JP5089556B2 - 腸壁内神経系再生促進剤 - Google Patents
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また、胃腸管筋肉組織中のICCのネットワーク系により、電気的なペースメーカー活動が生み出され、胃腸運動に特徴的な頻度および伝達様式がコントロールされていることも報告されている。従って、腸壁内神経系とICCは胃・小腸・大腸運動を協調的にコントロールしていると考えられる。
非特許文献8には、腸壁内神経系が再生した後には腸壁内の5−HT4受容体を介してモサプリドが直腸−直腸収縮反射と直腸−内肛門括約筋弛緩反射を促進することが記載されている。
(1)4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドまたはその生理学的に許容される塩を有効成分とする腸壁内神経系再生促進剤。
(2)生理学的に許容される塩がクエン酸塩である(1)に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
(3)更に生体分解性材料を含む(1)または(2)に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
(4)生体分解性材料がゼラチン吸収性スポンジである(3)に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
(5)腸管切除術後の腸管吻合部に局所投与することを特徴とする(1)または(2)に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
(6)生体分解性材料に吸収させて投与することを特徴とする(5)に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
(7)生体分解性材料がゼラチン吸収性スポンジである(6)に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
本発明にかかわる化合物A、即ち、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドは、下記式で表される化合物である。
本発明の腸壁内神経系再生促進剤を投与する対象物は、ヒトを含む動物である。本発明の腸壁内神経系再生促進剤は特にヒトにおける治療に有用である。
注射剤の形で投与する場合には、液剤を静脈内(点滴を含む)、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内等に投与することができる。また液剤を生体分解性材料、例えばゼラチン吸収性スポンジに吸収させて腸管に投与してもよい。
本発明の腸壁内神経系再生促進剤が液剤の場合で、ゼラチン吸収性スポンジ等の生体分解性材料に吸収させて局所投与する際には、その液剤の濃度は、例えば、1μM〜100μM、好ましくは5μM〜50μMである。
腸壁内神経系再生促進剤とは、上記腸壁内神経系の再生(例えば、神経線維の伸長や神経線維どうしの結合、新神経細胞への分化)を促進する薬剤であり、本発明においては、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドまたはその生理学的に許容される塩を有効成分として含有する薬剤である。
生体分解性材料とは、生体内の分解酵素、酸またはアルカリ等によって分解する材料であって、体液の浸透を許容する多孔質であることが特徴であり、例えば、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク質、ポリペプチド、多糖類、ポリ乳酸またはポリグリコール酸が挙げられる。生体分解性材料は、生体吸収性材料と呼ばれることもある。生体分解性材料としては、例えば、ゼラチン吸収性スポンジ等が挙げられる。
化合物Aを含む液剤を生体分解性材料(例えばゼラチン吸収性スポンジ)に吸収させ、腸管吻合部を覆うように貼付し固定する。例えば、腸壁と膀胱の間に挿入すると固定し易い。
生体分解性材料の長さとしては、化合物Aを2週間以上保持できるサイズを満たすように生体分解性材料の幅および層の厚さにあわせて適宜調整し得るが、例えば、腸管吻合部の外周の1/5〜1倍の長さを有するのが好ましい。生体分解性材料の腸管への固定のし易さの点から、腸管の外周の1/2〜1倍の長さを有するのが更に好ましい。
生体分解性材料の幅としては、化合物Aを2週間以上保持できるサイズを満たすように生体分解性材料の長さおよび層の厚さにあわせて適宜調整し得るが、腸管吻合部を覆うことができる幅を有するのが好ましい。
本発明の腸壁内神経系再生促進剤は、直腸癌、炎症性腸疾患、ヒルシュスプルング病、糖尿病、加齢変化などの腸壁内神経系の異常を伴う疾患の治療剤への応用が期待できる。
モルモット腸壁内神経損傷モデルにおける腸壁内神経系再生促進作用
1.実験動物
本試験例の実験動物としてモルモットを使用した。モルモットは、腸管の運動や腸壁内神経系の研究に最適な実験動物として使用されてきた。ウレタン麻酔をしたモルモットにおいては、直腸−直腸収縮反射と直腸−内肛門括約筋弛緩反射から構成される排便反射の反応は、一定の間隔(少なくとも20分間)をおけば、繰り返し確実に得ることができ、直腸壁内神経系の再生過程をフォローするには最適である。直腸−直腸収縮反射反応と直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応を引き起こすための直腸伸展刺激(5分間)は、直腸(術後はネオ直腸)に挿入したバルーンに温水0.6mlを注入して行う。この方法はTakakiらの長年の研究により得られたものであり(前記非特許文献2、6〜8およびJ Smooth Muscle Res 42:139−147,2006)、糞便2個が直腸に運搬されてきた状態を再現している最適の刺激条件である。
直腸−内肛門括約部で機能している外来神経は骨盤神経と腰部結腸神経である。下腹神経は排便反射機構に関与していない。直腸壁にそって進入してくる骨盤神経は損傷を受けている可能性はあるが、腰部結腸神経は脈管系を損傷しないように直腸壁を切離すれば無傷に保つことができる(図1)。そこで、モルモットをネンブタール40mg/kg腹腔内注射することによって麻酔した後、開腹し、肛門縁より3cmの直腸を脈管神経は温存して切離後、全層単結節縫合により直腸吻合を行い、腸壁内神経の損傷(切断)モデルを作製した(図2)。腸壁内神経系を切断されたモルモットは、その後8週間、動物実験施設にて飼育した。1、2、4、8週目にウレタン麻酔下に排便反射の回復の成否は生理学的実験により検証し、さらに、排便反射に寄与する腸壁内神経系の再生の成否をニューロフィラメント抗体を用いて免疫組織学的に検証した。
腸壁内神経損傷モデルモルモットの腸管への前記化合物A’の局所投与においては、化合物A’をDMSOに溶解させ、濃度を1μM〜100μMに調整し、該DMSO溶液50−100μlを、2週間以上は十分作用できる適切なサイズ(例えば、3mm×8mm)のゼラチン吸収性スポンジ〔スポンゼル(アステラス社製、登録商標)〕に十分含ませた後、直腸吻合部の腸壁と膀胱の間に挿入し、腸管の外周に沿ってしっかりと固定した。対照群では生理食塩水を十分含ませたスポンゼル(アステラス社製、登録商標)を直腸吻合部の腸壁と膀胱の間に挿入して固定した。
免疫組織染色のための標本を切り出す際にスポンゼルのおいた部位に多少痕跡が残るので、それにより作用させた部位を確認する。
4.直腸−直腸収縮反射反応と直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応の記録
本発明において損傷された腸壁内神経系の再生の成否を生理学的に検証するために、直腸−直腸収縮反射反応と直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応の記録は重要である。
直腸−直腸収縮反射反応は、肛門縁より5cmの直腸に1.5cmの長さのバルーンを挿入し、0.6mlの温水を1.5ml/minの速度で注入して(24秒間)、そのまま4分36秒間クランプする。総計5分間バルーンを伸展することになる。バルーンは圧トランスデユーサに連結する。従って、この5分間に伸展圧曲線に重畳して強い直腸の反射性収縮が数回記録される。この圧シグナルはA/Dコンバータを介してコンピュータに入力される。同時に、直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応の記録は肛門から挿入して水平に固定された馬蹄型のストレインゲージフォーストランスデューサによってブリッジバランスをとる入力箱を介して同様にA/Dコンバータを介してコンピュータに入力される(図3)。直腸−直腸収縮反射反応とちょうど鏡像の弛緩反応が記録できる。この内肛門括約筋運動の記録方法は発明者が考案した独自のもので、直腸の収縮が混入する危険性は全くない独創的な方法である。外肛門括約筋の収縮は筋弛緩薬であるガラミンを静脈注射することによってその関与は除外している。
直腸−直腸収縮反射反応と直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応は5分間の測定で得られる反射面積を求める。デジタルデータとして入力されているのでコンピュータソフト(Origin6.1J; OriginLab Corporation) を使って反射面積を算出する。このとき、最初のピークは、神経毒を作用させても消失しないので反射面積からは除外する(図4)。コントロール群(無傷群)の反射面積の平均値を1として各例の反射指標を算出する。この反射指標は、反射反応の頻数が変化した場合も、振幅が変化した場合も総合的に変化が捉えられる指標として発明者らが考案した(前記非特許文献2)。
排便反射の測定が終わった後、吻合部を含む直腸のホールマウント標品は粘膜と粘膜下層と一部輪送筋層を除き、ニューロフィラメント抗体やc−Kit抗体による免疫染色を行うためにアセトン中で固定した(4℃、1時間)。ニューロフィラメントの免疫染色のためには、染色のための組織標品を4%パラホルムアルデヒド中で固定した(4℃、10分間)。固定後、標品をリン酸緩衝食塩水(PBS、0.1M、pH7.4)中で30分間洗浄した。非特異的な抗体の結合を0.3%(v/v)Triton−X 100(PBS−TX)、10%正常ヤギ血清を含むPBS中、室温にて12時間インキュベートすることにより除去した。組織は、c−Kitタンパク質に対するラットモノクローナル抗体(ACK45、PBS中5μg/ml、BD Bioscience, SanJose、CA)と共に2晩4℃でインキュベートした。または、ニューロフィラメントタンパク質に対するウサギポリクローナル血清カクテル(NF、PBS中5μg/ml、BIOMOL International LP, Philadelphia)と共に2晩4℃でインキュベートした。この血清カクテルは神経細胞体、樹状突起、軸索(thickおよびthinの双方を含む)に反応する。Kitに対する抗体反応は、AlexaFlour(登録商標)488−結合二次抗体(Alexa Flour488(登録商標)ヤギ抗ラット;Molecular Probes Inc. Eugene、OR; PBS中1:200、室温にて遮光状態で48時間)、ニューロフィラメントに対しては、Texas Red結合二次抗体(Texas Redヤギ抗ウサギ;MP Biomedicals、Inc.、Aurora、OH;PBS中1:100、室温にて遮光状態で48時間)を用いて検出を行った。組織はBio−Rad MRC 600(Hercules、 CA)共焦点顕微鏡を用いて観察した。共焦点顕微鏡写真は、100−150μmの深さで10−15の光学セクションのZ軸方向のデジタルコンポジットである。最終的なイメージはComosソフトウェアー(Bio−Rad)で構築した。
従って、化合物A’の腸壁内神経系の再生促進効果を確認するため、化合物A’の投与後2週目における生理学実験および免疫組織学的実験を行った。
生理学実験
化合物A’のDMSO溶液を直腸吻合部に術後2週間局所投与した腸壁内神経損傷モルモットにおいて、ウレタン麻酔後、ガラミンで非動化し、人工呼吸下で、直腸−直腸収縮反射反応と直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応の記録を行う。図5は、DMSOのみの局所投与の対照実験で、図6は化合物A’のDMSO溶液(100μM)をスポンゼルに十分含ませて局所投与したときの代表的な2例を示す。DMSOのみでは、生理食塩水と同様直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応はほとんど起こらない(図5)。しかし、化合物A’を投与すると直腸−内肛門括約筋弛緩反射反応は、直腸−直腸収縮反射反応のほぼ鏡像で得ることができた(図6)。化合物A’のDMSO溶液(10μM)の場合も100μMのときと同様にして図7の結果を得た。
抗ニューロフィラメント抗体による、吻合部を含む直腸の染色像を図8に示す。図8を参照すると、生理食塩水を術後局所投与2週目では、腸壁内神経はまだ十分再生されていない。一方、化合物A’を術後局所投与2週目では吻合部を越えて口側の腸壁内神経と肛門側の腸壁内神経がつながっているのが確認できた(図8)。
ステンレス製容器に注射用水2リットルを入れ、プロピレングリコール2.5kgを加え攪拌機で攪拌し、均一に混合した後、化合物A’26.45gを加え攪拌した。この白濁液に塩酸を徐々に加えて溶解し、最終的にpHを3.0に調節し、適量の注射用水を加え全量を5リットルとした。この液をろ過後、このろ液をアンプル充填熔閉機で2ml無色アンプルに2mlずつ充填、熔閉後、高圧蒸気滅菌機で滅菌(121℃、20分間)し、液剤とした。
化合物A’ 10g
乳糖 32g
トウモロコシデンプン 71g
結晶セルロース 30g
ヒドロキシプロピルセルロース 5g
軽質無水ケイ酸 1g
ステアリン酸マグネシウム 1g
合計 150g
化合物A’ 20g
D−マンニトール 935g
ヒドロキシプロピルセルロース 30g
ステアリン酸マグネシウム 10g
軽質無水ケイ酸 5g
合計 1000g
Claims (8)
- 腸壁内神経系の異常を伴う疾患において腸壁内神経系の損傷を受けた患者に投与することを特徴とする、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドまたはその生理学的に許容される塩を有効成分とする腸壁内神経系再生促進剤。
- 腸壁内神経系の異常を伴う疾患が、直腸癌、炎症性腸疾患、ヒルシュスプルング病、糖尿病または加齢変化である請求項1に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
- 生理学的に許容される塩がクエン酸塩である請求項1または2に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
- 更に生体分解性材料を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
- 生体分解性材料がゼラチン吸収性スポンジである請求項4に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
- 腸管切除術後の腸管吻合部に局所投与することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
- 生体分解性材料に吸収させて投与することを特徴とする請求項6に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
- 生体分解性材料がゼラチン吸収性スポンジである請求項7に記載の腸壁内神経系再生促進剤。
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