JP5059046B2 - 有機リン系農薬含有水の処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、有機リン系農薬含有水の処理方法に関する。すなわち、有機リン系農薬で汚染された廃水等について、含有された有機リン系農薬をフェントン法に基づき酸化,分解処理する、処理方法に関するものである。
《技術的背景》
例えば除草剤,殺菌剤(植物病気防止剤),防ばい剤,殺虫剤(害虫防除剤),殺鼠剤(動物防除剤),植物成長調整剤(植物ホルモン剤),土壌消毒剤等の農薬は、近代化された農業では、大量に使用されている。
つまり農薬は、農作物の虫害や病気の予防や対策、農作物の安定供給や長期保存、除草の簡素化、等々を目的として使用される薬剤の総称であり、農業の効率化を目ざし、周知のごとく多用されている。
他方、農薬は人体や環境に対し強い毒性を示す危険性もあり、農薬として使用できる物質は、法律で規制されている。
ところで、現在使用可能とされている農薬についても、自然環境中に排出,流出した場合、人体,生態系,環境等への悪影響が懸念される状況にある。
すなわち農薬は、自然環境中では分解されにくい特徴を備えた難分解性の有機化合物であり、自然環境中に残留し易く、環境汚染や水質汚濁の原因となる。又、生物体内で蓄積され易い特徴があり、人体に有害,危険である(例えば、環境ホルモンとしての内分泌撹乱物質や、神経系撹乱物質として)。
そして、自然環境中に排出,流出された廃水に含有された農薬が、河川水,浄水場取入水,下水処理場流入水,下水処理場放流水,地下水,湖水等々中に、残留,混入している可能性があり、最近その検出,確認も相次いで報告されている。
有機リン系農薬は、このような農薬の重要な一環をなし、特にその難分解性が問題となっている。
《従来技術》
これに対し、有効な対策技術は未だ確立していない。廃水中に残留,含有された農薬処理のニーズ、有機リン系農薬で汚染された廃水処理のニーズは、今後高まることが予想されるが、その難分解性等に起因して、効果的な処理技術は未だ提案されていない。
この種の従来技術としては、僅かに次の程度が把握されうるに過ぎない。まず、従来よりの浄水場や下水処理場の設備が考えられる。
又、技術的提案としては、酸化剤又は還元剤を添加してから電磁波を照射する技術(下記特許文献1)、活性炭等の吸着剤を多数の容器に充填したゴルフ場の排水処理技術(下記技術文献2)、アルカリ金属を用いて分解する技術(下記技術文献3)、過酸化水素と鉄塩にてOHラジカルを生成して分解するフェントン法の技術等が、散見されるに過ぎない。
《先行技術文献情報》
特開2006−26460号公報 特開平4−256488号公報 特開2005−160709号公報
《問題点について》
ところで、上述したこの種従来例については、次の問題が指摘されていた。
まず、従来の浄水場や下水処理場の設備,能力,使用薬品等で、難分解性の有機リン系
農薬を処理することは、およそ困難とされていた。
酸化剤や還元剤添加後に電磁波照射する技術や、活性炭等に吸着する技術や、アルカリ金属を用いる技術等については、設備コスト,その他のイニシャルコスト,制御複雑性,処理安定性,処理効率等々に、問題が指摘されていた。
従来のフェントン法については、処理性能,ランニングコスト(薬品使用コスト)等に、問題が指摘されていた。例えば、過酸化水素が処理途中で水と酸素に分解され易く、OHラジカルの生成効率が悪いと共に、これをカバーすべく過酸化水素が多量に過剰添加されており、その残存処理コストつまり中和剤による後処理コストも嵩んでいた。
《本発明について》
本発明の有機リン系農薬含有水の処理方法は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、OHラジカルが効率的に生成され、もって有機リン系農薬を、確実に酸化,分解することができ、第2に、しかもこれが、ランニングコスト,後処理コスト,制御の容易性,処理の安定性,イニシャルコスト、等々にも優れて実現される、有機リン系農薬含有水の処理方法を、提案することを目的とする。
《請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。
請求項1の有機リン系農薬含有水の処理方法は、被処理水に含有された該有機リン系農薬を、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する。該有機リン系農薬は、窒素およびリンを含有した有機化合物よりなる。そして、該有機リン系農薬を含有した該被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液とpH調整剤とが添加される。
そして過酸化水素は、処理槽において、反応当初に全量添加される。
2価の鉄イオン溶液は、該処理槽において、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して分割添加され、もって下記にて生成されるOHラジカルが余って水に戻り,浪費される反応を回避すべく機能する。
pH調整剤は、まずpH調整槽において、該処理槽に供給される該被処理水を対象に酸pH調整剤が添加され、又、過酸化水素の添加後の該処理槽において、2価の鉄イオン溶液の分割添加毎にその都度アルカリpH調整剤が添加され、もって該被処理水をpH3〜pH5の弱酸性に維持して、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費される反応を抑制すべく機能する。
過酸化水素および2価の鉄イオンの添加量は、反応式に基づく反応理論値を基準として、より多目に実際に準備される必要モル数が、算出されるようになっている。
もってまず、該被処理水中に含有された該有機リン系農薬の具体的含有量から、OHラジカルの反応理論値のモル数が基準として得られ、次に、OHラジカルの実際の必要モル数が、この基準より多目に算出され、更に、このOHラジカルの必要モル数から、OHラジカルの生成物質である過酸化水素および2価の鉄イオンの反応理論値のモル数が、基準として得られ、そして、過酸化水素および2価の鉄イオンの実際に準備される必要モル数が、この基準より多目に算出される。
過酸化水素および2価の鉄イオンの添加タイミングは、過酸化水素については、使い尽くされて該処理槽の該被処理水中から過酸化水素がなくなった時であり、2価の鉄イオンについては、前回分割添加されたものが使い尽くされて、該処理槽の該被処理水中から2価の鉄イオンがなくなった時である。
そして、OHラジカルの生成反応に関しては、過酸化水素が2価の鉄イオンにて分割添加の都度還元されて、OHラジカルが生成されるフェントン主反応のほか、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成され、又、生成されたOHラジカルが、更に該被処理水の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が連鎖的に繰り返され、又、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、少なくとも新たなOHラジカルを生成する反応が連鎖的に繰り返され、該処理槽内で過酸化水素が使い尽くされた時にOHラジカルの生成が終了する。
もって、被処理水に含有された有機リン系農薬が、このように生成されたOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)ホスホノメチルグリシン,メタミドホス,パラチオン等の有機リン系農薬を含有した被処理水は、処理装置に供給される。そして、フェントン法に基づく処理方法により、有機リン系農薬が酸化,分解される。
(2)処理装置は、被処理水供給手段,処理槽,後処理槽等を備えている。
処理槽には、過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段等が、付設されている。
(3)そして被処理水は、処理槽に供給されるが、その前にpH調整手段から硫酸等が添加されて、pH4程度の弱酸性とされる。
(4)処理槽では被処理水に対して、まず、過酸化水素添加手段から過酸化水素が全量添加される。
(5)それから、鉄イオン添加手段から2価の鉄イオン溶液が分割添加されるが、その分割添加毎に、pH調整手段からカセイソーダ等が添加されて、被処理水の弱酸性が維持される。
(6)さて、そこで処理槽内では、2価の鉄イオンを触媒として、過酸化水素がOHラジカルを生成する。なお、この生成反応では、鉄イオンが分割添加されるので、OHラジカルそして鉄イオンを浪費する反応が起こる虞はない。又、弱酸性雰囲気なので、鉄イオンの触媒機能が促進されるので、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費されることも回避される。
(7)OHラジカルは、上記反応にて生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンの反応によっても、生成可能である。
(8)OHラジカルは、更に、上記反応により生成されたOHラジカルが、被処理水の水と反応することによっても、又、上記反応により生成された3価の鉄イオンと過酸化水素が反応することによっても、それぞれ、連鎖的に繰り返して新たに生成される。
(9)処理槽内では、このような連鎖反応により大量にOHラジカルが生成されると共に、生成されたOHラジカルの強力な酸化力により、被処理水中に含有された有機リン系農薬は、難分解性の有機化合物よりなるものの、確実に酸化,分解される。もって、水,二酸化炭素,その他の低分子化合物に無機化される。
(10)それから被処理水は、後処理槽を経由して外部排水される。
(11)なお、この処理方法では、フェントン試薬等の添加量が反応理論値から容易に算出されると共に、構成も比較的簡単であり、安定的処理が可能である。
(12)さてそこで、本発明の処理方法は、次の効果を発揮する。
《第1の効果》
第1に、OHラジカルが効率的に生成され、もって有機リン系農薬を、確実に酸化,分解することができる。
すなわち、本発明の処理方法では、まずa.被処理水の弱酸性維持,過酸化水素の全量添加,2価の鉄イオンの分割添加等により、OHラジカルが効率良く生成される。しかもb.OHラジカルは、3価の鉄イオンと水酸化イオンとの反応や、生成されたOHラジカルの水との反応や、3価の鉄イオンの過酸化水素との反応等によっても、連鎖的に繰り返し高効率で生成される。
これらa,bにより、連鎖反応にて大量に生成されるOHラジカルにより、廃水等の被処理水に残留,混入,含有された有機リン系農薬が、確実に酸化,分解,除去される。有機リン系農薬で汚染された廃水は、確実に無害化されるようになる。
《第2の効果》
第2に、しかもこのような有機リン系農薬の確実な酸化,分解は、ランニングコスト,後処理コスト,制御の容易性,処理の安定性,イニシャルコスト、等にも優れて実現される。
すなわち、本発明の処理方法では、まずa.前述したこの種従来例のフェントン法のように、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費されることがなく、過剰に多量の過酸化水素を添加する必要もなく、フェントン試薬等の薬品使用コスト、そしてランニングコストが低減される。又b.この種従来例フェントン法のように、過酸化水素が過剰添加されることもなく、処理後の被処理水は過酸化水素の残存含有量が少なく、中和剤による後処理コストも低減される。
更にc.有機リン系農薬の含有量に対応した過酸化水素の添加量や、過酸化水素の添加量に見合った2価の鉄イオンの添加量や、pH調整剤の添加量等は、反応理論値から容易に算出され、必要モル数が得られる。もって、過不足のない適量の薬品添加制御が容易であり、自動制御も可能となり、例えば、2価の鉄イオンが余剰に残存したり不足したりする事態は発生せず、処理も安定化する。
又d.前述したこの種従来例に比べ、構成が比較的簡単容易であり、この面からも処理の安定性に優れると共に、設備コスト等のイニシャルコスト、その他の諸コストも低減される。
本発明の処理方法は、これらa,b,c,dの各面から、本格的処理,大規模処理,大容量処理等へのスケールアップ適用、つまり実用化への道が開ける。例えば、処理装置を施設内に設置して、本発明の処理方法を実施することにより、有機リン系農薬を含有した廃水の浄化が容易に可能となる。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
《図面について》
以下、本発明の有機リン系の農薬含有水の処理方法を、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。
図1は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成フロー図である。
《有機リン系農薬1について》
まず、本発明の処理方法の処理対象である、有機リン系農薬1について説明する。
有機リン系農薬1は、窒素(N)およびリン(P)を含有した有機化合物よりなり、有機塩素系農薬や有機硫黄系農薬等と共に、多岐にわたる農薬の主要分野を構成する(農薬については、技術的背景として前述した所を参照)。
そして有機リン系農薬1は、特に難分解性であり、具体例としては、フェニトロチオン(C12NPS),ホスホノメチルグリシン(CNP),メタミドホス(CPSN),パラチオン(C1014NOPS),メチルジメトン(C15PS),ジクロルボス等が、挙げられる。
代表例であるホスホノメチルグリシン(グリホサートイソプロピルアミン塩)は、有機リン系・アミノ酸系の除草剤として知られており、水や界面活性剤(1,4ジオキサン)と共に使用される(構成比率は、48%対52%)。
そしてホスホノメチルグリシンは、グリシン(HOOC−CH−NH)と、リン酸(HPO)の誘導体であるホスホノメチル(CH−P−(O)(OH))との、化合物であり、グリシンのアミノ基(−NH)の水素原子(H)を、ホスホノメチル基で置換したものである(その構造式:HOOC−CH−NH−CH−P−(O)(OH))。
なお、パラチオン(ジエチル・ニトロフェニル・チオリン酸)は、その有毒性に鑑み、国内では現在使用禁止となっているものの、先般、メチルパラチオンの検出が報告されている。
本発明は、各種の廃水等に含有された、このような有機リン系農薬1を、その対象とする。
《処理方法の概要》
本発明の処理方法は、被処理水3に含有された有機リン系農薬1を、改良されたフェントン法の処理プロセスに基づいて、酸化,分解する。すなわち、本発明の処理方法は、有機リン系農薬1の含有水を、被処理水3とする。
もって、含有された有機リン系農薬1を、フェントン試薬の過酸化水素(H)と2価の鉄イオン(Fe2+)を用い、フェントン主反応で生成されたOHラジカル(・OH)や、このようなフェントン主反応の付随的,副次的,連鎖的反応にて生成されたOHラジカルにて酸化,分解し、もって水,二酸化炭素,その他の低分子化合物へと無機化する。
そして、本発明の処理方法の実施に用いられる処理装置2は、処理槽4と、この処理槽4に付設された被処理水供給手段5,過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8とを、備えている。
以下、これらについて詳細に説明する。
《被処理水供給手段5等について》
まず、被処理水供給手段5等について、説明する。被処理水供給手段5は、処理槽4に対し、有機リン系農薬1を含有した被処理水3を、処理対象として供給する。
すなわち、被処理水供給手段5の原水槽9には、被処理水3が導入されており、この原水槽9そしてpH調整槽10を経由して、処理槽4に被処理水3が供給される。原水槽9に導入される被処理水3は、必要に応じ予め粉塵汚泥除去,生物処理等の前処理が施されている。pH調整槽10では、付設されたpH調整手段8からpH調整剤が添加される。
このpH調整手段8は、被処理水供給手段5の原水槽9から処理槽4に供給される途中の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を所定の弱酸性に調整してから、処理槽4に供給する。すなわち、原水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることも多いので、これをpH5〜pH3程度、代表的にはpH4程度に調整すべく、pH調整剤として硫酸等の酸pH調整剤が用いられる。
このように事前にpH調整しておく理由は、後述するように、過酸化水素と2価の鉄イオンによるOHラジカルの生成反応が、所期の通り効率良く行われるようにする為、等々である。なお、上記pH調整槽10は、例えば、被処理水3の大容量処理,連続処理や、高濃度の有機リン系農薬1の処理、等の場合に使用される。
被処理水供給手段5等は、このようなっている。
《過酸化水素添加手段6について》
次に、処理槽4に付設された過酸化水素添加手段6について、説明する。過酸化水素添加手段6は、処理槽4の被処理水3に対し、その反応当初において、過酸化水素(H)の水溶液を、フェントン試薬として全量添加する。過酸化水素は、OHラジカルの発生源となる。
過酸化水素の1回の反応当たりの添加量は、その被処理水3中に含有された処理対象の有機リン系農薬1の具体的含有量,濃度次第であるが、その反応理論値を基準として多目に算出された実際必要量(必要モル数)が、反応当初に一度に全量添加される。次回の添加は、処理槽4の被処理水3中から過酸化水素がなくなった時、つまり次の反応時であり、同様にその全量が添加されて行くことになる。このように、この明細書において全量添加とは、反応に必要な薬剤量を1回に100%全量一括添加すること、を意味する。
このように過酸化水素添加手段6から、過酸化水素が全量添加される。
《鉄イオン添加手段7について》
次に、処理槽4に付設された鉄イオン添加手段7について、説明する。鉄イオン添加手段7は、上述により過酸化水素が添加された後の処理槽4の被処理水3に対し、間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン(Fe2+)溶液を、フェントン試薬として分割添加する。
すなわち、液中で2価の鉄イオンを生じる物質、例えば硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)が、このような鉄塩として代表的に使用されるが、その他の無水塩や含水塩、例えば塩化鉄(FeCl)やその水和物も使用可能である。2価の鉄イオンは、過酸化水素のOHラジカル生成反応の触媒として機能する。この鉄イオンの1回の反応当たりの添加量は、反応理論値を基準として、より多い実際必要量が算出されるが、例えば、過酸化水素の1モルに対し0.5モル程度とされる。
又、この鉄イオンは、複数回に分けて分割添加される。すなわち、1回の反応についての必要量が、全量添加されずに3〜7回程度に分けて、例えば5回に分けて順次添加される。各回毎の添加タイミングは、前回添加したものがなくなった段階で、次回分が添加される。このように、この明細書において分割添加とは、反応に必要な薬剤量を複数回に分けて添加すること、を意味する。
2価の鉄イオンを分割添加する理由は、次のa,b,cのとおり。まずa.もしも全量添加すると、後述する化学反応において、過酸化水素を反応物質とする原系から、OHラジカルを生成物質とする生成系へと向かう所期の正反応と同時に、OHラジカルを消費する無駄な反応が起こり易くなる。つまり、余ったOHラジカルが水に戻る反応が起こり易くなり、ロスが生じ、OHラジカル生成のために使用した鉄イオンが、無駄に消費されることになる。これに対し分割添加すると、このような反応が抑制され、鉄イオンの無駄も解消される。
又b.OHラジカルは、反応が激しいだけに存在時間が瞬間的,超短寿命であり、全量添加より分割添加した方が、その都度OHラジカルが生成されて、処理槽4内の被処理水3の隅々まで行き渡るようになる。もってその分、有機リン系農薬1の酸化,分解が確実化,効率化,迅速化される。更にc.分割添加すると、全量添加に比し残存する過酸化水素が少なくなるので、その分、中和剤による後処理コストも低減される。
このように鉄イオン添加手段7から、2価の鉄イオン等が分割添加される。
《pH調整手段8について》
次に、処理槽4に付設されたpH調整手段8について、説明する。pH調整手段8は、前述したように被処理水供給手段5から処理槽4に供給される前の被処理水3、および処理槽4に供給された後の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を例えばpH4程度の弱酸性に維持する。
すなわちpH調整手段8は、過酸化水素の添加前には、硫酸(HSO)等の酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後は、上述した鉄イオンの添加毎に、カセイソーダ(NaOH)等のアルカリpH調整剤を添加する。
被処理水3を、pH3〜pH5程度代表的にはpH4程度に維持する理由は、次のa,b,cのとおり。まずa.後述するように、所期の反応を阻害する過酸化水素の水と酸素への無駄な分解反応を、抑制すべく機能する。これと共にb.2価の鉄イオンの過酸化水素への電子供与を、促進すべく機能する。更にc.後述する付随的,副次的,連鎖的に繰り返されるOHラジカル生成反応を、促進し確実化すべく機能する。これらa,b,cにより、OHラジカルの生成が、効率良く進行するようになる。
これに対し、まず、被処理水供給手段5の原水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることが多いので、前述したようにpH調整槽10において、pH調整手段8から例えば硫酸が添加されて、例えば4程度にpH調整される。
そして事後、処理槽4において、2価の鉄イオンが添加されると、そのままでは被処理水3のpHが例えば2.8程度まで低下し酸性度が過度に上がるので、2価の鉄イオンの分割添加毎にその都度、例えばカセイソーダが添加され、もって例えばpH4程度へと被処理水3がpH調整される。
pH調整手段8は、このようになっている。
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その1)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その1)について、説明する。
この処理方法において、処理槽4内では、まず第1に、被処理水3が攪拌,流下されると共に、添加された過酸化水素が、触媒として添加された2価の鉄イオンにて還元されて、OHラジカルを生成する。
このようなOHラジカルの生成について、更に詳述する。処理槽4内では、次の化1,化2の反応式(化3の反応式)に基づき、OHラジカルが生成される。これがフェントン主反応である。
Figure 0005059046
Figure 0005059046
Figure 0005059046
これらについて、更に詳述する。このフェントン主反応では、上記化1の反応式において、鉄イオン添加手段7から順次分割添加される2価の鉄イオン(Fe2+)は、被処理水3が例えばpH4程度の弱酸性雰囲気に維持されているので容易に、触媒として上記化2の反応式の過酸化水素(H)に対し、順次電子(e)を供与すると共に、自己は酸化して3価の鉄イオン(Fe3+)となる。
そこで、化2の反応式において、過酸化水素添加手段6から最初に全量添加された過酸化水素は、化1の反応式に基づき電子が順次供与され、もってその都度、OHラジカル(・OH)と水酸化イオン(OH)が生成される。化1と化2の反応式をまとめて合成すると、上記化3の反応式となる。
ところで、このような反応に際し、前述したように被処理水3が弱酸性雰囲気に維持されているので、過酸化水素が水と酸素に分解され、浪費されてしまうことは抑制される。
これに対し、もしも弱酸性雰囲気に維持されないと、次の化4の反応式により、過酸化水素が、発生期の酸素(O)を発生しつつ水分子(HO)になり、所期の化2(化3)の反応式によりOHラジカルを生成することなく、浪費されてしまうことになる。なお、この発生期の酸素は、その酸化対象がない場合、酸素分子(O)となって系外にでる。
処理槽4内では、まず第1に、このようなフェントン主反応により、OHラジカルが生成される。
Figure 0005059046
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その2)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その2)について、説明する。処理槽4では、第2に、次の化5,化6の反応式によっても、OHラジカル(・OH)を生成可能である。
すなわち、処理槽4内では、まず第1に、前記化3(化1,化2)の反応式のフェントン主反応により、OHラジカルが生成されるが、これと共に第2に、次の化5,化6の反応式によっても、付随的,副次的,連鎖的にOHラジカルを生成可能である。
Figure 0005059046
Figure 0005059046
これについて、更に詳述する。処理槽4内では、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオン(OH)が、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオン(Fe3+)にて酸化されて、OHラジカル(・OH)を生成する。
すなわち、前記化1の反応式で生成された3価の鉄イオンは、前記化2の反応式で生成された水酸化イオンから、上記化5,化6の反応式により、電子(e)を奪ってOHラジカルを生成させ、自らは2価の鉄イオンに還元されて戻る。このように、化3(化1,化2)の反応式のみならず、化5,化6の反応式が、連鎖的にバランス良く起こるようにすると、OHラジカルが、より効率的に生成される。
処理槽4内では、第2に、このような反応によって、OHラジカルを生成可能である。
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その3)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その3)について、説明する。処理槽4では、上述した第1,第2に加え、更に第3の反応によっても、付随的,副次的,連鎖的に、新たなOHラジカルが生成される。
すなわち、前記化3(化1,化2)や前記化5,化6の反応式にて生成されたOHラジカルが、被処理水3の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、次の化7,化8の反応式により、連鎖的に繰り返される。
Figure 0005059046
Figure 0005059046
これらについて、更に詳述する。まずOHラジカルは、中性〜アルカリ性雰囲気下では、水分子から水素原子を引き抜いてこれを酸化し、酸素分子を発生せしめると共に、自身は還元されて水分子に帰す。
これに対し酸性雰囲気下では、上記化7の反応式により、OHラジカル(・OH)は、水分子(HO)から電子(e)を引き抜き、自身は水酸化イオン(OH)になるが、この引き抜き反応が、水分子をラジカル分裂させ活性化させて、新たなOHラジカル(・OH)とプロトン(H)を生成させる。生成された水酸化イオンとプロトンは、上記化8の反応式にて、新たな水(HO)を生成して消滅する。
処理槽4の被処理水3は、弱酸性雰囲気に維持されているので、このようにして、新たなOHラジカルが生成されるが、更にこのように生成されたOHラジカルを基に、再びこのような一連の反応が連鎖的に起き、事後も同様に連鎖的に繰り返される。
つまり、前記化3等の反応式にてOHラジカルが一旦生成されると、これを開始反応,反応開始剤として、事後は連鎖的反応により、半永続的にOHラジカルが得られることになる。有機リン系農薬1の酸化,分解過程において消費された分を除いたOHラジカルが、プロトンの連鎖的な生成・消滅と共存的に、生成・消滅を繰り返す。OHラジカルは超短寿命であることに鑑み、このような繰り返し生成の意義は大きい。
処理槽4内では、第3に、このような反応によっても、OHラジカルが生成される。
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その4)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その4)について、説明する。処理槽4では、上述した第1,第2,第3に加え、更に第4に、次の反応によっても付随的,副次的,連続的に、新たにOHラジカルが生成される。
すなわち、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、新たにOHラジカル等を生成する反応が、次の化9,化10の反応式(化11の反応式)により、連鎖的に繰り返される。
Figure 0005059046
Figure 0005059046
Figure 0005059046
これらについて、更に詳述する。前記化3(化1)の反応式で生成された3価の鉄イオン(Fe3+)が、過酸化水素(H)と上記化9の反応式により反応し、もって、3価の鉄イオンが2価の鉄イオン(Fe2+)に還元されると共に、酸素分子が電子と結合して生じたイオンであるスーパーオキシドアニオン(・O )が生成される。そして、上記化10の反応式により、このラジカルなスーパーオキシドアニオンが、過酸化水素と反応して、OHラジカル(・OH)を生成可能である。化9と化10の反応式をまとめて合成すると、化11の反応式が得られる。
このように、前記化3(化2)の反応式にてOHラジカル生成の源泉となっていた過酸化水素が残ってさえいれば、(有機リン系農薬1の酸化,分解過程で、OHラジカルが、例え消費され尽くされてしまった場合においても、余剰に過酸化水素が残存してさえいれば、)その過酸化水素を基に、新たなOHラジカルが、連鎖的に半永続的に生成され続けられることになる。OHラジカルは超短寿命であることに鑑み、このような生成継続の意義は大きい。
但し、化11(化9,化10)の反応式が確実に起こるためには、過酸化水素が水と溶存酸素に分解(前記化4の反応式を参照)しない程度の弱酸性雰囲気まで、pH調整手段8にてカセイソーダ等を処理槽4の被処理水3に加える等、pH操作が必要であり、pH値をアルカリ側に移動させておくことが必要である。
更に、化11(化9)の反応式で生じた2価の鉄イオンは、pHを下げるが、上述により弱酸性雰囲気で安定存在する過酸化水素との共存を図るべく、必要なpH操作を実施しておけば、前記化3等の反応式のフェントン主反応により、OHラジカルの生成も見込める。
処理槽3内では、第4に、このような反応によっても、OHラジカルが生成される。
《処理槽4における反応(有機リン系農薬1の酸化,分解)》
次に、OHラジカルによる有機リン系農薬1の酸化,分解,無機化について説明する。
この処理装置2や処理方法において、処理槽4内では、被処理水3に含有された有機リン系農薬1が、このようにフェントン主反応,その他にて生成されたOHラジカルにて、酸化,分解されて無機化される。
これらについて、更に詳細に説明する。OHラジカルつまりヒドロキシラジカル(・OH)は、周知のごとく強力な酸化力を備えている。つまり、活性酸素種として他に類を見ない極めて強力な電子(e)の奪取力,酸化力,つまり活性力,分解力を有しており、ラジカルで反応性に富んでいる。なお反応が激しいだけに、その存在時間は、ほんの瞬間的で寿命の短い化学種でもある。
さてそこで、水相分散したOHラジカルは、被処理水3中に含有された有機リン系農薬1を酸化し、遂には分解してしまう。すなわちOHラジカルは、有機リン系農薬1の有機構造や、その分解過程の過渡的中間体の有機構造について、酸化や付加の連鎖プロセスを辿り、もって、その炭素連鎖,有機結合,分子結合を順次切断,分解,分断して、最終的には無機の低分子化合物へと、酸化,分解,無機化してしまう。
有機リン系農薬1は、その大部分が、水と二酸化炭素に、酸化,分解,無機化される。そして、残りの僅かな部分が、微量のその他のリン系の低分子化合物やイオン(例えば、二酸化窒素やリン酸イオン)に、酸化,分解,無機化されてしまう。
例えば、有機リン系農薬1の代表例であるホスホノメチルグリシンは、水溶性に鑑み被処理水3中で1価のアニオン(陰イオン)化すると共に、OHラジカルによる酸化や付加の連鎖プロセスを、順次辿って行く。もって、それぞれのプロセスの残基について、分解が進行すると共に、水(HO)や二酸化炭素(CO)が途中で派生,生成,遊離されて行き、二酸化窒素(NO)も僅かに派生,生成,遊離される。そして最終的には、燐酸イオン(HPO )が生成されて、後述するように錯体化される。
処理槽4では、このように有機リン系農薬1が、酸化,分解,無機化される。
《後処理槽11について》
次に、後処理槽11について説明する。以上述べた処理槽4には、後処理槽11が付設されている。そして、この後処理槽11に、前述により有機リン系農薬1が酸化,分解された後の被処理水3が、処理槽4から排出され、必要な処理が施されて外部排水される。
このような後処理槽11について、更に詳述する。図示例の後処理槽11は、中和槽12,凝集槽13,貯留槽14,脱水槽15,処理水槽16等を、下流に向け順に備えている。
まず処理槽4から、含有された有機リン系農薬1の酸化,分解,無機化処理が済んだ被処理水3が、処理槽4から後処理槽11の中和槽12に排出される。中和槽12では、このような被処理水3に対し、カセイソーダ等のpH調整剤が添加され、もって無機凝集剤への最適pHへと調整される。なお、被処理水3中に僅かでも過酸化水素が残留している場合には、水質汚濁を回避すべくカタラーゼ等の中和剤が添加される。
次に凝集槽13では、中和層12から流入した被処理水3に対し、無機凝集剤として、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC,Al(OH)Cl6−n)や、塩化第二鉄(FeCl)が、添加されて攪拌される。もって、被処理水3中のリン系イオン(例えば燐酸イオンHPO )が、アルミニウムイオン(Al3+)や3価の鉄イオン(Fe3+)とコロイド状の錯体17をなし、凝集化,沈殿,沈積して、分離,除去可能となる。
なお、被処理水3中にフェントン法にて発生した3価の鉄イオンの残存量が多い場合は、この鉄イオンが無機凝集剤として機能するので、上記無機凝集剤の添加は不要である。これに対し、高分子凝集剤として例えばアニオンを添加し、もって錯体17の一層の凝集化,フロック化を図るようにしてもよい。
それから被処理水3は、図示例では、このような凝集槽13から、貯留槽14を経由して脱水槽15へと供給される。脱水槽15では、例えばF/P式脱水機により、沈殿,汚泥化した被処理水3固液分離され、フロック化,脱水ケーキ化した錯体17が、コンテナ18へと分離,貯留された後、除去処分される。
そして、このように浄化された被処理水3は、処理水槽16にて更に浄化されされると共に、外部放流に適したpH値に調整されたてから、外部放流される。
後処理槽11は、このようになっている。
《作用等》
本発明の有機リン系農薬1含有水の処理方法は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)ホスホノメチルグリシン,メタミドホス,パラチオン等の有機リン系農薬1を含有した廃水等の被処理水3は、処理装置2へと供給される。そして処理装置2を使用し、フェントン法の処理プロセスに基づく処理方法により、残留,混入していた有機リン系農薬1を酸化,分解し、もって被処理水3を浄化する。
(2)まず、この処理装置2は、被処理水供給手段5の原水槽9,pH調整槽10,処理槽4,後処理槽11等を、順に備えている。そして、pH調整槽10には、pH調整手段8が付設されている。処理槽4には、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が、付設されている。
(3)そこで被処理水3は、被処理水供給手段5の原水槽9から、処理槽4に供給される。なお被処理水3は、処理槽4に供給される前に、pH調整槽10において、pH調整手段8から例えば硫酸等の酸pH調整剤が添加され、もってpH3〜pH5例えばpH4程度の弱酸性とされる。
(4)処理槽4に供給された被処理水3には、まず、過酸化水素添加手段6から過酸化水素の水溶液が、添加される。過酸化水素は、反応当初に全量添加される。
(5)処理槽4では、このように過酸化水素が添加された後、被処理水3に対して、鉄イオン添加手段7から2価の鉄イオン溶液が、添加される。この添加は、過酸化水素添加後の反応中において、分割添加により複数回に分けて間欠的に、複数サイクル繰り返して行われる。
又、このような鉄イオンの分割添加毎に、pH調整手段8から例えばカセイソーダ等のアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水3は常時、例えばpH4程度の弱酸性を維持する。つまり被処理水3は、OHラジカル生成に最適なpHへと調整される。
(6)さてそこで、処理槽4内では、次の第1,第2,第3,第4の反応に基づき、OHラジカルが大量に生成される。
第1に、上述により全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されて、OHラジカルを生成する。
すなわち、前記化3(化1,化2)の反応式のフェントン主反応により、2価の鉄イオンが、過酸化水素に電子を供与して3価の鉄イオンになり、電子を供与された過酸化水素が、OHラジカルを生成する。なお、このOHラジカルの生成は、2価の鉄イオンが分割添加されるので、OHラジカルそして2価の鉄イオンが浪費される反応が起こる虞もなく、分割添加の都度、無駄なく効率良く実施される。
これに加え、このOHラジカルの生成は、pH4程度の弱酸性雰囲気に維持されていることによって、一段と効率良く確実に実施される。すなわち、弱酸雰囲気下であることにより、まず、2価の鉄イオンの電子供与が促進されると共に、更に過酸化水素が、前記化4の反応式により水と酸素に分解,浪費される反応が抑制,回避され、能力いっぱいのOHラジカルを生成するようになる。
(7)第2に、OHラジカルは、処理槽4内で2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、酸化されることによっても生成可能である。
すなわちOHラジカルは、前記化3(化1,化2)の反応式で生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンとに基づき、前記化5,化6の反応式によっても生成され可能であり、この面からも、OHラジカルが効率良く生成される。なおこのOHラジカルも、鉄イオンの分割添加の都度、連鎖的にそれぞれ生成される。
(8)OHラジカルは更に、次の第3,第4によっても生成される。つまり、上記(6)のフェントン主反応以外でも、付随的,副次的,連鎖的反応によって、効率良く生成され続ける。
第3に、前記化3の反応式等により生成されたOHラジカルが、前記化7,化8の反応式により被処理水3の水と反応することにより、新たなOHラジカルが連鎖的に繰り返し生成される。
第4に、前記化3(化1)の反応式で生成された3価の鉄イオンと、過酸化水素とが、前記化11(化9,化10)の反応式により反応することによっても、新たなOHラジカルが、連鎖的に繰り返し生成される。
なお、これら第1,第2,第3,第4のOHラジカルの生成は、処理槽4内でフェントン試薬の過酸化水素が使い尽くされてなくなった時に、終了する。
(9)さて、このような連鎖反応により大量にOHラジカルが生成されると共に、このように生成されたOHラジカルは、極めて強力な酸化力を備えている。
そこで処理槽4内では、被処理水3中に含有された有機リン系農薬1は、このOHラジカルにて酸化,分解され、もって低分子化合物へと無機化されてしまう。ホスホノメチルグリシン,メタミドホス,パラチオン等の有機リン系農薬1は、分子量が大きく難分離性の有機化合物ではあるが、OHラジカルの連鎖的な付加や酸化反応により、水,二酸化炭素等の低分子化合物へと、無機化されてしまう。
(10)被処理水3は、含有されていた有機リン系農薬1が、このように水や二酸化炭素等に無機化され、もって処理槽4から後処理槽11へと排出される。図示の後処理槽11は、中和槽12,凝集槽13,貯留14,脱水槽15,処理水槽16,コンテナ18、等を備えている。
なお過酸化水素は、前述によりOHラジカル生成に関し、無駄なく有効使用されるので、処理後の残存量は僅かであり、中和槽12における中和剤の使用も、極く僅か又は皆無となる。そして被処理水3は、後処理槽11を経由することにより、排水可能な状態に調整されて、外部排水される。
(11)この処理方法では、上述したように、フェントン法の処理プロセス等に基づき、被処理水3に含有された有機リン系農薬1を無機化するが、これは簡単容易に実現される。
すなわち、過酸化水素,2価の鉄イオン,pH調整剤等のフェントン試薬等の薬品添加量は、反応理論値から実際必要量が容易に算出され、反応理論値と同量か多目の例えば数倍程度が、実際必要量として添加され、もって添加量の最適化が実現される。
又、この処理装置2は、処理槽4を中心に、原水槽9や後処理槽11が配設されると共に、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が付設された構成よりなる。つまり、この処理方法では、比較的簡単な構成の処理装置2が用いられており、安定的な処理が可能である。
本発明の作用等は、このようになっている。
次に、本発明の実施例について、説明する。
まず、本発明の処理方法に関し、その実施例1の酸化,分解プロセスについて、説明する。
すなわち、「処理槽4における反応(有機リン系農薬1の酸化,分解)」と題して前述した所に関し、本発明の実施例1として、有機リン系農薬1の代表例であるホスホノメチルグリシンについて、その酸化,分解プロセスの1例を、理論的に検証する。
そして、この実施例1に示されたように、被処理水3中に含有されたホスホノメチルグリシン(CNP)は、その酸化,分解過程の中間体の有機構造を含め、下記の化12,化13,化14,化15,化16等に示した連鎖プロセス1〜10の各反応式(式1〜式10)を、順次辿って行く。そして順次、OHラジカル(・OH)が関与して、酸化反応や付加反応が進行すると共に、水,二酸化炭素,酸素,その他の低分子化合物が派生,生成,遊離し、もって分解,無機化されてしまう。
下記化15のプロセス7の反応式(式7)において生成された燐酸イオンP(=O)(OH)(O)は、錯体となって共沈処理、つまり凝集,沈殿,除去処理される。そして、下記化16のプロセス10の反応式(式10)において、最終的には硝酸(HNO)が生成されるに至る。
なお、プロセス10の反応式(式10)では、まず、OHラジカルによる水の酸化分解により、発生期の水素原子である水素ラジカル(H+e)が生成され、この水素ラジカルにて残基が還元されて硝酸となる。又、各プロセスの反応式においては、それぞれ上段に化学式、下段にその構造式を記載した。
Figure 0005059046
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上記化17は、上記化12〜化16に示した連鎖プロセス1〜10の各反応式(式1〜式10)の総括反応式である。
この化17の総括反応式にて示されたように、理論上、1モルのホスホノメチルグリシンは、22モルのOHラジカルにより、3モルの二酸化炭素と、1モルの硝酸と、共沈処理される1モルの燐酸イオンと、0.5モルの酸素と、13モルの水とに、分解,無機化されてしまう。
なおOHラジカルは、反応理論値としては、22モルを準備すれば良いが、実際必要量としては、その数倍程度準備される。OHラジカルの生成物質である過酸化水素や2価の鉄イオン等についても、同様である。
ホスホノメチルグリシンは、このように酸化,分解される。
ところで、上述したホスホノメチルグリシンは、有機リン系農薬1の除草剤として広く知られているが、その使用に際しては水溶性に乏しいことに鑑み、一般的に界面活性剤のジオキサン(1,4ジオキサン)と共に使用される。その構成比率は、例えば48%対52%である。
そして、ジオキサンも、下記の化18,化19に示した連鎖プロセス1〜3の反応式(式1〜式3)を辿ることにより、OHラジカルが順次関与して酸化や付加されると共に、二酸化炭素,酸素,水等に分解,無機化されてしまう。なお、各プロセスの反応式の上下2段書きについては、前述した所を参照。
Figure 0005059046
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Figure 0005059046
上記化20は、化18,化19の連鎖プロセス1〜3の各反応式(式1〜式3)の総括反応式である。
理論上、1モルのジオキサンは、24モルのOHラジカルにより、4モルの二酸化炭素と、1モルの酸素と、16モルの水とに、分解,無機化される。なお、反応理論値と実際必要量との関係については、前述した所を参照。
ジオキサンも、このように酸化,分解されてしまう。
実施例1については、以上のとおり。
次に、本発明の実施例2について、説明する。すなわち、本発明の処理方法に関し、その実施例2の実験結果について、説明する。
この実験では、有機リン系農薬1の1例であるフェニトロチオン(Fenitrothion,C12NPS)を含有した被処理水3を、サンプル1−1(原水)として、常温下で処理槽4に供給した。
そして各薬品を、サンプル1−2,1−3,1−4,1−5毎に、添加量を適宜変えつつ所定順序で添加した。サンプル1−2は、単に過酸化水素のみを添加処理したに過ぎない参考例であり、サンプル1−3,1−4,1−5は、本発明のフェントン法で処理した実施例である。
実験手順については、次のとおり。すなわち、まず被処理水3をフェントン法等にて処理した後に、錯体17をPAC添加により凝集,沈殿,除去処理して、固液分離し(後処理槽11に関し前述した所を参照)、もって、得られた濾液状の被処理水3を、実験の分析対象,実験結果の評価対象とした。
テスト条件については、次の表1のとおり。すなわち、フェントン法のOHラジカルの発生源となる過酸化水素、触媒となる硫酸第一鉄、pH調整用の硫酸やカセイソーダ、凝集用のPAC等々、各薬品の添加量については、次の表1のとおり。
Figure 0005059046
このような上記のテスト条件のもとで実験した所、下記の表2に示した実験結果が得られた。
すなわち、分析対象の被処理水3中に含有されたフェニトロチオンの含有量、その他の分析項目を、フェントン処理前のサンプル1−1と、参考例のサンプル1−2と、フェントン処理後のサンプル1−3,1−4,1−5とについて、それぞれ計測した結果、次の表2の実験結果が得られた。
なお、各分析項目毎の計測,分析方法については、次のとおり。
・pH :JIS K0102.12
・TOC(全有機体炭素)
:JIS K0102.22.1(燃焼酸化−赤外線式TOC分析法)(C換算)
・Fenitrothion(フェニトロチオン)
:ガスクロマトグラフ質量分析法
・電気伝導率:JIS K0102.13.1(電極法)
Figure 0005059046
この表2に示した実験結果により、次の点がデータ的に確認された。すなわち、本発明のフェントン法で処理したサンプル1−3,1−4,1−5の各実施例によると、有機リン系農薬1であるフェニトロチオンは、OHラジカルにより、二酸化炭素,酸素,水,硝酸,硫酸等へと酸化,分解,無機化されてしまい、被処理水3中には殆ど存在しなくなったことが、データ的に確認,評価された。
このことは、TOCのデータ値減少や、電気伝導率のデータ値増加等によっても、裏付けられた。
実施例2については、以上のとおり。
本発明に係る有機リン系農薬含有水の処理方法について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成フロー図である。
1 有機リン系農薬
2 処理装置
3 被処理水
4 処理槽
5 被処理水供給手段
6 過酸化水素添加手段
7 鉄イオン添加手段
8 pH調整手段
9 原水槽
10 pH調整槽
11 後処理槽
12 中和槽
13 凝集槽
14 貯留槽
15 脱水槽
16 処理水槽
17 錯体
18 コンテナ

Claims (1)

  1. 被処理水に含有された有機リン系農薬を、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する処理方法であって、該有機リン系農薬は、窒素およびリンを含有した有機化合物よりなり、有機リン系農薬を含有した該被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液とpH調整剤とが添加されると共に、
    過酸化水素は、処理槽において、反応当初に全量添加され、
    2価の鉄イオン溶液は、該処理槽において、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して分割添加され、もって下記にて生成されるOHラジカルが余って水に戻り,浪費される反応を回避すべく機能し、
    pH調整剤は、まずpH調整槽において、該処理槽に供給される該被処理水を対象に酸pH調整剤が添加され、又、過酸化水素の添加後の該処理槽において、2価の鉄イオン溶液の分割添加毎にその都度アルカリpH調整剤が添加され、もって該被処理水をpH3〜pH5の弱酸性に維持して、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費される反応を抑制すべく機能し、
    過酸化水素および2価の鉄イオンの添加量は、反応式に基づく反応理論値を基準として、より多目に実際に準備される必要モル数が、算出されるようになっており、
    もってまず、該被処理水中に含有された該有機リン系農薬の具体的含有量から、OHラジカルの反応理論値のモル数が基準として得られ、次に、OHラジカルの実際の必要モル数が、この基準より多目に算出され、更に、このOHラジカルの必要モル数から、OHラジカルの生成物質である過酸化水素および2価の鉄イオンの反応理論値のモル数が、基準として得られ、そして、過酸化水素および2価の鉄イオンの実際に準備される必要モル数が、この基準より多目に算出され、
    過酸化水素および2価の鉄イオンの添加タイミングは、過酸化水素については、使い尽くされて該処理槽の該被処理水中から過酸化水素がなくなった時であり、2価の鉄イオンについては、前回分割添加されたものが使い尽くされて、該処理槽の該被処理水中から2価の鉄イオンがなくなった時であり、
    そして、OHラジカルの生成反応に関しては、過酸化水素が2価の鉄イオンにて分割添加の都度還元されて、OHラジカルが生成されるフェントン主反応のほか、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成され、又、生成されたOHラジカルが、更に該被処理水の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が連鎖的に繰り返され、又、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、少なくとも新たなOHラジカルを生成する反応が連鎖的に繰り返され、該処理槽内で過酸化水素が使い尽くされた時にOHラジカルの生成が終了し、
    もって、該被処理水に含有された該有機リン系農薬が、このように生成されたOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする有機リン系農薬含有水の処理方法。
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