以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明では、鍵盤装置が備える鍵の長手方向における両側のうち、鍵盤を演奏する演奏者の側を手前あるいは前といい、その反対側を奥あるいは後という。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる鍵盤装置1が備える鍵10の構成例を示す図であり、(a)は、鍵10及びその周辺の構成部品を示す概略側断面図であり、(b)は、(a)のA−A断面図である。なお、同図では、鍵盤装置1が備える1個の鍵及びその周辺の構成部品を示している。鍵盤装置1は、棚板2に取り付けられたフレーム部材3と、フレーム部材3の上部でフレーム部材3に対して移動可能に支持された鍵10と、鍵10の下方で棚板2に対して揺動可能に支持された質量体20とを備えて構成されている。なお、図1では、鍵10が白鍵である場合を示しているが、黒鍵の場合も同様の構成になっている。
棚板2は、鍵10を配列するための棚の底部を構成する平板状の部材である。フレーム部材3は、棚板2の上面に固定されている。フレーム部材3は、一体に形成された上壁3aと前後の側壁3b,3cとを有し、側断面形状が略コ字状に形成されている。棚板2及びフレーム部材3は、鍵盤装置1のスケール方向(図1の紙面に直交する方向)に延びており、複数の鍵10に対応する位置に跨って配置されている。棚板2やフレーム部材3は、移動する鍵10や質量体20に対して固定されている固定部であって、鍵10や質量体20を揺動自在に支持している支持体となっている。なお、鍵10や質量体20は、該支持体に対して揺動(回動)自在に設けられているが、その支持構造としては、鍵10や質量体20が支持体に対して直接揺動自在に支持されているもののみならず、間接部材(例えば支点部材)を介して間接的に支持される構造であってもよい。
鍵10は、フレーム部材3の上壁3aの後端部から上方に突出する鍵支持片4に支持されている。鍵10は、その長手方向の後端部が鍵支持片4の上端に設けた鍵支点5に軸支されており、前端部が上下方向に移動するようになっている。鍵10の前端部近傍の下面には、下方に突出する駆動片11が形成されている。駆動片11は、鍵10の移動に伴って、後述する質量体20の被駆動部31を駆動(押圧)して質量体20を移動させ、質量体20による反力を鍵10に伝える伝達部として機能する。なお、該伝達部には、駆動片11と後述する被駆動部31、及びこれらの間に軸支された軸部trも含まれる。
質量体20は、フレーム部材3の上壁3aと両側壁3b,3cと棚板2とによって囲まれた内側に配置され、対応する鍵10の真下位置に配置されている。質量体20は、棚板2の上面から上方に突出する質量体支持片6の上端に設けた質量体支点7に軸支された枠部材30と、枠部材30に取り付けられた錘部材40とを備えて構成されている。枠部材30は、質量体支点7を中心に上下方向に揺動するようになっている。
枠部材30は、合成樹脂あるいは金属などで一体形成された細長い形状の部材であり、その長手方向が鍵10の長手方向に沿って延びている。質量体支点7は、枠部材30の長手方向の途中位置に配置されており、枠部材30の前端部には、鍵10の駆動片11で駆動される被駆動部31が設けられている。被駆動部31は、駆動片11の下端に軸部trを介して軸支されており、駆動片11と共に上下に移動するようになっている。
枠部材30における質量体支点7の後側には、錘部材40を取り付ける取付部32が設けられている。取付部32は、枠部材30に一体形成された上下一対のガイドレール(ガイド部材)33,33を備えている。ガイドレール33,33は、枠部材30の上端と下端とに一本ずつ互いに平行に形成されており、質量体支点7から鍵10の長手方向の後側に向かって延びている。両ガイドレール33,33の後端部は、枠部材30の後端部34に連結されている。
両ガイドレール33,33の間にはネジ軸35が設置されている。ネジ軸35は、その軸方向が両ガイドレール33,33の長手方向と平行に配置されている。また、両ガイドレール33,33の前端の間には、モータ36が設置されている。ネジ軸35は、前端がモータ36の回転軸に連結されており、後端が枠部材30の後端部34に回転自在に取り付けられている。これにより、ネジ軸35はモータ36の回転により枠部材30に対して回転するようになっている。
錘部材40は、金属材料などで構成された所定の質量を有する塊状の部材である。錘部材40は、ガイドレール33を挿通させるガイド穴41と、ネジ軸35を挿通させるネジ穴42とを備えている。ガイド穴41は、錘部材40の本体部40aの上部及び下部に設けた支持部40bに形成された貫通穴からなり、その内周がガイドレール33の外周に摺接することでガイドレール33に沿って移動可能になっている。ネジ穴42は、ネジ軸35をネジ係合させた状態で挿通させる貫通穴からなる。錘部材40は、ネジ穴42に挿通されたネジ軸35の回転によるネジの送りで、ガイドレール33に沿って移動するようになっている。
枠部材30に回転自在に支持されたネジ軸35と、錘部材40に設けられたネジ穴42とで、ネジ軸35の回転によるネジの送りで錘部材40を移動させるネジ送り機構21が構成されている。また、枠部材30に形成されたガイドレール33と、錘部材40に設けられたガイド穴41とで、ネジ送り機構21による錘部材40の移動をガイドするガイド機構22が構成されている。
一方、フレーム部材3の上壁3aには、鍵スイッチ15aを搭載した鍵スイッチ基板15が取り付けられている。また、鍵10の下面における鍵スイッチ15aに対応する位置には、突起状の押圧部12が形成されている。鍵10が下方に移動すると押圧部12が鍵スイッチ15aを押圧してこれをオンするようになっている。
棚板2の上面の後側には、下ストッパー23が設置されている。下ストッパー23は、図1における時計回り方向に移動する質量体20を当接させて、質量体20の同方向への揺動を規制するものである。下ストッパー23は、質量体20の衝突による衝撃を吸収可能なフェルトやゴムなどの柔軟性を有する材料で構成されている。一方、フレーム部材3の上壁3aの後側の下面には、上ストッパー24が設置されている。上ストッパー24は、図1における反時計回り方向に移動する質量体20を当接させて、質量体20の同方向への移動を規制するものである。上ストッパー24は、質量体20の衝突による衝撃を吸収可能なフェルトやゴムなどの柔軟性を有する材料で構成されている。
上記構成の鍵盤装置1における演奏時の鍵10及び質量体20の動作を説明する。まず、質量体20の重心位置は、錘部材40の重さによって質量体支点7よりも後側の位置にあるため、質量体20には、質量体支点7を中心に図1における時計回り方向の回転力(モーメント)が生じている。したがって、鍵10が押されていないとき、質量体20は下ストッパー23に当接して静止している。このとき、質量体20の被駆動部31は上昇した位置にあり、被駆動部31に連結された駆動片11を介して鍵10が上方に持ち上げられた状態で静止している。この状態における鍵10及び質量体20の位置を非押鍵位置という。
非押鍵位置にある鍵10を押すと、鍵10が下方に移動する。すると、駆動片11によって質量体20の被駆動部31が駆動されて下方に移動する。これにより、質量体20が反時計回り方向に移動する。このとき、上記のように質量体20には時計回り方向の回転力が生じているため、この回転力によって被駆動部31から駆動片11に反力としての荷重が付与される。この荷重は、鍵10を介して演奏者の指に掛かる荷重となる。この演奏者の指に掛かる荷重によって、鍵10のタッチ感(慣性質量感)が生じる。
鍵10がさらに押し下げられてゆくと、質量体20が反時計回り方向にさらに移動する。質量体20が上ストッパー24に当接すると、質量体20及び鍵10の移動が停止する。一方、その状態で鍵10を押し下げている力を弱めると、質量体20が錘部材40の重さによる回転力で時計回り方向に移動し、鍵10が上方に持ち上げられてゆく。鍵10を押し下げている力を完全に解除すると、質量体20が下ストッパー23に当接することで質量体20及び鍵10の移動が停止して、質量体20及び鍵10が非押鍵位置に復帰する。
この鍵盤装置1では、質量体20に取り付けた錘部材40を移動させてその位置を変えることで、鍵10のタッチ感を変更することができる。以下、この操作について説明する。錘部材40の位置を変えるには、モータ36によりネジ軸35を回転させる。ネジ軸35が回転すると、ネジの送りで錘部材40が移動する。錘部材40は、ガイドレール33でガイドされた方向に移動する。
錘部材40を移動させることで、質量体20の重心の位置が変更される。これにより、錘部材40の重さによって質量体20に与えられる回転力の大きさが変化するので、質量体20から鍵10に付与される荷重が変わり、鍵10のタッチ感が変更される。さらに、ガイドレール33に沿って移動する錘部材40の移動量を詳細に調節すれば、鍵10のタッチ感を所望のタッチ感に変えることが可能となる。したがって、鍵盤装置1を備える電子楽器が発生する楽音の音色や演奏者の好みなどに応じて所望のタッチ感を実現することが可能となる。
本実施形態の鍵盤装置1では、ネジ軸35の回転によるネジの送りで錘部材40を移動させるので、特許文献1に記載の鍵盤装置のように、質量体20に取り付けた錘部材40を直接操作する必要がなく、錘部材40の移動に伴って錘部材40を移動させる操作を行う操作位置が変わらずに済む。したがって、鍵10のタッチ感を変える操作が行い易くなる。
また、本実施形態の鍵盤装置1では、ネジ送り機構21とガイド機構22とを備え、錘部材40をガイド機構22でガイドしながらネジ送り機構21で移動させるようにしている。このように、ネジ送り機構21だけでなくガイド機構22も設けたことにより、ネジ送り機構21で移動する錘部材40にガタつきなどが生じることを防止でき、錘部材40の移動による振動や騒音を抑制できる。したがって、錘部材40を滑らかに移動させることができ、鍵10のタッチ感を変更する作業が静かに行える。
また、本実施形態の鍵盤装置1では、ネジ軸35をモータ36で回転させるように構成したので、図示しない電子楽器の操作パネルなどに設けたスイッチの操作で鍵10のタッチ感を変更することが可能となる。これにより、複数の鍵10のタッチ感を変える場合でもその操作が簡単に行えるようになる。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤装置について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。これらの点は他の実施形態についても同様とする。
図2は、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤装置1−2が備える鍵10及びその周辺の構成部品を示す概略側断面図である。第1実施形態の鍵盤装置1では、モータ36を質量体20に搭載していたが、第2実施形態の鍵盤装置1−2では、モータ36をフレーム部材3の内側の棚板(固定部)2の上に載置している。そして、モータ36とネジ軸35との間には、モータ36の回転をネジ軸35に伝達するトルクチューブ(回転伝達部材)37が取り付けられている。トルクチューブ37は、可撓性を有する筒状の長尺状部材である。トルクチューブ37は、一端がネジ軸35に接続され、枠部材30を貫通して、枠部材30に設けた引出部38から質量体20の外部に引き出されている。質量体20の外部に引き出されたトルクチューブ37の他端は、モータ36の回転軸36aに接続されている。枠部材30に設けた引出部38は、枠部材30における質量体支点7の近傍位置、詳細には、質量体支点7の直前の位置に配置されている。なお、ここでいう近傍位置の具体例としては、質量体支点7から枠部材30における最も遠い端部(本実施形態では枠部材30の後端部)までの距離をLとすると、近傍位置とは質量体支点7から0.3L以内の距離にある部分を指し、さらに望ましくは、0.1L以内の距離にある部分を指すものとする。
なお、第1実施形態の鍵盤装置1のガイド機構22では、枠部材30の上下に一対のガイドレール33,33が設置されていたが、本実施形態の鍵盤装置1−2のガイド機構22では、下側のガイドレール33が省略されており、上側のガイドレール33のみが設置されている。また、それに伴い錘部材40の下側の支持部40b及びガイド穴41も省略されている。ガイド機構22は、このように一本のガイドレール33で錘部材40の移動をガイドする構成としてもよい。
本実施形態の鍵盤装置1−2によれば、トルクチューブ37が質量体20の外部に引き出される引出部38を質量体支点7の近傍に設けているので、質量体20が揺動する際のトルクチューブ37の移動量を最小限に抑えることができる。したがって、演奏時の押鍵によって質量体20が繰り返し揺動しても、質量体20の外部に引き出されているトルクチューブ37にかかる負担が少なくて済む。これにより、トルクチューブ37が長持ちし、耐久性に優れた鍵盤装置となる。
また、本実施形態の鍵盤装置1−2によれば、トルクチューブ37が可撓性を有する上に、質量体20の外部に引き出されているトルクチューブ37の移動量を最小限に抑えることができるので、質量体20の揺動がスムーズになる。したがって、演奏時の鍵10の操作感覚に質量体20の本来の揺動に基づく感覚以外の感覚が加わらずに済む。これにより、演奏時の鍵10の操作感覚が良好になる。
〔第3実施形態〕
図3は、本発明の第3実施形態にかかる鍵盤装置1−3が備える鍵10及びその周辺の構成部品を示す概略側断面図である。同図に示す鍵盤装置1−3では、モータ36の回転をネジ軸35に伝達する回転伝達部材として、第2実施形態の鍵盤装置1−2が備えるトルクチューブ37に代えて、弾性を有する線材をコイル状に巻き回してなるコイルバネ39を備えている。その他の構成は、第2実施形態の鍵盤装置1−2と同じである。
コイルバネ39は、弾性を有する線材で構成されているので、その一箇所が強い力で曲げられた状態になった場合でも、曲げられた箇所に生じる歪みが周辺の部分に分散される。したがって、演奏時の押鍵によって質量体20が揺動する際に引出部38から出ているコイルバネ39が強く曲げられる場合や、モータ36の配置によって質量体20から出ているコイルバネ39が曲がっている場合でも、コイルバネ39に無理な力がかかることを防止できる。これにより、モータ36の回転をネジ軸35に伝達する回転伝達部材としてのコイルバネ39が長持ちするので、耐久性に優れた鍵盤装置となる。
〔第4実施形態〕
図4及び図5は、本発明の第4実施形態にかかる鍵盤装置1−4の構成例を示す図で、図4は、鍵盤装置1−4が備える質量体20を示す概略側面図であり、図5は、鍵盤装置1−4の一部を示す概略平面図である。本実施形態の鍵盤装置1−4では、ネジ軸35は、その前端が枠部材30に回転自在に取り付けられている。一方、ネジ軸35の後側の部分は、枠部材30の後端部34に挿通されており、後端部34から質量体20の後方に突出している。質量体20の後方に突出するネジ軸35にはプーリ(回転体)51が取り付けられている。プーリ51にはベルト(駆動伝達部材)52が掛けられている。また、ベルト52を送るためのモータ36が設置されている。
図5に示すように、ベルト52は、その長手方向が鍵盤装置1−4のスケール方向に延びている。ベルト52は、複数の鍵10に対応するプーリ51にそれぞれ接触している。ベルト52は、スケール方向の一方の側に設置したモータ36の回転軸36cと他方の側に設置したローラ53との間に環状に掛けられており、モータ36の回転で送られてプーリ51を回転させるようになっている。ここでは、図5に示すように、白鍵10aに対応するプーリ(白鍵プーリ)51aと黒鍵10bに対応するプーリ(黒鍵プーリ)51bとを共通のベルト52で回転させるように構成している。
さらにこの場合、複数の鍵10をスケール方向で所定個数毎に分けてグループ化し、各グループにベルト52とモータ36の組を設置することもできる。以下では、1オクターブ毎に鍵10をグループ化する場合を説明する。この場合、1オクターブ毎の鍵10に対応する錘部材40を同一のベルト52及びモータ36で移動させるようになる。その上で、グループ毎にモータ36の回転数あるいはプーリ51の径を異ならせれば、各鍵10に対応する錘部材40の移動量を1オクターブ毎に異ならせることができる。これにより、鍵10のタッチ感を1オクターブ毎に異ならせるタッチ感のキースケーリングが可能となる。
また、この鍵盤装置1−4では、鍵10及び質量体20が非押鍵位置にあるとき、プーリ51がベルト52に接触する。その一方で、鍵10が押されると、質量体20の揺動によりプーリ51が上昇し、プーリ51がベルト52から離れる。このように構成したことで、錘部材40を移動させる際には、プーリ51をベルト52に接触させてモータ36の回転をネジ軸35に確実に伝達することが可能となる。その一方で、鍵10が押されるとプーリ51がベルト52から離れるので、演奏時の鍵10の操作感覚に質量体20の本来の揺動に基づく感覚以外の感覚が加わらずに済む。
図6は、本実施形態の鍵盤装置の他の構成例を示す図である。同図に示す鍵盤装置1−4’では、白鍵10aに対応する白鍵プーリ51aと黒鍵10bに対応する黒鍵プーリ51bとを鍵盤装置1−4’の前後方向(奥行方向)で異なる位置に配列している。そして、白鍵プーリ51aを回転させる白鍵用ベルト52a及び白鍵用ベルト52aを送るための白鍵用モータ36aと、黒鍵プーリ51bを回転させる黒鍵用ベルト52b及び黒鍵用ベルト52bを送るための黒鍵用モータ36bとをそれぞれ別に設けている。
このように構成すれば、白鍵10aに対応する錘部材40と黒鍵10bに対応する錘部材40とを異なる移動量で移動させることが可能となる。したがって、白鍵10aのタッチ感と黒鍵10bのタッチ感とをそれぞれ別に設定することができる。なお、この場合でも、白鍵10aと黒鍵10bをそれぞれ複数の鍵毎にグループ化し、グループ毎に白鍵用ベルト52aと白鍵用モータ36aの組、あるいは黒鍵用ベルト52bと黒鍵用モータ36bの組を設置すれば、白鍵10aと黒鍵10bとでグループ毎に錘部材40の移動量を異ならせることが可能となる。こうすれば、白鍵10aのタッチ感と黒鍵10bのタッチ感とをそれぞれ別にキースケーリングすることが可能となる。
図7は、本実施形態の鍵盤装置のさらに他の構成例を示す図で、鍵盤装置が備える質量体20の概略側面図である。同図に示す鍵盤装置1−4’’では、プーリ51及びベルト52を質量体20の前方に設置している。そして、ネジ軸35の前端にトルクチューブ37を接続している。トルクチューブ37は、第2実施形態の鍵盤装置1−2が備えるトルクチューブ37と同様の構成であり、枠部材30の引出部38から質量体20の外部に引き出されている。トルクチューブ37の前端は、プーリ51に固定されたシャフト54に接続されている。プーリ51に掛けられたベルト52は、図5に示す鍵盤装置1−4が備えるベルト52と同様、鍵盤装置1−4’’のスケール方向に延びており、複数の鍵10に対応するプーリ51に接触している。この鍵盤装置1−4’’のように、ネジ軸35とプーリ51との間に可撓性を有するトルクチューブ37を介在させれば、プーリ51及びベルト52の設置位置あるいは設置角度の許容範囲が広くなる。したがって、鍵盤装置1−4’’における部品の配置構成の自由度を高めることができる。
以上説明したように本実施形態の鍵盤装置1−4(1−4’,1−4’’)によれば、ネジ軸35を回転させるためのモータ36やベルト52などの部品を複数の鍵10に対応する複数のネジ送り機構21で共用することができるので、鍵盤装置1−4の部品点数を少なく抑えることができ、その構成を簡単にすることができる。
なお、本実施形態の鍵盤装置1−4(1−4’,1−4’’)では、上記構成のプーリ51及びベルト52として歯が形成されたものを用い、プーリ51の歯にベルト52の歯を噛み合わせるように構成してもよい。これによれば、プーリ51とベルト52とが接触する部分に滑りが生じることを防止でき、モータ36の回転をネジ軸35に確実に伝達することが可能となる。また、モータ36の回転の位相をネジ軸35に正確に伝達することができるので、錘部材40を正確に移動させることができ、鍵10のタッチ感を設定通りに正確に変更することが可能となる。
〔第5実施形態〕
図8(a)及び図9(a)は、本発明の第5実施形態にかかる鍵盤装置1−5,1−5’の構成例を示す概略図である。なお、これらの図では、鍵10及び鍵10に対応するプーリ51のみを図示している。図8(a)に示す鍵盤装置1−5及び図9(a)に示す鍵盤装置1−5’では、図4及び図5に示す第4実施形態の鍵盤装置1−4の構成に加えて、一本のベルト52を全音域の鍵10に対応する位置に跨るように配置し、該一本のベルト52で全音域の鍵10に対応するプーリ51を回転させるように構成している。その上で、各鍵10に対応するプーリ51の径をスケール方向で段階的に変化させている。なお、図8(a)及び図9(a)ではベルト52の図示は省略している。また、図8(a)及び図9(a)では、プーリ51は、白鍵10aに対応するプーリ51のみを図示しているが、黒鍵10bに対応するプーリ51も同様に構成することが可能である。
ここでのプーリ51の径の設定としては、図8(a)に示す鍵盤装置1−5のように、所定個数のプーリ51毎にその径を段階的に変化させるものがある。この場合、例えば、1〜2オクターブ毎(図では1オクターブ毎)に鍵10をグループ化する。各グループに属するプーリ51をすべて同じ径とし、グループ毎にプーリ51の径を増加あるいは減少させる。同図に示す例では、低音域のグループから高音域のグループになるにつれてプーリ51の径が順に大きくなるように設定している。
図8(b)は、図8(a)に示す鍵盤装置1−5によるタッチ感のキースケーリングの例を示すグラフである。同図のグラフ及び後述する図9(b)のグラフでは、横軸に鍵盤装置1−5のスケール方向を取り、縦軸に各鍵10にかかる荷重の大きさを取っている。図8(a)に示す鍵盤装置1−5の構成によれば、錘部材40の移動量は鍵10のグループごとに段階的に異なる。したがって、すべての鍵10の錘部材40を鍵盤装置1−5の前後方向の同じ位置に配置した状態を初期位置として設定すれば、この初期位置から錘部材40を移動させる操作を行うことで、各鍵10に対応する錘部材40をグループ毎に段階的に異なる位置に配置することができる。これにより、質量体20から各鍵10にかかる荷重の大きさをグループ毎に段階的に異ならせることができる。
ここでは、上記の初期位置が鍵盤装置1−5の手前側の位置にあり、各鍵10の錘部材40は、初期位置から鍵盤装置1−5の奥側に向かって移動する場合を説明する。この場合、錘部材40を移動させると、図8(b)に示すように、低音域グループの鍵10から高音域グループの鍵10になるにつれて質量体20から鍵10にかかる荷重が次第に小さくなるように設定される。これにより、低音域から高音域になるにつれて鍵10のタッチ感が1オクターブ毎に段階的に軽くなるタッチ感のキースケーリングが行える。
プーリ51の径の他の設定として、図9(a)に示す鍵盤装置1−5’のように、全音域の鍵10に対応するプーリ51の径を順に増加あるいは減少させるような設定も可能である。図9(a)に示す例では、低音の鍵10から高音の鍵10になるにつれて対応するプーリ51の径が1個ずつ順に大きくなるように設定している。
この構成によれば、低音の鍵10から高音の鍵10になるにつれて対応する錘部材40の移動量が次第に少なくなる。したがって、上記の初期位置から錘部材40を移動させる操作を行うことで、図9(b)に示すように、低音の鍵10から高音の鍵10になるにつれて鍵10にかかる荷重が順番に小さくなるように設定される。これにより、低音の鍵10から高音の鍵10になるに従って順番に鍵10のタッチ感が軽くなるようなキースケーリングが可能となる。
以上説明したように、本実施形態の鍵盤装置1−5(1−5’)によれば、複数のプーリ51の径を異ならせるという簡単な構成で、タッチ感のキースケーリングを行うことが可能となる。特に、複数の鍵10に対応する複数の錘部材40を共通のモータ36及びベルト52で移動させる構成を採用している場合であっても、タッチ感のキースケーリングが可能となる。したがって、鍵盤装置1−5(1−5’)の構成を簡素化しながらも所望のタッチ感を実現できるようになる。なお、図8(a)に示す鍵盤装置1−5あるいは図9(a)に示す鍵盤装置1−5’におけるプーリ51の径の設定は一例であり、プーリ51の径は上記以外の設定とすることも可能である。
〔第6実施形態〕
図10及び図11は、本発明の第6実施形態にかかる鍵盤装置1−6の構成例を示す図で、図10は、鍵盤装置1−6の概略側断面図であり、図11は、鍵盤装置1−6の一部を示す概略平面図である。なお、図11では、鍵盤装置1−6から後述するパネル62を取り外した状態を示している。これらの図に示す鍵盤装置1−6は、各鍵10に対応するネジ軸35を回転させるための回転伝達ユニット70を備え、この回転伝達ユニット70を鍵盤装置1−6における鍵10が配列された位置よりも奥側の位置に配置している。回転伝達ユニット70は、モータ36及び該モータ36の回転を各鍵10のネジ軸35に伝達するための機構を備えて構成されている。回転伝達ユニット70の詳細構成については後述する。
さらに、本実施形態の鍵盤装置1−6では、錘部材40の位置を検出する位置検出センサ80を設けている。位置検出センサ80は、質量体20におけるガイドレール33の側面に取り付けられている。位置検出センサ80は、ガイドレール33の長手方向に沿って複数個が所定間隔で配置されている。この位置検出センサ80には、通過する錘部材40の有無を検出可能なセンサが用いられ、例えば、各種の光センサが好適に用いられる。質量体20にこのような位置検出センサ80を設けることで、移動する錘部材40を目標位置に正確に停止させることが可能となる。これにより、鍵10のタッチ感を設定通りに正確に変更することができるようになる。
一方、鍵盤装置1−6の奥側の端部には背板61が立設されている。背板61の上端には、鍵盤装置1−6の奥側の上部を覆う平板状のパネル62が取り付けられている。背板61の下端の手前側における棚板2との間には、回転伝達ユニット70の構成部品を収納する収納部63が形成されている。収納部63の底部には支持板64が設置されている。支持板64は、棚板2の上面よりも下側の位置に設置されていて、収納部63は、棚板2の上面から窪んだ凹部状になっている。図11に示すように、収納部63及び支持板64は鍵盤装置1−6のスケール方向に延びており、複数の鍵10に対応する位置に跨って配置されている。
質量体20のネジ軸35は、その前端が枠部材30に回転自在に取り付けられており、後側の部分が枠部材30の後端部34を貫通して質量体20の後方に突出している。質量体20の後方に突出したネジ軸35の後端には、傘歯車(回転体)71が取り付けられている。傘歯車71は、収納部63の上方に配置されている。傘歯車71の下方の収納部63内には、平歯車(駆動伝達部材)72が設置されている。平歯車72は、軸方向が鍵10の長手方向に沿って延びる回転軸73に取り付けられている。そして、鍵10及び質量体20が非押鍵位置にあるとき、ネジ軸35はその軸方向が鍵盤装置1−6の前側から後側に向かって下降する方向に傾斜している。これにより、鍵10及び質量体20が非押鍵位置にある状態で、傘歯車71が平歯車72に噛み合うようになっている。
また、回転軸73における平歯車72の後側にはプーリ74が固定されている。プーリ74には、ベルト75が掛けられている。ベルト75は、図11に示すように、その長手方向がスケール方向に延び、複数の回転軸73に取り付けた複数のプーリ74に接触している。一方、収納部63の奥側には、モータ36が設置されている。モータ36及びベルト75は、グループ化された複数の鍵10毎に1個ずつ設置されている。
ここでは、鍵10が1オクターブ毎あるいは2オクターブ毎にグループ化されている場合を説明する。この場合、各グループに属する鍵10のうちのいずれかの鍵10に対応する平歯車72は、モータ36の回転軸36cに直接取り付けられている。モータ36の回転軸36cを含む同じグループに属するすべての平歯車72の回転軸73は、共通のベルト75で回転されるようになっている。したがって、モータ36の回転が同じグループに属するすべての歯車(傘歯車71及び平歯車72)に伝達される。これにより、同じグループに属するすべての鍵10の錘部材40が1個のモータ36で移動される。
88鍵の鍵盤装置であれば、例えば、1乃至2オクターブ(第1グループ)、3乃至4オクターブ(第2グループ)、5乃至6オクターブ(第3グループ)、7オクターブ及び残り4鍵(第4グループ)の4つのグループに鍵10を分ける。第1乃至第3グループに対応する回転伝達ユニット70にはそれぞれ、24個の傘歯車71及び24個の平歯車72の合計48個の歯車が設置されている。また、第1乃至第3グループにはそれぞれ錘部材40が24個ある。したがって、第1乃至第3グループでは、24個の錘部材40が48個の歯車を介して1個のモータ36によって移動されるようになっている。第4グループ(最高鍵域グループ)に対応する回転伝達ユニット70では、16個の傘歯車71及び16個の平歯車72の合計32個の歯車が設置されており、錘部材40が16個ある。したがって、第4グループでは、16個の錘部材40が32個の歯車を介して1個のモータ36によって移動されるようになっている。
このように構成した上で、グループ毎にモータ36の回転数を異ならせれば、グループ毎に錘部材40の移動量を変えることができる。したがって、図8(b)のグラフに示すパターンと同様に、低音域グループの鍵10から高音域グループの鍵10になるにつれて質量体20から鍵10にかかる荷重が段階的に異なるように設定できる。そして、ここでは鍵10が2オクターブごとにグループ化されているので、低音域から高音域になるにつれて鍵10のタッチ感が2オクターブ毎に段階的に変化するキースケーリングが可能となる。
また、ベルト75及びモータ36を備えた回転伝達ユニット70を鍵10のグループ毎に設置することで、その分、鍵盤装置1−6の部品点数を少なく抑えることができ、その構成を簡単にすることができる。なお、上記の例では、モータ36の回転をグループに属するすべての傘歯車71及び平歯車72に伝達するための機構として、プーリ74及びベルト75を備える機構を示したが、これ以外にも、図示は省略するが、他の歯車などを備える機構によってモータ36の回転をグループに属するすべての傘歯車71及び平歯車72に伝達するように構成してもよい。
ここで、回転伝達ユニット70の構成をさらに詳細に説明する。図10に示すように、回転伝達ユニット70を支持する支持板64は、その後端に設けた支持板回動支点65を中心として、その面が棚板2の上面に対して略平行な状態と、前側に向かって下降する方向に傾斜した状態との間で回動可能に取り付けられている。支持板64には、操作レバー66が取り付けられている。操作レバー66は、長手方向が鍵盤装置1−6の前後方向に延びる棒状の部材である。操作レバー66は、支持板64の前方に配置され、長手方向の途中の部分が棚板2の下面に設けたレバー支持片67に軸支されており、レバー支持片67に軸支されたレバー回動支点68を中心に上下方向に回動可能になっている。操作レバー66の後端は、支持板64の前端に設けた連結部64aに連結されている。操作レバー66の前端は、手などで操作する操作部66aになっている。操作部66aは、棚板2の下方で鍵盤装置1−6の前方に突出している。棚板2の下面には、操作レバー66を係止する係止フック69が設けられている。図10及び下記の図12には、係止フック69の側面図(B−B矢視図)が併記されている。この側面図に示すように、係止フック69には、操作レバー66の操作部66aが上方にある離間位置と下方にある嵌合位置とで操作レバー66を係止可能とするための溝部69aが形成されている。
図12は、操作レバー66の操作による回転伝達ユニット70の動きを説明するための図である。まず、図10に示す嵌合位置から操作レバー66の操作部66aを上方に移動させると、操作レバー66が同図における時計回り方向に回動し、連結部64aが下方に移動する。これにより、図12に示すように、支持板64が下降し、支持板64に載置された平歯車72が下降して傘歯車71から離間し、平歯車72と傘歯車71との噛み合いが解除された状態になる。
一方、図12に示す離間位置から操作レバー66の操作部66aを下方に移動させると、操作レバー66が同図における反時計回り方向に回動し、連結部64aが上方に持ち上げられて、操作レバー66が嵌合位置に配置される。これにより、支持板64が上昇し、図10に示すように、支持板64に載置された平歯車72が上昇して傘歯車71と噛み合う。
鍵盤を演奏する際には、操作レバー66を離間位置に係止しておき、平歯車72と傘歯車71とを離間させておく。一方、鍵10のタッチ感を変更する際には、操作レバー66を移動させて嵌合位置に係止し、平歯車72を傘歯車71に噛み合わせた状態とする。これにより、鍵10のタッチ感を変更する際にのみ平歯車72と傘歯車71とを接触させた状態とすることができる。
この鍵盤装置1−6によれば、演奏時には、平歯車72を傘歯車71から離間させておくことができるので、演奏時の鍵10の操作感覚に質量体20の本来の揺動に基づく感覚以外の感覚が加わらずに済む。したがって、演奏時の鍵10の操作感覚が良好になる。その一方で、鍵10のタッチ感を変更する際には、平歯車72と傘歯車71とを噛み合わせてモータ36の回転をネジ軸35に確実に伝達できるので、鍵10のタッチ感を設定通りに正確に変更できる。
また、この鍵盤装置1−6によれば、操作レバー66で支持板64を移動させて平歯車72を移動させるように構成したので、演奏者が手元で簡単な操作を行うだけで、平歯車72と傘歯車71とが噛み合った状態とこれらが離間した状態とを切り換えることができる。したがって、演奏の合間などの短い時間であっても鍵10のタッチ感を変更できるようになる。なお、本実施形態では、操作レバー66にて支持板64を移動させるように構成した場合を示したが、この構成に代えて、あるいはこの構成に加えて、支持板64を上下方向に移動させるソレノイドなどの電気的な移動手段を設け、通常の演奏時(タッチ感の調節を行わないとき)には、該移動手段にて平歯車72と傘歯車71の噛み合いが解除される位置まで支持板64を下げておくようにしてもよい。
本実施形態の鍵盤装置1−6では、ネジ軸35に取り付けた傘歯車71に噛み合う駆動伝達部材として平歯車72を備える場合を示したが、ネジ軸35に取り付けた傘歯車71(歯車)に噛み合う駆動伝達部材は、傘歯車71に噛み合う歯を有する部材であれば平歯車(歯車)72には限定されず、それ以外にも、例えば、長手方向が鍵盤装置1−6のスケール方向に延びて配置されるラックあるいは歯付きベルトなどの長尺状の部材を用いることも可能である。
なお、上記各実施例では、本発明を手鍵盤に適用した例について説明したが、これに限らず、ペダル鍵盤においても適用することができるのはもちろんである。
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状・構造・材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。