以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明におけるソリッドコアは下記の各成分、
(A)シス−1,4−結合を60%以上含有し、希土類元素系触媒を用いて合成されたポリブタジエン60〜100重量%含むゴム基材、
(B)有機過酸化物、
(C)不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(D)有機硫黄化合物、
(E)無機充填剤
を含むゴム組成物から形成されるものである。
本発明における上記(A)シス−1,4−結合を60%以上含有し、希土類元素系触媒を用いて合成されたポリブタジエン60〜100重量%含むゴム基材において、上記ポリブタジエンに含まれるシス−1,4−結合の含量としては60%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。上記ポリブタジエンに含まれるシス−1,4−結合の含量が60%未満であると、好適な反発性が得られない。
本発明における上記ポリブタジエンは、希土類元素系触媒で合成されたものである。希土類元素系触媒としては、公知のものを使用することができるが、例えば、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルモキサン、ハロゲン含有化合物、更に、必要に応じルイス塩基の組み合わせよりなる触媒を挙げることができる。
上記ランタン系列希土類元素化合物としては、原子番号57〜71の金属ハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコラート、チオアルコラート、アミド等を挙げることができる。
上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、AlR1R2R3(ここで、R1、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素又は炭素数1〜8の炭化水素残基を表す)で示されるものを用いることができる。
上記アルモキサンは、下記式(I)又は下記式(II)で示される構造を有する化合物を好適に挙げることができる。この場合、ファインケミカル,23,(9),5(1994)、J.Am.Chem.Soc.,115,4971(1993)、J.Am.Chem.Soc.,117,6465(1995)で示されるアルモキサンの会合体でもよい。
(式中、R
4は、炭素数1〜20の炭素原子を含む炭化水素基、nは2以上の整数である。)
ハロゲン含有化合物としては、AlXnR3-n(ここで、Xはハロゲンを示し、Rは、炭素数が1〜20の炭化水素残基であり、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基であり、nは、1、1.5、2又は3を示す)で示されるアルミニウムハライド、Me3SrCl、Me2SrCl2、MeSrHCl2、MeSrCl3などのストロンチウムハライド、その他、四塩化ケイ素、四塩化スズ、四塩化チタンなどの金属ハライド等が用いられる。
ルイス塩基は、ランタン系列希土類元素化合物を錯化するのに用いることができ、例えば、アセチルアセトン、ケトンアルコールなどを挙げることができる。
本発明においては、特に、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジウム化合物を用いたネオジウム系触媒の使用が、1,4−シス結合が高含量、1,2−ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましく、これらの希土類元素系触媒の具体例は、特開平11−35633号公報に記載されているものを好適に挙げることができる。
また、ランタン系列希土類元素化合物を用いた希土類元素系触媒の存在下でブタジエンを重合させる場合、シス含量及びMw/Mnを上記範囲とするために、ブタジエン/ランタン系列希土類元素化合物は、モル比で1,000〜200万、特には5,000〜100万とすることが好ましく、また、AlR1R2R3/ランタン系列希土類元素化合物は、モル比で1〜1,000、特には3〜500とすることが好ましい。更に、ハロゲン化合物/ランタン系列希土類元素化合物は、モル比で0.1〜30、特に0.2〜15であることが好ましい。ルイス塩基/ランタン系列希土類元素化合物は、モル比で0〜30、特に1〜10とすることが好ましい。重合にあたっては、溶媒を使用しても、溶媒を使用せずにバルク重合或いは気相重合してもよい。重合温度は、通常、−30〜150℃、好ましくは10〜100℃である。
希土類元素系触媒の存在下でブタジエンを重合させる場合、溶媒を使用しても、溶媒を使用せずにバルク重合あるいは気相重合してもよく、重合温度は通常−30〜150℃、好ましくは10〜100℃とすることができる。
上記ポリブタジエンのムーニー粘度(ML1+4(100℃))としては、通常40以上、好ましくは50以上、更に好ましくは52以上、最も好ましくは54以上、上限として通常140以下、好ましくは120以下、更に好ましくは100以下、最も好ましくは80以下である。ムーニー粘度が上記範囲外であると、作業性が悪くなったり、反発性が低下する場合がある。
なお、本発明でいうムーニー粘度とは、いずれも回転可塑度計の1種であるムーニー粘度計で測定される工業的な粘度の指標(JIS−K6300)であり、単位記号としてML1+4(100℃)を用いる。また、Mはムーニー粘度、Lは大ロータ(L型)、1+4は予備加熱時間1分間、ロータの回転時間は4分間を示し、100℃の条件下にて測定したことを示す。
本発明における上記ポリブタジエンは、上記の希土類元素系触媒による重合に引き続き、ポリマーの活性末端に末端変性剤を反応させることにより得られるものであってもよい。
ここで、末端変性剤は、公知のものを使用でき、下記〈1〉〜〈7〉に記載した末端変性剤を使用することができる。
〈1〉まず、アルコキシシリル基を持つ化合物が挙げられる。アルコキシシリル基を持つ化合物としては、エポキシ基又はイソシアナート基を分子内に少なくとも1個有するアルコキシシラン化合物が好適に使用される。具体例としては、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、(3−グリシジルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−グリシジルオキシプロピル)メチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランの縮合物、(3−グリシジルオキシプロピル)メチルジメトキシシランの縮合物などのエポキシ基含有アルコキシシラン;3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、(3−イソシアナートプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−イソシアナートプロピル)メチルジエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシランの縮合物、(3−イソシアナートプロピル)メチルジメトキシシランの縮合物などのイソシアナート基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
また、上記アルコキシシリル基を持つ化合物を活性末端に反応させる際、反応を促進させるためにルイス酸を添加することもできる。ルイス酸が触媒としてカップリング反応を促進させ、変性ポリマーのコールドフローが改良され貯蔵安定性がよくなる。ルイス酸の具体例としては、ジアルキルスズジアルキルマレート、ジアルキルスズジカルボキシレート、アルミニウムトリアルコキシドなどが挙げられる。
〈2〉R
5 nM′X
4-n、M′X
4、M′X
3、R
5 nM′(−R
6−COOR
7)
4-n又はR
5 nM′(−R
6−COR
7)
4-n(式中、R
5及びR
6は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜20の炭素原子を含む炭化水素基、R
7は炭素数1〜20の炭素原子を含む炭化水素基であり、側鎖にカルボニル基又はエステル基を含んでいてもよく、M′はスズ原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子又はリン原子、Xはハロゲン原子、nは0〜3の整数を示す)に対応するハロゲン化有機金属化合物、ハロゲン化金属化合物又は有機金属化合物、
〈3〉分子中に、Y=C=Z結合(式中、Yは炭素原子、酸素原子、チッ素原子又はイオウ原子、Zは酸素原子、チッ素原子又はイオウ原子を示す)を含有するヘテロクムレン化合物、
〈4〉分子中に下記結合を含有するヘテロ3員環化合物、
(式中、Yは、酸素原子、チッ素原子又はイオウ原子を示す。)
〈5〉ハロゲン化イソシアノ化合物、
〈6〉R
8−(COOH)
m 、R
9(COX)
m 、R
10−(COO−R
11)
m 、R
12−OCOO−R
13、R
14−(COOCO−R
15)
m 、又は下記式で示されるカルボン酸、酸ハロゲン化物、エステル化合物、炭酸エステル化合物又は酸無水物、
(式中、R
8〜R
16は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜50の炭素原子を含む炭化水素基、Xはハロゲン原子、mは1〜5の整数を示す。)
〈7〉R
17 l M″(OCOR
18)
4-l 、R
19 lM″(OCO−R
20−COOR
21)
4-l、又は下記式で示されるカルボン酸の金属塩
(式中、R
17〜R
23は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜20の炭素原子を含む炭化水素基、M″はスズ原子、ケイ素原子又はゲルマニウム原子、lは0〜3の整数を示す。)等を挙げることができる。
以上に示される末端変性剤の具体例及び反応させる方法は、例えば、特開平11−35633号公報,特開平7−268132号公報,特開2002−293996号公報等に記載されているもの及び方法を挙げることができる。
なお、上述した触媒の中では、希土類元素系触媒、特にNd系触媒が好ましい。
本発明において、上記ポリブタジエンとしては、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、2.0以上、好ましくは2.2以上、更に好ましくは2.4以上、最も好ましくは2.6以上であり、上限としては8.0以下、好ましくは7.5以下、更に好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.4以下であることが好ましく、Mw/Mnが小さすぎると作業性が低下し、大きすぎると反発性が低下する場合がある。
本発明における上記(A)成分は、上記のようなポリブタジエンを主材としたゴム基材であるが、この主材のポリブタジエンの含量としては、ゴム基材中60重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは85重量%以上である。また、ゴム基材の100重量%が上記ポリブタジエンであってもよく、95重量%以下、場合によっては90重量%以下の含有量とし得る。ポリブタジエンの含量が60重量%未満であると、反発性が劣る。
なお、上記(A)成分に含まれるポリブタジエン以外の成分としては、上記ポリブタジエン以外のポリブタジエン、例えばVIII族金属化合物触媒を用いて得られたポリブタジエン、その他のジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等が挙げられる。
この場合、上記ポリブタジエン以外のゴム成分のうちでは、VIII族の触媒を用いて合成され、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が50未満、その25℃における5重量%トルエン溶液の粘度ηが200mPa・s以上、400mPa・s以下である第2のポリブタジエンを使用することが、高い反発性、良好な作業性を得ることができる点から好ましい。
上記VIII族触媒として、具体的には、下記のニッケル系触媒、コバルト系触媒を挙げることができる。
ここで、ニッケル系触媒としては、例えば、ニッケルケイソウ土のような1成分系、ラネーニッケル/四塩化チタンのような2成分系、ニッケル化合物/有機金属/三フッ化ホウ素エーテラートのような3成分系のもの等を挙げることができる。なお、ニッケル化合物としては、担体付還元ニッケル、ラネーニッケル、酸化ニッケル、カルボン酸ニッケル、有機ニッケル錯塩などが用いられる。また、有機金属としては、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、1,4−ジリチウムブタン等のアルキルリチウム、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等のジアルキル亜鉛等を挙げることができる。
また、コバルト系触媒としては、コバルト及びその化合物として、ラネーコバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、酸化コバルト、硫酸コバルト、炭酸コバルト、リン酸コバルト、フタル酸コバルト、コバルトカルボニル、コバルトアセチルアセトネート、コバルトジエチルジチオカルバメート、コバルトアニリニウムナイトライト、コバルトジニトロシルクロリド等を挙げることができ、特にこれらの化合物とジエチルアルミニウムモノクロリド、ジイソブチルアルミニウムモノクロリド等のジアルキルアルミニウムモノクロリド、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロリド等のアルミニウムアルキルセスキクロリド、塩化アルミニウム等との組み合わせを好適に挙げることができる。
上記VIII族系触媒、特にニッケル系触媒又はコバルト系触媒を用いて重合する場合は、通常、溶剤、ブタジエンモノマーと併せて連続的に反応機にチャージさせ、例えば、反応温度を5〜60℃、反応圧力を大気圧から70数気圧の範囲で適宜選択して、上記ムーニー粘度のものが得られるように操作する方法を挙げることができる。
上記第2のポリブタジエンのムーニー粘度は、50未満であり、好ましくは48以下、更に好ましくは45以下である。この場合、ムーニー粘度の下限としては、10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、最も好ましくは30以上であることが好ましい。
また、第2のポリブタジエンの25℃における5重量%トルエン溶液の粘度ηが200mPa・s以上、より好ましくは210mPa・s以上、更に好ましくは230mPa・s以上、特に好ましくは250mPa・s以上で、400mPa・s以下、より好ましくは370mPa・s以下、更に好ましくは340mPa・s以下、特に好ましくは300mPa・s以下であることが好ましい。
なお、本発明でいう25℃における5%トルエン溶液の粘度η(mPa・s)とは、測定対象のポリブタジエン2.28gをトルエン50mlに溶解した後、標準液として粘度計構成用標準液(JIS Z8809)を用いて、所定の粘度計により25℃の条件下で測定した値のことをいうものとする。
上記第2のポリブタジエンの配合量は、ゴム基材中、0%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上で、40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下とすることが好ましい。
次に、本発明における(B)有機過酸化物としては、2種以上が併用されることが好ましく、この場合、155℃における半減期が一番短い有機過酸化物を(a)、155℃における半減期が一番長い有機過酸化物を(b)とし、(a)の半減期をat、(b)の半減期をbtとした場合、半減期の比bt/atとしては7以上、好ましくは8以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは10以上で、20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。2種以上の有機過酸化物を用いても、上記範囲を逸脱した場合、反発性、コンプレッション、耐久性に劣ってしまう場合がある。
この場合、上記(a)の155℃における半減期atとしては、5秒以上、より好ましくは10秒以上、更に好ましくは15秒以上で、120秒以下、より好ましくは90秒以下、更に好ましくは60秒以下であることが好ましく、上記(b)の155℃における半減期btとしては、300秒以上、より好ましくは360秒以上、更に好ましくは420秒以上で、800秒以下、より好ましくは700秒以下、更に好ましくは600秒以下であることが好ましい。
上記有機過酸化物として具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。これら有機過酸化物は市販品を用いることができ、例えば、パークミルD(日本油脂社製)、パーヘキサ3M(日本油脂社製)、Luperco 231XL(アトケム社製)等が挙げられる。この場合、上記(a)成分の有機過酸化物としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンが好ましく、(b)成分の有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイドが好ましい。
また、上記(a),(b)成分を含む有機過酸化物の総配合量は、上記(A)成分100重量部(以下、重量部を「部」と略記する事がある)に対して0.1部以上、好ましくは0.2部以上、より好ましくは0.3部以上、更に好ましくは0.4部以上であり、上限として0.8部以下、好ましくは0.7部以下、より好ましくは0.6部以下、更に好ましくは0.5部以下である。配合量が少なすぎると、架橋に要する時間が長くなり、生産性の低下が大きく、コンプレッションも大きく低下してしまう。配合量が多すぎると、反発性、耐久性が低下してしまう。
本発明においては、コアに希土類元素系触媒、特に好ましくはNd系触媒を用いて合成されたポリブタジエンを使用し、かつ、有機過酸化物の添加量を上記範囲とすることで、本発明のゴルフボールの反発性が非常に良好となる。反発性が向上する分、ソリッドコア、またはゴルフボール全体をソフト化することが可能となり、ドライバー等のフルショットでの初期条件が低スピン・高打ち出しとなり、しかも飛距離が向上するものである。軟らかな打感も得ること可能となる。
なお、(a)成分の添加量としては、(A)成分100部に対し、0.05部以上、より好ましくは0.08部以上、更に好ましくは0.1部以上で、0.5部以下、より好ましくは0.4部以下、更に好ましくは0.3部以下であることが好ましく、(b)成分の添加量としては0.05部以上、より好ましくは0.15部以上、更に好ましくは0.2部以上で、0.7部以下、より好ましくは0.6部以下、更に好ましくは0.5部以下であることが好ましい。
次に、(C)不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩において、不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。不飽和カルボン酸の金属塩としては、亜鉛塩、マグネシウム塩等が挙げられ、中でもアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。
上記(C)成分の配合量としては、上記(A)成分100部に対し、通常10部以上、より好ましくは15部以上、更に好ましくは20部以上であり、上限として通常60部以下、より好ましくは50部以下、更に好ましくは45部以下、最も好ましくは40部以下である。(C)成分の配合量が上記範囲を外れると、反発性や打感が低下する(劣る)場合がある。
本発明における上記(D)成分の有機硫黄化合物としては、例えば、チオフェノール、チオフトール、ハロゲン化チオフェノール又はそれらの金属塩が挙げられる。より具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール又はそれらの亜鉛塩、硫黄数が2〜4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド、アルキルフェニルジスルフィド類、フラン環を有する硫黄化合物類、チオフェン環を有する硫黄化合物類が挙げられるが、特に、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、ジフェニルジスルフィドを好適に用いることができる。
上記(D)成分の配合量としては、(A)成分100部に対し、0.1部以上、より好ましくは0.2部以上、更に好ましくは0.4部以上、最も好ましくは0.7部以上で、5部以下、より好ましくは4部以下、更に好ましくは3部以下、最も好ましくは2部以下、特に好ましくは1.5部以下である。その配合量が少なすぎると、反発性を向上させる効果がなくなる場合があり、多すぎると、硬度が軟らかくなりすぎ、十分な反発性が得られない場合がある。
本発明における(E)成分の無機充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、その配合量としては(A)成分100部に対し、通常5部以上、より好ましくは7部以上、更に好ましくは10部以上、最も好ましくは13部以上、上限として通常80部以下、より好ましくは65部以下、更に好ましくは50部以下、最も好ましくは40部以下である。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正な重量及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
また、上記(A)〜(E)成分を含んでなるゴム組成物には必要に応じ、更に老化防止剤を添加することもできる。老化防止剤の添加量としては、(A)成分100部に対し、0.05部以上、より好ましくは0.1部以上、更に好ましくは0.2部以上で、3部以下、より好ましくは2部以下、更に好ましくは1部以下、最も好ましくは0.5部以下を配合することができる。
老化防止剤としては市販品を用いることができ、例えば、ノクラックNS−6、同NS−30(大内新興化学工業(株)製、ヨシノックス425(吉富製薬(株)製)等が挙げられる。
本発明における上記ソリッドコアは、上記(A)〜(E)成分を含むゴム組成物から形成されるものであるが、形成方法としては、該ゴム組成物を加硫・硬化する方法が好適である。加硫条件としては、例えば、加硫温度100〜200℃、加硫時間10〜40分にて実施することができる。
上記のように形成される上記ソリッドコアの局部的な硬度としては適宜調整することができ、特に制限されるものではなく、局部的な硬度の分布としては、中心から成形物表面までが同等の硬度であっても、中心と成形物表面までに硬度差があってもいずれの場合であってもよい。
上記ソリッドコアの直径としては、30mm以上、好ましくは32mm以上、より好ましくは34mm以上、上限として40mm以下、好ましくは39mm以下、更に好ましくは38mm以下である。ソリッドコアの直径が30mm未満であると、打感や反発が悪くなり、一方、40mmを超えると、割れ耐久性が悪くなる。
上記ソリッドコアの980N(100kgf)荷重負荷時のたわみ量としては、3.0mm以上、好ましくは3.5mm以上、更に好ましくは4.0mm以上、最も好ましくは4.2mm以上、上限としては6.0mm以下、好ましくは5.8mm以下、更に好ましくは5.5mm以下、最も好ましくは5.3mm以下である。当該変形量が3.0mm未満であると、打感が悪くなると共に、特にドライバーなどのボールに大変形が生じるロングショット時にスピンが増えすぎて飛ばなくなり、一方、6.0mmを超えると、打感が鈍くなると共に、反発が十分でなくなり飛ばなくなる上、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなる。
上記ソリッドコアの比重(g/cm3)としては、通常0.9以上、好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.1以上、上限として1.4以下、好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.2以下であることが推奨される。
本発明における上記中間層を形成する上記熱可塑性樹脂組成物としては、ポリエステル系エラストマーから形成されたものであるか、又は、(P)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(Q)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0〜25:75になるように配合したベース樹脂と、(T)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを、質量比で100:0〜50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、(R)分子量が280〜1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5〜80質量部と、(S)上記ベース樹脂及び(R)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物0.1〜10質量部とを必須成分として配合してなる熱可塑性樹脂組成物から形成されたものであることが好適である。
ここで、上記ベース樹脂中のオレフィンは、(P)成分、(Q)成分のいずれであっても、炭素数が、通常2以上、上限として8以下、特に6以下のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンであることが好ましい。
また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。
更に、不飽和カルボン酸エステルとしては、上述した不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルが好適で、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等を挙げることができ、特にアクリル酸ブチル(n−アクリル酸ブチル、i−アクリル酸ブチル)であることが好ましい。
本発明における(P)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び(Q)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体(以下、(P)成分及び(Q)成分中の共重合体を総称してランダム共重合体という)は、それぞれ、上述した材料を調整し、公知の方法によりランダム共重合させることにより得ることができる。
上記ランダム共重合体は、不飽和カルボン酸の含量(酸含量)が調整されたものであることが推奨される。ここで、(P)成分のランダム共重合体に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、通常4質量%(重量%と同義、以下同じ)以上、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、上限としては30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは15質量%以下であることが推奨される。
同様に(Q)成分のランダム共重合体に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、通常4質量%以上、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、上限としては15質量%以下、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下であることが推奨される。ランダム共重合体の酸含量が少なすぎると反発性が低下する場合があり、多すぎると加工性が低下する場合がある。
上記(P)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物及び(Q)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物(以下、(P)成分及び(Q)成分中の共重合体の金属イオン中和物を総称してランダム共重合体の金属イオン中和物という)は、上記ランダム共重合体中の酸基を金属イオンで部分的に中和することにより得ることができる。
ここで、酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na+、K+、Li+、Zn++、Cu++、Mg++、Ca++、Co++、Ni++、Pb++等を挙げることができ、好ましくはNa+、Li+、Zn++、Mg++等を好適に用いることができ、更に好ましくはZn++であることが推奨される。
本発明においてランダム共重合体の金属イオン中和物を得るには、上記ランダム共重合体に対して、上記金属イオンで中和すればよく、例えば、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して中和する方法などを採用することができる。これら金属イオンのランダム共重合体に対する中和度は特に限定されるものではない。
本発明において、ランダム共重合体の金属イオン中和物としては、亜鉛イオン中和型アイオノマー樹脂を好適に使用でき、材料のメルトフローレートを増加させ、後述する最適なメルトフローレートに調整することが容易で、成形性を改良することができる。
上記(P)成分と(Q)成分のベース樹脂は、市販品を使用してもよく、例えば、(P)成分のランダム共重合体として、ニュクレル1560、同1214、同1035(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR5200、同5100、同5000(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、(Q)成分のランダム共重合体として、例えば、ニュクレルAN4311、同AN4318(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR ATX325、同ATX320、同ATX310(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を挙げることができる。
また、(P)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン7930(米国デュポン社製)、アイオテック3110、同4200(EXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、(Q)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン6320、同8320、同9320、同8120(いずれも米国デュポン社製)、アイオテック7510、同7520(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等をそれぞれ挙げることができる。上記ランダム共重合体の金属イオン中和物として好適な亜鉛中和型アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1706、同1557、同AM7316等を挙げることができる。
上記ベース樹脂の調製に際しては、(P)成分と(Q)成分との配合が質量比で100:0〜25:75、好ましくは100:0〜50:50、より好ましくは100:0〜75:25、更に好ましくは100:0にすることが必要である。(P)成分の配合量が少なすぎると、材料の成形物の反発性が低下する。
また、本発明において上記(P)成分及び(Q)成分のベース樹脂は、上記調製に加えて更にランダム共重合体とランダム共重合体の金属イオン中和物との配合比を調整することにより、成形性をより良好にすることができ、ランダム共重合体:ランダム共重合体の金属イオン中和物は、通常0:100〜60:40、好ましくは0:100〜40:60、より好ましくは0:100〜20:80、更に好ましくは0:100であることが推奨される。ランダム共重合体の配合量が多すぎると、ミキシング時の成形性が低下する場合がある。
上記(T)成分は、打撃時のフィーリング、反発性をより一層向上させるための任意成分で、本発明においては、上記ベース樹脂と(T)成分とを総称して樹脂成分という。(T)成分は、アイオノマー樹脂以外の非アイオノマー熱可塑性エラストマーで、具体的には、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を挙げることができ、反発性を更に高めることができる点から、特にオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーを好適に使用することができる。
上記(T)成分は、市販品を使用してもよく、例えば、オレフィン系エラストマーとして、ダイナロン(JSR社製)、ポリエステル系エラストマーとして、ハイトレル(東レ・デュポン社製)等を挙げることができる。
上記(T)成分の配合量は、本発明のベース樹脂100質量部に対し、通常0質量部以上、特に1質量部以上、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは4質量部以上、上限として100質量部以下、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下であることが推奨される。配合量が多すぎると、混合物の相溶性が低下し、ゴルフボールの耐久性が著しく低下する可能性がある。
本発明においては上記中間層を、ポリエステル系エラストマー単独で形成することも可能である。その際に用いられるポリエステル系エラストマーとしては、前記(T)成分と同様のものを用いることができ、具体例としても、ハイトレル(東レ・デュポン社製)等を挙げることができる。
次に、上記(R)成分は、分子量280以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体であり、上記ベース樹脂と比較して分子量が極めて小さく、混合物の溶融粘度を適度に調整し、特に流動性の向上に寄与する成分である。本発明の(R)成分は、比較的高含量の酸基(誘導体)を含み、反発性の過度の損失を抑制できる。
上記(R)成分の脂肪酸又はその誘導体の分子量は、280以上、好ましくは300以上、より好ましくは330以上、更に好ましくは360以上、上限としては1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下、更に好ましくは500以下であることが必要である。分子量が少なすぎる場合は耐熱性が改良できず、多すぎる場合は流動性が改善できない。
上記(R)成分の脂肪酸又はその脂肪酸誘導体としては、例えば、アルキル基中に二重結合又は三重結合を含む不飽和脂肪酸(誘導体)やアルキル基中の結合が単結合のみで構成される飽和脂肪酸(誘導体)を同様に好適に使用できるが、いずれの場合も1分子中の炭素数が、通常18以上、好ましくは20以上、より好ましくは22以上、更に好ましくは24以上、上限として80以下、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下であることが推奨される。炭素数が少なすぎると、耐熱性の改善が達成できない上、酸基の含有量が多すぎて、ベース樹脂に含まれる酸基との相互作用により流動性の改善の効果が少なくなってしまう場合がある。一方、炭素数が多すぎる場合には、分子量が大きくなるために、流動性改質の効果が顕著に表れない場合がある。
ここで、(R)成分の脂肪酸として、具体的には、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸などが拳げられ、好ましくは、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、更に好ましくはベヘニン酸を挙げることができる。
また、上記(R)成分の脂肪酸誘導体は、上述した脂肪酸の酸基に含まれるプロトンを金属イオンにより置換した金属せっけんを例示できる。この場合、金属イオンとしては、例えば、Na+、Li+、Ca++、Mg++、Zn++、Mn++、Al+++、Ni++、Fe++、Fe+++、Cu++、Sn++、Pb++、Co++等を挙げることができ、特にCa++、Mg++、Zn++が好ましい。
(R)成分の脂肪酸誘導体として、具体的には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、べヘニン酸マグネシウム、べヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等を挙げることができ、特にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、べヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等を好適に使用することができる。
本発明においては、上記(P)成分と(Q)成分とからなるベース樹脂と、上記(R)成分とを合わせたものとして、公知の金属せっけん変性アイオノマー(USP5312857,USP5306760,WO98/46671公報等)等を使用することもできる。
本発明において、(S)成分は、上記ベース樹脂及び(R)成分中の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物であり、本発明において不可欠な成分である。(S)成分が配合されないと金属せっけん変性アイオノマー樹脂(例えば、上記特許公報に記載された金属せっけん変性アイオノマー樹脂のみ)を単独で使用した場合には、加熱混合時に金属せっけんとアイオノマー樹脂に含まれる未中和の酸基が交換反応して多量の脂肪酸を発生させ、発生した脂肪酸が熱的安定性が低く成形時に容易に気化するため、成形不良の原因をもたらし、更に成形物の表面に付着して、塗膜密着性を著しく低下させるという問題を起こす。
本発明においては、このような問題を解決すべく、(S)成分として、上記ベース樹脂及び(R)成分中に含まれる酸基を中和する塩基性無機金属化合物を必須成分として配合し、成形物の反発性の改良を図るものである。
即ち、上記(S)成分は、材料中に必須成分として配合されることにより、上記ベース樹脂と(R)成分中の酸基が適度に中和されるだけでなく、各成分の適正化による相乗効果で、混合物の熱安定性を高め、良好な成形性の付与と反発性の向上を図ることができるものである。
ここで、上記(S)成分の塩基性無機金属化合物は、ベース樹脂との反応性が高く、反応副生成物に有機酸を含まないため、熱安定性を損なうことなく、混合物の中和度を上げられるものであることが推奨される。
上記(S)成分の塩基性無機金属化合物中の金属イオンは、例えば、Li+、Na+、K+、Ca++、Mg++、Zn++、Al+++、Ni++、Fe++、Fe+++、Cu++、Mn++、Sn++、Pb++、Co++等を挙げることができる。塩基性無機金属化合物としては、これら金属イオンを含む公知の塩基性無機充填剤を使用することができ、具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等を挙げることができるが、特に水酸化物、または一酸化物であることが推奨され、より好ましくはベース樹脂との反応性の高い水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、更に好ましくは水酸化カルシウムであることが推奨される。
本発明のゴルフボールにおいて、中間層を形成する上記熱可塑性樹脂組成物は、上述したように(P)成分及び(Q)成分とを所定量配合したベース樹脂と、任意の(T)成分を配合した樹脂成分に対し、所定量の(R)成分と(S)成分とをそれぞれ配合することにより、熱安定性、流動性、成形性に優れ、反発性の飛躍的な向上を成形物に付与できる。
上記(R)成分と(S)成分の配合量は、上記(P)、(Q)、(T)成分を適宜配合した樹脂成分100質量部に対して、(R)成分の配合量が、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは18質量部以上、上限として80質量部以下、好ましくは40質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは22質量部以下、(S)成分の配合量を0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、上限としては10質量部以下、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは5質量部以下にする必要がある。(R)成分の配合量が少なすぎると溶融粘度が低くなり加工性が低下し、多すぎると耐久性が低下する。(S)成分の配合量が少なすぎると熱安定性、反発性の向上が見られず、多すぎると過剰の塩基性無機金属化合物によりゴルフボール用材料の耐熱性が却って低下する。
本発明のゴルフボールにおいて、中間層を形成する上記熱可塑性樹脂組成物は、上述した樹脂成分、(R)成分、(S)成分をそれぞれ所定量配合してなることが好ましいが、材料中の酸基の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上が中和されていることが推奨される。このような高中和化により、上述した従来技術のベース樹脂と脂肪酸(誘導体)のみを使用した場合に問題となる交換反応をより確実に抑制し、脂肪酸の発生を防ぐことができる上、熱的安定性が著しく向上し、成形性が良好で、従来のアイオノマー樹脂と比較して反発性に非常に優れた成形物を得ることができる。
ここで、上記中和度とは、ベース樹脂と(R)成分の脂肪酸(誘導体)の混合物中に含まれる酸基の中和度であり、ベース樹脂中のランダム共重合体の金属イオン中和物としてアイオノマー樹脂を使用した場合におけるアイオノマー樹脂自体の中和度とは異なる。中和度が同じ本発明の混合物と同中和度のアイオノマー樹脂のみとを比較した場合、本発明の混合物は、非常に多くの金属イオンを含むため、反発性の向上に寄与するイオン架橋が高密度化し、成形物に優れた反発性を付与できる。
本発明においては、高中和化と優れた流動性をより確実に両立するために、上記混合物の酸基が遷移金属イオンと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属イオンとで中和されていることが推奨される。遷移金属イオンによる中和は、アルカリ(土類)金属イオンと比較してイオン凝集力が弱いが、これら種類の異なるイオンを併用して、混合物中の酸基の中和を行うことにより、流動性の著しい改良を図ることができる。
本発明において、上記遷移金属イオンと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属イオンとのモル比は、通常10:90〜90:10、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは30:70〜70:30、更に好ましくは40:60〜60:40であることが推奨される。遷移金属イオンのモル比が小さすぎると流動性を改善する効果が十分に付与されない場合があり、遷移金属イオンのモル比が大きすぎると反発性が低下する場合がある。
上記金属イオンは、遷移金属イオンとしては、亜鉛イオン等を挙げることができ、また、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオン等から選ばれる少なくとも1種のイオンを挙げることができるが、これらは特に制限されるものではない。
本発明において、遷移金属イオンとアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとで上記所望量の酸基が中和された混合物を得るには、公知の方法を採用でき、例えば、遷移金属イオン(亜鉛イオン)により中和する方法は、上記脂肪酸誘導体に亜鉛せっけんを用いる方法、ベース樹脂として(P)成分と(Q)成分とを配合する際に亜鉛イオン中和物(例えば、亜鉛イオン中和型アイオノマー樹脂)を使用する方法、(S)成分の塩基性無機金属化合物に亜鉛酸化物等の亜鉛化合物を用いる方法などを挙げることができる。
本発明のゴルフボールにおいて、中間層を形成する上記熱可塑性樹脂組成物は、更に心要に応じて任意に種々の添加剤を配合することができ、材料の用途に応じて調製できる。例えば、カバー材にする場合には、上記必須成分に加えて、顔料、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量は、本発明の必須成分(樹脂成分、(R)成分、(S)成分)の配合量の総和100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、上限として10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは4質量部以下になるように配合することができる。
上記熱可塑性樹脂組成物を得るには、上述した必須成分と必要により任意成分を配合した混合物を得ればよく、加熱混合条件として、例えば、加熱温度150〜250℃、混合機として、例えば、混練型二軸押出機、バンバリー、ニーダー等のインターナルミキサーなどを用いて混練することができる。この場合、配合方法に特に制限はなく、本発明の上記必須成分と共に配合して同時に加熱混合する方法、上記必須成分を予め加熱混合をした後、任意の添加剤を加えて更に加熱混合する方法等を採用できる。
上記熱可塑性樹脂組成物は、射出成形に特に適した流動性を確保し、成形性を改良するため、メルトフローレートを調整することが好ましく、この場合、JIS−K7210で試験温度190℃、試験荷重21.18N(2.16kgf)に従って測定したときのメルトフローレート(MFR)が、通常0.5dg/min以上、好ましくは1dg/min以上、より好ましくは1.5dg/min以上、更に好ましくは2dg/min以上であり、上限として20dg/min以下、好ましくは10dg/min以下、より好ましくは5dg/min以下、更に好ましくは3dg/min以下に調整されることが推奨される。メルトフローレートが、大きすぎても小さすぎても加工性が著しく低下する場合がある。
また、上記熱可塑性樹脂組成物は、赤外吸収測定において、通常検出される1690〜1710cm-1のカルボニル伸縮振動に帰属する吸収ピークの吸光度に対する1530〜1630cm-1のカルボキシラートアニオン伸縮振動に帰属する吸収ピークにおける相対吸光度(カルボキシラートアニオン伸縮振動に帰属する吸収ピークの吸光度/カルボニル伸縮振動に帰属する吸収ピークの吸光度)を適正化することが好ましい。
ここで、カルボキシラートアニオン伸縮振動は、プロトンを解離したカルボキシル基(金属イオンにより中和されたカルボキシル基)をカルボニル伸縮振動は未解離のカルボキシル基の振動をそれぞれ意味する。そして、それぞれのピークの強度比は中和度に依存する。一般的に用いられる中和度が約50モル%のアイオノマー樹脂の場合、それぞれのピークの吸光度比は約1:1になる。
本発明においては、ゴルフボール用材料の熱安定性、流動性、成形性、反発性を改良するために、材料のカルボキシラートアニオン伸縮振動に帰属するピークの吸光度を、カルボニル伸縮振動によるピークの吸光度の少なくとも1.3倍以上とすることが推奨され、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、更に好ましくはカルボニル伸縮振動に帰属するピークが存在しないことが推奨される。
また、上記熱可塑性樹脂組成物は、熱安定性を熱重量測定により測定することができるが、熱重量測定において、25℃における質量を基準とした250℃における減量率が、通常2質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下であることが推奨される。
本発明において上記熱可塑性樹脂組成物を用い、中間層を形成する方法としては公知の方法を用いることができる。特に限定されるものではないが、例えば、予め作製したコアを金型内に配備し、上記熱可塑性樹脂組成物を加熱混合溶融し、射出成形する方法等を採用できる。この場合、ゴルフボールの製造は、優れた流動性、成形性が確保された状態で作業でき、得られたゴルフボールは、反発性が高くなるため好適である。
また、上記熱可塑性樹脂組成物の中間層材により予め一対の半球状のハーフカップを成形し、このハーフカップでコアを包んで120〜170℃、1〜5分間、加圧成形する方法を用いても良い。
上記中間層の厚みとしては、0.5mm以上、好ましくは0.7mm以上、上限として2.0mm以下、好ましくは1.8mm以下である。中間層各層の厚みが0.5mm未満であると、中間層を加えた効果が得られなくなり、一方2.0mmを超えると、打感や反発が低下する。
上記中間層のショアD硬度としては、20以上、好ましくは25以上であり、上限としては60以下、好ましくは58以下である。中間層最外層のショアD硬度が20未満であると反発性が低下し、一方60を超えると、形成されたゴルフボールの打撃時のフィーリングが著しく低下する。
また、本発明においては上記中間層最外層のショアD硬度が、後述するカバーのショアD硬度以下であることが必要である。上記中間層最外層のショアD硬度
とカバーのショアD硬度をこのような関係とすることにより、得られるゴルフボールの低スピン化及び高打出し化を図ることが可能となり、しかも、上記中間層用の材料として高中和度のアイオノマー樹脂を使用していることから反発性が高く、両者の作用効果が相俟って、良好な飛距離が実現される。
なお、中間層としては、内側中間層と、外側中間層とから構成されることが好適である。
本発明における中間層を形成する上記熱可塑性樹脂組成物としては、ポリエステル系エラストマーから形成されたものであるか、又は、上述の(P)〜(T)成分を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であることが好ましいが、このような熱可塑性樹脂組成物を使用することにより、得られるゴルフボールの軟らかな打感と、良好な飛び性能を両立することが可能となる。
本発明に用いられるカバーは、(F)オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル共重合体及び/又は上記共重合体の金属イオン中和物と、(G)ポリウレタンエラストマーと、(H)脂肪族1級アミンとの加熱混合物を配合してなる材料にて形成されるものである(以下、カバー材と略記することがある)。
ここで、上記(F)成分中のオレフィンは、通常炭素数2以上、上限として8以下、特に6以下のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が挙げられ、特にエチレンであることが好ましい。
また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特に、アクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。
更に、不飽和カルボン酸エステルとしては、上述した不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルが好適であり、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等を挙げることができ、特にアクリル酸ブチル(n−アクリル酸ブチル、i−アクリル酸ブチル)であることが好ましい。
本発明の(F)成分である共重合体は、上記成分を公知の方法に従ってランダム共重合させることにより得ることができる。ここで、上記(F)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体に含まれる不飽和カルボン酸の含量(酸含量)は、通常4質量%(重量%と同義、以下同じ)以上、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、上限としては30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは15質量%以下であることが推奨される。酸含量が少ないと反発性が低下する可能性があり、多いと加工性が低下する可能性がある。また、上記(F)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル共重合体に含まれる不飽和カルボン酸の含量(酸含量)は、通常4質量%以上、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、上限としては15質量%以下、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下であることが推奨される。酸含量が少ないと反発性が低下する可能性があり、多いと加工性が低下する可能性がある。
上記共重合体の金属イオン中和物は、上記オレフィン−不飽和カルボン酸(−不飽和カルボン酸エステル)共重合体の酸基を部分的に金属イオンで中和することによって得ることができる。ここで、酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na+、K+、Li+、Zn++、Cu++、Mg++、Ca++、Co++、Ni++、Pb++等が挙げられ、特に、Na+、Li+、Zn++、Mg++、Ca++等が好適に用いられる。これら金属イオンの共重合体ヘの中和度は特に制限されるものではない。このような中和物は公知の方法で得ることができ、例えば、上記共重合体に対して、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して中和物を得ることができる。
本発明の(F)成分であるオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体としては、例えば、ニュクレル1560、同1214、同1035(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR5200、同5100、同5000(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等が挙げられ、また、(F)成分であるオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、例えば、ニュクレルAN4311、同AN4318(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR ATX325、同ATX320、同ATX310(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等が挙げられる。また、(F)成分であるオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体の金属中和物としては、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン7930(デュポン社製)等が挙げられ、また、(F)成分であるオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル共重合体の金属中和物としては、ハイミラン1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン6320、同8320、同9320、同8120(いずれもデュポン社製)、アイオテック7510、同7520(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等が挙げられる。
本発明においては、オレフィン−不飽和カルボン酸(−不飽和カルボン酸エステル)共重合体(中和物)を単独で、又は複数成分を併用配合して使用することができるが、オレフィン−不飽和カルボン酸(中和物)とオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル(中和物)の配合比(質量部)は、100:0〜25:75、好ましくは100:0〜50:50、より好ましくは100:0〜75:25、更に好ましくは100:0である。オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体(中和物)の配合比が25質量部より少ない場合には、反発性が低下する可能性がある。
また、上記(F)成分であるオレフィン−不飽和カルボン酸(−不飽和カルボン酸エステル)共重合体と上記共重合体の金属イオン中和物を併用配合する場合、その配合比(質量部)は特に制限されないが、通常0:100〜60:40、好ましくは0:100〜40:60、より好ましくは0:100〜20:80、更に好ましくは0:100である。オレフィン−不飽和カルボン酸(−不飽和カルボン酸エステル)共重合体が60質量部より多い場合、ミキシング時の成形性が低下する可能性がある。
本発明の(G)成分であるポリウレタンエラストマーは、特に制限されるものではないが、通常熱可塑性ポリウレタンエラストマー、又はポリウレタンパウダー、熱硬化性ポリウレタンエラストマーが用いられることが好ましく、特に、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、又はポリウレタンパウダーが用いられる。
本発明で用いられる上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの構造は、特に、ソフトセグメントを構成する高分子ポリオール化合物と、ハードセグメントを構成する単分子鎖延長剤と、ジイソシアネートとから構成されていることが好ましい。
高分子ポリオール化合物としては、特に制限されるものではないが、ポリエステル系ポリオール、ポリオール系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、コポリエステル系ポリオール、及びポリカーボネート系ポリオール等が採用され、上記ポリエステル系ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリ(エチレン−1,4−アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4−アジペート)グリコール系等、コポリエステル系ポリオールとしては、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)グリコール等、ポリカーボネート系ポリオールとしては、(ヘキサンジオール−1,6−カーボネート)グリコール等、ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。これら高分子ポリオール化合物の数平均分子量は約600〜5000、好ましくは1000〜3000である。
ジイソシアネートとしては、カバーの脂肪族又は芳香族ジイソイアネートが好適に用いられる。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などが挙げられるが、特に、他の樹脂とブレンドする際の相溶性の点から、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましく用いられる。
単分子鎖延長剤としては、特に制限されないが、通常の多価アルコール、アミン類を用いることができ、具体的には、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,6−ヘキシルグリコール、1,3−ブチレングリコール、ジシクロヘキシルメチルメタンジアミン(水添MDI)、イソホロンジアミン(IPDA)などが挙げられる。
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、そのJIS A硬度が70〜100、好ましくは80〜99、より好ましくは90〜99、さらに好ましくは95〜98である。JIS A硬度が70未満では、ドライバーによる打撃時にスピン量が過剰に増加して飛距離が低下する場合がある。なお、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの比重は、特に制限されないが、本発明の目的を達成し得る範囲で適宜調整することができるが、好ましくは1.0〜1.3、より好ましくは1.1〜1.25である。
このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、市販品を用いることができ、例えば、パンデックスT7298、同EX7895、同T7890、同T8198(ディーアイシーバイエルポリマー社製)などが挙げられる。
本発明で用いられるポリウレタンパウダーとしては、真球状微粒子ポリマーが例示される。真球状微粒子ポリマーは粒子間が凝集せず、ベースアイオノマー樹脂中に容易に分散されることから、カバー材の物性を損なうことなく、ウレタンが本来有する柔軟性、強靭性、耐傷性、耐寒性などの機能を付与することができるばかりでなく、優れた流動性、滑性を有することから、成形性を著しく改良することができる。上記真球状微粒子ポリマーの平均粒径は、0.1〜100μm、好ましくは0.5〜60μm、より好ましくは1〜40μm、さらに好ましくは2〜20μmである。このような真球状微粒子ポリマーとしては、根上工業社製アートパールシリーズ等が例示される。
本発明では、(F)成分と(G)成分のポリウレタンエラストマーとの配合比は、それぞれ50〜99.9質量部,0.1〜50質量部、好ましくは80〜99.5質量部,0.5〜20質量部、より好ましくは85〜99質量部,1〜15質量部、さらに好ましくは88〜97質量部,3〜12質量部である。上記(G)成分であるポリウレタンエラストマーの配合量が50質量部より多い場合には反発性が低下する可能性があり、0.1質量部より少ない場合にはブレンドの効果が十分に得られない可能性がある。
本発明の(H)成分である脂肪族1級アミンは、ゲル化反応を緩和するのに有効であるばかりでなく、アルキル基を含むことにより滑剤として働き、成形性を著しく改良すると考えられる。
このような脂肪族アミンとしては市販品が好適に用いられ、日本油脂社製ニッサンアミンシリーズが例示される。
有機または無機塩基性化合物の配合量は、ベース樹脂である(F)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸(−不飽和カルボン酸エステル)共重合体(中和物)及び(G)成分であるポリウレタンエラストマーの合計量100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜8質量部、更に好ましくは2〜6質量部である。有機又は無機塩基性化合物の配合量が20質量部より多い場合には、反発性が低下する可能性があり、逆に、0.1質量部より少ない場合には、ゲル化防止の効果が十分に得られない可能性がある。
また、本発明におけるカバー材には、打撃時のフィーリングを改善するために上記成分に加え、種々の熱可塑性エラストマーを配合することができ、このような熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられ、特に、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーが好ましく、より好ましくはオレフィン系エラストマーが挙げられる。
上記熱可塑性エラストマーを添加する場合、その配合量は、ベース樹脂である(F)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸(−不飽和カルボン酸エステル)共重合体(中和物)及び(G)成分であるポリウレタンエラストマーの合計量100質量部に対し、1〜100質量部、好ましくは2〜60質量部、より好ましくは3〜40質量部、更に好ましくは4〜20質量部である。
本発明における上記カバー材には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じ種々の添加剤、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を添加することもできる。
本発明のゴルフボール用材料のメルトインデックスは0.5〜30dg/min、好ましくは1.0〜10dg/min、より好ましくは1.5〜5dg/minである。
上記添加剤の配合量としては、上記(F)成分100重量部に対し、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、更に好ましくは1〜6重量部である。添加剤の配合量が大きすぎると、耐久性が低下する場合があり、添加剤の配合比が小さすぎると、添加剤の効果が得られない場合がある。
本発明における上記カバー材の硬度(ショアD)は、50以上、好ましくは53以上、上限として70以下、好ましくは64以下である。ショアD硬度が低すぎると反撥性に劣ることとなり、ショアD硬度が高すぎると打感、コントロール性の改善が見られない。なお、本発明においてショアD硬度とは、ASTM D2240に準じ、D型デュロメータにより測定した硬度である。
本発明における上記カバー材の製法に特に制限はなく、例えば、加熱温度150〜250℃において、混練型二軸押出機、バンバリー、ニーダー等のインターナルミキサー等を混合機として用い、上記各成分を混練して得ることができる。
上記カバー材に、上記(F)成分及び(G)成分に加え、種々の添加剤等を配合する場合、その配合方法についても特に制限はなく、(F)成分及び(G)成分と共に配合して同時に加熱混合しても良いし、(F)成分及び(G)成分を予め加熱混合をした後、任意の添加剤等を加えて更に加熱混合してもよい。
上記に示すカバー材は、非常に良好な耐熱性、成形性、塗膜密着性を示し、反発性、打球感に優れるものである。上記の、軟らかなコアと上記カバーとを組合わせることにより、飛距離を犠牲にすることなくゴルフボール硬度を軟らかくすることが可能となって軟らかな打感が実現可能となり、しかも、硬度が軟らかなことから打撃時のクラブとゴルフボールとの接触面積が広がるため、打撃時の衝撃力が分散することとなり、より耐擦過傷性が向上することとなる。
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、上記コアに、上記熱可塑性樹脂組成物にて形成された中間層を被覆し、さらに、該中間層に上記カバー材にて形成されたカバーを被覆してなるマルチピースソリッドゴルフボールである。
カバーの形成方法としては、中間層の形成時と同様、公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、予め作製したコアを金型内に配備し、上記カバー材を加熱混合溶融し、射出成形する方法等を採用できる。この場合、ゴルフボールの製造は、優れた流動性、成形性が確保された状態で作業でき、得られたゴルフボールは、反発性が高くなるため好適である。
また、本発明のカバー材により予め一対の半球状のハーフカップを成形し、このハーフカップでコアを包んで120〜170℃、1〜5分間、加圧成形する方法を用いても良い。
上記カバー材にて形成されるカバー厚みは、0.5mm以上、好ましくは0.9mm以上、より好ましくは1.1mm以上、上限として2.5mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。カバー厚みが大きすぎると、反発性が低下し、カバー厚みが小さすぎると、耐久性が低下する。
本発明のマルチピースゴルフボールにおいては、カバーの表面に多数のディンプルを形成し、更にカバー上に下地処理、スタンプ、塗装等種々の処理を行うことが好適である。ディンプルの配設に当たっては、ディンプルに交差しない大円線が1本もないようにディンプルを配設することが好適である。ディンプルと交差しない大円線が存在すると、飛びにバラツキが発生する場合がある。
上記ディンプルとしては、更にディンプルの種類の数及び総数が適正化されたものであることが好ましく、ディンプルの種類の数及び総数の適正化による相乗効果で弾道がより安定し、飛距離性能に優れたゴルフボールを得ることができる。
ここで、ディンプルの種類の数は、ディンプルの直径及び/又は深さが互いに異なるディンプルの種類の数をいい、通常、2種以上、好ましくは3種以上であることが推奨される。なお、上限として8種以下、特に6種以下であることが推奨される。
また、ディンプルの総数は、通常300個以上、好ましくは320個以上、上限として480個以下、好ましくは455個以下にすることが推奨される。ディンプル総数が少なすぎても、ディンプル総数が多すぎても、最適な揚力が得られず、飛ばなくなる場合がある。
上記ディンプルとしては、更にディンプル体積占有率VR(%)、ディンプル表面占有率SR(%)とがそれぞれ適正化されたものであることが推奨される。これらVRと併せたSRの適正化による相乗効果で、弾道が適正化され、飛距離の向上を図ることができ、更に適正な揚抗力のバランスを得ることができ、より優れた飛距離性能を付与することができる。
ディンプルがないものと仮定した仮想ゴルフボール体積に対する、ゴルフボール表面ディンプルの容積が占める割合(体積占有率)をVR(単位は%)と定義する。本発明のマルチピースゴルフボールのVR値(%)としては通常0.70以上、好ましくは0.75以上、上限としては通常1.00以下、好ましくは0.82以下、更に好ましくは0.79以下である。
また、上記各ディンプルの縁部によって囲まれる仮想球面の総面積が占める割合(ディンプル表面占有率)SR値(%)としては、通常70%以上、好ましくは72%以上、上限として通常85%以下、好ましくは83%以下である。
これらVR値及びSR値が上記範囲を外れると、適正な弾道が得られず、飛距離が低下する場合がある。
上記ソリッドコア及びカバーと、上記比較的高弾道のディンプルを組み合わせることにより、ドロップを防ぎ、より高く、フラットな弾道で飛距離を伸ばす事が可能となる。
なお、上記ディンプルの体積占有率VR、ディンプル表面占有率SRの算出は、製品ゴルフボールのディンプルを測定した値であり、例えば、上記カバーを形成した後、ボール表面に対して仕上げ処理(塗装及びスタンプの仕上げ処理等)などが施された場合には、これら処理が全て完了した製品ボールのディンプルの形状をもとに算出するものとする。
本発明のマルチピースゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、直径42.67mm以上、重量45.93g以下、好ましくは45.0〜45.93gに形成することができる。
本発明におけるマルチピースゴルフボールは上記コアと上記カバーとを具備し、好ましくはカバー表面に多数のディンプルを具備したものであるが、ボール全体の980N(100kgf)荷重負荷時の撓み量としては、3.0mm以上、好ましくは3.2mm以上、更に好ましくは3.4mm以上、最も好ましくは3.6mm以上、上限としては5.0mm以下、好ましくは4.8mm以下、更に好ましくは4.6mm以下、最も好ましくは4.4mm以下である。当該変形量が3.0mm未満であると、打感が悪くなると共に、特にドライバーなどのボールに大変形が生じるロングショット時にスピンが増えすぎて飛ばなくなり、一方、5.0mmを超えると、打感が鈍くなると共に、反発が十分でなくなり飛ばなくなる上、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなる。
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〜4,比較例1〜3〕
表1に示すゴム組成物を用い、155℃で17分間の加硫により、ソリッドコアを作成した。
表2に示す組成の中間層材を200℃で混練型二軸押出機にてミキシングし、ペレット状の中間層材を得た後、上記ソリッドコアを配備した金型内に射出し、中間層材で被覆されたソリッドコアを製造した。
さらに、表3に示す組成のカバー材を200℃で混練型二軸押出機にてミキシングし、ペレット状のカバー材を得た後、上記中間層材で被覆されたソリッドコアを配備した金型内に射出し、マルチピースソリッドゴルフボールを製造した。カバー表面に配設したディンプル種を表4に示した。表4中に記載のディンプル種A〜Cの配設例を、図1,2に示した。
得られた各ゴルフボールの諸特性を表5に示した。
HCBN−13
JSR社製、Cis1,4量96%、ムーニー粘度(ML
1+4(100℃))53、分子量分布Mw/Mn3.2、触媒Nd。
BR01
JSR社製、Cis1,4量96%、ムーニー粘度(ML
1+4(100℃))44、分子量分布Mw/Mn4.2、触媒Ni、溶液の粘度150mPa・s。
BR11
JSR社製、Cis1,4量96%、ムーニー粘度(ML
1+4(100℃))44、分子量分布Mw/Mn4.1、触媒Ni、溶液の粘度270mPa・s。
パーヘキサ3M−40
日本油脂社製。パーヘキサ3M−40は40%希釈品であり、添加量は1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンの実質添加量で示した。
パークミルD
日本油脂社製、ジクミルパーオキサイド。
アクリル酸亜鉛
日本蒸留工業社製。
ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩
東京化成工業社製。
酸化亜鉛
堺化学工業社製。
ノクラックNS−6
大内新興化学社製、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)
ハイミラン1601
三井・デュポンポリケミカル社製。
サーリン8120
米国デュポン社製。アイオノマー樹脂。
ダイナロン6100P
JSR社製オレフィン結晶ブロックを有するブロックコポリマー。
ベヘニン酸
日本油脂社製。
ハイトレル4047
東レ・デュポン社製ポリエステル系エラストマー。
ハイトレル4767
東レ・デュポン社製ポリエステル系エラストマー。
ハイミラン1605
三井・デュポンポリケミカル社製。
ハイミラン1554
三井・デュポンポリケミカル社製。
ハイミラン1601
三井・デュポンポリケミカル社製。
ハイミラン1557
三井・デュポンポリケミカル社製。
サーリン7930
米国デュポン社製。アイオノマー樹脂。
サーリン6320
米国デュポン社製。アイオノマー樹脂。
ニュクレル9−1
米国デュポン社製 三元酸共重合体。
パンデックスR3080
DICバイエルポリマー社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
アミンABT
日本油脂社製ゲル化防止剤。
VR(%)
各ディンプルの縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積の全ディンプルの総和の、ゴルフボール表面にディンプルがないと仮定した仮想球の全体積に対する割合(%)。
SR(%)
ゴルフボールをディンプルのない球状とみなした仮想球面とした際、個々のディンプルの縁部によって囲まれる仮想球面の表面積の合計が上記仮想球面の全面積を占める割合(%)。
コア外径(mm)
表面を5点測定した平均値。
コア硬度(mm)
980N(100kgf)荷重負荷時の変形量(mm)を計測した。
中間層厚み(mm)
(中間層被覆コア外径−コア外径)÷2として算出した。
中間層硬度
ASTM D−2240に準じて測定したショアD硬度。
カバー厚み(mm)
(ボール外径−中間層被覆コア外径)÷2により算出した。
カバー硬度
ASTM D−2240に準じて測定したショアD硬度。
ボール外径(mm)
ディンプルのない部分を5点測定した平均値。
ボール硬度(mm)
得られたゴルフボールに対し、980N(100kgf)荷重負荷時の変形量(mm)を計測した。
飛び、低温飛び
いずれの場合も、打撃マシン((株)ミヤマエ製)を用い、23℃又は0℃環境下にて、ドライバー(W#1)でヘッドスピード40m/sで打撃し、初速度、スピン量、キャリー飛距離、トータル飛距離をそれぞれ測定した。ここでいう低下幅とは、[(23℃での初速度測定値)−(0℃での初速度測定値)]の値を示す。
打感
各ボールについて、アマチュア上級者5名によるドライバー(W#1)及びパター打撃したときの打感を下記基準で評価し、最も多かった評価をボールに対する評価とした。
○:軟らかい
△:普通
×:硬い
耐擦過傷性
ボールを23℃に保温し、ピッチングウェッジをスイングロボットマシンに取り付け、ヘッドスピード33m/sにて打撃し、打撃傷を目視で判断した。次の評価基準で評価した。
○:傷がない、もしくは使用上、全く気にならない程度の傷。
×:表面が毛羽立つ、ディンプルが欠ける、などのひどい傷。