化学発光強度の補正を行うためには、発光強度の変化を単純かつ予測できる形にすることが有効である。また、複数項目の計測をする際には、各々に対しても正確な補正を行えることが必要である。そこで、複数項目に対応するプローブなどを固相上に固定し、当該プローブなどに化学発光反応酵素を標識し、化学発光基質を含む同一の溶液中にて複数項目について同時に化学発光反応させる構成とした。化学発光溶液中の発光基質は化学発光反応酵素に対して過剰量とし、化学発光基質溶液を液流によって固相に対して相対的に流し続ける方法を採用した。通常発光基質は酵素反応によって消費されるため、酵素の周辺では発光基質の濃度低下が起こる。発光基質の分子拡散は十分でないため、化学発光基質溶液を停止した場合には酵素周辺の発光基質濃度の低下を十分に食い止めることはできないが、化学発光基質溶液を流し続けることにより、発光基質が継続的に供給され、発光酵素周辺での発光基質濃度が十分でかつ時間変化のない状態を生み出すことができる。
この条件下で適切な溶液の流量および適切な流路と担体の構成とすると、発光曲線は段々増加した後ピークに達しその後減衰するという従来の複雑な形ではなくなり、単純に減衰する曲線となる。このとき、正味の発光強度はマイナスのべき乗の関数形、すなわちy = a×exp(−b×t)(y:発光強度、t:時間、a、b:係数)、で時間依存するようになる。そのため、この減衰曲線をとれば、発光を計測した時刻をこの減衰曲線に入れることにより、任意の時点での発光強度が分かることになる。例えば、発光基質を導入開始直後から1分後の発光強度を計算により求め補正することができるし、発光基質導入直後(時間t = 0)の仮想的な発光強度を計算することもできる。
複数項目に対する計測を行う場合にも、同一溶液を流すことで溶液組成、温度および実質的な発光開始のタイミングを揃えることができるので、それぞれの項目からの発光強度の時間依存性は絶対的な信号量の大きさを考慮から排除すると相似となる。ここでいう時間依存性が相似になるというのは、ある同一計測時点の発光強度を基準とし、それぞれの計測時点における発光強度をこの基準で割った比強度というものをそれぞれの項目の発光強度の時間変化から求めると、そのそれぞれの項目の比強度の時間変化曲線が実質的に同一になる、という意味である(以下、相似については同様の意味とする)。そのため、各項目間での発光強度の大きさを時間依存性に関して補正し適切に比較することができる。特に複数項目をスキャンにて逐次的に計測する場合には、項目毎に測定のタイミングが異なり、時間依存性に関する補正をすることが有効である。しかし、化学発光基質溶液を液流によって固相に対して相対的に流し続ける場合にはそれぞれの項目に対して発光強度は減衰曲線を描き、同一の時刻をその減衰曲線の時間に入れて計算すれば、正確な発光強度の比較ができる。例えば発光基質導入直後(時間t = 0)の仮想的な発光強度を計算し簡単に比較できる。また、この減衰曲線はすべての項目に対して計算する必要は必ずしもなく、一部の測定項目に対して減衰曲線を作成し、これから代表的な減衰率を算出し、他の測定項目に対しても適用して補正することができる。
酵素が固定され発光することが想定される標準のインナーマーカーを、予め流路に配列しておくこともできる。このとき、計測時にはこのインナーマーカーに対してのみ複数回測定して減衰曲線を作成すれば、それ以外の測定項目に対しては1回もしくは少ない回数での計測結果を、インナーマーカーに対する測定で得た減衰曲線を用いて補正すればよい。
また、化学発光の検出のタイミングが異なる複数の測定結果でも各々補正することができるので、同一項目の検出を複数回繰り返し、その検出結果を補正した上で足し合わせることもできる。足し合わせによってS/N比が向上し、検出感度の向上を図ることができる。信号強度の小さいものを足し合わせる際には、それが信号であるかどうかをノイズと区別して判別する必要がある。スキャン方式での計測を行う場合には、発光が想定される項目が存在する流路中の位置を把握する別な手段を併用することが望ましい。発光が想定される位置を識別すれば、スキャンの開始地点とそのスキャンスピードから、発光が想定されるその位置での計測のタイミングは予測できるため、得られる信号強度が十分でない場合にでもその位置に対応した計測のタイミングに対応するデータを検出すべきシグナルとして機械的に判別することができる。発光が想定される項目の流路中の位置を把握するためには、CCDカメラを用いて画像認識を行う方法や、流路と担体を光照射しながら光受光素子をスキャンしてそのシグナルの特徴から位置の推測を行う方法などが考えられる。この発光が想定される位置の把握は、発光計測とは別に発光計測の前後に行ってもよいし、発光計測中に同時に行うことも可能である。発光計測と同時に行う場合には、計測される発光強度への影響を抑えるため、発光波長以外の波長の光での照射が望ましい。CCDカメラを用いて画像認識を行う方法や発光波長以外の波長で流路と担体を照射しスキャンして位置認識を得る方法などが考えられる。発光が想定される位置を識別すれば、スキャンの開始地点とそのスキャンスピードから計測のタイミングは予測できるため、得られる信号強度が十分でない場合にでもその位置に対応するデータを機械的に検出すべきシグナルと判別することができる。従来は、複数回の信号測定をしても、化学発光強度は経時変化するため単純に足し合わせ平均すると正確な計測結果とすることはできなかった。しかし本方法では他の化学発光強度が十分な項目などの発光強度の経時変化から発光減衰校正曲線を作成してこれを他の項目に適用できるため、それぞれの測定のタイミングに合わせてそれぞれのシグナルを補正することができる。例えば特定の項目などについて作成された発光減衰校正曲線から得られる減衰率に基づいて、それぞれの測定値を時間t = 0での値に補正してから足し合わせて平均をとることができる。これにより、S/Nの向上が見込まれ、感度の高い計測を実現できる。CCDカメラのように一括検出する場合でも、得られる信号強度が小さい場合にはシグナルであるかどうか判別できないという同様の課題がある。この課題を解決するためには、流路と固相を光で照射して発光が想定される固相の位置を認識し、その場所のシグナルを得る方法などが考えられる。この操作を発光計測の前もしくは後で行う場合には、どのような波長の光を用いてもかまわないが、発光計測と同時に固相の位置認識を行う場合には、発光計測の妨げとならないように、発光波長以外の波長で照射することが望ましい。
化学発光強度の時間変化を考慮した、精度の高い補正について以下に説明する。化学発光の発光強度の変化の挙動を左右する大きな要因として、発光基質の量の変化、発光酵素の量の変化および活性変化が考えられる。発光酵素が固相表面にある場合には、発光基質の量は単純な平均量を考慮する必要があるだけではなく、固相表面の酵素近傍での量そのものも考慮する必要がある。このため固相表面で発光反応により消費された分を外側から補う物質移動の効率が十分であるかどうかを加味して考える必要がある。後で述べるとおり、この物質移動の効率は流路と担体の構成および流速を含む溶液の動きに依存している。発光酵素の活性変化には失活による活性の低下や反応速度の温度依存性が考えられる。特に一部の化学発光の場合には、酵素反応により生成されるラジカルが酵素を攻撃して失活させる効果を考える必要もある。
ここで、液相における化学発光反応の態様と固相における化学発光反応の態様とを比較するため、固相における化学発光反応の状況について記載する。まず、化学発光分析法のうち固相表面に酵素が固定されている場合の発光強度の変化について説明する。マイクロプレートを用いた化学発光エライザ法などの場合、発光曲線は、発光基質を含む溶液の添加とともになだらかに上昇し、ピークに達し、それから減少する曲線となる。これは次のような物理化学的過程に基づくと考えられる。発光基質を含む溶液を添加する際に、溶液を単に滴下するだけではそれより前に固相表面の酵素近傍に存在した液体のすべては移動しないので、発光基質を含まない液体のある程度の厚みを持つ境膜または発光基質濃度の薄い溶液の境膜が固相表面の酵素近傍に存在することとなる。そのため発光基質を滴下した直後の発光強度は実質的にゼロもしくは低い値となる。その後時間が経過するに従い、発光酵素が固定された領域から離れた、発光基質の濃度が高い(滴下した発光基質を含む溶液と実質的に同じなど)領域から発光基質が拡散してくることにより、酵素近傍の発光基質の量(濃度)が増大し、結果として発光強度が増大する。発光強度が増大するにつれて発光基質を消費する速度も増大するが、その単位時間当たりの消費する量よりも、単位時間あたりの発光基質が分子拡散によって固相表面まで到達している量が多い状態が続く間発光強度は増大する。時間が経過するにつれて化学発光で消費される発光基質の量とその供給量がバランスし、発光強度はピークに到達する。このときには、発光基質の消費により表面の発光基質濃度が低下し、その表面近傍濃度と表面から離れた溶液中の発光基質濃度との濃度勾配で発光基質が供給されることになる。ここで、発光基質を含む溶液の外部からの供給は添加のみのため、この固相表面までの拡散距離が長く物質移動の効率が悪くしかも安定しない。そのため、たとえ全体としての発光基質の量が十分であっても、実際の反応が起こっている表面近傍では発光基質濃度が大幅に低下ししかも安定しない現象が起こっていると考えられる。発光強度がピークに達した後は、発光強度が減少する。これは主に酵素の活性が低下することと発光基質が消費され発光基質濃度が全体的に低下することが原因である。これらの要因は発光強度の増大しているときでも発光強度の経時変化に寄与しうるものではある。酵素活性の低下や発光基質濃度の時間的な変化は、例えば発光量に依存しているので、違うチューブ間やマイクロプレート上での違うウェル間では、少なくともこれらの要因の違いにより発光の時間変化が同一になることはない。このように固相における化学発光反応については、化学発光強度を経時的に変化させる要因は多数あり、液相における化学発光反応とは状況を異にしている。固相の場合には当該要因が絡み合っていることが発光強度の変化を複雑にし、同一でなくし、予想による正確な補正を難しいものにしている。
本発明では、一つの流路中の酵素が固定された複数の領域に、発光基質を含む溶液を液流によって固相に対して相対的に流し続ける方法をとることによって、従来方法の問題を解決する。まず、最初の発光強度が増大してピークに達するまでの過程を、溶液を流すことにより実質的になくすことができる。発光基質を含む溶液を流路中の酵素が固定された領域に流すことにより、それより前に固相表面の酵素近傍に存在した液体を移動させ、下流へ移動させてしまうことができる。そのため酵素は発光基質溶液そのものについてその当初の濃度の状態で接することになり、高い発光強度を得ることができる。なお、発光基質を流した直後に発光が一瞬高くなる事象を確認しているが、測定はこの瞬間点後に行っているため、本明細書では説明の簡単のために本事象を除いた反応過程について説明を行う。化学発光基質を含む溶液を継続的に流し続けることにより、溶液が停止している場合と比べて、担体表面への高い物質移動効率を維持することができ、しかもその効率は溶液の流速と構造によって決めることができ、十分に高い所で安定させることができる。また発光基質濃度は、反応が進むにつれて変化することはなく、一定に維持される。同様に発光領域の上流と下流の領域において発光基質の濃度変化は実質的に無視することができる。よって各項目の位置する領域間での発光基質の溶液組成を実質的に同一にかつ経時変化なくすることができ、さらには温度を含めた反応条件を一定にすることができる。本発明を適用することで、複数の領域からの化学発光の減衰曲線を相似に保つことができる。
発光基質の濃度が十分である条件下では、本発明の方法を用いた場合、化学発光強度の経時変化の主原因は酵素の活性低下であると考えられる。マクロに見た酵素の活性低下とは、活性を保った酵素の存在分子数が低下することであると考えられるので、その活性の時間変化量は、その時点の酵素の存在量にマイナスの係数を伴って比例する、と考えられる。この係数は、化学発光の反応条件やその時の発光量に比例する生成ラジカルの量などで決まる。本発明の条件下では、発光気質の濃度は十分となるように設定されているため、発光強度は酵素の活性に比例し、そのためマイナスのべき乗の時間依存性を示し、すなわちy = a×exp(−b×t)(y:発光強度、t:時間、a、b:係数)の関数形で時間依存することになる。発光強度が半減する半減期t1/2はt1/2 = ln2 / b と表現できる。発光強度は、光計測上はバックグラウンドを引いた正味の発光の寄与に対してこのような時間依存性を示す。本方法によれば、発光強度変化の主な要因を酵素活性の経時変化に帰着させることができるため、発光強度はこのように簡単な挙動を示すことになる。そのため発光強度変化を簡便な表現で予測し、それを利用した発光強度の正確な補正が可能となる。この補正の効果は特に計測にかかる時間がt1/2の大きさに比べて無視できないときに重要である。また、計測時間が短い場合にでも精度の高い計測を行う場合には重要である。
酵素活性の大きさと活性の時間変化は反応の温度によっても左右される。そのため化学発光の生じている場所および送液する発光基質を含んだ溶液の温度を一定に保つことは、正確な測定および補正のために重要である。本発明については、装置および発光基質を含んだ溶液を室温に放置し、そのまま化学発光分析を行う方法で十分精度の高い測定および補正が可能であるが、さらに精度の高い分析を行う場合には温調を行うことは有効である。また温調を用いて反応温度をさまざまな値で一定させた場合、酵素活性の大きさそのものと減衰率が同時に変化する。酵素の最適反応温度付近で化学発光を行った場合に最も高い発光が検出されるが、同時に減衰率も大きいことが多い。本発明によれば、このように減衰率が大きく、補正なしでは発光強度の比較の際に誤差が大きくなるような状況においても、簡便な表現による関数形での減衰が観測されるため、正確な補正が可能である。正確な補正が可能であるため、化学発光強度の高い反応温度に温調して高い感度で化学発光による分析を行うことができる。
本発明を用いた化学発光分析を用いる場合、流路および酵素の固定される領域のさまざまな組み合わせが可能である。例えば、キャピラリ内部などを流路として流路中にビーズなどの担体を配列する構成(以下、ビーズアレイという)とすることができる。このビーズアレイでは溶液を流路に流すことによってビーズ表面への物質移動をさらに効率よくすることができる。それ以外にも、流路内部へ微粒子を充填して配列した系や流路の内壁に順に分析項目に対応する物質を固定した領域を設けて酵素修飾して化学発光分析する系などが考えられる。
本発明を用いた化学発光分析を用いた検査を行う際に、固定するプローブは、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド 核酸(PNA)、また、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、ウリジン、イノシンの少なくともいずれかを含む人工核酸、あるいは核酸誘導体が一般的であるが、これらや、ペプチド、糖ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖または化学合成ポリマーなど相補的な分子を補足できるものが好ましい。しかし、これに限定されるものではない。核酸プローブを用いたときは核酸の検出などへの適応が可能であり、タンパク質をプローブとしたときは、抗体検査、抗原検査などへの適用が可能である。例えば、食品アレルゲン検査、アレルゲン特異IgE検査、感染症検査、化学物質特定検査、汚染物質検査などに適応が可能である。さらに、糖−レクチン反応に関するプローブや、各種レセプターなどもプローブとして用いることが可能である。DNA−タンパク質の相互作用に関するプローブ設計、酵素―基質の反応、例えばビオチン−アビジン反応に関するプローブ設計も可能である。
図1は第1の実施例で使用する装置を示す概略図である。実施の内容に関しては後述する。本実施例では、流路中に固相として複数の担体を具備しかつ化学発光基質を固相に対して相対的に液流によって流して化学発光計測するデバイスとして、ビーズアレイを使用した例を示す。ビーズアレイ101はビーズを細管内部に一列に整列させたデバイスであり、このビーズ表面近傍で化学発光反応を行う。このビーズアレイ101に対し、その片側にはキャピラリー配管102を介してシリンジ103が接続しており、そのシリンジ103はシリンジポンプ104によって駆動される。シリンジおよびシリンジポンプはビーズアレイに諸液体を流液させながら供給する溶液供給部として機能する。ビーズアレイ101のもう一方には、キャピラリー配管105を介して廃液チューブ106が接続されている。キャピラリー配管102、105は諸溶液の流路となるビーズアレイを保持する流路保持部としても機能する。ビーズはキャピラリー配管の内部に収められ、ストッパー200、201によって配列の両端位置が規定される。ビーズアレイ101中のビーズから発する化学発光は、化学発光計測光学系全体111をビーズアレイ101の長手方向に相対的にスキャンすることによって計測する。ビーズアレイ101に近接した対物レンズ112で集められた光はダイクロックミラー118と光学フィルター117を通過して結像レンズ113に到達し、光学スリット114の位置で結像する。光学スリット114により選択された一部の光がその直後に設置された光電子増倍管115によって受光され、パソコン116で信号として計測される。一方、ダイクロックミラー118で曲げられた光の成分は光学フィルター119を通過し、結像レンズ120によりCCDカメラ121の受光面で結像し、パソコン116で信号として計測される。ビーズアレイ101を照射する際には照明122を使用する。発光計測の障害となる外部の光を遮るため、パソコン116を除く系全体を暗箱123の中に設置する。
本実施例では、西洋わさびペルオキシダーゼ、ルミノール、過酸化水素を用いる化学発光系について計測(発光波長:420 nm)を行う。化学発光強度の計測に光電子増倍管115を、ビーズアレイ中のビーズの認識にCCDカメラ121を使用する。ビーズ、すなわち酵素を固定する固相についてその位置を識別する位置識別手段を備え、その識別結果と発光計測結果とを対応させる位置対応手段とを備える構成とする。ダイクロイックミラー118には赤色光より長い波長の光を反射するものを用い、さらに光学フィルター117には420nmを中心とするバンドパスフィルターを用いる。ビーズの認識のためにビーズアレイ101を照射する照明122には赤色LED(最大発光波長650m,)を採用し、光学フィルター119には赤色光より長い波長の光を透過するロングパスフィルターを使用する。この赤色LEDから発する光は、ダイクロックミラー118と光学フィルター117により、光電子増倍管115には到達しないため、発光計測の障害とはならない。照明122である赤色LEDで照射されたビーズアレイ101の像はCCDカメラ121で計測され、パソコン121上で画像解析がなされる。この画像解析では、まずビーズアレイ101の像からビーズを判別し、そのビーズが端から何番目のビーズであるか、そのビーズ、特に中心の位置が計測地点からスキャン方向にどの距離にあるのかを判別する。光学系のスキャン系では、現在の時間と発光を計測している流路中の地点がどこであるかをも把握しているため、画像解析により得られたビーズの順列および位置認識の情報と合わせることで、光電子増倍管115で得られた信号強度と時間の関係中にどのビーズを計測した時のシグナルがどの時間に対応するのかを計算して対応させることができる。例えば発光強度の時間変化を表すグラフ中に、それぞれのビーズの中心位置を計測した時間を合わせてパソコン121のモニター上に表示することもできる。画像解析によりビーズアレイ101中のどのビーズを現在計測しているのかを判別し、光電子増倍管115で得られた信号強度と個別のビーズを対応させることができる。赤色LED照射によってCCDカメラ121で得られるビーズの画像データなしでも発光計測は可能である。このとき、計測のタイミングと光学系全体のスキャン時の位置関係を対応させればよい。
図2は第1の実施例で使用する光学検出系から得られる信号などを説明する模式図である。図2(A)はビーズアレイ101に対して相対的に光学系全体111をスキャンする模式図である。この例では、ビーズアレイ101はキャピラリー132の中にビーズ131を一列に配列した構成となっており、それぞれのビーズ131表面近傍で化学発光が起こり、その化学発光を計測する。図2(B)はこれをCCDカメラ121で計測して得られる画像の模式図である。図2(A)で示したビーズアレイ101の一部が像として得られる。本実施例では発光波長の光はCCDカメラ121では計測されず、この像は照明122で照らされて得られた赤色光の波長成分のものである。スキャンしながらこの画像を連続的に得て、それぞれのビーズの位置およびその中心を認識することができる。図2(C−1)は光電子増倍管115の前であって光電子増倍管115とビーズアレイ101との間に設置した光学スリット114上でビーズ131上の化学発光がどのように結像し、選択されているかを示す模式図である。この図の場合、中央のビーズ131の発光の一部が光学スリット114を通過していることを模式的に示している。ぞれぞれのビーズからの発光をスキャンしながら区別するため、この光学スリット114はスキャン方向での幅がビーズのスキャン方向での幅よりも狭い光学スリットを使用している。図2(C−2)は、スキャンしたときに、ビーズ131近傍の各々での化学発光から光電子増倍管115を介して得られる信号を表す模式図である。下向きの小さな三角はCCDカメラ121で得られた画像から画像認識したビーズの中心位置に対応しており、それぞれのビーズ131からの化学発光が信号として得られることがわかる。この例ではスキャン速度を一定にしてすべてのビーズを一方向にスキャンしているが、実際の測定では必ずしもこれにこだわる必要はない。すなわち、ビーズ及び計測条件などに応じてスキャン速度をかえるものであっても良い。CCDカメラ121で得られた画像の画像解析によるビーズの位置認識を加えることにより、発光強度の小さなものでも的確に信号を捉えることができる。この詳細については後述する。
本実施例で使用するビーズアレイおよび反応条件等は次の通りである。ビーズには白色ポリスチレンビーズ(4310A 、Duke Science製、102 μm)を使用する。化学発光酵素として西洋わさびペルオキシダーゼを使用する。化学発光反応のために、抗体とのコンジュゲート(抗マウスIgG抗体−西洋わさびペルオキシダーゼコンジュゲート、DAKO製)をビーズに対して物理吸着させる。ビーズ表面に計測対象分子を捕捉するプローブ(例えば抗体)を結合させて計測対象分子を捕捉し、酵素結合プローブ(例えば抗体)でサンドイッチアッセイを行う場合にも以下の手順で化学発光分析を行うことができる。分析用ビーズ間には発光を遮光し隣のビーズへの発光の映り込みを防ぐため、適宜遮光用ビーズを配置する。遮光用ビーズは、遮光性のビーズを用いるが、ここでは黒色ポリスチレンビーズ(BK100TA 、Duke Science製、96 μm)を使用する。黒色ポリスチレンビーズの表面にはブロッキング剤であるブロックエース(雪印乳業製)を物理吸着させて使用した。ビーズアレイ用のキャピラリーには内径150μmの溶融石英キャピラリー(ジー・エル・サイエンス製)を使用し、このキャピラリーの内部に分析用ビーズと遮光用ビーズを適宜配列して使用する。化学発光反応は、ここでは、記述がない限り室温で行い、発光基質としてはルミノールおよび過酸化水素を含む溶液を使用する。発光基質を含む溶液の送液は時間ゼロ(t = 0))で開始し、以降化学発光の計測を行っている間中継続的に送液を続ける。送液の速度はそれぞれ記述する。
図3はビーズアレイ101中の単一の発光ビーズに対して、繰り返し測定した信号強度の経時変化を示すグラフである。時間ゼロの時点で発光基質を導入し、毎分10 μlの流速で送液し続けている。光学系111は、時間ゼロでは計測対象となるビーズアレイ101中の任意の発光ビーズからの発光が計測されない位置に配置され、その後このビーズをまたいで往復するようにスキャンしている。スキャンの速度は毎秒10μmである。グラフのそれぞれのピークは光学系111がそのビーズについて通過する度に得る発光計測の結果をそれぞれ示している。ピークの最大値をつなぐと、発光が時間の経過とともにきれいに減衰していくこと、すなわち単調減少していることが分かる。このピークの最大値を結ぶ曲線を指数関数に対して近似させると、y = 1.4184×exp (-0.00068602×t) (y:信号強度、t:時間)となり、相関係数も高い(R = 0.99885)。この例の計算上の半減期t1/2は1010秒である。
図3で示した減衰曲線は、多数の発光ビーズに対しても同様に得られる。図4は10個の発光ビーズに対して往復スキャンの測定をした例である。往路一回目で配列されたビーズを一通り順にスキャンし、復路一回目で復路と逆の順番でビーズを一通り順にスキャンする。また、往路二回目では往路一回目と同じ順でビーズを一通りにスキャンし、復路二回目では復路一回目と同じ順でビーズを一通りスキャンする。時間ゼロの時点で発光基質を導入し、毎分10 μlの流速で送液し続けている。送液速度は十分に速いため、それぞれの発光ビーズに対して発光基質が到達した時間(時間ゼロの時点)は実質的に同じと考えてよい。図4(A)は2往復で得られたシグナルの全体を示すグラフである。発光強度のパターンが往路および復路で逆になり、それぞれ2回ずつ計測されている。復路一回目と比較すると往路一回目の対応ピークの高さが低くなり、復路一回目と比較すると往路二回目の対応ピークの高さがさらに低くなり、また往路2回目と比較すると復路2回目の対応ピークの高さがさらに低くなり、経時的に各ビーズに対応するピークが減衰している様子が示される。図4(B)は往路1回目の部分を拡大して表示したものである。発光ビーズからのピークがそれぞれ(i)から(x)までの10本があることが分かる。図4(A)では(vi)のみ明示してあるが、それぞれのピークが4回ずつこのグラフ上に現れていることが分かる。それぞれのピークの強度変化に注目すると、どのピークも時間に対して同様に減衰していることが示される。また、このような化学発光計測を行う場合には、それぞれのピークの強度を単純に比較しようとしても、どの計測のタイミングのものを選ぶかにより比較結果が異なってしまうので、精度の高い比較には精度の高い補正が望ましいことも示される。
図5は本実施例における補正の効果を表すグラフである。往路1回目および復路1回目のデータ群からそれぞれ得られた相対強度を補正の有り無しの2通りで計算し、そこから算出された相対誤差の値を示している。相対強度の計算は、補正有りの場合、ピーク(i)に対する減衰曲線を求め、その減衰率をすべてのピークに当てはめて、時間ゼロの時点のピーク強度を算出する。この場合のピーク(i)に対する減衰曲線はy = 0.088004 × exp( -0.000609×t)となり、それぞれのピークの値をy(t)、時間をtとしたとき、減衰率を考慮に入れた仮想的に時間t=0(時間ゼロの時点)のときのピーク強度を求めた補正値はy(0) = y(t)÷exp( -0.000609×t)である。それぞれのピークに対してこの補正値y(0)を求め、ピーク(i)の補正値に対しての強度比を計算したものが、補正ありの場合のピーク(i)に対する相対強度である。補正なしの場合は単に得られたピークの発光強度の比をそのまま計算して相対強度としている。ピーク(i)の計測タイミングは往路では最初であり復路では最後であり、復路での計測時には減衰時間も最も長くなるため、ピーク(i)に対する相対強度はピーク(ii)から(x)のすべてに対して復路の発光強度を利用したものの方が大きな値となってしまう。相対誤差は算出したそれぞれのピークのピーク(i)に対する往路1回目と復路1回目の相対強度から計算している。相対誤差は、往路1回目と復路1回目でそれぞれ算出された相対強度の差を、相対強度の平均値で割って算出する。相対誤差が大きいということは、往路1回目と復路1回目で求められた相対強度の違いが大きく、測定の順序等によって相対強度が精度の高い測定ができていないことを示している。図5から示されるとおり、補正のない場合には、ピーク(i)の測定タイミングからそれぞれのピークの測定のタイミングが離れるにつれ相対誤差が大きくなり、最大24.7%まで誤差が広がっていることが分かる。これに対して補正を行った場合には、相対誤差の増大が抑えられ、最大でも4.8%と約5分の1に抑えられている。このように基準となるピークの測定時から測定時間がずれればずれるほど補正の効果が高い。但し基準となるピークに近いピークでも、補正ありの場合の方が相対誤差が優位に小さくなっており、特に精度の高い計測が必要となる場合には補正が有効であることが示される。このことより、この減衰を用いた補正が精度の高い測定に有効であることが示される。
図6(A)は発光基質を導入後発光基質の送液を停止した場合の、10個の発光ビーズに対して往復の測定をした例である。ここで使用したビーズアレイは図4のものと同様のビーズ配列で構成されているが、別途作成したものである。ここでは往路1回目と復路1回目および往路2回目の部分を拡大して表示している。図3および図4と異なり、各ビーズに対応するピークの変化を各々追うと、あきらかに単調な減衰曲線とならないことが分かる。すなわち、往路1回目に対して復路1回目のピークの方が発光強度が増加しており、その後往路2回目の頃では減少していることが示される。これは、従来行われている、発光基質が送液されていない系での化学発光分析、例えばマイクロプレート上のELISAにおける化学発光分析と同様に、発光基質の添加後発光強度が徐々に増大し、ピークに達し、その後減衰することに相当する。ピーク強度の比も往路1回目と復路1回目および往路2回目では大きく違うところがあり、例えば、ピーク(i)(ii)(iii)では大きさの大小さえ同様の傾向としての測定ができていない。つまり相対強度の正確な測定がまったくできていない。
図3から5で示した単調な減衰曲線とそれを利用した補正方法は、発光基質を送液する条件が必要であり、送液を止めた場合にはうまく適用できないことが以上より示される。補正しないそのままの場合の相対誤差を図5と同様に計算した結果を図6(B)に示す。図5で示した、補正した場合の相対誤差が4.8%以内に収まるのに対して、送液を停止して適切な補正ができない図6(A)の条件場合には相対誤差が最大80%であり、小さい場合にでも15%以上あることがわかる。このように発光基質を送液する条件下での補正によれば高精度の補正が可能となり、またこの効果は発光基質の送液を継続的に行って化学発光を計測する系によって可能であることが示される。
図7は図3と同様に、ビーズアレイ101中の単一の発光ビーズに対して、繰り返し測定した信号強度の経時変化を示すグラフである。但し図3が発光基質の送液速度を毎分10 μlの流速で一定としているのに対して、測定のたびに発光基質の送液速度を変更している。それぞれのピークを測定しているときの流速はそれぞれピークに対応させてグラフ中に値を示している。発光基質の送液速度は毎分0.001 μl(1 nl)〜100 μlの範囲で設定している。それぞれの送液速度に対するピークをみると、流速に関らず減衰の程度が同じで一定であることがわかる。単調な減衰曲線を得ることとそれを利用した補正には、発光基質を送液することが必要であり、送液の速度についてはすくなくとも発光基質の送液速度が毎分0.001 μl(1 nl)〜100 μlの範囲にできることが示される。発光基質の送液速度が上がる場合には、化学発光条件の均一性向上などから上記補正の条件は満たされるものでありであり、送液速度の上限に関してはこれに限定せずともよい。
図8は図7のデータを解析したものである。毎分1 μlで送液しているときのピークの群を基準として減衰曲線を作成し、その減衰曲線に対して、それぞれの流速でのピーク強度を補正して相対強度として表示したのが図8(A)、そのピークの半値幅を示したのが図8(B)である。図8(A)より、毎分1 μlもしくはそれ以下の流速ではピークの強度はほぼ同じもしくは少し減少する傾向になるのに対し、毎分1 μl以上では流速を上げるとピーク強度が減少することが分かる。また、図8(B)より、流速を減少させるに従い半値幅も増加してプラトーに達するのに対し、流速を増加させると大幅に減少することがわかる。この系では、感度を増加させたいときには発光基質の送液速度を低下させ、ピーク間の分離能を向上させたい場合には送液速度を増大させればよいことが分かる。
上記で説明した計測及び補正については、室温以外の条件でも適用することができる。ビーズアレイの近傍にペルチェおよびサーミスタを設置して、発光基質をフローさせながら温調した実験を行った。発光基質の送液速度は毎分10μlとした。温調を15℃、25℃、37℃、および50℃に設定した場合、いずれの温度のおいても、きれいな減衰曲線が得られ、y = a×exp(−b×t)(y:発光強度、t:時間、a、b:係数)の関数形で示せた。25℃を基準に取った場合、発光強度が半減する半減期t1/2= ln2 / b の比は、15℃、37℃、50℃の場合においてそれぞれ、1.086、0.823、0.432という値であった。それぞれの温度に依存して、減衰率が変化するが、補正が可能であることが示される。また、今回の実験範囲では、37℃での発光強度が最も高かった。上記の補正ができない場合には、37℃および50℃における発光強度の変化率は大きいため、大きな誤差が生じるが、上記の補正を適用することによって精度の高い測定が可能となることが分かる。逆に上記の補正を適用することで、特に発光強度が高い37℃の条件で、精度の高い発光分析を行うことが可能となる効果がある。また上記の補正を適用することで、室温よりも温度が低く減衰率が小さい場合にも同様に精度の高い測定を行うことが可能である。
図9は第2の実施例を説明する模式図である。ビーズアレイ151に対して化学発光計測を第1の実施例でも使用した図1の装置を用いて化学発光分析を行った例である。図9(A)はビーズアレイの模式図である。ビーズアレイ151はキャピラリー152の内部に標準発光計測用ビーズ153と遮光用ビーズ154および化学発光する分析用ビーズ155が配列されたものである。標準発光計測用ビーズ153は発光基質溶液を送液時に規定量の発光が生じるように発光酵素を標準量ビーズ表面に固定したものである。遮光用ビーズ154は黒色に着色された遮光性のビーズであり、標準発光ビーズ153と分析用ビーズ154同士の発光がお互いに映りこむことを防ぐために、設置されている。この例では、遮光用ビーズは1つおきに配置されている。図9(B)(C)は化学発光計測時のスキャン位置とその時に得られる信号強度の対応を示す図である。図9(B)は時間対スキャン位置を示す図である。縦軸のローマ数字と三角はそれぞれのビーズ位置を示している。まずこの例では、ビーズアレイでビーズの存在位置から離れた位置からスキャンを開始し、ビーズIからVIIに向けて一定速度でスキャンすることが示されている。図9(C)はこのときに得られる信号強度変化の模式図である。標準発光計測用ビーズ153(I)と分析用ビーズ155(III、V、VII)からの発光がピークとして観測されており、遮光用ビーズ154(II、IV、VI)からは発光が計測されていない。ピークの上の三角はCCDカメラの認識によって得られたそれぞれのビーズの中心位置を示している。標準発光ビーズ153(I)から得られる発光強度に対して、特に分析用ビーズ155(III)からの発光が小さく十分な強度を持って計測ができてない。模式図では分かり易くするためノイズについては明示していないが、実際にはノイズに対して十分な信号強度が得られない状態にある。図9(D)(E)は図9(B)(C)に引き続く化学発光計測時のスキャン位置とその時に得られる信号強度の対応を示す図である。ここでは、分析用ビーズ155(III)のS/N比を改善する為、繰り返して測定するスキャン方式を示している。標準粒子153(I)を測定し、それから分析用ビーズ155(III)を繰り返し測定する。実際にはここに示されるスキャンの方式を20回繰り返してシグナルを測定した。この信号強度の変化曲線を用いて、強度を算出するために、次のような補正を行った。まず、標準発光ビーズ153から得られたピークの強度をそれぞれ周辺のバックグラウンドから差し引いて正味のピーク強度を算出する。次にこの正味のピーク強度の経時変化を用いて標準発光ビーズの発光の減衰曲線を作成する。ここで得られる減衰曲線は、指数関数y = a* exp( -b*t)(y:信号強度、t:時間、a,b:定数)の形に記述できる。分析用ビーズ155(V、VII)からの信号強度は十分に高いので、減衰率を考慮に入れて補正することで十分に精度の高い値が得られる。それぞれの正味のピーク強度yV、yVII、計測のタイミングをtV、tVIIとすると補正により時間t = 0の時点へ仮想的に補正した値yV(0)、yVII(0)はそれぞれyV(0)= yV÷exp( -b* tV)、yVII(0)= yVII/ exp( -b* tVII)と計算できる。これは減衰を考慮に入れた補正値である。標準発光計測用ビーズ153(I)との強度比較はaとyV(0)、yVII(0)を比較すればよい。分析用ビーズ155(III)からの発光強度は小さいが補正を含めた積算を行うことで精度の高い比較ができる。発光強度が小さいので正確なピークの判定は本来難しいが、ここではCCDカメラでのビーズ位置の判定を利用して、ビーズの中心をスキャンしているタイミングでのピークの強度を周辺のバックグラウンドから差し引いて正味のピーク強度として算出することができる。発光強度が小さくノイズに影響を受けた値がn=81(1+4×20)個得られることになる。これらの値そのものを平均しても、発光強度の時間変化を考慮したものではないため、不正確な値しか得られない。そこでそれぞれの値をyIIIk(kは1〜81、測定のタイミングはそれぞれtIIIk)を標準発光計測用ビーズの減衰曲線を元に、時間t = 0の時点の発光値へ補正した値yIIIk (0)= yIIIk / exp( -b* tIIIk)に補正し、それを平均して補正値yIII(0)=ΣyIIIk (0)÷nを求めた。標準発光ビーズとの発光強度の比較は、aとこの補正値yIII(0)を比較することで可能となる。この方法により、発光強度が小さいピークに対しては繰り返し測定を行い、実質的に積分してS/Nを上げることができる。この方法により発光強度が小さいビーズに対しても正確に発光強度を求め、他のビーズの発光強度と比較することができる。
これまでの実施例では、図1に示した光学系を用い、光電子増倍管を用いて発光強度を検出し、同時にCCDカメラを用いてビーズの位置を認識しているが、本方法の実施はこの光学系に限られない。例えば、図1で使用した光学系に対して、ダイクロイックミラー118、光学フィルター119、結像レンズ120、CCDカメラ121を使用せず、光電子増倍管115への信号取り込みだけで計測を行うことも可能であるし、また逆に図1で使用したダイクロイックミラー118を通常のミラーに変更し、光学フィルター117、結像レンズ113、光学スリット114、光電子増倍管115を使用せず、CCDカメラ121のみを用いた系で計測することも可能である。また例えば、図1で使用したダイクロイックミラー118を通常のミラーに変更し、ビーズアレイに対してスキャンを行い、CCDカメラ121に入る画像を用いてビーズの位置認識を行ってビーズ毎のスキャン位置を確定させた後ミラーを外し、その後光電子増倍管で発光の信号をとる方法や、逆に先にミラーを外して光電子増倍管で発光の信号をとった後、ミラーを設置しビーズの位置認識をCCDカメラを用いて行うことも可能である。またCCDカメラのみを用いる光学系を用いて、ビーズアレイ全体を写すような光学系を設定し、ビーズアレイの像を取ってビーズの位置認識をした後、ビーズからの化学発光を計測することもできる。その他には、図10に示すように光電子増倍管を2本使う系などが考えられる。これは図1で説明した光学系に対して、CCDカメラ121周辺の構成を光電子増倍管用に変更したもので、光学フィルター161、結像レンズ162、光学スリット163、光電子増倍管164で構成される。光電電子増倍管115の前段の光学系と同様に、光学スリット163の位置で結像するように光学系を設定し、空間的な分解能を確保するために光学スリット163で光をスキャンの長手方向に遮る。この新しく設置した光電子増倍管164では取り外したCCDに変わってビーズの位置認識を行う。ビーズアレイ101をスキャンした際には発光波長以外の照明で照射されたビーズアレイの像が光電子増倍管164に入り信号として計測される。そこではビーズアレイ101中のビーズの位置などを反映した信号強度の変化が得られるため、これを用いてCCDカメラの場合と同様にビーズの位置認識を行うことができる。CCDカメラを用いた系の方が画像であるため正確なビーズ位置の認識は容易であるが、光電子増倍管を用いたこの系の方が、装置を安価に構成できる利点がある、またこれまで述べた光電子増倍管やCCDカメラの他にフォトダイオードなど他の光学素子を使う方法も上記補正に適用できる。
本計測・補正方法のビーズアレイへの適用時には、ビーズアレイ中でのビーズは発光基質送液中にも少し動く場合がある。例えば光ファイバー先端を測定対象のビーズに近づけて固定し、光ファイバーの逆端を光電子増倍管で計測した場合、ビーズの位置が光ファイバーに対して一定しないことがあるため、発光強度の経時変化の曲線が少し波打ち正確な測定ができない場合がある。しかし、実施例で示したようなスキャン方式の場合には、ビーズが微動しても中心位置での計測が必ず行われ、この微動による検出結果のゆれを避けることができる。また、ビーズの位置を正確に認識して発光強度を計測することも、より正確な発光強度の計測に効果がある。
また、これまでの実施例では化学発光分析対象としてビーズアレイを用いているが、本方法は必ずしもこの構造に限定されるものではない。化学発光分析の対象となる物質が実質的に固相の表面に存在しており、化学発光基質の濃度が十分高くかつその溶液が送液されている系であればよい。例えばマイクロ流路の内壁を固相として利用し、そのマイクロ流路に対して発光基質を送液するような系であればよい。マイクロ流路の構造としては、例えばキャピラリーの内壁にて化学分析を行うものや、切削もしくは金型加工にて作製した樹脂製のマイクロチップの内壁にて化学分析を行うものなどが考えられる。それ以外にも、流路内部へ微粒子を充填して配列した系などが適用可能である。
また、これらの実施例ではペルオキシダーゼ、ルミノール、過酸化水素を用いた化学発光計測の計測に限定して説明しているが、本方法で使用できる化学発光の反応系はこれに限られるものではない。生化学計測で一般に使用される化学反応系は、基本的に適用することができる。例えば、アルカリフォスファターゼを用いた化学発光反応系やルシフェリン−ルシフェラーゼを用いた化学発光反応系を適用することも可能である。この際にはそれぞれの発光波長に合わせて光学系の光学フィルターやダイクロイックミラー等を適宜変更すればよい。
図11は補正の概要を示すフローチャート図である。図11(A)は第1の実施例の補正のフローチャート、図11(B)は第2の実施例の補正のフローチャートを記載している。図11(A)に示す通り、本発明では、流路中に発光基質を流しながら、化学発光を検出し、発光位置と検出シグナルを対応させ、その対応によりそれぞれの発光領域(少なくとも1つの発光領域でもよい)からの発光強度の変化を計測して減衰曲線を作成し、その減衰曲線を用いて発光強度を補正し、補正された化学発光強度を表示する。また、図11(B)に示す通り、本発明では、流路中に発光基質を流しながら、化学発光を検出し、発光位置と検出シグナルを対応させ、その対応によりそれぞれの発光領域(少なくとも1つの発光領域でもよい)からの発光強度の変化を計測して減衰曲線を作成し、その減衰曲線を用いて発光強度を補正し、補正された化学発光強度を積算し、積算された発光強度を表示する。詳細については実施例の中で記述した通りである。
図12は補正に係る装置構成を表す図である。本構成では、流路中に発光基質を流しながら化学発光を検出する発光計測部と、その計測を制御する分析制御部、分析を処理する分析処理部と、結果を出力する出力表示部がある。分析処理部には、計測時間と計測位置を対応させる計算を行う計測時間ー計測位置対応計算部、計測された発光強度をもちいて減衰曲線を計算により求める減衰曲線計算部、減衰曲線を用いて発光強度の補正計算を行う補正計算部がある。また、本構成では分析処理部に、発光することが予想される領域または発光している領域を認識する発光領域認識部、認識した発光領域とその計測時間の対応を計算する計測時間−発光領域対応計算部、複数回測定された同一発光領域からの光の積算計算を行う積算計算部、のいずれかが含まれる場合もある。また、計測時間ー計測位置対応計算部、発光領域認識部、計測時間−発光領域対応計算部には、固相領域の位置を識別する位置識別手段、前記位置と前記検出部の検出結果とを対応させる位置対応手段、固相を認識するための固相認識手段が含まれても良い。詳細については実施例の中で記述した通りである。
101:ビーズアレイ、102:キャピラリー配管、103:シリンジ、104:シリンジポンプ、105:キャピラリー配管、106:廃液チューブ、111:化学発光計測光学系全体、112:対物レンズ、113:結像レンズ、114:光学スリット、115:光電子増倍管、116:パソコン、117:光学フィルター、118:ダイクロックミラー、119:光学フィルター、120:結像レンズ、121:CCDカメラ、122:照明、123:暗箱、131:ビーズ、132:キャピラリー、151:ビーズアレイ、152:キャピラリー、153:標準発光ビーズ、154:遮光用ビーズ、155:分析用ビーズ、161:光学フィルター、162:結像レンズ、163:光学スリット、164:光電子増倍管、200:ストッパー、201:ストッパー。