〔第1実施形態〕
以下、図1〜図8を用いて、本発明に係る車体フロア構造の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車体前方側を示しており、矢印UPは車体上方側を示しており、矢印INは車体幅方向内側を示している。
先ず、本実施形態に係る車体フロア構造10が適用された自動車車体Bの概略全体構成を説明し、次いで、本発明の要部である車体フロア構造10について詳細に説明することとする。
(車体の全体構成)
図3には、車体フロア構造10が適用された自動車車体(キャビン周り)Bの概略全体構成が車体前方斜め上方から見た斜視図にて示されている。この図に示される如く、自動車車体Bは、それぞれ車体前後方向を長手方向として配置された左右一対のロッカ12を備えている。左右のロッカ12には、車体フロアを構成するフロアパネル14の車体幅方向外端部が接合されている。主に車体前後方向及び車体幅方向に延在する車体フロアの車体幅方向中央部には、車体前後方向に延在すると共に車体上下方向の下向きに開口するフロアトンネル16が設けられており、左右のフロアパネル14の車体幅方向内端はフロアトンネル16の車体上下方向の下向き開口端部に接合されている。
また、各ロッカ12は、それぞれの前端12Aが、略車体上下方向に沿って延在するフロントピラー18の下端に連続している。図示は省略するが、左右のフロントピラー18は、図3に示すよりも車体上方に延出され、互いの間にフロントウインドシールドガラスを保持するようになっている。さらに、左右のフロントピラー18には、それぞれダッシュパネル20の車体幅方向の異なる端部が接合されている。
ダッシュパネル20は、車体幅方向及び車体上下方向に延在し、車室Cと車室Cよりも前方の空間Rf(例えばエンジンルーム)とを隔てている。このダッシュパネル20には、図示しない左右一対のフロントサイドメンバの後端部が接続されるようになっており、左右のフロントサイドメンバの前端間はフロントバンパを構成するバンパリインフォースメントによって架け渡されている。このダッシュパネル20の車体幅方向中央部には、フロアトンネル16の前端を前方空間Rfに開口させる切欠部20Aが形成されている。
一方、左右のロッカ12の後端12Bは、それぞれ略車体上下方向に沿って延在するセンタピラー22の下端に連続している。左右のロッカ12の後端12B、センタピラー22には、図示しないリヤサイドメンバが連続している。さらに、左右のセンタピラー22には、それぞれルームパーティションパネル24の車体幅方向の異なる端部が接合されている。
ルームパーティションパネル24は、車体幅方向及び車体上下方向に延在し、車室Cと車室Cよりも後方の空間Rrとを隔てている。ルームパーティションパネル24の車体幅方向中央部には、フロアトンネル16の後端を後方空間Rrに開口させる切欠部(図示省略)が形成されている。すなわち、フロアトンネル16は、車体フロアFの車体前後方向の全長に亘って延在し、車体前後方向の両端でも開口する構成とされている。
また、自動車車体Bは、車体幅方向を長手方向として配置され、フロアパネル14の上側でロッカ12とフロアトンネル16と連結する左右一対のクロスメンバ26を備えている。この実施形態では、クロスメンバ26は、フロアパネル14の車体上下方向の上面側に接合され、ロッカ12とフロアトンネル16との車体前後方向の前端部間を連結している。
以上説明した自動車車体Bは、その主要構成要素であるロッカ12、フロアパネル14、フロアトンネル16、フロントピラー18、ダッシュパネル20、センタピラー22、ルームパーティションパネル24、クロスメンバ26の主要部がそれぞれ炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRPという)にて構成されている。
(車体フロア構造の詳細構成;フロアパネルの周辺構造)
以下、車体フロア構造10の中核を成すフロアパネル14の構造について詳細に説明する。最初に、フロアパネル14の周辺構造について説明し、その後フロアパネル14の要部について詳細に説明することにする。
図2は、図1に示される自動車車体Bを車両幅方向に沿って切断した状態を車体前方側から見て示す縦断面図である。この図2に示されるように、フロアパネル14は、車体前後方向に沿って延在するロッカ12とフロアトンネル16とを車体幅方向に連結している。後述するように、フロアパネル14はフロア上面層100とフロア下面層102と両者の間に介在されるフロア中間層104とによって構成されており、その車体幅方向の外端14Aはロッカ12の下端部に例えば接着やリベット等により接合されている。また、フロアパネル14の車体幅方向の内端104Bは、フロアトンネル16の下端部に配置されたトンネルサイド骨格部48に例えば接着やリベット等により接合されている。なお、トンネルサイド骨格部48は、フロアトンネル16の下端部の両側に車体前後方向の略全長に亘って配置された閉断面構造の補強部材である。
また、上述したフロアパネル14の所定位置(エネルギー吸収クロス36及びトンネルサイド骨格部48の配設位置)には、車両用シートSを支持する左右一対のシートレール30、32を取り付けるためのシートレール固定部58、60が設けられている。車体幅方向外側に配置されるシートレール固定部58は、最前に配置されたエネルギー吸収クロス36における車体幅方向内端の近傍部分と最後に配置されたエネルギー吸収クロス36における車体幅方向内端の近傍部分とに配置されている。一方、車体幅方向内側に配置されるシートレール固定部60は、トンネルサイド骨格部48の前後所定位置(車両側面視でシートレール固定部58と重なる位置)に配置されている。
シートレール固定部58は、エネルギー吸収クロス36を車体下方側から貫通した締結用カラー62を、当該エネルギー吸収クロス36に埋設したインサート材64にて保持することで構成されている。締結用カラー62は、車体上下方向の上向きに開口するねじ孔を有しており、このねじ孔に螺合するシートアンカボルト66によってシートレール30の前後端がフロアパネル14に締結固定されている。
シートレール固定部60は、トンネルサイド骨格部48を車体下方側から貫通した締結用カラー74を、トンネルサイド骨格部48に埋設したインサート材64にて保持することで構成されている。締結用カラー74は、車体上下方向の両側に開口するねじ孔を有しており、上側のねじ孔に螺合するシートアンカボルト66によってシートレール32の前後端をトンネルサイド骨格部48に締結固定するようになっている。
また、フロアトンネル16を挟んで位置する左右のトンネルサイド骨格部48を連結するための前後一対のトンネルアンダブレース76を備えている。各トンネルアンダブレース76は、例えばアルミニウム合金等の金属材料によって構成されており、車体幅方向を長手方向として配置されている。トンネルアンダブレース76の長手方向の両端部は、前述した締結用カラー74の下側のねじ孔に締結ボルト78を螺合させることにより固定されることで、シートレール32と共締めされている。これにより、トンネルアンダブレース76は、左右のトンネルサイド骨格部48を架け渡している。なお、トンネルアンダブレース76は、金属材には限られず、例えばCFRPのような繊維強化プラスチックにて構成してもよい。
さらに、前述したロッカ12内には、波板状のエネルギー吸収部材84が配設されている。エネルギー吸収部材84は、その幅方向が車体幅方向に一致するようにロッカ12内の最下部に配設されている。また、エネルギー吸収部材84の車体前後方向の前後端の位置がエネルギー吸収クロス36の前後端の位置に略一致されていると共に、エネルギー吸収部材84の車体上下方向の上下端の位置がエネルギー吸収クロス36の上下端の位置に略一致されている。そして、エネルギー吸収部材84は、例えばロッカ12内(仕切られた空間)に充填された発泡ウレタンフォーム等によって所定の位置及び姿勢に保持されている。車体フロア構造10では、内部でエネルギー吸収部材84を変形させつつ緩衝された荷重がロッカ12からエネルギー吸収クロス36に入力されるようになっている。エネルギー吸収部材84は、波板状のエネルギー吸収部86を有することにより、車体前後方向に一部に局所的に入力される荷重や車体幅方向に対し傾斜した方向に入力される荷重等のあらゆる方向からの荷重に対し、安定して変形して衝撃吸収効果を得ることができる構成とされている。
(車体フロア構造の詳細構成;要部構成)
図1及び図2に示されるように、フロアパネル14は、車室C側に配置されたフロア上面層100と、このフロア上面層100に対して所定距離だけ車体下方側に離間して平行に配置されたフロア下面層102と、フロア上面層100とフロア下面層102との間に介在されたフロア中間層104と、によってサンドイッチ構造に構成されている。
フロア中間層104は、扁平矩形状の骨格部材である複数のエネルギー吸収クロス36と、同じく扁平矩形状の骨格部材である複数の横クロス38と、これらのエネルギー吸収クロス36及び横クロス38といった骨格部材が配置されない隙間に充填された発泡ウレタンフォームとによって構成されている。
エネルギー吸収クロス36は、略矩形状の閉断面を成すCFRP製の外郭の内部に発泡ウレタンフォームが充填された構造とされている。エネルギー吸収クロス36は、フロア下面層102に車体前後方向に沿って延在するように形成された後述する凹部108とロッカ12との間に車体幅方向を長手方向として配設されている。また、エネルギー吸収クロス36は車体前後方向に複数個隙間なく敷き詰められている。
各横クロス38は、略矩形状の閉断面を成すCFRP製の外郭の内部に発泡ウレタンフォームが充填された構造とされている。横クロス38は、後述する凹部108とフロアトンネル16との間に車体幅方向を長手方向として配設されている。また、横クロス38は、車体前後方向に所定の間隔をあけて配置されている。この実施形態では、上記エネルギー吸収クロス36が車体前後方向に5個配設されており、横クロス38は最前に配置されたエネルギー吸収クロス36、最後に配置されたエネルギー吸収クロス36、及びこれらの中間に配置されたエネルギー吸収クロス36と車体幅方向に横並びとなるように3個の横クロス38が配設されている。
上述したフロア下面層102の車体幅方向の所定位置には、車体前後方向に延在する凹部108が形成されている。凹部108は車体下方側が開放されており、その内部には配索物としての燃料配管110が収容されている。
より詳細には、図1に示されるように、凹部108を構成する周囲壁112は、車体幅方向に対して略水平に配置された底壁部112Aと、当該底壁部112Aの左右端から車体下方側へ屈曲垂下された左右一対の側壁部112B、112Cとによって構成されている。なお、左右一対の側壁部112B、112Cは、車体上下方向に対して略垂直(正確には、凹部開き方向へ僅かに傾斜している)に配置されている。側壁部112B、112Cの高さ(即ち、凹部108の深さ)は、燃料配管110を収容可能な高さに設定されている。同様に、底壁部112Aの下面の幅は、燃料配管110を収容可能な幅に設定されている。
上記凹部108の車体幅方向外側の側壁部112Bには、前述したエネルギー吸収クロス36の内端部が突き当てられている。また、凹部108の車体幅方向内側の側壁部112Cには、前述した横クロス38の外端部が突き当てられている。
上述した凹部108の底壁部112Aの上面には、フロア上面層100の下面が固着されている。これにより、凹部108の底壁部112Aは、実質的にはフロア下面層102だけでなく、これに一体化されたフロア上面層100も加わって構成されており、その板厚T1はフロア下面層102の板厚T2とフロア上面層100の板厚T3とを足した厚さになっている。すなわち、凹部108の底壁部112Aは、フロア下面層102とフロア上面層100とで二枚板構造とされて厚板化されている。補足すると、フロア下面層102の凹部108の上面側には、凹部108を補強するための補強層102Aが設けられている。同様に、フロア上面層100の凹部108の形成領域には、補強層102Aと対向する範囲で補強層100Aが設けられている。なお、補強層100A、102Aはスペーサとしての機能も備えている。
また、図1はフロアパネル14を車体幅方向に沿って切断した状態を車体前方側から観た縦断面図であるが、この図に示されるように、フロア下面層102を構成するCFRPの炭素繊維114は、車体幅方向に配向されている。従って、凹部108を構成する周囲壁112を構成する炭素繊維114も車体幅方向に沿って配向されており、かつ途切れることなく連続した繊維とされている。フロア上面層100を構成するCFRPの炭素繊維116も、フロア下面層102の場合と同様に車体幅方向に沿って配向されており、かつ途切れることなく連続した繊維とされている。
さらに、図2に示されるように、上記凹部108は、乗員着座用の車両用シートSを車体フロアに支持するために設けられた左右(着座乗員に対する左右)一対のシートレール30、32のうち、車体幅方向外側に配置されるシートレール30よりも車体幅方向内側にオフセットした位置に設定されている。
また、上述した凹部108の開放側端部は、保護部材としての金属製のプロテクタ118によって車体下方側から覆われている。具体的には、プロテクタ118は、凹部108と重なる本体部118Aが車体下方側へ略等脚台形状に膨出した形状とされており、この本体部118Aの両端部から互いに離反する車体幅方向へ一対の取付部118Bが張り出されている。そして、これら一対の取付部118Bがフロア下面層102の下面に当接された状態で接着等により接合されている。プロテクタ118が取り付けられた状態では、燃料配管110は本体部118Aによって覆われて車体下方側からは見えないようになっている。
以上説明した車体フロア構造10では、例えばロッカ12に車体幅方向内向きに入力された荷重は、図4に模式的に示されるように、ロッカ12からフロアパネル14のエネルギー吸収クロス36に伝達され、エネルギー吸収クロス36から車体幅方向に沿って凹部108に伝達され、凹部108にて車体前後方向に分散されながら各横クロス38に伝達され、横クロス38からフロアトンネル16に伝達されると共にさらにトンネルアンダブレース76を介してフロアトンネル16の反対側のフロアパネル14、ロッカ12に伝達されるようになっている。
この車体フロア構造10の荷重伝達経路をモデル化して示すと図5に示す如くとなる。この図において車体幅方向外端に位置する部材は、乗員乗降用の車体開口部を開閉するためのドア82である。この図に示されるように、車体フロア構造10が適用された自動車車体Bでは、フロアパネル14の凹部108の車体幅方向外側面を境に、主にドア82からエネルギー吸収クロス36までの部分が側面衝突時に変形(圧壊)して衝撃吸収する衝撃吸収(クラッシャブル)エリア、主に凹部108からフロアトンネル16(トンネルサイド骨格部48、トンネルアンダブレース76)までの部分が変形が抑制されて乗員に対する室内空間を確保するための乗員保護エリアとされている。
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
上記構成の車体フロア構造10が適用された自動車車体Bでは、例えば図4に示されるように、車体上下方向に延在する柱状部材であるポールPが、乗員の着座エリアの側方から衝突した場合(所謂ポール側突が生じた場合)、図示しないドア、ロッカ12がエネルギー吸収部材84と共にポールPの衝突部位の近傍で変形(破壊)されて衝撃エネルギーを吸収しながら、このポール衝突に伴う荷重をフロアパネル14の車体幅方向の外端に伝達する。
この荷重は、フロアパネル14の車体幅方向の外端の車体前後方向の一部に局所的に作用する荷重F1としてポールPの衝突部位近傍に位置するエネルギー吸収クロス36に伝達され、このエネルギー吸収クロス36が主に長手方向に圧縮変形(圧壊)されつつ衝突荷重をフロアパネル14の凹部108に伝達する。なお、エネルギー吸収クロス36の圧縮変形によって、ポール側突の衝撃荷重はさらに吸収される。
一方、凹部108に伝達された荷重は、凹部108の長手方向に略一致する車体前後方向に分散され(図4の荷重F2参照)、3つの横クロス38に分散される(図4の荷重F3参照)。また、凹部108の長手方向に分散された荷重の一部は、フロアパネル14を介して、フロアトンネル16側に向かう斜め荷重としてフロアパネル14にも分散される(図4の荷重F4参照)。さらに、各横クロス38に分散された荷重F3の一部は、自動車車体Bの骨格部(高剛性部)を成すフロアトンネル16(トンネルサイド骨格部48)にて支持され、また車体前後方向に分散され、さらに荷重F3の他の一部は、トンネルアンダブレース76を経由してフロアトンネル16とは反対側のフロアパネル14、ロッカ12に伝達される(図4の荷重F5参照。以上、図5の矢印Aルート)。
また、エネルギー吸収クロス36の圧縮に伴う荷重は、フロアパネル14、インサート材64、締結用カラー62、シートアンカボルト66を介してシートレール30にも伝達される。この荷重の一部は、シートレール30の長手方向に略一致する車体前後方向に分散され、ポール側突部位とは車体前後方向に離間した横クロス38にも車体幅方向内向き荷重として伝達される。この荷重は、上述した矢印Aルートで、フロアトンネル16、反衝突側のフロアパネル14、ロッカ12に伝達される。さらに、シートレール30に伝達された荷重の他の一部は、シートレール30から図示しないシートフレーム、シートレール32を経由してフロアトンネル16(トンネルサイド骨格部48)、トンネルアンダブレース76に伝達される(図5の矢印Bルート参照)。
さらにまた、ポール側突のエネルギーが大きく、エネルギー吸収クロス36の変形がシートレール30の設置領域まで至った場合、ポールPからシートレール30に直接的に車体幅方向内向き荷重が作用し、この荷重は、上記の通り横クロス38を経由する矢印Aルート、シートレール30、32(及びシートフレーム)を経由する矢印Bルートで、それぞれフロアトンネル16(トンネルサイド骨格部48)、トンネルアンダブレース76に伝達される。
以上により、車体フロア構造10が適用された自動車車体Bでは、ポール側突のように局所的に大荷重が入力される場合に、主に凹部108の車体幅方向外側の側壁部112Bよりも車体幅方向の外側部分(主にエネルギー吸収クロス36、ロッカ12、ドア82で構成する衝撃吸収エリア)が変形して衝撃エネルギーを吸収すると共に、凹部108の車体幅方向外側の側壁部112Bよりも車体幅方向の内側部分は、凹部108が荷重を分散することで局部的な応力集中が緩和され、局部的な変形、破壊が防止されて車両用シートSに着座している乗員に対する室内空間が確保される。
そして、エネルギー吸収クロス36及び横クロス38は、車両用シートSを車体前後方向にスライド可能に支持するシートレール30、32の延在領域(前後のシートレール固定部58間の領域)を含む車体前後方向の領域に配置されているので、換言すれば、この領域においてエネルギー吸収クロス36が車体前後方向に隙間なく配置されているため、調整し得る車両用シートSのあらゆるスライド位置すなわち乗員の車体前後方向における着座位置において、安定して衝撃吸収効果を発揮して乗員を保護することができる。
補足すると、CFRPは脆性材料であり、金属製のボディように単にクロスメンバを車体前後方向に並列して設けた構成を採ると、クロスメンバ間にポールPが衝突した場合等には車体変形が大きくなり易いが、乗員の着座領域に亘ってエネルギー吸収クロス36を密に配置することで、乗員着座領域の側方へのポールPの衝突に対し、効果的なエネルギー吸収が果たされる。また、ポールPが衝突したエネルギー吸収クロス36からの荷重は、凹部108が車体前後方向に分散するので、横クロス38を車体前後方向に密に配置する必要がなくなり、自動車車体Bの軽量化に寄与する。
ここで、本実施形態に係る車体フロア10では、燃料配管110を収容する凹部108を形成する周囲壁112を構成する炭素繊維114の配向方向を荷重入力方向である車体幅方向に一致させたので、荷重を主に繊維方向に伝達するというCFRPの異方性が活かされ、ポール側突時の入力荷重を効率良く車体幅方向の反対側へ伝達することができる。また、凹部108を形成する周囲壁112の炭素繊維114は途切れることのない連続した繊維で構成されているので、荷重伝達経路が途切れない。これらのことから、側面衝突時(特にはポール側突時)のように車体側方から荷重が入力されても、その荷重を効率良く反対側へ伝達することができる。その結果、凹部108内に収容された燃料配管110を有効に保護することができる。
加えて、本実施形態に係る車体フロア構造10では、車体下方側が開放された凹部108の開放端側に金属製のプロテクタ118で覆ったので、突起乗り越え時に燃料配管110が損傷を受けたり、チッピング等により燃料配管110が損傷を受けるのを防止することができる。従って、この点からも、燃料配管110を有効に保護することができる。
以下、図6〜図8に基づき、上記効果を実験データを用いて説明する。
図6(A)は、本実施形態に係る車体フロア構造が採用された燃料配管取付構造を模式的に示した断面図である。因みに、図6(B)は、後に説明する第2実施形態の燃料配管取付構造を模式的に示した断面図である。また、図7(A)〜図7(C)は、対比例に係る燃料配管取付構造を模式的に示した断面図である。
先ず、対比例に係る燃料配管取付構造の概要を説明する。図7(A)に示される対比例1では、フロア上面層130とフロア下面層132との間でかつエネルギー吸収クロス36と横クロス38との対向面間に所定幅の配管収容スペース134を形成し、この配管収容スペース134の上部にはフロア上面層130と一体化される所定厚さの追加層136を配置し、これに接するようにフロア下面層132を車体上方側へ略1/2楕円形状に膨出させて、この膨出部138の下方に燃料配管110を収容するようになっている。なお、膨出部138の下方側は、本実施形態と同一構成の金属製のプロテクタ118によって覆われている。また、この対比例1では、追加層136と膨出部138とエネルギー吸収クロス36の端部又は横クロス38の端部で囲まれた略三角形状の隙間が両サイドに形成されるため、これらの隙間にはCFRPの層(シート)をロール状に巻き込んだロービング142が詰められている。
次に、図7(B)に示される対比例2では、燃料配管110を収容するための専用の中空角パイプ状部材144をCFRPで形成し、これをフロア中間層104に配置した構成になっている。この場合、閉断面構造の中空角パイプ状部材144が存在するため、ストローク前半は荷重が立ち上がっていくが、ある程度ストロークが進むと、中空角パイプ状部材144を支持する側の部材がその荷重に耐えきれなくなり、持続荷重が不安定になる特性となっている。
最後に、図7(C)に示される対比例3では、フロア下面層132を成形する際に、中子を入れて成形し、これを引抜くことで燃料配管110を収容するための配管収容スペース146を形成している。また、この対比例3の場合、配管収容スペース146の上方側に、このスペース幅のCFRP製の角柱部材を別成形で形成し、それを配管収容スペース146の形状に合うように削り出したCFRPブロック148をフロア上面層130と配管収容スペース146の上部との間に配設する構造となっている。
図8には、本実施形態の燃料配管取付構造の場合、後述する第2実施形態の燃料配管取付構造の場合、対比例1〜対比例3の燃料配管取付構造の場合のF−S線図がそれぞれ示されている。
一点鎖線のグラフaは対比例1のF−S特性を示したものであるが、この場合、ロービング142によっては入力荷重を充分に持ち堪えることができないため、初期荷重の立ち上がり後、ストロークが進まない時点(横軸の原点から一目盛進んだところ)ですぐに荷重が低下してしまい、狙った荷重が持続しない特性となっている。
二点鎖線のグラフdは対比例2のF−S特性を示したものであるが、この場合、ストロークに応じて荷重が増加していくが、ストローク中期で急峻なピーク荷重を迎えた後、荷重が急激に低下し、その後は荷重が持続しない特性となっている。
細い実線のグラフeは対比例3のF−S特性を示したものであるが、この場合、ストローク初期からストローク終期に亘って中程度の荷重を持続した特性となっている。
上記対比例1〜対比例3に対し、太い実線のグラフbで示す本実施形態の場合、ストロークに応じて荷重が比較的急な勾配で立ち上がり(荷重の早期立ち上がり)、ストローク中期からストローク終期に亘って対比例3よりも高い荷重を持続させていることが解る。従って、本実施形態の場合、ストローク初期からストローク終期に亘って燃料配管110を効果的に保護できていることが解る。
なお、燃料配管110が凹部108の車体幅方向内側の側壁部112Cよりも車体幅方向内側、すなわち乗員保護エリアの下側に配置されていることも、燃料配管110の保護を多重的に成立させている一因として挙げることができる。
また、繊維の配向の観点から補足すると、本実施形態では、凹部108のみを連続した車体幅方向を繊維の配向方向とする炭素繊維114で構成するのではなく、凹部108を含むフロア下面層102の全体及びフロア上面層100の全体を、車体幅方向に配向された連続した炭素繊維114、116で構成したので、凹部108のみを連続した車体幅方向を繊維の配向方向とする炭素繊維114で構成する場合に比し、車体側方からフロアパネル14に入力された荷重をフロア上面層100及びフロア下面層102の両方で効率良く反対側へ伝達することができる。その結果、本実施形態によれば、側面衝突時の荷重伝達性能をより向上させることができる。
さらに、本実施形態では、凹部108を構成する周囲壁112の底壁部112Aをフロア上面層100に固着させて一体化したので、凹部108の底壁部112A側の板厚が底壁部112Aの本来の板厚T2にフロア上面層100の板厚T3が加わった板厚T1となる。このため、荷重伝達に供される断面積が増加し、その分、同一荷重を伝達するのであれば荷重伝達効率が向上し、荷重伝達効率が同一ならばより大きな荷重を伝達することができる。その結果、本実施形態によれば、より円滑に荷重を伝達することができ、或いは車体側方からのより大きな荷重を伝達することができ、ひいては配索物である燃料配管110の保護性能を向上させることができる。
加えて、本実施形態に係る車体フロア構造の場合、この種の燃料配管取付構造を有するCFRP製の車体フロアとしては、製造コストを大幅に削減することができる利点がある。例えば、図7(C)の対比例3と比較した場合、対比例3の場合にはフロア下面層132の中空部を成形する際に中子を鋳込み、加熱硬化後に中子を引き抜き中空部を形成するが、中子が抜け難く、又引き抜く際にCFRPフロアを傷つける可能性もあるため、引き抜き作業を慎重に行わざるをえず、時間がかかる。また、CFRPブロック148は平板CFRPを積層してインサートブロックを成形した後、削りだして異形インサートとするが、インサートブロックの切削加工に時間がかかり、工具の磨耗も激しい上に形状が複雑であるため、加工が難しい。さらに、削り量が多く、歩留まりも悪い。こうしたことから、対比例3の場合には非常にコストが高くなるが、本実施形態の場合には、このような複雑かつ困難な成形は不要であるから、車体フロアの製造コストを非常に下げることができる。
作りやすさの観点及び性能の観点で更に補足すると、対比例1のロービング142を使った構造は、軟らかい状態のCFRPシートを巻いてロール状にし、それを略三角形状の隙間に詰め込んでいくが、実際の生産の現場では、隙間の鋭角部分までCFRPシートを充填することが非常に難しく、詰めきれたかどうかを確認できない。従って、図7(A)の図示状態に精度良く作り込むことは難しいという生産的な不利がある。また仮に、隙間にCFRPシートを詰めきれなかった場合には樹脂が回り込むので、その部分については入力荷重を伝達する繊維が存在しなくなり、荷重伝達性能が低下することが考えられる。これに対し、本実施形態の場合には、そのような生産性の不利及び性能上の不利は解消される。
〔第2実施形態〕
以下、図9を用いて、本発明に係る車体フロア構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
図9に示されるように、この第2実施形態では、フロア下面層102に凹部108を設け、凹部108の底壁部112Aをフロア上面層100の下面に固着させている点は、前述した第1実施形態と同様であるが、プロテクタ118に替えてアルミニウム合金製のプロテクタ150を用いた点に特徴があり、以下に詳細に説明する。
このプロテクタ150は、アルミニウム合金を使った押出し成形によって構成されており、内部中空とされて燃料配管110を収容可能な本体部152と、この本体部152の両側部から互いに離反する方向へ張出された左右一対の取付部154と、によって構成されている。本体部152は、凹部108の周囲壁112の内側に密着する箱型形状の上部152Aと、上部152Aと一体に形成されて燃料配管110を車体下方側から覆うように膨らんだ形状とされた下部152Bと、によって構成されている。上部152Aについて更に説明すると、凹部108の底壁部112Aに当接される上壁部152A1と、左右の側壁部112B、112Cに当接される一対の縦壁部152A2、152A3と、上壁部152A1と縦壁部152A2、152A3とをそれぞれ円弧状に繋ぐ繋ぎ部152A4、152A5と、によって構成されている。なお、上記構成のプロテクタ150は、左右一対の取付部154がフロア下面層102に接着接合されることにより、凹部108に装着されている。
(作用・効果)
上記構成によっても、前述した第1実施形態と同様の効果が得られる。効果について検証すると、図8の太い破線のグラフcが、この第2実施形態を用いた場合のF−S線図である。このグラフcから、ストロークに応じて荷重が比較的急な勾配で立ち上がり(荷重の早期立ち上がり)、ストローク中期からストローク終期に亘って対比例3よりも高い荷重を持続させていることが解る。従って、この第2実施形態の場合も、前述した第1実施形態と同様に、ストローク初期からストローク終期に亘って燃料配管110を効果的に保護できていることが解る。
さらに、アルミ合金の押出し成形によってプロテクタ150を製作することにより、凹部108の周囲壁112の内周面に密着させる形状を作ることができる。このため、実質的には凹部108の底壁部112Aの板厚にプロテクタ150の上壁部152A1の板厚が加わり、荷重伝達に供される断面積を増やすことができる。さらに、凹部108の側壁部112Bにプロテクタ150の縦壁部152A2が密着し、かつ当該縦壁部152A2と上壁部152A1とが繋ぎ部152A4で連結され縦壁部152A2を支える構造になっているので、側面衝突時の荷重を縦壁部152A2でも受けることができる。従って、荷重伝達性能をより一層高めることができるというメリットもある。
〔上記実施形態の補足説明〕
なお、上述した各実施形態では、金属製のプロテクタ118、150を用いたが、これに限らず、樹脂製のプロテクタを用いてもよい。
また、上述した各実施形態では、フロア上面層100の下面に凹部108の底壁部112Aが固着されて一体化された構造を採ったが、請求項1及び請求項2記載の本発明には、フロア上面層の下面と凹部の底壁部との間に隙間が存在するものも含まれる。この場合、凹部の底壁部の板厚を厚くする効果が得られないため、上述した各実施形態の場合よりも荷重伝達性能は劣るが、車体幅方向に配向された連続した繊維を使って凹部を構成することによる荷重伝達性能を向上させるという効果は得られるので、それに応じた効果は得られる。
さらに、上述した各実施形態では、配索物として燃料配管110を挙げたが、これに限らず、他のものを凹部に収容させるようにしてもよい。例えば、ワイヤハーネスや冷却水配管等を凹部に収容させるようにしてもよい。
また、上述した各実施形態では、フロア上面層100、フロア下面層102の繊維の配向方向を車体幅方向としたが、これに限らず、車体幅方向に対して一方向に所定角度傾斜した斜め方向でもよいし、車体幅方向に対して二方向に所定角度傾斜して網状に配向された交差方向でもよい。なお、この所定角度(車体幅方向に対する傾斜角度)は、45°未満であることを要し、好ましくは30°以下とするのがよい。
さらに、上述した各実施形態では、フロア下面層102の凹部108の周囲壁112を構成する炭素繊維116について補足すると、炭素繊維116の終端が周囲壁112内に含まれていたとしても、それは炭素繊維116を配向する際に繊維の終端が位置されたものに過ぎないので、そのような繊維の終端があったとしても、請求項1記載の本発明における「連続した繊維を用いて構成されている」ことに変わりはなく、そのような場合も本発明に含まれる。請求項2記載の本発明におけるフロア上面層100の炭素繊維114についても、同様に解釈される。