JP5049063B2 - イオン伝導性電解質膜の検査方法および検査装置 - Google Patents

イオン伝導性電解質膜の検査方法および検査装置 Download PDF

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Description

本発明は、イオン伝導性電解質膜(「電解質膜」と表示することがある)の検査方法に関するものである。
イオン伝導性電解質膜は、例えば燃料電池に使用され、水素イオン伝導性電解質膜は、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体(membrane electrode assembly )等に用いられる。かかる膜電極接合体では、電解質膜である固体高分子膜の一方の面に水素極(燃料極)が、他方の面に空気極(酸素極)が接合等され、水素極には水素が、空気極には酸素(又は空気)がそれぞれ供給される。すると水素がイオン化し電解質膜を透過して空気極へと達する一方、イオン化で生じた電子は、水素極と空気極との間に接続された負荷を通って空気極へ達する(電力が負荷に供給される)。電子が供給された空気極では、水素イオンと酸素が反応して水(水蒸気)が生成される。
かかる固体高分子型燃料電池では、電解質膜にピンホールやクラック等の欠陥部があると、欠陥部でガス漏れが生じて発電能力が低下する。欠陥部は、電解質膜のいずれか一方の面側の空間に水素ガスを供給した場合、電解質膜の他方の面に水素ガスの漏洩を生じさせるから、水素センサで漏洩水素ガスの濃度を測定することで欠陥部が存在することを検知できる。こうした測定における水素センサとしては、例えば水素吸収合金を用いることができる(例えば特許文献1)。また固体高分子型燃料電池において、膜電極接合体を電気的に直列接続して出力電圧を高めるときの最大出力電流は、水素イオン(プロトン)伝導が最も低い膜電極接合体で決定される。よって直列接続される膜電極接合体は、水素イオン伝導ができるだけ均一であることが望ましい。そこで、均一な水素イオン伝導性を実現する膜電極接合体の製造方法が開発された(例えば特許文献2)。
特開2004−233097号公報 特開2006−252938号公報
しかし、雰囲気中に拡散した漏洩水素ガスを検知する検査方法では、漏洩水素ガスの拡散で電解質膜の欠陥部を検知する感度が低下する。また雰囲気中の漏洩水素ガスを検知しても欠陥部の位置を検知できないため、欠陥部の位置を特定できる検査方法が望ましい。また均一な水素イオン伝導性を有する電解質膜や膜電極接合体の製造方法(製造技術)は、製造された電解質膜の水素イオン伝導性を検査する方法(検査技術)ではない。加えてこれら技術は、連続した工程において、電解質膜の欠陥部を発見し且つ水素イオン伝導性の均一性を検査する技術ではない。そこで本発明は、電解質膜の欠陥部を高感度で検知する検査方法、電解質膜における水素イオン伝導性の均一性の検査方法、および電解質膜の欠陥部と水素イオン伝導性を連続した工程で検査する装置の提供を課題とするものである。
上記課題を解決するため、本発明に係るイオン伝導性電解質膜の検査方法(請求項1)では、薄膜層を設けた検知膜を電解質膜の一方の面に接合し、水素ガスを電解質膜の他方の面側の空間に供給する。もし電解質膜に欠陥部があるときには、欠陥部を通じて水素ガスが電解質膜の他方の面から電解質膜の一方の面へと漏洩するから、欠陥部近傍の薄膜層が水素化して薄膜層の電気抵抗が変化する。すなわち、水素化で生じる薄膜層の電気抵抗の変化を検知することで、欠陥部の有無を検査できる。
請求項2に記載のように、電解質膜の一方の面を複数の領域に分割し、これら領域ごとに検知膜の薄膜層を設けておけば、欠陥部近傍に接した薄膜層だけが漏洩水素ガスで水素化して電気抵抗が変化する。したがって、領域ごとに設けられた薄膜層の電気抵抗をそれぞれ測定して、電気抵抗が変化する薄膜層を検知することで、欠陥部が存在する領域を特定することができる。請求項3に記載のように、電解質膜の他方の面側の空間における気圧が、検知膜側の空間における気圧よりも高ければ、欠陥部における水素ガスの漏洩量が増加して、より迅速に欠陥部を発見できる。請求項4に記載のように、検知膜は触媒層と薄膜層を有し、触媒層が電解質膜と接していれば、触媒層が電解質膜を透過した水素ガスで薄膜層を水素化して、薄膜層の電気抵抗が変化するから、この電気抵抗の変化を検知することで欠陥部を発見できる。
請求項5に記載の伝導性電解質膜の検査方法では、電解質膜の一方の面を複数の領域に分割し、薄膜層をこれら領域ごとに対応して設けた検知膜が電解質膜の一方の面に接合されるとともに、電解質膜の他方の面に水素極が接合され、電気回路が領域ごとに設けた薄膜層と水素極との間に接続される。かかる状態で水素極側の空間に水素ガスが供給されると、水素ガスは水素極によって水素イオン化して、このイオン化で生じた電子が水素極から電気回路経由で領域ごとに設けた薄膜層に供給されるとともに、水素イオンが水素極から電解質膜を透過して領域ごとに設けた薄膜層を水素化する。すると、各薄膜層は、それぞれの薄膜層が存する領域の電解質膜を透過した水素イオンの多寡に応じて、電気抵抗が変化する。例えば各領域が同一面積、同一形状であり、且つ触媒層および薄膜層が各領域において同一の化学的・電気的特性を有している場合において、いずれの領域においても水素イオン伝導性が均一であるときには、いずれの領域においても薄膜層の電気抵抗が均一に変化する。したがって、領域ごとに設けた薄膜層の電気抵抗をそれぞれ測定すれば、電気抵抗の変化の均一性で、電解質膜の水素イオン伝導性の均一性を検査することができる。なお上記水素イオン伝導性検査は、常温で行うことができる。
請求項6に記載のように、電気回路を電源回路で構成し、水素極を電願回路の正電圧電極に、そして薄膜層を電願回路の負電圧電極にそれぞれ電気的に接続すれば、水素極で生じた電子を、電源回路の正電圧電極に流入させ更に負電圧電極から薄膜層へと供給できるとともに、水素極と薄膜層の間の電界が電解質膜における水素イオン導電性を高めて、電解質膜の水素イオン伝導性の均一性をより良好に検査することができる。
請求項7に記載のように、検知膜が触媒層と薄膜層を有し、触媒層が電解質膜と接していれば、電解質膜を透過した水素イオンは、触媒層の触媒作用で、薄膜層を水素化して、薄膜層の電気抵抗が変化する。請求項8に記載のように、水素極が水素拡散膜とアノード極を有し、アノード極が電源回路の正電圧電極に電気的に接続されるとともに電解質膜と接していれば、水素拡散膜が水素ガスを拡散して、アノード極で効率よく水素イオンを生成することができる。請求項9に記載のように、薄膜層がマグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・マンガン合金、マグネシウム・コバルト合金もしくはマグネシウムで形成され、触媒層がパラジウムもしくは白金で形成されていれば、薄膜層は、水素化すると迅速かつ可逆的に電気抵抗が変化する。
請求項10に記載の伝導性電解質膜の検査装置は、複数の薄膜層を有し一方の面に接合された検知膜と、他方の面に接合された水素極を有する水素イオン伝導性電解質膜の検査装置であって、水素極側の空間を形成する容器と、電解質膜の一方の面を複数の領域に分割し、これら領域に対応して設けられた複数の薄膜層と水素極との間に、スイッチを介して接続される電気回路と、複数の薄膜層ごとの電気抵抗を測定する抵抗測定器を有している。したがって、スイッチがオフの状態において水素極側の空間に水素ガスを供給し、抵抗測定器が複数の薄膜層の電気抵抗をそれぞれ測定して、欠陥部近傍に接した薄膜層の水素化で生じる薄膜層の電気抵抗の変化を検知することで欠陥部の有無を検査することができる。またスイッチがオンの状態において水素極側の空間に水素ガスを供給し、抵抗測定器が複数の薄膜層の電気抵抗をそれぞれ測定して、これら電気抵抗の均一性から電解質膜における水素イオン伝導性の均一性を検査することができる。よって、該検査装置は、スイッチの操作および水素ガスの供給といった操作だけで、電解質膜における欠陥部の有無及び水素イオン伝導性の均一性の双方を連続する工程で検査することができる。
請求項11に記載のように、電気回路を電源回路で構成し、水素極を電願回路の正電圧電極に、そして薄膜層を電願回路の負電圧電極にそれぞれ電気的に接続すれば、請求項6と同様に、電解質膜の水素イオン伝導性の均一性をより良好に検査することができる。請求項12に記載のように、水素極側の空間における気圧が、検知膜側の空間における気圧よりも高ければ、請求項3と同様に欠陥部をより迅速に発見できる。
以上のように本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法(請求項1等)は、電解質膜の欠陥部に起因する漏洩水素ガスを電解質膜の表面において高感度に検知できるから、電解質膜の欠陥部を迅速に検査できる。さらに請求項2等にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法は、欠陥部が存在する電解質膜の領域を特定できる。また本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法(請求項5等)は、電解質膜の領域ごとに水素イオン伝導性を迅速に検査できる(領域間の水素イオン伝導性の均一性を検査できる)。したがって均一な水素イオン伝導性を有する電解質膜および膜電極接合体の選別も可能となり、該検査方法を燃料電池の製造工程に適用すれば、製造工程の簡素化とコスト削減を実現できる。さらに本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査装置(請求項10等)は、電解質膜の欠陥部と水素イオン伝導性を連続した工程で検査できるから、欠陥部を有さず且つ水素イオン伝導性が均一な電解質膜および膜電極接合体の検査・選別を、より低コストで実現できる。
以下、図面を参照して、本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法および検査装置を説明する。
実施例1は、イオン伝導性電解質膜におけるピンホールやクラック等の欠陥部の検査方法に関する一実施例である。ここで、図1(a)は、検査対象となる電解質膜に検知膜を接合等したときの斜視図であり、図1(b)は、電解質膜等のA−A断面を示す図であり、図2は、検査のために図1に示す電解質膜等を容器に収容するときの概略構成例を示す図である。
(電解質膜及び検知膜)
図1に示すように、電解質膜10と同一平面状形を有する検知膜11は、触媒層12と薄膜層13を有し、電解質膜10の一方の面10aに接合した触媒層12の表面に薄膜層13が形成されている。薄膜層13は、線状に形成され、触媒層12の表面12aの殆ど全領域に蛇行して配置されている。そして薄膜層13の一端側には電極13aが、他端側には電極13bが、それぞれ形成されている。なお図1(b)中の10bは、電解質膜10の他方の面である。電解質膜10には、例えば固体高分子膜であるパーフルオロスルホン酸基ポリマー膜、あるいはナフィオン膜等を使用することができる。
薄膜層13は、例えばMgNix(0≦x<0.6)の薄膜であり、またマグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・マンガン合金、マグネシウム・コバルト合金もしくはマグネシウムで形成することもできる。触媒層12は、例えばパラジウムもしくは白金からなり、厚さは1nmないし100nmである。かかる検知膜11が、水素濃度が100ppm程度以上の雰囲気に触れると、10ミリ秒程度で、薄膜層13が迅速かつ可逆的に水素化して電気抵抗(以下、単に「抵抗値」と表示することがある)が迅速に変化する(抵抗値が高くなる)。またポリエチレンシート上に薄膜層13を形成し、さらに触媒層12を形成した検知膜11では(図1における検知膜11の上面にポリエチレンシートが位置することになる)、その取り扱いが容易になる。
(水素ガスを供給する空間)
図2に示すように、検知膜11を接合した電解質膜10を容器20に収容したのち、電解質膜10の他方の面10b側の第1の空間21に、第1の供給口21aから水素ガスHを供給する(図示しないポンプで供給する)。検知膜11の側の第2の空間22には、水素ガスHを殆ど含まないガス(例えば空気)を容器20の空気供給口22aから供給する(図示しないポンプで供給する)。第1の空間21と第2の空間22とは、電解質膜10で遮られ、好ましくは、第1の空間21の気圧が第2の空間22の気圧よりも高く維持される。なお第2の空間22の周壁23には、電解質膜10を容器20に収容するとき等のために、窓24が設けられ、窓24はガラス25で遮蔽される。また検知膜11を接合した電解質膜10は、その周辺部を枠(図示せず)で挟持されるなどして容器20の内部に取り付けられる(収容される)。
(電解質膜の欠陥部検査)
電解質膜10にピンホール等の欠陥部がないときには、第1の空間21に供給された水素ガスHは、電解質膜10に阻まれて検知膜11に触れることができない。したがって、検知膜11は水素化されず、薄膜層13の電極13aと電極13bの間の抵抗値(以下、薄膜層13の抵抗値と表示することがある)は変化しない。もし、電解質膜10にクラック10c(欠陥部)があると、図1(b)および図2に示すように、水素ガスHが電解質膜10の他方の面10bからクラック10cを経て電解質膜10の一方の面10aへと漏洩する。するとクラック10c近傍の検知膜11の部分11cに位置する薄膜層13は、漏洩水素ガスHの多寡に応じて水素化するから、薄膜層13の抵抗値が迅速に変化する。もしクラック10cが薄膜層13の直下に存在しない場合であっても、漏洩水素ガスHは、クラック10c近傍で拡散するから、触媒層12の表面12aの殆ど全領域にわたって配置された薄膜層13のいずれかの部分における抵抗値を変化させる。すなわち、第1の空間21に水素ガスを供給する前後において、薄膜層13の抵抗値が変化したときには、薄膜層13が電解質膜10の欠陥部に起因する漏洩水素ガスHで水素化したといえるから、電解質膜10にピンホール等の欠陥部が存在すると判断することができる。
なお、検知膜11と電解質膜10の一方の面10aとの接合は、両膜の間に間隙が全く生じない完全な密着状態を意味するものではない。なぜならば、両膜を接合するときに僅かな間隙が生じたとしても、クラック10cで漏洩した水素ガスHは、クラック10cの直近の薄膜層13を水素化できるからである。また水素イオン伝導性電解質膜を検査する場合において、電解質膜の他方の面10bに水素極が接合されていてもよい。なぜならば、電解質膜に欠陥部があるときには、水素ガスは、水素極を透過したのち欠陥部を通じて電解質膜の一方の面へと漏洩して薄膜層を水素化するからであり(すなわち水素イオン伝導性電解質膜に水素極を接合した膜電極接合体の半完成品状態において、欠陥部の検査を行うことができるのであり)、また水素極を接合することで、検知膜と電解質膜との接合体(両膜とも極めて薄い)に水素極の厚さが加わって、電解質膜等の取り扱いが容易になるからである。ここで電解質膜は、実施例の平板形状に限定されず、他の平面的な形状であってもよい。また円柱状の電解質膜であっても、円柱の外周面に検知膜を接合等し、円柱の内周面側の空間に水素ガスを供給するなどしてもよい。
実施例2は、イオン伝導性電解質膜の欠陥部を特定する検査方法に関する実施例である。なお実施例1と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を附してその説明を省略する。
図3(a)に示すように、電解質膜10の一方の面10aは、図中たとえば横方向8つ、縦方向5つの40の領域(同一正方形状の領域)に割り振られ、これら領域に対応する検知膜11の表面の領域(領域R11ないしR58)には、領域ごとに薄膜層13が電極13aおよび電極13bとともに形成されている(図3(b))。ここで各領域の薄膜層13は、組成・形状等が同一で、化学的・電気的特性がそろっている。領域R11ないしR58に形成された各薄膜層13は、図4に示す抵抗測定器Mに電気的に接続される。ここで抵抗測定器Mは、領域R11ないしR58に対応した端子T11a、11bないしT58a、58bを有しており、端子T11a、11bは、領域R11の電極13a、13bと電気的に接続され、端子T12a、12b以降の各端子も、領域R12以降の電極13a、13bとそれぞれ接続される。抵抗測定器Mは、プログラム制御されて、各領域の薄膜層13の抵抗値を所定の周期で測定・記録して、抵抗値の変化はもとより、各領域における薄膜層13の抵抗値が所定の許容差の範囲内で均一か否かを判断でき、また、均一でない場合には、どの領域の薄膜層13の抵抗値が他の領域と異なるのかを判断できる。
かかる検知膜11を電解質膜10の一方の面10aに接合し、電解質膜10を実施例1と同様に容器20に収容したのち、第1の空間21に水素ガスHを供給しつつ、抵抗測定器Mで各領域における薄膜層13の抵抗値を測定する。電解質膜10にピンホール等の欠陥部が全くないときには、第1の空間21に供給された水素ガスHは、電解質膜10に阻まれて検知膜11に触れることができない。したがって、検知膜11は水素化されず、領域R11ないしR58における薄膜層13の抵抗値は、いずれも変化しないから、抵抗測定器Mは、電解質膜10は欠陥部を有していないと判断する。もし、図3(a)に示すように領域R33の電解質膜10にクラック10cがあるときには、水素ガスHが電解質膜10の他方の面10bからクラック10cを経て一方の面10aに漏洩するから、触媒層12の触媒作用によって、クラック10cの近傍に位置する領域R33の薄膜層13の抵抗値が変化する。すると抵抗測定器Mは、抵抗値の増加が他の領域と異なる領域R33を検知して、領域R33に欠陥部があると判断する。もちろん抵抗測定器Mは、欠陥部が複数の領域に存在するときでも、これら領域を判断することができる。
実施例3は、電解質膜の水素イオン伝導性の検査方法に関する一実施例である。ここで図5は、検査対象となる電解質膜に水素極と検知膜とを接合等したときの斜視図(a)と、電解質膜、水素極、検知膜の断面概略構成を示す図である(b)。図6は、水素極と検知膜との間の電源回路の接続例、および水素イオン伝導性を模式的に説明する図であり(a)、薄膜層の抵抗値の測定を説明する図である(b)。図7は、検査のために電解質膜等を容器に収容するときの概略構成例を示す図である。なお実施例1、2と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を附してその説明を省略する。
(電解質膜、水素極及び検知膜)
図5に示すように、検知膜11の表面は、領域R11ないしR58に分割され、電解質膜10と同一平面状形を有する水素極14は、水素拡散膜15及びアノード極16を有し、アノード極16で電解質膜10の他方の面10bに接している。かくして検知膜11及び水素極14は、電解質膜10を挟んで相対している。水素極14が有する水素拡散膜15は、例えばカーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素繊維、または多孔質樹脂、多孔質セラミック若しくは多孔質金属(発泡金属)等で構成され、厚さが例えば0.1mmないし50mmであり、またアノード極16は、白金などの水素イオン触媒膜等で構成される。水素極14は、電解質膜10とともに燃料電池の膜電極接合体の一部を構成するものでもよいし、検査時に電解質膜10に接合等する検査専用のものでもよい。
(水素極と検知膜の間の電気回路)
図6(a)に示すように、水素極14のアノード極16には、電源回路17の正電圧電極17pが接続され、薄膜層13が有する電極13aには、電源回路17の負電圧電極17nがスイッチSを介して接続されている。すなわち電源回路17は、アノード極16から電子を取り出して薄膜層13へと移動させる電気回路を形成するとともに、薄膜層13をアノード極16に対し負電位にバイアスすることができる(薄膜層13とアノード極16間に電界を生じさせる)。
(水素ガスを供給する空間)
図7に示すように、水素極14及び検知膜11を接合した電解質膜10を容器20に収容する。容器20内における水素極14の側の第1の空間21には、第1の供給口21aから水素ガスHが供給される。また検知膜11の側の第2の空間22には、空気供給口22aから空気(又は酸素)が供給される。もちろん両空間は、電解質膜10等で遮られている。なお図6中の21bは、未反応水素ガスHを回収するための回収口であり、同じく22bは未反応空気(酸素)と検知膜11で生成された水蒸気を排出する排出口である。また好ましくは、第1の空間21は、ポンプ26(気圧調整手段)で、第2の空間22より高い気圧に維持される。ポンプ26の加圧で水素ガスHが水素極14を通過しやすくなるからである。
(電解質膜の水素イオン伝導性検査)
図6(a)に示すように、第1の空間21に供給された水素ガスHは、水素極14の水素拡散膜15で拡散されアノード極16に到達する。アノード極16では水素ガスHが水素イオンHと電子eに分離する。スイッチSがONされていると、水素イオンHは、電源回路17の正電圧による電気的斥力と、アノード極16に対し負電位にバイアスさた薄膜層13の電気的引力とによって、電解質膜10を透過して触媒層12に到達する(矢印A)。一方、電子eは、電源回路17の正電圧電極17pから負電圧電極17nを経て検知膜11の薄膜層13へ達し(矢印B及びC)、さらに触媒層12へ向かう。電解質膜10内を透過した水素イオンHは、電解質膜10と触媒層12との界面近傍において、電子eと結合して一旦水素ガスHとなる。こうして生成された水素ガスHは、触媒層12の作用で薄膜層13と反応して、薄膜層13を可逆的に水素化する(水素化の程度は、検知膜11に到達した水素イオンHの多寡による)。なおスイッチSは、第1の空間21に水素ガスHを供給したのちONされても、あるいは水素ガスHの供給前にONされてもよい。要するに、スイッチSがONされ、電解質膜10に水素イオンHが透過するようになればよいのである。
電解質膜10の水素イオン伝導性が領域R11ないしR58の各領域において均一であれば、各領域において触媒層12へ到達する水素イオンHの量が等しくなる。従って、抵抗測定器Mは、各領域における薄膜層13の抵抗値を測定し、各領域における薄膜層13の抵抗値が所定の許容範囲内で均一性を有するか否かを判断して、電解質膜10の各領域における水素イオン伝導が例えば品質保証上許容できる範囲内で均一であるか否かを判断できる。もし電解質膜10の水素イオン伝導性が不均一であるときには、水素イオン伝導性が低い領域に接した検知膜11の薄膜層13の抵抗値が他の領域と相違することになる。したがって抵抗測定器Mは、電解質膜10の水素イオン伝導性が不均一であることの判断はもとより、水素イオン伝導性が劣る領域を検知することができる。
なお、検知膜11と電解質膜10の一方の面10aとの接合は、両膜の間に間隙が全く生じない完全な密着状態を意味するものではなく、水素極14と電解質膜10の他方の面10bとの接合も同様である。いずれか双方もしくは一方の接合において僅かな間隙が存在しても、薄膜層13とアノード極16間に生じた電界の作用で、アノード極16で生じた水素イオンHは、電解質膜10を透過し、さらに検知膜11に向け直進するからである。また水素極14が電解質膜10とともに燃料電池の膜電極接合体の一部を形成するものであれば、電解質膜10に水素極14を接合した状態において、膜電極接合体の水素イオン伝導性を検査することができる。
ところで、領域R11ないしR58における各薄膜層13の抵抗値は、例えば図6(b)に示すように、各薄膜層13の電極13aを電願回路17の負電圧電極17nに接続した状態で測定することもできる(電解質膜10に水素イオンを透過させつつ各薄膜層13の抵抗値を測定できる)。このとき各薄膜層13を流れる電子eは、各薄膜層13の電極13a及び電極13bの間に電位差を生じさせる。しかし、領域R11ないし領域R58における水素イオン伝導が同一であれば、各薄膜層13の電極13a及び電極13bの間の電位差が等しくなる。よって抵抗測定器Mは、各薄膜層13の電極13a及び電極13bの間の電位差に基づき、各薄膜層13の抵抗値の相違を検知できる。
実施例4は、電解質膜の欠陥部の検査と水素イオン伝導性の検査を、連続した工程で行うことができる検査装置の一実施例であり、該検査装置を、前述した各実施例の説明に用いた各図面に基づき説明する。
検査装置30は、図5に示す電解質膜10を検査対象とするものであり、図6および図7に示すように、第1の空間(水素極側の空間)21を形成する容器20、電源回路17、スイッチS、および抵抗測定器Mを有している(なお本実施例では容器20は第2の空間22も形成する)。検査装置30は、スイッチSがOFFのときに、実施例2の手順で電解質膜の欠陥部の検査を行うことができ、またスイッチSがONのときに、実施例3の手順で電解質膜の水素イオン伝導性の検査を行うことができる。ここで検査装置30が電解質膜の欠陥部の検査で欠陥部を発見したならば、該電解質膜は、水素イオン伝導性の均一性を検査するまでもなく、所定の品質を有さないと判断できる。かかる欠陥部検査に合格した電解質膜について水素イオン伝導性の均一性の検査を行えば、欠陥部を有さず且つ水素イオン伝導性が均一である電解質膜を選別できる。すなわち検査装置30は、連続した検査で検査時間を短縮するだけでなく、先行する検査で所定の品質を有さない電解質膜を発見できるから、更なる検査時間の短縮が可能となる。もちろん水素イオン伝導性の均一性検査を欠陥部の検査に先行させても同様である。この場合、水素イオン伝導性検査を実施したことで電解質膜10の薄膜層13が水素化するから、欠陥部検査に先立ち、第1の空間21への水素ガスHの供給を停止し、第2の空間に空気等を供給して、電解質膜10の薄膜層13を水素化以前の状態に戻せばよい。かくして検査装置30は、電解質膜の検査工程の簡便化と時間短縮を実現できる。
なお本発明は、上述した各実施例に限定されるものでもなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変形して実施できる。
本発明の検査方法(実施例1)によって電解質膜の欠陥部を検査するために、検査対象となる電解質膜に検知膜を接合した例を示す図(a)と断面概略構成を示す図(b)である。 本発明の検査方法によって電解質膜の欠陥部を検査するために、電解質膜等を容器に収容するときの一構成例を示す図である。 本発明の検査方法(実施例2)によって電解質膜の欠陥部を検査するために、検知膜の表面を複数の領域に分割し、領域ごとに薄膜層を設けた検知膜を接合した例を示す図であり(a)、一領域における薄膜層等の概略平面構成を示す図である(b)。 図3に示す各領域の薄膜層の抵抗値を測定するための抵抗測定器の例を示す図である。 本発明の検査方法(実施例3)によって電解質膜の水素イオン伝導性を検査するために、領域ごとに抵抗値を測定する薄膜層を設けた検知膜を接合した例を示す図であり(a)、電解質膜、水素極、検知膜の断面構成(一部)を示す図である(b)。 図5に示す領域R11ないしR58の一領域における電解質膜10等の断面概略構成等、および電解質膜における水素イオン伝導性を模式的に説明する図であり(a)、薄膜層の抵抗値の測定を説明する図である(b)。 本発明の検査方法(実施例3)によって電解質膜の水素イオン伝導性を検査するために、電解質膜等を容器に収容するときの一構成例を示す図であり、また本発明の検査装置(実施例4)の概略構成を示す図である。
符号の説明
10 電解質膜
10a 電解質膜の一方の面
10b 電解質膜の他方の面
10c クラック
11 検知膜
11c 電解質膜の欠陥部に接する検知膜の部分
12 触媒層
13 薄膜層
14 水素極
15 水素拡散膜
16 アノード極
17 電源回路
17p 電源回路の正電圧電極
17n 電源回路の負電圧電極
21 第1の空間
22 第2の空間
30 検査装置
水素イオン
水素ガス
M 抵抗測定器

Claims (12)

  1. 薄膜層を設けた検知膜をイオン伝導性電解質膜の一方の面に接合し、
    水素ガスを前記電解質膜の他方の面側の空間に供給して、
    前記電解質膜に欠陥部があるときには、前記欠陥部を通じて前記水素ガスを前記電解質膜の他方の面から一方の面へと漏洩させて、前記欠陥部近傍の前記薄膜層を水素化し、
    前記水素化で生じる前記薄膜層の電気抵抗の変化を検知して、前記欠陥部の有無を検査することを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  2. 前記薄膜層は、前記電解質膜の一方の面を複数の領域に分割した領域に対応して複数設けられ、前記水素化で生じる前記薄膜層の電気抵抗の変化の検知は、前記欠陥部近傍に接した領域の薄膜層の水素化で生じる電気抵抗の変化の検知であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  3. 前記電解質膜の他方の面側の空間における気圧が、前記検知膜側の空間における気圧よりも高いことを特徴とする請求項1または2に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  4. 前記検知膜は触媒層と前記薄膜層を有し、前記電解質膜と接する前記触媒層が前記欠陥部を通過した水素ガスで前記薄膜層を水素化するときに生じる、前記薄膜層の電気抵抗の変化を検知することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  5. イオン伝導性電解質膜の一方の面を複数の領域に分割し、薄膜層をこれら領域ごとに対応して設けた検知膜を前記電解質膜の一方の面に接合するとともに、前記電解質膜の他方の面に水素極を接合し、
    前記領域ごとに設けた薄膜層と前記水素極との間に電気回路を接続し、
    前記水素極側の空間に供給した水素ガスを前記水素極によってイオン化し、
    前記イオン化で生じた電子を前記電気回路経由で前記水素極から前記領域ごとに設けた薄膜層に供給するとともに、前記イオン化で生じた水素イオンを前記水素極から前記電解質膜を透過させて前記領域ごとに設けた薄膜層を水素化し、
    水素化した各薄膜層の電気抵抗の均一性から、前記電解質膜の水素イオン伝導性の均一性を検査することを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  6. 前記電気回路が電源回路であり、前記電源回路の正電圧電極が前記水素極に電気的に接続され、前記電源回路の負電圧電極が前記薄膜層に電気的に接続されることを特徴とする請求項5に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  7. 前記検知膜は触媒層と前記薄膜層を有し、前記電解質膜と接する前記触媒層が前記電解質膜を透過した水素イオンで前記薄膜層を水素化するときに生じる、前記領域ごとに設けた薄膜層の電気抵抗の変化を検知することを特徴とする請求項6に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  8. 前記水素極は水素拡散膜とアノード極を有し、前記アノード極が前記電源回路の正電圧電極に電気的に接続されるとともに前記電解質膜と接することを特徴とする請求項6に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  9. 前記薄膜層はマグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・マンガン合金、マグネシウム・コバルト合金もしくはマグネシウムで形成された薄膜層であり、前記触媒層はパラジウムもしくは白金で形成された触媒層であることを特徴とする請求項4または7に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
  10. 複数の薄膜層を有し一方の面に接合された検知膜と、他方の面に接合された水素極を有する水素イオン伝導性電解質膜の検査装置であって、
    前記水素極側の空間を形成する容器と、
    前記電解質膜の一方の面を複数の領域に分割し、これら領域に対応して設けられた前記複数の薄膜層と前記水素極との間に、スイッチを介して接続される電気回路と、
    前記複数の薄膜層ごとの電気抵抗を測定する抵抗測定器を有し、
    前記スイッチがオフの状態において前記水素極側の空間に水素ガスを供給し、前記抵抗測定器が前記複数の薄膜層の電気抵抗をそれぞれ測定して、前記欠陥部近傍に接した前記薄膜層の水素化で生じる前記薄膜層の電気抵抗の変化を検知することで前記欠陥部の有無を検査し、
    前記スイッチがオンの状態において前記水素極側の空間に水素ガスを供給し、前記抵抗測定器が前記複数の薄膜層の電気抵抗をそれぞれ測定して、これら電気抵抗の均一性から前記電解質膜における水素イオン伝導性の均一性を検査することを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査装置。
  11. 前記電気回路が電源回路であり、前記電源回路の正電圧電極を前記水素極に電気的に接続し、前記電源回路の負電圧電極を前記薄膜層に電気的に接続することを特徴とする請求項10に記載のイオン伝導性電解質膜の検査装置。
  12. 請求項10または11に記載のイオン伝導性電解質膜の検査装置において、さらに前記水素極側の空間における気圧を前記検知膜側の空間における気圧よりも高く維持する気圧調整手段を備えたことを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査装置。
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