JP5095977B2 - 聴診用衣服 - Google Patents

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本発明は、着衣のまま聴診器を用いた診断が可能な聴診用衣服に関する。
医師等の医療に従事する者が聴診器を用いて診察する場合には、被検者は脱衣して、聴診器のヘッド部を被検者の皮膚に押し当てて聴診するのが通常である。着衣のまま聴診器を用いた診療が可能となるような聴診器の改良としては例えば特許文献1が提案されている。また診察の際に、聴診器のヘッド部が直接皮膚に触れないような試みとして、聴診器のヘッド部に着脱可能に装着される被覆シートが提案されている(例えば特許文献2)。
特開平6−181921号公報 特開2004−329245号公報
本発明の目的は、着衣のまま聴診器を用いた正確な聴診が可能となる聴診用衣服を提供することである。
本発明者らは特有の物性を有する織編物を用いれば該織編物の上から聴診器を用いた診断が可能となることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向各々のKES法による表面粗さの平均偏差が織編物の両面において0〜2.0μmである、布帛を通して聴診可能な聴診用衣服である。さらには編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向各々のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)が織編物の両面において0〜0.01であることが好ましい。
本発明の聴診用衣服により、着衣のまま聴診器を用いた正確な聴診が可能となり、なかでも高齢者や女性における診療や健康診断時の脱衣に伴う精神的、あるいは肉体的な負担が低減され、クオリティ オブ ライフの向上が提供できる。また聴診における診察時間の短縮化、聴診器のヘッド部と多人数の皮膚とが接触する際の衛生上の問題や金属製のヘッド部の肌への低温感の問題等も解決できる。
以下本発明について詳述する。
本発明の聴診用衣服は、編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向各々ののKES法による表面粗さの平均偏差が織編物の両面において0〜2.0μmであることを特徴とする。表面粗さの平均偏差(SMD)は、カトーテック(株)のKES−FB4−AUTO−Aを用いて求めることができる。具体的には、20℃/65%RHの環境下で、20cmの試料幅に対して100gf/cmの張力をかけた織編物に、0.5mmΦのピアノ線を5mm幅に1本折り曲げた接触子をバネの接触圧により5gfの力で接触子を接触させ、圧着させた摩擦子を1mm/secの一定の速度で水平に2cm移動させた時の表面粗さの平均偏差である。各々の表面粗さの平均偏差が本発明の範囲を満たすと聴診時の織編物と被検者の皮膚間、および織編物と聴診器ヘッド部間の摩擦、なかでもステックスリップを低減でき、着衣のまま聴診器を用いたノイズの少ない正確な聴診が可能となる。表面粗さの平均偏差が2.0μmを超えると、聴診時のノイズが過大になり正しい聴診が困難となる。表面粗さの平均偏差の好ましい範囲は1.5μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下である。
また本明細書において編物のウェル方向とは織物のループの縦方向の並びをいい、編物のコース方向とは織物のループの横方向の連なりをいい、織物のタテ方向とは織物の長さ方向であり、ヨコ方向とは織物の幅方向である。
さらに編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向各々のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)が織編物の両面において0〜0.01であることが好ましい。摩擦係数の平均偏差は、カトーテック(株)KES−FB4−AUTO−Aを用いて求めることができる。具体的には、20℃/65%RHの環境下で、100gf/cmの張力をかけた織編物に、0.5mmΦのピアノ線を10本並べ5×5mmに面上に巻いた接触子を50gfの力で接触面を織編物に圧着させ、0.1cm/秒の一定の速度で水平に2cm移動させた時の摩擦係数の平均偏差である。
摩擦係数の平均偏差が所望の範囲であると聴診時の織編物と被検者の皮膚間、および織編物と聴診器ヘッド部間の摩擦、なかでもステックスリップ現象を低減でき、着衣のまま聴診器を用いたノイズの少ない正確な聴診が提供できる。摩擦係数の平均偏差が0.01を超えると、聴診時のノイズが大になり正しい聴診が困難となることがある。摩擦係数の平均偏差の好ましい範囲は0.008以下である。
上述のような所望のSMD値、より好ましくは所望のMMD値を満たす織編物としては、表面構造が緻密であるものが好ましい。例えば繊維または繊維束が交錯してできる隙間が少ないものが好ましく選択される。表面構造が緻密であるものが好ましい理由は、表面構造が疎であると衣服と肌との摩擦音や聴診器のヘッドと衣服との摩擦音が衣服素材の繊維間空隙にて共鳴し、増幅されるためと考えられる。
このような織編物は特定の織・編み密度、繊維径、密度等を選択することにより提供できる。7g/cmの編物用の低圧力で厚みを計測した場合、0.32以上であることが好ましい。また240g/cmの織物用の高圧力で計測した場合では、編密度は0.4以上であることが好ましく、更に好ましくは0.45以上である。
本発明の聴診用衣服に用いられる織編物の計測加重7g/cmにおける厚みが、0.3〜0.6mmであることが好ましい。厚みが0.6mmより厚くなると生体音の減衰が大きくなり正しく聴診できないことがある。
本発明の聴診用衣服に用いられる織編物の計測加重7g/cmにおける密度は0.3〜1g/cmであることが好ましい。密度を0.3〜1g/cmとすることでSMD値やMMD値を所望の値とすることができ、好ましい。密度が0.3/cmより小さい場合は、衣服と肌との摩擦音や聴診器のヘッドと衣服との摩擦音が衣服素材の繊維間空隙にて共鳴し、増幅されるためと考えられる。
本発明の聴診用衣服に用いられる織編物の含気率は、7g/cmの編物用の低圧力で厚みを計測した場合で75%以下であることが好ましい。また、240g/cmの織物用の高圧力で計測した場合では、65%以下であることが好ましい。含気率が低圧力での計測時では75%を超えると聴診時のノイズが大になることがある。また高圧力時での計測時では65%を超えると聴診時のノイズが大になることがある。
具体的な織編物の例としては高密度の織編物、極細繊維束糸から構成される織編物、または表面加工された織編物が好ましく挙げられる。
表面加工方法としては求められる物性が提供できる方法であればとくに限定されないが、従来公知の加工法として例えばカレンダー加工やシリコン等をコーティングする方法などが挙げられる。なかでも所望のSMD値、より好ましくは所望のMMD値を満たす織編物を得るために、織編物の両面を起毛させることが好ましい。起毛させることで、表面構造を均一化でき、表面粗さの平均偏差や摩擦係数の平均偏差を所望の値とすることができる。具体的な起毛方法としてはバフ起毛と針布起毛による方法が挙げられるが、より微細な起毛処理が可能なことからバフ起毛が好ましい。
本発明の聴診用衣服に用いられる織編物は上記のような特定の物性を持つものであれば適宜選択できるが、具体的には極細繊維束糸から構成されることが好ましい。極細繊維束糸としては平均繊度は0.1〜1.1デシテックスであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.6デシテックスである。極細繊維の紡糸方法としては従来公知の方法が適用でき、所望のSMD値やMMD値が提供できるものであればとくに制限されない。また極細繊維からなる織編物において上述のように起毛させることが、所望のSMD値、MMD値を満たす織編物が好適に提供でき、好ましい。
本発明の聴診用衣服に用いられる織編物のうち、伸縮性があり、ステックスリップ減少を低減できることから編物がとくに好ましい。また入院患者が使用する場合、長時間着用可能な織編物であることが好ましい。
本発明の聴診用衣服に用いられる織編物の素材としては、求められる表面粗さの平均偏差を有する織編物を提供ができれば特に限定されず、合成繊維、天然繊維、および再生繊維から選択できる。具体的にはポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、綿、絹、麻等の天然繊維、またこれらの組み合わせなどが挙げられる。また織編物を構成する繊維は長繊維であっても短繊維であっても構わない。
本発明の聴診用衣服の形状としては、例えばTシャツ、ジャケット、ポンチョ、エプロン、ケープ等が挙げられるが、特に制限はない。より正確な聴診のためには肌に密着できるような形状が好ましい。
以下の実施例により本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(用いた織編物)
実施例1(高密度)スムース マイクロファイバ− 起毛有 (バフ加工)
実施例2(高密度)スムース マイクロファイバ− 起毛無
実施例3(高密度)平織り マイクロファイバ− 起毛無
実施例4(高密度)スムース 多孔性吸水ポリエステル(制電加工)
比較例1 スムース 制電性ポリエステル
比較例2 Wトリコット フルダルポリエステル
比較例3 綿100%の男性肌着(グンゼ(株)製)
比較例4 天竺 男性Tシャツ (富士防(株)登録商標 BVD)
比較例5 綿100%の女性肌着(グンゼ(株)製)
(織編物の表面粗さの平均偏差/SMD)
20cm幅の試験片について、カトーテック(株)KES−FB4−AUTO−Aを用い20℃/65%RHの環境下で100gf/cmの張力をかけ試験片を取り付け、接触子(0.5mmΦのピアノ線を5mm幅に1本折り曲げたもの)に5gfで試料に圧着させ1mm/secの一定速度で水平に移動させ、編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向を測定した。
(摩擦係数平均偏差/MMD)
20cm幅の試験片について、カトーテック(株)KES−FB4−AUTO−Aを用い20℃/65%RHの環境下で100gの張力をかけ試験片を取り付け、接触子(0.5mmΦのピアノ線を5×5mmに10本面上に巻いたもの)に50gfで試料に圧着させ、1mm/secの一定速度で水平に移動させ編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向を測定した。
(厚みの測定)
織物用の高圧力測定はJIS L1096法により、計測加重23.5kPa(240g/cm)にて計測し、編物用の低圧力測定はJIS L1018法により、計測加重0.7kPa(7g/cm)における厚みを計測した。
(密度の測定)
織編物の密度:D [g/cm]は、上述の厚み:T [mm]、および目付け [g/m]:Wより、
D=W/(1000T) で算出した。
(含気率の測定)
織編物の含気率:A [%]は、厚み:T [mm]、素材の比重:G [−]、目付け:W [g/m]より、
A=1−(W/1000GT) で算出した。
実施例1〜4、比較例1〜5の物性値を表1、2にまとめた。
(聴診)
被験者にそれぞれの織編物からなる聴診用衣服を着衣してもらい、医師による聴診を実施し評価した。呼吸音の聴診結果を◎(良好)、○(やや良好)、△(やや難)、×(難)として結果を表1、2にまとめた。
Figure 0005095977
Figure 0005095977
以上の結果より実施例の衣服は、布帛の上から正確な呼吸音の聴診が可能であることが確認できた。

Claims (7)

  1. 編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向各々のKES法による表面粗さの平均偏差が織編物の両面において0〜2.0μmである、布帛を通して聴診可能な聴診用衣服。
  2. 編物のウェル方向およびコース方向、または織物のタテ方向およびヨコ方向各々のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)が織編物の両面において0〜0.01である、請求項1記載の聴診用衣服。
  3. 織編物の両面が起毛している請求項1〜2のいずれかに記載の聴診可能な衣服。
  4. 織編物の計測加重7g/cmにおける厚みが0.3〜0.6mmである請求項1〜3のいずれかに記載の聴診用衣服。
  5. 織編物の計測加重7g/cmにおける密度が0.3〜1g/cmである請求項1〜4のいずれかに記載の聴診用衣服。
  6. 織編物が平均繊度0.1〜1.1デシテックスの極細繊維束糸から構成される請求項1〜5のいずれかに記載の聴診用衣服。
  7. 織編物が編物である請求項1〜6のいずれかに記載の聴診用衣服。
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