本発明は、操舵力補助モータを用いた電動パワーステアリング装置に関し、特に、高速操舵性を確保でき、且つ保舵時や低速操舵時の操向ハンドルの振動や騒音の少ない操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置に関するものである。
自動車などの車両のステアリング装置をモータの回転力で補助力を付与する電動パワーステアリング装置では、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助力を付与するようになっている。
このような電動パワーステアリング装置の簡単な構成を図9を参照して説明する。操向ハンドル101の軸102は、減速ギア103、ユニバーサルジョイント104a及び104b、ピニオンラック機構105を経て、操向車輪のタイロッド106に結合されている。軸102には、操向ハンドル101の操舵トルクを検出するトルクセンサ107が設けられており、操向ハンドル101の操舵力を補助するモータ108が、減速ギア103を介して軸102に連結されている。
このように構成された電動パワーステアリング装置の制御について、図10を参照して説明する。まず、トルクセンサ107で検出されたトルクTと、図示しない車速センサで検出された車速Vとがアシストマップ190に入力され、操舵補助指令値が算出される。次に、補償値演算部194で演算される補償値、例えば、収斂性演算部191で算出された収斂性、慣性演算部192で算出された慣性やSAT推定部193で推定されたSATなどの補償値を加算部195,196,197で前記操舵補助指令値に加算して、トルク指令値Trefが決定される。
そして、トルク指令値Trefに基づいて、電流指令値演算部200で電流指令値Irefが決定される。なお、モータ108がブラシレスモータの場合には、トルク指令値Trefの他に、モータの回転角度(ロータの回転位置信号)も電流指令値演算部200に入力して、電流指令値Irefが決定される。ここで、上述したトルクT、車速V及び補償値に基づいて、電流指令値Irefを決定するまでの処理部分(破線Bで囲まれた部分)を、便宜上、電流指令値決定部B(電流指令値演算手段)と呼ぶ。
一方、モータ108へ供給されるモータ電流Imは、電流検出器202で検出され、前記電流指令値Irefとともに減算部204へ入力される。偏差演算手段である減算部204では、電流指令値Irefとモータ電流Imとの偏差ΔI=Iref−Imが算出される。
次に、偏差ΔIは、破線Aで囲まれた電流制御手段としての比例積分制御部(PI制御部)206に入力される。このPI制御部206は、例えば、比例項と積分項と加算部とから構成され、偏差ΔIは比例ゲインKpである比例項に入力されるとともに、積分ゲインKiである積分項にも入力され、そして、比例項の出力と積分項の出力とは加算部で加算されてから、その加算結果を電圧指令値Vrefとして出力されるようになっている。
そして、PWM制御部212では、電圧指令値Vrefを入力として、インバータ214へのPWM信号を出力することにより、電圧指令値Vrefに基づいたPWM信号がインバータ214へ指示される。インバータ214は、そのPWM信号に基づいて、モータ108へモータ電流Imを供給する。
以上が、電動パワーステアリング装置の制御において、電流制御手段Aに比例積分制御を用いた場合の例に関する説明である。ここで、比例積分に関するゲインGiを式で表わすと、数1のようになる。
つまり、偏差ΔIが小さい値でも、ゲインGiが無限大であるために、ハンドル保舵時やゆっくりした操舵時にも、電圧指令値Vrefは大きな値として出力され、以下のような問題が発生する。
つまり、近年、電動パワーステアリング装置(EPS)搭載車両の大型化のため、電動パワーステアリング装置の高出力化が進み、モータトルク定数の増加・大電流化が加速しつつある。しかし、マイコンやCPUを中心として構成されるEPSの制御装置に用いられるA/D変換器などのA/D変換手段のA/D分解能は、10bitのまま変わっていない。A/D分解能が10bitのままなので、大電流化によりその分解能が相対的に粗くなってきている。そして、この分解能の粗さに起因する量子化誤差のような演算誤差が、保舵時やゆっくりした操舵時の偏差ΔIが小さい時のゲインが無限大となるフィードバックゲインによって増幅され、ハンドルの振動や騒音となって、運転者に不快な感じを与えてしまうという問題が発生する。
ところで、よく知られているように、電動パワーステアリング装置の制御においては、積分項を含む電流制御手段として、積分制御(I制御)、比例積分制御(PI制御)や比例積分微分制御(PID制御)が一般的に用いられる。しかし、積分項を含む制御は、そのゲインが定常状態において無限大となるために、電動パワーステアリング装置の定常状態である保舵状態やゆっくりした操舵した場合に、積分項を含む電流制御手段からのDuty出力により、電流波形が振動しており、ハンドルを介して振動や騒音を感じて、運転者がハンドル操舵に不快感を覚える問題がある。つまり、操舵感が悪化してしまうといった問題が生じる。
そこで、上述したような問題を解決するために、例えば、特許文献1に開示されている電動パワーステアリング装置と、特許文献2に開示されている電動パワーステアリング装置がある。
特許文献1に開示されている電動パワーステアリング装置は、モータ電流検出部と電流制御手段とを結ぶ信号路上に高周波ノイズを減衰させる減衰器(フィルタ)を設ける解決策を提案している。この電動パワーステアリング装置において、モータ電流検出部とPI制御部の間に設けられた減衰器は、モータ駆動部のPWM制御によって発生するモータ電流の周波数よりも十分に高い高周波ノイズを減衰させるように、フィルタ特性(周波数特性)が設定されている。
また、特許文献2に開示されている電動パワーステアリング装置では、モータ電流検出部で検出した検出電流を3相−dq変換した後に、減衰部(フィルタ)を通過させるようにしている。つまり、特許文献2の電動パワーステアリング装置では、モータ電流の高周波成分を除去しないように、q軸(直流)電流上に減衰部(フィルタ)を配置するようにしている。
特許第2959957号
特開2003−174793号公報
特開2004−201487号公報
しかしながら、上記従来の電動パワーステアリング装置では、例えば、特許文献1に開示されている電動パワーステアリング装置は、操舵力補助用モータがブラシレスモータではなく、通常のブラシ付きDCモータであり、高周波ノイズの周波数帯域がモータ電流の周波数を含むということは想定されていなかった。このため、特許文献1の電動パワーステアリング装置の構成をブラシレスモータにそのまま適用することは、困難である。
また、特許文献2に開示されている電動パワーステアリング装置の構成は、正弦波モータ(つまり、逆起電圧波形が正弦波である)を正弦波電流によって制御する場合にのみ適用することができる。例えば、特許文献3に開示されているような「擬似ベクトル制御(PVC制御)」の場合、q軸電流に高周波が重畳されているため、特許文献2の電動パワーステアリング装置の構成をそのまま適用することができない。
また、モータが高速回転する時に、逆起電圧補償値が減衰器のフィルタ特性により遅れが生じる。そのため、最適な逆起電圧補償値が出力されず、高速回転時のモータ騒音が大きかったという問題があった。さらに、ハンドルの保舵時に、PI制御部からのduty出力により、電流波形が振動しており、保舵音が悪化しているという問題もあった。
本発明は、上述のような事情から成されたものであり、本発明の目的は、操舵力補助モータを用いた電動パワーステアリング装置において、特に、大容量(高出力)の電動パワーステアリング装置において、高速操舵性を確保でき、且つ、ハンドルの保舵時やゆっくりした操舵時の場合だけでなく、ハンドルの切り返し時などの速い操舵時にも、ハンドルを介した振動や騒音を発生せず、操舵フィーリングの良いハンドル操舵が期待できる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
本発明の上記目的は、車両の操舵系に操舵補助力を付与するモータと、前記操舵系の操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記トルクセンサで検出した操舵トルクに基づいて、電流指令値Irefを算出する電流指令値決定手段と、前記電流指令値決定手段で算出された電流指令値Irefに基づいて、電圧指令値Vrefを出力する電流制御手段と、前記電流制御手段から出力された電圧指令値Vrefに基づいてPWM信号を生成し、生成されたPWM信号に基づいて前記モータへモータ電流Imを供給するモータ駆動回路とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記電動パワーステアリング装置で用いられるアナログ信号のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタを備え、前記モータのモータ回転速度によって、前記平滑フィルタのオン/オフを切り替えることにより、或いは、車両の操舵系に操舵補助力を付与するモータと、前記操舵系の操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記トルクセンサで検出した操舵トルクに基づいて、電流指令値Irefを算出する電流指令値決定手段と、前記電流指令値決定手段で算出された電流指令値Irefに基づいて、電圧指令値Vrefを出力する電流制御手段と、前記電流制御手段から出力された電圧指令値Vrefに基づいてPWM信号を生成し、生成されたPWM信号に基づいて前記モータへモータ電流Imを供給するモータ駆動回路とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記電動パワーステアリング装置で用いられるアナログ信号のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタと、ハンドルの操舵状態を検出する操舵状態検出手段とを備え、前記操舵状態検出手段によって保舵状態と検出された場合に、前記平滑フィルタをオンさせるようにし、また、通常操舵状態と検出された場合に、前記平滑フィルタをオフさせるようにすることにより、或いは、車両の操舵系に操舵補助力を付与するモータと、前記操舵系の操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記トルクセンサで検出した操舵トルクに基づいて、電流指令値Irefを算出する電流指令値決定手段と、前記電流指令値決定手段で算出された電流指令値Irefに基づいて、電圧指令値Vrefを出力する電流制御手段と、前記電流制御手段から出力された電圧指令値Vrefに基づいてPWM信号を生成し、生成されたPWM信号に基づいて前記モータへモータ電流Imを供給するモータ駆動回路とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記電動パワーステアリング装置で用いられるアナログ信号のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタと、ベクトル制御回路と矩形波制御回路の切り替え手段とを備え、前記切り替え手段に応じて前記平滑フィルタのオン/オフを切り替えることによって達成される。
また、本発明の上記目的は、前記電流指令値決定手段は、前記操舵トルク及び車速といったEPS物理量を入力とし、前記EPS物理量を量子化するための第1のAD変換手段を備え、量子化されたEPS物理量に基づいて、電流指令値Irefを出力し、前記平滑フィルタを前記電流指令値決定手段の出力側に設けることにより、或いは、前記電動パワーステアリング装置は、前記モータ電流Imを検出するための電流検出手段と、検出されたモータ電流Imを量子化するための第2のAD変換手段とを備え、前記平滑フィルタは、前記第2のAD変換手段の出力側に設けられており、前記電流制御手段は、前記電流指令値Irefと、前記平滑フィルタから出力されたモータ電流Imとに基づいて、前記ブラシレスモータを制御することにより、或いは、前記電動パワーステアリング装置は、前記トルクセンサで検出した操舵トルクを量子化するための第3のAD変換手段を備え、前記平滑フィルタは、前記第3のAD変換手段の出力側に設けられており、前記平滑された操舵トルクを入力とすることにより、或いは、前記電動パワーステアリング装置は、モータ電圧Vmを検出するための電圧検出手段と、検出されたモータ電圧Vmを量子化するための第4のAD変換手段と、前記モータの逆起電圧EMFを算出するための逆起電圧算出手段とを備え、前記平滑フィルタは、前記第4のAD変換手段の出力側に設けられており、前記逆起電圧算出手段は、前記平滑フィルタから出力されるモータ電圧Vmと、前記モータ電流Imとに基づいて、前記逆起電圧EMFを算出し、算出された逆起電圧EMFが補償された電圧指令値(Vref+EMF)を前記モータ駆動回路の入力とすることにより、或いは、前記電動パワーステアリング装置は、前記モータ電流Imを検出するための電流検出手段と、検出されたモータ電流Imを量子化するための第5のAD変換手段と、モータ電圧Vmを検出するための電圧検出手段と、検出されたモータ電圧Vmを量子化するための第6のAD変換手段と、前記モータの逆起電圧EMFを算出するための逆起電圧算出手段とを備え、前記逆起電圧算出手段は、前記第5のAD変換手段で量子化されたモータ電流Imと、前記第6のAD変換手段で量子化されたモータ電圧Vmとに基づいて、前記逆起電圧EMFを算出し、前記平滑フィルタは、前記逆起電圧手段の出力側に設けられており、前記平滑フィルタから出力された逆起電圧EMFが補償された電圧指令値(Vref+EMF)を前記モータ駆動回路の入力とすることによってより効果的に達成される。
本発明に係る電動パワーステアリング装置を用いれば、EPS内の各種アナログ信号のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタを適切に設けることにより、さらに、モータの回転速度、ハンドルの操舵状態やモータの制御方式に応じて、その平滑フィルタをオン・オフさせることによって、高速操舵性の確保と保舵時やゆっくりした操舵時にハンドルの振動や騒音の抑制との両立を可能にしたという優れた効果を奏する。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(EPS)では、操舵力補助モータとしてブラシレスモータを用い、各種アナログ信号(例えば、操舵トルクT及び車速VといったEPS物理量、ブラシレスモータの電流検出値、ブラシレスモータの電圧検出値などの信号)のAD変換時に生じた量子化誤差を低減するために、その量子化誤差を平滑化するための平滑フィルタ(以下、単にフィルタとも称する)を適切に設けることにより、さらに、モータの回転速度、モータの制御方式やハンドルの操舵状態(保舵状態、或いは、通常操舵状態)に応じて、その平滑フィルタのオン・オフを切り替える(つまり、平滑フィルタをON/OFFさせる)ことにより、EPSの高速操舵性を確保でき、且つ、ハンドルの保舵時やゆっくりした操舵時の場合だけでなく、ハンドルの切り返し時などの速い操舵時にも、ハンドルを介した振動や騒音を発生せず、操舵フィーリングの良いハンドル操舵を実現するようにしている。
以下、本発明の好適な実施例について、図を参照しながら説明する。
操舵トルクT(以下、単にトルクTとも称する)及び車速VといったEPS物理量を入力とし、且つAD変換手段も含む電流指令値決定手段の出力側に、平滑フィルタを設けるようにした本発明の電動パワーステアリング装置(実施例1)の制御ブロック図を図1に示す。
図1において、トルクセンサ107で検出されたトルクTと、図示しない車速センサで検出された車速Vとに基づき、電流指令値決定手段の一例である電流指令値決定部Bで電流指令値Irefが決定される。電流指令値決定部Bで決定された電流指令値Irefが平滑フィルタ10に入力される。本発明のポイントである平滑フィルタ10の詳細は後述する。
一方、モータ108へ供給されるモータ電流Imは、電流検出器202で検出された後に、一例として分解能10bitのAD変換器202AでAD変換され、さらに、桁シフト部202Bで10bitから12bitにビットスケールが上げられる。ここで、10bitから12bitへビットスケールを上げる(固定小数点の位置を上げる)理由は、ソフトウエア的に分解能を向上させて電流制御を行なうためである。
そして、12bit化されたモータ電流Imは、電流指令値決定部Bの出力側に設けられた平滑フィルタ10によって量子化誤差が平滑された電流指令値Irefとともに、偏差演算手段の一例である減算部204へ入力される。減算部204では、それらの偏差ΔI=Iref−Imが算出される。
次に、減算部204の出力である偏差ΔIは、電流制御手段Aに入力され、そして、電流制御手段Aから電圧指令値Vrefが出力される。電流制御手段Aの一例であるPI制御部206として、例えば、関数(Kp+Ki/s)などの比例積分器を用いることができる。
そして、PWM制御部212は、電圧指令値Vrefを入力として、インバータ214へのPWM信号を出力することにより、電圧指令値Vrefに基づいたPWM信号がインバータ214へ指示される。インバータ214は、そのPWM信号に基づいてモータ108へモータ電流Imが供給される。
なお、図1において、電流制御系とは、電流検出器202で検出されたモータ電流Imを基に、AD変換器202A、桁シフト部202B、減算部204、電流制御手段A(PI制御部206)、PWM制御部212、モータ電流Imを供給するインバータ214、及びモータ108によって構成されている。
図1に示される本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御の特徴は、ハンドルをゆっくりと操舵した時や保舵時に、偏差ΔIが非常に小さい値(1〜2bit)となり、その結果、電流指令値Irefに含まれているEPS物理量(トルクT及び車速V)の量子化時に発生する量子化誤差が偏差ΔIの値に大きく影響する。もし、平滑フィルタ10が存在しないと、その量子化誤差が積分項を含む電流制御手段Aのゲイン(理論的には無限大となるゲイン)によって大きく増幅され、モータ出力のトルクリップルとして出現し、ハンドルに発生する振動や騒音を発生するが、電流指令値決定部Bの出力側に設けられた平滑フィルタ10が存在することにより、電流指令値Irefに含まれているEPS物理量(トルクT及び車速V)の量子化時に発生する量子化誤差が平滑化され、電流制御手段Aの過敏な応答を防止することができる。その結果、モータ108の出力に含まれるトルクリップルは大幅に低減され、ハンドルを介した振動や騒音が感じられず、ハンドル操作に不快感を覚えることもないという優れた効果を奏する。
次に、本発明のポイントである平滑フィルタ10について説明する。この平滑フィルタ10は、AD変換時に生じた量子化誤差を低減するためのフィルタである。図2には本発明に係る電動パワーステアリング装置に用いられる平滑フィルタ10の好適な構成例を示す。
図2(A)は平滑フィルタ10の一実施例である関数(K/(T2・s+1))の離散化表現であり、また、図2(B)はさらに計算精度的に好ましい関数(K/(T2・s+1))の構成例である。
図2(A)において、平滑フィルタ10の入力は、まず、減算器30−1に入力され、その出力は遅延器30−5とゲインb0のゲイン器30−2とに入力される。遅延器30−5の出力は、ゲインa1のゲイン器30−6とゲインb1のゲイン器30−8に入力される。ゲイン器30−6の出力は、シフト器30−7に入力され、2−8丸めされて、減算器30−1のもう一方の入力となる。
一方、ゲイン器30−2の出力とゲイン器30−8の出力とは、加算器30−3で加算され、加算器30−3の出力は、シフト器30−4で2−8丸められて出力される。図2(A)の平滑フィルタ10は、減算器30−1や加算器30−3の加減算がシフト器30−7の2−8丸められた後に実行されるので、演算精度が劣るという問題がある。
図2(A)の平滑フィルタに対して、図2(B)の平滑フィルタは、演算精度が向上した実施例である。図2(B)において、平滑フィルタ10の入力は、ゲインb0のゲイン器30−2と遅延器30−5に入力される。次に、遅延器30−5の出力は、ゲインb1のゲイン器30−8に入力され、ゲイン器30−8の出力とゲイン器30−2の出力とが加算器30−3で加算される。
次に、加算器30−3の出力は、減算器30−1に入力される。減算器30−1の出力は、シフト器30−4に入力され、2−8丸めが実行される。シフト器30−4の出力は、平滑フィルタ10の出力であるが、遅延器30−9の入力としても用いられる。遅延器30−9の出力は、ゲインa1のゲイン器30−6に入力され、ゲイン器30−6の出力は、減算器30−1のもう一方の入力となる。
以上説明した図2(B)の平滑フィルタ10は、図2(A)の平滑フィルタと比較して、遅延器30−9が一個増加するが、シフト器30−7が無くなるので、加減算を大きなスケールで実行でき、演算の精度が良くなるといった優れた効果を奏する。
なお、上述した図2(A)及び図2(B)に示された平滑フィルタ10を、後述する本発明の他の実施例にも適用できることは言うまでもない。また、本発明で用いられる平滑フィルタは、上述した図2(A)及び図2(B)に示された平滑フィルタ10に限られることがなく、量子化誤差を低減できるフィルタであれば、他のフィルタを用いることもできる。
電流検出手段で検出したモータ電流(電流検出値)がAD変換時に生じた量子化誤差を低減する平滑フィルタを設けるようにした本発明の電動パワーステアリング装置(実施例2)の制御ブロック図を図3に示す。
図3の電動パワーステアリング装置において、平滑フィルタ10の取り付け位置のみを除いて、他の構成は基本的に図1の電動パワーステアリング装置と同じである。よって、制御の詳細な説明を省略する。
図3に示されるように、トルクセンサ107で検出されたトルクTと、図示しない車速センサで検出された車速Vとに基づき、電流指令値決定手段の一例である電流指令値決定部Bで電流指令値Irefが決定される。電流指令値決定部Bで決定された電流指令値Irefが、偏差演算手段の一例である減算部204へ入力される。
一方、モータ108へ供給されるモータ電流Imは、電流検出手段の一例である電流検出器202で検出された後に、一例として分解能10bitのAD変換器202AでAD変換される。次に、10bitのモータ電流Imが、桁シフト部202Bによって12bitにビットスケールが上げられる。そして、桁シフト部202Bから出力された12bitのモータ電流Imは、平滑フィルタ10に入力される。平滑フィルタ10によって、AD変換された10bitのモータ電流Imを2n倍にした後に、モータ電流Imに含まれているAD変換時の量子化誤差が平滑される。
平滑フィルタ10から出力された12bitのモータ電流Imは、減算部204へ入力される。減算部204では、偏差ΔI=Iref−Imが算出される。
なお、ここで、10bitから12bitへビットスケールを上げる(固定小数点の位置を上げる)理由は、ソフトウエア的に分解能を向上させて電流制御を行なうためである。
次に、減算部204の出力である偏差ΔIは、電流制御手段Aの一例であるPI制御部206に入力され、そして、PI制御部206から電圧指令値Vrefが出力される。そして、PWM制御部212は、電圧指令値Vrefを入力として、インバータ214へのPWM信号を出力することにより、電圧指令値Vrefに基づいたPWM信号がインバータ214へ指示される。インバータ214は、そのPWM信号に基づいてモータ108へモータ電流Imが供給される。
図3に示される本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御の特徴は、ハンドルをゆっくりと操舵した時や保舵時に、偏差ΔIが非常に小さい値(1〜2bit)となり、その結果、電流検出器202で検出したモータ電流Imの量子化時に発生する量子化誤差が偏差ΔIの値に大きく影響する。もし、平滑フィルタ10が存在しないと、その階段状の量子化誤差が積分項を含む電流制御手段Aのゲイン(理論的には無限大となるゲイン)によって大きく増幅され、モータ出力のトルクリップルとして出現し、ハンドルに発生する振動や騒音を発生するが、桁シフト部202Bの出力側に設けられた平滑フィルタ10が存在することにより、モータ電流Imの量子化誤差が平滑化され、電流制御手段Aの過敏な応答を防止することができる。その結果、モータ108の出力に含まれるトルクリップルは大幅に低減され、ハンドルを介した振動や騒音が感じられず、ハンドル操作に不快感を覚えることもないという優れた効果を奏する。特に、1bit当たりの電流値の大きい(分解能の粗い)高出力電動パワーステアリング装置では、より顕著な効果を期待することができる。
操舵トルクTを入力とするAD変換手段の出力側に、平滑フィルタを設けるようにした本発明の電動パワーステアリング装置(実施例3)の制御ブロック図を図4に示す。
図4の電動パワーステアリング装置において、平滑フィルタ10の取り付け位置のみを除いて、他の構成は基本的に図1の電動パワーステアリング装置と同じである。よって、制御の詳細な説明を省略する。
図4に示されるように、平滑フィルタ10は、トルクセンサ107で検出されたトルクTを入力とする、AD変換手段の一例であるAD変換器202Cの出力側に設けられている。図4の本発明の電動パワーステアリング装置では、トルクセンサ107で検出されたトルクTは、AD変換器202CによってAD変換され、そして、トルクTに含まれているAD変換時に生じた量子化誤差は、平滑フィルタ10によって平滑化される。AD変換時の量子化誤差が平滑化されたトルクTと、図示しない車速センサで検出された車速Vとに基づき、電流指令値決定部Bで電流指令値Irefが決定される。電流指令値決定部Bで決定された電流指令値Irefが、モータ電流Imとともに、偏差演算手段の一例である減算部204へ入力される。減算部204では、それらの偏差ΔI=Iref−Imが算出される。AD変換器202Cと平滑フィルタ10の間に、202Bと同様な桁シフト部を備えると、更に良い。
次に、減算部204の出力である偏差ΔIは、電流制御手段Aの一例であるPI制御部206に入力され、そして、PI制御部206から電圧指令値Vrefが出力される。そして、PWM制御部212は、電圧指令値Vrefを入力として、インバータ214へのPWM信号を出力することにより、電圧指令値Vrefに基づいたPWM信号がインバータ214へ指示される。インバータ214は、そのPWM信号に基づいてモータ108へモータ電流Imが供給される。
図4に示される本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御の特徴は、ハンドルをゆっくりと操舵した時や保舵時に、偏差ΔIが非常に小さい値(1〜2bit)となり、その結果、操舵トルクTの量子化時に生じた量子化誤差が電流指令値Irefの値に大きく影響し、よって、偏差ΔIの値にも大きく影響する。もし、平滑フィルタ10が存在しないと、操舵トルクTの量子化誤差が積分項を含む電流制御手段Aのゲイン(理論的には無限大となるゲイン)によって大きく増幅され、モータ出力のトルクリップルとして出現し、ハンドルに発生する振動や騒音を発生するが、操舵トルクTを入力とするAD変換手段の出力側に設けられた平滑フィルタ10が存在することにより、電流指令値Irefに含まれているトルクTの量子化時に発生する量子化誤差が平滑化され、電流制御手段Aの過敏な応答を防止することができる。その結果、モータ108の出力に含まれるトルクリップルは大幅に低減され、ハンドルを介した振動や騒音が感じられず、ハンドル操作に不快感を覚えることもないという優れた効果を奏する。
電圧検出手段で検出したモータ電圧(電圧検出値)がAD変換時に生じた量子化誤差を低減する平滑フィルタを設けるようにした本発明の電動パワーステアリング装置(実施例4)の制御ブロック図を図5に示す。
なお、前述した実施例1、実施例2及び実施例3の電動パワーステアリング装置では、電流制御方式として、モータ電流Imのフィードバック制御方式(FB制御)を用いたが、図5に示す実施例4の電動パワーステアリング装置では、電流制御方式として、逆起電圧EMFを補償したフィードフォワード制御方式(FF制御)を用いている。
図5に示されるように、トルクセンサ107で検出されたトルクTと、図示しない車速センサで検出された車速Vとに基づき、電流指令値決定手段の一例である電流指令値決定部Bで電流指令値Irefが決定される。そして、電流指令値Irefがフィードフォワード型の電流制御回路11に入力される。ここで、フィードフォワード型の電流制御回路11には、例えば時定数の小さい一次遅れ回路などが使用される。
次に、フィードフォワード型の電流制御回路11の出力である電圧指令値Vrefは、加算回路18に入力される。一方、逆起電圧算出手段の一例である逆起電圧算出回路17で算出された逆起電圧値EMFも、加算回路18に入力される。
ここで、逆起電圧値EMFを算出するための逆起電圧算出回路17について説明する。図5に示されるように、逆起電圧値EMFを算出するために、まず、電流検出手段の一例である電流検出回路15によってモータ電流Imが検出され、また電圧検出手段の一例である電圧検出回路16によってモータ電圧Vmが検出される。ここで、モータ電圧Vmは、電圧検出回路16で検出された後に、AD変換手段であるAD変換器202AでAD変換され、そして、AD変換時に生じた量子化誤差は平滑フィルタ10によって平滑化されて、LPF回路17−3に入力される。一方、検出されたモータ電流Imは伝達関数回路17−1に入力される。
逆起電圧算出回路17では、具体的に、EMF=Vm−(R+s・L)・Im(ただし、Vmはモータ電圧で、Imはモータ電流で、EMFはモータの逆起電圧で、Rはモータの抵抗値で、Lはモータのインダクタンス値で、sはラプラス演算子である。)という式に基づいて、モータ108の逆起電圧値EMFを算出するようにしている。
つまり、逆起電圧算出回路17の中には、検出されたモータ電流Imを入力とする伝達関数回路17−1が配され、伝達関数回路17−1の出力とLPF回路17−3を通過したモータ電圧Vmとの減算をするための減算回路17−2が配され、減算回路17−2の出力がモータ108の逆起電圧値EMFとなる。ここで、伝達関数回路17−1の具体的な関数は、(R+s・L)/(1+s・T)である。なお、伝達関数回路17−1の分母(1+s・T)は、検出されたモータ電流Imに含まれるノイズ除去などのためのLPFの一次遅れ回路を示している。逆起電圧算出回路17で算出されたモータ108の逆起電圧値EMFは、加算回路18にフィードバックされる。
加算回路18では、電圧指令値Vrefと逆起電圧値EMFとを加算することによって新しい電圧指令値(Vref+EMF)が算出される。そして、この新しい電圧指令値(Vref+EMF)が、モータ108を駆動制御すモータ駆動回路に入力される。図5に示されるように、モータ駆動回路はPWM制御回路12とインバータ回路13との直列回路から構成されている。
そして、PWM制御回路12は、逆起電圧EMFが補償された電圧指令値(Vref+EMF)を入力として、インバータ回路13へのPWM信号を出力することにより、電圧指令値(Vref+EMF)に基づいたPWM信号がインバータ回路13へ指示される。PWM信号に基づいてPWM制御されたインバータ回路13の出力電流によって、モータ108が駆動される。
図5に示される本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御の特徴は、ハンドルをゆっくりと操舵した時や保舵時に、PWM制御回路12の入力信号が、逆起電圧が補償された電圧指令値(Vref+EMF)であるため、平滑フィルタ10が存在しなければ、モータ電流Im及びモータ電圧Vmに基づいて算出された逆起電圧値EMFに含まれているモータ電圧VmのAD変換時の量子化誤差が、逆起電圧が補償された電圧指令値(Vref+EMF)に大きく影響を与え、最終的にはモータ出力のトルクリップルとして現われ、ハンドルの振動や騒音として不快感を与える。しかし、平滑フィルタ10が存在することにより、ハンドルがゆっくりと操舵された時や保舵時でも、検出されたモータ電圧VmのAD変換時に生じた量子化誤差が平滑化され、モータ電圧Vmの量子化誤差を含まない逆起電圧値EMFが補償された電圧指令値(Vref+EMF)に基づいたPWM信号によってモータが駆動され、よってモータ出力のトルクリップルを低減し、ハンドルの振動や騒音を大幅に低減できる。伝達関数回路17−1の入力側に平滑フィルタを備えても良く、また、電流検出回路15及び電圧検出回路16の出力側に設けたAD変換器と平滑フィルタの間にそれぞれ桁シフト部を備えると、更に良い。
逆起電圧値EMFに含まれているモータ電流Im及びモータ電圧Vmの量子化誤差を低減する平滑フィルタを設けるようにした本発明の電動パワーステアリング装置(実施例5)の制御ブロック図を図6に示す。
なお、図6に示す実施例5の電動パワーステアリング装置では、実施例4と同じように、電流制御方式として、逆起電圧を補償したフィードフォワード制御方式(FF制御)を用いているので、フィードフォワード型の電流制御回路11の説明は省略する。
図6に示されるように、トルクセンサ107で検出されたトルクTと、図示しない車速センサで検出された車速Vとに基づき、電流指令値決定手段の一例である電流指令値決定部Bで電流指令値Irefが決定される。そして、電流指令値Irefがフィードフォワード型の電流制御回路11に入力される。フィードフォワード型の電流制御回路11の出力である電圧指令値Vrefは、加算回路18に入力される。
一方、電流検出手段の一例である電流検出回路15によって検出されたモータ電流Imは、図示しないAD変換手段によってAD変換され、AD変換された(量子化された)モータ電流Imは、逆起電圧算出回路17に入力される。また、電圧検出手段の一例である電圧検出回路16によって検出されたモータ電圧Vmは、図示しないAD変換手段によってAD変換され、AD変換された(量子化された)モータ電圧Vmは、逆起電圧算出回路17に入力される。AD変換時に生じた量子化誤差を含むモータ電流Im及びモータ電圧Vmに基づいて、逆起電圧算出回路17が逆起電圧値EMFを算出する。算出された逆起電圧値EMFは、逆起電圧算出回路17の出力側に設けられた平滑フィルタ10に入力される。なお、逆起電圧算出回路17は、図5の実施例4の逆起電圧算出回路17と同じであるために、その説明を省略する。
ここで、逆起電圧値EMFに含まれているモータ電流Im及びモータ電圧Vmの量子化誤差は、平滑フィルタ10によって平滑化される。モータ電流Im及びモータ電圧Vmの量子化誤差を含まない逆起電圧値EMFが、平滑フィルタ10から加算回路18に入力される。
加算回路18では、電圧指令値Vrefと、モータ電流Im及びモータ電圧Vmの量子化誤差を含まない逆起電圧値EMFとを加算することによって新しい電圧指令値(Vref+EMF)が算出される。そして、この新しい電圧指令値(Vref+EMF)が、PWM制御回路12に入力される。そして、PWM制御回路12は、逆起電圧が補償された電圧指令値(Vref+EMF)を入力として、インバータ回路13へのPWM信号を出力することにより、逆起電圧が補償された電圧指令値(Vref+EMF)に基づいたPWM信号がインバータ回路13へ指示される。PWM信号に基づいてPWM制御されたインバータ回路13の出力電流によって、モータ108が駆動される。
図6に示される本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御の特徴は、ハンドルをゆっくりと操舵した時や保舵時に、PWM制御回路12の入力信号が、逆起電圧が補償された電圧指令値(Vref+EMF)であるため、平滑フィルタ10が存在しなければ、モータ電流Im及びモータ電圧Vmに基づいて算出された逆起電圧値EMFに含まれているモータ電流Im及びモータ電圧Vmの量子化誤差が、逆起電圧が補償された電圧指令値(Vref+EMF)に大きく影響を与え、最終的にはモータ出力のトルクリップルとして現われ、ハンドルの振動や騒音として不快感を与える。しかし、平滑フィルタ10が存在することにより、ハンドルがゆっくりと操舵された時や保舵時でも、逆起電圧値EMFに含まれているモータ電流Im及びモータ電圧Vmの量子化誤差が平滑化され、モータ電流Im及びモータ電圧Vmの量子化誤差を含まない逆起電圧値EMFが補償された電圧指令値(Vref+EMF)に基づいたPWM信号によってモータが駆動され、よってモータ出力のトルクリップルを低減し、ハンドルの振動や騒音を大幅に低減できる。電流検出回路15及び電圧検出回路16の出力側に設けたAD変換器の後段に桁シフト部を備えると、更に良い。
以上のように、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5の電動パワーステアリング装置において、各種アナログ信号(例えば、例えば、操舵トルクT及び車速VといったEPS物理量、ブラシレスモータの電流検出値、ブラシレスモータの電圧検出値などの信号)のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタ10を適切に設けることによって、ハンドルがゆっくりと操舵された時や保舵時でも、量子化誤差が平滑された電圧指令値に基づいたPWM信号によってモータが駆動されるため、モータ出力のトルクリップルを低減し、ハンドルの振動や騒音を大幅に低減できる。
ところで、ハンドルの振動や騒音による不快感を運転者や同乗者が感じる度合いは、モータの回転速度によって異なる。つまり、車が高速走行している時やハンドルの切り返し時などのモータが高速回転している場合は、振動や騒音は、あまり気にかからないが、保舵時や車が低速で走行している時などのモータが低速回転している場合は、ハンドル振動や騒音が特に不快に感じられる。
そこで、本発明(上述した実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5)では、モータ108に設置された図示しないレゾルバなどのロータ位置検出手段からのロータ位置信号から算出できるモータの回転速度(モータの回転角速度ω)に基づいて、EPS内の各種アナログ信号のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタのオン/オフ(ON/OFF)を切り替えることによって、つまり、モータの回転速度が高い場合に平滑フィルタ10をオフさせ、モータの回転速度が低い場合に平滑フィルタ10をオンさせることによって、電動パワーステアリング装置の高速操舵性を確保できるとともに、操向ハンドルの振動や騒音の少ない操舵フィーリングの良い電動パワーステアリングを提供することもできる。
具体的には、例えば、図6に示された実施例5の電動パワーステアリング装置において、モータ低速回転時に、その平滑フィルタ10をオンさせるとともに、モータ高速回転時に、その平滑フィルタ10をオフさせるようにする。よって、モータ高速回転時に、平滑フィルタ10がオフされたので、遅れのない最適な逆起電圧補償(EMF補償)が可能となり、電流制御系の応答が向上し、音対策として効果がある。
他の実施例
本発明では、モータ回転速度のほかに、例えば、ハンドルの操舵状態(つまり、保舵状態か、或いは通常操舵状態か)、2種類の制御方式切替え可能な電動パワーステアリング装置の制御方式によって、量子化誤差の平滑をするための平滑フィルタをオン・オフさせるようにしても良い。
具体的には、まず、2種類の制御方式切替え可能な電動パワーステアリング装置に本発明を適用した例(この例を実施例6とする)を図7に示す。つまり、実施例6の電動パワーステアリング装置では、電流検出手段で検出したモータ電流(電流検出値)がAD変換時に生じた量子化誤差を低減する平滑フィルタを設けるようにし、そして、制御方式に応じてその平滑フィルタをオン・オフさせるようにしている。
図7に示されるように、3相ブラシレスモータ108には、3個のホールセンサ48−1,48−2,48−3が設置されており、これらホールセンサからのホールセンサ信号が位置推定回路41に入力される。このホールセンサ48−1,48−2,48−3と位置推定回路41でモータ位置推定回路を構成している。位置推定回路41からの出力信号である、3相ブラシレスモータ108の回転速度としてのモータの電気角速度ωe、及びロータ位置としてのロータの回転角度θeがベクトル制御回路100に入力される。また、モータの電気角速度ωeはローパスフィルタ(LPF)49を介してレベル検出回路42に入力される。レベル検出回路42には、検出基準となる設定回転速度Nを示す設定器43の信号も入力される。
一方、矩形波制御回路45には、ホールセンサ48−1,48−2,48−3より直接信号が入力され、位置推定回路41の出力が使用されていない。つまり、3相ブラシレスモータ108の回転速度が低速になって位置推定回路41の出力誤差が大きくなっても、矩形波制御回路45は影響を受けないことである。
一方、3相ブラシレスモータ108を制御する電流指令値Iaref, Ibref, Icrefを算出する回路としては、ベクトル制御回路100の他に、矩形波制御回路45が設けられ、レベル検出回路42の切替え信号により、ベクトル制御回路100の算出した電流指令値Iavref, Ibvref, Icvrefと、矩形波制御回路45の算出した電流指令値Iasref, Ibsref, Icsrefを選択する切替えスイッチ44が設けられ、切替えスイッチ44の出力は、減算回路20−1,20−2,20−3に入力される。
ここで、減算回路20−1,20−2,20−3とPI制御回路21とは、電流制御回路46を構成する。電流制御回路46の出力である電圧指令値Varef,Vbref,VcrefがPWM制御回路30の入力となり、PWM制御回路30の後にインバータ31が、インバータ31の後に3相ブラシレスモータ108が設けられている。
3相ブラシレスモータ108とインバータ31との間に設けられた電流検出回路32−1,32−2,32−3によって、3相ブラシレスモータ108へ供給されるモータ電流Ia,Ib,Icが検出され、そして、図示しないAD変換器によってAD変換され、平滑フィルタ10にそれぞれ入力される。次に、平滑フィルタ10によってAD変換時の量子化誤差が平滑されたモータ電流Ia,Ib,Icが、減算回路20−1,20−2,20−3にそれぞれ入力される。
次に、減算回路20−1,20−2,20−3の出力は、PI制御回路21に入力され、そして、PI制御回路から電圧指令値Varef,Vbref,Vcrefが出力される。そして、PWM制御回路30は、電圧指令値Varef,Vbref,Vcrefを入力として、インバータ31へのPWM信号を出力することにより、電圧指令値Varef,Vbref,Vcrefに基づいたPWM信号がインバータ31へ指示される。インバータ31は、そのPWM信号に基づいて3相ブラシレスモータ108へモータ電流Ia,Ib,Icが供給される。
図7に示されるように、実施例6の電動パワーステアリング装置では、レベル検出回路42から出力される切替え信号は、平滑フィルタ10にも入力され、矩形波制御回路45の算出した電流指令値Iasref, Ibsref, Icsrefを選択した切替え信号が平滑フィルタ10に入力された場合に、平滑フィルタ10をオンさせるようにし、また、ベクトル制御回路100の算出した電流指令値Iavref, Ibvref, Icvrefを選択した切替え信号が平滑フィルタ10に入力された場合に、平滑フィルタ10をオフさせるようにする。その理由とは、ベクトル制御が選択された場合、平滑フィルタ10が存在すると、電流制御応答が遅れるため、平滑フィルタをオフさせるようにし、一方、矩形波制御が選択された場合、平滑フィルタが存在する(平滑フィルタをオンさせる)ことにより、量子化誤差が平滑され、ノイズ低減が可能となり、保舵音に効果がある。本実施例では、レベル検出回路42で切替えスイッチ44と平滑フィルタ10を同時に切替える様にしたが、別々の設定値で切替える様にしても良い。
最後に、ハンドルの操舵状態に応じて、EPS内の各種アナログ信号のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタをオン・オフさせるようにした本発明に係る電動パワーステアリング装置の一例(実施例7)を図8に示す。つまり、本発明に係る電動パワーステアリング装置では、ハンドルが保舵状態と判定された場合に、平滑フィルタをオンさせ、また、ハンドルが通常操舵状態と判定された場合に、平滑フィルタをオフさせる。
図8に示す本発明の電動パワーステアリング装置では、トルクT及び車速VといったEPS物理量を入力とし、且つAD変換手段も含む電流指令値決定手段の出力側に、平滑フィルタ10が設けられている。図8に示されるように、トルクTと車速Vとに基づき、電流指令値決定手段の一例である電流指令値決定部Bで電流指令値Irefが決定される。電流指令値決定部Bで決定された電流指令値Irefが平滑フィルタ10に入力される。
一方、電流指令値Iref、トルクT、車速V、ブラシレスモータ108に設置されたレゾルバやホールセンサなどのロータ位置検出センサによって得られたモータ角度θ、モータ回転角速度ωのうちの少なくとも1つの信号に基づいて、ハンドルの操舵状態、つまり、保舵状態か或いは通常操舵状態かを検出する操舵状態検出器33から出力される保舵信号も平滑フィルタ10に入力される。なお、操舵状態検出器33では、保舵状態を検出した場合のみ、保舵信号を出力し、通常操舵状態を検出した場合には、保舵信号を出力しないように構成される。モータ角θ、モータ回転角速度ωの替わりに、舵角センサなどの情報を用いても良い。
一方、モータ108へ供給されるモータ電流Imは、電流検出器202で検出された後に、一例として分解能10bitのAD変換器202AでAD変換され、さらに、桁シフト部202Bで10bitから12bitにビットスケールが上げられる。ここで、10bitから12bitへビットスケールを上げる(固定小数点の位置を上げる)理由は、ソフトウエア的に分解能を向上させて電流制御を行なうためである。
そして、操舵状態検出器33から平滑フィルタ10に保舵信号が入力されると、平滑フィルタ10がオンされ、12bit化されたモータ電流Imは、電流指令値決定部Bの出力側に設けられた平滑フィルタ10によって量子化誤差が平滑された電流指令値Irefとともに、偏差演算手段の一例である減算部204へ入力される。減算部204では、それらの偏差ΔI=Iref−Imが算出される。また、操舵状態検出器33からの保舵信号がない場合に、平滑フィルタはオフされ、電流指令値決定部Bの出力である電流指令値Irefはそのまま減算部204へ入力される。
次に、減算部204の出力である偏差ΔIは、電流制御手段Aに入力され、そして、電流制御手段Aから電圧指令値Vrefが出力される。電流制御手段Aの一例であるPI制御部206として、例えば、関数(Kp+Ki/s)などの比例積分器を用いることができる。
そして、PWM制御部212は、電圧指令値Vrefを入力として、インバータ214へのPWM信号を出力することにより、電圧指令値Vrefに基づいたPWM信号がインバータ214へ指示される。インバータ214は、そのPWM信号に基づいてモータ108へモータ電流Imが供給される。
図8に示される本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御の特徴は、ハンドルが保舵状態と検出された場合に、平滑フィルタをオンさせ、電流指令値Irefに含まれているトルクT及び車速Vの量子化時に発生する量子化誤差が平滑化され、電流制御手段Aの過敏な応答を防止することができ、ハンドルの振動や騒音を抑制できるようにし、また、ハンドルが通常操舵状態と検出された場合、平滑フィルタをオフさせ、EPSの高速操舵性も確保できる。
以上説明したように、本発明を用いれば、つまり、モータ低速回転時や保舵状態と判定された場合に、電動パワーステアリング装置内の各種アナログ信号のAD変換時に生じた量子化誤差を平滑するための平滑フィルタ10をオンさせることにより、ゆっくりした操舵時や保舵時に発生する電動パワーステアリング装置内の各種アナログ信号の量子化誤差に起因するトルクリップル、即ち、ハンドルの振動や騒音を抑制できる電動パワーステアリング装置を提供できるとともに、車両が高速走行中あるいはモータ高速回転時や通常操舵状態と判定された場合には、その平滑フィルタ10をオフさせることにより、電動パワーステアリングの高速操舵性も確保することができる。
要するに、本発明を用いれば、モータの回転速度、車速、ハンドルの操舵状態やモータの制御方式に応じて、量子化誤差を平滑するための平滑フィルタを適切にオン・オフさせることによって、高速操舵性の確保とハンドルの振動や騒音の抑制との両立を可能にした電動パワーステアリング装置を提供することができる。
なお、以上の実施例では、3相ブラシレスモータを例として本発明を説明したが、本発明に用いられるブラシレスモータは、3相以上の相を有しても良いこと、また、本発明をブラシ付モータに対しても適用できることは、言うまでもない。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(実施例1)の制御ブロック図である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置に用いられる平滑フィルタの好適な構成例を示す図である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(実施例2)の制御ブロック図である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(実施例3)の制御ブロック図である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(実施例4)の制御ブロック図である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(実施例5)の制御ブロック図である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(実施例6)の制御ブロック図である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置(実施例7)の制御ブロック図である。
電動パワーステアリング装置の簡単な構成図である。
図9に示す電動パワーステアリング装置の制御ブロック図である。
符号の説明
A 電流制御手段
B 電流指令値決定部
10 平滑フィルタ
11 (FF)電流制御回路
12 PWM制御回路
13 インバータ回路
15 電流検出回路
16 電圧検出回路
17 逆起電圧算出回路
17−1 伝達関数回路
17−2 減算回路
17−3 LPF回路
18 加算回路
20−1,20−2,20−3 減算回路
21 PI制御回路
30 PWM制御回路
31 インバータ
32−1,32−2,32−3 電流検出回路
33 操舵状態検出器
41 位置推定回路
42 レベル検出回路
43 設定器N
44 切替えスイッチ
45 矩形波制御回路
48−1,48−2,48−3 ホールセンサ
49 LPF回路
100 ベクトル制御回路
108 モータ
202 電流検出器
202A、202C AD変換器
202B 桁シフト部
204 減算部
206 比例積分制御部(PI制御部)
212 PWM制御部
214 インバータ