以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の一実施の形態に係る樹脂組成物が含有する難燃剤は、ゴム重合体と、そのゴム重合体に結合したスルホン酸基(−SO3 H)およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種(以下、スルホン酸基等と呼ぶ。)とを含むものである。この難燃剤は、樹脂組成物に対して難燃性を付与するものである。
ゴム重合体は、ベンゼン環などの芳香族環を有しないものである。すなわち、その重合体を構成するモノマーとして、例えばスチレンなどを含まないものである。芳香族環を有すると、樹脂組成物に含有させた場合、難燃剤の含有量が多くなるに従い、芳香族環の含有量も多くなり、芳香族環自体が燃焼することにより、難燃性が低下しやすくなるからである。また、難燃剤がゴム重合体を含むのは、ゴム重合体が2重結合を多く有しているため、難燃剤を製造する際にスルホン酸基等が結合しやすいからである。しかも、ゴム重合体は、熱可塑性ポリマーとの相溶性が低いが、スルホン酸基等が結合することにより、物性を損なうことなく高い相溶性が得られるからである。これにより、樹脂組成物に含有させた場合、物性の確保と共に難燃性の向上に寄与する。
芳香族環を有しないゴム重合体としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(Q)、あるいは熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、ジエン系のゴム重合体である天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、および水素化ニトリルゴムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。十分な効果が得られるからである。
スルホン酸基等は、難燃性を適切に付与すると共に相溶性の向上に寄与するものである。スルホン酸基等は、例えば、ゴム重合体の主鎖あるいは側鎖と複数結合している。このスルホン酸基等はゴム重合体と均一に結合していてもよいし、不均一に結合していてもよい。
ただし、スルホン酸基等中の硫黄(S)が、難燃剤全体に対して占める割合は、0.1重量%以上10重量%以下である。樹脂組成物に含有させた場合に、ゴム重合体であっても物性を損なうことなく、良好な相溶性が得られるため、多くの種類の樹脂に適用可能となるからである。また、樹脂組成物に含有させる量が少なくても、高い難燃性を付与できるからである。詳細には、0.1重量%よりも割合が低くなると、安定して樹脂組成物に難燃性を付与しづらくなる。また、10重量%より割合が高くなると、相溶性が低下したり、その難燃剤を含有する樹脂組成物の機械的強度を劣化させたりする可能性がある。中でも、スルホン酸基等の硫黄が占める割合は、0.5重量以上10重量%以下が好ましく、1重量%以上5重量%以下がより好ましい。より高い効果が得られるからである。
なお、難燃剤に対してスルホン酸基等の硫黄が占める割合は、例えば、燃焼フラスコ法などにより、スルホン酸基等が結合したゴム重合体に含まれる硫黄の含有量と、スルホン酸基等を有しないゴム重合体の硫黄の含有量との差を求めることにより算出することができる。また、例えば、スルホン酸基等を金属イオンなどで塩にして、その金属イオンを定量することにより、測定することができる。
スルホン酸基等としては、スルホン酸基の他に、例えば、スルホン酸塩基であるスルホン酸金属塩基や、スルホン酸基がアンモニアやアミン化合物で中和された状態の基などが挙げられる。スルホン酸金属塩基としては、例えば、スルホン酸ナトリウム(Na)塩基、スルホン酸カリウム(K)塩基、スルホン酸リチウム(Li)塩基、スルホン酸カルシウム(Ca)塩基、スルホン酸マグネシウム(Mg)塩基、スルホン酸アルミニウム(Al)塩基、スルホン酸亜鉛(Zn)塩基、スルホン酸アンチモン(Sb)塩基、あるいはスルホン酸スズ(Sn)塩基などが挙げられる。また、スルホン酸基がアンモニアやアミン化合物で中和された状態の基としては、例えば、スルホン酸アンモニウム塩基などが挙げられる。これらは、ゴム重合体に1種が結合していてもよいし、2種以上が結合していてもよい。中でも、ゴム重合体に結合するスルホン酸基等としては、スルホン酸金属塩基が好ましい。より高い効果が得られるからである。スルホン酸金属塩としては、中でも、スルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸カリウム塩基、あるいはスルホン酸カルシウム塩基が好ましい。
この難燃剤は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、例えば、芳香族環を有しないゴム重合体を用意する。この芳香族環を有しないゴム重合体としては、その重合体の主鎖あるいは側鎖に二重結合を10重量%以上80重量%以下で含んでいるのが好ましく、20重量%以上70重量%以下で含んでいるのがより好ましい。この範囲よりも多いと、こののちに粉砕する際に、細かく粉砕しづらくなるため、スルホン酸基等を導入しにくくなるからである。また、この範囲より少ないとスルホン酸基等の導入率が低下しやすくなるからである。この二重結合は、ゴム重合体の側鎖よりも主鎖に多く含むものが好ましい。ゴム重合体としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、あるいは水素化ニトリルゴムなどの主鎖に二重結合を有するゴム重合体や、ブチルゴム、エチレンゴム、シリコーンゴム、あるいは熱可塑性エラストマーなどの側鎖に二重結合を有するゴム重合体などが挙げられる。なお、このゴム重合体中には架橋剤由来の硫黄が、通常、0.1重量%以上5重量%以下の範囲で含まれている。
また、このゴム重合体としては、芳香族環を有しなければ、使用済みになった回収材(リサイクル材)やゴム重合体を製造する際に排出される端材を用いてもよい。これにより、資源の有効利用や低コスト化を図ることができる。なお、リサイクル材は、ゴム重合体以外の添加剤が含まれていたり、二重結合の含有量が通常のものよりも少なかったり、変色していたりといった劣化が生じている。しかしながら、以下に記すスルホン化処理の方法では、通常のものと同様にスルホン酸基等を導入可能である。よって、リサイクル材等を用いた場合であっても、その難燃剤は、樹脂組成物に十分な難燃性を付与できる。
続いて、例えば、用意したゴム重合体を凍結粉砕などにより、粒子状あるいは粉末状にする。この際、ゴム重合体の粒子径が3.5メッシュパス〜600メッシュオンとなるように粉砕するのが好ましい。粒子径が大きくなりすぎると表面積が小さくなるため、スルホン酸基等を導入しづらくなるからである。また、粒子径が小さくなりすぎると、粉塵により作業環境が悪化する原因になったり、こののちのスルホン化処理をする際に継子が発生して均一な処理が難しくなったりするからである。中でも、粒子径が12メッシュパス〜200メッシュオンとなるように粉砕するのが好ましい。
次に、例えば、ゴム重合体をスルホン化処理する際に用いるスルホン化剤を用意する。このスルホン化剤としては、例えば、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、濃硫酸、あるいはポリアルキルベンゼンスルホン酸類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、スルホン化剤としては、例えば、アルキルリン酸エステルやジオキサンなどのルイス塩基との錯体物も用いることができる。なお、シアノ基などの加水分解されやすい置換基をゴム重合体が有する場合、スルホン化剤の中に水分が含まれていると、スルホン化反応(主反応)とは別に、加水分解反応(副反応)も促進されることになる。これにより、その置換基の加水分解が促進される。このため、スルホン化剤としては、それに含まれる水分が極力少ないもの、具体的には、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、濃硫酸、あるいはポリアルキルベンゼンスルホン酸類などが好ましい。スルホン化剤中の水分含有量の目安としては、例えば、3重量%以下である。
続いて、用意したスルホン化剤を用いて、粉砕されたゴム重合体をスルホン化処理することにより、スルホン酸基等を導入する。この際、スルホン酸基等の中の硫黄が全体に対して占める割合を0.1重量%以上10重量%以下になるように調整する。このスルホン化処理する方法としては、例えば、以下の第1〜第3の方法などが挙げられる。第1の方法では、例えば、ゴム重合体を有機溶媒中に溶解、膨潤、あるいは分散させたのち、スルホン化剤(例えば、液状あるいはガス状)を所定量添加してスルホン化反応させる。第2の方法では、例えば、ゴム重合体をスルホン化剤に直接投入してスルホン化反応させる。第3の方法では、例えば、ゴム重合体にスルホン化ガス(例えば、三酸化硫黄;SO3 ガス)を直接吹きかけてスルホン化反応させる。中でも、第1の方法、あるいは第3の方法が好ましい。特に、有機溶剤を使用しない観点(環境保全や低コスト化の面)から、第3の方法がより好ましい。
また、ゴム重合体に対するスルホン酸基等の導入率は、ゴム重合体の粒子径(表面積)、スルホン化剤の添加量、スルホン化反応させる時間、スルホン化反応時の温度あるいは圧力、またはルイス塩基の種類あるいは添加量などにより任意に調整可能である。中でも、ゴム重合体の粒子径や、スルホン化剤の添加量や、スルホン化反応させる時間や、反応温度などにより調整するのが好ましい。
これにより、上記した難燃剤が完成する。
この難燃剤では、例えば、炎が近接した程度の温度上昇が生じた場合、ゴム重合体とスルホン酸基またはスルホン酸塩基との結合が解裂し、ラジカルが発生する。これにより、樹脂組成物に含有させた場合、燃焼しにくくする。
この難燃剤によれば、芳香族環を有しないゴム重合体に結合したスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種を含み、スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種中の硫黄が占める割合が、全体に対して0.1重量%以上10重量%以下であるので、樹脂組成物に含有させた場合、難燃剤がゴム重合体を含んでいても、樹脂組成物の物性を損なうことなく、良好な相溶性が得られる。また、樹脂組成物に含有させた量が少なくても、燃焼を抑制し、高い難燃性を付与することができる。すなわち、物性の確保と共に難燃性の向上に寄与できる。
また、ゴム重合体として、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンゴム、シリコーンゴム、および熱可塑性エラストマーからなる群のうちの少なくとも1種を含んでいれば、十分な効果を得ることができる。
次に、本実施の形態の樹脂組成物について説明する。
樹脂組成物は、樹脂と、難燃剤とを含有している。この樹脂組成物は、例えば、家電製品、自動車製品、事務機器、文具、雑貨、建材、あるいは繊維などに用いられるものである。
樹脂は、任意に設定可能である。具体例としては、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン(PS)、スチレン−ブタジエン共重合体(HIPS:ハイインパクトポリスチレン)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスルホン(PSF)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリブタジエン(PB)、ポリイソプレン(PI)、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエンラバー)、ナイロン、あるいはポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。これらなかの1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合した混合物(アロイ)として用いてもよい。中でも、上記した樹脂のうちのいずれか1種または2種以上を5重量%以上の割合で含んでいるのが好ましい。特に、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、PC/TPEアロイ、ABS/PCアロイ、AS/PCアロイ、PC/PBTアロイ、PC/HIPSアロイ、PC/PLAアロイ、PVC/PCアロイ、PET/PCアロイ、PPO/PCアロイ、HIPS/PPOアロイ、HIPS/ABS/PETアロイ、あるいはPET/PBTアロイなどが好ましく、PCあるいはPCを含む熱可塑性ポリマーのアロイがより好ましい。上記した難燃剤と共に含有することにより、十分な効果が得られるからである。
また、樹脂としては、上記の他に、使用済みになった回収材(リサイクル材)や樹脂を製造する際に排出される端材を用いてもよい。これにより、資源の有効利用や低コスト化を図ることができる。
ここでの難燃剤は、上記したスルホン酸基等を有すると共に芳香族環を有しない難燃剤を含んでいる。樹脂本来の物性を良好に維持し、含有量を少なくしても難燃性が向上するからである。上記した難燃剤の含有量は0.01重量%以上10重量%以下である。物性が確保されると共に難燃性が向上するからである。詳細には、0.01重量%より少ないと安定して難燃性を発揮することが難しくなり、10重量%より多くなると難燃性が低下する傾向にあるからである。中でも、難燃剤の含有量としては、0.01重量%以上8重量%以下が好ましく、0.1重量%以上5重量%以下がより好ましく、0.3重量%以上5重量%以下が特に好ましい。物性を良好に維持すると共に十分な難燃性が得られるからである。なお、上記した難燃剤の含有量としては、0.001重量%以上であれば、従来の難燃剤を同量程度含有させた場合と比較して、十分な難燃性が得られる。
なお、難燃剤は、上記した難燃剤の他に、必要に応じて他の難燃剤を含有していてもよい。他の難燃剤としては、例えば、有機リン酸エステル系難燃剤、ハロゲン化リン酸エステル系難燃剤、無機リン系難燃剤、ハロゲン化ビスフェノール系難燃剤、ハロゲン化合物系難燃剤、アンチモン系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ素系難燃剤、金属塩系難燃剤、無機系難燃剤、あるいは珪素系難燃剤などの従来公知の難燃剤が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。これら他の難燃剤の具体例を以下に記す。
有機リン酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリフェニルフォスフェート、メチルネオベンジルフォスフェート、ペンタエリスリトールジエチルジフォスフェート、メチルネオペンチルフォスフェート、フェニルネオペンチルフォスフェート、ペンタエリスリトールジフェニルジフォスフェート、ジシクロペンチルハイポジフォスフェート、ジネオペンチルハイポフォスファイト、フェニルピロカテコールフォスファイト、エチルピロカテコールフォスフェート、あるいはジピロカテコールハイポジフォスフェートなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
ハロゲン化リン酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリス(βークロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(βーブロモエチル)ホスフェート、トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、縮合型ポリホスフェート、あるいは縮合型ポリホスフォネートなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
無機リン系難燃剤としては、例えば、赤燐、あるいは無機系リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
ハロゲン化ビスフェノール系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールAあるいはこのオリゴマー、またはビス(ブロモエチルエーテル)テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
ハロゲン化合物系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモ無水フタル酸、(テトラブロモビスフェノール)エポキシオリゴマー、ヘキサブロモビフェニルエーテル、トリブロモフェノール、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、デカブロモジフェニルオキシド、ハロゲン化ポリカーボネート、ハロゲン化ポリカーボネート共重合体、ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、塩素化パラフィン、あるいはパークロロシクロデカンなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
アンチモン系難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、あるいはアンチモン酸ソーダなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
窒素系難燃剤としては、例えば、メラミン、アルキル基あるいは芳香族置換メラミン、メラミンシアヌレート、イソシアヌレート、メラミンフォスフェート、トリアジン、グアニジン化合物、尿素、各種シアヌール酸誘導体、またはフォスファゼン化合物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
ホウ素系難燃剤としては、例えば、ホウ素酸亜鉛、メタホウ素酸亜鉛、あるいはメタホウ素酸バリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
金属塩系難燃剤としては、例えば、パーフルオロアルカンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ハロゲン化アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、あるいはナフタレンスルホン酸などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、塩基性炭酸マグネシウム、水素化ジルコニウム、あるいは酸化スズなどの水和物である無機金属化合物の水和物や、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化ニッケル、酸化銅、あるいは酸化タングステンなどの金属酸化物や、アルミニウム、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、スズ、亜鉛、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、クロム(Cr)、タングステン(W)、あるいはアンチモンなどの金属粉や、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、あるいは炭酸バリウムなどの炭酸塩や、マグネシウムの含水ケイ酸塩であるタルクなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、難燃性や経済性の観点から、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、ハイドロサルサイト、アルミニウム金属粉などが好ましい。なお、使用済みとなった回収材や製造する際に排出された端材などには、上記したような無機系難燃剤を含んでいることから、それらを無機系難燃剤として用いてもよい。
珪素系難燃剤としては、例えば、ポリオルガノシロキサン樹脂(シリコーン、有機シリケート等)、あるいはシリカなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。このポリオルガノシロキサン樹脂としては、例えば、ポリメチルエチルシロキサン樹脂、ポリジメチルシロキサン樹脂、ポリメチルフェニルシロキサン樹脂、ポリジフェニルシロキサン樹脂、ポリジエチルシロキサン樹脂、ポリエチルフェニルシロキサン樹脂、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。上記のポリオルガノシロキサン樹脂のアルキル基部分は、例えば、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シラノール基、メルカプト基、エポキシ基、ビニル基、アリールオキシ基、ポリオキシアルキレン基、水素基、あるいはハロゲン等の官能基であってもよいし、アルキル基が、さらに官能基を有していてもよい。中でも、アルキル基、アルコキシ基、水酸基あるいはビニル基などを有しているのが好ましい。このポリオルガノシロキサン樹脂の平均分子量としては、100以上が好ましく、500以上5000000以下がより好ましい。また、その形態については、例えば、オイル状、ワニス状、ガム状、粉末状、あるいはペレット状のいずれであってもよい。また、シリカとしては、例えば、炭化水素系化合物のシランカップリング剤で表面処理されたものが好ましい。
他の難燃剤の種類や必要とされる難燃性のレベルや樹脂の種類によって異なるが、他の難燃剤の含有量は、通常、樹脂に対して0.001重量%以上50重量%以下であり、好ましくは0.01重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以上10重量%以下である。
また、樹脂組成物は、上記した樹脂および難燃剤の他に、必要に応じて添加剤として無機充填剤やドリップ抑制剤などを含有していてもよい。これにより、さらに難燃性の向上や機械的強度の向上が図れる。
無機充填剤は、例えば、機械的強度の向上や難燃性の向上に寄与するものである。無機充填剤としては、例えば、従来公知のものが挙げられる。具体例としては、結晶性シリカ、溶融シリカ、アルミナ、マグネシア、タルク、マイカ、カオリン、クレー、珪藻土、ケイ酸カルシウム、酸化チタン、ガラス繊維、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、炭素繊維、カーボンナノチューブ、あるいはチタン酸カリウム繊維などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、タルク、マイカ、カーボン、ガラス、あるいはカーボンナノチューブが好ましい。樹脂組成物中における無機充填剤の含有量は、0.1重量%以上90重量%以下であるのが好ましく、0.5重量%以上50重量%以下であるのがより好ましく、1重量%以上30重量%以下であるのがさらに好ましい。高い効果が得られるからである。詳細には、0.1重量%より少なくなると、樹脂組成物の剛性や難燃性の改善効果が低下しやすくなるからである。また、90重量%より多くなると、射出成形する際に溶融させた樹脂組成物の流動性が低下したり、製造された樹脂組成物の機械的強度が低下したりする可能性があるからである。
ドリップ抑制剤は、燃焼時のドリップ現象を抑制するものであり、例えば、フルオロオレフィン樹脂などが挙げられる。このフルオロオレフィン樹脂の具体例としては、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとエチレン系モノマーとの共重合体などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、テトラフルオロエチレン重合体が好ましく、その平均分子量は50000以上であるのが好ましく、100000以上20000000以下であるのがより好ましい。なお、フルオロオレフィン樹脂としては、フィブリル形成能を有するものがより好ましい。樹脂組成物中におけるフルオロオレフィン樹脂の含有量は、0.001重量%以上5重量%以下であるのが好ましく、0.01重量%以上2重量%以下であるのが好ましく、0.1重量%以上0.5重量%以下であるのがさらに好ましい。高い効果が得られるからである。詳細には、その含有量が0.001重量%より少なくなると、ドリップ現象を抑制させることが困難になり、5重量%より多くなると、ドリップ現象を抑制できる効果が飽和し、コスト高になったり、機械的強度や樹脂の流れ性が低下しやすくなったりするからである。
また、樹脂組成物は、上記した添加剤の他に、他の添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、硫黄系)、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、可塑剤、相溶化剤、着色剤(顔料、染料)、抗菌剤、加水分解防止剤、あるいは表面処理剤など含有していてもよい。これにより、射出成形性、耐衝撃性、外観、耐熱性、耐候性、あるいは剛性などが改善される。
この樹脂組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、例えば、樹脂および難燃剤と、必要に応じて添加剤等とを混合する。この際、例えば、タンブラー、リブレンダー、ミキサー、押出機、コニーダ等といった混練装置にて略均一に分散させる。続いて、この混合物を、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、プレス成形、発泡成形、あるいは超臨界成形などといった成形法により所定の形状(例えば、家電、自動車、情報機器、事務機器、電話機、文房具、家具、あるいは繊維などの各種製品の筐体や部品材)に成形し、上記した樹脂組成物が完成する。
この樹脂組成物では、上記したスルホン酸基等を有すると共に芳香族環を有しない難燃剤を含有するので、炎に接した場合、温度が上昇することにより難燃剤が熱分解する。この際、ゴム重合体とスルホン酸基またはスルホン酸塩基との結合が解裂して、ラジカルを発生する。このラジカルが樹脂と反応して、炎と接する部分の炭化(チャー化)が促進される。この炭化によって生じる炭化層が樹脂組成物を覆うことにより、外界の酸素を遮断する。よって燃焼が停止する。
この樹脂組成物によれば、上記した本発明の難燃剤を0.01重量%以上10重量%以下の範囲で含有するので、樹脂本来の物性が良好に維持される。また、例えば、炎に接した場合、燃焼が抑制される。これにより、芳香族環を有するポリマーを含む難燃剤や、リン系難燃剤などを用いた場合と比較して、物性を確保しつつ、難燃性を向上させることができる。
また、樹脂としてポリカーボネート、またはポリカーボネートを含む熱可塑性ポリマーの混合物を含有していれば、十分な効果を得ることができる。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(実施例1)
上記実施の形態で説明した樹脂組成物の具体例として、樹脂組成物よりなる短冊状の試験片を作製した。
最初に、難燃剤を作製した。まず、芳香族環を有しないゴム重合体として天然ゴム(二重結合含有量:59.8重量%、硫黄含有量:1.87重量%)を液体窒素により凍結粉砕することにより、12メッシュ〜200メッシュの粉末を得た。続いて、この粉末10gを氷浴槽中のスルホン化剤である発煙硫酸(三酸化硫黄(SO3 )含有量:30%)200gに投入したのち、20分間攪拌し反応させた。そののち、その反応液を加熱し、80℃で1時間さらに熟成(追反応)させた。反応終了後に反応液をグラスフィルターにより、ろ過することで固体反応物を得た。この固体反応物を水道水で数回洗浄したのち、水酸化ナトリウムで洗浄液のpHが7になるように調整した。続いて、凍結乾燥することにより、黒色固体である難燃剤を得た。この難燃剤について燃焼フラスコ法による元素分析をしたところ、含有する硫黄が4.73重量%であった。すなわち、難燃剤に対して、スルホン酸基等の中の硫黄が占める割合(スルホン酸基等のS割合)は4.73−1.87=2.86重量%であった。
次に、樹脂としてビスフェノールA型のポリカーボネート(PC)99.4質量部と、作製した難燃剤0.3質量部と、ドリップ抑制剤としてフィブリル形成性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.3質量部とを混合して樹脂組成物前駆体を調製した。続いて、この樹脂組成物前駆体を押出機に供給し、所定の温度で混練することによりペレット化した。続いて、このペレットを射出成形機に投入して所定の温度で射出形成することにより、厚さ2.0mmの樹脂組成物からなる短冊状の試験片が完成した。
(実施例2)
難燃剤の含有量を5重量%に変更したことを除き、実施例1と同様の手順を経た。この際、樹脂組成物前駆体の組成(PC:難燃剤:PTFE)を重量比で94.7:5:0.3とした。
(実施例3)
ゴム重合体として、製造する際に排出される端材である廃ニトリルゴム(二重結合含有量:59.8重量%、硫黄含有量:1.11重量%)を用いて難燃剤を作製したことを除き、実施例1と同様の手順を経た。作製した難燃剤は黒色であり、スルホン酸基等のS割合は5.04重量%であった。
(実施例4)
難燃剤を作製する際に、スルホン化剤との反応時間を4時間としたことを除き実施例3と同様の手順を経た。作製した難燃剤は黒色であり、スルホン酸基等のS割合は9.7重量%であった。
(実施例5)
ゴム重合体としてブタジエンゴムを用いて難燃剤を作製し、その難燃剤と共に樹脂としてPCとアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)との混合物を用いて試験片を作製した。
まず、ブタジエンゴム(二重結合含有量:62.6重量%、硫黄含有量:2.01重量%)を液体窒素により凍結粉砕することにより、12メッシュ〜200メッシュの粉末を得た。続いて、この粉末20gをナス型フラスコに投入したのち、ロータリーエバポレーターに取り付け、60℃に加温して回転させた。次に、真空ポンプによりフラスコ内を脱気することにより密閉した。続いて、バルブの操作により、あらかじめ60℃に加熱しておいたスルホン化剤であるSO3 のタンクからSO3 ガスを脱気したフラスコ内に送り込んだ。この際、SO3 ガスの注入により、フラスコ内の圧力はすぐに常圧となったが、反応の進行と共に徐々に減圧状態に戻ったため、再度、SO3 ガスを吹き込んだ。この操作を数回繰り返すことにより合計で2gのSO3 ガスをフラスコ内に吹き込み、60℃で3時間反応させることにより反応物を得た。こののち、フラスコ内のSO3 ガスを窒素で置換した。続いて、フラスコに水酸化ナトリウム水溶液を投入することにより反応物を中和(pH7.0に調整)した。続いて、グラスフィルターで中和した反応物をろ過し、そのろ過物を水洗した。再度、ろ過したのちに循風乾燥機にて乾燥して黒色の粉末である難燃剤を得た。この難燃剤について燃焼フラスコ法による元素分析をしたところ、難燃剤に対するスルホン酸基等のS割合が1.2重量%であった。
次に、樹脂としてCD回収品(ランナー材:低分子グレード)のPCを用いて樹脂組成物を作製した。この際、PC(CD回収品)84質量部と、ABS(重量比でアクリロニトリル:ポリブタジエン:スチレン=17:32:51)5質量部と、無機充填剤としてタルク10質量部と、PTFE0.5質量部と、作製した難燃剤0.5質量部とを混合し樹脂組成物前駆体を調製した。そののち実施例1と同様の手順により試験片を作製した。
(比較例1)
難燃剤等を加えず、PCだけで試験片を作製した。
(比較例2)
ゴム重合体に代えてポリエチレン(二重結合含有量:0.01重量%未満、硫黄含有量:0.01重量%未満)を用いて難燃剤を作製したことを除き、実施例1と同様の手順を経た。作製した難燃剤におけるスルホン酸基等のS割合は、0.01重量%未満であった。
(比較例3)
難燃剤を作製する際に、スルホン化剤として発煙硫酸(SO3 含有量:60%)を用いると共に、100℃で24時間熟成させたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。作製した難燃剤は褐色であり、スルホン酸基等のS割合は14.6重量%であった。
(比較例4)
ゴム重合体に代えて、ABS(重量比でアクリロニトリル:ポリブタジエン:スチレン=24:20:56)用いて実施例5と同様にして難燃剤を作製した。作製した難燃剤は褐色であり、スルホン酸基等のS割合は1.0重量%であった。続いて、この難燃剤を用いたことを除き、実施例1と同様の手順により、試験片を作製した。
(比較例5)
難燃剤を作製する際に、スルホン化剤であるSO3 ガスを合計で0.1gフラスコ内に吹き込み、反応させたことを除き、実施例5と同様の手順を経た。作製した難燃剤は褐色であり、スルホン酸基等のS割合は、0.01重量%未満であった。
(比較例6)
難燃剤としてリン系難燃剤と、樹脂としてPCとを含有する市販の樹脂組成物を用いて試験片を作製した。この際、リン系難燃剤の含有量は、10重量%であった。
これらの樹脂組成物からなる試験片について、物性測定および燃焼性試験をしたところ、表1に示した結果が得られた。
物性測定する際には、日本工業規格(JIS)に従ってメルトフローレート(JIS K7210)、Izod衝撃強度(JIS K7110)、および引張り降伏伸度(JIS K7113)を測定し、米国材料試験協会(ASTM)の規格に従って曲げ弾性率(ASTM A790)、および熱変形温度(ASTM D648)を測定した。この場合、測定条件を、メルトフローレートでは280℃,2.16kgfとし、曲げ弾性率および引張り降伏伸度では23℃とし、Izod衝撃強度では23℃,アトノッチとし、熱変形温度では4.6kgf/cm2 とした。
燃焼性試験をする際には、UL94(アンダーライターズラボラトリー・サブジェクト94)のV−0、V−1、V−2規格に従って垂直燃焼試験をした。燃焼性の評価結果としては、各規格に合格した場合、その規格に対応したV−0、V−1、V−2とし、V−2規格不合格の場合、×とした。なお、UL94のV−0、V−1、V−2規格とは、具体的には、以下の手順によって評価する。まず、試験片を5個ずつ用意し、略垂直状に支持した短冊状試験片に対して下側からバーナー炎をあてて10秒間保ち、そののち、バーナー炎を短冊状試験片から離す。炎が消えれば直ちにバーナー炎をさらに10秒間あてたのち、バーナー炎を離す。この際、1回目と2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間および無炎燃焼持続時間の合計、5本全ての試験片の有炎燃焼時間の合計、燃焼滴下物の有無で判定する。その場合、V−0規格は、1回目、2回目ともに10秒以内に、V−1、V−2規格は、1回目、2回目ともに30秒以内に有炎燃焼を終えたときである。また、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間との合計がV−0規格は30秒以内、V−1及びV−2規格は60秒以内である。さらに、5本の試験片の有炎燃焼時間の合計がV−0規格は50秒以内、V−1及びV−2規格は250秒以内である。さらにまた、燃焼落下物は、V−2規格のみに許容される。すなわち、UL燃焼試験法(UL94)では、V−0、V−1、V−2規格の順で難燃性が高くなる。
表1に示したように、スルホン酸基等の硫黄の割合が0.1重量以上10重量%以下であると共に芳香族環を有しないゴム重合体を含む難燃剤を含有する実施例1〜5では、その難燃剤を含有しない比較例1〜6と比較してメルトフローレート等の各物性値が同程度あるいはそれ以上となり、比較例1〜5よりも燃焼性試験の評価が高かった。
詳細には、難燃剤を含有しないPC単体の比較例1では、燃焼性試験の評価がV−2となった。また、スルホン酸基等の硫黄の割合が0.1重量%未満あるいは10重量%より大きい難燃剤とPCとを含有する比較例2,3では、比較例1よりもIzod衝撃強度および引張り降伏伸度が低くなり、燃焼性試験の評価はV−2となった。さらに、スルホン酸基等の硫黄の割合が1重量%であるが芳香族環を有する難燃剤とPCとを含有する比較例4では、比較例1よりも各物性値が低くなり、燃焼性試験の評価はV−1となった。これに対して、スルホン酸基等の硫黄の割合が0.1重量以上10重量%以下の難燃剤とPCとを含有する実施例1〜4では、各物性値が比較例1とほぼ同程度となり、燃焼性試験の評価がV−0となり高かった。この傾向は、樹脂としてPCおよびABSの混合物(アロイ)を含有する場合においても同様であり、スルホン酸基等の硫黄の割合が1.2重量%の難燃剤を含有する実施例5では、スルホン酸基等の硫黄の割合が0.1重量%未満の難燃剤を含有する比較例5よりも、各物性値および燃焼性試験の評価が高くなった。
ここで、難燃剤中におけるスルホン酸基等の硫黄の割合に着目すると、その割合が0.1重量%以上10重量%以下の実施例1,3,4では、割合が大きくなるに従い、各物性値が増加したのち減少する傾向を示し、燃焼性試験の評価がV−0となった。一方、スルホン酸基等の硫黄の割合が0.1重量%未満あるいは10重量%より大きい比較例2,3では、物性値の中でもIzod衝撃強度が低下し、燃焼性試験の評価がV−2となった。すなわち、PCあるいはPCを含むアロイと、ゴム重合体に結合したスルホン酸基等を含む難燃剤とを含有する樹脂組成物では、難燃剤が含むスルホン酸基等中の硫黄の割合を0.1重量%以上10重量%以下とすることにより、ゴム重合体を含有させても、物性を損なうことなく、高い相溶性が得られ、燃焼を抑制することがわかった。よって、物性を確保しつつ難燃性を向上させることが確認された。
また、難燃剤が含む重合体の種類に着目すると、芳香族環を有するABSを重合体として用いた比較例4では、天然ゴムを用いた実施例2よりも各物性値が低くなり、天然ゴム、ニトリルゴムあるいはブタジエンゴムを用いた実施例1〜5よりも燃焼性試験の評価が低くなった。なお、芳香族環を有しないがゴム重合体ではない重合体(ポリエチレン)を用いた比較例2では、ポリエチレンが二重結合を有しないため、スルホン化処理してもスルホン酸基等が導入されなかった。これにより、比較例1よりも曲げ弾性以外の物性値が低くなり、燃焼性の評価がV−2となった。すなわち、芳香族環を有する難燃剤を含有する樹脂組成物では、芳香族環を有することにより、難燃性を低下させることが確認された。その一方で、樹脂組成物では、難燃剤が芳香族環を有しないゴム重合体を含むことにより、物性を確保しつつ難燃性を向上させることが確認された。
さらに、樹脂組成物中におけるスルホン酸基等を有すると共に芳香族環を有しない難燃剤の含有量に着目すると、その含有量が0.3重量%以上5重量%以下である実施例1〜5では、燃焼性試験の評価はV−0となり、比較例1あるいは5よりも各物性値が同等あるいはそれ以上となった。また、本実施例では示していないが、その難燃剤の含有量が0.001重量%以上であれば、従来の難燃剤を同程度の量を含有する場合と比較して、十分な難燃性が得られたが、0.01重量%より少ないと安定して難燃性を発揮することが難しくなり、10重量%より多くなると難燃性が低下する傾向が見られた。すなわち、樹脂組成物中におけるスルホン酸基等を有すると共に芳香族環を有しない難燃剤の含有量を0.01重量%以上10重量%以下にすることにより、物性を確保しつつ難燃性を向上させることが確認された。中でも、その含有量を0.3重量%以上5重量%以下にすることにより、十分な効果が得られることが確認された。
なお、リン系難燃剤とPCとを含有する比較例6では、燃焼性試験の評価はV−0であったが、比較例1および実施例1〜5よりも物性値の中でもIzod衝撃強度および熱変形温度が著しく低くなった。すなわち、難燃剤としてリン系難燃剤を用いることにより、難燃性は向上するが、物性が低下することが確認された。
これらのことから、PCあるいはPCを含む熱可塑性ポリマーの混合物と、芳香族環を有しないゴム重合体に結合したスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種を含む難燃剤とを含有する樹脂組成物では、スルホン酸基等中の硫黄が占める割合をその難燃剤に対して0.1重量%以上10重量%以下の範囲とし、その難燃剤の含有量を0.01重量%以上10重量%以下の範囲とすることにより、物性を確保しつつ難燃性が向上することが確認された。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明の難燃剤および樹脂組成物を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、それらの難燃剤および樹脂組成物の構成は自由に変更可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の難燃剤におけるスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種中の硫黄が占める割合、および樹脂組成物中における本発明の難燃剤の含有量について、実施例の結果から導き出された数値範囲を適正範囲として説明しているが、その説明は、割合や含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、割合や含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。