以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
(第1の実施の形態)
本実施の形態のコアシェル型磁性材料は、Fe,Co,Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属と、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含む非晶質の磁性金属粒子;および、この磁性金属粒子の少なくとも一部の表面に被覆され、磁性金属粒子の構成成分の1つである非磁性金属を少なくとも1つ含む酸化物からなる酸化物被覆層;を含むコアシェル型磁性粒子を備えている。
上記構成を有することにより、高い周波数帯域、特にGHz帯域で優れた特性を有するコアシェル型磁性材料が実現される。具体的には、所望の高周波数帯域で高透磁率(高いμ’、低いμ’’)と絶縁性が実現でき、例えば、アンテナ装置に好適な伝送損失を極力抑えた磁性材料が提供される。また、所望の高周波数帯域での電波吸収体に好適な吸収特性に優れた磁性材料が提供される。さらに、長時間の磁気特性の熱的安定性に優れた磁性材料が提供される。
磁性金属粒子に含有する磁性金属は、Fe,Co,Niからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、特にFe基合金、Co基合金、FeCo基合金が高い飽和磁化を実現できるために好ましい。Fe基合金は、第2成分としてNi,Mn,Cuなどを含有する、例えばFeNi合金、FeMn合金、FeCu合金を挙げることができる。Co基合金は、第2成分としてNi,Mn,Cuなどを含有する、例えばCoNi合金、CoMn合金、CoCu合金を挙げることができる。FeCo基合金は、第2成分としてNi,Mn,Cuなどを含有する合金を挙げることができる。これらの第2成分は、コアシェル型磁性粒子の高周波磁気特性を向上させるために効果的な成分である。
磁性金属の中でも、特にFeCo基合金を用いることが好ましい。FeCo中のCo量は、熱的安定性および耐酸化性と2テスラ以上の飽和磁化を満足さえる点から10原子%以上50原子%以下にすることが好ましい。更に好ましいFeCo中のCo量は、より飽和磁化を高める観点から20原子%以上40原子%以下の範囲である。
磁性金属粒子に含有する非磁性金属は、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属である。これら非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、且つ磁性金属粒子を被覆する酸化物被覆層の構成成分の1つとして含まれ、その絶縁性を安定的に付与できる。中でも、Al,Siは磁性金属粒子の主成分であるFe,Co,Niと固溶し易く、コアシェル型磁性粒子の熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。特に、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素を用いた場合は熱的安定性および耐酸化性が高くなるために好ましい。
非磁性金属の量は、高い熱的安定性、高い耐酸化性、高い飽和磁化を満足させる点から磁性金属に対して0.001原子%以上25原子%以下含むことが好ましい。その中でも、0.001原子%以上5原子%以下含むことがより好ましく、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下である。特に、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素(共存する場合はあわせたもの)を用いた場合は磁性金属に対して0.001原子%以上5原子%以下含まれることが望ましい。
磁性金属粒子は非晶質である。非晶質であることにより、磁性金属粒子の電気抵抗を大きくすることができるため、渦電流損失による透磁率の低下を抑制することが挙げられる。また、結晶化したものと比べると、耐酸化性や耐食性に優れるという利点も挙げられる。また、非晶質であることは、結晶磁気異方性がないことを意味しており、高い透磁率を実現することが可能になる。更には、非晶質の場合、磁場によって容易に一方向に磁気異方性を誘導させることが可能となり、優れた高周波磁気特性を実現することが出来る。
磁性金属粒子は、非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属が含まれることが好ましい。これらの添加金属は、磁性金属粒子の結晶相を非晶質(アモルファス)化させるのに有効な金属であり、その中でも特にB、Nb、Zr、Hfが有効であり、Bが最も効果的である。
添加金属は、高い熱的安定性、高い耐酸化性、高い飽和磁化、高い透磁率を満足させる点から磁性金属粒子全体に対して0.001原子%以上25原子%以下含むことが好ましい。特に、添加元素としてBを用いた場合のB量は、磁性金属粒子全体に対して、9原子%以上25原子%以下であることが好ましい。Bが9原子%より少ないと、磁性金属粒子の非晶質化が困難になり、25原子%より多いと、磁性金属粒子中に含まれる磁性相の割合が減り、透磁率が低くなってしまい好ましくない。
添加金属として、Bの一部をNbまたはZrまたはHfのうち少なくともいずれか1つと置き換えることも効果的である。Nb、Zr、Hfは磁性金属相の結晶化温度を上昇させる効果があり、磁性金属粒子の非晶質化を促進させることが可能となり好ましい。この場合、添加金属がNbまたはZrまたはHfのうち少なくともいずれか1つと、Bとを含み、磁性金属粒子全体に対してNbまたはZrまたはHfの合計の割合が、0.5原子%以上7原子%以下で、且つ、磁性金属粒子全体に対してBの割合が、4原子%以上20原子%以下であることが、高い熱的安定性、高い耐酸化性、高い飽和磁化を満足させる点から好ましい。
磁性金属粒子に含まれる磁性金属、非磁性金属および添加金属のうちの少なくとも2つは、互いに固溶していることが好ましい。固溶することによって、磁性金属粒子の非晶質化を促進させることができる上に、熱的安定性、耐酸化性を向上することが可能になるため、高周波磁気特性を向上することができる。また、コアシェル型磁性粒子の機械的特性を向上することができる。すなわち、固溶せずに磁性金属粒子の粒界や表面に偏析すると、機械特性を効果的に向上させることが困難になるおそれがある。
磁性金属粒子は、非晶質であるが、部分的に結晶化していることを排除するものではない。磁性金属粒子が非晶質であることは、X線回折パターンや、電子線回折パターンから判断できる。X線回折パターンでは、結晶の場合のようなシャープな強いピークではなく、ブロードな弱いピークが現れる。電子線回折パターンでは、明瞭なスポットではなく、ハローリングが現れる。本明細中における非晶質とは、X線回折における磁性相の最強ピークの半値幅が、0.4°以上、より好ましくは、3.0°以上の状態である。
磁性金属粒子の組成分析は、例えば以下の方法で行うことができる。例えばAlのような非磁性金属や、添加金属の分析は、ICP発光分析、TEM−EDX、XPS、SIMSなどの方法を挙げることができる。ICP発光分析によれば、弱酸などにより溶解した磁性金属粒子(コア)部分と、アルカリや強酸などにより溶解した残留物(酸化物シェル)、および粒子全体との分析結果を比較することにより、磁性金属粒子の組成を確認、すなわち磁性金属粒子中の非磁性金属や添加金属の量を測定できる。
また、TEM−EDXによれば磁性金属粒子(コア)とシェルにビームを絞ってEDXを照射し、半定量することにより、磁性金属粒子の大体の組成を確認できる。更に、XPSによれば磁性金属粒子を構成する各元素の結合状態を調べることもできる。
磁性金属粒子は、平均粒径が1nm以上1000nm以下、好ましくは1nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上50nm以下であることが望ましい。平均粒径を10nm未満にすると、超常磁性が生じて磁束量が低下するおそれがある。一方、平均粒径が1000nmを超えると、高周波領域で渦電流損が大きくなり、目的とする高周波領域での磁気特性が低下するおそれがある。
コアシェル型磁性粒子において、磁性金属粒子の粒径が大きくなると、磁気構造としては単磁区構造よりも多磁区構造の方がエネルギー的に安定になる。この時、多磁区構造のコアシェル型磁性粒子は単磁区構造のそれに比べて透磁率の高周波特性が低下する。このようなことから、コアシェル型磁性粒子を高周波用磁性部材として使用する場合は、単磁区構造を有する磁性金属粒子として存在させることが好ましい。
単磁区構造を保つ磁性金属粒子の限界粒径は、50nm程度以下であるため、その磁性金属粒子の平均粒径は50nm以下にすることが好ましい。以上の点から、磁性金属粒子は平均粒径が1nm以上1000nm以下、好ましくは1nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上50nm以下であることが望ましい。
磁性金属粒子は、球状でもよいが、大きいアスペクト比(例えば10以上)を持つ偏平状、棒状であることが好ましい。棒状には回転楕円体も含む。ここで、「アスペクト比」とは高さと直径の比(高さ/直径)を指す。球状の場合は、高さも直径と等しくなるためアスペクト比は1になる。偏平状粒子のアスペクト比は(直径/高さ)である。棒状のアスペクト比は(棒の長さ/棒の底面の直径)である。但し、回転楕円体のアスペクト比は(長軸/短軸)となる。
アスペクト比を大きくすると、形状による磁気異方性を付与することができ、透磁率の高周波特性を向上させることができる。その上、コアシェル型磁性粒子を一体化して所望の部材を作製する際に磁場によって容易に配向させることが可能になり、さらに透磁率の高周波特性を向上させることができる。また、アスペクト比を大きくすることによって、単磁区構造となる磁性金属粒子の限界粒径を大きくする、例えば50nmを超える粒径にする、ことができる。球状の磁性金属粒子の場合には単磁区構造になる限界粒径が50nm程度である。アスペクト比の大きな偏平状の磁性金属粒子では限界粒径を大きくでき、透磁率の高周波特性は劣化しない。
一般に粒径の大きな粒子の方が合成し易いため、製造上の観点からアスペクト比が大きい方が有利になる。さらに、アスペクト比を大きくすることによって、磁性金属粒子を有するコアシェル型磁性粒子を一体化して所望の部材を作製する際、充填率を大きくすることができるため、部材の体積当たり、重量当たりの飽和磁化を大きくすることができ、結果として透磁率も大きくすることが可能となる。
磁性金属粒子の少なくとも一部の表面を被覆する酸化物被覆層は、磁性金属粒子の構成成分の1つである非磁性金属を少なくとも1つ含む酸化物もしくは複合酸化物からなる。この酸化物被覆層は、内部の磁性金属粒子の耐酸化性を向上させるのみならず、酸化物被覆層で覆われたコアシェル型磁性粒子を一体化して所望の部材を作製する際にそれらの磁性粒子同士を電気的に離し、部材の電気抵抗を高めることができる。
部材の電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、酸化物被覆層は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrからなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属は、前述したように酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。このような非磁性金属を少なくとも1つ以上含む酸化物もしくは複合酸化物からなる酸化物被覆層は、磁性金属粒子に対する密着性・接合性を向上でき、磁性金属粒子の熱的な安定性も向上できる。
非磁性金属の中でAl,Siは、磁性金属粒子の主成分であるFe,Co,Niと固溶し易く、コアシェル型磁性粒子の熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。複数種の非磁性金属を含む複合酸化物は固溶した形態も包含される。
酸化物被覆層は、0.1nm以上100nm以下、さらに好ましくは0.1nm以上20nm以下の厚さを有すること好ましい。酸化物被覆層の厚さを0.1nm未満にすると、耐酸化性が不十分になると共に、酸化物被覆層で覆われたコアシェル型磁性粒子を一体化して所望の部材を作製する際に部材の抵抗が低下して渦電流損失を発生し易く、透磁率の高周波特性を劣化するおそれがある。
一方、酸化物被覆層の厚さが100nmを超えると、酸化物被覆層で覆われたコアシェル型磁性粒子を一体化して所望の部材を作製する際、酸化物被覆層の厚さ分だけ部材中に含まれる磁性金属粒子の充填率が低下して、部材の飽和磁化の低下、それによる透磁率の低下を招くおそれがある。
本実施の形態のコアシェル型磁性材料は、例えば粉末、バルク(ペレット状、リング状、矩形状など)、シートを含む膜状等の形態が挙げられる。
磁性シートは、コアシェル型磁性材料と、樹脂とを含有する。コアシェル型磁性材料は、シート全体に対して10%以上70%以下の体積率を占めることが望ましい。体積率が70%を超えると、シートの電気的抵抗が小さくなり渦電流損失が増加し高周波磁気特性が劣化するおそれがある。体積率を10%未満にすると、磁性金属の体積分率が低下することで磁性シートの飽和磁化が低下し、それにより透磁率が低下するおそれがある。また、樹脂もしくはセラミックスは5%以上80%以下の体積率を占めることが望ましい。5%未満にすると、粒子同士が結着できずシートとしての強度が低下するおそれがある。80%を超えると、磁性金属粒子がシートに占める体積率が低下し、透磁率が低下するおそれがある。
樹脂は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル−ブタジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、或いはそれらの共重合体が用いられる。
また、樹脂の代わりに酸化物、窒化物、炭化物などの無機材料を用いてもよい。無機材料は、具体的にはMg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属を含む酸化物、AlN、Si3N4、SiC等を挙げることができる。
磁性シートの作製方法は、特に限定されないが、例えばコアシェル型磁性材料と、樹脂と、溶媒とを混合し、スラリーとし、塗布、乾燥することで作製することができる。また、コアシェル型磁性材料と樹脂との混合物をプレスしてシート状あるいはペレット状に成型してもよい。更に、コアシェル型磁性材料を溶媒中に分散させ、電気泳動などの方法により堆積してもよい。
磁性シートは、積層構造にしてもよい。積層構造にすることによって容易に厚膜化することが可能になるのみならず、非磁性絶縁性層と交互に積層することによって高周波磁気特性を向上させることが可能となる。すなわち、コアシェル型磁性材料を含む磁性層を厚さ100μm以下のシート状に形成し、このシート状磁性層を厚さ100μm以下の非磁性絶縁性酸化物層とで交互に積層した積層構造を有することによって、高周波磁気特性が向上する。すなわち、磁性層単層の厚さを100μm以下にすることによって、面内方向に高周波磁場を印加した時に、反磁界の影響を小さくすることができ、透磁率を増大させることが可能になるのみならず透磁率の高周波特性が向上する。積層方法は特に限定されないが、磁性シートを複数枚重ねてプレスなどの方法で圧着したり、加熱、焼結させたりすることによって積層することができる。
以上説明したコアシェル型磁性材料において、Fe,Co,Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属と、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含む非晶質の磁性金属粒子は高い飽和磁化と高い透磁率、高い熱的安定性、高い耐酸化性を有する。また、この磁性金属粒子の少なくとも一部の表面に被覆された磁性金属粒子の構成成分の1つである非磁性金属を少なくとも1つ含む酸化物からなる酸化物被覆層は高い絶縁性を有する。その結果、飽和磁化が高く、且つ、透磁率の高い磁性金属粒子の表面を絶縁性の高い酸化物被覆層で被覆することによって、高周波での損失の要因となる渦電流損失を抑制でき、さらに熱的安定性の高いコアシェル型磁性材料を得ることができる。
(第2の実施の形態)
本実施の形態のコアシェル型磁性材料は、磁性金属粒子間の少なくとも一部に存在し、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含み、粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、酸化物被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きい酸化物粒子を含むこと以外は第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
磁性金属粒子間の少なくとも一部に存在する酸化物粒子は、非磁性金属を少なくとも1つ含む酸化物もしくは複合酸化物からなる。ここで、磁性金属粒子(コア)間の少なくとも一部に存在するとは、酸化物粒子がコアに直接接してコア間に存在しても、シェルに接することによってコア間に存在しても構わない。
この酸化物粒子は、酸化物被覆層と同様に、磁性金属粒子の耐酸化性、凝集抑制力、即ち磁性金属粒子の熱的安定性を向上させるのみならず、酸化物被覆層で覆われたコアシェル型磁性粒子を一体化して所望の部材を作製する際にそれらの磁性粒子同士を電気的に離し、部材の電気抵抗を高めることができる。部材の電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、酸化物粒子は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
酸化物粒子は、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrからなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む。これら非磁性金属は、前述したように酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。そして、この酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、酸化物被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きくなっている。このように、非磁性金属の割合が高いため、酸化物粒子は酸化物被覆層よりもさらに熱的に安定である。このため、このような酸化物粒子が、磁性金属粒子間の少なくとも一部に存在することによって、磁性金属粒子同士の電気的絶縁性をより向上させることができ、また、磁性金属粒子の熱的な安定性を向上させることが出来る。
なお、酸化物粒子は、磁性金属粒子に含まれる非磁性金属と同種、すなわち、酸化物被覆層に含まれる非磁性金属と同種の非磁性金属を含む酸化物粒子であることがより好ましい。同種の非磁性金属を含む酸化物粒子であることによって、磁性金属粒子の熱的安定性がより向上するからである。
酸化物粒子は、平均粒径が1nm以上、100nm以下であることが好ましく、更には、酸化物粒子の粒径が磁性金属粒子の粒径よりも小さい事がより好ましい。平均粒径が1nm以下であると磁性金属粒子同士の電気的絶縁性及び磁性金属粒子の熱的な安定性が不十分であり好ましくない。また、平均粒径が100nm以上であるとコアシェル型磁性材料全体に含まれる酸化物粒子の割合が大きくなり、つまり、コアシェル型磁性材料全体に含まれる磁性金属粒子の割合が小さくなり、部材の飽和磁化の低下、それによる透磁率の低下を招くおそれがあり、好ましくない。酸化物粒子の粒径が磁性金属粒子の粒径が大きい場合も同様に部材の飽和磁化の低下、それによる透磁率の低下を招くおそれがあり好ましくない。以上の点から、酸化物粒子は平均粒径が1nm以上100nm以下であることが望ましく、且つ、酸化物粒子の粒径が磁性金属粒子の粒径よりも小さい事がより望ましい。
酸化物粒子によるコアシェル型磁性材料の高周波特性向上効果を得るためには、コアシェル型磁性材料中の磁性金属粒子間に酸化物粒子が多数存在していることが必要である。酸化物粒子の数については、磁性金属粒子の粒径と酸化物粒子の粒径によって異なるが、目安としては、酸化物粒子数が、コアシェル型磁性粒子数の10%より大きいことが望ましい。ただし、酸化物粒子数が、コアシェル型磁性粒子数に対してあまりにも大きいと、磁性金属粒子の減少による飽和磁化の低下が起こりこれによって透磁率の低下が見られるようになるため、酸化物粒子数が、目安として、コアシェル型磁性粒子数の200%未満であることが望ましい。ただし、上記はあくまで目安であり、磁性金属粒子の粒径と酸化物粒子の粒径によって多少異なる。即ち、酸化物粒子の粒径は先述の様に磁性金属粒子の粒径よりも小さい事が好ましいが、2つの粒径の割合、つまり、(酸化物粒子の粒径)/(磁性金属粒子の粒径)が比較的大き目の場合、酸化物粒子数は少なくても良く、(酸化物粒子の粒径)/(磁性金属粒子の粒径)が比較的小さ目の場合、酸化物粒子は多い方が望ましい。
なお、本実施の形態において、より優れた特性を実現するためには、酸化物被覆層の組成および膜厚、酸化物粒子の組成および粒径ができる限り均一に形成されていることが望ましい。
本実施の形態のコアシェル型磁性材料によれば、酸化物粒子が存在することにより、より一層の透磁率の高周波特性を向上と、熱的安定性の向上の実現が可能となる。
第1および第2の実施形態のコアシェル型磁性材料において、材料組織はSEM(Scanning Electron Microscopy)、TEM(Transmission Electron Microscopy)で、回折パターン(固溶の確認を含む)はTEM回折、XRD(X−ray Diffraction)で、構成元素の同定および定量分析はICP(Inductively coupled plasma)発光分析、蛍光X線分析、EPMA(Electron Probe Micro−Analysis)、EDX(Energy Dispersive X−ray Fluorescence Spectrometer)、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)等で、それぞれ判別(分析)可能である。磁性金属粒子、酸化物粒子の平均粒径は、TEM観察、SEM観察により、個々の粒子の最も長い対角線と最も短い対角線を平均したものをその粒子径とし、多数の粒子径の平均から求めることが可能である。また、酸化膜被覆層の膜厚はTEM観察によって求めることが可能である。
第1および第2の実施の形態のコアシェル型磁性材料の製造方法は、特に限定されない。例えば、磁性金属と非磁性金属と添加金属の複合粒子である磁性金属粒子を製造する工程と、複合粒子表面を炭素で被覆する工程と、炭素で被覆した複合粒子を還元雰囲気化において熱処理して炭素を除去する工程と、複合粒子を酸化し、磁性金属粒子表面に酸化物被覆層形成する工程とを経ることで製造が可能である。
複合粒子を製造する工程は、特に限定されないが、熱プラズマ法等を利用するのが好ましい。例えば、高周波誘導熱プラズマ装置にプラズマ発生用のガスとしてアルゴン(Ar)を流入し、プラズマを発生させ、ここに磁性金属と非磁性金属と添加金属が固溶した粉末を、Arをキャリアガスとして噴霧することによって、複合粒子が合成される。
複合粒子表面を炭素で被覆する工程は特に限定されないが、複合粒子を製造する工程において、炭素被覆の原料としてアセチレンガスやメタンガス等をキャリアガスに導入する等の方法が好ましい。これによって、磁性金属粒子に炭素被覆された粒子が得られる。
炭素で被覆した複合粒子を還元雰囲気下において熱処理して炭素を炭化水素化する工程は、特に限定されないが、還元雰囲気としては、例えば水素もしくは一酸化炭素、メタン等の還元性気体を含む窒素またはアルゴンの雰囲気、あるいは加熱対象物の周囲をカーボン材料で覆った状態での窒素またはアルゴンの雰囲気等で熱処理を施すことが好ましい。
また、還元性気体を含む窒素またはアルゴンの雰囲気は、気流により形成することが好ましく、その気流の流速は10mL/分以上にすることが好ましい。還元雰囲気中での加熱は、100℃〜800℃の温度で行うことが好ましい。加熱温度を100℃未満にすると還元反応の進行が遅くなるおそれがある。一方、800℃を超えると、析出した金属微粒子の凝集・粒成長が短時間で進行するおそれがある。還元温度と時間は、少なくとも炭素被覆層を還元できる条件であれば、特に限定されるものではない。また、還元時間は還元温度との兼ね合いで決まり、例えば10分間以上、10時間以下の範囲とすることが好ましい。
複合粒子を酸化する工程は、酸素やCO2等の酸化性雰囲気であれば良く、特に限定されない。酸素を用いる場合は、酸素濃度が高いと酸化が瞬時に進行し発熱などにより凝集の恐れがあるため不活性ガス中に酸素が5%以下であることが望ましく、より望ましくは10ppm〜3%の範囲が望ましいが特にこれに限定されるものでは無い。加熱温度は、室温〜800℃の温度で行うことが好ましい。800℃を超えると、磁性金属粒子の凝集・粒成長が短時間で進行し、磁気特性を劣化させるおそれがあり好ましくない。
以上のような、製造方法によって、実施の形態のコアシェル型磁性材料を製造することが可能となる。
(第3の実施の形態)
本実施の形態のデバイス装置は、第1または第2の実施の形態のコアシェル型磁性材料を有する高周波用デバイス装置である。したがって、第1または第2の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。このデバイス装置は、例えば、インダクタ、チョークコイル、フィルター、トランス等の高周波磁性部品や電波吸収体である。
このデバイス装置に適用するために、コアシェル型磁性材料は、種々の加工を施すことを許容する。例えば焼結体の場合は、研磨や切削等の機械加工が施され、粉末の場合はエポキシ樹脂、ポリブタジエンのような樹脂との混合が施される。必要に応じてさらに表面処理が施される。高周波磁性部品がインダクタ、チョークコイル、フィルター、トランスである場合には巻線処理がなされる。
本実施の形態のデバイス装置によれば、特にGHz帯域で優れた特性を有するデバイス装置が実現可能となる。
(第4の実施の形態)
本実施の形態のアンテナ装置は、第1または第2の実施の形態のコアシェル型磁性材料を有するアンテナ装置である。したがって、第1または第2の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。本実施の形態のアンテナ装置は、給電端子と、一端に給電端子が接続されるアンテナエレメントと、このアンテナエレメントから放射される電磁波の伝送損失を抑制するためのコアシェル型磁性材料を備えている。
図1は、本実施の形態のアンテナ装置の構成図である。図1(a)は斜視図、図1(b)は図1(a)におけるA−A矢視断面図である。コアシェル型磁性材料2が、給電端子4が一端に接続されるアンテナエレメント6と、配線基板8との間に設けられている。この配線基板8は、例えば、携帯機器の配線基板であり、例えば、金属の筐体で囲まれている。
例えば、携帯機器のアンテナが電磁波を放射する際、アンテナと、携帯機器の筐体などの金属とが、一定以上に近接すると、金属内に生じる誘導電流により電磁波の放射が妨げられてしまう。しかしアンテナ近傍にコアシェル型磁性材料を配置することで、アンテナと、筐体などの金属とを近接させても、誘導電流が発生せず、電波通信を安定化でき、携帯機器を小型化しうる。
本実施の形態のように、コアシェル型磁性材料2を、給電端子4を挟む2本のアンテナエレメント6と、配線基板8との間に挿入することで、アンテナエレメント6が電磁波を放射する際、配線基板8に生じる誘導電流を抑制し、アンテナ装置の放射効率を上げることができる。
(第5の実施の形態)
本実施の形態のアンテナ装置は、アンテナ装置が有限地板と、有限地板上方に設けられ、一辺が有限地板に接続され、この一辺と略平行な屈曲部を備える矩形導体板と、有限地板上方に有限地板と略平行に配置され、先の一辺に略垂直方向に延伸し、給電点が矩形導体板の先の一辺に対向する他辺の近傍に位置するアンテナと、有限地板とアンテナとの間の少なくとも一部の空間に設けられる磁性体とを有する。そして、この磁性体が第1または第2の実施の形態に記載したコアシェル型磁性材料である。したがって、第1または第2の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
なお、ここで上方とは、あくまで有限地板が下方にある場合を基準にした位置関係を示すための表現であり、必ずしも、常に鉛直方向に対して、上方にあることを示す表現ではない。また、上方とは2つの要素が接している場合も包含する概念とする。
図2は、本実施の形態のアンテナ装置の構成図である。図2(a)は斜視図、図2(b)は断面図、図2(c)は変形例の断面図である。
このアンテナ装置は、有限地板10と、有限地板10上方に設けられる矩形導体板12と、有限地板10上方に有限地板10と略平行に配置されるアンテナ14と、有限地板10とアンテナ14との間の少なくとも一部の空間に設けられる磁性体16とを有している。図2では、有限地板10と矩形導体板12との間に磁性体16が挿入される構成となっている。なお、図2(a)では、磁性体16については、アンテナ装置の構成を分かりやすくするために、アンテナ装置と分離して図示している。
また、図2(b)では、磁性体16と、有限地板10、矩形導体板12との間に空間を設けるよう図示している。しかしながら、磁性体16挿入の効果を高めるためには、これらの空間を排除し、磁性体16と有限地板10、矩形導体板12とを接触させることがより望ましい。更に、図2(b)では、磁性体16は矩形導体板12と有限地板の間にだけ挿入されているが、図2(c)の変形例の様に、矩形導体板12の外をはみ出してアンテナ14の部分にまで挿入されていても良いし、また、アンテナ14と矩形導体板12の間にも挿入されていても良い。
もっとも、磁性体16と、有限地板10、矩形導体板12、アンテナ14との密着性の観点などから、それぞれの間の空間に他の材料を介在させる必要が生ずる場合も考えられる。このような場合には、有限地板10とアンテナ14の間の空間のうち、磁性体が占める空間以外の空間を誘電体が占め、この誘電体と磁性体の屈折率が同じ値である誘電体と磁性体の組み合わせを選ぶのがより好ましい。
これは、磁性体単独、もしくは屈折率の違う磁性体と誘電体の組み合わせの場合は、磁性体と空気の界面、もしくは磁性体と誘電体の界面において電波の反射が起こり、磁性体または誘電体に損失がある場合にはアンテナ装置の放射効率の劣化を招き、損失が無い場合にも狭帯域化の原因となってしまうからである。空間の屈折率を一定にすることによって、不要な電波反射を抑制でき、放射効率の劣化を抑制することが可能となる。
有限地板10と矩形導体板12は、ともに導電性の材料で形成されている。矩形導体板12は、その一辺が有限地板10に接続され、電気的に短絡した状態となっている。そして、この一辺と略平行な屈曲部18を備えている。また、アンテナ14は矩形導体板12上方に設けられ、アンテナ14は、矩形導体板12が有限地板10に接する一辺に略垂直方向に延伸している。そしてアンテナ14の給電点22が矩形導体板12の先の一辺に対向する他辺の近傍に位置している。図2では、アンテナ14はダイポールアンテナである。
なお、矩形導体板12の屈曲部18は、矩形の導体板を折り曲げることによって形成しても、あるいは、電気的に等価であれば、折り曲げる代わりに2枚の矩形導体板を用意して、両者を半田付け等の方法で物理的、電気的に接続しても良い。また、図2のアンテナ装置では矩形導体板12の屈曲部18は直角になっており、有限地板10に平行な部分と垂直な部分から構成されている。しかし、この構造は本質ではなく、矩形導体板10の下の電磁波伝搬が得られれば、特に、この構造を有しなくともよい。すなわち、矩形導体板12を、必ずしも直角に曲げる必要も有限地板10に平行または垂直な部分を設けることも必須でない。
また、アンテナ14の給電点22が矩形導体板12の先の一辺に対向する他辺の近傍に位置するとは、給電点22の位置が上記他辺から、アンテナ14の動作周波数の電磁波の6分の1波長以下の範囲を意味するものとする。後述のように、アンテナ整合を取るための給電点22の位置調整範囲がこの範囲にあることがその理由である。
図2では、アンテナ14がダイポールアンテナである場合を例示した。図2のダイポールアンテナは、2本の線状導体を1直線状に並べてその間を給電する。
図3は、本実施の形態のアンテナ装置の第1の変形例の構成図である。この変形例においては、アンテナ14として、板状ダイポールアンテナを適用している。板状ダイポールアンテナは、2枚の導体板を並べた中央を給電し、給電点22に近い側の辺を給電点から離れるに従って2枚の導体板の間隔が広がるように斜めに加工した、ダイポールアンテナの変種の1つである。板状ダイポールアンテナは、線状導体を用いるダイポールアンテナよりも広帯域な特性を実現できるという利点がある。
図4は、本実施の形態のアンテナ装置の第2の変形例の構成図である。図4(a)は斜視図、図4(b)は断面図、図4(c)は第2の変形例の更なる変形例である。この変形例においては、アンテナ14として、モノポールアンテナを適用している。モノポールアンテナは、図2のダイポールアンテナに対し、矩形導体板12から遠い側の線状導体を無くし、給電点22が有限地板10上になるよう給電点22側を折り曲げたアンテナである。アンテナ装置の一層の小型化を実現するためには、ダイポールアンテナよりもモノポールアンテナの方が好ましい。
図2(a)、(b)、図3、図4(a)、(b)に示されるように、磁性体16は、アンテナ14と矩形導体板12の間の少なくとも一部、例えば、矩形導体板12と有限地板10の間に挿入される。
以上の構成により、本実施の形態のアンテナ装置は、低姿勢化を含む小型化した場合でもインピーダンス整合を取ることができ、且つ、広帯域な特性を得ることができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、コアシェル型磁性材料、これを用いたデバイス装置、およびアンテナ装置等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされるコアシェル型磁性材料、これを用いたデバイス装置、およびアンテナ装置等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのコアシェル型磁性材料、これを用いたデバイス装置、およびアンテナ装置は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
以下に、本発明の実施例を比較例と対比しながらより詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例での磁性金属粒子および酸化物粒子の平均粒径の測定はTEM観察に基づいて行う。具体的には、TEM観察(写真)で写し出された個々の粒子の最も長い対角線と最も短い対角線を平均したものをその粒子径とし、その平均から求める。写真は、単位面積10μm×10μmを3ヶ所以上とり平均値を求める。また、酸化物被覆層の厚さはTEM観察によって求める。具体的には、TEM観察による写真を単位面積10μm×10μmの範囲で3ヶ所以上とり、その範囲に含まれる個々の粒子の酸化物被覆層を求め、その平均値を求める。また、この範囲に存在するコアシェル型磁性粒子と、酸化物粒子の数をカウントすることで、粒子数の量比を算出する。
また、微構造の組成分析はEDX分析に基づいて行う。この分析により、酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)と、酸化物被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)の大小関係を求める。
(実施例1)
高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバ内にプラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入し、プラズマを発生させる。このチャンバ内のプラズマに原料である平均粒径10μmでFe:Co:Al:Bが原子比で70:30:2.5:25であるFeCoAlB固溶粉末と、平均粒径3μmのAl粉末を固溶粉末中のFeCo100に対して2.5at%になるようにアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射する(即ち、FeCoに対する全Al量は5at%で、その内2.5at%はFeCoAlB固溶粉末として、残りの2.5at%はAl粉末として投入する)。
また噴射と同時に、チャンバ内に炭素被覆の原料としてアセチレンガスをキャリアガスと共に導入し、合金粒子を炭素で被覆された粒子を得る。この炭素被覆合金粒子を500mL/分、濃度99%の水素フロー下、600℃にて還元処理し、室温まで冷却した後、酸素含有雰囲気中にて取り出して酸化することにより、コアシェル型磁性材料を製造する。
得られたコアシェル型磁性材料は、コアシェル型磁性金属粒子と酸化物粒子から成り、コアシェル型磁性金属粒子に含まれる磁性金属粒子の平均粒径が10nm、酸化物被覆層の厚さが2.1nmである。コアの磁性金属粒子はFe−Co−Al−Bで構成され、酸化物被覆層はFe−Co−Al−B−−Oで構成されている。また、コアシェル型磁性粒子間と磁性金属粒子間に、Al−Oで構成された(一部FeCoB固溶)酸化物粒子が多数存在している。酸化物粒子中のAl/(Fe+Co)は、酸化物被覆層中のAl/(Fe+Co)よりも大きくなっている。酸化物粒子数は、コアシェル型磁性粒子数の50%程度である。
このようなコアシェル型磁性材料と樹脂とを100:10の割合で混合し、厚膜化して評価用材料とする。
(実施例2)
原料粉末を平均粒径10μmでFe:Co:Al:Nb:Bが原子比で70:30:2.5:4:20であるFeCoAlNbB固溶粉末、固溶粉末中のFeCo100に対して2.5at%に調整した平均粒径3μmのAl粉末とにすること以外は、実施例1と同様である(即ち、FeCoに対する全Al量は5at%で、その内2.5at%はFeCoAlNbB固溶粉末として、残りの2.5at%はAl粉末として投入する)。
得られたコアシェル型磁性材料は、コアシェル型磁性金属粒子と酸化物粒子から成り、コアシェル型磁性金属粒子に含まれる磁性金属粒子の平均粒径が11nm、酸化物被覆層の厚さが1.9nmである。コアの磁性金属粒子はFe−Co−Al−Nb−Bで構成され、酸化物被覆層はFe−Co−Al−Nb−B−Oで構成されている。また、コアシェル型磁性粒子間と磁性金属粒子間に、Al−Oで構成された(一部FeCoNbB固溶)酸化物粒子が多数存在している。酸化物粒子中のAl/(Fe+Co)は、酸化物被覆層中のAl/(Fe+Co)よりも大きくなっている。酸化物粒子数は、コアシェル型磁性粒子数の50%程度である。
このようなコアシェル型磁性材料と樹脂とを100:10の割合で混合し、厚膜化して評価用材料とする。
(実施例3)
原料粉末を平均粒径10μmでFe:Co:Al:Zr:Bが原子比で70:30:2.5:4:20であるFeCoAlZrB固溶粉末と、固溶粉末中のFeCo100に対して2.5at%に調整した平均粒径3μmのAl粉末とにすること以外は、実施例1と同様である(即ち、FeCoに対する全Al量は5at%で、その内2.5at%はFeCoAlZrB固溶粉末として、残りの2.5at%はAl粉末として投入する)。
得られたコアシェル型磁性材料は、コアシェル型磁性金属粒子と酸化物粒子から成り、コアシェル型磁性金属粒子に含まれる磁性金属粒子の平均粒径が10nm、酸化物被覆層の厚さが2.0nmである。コアの磁性金属粒子はFe−Co−Al−Zr−Bで構成され、酸化物被覆層はFe−Co−Al−Zr−B−Oで構成されている。また、コアシェル型磁性粒子間と磁性金属粒子間に、Al−Oで構成された(一部FeCoZrB固溶)酸化物粒子が多数存在している。酸化物粒子中のAl/(Fe+Co)は、酸化物被覆層中のAl/(Fe+Co)よりも大きくなっている。酸化物粒子数は、コアシェル型磁性粒子数の50%程度である。
このようなコアシェル型磁性材料と樹脂とを100:10の割合で混合し、厚膜化して評価用材料とする。
(実施例4)
原料粉末を平均粒径10μmでFe:Co:Al:Hf:Bが原子比で70:30:2.5:4:20であるFeCoAlHfB固溶粉末と、固溶粉末中のFeCo100に対して2.5at%に調整した平均粒径3μmのAl粉末とにすること以外は、実施例1と同様である(即ち、FeCoに対する全Al量は5at%で、その内2.5at%はFeCoAlHfB固溶粉末として、残りの2.5at%はAl粉末として投入する)。
得られたコアシェル型磁性材料は、コアシェル型磁性金属粒子と酸化物粒子から成り、コアシェル型磁性金属粒子に含まれる磁性金属粒子の平均粒径が12nm、酸化物被覆層の厚さが2.2nmである。コアの磁性金属粒子はFe−Co−Al−Hf−Bで構成され、酸化物被覆層はFe−Co−Al−Hf−B−Oで構成されている。また、コアシェル型磁性粒子間と磁性金属粒子間に、Al−Oで構成された(一部FeCoHfB固溶)酸化物粒子が多数存在している。酸化物粒子中のAl/(Fe+Co)は、酸化物被覆層中のAl/(Fe+Co)よりも大きくなっている。酸化物粒子数は、コアシェル型磁性粒子数の50%程度である。
このようなコアシェル型磁性材料と樹脂とを100:10の割合で混合し、厚膜化して評価用材料とする。
(実施例5)
原料粉末を、平均粒径10μmでFe:Co:Si:Bが原子比で70:30:1.3:25であるFeCoSiB固溶粉末と、固溶粉末中のFeCo100に対して0.65at%に調整した平均粒径3μmのSi粉末とにすること以外は、実施例1と同様である(即ち、FeCoに対する全Si量は1.3at%で、その内0.65at%はFeCoSiB固溶粉末として、残りの0.65at%はSi粉末として投入する)。
得られたコアシェル型磁性材料は、コアシェル型磁性金属粒子と酸化物粒子から成り、コアシェル型磁性金属粒子に含まれる磁性金属粒子の平均粒径が10nm、酸化物被覆層の厚さが2.1nmである。コアの磁性金属粒子はFe−Co−Si−Bで構成され、酸化物被覆層はFe−Co−Si−B−Oで構成されている。また、コアシェル型磁性粒子間と磁性金属粒子間に、Si−Oで構成された(一部FeCoB固溶)酸化物粒子が多数存在している。酸化物粒子中のSi/(Fe+Co)は、酸化物被覆層中のSi/(Fe+Co)よりも大きくなっている。酸化物粒子数は、コアシェル型磁性粒子数の50%程度である。
このようなコアシェル型磁性材料と樹脂とを100:10の割合で混合し、厚膜化して評価用材料とする。
(実施例6)
原料粉末を、平均粒径10μmでFe:Co:Al:Bが原子比で70:30:5:25であるFeCoAlB固溶粉末のみにすること以外は、実施例1と同様である。
得られたコアシェル型磁性材料は、コアシェル型磁性金属粒子と酸化物粒子から成り、コアシェル型磁性金属粒子に含まれる磁性金属粒子の平均粒径が13nm、酸化物被覆層の厚さが2.5nmである。コアの磁性金属粒子はFe−Co−Al−Bで構成され、酸化物被覆層はFe−Co−Al−B−Oで構成されている。また、コアシェル型磁性粒子間と磁性金属粒子間に、酸化物粒子はほとんど存在していない。すなわち、酸化物粒子数は、コアシェル型磁性粒子数の10%以下である。
このようなコアシェル型磁性材料と樹脂とを100:10の割合で混合し、厚膜化して評価用材料とする。
(比較例1)
原料粉末を平均粒径10μmでFe:Co:Alが原子比で70:30:2.5であるFeCoAl固溶粉末と、固溶粉末中のFeCo100に対して2.5at%に調整した平均粒径3μmのAl粉末とにすること以外は、実施例1と同様である(即ち、FeCoに対する全Al量は5at%で、その内2.5at%はFeCoAl固溶粉末として、残りの2.5at%はAl粉末として投入する)にすること以外は、実施例1と同様である。
得られたコアシェル型磁性材料は、コアシェル型磁性金属粒子と酸化物粒子から成り、コアシェル型磁性金属粒子に含まれる磁性金属粒子の平均粒径が22nm、酸化物被覆層の厚さが2.7nmである。コアの磁性金属粒子はFe−Co−Alで構成され、酸化物被覆層はFe−Co−Al−Oで構成されている。また、コアシェル型磁性粒子間と磁性金属粒子間に、Al−Oで構成された(一部FeCo固溶)酸化物粒子が多数存在している。酸化物粒子中のAl/(Fe+Co)は、酸化物被覆層中のAl/(Fe+Co)よりも大きくなっている。酸化物粒子数は、コアシェル型磁性粒子数の50%程度である。
このようなコアシェル型磁性材料と樹脂とを100:10の割合で混合し、厚膜化して評価用材料とする。
得られた実施例1〜実施例4および比較例1で用いたコアシェル型磁性粒子の磁性金属粒子および酸化物被覆層の概要を表1に示す。
また、実施例1〜実施例4および比較例1、2の評価用材料に関して、以下の方法で透磁率実部(μ′)、100時間後の透磁率実部(μ′)の経時変化および電磁波吸収特性を調べる。その結果を下記表2に示す。
1)透磁率実部μ′
凌和電子(株)製PMM−9G1のシステムを用いて1GHz下において空気をバックグラウンドとした時と試料を配置した時との誘起電圧値およびインピーダンス値をそれぞれ測定し、これらの誘起電圧値とインピーダンス値とから透磁率実部μ′を導出する。なお、試料は4×4×0.5mmの寸法に加工したものを用いる。
2)100時間後の透磁率実部μ′の経時変化
評価用試料を温度60℃、湿度90%の高温恒湿槽内に100時間放置した後、再度、透磁率実部μ′を測定し、経時変化(100H放置後の透磁率実部μ′/放置前の透磁率実部μ′)を求める。
3)電磁波吸収特性
評価用試料の電磁波照射面とその反対の面に厚さ1mmで同面積の金属薄板を接着し、2GHzの電磁波下にて試料ネットワークアナライザーのS11モードを用いて、自由空間において反射電力法で測定する。反射電力法は、試料を接着していない金属薄板(完全反射体)の反射レベルと比較して試料からの反射レベルが何dB減少したかを測定する方法である。この測定に基づいて電磁波の吸収量を反射減衰量で定義し、比較例1の吸収量を1とした時の相対値で求める。
表1から明らかなように実施例1〜6に係るコアシェル型磁性材料において、磁性金属であるFeCoと非磁性金属であるAlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素と、添加金属BもしくはB−Nb、B−Zr、B−Hfとを含む平均粒径10〜13nm程度の磁性金属粒子が、磁性金属粒子の構成成分の1つである非磁性金属AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素を含む1.9〜2.5nmの厚さの酸化物被覆層で被覆されているコアシェル型磁性粒子で構成されていることが分かる。また、磁性金属粒子の結晶性は非晶質であることが分かる。これに対し、比較例1に係る磁性材料はコアシェル構造を有しているものの磁性金属の粒径が22nmとやや大きく、結晶質であることが分かる。また、実施例1〜実施例5、及び比較例1においては、磁性金属粒子間に多数の酸化物粒子が存在し、実施例6においては、磁性金属粒子間に酸化物粒子はほとんど存在しないことが分かる。
表2から明らかなように実施例1〜6に係るコアシェル型磁性材料は、比較例1の材料に比べて優れた磁気特性を有することがわかる。これは、実施例1〜6に係るコアシェル型磁性材料は「絶縁性のコアシェル型構造を取っていること」、「添加金属によって磁性金属の粒径が小さいこと」、「磁性金属粒子が非晶質であること」によって、高抵抗で、高周波での高い透磁率を実現できるのであると考えられる。また、実施例6に比べて実施例1〜実施例5は特に優れているが、これは、磁性金属粒子間に多数の絶縁性酸化物粒子が存在することによって、磁性金属粒子がより安定なものになり、高い透磁率を実現できるのであると考えられる。なお、透磁率実部(μ′)は1GHzのみであるが、平坦な周波数特性を示しており、100MHzでもほぼ同じ値となっている。
また、実施例1〜6のコアシェル型磁性材料は100時間後の透磁率実部(μ′)の経時変化が少なく、極めて高い熱的安定性を有することがわかる。これは、磁性金属粒子がその構成成分の1つである非磁性金属を含む酸化物被覆層によって被覆された均質なコアシェル構造を取り、且つ、磁性金属粒子が非晶質であるために、磁性金属粒子がより安定なものになり、高い熱的安定性を実現できたことによると考えられる。これに対し、比較例1に係る材料は、磁性金属粒子が結晶質であるために、実施例1〜6の材料と比較すると若干熱的安定性に劣ることが分かる。なお、実施例6に比べて実施例1〜実施例5は特に熱的安定性に優れているが、これは、磁性金属粒子間に多数の絶縁性酸化物粒子が存在することによって、磁性金属粒子がより安定なものになり、高い熱的安定性を実現できるのであると考えられる。
以上、実施例1のコアシェル型磁性材料では1GHzでの透磁率実部(μ′)が高く熱的安定性にも優れ、1GHz帯域で例えばインダクタ、フィルター、トランス、チョークコイル、携帯電話や無線LAN等用のアンテナ基板の様な高透磁率部品(高いμ’と低いμ’’を利用)として利用できる可能性を有する。また、2GHzでの電磁波吸収特性も優れているため、2GHz帯域で電磁波吸収体(高いμ’’を利用)としても利用できる可能性を有する。すなわち、1つの材料でも使用周波数帯域を変えることによって、高透磁率部品としても、電磁波吸収体としても使用することができ、幅広い汎用性を示すことが分かる。