以下、添付図面を参照しながら本発明による生体計測装置および校正治具の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明による生体計測装置の一実施形態の構成を概念的に示す図である。本実施形態の生体計測装置1は、被検者Aの被計測部位である乳房Bに光を照射し、拡散光(戻り光)を検出することにより乳房Bの内部を撮像し、その撮像に基づいて腫瘍や癌などの有無を検査する、いわゆる光マンモグラフィー装置(乳房撮像装置)である。また、生体計測装置1は、装置応答特性を除去(校正)するための校正用計測を実施可能に構成されている。
図1を参照すると、生体計測装置1は、被検者Aが伏臥するためのベッド(基台)10を備えており、該ベッド10には被検者Aの垂下した乳房Bを囲む半球状の容器3が取り付けられている。容器3には、複数の光ファイバ11の一端が容器3の内側へ向けて固定されており、計測部(ガントリ)2を構成している。容器3に固定された複数の光ファイバ11の一端には、乳房Bへ光を出射する複数の光出射端、および乳房Bからの拡散光を受ける複数の光検出端が含まれている。また、生体計測装置1は、光源装置4および計測装置5を備えている。光源装置4は、光出射端から出射される連続光、変調光またはパルス光を発生する。計測装置5は、光源装置4から出射される光と、計測部2の内側を伝播して検出された拡散光とに基づいて、乳房Bの内部情報を算出する。複数の光ファイバ11の他端は計測装置5に光学的に接続されており、光源装置4と計測装置5とは光ファイバ15を介して互いに光学的に接続されている。なお、光源装置4と計測装置5とは、電気ケーブルを介して互いに時間整合された形で接続されてもよい。
図2は、生体計測装置1の機能的な構成を示すブロック図である。なお、図2では、説明を容易にするために、複数の光ファイバ11のうち照射用及び検出用の各々1本のみ代表して図示し、他の光ファイバ11の図示を省略している。図2に示されるように、生体計測装置1は、光源41、波長選択器42、光検出器51、信号処理部52、及び演算処理部53を備えている。これらのうち、光源41及び波長選択器42は、例えば光源装置4に内蔵される。また、光検出器51、信号処理部52、及び演算処理部53は、例えば計測装置5に内蔵される。
光源41は、光P1(連続光、変調光、或いはパルス光)を発生させる装置である。連続光は、連続光計測法(CW法)による計測の場合に用いられる。変調光は、位相変調計測法(PMS法:Phase Modulation Spectroscopy)による計測の場合に用いられる。パルス光は、時間分解計測法(TRS法)による計測の場合に用いられる。光P1がパルス光の場合、生体の内部情報が計測できる程度に短い時間幅のパルス光が用いられ、通常は例えば1ns以下の範囲の時間幅が選択される。光源41から発生した光P1は、波長選択器42に入力される。光源41としては、発光ダイオード、レーザダイオード、及び各種のパルスダイオード等、様々なものを使用することができる。
波長選択器42は、光源41から入力された光P1を、所定波長に波長選択する装置である。波長選択器42により選択される波長としては、生体の透過率と定量すべき吸収成分の分光吸収係数との関係等から、700nm〜900nm程度の近赤外線領域の波長が好ましい。波長選択器42により波長選択された光P2は、光照射用の光ファイバ11に入射される。なお、複数の成分についての内部情報を計測する場合等、必要に応じて、光源41及び波長選択器42は複数の波長成分の光を計測光として出力可能に構成される。また、波長選択を行う必要がない場合等には、波長選択器42については、設置を省略してもよい。
光照射用の光ファイバ11は、波長選択器42を介して光源41から入力された光P2を、その出力端から容器3内の乳房Bに対して照射する。この光ファイバ11の端面(光出射端)は、容器3の内壁における所定の光照射位置に配置されている。また、光検出用の光ファイバ11は、乳房Bの内部を伝播した光P2の拡散光をその一端面(光検出端)に受け、該拡散光を光検出器51へ導く。この光ファイバ11の端面は、容器3の内壁における所定の光検出位置に配置されている。
容器3の内壁と乳房Bとの隙間は、インターフェース剤Iで満たされている。インターフェース剤Iは、光散乱係数等の光学係数が生体組織とほぼ同等の液体であり、乳房Bの内外における光学特性を一致もしくは近づけるために使用される。これにより、内部情報算出の際の境界条件を乳房Bの形や大きさによらず一定とし、乳房Bの内部情報をより容易に算出できる。
光検出器51は、光検出用の光ファイバ11に入射した拡散光を検出するための装置である。光検出器51は、検出した光の光強度等を示す光検出信号Sig1を生成する。生成された光検出信号Sig1は信号処理部52に入力される。光検出器51としては、光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube)の他、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード等、様々なものを使用することができる。光検出器51は、光P2に含まれる波長成分を十分に検出できる分光感度特性を有していることが好ましい。また、乳房Bからの拡散光が微弱であるときは、高感度あるいは高利得の光検出器を使用することが好ましい。
信号処理部52は、光検出器51及び光源41と電気的に接続されており、光検出器51により検出された光検出信号Sig1、及び光源41から光P1が出力されたタイミングを示す光源41からのトリガ信号Sig2に基づいて、拡散光の光強度(CW計測の場合)、拡散光の光強度および位相情報(PMS計測の場合)、或いは拡散光の光強度の時間変化(TRS計測の場合)を示す計測信号を取得する。信号処理部52は、取得した計測信号の情報を電子データDataとして保持し、この電子データDataを演算処理部53へ提供する。
演算処理部53は、信号処理部52と電気的に接続された演算手段である。乳房Bの内部情報を取得するために行われる通常の生体計測においては、演算処理部53は、信号処理部52から電子データDataを入力して、当該電子データDataに含まれる生体計測信号の情報を用いて乳房Bの内部情報を定量するための解析演算を行う。また、校正用計測によって取得される計測信号に対しては、演算処理部53は、装置応答特性を示す校正用データを算出するための校正演算を行う。
本実施形態における演算処理部53は、計測信号格納部54、装置応答特性算出部55、および内部情報算出部56を有している。信号処理部52から入力された電子データDataは、計測信号格納部54に格納される。乳房Bの内部情報を取得するために行われる通常の生体計測において、内部情報算出部56は、計測信号格納部54から電子データDataを読み出し、電子データDataに含まれる生体計測信号の情報を用いて乳房Bの内部情報を算出する。また、装置応答特性算出部55は、本実施形態における校正用データ算出部であり、後述する校正用計測により取得されたデータを計測信号格納部54から読み出し、該データに含まれる校正用計測信号の情報を用いて装置応答特性を示す校正用データを算出する。なお、装置応答特性算出部55の機能については後に詳しく述べる。
内部情報算出部56において算出される内部情報は、例えば、乳房B内部の散乱係数および吸収係数、並びに乳房Bに含まれている各成分の濃度である。内部情報算出部56における内部情報の算出は、以下の解析演算を適用することにより行われる。例えば、CW法による計測の場合、光源41として連続光を使用し、内部情報算出部56は散乱光/拡散光の強度に基づいて内部情報を算出する。また、PMS法による計測の場合、光源41として変調光を使用し、内部情報算出部56は散乱光/拡散光の強度および位相情報に基づいて内部情報を算出する。また、TRS法による計測の場合、光源41としてパルス光を使用し、内部情報算出部56は散乱光/拡散光の時間分解波形に基づいて内部情報を算出する。
このような演算処理部53は、例えば、CPU(CentralProcessing Unit)といった演算手段およびメモリなどの記憶手段を有するコンピュータによって実現される。なお、演算処理部53は、光源41や光検出器51など、上記の各構成要素を制御する機能を更に有するとよい。
図3は、本実施形態における計測部2を斜め上方から見た斜視図である。計測部2は、被検者の垂下した乳房を囲む半球状の容器3と、該容器3に取り付けられた複数の光ファイバ11とを有している。前述した図2では、光照射用の光ファイバ11および光検出用の光ファイバ11をそれぞれ1本ずつ代表して説明したが、本実施形態の生体計測装置1においては、例えば20本以上の多数の光ファイバ11が用いられており、それらの一端面11aが、図3に示されるように容器3の内壁における所定位置にそれぞれ配置されている。そして、これら複数の端面11aのうち一部が光出射端として光源41(図2参照)に接続され、残りが光検出端として光検出器51に接続される。或いは、各端面11aが、光照射用および光検出用の双方を兼ねてもよい。例えば、各光ファイバ11を、光出射用ファイバの周囲に光検出用ファイバをバンドルした二重構造とすることにより、このような端面11aを好適に実現できる。
容器3の内面には、拡散光の反射を低減するための処理が施されていることが好ましい。例えば、容器3の内面は、化学処理や塗装などによる低反射処理が施されていることが好ましい。或いは、容器3の内面は、樹脂材料などの低反射性を有する材料や、黒色アルマイト処理されたアルミ材により形成されていてもよい。
図4は、図3に示した計測部2のIV−IV線に沿った側断面図の一例である。図4に示されるように、容器3は、被検者の垂下した乳房を収容する計測空間3aと、計測空間3aに被検者の乳房を導入するための開口部3bとを有している。本実施形態の容器3は、被検者の乳房を囲むように開口部3bを上方に向けて配置される。
複数の光ファイバ11のそれぞれは、その端面11a(光出射端および光検出端)が容器3の計測空間3aへ向けて支持され、容器3に固定されている。具体的には、各光ファイバ11は、容器3の所定の位置(光照射位置および光検出位置)に形成された孔3cに挿通され、図示しない保持機構(ホルダ)によって容器3に固定されている。また、複数の光ファイバ11は、図4に示されるように、各光ファイバ11の光軸(光出射端における光出射軸、および光検出端における光入射軸)が所定の領域S(例えば、容器3の開口部の一部を構成する領域)を通過するように設置されることが好ましい。ここで、所定領域Sとは、所定の軸線Cの一部を含む領域である。また、所定の軸線Cとは、被検者の乳房の垂下方向に沿った架空の軸線であり、例えば、容器3の曲率中心を通り、図1に示したベッド10の表面に垂直な軸線である。なお、所定領域Sの形状は、各光ファイバ11の光軸が通過可能な形状であれば良く、特に制限されないが、円形や矩形が好ましい。
また、図5は、図3に示した計測部2のIV−IV線に沿った側断面図の他の例である。図5に示されるように、各光ファイバ11の光軸は、軸線C上の一点D(例えば、容器3の内壁を一部とする球体の中心)で互いに交差するように配置されても良い。以下、説明の便宜上、各光ファイバ11の光軸が、所定領域S内の一点Dで互いに交差する実施形態を例示して詳述する。
ここで、図2の電子データDataに含まれる生体計測信号と、被計測部位(乳房B)の内部情報による理論上の生体計測信号と、計測装置自体による装置応答特性との関係について説明する。図6は、一例として、TRS計測における計測波形O(t)、理論波形M(t)、及び装置応答特性(装置応答関数)h(t)の関係の一例を模式的に示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は経過時間tを示し、縦軸は各時刻における光強度を示している。この光強度の経過時間tに依存した時間変化が、図示したそれぞれの時間波形となっている。
生体計測装置1において、被計測部位(乳房B)の内部を伝播した光を用いて内部情報を取得する際、伝播後に検出された光の計測波形O(t)に対して解析演算を行う。そして、被計測部位での時間遅れや時間分散などの時間応答から、その内部情報を定量する。
一方、このような装置を用いた生体計測では、計測対象である生体による時間応答とは別に、光照射用および光検出用の光ファイバ11内部の光伝播特性、並びに光検出器51および信号処理部52の応答特性など、装置自体の時間応答特性(装置応答特性)が生じる。例えば、図2に示した生体計測装置1では、光ファイバ11、光源41、波長選択器42、光検出器51、信号処理部52、及びそれらの間の回路配線等による時間応答特性が生じる。したがって、信号処理部52で取得されて演算処理部53へと入力される計測波形O(t)は、これらの時間応答特性が総合された装置応答関数h(t)が、被測定部位の内部情報による理想的な計測波形(理想波形)に重畳されたものとなる。
なお、上述した時間応答特性はTRS計測における装置応答特性であるが、CW計測においては、計測部2の複数の光検出端それぞれに光結合された光検出器51の検出感度特性が装置応答特性として計測結果に含まれることとなる。また、PMS計測においては、光ファイバ11、光源41、波長選択器42、光検出器51、信号処理部52、及びそれらの間の回路配線等による変調振幅特性および位相特性が装置応答特性として計測結果に含まれることとなる。
以上のような装置応答特性による計測結果への影響を除去(校正)するための、生体計測装置1の構成について説明する。図7は、本実施形態の生体計測装置1における校正用計測の概念を示す図である。なお、図7においては、計測部2の上下が逆に示されている。生体計測装置1における校正用計測では、光出射端および光検出端を構成する複数の光ファイバ11の各光軸が交差する点Dを含む位置に光拡散性ターゲット13を設置し、光拡散性ターゲット13に光を照射したときの拡散反射光を検出することによって装置応答特性を算出する。なお、各光ファイバ11の光軸は、上記したように、一点Dで交差する必要はなく、所定領域Sを通過するように設定されていればよい。この場合、所定領域Sは、光拡散性ターゲット13の有する面のうち、容器3の内側に向いた面(点Dを含む面)に対応する。
図8は、光拡散性ターゲット13を有する校正治具12の外観を示す斜視図である。なお、図8は、校正治具12を裏面側から見た図であり、上下が逆に示されている。また、図9は、校正治具12が計測部2に装着された様子を示す側断面図である。校正治具12は、容器3の開口部3bを覆うように開口部3bに着脱可能に構成され、校正用計測を行う際に、複数の光ファイバ11の光軸が交差する所定領域Sを含む位置に光拡散性ターゲット13を設置するために使用される。
具体的には、本実施形態の校正治具12は略円板状を呈しており、計測部2への装着時において、その平坦な裏面12aが計測空間3aに面する。裏面12aの中心には、裏面12aと同一面にて露出するように光拡散性ターゲット13が埋め込まれている。裏面12aの外縁には、校正治具12が容器3に嵌合するための嵌合部12bが形成されている。嵌合部12bは、校正治具12の厚さ方向(中心軸線方向)に沿って突出しており、容器3の開口部3bに嵌合するようにその外径が開口部3bの内径より僅かに小さく形成されている。図9に示されるように、校正治具12は、光拡散性ターゲット13の露出面の高さと、複数の光ファイバ11の各光軸が交差する点Dの高さとがほぼ一致するように、容器3に嵌合する。
校正治具12の裏面12aのうち光拡散性ターゲット13を除く領域には、拡散光の反射を低減するための処理が施されていることが好ましい。例えば、裏面12aの当該領域は、化学処理や塗装などによる低反射処理や、低反射シートが貼り付けられているのが好ましい。或いは、校正治具12が樹脂材料などの低反射性を有する材料や、黒色アルマイト処理されたアルミ材により形成されており、結果として、裏面12aが低反射性を有していてもよい。これにより、校正用計測の際に光拡散性ターゲット13以外での光の散乱を防止できるので、校正用計測の精度を高めることができる。また、校正治具12は、嵌合部12bと容器3の開口部3bとの接触部分が隙間なく接するように構成されていることが好ましい。これにより、校正用計測の際に計測空間3aに外来光が入射することを防止し、校正用計測の精度を更に高めることができる。
光拡散性ターゲット13としては、拡散反射板が好適に用いられる。拡散反射板としては光反射率及び光拡散性が高いものが好ましく、このような拡散反射板としては例えば標準反射板が挙げられる。標準反射板は光反射率および光拡散性が共に高く、これにより、校正用の拡散光を好適に発生させることができる。また、光拡散性ターゲット13は必ずしも光反射性を有する必要はなく、光拡散性ターゲット13の材質としては、シリカ粒子等の散乱材をエポキシ樹脂等の母材と混合したものや、白色アクリル樹脂製の白色散乱板など、光拡散性を有するものであれば様々な部材を使用することができる。
また、光拡散性ターゲット13としては材質そのものに光拡散性が無くてもよく、例えば鏡面を有する部材(円錐ミラーなど:例えばエドモンドオプティクス製のTECH SPEC(登録商標)コーンミラー)や金属部材を使用した場合でも、その形状によっては光拡散性を持たせることができ、光拡散性ターゲット13を好適に構成できる。すなわち、材質そのものが光拡散性を有する場合には光拡散性ターゲット13の表面は平面状で良く、光拡散性が低い(または無い)材質を使用する場合には、光拡散性ターゲット13の表面を凸面状や球面状とするとよい。
続いて、校正治具12を用いた校正用計測方法について説明する。図10は、本実施形態における校正用計測の様子を示す側断面図である。なお、図10には、計測部2に設けられた複数の光ファイバ11のうち当該断面に沿って設けられた光ファイバ11のみ図示されているが、図示されない光ファイバ11においても同様の動作を行うものとする。また、この例では、複数の光ファイバ11の各端面11aが光出射端および光検出端の双方を兼ねているものとする。
いま、或る一つの光ファイバ11から光を照射し、他の光ファイバ11において拡散光を検出する。すなわち、図10に示されるように、一つの光ファイバ11の端面11a(光出射端)から光L1を計測空間3aに出射する。この光L1は、CW計測の場合には連続光であり、PMS計測においては変調光であり、TRS計測においてはパルス光である。この光ファイバ11の光軸は所定領域Sを通るので、光L1は所定領域Sを含む位置に配置された光拡散性ターゲット13に達し、拡散光L2となって計測空間3a内の一様な方向へ拡散する。そして、他の光ファイバ11の光軸もまた所定領域Sを通るので、他の光ファイバ11の端面11a(光検出端)に該拡散光L2が直接入射する。これらの拡散光L2は、各光検出端に接続された光検出器51(図2参照)によって検出され、光検出信号として信号処理部52へ送られる。信号処理部52は、光検出器51により検出された光検出信号、及び光源41から光L1が出力されたタイミングを示す光源41からのトリガ信号に基づいて、拡散光L2の光強度(CW計測の場合)、拡散光L2の光強度および位相情報(PMS計測の場合)、或いは拡散光L2の光強度の時間変化(TRS計測の場合)を示す校正用計測信号を取得する。信号処理部52は、この校正用計測信号に関する情報を演算処理部53へ提供する。演算処理部53は、該情報を計測信号格納部54に格納する。
以上のような校正用計測を、複数の光検出端のそれぞれについて行う。各端面11aが光照射用及び光検出用の双方を兼ねる場合には、全ての端面11aから光L1を順次出射させ、当該光出射端となった端面11aを除く他の端面11a(光検出端)において拡散光L2を検出する。こうして、複数の光出射端および複数の光検出端の全ての組み合わせについて校正用計測を行い、校正用計測信号を取得する。
演算処理部53では、計測信号格納部54に格納されたデータ(校正用計測信号)に基づいて、装置応答特性算出部55が装置応答特性を算出する。具体的には、装置応答特性算出部55は次の演算を行う。すなわち、光出射端から出射された光L1は、計測空間3aにおいて、光出射端から光拡散性ターゲット13を介して光検出端に至るまでの空間を伝播する。したがって、取得された計測信号は、本来の装置応答特性に対し、伝播距離に応じた減衰や時間シフトなどを含んでいる。装置応答特性算出部55は、減衰量や時間シフト量などを演算処理によって補正することにより、装置応答特性を算出する。
このような装置応答特性の算出について、TRS計測の場合を例にとり、更に具体的に説明する。校正用計測において検出された拡散光L2が、光出射端から光拡散性ターゲット13を介して光検出端に到達するまでに光速cでもって距離Lを伝播したと仮定すると、この拡散光L2による計測信号は、本来の装置応答特性に対して時間シフトT=L/cを生じている。したがって、装置応答特性算出部55において計測波形に対し−Tの時間シフトを施せば、本来の装置応答特性を得ることができる。
なお、伝播距離Lおよび光速cは既知なので、上記の演算処理は極めて簡単なものとなる。また、伝播距離Lは、光出射端、光検出端、および光拡散性ターゲット13の相対位置関係のみによって決定されるので、一度算出した時間シフトTのデータを記録しておくことにより、当該データを次回の計測以降においても使用することができる。
ここで、本実施形態の生体計測装置1を使用した校正用計測および生体計測の流れについて、図11を参照しつつ説明する。なお、ここではTRS計測の場合を例に挙げて説明する。
最初に、装置応答特性の算出の準備として、光出射端から光拡散性ターゲット13を介して光検出端に至る光の伝播距離Lと、計測空間3aにおける光速cとに基づいて、本来の装置応答特性に対する計測波形の時間シフトTを算出しておく(ステップS1)。なお、このステップS1は、装置応答特性の算出が必要な場合のみ行えば足りる。また、既に算出した時間シフトTに関するデータが記録されている場合には、このステップS1を省略しても良い。
次に、光源41、光検出器51、信号処理部52、及び演算処理部53等の温度変化によるドリフトを極力抑制するため、光源装置4および計測装置5の暖気運転を行う(ステップS2)。なお、このステップS2は省略することもできる。光源装置4および計測装置5の暖気運転が完了した後、校正治具12を計測部2に装着し、前述した校正用計測を行う(ステップS3)。そして、校正用計測により取得した計測波形を示すデータを、計測信号格納部54に格納して保存する(ステップS4)。
続いて、校正治具12を計測部2から取り除き、被検者の乳房等の被計測部位を容器3の計測空間3aに導入して生体計測を行う(ステップS5)。そして、生体計測により取得した計測波形を示す電子データDataを、計測信号格納部54に格納して保存する(ステップS6)。
続いて、装置応答特性算出部55が、計測信号格納部54に格納されていた校正用計測波形を示すデータを読み出し、ステップS1において算出された時間シフトTに基づいて、装置応答特性を示す校正用データを算出する(ステップS7)。そして、計測信号格納部54に格納されていた生体計測波形を示す電子データDataを読み出し、先のステップにおいて算出した校正用データを用いて該電子データDataを補正することにより、生体計測波形における装置応答特性の影響を除去(校正)する(ステップS8)。その後、補正された生体計測波形に基づいて被計測部位の内部情報を算出し(ステップS9)、この内部情報に関するデータを、演算処理部53内部に保存、または生体計測装置1の外部へ出力する(ステップS10)。
以上に説明した本実施形態の生体計測装置1および校正治具12によれば、光出射端および光検出端の各位置(光照射位置および光検出位置)を保持したまま校正用計測を行うことができる。したがって、校正用計測を行う際に光出射端および光検出端を装置から取り外して組み合わせ毎に突き合わせるといった付加的な作業が不要となり、校正用計測の際の作業量を効果的に低減できる。
例えば、光出射端および光検出端の双方を兼ねる光ファイバ端面が計測部2に9箇所設置されている場合、各光出射端毎にそれぞれ8箇所の光検出端における校正用計測波形を取得する必要がある。したがって、光出射端および光検出端の組み合わせは、9×8=72通りとなる。この場合、光出射端および光検出端を構成する複数の光ファイバ11を互いに突き合わせて校正用計測を行うとすると、72通りの全ての組み合わせについて、光ファイバ11の取り外し、計測、および再設置が必要となる。これに対し、本実施形態のように校正治具12を使用すれば、光ファイバ11を全く取り外すことなく、72通りの全ての組み合わせについて極めて短時間で校正用計測を行うことができる。したがって、校正用計測に必要な計測時間および作業時間を大幅に短縮することができる。
また、光ファイバ11の取り外しや再設置を行わずに校正用計測を行うことによって、実際の計測部2の状態に基づいて校正用計測を行うことができるので、精度の高い装置応答特性の取得が可能となる。
また、本実施形態のように、複数の光出射端、および複数の光検出端の各光軸が互いに一点Dで交わるように各光出射端および各光検出端の向きが設定されており、点Dを含む位置に光拡散性ターゲット13が配置されることが好ましい。これにより、各光出射端から出射された光L1を一つの光拡散性ターゲット13に効率良く当てることができ、また光拡散性ターゲット13からの拡散光L2を各光検出端において効率よく受けることができる。
また、本実施形態のように、複数の光出射端および複数の光検出端の各光軸が、校正治具12の裏面12a内の所定領域Sを通過するように各光出射端および各光検出端の向きが設定されており、所定領域Sを含む位置に光拡散性ターゲット13が配置されることが好ましい。これにより、各光出射端から出射された光L1を一つの光拡散性ターゲット13に効率良く当てることができ、また光拡散性ターゲット13からの拡散光L2を各光検出端において効率よく受けることができる。
また、本実施形態における光源41の一例として連続光源が挙げられている。この場合、装置応答特性算出部55は、装置応答特性として、複数の光検出器51それぞれの検出感度特性に応じた校正用データを算出するとよい。これにより、CW光を使用して拡散光の光強度から被検出部位の内部情報を取得するCW法を用いた生体計測装置において、装置応答特性の一種である検出感度特性の除去(校正)を容易に行うことができる。
また、本実施形態における光源41の一例として変調光源が挙げられている。この場合、装置応答特性算出部55は、装置応答特性として、複数の光検出器51それぞれの変調振幅特性および位相特性に応じた校正用データを算出するとよい。これにより、変調光を使用して拡散光の光強度および位相情報から被検出部位の内部情報を取得するPMS法を用いた生体計測装置において、装置応答特性の一種である変調振幅特性および位相特性の除去(校正)を容易に行うことができる。
また、本実施形態における光源41の他の一例としてパルス光源が挙げられている。この場合、装置応答特性算出部55は、装置応答特性として、信号処理部52からの計測波形に畳重される装置自体の時間応答特性に応じた校正用データを算出するとよい。これにより、パルス光を使用して拡散光の時間分解波形から被検出部位の内部情報を取得するTRS法を用いた生体計測装置において、装置応答特性の一種である装置自体の時間応答特性の除去(校正)を容易に行うことができる。特に、TRS計測においては、光検出器51から出力された信号Sig1が、光源41の発光タイミングに同期したトリガ信号Sig2により駆動する信号処理部52によって処理されることにより、生体計測波形が取得される。そして、光源41の発光タイミングは、温度環境等の影響によりドリフトを生じる。したがって、校正用計測を最低でも1日に1回、可能であれば生体計測毎に行うことが好ましい。このため、一回の校正用計測に要する時間の短縮と作業の簡略化が強く望まれている。本実施形態の生体計測装置1によれば、TRS計測においても、校正用計測に必要な計測時間および作業時間を大幅に短縮することができる。
なお、光出射端に接続される光源41としては、複数の光出射端それぞれに対応して複数の光源(CW光源、変調光源、又はパルス光源)が設けられてもよく、或いは複数の光出射端それぞれに配光できる一つの光源(CW光源、変調光源、又はパルス光源)が設けられてもよい。
また、本実施形態に例示した方法では、演算処理部53が、校正用計測波形および生体計測波形の双方を取得し、これらの波形を格納した後に装置応答特性(校正用データ)の算出および内部情報の補正(具体的には、生体計測波形の補正、および補正後の生体計測波形に基づく内部情報の算出)を行っている。本実施形態の生体計測装置1を用いた生体計測方法はこれに限られるものではなく、例えば、校正用計測波形を取得した後に装置応答特性の算出を行い、この装置応答特性に係る校正用データをメモリ等の記憶手段に記憶しておき、生体計測の際に、記憶された校正用データを読み出して内部情報を補正してもよい。
<変形例>
図12および図13は、上記実施形態に係る生体計測装置1の変形例を示す図である。図12,図13は、共に計測部2の形状に関する変形例の側断面を示している。
図12に示された計測部21は、被検者の垂下した乳房を囲む容器31と、該容器31に取り付けられた複数の光ファイバ11とを有している。本変形例では、容器31の形状が上記実施形態の容器3の形状と異なっており、容器31は球面の一部を切り取ったような形状を呈している。そして、該球面の中心、すなわち各光ファイバ11の端面11aの光軸が交差する点D1は、容器31の開口部31bより高い位置に設定されている。
また、図13に示された計測部22は、被検者の垂下した乳房を囲む容器32と、該容器32に取り付けられた複数の光ファイバ11とを有している。本変形例においても容器32の形状が上記実施形態の容器3の形状と異なっており、容器32は、楕円体の一部を該楕円体の長軸と斜めに交差する面で切り取ったような形状を呈している。そして、各光ファイバ11の端面11aの光軸が交差する点D2は該楕円体の中心に設定されており、また、点D2は容器32の開口部32bより高い位置に設定されている。
本発明に係る容器の形状は、図3〜図5に示した半球形状に限られるものではなく、例えば本変形例のような形状であってもよい。或いは、これら以外の様々な形状、例えば円柱や円錐等であってもよい。
図14及び図15は、上記実施形態に係る生体計測装置1の別の変形例を示す図である。図14は、本変形例に係る校正治具16の側断面図であり、図15は、この校正治具16が容器3に装着された様子を示す側断面図である。校正治具16は、容器3の開口部3bを覆うように容器3に着脱可能に構成され、校正用計測を行う際に、複数の光ファイバ11の光軸が交差する所定領域Sを含む位置に光拡散性ターゲット13を設置するために使用される。
校正治具16は、上記実施形態における校正治具12と同様の形態を有し容器3の開口部3bを覆う第1の部分16aと、容器3の内壁に沿う半球状の第2の部分16bとを含む中空状の構造を有している。そして、第1の部分16aの内面16cの中心には、内面16cと同一面にて中空部に露出するように光拡散性ターゲット13が埋め込まれている。また、校正治具16は、各光ファイバ11の光検出端を覆う透過性光拡散部材17を更に有している。図15に示すように、透過性光拡散部材17は、第2の部分16bにおいて各光ファイバ11の光検出端となる端面11aと対向する位置に配置されている。なお、透過性光拡散部材17は、各光ファイバ11の光出射端となる端面11aを覆うように更に配置されてもよく、各端面11aが光照射用および光検出用の双方を兼ねる場合には、このような各端面11aを覆うように配置されるとよい。
透過性光拡散部材17としては、ガラス基板にオパールの薄い層を形成したもの(例えばエドモンドオプティクス製のCOMMERCIALオパール光拡散ガラスなど)や、摺りガラス(例えばエドモンドオプティクス製のTECH SPEC(登録商標)摺りガラスなど)、或いは紙などといった、光拡散性を有する部材であれば様々な材質のものを使用することができる。また、透過性光拡散部材17の表面に、反射防止コーティングが施されていると尚良い。
このような構成を有する校正治具16が容器3に装着されると、図15に示すように、校正用計測の際に校正治具16の中空部分が容器3における計測空間3aとなる。なお、生体計測の際には、透過性光拡散部材17は校正治具16と共に取り除かれる。
校正治具16が本変形例のような構成を備えることによって、光ファイバ11の開口数(NA:Numerical Aperture)といった光検出端の光学特性を考慮した、より正確な校正用計測が可能となる。
なお、透過性光拡散部材17は、校正治具16ではなく光ファイバ11の端面11aに直接取り付けられてもよい。これにより、透過性光拡散部材17が光ファイバ11の端面11aを直接覆うこととなり、上記と同様の効果を好適に得ることができる。この場合、生体計測(図11のステップS5)の際においても透過性光拡散部材17が光ファイバ11の端面11aを覆うこととなる。
本発明による生体計測装置は、上記した実施形態および変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では校正治具として円板の中心に光拡散性ターゲットを配置したものを例示したが、光拡散性ターゲットは、必要に応じて校正治具の裏面の様々な位置に配置されて、光ファイバ11の光軸が通過する所定領域Sを構成する。また、上記変形例(図12,図13)のように光出射端および光検出端の光軸の交点Dが容器の開口部より上方に位置する場合、或いは下方に位置する場合等には、点Dの位置に合わせて光拡散性ターゲットの位置を設定し、併せて校正治具の形状を適宜変更するとよい。この場合、所定領域Sは、光出射端および光検出端の光軸に合わせて、校正治具の裏面に複数設けられてもよい。
また、本発明による生体計測装置によって計測される生体の被測定部位としては、上記実施形態において例示された乳房に限られるものではなく、例えば頭部など生体の他の部位であってもよい。
1…生体計測装置、2,21,22…計測部、3,31,32…容器、3a…計測空間、3b…開口部、4…光源装置、5…計測装置、10…ベッド、11,15…光ファイバ、11a…端面、12…校正治具、12a…裏面、12b…嵌合部、13…光拡散性ターゲット、41…光源、42…波長選択器、51…光検出器、52…信号処理部、53…演算処理部、54…計測信号格納部、55…装置応答特性算出部、56…内部情報算出部。