8.15、積算蛍光強度:766)ことから、目的タンパク質の発現を高めるための手段を複数組み合わせることによって、さらなるタンパク質の高発現を行なうことができるということがわかった。
〔実施例5〕増幅領域中の目的タンパク質をコードする遺伝子を、染色体外に切り出す効果
(方法)
pSFVdhfr/d2EGFPプラスミドのヒグロマイシン(Hygromycine)抵抗性遺伝子を除き、合成loxP配列(46bp)をブラスティサイジン(Blasticidine)抵抗性遺伝子の下流に組み込んだプラスミドを構築した。なお上記loxP配列(46bp)は、5’−GCGCGGCCGCATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATGCGGCCGCGC−3’(配列番号1)に記載の塩基配列を有するDNA断片を公知のDNA合成機により合成したものを用いた。なお上記loxP配列における両端(5’末端および3’末端)のGCGGCCGCは、クローニングのためのNotI認識配列である。
上記プラスミドをヒト大腸がん細胞COLO 320DM細胞にリポフェクション法で導入した。形質転換した細胞を、5μg/mlのブラスティサイジンで選択した。当該形質転換細胞を、Cre Recombinase遺伝子を持つプラスミド(Rolf Sprengel博士(Max−Planck−Institut,Germany)より受領した。『Shimshek,D.R.,J.Kim,M.R.Hubner,D.J.Spergel,F.Buchholz,E.Casanova,A.F.Stewart,P.H.Seeburg,and R.Sprengel.2002.Codon−improved Cre recombinase(iCre)expression in the mouse.Genesis.32:19−26.』参照)で形質転換し、一週間培養を行なった。
(結果)
図6に各種細胞の位相差顕微鏡像、蛍光顕微鏡像を示す。図6(a)はCre Recombinase遺伝子を導入する前の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)であり、図6(b)はCre Recombinase遺伝子を導入後の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)であり、図6(c)はCre Recombinase遺伝子を導入する前の細胞についての蛍光顕微鏡像(×200)であり、図6(d)はCre Recombinase遺伝子を導入後の細胞についての蛍光顕微鏡像(×200)である。
図6(a)〜(d)によれば、Cre Recombinase遺伝子を導入する前の細胞の蛍光に対して、Cre Recombinase遺伝子を導入後の細胞の蛍光が明らかに増加していた(特に図6(c)、(d)参照)。したがって、遺伝子増幅により反復配列を生じている遺伝子領域を染色体外へ切り出すことで、発現が抑制されていた目的タンパク質を発現させることができるということがわかった。
〔実施例6〕5−aza−2’−deoxycytidineで細胞を処理する効果
(方法)
ヒトDHFR遺伝子座由来のIRおよびMAR、並びにブラスティサイジン(Blasticidine)抵抗性遺伝子を持ち、かつ、TRE−promoter(テトラサイクリン誘導プロモーター)の支配下にd2EGFP遺伝子を持つプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)と、鳥類由来HS4インシュレーター配列を持つプラスミドDNA(実施例2に記載のものと同様)とを混合して、ヒト大腸がん細胞COLO 320DM細胞にリポフェクション法で導入した。遺伝子導入2日後から、プラスミド上のブラスティサイジン耐性遺伝子に対応する5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で選択し、3〜4週間後に多数のコロニーからなる形質転換細胞を得た。
当該形質転換細胞の培養液中に、1μMまたは3μMの5−aza−2’deoxycytidine(適宜「5−aza」という。Sigma社製)を添加して3日間処理を行なった。また比較として、反復配列からの遺伝子発現を高める物質として公知のTrichostatin A(適宜「TSA」という;ヒストン脱アセチル化阻害剤、Sigma社製)を形質転換細胞の培養液中に20nM添加した場合についても検討した。
(結果)
図7に各種細胞の位相差顕微鏡像、蛍光顕微鏡像を示す。また各細胞当たりのd2EGFP発現量を、セルソーターで解析した結果を図8に示す。
図7(a)は5−aza処理前の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)であり、図7(b)は1μMの5−aza処理後の細胞についての位相差顕微鏡像(×200)であり、図7(c)は5−aza処理前の細胞についての蛍光顕微鏡像(×200)であり、図7(d)は1μMの5−aza処理後の細胞についての蛍光顕微鏡像(×200)である。
また図8(a)は5−aza処理前の細胞の蛍光強度を示し、図8(b)は20nMのTSA処理後の細胞の蛍光強度を示し、図8(c)は1μMの5−azaで処理した細胞の蛍光強度を示し、図8(d)は1μMの5−azaおよび20nMのTSAで処理した細胞の蛍光強度を示し、図8(e)は3μMの5−azaで処理した細胞の蛍光強度を示し、図8(f)は3μMの5−azaおよび20nMのTSAで処理した細胞の蛍光強度を示した。同図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。また同図中、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。
図7(a)〜(d)によれば、5−aza処理前の細胞の蛍光に対して、5−aza処理後の細胞の蛍光が明らかに増加していることがわかった(特に図7(c)および(d)参照)。
また図8(a)に示す5−aza処理前の細胞の平均蛍光強度が4.29、積算蛍光強度364であるのに対して、図8(c)に示す1μMの5−azaで処理した細胞の平均蛍光強度が9.48、積算蛍光強度が895であった。したがって5−azaによる処理によって明らかに目的タンパク質であるd2EGFPが高発現するということがわかった。また図8(e)に示すとおり、3μMの5−azaで処理した細胞の平均蛍光強度が10.93、積算蛍光強度1040と1μMの5−azaで処理した細胞の蛍光強度よりもさらに増加していることより、処理を行なう5−azaの濃度を増加することによって、目的タンパク質の発現をさらに増加させることができるということがわかった。
一方、図8(b)に示す20nMのTSA処理後の細胞の平均蛍光強度が3.02、積算蛍光強度228であり、処理前の細胞の平均蛍光強度が4.29、積算蛍光強度364(図8(a))であったことから、20nMのTSA処理によっては目的タンパク質を高発現させることができないということがわかった。また1μMの5−azaで処理した細胞の平均蛍光強度が9.48、積算蛍光強度895(図8(c))に対して、1μMの5−azaおよび20nMのTSAで処理した細胞の平均蛍光強度が9.40、積算蛍光強度878(図8(d))であり、3μMの5−azaで処理した細胞の平均蛍光強度が10.93、積算蛍光強度1040(図8(e))に対して、3μMの5−azaおよび20nMのTSAで処理した細胞の平均蛍光強度が11.09、積算蛍光強度1050(図8(f))であった。したがって、5−azaとTSAとを併用した場合であっても目的タンパク質の発現を増加させることができないということがわかった。
〔実施例7〕遺伝子増幅がDM上で起こっているクローンを選択する効果
(方法)
TRE−promoterの転写活性化因子(Tet−ONタンパク質)をコードするTet−ON遺伝子を有するpTet−ON plasmid(クロンテック社製)を、ヒト大腸がんCOLO 320DMにリポフェクション法で導入し、Tet−ONタンパク質を安定に発現する形質転換細胞(以下「Tet−ON細胞」という)をヒグロマイシンで選択した。
次にpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドを、上記Tet−ON細胞にリポフェクション法で導入し、5μg/mlブラスティサイジンで約3週間選択することにより、安定形質転換細胞の多クローン性集団を得た。
上記多クローン性集団について、Doxycycline(クロンテック社製)を1μg/mlとなるように培地中へ添加することによりTRE−promoterを活性化し、d2EGFPの発現を誘導した。この時のd2EGFP発現量を、セルソーターで解析した結果を図9に示した。同図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。また同図中、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。同図の結果より、上記多クローン性集団は確かにd2EGFPを発現する集団であるということを確認した(平均蛍光強度:6.25、積算蛍光強度:536)。
上記多クローン性集団から、限界希釈法により任意の30クローンを得た。限界希釈法は、30細胞/mlの低細胞濃度で6well plateに蒔き、10日〜2週間培養することによりコロニーを形成させることにより行なった。
次に各クローンについて、蛍光顕微鏡で観察してd2EGFP発現レベルの高い4クローン(クローン4、クローン5、クローン6、およびクローン9)を選択した。当該4クローンについて分裂期染色体標本を調製し、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列をFISH法により検出した。分裂期染色体標本の作製とFISH法は、『Shimizu,N.,Kanda,T.,and Wahl,G.M.Selective capture of acentricfragments by micronuclei provides a rapid method for purifying extrachromosomally amplified DNA.Nature Genet.,12:65−71,1996.』に記載の方法により行なった。
FISH法によりpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を検出した結果を図10に示す。図10(a)はクローン4の結果であり、図10(b)はクローン5の結果であり、図10(c)はクローン6の結果であり、図10(d)はクローン9の結果である。なお検出したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を、同図中矢印で示す。
図10の結果より、クローン4、クローン5、およびクローン6ではpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列がHSR上で増幅されていたのに対し、クローン9はDM上で増幅していたことがわかった。
次に上記4クローンにつき、Doxycycline(クロンテック社製;1μg/ml)による誘導を行なうとともに、5−aza(0μM、1μM、または3μM)を培地中に加えた。培養一週間後、各クローンのd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した。
その結果を図11、12、13、および14に示す。図11はクローン4の結果を示しており、同図(a)は5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)の結果を示し、同図(b)は5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示し、同図(c)は5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示す。
図12はクローン5の結果を示しており、同図(a)は5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)の結果を示し、同図(b)は5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示し、同図(c)は5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示す。
図13はクローン6の結果を示しており、同図(a)は5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)の結果を示し、同図(b)は5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示し、同図(c)は5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示す。
図14はクローン9の結果を示しており、同図(a)は5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)の結果を示し、同図(b)は5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示し、同図(c)は5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の結果を示す。
図11〜13中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。また同図中、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。
図11より、クローン4について、5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)のd2EGFPの発現レベルを示す平均蛍光強度は1.89、積算蛍光強度は90.0であり、5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は5.46、積算蛍光強度は453であり、5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は23.76、積算蛍光強度は2300であった。
図12より、クローン5について、5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)のd2EGFPの発現レベルを示す平均蛍光強度は1.02、積算蛍光強度は1.11であり、5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は2.23、積算蛍光強度は126であり、5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は10.44、積算蛍光強度は962であった。
図13より、クローン6について、5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)のd2EGFPの発現レベルを示す平均蛍光強度は1.16、積算蛍光強度は8.84であり、5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は2.09、積算蛍光強度は111であり、5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は10.87、積算蛍光強度は1000であった。
図14より、クローン9について、5−azaを培地中に加えなかった場合(0μM)のd2EGFPの発現レベルを示す平均蛍光強度は41.46、積算蛍光強度は4130であり、5−azaを1μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は131.86、積算蛍光強度は13200であり、5−azaを3μMとなるように培地中に加えた場合の平均蛍光強度は248.60、積算蛍光強度は24900であった。
図11〜14の結果から、pSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列がHSR上で増幅しているクローン(クローン4、クローン5、クローン6)では、d2EGFPの発現レベルは極めて低いが、5−azaを培地中に加えることにより向上するということが示された。一方、pSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列がDM上で増幅しているクローン(クローン9)では、5−azaを培地中に加えなくともd2EGFPの高い発現レベル(平均蛍光強度:41.46、積算蛍光強度:4130)であり、さらに5−azaを培地中に加えることによりそれが飛躍的に高まることがわかった(平均蛍光強度:131.86または248.60、積算蛍光強度:13200または24900)。
したがって、遺伝子増幅がDM上で起こっているクローンを選択することによって、目的タンパク質を高発現させることができるということがわかった。
〔実施例8〕コトランスフェクションによって、目的タンパク質の発現を制御するプロモーターの転写活性化因子を高発現させる効果
(方法および結果)
ヒトDHFR遺伝子座由来のIRおよびMAR、並びにBlasticidine抵抗性遺伝子を持ち、かつ、TRE−promoter(テトラサイクリン誘導プロモーター)の支配下にd2EGFP遺伝子を持つプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)とTRE−promoterの転写活性化因子(Tet−ONタンパク質)をコードするTet−ON遺伝子を有するpTet−ON plasmid(クロンテック社製)とを等量混合し、同時にリポフェクション法によりヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入した。5μg/mlブラスティサイジンで選択することにより、形質転換細胞の多クローン性集団を得た。当該多クローン性集団の細胞養液に、Doxycycline(クロンテック社製)を1μg/mlとなるように培地中へ添加することによりTRE−promoterを活性化し、d2EGFPの発現を誘導した。
上記多クローン性集団について、Doxycycline添加前の位相差顕微鏡像(×200)を図15(a)に示し、蛍光顕微鏡像(×200)を図15(b)に示した。また、同多クローン性集団について、Doxycycline添加後の位相差顕微鏡像(×200)を図15(c)に示し、蛍光顕微鏡像(×200)を図15(d)に示した。
図15(a)〜(d)によれば、Doxycycline添加前には微弱な発現しか見られなかったd2EGFPの蛍光に対し、Doxycycline添加によりd2EGFPの蛍光が強く見られるようになった。よってpSFVdhfr/d2EGFPとpTet−ON plasmidとを同時に導入した形質転換細胞の多クローン性集団に関し、Doxycycline(クロンテック社製)を培地中へ添加することによりTRE−promoterを活性化し、d2EGFPの発現を誘導することができるということを確認した。
次に、Doxycycline添加によるd2EGFPの発現誘導を行なった後の、d2EGFPの発現量の経時変化をセルソーターにて解析を行なった。その結果を図16に示す。図16(a)はDoxycycline添加前の結果であり、図16(b)はDoxycycline添加1時間後の結果であり、図16(c)はDoxycycline添加3時間後の結果であり、図16(d)はDoxycycline添加6時間後の結果であり、図16(e)はDoxycycline添加15時間後の結果であり、図16(f)はDoxycycline添加24時間後(1日後)の結果であり、図16(g)はDoxycycline添加48時間後(2日後)の結果であり、図16(h)はDoxycycline添加120時間後(5日後)の結果であり、図16(i)はDoxycycline添加2週間後の結果である。同各図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。また同図中、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。
さらに、d2EGFP発現量の平均値(すなわち平均蛍光強度:図中黒丸のシンボルで示す)および生細胞率(全細胞数に対する生細胞の割合:図中白丸のシンボルで示す)を時間に対してプロットしたグラフを図17に示す。図17によれば、上記で取得した多クローン性集団ではDoxycyclineを添加前にはd2EGFPの発現量は極めて低いが、Doxycycline添加後1〜2日後に発現量はピークに達し、その発現量は2週間(同図中「2wk」で表記)を経過しても高いレベルにあった。また同多クローン性集団はDoxycyclineによるd2EGFPの発現誘導により、細胞の生存率が低下することはなく、高いレベルでd2EGFPを発現しながら正常に増殖を続けていた。
なお陰性対照として、複製起点も核マトリックス結合領域も持たない上記pSFV−VプラスミドにTRE−promoterに支配されたd2EGFP遺伝子を組み込むことによって構築したプラスミドを、Tet−ON細胞に導入して取得した形質転換細胞の多クローン性集団について、上記と同様にDoxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行ない、セルソーターによりd2EGFPの発現を解析した結果を図16(j)に示した。図16(j)によれば、陰性対照のd2EGFP発現レベルを示す平均蛍光強度は1.02、積算蛍光強度は0.787であった。
これに対して、Doxycycline添加1時間後の平均蛍光強度は2.99、積算蛍光強度は216であり(図16(b))、Doxycycline添加3時間後の平均蛍光強度は3.72、積算蛍光強度は293であり(図16(c))、Doxycycline添加6時間後の平均蛍光強度は4.22、積算蛍光強度は341であり(図16(d))、Doxycycline添加15時間後の平均蛍光強度は9.24、積算蛍光強度は841であり(図16(e))、Doxycycline添加24時間後の平均蛍光強度は28.77、積算蛍光強度は2800であり(図16(f))、Doxycycline添加48時間後(2日後)の平均蛍光強度は53.97、積算蛍光強度は5320であり(図16(g))、Doxycycline添加120時間後(5日後)の平均蛍光強度は39.56、積算蛍光強度は3880であり(図16(h))、Doxycycline添加2週間後の平均蛍光強度は35.32、積算蛍光強度は3500であった(図16(i))。
この結果から、本実施例にかかる方法を用いて得られた多クローン性集団の発現誘導後の発現レベルは極めて高く、それは積算蛍光強度の比較において、陰性対照の場合の約300倍から約7000倍に達していることがわかった。
さらに本実施例にかかる方法を用いて得られた多クローン性集団から、任意に選抜した5つのクローンについて、発現誘導前後のd2EGFP発現量をセルソーターにて解析を行なった。その結果の代表例(3つのクローン)を図18に示す。図18(a)および(b)はクローンAについての結果であり、(a)は発現誘導前の結果を示し、(b)は発現誘導後の結果を示している。図18(c)および(d)はクローンBについての結果であり、(c)は発現誘導前の結果を示し、(d)は発現誘導後の結果を示している。図18(e)および(f)はクローンCについての結果であり、(e)は発現誘導前の結果を示し、(f)は発現誘導後の結果を示している。同各図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示した。また同図中、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。
図18によれば、本実施例にかかる方法を用いて得られた多クローン性集団から、目的タンパク質(d2EGFP)の発現量が非常に高いクローンを簡便に得ることができるということがわかった。
さらに本実施例にかかる方法によれば、HSR上の増幅遺伝子からも目的タンパク質(d2EGFP)の高発現が期待できる。このことは以下の実験により確認するこができる。すなわち、複製起点配列と核マトリックス結合領域配列をともに持つプラスミドである上記pSFVdhfrと、LacO(lactose operator)−repeat配列とTRE−promoterの下流にMS2結合配列を持つプラスミドであるpECMS2Beta(Susan Janicki博士とDavid Spector博士(cold Spring Harbor Laboratory)より入手した。『Janicki,S.M.,T.Tsukamoto,S.E.Salghetti,W.P.Tansey,R.Sachidanandam,K.V.Prasanth,T.Ried,Y.Shav−Tal,E.Bertrand,R.H.Singer,and D.L.Spector.2004.From silencing to gene expression:real−time analysis in single cells.Cell.116:683−698.』参照)とを混合し、リポフェクション法により、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へコトランスフェクションを行なった。
この際に用いたヒト大腸がんCOLO 320DM細胞は、あらかじめLacR(lactose repressor)とCFP(cyan fluorescence protein)の融合タンパク蛋白質を発現するpLacR−CFPプラスミド(Susan Janicki博士とDavid Spector博士(cold Spring Harbor Laboratory)より入手した。『Janicki,S.M.,T.Tsukamoto,S.E.Salghetti,W.P.Tansey,R.Sachidanandam,K.V.Prasanth,T.Ried,Y.Shav−Tal,E.Bertrand,R.H.Singer,and D.L.Spector.2004.From silencing to gene expression:real−time analysis in single cells.Cell.116:683−698.』参照)をリポフェクション法で導入し、ネオマイシン(Neomycine)耐性となったクローン化細胞を用いた。
その結果、上記両プラスミドが同時増幅してHSRを形成したクローンを取得した。当該クローンではHSR中のLacO配列にLacR−CFPが結合するために、HSRがシアン色の蛍光を呈している。
さらに、pTet−ON plasmid(クロンテック社製)、およびMS2とYFP(yellow fluorescecnce protein)との融合タンパク質を発現するためのプラスミド(Susan Janicki博士とDavid Spector博士(cold Spring Harbor Laboratory)より入手した。『Janicki,S.M.,T.Tsukamoto,S.E.Salghetti,W.P.Tansey,R.Sachidanandam,K.V.Prasanth,T.Ried,Y.Shav−Tal,E.Bertrand,R.H.Singer,and D.L.Spector.2004.From silencing to geneexpression:real−time analysis in single cells.Cell.116:683−698.』参照)を、上記クローンへエレクトロポレーション法により同時に導入し、2.5時間後にDoxycycline(クロンテック社製)を1μg/mlとなるように培地中へ添加した。この時、発現したTet−ONタンパク質とDoxycyclineとがHSR中のTRE−promoterを活性化し、MS2とYFP(yellow fluorescecnce protein)との融合タンパク質をコードするRNAが転写される。かかるRNAにはMS2結合配列があるため、MS2とYFPとの融合蛋白質が結合して黄色の蛍光を呈する。
この結果を示す代表的な写真を図19に示す。同図中A、BおよびCはDoxycyclineによる発現誘導前のクローンの蛍光顕微鏡像であり(「−Dox」を図左端に付した)、DおよびEはDoxycyclineによる発現誘導1.5時間後のクローンの蛍光顕微鏡像である(「+Dox 1.5hr」を図左端に付した)。また同図の上部に「LaminB」を付したものは抗Lamin B抗体(Santa Cruz Biotechnologies社製)を用いた間接蛍光抗体法で核膜ラミナを可視化したものであり、「CFP−HSR」を付したものはHSRをCFP(cyan fluorescence protein)で可視化したものであり、「YFP−MS2 RNA」を付したものはRNAをYFP(yellow fluorescecnce protein)により可視化したものであり、「Merge」を付したものは上記3つの像を重ね合わせたものである。
CFP(cyan fluorescence protein)のシアン色で可視化されたHSR(同図中、矢印で示す)はヘテロクロマチン化しているために、Doxycyclineによる発現誘導前には小さな凝縮した球状の構造で核内に存在していた。Doxycyclineによる発現誘導を行なうと、シアン色のHSRが大きくゆるみ、そこから黄色蛍光で可視化されたRNAが出てくる様子がはっきりと示された(同図中、丸で囲む)。
上記結果から、Tet−ONタンパク質とDoxycyclineによるTRE−promoterの活性化は、IRとMARを持つプラスミドにより形成され、ヘテロクロマチン化していたHSRをほどき、RNAの転写を活性化できることがわかった。
〔実施例9〕コトランスフェクションによって目的タンパク質の発現を制御するプロモーターの転写活性化因子を高発現させ、5−aza−2’−deoxycytidineで細胞を処理する効果
(方法および結果)
ヒトDHFR遺伝子座由来のIRおよびMAR、並びにBlasticidine抵抗性遺伝子を持ち、かつ、TRE−promoter(テトラサイクリン誘導プロモーター)の支配下にd2EGFP遺伝子を持つプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)とTRE−promoterの転写活性化因子(Tet−ONタンパク質)をコードするTet−ON遺伝子を有するpTet−ON plasmid(クロンテック社製)とを等量混合し、同時にリポフェクション法によりヒト大腸がんCOLO 320DM細胞へ導入した。5μg/mlブラスティサイジンで選択することにより、形質転換細胞の多クローン性集団を得た。上記多クローン性集団から、限界希釈法により任意の10クローンを選抜し、さらに上記10クローンからpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列がHSR上で増幅されているクローン(便宜上、「HSRクローン」という)、および同塩基配列がDM上で増幅しているクローン(便宜上、「DMクローン」という)を選抜した。図20(a)および図20(b)は、HSRクローンおよびDMクローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列をFISH法により検出した結果をそれぞれ示している。同図中、検出したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を、矢印で示す。なお、限界希釈法、並びにHSRクローンおよびDMクローンの選抜方法は、実施例7に記載の方法と同様にして行なった。
次に上記2クローンの各培養液中に、3μMの5−azaを添加して3日間処理を行なったのち、Doxycycline(クロンテック社製;1μg/ml)を培養液に添加して2日間、d2EGFPの発現誘導を行なった。培養後、各クローンのd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した。また陰性対照として、複製起点も核マトリックス結合領域も持たないpSFV−VプラスミドをpSFVdhfr/d2EGFPの代わりに用い、上記と同様にして形質転換細胞の多クローン性集団を取得した。上記形質転換細胞の多クローン性集団について、上記と同様にDoxycyclineによるd2EGFPの発現誘導を行ない、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した。その結果を図21(a)〜(c)に示す。図21(a)はHSRクローンについてDoxycycline添加2日後の蛍光強度を測定した結果であり、図21(b)はDMクローン(5−aza処理無し)についてDoxycycline添加2日後の蛍光強度を測定した結果であり、図21(c)はDMクローン(5−aza処理有り)についてDoxycycline添加2日後の蛍光強度を測定した結果である。同各図中の括弧内に蛍光強度の平均値(平均蛍光強度)を示し、四角囲み文字で積算蛍光強度を示した。また図21(d)は、陰性対照、HSRクローン、およびDMクローン(5−aza処理有りの場合と無しの場合)について、Doxycycline添加2日後の積算蛍光強度を示す棒グラフである。
図21(d)によれば、陰性対照(同図中「N」で示す)の積算蛍光強度が1826であったのに対して、HSRクローン(同図中「HSR」で示す)の積算蛍光強度が22119であり、DMクローン(5−aza処理無し:同図中「DM(−)」で示す)の積算蛍光強度が75099であり、DMクローン(5−aza処理有り:図中「DM(+)」で示す)の積算蛍光強度が238113であった。よって、HSRクローンおよびDMクローンは、陰性対照のクローンに比してd2EGFP発現レベルが顕著に高く、DMクローンの方がHSRクローンに比してさらに高いということが分かった。また5−aza処理によって、d2EGFP発現レベルがさらに向上するということが分かった。
〔実施例10〕CHO細胞における本発明の効果
(方法および結果)
プラスミドが導入される細胞がCHO−K1細胞(入手先:東北大学加齢医学研究所・医用細胞資源センターより入手)である以外は、実施例9と同様にした。
その結果、CHO細胞においても、pSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列がHSR上で増幅されているクローン(便宜上、「HSRクローン」という)、および同塩基配列がDM上で増幅しているクローン(便宜上、「DMクローン」という)を単離することができた。このことは、本発明がCOLO 320DM細胞等の腫瘍細胞以外においても適用可能であることを示している。単離したCHO細胞のHSRクローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列をFISH法により検出した結果を図22(a)に示し、CHO細胞のDMクローンの結果を図22(b)に示した。なお検出したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を、同図中矢印で示す。
セルソーターによるd2EGFPの発現量が最も高かったクローン(便宜上「最高クローン」という)について、Doxycycline添加2日後の蛍光強度を測定した結果を図23(a)に示す。また図23(b)に、陰性対照における形質転換細胞の多クローン性集団、本実施例における形質転換細胞の多クローン性集団、および最高クローンについて、Doxycycline添加2日後の積算蛍光強度の結果を示した。
図23(b)によれば、陰性対照における形質転換細胞の多クローン性集団(同図中「NP」で示す)の積算蛍光強度が296であったのに対して、本実施例における形質転換細胞の多クローン性集団(同図中「P」で示す)の積算蛍光強度が14022であり、最高クローン(同図中「M」で示す)の積算蛍光強度が167865であった。よって、本実施例における形質転換細胞の多クローン性集団および最高クローンは、陰性対照における形質転換細胞の多クローン性集団に比してd2EGFP発現レベルが顕著に高いということが分かった。特に、多クローン性集団から単離した最高クローンのd2EGFP発現レベルは、陰性対照の場合に比してさらに顕著に高かった。
最高クローンについて、導入したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミドの塩基配列を、FISH法により検出した結果を図23(c)に示した。なお検出したpSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列を、同図中矢印で示す。図23(c)によれば、上記最高クローンは、pSFVdhfr/d2EGFPプラスミド由来の塩基配列がHSR(比較的短い形状のHSR)上で増幅されているクローンであるということがわかった。
上記説示したように本発明にかかる方法およびキットによれば、遺伝子の反復配列に起因する転写抑制を解除する方法および手段を提供し、遺伝子増幅により有用タンパク質を大量に生産することができる。よって本発明は、タンパク質の生産を行なう産業、例えば医薬品、化学、食品、化粧品、繊維等の産業に利用が可能である。