JP5065119B2 - 表面プラズモンセンサー - Google Patents

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Description

本発明は、表面プラズモン共鳴を利用して、検出対象を含む液体又は気体の屈折率を検出する表面プラズモンセンサーに関するものである。
近年、表面プラズモン共鳴を利用した表面プラズモンセンサーが多く開発されている。表面プラズモンセンサーは、検出対象を含む液体又は気体(以下、単に「試料」と言い、検出対象を含まない液体又は気体は、「試料」とは呼ばないこととする。)の屈折率を検出するためのものであり、溶液の濃度測定、蛋白質・高分子の検出等に広範に用いられている。また、表面プラズモンセンサーは、検出対象を含む液体又は気体の屈折率の時間変化を追うことにより、金属膜の該検出対象を吸着する吸着層への該検出対象の吸着過程や反応の時間変化等も検出することができる。
ここで、従来の溶液の濃度を測定するための表面プラズモンセンサーを例として、表面プラズモンセンサーの具体的な構成について説明する。表面プラズモンセンサーは、石英やガラスなどの誘電体基板上に金属膜が形成されており、該金属膜の該誘電体基板が形成されている側とは反対側の面に、検出対象、例えば所定の分子が吸着可能な吸着層が形成されており、該吸着層に対し上記分子を含む溶液を接触させることにより、該分子を該吸着層に吸着させる。
そして、上記表面プラズモンセンサーは、光源から出射された光ビームを上記金属膜の上記吸着層が形成されている面とは反対側の面に照射することにより、上記溶液の屈折率を検出する。さらに、上記表面プラズモンセンサーは、上記溶液の屈折率の検出と同様に、上記分子を含まない溶媒の屈折率も検出し、上記溶媒の屈折率と上記溶液の屈折率との屈折率変化から、上記溶液の濃度を求めるものである。
上記表面プラズモンセンサーでは、上記屈折率を検出するために、表面プラズモン共鳴を利用している。表面プラズモン共鳴とは、誘電体基板上の金属膜に適切な偏光方向及び入射角で光ビームを入射させた場合、該光ビームの該金属膜に平行な方向の波数と、表面プラズモンの波数とが一致すると、共鳴を起こす現象のことである。なお、表面プラズモンとは、金属表面の自由電子が、金属表面に平行な方向に振動する粗密波である。
すなわち、上記表面プラズモンセンサーでは、上記光ビームを上記金属膜に照射したとき、該光ビームが適切な入射角及び偏光方向で該金属膜に入射されると、該光ビームは該金属膜上において表面プラズモンに変換される。そのため、上記光ビームの上記金属膜に対する反射率は、表面プラズモンに変換された分だけエネルギーが利用されるために小さくなる。
上記光ビームを適切な入射角及び偏光方向で上記金属膜に入射した場合の入射角と反射率との関係を、横軸を入射角、縦軸を反射率としたグラフとして表現すると、反射率がある入射角で低下していることが分かる。この反射率が低下した部分を、dipという。以下の説明においては、上記dipにおける反射率の最小値を反射率Rminとし、このときの入射角を入射角θminとする。
すなわち、上記適切な入射角とは、上記光ビームのほとんどが上記金属膜上で表面プラズモンに変換される入射角θminである。また、上記適切な偏光方向とは、上記誘電体基板と上記金属膜との間に形成された界面の法線と上記光ビームの光軸とを含む面を入射面とし、該入射面に対して平行な偏光方向(p偏光)である。なお、上記光ビームの偏光方向が、上記入射面に対して垂直な偏光方向(s偏光)では、上記表面プラズモン共鳴は起こらない。
上記表面プラズモンセンサーは、表面プラズモン共鳴を利用して入射角θminを求めることにより、予め計算された入射角θminと上記溶液の屈折率との関係から、該溶液の屈折率を算出することができる。
非特許文献1には、上記金属膜の膜厚及び上記入射角θminは、上記金属膜上に接触する媒質の屈折率に依存していると記載されている。したがって、上記入射角θminと上記反射率との関係は、上記金属膜上に接触する溶媒又は溶液の屈折率に応じて異なる。そのため、上記表面プラズモンセンサーは、上記分子を含まない溶媒を上記金属膜に接触させた場合と、上記分子を含む溶液を上記金属膜に接触させた場合とにおける屈折率変化を検出することができる。
そして、上記表面プラズモンセンサーは、上記屈折率変化を用いて、予め計算された屈折率と上記溶液の濃度との関係から、該溶液の濃度を算出することができる。
上記表面プラズモンセンサーの金属膜の膜厚は、一般に、検出対象を含む液体又は気体の正確な屈折率を検出するために、検出対象を含まない液体又は気体を金属膜に接触させた場合における、光ビームの該金属膜に対する反射率Rminが最も小さくなるように選択される。以下の説明においては、反射率Rminが最も小さくなる金属膜の膜厚を膜厚dと呼ぶ。
ところで、上記従来の表面プラズモンセンサーには、次の問題点がある。
光路中の光学部品のゴミや光源自体の持つ光の強度分布により、各入射角での入射光量が異なり、この結果、上記反射率が正確に測定できないことである。より具体的に説明すると、金属膜への光ビームの入射角は、その適切な角度を探すために、レンズによって様々な角度を持たせて入射させる。このとき、光路中の光学部品のゴミや光源自体の持つ光の強度分布により、各入射角での入射光量が異なり、この結果、上記反射率が正確に測定できないという問題点である。
そこで、上記問題点の解決方法として、特許文献1では、このような光強度の不均一分布を除くため、金属膜がなく、試料が接しない領域を作り、ここからの反射光をもとに、反射率を得ている。
また、特許文献2では、このような光強度の不均一分布を除くため、p偏光の反射光強度とs偏光の反射光強度とから反射率を得ている。
また、特許文献3では、校正用の領域として、測定試料と反応しない参照領域を設け、2本の光ビームをそれぞれの領域に照射することで、測定領域の結果を校正している。
特開2007−127670号公報(2007年 5月24日公開) 特開2001− 41881号公報(2001年 2月16日公開) 特開2005−257455号公報(2007年10月 4日公開) Surface Plasmons on smooth and rough surfaces and on gratings, Heinz Raether, Springer-Verlag, 1988 p.118〜p.123
しかしながら、上記従来技術には、さらに、以下のような問題点が存在する。
特許文献1では、金属膜と、金属膜のない領域とにまたがって光を照射すると、このエッジ部分では、試料の接触が均一でなくなるという問題点がある。光を金属膜と、金属膜のない領域に光の照射スポットを移動させるためには、別に移動機構を設ける必要があるとともに、光スポットを移動させることで入射角などがずれる虞があるという問題点もある。また、試料が接しない領域を設けるためには、ガイドなどが必要となるという問題点もある。
また、特許文献2では、p偏光の場合及びs偏光の場合の2回の測定を行わなければならないという問題点がある。さらに、p偏光とs偏光とでは、反射率が異なるため、光学系内の多重干渉による干渉縞が演算後にもノイズ成分として残ってしまうという問題点もある。
また、特許文献3では、測定領域と参照領域のそれぞれの対応した光ビーム及び検出器を設けており、装置の大型化やコストアップを招くという問題点がある。さらに、2本の光ビームを用いているため、それぞれの光ビームの光路は異なっており、各光路中の光学部品のゴミによる影響が各光路によって異なっているという問題点もある。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成で、屈折率を正確に測定できる表面プラズモンセンサーを提供することである。
本発明の表面プラズモンセンサーは、上記課題を解決するために、光源から出射される光ビームの波長において透光性を有する誘電体基板上に形成されており、かつ、検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体を接触させた金属膜と、上記光ビームの各入射角に対する上記金属膜からの反射光を検出する検出手段とを備えており、上記光源から出射された光ビームを上記金属膜の上記液体又は上記気体が接触している面とは反対側の面に照射することにより、上記液体又は上記気体の屈折率を検出する表面プラズモンセンサーにおいて、上記金属膜と、上記光ビームの波長において表面プラズモンが励起されない薄膜とが、誘電体基板上に互いに近接して形成されていることを特徴としている。
ここで、光ビームを適切な入射角及び偏光方向で金属膜に入射した場合の入射角と反射率との関係を、横軸を入射角、縦軸を反射率としたグラフとして表現すると、反射率がある入射角で、急激に低下して極小となることが分かる。この反射率が低下した部分を、dipという。以下の説明においては、前記dipにおける反射率の最小値を反射率Rminとし、このときの入射角を入射角θminとする。
上記構成によれば、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記光ビームの各入射角に対する上記金属膜からの反射光を検出する検出手段を備えている。それゆえ、光源から出射された光ビームを検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体を接触させた金属膜に照射することによって、生じた反射光を該検出手段が検出することにより、各金属膜における入射角θminを測定することができるようになっている。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、金属膜と、上記光ビームの波長において表面プラズモンが励起されない薄膜とが、誘電体基板上に互いに近接して形成されている。なお、測定の際には、上記金属膜からの反射光だけでなく、上記薄膜からの反射光も測定するようにする。
ここで、薄膜は、金属材料であっても良いし、非金属材料であっても良い。ただし、材料の選択又は膜厚の選定により、上記薄膜は、上記光ビームの波長及び測定範囲の入射角において表面プラズモンが励起されない膜とする。
なお、規格化に用いるためには、金属膜及び薄膜に入射する光の入射角の角度範囲で、薄膜からの反射率がほぼ一定であることが好ましい。反射率をほぼ一定にするには、薄膜が金属材料からなる場合には、入射角が臨界角以上で、かつ入射角範囲で表面プラズモンが励起されなければよい。一方、非金属材料からなる場合には、入射角が臨界角以上であればよい。また、この臨界角は、基板、薄膜、試料のいずれかの組み合わせの屈折率比で決まる。
このような構成により、薄膜部分による反射光では、表面プラズモンの励起による損失が無い状態での反射光(≒入射光)の強度分布を測定できる。
なお、上記強度分布には、光ビームの光路中に設けられた光学部品のゴミや光源自体の持つ光の強度分布などの影響が含まれる。
一方、上記金属膜部分による反射光では、光路中に設けられた光学部品のゴミや光源自体の持つ光の強度分布などの影響に加えて、表面プラズモンの励起による損失がある。
なお、本発明の表面プラズモンセンサーの測定対象は、検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体の屈折率であるが、本質的には、上記反射光強度における表面プラズモンの励起による損失である。
よって、表面プラズモンの励起による損失の無い上記薄膜部分による反射光を用いて、上記金属膜部分による反射光の強度を規格化することが可能となるので、検出結果から光源自身の光の強度分布であるガウス分布の影響及びレンズやプリズムなどの光学部品に付着したごみ等による不均一な強度分布の影響によるバックグラウンドノイズを排除することができる。このため、上記屈折率を正確に測定することができる。
また、金属膜と薄膜とが互いに近接して形成されているため、金属膜及び薄膜に入射される光ビームが、ほぼ同じ光学系を通過するようにすることができる。よって、金属膜による反射光の光路と、薄膜による反射光の光路とで、共通の光学部品の点数を多くできるので、装置の大型化やコストアップを招かずに済む。
なお、「金属膜と薄膜とが互いに近接して」とは、金属膜と薄膜とが互いに接触せずに近接している場合、及び金属膜と薄膜とが互いに接触して並列している場合の双方を含む概念である。
また、金属膜による反射光と、薄膜による反射光とは、共通の光学部品の点数が多く、上記光学系による影響をほぼ同等に受けることになるので、金属膜による反射光の光路と、薄膜による反射光の光路とが大きく異なることに起因するノイズを規格化の際にほとんど考慮する必要がない。また、共通の光学部品の点数が多いので、光学系の調整を簡単に行なうことができる。
また、金属膜と、薄膜とを、誘電体基板上に互いに近接して形成するだけで良いので、上記共通の光学部品の点数が多い点も考慮すると、表面プラズモンセンサーを含む装置全体の構成を簡易にすることができる。
以上より、簡易な構成で、屈折率を正確に測定できる表面プラズモンセンサーを提供することができる。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記金属膜と上記薄膜とは、互いに接した状態で、上記誘電体基板上に並列して形成されており、上記光ビームが上記金属膜と上記薄膜とにまたがって照射されることが好ましい。
ここで、光ビームを金属膜及び薄膜に照射する際、各膜に順番に照射してもよいが、光ビームの移動機構が必要であるとともに、光ビームを移動させることで入射角などがずれる虞がある。
しかしながら、上記構成では、金属膜と薄膜とが、誘電体基板上に互いに接した状態で、並列して形成されており、また、上記光ビームが上記金属膜と上記薄膜とにまたがって照射されるようになっている。よって、金属膜による反射光と薄膜による反射光が共通となり、光学系を共通の構成とすることができるので、装置の大型化やコストアップを招かずに済む。
また、金属膜による反射光と、薄膜による反射光とは、共通であり、上記光学系による影響を同等に受けることになるので、金属膜による反射光の光路と、薄膜による反射光の光路とが大きく異なることに起因するノイズを規格化の際に考慮する必要がない。また、共通の光学系なので、光学系の調整が一度で済む。
さらに、光ビームが金属膜と薄膜とにまたがって照射されるようになっているので、移動機構を設ける必要がなく、測定時間も短くすることができる。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記金属膜と上記薄膜との境界線が、上記光ビームの入射角の変化が最も大きくなる方向に対して平行に形成されていることが好ましい。
上記構成によれば、金属膜及び薄膜間に形成された境界線は、光ビームの入射角の変化が最も大きくなる方向に対して平行となるように構成されているので、光ビームを金属膜と、薄膜とにまたがって照射すると共に、該光ビームの入射角を変化させて複数の測定を行なう場合に、金属膜及び薄膜の両方に対して、その測定範囲が最も広くなるようにすることができる。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記金属膜の材料は、金を主成分とすることが好ましい。
上記構成によれば、検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体は、金属膜に直接接触させる。そのため、金属膜は上記液体又は上記気体によって化学反応を起こさない安定した金属から構成されていることが望ましい。
この点、金は、非常に安定した金属であり、錆びないために耐久性が高く、さらに、表面プラズモンを効率よく励起する。
このため、本発明の表面プラズモンセンサーの金属膜として金を用いることにより、上記検出対象を含む液体又は上記検出対象を含む気体によって化学反応を起こさず、該液体又は該気体の屈折率を高い分解能で検出するとともに、金属膜の酸化による経時劣化を防ぐことができる。
なお、金には不純物が含まれていてもよいが、一般に不純物濃度が高くなると、反射率のdipが広くなり、検出分解能を下げることになるため、金の純度は高い方が好ましい。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記光源の波長は、600nm以上、1550nm以下であることが好ましい。
ここで、金属膜上に表面プラズモンを励起させるためには、光源から出射される光ビームの波長が重要である。上述したように、上記金属膜は金から構成されていることがもっとも望ましいが、金から構成された該金属膜上に表面プラズモンを励起するためには、600nm〜1550nmの波長の光ビームを該金属膜に照射することが望ましい。
上記光源から約600nm〜約1550nmの波長の光ビームを金から構成された上記金属膜に照射することにより、表面プラズモンの励起効率が高まり、高い分解能で上記検出対象を含む液体又は上記検出対象を含む気体の屈折率を検出することができる。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記薄膜は、金属材料で構成されており、上記光ビームの波長において表面プラズモンが励起されない膜厚に設定されていても良い。
上記構成により、表面プラズモンが励起される金属膜からの反射光を、表面プラズモンが励起されない膜厚に設定された薄膜からの反射光で規格化することで、バックグラウンドノイズに影響されないようにすることができる。
したがって、検出結果から光源自身の光の強度分布であるガウス分布の影響及びレンズやプリズムなどの光学部品に付着したごみ等による不均一な強度分布の影響によるバックグラウンドノイズを排除することができる。
上記薄膜の金属材料を金属膜と同じ材料とする場合、あらかじめ金属の膜を製膜(成膜)しておき、その一部を薄くすることで、その部分を上記金属膜又は上記薄膜とすることができ、製造が簡易である。また、上記薄膜の金属材料を上記金属膜と異なる材料として該薄膜の膜厚を適宜調整して表面プラズモンが励起されない膜としても良い。このように、上記薄膜の金属材料を上記金属膜と異なる材料にした場合、同じ膜厚で薄膜を表面プラズモンが励起されない状態にすることもできる。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記薄膜は、屈折率が上記誘電体基板の屈折率より小さい、または上記液体又は上記気体の屈折率より大きい誘電体材料で構成されていることが好ましい。
上記構成によれば、金属膜で表面プラズモンが励起される(すなわちdipが生じる)入射角範囲において、薄膜からの反射率を1とすることができる。よって、薄膜からの反射光より入射光の強度分布自体を測定でき、反射光強度を補正する必要がないので、金属膜の反射光強度を、薄膜からの反射光強度によって容易に規格化することができる。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記薄膜の膜厚は、上記金属膜の膜厚と等しいことが好ましい。
ここで、金属膜と薄膜との膜厚が異なると、金属膜及び薄膜上に吸着層を設ける場合、吸着層の分子が膜の段差部分で斜めになり、試料が均一に吸着されない。また、吸着層を設けない場合でも同様に、試料が均一に接触しなくなるという問題点がある。
上記構成によれば、金属膜と薄膜との膜厚を等しくすることにより、このような問題点を解決し、試料が均一に接触又は吸着するようにすることで、光ビームを金属膜と薄膜とにまたがって照射した場合でも、誤差の少ない測定を行なうことができる。
なお、現実的には、金属膜及び薄膜を作成する際に、想定通りの膜厚にすることや、膜内において膜厚差がまったくない状態にすることは困難である。現在の成膜装置においては、膜厚制御は、領域の大きさにも依るが、膜厚の±5%程度である。よって、金属膜とび薄膜との膜厚差は、金属膜及び薄膜のいずれかの膜厚の5%以下であることが好ましい。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記金属膜の膜厚は、上記検出対象を含まない上記液体又は上記気体を接触させた上記金属膜に対する上記光ビームの反射率の最小値が最小となる膜厚dであることが好ましい。
上記構成のように、金属膜の膜厚を膜厚dとした場合は、光ビームの金属膜に対する反射率の最小値Rminと、反射率Rminにおける光ビームの金属膜に対する入射角θminとが最小値となる。したがって、金属膜からの反射光強度測定の際、入射角θminの検出時のS/Nを高くすることができ、測定感度を高めることができる。
また、本発明の表面プラズモンセンサーは、上記構成に加えて、上記誘電体基板は、上記表面プラズモンセンサーから着脱可能であることが好ましい。
上記構成によれば、検出対象に応じて金属膜を誘電体基板ごと取り替えることが可能となる。これにより、1つの装置を用いて、多種の検出対象の検出を行うことが可能となる。すなわち、他の材料から構成されており、かつ、他の膜厚を有する金属膜が形成された誘電体基板と取り替えることにより、上記表面プラズモンセンサーの感度や測定範囲・測定対象等を適宜変更することができる。
本発明の表面プラズモンセンサーは、以上のように、金属膜と、光ビームの波長において表面プラズモンが励起されない薄膜とが、誘電体基板上に互いに近接して形成されているものである。
それゆえ、簡易な構成で、屈折率を正確に測定できる表面プラズモンセンサーを提供するという効果を奏する。
本発明の一実施形態について図1〜図10に基づいて説明すれば以下の通りである。
ここで、図1〜図10に基づき本発明の一実施形態である表面プラズモンセンサー1について説明する。
〔表面プラズモンセンサーの全体構成〕
まず、表面プラズモンセンサー1の全体構成について図1を参照して説明する。図1は、表面プラズモンセンサー1の全体構成の概略を示す図である。
表面プラズモンセンサー1は、図1に示すように、光源2、コリメートレンズ3、集光レンズ4、プリズム(誘電体基板)5、金属膜6、薄膜16、第1レンズ7、第2レンズ8、光検出器9、光源駆動回路10、算出回路11、及びモニター12を備えている。
なお、上記構成の他、本来、A/D変換回路(アナログ/デジタル変換回路)、D/A変換回路(デジタル/アナログ変換回路)、及び各回路を制御するCPU(central processing unit)など(不図示)が必要であるが、本発明の目的とはあまり関係がないので、以下では、このような回路やCPUなどに関する説明は省略する。
なお、本実施形態における表面プラズモンセンサー1は、プリズム5上に形成されており、かつ、検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体(以下、簡単のため「試料」と言い、検出対象を含まない液体又は気体は「試料」とは呼ばないことにする)を接触させた金属膜6に対し、光源2から出射された光ビーム13を金属膜6の該試料が接触している面とは反対側の面に照射することにより、該試料の屈折率を検出するものである。なお、以下、同様な説明は省略する。
ここで、センシングを行なうための金属膜6と、上記光ビームの波長において表面プラズモンが励起されない薄膜16とが、プリズム5上に近接し、又は互いに接触して並列して形成されている点が、本実施形態における表面プラズモンセンサー1を理解するためのポイントである。
以上の構成によれば、後で詳細を説明するように、金属膜6からの反射光を、薄膜16からの反射光で規格化することが可能となるため、バックグラウンドノイズに影響されにくい表面プラズモンセンサー1を構成することができる。
また、表面プラズモンセンサー1は、金属膜6及び薄膜16に接する試料(検出対象を含む液体又は気体)14(図示せず)の屈折率を正確に検出するものである。
ここで、光ビーム13を適切な入射角及び偏光方向で金属膜6に入射した場合の入射角と反射率との関係を、横軸を入射角、縦軸を反射率としたグラフとして表現すると、反射率がある入射角で、急激に低下して極小となることが分かる(図4などを参照)。この反射率が低下した部分を、dipという。以下の説明においては、前記dipにおける反射率の最小値を反射率Rminとし、このときの入射角を入射角θminとする。
また、試料14としては、検出対象を含む液体又は気体が挙げられる。なお、以下では、検出対象を含まない液体又は気体は、試料とは呼ばないこととする。
以下、本実施形態の表面プラズモンセンサー1のその他の構成の詳細について説明する。
光源2は、光ビーム13を出射するものであり、半導体レーザや発光ダイオード等が好適に用いられる。光源2から出射された光ビーム13は、金属膜6に照射されることにより、金属膜6の表面において表面プラズモンを励起する。
ここで、光ビーム13が複数の波長を含んでいる場合、各波長によって、表面プラズモンの励起条件が異なる。よって、光ビーム13が複数の波長を含んでいると、光ビーム13が金属膜6によって反射された反射光の入射角依存性が異なってしまうため、分析が複雑になってしまう。
したがって、光源2の波長領域は、できるだけ狭いことが望ましく、単一波長であることがより好ましい。なお、発光ダイオードなどの波長範囲が広い光源を使用する場合は、分光するなどの工夫が必要となる。
また、光源2から出射された光ビーム13の偏光方向は、プリズム5と金属膜6との間に形成された界面の法線と、光ビーム13の光軸を含む面とを入射面としたとき、該入射面に対して平行な偏光方向、すなわちp偏光が望ましい。
光ビーム13は、偏光方向をp偏光とすることにより、金属膜6の表面において表面プラズモンを励起することができる。なお、光ビーム13の偏光方向が上記入射面に対して垂直な偏光方向、すなわちs偏光の場合は、光ビーム13は金属膜6の表面において表面プラズモンを励起することができない。
コリメートレンズ3は、光源2から出射された光ビーム13を平行光に変換するものである。コリメートレンズ3の焦点距離は、短ければ短いほど、光源2から出射された光ビーム13の利用効率が上がる。
集光レンズ4は、光源2から出射された光ビーム13を、一度にある範囲の入射角で、金属膜6上の微小領域に集光するものである。コリメートレンズ3によって光源2から出射された光ビーム13を平行光に変換しておくことにより、集光レンズ4は効率よく光ビーム13を金属膜6上に集光することができる。
また、コリメートレンズ3を通った光が発散若しくは集束光であれば、集光レンズ4の位置を調整することにより、様々な入射角で光ビーム13を金属膜6へ入射させることができる。
集光レンズ4としては、全方位を集光する平凸レンズ等のレンズを用いてもよいし、一方向のみ集光するシリンドリカルレンズ等のレンズを用いてもよい。集光レンズ4として全方位を集光するレンズを用いた場合は、金属膜6への入射角が複雑となるが、照射面積を小さくすることができる。そのため、全方位を集光するレンズを用いた表面プラズモンセンサー1は、試料14の局所的な情報を得ることが可能となる。
また、集光レンズ4として一方向のみ集光するレンズを用いた場合は、集光しない方向は元のビームサイズのままであるため、金属膜6への入射角は集光した方向にのみ依存する。そのため、一方向のみを集光するレンズを用いた表面プラズモンセンサー1は、試料14の解析が容易となるが、光ビーム13の照射面積が大きくなる。
金属膜6への入射角の角度範囲は、集光レンズ4の開口数で決まるが、金属膜6上で表面プラズモンが励起される角度が含まれるように決定する必要がある。さらに、金属膜6への入射角の角度範囲を、全ての光ビーム13が全反射するような範囲にすることも好ましい。なお、コリメートレンズ3及び集光レンズ4は、それぞれ一度平行光にしてから集光する構成にしているが、有限系のレンズ1つで代用してもよい。
プリズム5は、誘電体基板であり、光源2から出射された光ビーム13を通過させることにより、任意の入射角で光ビーム13を金属膜6に照射し、金属膜6の表面に表面プラズモンを励起するものである。
プリズム5を構成する材料としては、光源2から出射される光ビーム13の波長に応じて、光ビーム13を透過させることができる材料とすれば良く、金属膜6上に表面プラズモンを励起できる材料であれば特に限定されないが、ガラスや樹脂等が好適に用いられる。なお、光源2から出射される光ビーム13の波長が、赤外であれば、プリズム5を構成する材料としては、シリコンを選択しても良い。
金属膜6の表面に表面プラズモンを効率よく励起するためには、光ビーム13を入射角が約45度で金属膜6に照射することが望ましい。しかしながら、光ビーム13をプリズム5ではなく平行基板を介して、約45度の入射角で金属膜6に入射させることは困難である。そのため、本実施形態の表面プラズモンセンサー1では、プリズム5を用いることにより、金属膜6に入射角約45度で光ビーム13を照射している。
プリズム5としては、図1においては三角プリズムが用いられているが、台形、楔形、半円柱型、及び半球型プリズム等も好適に用いられる。
例えば、プリズム5として半円柱型や半球型プリズムを用いた場合は、半円柱及び半球の中心に向かって光ビーム13を入射すると、プリズムの入射面への入射角がほぼ直角となるため、この面での反射率が小さくなり、光の利用効率が高くなる。
また、プリズム5として三角プリズムを用いた場合は、入射面での屈折により、プリズムへの入射角と金属膜6への入射角とが異なる角度となってしまうが、半円柱型プリズムに比べ安価であるため、一般的に利用されている。プリズム5は、上述した構成に限られず、金属膜6に適切な角度で光ビーム13を入射させることができればよいため、他の形状でもよいし、導波路でもよい。
金属膜6は、光源2から照射された光ビーム13により、表面プラズモンを発生させるものであり、スパッタや蒸着で形成することができる。金属膜6は、プリズム5の所定の一面上に直接形成されていても良い。また、金属膜6をプリズム5と同程度の屈折率を有した誘電体基板上に形成し、該誘電体基板の金属膜6が形成されている側とは反対側の面を、プリズム5の所定の一面上にインデックスマッチング剤を挟んでのせてもよい。
該インデックスマッチング剤としては、市販されている液体やジェル等を用いてもよいし、UV硬化樹脂を用いてもよい。ただし、金属膜6が形成された上記誘電体基板が傾くと、入射角に誤差が生じるため、該誘電体基板をプリズム5上に安定して固定することが可能なインデックスマッチング剤を用いる必要がある。また、上記誘電体基板又はプリズム5との密着性の向上や、金属膜6の面精度を上げるために、上記誘電体基板又はプリズム5と金属膜6との間に下地層を設けてもよい。
また、金属膜6が形成された上記誘電体基板をプリズム5に対して着脱可能にしておくことにより、検出対象に応じて金属膜を誘電体基板ごと取り替えることが可能となる。これにより、1つの装置を用いて、多種の試料14の検出を行うことが可能となる。すなわち、他の材料から構成されており、かつ、他の組み合わせの膜厚を有する金属膜6が形成された誘電体基板と取り替えることにより、表面プラズモンセンサー1の感度や測定範囲、測定対象等を変えることができる。
なお、プリズム5の所定の一面上とは、プリズム5が図1に示す三角プリズムの場合は三角形の底辺を含む面であり、プリズム5が半円柱型又は半球型プリズムの場合は半円柱又は半球の中心を含む面であり、プリズム5によって光ビーム13を入射角約45度で金属膜6に入射させることが可能な面である。
また、金属膜6の表面にさらに特定の分子を吸着できる吸着層を設け、試料14中の特定の分子を検出する構成としてもよい。試料14には、検出対象以外の物質が混入している場合、表面プラズモンセンサー1によって試料14の屈折率を検出すると、上記検出対象及び上記物質が含まれた屈折率が検出されてしまう。そこで、金属膜6に上記吸着層を設けることにより、検出対象のみを吸着させることができ、該検出対象のみの屈折率を検出することが可能となる。
金属膜6を構成する材料としては、表面プラズモンを励起可能な金属又は合金であればよく、例えば、銀、銅、アルミニウム、白金、及び金等が好適に用いられる。金属膜6は、酸化などの経時変化の起こらない、安定した金属から構成されていることが望ましい。
上述した金属のうち、金は、非常に安定した金属であり、錆びないために耐久性が高く、さらに、表面プラズモンを効率よく励起する。そのため、表面プラズモンセンサー1の金属膜として、金(Au)は最も好適に用いられる。金属膜6として金を用いることにより、試料14によって化学反応を起こさず、高い分解能で屈折率を検出することができるとともに、金属膜の酸化による経時劣化を防ぐことができる。なお、金には不純物が含まれていてもよいが、一般に不純物濃度が高くなると、反射率のdipが広くなり、検出分解能を下げることになるため、金の純度は高い方が好ましい。
金属膜6が金から構成されている場合、金属膜6上に表面プラズモンを励起するためには、約600nm以上の波長の光ビーム13を金属膜6に照射することが望ましい。光源2から約600nm以上の波長の光ビーム13を金から構成された金属膜6に照射することにより、表面プラズモンの励起効率が高まり、高い分解能で試料14の屈折率を検出することができる。なお、金属膜6が金以外の酸化しやすい材料から構成されている場合、上に誘電体による保護膜を設けることで、酸化を防いでもよい。
また、金属膜6の膜厚は、非特許文献1に記載されているように、主に4つの要素、すなわちプリズム5、金属膜6、試料14の材料(すなわち屈折率)、及び光源2の波長により、表面プラズモンを励起するための膜厚dが決定され、通常、数10nm程度である。薄膜16は、表面プラズモンが励起されない領域を設けるためのものである。規格化に用いるためには、金属膜6及び薄膜16に入射する光の入射角の角度範囲で、薄膜16からの反射率がほぼ一定であることが要求される。
薄膜16の膜厚は、金属膜6の膜厚と等しいことが好ましい。金属膜6及び薄膜16の膜厚が等しい場合、特に金属膜6上に吸着層を設ける場合、吸着層を均一に設けることができる。特許文献1のように、薄膜16を設けない構成の場合、金属膜6のエッジ部周辺に、吸着層の吸着分子が斜め又は金属膜6の膜面に対して面内方向を向いてしまい、吸着分子及びこれに吸着する試料の分子が均一にならず、検出誤差を生む。したがって、薄膜16の膜厚は、金属膜6の膜厚と等しく、かつ表面プラズモンが励起されず、反射率がほぼ一定となる材料を選ぶ。この選定方法については、後に説明するが、金属膜6を誘電体で構成することが好ましい。
また、表面プラズモンセンサー1では、金属膜6と薄膜16とで形成された境界線は、光ビーム13の入射角の変化が最も大きくなる方向に対して平行となるように構成されていることが好ましい。金属膜6と薄膜16とは、互いに近接して形成されていればよい。
これにより、従来の表面プラズモンセンサーの、金属膜6の一部の領域を薄膜16とすることで、後述の通り、バックグラウンドノイズに影響されにくい表面プラズモンセンサー1を構成することができる。
さらに、図1及び図2に示すように、本実施形態の表面プラズモンセンサー1では、金属膜6及び薄膜16は、誘電体基板上に互いに接した状態で、並列して形成されている。すなわち、金属膜6及び薄膜16は、両者ともプリズム(誘電体基板)5上に接しており、かつ互いに接していることが好ましい。
この際、光ビーム13は、金属膜6と薄膜16とにまたがって照射される。光ビーム13を金属膜6及び薄膜16に照射する際、各膜に順番に照射してもよいが、光ビーム13の移動機構が必要であるとともに、光ビーム13を移動させることで入射角などがずれる虞がある。
金属膜6及び薄膜16に同時に照射すると、測定時間が短くなるとともに、移動機構が不必要な分、装置の大型化やコストアップを招くことがない。すなわち、従来の表面プラズモンセンサーにおける金属膜の一部の領域を薄膜16とし、光ビームが金属膜6と薄膜16とにまたがって照射されるように構成するだけで、装置の大型化やコストアップを招くこともなく、バックグラウンドノイズに影響されにくい表面プラズモンセンサーを構成することができる。
よって、金属膜6及び薄膜16は、図1及び図2に示すように、プリズム5上に互いに接した状態で、並列して形成されていることが好ましい。金属膜6と薄膜16との境界線は、光ビームの入射角を変化させて複数の測定を行なう場合に、光ビームの入射角の変化が最も大きくなる方向に対して平行となるように構成されているので、それぞれの金属膜に対して、最も測定範囲が広くなるようにすることができる。
第1レンズ7及び第2レンズ8は、プリズム5と金属膜6との間に形成された界面において反射した光ビーム13を、光検出器9へ集光させて入射させるためのものである。第1レンズ7及び第2レンズ8は、上記界面からの反射光をそれぞれ一度平行光にしてから光検出器9に集光する構成であるが、本実施形態の表面プラズモンセンサー1ではこれに限られず、1つの有限系のレンズを用いてもかまわない。
光検出器9は、プリズム5及び金属膜6の間に形成された界面において光ビーム13が反射した反射光の強度を検出するものである。光検出器9としては、CCD(charge-coupled device)若しくはCMOS(complementary metal-oxide semiconductor)イメージや、又はアレイ状検出器を用いることにより、反射光を一度に取り込むことが好ましい。特に、光検出器9としてCCD又はCMOSを用いれば、光ビーム13を撮像した画像領域のうち、どの領域を測定に用いるかを選択することができる。
光源駆動回路10は、光源2を駆動するものであり、図示しない電源から電圧の供給を受けて光源2に電流を流すことにより、光源2を駆動する。なお、光源2の破壊を防ぐために、光源駆動回路10には光源2に流す電流値に上限値を設けておくことが好ましい。
算出回路11は、光検出器9の測定結果から正確な反射率を算出するものであり、LSI(large-scale integration)やIC(integrated circuit)などの半導体チップ、又は、これらを複合化したコンピュータなどを用いればよい。具体的な算出方法は、後で述べる。
モニター12は、算出回路11に記憶された測定結果や、該測定結果から算出した正確な反射率等の種々の結果を表示するものである。モニター12としては、例えば、CRT(cathode-ray tube)や液晶ディスプレイ等が好適に用いられる。
表面プラズモンセンサー1の金属層6及び薄膜16に対する試料14の接触方法を、図2及び図3を用いて説明する。本実施形態の表面プラズモンセンサー1は、試料14の屈折率の検出を行うために、試料14を金属層6及び薄膜16の表面に接触させる。例えば、試料14として液体を用いた場合には、図2に示すように、金属層6及び薄膜16のプリズム5が設けられている側とは反対側の面に液滴として接触させる。
また、例えば、試料14として液体又は気体を用いた場合には、図3に示すように、金属層6及び薄膜16表面に設けられたマイクロ流路15に液体又は気体を流して接触させる。試料14を金属層6及び薄膜16表面に接触させる方法としては、上述した方法に限られず、試料14が金属層6及び薄膜16表面に接触可能な構成であれば構わない。
〔規格化の原理〕
次に、本実施形態の表面プラズモンセンサー1を用いて、光検出器9及び算出回路11により、正確な反射率を算出する際の算出方法について図10を用いて説明する。
図10は、光検出器9で検出される金属膜6及び薄膜16からの反射光の強度から1ラインを取り出し、その入射角依存性を示した図(グラフ)である。また、図10は、算出回路11の算出結果を示している(なお、これらの結果は、それぞれの結果を分離してみせるために、縦軸方向にずらして掲載している)。
金属膜6及び薄膜16表面に試料14がある場合、金属膜6には、ある入射角で表面プラズモンが励起されるため、図10の実線bのように、表面プラズモンの励起された角度で鋭い吸収が起きた強度分布が光検出器9で検出される。
薄膜16では表面プラズモンが励起されないため、反射光の強度分布は、図10の破線aのように光源2自身の強度分布であるガウス分布となるが、レンズ3,4,7及び8やプリズム5などの光学部品に付着したゴミなどで、不均一な強度分布となる。ここで、薄膜16からの反射光強度分布は、入射光の強度分布そのものであると考えられる。
よって、これを基に、各入射角の入射光量を規格化することができる。また、別の測定時と比較して、入射光の強度変動が起きていないことを確認することもできる。算出回路11による算出は単純に、実線bの破線aに対する比(実線b/破線a)又は実線bと破線aとの差を取ればよい。
この算出結果が、図10の実線cであり、図10の実線aにおける光源2のガウス分布による影響(図10の実線bや、破線aの反射分布強度の全体的傾向)やゴミなどの不均一さ(図10の実線bや、破線aの反射分布強度の入射角40度及び45度附近の小さいピーク)を除くことができる。
ただし、薄膜16での反射率が1でない場合は、係数をかけるなどして、反射強度を補正をすることが好ましい。
以上、算出回路11により求められた上記入射角を用いて、試料14の正確な反射率を求めることができる。その結果、試料14の屈折率を求めることができ、物質の検知を行うことができる。また、規定物質の濃度を測定する場合には、予め、各濃度に対する上記入射角の関係を測定しておけば、濃度を容易に求めることができる。さらに、正確な反射率から上記入射角を自動算出する構成としてもよい。
上記の構成を有する表面プラズモンセンサー1は、光源2の温度変化や経時変化のみならず、光源駆動回路10の温度変化などの要因により、入射光の強度変動が起きた場合にも、正確な反射率を得ることができる。
また、金属膜6及び薄膜16で反射する光がほぼ同じ光路を通るため、上記の要因に加え、光路上の影響にも対応可能である。また、従来に比べて、部品点数を少なくすることができ、低コストとすることができる。
〔薄膜16の材料の選定〕
次に、薄膜16の材料の選定方法について、図4〜図9を参照して説明する。
薄膜16の膜厚は、金属膜6の膜厚と等しいことが好ましいが、上述したように、金属膜6の膜厚は、4つの要素、すなわちプリズム5、金属膜6、試料14の検出対象を含まない状態の材料(すなわち屈折率)、及び光源2の波長により、種々の構成を選択することができる。以下に、その代表的な例について説明する。
プリズム5の屈折率としては、一般にプリズムに用いられる石英の屈折率1.46と、高屈折率な誘電体の屈折率2.0とを用いる。
なお、プリズム5の材料としては、石英だけでなくガラスも好適に用いられるが、一般的なガラスの屈折率は約1.5であり、石英の場合とほぼ同様の結果となる。
金属膜6の屈折率は、金属膜6を構成する材料に依存しており、金属膜6を構成する材料は、上述したように種々の材料が考えられる。ただし、以下の説明においては、金属膜6の材料としてAuを用いる。Auは、既に述べたように酸化による経時劣化が小さいため、好適に用いられる。
試料14の検出対象を含まない状態の屈折率としては、試料14が検出対象を含む液体である場合と、検出対象を含む気体である場合が考えられる。そのため、試料14が検出対象を含む液体である場合、検出対象を水に溶かした状態で測定することを想定し、検出対象を溶かす前の溶媒、すなわち水の屈折率1.33を用いる。また、試料14が検出対象を含む気体である場合、検出対象を空気又は真空中に溶かした状態を想定し、検出対象を溶かす前の屈折率1.0を用いる。
金属膜6を構成する材料をAuとした場合、光源2の波長としては、金属膜6上に表面プラズモンを励起するのに適した赤色から赤外域が用いられる。具体的に、以下の説明においては、半導体レーザの波長635nm、780nm、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)レーザの波長1054nmを用いる。
以下に、上記4つの要素を組み合わせた場合における薄膜16の材料の選定について第1実施例〜第3実施例を挙げて説明する。
(第1実施例)
まず、薄膜16の材料の選定の第1実施例について図4及び図5を参照して説明する。本実施例では、上記4つの要素として、金属膜6の材質としてAuを、光源2の波長として635nm、780nm、及び1054nmの3波長を、プリズム5の屈折率として2.0を、試料14の検出対象を含まない状態の屈折率として1.33を選択した場合における薄膜16の材料の選定について説明する。
まず、上記4つの要素のうち光源2の各波長における、光ビーム13のAu膜に対する入射角と反射率との関係について図4を参照して説明する。図4は、上記4つの要素で、光源2から出射された各波長635nm、780nm、及び1054nmの光ビーム13のAu膜に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。なお、図中の点線(短い破線)は光ビーム13の波長635nmを、長い破線は光ビームの波長780nmを、実線は光ビームの波長1054nmを示している。
また、光源2から出射された光ビーム13の各波長におけるAu膜の膜厚は、反射率の最小値Rminが0に近くなるように、光ビーム13の波長が635nmの場合はAu膜の膜厚を50nm、光ビーム13の波長が780nmの場合はAu膜の膜厚を45nm、光ビーム13の波長が1054nmの場合はAu膜の膜厚を40nmとしている。これより、光ビーム13の波長が1054nmの場合、dipのでる入射角が最も小さいことがわかる。
図5は、光源2の波長として1054nmを、プリズム5の屈折率として2.0を、試料14の検出対象を含まない状態の屈折率として1.33を選択した場合における、Au及びその他の材料(膜厚40nm)に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。
なお、n=2は屈折率2.0の誘電体であり、n=1.46は屈折率1.46の誘電体である。これより、金属膜6の材質であるAuがdipを持つ範囲において、反射率がほぼ一定になる材料があること、また、この反射率が1であるものと、それ以外になるものがあることがわかる。材料が誘電体の場合、入射角が臨界角(約41.7度)以上の範囲で、プリズム5の屈折率と試料14の屈折率との差により全反射が起こり、反射率が1になっている。
表面プラズモン共鳴が起こるのは、プリズム5の屈折率と試料14の屈折率との差により全反射が起こる入射角の範囲であるため、薄膜16の膜厚が入射光の波長より十分薄い場合は、薄膜16の屈折率に関わらずプリズム5の屈折率と試料14の屈折率との差による全反射が起こる。一方、薄膜16の膜厚が入射光の波長より厚い場合は、薄膜16の屈折率を、プリズム5の屈折率より小さく、または試料14の屈折率より大きくし、dipのでる入射角の範囲において、全反射が起こるようにしておく。これらより、薄膜16からの反射率は理論上1となる。
図5では、n=1.46(石英)を例として挙げている。一方、金属ではAlが、反射率がほぼ一定になっているが、消衰係数を持つため、金属内部で光が減衰し、反射率は1にはならず、これを用いて規格化する場合は、反射強度の補正が必要である。よって、薄膜16として試料14の屈折率より大きい屈折率の誘電体を使用すれば、薄膜16からの反射率が1となり、この反射光を基に、金属膜6からの反射光を規格化することができる。
また、光源2の他の波長(635nm,780nm)の場合、Auのdipは、光源2の波長が1054nmのときよりも大きな入射角にでる。また、誘電体の屈折率はこの波長範囲でほとんど変わらないため、これらの誘電体を使用することで、同様の効果が得られることがわかる。
(第2実施例)
次に、薄膜16の材料の選定の第2実施例について図6及び図7を参照して説明する。本実施例では、上記4つの要素として、金属膜6の材質としてAuを、光源2の波長として635nm、780nm、及び1054nmの3波長を、プリズム5の屈折率として2.0を、試料14の検出対象を含まない状態の屈折率として1.0を選択した場合における薄膜16の材料の選定について説明する。
まず、上記4つの要素のうち光源2の各波長における、光ビーム13のAu膜に対する入射角と反射率との関係について図6を参照して説明する。図6は、上記4つの要素で、光源2から出射された各波長635nm、780nm、及び1054nmの光ビーム13のAu膜に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。なお、図6中の点線(短い破線)は光ビーム13の波長635nmを、長い破線は光ビームの波長780nmを、実線は光ビームの波長1054nmを示している。
また、光源2から出射された光ビーム13の各波長におけるAu膜の膜厚は、反射率の最小値Rminが0に近くなるように、光ビーム13の波長が635nmの場合はAu膜の膜厚を50nm、光ビーム13の波長が780nmの場合はAu膜の膜厚を45nm、光ビーム13の波長が1054nmの場合はAu膜の膜厚を35nmとしている。これより、光ビーム13の波長が1054nmの場合、dipのでる入射角が最も小さいことがわかる。
図7は、光源2の波長として1054nmを、プリズム5の屈折率として2.0を、試料14の検出対象を含まない状態の屈折率として1.0を選択した場合における、Au及びその他の材料(膜厚35nm)に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。
なお、n=2は屈折率2.0の誘電体であり、n=1.46は屈折率1.46の誘電体である。これより、金属膜6の材質であるAuがdipを持つ範囲において、反射率がほぼ一定になる材料があること、また、この反射率が1であるものと、それ以外になるものがあることがわかる。
材料が誘電体の場合、入射角が臨界角(約30.0度)以上の範囲で、プリズム5の屈折率と試料14との屈折率の差により全反射が起こり、反射率が1になっている。表面プラズモン共鳴が起こるのは、プリズム5の屈折率と試料14の屈折率との差により全反射が起こる入射角の範囲であるため、薄膜16の膜厚が入射光の波長より十分薄い場合は、薄膜16の屈折率に関わらずプリズム5の屈折率と試料14の屈折率との差による全反射が起こる。一方、薄膜16の膜厚が入射光の波長より厚い場合は、薄膜16の屈折率を、プリズム5の屈折率より小さく、または試料14の屈折率より大きくし、dipのでる入射角の範囲において、全反射が起こるようにしておく。これらより、薄膜16からの反射率は理論上1となる。
図7では、n=1.46(石英)を例として挙げている。一方、金属ではAlが、反射率がほぼ一定になっているが、消衰係数を持つため、金属内部で光が減衰し、反射率は1にはならず、これを用いて規格化する場合は、反射強度の補正が必要である。よって、薄膜16として試料14の屈折率より大きい屈折率の誘電体を使用すれば、薄膜16からの反射率が1となり、この反射光を基に、金属膜6からの反射光を規格化することができる。
また、光源2の他の波長(635nm,780nm)の場合、Auのdipは、光源2の波長が1054nmのときよりも大きな入射角に出る。また、誘電体の屈折率はこの波長範囲でほとんど変わらないため、これらの誘電体を使用することで、同様の効果が得られることがわかる。
(第3実施例)
次に、薄膜16の材料の選定の第3実施例について図8及び図9を参照して説明する。本実施例では、上記4つの要素として、金属膜6の材質としてAuを、光源2の波長として635nm、780nm、及び1054nmの3波長を、プリズム5の屈折率として1.46を、試料14の検出対象を含まない状態の屈折率として1.0を選択した場合における薄膜16の材料の選定について説明する。
まず、上記4つの要素のうち光源2の各波長における、光ビーム13のAu膜に対する入射角と反射率との関係について図8を参照して説明する。図8は、上記4つの要素で、光源2から出射された各波長635nm、780nm、及び1054nmの光ビーム13のAu膜に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。なお、図8中の点線(短い破線)は光ビーム13の波長635nmを、長い破線は光ビームの波長780nmを、実線は光ビームの波長1054nmを示している。
また、光源2から出射された光ビーム13の各波長におけるAu膜の膜厚は、反射率の最小値Rminが0に近くなるように、光ビーム13の波長が635nmの場合はAu膜の膜厚を50nm、光ビーム13の波長が780nmの場合はAu膜の膜厚を45nm、光ビーム13の波長が1054nmの場合はAu膜の膜厚を35nmとしている。これより、光ビーム13の波長が1054nmの場合、dipのでる入射角が最も小さいことがわかる。
図9は、光源2の波長として1054nmを、プリズム5の屈折率として1.46を、試料14の検出対象を含まない状態の屈折率として1.0を選択した場合における、Au及びその他の材料(膜厚35nm)に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。
なお、n=2は屈折率2.0の誘電体であり、n=1.46は屈折率1.46の誘電体である。これより、金属膜6の材質であるAuがdipを持つ範囲において、反射率がほぼ一定になる材料があること、また、この反射率が1であるものと、それ以外になるものがあることがわかる。
材料が誘電体の場合、入射角が臨界角(約43.2度)以上の範囲で、プリズム5の屈折率と試料14の屈折率との差により全反射が起こり、反射率が1になっている。表面プラズモン共鳴が起こるのは、プリズム5の屈折率と試料14の屈折率の差により全反射が起こる入射角の範囲であるため、薄膜16の膜厚が入射光の波長より十分薄い場合は、薄膜16の屈折率に関わらずプリズム5の屈折率と試料14の屈折率との差による全反射が起こる。一方、薄膜16の膜厚が入射光の波長より厚い場合は、薄膜16の屈折率を、プリズム5の屈折率より小さく、または試料14の屈折率より大きくし、dipのでる入射角の範囲において、全反射が起こるようにしておく。これらより、薄膜16からの反射率は理論上1となる。
図9では、n=2.0を例として挙げている。一方、金属ではAlが、反射率がほぼ一定になっているが、消衰係数を持つため、金属内部で光が減衰し、反射率は1にはならず、これを用いて規格化する場合は、反射強度の補正が必要である。よって、薄膜16として試料14の屈折率より大きい屈折率の誘電体を使用すれば、薄膜16からの反射率が1となり、この反射光を基に、金属膜6からの反射光を規格化することができる。
また、光源2の他の波長(635nm,780nm)の場合、Auのdipは、光源2の波長が1054nmのときよりも大きな入射角に出る。また、誘電体の屈折率はこの波長範囲でほとんど変わらないため、これらの誘電体を使用することで、同様の効果が得られることがわかる。
以上の結果により、センシングするための金属膜と、光ビームの波長において表面プラズモンが励起されない薄膜が、誘電体基板上に並列して形成することで、上記金属膜からの反射光を、上記薄膜からの反射光で規格化し、バックグラウンドノイズの影響を抑えることができる表面プラズモンセンサー1を構成できることが検証された。
以上の説明のように、本実施形態の表面プラズモンセンサー1は、光ビーム13の各入射角に対する金属膜6からの反射光を検出する検出器9を備えている。それゆえ、光源2から出射された光ビーム13を検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体を接触させた金属膜6に照射することによって、生じた反射光を検出器9が検出することにより、金属膜6における入射角θminを測定することができるようになっている。
また、本実施形態の表面プラズモンセンサー1は、金属膜6と、光ビーム13の波長において表面プラズモンが励起されない薄膜16とが、プリズム5上に互いに近接して形成されており、薄膜16からの反射光も測定するものである。
ここで、薄膜16は、金属材料であっても良いし、非金属材料であっても良い。ただし、薄膜16は、材料の選択又は膜厚の選定により、光ビーム13の波長において表面プラズモンが励起されない膜とする。
また、本実施形態の表面プラズモンセンサー1の薄膜16を、金属材料で構成し、光ビーム13の波長において表面プラズモンが励起されない膜厚に設定しても良い。
これにより、表面プラズモンが励起される金属膜6からの反射光を、表面プラズモンが励起されない膜厚に設定された薄膜16からの反射光で規格化することで、バックグラウンドノイズに影響されないようにすることができる。
以上のような構成により、薄膜16部分による反射光では、表面プラズモンの励起による損失が無い状態での反射光(≒入射光)の強度分布を測定できる。
なお、上記強度分布には、光ビーム13の光路中に設けられた光学部品(コリメートレンズ3など)のゴミや光源2自体の持つ光の強度分布などの影響が含まれる。
一方、金属膜6部分による反射光では、光路中に設けられた光学部品のゴミや光源2自体の持つ光の強度分布などの影響に加えて、表面プラズモンの励起による損失がある。
なお、表面プラズモンセンサー1の測定対象は、検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体の屈折率であるが、本質的には、上記反射光強度における表面プラズモンの励起による損失である。
よって、薄膜16部分による反射光を用いて、金属膜6部分による反射光の強度を規格化することが可能となるので、検出結果から光源2自身の光の強度分布であるガウス分布などの影響及びコリメートレンズ3やプリズム5などの光学部品に付着したごみ等による不均一な強度分布の影響によるバックグラウンドノイズを排除することができる。このため、上記屈折率を正確に測定することができる。
また、金属膜6と薄膜16とが互いに近接して形成されているため、金属膜6及び薄膜16に入射される光ビーム13を、金属膜6と薄膜16に同時に照射することができ、光ビーム13のうち、金属膜6と薄膜16に照射される部分は、ほぼ同じ光学系を通過するようにすることができる。よって、金属膜6による反射光の光路と、薄膜16による反射光の光路とで、共通の光学部品の点数を多くできるので、表面プラズモンセンサー1の大型化やコストアップを招かずに済む。
なお、「金属膜6と薄膜16とが互いに近接して」とは、金属膜6と薄膜16とが互いに接触せずに近接している場合、及び金属膜6と薄膜16とが互いに接触して並列している場合の双方を含む概念である。
また、金属膜6による反射光と、薄膜16による反射光とは、共通の光学部品の点数が多く、上記光学系による影響をほぼ同等に受けることになるので、金属膜6による反射光の光路と、薄膜16による反射光と光路とが大きく異なることに起因するノイズを規格化の際にほとんど考慮する必要がない。また、共通の光学部品の点数が多いので、光学系の調整を簡単に行なうことができる。
また、金属膜6と、薄膜16とを、プリズム5上に互いに近接して形成するだけで良いので、上記共通の光学部品の点数が多い点も考慮すると、表面プラズモンセンサー1全体の構成を簡易にすることができる。
また、本発明の表面プラズモンセンサー1は、金属膜6と薄膜16とは、互いに接した状態で、プリズム5上に並列して形成されており、光ビーム13が金属膜6と薄膜16とにまたがって照射されることが好ましい。
ここで、光ビーム13を金属膜6及び薄膜16に照射する際、各膜に順番に照射してもよいが、光ビーム13の移動機構が必要であるとともに、光ビーム13を移動させることで入射角などがずれる虞がある。
しかしながら、上記構成では、金属膜6と薄膜16とが、プリズム5上に互いに接した状態で、並列して形成されており、また、光ビーム13が金属膜6と薄膜16とにまたがって照射されるようになっている。よって、金属膜6による反射光と薄膜16による反射光が共通となり、光学系を共通の構成とすることができるので、表面プラズモンセンサー1の大型化やコストアップを招かずに済む。
また、金属膜6による反射光と、薄膜16による反射光とは、共通であり、上記光学系による影響を同等に受けることになるので、金属膜6による反射光の光路と、薄膜16による反射光の光路とが大きく異なることに起因するノイズを規格化の際に考慮する必要がない。また、共通の光学系なので、光学系の調整が一度で済む。
さらに、光ビーム13が金属膜6と薄膜16とにまたがって照射されるようになっているので、移動機構を設ける必要がなく、測定時間も短くすることができる。
また、表面プラズモンセンサー1は、金属膜6と薄膜16との境界線が、光ビーム13の入射角の変化が最も大きくなる方向に対して平行に形成されていることが好ましい。
これにより、金属膜6及び薄膜16間に形成された境界線は、光ビーム13の入射角の変化が最も大きくなる方向に対して平行となるように構成されているので、光ビーム13を金属膜6と、薄膜16とにまたがって照射すると共に、光ビーム13の入射角を変化させて複数の測定を行なう場合に、金属膜6及び薄膜16の両方に対して、その測定範囲が最も広くなるようにすることができる。
また、表面プラズモンセンサー1は、金属膜6の材料は、金を主成分とすることが好ましい。
ここで、検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体は、金属膜6に直接接触させる。そのため、金属膜6は上記液体又は上記気体によって化学反応を起こさない安定した金属から構成されていることが望ましい。
この点、金は、非常に安定した金属であり、錆びないために耐久性が高く、さらに、表面プラズモンを効率よく励起する。
このため、表面プラズモンセンサー1の金属膜6として金を用いることにより、上記検出対象を含む液体又は上記検出対象を含む気体によって化学反応を起こさず、該液体又は該気体の屈折率を高い分解能で検出するとともに、金属膜6の酸化による経時劣化を防ぐことができる。
なお、金には不純物が含まれていてもよいが、一般に不純物濃度が高くなると、反射率のdipが広くなり、検出分解能を下げることになるため、金の純度は高い方が好ましい。
また、表面プラズモンセンサー1は、光源2の波長は、約600nm以上、約1550nm以下であることが好ましい。
ここで、金属膜6上に表面プラズモンを励起させるためには、光源2から出射される光ビーム13の波長が重要である。上述したように、金属膜6は金から構成されていることがもっとも望ましいが、金から構成された該金属膜6上に表面プラズモンを励起するためには、約600nm〜約1550nmの波長の光ビーム13を金属膜6に照射することが望ましい。
光源2から約600nm〜約1550nmの波長の光ビーム13を金から構成された金属膜6に照射することにより、表面プラズモンの励起効率が高まり、高い分解能で上記検出対象を含む液体又は上記検出対象を含む気体の屈折率を検出することができる。
また、表面プラズモンセンサー1は、薄膜6は、金属材料で構成されており、光ビーム13の波長において表面プラズモンが励起されない膜厚に設定されていても良い。
これにより、表面プラズモンが励起される金属膜6からの反射光を、表面プラズモンが励起されない膜厚に設定された薄膜16からの反射光で規格化することで、バックグラウンドノイズに影響されないようにすることができる。
金属膜6をAu、プリズムの屈折率として1.46を、試料の屈折率として1.0を用いたとき、金属膜6の膜厚を変えたときの反射率カーブを図11に示す。これより、膜厚を変えるだけで表面プラズモンが励起されない状態にすることができる。プリズム・金属膜・試料の材料を変えても、同様であることは明らかである。
したがって、薄膜16を金属膜6と同じ材料とし、膜厚を変えるだけで、薄膜16からの反射光で規格化することで、バックグラウンドノイズに影響されないようにすることができる。この場合、あらかじめ金属膜6を製膜(成膜)しておき、その一部をエッチングなどの手法により薄くすることで、その部分を金属膜6又は薄膜16とすることができ、製造が簡易である。また、薄膜16を金属膜6と異なる金属材料とし、薄膜16の膜厚を適宜調整して表面プラズモンが励起されない膜としても良い。このように、薄膜16の金属材料を金属膜6と異なる材料にした場合、同じ膜厚で薄膜16を表面プラズモンが励起されない状態にすることもできる。
図12に、金属膜6をAu、薄膜16をAl、プリズムの屈折率として1.46を、試料の屈折率として1.0を用いたときの反射率カーブを示す。金属膜6、薄膜16はともに45nmである。これより、薄膜16が金属膜6と異なる金属材料であれば、同じ膜厚で薄膜16を表面プラズモンが励起されない状態にすることができることがわかる。プリズム・金属膜・試料の材料を変えても、同様であることは明らかである。
したがって、検出結果から光源2自身の光の強度分布であるガウス分布の影響及びコリメートレンズ3やプリズム5などの光学部品に付着したごみ等による不均一な強度分布の影響によるバックグラウンドノイズを排除することができる。
表面プラズモンセンサー1は、薄膜16は、屈折率がプリズム5より小さい、または試料14より大きい誘電体材料で構成されていることが好ましい。
これにより、金属膜6で表面プラズモンが励起される(すなわちdipが生じる)入射角範囲において、薄膜16からの反射率を1とすることができる。よって、薄膜16からの反射光より入射光の強度分布自体を測定でき、反射光強度を補正する必要がないので、金属膜6の反射光強度を、薄膜16からの反射光強度によって容易に規格化することができる。
表面プラズモンセンサー1は、薄膜16の膜厚は、金属膜6の膜厚と等しいことが好ましい。
ここで、金属膜6と薄膜16との膜厚が異なると、金属膜6及び薄膜16上に吸着層を設ける場合、吸着層の分子が膜の段差部分で斜めになり、試料が均一に吸着されない。また、吸着層を設けない場合でも同様に、試料が均一に接触しなくなるという問題点がある。
上記構成によれば、金属膜6と薄膜16との膜厚を等しくすることにより、このような問題点を解決し、試料が均一に接触又は吸着するようにすることで、光ビーム13を金属膜6と薄膜16とにまたがって照射した場合でも、誤差の少ない測定を行なうことができる。
なお、現実的には、金属膜6及び薄膜16を作成する際に、想定通りの膜厚にすることや、膜内において膜厚差がまったくない状態にすることは困難である。現在の成膜装置においては、膜厚制御は、領域の大きさにも依るが、膜厚の±5%程度である。よって、金属膜6と薄膜16との膜厚差は、金属膜6及び薄膜16のいずれかの膜厚の5%以下であることが好ましい。
また、表面プラズモンセンサー1は、金属膜6の膜厚は、上記検出対象を含まない上記液体又は上記気体を接触させた金属膜6に対する光ビーム13の反射率の最小値が最小となる膜厚dであることが好ましい。
このように、金属膜6の膜厚を膜厚dとした場合は、光ビーム13の金属膜6に対する反射率の最小値Rminと、反射率Rminにおける光ビーム13の金属膜6に対する入射角θminとが最小値となる。したがって、金属膜6からの反射光強度測定の際、入射角θminの検出時のS/Nを高くすることができ、測定感度を高めることができる。
また、表面プラズモンセンサー1は、プリズム5は、表面プラズモンセンサー1から着脱可能であることが好ましい。
これにより、検出対象に応じて金属膜6をプリズム5ごと取り替えることが可能となる。これにより、1つの表面プラズモンセンサー1を用いて、多種の検出対象の検出を行うことが可能となる。すなわち、他の材料から構成されており、かつ、他の膜厚を有する金属膜6が形成されたプリズム5と取り替えることにより、表面プラズモンセンサー1の感度や測定範囲・測定対象等を適宜変更することができる。
以上より、簡易な構成で、屈折率を正確に測定できる表面プラズモンセンサー1を提供することができる。
以上、金属膜6及び薄膜16が、プリズム5上に並列して形成されていることにより、正確な屈折率が測定できる表面プラズモンセンサー1について説明した。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明は、検出対象を含む液体又は気体の屈折率を検出するものであり、上記液体又は上記気体の濃度測定、蛋白質や高分子等の検出等に好適に用いられる。
本発明における表面プラズモンセンサーの一実施形態の全体構成の概略を示す概略図である。 上記表面プラズモンセンサーの金属膜に対する試料の接触方法の一例を示す概略図である。 上記表面プラズモンセンサーの金属膜に対する試料の接触方法の他の例を示す概略図である。 上記金属膜の材質としてAuを、プリズムの屈折率として2.0を、試料の屈折率として1.33を用いた場合における、光源から出射された各波長635nm、780nm、1054nmの光ビームの金属膜に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。 プリズムの屈折率として2.0を、試料の屈折率として1.33を用い、光ビームの波長が1054nmの場合における、入射角と、種々の薄膜からの反射率との関係を示した図(グラフ)である。 金属膜の材質としてAuを、プリズムの屈折率として2.0を、試料の屈折率として1.0を用いた場合における、光源から出射された各波長635nm、780nm、1054nmの光ビームの金属膜に対する入射角と反射率との関係を示す図(グラフ)である。 プリズムの屈折率として2.0を、試料の屈折率として1.0を用い、光ビームの波長が1054nmの場合における、入射角と、種々の薄膜からの反射率との関係を示した(グラフ)図である。 金属膜の材質としてAuを、プリズムの屈折率として1.46を、試料の屈折率として1.0を用いた場合における、光源から出射された各波長635nm、780nm、1054nmの光ビームの金属膜に対する入射角と反射率との関係を示す(グラフ)図である。 プリズムの屈折率として1.46を、試料の屈折率として1.0を用い、光ビームの波長が1054nmの場合における、入射角と、種々の薄膜からの反射率との関係を示した(グラフ)図である。 金属膜にて表面プラズモンが励起され、薄膜にて表面プラズモンが励起されない構成とした場合の測定結果及び算出結果を示す図(グラフ)である。 金属膜の材質としてAuを、プリズムの屈折率として1.46を、試料の屈折率として1.0を用い、光源から出射された波長635nmの光ビームの金属膜に対する入射角と反射率との関係を示す図である。 金属膜の材質としてAuを、薄膜の材質としてAlを、プリズムの屈折率として1.46を、試料の屈折率として1.0を用い、金属膜及び薄膜の膜厚を45nmとし、光源から出射された波長635nmの光ビームの金属膜に対する入射角と反射率との関係を示す図である。
符号の説明
1 表面プラズモンセンサー
2 光源
3 コリメートレンズ
4 集光レンズ
5 プリズム(誘電体基板)
6 金属膜
7 第1レンズ
8 第2レンズ
9 光検出器
10 光源駆動回路
11 算出回路
12 モニター
13 光ビーム
14 試料(検出対象を含む液体又は気体)
15 マイクロ流路
16 薄膜

Claims (12)

  1. 光源から出射される光ビームの波長において透光性を有する誘電体基板上に形成されており、かつ、検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体を接触させた金属膜と、上記光ビームの各入射角に対する上記金属膜からの反射光を検出する検出手段とを備えており、
    上記光源から出射された光ビームを上記金属膜の上記液体又は上記気体が接触している面とは反対側の面に照射することにより、上記液体又は上記気体の屈折率を検出する表面プラズモンセンサーにおいて、
    上記金属膜と、上記光ビームの波長及び測定範囲の入射角において表面プラズモンが励起されない薄膜とが、上記誘電体基板上に互いに近接して形成されており、
    上記検出対象を含む液体又は検出対象を含む気体が、さらに上記薄膜に接触しており、
    上記光源から出射された上記光ビームの各入射角は、臨界角以上であり、
    上記光源から出射された光ビームは、さらに、上記薄膜の上記液体又は上記気体が接触している面とは反対側の面に照射され、
    上記検出手段は、さらに、上記光ビームの各入射角に対する上記薄膜からの反射光を検出することを特徴とする表面プラズモンセンサー。
  2. 上記金属膜と上記薄膜とは、互いに接した状態で、上記誘電体基板上に並列して形成されており、上記光ビームが上記金属膜と上記薄膜とにまたがって照射されることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモンセンサー。
  3. 上記金属膜と上記薄膜との境界線が、上記光ビームの入射角の変化が最も大きくなる方向に対して平行に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の表面プラズモンセンサー。
  4. 上記金属膜の材料は、金を主成分とすることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の表面プラズモンセンサー。
  5. 上記光源の波長は、600nm以上、1550nm以下であることを特徴とする請求項4に記載の表面プラズモンセンサー。
  6. 上記薄膜は、金属材料で構成されており、上記光ビームの波長において表面プラズモンが励起されない膜厚に設定されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の表面プラズモンセンサー。
  7. 上記薄膜は、屈折率が上記誘電体基板の屈折率より小さい誘電体材料で構成されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の表面プラズモンセンサー。
  8. 上記薄膜は、屈折率が上記液体又は上記気体の屈折率より大きい誘電体材料で構成されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の表面プラズモンセンサー。
  9. 上記薄膜の膜厚は、上記金属膜の膜厚と等しいことを特徴とする請求項7または8に記載の表面プラズモンセンサー。
  10. 上記金属膜の膜厚は、上記検出対象を含まない上記液体又は上記気体を接触させた上記金属膜に対する上記光ビームの反射率の最小値が最小となる膜厚dであることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項に記載の表面プラズモンセンサー。
  11. 上記誘電体基板は、上記表面プラズモンセンサーから着脱可能であることを特徴とする請求項1から10までのいずれか1項に記載の表面プラズモンセンサー。
  12. 上記検出手段が検出した上記金属膜からの反射光の強度分布を、上記検出手段が検出した上記薄膜からの反射光の強度分布を用いて規格化した検出データを算出する算出手段を備えていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項に記載の表面プラズモンセンサー。
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