JP5055551B2 - タンパク等の分離・検出方法 - Google Patents

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本発明は、スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のビオチン固定化酵素によるビオチン化反応を利用した、タンパク等の分離・検出方法に関する。
プロテインタグシステムは、タンパクの精製方法並びに分析方法として、幅広い分野で活用されている。この手法では、タグとばれる比較的低分子量のタンパクやペプチドと、目的のタンパクを融合させて細胞内で発現させ、その後、タグを認識する物質を固定化した固相担体を利用して、目的のタンパクを捕捉し精製する方法である。この際、細胞内で目的のタンパクに結合していたタンパク質も同時に捕捉することが可能であるため、タンパク間相互作用の解析にも活用されている。更に、タグを有する目的タンパクを同様の原理で固相担体に固定化し、その後、その固相担体上で目的タンパクと他の物質(タンパク等)との間の相互作用を解析することも可能である。
このような目的に使用するタグとして、これまでに様々なものが開発されてきたが、代表的なものとしては次の様なものがある。(1)抗体によって認識されるペプチドあるいはタンパク(エピトープ)をタグとして利用し、抗体を固定化した固相担体を利用する系(例えば、非特許文献1参照)、(2)ビオチン化ペプチドあるいはタンパクをタグとして利用し、アビジンあるいはストレプトアビジンを固定化した固相担体を利用する系が挙げられる(例えば、非特許文献2、特許文献1、2参照)。
Brizzard, B., L. et al. Biotechniques (1994) 第16巻 第4号p. 730-735 Rodriguez, P. et al. Methods Mol Biol. (2006) 第338巻 p. 305-323 特表2005−516074号公報 特開2003−153698号公報
しかし、これらの系には問題点が存在する。それは、まず抗体を利用する系の場合、アミノ酸残基間のみの結合を利用しているため、本質的に交差反応性を示し、目的タンパクではない他のタンパクとの結合が起こり得ることである。また、アビジンを利用する系の場合、アビジンはビオチンのみを認識して結合するため、細胞内に元々存在するビオチン化タンパクもすべて結合することになる。従って、これらの既存の手法には結合特異性という観点から改善の余地がある。また、これらの既存の手法では、目的タンパクを固相担体上に捕捉した後、それを溶出させるのに何らかの添加剤が必要であり、精製や解析に手間がかかっている。更に、抗体やアビジンは大腸菌などの原核生物の発現系を利用して調製することが困難であるため、結果として、価格が非常に高額であることも問題点として挙げられる。
上記のように既存のプロテインタグシステムでは、目的タンパクではない他のタンパク質による結合が起こり得ることが問題点として挙げられる。そこで、より特異性の高い結合をプロテインタグシステムとして活用することにより、このような問題を克服することが望まれる。また、捕捉した目的タンパクの溶出に関しても、何らかの物質を添加すること無しに溶出することができれば、より迅速な精製や分析が行えることが期待される。更に、大腸菌などの原核生物の発現系で容易に調製可能なタンパクを、タグを認識する物質として利用することにより、精製・分析のコストを下げることが望まれる。本発明の課題は、このような点を全て解決したタンパク等の分離・検出方法を提供することにある。
上記のような課題を解決するために、本発明では、本発明者が最近見出した、古細菌スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)の特異なビオチン化反応系を利用して、プロティンタグシステムを構築する。ビオチン化反応は、ビオチン固定化酵素(Biotin Protein Ligase、BPL)が、その基質タンパク(Biotin Carboxyl Carrier Protein、BCCP)のある特定のリジン残基にビオチンを付加する反応である。このビオチン化反応は、ビオチンを部位特異的にタンパクに導入でき非常に有用性が高いため、これまで様々な生物種から酵素及びその基質タンパクが単離されてきた。その結果、意外にも、このビオチン化反応は異なる生物種間で交差反応性を示し、生物種が異なっても類似の性質を有していることが示されてきた。
しかし、最近、本発明者は、古細菌スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)のビオチン化反応系が、これまでの生物種由来のものには見られない、極めて特異な性質を有していることを発見した。その性質とは、まず、この古細菌のビオチン化反応系が、大腸菌の反応系と完全に交差反応性を有していないことと、反応後、酵素であるBPLが、ビオチン化されたBCCPと極めて安定な複合体を形成するという性質である。特に後者の、酵素がその反応生成物と非常に安定な複合体を形成するという性質は、他の酵素反応系おいても例を見ない極めて特異な性質である。本発明は、かかる知見に基づき、更に鋭意研究を重ねた結果、達成されたものである。
本発明の請求項1に記載された発明は、スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のビオチン固定化酵素(A)と、該ビオチン固定化酵素の触媒作用によってビオチン化された、スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のビオチン担持タンパクと目的タンパク質との融合タンパク(B)とから複合体を形成させ、又は、前記ビオチン固定化酵素(A)と、前記融合タンパク(B)と、目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)とから複合体を形成させ、該複合体として、前記目的タンパク、又は、前記目的タンパクと前記目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を分離・検出することを特徴とするタンパク等の分離・検出方法である。
本発明の請求項2に記載された発明は、ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)とからなる複合体を加温して、ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)を解離させ、該融合タンパク(B)として目的タンパクを分離・検出することを特徴とする請求項1項記載のタンパク等の分離・検出方法である。
本発明の請求項3に記載された発明は、ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)と目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)とからなる複合体を加温して、ビオチン固定化酵素(A)から、融合タンパク(B)と目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を解離させ、該融合タンパク(B)に含まれる目的タンパクと、目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を分離・検出することを特徴とする請求項1項記載のタンパク等の分離・検出方法である。
本発明の請求項4に記載された発明は、目的タンパク質が、ビオチン担持タンパクの活性領域と融合した融合タンパクを形成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のタンパク等の分離・検出方法である。
そして、本発明の請求項5に記載された発明は、ビオチン固定化酵素(A)として、固相担体に固定化されたものを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のタンパク等の分離・検出方法である。
本発明によると、古細菌スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)の特異なビオチン化反応系をプロティンタグシステムとして活用し、新規なタンパク等の分離・検出、更には精製系が構築される。具体的には、BCCPをタグとして利用し、目的のタンパクと融合させて細胞内で発現させる。一方で、酵素であるBPLを固相担体に固定化し、タグを認識する物質として利用する。そして、BCCPタグを有する目的タンパクを含む溶液を、BPLを固定化した固相担体と接触させビオチン化反応を行うことにより、固相担体上に目的タンパクを結合させ捕捉する。
本発明におけるタグシステムでは、BPLとビオチン化されたBCCP間の結合を利用している。この結合は、後の実施例で示すように、ナノモラー(nM)オーダーの極めて高い親和性を有している。また、この結合は、BPLとBCCPのアミノ酸残基間及び、BPLとビオチン間の協同的な相互作用に基づいているため、既存のタグシステムのものよりも、明らかに結合特異性が高いものと考えられる。また、タグを認識する物質であるBPLの分子量が27kDaと、抗体(150kDa)やアビジン(68kDa)の分子量と比較して小さく、その分子表面積が小さいため、目的タンパク以外の非特異的な結合をより抑制することが可能である。
また、このBPL−BCCP間の結合は、温度上昇により解離するので、温度を上昇させるだけで、固相担体から目的タンパクを溶出させることができる。従って、既存の手法よりも分離・精製や検出・解析を迅速に行えることが期待される。更に、BPLは抗体やアビジンと異なり、大腸菌などの原核生物の発現系で容易に調製することが可能である。
本発明は、スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のビオチン固定化酵素(A)(BPL)と、同じく古細菌由来のビオチン担持タンパク(BCCP)と目的タンパク質との融合タンパク(B)を用い、BPLの触媒作用によってBCCPをビオチン化させ、BPLとビオチン化されたBCCPが複合体を形成するという性質を利用するものである。かくして形成された複合体として、目的タンパクを分離・検出するものである。
上記と同じ反応は、前記ビオチン固定化酵素(A)と、前記融合タンパク(B)と、目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)にも適用が可能であり、この場合にも、複合体が形成されるので、形成された複合体として、目的タンパクと、目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を分離・検出することができる。
本発明において用いられるスルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)は、容易に入手可能な古細菌である。スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)(JCM10545)は、理化学研究所生物基盤研究部微生物系統保存施設に保存されており、第三者の要求により分譲可能である。また、スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)は、その遺伝子が既に解析され知られている(例えば、Suzuki, T. et al., Extremophiles, 2002 Feb;6(1):39-44、Kawarabayashi,Y. et al.,
DNA Res. 8 (4), 123-140 (2001))。そして、そのDNA断片は、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手が可能である。
ビオチン固定化酵素(BPL)は、ビオチン担持タンパク(BCCP)のある特定のリジン残基に、ビオチンを共有結合で固定化する反応を触媒する酵素である。本発明者の知見によると、スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のBPLが、他の生物種由来のものには見られないいくつかの特徴を有している。その中の一つが、この酵素BPLが反応後、ビオチン化されたBCCP(Holo BCCPともいう)と極めて安定な複合体を形成するという性質である。本発明は、この特異なBPL−Holo BCCP間の結合を利用して、新規なプロティンタグシステムを構築するものである。
本発明において用いられる古細菌スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のビオチン固定化酵素(BPL)、及び同古細菌由来のビオチン担持タンパク(BCCP)
は公知のものである。このBPLの分子量は27kDaで、BCCPの分子量は17kDaであり、例えば、大腸菌を宿主として大量培養、発現精製を行うことができることが知られている(例えば、Sueda et al、Biochemical and Biophysical Research Communications 344(2006)155-159、Li et al、FEBS Letters
580(2006)1536-1540、末田ら、第6回日本蛋白質科学会年会 京都市 平成18年4月24日〜26日、近藤ら、日本ビタミン学会第58回年会 徳島市 平成18年5月27日〜28日)。
本発明において、目的タンパク質が、ビオチン担持タンパクの活性領域と融合した融合タンパクを形成しているものが好ましい。BCCPの構造は、他の生物由来のものに関する検討から、2つのドメインから構成されており、そのうちビオチン化に必要なのはC末側のドメインだけであることが示されている。また、このC末側のドメインに関しては、いくつかの生物由来のものに関して立体構造が解析されている。
本発明で使用したスルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)のBCCPに関しては、まだ、立体構造は分かっていないが、そのアミノ酸配列の相同性から判断して、他の生物のものとほぼ同様の構造を有しているものと推測できる。実際に、このスルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)のBCCPは、全長が167残基のタンパクであるが、そのN末から順次欠損させた一連のBCCPをGSTとの融合タンパクとして構築し、ビオチン化反応並びにBPLとの結合能を検討した。その結果、C末側のドメインだけに、相当する67残基のBCCPだけでも、ビオチン化反応が起こり、また、BPLに対する強い結合が起こることが確認できた。本発明において、ビオチン担持タンパクの活性領域とは、BCCPのC末側のドメインであって、ビオチン化反応を起こしうる領域を意味する。
一般にタグの構造としては、タグを認識する物質や固相担体と、目的タンパクとの間の立体障害を避けるために、ある程度の大きさを持ち、目的タンパクと固相担体等との間に一定の距離が保てるような構造を有していることが望ましいと考えられる。しかし、あまりタグが大きいと、目的タンパクへのタグ自身による立体障害が問題となってくる。そのような観点から、このBCCPのC末側ドメインは、7kDa程度の適度なサイズを有していることから、タグとして最適な構造を有していると考えられる。
複合体中の目的タンパク、あるいは目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を分離・検出する方法は、公知のどのような方法・手段を採用しても良い。特に、ビオチン固定化酵素(A)として、固相担体に固定化されたものを用いるのが好ましい。
目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)とは、目的タンパクと結合し得る物質、例えば、その他のタンパク、ペプチド、DNA、RNA、糖鎖、脂質が挙げられる。例えば、固相担体上にBPLを介して固定化された目的タンパクに対して、目的タンパクと結合し得る物質(C)を作用させ、これとの相互作用を表面プラズモン共鳴法(SPR法)などを利用して評価する場合には、結合状態だけでなく、解離する過程も評価することも可能であるが、かかる場合も本発明の分離・検出方法に含まれるものである。
本発明はBCCPタグを導入した目的タンパクを、好ましくは、BPLを固定化した固相担体で捕捉し、その後、精製や解析を行うものであるが、具体的な手法に関しては、目的に応じて様々な形態が考えられる。例えば、細胞内で発現させた目的タンパクの分離・精製や、細胞内で目的タンパクと相互作用しているタンパクを同定・検出する、いわゆるプルダウアッセイに応用する場合には、BPLをガラスビーズや磁気ビーズなどの固相担体に共有結合で固定化する。一方で、BCCPタグを有する目的タンパクを、細胞内で発現させる。そして、その細胞の破砕を行った後、細胞破砕溶液にBPL固定化ビーズを作用させビオチン化反応を行い、目的タンパクの捕捉を行う。その後、目的タンパクをビーズから溶出させ分離・回収を行う。目的タンパクに結合しているタンパクを同定・検出する場合には、その後、更に質量分析等を行い、タンパクの分析を行う。
一方、BCCPタグを有する目的タンパクを固相担体へ固定化し、その後、その目的タンパクと結合親和性を有する物質(タンパク等)を作用させ、両者の相互作用を解析する場合には、分析手法に応じて、BPLを様々な固相担体(基板やセンサーチップ等)上に固定化する。その代表的な例としては、プロテインチップや表面プラズモン共鳴(SPR)法を利用した、タンパク間相互作用解析等が挙げられる。
プロテインチップは、基板上に他種類の目的タンパクを固定化し、その後、それらに分析対象のタンパクを作用させ、相互作用を一度に解析する手法である。本発明をプロテインチップに応用する場合、基板上にBPLを共有結合で固定化し、その後、BCCPタグを有する複数の目的タンパクを、BPLを介して基板上に固定化する。その後、分析対象のタンパクを作用させ解析を行う。
また、SPR法は、センサーチップ上に目的タンパクを固定化し、それと相互作用する物質をフローセル中に流すことにより、両者の相互作用を定量的に評価する方法である。本発明をこのSPR法に応用する場合、センサーチップ上にBPLを共有結合で固定化し、その後、BCCPタグを有する目的タンパクを、BPLを介してセンサーチップ上に固定化する。その後、分析対象の物質との相互作用を解析する。
本発明においては、ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)とからなる複合体を加温して、ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)を解離させることができる。そして 解離した融合タンパク(B)として目的タンパクを分離・検出することができる。
加温の温度は50℃以上、好ましく60℃以上である。
また、同じ反応は、ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)と目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)とからなる複合体を加温することによっても起こる。そして、この場合には、ビオチン固定化酵素(A)から、融合タンパク(B)と目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を解離させ、得られた融合タンパク(B)に含まれる目的タンパクと、目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を分離・検出することができる。
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例では、本発明の基本となっている、ビオチン化酵素BPLとその基質であるBCCP間の結合を、図1に示すように表面プラズモン共鳴(SPR)法により定量的に評価した。その後、実際の応用例として、目的タンパクとしてグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を選択し、GSTとBCCPの融合タンパクを構築し、その融合タンパクが、固相担体上のBPLと迅速に反応し、BPLと結合することを同じくSPR法により確認した。また、温度上昇に伴いBPL−BCCP間の結合が解離することを、酵素活性を測定することにより確認した。以下にこれらを具体的に説明する。
[実施例1]センサーチップ上へのBPLの固定化
SPR法によりBPL−BCCP間の結合を評価するにあたり、センサーチップ上へBPLの固定化を行った。なお、センサーチップはビアコア社製のSenosor Chip CM5を使用し、また、SPR測定は同じくビアコア社製のBiacore Jを使用して行った。固定化はビアコア社製のプロトコールに従い、アミンカップリング法にて行った。具体的には、まずNHS/EDC混合液を利用し、センサーチップ表面のカルボキシル基を活性化した。その後、10mM
酢酸緩衝液(pH 4.5)で、20μg/mlに希釈したBPL溶液を添加し、センサーチップ表面にBPLを固定化した。最後に、エタノールアミン溶液を添加し、残存している活性サイト修飾した。
[実施例2]センサーチップ上に固定化されたBPLとApo型及びHolo型BCCPの相互作用の測定
センサーチップ上に固定化されたBPLに対して、BCCPを作用させ、両者の相互作用を評価した。この際、ビオチンが付加される前のApo型のBCCPと、ビオチンが付加されたHolo型のBCCPに関してそれぞれ評価を行った。具体的には、図1に示すようにフローセルにBCCPを添加し、BPLとの結合に伴う物理量変化(反射光におけるエネルギー消失の見られる反射角度)をモニターすることにより、結合能を評価した。なお、この際ランニング緩衝液としては、HBS buffer(10mM HEPES (pH 7.4),0.15M NaCl)を使用した。
実際に0.2、0.5、1、2μMのApoBCCP及びHoloBCCPを添加した際に得られた、センサーグラムをそれぞれ図2の(A)と(B)に示した。これより、ビオチンが付加されたHolo-BCCPに関しては、試料添加に伴いレスポンスが大きく増大し、また、試料添加終了後もレスポンスが低下せずに、そのままの強度を維持していることがわかる。このことは、Holo-BCCPはBPLに一旦結合すると、殆ど解離が起こらないことを意味している。これらのセンサーグラムを解析し、解離定数を算出すると、ApoBCCP、Holo BCCPに対して、それぞれ7μM、4nM程度の値が得られた。HoloBCCPに対して算出されたこのナノモーラーオーダーの解離定数は、BPLとの極めて高い結合親和性を表している。
ここでこの解析結果から、BPLは、HoloBCCPだけでなく、ApoBCCPに対しても中程度の結合親和性を有していることがわかる。このことはBPLとHoloBCCP間の極めて高い結合親和性が、BPLとBCCP部位、並びにBPLとビオチン部位との、協同的な結合に基づいていることを意味している。このことは、上述のようにビオチン−アビジン結合を利用したプロテインタグシステムとは、一線を画する点である。アビジンはビオチンのみを認識して結合するため、このアビジンを利用したタグシステムでは、細胞内に元々存在するビオチン化タンパクも全て結合してしまう。その結果として、細胞溶液から目的のビオチンタグを有するタンパクを回収する場合には、必ず余分なタンパクも含んでいることになる。その点本発明のタグシステムでは、BPLのBCCP及びビオチンとの協同的な結合を利用しているため、極めて特異性が高く、原理的に目的タンパクのみを回収できるものと考えられる。
[実施例3]センサーチップ上でのビオチン化反応の確認
実際の応用では、固相担体上に固定化されたBPLによって迅速にApoBCCPに対してビオチンの付加反応が起こる必要がある。この点を確認するために、0.1mM
ビオチン、1mM ATP、5mM MgClを含むHBS bufferをランニング緩衝液として使用し、BPL固定化センサーチップに対して、ApoBCCPを添加し、固相担体上でのビオチン化反応について検討した。実際に0.2、0.5、1、2μMのApoBCCPを添加し、ビオチン化反応を行った際に得られたセンサーグラムを図3に示した。これより得られたセンサーグラムは、HoloBCCPを添加した場合(図2の(B))と同様なものとなり、センサーチップ上でも迅速にビオチンの付加反応が起こり、Holo BCCPが生成していることが確認できた。
[実施例4]センサーチップ上でのBPLとGST−BCCP融合タンパクの結合
実際の応用例として、目的タンパクとしてグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を利用し、GSTとBCCPの融合タンパクを調製し、そのBPLとの結合を確認した。GST−BCCP融合タンパクを調製するにあたり、まず大腸菌系での発現プラスミドを構築した。発現プラスミドとしては、GEヘルスケアバイオサイエンス社製のGST発現プラスミド(pGEX-4T-1)を使用し、GSTをコードする遺伝子のC末端側に、BCCPをコードする遺伝子を導入し、GST−BCCP発現プラスミドを構築した。構築した発現プラスミドで、大腸菌を形質転換し培養を行った。その後菌破砕を行い、グルタチオンカラム処理を行うことにより、GST融合タンパクを精製した。なお、BCCPをGSTとの融合タンパクとして構築するに際しては、BCCPのC末側67残基のドメインだけを用い、GSTとの融合タンパクを得た。
精製したGST融合タンパクに関して、実施例3と同様に、センサーチップ上に固定化したBPLによるビオチン化反応を検討した。その結果、この融合タンパクに関しても、センサーチップ上で迅速にビオチンの付加が起こり、BPLに対する結合が起こることが確認できた。図4に、1μMと2μMのGST融合タンパクを添加し、ビオチン化反応を行った際のセンサーグラムを示した。この図4より、GST−BCCPの添加を終了しても、レスポンスは殆ど低下せずに、GST−BCCPはBPLに結合したままであることがわかる。
[実施例5]BPL−BCCP間の結合の温度依存性
BPL−BCCP間の結合が、温度上昇に伴い解離することを、酵素反応活性を測定することにより確認した。具体的には、様々な温度条件で反応生成物量の経時変化を追跡した。その結果を図5に示した。図5より、低温では、使用した酵素量分だけ反応生成物が生じた後、それ以降は殆ど生成物量は増大しないが、反応温度の上昇に伴い、時間と共に反応生成物量が増大していくのがわかる。このことは、低温では、BPLと生成物であるHolo BCCPが安定な複合体を形成するため、1サイクル目で反応が停止するが、反応温度を上昇させると、複合体が解離し、反応がターンオーバーするようになることを示している。つまり、BPLとHoloBCCP間の結合が、温度上昇により解離することを意味している。
本発明は、タンパク等の分離、精製、同定、検出、並びにタンパク間相互作用の解析などの分野で、広く利用することができる。
ビオチン化酵素BPLとその基質であるBCCP間の結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)法により測定するときの説明図である。 ApoBCCP及びHoloBCCPを添加した際に得られた、センサーグラムを示す図である。 ApoBCCPのセンサーチップ上でのビオチン化反応で得られた、センサーグラムを示す図である。 GST−BCCP融合タンパクのセンサーチップ上でのビオチン化反応で得られた、センサーグラムを示す図である。 BPL−BCCP間の結合が、温度上昇に伴い解離する様子を示す図である。

Claims (5)

  1. スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のビオチン固定化酵素(A)と、該ビオチン固定化酵素の触媒作用によってビオチン化された、スルホロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)由来のビオチン担持タンパクと目的タンパク質との融合タンパク(B)とから複合体を形成させ、又は、前記ビオチン固定化酵素(A)と、前記融合タンパク(B)と、目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)とから複合体を形成させ、該複合体として、前記目的タンパク、又は、前記目的タンパクと前記目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を分離・検出することを特徴とするタンパク等の分離・検出方法。
  2. ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)とからなる複合体を加温して、ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)を解離させ、該融合タンパク(B)として目的タンパクを分離・検出することを特徴とする請求項1項記載のタンパク等の分離・検出方法。
  3. ビオチン固定化酵素(A)と融合タンパク(B)と目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)とからなる複合体を加温して、ビオチン固定化酵素(A)から、融合タンパク(B)と目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を解離させ、該融合タンパク(B)に含まれる目的タンパクと、目的タンパクと結合親和性を有する物質(C)を分離・検出することを特徴とする請求項1項記載のタンパク等の分離・検出方法。
  4. 目的タンパク質が、ビオチン担持タンパクの活性領域と融合した融合タンパクを形成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のタンパク等の分離・検出方法。
  5. ビオチン固定化酵素(A)として、固相担体に固定化されたものを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のタンパク等の分離・検出方法。


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