JP5054720B2 - 陶磁器タイル面の改修方法 - Google Patents

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Description

本発明は、建築物等の外装仕上げに用いられている陶磁器タイル面の改修方法に係るものである。
磁器質タイル、せっ器質タイル、半磁器質タイル、陶器質タイル等の陶磁器タイルによる仕上げは、一般に、耐久性や意匠性が良好であることから、建築物等の躯体の保護、あるいは美観性の向上のために好んで使用されている。
しかしながら、建築物等の外装用として施工された陶磁器タイル面の場合は、太陽光や風雨等の影響を受ける環境下で長期間曝露されることとなる。その結果、タイル自体の劣化はさほど進行していなくても、目地部分においては中性化や強度低下等に挙げられるような劣化が進行しやすい。
陶磁器タイル面を改修する方法としては、特開平6−33565号公報(特許文献1)に、複数のクリヤー塗料を積層する方法が提案されている。該公報に記載の発明においては、クリヤー塗料を使用することで、既存陶磁器タイル面の意匠性を変更することなく、吸水防止性を付与することができる。しかし、このような方法で得られた陶磁器タイル面は、塗装直後の仕上り性は良好であっても、経時的に汚染が進行し美観性が損われるおそれがある。
これに対し、特開平9−287265号公報(特許文献2)には、陶磁器タイル面の目地部のみを塗装する方法が記載されている。この公報に記載の方法は、タイルの目地部とその周辺部にマスキング用水溶性樹脂を塗布し、目地部に当該水溶性樹脂を滲み込ませた後、目地部を中心に汚れ防止塗料を塗付し、次いでタイル表面にはみ出した塗料を水溶性樹脂の塗膜とともに除去する、というものである。この方法によれば、タイル部は未塗装とし、目地部のみに塗装を施すことができる。しかし、この特許文献2の方法では、タイル部の塗膜を除去する工程が必須であり、作業が煩雑となることは否めない。
特開平6−33565号公報 特開平9−287265号公報
本発明はこのような問題点に鑑みなされたもので、陶磁器タイル面に対し、既存タイル面の特性を生かしつつ、優れた吸水防止性、耐汚染性等を発揮させることが可能な簡便な改修方法を提供することを目的とするものである。
このような課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討の結果、陶磁器タイル面全面に対して特定表面処理材を塗付する方法に想到し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の陶磁器タイル面の改修方法は、以下の特徴を有するものである。
1.タイル部及び目地部からなる陶磁器タイル面を表面処理液の塗装によって改修する方法であって、前記表面処理液が、アルコキシシラン化合物を0.1〜50重量%、溶剤を50〜99.9重量%含有し、前記アルコキシシラン化合物は、アルキル基の炭素数が3〜12であり、縮合度が2以下であるアルキルアルコキシシラン化合物を90重量%以上含むものであり、前記溶剤は、脂肪族炭化水素を90重量%以上含むものであり、前記表面処理液を陶磁器タイル面全面に塗付する前に、前記陶磁器タイル面を洗浄処理することを特徴とする陶磁器タイル面の改修方法。
2.前記脂肪族炭化水素が、炭素数4以上の脂肪族飽和炭化水素であることを特徴とする1.記載の陶磁器タイル面の改修方法。
3.前記洗浄処理が、洗浄剤を用いたものであり、前記洗浄剤が、無機酸、有機酸、及び、フッ素化合物から選択される1種以上を含有する水溶液であることを特徴とする1.または2.記載の陶磁器タイル面の改修方法。
本発明では、既存タイルの表面状態や外観、質感等をそのまま生かすとともに、目地部の吸水防止性等を高め、目地部の中性化、強度低下、エフロレッセンス発生等を防止することができ、ひいては陶磁器タイル面全体の劣化防止を図ることができる。さらに、本発明では、耐汚染性の点においても有利な効果を得ることができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明は、建築物外装等の陶磁器タイル面に対して適用するものである。
陶磁器タイルの種類としては、例えば磁器質タイル、せっ器質タイル、半磁器質タイル、陶器質タイル等が挙げられる。このような陶磁器タイル面は、基材に対して下地モルタルで下地を作り、張りモルタルで陶磁器タイルを張り、目地モルタルで目地を詰めることにより形成されたものが一般的である。したがって、通常、陶磁器タイル間の目地部は、モルタルが露出した状態となっている。
本発明では、タイル部及び目地部を含む陶磁器タイル面全面に表面処理剤を塗付する。本発明における表面処理剤は、アルコキシシラン化合物と溶剤を含有するものである。
このうち、アルコキシシラン化合物としては、アルキル基の炭素数が3〜12であり、縮合度が1であるアルキルアルコキシシラン化合物(以下単に「アルキルアルコキシシラン化合物」という)を必須成分として用いる。このアルキルアルコキシシラン化合物は、目地部に深く浸透して撥水性被膜を形成し、目地部に吸水防止性を付与するとともに、タイル部においては適度な親水化作用を発揮して耐汚染性を高め、陶磁器タイル面の美観性保持に大きく寄与するものである。さらに、目地部における中性化、強度低下、エフロレッセンス発生等の抑制にも有効にはたらくものである。
このようなアルキルアルコキシシラン化合物は、珪素原子にアルキル基とアルコキシル基が結合した化合物であり、例えば下記式(1)で示される化合物及び/またはその縮合物を使用することができる。
−Si(OR (1)
(式中R、Rはアルキル基を示す。Rの炭素数は3〜12。)
具体的に、上記式(1)で示される化合物としては、例えば、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの縮合物としては、本発明では特に、縮合度1の単量体が好適である。
アルキルアルコキシシラン化合物としては、アルキル基の炭素数が3〜12(好ましくは5〜8)のものを使用する。アルキル基は、その一部がハロゲン等で置換されたものであってもよい。アルキル基の炭素数がこのような範囲内であれば、目地部の吸水防止性と、タイル部の耐汚染性において優れた性能を両立することが可能となる。アルキル基の炭素数が3未満の場合は、目地部での吸水防止性が不十分となり、逆に12を超える場合は、タイル部における仕上り性、耐汚染性等に悪影響を与えるおそれがある。
アルキルアルコキシシラン化合物におけるアルコキシル基としては、その炭素数が1〜8(好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2)のものが挙げられ、とりわけ炭素数1のメトキシ基が好適である。アルコキシル基の炭素数がこのようなものであれば、吸水防止性等の性能において有利な効果を得ることができる。
アルコキシシラン化合物中におけるアルキルアルコキシシラン化合物の比率は、通常90重量%以上(好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上)とする。アルコキシシラン化合物が、実質的にアルキルアルコキシシラン化合物のみで構成される形態も好適である。上記アルキルアルコキシシラン化合物以外のアルコキシシラン化合物としては、例えばアルキル基の炭素数、縮合度等が上記規定外の化合物が挙げられるが、本発明では、このような成分の比率を抑えることでアルキルアルコキシシラン化合物の作用を十分に発揮させることができる。アルコキシシラン化合物中におけるアルキルアルコキシシラン化合物の比率が低すぎる場合は、タイル部での仕上り性、耐汚染性等において十分な性能が得られ難くなる。
表面処理液におけるアルコキシシラン化合物の含有比率は、通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%である。この含有比率が低すぎる場合は、目地部の吸水防止性が不十分となりやすく、逆に高すぎる場合は、タイル部の仕上り性、耐汚染性等に悪影響を与えるおそれがある。
本発明の表面処理液では、上記アルキルアルコキシシラン化合物を溶解させる溶剤として、脂肪族炭化水素を90重量%以上含む溶剤を用いる。本発明では、上記アルキルアルコキシシラン化合物と、このような溶剤を組み合わせて用いることで、タイル部の外観、質感等を維持することが可能となり、良好な仕上り性を得ることができる。既存タイル部が光沢を有するものである場合は、その光沢性を損なわずに仕上げることもできる。さらに、タイル部への汚染物質付着による経時的な美観性低下を抑え、良好な仕上り外観を長期にわたり保持することができる。
脂肪族炭化水素としては、脂肪族飽和炭化水素が好ましく、特に炭素数4以上(さらに好ましくは5以上)の脂肪族飽和炭化水素が好適である。このような脂肪族炭化水素としては、例えば、ブタン(C10)、ペンタン(C12)、ヘキサン(C14)、ヘプタン(C16)、オクタン(C18)、ノナン(C20)、デカン(C1022)、ウンデカン(C1124)、ドデカン(C1226)、トリデカン(C1328)、テトラデカン(C1430)、ペンタデカン(C1532)、ヘキサデカン(C1634)、ヘプタデカン(C1736)、オクタデカン(C1838)、ノナデカン(C1940)、エイコサン(C2042)等の直鎖状脂肪族飽和炭化水素、イソペンタン(C12)、2−メチルペンタン(C14)、3−メチルペンタン(C14)、2,2−ジメチルブタン(C14)、2,3−ジメチルブタン(C14)、2−メチルへキサン(C16)、3−メチルへキサン(C16)、3−エチルペンタン(C16)、2,2−ジメチルペンタン(C16)、2,3−ジメチルペンタン(C16)、2,4−ジメチルペンタン(C16)、3,3−ジメチルペンタン(C16)、2,2,3−トリメチルブタン(C16)、2−メチルヘプタン(C18)、3−メチルヘプタン(C18)、2,2−ジメチルヘキサン(C18)、2,3−ジメチルヘキサン(C18)、2,5−ジメチルへキサン(C18)、3,4−ジメチルへキサン(C18)、2,2,3−トリメチルペンタン(C18)、2,2,4−トリメチルペンタン(C18)、2,3,3−トリメチルペンタン(C18)、2,3,4−トリメチルペンタン(C18)、2−メチルオクタン(C20)、2−メチルノナン(C1022)等の分枝状脂肪族飽和炭化水素が挙げられる。これらの脂肪族炭化水素は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
脂肪族炭化水素の比率は、全溶剤中90重量%以上であることが必要であるが、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上である。本発明では、実質的に脂肪族炭化水素のみで構成される溶剤も好適である。脂肪族炭化水素の比率が低すぎる場合は、表面処理液の塗付時ないし乾燥時に、タイル部上において表面処理液が不均一化し、仕上り性に悪影響を与えてしまう。また、汚染物質付着によって美観性が低下しやすく、耐汚染性において十分な性能が得られ難くなる。
表面処理液における溶剤の含有比率は、通常50〜99.9重量%、好ましくは70〜99重量%、より好ましくは80〜98重量%である。溶剤の含有比率が低すぎる場合は、タイル部の仕上り性、耐汚染性等に悪影響を与えるおそれがあり、逆に高すぎる場合は、目地部の吸水防止性が不十分となりやすい。
表面処理液は、上記成分を常法により均一に混合することで製造することができる。また、表面処理液には、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内において、例えば着色剤、増粘剤、湿潤剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒等を混合することもできる。なお、本発明では、実用的な耐汚染効果が得られるため、表面処理液に光触媒等を混合する必要はない。
本発明では、上記表面処理液を陶磁器タイル面の全面に均一に塗装する。塗装器具は特に限定されず、刷毛、スプレー、ローラー等公知の塗装器具を使用することができる。表面処理液を塗装する際の所要量は、陶磁器タイルの種類・状態等を勘案して適宜設定すればよいが、通常30〜500g/m(好ましくは80〜200g/m)程度、固形分換算では通常1〜250g/m(好ましくは2〜100g/m)程度である。
表面処理液の塗装においては、所要量を上記範囲内として、複数回に分けて塗装を行うこともできる。この場合、塗装間隔は比較的短く設定することが好ましく、通常は8時間以内(好ましくは4時間以内、より好ましくは2時間以内)とすればよい。
表面処理液の塗付、乾燥は、通常常温で行えばよい。本発明では、表面処理液の塗装後、そのまま乾燥するだけでよく、タイル部上の表面処理液を除去する等の工程は不要である。
なお、本発明では、表面処理液の塗付前に、目地部あるいはタイル面全体に対し洗浄等の処理を行う。洗浄処理としては、タイル面の全体または一部に対し各種洗浄剤を塗付した後、水洗いする方法等を採用することができる。水洗いの際には、スポンジ等でタイル面を擦りながら処理を行えばよい。洗浄処理を行ったタイル面が乾燥した後、表面処理液を塗付することができる。
具体的に洗浄剤としては、無機酸、有機酸、フッ素化合物等から選ばれる1種以上を有効成分として含む水溶液が好適である。このうち無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、弗酸、リン酸、ホウ酸、亜リン酸、スルファミン酸、次亜リン酸等が挙げられる。また、有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、オレイン酸、リノール酸等の一塩基性のカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グルタル酸、アジピン酸等の二塩基性のカルボン酸、乳酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸等のオキシカルボン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノカルボン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸等のホスホン酸等が挙げられる。またフッ素化合物としては、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、珪フッ化アンモニム、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化トリエチルメチルアンモニウム、フッ化トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、フッ化テトラエタノールアンモニウム、フッ化メチルトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用することもできる。また、洗浄剤においては、その他界面活性剤等の成分を適宜混合することもできる。
本発明における洗浄剤としては、特にフッ素化合物を含む水溶液が好適である。また、フッ素化合物並びに無機酸及び/または有機酸を含む水溶液も好適である。洗浄剤中のフッ素化合物の濃度は通常0.001〜3重量%(好ましくは0.005〜1重量%)である。無機酸の濃度は通常0〜30重量%(好ましくは1〜20重量%)、有機酸の濃度は通常0〜30重量%(好ましくは1〜20重量%)である。各成分の濃度がこのような範囲内であれば、タイル面の汚染除去性に優れるとともに、目地部の吸水防止性、タイル部の仕上り性等の点においても好適である。
本発明では、このような洗浄剤を用いて洗浄処理を行った後に、表面処理液を塗付することにより、目地部における吸水防止性等の効果をいっそう高めることができる。また、タイル部では、表面処理液塗付時ないし乾燥時における表面処理液の不均一化を確実に防止し、仕上り性を高める効果等を得ることもできる。
本発明では、上述の表面処理液(以下便宜上「第1の表面処理液」ともいう)の塗装後、第2の表面処理液として、テトラアルコキシシラン化合物を0.1〜50重量%含有する表面処理液を、陶磁器タイル面全面に塗付することができる。このような表面処理液の塗装により、本発明の効果をいっそう高めることができる。
第2の表面処理液を構成する成分のうち、テトラアルコキシシラン化合物としては、下記式(2)で示されるテトラアルコキシシラン及び/またはその縮合物、あるいはそのアルキル基の一部をポリオキシアルキレン基等で変性したもの等を使用することができる。
Si(OR (2)
(式中Rはアルキル基を示す。)
このようなテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン等が挙げられ、炭素数の異なるアルキル基が混在するものも使用できる。これらの縮合物としては、通常、平均縮合度1〜20(好ましくは2〜10)程度のものが使用できる。
テトラアルコキシシラン化合物におけるアルコキシル基としては、その炭素数が1〜8(好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2)のものが好適である。また、第2の表面処理液におけるテトラアルコキシシラン化合物の含有比率は、通常0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%である。このようなテトラアルコキシシランの使用により、優れた効果を安定的に得ることが可能となる。
第2の表面処理液は、上記テトラアルコキシシラン化合物が媒体に溶解ないし分散した溶液であり、乳化剤等によって分散されたものであってもよい。表面処理液における媒体としては、例えば、芳香族炭化水素系溶剤を主成分とする強溶剤系、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする弱溶剤系、水を主成分とする水性系等の各種形態が使用可能である。第2の表面処理液における媒体の含有比率は、通常50〜99.9重量%、好ましくは80〜99.5重量%、より好ましくは90〜99重量%である。
第2の表面処理液における媒体としては、脂肪族炭化水素を90重量%以上(好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上)含む溶剤が好適である。実質的に脂肪族炭化水素のみで構成される溶剤も好適である。脂肪族炭化水素としては、脂肪族飽和炭化水素が好ましく、特に炭素数4以上(さらに好ましくは5以上)の脂肪族飽和炭化水素が好適である。このような脂肪族炭化水素としては、第1の表面処理液で例示したものと同様のものが使用できる。このような脂肪族炭化水素を用いることにより、仕上り性、耐汚染性等において安定した効果が得られる。
第2の表面処理液では、テトラアルコキシシラン化合物以外のアルコキシシラン化合物を含むこともできる。但し、第2の表面処理液中の全アルコキシシラン化合物のうち、少なくとも30重量%以上が上記テトラアルコキシシラン化合物となるように調製することが望ましい。
また、第2の表面処理液は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内において、例えば樹脂成分、着色剤、増粘剤、湿潤剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒等を含むものであってもよい。
第2の表面処理液は、これらの成分を常法により均一に混合することで製造することができる。なお、第2の表面処理液では、テトラアルコキシシラン化合物の作用を十分に発揮させるため、樹脂成分はあまり多く混合しないことが望ましく、テトラアルコキシシラン化合物よりも低い含有比率とすることが望ましい。樹脂成分の含有比率は、通常20重量%未満(好ましくは10重量%以下)であり、樹脂成分を含まない形態も好適である。また、第2の表面処理液には光触媒等を混合する必要もない。
第2の表面処理液は、陶磁器タイル面の全面に均一に塗装する。第2の表面処理液の塗装は、第1の表面処理液の塗装後、通常1時間以上10日以内、好ましくは3時間以上7日以内に行えばよい。塗装器具は特に限定されず、刷毛、スプレー、ローラー等公知の塗装器具を使用することができる。第2の表面処理液を塗装する際の所要量は、陶磁器タイルの種類・状態等を勘案して適宜設定すればよいが、通常10〜300g/m(好ましくは30〜150g/m)程度、固形分換算では通常0.1〜150g/m(好ましくは0.3〜75g/m)程度である。第2の表面処理液の塗付、乾燥は、通常常温で行えばよい。
以上のように、本発明では、特定の表面処理液を用いることにより、陶磁器タイル面の目地部では撥水性、タイル部では親水性を示す仕上りを得ることができ、吸水防止性、耐汚染性等において優れた効果を発揮することができる。その作用機構は明らかではないが、目地部とタイル部では性状が全く異なるため、それぞれの部位におけるアルコキシシラン化合物の浸透度、反応性、配向性等も異なるものとなり、それ故上述の如き効果が奏されるものと推察される。
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
(表面処理液の製造)
下記原料を表1に示す重量比率で混合することにより、表面処理液1〜9を製造した。
・アルコキシシラン化合物1:ヘキシルトリメトキシシラン(縮合度1)
・アルコキシシラン化合物2:ヘキシルトリエトキシシラン(縮合度1)
・アルコキシシラン化合物3:ブチルトリメトキシシラン(縮合度1)
・アルコキシシラン化合物4:ヘキシルトリメトキシシラン(縮合度3)
・アルコキシシラン化合物5:ヘキシルトリメトキシシラン(縮合度6)
・溶剤1:炭素数9以上の脂肪族飽和炭化水素の混合物
・溶剤2:脂肪族炭化水素系溶剤(芳香族炭化水素30重量%含有)
・溶剤3:芳香族炭化水素系溶剤(芳香族炭化水素100重量%)
[I.試験1]
(実施例1)
目地部がセメントモルタル、タイル部が黄土色の磁器質タイルからなる試験基材に対し、表面処理液1を所要量80g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態(気温23℃・相対湿度50%)にて1時間乾燥させ、次いで同じ表面処理液1を所要量80g/mで再度全面にスプレー塗装した。その後、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき以下の試験を行った。結果を表2に示す。実施例1では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
・仕上り性
塗装後のタイル部における外観状態を観察した。評価は、乾燥過程で異常がなく、乾燥後の質感、光沢に変化がないものを「A」とする3段階(A>B>C)で行った。
・吸水防止性
試験板を垂直に固定し、その試験板に対しホースを用いて1分間連続的に散水を行った。この際、目地部における撥水具合と色変化を観察した。評価は、撥水性が高く、色変化が生じなかったものを「A」とする5段階(A>A’>B>B’>C)で行った。
・耐汚染性
屋外にて試験板を垂直に設置し、1ヶ月間屋外曝露を行った後、試験板の外観状態を観察した。評価は、汚染が認められないものを「A」とする3段階(A>B>C)で行った。
・接触角
上記耐汚染性試験の評価を行った後の試験板につき、そのタイル部の接触角を測定した。測定機器としては、静的接触角測定器CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、5箇所の平均値にて算出した。評価は、水に対する接触角が50度未満のものを「A」、50度以上70度未満のものを「B」、70度以上のものを「C」とする3段階で行った。
(実施例2)
表面処理液1に替えて表面処理液2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。実施例2では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
(実施例3)
表面処理液1に替えて表面処理液3を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。実施例3では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
(実施例4)
表面処理液1に替えて表面処理液4を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。実施例4では、概ね良好な結果を得ることができた。
(実施例5)
表面処理液1に替えて表面処理液5を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。実施例5では、概ね良好な結果を得ることができた。
(比較例1)
表面処理液1に替えて表面処理液6を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。比較例1では、塗装過程において表面処理液にはじきが生じてしまい、また耐汚染性試験では斑状の汚染が認められた。接触角測定では、測定箇所によるばらつきが大であった。
(比較例2)
表面処理液1に替えて表面処理液7を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。比較例2では、塗装過程において表面処理液にはじきが生じてしまい、また耐汚染性試験では斑状の汚染が認められた。接触角測定では、測定箇所によるばらつきが大であった。
(比較例3)
表面処理液1に替えて表面処理液8を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。比較例3では、タイル部の艶が低下してしまった。
(比較例4)
表面処理液1に替えて表面処理液9を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。比較例4では、タイル部の艶が低下してしまい、タイル部の耐汚染性、親水性も不十分であった。
(比較例5)
試験基材自体(無塗装)につき、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示す。比較例5では、吸水防止性に劣る結果となった。
[II.試験2]
(実施例6)
屋外曝露により汚れ等が生じた試験基材(目地部がセメントモルタル、タイル部が黄土色の磁器質タイルからなる)の全面に対し、フッ化アンモニウム0.6重量%水溶液を塗付し、約30秒放置後、スポンジで擦りながら水洗いした。標準状態で24時間乾燥後、表面処理液1を所要量80g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて1時間乾燥させ、次いで同じ表面処理液1を所要量80g/mで再度全面にスプレー塗装した。その後、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表3に示す。実施例6では、いずれの試験においても良好な結果が得られ、汚れたタイル面の美観性を回復させ、その美観性を維持することも可能となった。
(実施例7)
実施例6と同様の試験基材全面に対し、フッ化アンモニウム0.5重量%、リン酸3重量%、乳酸10重量%の混合水溶液を塗付し、約30秒放置後、スポンジで擦りながら水洗いした。標準状態で24時間乾燥後、表面処理液1を所要量80g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて1時間乾燥させ、次いで同じ表面処理液1を所要量80g/mで再度全面にスプレー塗装した。その後、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表3に示す。実施例7では、いずれの試験においても良好な結果が得られ、汚れたタイル面の美観性を回復させ、その美観性を維持することも可能となった。
(実施例8)
実施例6と同様の試験基材全面に対し、リン酸3重量%、乳酸10重量%の混合水溶液を塗付し、約30秒放置後、スポンジで擦りながら水洗いした。標準状態で24時間乾燥後、表面処理液1を所要量80g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて1時間乾燥させ、次いで同じ表面処理液1を所要量80g/mで再度全面にスプレー塗装した。その後、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表3に示す。実施例8では、概ね良好な結果を得ることができたが、吸水防止性については実施例6〜7のほうが良好であった。
(実施例9)
実施例1と同様の試験基材全面に対し、フッ化アンモニウム0.6重量%水溶液を塗付し、約30秒放置後、スポンジで擦りながら水洗いした。標準状態で24時間乾燥後、表面処理液4を所要量80g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて1時間乾燥させ、次いで同じ表面処理液4を所要量80g/mで再度全面にスプレー塗装した。その後、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表3に示す。実施例9では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。吸水防止性については実施例4よりも良好であった。
[III.試験3]
(実施例10)
実施例1と同様の試験基材に対し、表面処理液1を所要量120g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて3時間乾燥させた。次いで、表面処理液10(テトラメトキシシラン縮合物(平均縮合度4)と溶剤1との混合物、重量比率2:98)を所要量50g/mで全面にスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表4に示す。実施例10では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
(実施例11)
実施例1と同様の試験基材に対し、表面処理液1を所要量120g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて3時間乾燥させた。次いで、表面処理液11(テトラメトキシシラン縮合物(平均縮合度8)と溶剤1との混合物、重量比率2:98)を所要量50g/mで全面にスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表4に示す。実施例11では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
(実施例12)
実施例1と同様の試験基材に対し、表面処理液1を所要量120g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて3時間乾燥させた。次いで、表面処理液12(テトラメトキシシラン縮合物(平均縮合度4)と溶剤1との混合物、重量比率4:96)を所要量50g/mで全面にスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表4に示す。実施例12では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
(実施例13)
実施例1と同様の試験基材に対し、表面処理液4を所要量120g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて3時間乾燥させた。次いで、表面処理液10を所要量50g/mで全面にスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表4に示す。実施例13では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
(実施例14)
実施例1と同様の試験基材に対し、表面処理液5を所要量120g/mで全面にスプレー塗装した後、標準状態にて3時間乾燥させた。次いで、表面処理液10を所要量50g/mで全面にスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥させた。以上の方法で得られた試験板につき実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表4に示す。実施例14では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
[IV.試験4]
表5に示す重量比率で各原料を常法により混合して、表面処理液13〜14を製造した。
(実施例15)
表面処理液1に替えて表面処理液13を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表6に示す。実施例15では、実施例1〜3に比べるとやや劣るものの、概ね良好な結果を得ることができた。
(比較例6)
表面処理液1に替えて表面処理液14を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表6に示す。比較例6では、乾燥後の質感、光沢が不均一な状態となった。接触角測定では、測定箇所によるばらつきが大であった。

Claims (3)

  1. タイル部及び目地部からなる陶磁器タイル面を表面処理液の塗装によって改修する方法であって、
    前記表面処理液が、アルコキシシラン化合物を0.1〜50重量%、溶剤を50〜99.9重量%含有し、
    前記アルコキシシラン化合物は、アルキル基の炭素数が3〜12であり、縮合度が2以下であるアルキルアルコキシシラン化合物を90重量%以上含むものであり、
    前記溶剤は、脂肪族炭化水素を90重量%以上含むものであり、
    前記表面処理液を陶磁器タイル面全面に塗付する前に、前記陶磁器タイル面を洗浄処理することを特徴とする陶磁器タイル面の改修方法。
  2. 前記脂肪族炭化水素が、炭素数4以上の脂肪族飽和炭化水素であることを特徴とする請求項1記載の陶磁器タイル面の改修方法。
  3. 前記洗浄処理が、洗浄剤を用いたものであり、
    前記洗浄剤が、無機酸、有機酸、及び、フッ素化合物から選択される1種以上を含有する水溶液であることを特徴とする請求項1又は2記載の陶磁器タイル面の改修方法。
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